説明

燃料電池の運転方法

【課題】発電性能の低下を防止することが可能な燃料電池1の運転方法を提供する。
【解決手段】燃料ガス通路51に供給する燃料ガスの圧力および酸化剤ガス通路52に供給する酸化剤ガスの圧力を、冷媒通路53に供給する冷媒の圧力より高く設定し、燃料ガス通路51に供給する燃料ガスの圧力を、酸化剤ガス通路52に供給する酸化剤ガスの圧力より高く設定し、燃料ガスを減圧して燃料ガス通路51に供給するレギュレータ105を備え、レギュレータ105は、酸化剤ガス通路52に供給する酸化剤ガスの圧力を信号圧として導入し、燃料ガス通路51に供給する燃料ガスの圧力が前記信号圧に応じた所定圧力範囲となるように減圧制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟んで膜電極構造体を形成し、この膜電極構造体の両側に一対のセパレータを配置して平板状の単位燃料電池(以下、単位セルという)を構成し、この単位セルを複数積層して燃料電池スタックとするものが知られている。この燃料電池では、アノード電極とセパレータとの間に燃料ガスとして水素ガスを供給するとともに、カソード電極とセパレータとの間に酸化剤ガスとして空気を供給する。これにより、アノード電極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を透過してカソード電極まで移動し、カソード電極で空気中の酸素と電気化学反応を起こし、発電が行われる。なお発電には発熱を伴うため、隣接する単位セルの間に冷媒を供給する。
【0003】
特許文献1には、プレッシャーレギュレータを用いて、カソードガス(酸化剤ガス)の圧力と冷却液の圧力とをバランスさせる技術が記載されている。具体的には、圧力調整容器の内部を変形自在なベローズ、膜又はピストン構造物により2室に仕切ってプレッシャーレギュレータを構成し、このプレッシャーレギュレータの一方の部屋を燃料電池の酸化剤ガス通路に連通し、他方の部屋を循環通路(冷媒通路)に接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−31251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化剤ガス等の反応ガスの圧力と、冷媒の圧力が同等の場合には、セパレータと電極との間の反応ガス通路に冷媒が流入し、膜電極構造体がダメージを受けて、発電性能が低下するおそれがある。
そこで本発明は、発電性能の低下を防止することが可能な燃料電池の運転方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の第1の態様に係る燃料電池の運転方法は、固体高分子電解質膜(例えば、実施形態における固体高分子電解質膜21)の両側にアノード電極(例えば、実施形態におけるアノード電極22)とカソード電極(例えば、実施形態におけるカソード電極23)を設けて膜電極構造体(例えば、実施形態における膜電極構造体20)を構成し、複数の前記膜電極構造体をセパレータ(例えば、実施形態におけるアノード側セパレータ30Aおよびカソード側セパレータ30B)を介して積層し、前記膜電極構造体と前記セパレータとの間に反応ガス通路(例えば、実施形態における燃料ガス通路51および酸化剤ガス通路52)を設けるとともに、前記セパレータの内部に冷媒通路(例えば、実施形態における冷媒通路53)を設けた燃料電池(例えば、実施形態における燃料電池1)の運転方法であって、前記反応ガス通路に供給する反応ガスの圧力を、前記冷媒通路に供給する冷媒の圧力より高く設定し、前記反応ガス通路として、前記アノード電極と前記セパレータとの間に燃料ガス通路(例えば、実施形態における燃料ガス通路51)を設けるとともに、前記カソード電極と前記セパレータとの間に酸化剤ガス通路(例えば、実施形態における酸化剤ガス通路52)を設け、前記燃料ガス通路に供給する燃料ガスの圧力を、前記酸化剤ガス通路に供給する酸化剤ガスの圧力より高く設定し、前記燃料電池は、前記燃料ガスを減圧して前記燃料ガス通路に供給するレギュレータ(例えば、実施形態におけるレギュレータ105)を備え、前記レギュレータは、前記酸化剤ガス通路に供給する前記酸化剤ガスの圧力を信号圧として導入し、前記燃料ガス通路に供給する前記燃料ガスの圧力が前記信号圧に応じた所定圧力範囲となるように減圧制御することを特徴とする。
【0007】
(2)前記(1)の燃料電池の運転方法において、前記反応ガスの圧力と前記冷媒の圧力との差は、10kPa以上30kPa以下であることを特徴とする。
【0008】
