説明

燃料電池システムおよびその制御方法

【課題】負電圧の発生による燃料電池の性能低下および劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム100は、負電圧の発生を検出するセル電圧計測部91と、電流積算値計測部21とを備える。電流積算値計測部21は、負電圧セル11のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間に燃料電池10が出力した電流を時間積分することにより電流積算値を計測する。制御部20は、酸素発生期間における電流積算値と、負電圧セル11のアノードにおいて酸素が消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、酸素発生期間における燃料電池10の電流密度と、負電圧セル11のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係とを用いて、負電圧セル11のアノードの酸素量を低減可能になる電流密度を求め、その電流密度より低い電流密度で燃料電池10に電力を出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は通常、発電体である複数の単セルが積層されたスタック構造を有する。反応ガスは、マニホールドを介して、各単セルに設けられたガス流路に流入し、各単セルの発電部に供給される。しかし、一部の単セルのガス流路が水分の凍結などにより閉塞されてしまうと、当該一部の単セルに対する反応ガスの供給量が不足し、当該一部の単セルが負電圧を発生してしまう場合がある。このように、一部の単セルが負電圧を発生している状態で、燃料電池の運転を継続すると、燃料電池全体の発電性能が低下するばかりでなく、当該単セルの電極の劣化が生じてしまう可能性がある。これまで、こうした負電圧の発生による燃料電池の発電性能の低下や燃料電池の劣化を抑制するために種々の技術が提案されてきた(下記特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−093111号公報
【特許文献2】特開2004−031232号公報
【特許文献3】特開2007−265929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、負電圧の発生による燃料電池の性能低下および劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記1つ以上の発電体の電圧を計測し、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部とを備え、前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、前記制御部は、前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係と、を予め記憶しており、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、第1と第2の対応関係を用いることにより、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて、負電圧の回復を阻害している酸素が低減されるように電流密度を低減させることができる。従って、負電圧の発生による燃料電池の性能低下および劣化を抑制することができる。
【0007】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、さらに、前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部を備え、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧が検出されたときに、前記燃料電池の電流密度を予め設定された範囲で低下させ、前記電流密度の低下前と低下後における負電圧を発生している発電体の電圧の変化量を検出し、前記電圧の変化量が所定の許容範囲に含まれる場合には、前記出力制限処理を実行するとともに、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させるガス量増大処理を実行し、前記電圧の変化量が、前記所定の許容範囲に含まれない場合には、前記出力制限処理を実行せずに、前記ガス量増大処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、電流密度の低下させたときの負電圧を発生している発電体における電圧の変化量が、出力制限処理を実行した方が好ましい既定の状態のときの電圧の変化量と同等の範囲に含まれるときに、出力制限処理を実行する。従って、負電圧を回復するための処理を適切に選択して実行することができる。
【0008】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムであって、前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を制御するための制御スイッチを備え、前記制御部は、前記出力制限処理において、前記酸素生成速度に対する電流密度が予め設定された値より低い場合には、前記外部負荷と前記燃料電池との電気的接続を切断した後、再び前記燃料電池と前記外部負荷とを電気的に接続する再接続処理を実行し、前記制御部は、前記再接続処理において、前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を切断させてから再び接続させるまでのインターバル時間を、前記酸素発生期間における電流積算値に応じて設定する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、出力制限処理によって負電圧の回復が困難な場合であっても、燃料電池と外部負荷との電気的な接続の切断により、負電圧を回復させることができる。そして、適切に決定されたインターバル時間の経過の後に、燃料電池と外部負荷とを再接続することにより、再接続後に再び負電圧が発生してしまうことを抑制できる。
【0009】
[適用例4]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記1つ以上の発電体の電圧を計測し、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、前記燃料電池の内部の湿潤状態を検出する湿潤度検出部と、前記燃料電池の運転温度を検出する運転温度計測部とのうちの少なくとも一方を含む運転状態検出部と、を備え、前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、前記制御部は、前記酸素発生期間における電流積算値ごとに予め準備された関係であって、前記湿潤度検出部と前記運転温度計測部とのうちの少なくとも一方の検出値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係とを予め記憶しており、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記酸素発生期間の電流積算値に対応する前記第1の対応関係を用いて、前記湿潤度検出部と前記運転状態検出部とのうちの少なくとも一方の検出値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池の内部における湿度や、燃料電池の運転温度に応じて、酸素消費速度を求めることができ、負電圧の回復のために、電流密度をより適切に低減することができる。
【0010】
[適用例5]
1つ以上の発電体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する工程と、
(b)負電圧を発生している発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測する工程と、
(c)前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との予め設定された第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との予め設定された第2の対応関係を参照する工程と、
(d)前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する工程と、
を備える、制御方法。
【0011】
[適用例6]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、を備え、前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されているものとして予め設定された環境条件が成立した状態における前記燃料電池の運転期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、前記制御部は、前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係と、を予め記憶しており、前記制御部は、前記酸素発生期間における前記燃料電池の運転の際に、前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、経験的・実験的に負電圧が発生する可能性が高い場合として想定される環境条件の時には、負電圧を発生しない場合であっても、出力制限処理が実行される。従って、より確実に、燃料電池の性能低下および劣化を抑制することができる。
【0012】
[適用例7]
1つ以上の発電体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されているものとして予め設定された環境条件が成立した状態における前記燃料電池の運転期間である酸素発生期間における電流積算値を計測する工程と、
(b)1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との予め設定された第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との予め設定された第2の対応関係を参照する工程と、
(d)前記第1の対応関係を用いて、前記工程(a)で得られた前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する工程と、
を備える、制御方法。
【0013】
