説明

燃料電池システム

【課題】複数の単セルを備える燃料電池において、各単セル間における圧力損失のばらつきに起因する反応ガスの配流性の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム1000は、燃料電池100と、水素供給部200とを備える。燃料電池100には、各単セル110に水素を供給するための第1と第2の水素マニホールド11,12が設けられており、第1と第2の水素マニホールドにはそれぞれ、第1と第2のバルブ121,122が設けられている。また、各単セル110と、第2の水素マニホールド12との接続部には、高圧損部30が設けられている。燃料電池システム1000の制御部は、第1と第2のバルブ121,122の開閉状態を交互に切り替えて、水素の供給流路路を切り替えて、燃料電池100に水素を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の発電モジュール(単セル)が積層された燃料電池においては、通常、マニホールドを介して、各単セルに、燃料ガス及び酸化ガス(反応ガス)が供給される。こうした燃料電池では、各単セル間の圧力損失にばらつきが生じると、各単セルごとの反応ガスの供給量が不均一となり、燃料電池全体としての発電効率が低下してしまう。圧力損失のばらつきの原因としては、例えば、発電反応により生成された多量の水分によって発電反応が阻害されてしまう、いわゆるフラッディングが一部の単セルにのみ発生する場合などがある。これまで、フラッディングを解消するために種々の技術が提案されてきた(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−142133号公報
【特許文献2】特開2006−286554号公報
【特許文献3】特開2004−319165号公報
【特許文献4】特開2004−39398号公報
【特許文献5】特開2006−294503号公報
【0004】
しかし、複数の単セル間における圧力損失のばらつきは、フラッディング以外にも、例えば、製造誤差などにも起因して発生する。これまで、単セル間における圧力損失のばらつきの発生を抑制して、各単セルへの反応ガスの配流性を向上させることについて十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複数の単セルを備える燃料電池において、各単セル間における圧力損失のばらつきに起因する反応ガスの配流性の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、前記燃料電池内における水分量を推定する水分量推定部と、制御部とを備え、前記燃料電池は、複数の発電体と、前記複数の発電体のそれぞれに前記燃料ガスを供給するための第1と第2の燃料ガスマニホールドと、前記第1と第2の燃料ガスマニホールドのそれぞれに設けられ、前記燃料ガスの流れを制御するための第1と第2のバルブと、を備え、前記複数の発電体のそれぞれには、前記第2の燃料ガスマニホールドとの接続部に、前記第1の燃料ガスマニホールドとの接続部よりも圧力損失を増大させるための高圧損部が設けられ、前記制御部は、前記第1のバルブが開で前記第2のバルブが閉である第1の状態と、前記第1のバルブが閉で前記第2のバルブが開である第2の状態と、を交互に設定するとともに、前記水分量推定部による推定値に基づいて、前記第1の状態から前記第2の状態への切替タイミングを決定する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、複数の発電体のそれぞれと第2の燃料ガスマニホールドとの接続部に設けられた高圧損部によって、各発電体ごとの圧力損失のばらつきに起因する燃料ガスの配流性の低下を抑制することができる。また、この燃料電池システムでは、制御部が、水分量測定部の測定値に応じて、第1と第2の燃料ガスマニホールドを交互に燃料ガスの供給流路へと切り替える。これによって、各発電体と各燃料ガスマニホールドとの接続部における排水性が向上し、フラッディングの発生を抑制できる。従って、各発電体間における燃料ガスの配流性の低下が抑制される。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図2】燃料電池の膜電極接合体の構成を示す概略図。
【図3】単セルに設けられた高圧損部の構成を示す概略斜視図。
【図4】比較例としての燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図5】低負荷要求時における燃料電池システムの制御手順を示すフローチャート。
【図6】燃料電池における生成水量の判定処理を説明するための説明図。
