説明

燃料電池システム及びその制御方法

【課題】燃料電池の排ガス中の水蒸気を効率的に回収可能な水自立運転型の燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池システム1は、燃料電池10と、排ガス中の水蒸気から回収された凝縮水を蓄える水タンク14と、燃料電池10の発電時の温度を検知する温度センサ20と、水タンク14の水位を検知する水位センサ22と、排ガスに含まれる酸素等の濃度を検知する濃度センサ21と、制御手段であるコントローラ18とを備えて構成される。コントローラ18は、水位センサ22の検知水位が所定の水位よりも低い場合に、温度センサ20の検知温度と濃度センサ21の検知濃度に応じて、燃料電池10への空気供給量及び燃料供給量を増減制御する。この場合、検知温度が所定の温度よりも高いときは空気供給量を減少方向に制御する一方、検知温度が所定の温度よりも低いときは燃料供給量を増加方向に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素と水素を電気化学的に反応させて電気を発生する燃料電池を具備する燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池の運転時に排出される排ガスに含まれる水蒸気から回収された凝水を水タンクに蓄えた後、水タンクに蓄えられた水を燃料電池に再利用するように構成された水自立運転型の燃料電池システムが知られている。例えば、特許文献1に開示された燃料電池システムは、燃料電池の排ガス及び改質器の排ガスに含まれる水蒸気を凝縮器で冷却して水タンクに溜め、水タンクの水位に応じて燃料電池への空気供給量の制御を行っている。この場合、水タンクの水位が設定水位より低いときは空気供給量を減らして空気利用率を大きくし、水タンクの水位が設定水位より高いときは空気供給量を増やして空気利用率を小さくするように制御することで、水自立運転の安定向上とメンテナンスコストの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−234869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の水自立運転型の燃料電池システムにおいては、水不足が生じたときの水回収時間をできるだけ短縮することが望ましい。しかしながら、特許文献1の技術によれば、水タンクの水位が設定水位より低いときの空気供給量を減らし過ぎると、燃料電池の負荷変動や燃料の揺らぎによって瞬間的に一酸化炭素が発生する可能性がある。よって、一酸化炭素の発生を防止するため、空気供給量の減少量は余裕を持たせた範囲で制御する必要がある。そのため、燃料電池から凝縮器に送られる排ガスの流量が十分に減少せず、排ガスに含まれる水蒸気量が多いままであり、凝縮水として回収可能な水量が制約されることになる。これにより、燃料電池システムにおいて水不足時の水回収時間を十分に短縮できずに水自立運転の不安定化を招くとともに、環境によっては外部からの水道水などの補給水を水タンクに導入せざるを得ない状況となり、イオン交換樹脂の交換などに伴うメンテナンスコストの増大を招くことになる。
【0005】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、燃料電池の排ガス中の水蒸気を効率的に回収し、一酸化炭素を発生させることなく安全かつ短時間に水不足を解消可能な水自立運転型の燃料電池システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、酸素と水素を電気化学的に反応させて電気を発生する燃料電池と、前記燃料電池の排ガス中の水蒸気から回収された凝縮水を蓄える水タンクと、前記水タンクの水位を検知する水位センサと、前記燃料電池の発電時の温度を検知する温度センサとを備えた燃料電池システムに適用されるものである。そして、本発明の燃料電池システムは、前記排ガスに含まれる酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの濃度を検知する濃度センサと、前記水位センサの検知水位と、前記温度センサの検知温度と、前記濃度センサの検知濃度とに基づいて、少なくとも、前記燃料電池への空気供給量及び前記燃料電池への燃料供給量を増減制御する制御手段とを備えて構成し、前記制御手段は、前記水位センサの検知水位が所定の水位よりも低い場合、前記温度センサの検知温度が所定の温度よりも高いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第1の制御量により前記空気供給量を減少方向に制御し、前記温度センサの検知温度が前記所定の温度よりも低いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第2の制御量により前記燃料供給量を増加方向に制御することを特徴としている。
