説明

燃料電池システム

【課題】簡便な手法によりセル電圧低下要因を特定することのできる燃料電池システムを提案する。
【解決手段】燃料電池システム(10)は、複数のセルを積層してなる燃料電池スタック(20)と、複数のセルのうち何れかのセルが下限閾値電圧を下回ったときに燃料電池スタック(20)の掃引電流をステップ状に急増する掃引電流制御手段(61,70)と、掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタック(20)の出力電圧低下速度を計測する計測手段(66,70)と、出力電圧低下速度に基づいてセル電圧低下要因を判定する判定手段(70)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて発電する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する取り組みの一環として、低公害車の開発が進められており、その中の一つに燃料電池スタックを車載電源とする燃料電池車両がある。燃料電池スタックは、複数のセルを直列に積層してなるスタック構造を有しており、各セルは、電解質膜の一方の面にアノード極を配置し、他方の面にカソード極を配置してなる膜−電極接合体を有する。膜−電極接合体に燃料ガス及び酸化ガスを供給することで電気化学反応が生じ、化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。なかでも、固体高分子膜を電解質として用いる固体高分子電解質型燃料電池スタックは、低コストでコンパクト化が容易であり、しかも高い出力密度を有することから、車載電力源としての用途が期待されている。
【0003】
燃料電池システムにおける電池反応では、水分が生成されるため、水分の凝縮などによりセルの有効電極面積が減少し、膜−電極接合体への反応ガスの拡散が妨げられる虞がある。このような状況では、各々のセル間で電圧分布が生じ、最も電圧の低いセルが0V以下まで到達して過放電する虞がある。燃料電池システムを運転する際には、このようなフラッディングや何等かの原因で局所的に発生する反応ガス不足等の状態悪化を検出して、過電流による燃料電池の損傷を事前に防止し、十分な出力が取り出せるように燃料電池の状態を回復させる必要がある。特に、氷点下などの低温始動時においては、セル温度が低下しているため、セルの活性が不安定になりやすく、定格起電力を出力できない場合がある。特開2004−165058号公報には、燃料電池起動時の電圧低下要因を特定し、セル電圧回復処理を実施する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−165058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特開2004−165058号公報に記載の方法では、予め用意した燃料電池の温度に応じた電流−電圧特性マップを用いて、燃料電池の出力電流に対応する出力電圧(理論値)を算出するとともに、燃料電池の出力電圧(実測値)を電圧センサによって検出し、出力電圧の論理値と実測値とを比較して燃料電池の状態が正常か否かを判定し、異常であると判定されたならば、電圧低下原因が温度に起因するか否かを推定するという方法を採用している。このように、複数の処理ステップを経て電圧低下要因を特定しているので、セル電圧回復処理に長時間を要するという不都合がある。
【0005】
そこで、本発明は簡便な手法によりセル電圧低下要因を特定することのできる燃料電池システムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる燃料電池システムは、複数のセルを積層してなる燃料電池スタックと、複数のセルのうち何れかのセルが下限閾値電圧を下回ったときに燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増する掃引電流制御手段と、掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度を計測する計測手段と、出力電圧低下速度に基づいてセル電圧低下要因を判定する判定手段と、を備える。
【0007】
本出願人の実験により、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度は、酸化ガス供給不足の場合と、燃料ガス供給不足の場合とで異なることが確認されている。燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度を計測することにより、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足であるのか、或いは燃料ガス供給不足であるのかを判別できる。
【0008】
ここで、判定手段は、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度が所定の閾値未満である場合に、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足であると判定し、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度が所定の閾値以上である場合に、セル電圧低下要因が燃料ガス供給不足であると判定する。
【0009】
本出願人の実験により、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増させたときの燃料電池スタックの出力電圧の低下速度は、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足の場合よりも、燃料ガス供給不足の場合の方が大きいことが確認されている。かかる実験結果を踏まえれば、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度と所定の閾値とを比較することにより、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足であるのか、或いは燃料ガス供給不足であるのかを判別できる。
【0010】
