説明

燃料電池システム及びその制御方法

【課題】燃料電池を冷却する冷却装置を備えた燃料電池システムにおいて、冷媒の温度が過剰に上昇してオーバーヒート状態に陥ることを抑制する。
【解決手段】燃料電池2と、冷媒を流通させる冷媒流路41を有し燃料電池2に冷媒を循環させることにより燃料電池2を冷却する冷却装置5と、を備える燃料電池システム1であって、冷却装置5内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、冷媒流路41へとガスを供給することにより、冷媒流路41内の圧力を通常圧力よりも高くするガス供給装置(ガス供給系6及び制御部7)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を冷却する冷却装置を備えた燃料電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の燃料電池システムには、燃料電池の温度を調整する目的で、燃料電池に冷却水等の冷媒を循環させる冷却水循環系(冷却装置)が設けられている。冷却水循環系においては、冷却水を燃料電池とラジエータとの間で循環させ、燃料電池で加熱された冷却水をラジエータで外気との熱交換により冷却している。
【0003】
ところで、燃料電池での発熱量が過剰の場合には、冷却水の温度が沸点以上に上昇し、いわゆるオーバーヒート状態に陥ることがある。このため、従来は、オーバーヒート状態の直前にモータ等の機器の出力を制限することにより、発電量を抑制していた。
【0004】
一方、各種の冷却水循環系が設けられたシステム(例えばエンジンシステム)においては、オーバーヒート状態を回避するための技術が種々提案されている。例えば、LLCの濃度に応じて冷却水の沸点が変化する原理を利用して、冷却水の成分濃度を測定することにより沸点温度を精度良く求め、この沸点温度を用いてオーバーヒート状態警報を発生させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−71252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたようにLLC等を混合して冷却水の沸点を予め上昇させた場合においても、冷却水の温度が過剰に上昇してその上昇後の沸点を超えた場合には、依然としてオーバーヒート状態に陥る可能性がある。また、従来のようにオーバーヒート状態の直前に出力制限を行うと、燃料電池システムの発電量が抑制されるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池を冷却する冷却装置を備えた燃料電池システムにおいて、冷媒の温度が過剰に上昇してオーバーヒート状態に陥ることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、冷媒を流通させる冷媒流路を有し燃料電池に冷媒を循環させることにより燃料電池を冷却する冷却装置と、を備える燃料電池システムであって、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、冷媒流路へとガスを供給することにより、冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くするガス供給装置を備えるものである。
【0008】
かかる構成を採用すると、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度(例えば、冷媒の沸点未満かつ沸点近傍の温度)を超える場合に、冷却装置の冷媒流路へとガスを供給して、冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くすることができる。従って、冷却装置内を循環する冷媒の温度が上昇して沸騰寸前になった場合においても、冷媒の沸点を上昇させて冷媒の沸騰を抑制することができる。このため、オーバーヒート状態に陥ることを抑制することが可能となる。ここで、冷媒流路内の「通常圧力」とは、燃料電池システムの通常運転時における冷媒流路内の圧力を意味し、燃料電池の規模や仕様等に応じて適宜設定することができる。
【0009】
前記燃料電池システムにおいて、冷媒流路内の通常圧力よりも高い圧力でガスを貯留する貯留部と、貯留部と冷媒流路との間を連通接続するガス流路と、ガス流路に設けられた開閉弁と、開閉弁の開閉動作を制御する制御部と、を有するガス供給装置を採用することができる。
【0010】
かかる構成を採用すると、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、ガス供給装置の貯留部と冷却装置の冷媒流路との間を連通接続するガス流路に設けた開閉弁を開放するように制御部が開閉弁を制御することにより、貯留部から冷媒流路へとガスを容易に自動的に供給することが可能となる。また、ガスを加圧状態で貯留部に貯留した際に、ガスの温度を例えば周囲の温度により低下させることができ、かつ、貯留部から冷却装置へのガス供給時にガスの圧力が低下するため、ガスの温度を一層低下させることができる。この結果、オーバーヒート状態に陥ることをより効果的に抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記燃料電池システムにおいて、燃料電池から排出されるガスをガス供給装置の貯留部に移送するガス移送流路を備えることが好ましい。
【0012】