[適用例8]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部と、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、を備え、前記制御部は、1つ以上の発電体に負電圧は発生している場合に、負電圧を回復するために反応ガスの供給量を増大させる回復処理を実行し、前記制御部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生している負電圧発生期間における電流積算値と、前記回復処理による負電圧の回復が可能となる電流密度との対応関係を予め記憶しており、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記対応関係を用いて、前記負電圧発生期間における電流積算値に対して求められる電流密度以下の電流密度で前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、電流積算値と、予め準備された対応関係とを用いることにより、回復処理による負電圧の回復が可能となる電流密度を求め、その電流密度で燃料電池に発電させることにより、負電圧を回復することができる。
【0014】
[適用例9]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、を備え、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記外部負荷と前記燃料電池との電気的接続を切断した後、再び前記燃料電池と前記外部負荷とを電気的に接続する再接続処理を実行し、前記制御部は、前記再接続処理において、前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を切断させてから再び接続させるまでのインターバル時間を、前記酸素発生期間における電流積算値に応じて設定する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池と外部負荷との電気的な接続の切断により、負電圧を回復させる。そして、適切に決定されたインターバル時間の経過の後に、燃料電池と外部負荷とを再接続することにより、再接続後に再び負電圧が発生することを抑制できる。
【0015】
[適用例10]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、1つ以上の発電体を有する燃料電池と、前記1つ以上の発電体における電圧を計測し、負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、前記燃料電池の出力を制御する制御部と、前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部と、を備え、前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧が検出されたときに、前記燃料電池の電流密度を予め設定された範囲で低下させ、前記電流密度の低下前と低下後における負電圧を発生している発電体の電圧の変化量を検出し、前記電圧の変化量が所定の許容範囲に含まれる場合には、前記燃料電池の電流密度をさらに低下させるとともに、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させ、前記電圧の変化量が前記所定の許容範囲に含まれない場合には、前記燃料電池の電流密度を低下させることなく、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させる、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、負電圧を発生している発電体における電流密度の低下に応じた電圧の変化量に基づいて、負電圧の回復のための処理を適切に選択して実行することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両、その燃料電池システムの制御方法、それらのシステムや車両、制御方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図2】燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図3】燃料電池システムにおける燃料電池の出力制御を説明するための説明図。
【図4】負電圧回復処理の処理手順を説明するための説明図。
【図5】水素の供給不良負による負電圧の回復を説明するための説明図。
【図6】電流密度の低下により負電圧からの回復が可能となった理由を説明するための模式図。
【図7】電流密度低下処理の処理手順を示す説明図。
【図8】酸素消費速度マップと閾値電流密度マップとを説明するための説明図。
【図9】第2実施例としての電流密度低下処理の処理手順を示す説明図。
【図10】第2実施例の酸素消費速度マップを説明するための説明図。
【図11】第2実施例のその他の構成例を説明するための説明図。
【図12】第3実施例としての燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図13】第3実施例における再接続処理の処理手順を示す説明図。
【図14】負電圧セルにおけるセル電圧の時間変化を説明するための説明図。
【図15】インターバル時間決定マップを説明するための説明図。
【図16】第4実施例としての負電圧回復処理の処理手順を示す説明図。
【図17】単セルにおける電極電位と電流密度との関係を示す説明図。
【図18】水素の供給不良による負電圧を発生している負電圧セルにおけるセル電圧の変化を説明するための説明図。
【図19】本発明の参考例として、低温環境下における負電圧セルのセル温度の時間変化を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、カソードガス供給部30と、カソードガス排出部40と、アノードガス供給部50と、アノードガス循環排出部60と、冷媒供給部70とを備える。
【0019】
燃料電池10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池10は、単セルとも呼ばれる複数の発電体11が積層されたスタック構造を有する。各発電体11は、電解質膜の両面に電極を配置した発電体である膜電極接合体(図示せず)と、膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータ(図示せず)とを有する。
【0020】
ここで、電解質膜は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜によって構成することができる。また、電極は、発電反応を促進させるための触媒(例えば白金(Pt))が担持されカーボン(C)とガス透過性を有するアイオノマーとを用いて構成することができる。各発電体11には、反応ガスや冷媒のためのマニホールド(図示せず)が設けられている。マニホールドの反応ガスは、各発電体11に設けられたガス流路を介して、各発電体11の発電部に供給される。
【0021】
制御部20は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部20は、外部負荷200からの出力電力の要求を受け付け、その要求に応じて、以下に説明する燃料電池システム100の各構成部を制御し、燃料電池10に発電させる。
【0022】
カソードガス供給部30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフロメータ33と、開閉弁34と、加湿部35とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池10のカソード側に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池10と接続されており、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池10に供給する。
【0023】
エアフロメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、この計測値に基づいて、エアコンプレッサ32を駆動することにより、燃料電池10に対する空気の供給量を制御する。
【0024】
開閉弁34は、エアコンプレッサ32と燃料電池10との間に設けられており、カソードガス配管31における供給空気の流れに応じて開閉する。具体的には、開閉弁34は、通常、閉じた状態であり、エアコンプレッサ32から所定の圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。
【0025】
加湿部35は、エアコンプレッサ32から送り出された高圧空気を加湿する。制御部20は、電解質膜の湿潤状態を保持して良好なプロトン伝導性を得るために、加湿部35によって、燃料電池10に供給される空気の加湿量を制御し、燃料電池10内部の湿潤状態を調整する。なお、加湿部35は省略されても良い。
【0026】
カソードガス排出部40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池10のカソード側に接続された配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁43は、カソード排ガス配管41におけるカソード排ガスの圧力(燃料電池10の背圧)を調整する。圧力計測部44は、調圧弁43の上流側に設けられており、カソード排ガスの圧力を計測し、その計測値を制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部44の計測値に基づいて調圧弁43の開度を調整する。
【0027】
アノードガス供給部50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54と、インジェクタ55と、2つの圧力計測部56u,56dとを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池10のアノードと接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池10に供給する。なお、燃料電池システム100は、水素タンク52に換えて、炭化水素系の燃料を改質して水素を生成する改質部を、水素の供給源として備えているものとしても良い。
【0028】
開閉弁53、レギュレータ54、第1の圧力計測部56u、インジェクタ55、第2の圧力計測部56dは、アノードガス配管51に、この順序で上流側(水素タンク52側)から設けられている。開閉弁53は、制御部20からの指令により開閉し、水素タンク52からインジェクタ55の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ54は、インジェクタ55の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が制御部20によって制御されている。
【0029】
インジェクタ55は、制御部20によって設定された駆動周期や開弁時間に応じて、弁体が電磁的に駆動する電磁駆動式の開閉弁である。制御部20は、インジェクタ55の駆動周期や開弁時間を制御することによって、燃料電池10に供給される水素量を制御する。第1と第2の圧力計測部56u,56dはそれぞれ、インジェクタ55の上流側と下流側の水素の圧力を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、これらの計測値を用いて、インジェクタ55の駆動周期や開弁時間を決定する。
【0030】