【0007】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料電池システムにおいて燃料電池からの排ガス中の水蒸気が凝縮水となって水タンクに回収される際、水タンクの水位が所定水位より低くなると制御手段により水回収制御が実行され、燃料電池の温度が高いときは空気供給量が減少方向に制御される一方、燃料電池の温度が低いときは燃料供給量が増加方向に制御される。この場合、空気供給量の減少制御と燃料供給量の増加制御はともに水タンクへの回収水を増加させるように作用するので、燃料電池の動作状態によらず効率的な水回収制御を行うことで、水回収時間の短縮を実現できる。また、燃料電池の反応生成物質(酸素、一酸化炭素、二酸化炭素)の濃度を反映して、空気供給量及び燃料供給量の増減制御の制御量が定められるので、不完全燃焼により一酸化炭素が発生する恐れがあるときは制御量の抑制などの対応が可能であり、安全な範囲で燃料電池を動作させることができる。
【0008】
前記制御手段に対しては多様な制御を付加することができる。例えば、前記温度センサの検知温度が所定の上限温度よりも高い場合は、前記燃料電池の出力電力を減少させるように制御してもよい。また例えば、前記水位センサの検知水位が所定の上限水位よりも高い場合は、前記空気供給量及び前記燃料供給量の増減制御を停止するように制御してもよい。このように、燃料電池システムの水回収制御を実行する際、燃料電池の動作状態のさらなる安定化が可能となる。
【0009】
前記濃度センサとしては、例えば、前記排ガスに含まれる酸素の濃度を検知する酸素濃度センサを用いることができる。この場合、前記制御手段により、前記空気供給量及び前記燃料供給量の増減制御を所定の間隔で定期的に実行し、毎回の前記増減制御を実行する前に前記酸素濃度センサを起動し、毎回の前記増減制御が完了した後に前記酸素濃度センサを停止するように制御してもよい。
【0010】
前記制御手段により、前記水位センサの検知水位が所定の下限水位より低い場合、外部からの補給水を前記水タンクに導入するように制御してもよい。かかる構成を本発明と組み合わせて適用すれば、水タンクへの補給水の導入頻度を少なくする効果がある。
【0011】
本発明の燃料電池システムは、湯水を蓄える貯湯タンクと、前記燃料電池の排ガスと、循環路を循環する前記湯水との間の熱交換を行う熱交換器とをさらに備えて構成し、前記熱交換器で得られた前記凝縮水が前記水タンクに蓄えられるようにしてもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために本発明は、酸素と水素を電気化学的に反応させて電気を発生する燃料電池と、前記燃料電池の排ガス中の水蒸気から回収された凝縮水を蓄える水タンクと、前記水タンクの水位を検知する水位センサと、前記燃料電池の発電時の温度を検知する温度センサと、前記排ガスに含まれる酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの濃度を検知する濃度センサと、前記燃料電池への空気供給量及び前記燃料電池への燃料供給量を増減制御する制御手段とを備えた燃料電池システムの制御方法に適用されるものである。そして、本発明の制御方法では、前記水位センサの検知水位が所定の水位よりも低い場合、前記空気供給量及び燃料供給量の増減制御の実行を開始し、前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が所定の温度よりも高いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第1の制御量により前記空気供給量を減少方向に制御し、前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が前記所定の温度よりも低いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第2の制御量により前記燃料供給量を増加方向に制御し、前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が所定の上限温度よりも高い場合、前記燃料電池の出力電力を減少させ、前記水位センサの検知水位が所定の上限水位よりも高い場合、前記増減制御を停止することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように本発明によれば、水自立運転型の燃料電池システムにおいて、燃料電池の排ガスに含まれる水蒸気から凝縮水を水タンクに回収する際、燃料電池の状態に応じて空気供給量及び燃料供給量の増減制御を選択的に行うようにしたので、排ガスからの水回収の効率を向上し、水回収時間を短縮することができる。また、燃料電池の反応生成物質の濃度に応じて空気供給量及び燃料供給量のそれぞれの制御量を適切に制御するので、一酸化炭素の発生を抑制して安全な範囲で水回収を行うことができる。さらに、水タンクの水不足が速やかに解消されるので、外部からの補給水の導入頻度を少なくして燃料電池システムにおけるメンテナンスコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の燃料電池システムの構成例を示す図である。