かかる構成を採用すると、燃料電池から排出されるガス(例えば窒素を含む燃料オフガス)をガス供給装置の貯留部に貯留して、オーバーヒートの抑制に有効利用することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る制御方法は、燃料電池と、冷媒を流通させる冷媒流路を有し燃料電池に冷媒を循環させることにより燃料電池を冷却する冷却装置と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、冷媒流路へとガスを供給することにより、冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くする圧力制御工程を備えるものである。
【0014】
かかる構成を採用すると、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、冷却装置の冷媒流路へとガスを供給して、冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くすることができる。従って、冷却装置内を循環する冷媒の温度が上昇して沸騰寸前になった場合においても、冷媒の沸点を上昇させて冷媒の沸騰を抑制することができる。このため、オーバーヒート状態に陥ることを抑制することが可能となる。
【0015】
前記制御方法において、燃料電池から排出されるガスを一時的に貯留するガス貯留工程と、冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、ガス貯留工程で貯留したガスを冷媒流路へと供給するガス供給工程と、を有する圧力制御工程を採用することが好ましい。
【0016】
かかる構成を採用すると、燃料電池から排出されるガス(例えば窒素を含む燃料オフガス)をオーバーヒートの抑制に有効利用することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料電池を冷却する冷却装置を備えた燃料電池システムにおいて、冷媒の温度が過剰に上昇してオーバーヒート状態に陥ることを効果的に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1について説明する。本実施形態においては、本発明を燃料電池車両の車載発電システムに適用した例について説明することとする。
【0019】
まず、図1を用いて、本実施形態に係る燃料電池システム1の構成について説明する。燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池2と、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2に冷却水を供給して燃料電池2を冷却する冷却水循環系5と、冷却水循環系5にガスを供給するガス供給系6と、システム全体を統合制御する制御部7と、と、を備えている。
【0020】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単電池を積層したスタック構造を備えている。燃料電池2の単電池は、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極(カソード)を有し、他方の面に燃料極(アノード)を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。燃料極側のセパレータの燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、空気極側のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池2は電力を発生する。
【0021】
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる空気供給流路11と、燃料電池2から排出された酸化オフガスが流れる排気流路12と、を有している。空気供給流路11には、フィルタ13を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられている。排気流路12を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁16を通って加湿器15で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。コンプレッサ14は、図示されていないモータの駆動により大気中の酸化ガスを取り込む。
【0022】
燃料ガス配管系4は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる水素供給流路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を水素供給流路22の合流点A1に戻すための循環流路23と、循環流路23内の水素オフガスを水素供給流路22に圧送する水素ポンプ24と、循環流路23に分岐接続された排気排水流路25と、を有している。
【0023】
水素供給源21は、例えば高圧タンクや水素吸蔵合金などで構成され、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能に構成されている。遮断弁26を開くと、水素供給源21から水素供給流路22に水素ガスが流出する。水素ガスは、レギュレータ27や開閉弁28により最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池2に供給される。なお、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、から水素供給源21を構成してもよい。また、水素吸蔵合金を有するタンクを水素供給源21として採用することもできる。
