説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の発電が安定する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】アノード流路11及びカソード流路12を有し、アノード流路11に水素が供給され、カソード流路12に空気が供給されることで発電する燃料電池スタック10と、アノード流路11から排出された水素を、再びアノード流路11に供給し、水素を循環させる水素循環経路と、水素循環経路に設けられたエゼクタ100と、アノード流路11に水素を供給する水素タンク21と、エゼクタ100のノズル130に負圧発生用の水を圧送するポンプ27と、エゼクタ100から排出された水を回収する気液分離器26と、を備え、エゼクタ100で発生する負圧によって、アノード流路11から水分を排出する燃料電池システム1であって、ポンプ27は、気液分離器26で回収された水をエゼクタ100に圧送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(燃料)と酸素を含む空気(酸化剤)とが供給されることで発電する燃料電池の開発が進められ、例えば、燃料電池車(移動体)の電力源として期待されている。ところが、燃料電池からは、電極反応で消費されなかった水素が排出されるので、この水素を再び燃料電池に供給し、水素を循環させて有効利用し、燃費を高める水素循環型の燃料電池システムが提案されている(特許文献1参照)。よって、このような水素循環型の燃料電池システムにおいて、水素が循環する経路(燃料循環経路)は外部から閉じられた構成となる。
【0003】
燃料電池を通流する水素の流量は、発電要求量に対応して、適量となるように、つまり、水素不足/過剰とならないように制御される。
具体的には、例えば燃料電池車の場合、アクセル開度に基づいて、走行用のモータ(負荷)が燃料電池に要求する発電要求量(負荷要求量)を算出し、さらに、水素の供給圧、空気の流量・供給圧、目標電流値等を算出し、これに従って、水素の供給圧を調圧する調圧弁(レギュレータ)、空気を供給するコンプレッサの回転速度、カソード流路(酸化剤流路)の下流に設けられた背圧弁等を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−284098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料電池車が減速した場合、つまり、アクセル開度が小さくなった場合や、信号待ち、人待ち等によって、アイドル停止した場合、水素タンクから燃料電池に向かう水素の流量は減少、または水素供給は停止され、燃料電池のアノード流路(燃料流路)を通流するガスの流量は減少する。燃料電池車が減速した場合等も、例えば、バッテリを充電するため、流量が減少した水素を消費して、または、アノード流路(燃料流路)に残留する水素を消費して、燃料電池の発電が継続されることもある。
【0006】
そうすると、発電に伴ってカソードで生成した水分(水蒸気)の一部が、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)を透過し、アノード流路に流出する。そして、流出した水分は、前記したように、アノード流路を通流するガスの流路が減少しているので、アノード流路に滞留したり、また、その一部は結露して、アノードの表面に付着したりし、水素がアノードに供給されにくくなる。そうすると、燃料電池の発電が不安定になる、つまり、燃料電池の発電性能が低下する虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、燃料電池の発電が安定する燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、燃料流路及び酸化剤流路を有し、前記燃料流路に燃料が供給され、前記酸化剤流路に酸化剤が供給されることで発電する燃料電池と、前記燃料流路から排出された燃料を、再び前記燃料流路に供給し、燃料を循環させる燃料循環経路と、前記燃料循環経路に設けられたエゼクタと、前記燃料流路又は前記エゼクタのノズルに燃料を供給する燃料供給手段と、前記エゼクタのノズルに負圧発生用の流体を圧送する流体圧送手段と、前記エゼクタから排出された流体を回収する流体回収手段と、を備え、前記エゼクタで発生する負圧によって、前記燃料流路から水分を排出する燃料電池システムであって、前記流体圧送手段は、前記流体回収手段で回収された流体を前記エゼクタに圧送することを特徴とする燃料電池システムである。
【0009】
このような燃料電池システムによれば、流体圧送手段がエゼクタのノズルに負圧発生用の流体を圧送すると、エゼクタにおいて負圧が発生し、この負圧によって、燃料電池の燃料流路(アノード流路)に滞留する水分(水蒸気)や、アノードの表面に付着した水分(結露水)等が、吸引され、燃料流路から排出される。つまり、アクセル開度等に関わらず、流体圧送手段が流体を圧送すれば、水分が燃料流路から排出される。よって、燃料は、水分に邪魔されることなく、MEAのアノードに供給され、燃料電池の発電が安定しやすくなる。
【0010】
例えば、燃料電池車において、アクセル開度が小さくなり燃料電池車が減速し、又は、燃料電池車がアイドル停止し、燃料流路を通流するガスの流量が減少又は0になったとしても、流体圧送手段がエゼクタに負圧発生用の流体を圧送するので、負圧が発生し、この負圧により燃料流路から水分が排出される。その結果、燃料電池の発電は安定し、その後にアクセルが踏み込まれた場合、燃料電池の出力を高め、スムーズに加速できる。
【0011】
また、負圧を発生させた後、エゼクタから排出された流体は、流体回収手段で回収され、そして、回収された流体は、流体圧送手段によって、エゼクタのノズルに再び圧送され、再び負圧発生用に利用される。すなわち、エゼクタで負圧を発生させるための流体は、エゼクタと流体回収手段との間を循環することになる。よって、負圧発生用の流体が封入されたタンク等を別途備える必要はない。
【0012】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記流体回収手段は、前記エゼクタと前記燃料流路の入口との間に配置されていることを特徴とする。