【図2】本実施形態の燃料電池システムにおける水回収制御の制御フローを示す図である。
【図3】図2のステップS18の詳細な処理を示す図である。
【図4】本実施形態の燃料電池システムにおける水回収時間の短縮の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0016】
図1は、本実施形態の燃料電池システム1の構成例を示している。図1においては、燃料電池システム1を構成する要部として、燃料電池10、熱交換器11、排ガス循環路12、湯水循環路13、水タンク14、イオン交換樹脂15、貯湯タンク16、ラジエータ17、コントローラ18を示すとともに、センサ群である温度センサ20、酸素濃度センサ21、水位センサ22と、ポンプ群である空気ポンプ30、燃料ポンプ31、水ポンプ32、循環ポンプ33とをそれぞれ示している。なお、実際の燃料電池システム1には、他にも多くの構成要素が含まれるが、図1では省略している。
【0017】
燃料電池10は、燃料ガス中の水素と空気中の酸素の電気化学反応を利用して、燃料極であるアノード(正極)と空気極であるカソード(負極)との間に電力を発生する。燃料電池10としては多様な方式を採用可能であるが、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC)や、固体高分子形燃料電池(PEFC)を用いることができる。あるいは、その他コジェネレーションシステムに導入可能な多様な燃料電池を用いることができる。
【0018】
燃料電池10の近傍には、空気を供給する空気ポンプ(空気ブロワ)30と、燃料ガスを供給する燃料ポンプ31と、水タンク14から送られる水を供給する水ポンプ32が設けられている。これらの空気ポンプ30、燃料ポンプ31、水ポンプ32のそれぞれの供給量は、コントローラ18によって制御される。燃料ポンプ31を介して供給される燃料ガスは、燃料電池10に付随する脱硫器(不図示)で脱硫された後、改質器(不図示)において水ポンプ32を介して供給される水蒸気により水蒸気改質され、水素リッチな改質ガスが燃料電池10の燃料極に供給される。そして、改質ガスの水素は、空気ポンプ30から空気極に供給される酸素と反応して発電するとともに、反応生成物として水を発生する。燃料電池10の発電動作により得られた直流電力は、インバータ(不図示)により交流電力に変換され、外部の負荷に供給される。また、燃料電池10は上述の発電動作に伴い発熱するが、その温度を測定するための温度センサ20が設けられている。この温度センサ20の検知温度はコントローラ18に送られる。
【0019】
燃料電池10からの排ガスは排ガス循環路12を通って熱交換器11に送られる。熱交換器11では、燃料電池10の排ガスの排熱と湯水循環路13を流れる湯水との間で熱交換が行われ、排ガス中に含まれる水蒸気が凝縮水として回収される。熱交換器11で回収された凝縮水は水タンク14に送られて貯えられる。一方、熱交換器11の排ガスの出口側には、排ガスに含まれる酸素の濃度を検知する酸素濃度センサ21が設けられている。この酸素濃度センサ21の検知濃度はコントローラ18に送られるとともに、後述するように酸素濃度センサ21の起動及び停止がコントローラ18によって制御される。
【0020】
例えば、酸素濃度センサ21としては、ジルコニアを用いた円筒の内外面に電極を取り付け、内外電極間に発生する酸素濃度に応じた起電力を計測可能なセンサを用いることができる。また、酸素濃度センサ21は、燃料電池10により発生する一酸化炭素の濃度を間接的に検知することが目的であるため、酸素濃度センサ21に代えて、一酸化炭素の濃度を検知する一酸化炭素センサや二酸化炭素の濃度を検知する二酸化炭素センサなどの濃度センサを用いてもよい。
【0021】
湯水循環路13の一端と他端はそれぞれ貯湯タンク16に連通している。燃料電池10の排熱により加熱された湯水は、湯水循環路13の一端を介して貯湯タンク16に貯えられる。貯湯タンク16に貯えられた湯水は、湯水循環路13の他端を介して循環ポンプ33に送られ、循環ポンプ33を介して再び熱交換器11に還流する。また、貯湯タンク16からの湯水の温度が上昇し過ぎたときに冷却するためのラジエータ17が湯水循環路13に併設されている。