【図7】高負荷要求時における燃料電池システムの制御手順を示すフローチャート。
【図8】フラッディング発生時における燃料電池システムの制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム1000は、外部負荷の要求に応じて、燃料電池の発電電力を供給する発電システムである。燃料電池システム1000は、燃料電池100と、燃料電池100に燃料ガスとして水素を供給する水素供給部200とを備える。なお、燃料電池システム1000は、燃料電池100に酸化ガスとして酸素含有ガスを供給する酸素供給部を有しているが、図示は省略されている。また、燃料電池システム1000は、システム内の各構成部を制御する制御部(図示せず)を備える。制御部は、例えば、中央処理装置及び主記憶装置を備えるマイクロコンピュータによって構成されるものとしても良い。
【0011】
燃料電池100は、複数の単セル110が積層されたスタック構造を有している。燃料電池100には、水素のための第1と第2の水素マニホールド11,12が設けられている。水素マニホールド11,12はそれぞれ、燃料電池100の各単セル110に接続されるとともに、接続配管10を介して水素供給部200と接続されている。接続配管10と、2つの水素マニホールド11,12との間にはそれぞれ、水素の流れを制御するための第1と第2のバルブ121,122が設けられている。この構成により、各単セル110は、2つの水素マニホールド11,12を介して水素の供給を受けることができる。なお、水素供給部200は、水素を貯蔵する水素タンク(図示せず)や、水素の圧力を調整するためのレギュレータ(図示せず)、水素を加湿するための加湿部(図示せず)などを備える。
【0012】
図2は、燃料電池100の任意の単セル110に含まれる膜電極接合体112の構成を示す概略図である。膜電極接合体112は、電極によって挟持された電解質膜を有する発電体であり、各単セル110において図示せざるセパレータによって挟持されている。膜電極接合体112は、発電に供される発電領域20の外周に外部への流体の漏洩を防止するための外周シール部40が設けられている。外周シール部40には、発電領域20を囲むように6個のマニホールド11〜16が貫通孔として設けられている。具体的には、上述した第1と第2の水素マニホールド11,12が発電領域20を挟んで対向するように設けられている。また、冷媒供給用マニホールド15と、酸素供給用マニホールド13とがそれぞれ、冷媒排出用マニホールド16と、酸素排出用マニホールド14と、発電領域20を挟んで対向するように設けられている。
【0013】
なお、燃料電池100の各単セル110には、各単セルごとの出力電圧値を検出するセル電圧測定部(図示せず)が設けられている。セル電圧測定部は、燃料電池システム1000の運転中に、その測定結果を制御部へと送信する。また、各単セル110の外周シール部40及びセパレータには、反応ガス用の各マニホールド11,12,13,14と、発電領域20のアノードまたはカソードとを連通するガス流路(図示せず)が設けられている。また、図示せざるセパレータには、冷媒供給用マニホールド15に供給された冷媒が、冷媒排出用マニホールド16へと流れるための冷媒流路が設けられている。
【0014】
ところで、この燃料電池100では、第1と第2のバルブ121,122(図1)が交互に開閉されることによって、第1と第2の水素マニホールド11,12のいずれかから発電領域20のアノードへと水素が流入する。即ち、第1のバルブ121が開かれ、第1の水素マニホールド11から水素が供給される場合は、第2のバルブ122が閉じられて、第2の水素マニホールド12が排出側となる。逆に、第2のバルブ122が開かれ、第2の水素マニホールド12から水素が供給される場合は、第1のバルブ121が閉じられて、第1の水素マニホールド11が排出側となる。ただし、アノード側の排ガスは、燃料電池100の外部へは排出されない。即ち、この燃料電池システム1000では、燃料電池100のアノード側の排ガスを、燃料電池100の外部へと排出させることなく発電を継続し、燃料電池100への供給水素をほぼ発電反応において消費させる、いわゆるアノードデッドエンド型の運転が行われる。なお、第1と第2のバルブ121,122のそれぞれの開閉動作は、燃料電池システム1000の図示せざる制御部によって制御されるが、具体的な制御手順については後述する。なお、図2の発電領域20に示された矢印は、第1と第2の水素マニホールド11,12がそれぞれ交互に、供給側と排出側に切り替わることを示している。
【0015】