アノードガス循環排出部60は、アノード排ガス配管61と、気液分離部62と、アノードガス循環配管63と、水素循環用ポンプ64と、アノード排水配管65と、排水弁66とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池10のアノードの出口と気液分離部62とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離部62へと誘導する。
【0031】
気液分離部62は、アノードガス循環配管63と、アノード排水配管65とに接続されている。気液分離部62は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分については、アノードガス循環配管63へと誘導し、水分についてはアノード排水配管65へと誘導する。
【0032】
アノードガス循環配管63は、アノードガス配管51のインジェクタ55より下流に接続されている。アノードガス循環配管63には、水素循環用ポンプ64が設けられており、この水素循環用ポンプ64によって、気液分離部62において分離された気体成分に含まれる水素は、アノードガス配管51へと送り出される。このように、この燃料電池システム100では、アノード排ガスに含まれる水素を循環させて、再び燃料電池10に供給することにより、水素の利用効率を向上させている。
【0033】
アノード排水配管65は、気液分離部62において分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁66は、アノード排水配管65に設けられており、制御部20からの指令に応じて開閉する。制御部20は、燃料電池システム100の運転中は、通常、排水弁66を閉じておき、予め設定された所定の排水タイミングや、アノード排ガス中の不活性ガスの排出タイミングで排水弁66を開く。
【0034】
冷媒供給部70は、冷媒用配管71と、ラジエータ72と、冷媒循環用ポンプ73と、2つの冷媒温度計測部74,75とを備える。冷媒用配管71は、燃料電池10に設けられた冷媒用の入口マニホールドと出口マニホールドとを連結する配管であり、燃料電池10を冷却するための冷媒を循環させる。ラジエータ72は、冷媒用配管71に設けられており、冷媒用配管71を流れる冷媒と外気との間で熱交換させることにより、冷媒を冷却する。
【0035】
冷媒循環用ポンプ73は、冷媒用配管71において、ラジエータ72より下流側(燃料電池10の冷媒入口側)に設けられており、ラジエータ72において冷却された冷媒を燃料電池10に送り出す。2つの冷媒温度計測部74,75はそれぞれ、冷媒用配管71において、燃料電池10の冷媒出口の近傍と、冷媒入口の近傍とに設けられており、計測値を制御部20へと送信する。制御部20は、2つの冷媒温度計測部74,75のそれぞれの計測値の差から燃料電池10の運転温度を検出し、その検出結果に基づき、冷媒循環用ポンプ73が送り出す冷媒量を制御することにより、燃料電池10の運転温度を調整する。
【0036】
図2は、燃料電池システム100の電気的構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、二次電池81と、DC/DCコンバータ82と、DC/ACインバータ83とを備える。また、燃料電池システム100は、セル電圧計測部91と、電流計測部92と、インピーダンス計測部93と、充電状態検出部94とを備える。
【0037】
燃料電池10は、直流電源ラインDCLを介してDC/ACインバータ83に接続されている。二次電池81は、DC/DCコンバータ82を介して直流電源ラインDCLに接続されている。DC/ACインバータ83は、外部負荷200に接続されている。なお、燃料電池システム100では、燃料電池10と二次電池81とが出力する電力の一部を、燃料電池システム100を構成する各補機類を駆動するために用いるが、そのための配線の図示および説明は省略する。
【0038】
二次電池81は、燃料電池10の補助電源として機能し、例えば充・放電可能なリチウムイオン電池で構成することができる。DC/DCコンバータ82は、二次電池81の充・放電を制御する充放電制御部としての機能を有しており、制御部20からの指令に応じて直流電源ラインDCLの電圧レベルを可変に調整する。制御部20は、燃料電池10の出力が外部負荷200からの出力要求に対して不足するような場合には、その不足分を補償させるために、DC/DCコンバータ82に対して、二次電池81の放電を指令する。
【0039】
DC/ACインバータ83は、燃料電池10と二次電池81とから得られた直流電力を交流電力へと変換し、外部負荷200に供給する。なお、外部負荷200において回生電力が発生する場合には、その回生電力は、DC/ACインバータ83によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ82を介して二次電池81に充電される。
【0040】
セル電圧計測部91は、燃料電池10の各発電体11と接続されており、各発電体11の電圧(セル電圧)を計測する。セル電圧計測部91は、その計測結果を制御部20に送信する。なお、セル電圧計測部91は、計測したセル電圧のうち、最も低いセル電圧のみを制御部20に送信するものとしても良い。
【0041】
電流計測部92は、直流電源ラインDCLに接続されており、燃料電池10の出力する電流値を計測し、制御部20に送信する。充電状態検出部94は、二次電池81に接続されており、二次電池81の充電状態(SOC:State of Charge)を検出し、制御部20に送信する。
【0042】
インピーダンス計測部93は、燃料電池10に接続されており、燃料電池10に交流電流を印加することにより、燃料電池10のインピーダンスを測定する。ここで、燃料電池10のインピーダンスは、燃料電池10の内部に存在する水分量に応じて変化することが知られている。即ち、燃料電池10のインピーダンスと、燃料電池10内部の水分量(湿度)との対応関係を予め取得してくことにより、燃料電池10のインピーダンスの計測値に基づき、燃料電池10内部の水分量(湿度)を求めることができる。
【0043】
ところで、本実施例の燃料電池システム100では、制御部20は、電流積算値計測部21としても機能する。電流積算値計測部21は、所定の期間において電流計測部92が計測した燃料電池10の電流を時間積分することにより、燃料電池10が出力した電気量を表す電流積算値を算出する。制御部20は、この電流積算値を用いて、燃料電池10の一部の発電体11において発生した負電圧(後述)を回復するための処理を実行するが、詳細は後述する。
【0044】
図3(A),(B)は、燃料電池システム100における燃料電池10の出力制御を説明するための説明図である。図3(A)は、燃料電池10のW−I特性を示すグラフであり、縦軸が燃料電池10の電力を表し、横軸が燃料電池10の電流を表している。一般に、燃料電池のW−I特性は、上に凸の曲線グラフによって表される。
【0045】
図3(B)は、燃料電池10のV−I特性を示すグラフであり、縦軸が燃料電池10の電圧を表し、横軸が燃料電池10の電流を表している。一般に、燃料電池のV−I特性は、電流の増加に従って下降する横S字状の曲線グラフによって表される。なお、図3(A),(B)では、それぞれのグラフの横軸が互いに対応するように図示されている。
【0046】
制御部20は、これらの燃料電池10についてのW−I特性およびV−I特性を予め記憶している。制御部20は、W−I特性を用いて、外部負荷200が要求する電力Ptに対して燃料電池10が出力すべき目標電流Itを取得する。また、制御部20は、V−I特性を用いて、W−I特性から得られた目標電流Itを出力するための燃料電池10の目標電圧Vtを決定する。制御部20は、DC/DCコンバータ82に指令値として目標電圧Vtを設定し、直流電源ラインDCLの電圧を調整させる。
【0047】
ところで、前記したとおり、燃料電池10では、反応ガスは、マニホールドを介して各発電体11のガス流路へと流入する。しかし、発電体11のガス流路は、燃料電池10において生成された水分などにより閉塞されてしまう場合がある。一部の発電体11においてガス流路の閉塞が生じた状態で、燃料電池10に発電を継続させた場合には、当該一部の発電体11では、反応ガスの供給不足により発電反応が抑制されてしまう。一方、他の発電体11では発電反応が継続されるため、反応ガスの供給不良が生じている当該一部の発電体11は、燃料電池10において抵抗として働き、負電圧を発生することとなる。以後、負電圧を発生している発電体11を、本明細書では、「負電圧セル11」とも呼ぶ。
【0048】
負電圧セル11の負電圧状態が継続されると、燃料電池10の発電性能の低下や、負電圧セル11における電極の劣化が生じてしまうことが知られている。そこで、燃料電池10において発電体11が負電圧を発生している場合には、早期にその負電圧が発生している状態が解消されることが望ましい。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、燃料電池10の発電体11において負電圧の発生が検出された場合には、以下に説明する負電圧回復処理を実行し、負電圧状態の回復を図る。
【0049】
図4は、制御部20が実行する負電圧回復処理の処理手順を説明するためのフローチャートである。制御部20は、燃料電池10の通常の運転(ステップS5)を開始した後に、セル電圧計測部91によって、発電体11のうちの少なくとも1つにおいて負電圧が検出された場合には、ステップS20以降の処理を開始する(ステップS10)。ステップS20では、制御部20は、電流積算値計測部21に、後述する電流密度低下処理に用いられる電流積算値の計測を開始させる。
【0050】
ここで、ステップS10において負電圧の発生が検出された段階では、負電圧の発生原因が、アノードへの水素の供給不良によるものであるのか、カソードへの酸素の供給不良によるものであるのかが判別されていない。そこで、ステップS30では、制御部20は、まず、エアコンプレッサ32の回転数を増大させて、燃料電池10に対する空気の供給量を増大させる。カソードへの酸素の供給不良によって負電圧が発生している場合には、この処理によって、負電圧セル11における空気の供給量不足を解消するとともに、カソード側のガス流路を掃気して、その閉塞を解消することができる。
【0051】
制御部20は、空気の供給量を増大させた後に、負電圧セル11の電圧が上昇した場合には、負電圧が回復したものとして、燃料電池10の通常の運転制御に戻る(ステップS40)。一方、空気の供給量増大によっても負電圧が回復しなかった場合には、制御部20は、負電圧の発生原因が、水素の供給不良によるものと判定する。
【0052】
図5(A)は、本発明の発明者の実験において観測された、水素の供給不良によって負電圧が発生したときの負電圧セル11におけるアノードの電極電位の変化を示すグラフである。図5(A)には、縦軸をアノードの電極電位とし、横軸を時間とするアノードの電極電位の時間変化を示す実線グラフGAPが図示されている。また、図5(A)には、縦軸をセル電圧とし、横軸を時間とする負電圧セル11におけるセル電圧の時間変化を示す破線グラフGV1が図示されている。