【0022】
一方、熱交換器11で回収されて水タンク14に貯えられた水は、配管を通ってイオン交換樹脂15を通過した後、水ポンプ32に送られる。イオン交換樹脂15は、水タンク14から供給される水に含まれる不要なイオン成分を除去する役割がある。また、水タンク14に貯えられる水が不足しているときの補給水として、電磁弁(不図示)を介して外部から水道水を水タンク14に導入する構造になっている。よって、イオン交換樹脂15により、水道水に含まれるイオン成分を除去することができる。
【0023】
水タンク14には、その水位を検知する水位センサ22が設けられている。この水位センサ22の検知水位はコントローラ18に送られる。図1においては、水位センサ22の検知水位のうち、3通りの水位L1、L2、L3を示している。水位L1は水タンク14の下限水位であって、水位L1より水位が下がると水道水が導入される。水位L2は、燃料電池10の発電動作時に水回収制御の実行の可否を判断するための所定の水位である。水位L3は水タンク14の上限水位であって、設定水位L3より水位が上がると上述の増減制御が停止される。これらの設定水位L1、L2、L3について詳しくは後述する。
【0024】
なお、水位センサ22は、水タンク14の水位を直接検知するセンサに限らず、水タンク14の貯水量やその重量も水位と等価であることから、水量センサや重量センサに置き換えてもよい。
【0025】
コントローラ18は、燃料電池システム1全体の動作を制御する制御手段として機能し、上述のセンサ群からの検知信号に基づいて燃料電池10の上述の空気供給量及び燃料供給量の増減制御を行う。コントローラ18は、例えば、本実施形態の制御を実現するプログラムを実行可能なマイクロプロセッサや各種メモリから構成される。
【0026】
次に、本実施形態の燃料電池システム1における水タンク14への水回収制御について、図2及び図3を参照して説明する。本実施形態の燃料電池システム1では、燃料電池10の発電動作中に、コントローラ18が所定の間隔で図2及び図3の処理を繰り返し実行する。まず、図2の制御フローに示すように、水位センサ22の検知水位が下限水位である水位L1以上であるか否かが判定される(ステップS10)。その結果、検知水位が水位L1に達していないときは(ステップS10:NO)、水タンク14の水不足を解消するために、上述の水道水を水タンク14に導入する制御が行われる(ステップS11)。この場合は、図2の水回収制御を実行することなく、そのまま燃料電池10の発電動作が継続される(ステップS12)。
【0027】
一方、ステップS10の判定の結果、検知水位が水位L1以上であるときは(ステップS10:YES)、水回収制御の実行状態を示す水回収フラグの状態が判断される(ステップS13)。この水回収フラグは、コントローラ18の内部フラグであり、水回収制御を実行する場合はオンにセットされ、水回収制御を実行しない場合はオフにセットされる。ステップS13の判断の結果、水回収フラグがオフにセットされているときは(ステップS13:OFF)、この時点で水回収制御が非実行であるため、その実行に先立って、水位センサ22の検知水位が水位L2以上であるか否かが判定される(ステップS14)。そして、検知水位が水位L2に達していないときは(ステップS14:NO)、水回収制御により水タンク14の水位を上昇させるべく、水回収フラグがオンにセットされ(ステップS15)、その後に燃料電池10の発電動作が継続される(ステップS12)。一方、検知水位が水位L2以上であるときは(ステップS14:YES)、水回収制御は不要であるため燃料電池10の通常運転が行われる(ステップS16)。
【0028】
これに対し、ステップS13の判断の結果、水回収フラグがオンにセットされているときは(ステップS13:ON)、この時点で水回収制御が実行中であり、最初に酸素濃度センサ21を起動する(ステップS17)。すなわち、酸素濃度センサ21は他のセンサよりも消費電力が大きいため、水回収制御を実行する度に酸素濃度センサ21の起動と停止を行うことで、消費電力の低減を図るものである。続いて、燃料電池10への空気供給量及び燃料供給量のそれぞれの制御量の増減制御を開始する(ステップS18)。
【0029】
