説明

燃料電池システム及び燃料電池車両

【課題】確実にヒドロキシラジカルを消去し、耐久性に優れた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】固体高分子電解質型の燃料電池(燃料電池スタック1)と、この燃料電池へ気相の抗酸化剤を含む流体を供給する流体供給手段(燃料供給系SS1)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システム及び燃料電池車両に関し、特に固体高分子型燃料電池を含む燃料電池システム及び燃料電池車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のエネルギー資源問題、CO排出に伴う地球温暖化問題の解決する手段として、燃料電池技術が注目されている。燃料電池は、電池内で水素、メタノール、又はその他の炭化水素等の燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。このため、燃料電池は、火力発電、自動車等の内燃機関において燃料の燃焼によるNOやSO等の発生がなく、クリーンなエネルギー源として注目されている。
【0003】
燃料電池にはいくつかの種類がある。中でも固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとする。)が最も注目され開発が進められている。PEFCは、(1)低温作動性であるため起動・停止が容易、(2)理論電圧や理論変換効率が高い、(3)電解質に液相が存在しないためセル構造が縦型等の柔軟な設計が可能である、(4)イオン交換膜/電極界面では反応場である三相界面の確保により電流を多く取り出せることができ高出力密度が得られる、等の様々な利点を有している。
【0004】
しかし、PEFCは最も注目されているにも拘らず、未だ多くの課題が山積みされている。中でも高分子電解質膜の技術は最重要課題の一つである。現在、最も広く使われている電解質膜であり、米国デュポン社から市販されているナフィオン(登録商標)膜に代表されるパーフルオロスルホン酸系ポリマーは、燃料電池の空気極(正極)で発生する活性酸素に対して耐性をもつ膜として開発された経緯がある。しかし、長期に渡る耐久試験の結果によると、まだ十分な耐性があるとは言えない状況である。
【0005】
燃料電池の作動原理は、燃料極(負極)でのH酸化と、式(A1)に示す空気極での分子状酸素(O)の4電子還元による水の生成という2つの電気化学的過程から成り立っている。
【0006】
2+4H++4e-→2H2O ・・・式(A1)
しかしながら、実際には副反応が同時に起こっている。その代表的なものは、式(A2)に示す空気極におけるOの2電子還元による過酸化水素(H)の生成である。
【0007】
+2H+2e→H ・・・式(A2)
過酸化水素は酸化力は弱いが、安定していて寿命が長い。そして、過酸化水素は以下に示す反応式(A3)、(A4)に従って分解し、分解する際にヒドロキシラジカル(・OH)、ヒドロペルオキシラジカル(・OOH)等のラジカルが生成する。これらのラジカル、特にヒドロキシラジカルは強い酸化力を有しており、電解質膜として使用されているパーフルオロスルホン化ポリマーでさえも長期の使用により分解する可能性がある。
【0008】
→2・OH ・・・式(A3)
→・H+・OOH ・・・式(A4)
また、Fe2+、Ti3+、Cu+などの遷移金属の低原子価のイオンが存在する場合には、過酸化水素がこれらの金属イオンにより1電子還元されてヒドロキシラジカルを生じるハーバーワイス(Haber-Weiss)反応が起こる。ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中で最も反応性に富み、酸化力が非常に強いことが知られている。なお、金属イオンが鉄イオンの場合には、ハーバーワイス反応は式(A5)に示すフェントン(Fenton)反応として知られている。
【0009】
Fe2++H→Fe3++OH- +・OH ・・・式(A5)
このように、電解質膜中に金属イオンが混入すると、ハーバーワイス反応により電解質膜の中で過酸化水素がヒドロキシラジカルへと変化し、このヒドロキシラジカルにより電解質膜が劣化するおそれがある(非特許文献1参照。)。
【0010】
そこで、ヒドロキシラジカルによる電解質膜の酸化を阻止する方法として、例えば、フェノール性水酸基を有する化合物を電解質膜に配合し、過酸化物ラジカルをトラップして不活性化する方法が提案されている(特許文献1参照。)。また、電解質膜に、フェノール化合物、アミン化合物、イオウ化合物、燐化合物等を酸化防止剤として配合することにより、発生したラジカルを消去する方法が提案されている(特許文献2参照。)。更に、炭素−フッ素結合より小さい結合エネルギーを有する分子を電解質膜に隣接するように配置された触媒層に含有させ、この分子がヒドロキシラジカルに対して優先的に反応することにより電解質膜を保護する方法が提案されている(特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2000−223135号公報
【特許文献2】特開2004−134269号公報
【特許文献3】特開2003−109623号公報
【非特許文献1】新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託先 京都大学工学研究科,「平成13年度成果報告書、固体高分子形燃料電池の研究開発、固体高分子形燃料電池の劣化要因に関する研究、劣化要因に関する基礎研究(1)電極触媒/電解質界面の劣化要因」,平成14年3月,p.13、24、27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ヒドロキシラジカルが発生する可能性が最も高い空気極の三相界面付近には酸素及び電極触媒である白金が存在して化合物が酸化されやすい環境であるため、上記のように電解質膜に酸化を防止する化合物を含有させるだけの方法では、その化合物もヒドロキシラジカルの有無に関わらず酸化されて消失する可能性があり、電解質膜の酸化を防止する効率が悪い。また、化合物がヒドロキシラジカルとの反応により不安定なラジカルまたは過酸化物となって新たな酸化反応のイニシエータとなり、電解質膜劣化を引き起こす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る燃料電池システムは、固体高分子電解質型の燃料電池と、燃料電池へ気相の抗酸化剤を供給する流体供給手段とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る燃料電池システムが搭載されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、確実に活性酸素を不活性な水又は酸素に分解し、耐久性に優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0015】