【0053】
破線グラフGV1では、時刻t1において負電圧が発生し、セル電圧が電圧値V1までほぼ垂直に低下している。そして、電圧値V1近傍の電圧が維持された後、時刻t2において、さらに、セル電圧が電圧値V2までほぼ垂直に低下している。一方、実線グラフGAPでは、時刻t1における負電圧の発生とともに、負電圧セル11の電圧変化とはほぼ対照的に、負電圧セル11のアノードの電位が上昇している。
【0054】
ここで、時刻t1から時刻t2の期間には、負電圧セル11のアノードでは、下記の反応式(1a)に示す水分解反応(水の酸化反応)により、プロトンが生成される。
2H2O → O2 + 4H+ + e- …(1a)
また、上述したように、負電圧発生時のアノード電位の上昇により、下記反応式(1b)の反応が進行し、触媒が酸化され、不活性化するとともに、プロトンが生成される。
Pt + 2H2O → PtO2 + 4H+ + 4e- …(1b)
これらの反応によって、燃料電池10は、負電圧が生じている状態であっても、発電性能の低下が抑制された状態で運転を継続することができる。
【0055】
しかし、時刻t2以降では、下記の反応式(2)に示す反応により、アノードを構成するカーボンの酸化により、プロトンが生成され始める。
C + 2H2O → CO2 + 4H+ + 4e- …(2)
この場合には、電極構成部材の劣化により、燃料電池10の発電性能は著しく低下し、その回復が困難となる。このように、水素の供給不良によって負電圧が発生した場合には、負電圧セル11のセル電圧が、時刻t2以降のような2回目の電圧低下を生じる前に、負電圧セル11に水素を供給し、負電圧を回復させることが好ましい。
【0056】
そこで、ステップS50(図4)では、制御部20は、インジェクタ55の駆動周期や開弁時間を調整したり、水素循環用ポンプ64の回転数を増大させることにより、燃料電池10に対する水素の供給量を増大させて、負電圧の回復を図る。しかし、負電圧セル11に水素が供給されても、その負電圧の状態が回復されない場合があることを本発明の発明者は見出した。
【0057】
図5(B),(C)は、負電圧セル11への水素の供給量増大によって負電圧が回復する場合と回復しない場合とがあることを示す実験結果を示すグラフである。図5(B)は、燃料電池10において負電圧が発生した後に燃料電池10に対する水素の供給量を増大させたときの負電圧セル11のセル電圧の時間変化を示すグラフであり、本発明の発明者による実験によって得られたものである。図5(B)には、縦軸をセル電圧とし、横軸を時間とする負電圧セル11の電圧の時間変化を示す実線グラフGV2と、縦軸を水素のストイキ比とし、横軸を時間とする水素のストイキ比の時間変化を示す破線グラフGH1とが図示されている。ここで、「水素のストイキ比」とは、燃料電池の発電量に対して理論的に必要な水素(水素の理論的消費量)に対する実際の水素の供給量の比を意味する。
【0058】
図5(B)のグラフに示されるように、時刻t3において負電圧が発生した。そして、水素の供給量を増大させる処理が開始された後、時刻t4において、負電圧セル11における水素のストイキ比が上昇し始めたが、負電圧セル11のセル電圧は、わずかに上昇しただけで、負電圧発生前の電圧レベルまでは回復しなかった。このように、本発明の発明者による実験において、負電圧発生後に負電圧セル11における水素のストイキ比を増大させた場合であっても、負電圧セル11のセル電圧が回復されない場合があることが観測された。
【0059】
図5(C)は、燃料電池10において負電圧が発生した後に燃料電池10に対する水素の供給量を増大させたときの負電圧セル11のセル電圧の時間変化を示す、図5(B)と同様なグラフである。図5(C)には、縦軸をセル電圧とし、横軸を時間とする負電圧セル11の電圧の時間変化を示す実線グラフGV3と、縦軸を水素のストイキ比とし、横軸を時間とする水素のストイキ比の時間変化を示す破線グラフGH2とが図示されている。
【0060】
ここで、図5(C)の実験では、時刻t5において負電圧が発生した後、時刻t6において、図5(B)と同程度に水素のストイキ比を増大させるとともに、燃料電池10の電流密度を、負電圧発生前の約1/10程度まで低下させた。すると、図5(C)のグラフに示されるように、負電圧セル11の電圧を、負電圧発生前の電圧レベルまで回復させることができた。本発明の発明者は、これらの図5(B),(C)の実験から、以下の考察を得た。
【0061】
図6(A)〜(D)は、電流密度の低下により、負電圧からの回復が可能となった理由を説明するための模式図である。図6(A)〜(D)はそれぞれ、発電体11のアノードの内部状態を模式的に示した図であり、炭素原子1と、炭素原子1に担持された触媒2と、それらを包含するアイオノマー3とが模式的に図示されている。
【0062】
図6(A)は、水素の供給不良によって負電圧が発生している負電圧セル11のアノードの内部状態を示している。前記したとおり、水素の供給不良によって負電圧が発生したときには、上記の反応式(1a)の水分解反応によって、プロトンと酸素とが生成される。そのため、負電圧が発生している状態で燃料電池10の発電を継続すると、触媒2の近傍には酸素が多数存在するようになる。
【0063】
図6(B)は、負電圧の発生後に水素のストイキ比を増大させたときの負電圧セル11のアノードの状態を模式的に示している。負電圧セル11のアノードに水素が到達し始めると、その水素と、それまでアノードにおいて生成された酸素とが反応し、水が生成される(下記反応式(3))。
2 + 1/2O2 → H2O …(3)
また、上記の水分解反応も継続される。
【0064】
ここで、本明細書では、上記の水分解反応によって生成される単位時間あたりの酸素の量を「酸素生成速度」と呼ぶ。また、上記の反応式(3)に示す水生成反応における水素との結合により消費される単位時間あたりの酸素の量を「酸素消費速度」と呼ぶ。
【0065】
負電圧セル11に水素が到達し始めた後に、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度の方が、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度より速くなった場合には、負電圧セル11のアノードでは、触媒2の近傍における酸素量が増加し続ける(図6(C))。従って、この場合には、水素が触媒2まで到達することが困難となり、水分解反応が継続し、負電圧の状態が継続される。
【0066】
一方、負電圧セル11に水素が到達し始めた後に、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度の方が、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度より速くなった場合には、触媒2の近傍における酸素量が低減される(図6(D))。従って、水素が触媒2まで到達することが容易となり、通常の発電反応が再開される。
【0067】
ここで、ファラデーの法則によれば、燃料電池10の電流密度が高いほど、酸素生成速度は速くなる。即ち、図5(B)の実験では、燃料電池10の電流密度が高かったために、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度の方が、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度より速くなり、負電圧が回復しなかったものと推察される。一方、図5(C)の実験では、燃料電池10の電流密度が低かったために、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度の方が、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度より速くなり、負電圧が回復したものと推察される。
【0068】
そこで、本実施例の燃料電池システム100では、ステップS50(図4)における水素の供給量増大処理の後に、負電圧が回復したか否かの判定を実行する(ステップS60)。そして、負電圧が回復した場合には、燃料電池10の通常の運転制御(ステップS5)を再開し、負電圧が回復しなかった場合には、ステップS70の電流密度低下処理を実行する。この電流密度低下処理では、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度を酸素消費速度より低下させることができる電流密度の閾値(「閾値電流密度」と呼ぶ)を求め、その閾値電流密度より、燃料電池10の電流密度を低下させ、負電圧の回復を図る。
【0069】
図7は、ステップS70における電流密度低下処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップS110では、制御部20は、電流積算値計測部21によって計測された負電圧が発生している期間における電流積算値を取得する。ここで、この電流積算値を取得するのは、以下の理由による。
【0070】
上述したとおり、水素の供給不良により負電圧が発生している場合には、水分解反応(上記反応式(1a))によりプロトンが生成されるとともに、触媒の酸化反応(上記反応式(1b))が進行する。即ち、負電圧の発生している期間において燃料電池10が出力した電気量(電流積算値)が増大するほど、触媒の不活性化の度合いが増し、水素と酸素の再結合による酸素の消費が抑制される。従って、負電圧の発生期間における電流積算値と酸素消費速度との対応関係を予め求めておくことにより、ステップS110で取得する電流積算値によって、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度を求めることが可能となる。
【0071】
図8(A)は、ステップS120において、負電圧セル11のアノードにおける酸素消費速度を取得するために用いられる酸素消費速度マップMGVの一例を表すグラフである。図8(A)では、酸素消費速度マップMGVは、縦軸を酸素消費速度とし、横軸を電流積算値とする下に凸の下降曲線グラフとして表されている。この酸素消費速度マップMGVに設定されている電流積算値と酸素消費速度との対応関係は、例えば、以下のような実験に基づき得ることができる。
【0072】
即ち、燃料電池10の任意の発電体11のアノード側のガス流路を閉塞させて負電圧を一定期間だけ発生させた後に発電を停止させる。この期間における電流積算値を求めるとともに、負電圧セル11における発電量から、この期間に生成された酸素量を求める。そして、その負電圧セル11のアノードに水素の供給を開始し、水素の供給を開始したときから、負電圧セル11のアノードにおける酸素分圧が0となるまでの酸素消費時間を計測する。この一連の計測処理を負電圧の発生期間を変えて行う。これらの計測結果から、電流積算値ごとの酸素消費速度を算出する。
【0073】
制御部20は、この酸素消費速度マップMGVを予め記憶部(図示せず)に記憶している。そして、ステップS120において、制御部20は、この酸素消費速度マップMGVを参照して、ステップS110で取得した電流積算値Qeに対する酸素消費速度Voを求める。
【0074】