所定の閾値としては、燃料ガス供給不足の状態下において燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときの燃料電池スタックの出力電圧低下速度の最小値を用いるのが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増させたときの燃料電池スタックの出力電圧の低下速度を計測することにより、セル電圧低下要因を判別できるので、簡易な処理でセル電圧低下要因を特定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は燃料電池車両の車載電源システムとして機能する燃料電池システム10のシステム構成を示す。
【0013】
燃料電池システム10は、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて発電する燃料電池スタック20と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給する燃料ガス配管系30と、酸化ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給する酸化ガス配管系40と、電力の充放電を制御する電力系60と、システム全体を統括制御するコントローラ70と、を備えている。
【0014】
燃料電池スタック20は、例えば、多数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。セルは、イオン交換膜からなる電解質膜の一方の面にカソード極を有し、他方の面にアノード極を有し、更にカソード極及びアノード極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。一方のセパレータの燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池スタック20は発電する。
【0015】
燃料電池スタック20には、セル電圧検出手段としてのセルモニタ21が取り付けられている。セルモニタ21は、燃料電池スタック20を構成するそれぞれのセルの出力電圧を検出する。
【0016】
燃料ガス配管系30は、燃料ガス供給源31と、燃料ガス供給源31から燃料電池スタック20のアノード極に供給される燃料ガス(水素ガス)が流れる燃料ガス供給流路35と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガス(水素オフガス)を燃料ガス供給流路35に還流させるための循環流路36と、循環流路36内の燃料オフガスを燃料ガス供給流路35に圧送する循環ポンプ37と、循環流路36に分岐接続される排気流路39とを有している。
【0017】
燃料ガス供給源31は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、例えば、35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留する。遮断弁32を開くと、燃料ガス供給源31から燃料ガス供給流路35に水素ガスが流出する。水素ガスは、レギュレータ33やインジェクタ34により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池スタック20に供給される。
【0018】
尚、燃料ガス供給源31は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、から構成してもよい。
【0019】
インジェクタ34は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ34は、燃料ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体と、を備えている。
【0020】
循環流路36には、排気弁38を介して、排気流路39が接続されている。排気弁38は、コントローラ70からの指令によって開弁することにより、循環流路36内の不純物を含む燃料オフガスと水分を外部に排出する。これにより、循環流路36内の水素オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環供給される燃料オフガス中の水素濃度が上がる。
【0021】
希釈器50には、排気弁38及び排気流路39を介して排出される燃料オフガスと、排出流路45を流れる酸化オフガスとが流入し、燃料オフガスを希釈する。希釈化された燃料オフガスの排出音は、マフラー51によって消音され、テールパイプ52を流れて車外に排気される。
【0022】
酸化ガス配管系40は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化ガスが流れる酸化ガス供給流路44と、燃料電池スタック20から排出される酸化オフガスが流れる排出流路45と、を有している。酸化ガス供給流路44には、フィルタ41を介して酸化ガスを取り込むエアコンプレッサ42と、エアコンプレッサ42により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器43と、が設けられている。排出流路45には、酸化ガス供給圧を調整するための背圧調整弁46と、加湿器43とが設けられている。
【0023】
加湿器43は、電池反応により生じた水分を多量に含む高湿潤の酸化オフガス(ウェットガス)と、大気から取り込まれた低湿潤の酸化ガス(ドライガス)との間で水分交換をすることにより、燃料電池スタック20に供給される酸化ガスを加湿する。
【0024】
電力系60は、DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63、トラクションモータ64、電流センサ65、及び電圧センサ66を備えている。DC/DCコンバータ61は、燃料電池車両がトラクションモータ64により力行走行するときには、バッテリ62の出力電圧を昇圧してトラクションインバータ63に直流電力を供給する一方、燃料電池車両がトラクションモータ64により回生制動するときには、回生した直流電圧を降圧してバッテリ62を充電する。DC/DCコンバータ61は、燃料電池スタック20の余剰発電力を蓄電するために燃料電池スタック20の出力電圧を降圧してバッテリ62を充電する機能も有する。
【0025】
バッテリ62は、電力の蓄電及び放電が可能な蓄電装置であり、ブレーキ回生時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ62としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。
【0026】
トラクションインバータ63は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