本発明によれば、長時間連続運転に耐えうる燃料電池車両を実現することができる。
【0016】
る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施の形態に係る燃料電池システム及び燃料電池車両を添付図面に基づいて説明する。同じ部材又は要素は同じ参照符号で示し、説明を省略する。
【0018】
まず、図1〜図6を参照して、本発明の実施の形態に係る燃料電池システム(Fuel Cell System)FCの説明を行う。
【0019】
図1は燃料電池システムFCの模式的系統図、図2は燃料電池システムFCを構成する燃料電池スタック1の斜視図、図3は燃料電池スタック1の燃料供給系SS1の系統図、図4は燃料電池スタック1の要部展開図、図5は燃料電池スタック1を構成する単セル11の断面図、そして図6は単セル11の空気極11cの相態図である。
【0020】
燃料電池システムFC(図1〜図3)は、複数の単セル11(図1、3〜5)を、カーボン又は金属製の燃料電池セパレータ12(図1、3、4)で各々分離して、積層した構成の燃料電池スタック1(図1−3)と、この燃料電池スタック1の各単セル11へ、その電気化学的反応による発電に必要なユーティリティ、即ち燃料(本実施例では、加湿された水素ガスだが、メタン、メタノール、その他燃料となりうるハイドロカーボンの蒸気であっても良い)、酸化剤(本実施例では、加湿された酸化剤ガスとしての空気)、メディエータとしての抗酸化剤(以下、しばしば、単に「抗酸化剤」と呼ぶ)、及び冷媒(本実施例では、冷却水)を供給し適宜分配する流体(つまり、気体、ミスト、蒸気、及び/又は液体の)供給手段としてのユーティリティ供給系(Utilities Supply System)SS(図1〜図4)と、各単セル11に未反応のまま残されたユーティリティ(例えば、空気成分[特に、窒素及び酸素]、水素ガス、及び抗酸化剤)又は発電若しくは抗酸化のために利用された後のユーティリティ(例えば、冷却水及び抗酸化剤)を、各単セル11の反応生成物(例えば、水、炭酸ガス、窒素ガス)と共に、回収し燃料電池スタック1から適宜排出する流体排出手段としてのユーティリティ排出系(Utilities Discharge System)DS(図1〜図4)と、上記燃料電池スタック1、ユーティリティ供給系SS、及びユーティリティ排出系DSの諸動作を必要に応じ統御する燃料電池システム制御部40とを含む。
【0021】
燃料電池スタック1は、所定個数の単セル11とセパレータ12との積層体(本実施例では、直方体形状[図2の縞目部分])を、この積層体の前後の端面に密着する前後のフランジ付きエンドプレート2(図2、図3)で挟着押圧し、これら前後のエンドプレート2を、積層体の上下左右の稜線に沿った枠材(図2のL形フレーム)で連結して、ボルト3(図2)により適宜締付けた構造を有する。
【0022】
前側のエンドプレート2は、少なくとも燃料供給用通孔2a(図3)、燃料排出用通孔2b(図3)、酸化剤供給用通孔2c(図3)、酸化剤排出用通孔2d(図3)、冷媒供給用通孔2e(図3)、及び冷媒排出用通孔2f(図3)を有するマニホールド部材として形成される。
【0023】
前側エンドプレート2の前面には、燃料供給用通孔2a及び燃料排出用通孔2bにそれぞれ連通する上下の燃料流路接続管4(図2)と、酸化剤供給用通孔2c及び酸化剤排出用通孔2dにそれぞれ連通する上下の酸化剤流路接続管5(図2)と、冷媒供給用通孔2e及び冷媒排出用通孔2fにそれぞれ連通する上下の冷媒流路接続管6(図2)とが固定される。
【0024】
各セパレータ12は、燃料供給用通孔2aに連通する燃料分配路12a(通孔[図3]及び後面側分配溝[図4])、燃料排出用通孔2bに連通する燃料回収路12b(通孔[図3]及び後面側回収溝[図4])、酸化剤供給用通孔2cに連通する酸化剤分配路12c(通孔[図3]及び前面側分配溝[図3、4])、酸化剤排出用通孔2dに連通する酸化剤回収路12d(通孔[図3]及び前面側回収溝[図3、4])、冷媒供給用通孔2eに連通する冷媒分配路12e(通孔[図3]及び前後両面分配溝[図3、4])、及び冷媒排出用通孔2fに連通する冷媒回収路12f(通孔[図3]及び前後両面回収溝[図3])を有するマニホールド部材として形成される。
【0025】
セパレータ12の燃料分配路12a、酸化剤分配路12c、及び冷媒分配路12eは、それぞれ、その分配溝が列状、樹状若しくは網目状に分岐し、対応する燃料回収路12b、酸化剤回収路12d、及び冷媒回収路12fのそれぞれ列状、樹状若しくは網目状に分岐した回収溝につながる。
【0026】
燃料及び酸化剤の分配溝及び回収溝は、対応する単セル11の前面又は後面に臨み、その単セル11の燃料極11b(図5)又は酸化剤極(以下、空気極と呼ぶ)11c(図5、6)に、カーボンペーパもしくはカーボン織布からなるガス拡散層を介して、連通する。この拡散層を省き、直接連通させてもよい。
【0027】
以下、前側エンドプレート2の通孔2a〜2f及び接続管4〜6並びにセパレータ12の分配路12a、12c、12e及び回収路12b、12d、12fの任意な部分(つまり、全体又はその一部)をしばしば“流路”と総称する。
【0028】
なお、各燃料電池セパレータを、それぞれコルゲート形状若しくは凹凸形状にプレス成形及び/又は機械加工された前後のセパレータ部材の接合体として構成し、前側セパレータ部材の前面により酸化剤の流路を画成し、前側セパレータ部材の後面と後側セパレータ部材の前面とにより冷媒の流路を画成し、後側セパレータ部材の後面により抗酸化剤を含む燃料の流路を画成してもよい。
【0029】
各単セル11は、固体高分子電解質膜11a(図5)の前面側に燃料極11bを設け、後面側に空気極11cを設けたMEA(Membrane Electrode Assembly:膜・電極接合体)として構成される。
【0030】
燃料極11bと空気極11cとは、それらに接触するセパレータ12及び直並列回路(不図示)を介して、電気負荷13(図1、5)を含む外部回路に接続される。
【0031】
固体高分子電解質膜11aは、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(商品名:ナフィオン(登録商標)、米国デュポン社製)で構成するが、これに限らない。
【0032】
燃料極11b及び空気極11cは、それぞれ、白金からなる触媒粒子をカーボンに担持させた触媒層として構成される。燃料極11bは、燃料流路2a、12aを介して供給された燃料(加湿された水素ガス)との接触により電極として機能し、空気極11cは、酸化剤流路2c、12cを介して供給された酸化剤(加湿された空気)との接触により電極として機能する。