図8(B)は、ステップS130において、閾値電流密度を取得するために用いられる閾値電流密度マップMTCの一例を表すグラフである。図8(B)では、閾値電流密度マップMTCは、縦軸を酸素生成速度とし、横軸を電流積算値としたときに、電流密度の上昇に応じて酸素生成速度が増大する正比例のグラフとして表されている。この閾値電流密度マップMTCにおける酸素生成速度と電流密度との対応関係は、ファラデーの法則に基づいて求められるものである。
【0075】
制御部20は、閾値電流密度マップMTCを予め記憶部(図示せず)に記憶している。そして、ステップS130において、制御部20は、酸素消費速度マップMGVを参照し、前工程で取得した酸素消費速度Voと同じ速度である酸素生成速度Voに対する電流密度を閾値電流密度imaxとして求める。
【0076】
この閾値電流密度imaxより小さい電流密度で燃料電池10に発電させれば、負電圧セル11のアノードにおける酸素生成速度を酸素消費速度より低下させることができ、負電圧セル11のアノードに生成された酸素量を次第に低減させることができる。従って、水素の供給による負電圧の回復が可能となる。
【0077】
ステップS140(図7)では、制御部20は、閾値電流密度imaxから予め設定された値Δi(Δi>0)を引いた電流密度(imax−Δi)で、予め設定された期間だけ、燃料電池10に発電させる。制御部20は、この電流密度低下処理を実行した後に、ステップS80(図4)において、負電圧が回復したか否かの判定処理を実行し、負電圧が回復した場合には、燃料電池10の通常の運転制御(ステップS5)を再開する。そして、電流密度低下処理によって負電圧が回復しなかった場合には、再度、電流密度低下処理を繰り返す。
【0078】
このように、本実施例の燃料電池システム100によれば、一部の発電体11において、負電圧が検出された場合には、その負電圧を回復するための回復処理を実行する。そして、その回復処理において、水素の供給量を増大させても負電圧が回復しない場合には、その負電圧の回復を阻害する酸素の生成速度を低下させるための電流密度低下処理を実行する。従って、燃料電池10において負電圧が発生した場合であっても、燃料電池10の劣化や発電性能の低下を抑制することができる。
【0079】
B.第2実施例:
図9は、第2実施例の燃料電池システムにおいて実行される電流密度低下処理の処理手順を示すフローチャートである。図9は、ステップS112が追加されている点以外は、図7とほぼ同じである。なお、第2実施例における燃料電池システムの他の構成は、第1実施例の燃料電池システム100と同様であり、負電圧回復処理も第1実施例で説明したのと同様の手順で実行される(図1,図2,図4)。ただし、第2実施例の燃料電池システムでは、燃料電池10を、予め設定された一定の運転温度で運転させるものとする。
【0080】
ステップS110では、負電圧発生期間における電流積算値を計測する。ステップS112では、制御部20は、燃料電池10の運転状態として、燃料電池10の内部の湿度を検出する。具体的には、制御部20は、インピーダンス計測部93の計測値に基づいて、燃料電池10の内部における湿度を取得する。
【0081】
図10(A)は、燃料電池10内部の湿度の変化による電流積算値と酸素消費速度との対応関係の変化を示すグラフである。図10(A)に示されたグラフは、内部の湿度を低下させた状態の燃料電池10において得られる、図8(A)のグラフと同様なグラフである。なお、図10(A)のグラフには、便宜上、図8(A)のグラフを示す破線グラフと、その破線グラフからの変化を示す矢印とが図示されている。
【0082】
第1実施例で説明したように、水素の供給不良により負電圧を発生している負電圧セル11のアノードでは、上記の反応式(1b)に示す触媒の酸化反応が進行している。触媒の酸化反応は、触媒近傍の水分子によって生じるため、負電圧セル11の膜電極接合体に含まれる水分量が低下すると、その酸化反応の進行は抑制される。
【0083】
即ち、燃料電池10の内部における湿度に応じて、負電圧セル11のアノードにおいて触媒が不活性化する速度が変化し、それに応じて酸素消費速度も変化する。そこで、第2実施例の燃料電池システムでは、予め準備されたマップを用いて、ステップS110で取得した電流積算値と、ステップS112において取得した燃料電池10の内部における湿度とに基づき、適切な酸素消費速度を取得する(ステップS120)。
【0084】
図10(B)は、第2実施例の燃料電池システムにおいて、制御部20が記憶している酸素消費速度マップMGVHの一例を表すグラフである。図10(B)には、酸素消費速度マップMGVHが、縦軸を酸素消費速度とし、横軸を湿度とするグラフによって表してある。この第2実施例では、制御部20は、電流積算値ごとの酸素消費速度マップMGVHを有している。制御部20は、ステップS110で取得された電流積算値に対応する酸素消費速度マップMGVHを選択し、ステップS120において、その酸素消費速度マップMGVHを用いて、燃料電池10の内部における湿度hFCに対する酸素消費速度Voを取得する。
【0085】
ステップS130では、この酸素消費速度Voと、第1実施例で説明した閾値電流密度マップMTC(図8(B))とを用いて閾値電流密度imaxを決定する。そして、ステップS140では、その閾値電流密度imaxに基づいて燃料電池10の電流密度を低下させて、燃料電池10に発電させる。
【0086】
このように、第2実施例の燃料電池システムによれば、燃料電池10の内部の湿度に基づいて、より適切な酸素消費速度を取得することができる。従って、より適切に、負電圧を回復するための電流密度低下処理を実行することができる。
【0087】
図11は、第2実施例のその他の構成例を説明するための説明図である。なお、この構成例では、燃料電池システムの構成は、上記した第2実施例の構成と同じであり(図1,図2)、負電圧回復処理およびその負電圧回復処理において実行される電流密度低下処理を同様に実行する(図4,図9)。ただし、この構成例の燃料電池システムでは、燃料電池10の内部の湿度を予め設定された湿度で一定に維持するように運転するものとする。
【0088】
図11(A)は、燃料電池10の運転温度の変化による電流積算値と酸素消費速度との対応関係の変化を示すグラフである。図11(A)に示されたグラフは、運転温度を低下させた状態の燃料電池10において得られる、図8(A)のグラフと同様なグラフである。なお、図10(A)のグラフには、便宜上、図8(A)のグラフを示す破線グラフと、その破線グラフからの変化を示す矢印とが図示されている。
【0089】
水素の供給不良により負電圧を発生している負電圧セル11のアノードにおいて進行する触媒の酸化反応(反応式(1b))は、燃料電池10の運転温度が低下すると、その進行が緩やかになる(アレニウス則)。即ち、燃料電池10の運転温度に応じて、負電圧セル11のアノードにおける触媒の活性度が変化するため、酸素消費速度も変化する。
【0090】
そこで、この構成例では、図9のステップS112において、燃料電池10の運転状態として、燃料電池10の内部における湿度に換えて、その運転温度を検出する。具体的には、制御部20は、冷媒供給部70の2つの冷媒温度計測部74,75における計測値に基づいて、燃料電池10の運転温度を計測する。そして、制御部20は、予め準備されたマップを用いて、ステップS110において取得した電流積算値と、ステップS112において取得した運転温度とに基づき、適切な酸素消費速度を取得する(ステップS120)。
【0091】
図11(B)は、第2実施例の他の構成例としての燃料電池システムにおいて、制御部20が記憶している酸素消費速度マップMGVTの一例を表すグラフである。図11(B)(B)には、酸素消費速度マップMGVTが、縦軸を酸素消費速度とし、横軸を運転温度とするグラフによって表されている。なお、制御部20は、電流積算値ごとの酸素消費速度マップMGVTを有している。
【0092】
制御部20は、ステップS120において、ステップS110で取得された電流積算値に対応する酸素消費速度マップMGVHを選択し、その酸素消費速度マップMGVTを用いて、燃料電池10の運転温度TFCに対する酸素消費速度Voを取得する。そして、ステップS130では、制御部20は、閾値電流密度マップMTC(図8(B))を用いて、その酸素消費速度Voに対する閾値電流密度を取得する。このように、燃料電池10の運転温度に基づいて酸素消費速度を取得する場合であっても、燃料電池10の内部の湿度に基づいて酸素消費速度を取得した場合と同様に、より適切な酸素消費速度を取得することができる。
【0093】
なお、燃料電池システムが、燃料電池10の運転に際して、燃料電池10の内部の湿潤状態を変更するとともに、その運転温度も変更する制御を行う場合には、制御部20は、燃料電池10の内部湿度の検出値と、運転温度の検出値とに基づいて、酸素消費速度を取得するものとしても良い。この場合には、制御部20は、燃料電池10の内部湿度の検出値と運転温度の検出値との組み合わせごとの、電流積算値と酸素消費速度との対応関係を表す酸素消費速度マップMGVを予め記憶しておき、それらを用いて酸素消費速度を取得するものとしても良い。
【0094】
C.第3実施例:
図12は、本発明の第3実施例としての燃料電池システム100Bの電気的構成を示す概略図である。図12は、制御部20が再接続処理実行部22を有している点と、直流電源ラインDCLに開閉スイッチ84が設けられている点以外は、図2とほぼ同じである。なお、第3実施例の燃料電池システム100Bの他の構成は、第1実施例の燃料電池システム100とほぼ同じである。また、第3実施例の燃料電池システム100Bは、第1実施例の燃料電池システム100と同様な負電圧の回復処理を実行する(図4,図9)。
【0095】
第3実施例の燃料電池システム100Bでは、負電圧の回復処理において負電圧が回復せず、燃料電池10の劣化が生じる可能性がある場合には、再接続処理実行部22が、後述する再接続処理を実行し、負電圧の回復を図る。開閉スイッチ84は、再接続処理実行部22の指示によって開閉し、燃料電池10と外部負荷200との間の電気的な接続のON/OFFを切り替える。
【0096】
図13は、第3実施例の燃料電池システム100Bにおいて、再接続処理実行部22が実行する再接続処理の処理手順を示すフローチャートである。この再接続処理は、電流密度低下処理(図9)のステップS120において、閾値電流密度imaxが予め設定された所定の閾値以下となったときに、負電圧セル11のアノードの劣化を回避するために実行される。なお、再接続処理は、負電圧回復処理(図4)のステップS80において、所定の回数の電流密度低下処理が繰り返されても負電圧が回復しなかった場合に実行されるものとしても良い。
【0097】
ステップS210では、再接続処理実行部22は、開閉スイッチ84を開き、燃料電池10と外部負荷200との間の電気的接続を切断する。なお、この処理工程以降では、外部負荷200に対しては、二次電池81から電力が供給される。ステップS220では、再接続処理実行部22は、電流積算値計測部21から、負電圧回復処理(図4)のステップS20において計測が開始されたときから、再接続処理(図13)のステップS210において、燃料電池10と外部負荷200とが電気的に切断されるまでの期間の電流積算値を取得する。そして、ステップS230において、その電流積算値に基づいて、燃料電池10と外部負荷200とを再び再接続させるまでのインターバル時間を決定する。