(3)前記(1)または(2)の燃料電池の運転方法において、前記燃料ガスの圧力と前記酸化剤ガスの圧力との差は、10kPa以上30kPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
(1)冷媒通路から反応ガス通路への冷媒の流入を防止することが可能になる。そのため、冷媒により膜電極構造体がダメージを受けて発電性能が低下するのを防止することができる。
また、燃料ガス通路に供給する燃料ガスの圧力を、酸化剤ガス通路に供給する酸化剤ガスの圧力より高く設定するので、膜電極構造体を透過した燃料ガスの濃度を、使役後の酸化剤ガス中で正確に検出することが可能になり、燃料ガスの排出を規制することができる。
【0010】
(2)反応ガスと冷媒との差圧を10kPa以上とするので、冷媒により膜電極構造体がダメージを受けて発電性能が低下するのを確実に防止することができる。また反応ガスと冷媒との差圧を30kPa以下とするので、セパレータと膜電極構造体との接触面圧を確保することが可能になり、接触抵抗の増加を抑制して発電性能を向上させることができる。
【0011】
(3)燃料ガスと酸化剤ガスとの差圧を10kPa以上とするので、膜電極構造体を透過した燃料ガスの濃度を正確に検出できる。また燃料ガスと酸化剤ガスとの差圧を30kPa以下とするので、膜電極構造体に過大な応力が作用して発電能力が低下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】燃料電池スタックの概略斜視図である。
【図2】前記燃料電池スタックを構成する単位燃料電池の分解図である。
【図3】燃料電池スタックの部分断面図である。
【図4】前記燃料電池スタックにおけるセパレータ積層状態を示す斜視図である。
【図5】燃料電池のブロック図である。
【図6】レギュレータの断面図である。
【図7】電流と抵抗過電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。
(燃料電池スタック)
図1は燃料電池スタック1の概略斜視図である。燃料電池スタック1は、縦方向に細長い単位燃料電池(以下、単位セルと称す)10を多数積層して電気的に直列接続し、その両側にエンドプレート90A,90Bを配置し、図示しないタイロッドによって締結して構成されている。この実施例の燃料電池スタック(以下、単に「燃料電池」という。)1は、前記縦方向を鉛直方向に向けて車両等に配置される。以下、図中の矢印X,Yは水平方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示す。
【0014】
図2に示すように、単位セル10は、膜電極構造体20の両側にセパレータ30A,30Bを配置したサンドイッチ構造をなす。詳述すると、膜電極構造体20は、図3に示すように、例えばフッ素系電解質材料等からなる固体高分子電解質膜(電解質膜)21の両側にアノード電極22およびカソード電極23を設けて構成されている。なお、各電極の外側に反応ガス拡散層を設けることが望ましい。その膜電極構造体20のアノード電極22に面してアノード側セパレータ30Aが、カソード電極23に面してカソード側セパレータ30Bが配置されている。両セパレータ30A,30Bは、金属プレートを所定にプレス成形して形成されている。単位セルを積層してなる燃料電池では、隣接する2つの単位セルにおいて、一方の単位セルのアノード側セパレータ30Aと、他方の単位セルのカソード側セパレータ30Bとが密接している。なおセパレータ30A,30Bの表面には、接触抵抗を低減するためのコーティングが施されている。
【0015】
図2において、膜電極構造体20と両セパレータ30A,30Bの左上隅部には、使役前の燃料ガス(例えば、水素ガス)が流通する燃料ガス供給口11が設けられ、その対角位置である右下隅部には、使役後の燃料ガス(以下、アノードオフガスという)が流通するアノードオフガス排出口12が設けられている。同様に、膜電極構造体20と両セパレータ30A,30Bの右上隅部には、使役前の酸化剤ガスが流通する酸化剤ガス供給口13が設けられ、その対角位置である左下隅部には、使役後の酸化剤ガス(以下、カソードオフガスという)が流通するカソードオフガス排出口14が設けられている。さらに、膜電極構造体20と両セパレータ30A,30Bの左端部には、使役前の冷媒が流通する4つの冷媒供給口15,15・・・が縦列に並んで設けられ、対称位置である右端部には、使役後の冷媒が流通する4つの冷媒排出口16,16・・・が縦列に並んで設けられている。これら燃料ガス供給口11、アノードオフガス排出口12、酸化剤ガス供給口13、カソードオフガス排出口14、冷媒供給口15,15・・・、冷媒排出口16,16・・・は、単位セル10の積層方向に貫通して設けられている。