【0033】
図5及び図6に示すように、燃料極11bでは、白金の触媒作用により、水素(2H)が電子(4e)を放出して水素イオン(4H)に変わり、電子は外部回路へ導出され、水素イオンは固体高分子電解質膜11aの中を空気極11cへ移動する。空気極11cでは、そこへ移動してきた水素イオン(4H)が外部回路から導入された電子(4e)を捕獲し、更に白金の触媒作用により酸素(O)と結合して、水(2HO)を生成する。
【0034】
抗酸化剤は、燃料をキャリアガスとして(つまり、水素ガスと加湿水の蒸気との混合気からなるキャリアガスに混じった抗酸化剤の蒸気として)、燃料流路2a、12a、12b,2eから、図5に示すように燃料極11bへ供給され、後述する抗酸化作用を発揮する。
【0035】
抗酸化剤は、更に、図5及び図6に示すように、固体高分子電解質膜(11aの対応部)Pe(図6)を介して空気極11cへ移動する。この点、空気極11cでは、図6に示すように、空気Pa(図6)中の酸素Oが、電極カーボンPc(図6)の白金触媒粒子に接触して活性化され、固体高分子電解質膜PeのC−F結合を切断するおそれが潜在的にあるが、本実施例によれば、固体高分子電解質膜Pe中を移動してきた抗酸化剤が、それらの活性酸素を分解して不活性化するため、そのようなおそれが緩和される。抗酸化剤は、この反応に伴い、炭酸ガス及び/又は窒素ガスを生成する。
【0036】
各電極11b、11cで未反応のまま残された流体(水素ガス、空気成分、加湿水、抗酸化剤)は、燃料流路2a、12a、12b、2eで抗酸化作用を発揮した抗酸化剤及び空気極11cの反応生成物(水、炭酸ガス、窒素ガス)と共に、対応する燃料回収路12b、2b又は酸化剤流路12d、2dを介して回収され、燃料電池スタック1の外へ排出される。
【0037】
冷媒(冷却水)は、供給側の冷媒流路2e、12eを介して各単セル11の内部へ供給・分配され、排出側の冷媒流路12f、2fを介して回収・排出される。なお、冷媒の流路12e、12fは、他のユーティリティの流路から独立している。
【0038】
ユーティリティ供給系SSは、前側エンドプレート2の燃料供給用通孔2aを介し、各単セル11の燃料極11bへ、抗酸化剤を含む燃料(即ち、加湿された水素ガス)を供給する燃料供給系SS1(図1〜図5)と、冷媒供給用通孔2eを介し、各単セル11内へ冷媒(即ち、冷却水)を供給する冷媒供給系SS2(図2、図3)と、酸化剤供給用通孔2cを介し、各単セル11の空気極11cへ酸化剤(即ち、加湿された酸化剤ガスとしての空気)を供給する酸化剤供給系SS3(図1〜図5)とからなる。従って、前側エンドプレート2から各単セル11の燃料極11b及び空気極11cへ至る供給用流路も、ユーティリティ供給系SSの一部と見なす(図4及び図5参照)。
【0039】
燃料供給系SS1は、燃料(水素ガス)をキャリアガスとして、抗酸化剤が混合された加湿水をバブリングB(図3)することにより、抗酸化剤を含む加湿燃料を与える燃料用バブラ20(図1、図3)と、このバブラ20に、適宜な燃料源(例えば、水素タンク或いは水素吸蔵体)から、送給ポンプ(例えば、水素ガス送出ポンプ)並びに調圧弁及び流量弁を介して、燃料を供給する燃料供給ライン22(図1、図3)と、適宜な純水源(例えば、純水リザーバ)から、送給ポンプ並びに調圧弁及び流量弁を介して、バブラ20に加湿水(つまり、ユーティリティ加湿のための純水)を供給する加湿水供給ライン23(図3)と、適宜な抗酸化剤源、例えば、抗酸化剤貯槽15(図1)の取出ライン17(図1)から、送液ポンプ16(図1)並びに調圧弁及び流量弁を介して、バブラ20に抗酸化剤を供給する抗酸化剤供給ライン24(図1、図3)と、バブラ20から出た抗酸化剤を含む加湿燃料を燃料スタック1へ供給する加湿燃料供給ライン25(図1、図3)と、抗酸化剤を含む加湿燃料を燃料スタック1の前側エンドプレート2から各単セル11の燃料極11bへ供給する燃料供給流路12a(図4、図5参照)と、バブラ20の動作を制御するバブラ制御部30(図3)とを含む。
【0040】
バブラ20は、図3に示すように、抗酸化剤と加湿水との混合液を入れる気密にシールされた容器21と、この容器21に加湿水供給ライン23から加湿水を導入する加湿水インレットパイプと、容器21に抗酸化剤供給ライン24から抗酸化剤を導入する抗酸化剤インレットパイプと、容器21に燃料供給ライン22から燃料(水素ガス)を導入する燃料インレットパイプと、容器21から加湿燃料供給ライン25へ加湿燃料を導出する加湿燃料アウトレットパイプとを含む。
【0041】
バブラ20の容器21は、図3に示すように、周壁21aと、底壁21bと、燃料インレットパイプ及び加湿燃料アウトレットパイプが挿通された第1の上壁21cと、この第1の上壁21cより所定段差分の低く、加湿水インレットパイプ及び抗酸化剤インレットパイプが挿通された第2の上壁21dと、これら第1及び第2の上壁21c、21dの境界部を底壁21bの近傍まで垂下延設して多数の通孔21fを設けた隔壁21eとを備え、この隔壁21eにより、バブラ20内が、図中右側の液体混合部と、左側の燃料加湿部とに区画される。
【0042】
バブラ20の液体混合部は、モータ26(図3)で駆動されるアジテータ27(図3)を備え、モータ26を制御信号C5(図3)で制御することにより、液体混合部に供給された抗酸化剤と加湿水とを攪拌し、混合する。
【0043】
バブラ20の燃料加湿部は、図3に示すように、抗酸化剤と加湿水との混合液の圧力を検出して検出信号D1を与える液圧センサ21gと、混合液の温度を検出して検出信号D2を与える液温センサ21hと、混合液の液位を検出して検出信号D3を与える液位センサ21iと、混合液で加湿された燃料(水素ガス)の圧力を検出して検出信号D4を与えるガス圧センサ21jと、加湿燃料の温度を検出して検出信号D5を与えるガス温センサ21kとを備える。
【0044】
燃料インレットパイプ、加湿水インレットパイプ、及び抗酸化剤インレットパイプは、容器21の底壁21b近くまで挿通され、加湿燃料アウトレットパイプは、第1の上壁21cの下面まで挿通される。抗酸化剤と加湿水との混合液は、バブラ20の常用運転時、第2の上壁21dの下面近くに液位が設定される。ガス圧センサ21j及びガス温センサ21kは、この常用液位より上位に設置され、液温センサ21hは常用液位より下位に設置され、液圧センサ21gは底壁21b近くに設置される。
【0045】