【0098】
図14は、本発明の発明者による実験において観測された負電圧セル11のセル電圧の時間変化を、縦軸をセル電圧とし、横軸を時間として示すグラフである。この実験では、燃料電池10の任意の発電体11のアノード側のガス流路を閉塞させて負電圧を発生させ、その状態で燃料電池10の発電を継続させた。そして、その負電圧状態のまま、水素の供給量を増大させた上で、燃料電池10と外部負荷200との間の電気的接続の切断と再接続とを2回実行した。
【0099】
時刻t1に1回目の切断を行ったときには、負電圧セル11のセル電圧は、負電圧の発生前のレベルまで回復した。そして、時間間隔ΔT1をおいて、時刻t2に燃料電池10と外部負荷200とを電気的に再接続したときには、負電圧セル11のセル電圧は、直ちに元の負電圧のレベルにまで急降下した。
【0100】
その後、時刻t3に2回目の切断を行った。この切断によっても、負電圧セル11のセル電圧は、負電圧発生前のレベルまで回復した。そして、前回の時間間隔ΔT1より長い時間間隔ΔT2をおいて、時刻t4において、燃料電池10と外部負荷200とを再接続した。再接続後のセル電圧は、再接続の際にわずかに低下したが、すぐに負電圧発生前のレベルまで回復した。
【0101】
このように、水素の供給不良による負電圧が発生している場合には、燃料電池10と外部負荷200との電気的接続を一旦切断することにより、負電圧セル11の電圧を負電圧発生前の電圧まで回復させることができる。また、燃料電池10と外部負荷200との間の電気的接続が切断されている時間を、ある程度おいて再び接続することにより、再接続後に負電圧状態に戻ってしまうことを抑制できる。
【0102】
ここで、燃料電池10と外部負荷200との電気的接続の切断から再接続までのインターバル時間は、負電圧の発生期間における電流積算値に応じて設定することが好ましいことを本発明の発明者は見出した。前記したとおり、水素の供給不良によって負電圧が発生している期間には、負電圧セル11のアノードには、その期間に燃料電池10が出力した電気量に応じた量の酸素が生成されている(上記反応式(1a))。負電圧の発生期間における電流積算値に応じたインターバル時間を設けることにより、そのインターバル時間において、アノードに存在する酸素を、水素との再結合反応(反応式(3))によって、より確実に消費させることができる。
【0103】
図15は、ステップS230のインターバル時間の決定処理において用いられるインターバル時間決定マップMITの一例を表すグラフである。このインターバル時間決定マップMITは、縦軸をインターバル時間とし、横軸を電流積算値としたときに、下に凸の上昇曲線のグラフとして表される。インターバル時間決定マップMITに設定されているインターバル時間と電流積算値との間の対応関係は、負電圧発生期間に負電圧セル11のアノードにおいて生成される酸素量に基づいて設定されたものである。再接続処理実行部22は、インターバル時間決定マップMITを用いて、ステップS220で取得した電流積算値Qeに対するインターバル時間Tiを取得する。
【0104】
ステップS240では、制御部20は、ステップS230で取得されたインターバル時間Tiが経過するまで待機する。なお、この再接続処理が実行される前の負電圧回復処理
(図4)のステップs50において、燃料電池10に対する水素の供給量が増大されているため、負電圧セル11のアノードで生成された酸素は、このインターバル時間Tiの間に、水素と再結合して消費される。
【0105】
ステップS250では、燃料電池10と外部負荷200とを電気的に再接続し、燃料電池10による出力を再開する。ステップS260では、負電圧が回復しているか否かの判定を実行し、回復している場合には、燃料電池10の通常の運転制御(図4:ステップS5)に戻る。そして、負電圧が回復していない場合には、再び、ステップS220において電流積算値を取得し、ステップS230でインターバル時間を取得する。なお、2回目以降のインターバル時間の決定処理(ステップS230)では、インターバル時間決定マップMITを用いて取得されたインターバル時間から、前回の処理で取得されたインターバル時間を引いた時間をインターバル時間とすることが好ましい。
【0106】
このように、第3実施例の燃料電池システム100Bによれば、水素の供給不良による負電圧によって負電圧セル11のアノードに生成された酸素を、燃料電池10と外部負荷200との間の電気的接続が切断されたインターバル時間の間に消費することができる。従って、燃料電池10の負電圧をより確実に回復することができ、燃料電池10の劣化や発電性能の低下を抑制することができる。
【0107】
D.第4実施例:
図16は、本発明の第4実施例としての燃料電池システムにおいて実行される負電圧回復処理の処理手順を示すフローチャートである。図16は、ステップS50が省略されている点と、ステップS52,S65,S66,S72,S82が追加されている点以外は、図4とほぼ同じである。なお、第4実施例の燃料電池システムの構成は、第3実施例の燃料電池システム100Bと同様である(図1,図12)。
【0108】
ここで、図6で説明したように、水素の供給不良で負電圧が発生している場合には、負電圧セル11に水素を供給することによって負電圧を回復できる場合(図6(D))と、回復できない場合(図6(C))とがある。第4実施例の負電圧回復処理では、ステップS52〜S65の処理によって、負電圧セル11のアノードの状態が、水素の供給によって負電圧を回復できる状態であるか否かを判定する。
【0109】
図17は、発電体11における電極電位と電流密度との関係を、縦軸を電流密度の絶対値とし、横軸を電極電位として示すグラフである。図17には、アノードにおいて水の分解反応(上記反応式(1a))が生じている負電圧セル11の電極電位と電流密度との関係が、実線グラフEP1によって図示されている。実線グラフEP1は略U字形状をしており、紙面左側がカソードの電極電位であり、紙面右側がアノードの電極電位である。
【0110】
また、図17には、アノードにおいて発電反応としての水素の酸化反応(下記反応式(4))が生じている場合の負電圧セル11のアノードの関係を、一点鎖線のグラフEP2によって図示してある。
2 → 2H+ + 2e- …(4)
一点鎖線のグラフEP2は、実線グラフEP1より紙面左側においてほぼ垂直に近い右上がりのグラフとして表されている。なお、このグラフEP2が表すアノードに対応するカソードの電極電位と電流密度との関係は、実線グラフEP1におけるカソードの電極電位と電流密度との関係を表すグラフと共通である。
【0111】
ここで、この実線グラフEP1において、燃料電池10の電流密度がi1のときの負電圧セル11の電圧値Ei1は、電流密度i1に対するアノードとカソードのそれぞれの電極電位EA1,Ec1の差として求めることができる(Ei1=EA1−Ec1)。また、同様に、燃料電池10の電流密度がi2(i1>i2)のときの負電圧セル11の電圧値Ei2が求められる(Ei2=EA2−Ec2)。
【0112】
図18は、水素の供給不良による負電圧を発生している負電圧セル11に対して水素を供給するとともに、燃料電池10の電流密度を低下させたときのセル電圧の変化を示すグラフである。図18では、縦軸をセル電圧とし、横軸を時間とし、水素の供給で負電圧が回復しなかったときのセル電圧の変化を実線グラフGaにより示してある。また、比較例として、水素の供給で負電圧が回復した場合のセル電圧の変化を破線グラフGbによって示してある。
【0113】
実線グラフGaでは、時刻t1において負電圧が発生しており、時刻t2において、水素のストイキ比を増大させるとともに電流密度をi1からi2に低下させたことにより、わずかに電圧が上昇している。この実線グラフGaが得られるときの電極電位と電流密度との関係は、図17の実線グラフEP1が得られるときと同様であり、時刻t2におけるセル電圧の増加量ΔEは、図17のグラフにおける2つの電圧値Ei1,Ei2の差(EA1−EA2+EC2−EC1)に相当する。なお、この電圧の増加量ΔEは、反応過電圧に相当する。
【0114】
ここで、負電圧セル11に対して水素を供給した場合であっても負電圧が回復されず、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が継続してしまうときは、負電圧セル11における電位電極と電流密度との関係は、図17の実線グラフEP1のようになる。そして、このときに、燃料電池10の電流密度を所定の第1の値から第2の値へと低下させた場合の負電圧セル11のセル電圧の変化量(反応過電圧)は、ほぼ一定の値を得ることができる。
【0115】
しかし、負電圧セル11のアノードにおいて発電反応としての水素の酸化反応が再開されつつあるときには、燃料電池10の電流密度を同様に低下させても、異なる電極電位や異なるセル電圧の変化が生じる(図17のグラフEP2,図18のグラフGb)。そのため、このときには、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が継続されるときと同様な反応過電圧は得られない。
【0116】
即ち、所定の電流密度の低下を実行したときの負電圧セル11のセル電圧の変化量によって、負電圧セル11のアノードにおいて、水分解反応が生じているのか、水素の酸化反応が生じているのかを判定することが可能である。より具体的には、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が継続されているときに所定の範囲で電流密度を低下させて、予め計測した反応過電圧(図17の2つの電圧値Ei1,Ei2の差に相当する値)を記録しておく。そして、燃料電池10において負電圧が検出されたときに、所定の電流密度の低下を実行し、そのときの負電圧セル11のセル電圧の変化量(図18のΔE)と比較することにより、負電圧セル11のアノードにおいて進行している反応を特定することができる。
【0117】
第4実施例の燃料電池システムでは、ステップS52(図16)において、燃料電池10の電流密度を、所定の第1の値から第2の値へと低下させて、負電圧セル11のセル電圧の変化量を計測する。そして、ステップS60では、ステップS52における電流密度の低下により、負電圧が回復したか否かを判定する。ステップS60において、負電圧が回復していれば、そのまま、燃料電池10の通常の運転制御を再開する。負電圧が回復していないのであれば、ステップS65において、ステップS52で得たセル電圧の変化量を用いてアノードにおいて進行している反応を特定するための判定を実行する。
【0118】