【0024】
水素供給流路22は、水素供給源21からの水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁26と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ27と、下流側(燃料電池2側)に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する電磁式の開閉弁28と、を備えている。
【0025】
循環流路23は、燃料電池2から気液分離器29を介して水素ポンプ24に接続され、さらに、水素ポンプ24から水素供給流路22の合流点A1まで接続されている。水素ポンプ24は、図示されていないモータの駆動により、循環流路23内の水素ガスを燃料電池2に循環供給する。循環流路23の気液分離器29には、排気排水弁30が設けられ、排気排水弁30には排気排水流路25が接続されている。排気排水弁30は、制御部7からの指令によって作動することにより、気液分離器29で回収した水分と、循環流路23内の窒素を含む水素オフガスと、を排出(パージ)する。
【0026】
排気排水流路25には、循環流路23から排出された水素オフガスをシステム外の大気中に排気するための外部排出流路31と、水素オフガスをガス供給系6に供給するためのガス移送流路32と、が接続されている。外部排出流路31は、電磁式のガス排出用開閉弁33を備えており、排気排水流路25を介して排出される水素オフガスを、図示していない希釈器で酸化オフガス(空気)と合流させて希釈し、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排出する。ガス移送流路32は、電磁式のガス移送用開閉弁34及び逆止弁35を備え、ガス供給系6に接続されている。ガス排出用開閉弁33及びガス移送用開閉弁34は、制御部7からの指令によって作動するようになっている。
【0027】
冷却水循環系5は、本発明における冷却装置の一実施形態であり、燃料電池2内の冷却流路に連通する冷媒流路としての冷却水流路41と、冷却水流路41に設けられた冷却水ポンプ42と、燃料電池2から排出される冷却水を冷却するラジエータ43と、燃料電池2から排出される冷却水の温度を検出する温度センサ44と、冷却水流路41内の圧力を検出する圧力センサ45と、を有している。冷却水ポンプ42は、図示していないモータの駆動により、冷却水流路41内の冷却水を燃料電池2に供給して循環させる。温度センサ44や圧力センサ45で検出された冷却水の温度や圧力に係る情報は、制御部7に伝送され、後述するオーバーヒート抑制制御に用いられることとなる。なお、冷却水流路41には、寒冷時に冷却水を加温するための装備を設けてもよい。
【0028】
冷却水循環系5には、比較的高圧のガスを供給可能なガス供給系6が接続されている。ガス供給系6は、ガスが貯留される貯留部としてのガスタンク40と、ガスタンク40からラジエータ43にガスを供給するためのガス供給流路46と、を備えている。ガス供給流路46は、電磁式のガス供給用開閉弁47及び逆止弁48を備え、ガスタンク40とラジエータ43とを連通接続する。ガス供給用開閉弁47は、制御部7からの指令によって作動するようになっている。ガス供給系6及び制御部7により、本発明におけるガス供給装置の一実施形態が構成される。
【0029】
ガスタンク40には、ガス移送流路32が接続されており、気液分離器29から排出された水素オフガスが供給され、貯留される。また、ガスタンク40には、圧力センサ49が設けられている。圧力センサ49で検出された圧力に係る情報は、制御部7に伝送され、後述するオーバーヒート抑制制御に用いられることとなる。ガスタンク40内のガスは、冷却水循環系5の冷却水流路41及びラジエータ43の内部の圧力より高い圧力で貯留されると同時に、貯留中にガスタンク40周囲の温度まで降温される。
【0030】
制御部7は、車両に設けられた各種負荷装置の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータのほかに、燃料電池2を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ14、水素ポンプ24、冷却水ポンプ42の各モータや各種弁等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御部、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
【0031】
制御部7は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで所望の演算を実行することにより、種々の処理や制御を行う。
【0032】
次に、図2のフローチャートを用いて、本実施形態に係る燃料電池システム1のガスタンク40に水素オフガスを貯留する際の制御について説明する。
【0033】
燃料電池2の通常運転時における燃料ガス配管系4では、気液分離器29の排気排水弁30が閉じた状態で、水素オフガスが循環されている。制御部7には、例えば、各種センサからの圧力・温度・発電量等の情報、気液分離器29内の水量、循環流路23内の水分、窒素ガス濃度、水素濃度等の情報が入力されている。冷却水循環系5では、冷却水温度が所定温度以上の場合、制御部7の指令により冷却水ポンプ42及びラジエータ43が稼働するようになっており、燃料電池2で生じた熱がラジエータ43で放熱されている。このような通常運転時に、制御部7は、ガス移送用開閉弁34を開放して、水素オフガスをガスタンク40に充填する。