燃料供給系SS1の燃料供給ライン22、加湿水供給ライン23、抗酸化剤供給ライン24、及び加湿燃料供給ライン25には、それぞれ、ライン圧力、温度及び/又は流量を検出して検出信号D6、D7、D8、及びD9(図3)を与える検出要素(不図示)と、制御信号C1、C2、C3及びC4(図3)で制御される制御弁(例えば、流調弁又は調圧弁及び電磁遮断弁)22a、23a、24a及び25a(図3)を設ける。
【0046】
バブラ制御部30は、燃料供給系SS1の検出信号D1〜D9をサンプリングし、それらのサンプル値を燃料電池システム制御部40の指令に従い処理して、制御信号C1〜C5を出力する。これにより、バブラ20の動作が制御され、加湿燃料アウトレットパイプ25から燃料電池スタック1へ供給される加湿燃料の気相成分(水素、加湿水、抗酸化剤)が所望の分圧に維持され、露点が高位、高精度に維持される。なお、抗酸化剤は、流体中での分圧が13.3〜13332.2[Pa]であることが好ましく、分圧が6.65〜6666.1[Pa]であることがより好ましい。流体中での分圧が低すぎると十分な抗酸化剤が供給されなくなるため、活性酸素を不活性化する効果が十分に発揮されない。一方、流体中での分圧が高すぎると、燃料電池の正反応に影響を与える場合があるため、上記範囲で用いることが望ましい。
【0047】
酸化剤供給系SS3は、酸化剤(空気)をキャリアガスとして、燃料供給系SS1の抗酸化剤供給ライン24の制御弁24aに対応する弁を適宜制御することにより必要に応じ抗酸化剤が混合された加湿水をバブリングすることにより、必要に応じ抗酸化剤を含む加湿燃料を与える燃料用バブラ20と同じ構成の酸化剤用バブラ18(図1)と、このバブラ18に、適宜な酸化剤源(例えば、大気)から、エアコンプレッサ又はポンプ並びに調圧弁及び流量弁を介して、酸化剤を供給する酸化剤供給ライン18a(図1)と、純水源から、送給ポンプ並びに調圧弁及び流量弁を介して、バブラ18に加湿水を供給する加湿水供給ライン(不図示)と、適宜な抗酸化剤源、例えば、抗酸化剤貯槽15から、送液ポンプ16並びに調圧弁及び流量弁を介して、バブラ18に必要に応じ抗酸化剤を供給する抗酸化剤供給ラインと、バブラ18から出た必要に応じ抗酸化剤を含む加湿酸化剤を、燃料スタック1へ供給する加湿酸化剤供給ライン18b(図1)と、必要に応じ抗酸化剤を含む加湿酸化剤を燃料スタック1の前側エンドプレート2から各単セル11の空気11cへ供給する酸化剤供給流路12c(図4、図5参照)と、バブラ18の動作をバブラ20と平行に制御するバブラ制御部30とを含む。酸化剤供給系SS3に抗酸化剤を供給しない場合には、その抗酸化剤供給ライン及びバブラ18の抗酸化剤インレットパイプを除去する。
【0048】
ユーティリティ排出系DSは、前側エンドプレート2の燃料排出用通孔2bに接続された燃料排出系DS1(図2〜図4)と、冷媒排出用通孔2fに接続された冷媒排出系DS2(図2、図3)と、酸化剤排出用通孔2dに接続された酸化剤排出系DS3(図1〜図5)とからなる。各単セル11の燃料極11b及び空気極11cから前側エンドプレート2へ至る回収用流路も、ユーティリティ排出系DSの一部と見なす(図4、図5参照)。
【0049】
上記構成の燃料電池スタック1の各単セル11において、燃料供給流路12a及び酸化剤流路12dに水素ガス及び空気が各々供給されると、水素ガス及び空気がそれぞれ燃料極11a及び空気極11b側に供給され、以下に示す式(B1)及び(B2)の反応が起こる。
【0050】
燃料極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(B1)
空気極側:(1/2)O2+2H+ +2e-→H2O ・・・式(B2)
図5に示すように、燃料極11b側に水素ガスが供給されると、式(B1)の反応が進行してH+(プロトン) とe-(電子)とが生成する。H+は、水和状態で固体高分子電解質膜11a内を移動して空気極11c側に流れ、空気極11c側では、H+とe-と供給された空気中の酸素ガスとにより式(B2)の反応が進行して水が生成する。この際に、燃料極11bで生成した電子が図5に示す外部回路13を介して空気極11cへ移動することにより起電力が得られる。
【0051】
このように、空気極11cでの反応は、分子状酸素(O)の4電子還元による水の生成である。この酸素の4電子還元の他に副反応が同時に起こり、酸素の1電子還元体であるスーパーオキシド(O)、スーパーオキシドの共役酸であるヒドロペルオキシラジカル(・OOH)、2電子還元体である過酸化水素(H)、3電子還元体であるヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素が発生する。各活性酸素の発生メカニズムは、それぞれ式(B3)〜(B7)に示す複数の素反応過程を経由する複合反応と推察される。
【0052】
+e→O ・・・式(B3)
+H→・OOH ・・・式(B4)
+2H+2e→H ・・・式(B5)
+H+e→HO+・OH ・・・式(B6)
→2・OH ・・・式(B7)
発生した活性酸素は、式(B8)〜(B10)の素反応過程を経由し、最終的には水に還元されると推察される。なお、Eは標準酸化還元電位(Normal Hydrogen Electrode;NHE)で表している。
【0053】
・OOH+H+e→H=1.50[V] ・・・式(B8)
+2H+2e→2HO E=1.77[V] ・・・式(B9)
・OH+H+e→HO E=2.85[V] ・・・式(B10)
ここで問題となるのは、酸化還元電位が2.85[V]と高く、酸化力の強いヒドロキシラジカルである。ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中で最も反応性が高く寿命が百万分の一秒と非常に短い。また、酸化力も強い。このため、速やかに還元しないとヒドロキシラジカルは他の分子と反応する。燃料電池で問題となっている酸化劣化のほとんどが、このヒドロキシラジカルが原因であると推察されている。このヒドロキシラジカルは、燃料電池が発電している間、上記式(B3)〜(B7)を経由して発生し続ける。一方、ヒドロペルオキシラジカル及び過酸化水素は、ヒドロキシラジカルと比較すると酸化力が弱いが、水に還元される過程でヒドロキシラジカルを経由する可能性がある。このように、ヒドロキシラジカルの発生は、固体高分子電解質型の燃料電池で発電している限り半永久的に続くものである。このため、ヒドロキシラジカルを不活性化する化合物を連続的に燃料電池に供給しなければ、発生し続けるヒドロキシラジカルにより固体高分子電解質膜が劣化するおそれがある。
【0054】