即ち、セル電圧の変化量が、予め得ていた所定の許容範囲に含まれる場合には、負電圧セル11のアノードは、水の分解反応が進行している「第1の状態」であると判定する。ここで、「所定の許容範囲」とは、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が継続されているときに、電流密度を所定の第1の値から第2の値へと低下させることにより得られる負電圧セル11の電圧変化量の近傍の数値範囲である。一方、セル電圧の変化量が、所定の許容範囲から外れる場合には、負電圧セル11のアノードは、水素の酸化反応が生じている「第2の状態」であると判定する。
【0119】
ステップS65において、負電圧セル11のアノードが第1の状態であると判定された場合には、水素の供給量増大のみでは負電圧が回復しない可能性がある。そのため、この場合には、ステップS66において、燃料電池10に対する水素供給量を増大させるとともに、ステップS70の電流密度低下処理(図7)を実行し、負電圧が回復するまで電流密度低下処理を繰り返す(ステップS80)。
【0120】
一方、ステップS65において、負電圧セル11のアノードが第2の状態であると判定された場合には、水素の供給量増大のみで負電圧を回復することが可能である。そのため、ステップS72において、燃料電池10に対する水素の供給量を増大させる。そして、負電圧が回復するまでステップS72を繰り返す(ステップS82)。なお、ステップS80,S82において、所定の回数だけ負電圧が回復しないと判定された場合には、第3実施例で説明した再接続処理(図13)を実行して負電圧を回復させる。
【0121】
このように、第4実施例の燃料電池システムによれば、負電圧セル11のアノードにおいて進行している反応を、電流密度を低下させたときの負電圧セル11のセル電圧の変化量から特定することができる。そのため、負電圧セル11におけるアノードでの状態に応じて、負電圧を回復するための処理を適切に実行することができる。
【0122】
なお、氷点下などの低温環境下では、燃料電池10を急速に暖気するために、水素循環用ポンプ64などを最大回転数で駆動させる場合がある。このような場合には、水素の供給量をさらに増加させることが困難であり、他の実施例のように、水素の供給量を増大させた後に負電圧が回復しない場合に水素の供給不良による負電圧であるとの判定を実行することが困難である。しかし、この第4実施例のように、電流密度を低下させたときの負電圧セル11の電圧の変化量を用いて、負電圧セル11のアノードにおける状態を特定する方法であれば、上記のような判定を省略して、適切な負電圧回復のための処理を実行することが可能である。
【0123】
E.参考例:
図19(A),(B)は、本発明の参考例として、本発明の発明者による実験結果を示すグラフである。図19(A),(B)は、氷点下の低温環境下において、燃料電池の単セルの1つに負電圧を発生させときの、負電圧セルの温度(セル温度)の時間変化と、燃料電池の電流密度の時間変化とを表したグラフである。図19(A)は、ほぼ一定の低電流密度で燃料電池の出力制限を行った場合であり、図19(B)は、電流密度を次第に上昇させた場合である。なお、図19(A),(B)の縦軸および横軸のスケールは互いに一致している。
【0124】
ここで、燃料電池の一部の単セルにおける負電圧は、低温環境下において、当該一部の単セルに設けられた反応ガスのためのガス流路に残留していた水分が凍結してしまい、当該ガス流路が閉塞されることにより発生する場合がある。このような場合には、燃料電池の温度を上昇させて、ガス流路の凍結水分を解凍し、反応ガスの供給不良を解消することにより負電圧を回復させることが好ましい。
【0125】
図19(A),(B)のグラフに示すように、一定の低電流密度で燃料電池に出力させた場合には、それよりも高い電流密度で燃料電池に出力させた場合よりも、セル温度の上昇が緩やかとなる。従って、負電圧が発生している場合には、燃料電池にできるだけ高い電流密度で出力させ、燃料電池の運転温度を短期間で上昇させることが好ましい。
【0126】
上記実施例で説明した負電圧発生時の電流密度低下処理では、負電圧セル11のアノードに存在する酸素の量の低減が可能となる閾値電流密度imaxを求め、その閾値電流密度imaxから次第に電流を低下させて負電圧の回復を図る。従って、負電圧の回復のために、燃料電池の電流密度を必要以上に低下させてしまうことを抑制できる。従って、負電圧の回復のために予め設定された一定の低電流密度で燃料電池を運転する場合に比較して、燃料電池の昇温が短期間で可能であるため、低温環境下において、負電圧をより確実に回復させることができる。
【0127】
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0128】
F1.変形例1:
上記実施例では、制御部20は、電流積算値と酸素消費速度との対応関係として、酸素消費速度マップMGVを記憶し、電流密度と酸素生成速度との対応関係として、閾値電流密度マップMTCを記憶していた。しかし、これらの対応関係は、マップとして記憶されていなくとも良く、例えば、演算式や関数として記憶されているものとしても良い。なお、上記実施例において説明されている各種のマップについても同様である。
【0129】
F2.変形例2:
上記実施例では、セル電圧計測部91が、燃料電池10の全ての発電体11の電圧を計測することにより、負電圧の発生を検出していた。しかし、セル電圧計測部91は、全ての発電体11の電圧を計測しなくとも良く、発電体11うちの少なくとも1つの電圧を計測することにより、負電圧の発生を検出できれば良い。例えば、発電体11の中でも、最も運転温度が低くなる傾向にある燃料電池10の端部に配置された発電体11において負電圧が発生する可能性が高いことが知られている。そこで、セル電圧計測部91は、その端部に配置された発電体11についてのみ電圧を計測し、負電圧を検出するものとしても良い。
【0130】
F3.変形例3:
上記第1実施例では、制御部20は、酸素消費速度マップMGVと、閾値電流密度マップMTCとを用いて、負電圧セル11のアノードに存在する酸素が低減されるように閾値電流密度imaxを決定していた。しかし、制御部20は、酸素消費速度マップMGVと、閾値電流密度マップMTCとを組み合わせた、電流積算値と電流密度との対応関係を表す1つのマップを用いて、負電圧発生期間の電流積算値に対して閾値電流密度を取得するものとしても良い。
【0131】
また、制御部20は、酸素消費速度マップMGVと、閾値電流密度マップMTCとに換えて、負電圧が発生している期間における電流積算値と、水素の供給量を増大させることにより負電圧の回復が可能となる電流密度との対応関係を予め記憶しておき、その対応関係を用いて、負電圧発生期間における電流積算値に対して求められる電流密度以下の電流密度で燃料電池10に電力を出力させる出力制限処理を実行するものとしても良い。
【0132】
F4.変形例4:
上記の第2実施例または第2実施例のその他の構成例では、制御部20は、電流積算値ごとの酸素消費速度マップMGVH,MGVTを記憶して用いていた。しかし、制御部20は、燃料電池10の内部の湿度ごと、または、燃料電池10の運転温度ごとの酸素消費速度マップMGVを予め記憶しており、その中から、燃料電池10の内部の湿度の検出値、または、燃料電池10の運転温度の検出値に対応するものを選択して用いるものとしても良い。
【0133】
F5.変形例5:
上記第3実施例では、再接続処理が、電流低下処理において、負電圧の回復が困難であった場合などに実行されていた。しかし、再接続処理は、負電圧が検出された場合に、他のタイミングで実行されるものとしても良い。例えば、再接続処理は、負電圧が検出後に直ちに実行されるものとしても良いし、負電圧検出後において、水素の供給量を増大させても負電圧が回復しなかった場合に実行されるものとしても良い。
【0134】
F6.変形例6:
上記第4実施例では、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が進行して酸素が生成されていると判定された場合に、第1実施例で説明した電流密度低下処理が実行されていた(図16)。しかし、負電圧セル11のアノードにおいて水の分解反応が進行して酸素が生成されていると判定された場合には、第1実施例の電流密度低下処理に限らず、他の手順によって、燃料電池10の電流密度を低下させる処理が実行されるものとしても良い。
【0135】
F7.変形例7:
上記実施例において、閾値電流密度マップMTCには、燃料電池10の電流密度と酸素生成速度との対応関係が設定されていた。しかし、閾値電流密度マップMTCには、電流密度の代わりに、燃料電池10の電流値と酸素生成速度との対応関係が設定されるものとしても良い。燃料電池10の電流値は、電流密度に電極の面積を乗じたものであるため、燃料電池10の電流値と酸素生成速度との対応関係も、燃料電池10の電流密度と電流積算値との対応関係の一種であると考えることができる。なお、上記実施例において、制御部20が実行する燃料電池10の電流密度の制御は、燃料電池10の電流値の制御として解釈することも可能である。
【0136】
F8.変形例8:
上記実施例において、燃料電池システム100,100Bでは、カソードガスの供給量増大を実行した後に負電圧が回復しなかった場合に、水素の供給不良によって負電圧が発生しているものとして、電流密度低下処理や、負電圧セル11のアノードにおける反応を特定するための判定処理を実行していた。しかし、カソードガスの供給量増大による負電圧の回復処理を実行することなく、負電圧の検出後に、電流制限処理や、アノードにおける反応を特定するための判定処理を開始するものとしても良い。
【0137】
F9.変形例9:
上記実施例において、燃料電池システム100,100Bは、負電圧を検出したときに、負電圧を回復するための回復処理が実行され、その回復処理において、電流密度低下処理が実行されていた。しかし、燃料電池システム100,100Bでは、負電圧を検出していない場合であっても、負電圧が発生する可能性があるものとして予め設定された環境条件が成立する場合に、負電圧が発生しているものとして、電流密度低下処理を実行するものとしても良い。例えば、外気温が氷点下以下となる環境下や、燃料電池10の温度が氷点下に近い温度である場合などに、電流密度低下処理を実行するものとしても良い。
【符号の説明】
【0138】
1…炭素原子
2…触媒
3…アイオノマー
10…燃料電池
11…発電体(単セル),負電圧セル
20…制御部
21…電流積算値計測部
22…再接続処理実行部
30…カソードガス供給部
31…カソードガス配管
32…エアコンプレッサ
33…エアフロメータ
34…開閉弁
35…加湿部
40…カソードガス排出部
41…カソード排ガス配管
43…調圧弁
44…圧力計測部
50…アノードガス供給部
51…アノードガス配管
52…水素タンク
53…開閉弁
54…レギュレータ
55…インジェクタ
56u,56d…第1と第2の圧力計測部
60…アノードガス循環排出部
61…アノード排ガス配管
62…気液分離部
63…アノードガス循環配管
64…水素循環用ポンプ
65…アノード排水配管
66…排水弁
70…冷媒供給部
71…冷媒用配管
72…ラジエータ
73…冷媒循環用ポンプ
74,75…冷媒温度計測部
81…二次電池
82…DC/DCコンバータ
83…DC/ACインバータ
84…開閉スイッチ
91…セル電圧計測部