【0027】
コントローラ70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェースを備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部を制御する。例えば、コントローラ70は、イグニッションスイッチ(図示せず)から出力される起動信号を受信すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサ(図示せず)から出力されるアクセル開度信号や、車速センサ(図示せず)から出力される車速信号などを基に、システム全体の要求電力を求める。システム全体の要求電力は、車両走行電力と補機電力との合計値である。補機電力には、例えば、車載補機類(加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、及び冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、及び懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配設される装置(空調装置、照明器具、及びオーディオ等)で消費される電力などが含まれる。
【0028】
そして、コントローラ70は、燃料電池スタック20とバッテリ62の出力電力の配分を決定し、燃料電池スタック20の発電量が目標電力に一致するように、エアコンプレッサ42の回転数やインジェクタ34の弁開度を調整し、燃料電池スタック20への反応ガス供給量を調整するとともに、DC/DCコンバータ61を制御して燃料電池スタック20の出力電圧を調整することにより燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)を制御する。更に、コントローラ70は、アクセル開度に応じた目標車速が得られるように、例えば、スイッチング指令として、U相、V相、及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ63に出力し、トラクションモータ64の出力トルク、及び回転数を制御する。
【0029】
次に、図2乃至図3を参照しながらセル電圧低下要因の判別方法について概説する。ここで、図2は燃料電池スタック20の掃引電流ISELをステップ状に急増したときの燃料電池スタック20の出力電圧VSELの変化を示すグラフである。図3は燃料電池スタック20のI−V特性(電流−電圧特性)を示すグラフである。
【0030】
コントローラ70は、セルモニタ21の検出値を一定周期間隔で監視する。そして、コントローラ70は、燃料電池スタック20の始動時又は運転中において、燃料電池スタック20を構成する一部のセルのセル電圧が所定の下限閾値電圧を下回ったことを検出すると、DC/DCコンバータ61を制御し、時刻t0のタイミングで燃料電池スタック20の掃引電流ISELをI0からI1へステップ状に急増させる。このとき、セル電圧低下要因が反応ガス供給不足にある場合には、図2の実線に示すように、燃料電池スタック20の出力電圧VSELは、時刻t0のタイミングでV0から急激に低下し始め、やがて上昇に転じて時刻t2付近でV2に落ち着くことが本出願人の実験により確認されている。
【0031】
尚、燃料電池スタック20の発電状態が正常な場合(燃料電池スタック20に十分な反応ガスが供給されており、セル電圧低下が生じてない場合)には、時刻t0のタイミングで燃料電池スタック20の掃引電流ISELをI0からI1へステップ状に急増させると、燃料電池スタック20の出力電圧VNOMALは、図2の一点鎖線に示すように、時刻t0のタイミングでV0から緩やかに低下し、やがて時刻t1付近でV1に落ち着くことが本出願人の実験により確認されている。
【0032】
ところで、燃料電池スタック20のI−V特性は、図3に示すような出力特性を有し、このI−V特性は、燃料電池スタック20の運転状態(例えば、インピーダンスや温度など)に応じて変化することが知られている。コントローラ70は、燃料電池スタック20のそれぞれの運転状態に応じてI−V特性をマップデータとして予め保持することにより、ある運転状態におけるI−V特性と出力電流とを基に出力電圧を求めることができる。このI−V特性に示すように出力電流I0に対応する出力電圧はV0であり、出力電流I1に対応する出力電圧はV1である。この電流−電圧の対応関係は、図2に示すVNOMALの特性曲線に一致している。
【0033】
さて、本出願人の実験により、燃料電池スタック20の掃引電流をステップ状に急増させたときの燃料電池スタック20の出力電圧の低下速度は、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足の場合よりも燃料ガス供給不足の場合の方が大きいことが確認されている。更に燃料ガス供給不足の場合には、セル電圧はゼロ電位を下回ってマイナス電位まで落ち込むが、酸化ガス供給不足の場合には、セル電圧はゼロ電位までしか落ち込まないことが判明している。
【0034】
酸化ガス供給不足の場合における燃料電池スタック20の出力電圧低下速度の最低値をX0とし、燃料ガス供給不足の場合における燃料電池スタック20の出力電圧低下速度の最低値をX1とすると、酸化ガス供給不足の場合には、(1)式が成立し、燃料ガス供給不足の場合には、(2)式が成立する。
0≦dVSEL/dt<X1 …(1)
1≦dVSEL/dT …(2)
尚、dVSEL/dtは、燃料電池スタック20の掃引電流をステップ状に急増させたときの燃料電池スタック20の出力電圧低下速度を示し、これは、図2において、時刻t0以降のVSELの下り勾配(単位時間あたりの電圧低下)に相当する。
【0035】
尚、燃料ガス供給不足の場合には、セル電圧はゼロ電位を下回ってマイナス電位まで落ち込むが、酸化ガス供給不足の場合には、セル電圧はゼロ電位までしか落ち込まないという燃料電池スタック20の発電特性を加味すると、酸化ガス供給不足の場合には、(3)式が成立し、燃料ガス供給不足の場合には、(4)式が成立する。
0≦dVSEL/dt<X1 且つ VNOMAL−VSEL≦Y …(3)
1≦dVSEL/dT 且つ Y<VNOMAL−VSEL…(4)
尚、Yは、酸化ガス供給不足の場合におけるVNOMALとVSELとの電圧差の最大値である。
【0036】
コントローラ70は、(1)式及び(2)式の組み合わせ、又は(3)式及び(4)式の組み合わせを用いることにより、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足にあるのか、或いは燃料ガス供給不足にあるのかを判定できる。