本実施の形態に係る燃料電池システムでは、燃料電池スタック1の外部に設けた流体供給手段としてのガス供給系SS1により燃料電池スタック1に気相の抗酸化剤が供給されるため、燃料電池スタック1で発電を続け、活性酸素が発生し続けている状態であっても、燃料として働く水素、または水素イオンとは別に燃料電池スタック1の外部から燃料電池反応に関与しない抗酸化剤が供給されることにより確実に活性酸素を不活性化して消去することができる。このため、固体高分子電解質膜の劣化を防ぐことができる。また、抗酸化剤が酸化されやすい環境であっても、外部から抗酸化剤を供給するため活性酸素を不活性化する効率が落ちない。このため、確実に活性酸素を不活性な水又は酸素に分解し、耐久性に優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0055】
活性酸素の発生は、固体高分子電解質型の燃料電池で発電している限り半永久的に続くため、抗酸化剤は、空気極又は燃料極から抗酸化剤の蒸気として連続的に供給することがより効果的である。望ましくは、燃料極11b側のバブラ20から蒸気として供給することが好ましい。
【0056】
抗酸化剤は、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素から構成される炭化水素系化合物であることが好ましい。炭素、酸素、窒素及び水素以外の他の元素は、電極中の白金を被毒して燃料電池の発電性能を阻害する可能性がある。また、卑金属元素の場合には、ヒドロキシラジカルの発生を促進させる可能性がある。さらに、抗酸化剤を空気極で酸化させて排出させる場合を考慮すると、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素のみから構成され、CO、HOやNに分解される炭化水素系化合物であることが好ましい。
【0057】
ヒドロキシラジカルの酸化還元電位は非常に高いため、上記4元素から構成される炭化水素系化合物の大部分は、熱力学的にヒドロキシラジカルに対して還元剤として働くと考えられる。また、各化合物は、速度論的に還元能力に差があると考えられる。そして、ヒドロキシラジカルの高い反応性を考慮すると、抗酸化剤の不活性化反応は速度論的に速い方が好ましい。また、抗酸化剤が酸化された酸化体、すなわち、活性酸素により酸化されて得られる化合物の安定性も重要である。抗酸化剤の酸化体が不安定であると、酸化された物質が新たな副反応の開始剤となり、電解質膜の劣化を促進する可能性があるためである。このため、比較的速度論的に速く、酸化体が化学的に安定な化合物として、イソプロパノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール等ヒドロキシル基を有する第二級アルコール系化合物、プロピルアミン、ジエチルアミン、アセトアミド、アニリン、N−ヒドロキシ系化合物等の含窒素系化合物があげられる。
【0058】
このような化合物を選択するにあたり重要なことは、化合物の安定性、耐久性、耐熱性である。特に、化合物の安定性及び耐久性は、活性酸素を不活性化し続けて燃料電池を長期にわたって使用する意味において最も重要である。また、抗酸化剤の酸化体の加水分解された加水分解物も化学的に安定であることがより好ましい。抗酸化剤の安定性は、抗酸化剤を燃料極に供給して空気極で排出される間安定であれば活性酸素を不活性化する効果を得ることが可能である。一方、上記したように活性酸素を不活性化して不用となった場合に生成水と同時に排出させることを考慮すると、抗酸化剤の加水分解物がラジカルを生成することがなく安定している方がシステムを長期間運転させる上で好ましい。また、燃料電池の定常状態の運転温度が80〜90[℃]、将来電解質膜の耐熱性が向上することを考慮すると、抗酸化剤は120[℃]位の温度まで安定である耐熱性を有する必要がある。
【0059】
活性酸素を不活性化する抗酸化剤は、少なくとも速やかにヒドロキシラジカルにより酸化される化合物、つまり、酸化電位が2.85[V]以下の化合物であることが必要であるが、望ましくは酸化されるだけではなく、酸化還元可逆性を示すものが好ましい。抗酸化剤の酸化還元電位は、0.68[V](NHE)以上でかつ1.77[V](NHE)以下であることが好ましい。0.68[V](NHE)は過酸化水素が還元剤として働く電位であり、この電位以上とすることにより抗酸化剤の酸化体が過酸化水素を酸化して、抗酸化剤の酸化体は元の形に戻り、また新たに過酸化水素を酸化するため効率的である。一方、1.77[V](NHE)は、過酸化水素が酸化剤として働く電位であり、これ以上の高い酸化電位となると、抗酸化剤の酸化体が新たな酸化剤として働き、電解質膜等を酸化する場合があるため好ましくない。
【0060】
抗酸化剤の酸化力を低減させるため、抗酸化剤の酸化還元電位が1.00[V]以下であることがより好ましい場合がある。電解質膜としてフッ素系膜を使用する場合には、フッ素系電解質膜が酸化を受ける電位は2.5[V]以上であるため抗酸化剤の酸化還元電位が1.00[V]の場合には電解質膜は酸化されず問題はない。一方、電解質膜として炭化水素系電解質膜を使用する場合には、抗酸化剤の酸化還元電位が1.00[V]より高くなると、炭化水素系電解質膜が酸化される可能性がある。代表的な有機化合物で代用して考えてみると、ベンゼンは2.00[V]、トルエンは1.93[V]、キシレンは1.58[V]で酸化され、フッ素系電解質膜に比較すると低い酸化還元電位で酸化される。このため、抗酸化剤の酸化還元電位を1.00[V]以下とすることにより、炭化水素系膜を使用した場合にも電解質膜が酸化されることがなく長期に渡って使用が可能となる。なお、実際の酸化還元電位(Real Hydrogen Electrode;RHE)はpH、温度などの諸条件によって変化するので、それに合わせた範囲のものを用いることが好ましい。
【0061】
酸化還元可逆性を有することは、次の理由により重要である。燃料電池で発電しながら酸化防止を行う場合、電解酸化も考慮しなければならない。活性酸素を水へ還元する化合物を抗酸化剤として電極側から電解質へ供給すると、抗酸化剤は電極で電解酸化され、電解質内に酸化された状態で入る可能性がある。特に、固体高分子型燃料電池の理論電圧である1.23[V](NHE)以下の化合物は、電解質に入る前に電解酸化される可能性が高い。可逆的な酸化還元能を示さない化合物の場合には、この化合物が電解酸化された時点で抗酸化剤としての機能を失うことになる。化合物が可逆的な酸化還元能を示す場合には、過酸化水素等を還元剤として再生されて還元体となり、再び抗酸化剤としての機能を有する。こうした観点からも、抗酸化剤として供給する化合物が可逆的な酸化還元能を有する場合には、抗酸化剤の供給量を低減可能となる。また、可逆的な酸化還元能を有する抗酸化剤であれば、積極的に電解酸化させることにより、過酸化水素をヒドロキシラジカル経由せずに不活性化する手法も成立し、活性酸素をより効果的に不活性化できる可能性もある。
【0062】
また、上記抗酸化剤は、次の一般式(I)
【化1】

【0063】