92…電流計測部
93…インピーダンス計測部
94…充電状態検出部
100,100B…燃料電池システム
200…外部負荷
DCL…直流電源ライン
GV,MGVH,MGVT…酸素消費速度マップ
IT…インターバル時間決定マップ
TC…閾値電流密度マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記1つ以上の発電体の電圧を計測し、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
を備え、
前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、
前記制御部は、
前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、
前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係と、
を予め記憶しており、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、
前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部を備え、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧が検出されたときに、前記燃料電池の電流密度を予め設定された範囲で低下させ、前記電流密度の低下前と低下後における負電圧を発生している発電体の電圧の変化量を検出し、前記電圧の変化量が所定の許容範囲に含まれる場合には、前記出力制限処理を実行するとともに、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させるガス量増大処理を実行し、前記電圧の変化量が、前記所定の許容範囲に含まれない場合には、前記出力制限処理を実行せずに、前記ガス量増大処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を制御するための制御スイッチを備え、
前記制御部は、前記出力制限処理において、前記酸素生成速度に対する電流密度が予め設定された値より低い場合には、前記外部負荷と前記燃料電池との電気的接続を切断した後、再び前記燃料電池と前記外部負荷とを電気的に接続する再接続処理を実行し、
前記制御部は、前記再接続処理において、前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を切断させてから再び接続させるまでのインターバル時間を、前記酸素発生期間における電流積算値に応じて設定する、燃料電池システム。
【請求項4】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記1つ以上の発電体の電圧を計測し、前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
前記燃料電池の内部の湿潤状態を検出する湿潤度検出部と、前記燃料電池の運転温度を検出する運転温度計測部とのうちの少なくとも一方を含む運転状態検出部と、
を備え、
前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、
前記制御部は、前記酸素発生期間における電流積算値ごとに予め準備された関係であって、前記湿潤度検出部と前記運転温度計測部とのうちの少なくとも一方の検出値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、
前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係と、
を予め記憶しており、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記酸素発生期間の電流積算値に対応する前記第1の対応関係を用いて、前記湿潤度検出部と前記運転状態検出部とのうちの少なくとも一方の検出値に対する酸素消費速度を求めるとともに、
前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項5】
1つ以上の発電体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する工程と、
(b)負電圧を発生している発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間である酸素発生期間における電流積算値を計測する工程と、
(c)前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との予め設定された第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との予め設定された第2の対応関係を参照する工程と、
(d)前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する工程と、
を備える、制御方法。
【請求項6】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
を備え、
前記電流積算値計測部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されているものとして予め設定された環境条件が成立した状態における前記燃料電池の運転期間である酸素発生期間における電流積算値を計測し、
前記制御部は、
前記酸素発生期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との関係である第1の対応関係と、
前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との関係である第2の対応関係と、
を予め記憶しており、
前記制御部は、前記酸素発生期間における前記燃料電池の運転の際に、前記第1の対応関係を用いて、前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、
前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項7】
1つ以上の発電体を有する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されているものとして予め設定された環境条件が成立した状態における前記燃料電池の運転期間である酸素発生期間における電流積算値を計測する工程と、
(b)1つ以上の発電体が負電圧を発生して、前記1つ以上の発電体のアノードにおいて水の電気分解により酸素が生成されている期間における電流積算値と、負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が水素と再結合して消費される酸素消費速度との予め設定された第1の対応関係と、前記酸素発生期間における前記燃料電池の電流密度と、前記酸素発生期間において前記負電圧を発生している発電体のアノードにおいて酸素が生成される酸素生成速度との予め設定された第2の対応関係を参照する工程と、
(d)前記第1の対応関係を用いて、前記工程(a)で得られた前記酸素発生期間における電流積算値に対する酸素消費速度を求めるとともに、前記第2の対応関係を用いて、前記第1の対応関係から求められた酸素消費速度と同等の酸素生成速度に対する電流密度を求め、前記酸素生成速度に対する電流密度より低い電流密度で、前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する工程と、
を備える、制御方法。
【請求項8】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部と、
前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
を備え、
前記制御部は、1つ以上の発電体に負電圧は発生している場合に、負電圧を回復するために反応ガスの供給量を増大させる回復処理を実行し、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体が負電圧を発生している負電圧発生期間における電流積算値と、前記回復処理による負電圧の回復が可能となる電流密度との対応関係を予め記憶しており、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記対応関係を用いて、前記負電圧発生期間における電流積算値に対して求められる電流密度以下の電流密度で前記燃料電池に電力を出力させる出力制限処理を実行する、燃料電池システム。
【請求項9】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記1つ以上の発電体における負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
を備え、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧の発生が検出された場合には、前記外部負荷と前記燃料電池との電気的接続を切断した後、再び前記燃料電池と前記外部負荷とを電気的に接続する再接続処理を実行し、前記制御部は、前記再接続処理において、前記燃料電池と前記外部負荷との間の電気的接続を切断させてから再び接続させるまでのインターバル時間を、前記酸素発生期間における電流積算値に応じて設定する、燃料電池システム。
【請求項10】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
1つ以上の発電体を有する燃料電池と、
前記1つ以上の発電体における電圧を計測し、負電圧の発生を検出する負電圧検出部と、
前記燃料電池の出力を制御する制御部と、
前記燃料電池が出力した電流の時間積分により求められる電流積算値を計測する電流積算値計測部と、
前記燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給部と、
を備え、
前記制御部は、前記1つ以上の発電体において負電圧が検出されたときに、前記燃料電池の電流密度を予め設定された範囲で低下させ、前記電流密度の低下前と低下後における負電圧を発生している発電体の電圧の変化量を検出し、前記電圧の変化量が所定の許容範囲に含まれる場合には、前記燃料電池の電流密度をさらに低下させるとともに、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させ、前記電圧の変化量が前記所定の許容範囲に含まれない場合には、前記燃料電池の電流密度を低下させることなく、前記燃料電池に対する反応ガスの供給量を増大させる、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−249078(P2011−249078A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119447(P2010−119447)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】