ここで、図3には、ステップS18の詳細な処理を示している。まず、温度センサ20の検知温度が所定の温度Ts以上であるか否かが判定される(ステップS30)。その結果、検知温度が所定の温度Tsに満たないときは(ステップS30:NO)、ステップS31に移行して燃料供給量に対する制御が行われ、検知温度が所定の温度Ts以上であるときは(ステップS30:YES)、ステップS35に移行して空気供給量に対する制御が行われる。ステップS30の分岐は、燃料電池10の温度が高いときは、燃料電池10に供給する空気を減少させて排ガスにより持ち去られる水蒸気を抑制するとともに、燃料電池10の温度が低いときは、燃料電池10に余裕があるため投入燃料を増やすことで、燃料電池10の反応で得られる水蒸気を増加させるために必要な処理である。
【0030】
燃料供給量に対する制御では、ステップS31〜S34の処理を通じて、燃料ポンプ31における燃料流量を定める燃料流量目標値F(本発明の第2の制御量)が決定される。まず、燃料流量目標値Fの増加量を規定する燃料流量加算値Fxが更新される(ステップS31)。すなわち、この時点で燃料流量加算値Fxは前回の処理で確定した値を有するが、ステップS31では燃料流量加算値Fxに対しさらに定数CFを加えて、Fx=Fx+CFに設定する。次いで、燃料流量目標値Fが更新される(ステップS32)。すなわち、燃料流量の標準値として予め設定される燃料流量標準値Fnと上述の燃料流量加算値Fxとを用いて、F=Fn+Fxに設定する。これにより、燃料流量目標値Fを増加方向に制御することができる。
【0031】
次いで、酸素濃度センサ21で検知された酸素濃度が0.5%以上であるか否かが判定される(ステップS33)。その結果、酸素濃度が0.5%以上であるときは(ステップS33:YES)、ステップS19(図2)に移行する。一方、酸素濃度が0.5%に満たないときは(ステップS33:NO)、燃料流量目標値Fから上述の定数CFを差し引いて、F=F−CFとされる(ステップS34)。すなわち、酸素濃度が十分高ければ燃料流量目標値Fを増加させても問題ないのに対し、酸素濃度の不足に起因して一酸化炭素が発生する恐れがあるため、燃料電池10の反応を抑制する必要がある。そのため、ステップS34にて燃料流量目標値Fの増加量を安全な範囲に制限するものである。ステップS34の実行後は、ステップS19(図2)に移行する。
【0032】
次に、空気供給量に対する制御では、ステップS35〜S38の処理を通じて、空気ポンプ30における空気流量を定める空気流量目標値A(本発明の第1の制御量)が決定される。まず、空気流量目標値Aの減少量を規定する空気流量減算値Axが更新される(ステップS35)。すなわち、この時点で空気流量減算値Axは前回の処理で確定した値を有するが、ステップS35では空気流量減算値Axに対しさらに定数CAを加えて、Ax=Ax+CAに設定する。次いで、空気流量目標値Aが更新される(ステップS36)。すなわち、空気流量の標準値として予め設定される空気流量標準値Anと上述の空気流量減算値Axとを用いて、A=An―Axに設定する。これにより、空気流量目標値Aを減少方向に制御することができる。
【0033】
次いで、ステップS33と同様、酸素濃度センサ21で検知された酸素濃度が0.5%以上であるか否かが判定される(ステップS37)。その結果、酸素濃度が0.5%以上であるときは(ステップS37:YES)、ステップS19(図2)に移行する。一方、酸素濃度が0.5%に満たないときは(ステップS37:NO)、空気流量目標値Aに上述の定数CAを加えて、A=A+CAに設定する(ステップS38)。すなわち、上述したように酸素濃度の不足に起因する一酸化炭素の発生の対策として燃料電池10の反応を抑制する必要があることから、ステップS38にて空気流量目標値Aの減少量を安全な範囲に制限するものである。
【0034】
次いで、温度センサ20の検知温度が予め設定された上限温度以上であるか否かが判定される(ステップS39)。その結果、検知温度が上限温度に満たないときは(ステップS39:NO)、ステップS19(図2)に移行する。一方、検知温度が上限温度以上であるときは(ステップS39:YES)、燃料電池10の出力電力Pを所定の制限量Psだけ減少させるべく、P=P−Psに設定する(ステップS40)。ステップS40の処理では、燃料電池10の出力電力Pを減らすことで、燃料電池10が上限温度を超えて温度上昇することの抑制を図っている。ステップS40の実行後は、ステップS19(図2)に移行する。
【0035】
なお、ステップS33、S37では、酸素濃度の閾値を0.5%とし、燃料供給量及び空気供給量を制限するか否かの判定の基準にしているが、酸素濃度の閾値は0.5%に限られず、より低い閾値に設定してもよい。酸素濃度センサ21の検知精度が高いときは、より低い閾値を設定することが望ましい。
【0036】