(式中、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を表す。Y1及びY2は同一、又は異なるメチル基、またはエチル基を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0064】
抗酸化剤は、次の一般式(IIa)又は(IIb)
【化2】

【0065】
で表される化合物であることがより好ましい。
【0066】
抗酸化剤は、次の一般式(IIIa)又は(IIIb)
【化3】

【0067】
で表される化合物であることがより好ましい。
【0068】
上記一般式(I)、(IIa)、(IIb)、(IIIa)及び(IIIb)で表される化合物は、常温から燃料電池の最高作動温度120[℃]において、適度な蒸気圧を示し、かつ上記範囲内で酸化還元性を示す化合物として適している。
【0069】
抗酸化剤の一例として、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)があげられる。図7にTEMPOの酸化還元のメカニズムを示し、TEMPOにより過酸化水素及びヒドロキシラジカルの不活性化のメカニズムを示す。TEMPOは、可逆的な酸化還元サイクルを有するN−ヒドロキシ化合物であり、最終的には酸素を水まで還元する。
【0070】
過酸化水素は上式(B9)及び下式(B11)に示すように、過酸化水素よりも酸化還元電位の高い物質に対しては還元剤として働く一方、過酸化水素よりも酸化還元電位の低い物質に対しては酸化剤として働くことが知られている。
【0071】
→O+2H+2e=0.68[V] ・・・式(B11)
TEMPO50は、可逆的な酸化還元サイクルを有するN−ヒドロキシイミド誘導体であり、下式(21)、(22)に示す素反応により酸化還元し、その酸化還元電位は0.81[V]である。
【0072】
TEMPO+e→TEMPO E=0.81[V] ・・・式(B12)
TEMPO→TEMPO+e=0.81[V] ・・・式(B13)
TEMPO50の酸化還元電位は過酸化水素の酸化還元電位より高く、ヒドロキシラジカルの酸化還元電位より低い。このため、還元体であるTEMPOのN−オキシルラジカル体(TEMPO50)は、ヒドロキシラジカルに対して還元剤として作用して電解質膜内で発生したヒドロキシラジカルに電子(e)を供給してOHへ還元する。
【0073】
TEMPO+・OH→TEMPO+OH ・・・式(B14)
一方、酸化体であるTEMPO51は過酸化水素に対して酸化剤として作用して過酸化水素に対して酸化剤として作用して水素を引き抜き、過酸化水素を酸素へと酸化してTEMPO51は還元体(TEMPO50)の形に回復する。この反応は、式(B15)に示すように直接TEMPO50に回復する経路と、式(B16)及び式(B17)に示すようにTEMPO−H52を経由してTEMPO50に回復する二つの反応経路があると考えられる。
【0074】
2TEMPO+H→2TEMPO+2H+O ・・・式(B15)
TEMPO+H→TEMPO−H+H+O・・・式(B16)
TEMPO−H+・OH→TEMPO+H ・・・式(B17)
TEMPO51は還元体、すなわちTEMPO50に回復した後、再びヒドロキシラジカルを還元する。このようにして、TEMPO50が還元体と酸化体との間で酸化還元サイクルがまわると同時に、ヒドロキシラジカルや過酸化酸素を不活性化し、電解質の酸化を防止する。
【0075】
TEMPO50を燃料電池の燃料極から供給すると、TEMPO50の一部は燃料極触媒上で式(B13)に示す電解酸化が起こり、酸化体であるTEMPO51となって電解質内に拡散する可能性がある。この場合には、TEMPO51は過酸化水素を還元剤としてTEMPO50又はTEMPO−H52の形となり、再びヒドロキシラジカルを還元できる抗酸化剤としての機能を有することになる。
【0076】
可逆的な酸化還元サイクルを有しない化合物の場合には、ヒドロキシラジカルを還元した時点で抗酸化機能がなくなり、これ以上酸化剤として機能しなくなる。一方、可逆的な酸化還元サイクルを有する化合物の場合には、可逆的な酸化還元サイクルを有することで抗酸化剤としての機能をある程度持続させることができる。
【0077】
以上示したように、本発明の実施の形態に係る燃料電池システムは、固体高分子電解質型の燃料電池と、この燃料電池へ気相の抗酸化剤を含む流体を供給する流体供給手段とを有することにより、確実に活性酸素を不活性な水又は酸素に分解し、耐久性に優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0078】
なお、本実施の形態に係る燃料電池システムでは、プロトン伝導型の高分子電解質膜を用いる燃料電池であれば燃料の種類に限定されることは無く、水素型固体高分子燃料電池、ダイレクトメタノール型固体高分子燃料電池、ダイレクト炭化水素型固体高分子燃料電池等のいずれの燃料電池に用いることが可能である。
【0079】
本実施の形態に係る燃料電池システムは、その用途として燃料電池車輌に搭載することが可能である。この燃料電池車輌では、本実施の形態に係る燃料電池システムを搭載することにより長時間連続運転に耐える。
【0080】
また、本発明に係る燃料電池システムは、その用途として燃料電池車両に限定されることはなく、例えば燃料電池コージェネレーション発電システム、燃料電池家電機器、燃料電池携帯機器、燃料電池輸送用機器等に適用することが可能である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例1〜実施例4、比較例1及び比較例2により本発明に係る燃料電池システムを更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。これらの実施例は、本発明に係る燃料電池システムの有効性を調べたものであり、異なる抗酸化剤を用いた燃料電池システムの例を示したものである。
【0082】
<試料の調製>
実施例1
固体高分子電解質膜としてデュポン社のナフィオン(登録商標)117膜(厚さ175[μm])を1[cm]角に切り出して用いた。ナフィオン(登録商標)膜の前処理は、NEDO PEFC R&Dプロジェクト標準処理に従い、3[%]過酸化水素水中で1[時間]煮沸した後、蒸留水中1[時間]煮沸し、続いて、1[M]硫酸水溶液中で1[時間]煮沸し、最後に蒸留水中で1[時間]煮沸の順に行った。
【0083】
次に、耐久試験において劣化防止判断を容易にするため、前処理した後にナフィオン(登録商標)膜にイオン交換処理を施した。イオン交換処理は、前処理を施したナフィオン(登録商標)膜を100[mM]のFeSO水溶液に一晩以上浸漬した後、蒸留水中で15[分間]超音波洗浄を用い、膜に付着したイオンを取り除くことにより、ナフィオン(登録商標)の対イオンをHからFe2+に交換した。なお、試薬は和光純薬特級FeSO・7HOを用いた。