図3は、膜電極接合体112における、発電領域20と第2の水素マニホールド12との接続部を模式的に示す斜視図である。膜電極接合体112の発電領域20には、反応ガスを電極面全体に行き渡らせるために、多孔質のガス流路部材31(図示せず)が配置されている。また、ガス流路部材31のうち、第2の水素マニホールド12と発電領域20との接続部に相当する部位には、高圧損部30が設けられている。高圧損部30は、第2の水素マニホールド12と発電領域20との接続部における圧力損失を、第1の水素マニホールド11と発電領域20との接続部に相当する部位における圧力損失より増大させるためのものである。
【0016】
高圧損部30は、ガス流路部材31に導電性樹脂を含浸させて、気孔率を減少させることによって設けられている。なお、ガス流路部材31を構成する多孔質部材としては、焼結金属多孔体や、発泡金属多孔体、エキスパンドメタル、パンチングメタルなどの導電性部材を用いることができる。また、高圧損部30を設けるための導電性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂に炭素などを混入したものを用いることができる。
【0017】
図4は、本実施例の比較例としての燃料電池システム1000aの構成を示す概略図である。図4は、燃料電池100aに、第2の水素マニホールド12に換えて、水素排出用マニホールド17が設けられている点以外は、図1とほぼ同じである。なお、この燃料電池システム1000aでは、燃料電池100aの発電に際し、水素排出用マニホールド17の図示せざるバルブを閉じた状態とし、本実施例の燃料電池システム1000と同様に、アノードデッドエンド型の運転を行う。
【0018】
ここで、燃料電池100aの各単セル110同士の間には、製造誤差などによって、アノード側のガス流路に圧力損失のばらつきが生じているものとする。以後、圧力損失が他より著しく高い単セル110を特に「高圧損セル110b」と呼ぶ。なお、図では、高圧損セル110bにハッチングを付すことにより、他の単セル110と区別して図示してある。このように、高圧損セル110bが存在する場合には、高圧損セル110bへと、他の単セル110から水素排出用マニホールド17を介して水素が逆流してしまう可能性がある。水素の逆流が発生すると、発電反応によって生成された水分や、カソード側に供給された窒素などの不活性ガスを含む不純物が、高圧損セル110bのガス流路内に滞留してしまう場合がある。これによって、高圧損セル110bでは、水素の供給量が著しく低下してしまい、水素欠乏による電圧低下(発電不良)が発生する。なお、図では、高圧損セル110bに「×」を付すことにより、発電不良が発生していることを示している。
【0019】
ところで、複数の単セルを有する燃料電池において、各単セルにおける圧力損失を低下させるための技術としては、次のような技術が知られている。例えば、各単セルのアノード側のガス流路部材の厚みを増大させて、ガス流路部材における圧力損失を低減する技術がある。また、水素用のマニホールドと発電領域との間に、水素を発電領域全体に均等に行き渡らせるための比較的圧力損失の小さい流路を新たに設ける技術などが提案されている。しかし、いずれの技術においても、燃料電池を大型化させる可能性があるため、一般に小型化が要求されている燃料電池においては好ましくない。
【0020】
しかし、本実施例の燃料電池システム1000では、燃料電池100の各単セルに高圧損部30が設けられている(図2,図3)。そのため、燃料電池100では、各単セル110の間における圧力損失のばらつきが低減され、各単セル110への水素の供給量が不均一となることが抑制される。即ち、この燃料電池100では、各単セル110に設けられた高圧損部30によって、一部の単セル110において、水素が逆流して、不純物が滞留し、発電不良が発生してしまうことを抑制できる。
【0021】
ところで、上記のように、製造誤差による各単セル110ごとの水素流路の圧力損失のばらつきが低減された場合であっても、フラッディングによって圧力損失にばらつきが発生する場合がある。即ち、一部の単セル110において、発電反応によって生成された多量の水分によってフラッディングが発生し、ガス流路が閉塞されてしまう場合である。この場合にも、当該一部の単セル110で発電不良が発生し、燃料電池100全体としての発電効率が低下してしまう。そこで、この燃料電池システム1000では、以下のような運転制御を実行することによって、フラッディングによる発電不良の発生を抑制する。
【0022】
この燃料電池システム1000(図1)では、外部負荷によって要求される燃料電池100の出力のレベルによって、3つの運転モードを切り替える。第1の運転モードは、燃料電池100への要求出力レベルが比較的低い低負荷要求時の運転モードであり、第2の運転モードは、燃料電池100への要求出力レベルが比較的高い高負荷要求時の運転モードである。また、第3の運転モードは、要求出力レベルが、上記第1と第2の運転モードにおける要求出力レベルの間のレベルである定常運転モードである。