【0016】
アノード側セパレータ30Aは、膜電極構造体20に面接触する平坦部36を備え、冷媒供給口15,15・・・と冷媒排出口16,16・・・の間に挟まれた矩形領域には、膜電極構造体20から離間する方向に突出する突条31Aが形成されている。突条31Aは、その長手方向を鉛直方向に向けて多数形成され、水平方向(X方向)等間隔に並行に配置されている。各突条31Aは、略台形波状に左右に蛇行しながら鉛直方向に延びている。図3に示すように、この突条31Aの断面形状は平坦な頂部35を有する台形状をなし、隣り合う突条31A,31Aの端部同士は平坦部36によって接続されている。
【0017】
図2に戻り、アノード側セパレータ30Aにおいて膜電極構造体20に密接する面には、絶縁樹脂(例えば、シリコン樹脂)等からなるシール部43が設けられている。シール部43は、燃料ガス供給口11からアノードオフガス排出口12まで突条31Aの外側を一周して囲繞するとともに、酸化剤ガス供給口13、カソードオフガス排出口14、各冷媒供給口15,15・・・、各冷媒排出口16,16・・・をそれぞれ個別に囲繞している。
【0018】
アノード側セパレータ30Aは、その平坦部36およびシール部43を膜電極構造体20のアノード電極に密接させて取り付けられている。そして、アノード側セパレータ30Aの突条31Aと膜電極構造体20との間に形成される空間が、燃料ガスが流通する燃料ガス通路51となる。その結果、燃料ガス供給口11を介して燃料ガス通路51に導入された燃料ガスは、上部バッファ部37、突条31A、下部バッファ部40を順に流通して、アノードオフガス排出口12に排出される。
【0019】
カソード側セパレータ30Bもアノード側セパレータ30Aとほぼ同様の構成であり、カソード側セパレータ30Bの突条31Bと膜電極構造体20との間に形成される空間が、酸化剤ガスが流通する酸化剤ガス通路52となる。その結果、酸化剤ガス供給口13を介して酸化剤ガス通路に導入された酸化剤ガスは、上部バッファ部37、突条31B、下部バッファ部40を順に流通して、カソードオフガス排出口14に排出される。
【0020】
また図2に示すように、カソード側セパレータ30Bにおいて膜電極構造体20に密接する面の裏面にも、絶縁樹脂(例えば、シリコン樹脂)等からなるシール部44が設けられている。シール部44は、冷媒供給口15,15・・・から冷媒排出口16,16・・・まで突条31Bの外側を1周して囲繞するとともに、燃料ガス供給口11、アノードオフガス排出口12、酸化剤ガス供給口13およびカソードオフガス排出口14をそれぞれ個別に囲繞している。このカソード側セパレータ30Bと同様に、アノード側セパレータ30Aにおいて膜電極構造体20に密接する面の裏面にも、同様のシール部44が設けられている。
【0021】
単位セル10を積層してなる燃料電池では、隣接する2つの単位セル10,10において、一方の単位セル10のアノード側セパレータ30Aのシール部44と、他方の単位セル10のカソード側セパレータ30Bのシール部44とを密接させる。これにより、両セパレータ30A,30B間の空間に、冷媒通路53が形成される。
【0022】
図3、図4を参照して冷媒通路53について詳述する。なお、図4は、アノード側セパレータ30Aの突条31Aとカソード側セパレータ30Bの突条31Bをそれぞれ1本ずつ代表的に図示している。
前述したように、アノード側セパレータ30Aの突条31Aとカソード側セパレータ30Bの突条31Bは互いに位相を異にしているので、突条31Aにおける第1の直線部32の頂部35と突条31Bにおける第1の直線部32の頂部35とを密接させて重ねたときに、突条31Aにおける第2の直線部33の頂部35と突条31Bにおける第2の直線部33の頂部35は重なることなく、互いに水平方向に離間して位置し、この間に開口60が形成される。
【0023】
また、アノード側セパレータ30Aの突条31Aにおける第2の直線部33の頂部35は、カソード側セパレータ30Bの平坦部36から離間して配置されており、同様に、カソード側セパレータ30Bの突条31Bにおける第2の直線部33の頂部35は、アノード側セパレータ30Aの平坦部36から離間して配置されている。これにより、アノード側セパレータ30Aとカソード側セパレータ30Bの間に形成される冷媒通路53は、突条31A,31Bの第1の直線部32,32が突き合わさっている部分では水平方向を遮断されるが、突条31A,31Bの第2の直線部33,33が存在する部分では水平方向に連通する。
【0024】