次に図2に戻って、水位センサ22の検知水位が上限水位である水位L3以上であるか否かが判定される(ステップS19)。その結果、検知水位が水位L3に達していないときは(ステップS19:NO)、そのまま燃料電池10の発電動作が継続される(ステップS12)。一方、検知水位が水位L3以上であるときは(ステップS19:YES)、セットされた状態にある上記水回収フラグをオフにセットする(ステップS20)。ステップS20では、この時点で水タンク14に十分な回収水が存在するため、それ以降の水回収制御の実行をいったん停止するものである。その後に水回収制御が再開されるのは、次回にステップS15の処理が実行されたときである。その後、ステップS17で起動した酸素濃度センサ21を停止する(ステップS21)。
【0037】
最後に、図2及び図3の水回収制御で用いるパラメータを初期化する。具体的には、燃料流量目標値F及び燃料流量加算値Fxをそれぞれ次のように設定する。
F=Fn、Fx=0
(Fnは燃料流量標準値)
【0038】
また、空気流量目標値A及び空気流量減算値Axをそれぞれ次のように設定する。
A=An、Ax=0
(Anは空気流量標準値)
【0039】
また、燃料電池10の出力電力Pを上限出力値Pmaxとすべく次のように設定する。
P=Pmax
【0040】
ステップS22の実行後は、燃料電池10の発電動作が継続される(ステップS12)。それ以降は所定の時間間隔が経過した後に、再びステップS10以降の処理が実行される。なお、この時間間隔は、燃料電池システム1の動作及び使用形態に応じて、数秒など適切な値に設定すればよい。
【0041】
以上述べたように、本実施形態の燃料電池システム1の水回収制御によれば、水タンク14の貯水量(水位)と燃料電池10の動作状態に応じて、燃料供給量及び空気供給量の増減制御を適切に切り替えているので、熱交換器11を経由した排ガスからの水回収を効率的かつ安全に行うことができる。すなわち、燃料電池10の温度が低いときは燃料供給量を増加させて燃料電池10における反応を活発にする一方、燃料電池10の温度が高いときは空気供給量を減少方向に制御して排ガスが持ち去る水蒸気を抑制するものである。よって、いずれの状況下であっても水タンク14への回収水は増えることになり、水回収時間を短縮する効果がある。また、空気供給量及び燃料供給量の増減制御時に、排ガスの酸素濃度を監視して制御量を適切に調整しているので、一酸化炭素の発生を有効に防止して安全性を高める効果もある。
【0042】
ここで、図4を参照して、本実施形態の燃料電池システム1における水回収時間の短縮の効果を説明する。図4では、燃料電池システム1の典型的な使用形態を想定したときの水タンク14の貯水量の24時間の変化を算出した結果を示しており、本実施形態の水回収制御(図2及び図3)を実行する場合の特性C1と、本実施形態の水回収制御を実行しない場合(通常運転)の特性C2とを比較している。なお、水タンク14の貯水量は、便宜上、空の状態(0%)からスタートし、最大貯水量の100%を超える範囲まで示している。図4から明らかなように、上記水回収制御を実行する場合の特性C1は、上記水回収制御を実行しない場合の特性C2に比べ、水回収速度がおおよそ1割ほど向上している。このように、本実施形態の水回収制御を採用することにより、上述の燃料供給量の増加制御と空気供給量の減少制御をバランスよく組み合わせることで水回収効率が向上し、水タンク14の水不足をより短時間で回復することができる。
【0043】
さらに、本実施形態の燃料電池システム1では、水回収時間の短縮に加え、水タンク14の水不足を速やかに解消できるため、水タンク14に水道水を導入する頻度を少なくすることができる。従って、イオン交換樹脂15の寿命を長くしてメンテナンスコストを削減する効果がある。
【0044】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、燃料電池システム1に含まれる燃料電池10とその他の構成部材についての構造や形状については、本発明の作用効果を得られる限り、適宜に変更することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…燃料電池システム
10…燃料電池
11…熱交換器
12…排ガス循環路
13…湯水循環路
14…水タンク
15…イオン交換樹脂
16…貯湯タンク
17…ラジエータ
18…コントローラ
20…温度センサ
21…酸素濃度センサ
22…水位センサ
30…空気ポンプ
31…燃料ポンプ
32…水ポンプ
33…循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と水素を電気化学的に反応させて電気を発生する燃料電池と、
前記燃料電池の排ガス中の水蒸気から回収された凝縮水を蓄える水タンクと、
前記水タンクの水位を検知する水位センサと、
前記燃料電池の発電時の温度を検知する温度センサと、
を備えた燃料電池システムにおいて、