【0084】
次いで、イオン交換処理電解質膜の両面に白金担持カーボン(Cabot 社製 20wt%Pt/Vulcan XC-72)を1[mg/cm]となるように塗布して膜−電極接合体(MEA)を作製した。そして、作製したMEAを単セルの中に組み込み、PEFC用単セルとした。なお、単セルは5[cm]単セルとした。単セルに抗酸化剤として10[mM]のTEMPO水溶液を送液ポンプを用いて燃料極側のバブラへ流速1[cm/分]の速さで送液した。TEMPOは、常温では固体(融点36−38℃)のため、加熱することにより原液で送ることも可能であるが、取り扱いを容易にする意味もあり、水溶液としてバブラへ供給した。単セルは70[℃]を保つよう制御した。そして、燃料極側ガスとして70[℃]加湿水素ガス(大気圧)を、空気極ガスとして70[℃]加湿酸素ガス(大気圧)をバブラ経由で70[℃]に保った単セルに供給した。
【0085】
実施例2
抗酸化剤としてDTBN(ジ−t−ブチルニトロキシド)水溶液を用い、実施例1と同様に処理を施したものを実施例2とした。DTBNは常温で液体であることから原液を供給することも可能であるが、供給濃度の制御を行うため、実施例では10[mM]水溶液として供給した。
【0086】
実施例3及び実施例4では、固体高分子電解質膜としてスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)膜を用いた。S−PES膜については、新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成14年度成果報告書「固体高分子形燃料電池システム技術開発事業 固体高分子形燃料電池要素技術開発等事業 固体高分子形燃料電池用高耐久性炭化水素系電解質膜の研究開発」P31に記載されている相当品を入手し、これを用いた。
【0087】
実施例3
S−PES膜(厚さ170[μm])を1[cm]角に切り出し、S−PES膜の両面に白金担持カーボン(Cabot 社製 20wt%Pt/Vulcan XC-72)を1[mg/cm]となるように塗布して膜−電極接合体(MEA)を作製した。そして、作製したMEAを単セルの中に組み込み、PEFC用単セルとした。なお、単セルは5[cm]単セルとした。抗酸化剤として10[mM]のTEMPO水溶液を送液ポンプを用いて燃料極側のバブラに流速1[cm/分]の速さで送液した。燃料極側ガスとして70[℃]加湿水素ガス(大気圧)を、空気極ガスとして70[℃]加湿酸素ガス(大気圧)をバブラ経由で70[℃]に保った単セルに供給した。また、単セルは70[℃]を保つよう制御した。
【0088】
実施例4
抗酸化剤として、TEMPO水溶液の代わりにDTBN水溶液を用い、実施例3と同様に処理を施したものを実施例4とした。
【0089】
比較例1
実施例1において、抗酸化剤水溶液を流さない場合を比較例1とした。
【0090】
比較例2
実施例3において、抗酸化剤水溶液を流さない場合を比較例2とした。
【0091】
ここで、上記方法にて得られた試料は、以下に示す方法によって評価した。
【0092】
<酸化還元電位の測定>
実施例に用いる化合物の酸化還元電位は、作用極にグラッシーカーボン、対極に白金、参照極に飽和カロメル電極(SCE)を用い、電解液に1[M]硫酸を用いて測定した。TEMPOの測定例を図8に示す。酸化還元電位E(SCE)と標準電位Eとの関係は、式(C1)に示す通りである。
【0093】
(NHE)=E(SCE)+ 0.24[V] ・・・式(C1)
図8よりTEMPOの酸化還元電位(SCE)は0.57[V]付近に存在する。この電位より、NHPI及びTEMPOは、ヒドロキシラジカルに対して還元剤として機能する化合物であり、かつ、過酸化水素に対して酸化剤として機能する化合物であることが示され、本目的に適した化合物であることが分かる。
【0094】
<起動停止繰り返し耐久試験>
燃料極側を開回路状態で30[分]保持した後、試験を開始した。試験は、単セルに流速300[dm/分]のガスを流し、放電開回路状態から電流密度を増加させ、端子電圧が0.3[V]以下になるまで放電を行った。そして、端子電圧が0.3[V]以下になった後、再び開回路状態として5[分]間保持した。この操作を繰り返し行い、1[mA/cm]の電流密度で発電したときの電圧が0.4[V]以下になった回数をもって耐久性能を比較した。図9に、一例として実施例1で作製した燃料電池単セルの起動停止繰り返し耐久試験の電流−電圧曲線の初期値と、耐久後の電流−電圧曲線のグラフを示す。このグラフにおいて、1[mA/cm]の電流密度で発電したときの電圧が0.4[V]以下になった回数が起動停止繰り返し回数である。
【0095】
<空気極で発生する物質の解析>
膜の劣化解析は、ナフィオン(登録商標)膜では膜の分解に伴い発生するフッ化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度を、S−PES膜では分解に伴い発生する硫酸イオン濃度を測定することにより行なった。溶出イオンの検出は、空気極より排出された液体を回収しイオンクロマトグラフで測定した。イオンクロマトグラフは、ダイオネック社製(機種名 CX−120)を用いた。具体的な試験方法としては、各実施例、比較例共に、上記起動停止試験において、100回終了時に空気極から排出された液体を採取し比較した。また、空気極で発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析計で測定した。ガスクロマトグラフ質量分析計は、島津製作所製(GCMS-QP5050)を用いた。
【0096】
表1に実施例1〜実施例4及び比較例1、2における電解質膜の種類、使用した抗酸化剤、抗酸化剤の酸化還元電位、起動停止繰り返し回数、空気極におけるフッ化物イオン及び硫酸イオンの発生の有無を示す。
【表1】

【0097】
実施例1、実施例2に用いた化合物の酸化還元電位は、過酸化水素が還元剤となる電位0.68[V](NHE)、かつ過酸化水素が酸化剤として働く電位1.77[V](NHE)の範囲であり、本目的に適した化合物であることが分かった。
【0098】
起動停止繰り返し耐久試験の結果、抗酸化剤を供給していない比較例1では、起動停止繰り返し回数が120回で、1[mA/cm]の電流密度で発電したときの電圧が0.4[V]以下に低下した。これに対し、抗酸化剤を供給した実施例1、実施例2ではいずれも起動停止繰り返し回数1500回前後で電圧が0.4[V]以下となり、抗酸化剤を添加したことにより固体高分子電解質膜の劣化が抑制され、耐久性が向上していることが確認された。実施例3、実施例4では、起動停止繰り返し回数700回以上で電圧が0.4[V]以下となり、電解質膜の劣化抑制による耐久性向上が確認された。