その結果、冷媒供給口から冷媒通路53に導入された冷媒は、突条31Aの第2の直線部33と突条31Bの第2の直線部33との間を縫うようにして水平方向に流通し、対応する冷媒排出口へと流れる。つまり、燃料ガスと酸化剤ガスが鉛直方向に流れるのに対し、冷媒はこれら反応ガスの流れ方向と直交する水平方向に流れる。
【0025】
以上のように構成された燃料電池および単位セルでは、図3に示すアノード電極22で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜21を透過してカソード電極23まで移動し、カソード電極23で酸素と電気化学反応を起こして発電が行われる。この発電に伴う発熱により単位セルが所定の作動温度を越えないように、冷媒通路53を流れる冷媒で熱を奪い冷却するようになっている。
【0026】
(燃料電池の運転方法)
図5は、燃料電池の運転システムの構成を示すブロック図である。燃料電池1は、前記燃料ガス通路51に燃料ガスとしての水素ガスが供給され、前記酸化剤ガス通路52に酸化剤ガスとしての空気が供給されて発電を行う。また、前記冷媒通路53にエチレングリコール水溶液等の冷媒が供給されて、燃料電池1が冷却される。
【0027】
空気はエアコンプレッサ102によって加圧され、カソード加湿器103で加湿されて燃料電池1の酸化剤ガス通路52に供給される。この空気中の酸素が酸化剤として供された後、燃料電池1からカソードオフガスとして排出され、圧力制御弁104を介して大気に放出される。ECU110は、燃料電池1に要求されている出力(以下、要求出力)に応じて、エアコンプレッサ102を駆動して所定量の空気を燃料電池1に供給するとともに、圧力制御弁104を制御して酸化剤ガス通路52への空気の供給圧力Pを燃料電池1の要求出力に応じた圧力に調整する。
【0028】
一方、高圧水素タンク130から放出された水素ガスは、レギュレータ105により減圧された後、エゼクタ106を通り、アノード加湿器107で加湿されて、燃料電池1の燃料ガス通路51に供給される。この水素ガスは発電に供された後、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス回収路111を通ってエゼクタ106に吸引され、前記高圧水素タンク130から供給される水素ガスと合流し、再び燃料電池1に供給されて循環するようになっている。なおアノードオフガス回収路111は、電磁駆動式のパージ弁108を介して、アノードオフガス排出路112に接続されている。
【0029】
冷媒タンク150に貯蔵された冷媒は、ポンプ152によって加圧され、燃料電池1の冷媒通路53に供給される。燃料電池1の冷却に供された冷媒は、圧力制御弁156を介して熱交換器158に送られる。この熱交換器158において冷却された冷媒は、冷媒タンク150に戻される。ECU110は、燃料電池1の運転状態に応じてポンプ152を駆動し所定量の冷媒を燃料電池1に供給するとともに、圧力制御弁156を制御して冷媒通路53への冷媒の供給圧を調整する。
【0030】
本実施形態では、燃料電池1の反応ガス通路(燃料ガス通路51および酸化剤ガス通路52)に供給する反応ガス(水素ガスおよび空気)の圧力P(PおよびP)を、冷媒通路53に供給する冷媒の圧力Pより高く設定する。反応ガス圧力Pが冷媒圧力Pより低い場合には、図3における冷媒通路53から反応ガス通路51,52に冷媒が流入し、膜電極構造体(特に反応ガス拡散層)20がダメージを受けて発電性能が低下するおそれがあるからである。なお反応ガス通路51,52と冷媒通路53とを区画するセパレータ30A,30Bは、金属プレート等の緻密質材料で構成されているので、反応ガス圧力Pと冷媒圧力Pとの間に差圧を設定することが可能である。
【0031】
具体的には、反応ガス圧力Pと冷媒圧力Pとの差圧P−Pが、10kPa以上30kPa以下となるように設定する。この差圧が10kPa未満の場合には、上記のように冷媒通路53から反応ガス通路51,52に冷媒が流入しやすくなるからである。
【0032】
一方、差圧P−Pが30kPaを超えると、図3における反応ガス通路51,52の圧力が、冷媒通路53の圧力より過大になる。これに伴って、セパレータ30A,30Bの平坦部36と膜電極構造体20との接触面圧が低下する。なお本実施形態のセパレータ30A,30Bは、例えば厚さ1mm以下の金属プレートで構成されているので、表裏面の圧力差によって撓みやすく、接触面圧の低下が顕著に現れる。そのため、セパレータ30A,30Bと膜電極構造体20との接触部における電気抵抗(接触抵抗)が増加して、抵抗過電圧が増加する。これにより、単位セルで発生した電力の取出し効率が低下し、ひいては発電性能が低下することになる。これに対して、差圧を30kPa以下に設定すれば、セパレータ30A,30Bと膜電極構造体20との接触面圧を確保することが可能になり、接触抵抗の増加を抑制して発電性能を向上させることができる。