前記排ガスに含まれる酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの濃度を検知する濃度センサと、
前記水位センサの検知水位と、前記温度センサの検知温度と、前記濃度センサの検知濃度とに基づいて、少なくとも、前記燃料電池への空気供給量及び前記燃料電池への燃料供給量を増減制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、前記水位センサの検知水位が所定の水位よりも低い場合、前記温度センサの検知温度が所定の温度よりも高いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第1の制御量により前記空気供給量を減少方向に制御し、前記温度センサの検知温度が前記所定の温度よりも低いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第2の制御量により前記燃料供給量を増加方向に制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、さらに、前記温度センサの検知温度が所定の上限温度よりも高い場合、前記燃料電池の出力電力を減少させるように制御することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、さらに、前記水位センサの検知水位が所定の上限水位よりも高い場合、前記空気供給量及び前記燃料供給量の増減制御を停止することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記濃度センサは、前記排ガスに含まれる酸素の濃度を検知する酸素濃度センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記空気供給量及び前記燃料供給量の増減制御を所定の間隔で定期的に実行し、毎回の前記増減制御を実行する前に前記酸素濃度センサを起動し、毎回の前記増減制御が完了した後に前記酸素濃度センサを停止することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記水位センサの検知水位が所定の下限水位より低い場合、外部からの補給水を前記水タンクに導入するように制御することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
湯水を蓄える貯湯タンクと、
前記燃料電池の排ガスと、循環路を循環する前記湯水との間の熱交換を行う熱交換器と、
をさらに備え、前記熱交換器で得られた前記凝縮水が前記水タンクに蓄えられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
酸素と水素を電気化学的に反応させて電気を発生する燃料電池と、
前記燃料電池の排ガス中の水蒸気から回収された凝縮水を蓄える水タンクと、
前記水タンクの水位を検知する水位センサと、
前記燃料電池の発電時の温度を検知する温度センサと、
前記排ガスに含まれる酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかの濃度を検知する濃度センサと、
前記燃料電池への空気供給量及び前記燃料電池への燃料供給量を増減制御する制御手段と、
を備えた燃料電池システムの制御方法において、
前記水位センサの検知水位が所定の水位よりも低い場合、前記空気供給量及び燃料供給量の増減制御の実行を開始し、
前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が所定の温度よりも高いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第1の制御量により前記空気供給量を減少方向に制御し、
前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が前記所定の温度よりも低いときは前記濃度センサの検知濃度に応じた第2の制御量により前記燃料供給量を増加方向に制御し、
前記増減制御の実行時に前記温度センサの検知温度が所定の上限温度よりも高い場合、前記燃料電池の出力電力を減少させ、
前記水位センサの検知水位が所定の上限水位よりも高い場合、前記増減制御を停止する、ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−4085(P2012−4085A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141067(P2010−141067)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】