【0034】
制御部7は、例えば、気液分離器29内の水量、循環流路23内の水分、窒素ガス濃度、水素濃度等の情報を予め設定した閾値と比較することにより、パージ(循環流路23からの水素オフガスの排出)が必要であるか否か(パージ要求の有無)を判定する(パージ判定工程:S1)。そして、制御部7は、パージ判定工程S1においてパージ要求有と判定した場合に、発電量に基づく水素消費量や水素供給流路22に供給される水素ガスの流量・圧力等に基づいて、水素オフガスの目標パージ量を算出する(目標パージ量算出工程:S2)。その後、制御部7は、排気排水弁30を開放して、パージを行う(パージ工程:S3)。
【0035】
また、制御部7は、圧力センサ49からのガスタンク40内の圧力情報に基づいて、ガスタンク40内に貯留されているガスの圧力を判定し(貯留ガス圧判定工程:S4)、ガスの圧力が所定の閾値未満であると判定した場合には、ガス移送流路32のガス移送用開閉弁34を開くとともに、外部排出流路31のガス排出用開閉弁33を閉じる(ガス移送工程:S5)。パージ工程S3及びガス移送工程S5により、循環流路23の水素オフガスは排気排水流路25及びガス移送流路32を経由してガスタンク40に供給される。この際、気液分離器29内の水をトラップや異なる流路等の分離手段を用いてガスから分離することもできる。また、気液分離器29内の水を水素オフガスとともにガスタンク40に導入してもよい。パージ工程S3及びガス移送工程S5は、本発明におけるガス貯留工程の一実施形態に相当するものである。
【0036】
パージ工程S3を経て排気排水弁30を開放した後、制御部7は、排気排水弁30の開放時間や水素供給流路22内の水素ガスの圧力変化等に基づいて、パージ量が目標パージ量に到達したか否かを判定する(パージ終了判定工程:S6)。そして、制御部7は、パージ量が目標パージ量に到達したものと判定した場合に、排気排水弁30を閉じるとともに、ガス移送流路32のガス移送用開閉弁34を閉じて、パージ及びガスタンク40への水素オフガスの充填を終了する(パージ終了工程:S7)。
【0037】
一方、制御部7は、貯留ガス圧判定工程S4において、ガスの圧力が所定の閾値以上であると判定した場合には、外部排出流路31のガス排出用開閉弁33を開くとともに、ガス移送流路32のガス移送用開閉弁34を閉じる(ガス排出工程:S8)。パージ工程S3及びガス排出工程S8により、循環流路23の水素オフガスは排気排水流路25及び外部排出流路31を経由してシステムの外部に排出される。制御部7は、ガス排出工程S8を経た後、パージ量が目標パージ量に到達したか否かを判定し(パージ終了判定工程:S9)、パージ量が目標パージ量に到達したものと判定した場合に、排気排水弁30を閉じるとともに、外部排出流路31のガス排出用開閉弁33を閉じて、パージを終了する(パージ終了工程:S10)。
【0038】
次に、図3のフローチャートを用いて、本実施形態に係る燃料電池システム1のオーバーヒート状態を回避するための制御(オーバーヒート抑制制御)について説明する。
【0039】
制御部7は、燃料電池2の通常運転中、冷却水循環系5の冷却水の温度を所定範囲に維持するように水素ポンプ42等を制御している。燃料電池の稼働中、燃料電池2の発電量が大きい場合や、ラジエータ43における冷却能力が低下した場合など、燃料電池2の発熱量に対してラジエータ43の放熱量が過剰に不足すると、冷却水温度が上昇する。そこで、制御部7は、冷却水循環系5内の冷却水が沸騰するオーバーヒート状態を回避するための制御を行う。
【0040】
まず、制御部7は、燃料電池システムがオーバーヒート状態に陥る直前の状態(オーバーヒート予測状態)に到達したか否かを判定するための判定基準を設定する(判定基準設定工程:S11)。本実施形態においては、温度センサ44及び圧力センサ45により冷却水の温度や圧力に係る情報が検出されるため、圧力と沸点との相関関係に基づいて、各圧力に対応する冷却水の沸点を算出し、この算出した沸点未満であって沸点近傍の所定温度を前記判定基準としている。
【0041】
判定基準設定工程S11に次いで、制御部7は、温度センサ44を用いて冷却水の温度を検出し(冷却水温度検出工程:S12)、検出した温度が所定温度(判定基準)を超えたか否かを判定する(冷却水判定工程:S13)。そして、制御部7は、冷却水の温度が所定温度を超えたものと判定した場合に、ガス供給流路46のガス供給用電磁弁47を開放することにより、ガスタンク40からガス供給流路46を経由させて、水素オフガスをラジエータ43内(冷却水流路41内)に供給する(ガス供給工程:S14)。
【0042】
ガス供給工程S14により、冷却水循環系5の冷却水流路41内の圧力が増加して、冷却水の沸点が上昇するため、冷却水の温度が同じであっても、沸点との温度差が大きくなり、オーバーヒート状態が回避される。オーバーヒート状態を回避した後、冷却水の温度がさらに上昇しなければ、そのまま燃料電池システム1の運転を続行してもよく、また、冷却水の温度が更に上昇するような場合であっても、オーバーヒート状態に達するまでの期間が延長されているので、その間に燃料電池システム1の運転状態を適切に制御することが可能である。ラジエータ43に圧力調整弁が設けられている場合には、ガス供給時に圧力調整弁の作動圧を高く設定することもできる。また、オーバーヒート状態を回避して定常状態に復帰した後に、ラジエータ43に供給された水素オフガスを圧力調整弁から外部に放出すればよい。
【0043】