【0037】
図4はセル電圧低下要因判定処理を示すフローチャートである。
コントローラ70は、セルモニタ21の検出値を一定周期間隔で読み込むことにより燃料電池スタック20を構成する一部のセルのセル電圧が所定の下限閾値電圧を下回ったことを検出すると(ステップ401;YES)、DC/DCコンバータ61を制御することにより、燃料電池スタック20の掃引電流ISELをI0からI1へステップ状に急増させる(ステップ402)。
【0038】
そして、コントローラ70は、電圧センサ66の検出値を読み込み、燃料電池スタック20の出力電圧低下速度dVSEL/dtを計測する(ステップ403)。
【0039】
コントローラ70は、上記の(1)式が成立するか否かを判定する(ステップ404)。ここで、(1)式が成立するならば(ステップ404;YES)、コントローラ70は、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足にあるものと判定する(ステップ406)。
【0040】
(1)式が成立しないならば(ステップ404;NO)、コントローラ70は、上記の(2)式が成立するか否かを判定する(ステップ405)。ここで、(2)式が成立するならば(ステップ405;YES)、コントローラ70は、セル電圧低下要因が燃料ガス供給不足にあるものと判定する(ステップ407)。
【0041】
(2)式が成立しないならば(ステップ404;NO)、コントローラ70は、セル電圧低下要因が反応ガス供給不足以外の要因にあるものと判定する(ステップ408)。
【0042】
本実施形態によれば、燃料電池スタック20の掃引電流ISELをステップ状に急増させたときの燃料電池スタック20の出力電圧低下速度dVSEL/dtを計測することにより、セル電圧低下要因を判別できるので、簡易な処理でセル電圧低下要因を特定できる。
【0043】
尚、本実施形態では、DC/DCコンバータ61及びコントローラ70は、燃料電池スタック20の掃引電流ISELをI0からI1へステップ状に急増させるための掃引電流制御手段として機能する。電圧センサ66及びコントローラ70は、燃料電池スタック20の出力電圧低下速度dVSEL/dtを計測するための計測手段として機能する。コントローラ70は出力電圧低下速度dVSEL/dtに基づいてセル電圧低下要因を判定するための判定手段として機能する。
【0044】
尚、発明の実施形態を通じて説明された実施例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載の記載に限定されるものではない。例えば、図4に示すフローチャートにおいて、(1)式に替えて(3)式を適用し、(2)式に替えて(4)式を適用してもよい。
【0045】
また、セル電圧低下要因が燃料ガス供給不足にあるものと判定したならば、コントローラ70は、燃料ガス供給不足を解消するための処理(例えば、燃料ガス供給圧の昇圧、燃料ガス供給量の増量など)を実行し、セル電圧回復を試みるのが好ましい。燃料ガス供給不足を解消するための処理として、例えば、インジェクタ34を制御することにより、燃料電池スタック20へ供給される燃料ガス供給圧を昇圧したり、或いは循環ポンプ37の回転数を制御することにより、燃料電池スタック20に流入する燃料ガス流量を増量したりする等の処理を実行する。
【0046】
一方、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足にあるものと判定したならば、コントローラ70は、酸化ガス供給不足を解消するための処理(例えば、酸化ガス供給量の増量など)を実行し、セル電圧回復を試みるのが好ましい。酸化ガス供給不足を解消するための処理として、例えば、エアコンプレッサ42の回転数を制御し、燃料電池スタック20に流入する酸化ガス供給量を増量する等の処理を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態に係わる燃料電池システムのシステム構成図である。
【図2】燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増したときのセル電圧の変化を示すグラフである。
【図3】燃料電池スタックのI−V特性を示すグラフである。
【図4】セル電圧低下要因を判別するための処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
10…燃料電池システム 21…セルモニタ 61…DC/DCコンバータ 65…電圧センサ 66…電流センサ 70…コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルを積層してなる燃料電池スタックと、
前記複数のセルのうち何れかのセルが下限閾値電圧を下回ったときに前記燃料電池スタックの掃引電流をステップ状に急増する掃引電流制御手段と、
前記掃引電流をステップ状に急増したときの前記燃料電池スタックの出力電圧低下速度を計測する計測手段と、
前記出力電圧低下速度に基づいてセル電圧低下要因を判定する判定手段と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記判定手段は、前記掃引電流をステップ状に急増したときの前記燃料電池スタックの出力電圧低下速度が所定の閾値未満である場合に、セル電圧低下要因が酸化ガス供給不足であると判定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記判定手段は、前記掃引電流をステップ状に急増したときの前記燃料電池スタックの出力電圧低下速度が所定の閾値以上である場合に、セル電圧低下要因が燃料ガス供給不足であると判定する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記所定の閾値は、燃料ガス供給不足の状態下において前記掃引電流をステップ状に急増したときの前記燃料電池スタックの出力電圧低下速度の最小値である、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−130443(P2008−130443A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315868(P2006−315868)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】