【0023】
即ち、燃料電池システム1000では、制御部が、外部負荷からの出力要求値が、予め設定されたx1以下のときに、低負荷要求時の運転モードを実行し、出力要求値がx2より大きいときに高負荷要求時の運転モードを実行する(x1,x2は、x1<x2を満たす任意の実数)。また、制御部は、外部負荷からの出力要求値が、x1より大きく、x2以下である場合に、定常運転モードを実行する。
【0024】
ここで、定常運転モードにおいては、制御部は、所定のインターバルで、第1と第2のバルブ121,122を交互に開閉して燃料電池100に水素を供給する。このように、この定常発電モードでの運転では、各単セル110の発電領域20(図2)において、生成水が比較的滞留しやすい水素の出口側が一定の時間間隔で交互に切り替わるため、燃料電池100のアノード側における排水性が向上する。
【0025】
図5は、低負荷要求時の運転モードにおける燃料電池システム1000の制御部による制御手順を示すフローチャートである。この低負荷要求時の運転モードは、燃料電池システム1000の始動直後や、アイドリング運転時などにおいても実行される。低負荷要求時の運転モードでは、制御部は、第1のバルブ121を開くとともに、第2のバルブ122を閉じた状態で、燃料電池100に発電をさせる。この状態で、ステップS120では、制御部は、燃料電池100における発電反応によって生成された生成水量を算出し、当該算出結果に基づく生成水量判定処理を実行する。
【0026】
図6(A),(B)は、生成水量判定処理を説明するための説明図である。図6(A)は、燃料電池システム1000の運転開始後の時刻tと、時刻tにおける燃料電池100の出力値との関係を示すグラフの一例である。制御部では、セル電圧測定部の検出値に基づいて、燃料電池100の出力値の時間変化をモニタしており、時刻tまでの燃料電池100の出力の累積値Sを求める。この累積値Sは、図6(A)のグラフにおけるハッチング領域の面積に相当する。制御部は、この累積値Sを、燃料電池100において発電反応によって生成された水分量の推定値として用いる。以後、この累積値Sを「推定生成水量S」と呼ぶ。
【0027】
図6(B)は、制御部に予め格納されている規定生成水量を求めるためのマップの一例であり、運転開始後の時刻tと燃料電池100におけるセル電圧との関係を示すグラフである。なお、このマップのグラフは、予め実験等によって設定されたものである。制御部は、このマップのハッチング領域の面積S0を、運転開始後の時刻tまでに燃料電池100内で生成される水分量の基準値である規定生成水量S0として求める。制御部は、推定生成水量Sが、この規定生成水量S0より大きい場合には(S>S0)、燃料電池100において規定の生成水量を超える生成水が発生していると判定し、ステップS130以降の処理を実行する。また、制御部は、推定生成水量Sが、規定生成水量S0以上である場合には(S≦S0)、第1のバルブ121を開いた状態の運転を継続する。
【0028】
ステップS130では、制御部は、第1のバルブ121(図1)を閉じ、第2のバルブ122を開く。即ち、各単セル110のアノードには、高圧損部30(図2)を介して水素が供給される。ステップS140では、制御部は、水素供給部200(図1)のレギュレータを調整して、水素の供給圧力を上昇させる。ステップS150では、制御部は、所定の時間t1(「待機時間t1」とも呼ぶ)だけ、高圧損部30を介した、圧力が上昇された水素の供給を継続する。その後、制御部は、ステップS160において、水素の供給圧力をステップS140以前の通常の圧力値へと調整する。また、ステップS170において、制御部は、第1のバルブ121を開くとともに、第2のバルブ122を閉じ、推定生成水量Sおよび運転開始後の時刻tを初期化する(S=0,t=0)。即ち、このステップS130〜S180の一連の処理では、燃料電池100における生成水量が規定量より多くなったと判定された場合に、高圧損部30から圧力を上昇させた水素を供給することにより、水素流路における生成水の流れを促進して、その滞留を抑制する。
【0029】
制御部は、燃料電池システム1000の運転停止要求がされた場合には、燃料電池の運転を停止する(ステップS180)。停止要求がされない場合には、低負荷要求時の運転モードにおける発電処理、即ち、第1のバルブ121が開いた状態での運転を継続する。なお、負荷要求が所定の値より増大した場合には、制御部は、定常運転モードや、高負荷要求時の運転モードに切り替える。
【0030】