【0099】
また、イオンクロマトグラフでの分析結果より、比較例1ではフッ化物イオン及び硫酸イオンが検出され、比較例2では硫酸イオンが検出され電解質膜が分解により劣化したことが確認された。これに対し、実施例1、実施例2で発生したフッ化物イオン及び硫酸イオンは検出限界以下であり、抗酸化剤を導入したことによりナフィオン(登録商標)膜の分解が抑制されたことが確認された。また、実施例3、実施例4で発生した硫酸イオンは検出限界以下であり、抗酸化剤を導入したことによりS−PES膜の分解が抑制されたことが確認された。ガスクロマトグラフ質量分析計の結果を見ると、抗酸化剤を導入した実施例1、実施例2ではCOが検出され、燃料極から導入した抗酸化剤が活性酸素を不活性化した後、空気極で酸化されてCOとして排出されていることが確認された。
【0100】
以上示したように、現在最も広く使われている電解質膜であるナフィオン(登録商標)膜に代表されるパーフルオロスルホン酸系ポリマー及びS−PESに示されるハイドロカーボン系ポリマーは、燃料電池の空気極で発生する活性酸素により十分な耐性があるとは言えない状況であったが、上記化合物を抗酸化剤として供給することにより、連続的に発生する活性酸素を不活性化して電解質膜の劣化を防止することが可能となり、燃料電池システムの耐久性能が向上可能となった。
【0101】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】燃料電池システムの模式的系統図である。
【図2】燃料電池システムを構成する燃料電池スタックの斜視図である。
【図3】燃料電池スタックの燃料供給系の系統図である。
【図4】燃料電池スタックの要部展開図である。
【図5】燃料電池スタックを構成する単セルの断面図である。
【図6】単セルの空気極の相態図である。
【図7】TEMPOにより活性酸素を消失するメカニズムを表す説明図である。
【図8】TEMPOの電極反応におけるサイクリックボルタモグラムである。
【図9】起動停止繰り返し耐久試験の結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0103】
1 燃料電池スタック
11 単セル
12 セパレータ
FC 燃料電池システム
SS ユーティリティ供給系
SS1 燃料供給系
SS3 酸化剤供給系
DS ユーティリティ排出系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質型の燃料電池と、
前記燃料電池へ気相の抗酸化剤を含む流体を供給する流体供給手段とを有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記流体は、前記燃料電池へ供給される燃料又は酸化剤を前記気相の抗酸化剤のキャリアガスとして含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記気相の抗酸化剤は、前記流体中での分圧が13.3〜13332.2[Pa]であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記気相の抗酸化剤は、前記流体中での分圧が6.65〜6666.1[Pa]であることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記流体供給手段は、前記抗酸化剤と加湿水とを含む液体を前記キャリアガスによりバブリングして前記流体を供給するバブラを備えることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記抗酸化剤は、炭素、酸素、窒素及び水素の4元素から構成される炭化水素系化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記抗酸化剤の酸化体を加水分解した加水分解物が化学的に安定であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記抗酸化剤は可逆的な酸化還元能を有し、前記抗酸化剤の酸化体は化学的に安定であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記抗酸化剤又は前記抗酸化剤の酸化体を、空気極が含有する触媒により酸化してCO、HO又はNに変える排出手段を有することを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記抗酸化剤の標準酸化還元電位が、0.68[V](NHE)より大きくかつ1.77[V](NHE)より小さいことを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記抗酸化剤の標準酸化還元電位が、0.68[V](NHE)より大きくかつ1.00[V](NHE)より小さいことを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記抗酸化剤は、次の一般式(I)
【化1】

(式中、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を表す。Y1及びY2は同一、又は異なるメチル基、またはエチル基を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記抗酸化剤は、次の一般式(IIa)又は(IIb)
【化2】

で表される化合物であることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項14】
前記抗酸化剤は、次の一般式(IIIa)又は(IIIb)
【化3】

で表される化合物であることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
前記燃料電池は、水素型、ダイレクトメタノール型、及びダイレクト炭化水素型の中から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載された燃料電池システム。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか一項に係る燃料電池システムが搭載されていることを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−165196(P2007−165196A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362178(P2005−362178)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】