【0033】
図7は、燃料電池からの取り出し電流と抵抗過電圧との関係を示すグラフである。図7では、差圧ΔP(P−P)が10kPa以上30kPa以下の場合を実線で示し、差圧ΔPが30kPaを超える場合を破線で示している。図7によれば、同じ電流を得る場合における実線の抵抗過電圧が、破線の抵抗過電圧より低くなっている。すなわち、差圧を10kPa以上30kPa以下とすることにより、電力の取出し効率を向上させることが可能になり、ひいては発電性能を向上させることができる。
【0034】
また本実施形態では、図6に示すレギュレータ105により、燃料電池1の燃料ガス通路51に供給する水素ガスの圧力を、酸化剤ガス通路52に供給する空気の圧力より高く設定する。レギュレータ105は例えば空気式の比例圧力制御弁からなり、エアコンプレッサ102の出口における空気の圧力を信号圧として導入し、レギュレータ105の出口における水素ガスの圧力が前記信号圧に応じた所定圧力範囲となるように減圧制御する。
【0035】
このレギュレータ105の構造につき、図6の概略断面図を参照して説明する。
レギュレータ105のボディ121の内部空間は、調圧ダイヤフラム122a、122b(122)によって上下に仕切られている。ダイヤフラム122aよりも上側の空間は信号圧室123になっている。この信号圧室123は密閉空間になっていて、コンプレッサで加圧された空気が空気信号導入路115を介して空気導入孔125から信号圧室123に導入される。また信号圧室123には、ダイヤフラム122aを下側に付勢するバイアス設定用スプリング(弾性体)129が設けられている。
【0036】
一方、ダイヤフラム122bよりも下側の空間は水素ガス通路124になっている。その水素ガス通路124は、水平配置されたバルブシート部128によって区画され、その下側が第1水素ガス通路124aとなり、上側が第2水素ガス通路124bとなっている。水素ガスは、水素供給管113から水素ガス入口131を通って第1水素ガス通路124aに流入し、バルブシート部128に穿設された流通孔133を通過した後、第2水素ガス通路124bから水素ガス出口132を通って水素供給管113に流出する。また、ダイヤフラム122bの下面にはステム126が取り付けられている。このステム126には、バルブシート部128の流通孔133に対して下側から着座離反可能な弁体127が設けられている。
【0037】
このように構成されたレギュレータ105において、ダイヤフラム122に対して下向きに作用する第1の推力が上向きに作用する第2の推力よりも大きいときには、ダイヤフラム122に下向きの力が作用し、弁体127をバルブシート部128から離間させる方向(すなわち、開弁方向)へ押動する。これにより、バルブシート部128に形成された流通孔133が弁体127から開放されるため、水素ガスが第1水素ガス通路124aから流通孔133を通って第2水素ガス通路124bに流入する。
【0038】
その後、第2水素ガス通路124bの圧力が上昇すると、第2の推力が第1の推力より大きくなってダイヤフラム122に上向きの力が作用し、弁体127をバルブシート部128に接近する方向(すなわち、閉弁方向)へ押動する。これにより、バルブシート部128に形成された流通孔133が弁体127により閉塞される。以上の動作を繰り返して、第1の推力と第2の推力とがつり合うようになる。
【0039】
ダイヤフラム122に対して下向きに作用する第1の推力は、コンプレッサで加圧された空気の圧力Pと、バイアス設定用スプリング129による押圧力Pとの和である。
また上向きに作用する第2の推力は、レギュレータ105の出口における水素ガスの圧力Pである。この第1の推力と第2の推力とがつり合うことにより、水素ガス圧力Pを空気圧力Pより高く設定することができる。また、バイアス設定用スプリング129による押圧力Pは一定であるから、レギュレータ105により水素ガス圧力Pと空気圧力Pとの差を一定に保持することができる。
【0040】
なお、図5に示すコンプレッサ102の出口における空気の圧力Pと、酸化剤ガス通路52への空気の供給圧力Pとは相互に異なっている。またレギュレータ105の出口における水素ガスの圧力Pと、燃料ガス通路51への空気の供給圧力Pとは相互に異なっている。しかしながら、上述したECU110は、圧力制御弁104を制御して、酸化剤ガス通路52への空気の供給圧力Pを所定値に設定する。さらに、この場合の空気圧力Pと水素ガス圧力Pとの差圧をレギュレータ105のバイアス設定用スプリングにより適当に設定すれば、燃料電池1への水素ガスの供給圧力Pと空気の供給圧力Pとの差圧を所定値に設定することができる。