図7は、高負荷要求時の運転モードにおける燃料電池システム1000の制御部による制御手順を示すフローチャートである。制御部は、定常運転モードや、低負荷要求時における運転モードにおいて、外部負荷からの出力要求が所定の値を超えたときに、この運転モードに切り替える。
【0031】
ステップS400では、制御部は、第1と第2のバルブ121,122(図1)の開閉状態を確認する。第1のバルブ121が開栓状態であった場合には、制御部は、以下の処理を実行する。ステップS410では、第1のバルブ121を閉じるとともに、第2のバルブ122を開く。即ち、以後、各単セル110への水素の供給を高圧損部30を介して実行する。ステップS420では、水素供給部200のレギュレータによって、外部負荷からの出力要求に応じて水素の供給圧力を調整する。制御部は、外部負荷からの出力要求が所定の一定値より低下するまで、高圧損部30を介した水素の供給を継続する(ステップS430)。また、外部負荷からの出力要求が所定の値以下となった場合には、制御部は、要求負荷に応じて水素の供給圧力を低下させる(ステップS440)。
【0032】
ステップS450では、制御部は、第1のバルブ121を開くとともに、第2のバルブ122を閉じる。なお、このとき、制御部は、低負荷要求の運転モード(図5)に用いられる推定生成水量Sと運転開始後の時刻tとを初期化する(S=0,t=0)。その後、制御部は、定常運転モードを再開する。なお、ステップS400において、第2のバルブ122が開栓状態であった場合には、制御部は、そのままの各バルブ121,122の開閉状態で、上記のステップS420〜S440と同じ処理を実行する。即ち、この場合であっても、高圧損部30を介した水素の供給により、燃料電池100が運転される。
【0033】
このように、高負荷要求時の運転モードでは、第2のバルブ122が開いたままの状態で、第1と第2のバルブ121,122の開閉状態の切替を実行することなく、第2の水素マニホールド12からの水素供給を継続する(ステップS420〜S430)。この理由は、高負荷が要求されているときに、第1と第2のバルブ121,122の切替が実行されると、水素の流れが安定しなくなり、要求された高負荷の出力が得られない可能性があるためである。これにより、水素が安定的に第2の水素マニホールド12を介して供給されるため、高負荷要求に対して、効率よく燃料電池100の出力を得ることが可能となる。
【0034】
ところで、上記のような運転制御を実行した場合には、フラッディングの発生が抑制されるが、燃料電池100においては、さらにフラッディングの発生を抑制するために、セル電圧の測定値に基づいて、以下に説明するフラッディング判定処理を実行する。
【0035】
図8は、燃料電池システム1000で実行されるフラッディング判定処理の処理手順を示すフローチャートである。制御部は、上述した低負荷要求時の運転モードや、高負荷要求時の運転モード、定常運転モードが実行されている間に、フラッディング発生の判定処理を実行する(ステップS200)。具体的には、制御部は、いずれかの単セル110のセル電圧が所定の値(正常値)より小さくなっている場合に、フラッディングが発生していると判定する。フラッディングが発生していると判定した場合には、制御部は、第1と第2のバルブ121,122の開閉状態を確認する(ステップS210)。
【0036】
第1のバルブ121が開栓状態であった場合には、制御部は、第1のバルブ121を閉じるとともに、第2のバルブ122を開く(ステップS220)。続いて、制御部は、ステップS230において、水素の供給圧力を上昇させ、所定の時間t2(「待機時間t2」とも呼ぶ)だけ、外部負荷からの出力要求に応じた圧力より高い供給圧力での水素の供給を継続する。その後、セル電圧の測定値が正常値に戻った場合には、制御部は、ステップS260の処理を実行する(ステップS250)。一方、セル電圧の測定値が正常値より低いままである場合には、制御部は、再び、待機時間t2だけ、上記の圧力による水素供給処理を継続する(ステップS240)。即ち、待機時間t2は、セル電圧の測定間隔であると解釈できる。
【0037】
ステップS260では、制御部は、水素の供給圧力を、外部負荷からの出力要求に応じた通常の圧力まで低下させる。ステップS270では、制御部は、その圧力での水素の供給を予め設定された時間t3(「待機時間t3」とも呼ぶ)だけ継続する(ステップS270)。この待機時間t3は、セル電圧が回復した後、水素の流路内の水分を十分に排水させるための時間である。ステップS280では、制御部は、第1のバルブ121を開くとともに、第2のバルブ122を閉じて、低負荷要求時の運転モードで用いられる推定生成水量Sや、運転開始後の時刻tを初期化する(S=0,t=0)。
【0038】