なお、前記したガス貯留工程(パージ工程S3及びガス移送工程S5)と、ガス供給工程S14と、によって、本発明における圧力制御工程の一実施形態が構成される。
【0044】
以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、冷却水循環系5内を循環する冷却水の温度が所定温度を超える場合に、冷却水流路41へと水素オフガスを供給して、冷却水流路41内の圧力を通常圧力よりも高くすることができる。従って、冷却水循環系5内を循環する冷却水の温度が上昇して沸騰寸前になった場合においても、冷却水の沸点を上昇させて冷却水の沸騰を抑制することができる。このため、オーバーヒート状態に陥ることを抑制することが可能となる。
【0045】
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、冷却水循環系5内を循環する冷却水の温度が所定温度を超える場合に、ガスタンク40と冷却水流路41との間を連通接続するガス供給流路46に設けたガス供給用開閉弁47を開放することにより、ガスタンク40から冷却水流路41へと水素オフガスを容易に自動的に供給することが可能となる。また、ガスを加圧状態でガスタンク40に貯留した際に、水素オフガスの温度を例えば周囲の温度により低下させることができ、かつ、ガスタンク40から冷却水循環系5へのガス供給時にガスの圧力が低下するため、ガスの温度を一層低下させることができる。この結果、オーバーヒート状態に陥ることをより効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、燃料電池2から排出される水素オフガスをガス供給系6のガスタンク40に移送するガス移送流路32を備えているので、水素オフガスをガスタンク40に貯留して、オーバーヒートの抑制に有効利用することが可能となる。
【0047】
なお、以上の実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池システムを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池システムを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図1に示した燃料電池システムのガスタンクに水素オフガスを貯留する際の制御を説明するためのフローチャートである。
【図3】図1に示した燃料電池システムのオーバーヒート状態を回避するための制御を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1…燃料電池システム、2…燃料電池、4…燃料ガス配管系、5…冷却水循環系(冷却装置)、6…ガス供給系(ガス供給装置)、7…制御部(ガス供給装置)、32…ガス移送流路、40…ガスタンク(貯留部)、41…冷却水流路(冷媒流路)、46…ガス供給流路、47…ガス供給用開閉弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、冷媒を流通させる冷媒流路を有し前記燃料電池に冷媒を循環させることにより前記燃料電池を冷却する冷却装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、前記冷媒流路へとガスを供給することにより、前記冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くするガス供給装置を備える、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記所定温度は、前記冷却装置内を循環する冷媒の沸点未満かつ沸点近傍の温度である、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記ガス供給装置は、前記冷媒流路内の通常圧力よりも高い圧力でガスを貯留する貯留部と、前記貯留部と前記冷媒流路との間を連通接続するガス流路と、前記ガス流路に設けられた開閉弁と、前記開閉弁の開閉動作を制御する制御部と、を有するものである、
請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池から排出されるガスを前記ガス供給装置の前記貯留部に移送するガス移送流路を備える、
請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
燃料電池と、冷媒を流通させる冷媒流路を有し前記燃料電池に冷媒を循環させることにより前記燃料電池を冷却する冷却装置と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、前記冷媒流路へとガスを供給することにより、前記冷媒流路内の圧力を通常圧力よりも高くする圧力制御工程を備える、
燃料電池システムの制御方法。
【請求項6】
前記圧力制御工程は、前記燃料電池から排出されるガスを一時的に貯留するガス貯留工程と、前記冷却装置内を循環する冷媒の温度が所定温度を超える場合に、前記ガス貯留工程で貯留したガスを前記冷媒流路へと供給するガス供給工程と、を有するものである、
請求項5に記載の燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−147133(P2008−147133A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336002(P2006−336002)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】