【0041】
本実施形態では、燃料電池1の燃料ガス通路51に供給する水素ガスの圧力Pを、酸化剤ガス通路52に供給する空気の圧力Pより高く設定する。
水素ガスは分子量が小さいため、燃料ガス通路51に供給された水素ガスの一部が不可避的に膜電極構造体を透過する。この水素ガスの透過を監視するため、酸化剤ガス通路52の出口において水素ガスの濃度を検出している。ここで、水素ガスの供給圧力Pを空気の供給圧力Pより高くすることにより、水素ガスの濃度を正確に検出することが可能になる。これにより、水素ガスの排出を規制することができる。
【0042】
さらに本実施形態では、水素ガス圧力Pと空気圧力Pとの差圧P−Pが、10kPa以上30kPa以下となるように設定する。この差圧が10kPa未満の場合には、図2に示す膜電極構造体20を透過した水素ガスの濃度を、正確に検出できないからである。
一方、差圧が30kPaを超えると、アノード側セパレータ30Aとカソード側セパレータ30Bとの間に挟まれた膜電極構造体20に過大な応力が作用して、発電能力が低下するからである。
【0043】
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、隣接する2つの単位セル間に総て冷媒通路を設けたが、冷媒通路を総ての単位セル間設けることなく、間引きして設けてもよい。この場合に、冷媒通路を間引いた部位では、隣接する2つの単位セルが1つのセパレータを共有し、該セパレータが一方の単位セルではアノード側セパレータとして機能し、他方の単位セルではカソード側セパレータとして機能する。
また、実施例では、反応ガスの流れ方向と冷媒の流れ方向とが交差した波形の突条を有するセパレータを積層する構造を採用したが、この構造に限定されるものではなく、反応ガスの流れ方向と冷媒の流れ方向はいかなるものでもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…燃料電池 20…膜電極構造体 21…固体高分子電解質膜 22…アノード電極 23…カソード電極 30A…アノード側セパレータ 30B…カソード側セパレータ 51…燃料ガス通路 52…酸化剤ガス通路 53…冷媒通路 105…レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両側にアノード電極とカソード電極を設けて膜電極構造体を構成し、複数の前記膜電極構造体をセパレータを介して積層し、前記膜電極構造体と前記セパレータとの間に反応ガス通路を設けるとともに、前記セパレータの内部に冷媒通路を設けた燃料電池の運転方法であって、
前記反応ガス通路に供給する反応ガスの圧力を、前記冷媒通路に供給する冷媒の圧力より高く設定し、
前記反応ガス通路として、前記アノード電極と前記セパレータとの間に燃料ガス通路を設けるとともに、前記カソード電極と前記セパレータとの間に酸化剤ガス通路を設け、
前記燃料ガス通路に供給する燃料ガスの圧力を、前記酸化剤ガス通路に供給する酸化剤ガスの圧力より高く設定し、
前記燃料電池は、前記燃料ガスを減圧して前記燃料ガス通路に供給するレギュレータを備え、
前記レギュレータは、前記酸化剤ガス通路に供給する前記酸化剤ガスの圧力を信号圧として導入し、前記燃料ガス通路に供給する前記燃料ガスの圧力が前記信号圧に応じた所定圧力範囲となるように減圧制御することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項2】
前記反応ガスの圧力と前記冷媒の圧力との差は、10kPa以上30kPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の運転方法。
【請求項3】
前記燃料ガスの圧力と前記酸化剤ガスの圧力との差は、10kPa以上30kPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−65567(P2013−65567A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257338(P2012−257338)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2006−179737(P2006−179737)の分割
【原出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】