一方、ステップS210(図8)において、第2のバルブ122が開栓状態であった場合には、制御部は、ステップS222において、第2のバルブ122を閉じるとともに、第1のバルブ121を開く。そして、制御部は、上述したステップS230〜S270と同様な処理を実行し、ステップS282において、推定生成水量Sと運転開始後の時刻tとを初期化する(S=0,t=0)。ステップS280またはステップS282を実行した後には、制御部は、低負荷要求時の運転モードや、高負荷要求時の運転モードなどの通常の運転モードへと戻る。
【0039】
このように、このフラッディング判定処理では、フラッディングが発生している可能性がある発電領域20の水素出口を、水素入口に切り替えて、比較的高圧な水素を供給することにより、当該入口の水分を吹き飛ばし、フラッディングを解消する。例えば、水素出口となっている高圧損部30においてフラッディングが発生した場合には、高圧損部30側を水素入口とすることにより、フラッディングが解消される。従って、燃料電池100において、フラッディングが発生することによるセル電圧の低下が抑制される。
【0040】
なお、上述した各制御手順(図5,図7,図8)におけるステップS130や、ステップS220,S222,S410において、バルブの開閉状態の切替が実行された場合には、制御部は、供給水素の加湿量を低減する処理を同時に実行するものとしても良い。具体的には、制御部は、水素供給部200(図1)に設けられた図示せざる加湿部を制御して、通常の運転時に設定された水素の相対湿度RHを低減させる。例えば、制御部は、通常の運転時の相対湿度が80%である場合には、相対湿度を70%程度まで低減するものとしても良い。この処理を実行すれば、生成水が多量に発生していることにより、各バルブ121,122の開閉状態の切替が実行された際に、供給水素の加湿量が低減されるため、より燃料電池100におけるフラッディングの発生が抑制される。なお、低減される加湿量は、予め設定されたマップを用いて決定されるものとしても良い。
【0041】
このように、この燃料電池システム1000によれば、第2の水素マニホールド12と発電領域20との接続部に、高圧損部30を設けることにより、各単セル110に対する水素の配流性が不均一となることを抑制できる。また、第1と第2のバルブ121,122の開閉を交互に行って、2つの水素流路の供給側と排出側とを切り替えることにより、水素流路における排水性を向上している。さらに、外部負荷の要求に応じた運転モードの制御において、第1と第2のバルブ121,122の開閉及び水素圧力を適宜制御することにより、燃料電池100におけるフラッディングの発生が抑制される。
【符号の説明】
【0042】
10…接続配管
11…第1の水素マニホールド
12…第2の水素マニホールド
13…酸素供給用マニホールド
14…酸素排出用マニホールド
15…冷媒供給用マニホールド
16…冷媒排出用マニホールド
17…水素排出用マニホールド
20…発電領域
30…高圧損部
31…ガス流路部材
40…外周シール部
100…燃料電池
1000,1000a…燃料電池システム
100a…燃料電池
110…単セル
110b…高圧損セル
112…膜電極接合体
121…第1のバルブ
122…第2のバルブ
200…水素供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、
前記燃料電池内における水分量を推定する水分量推定部と、
制御部と、
を備え、
前記燃料電池は、複数の発電体と、前記複数の発電体のそれぞれに前記燃料ガスを供給するための第1と第2の燃料ガスマニホールドと、前記第1と第2の燃料ガスマニホールドのそれぞれに設けられ、前記燃料ガスの流れを制御するための第1と第2のバルブと、を備え、
前記複数の発電体のそれぞれには、前記第2の燃料ガスマニホールドとの接続部に、前記第1の燃料ガスマニホールドとの接続部よりも圧力損失を増大させるための高圧損部が設けられ、
前記制御部は、前記第1のバルブが開で前記第2のバルブが閉である第1の状態と、前記第1のバルブが閉で前記第2のバルブが開である第2の状態と、を交互に設定するとともに、前記水分量推定部による推定値に基づいて、前記第1の状態から前記第2の状態への切替タイミングを決定する、燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−182429(P2010−182429A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22155(P2009−22155)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】