【0013】
このような燃料電池システムによれば、流体回収手段がエゼクタと燃料流路の入口との間に配置されているので、エゼクタから排出された負圧発生用の流体は流体回収手段で回収され、発電に寄与しない負圧発生用の流体が、燃料電池の燃料流路に供給されることはない。
【0014】
また、前記燃料電池システムにおいて、システムの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段が検出する運転状態に基づいて、前記流体圧送手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
ここで、システムの運転状態としては、例えば、燃料電池が出力する現在の電流値や、燃料流路を通流するガスの流量が挙げられる。また、燃料電池システムが燃料電池車に搭載されたものである場合では、例えば、アクセル開度や、車速も挙げられる。
そして、システムの運転状態を検出する運転状態検出手段としては、例えば、電流センサ、流量センサ、アクセル開度センサ、車速センサが挙げられる。
【0016】
このような燃料電池システムによれば、制御手段が、運転状態検出手段が検出する運転状態に基づいて、流体圧送手段を制御できる。すなわち、システムの運転状態に対応して、無駄なく流体圧送手段を作動させることにより、流体圧送手段による消費エネルギ(後記する実施形態では電力)を抑えつつ、流体圧送手段の寿命を長くできる。
【0017】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記燃料供給手段は前記エゼクタのノズルに燃料を供給し、前記燃料供給手段から燃料、又は、前記流体圧送手段から流体の前記エゼクタへの供給を切り換える切換手段を備え、前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出する運転状態が増加又は一定である場合、前記燃料供給手段から前記エゼクタに燃料が供給されるように、前記切換手段を制御し、前記運転状態検出手段の検出する運転状態が減少している場合、前記流体圧送手段から前記エゼクタに流体が供給されるように、前記切換手段を制御することを特徴とする。
【0018】
このような燃料電池システムによれば、システムの運転状態が増加又は一定である場合(例えば燃料電池車における加速時又は一定速度での定常走行時)、制御手段が、燃料供給手段からエゼクタに燃料が供給されるように、切換手段を制御する。
このように制御することにより、燃料供給手段によって燃料を供給する際の圧力エネルギーを用いて燃料を循環させることができるので、無駄な流体圧送手段の作動を防止でき、流体圧送手段の消費エネルギーを削減することができ、しいては、システムのエネルギー効率を向上させることができる。
また、このように制御することにより、燃料電池において燃料不足になりにくく、また、燃料流路に水分が滞留等しない程度の流量で燃料が通流するので、燃料流路に水分が滞留等せず、燃料電池の発電性能が低下することもない。
【0019】
一方、システムの運転状態が減少している場合(例えば燃料電池車における減速時)、制御手段が、流体圧送手段からエゼクタに流体が供給されるように、切換手段を制御する。そうすると、前記したように、エゼクタで負圧が発生し、この負圧により、燃料流路から水分が排出されるので、燃料電池の発電は安定する。
このように、システムの運転状態に対応して、切換手段によって、燃料又は負圧発生用の流体を切り換えてエゼクタに供給し、燃料電池の発電を安定させることができる。
【0020】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記エゼクタは、そのノズルの開口面積を可変する可変部を備え、前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出する運転状態に基づいて、前記可変部を制御することを特徴とする。
【0021】
このような燃料電池システムによれば、制御手段が、システムの運転状態に基づいて、エゼクタの可変部を制御し、そのノズルの開口面積を可変できる。すなわち、システムの運転状態に対応して、ノズルの開口面積を可変し、ノズルから噴射される燃料又は流体の流量を適切にできる。
【0022】
また、前記燃料電池システムにおいて、前記燃料供給手段から前記エゼクタに向かう燃料は気体であり、前記流体圧送手段から前記エゼクタに向かう流体は液体であり、前記エゼクタは、そのノズルの開口面積を可変する可変部を備え、前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出する運転状態が増加又は一定である場合、前記ノズルの前記開口面積が小さくなるように、前記可変部を制御し、前記運転状態検出手段の検出する運転状態が減少している場合、前記ノズルの前記開口面積が大きくなるように、前記可変部を制御することを特徴とする。
【0023】
このような燃料電池システムでは、運転状態検出手段の検出する運転状態が増加又は一定である場合(燃料電池車の加速時又は一定速度での定常走行時)、燃料供給手段からエゼクタに、燃料(気体)が供給される。これに対し、運転状態検出手段の検出する運転状態が減少している場合(燃料電池車の減速時)、流体圧送手段からエゼクタに流体(液体)が供給される。
すなわち、ノズルから噴射されエゼクタで負圧を発生させるものが、システム運転状態が増加又は一定の場合(加速時又は定常走行時)と、システム運転状態が減少している場合(減速時)と、で異なる。
【0024】
そして、制御手段は、システム運転状態が増加又は一定の場合(加速時又は定常走行時)、燃料(気体)を噴射するノズルの開口面積が小さくなるように、可変部を制御する。これに対し、制御手段は、システムの運転状態が減少している場合(減速時)、流体(液体)を噴射するノズルの開口面積が大きくなるように、可変部を制御する。
このようにして、システムの運転状態に対応して、ノズルから噴射される燃料(気体)又は流体(液体)の種類が切り換えられ、次いで、燃料(気体)又は流体(液体)の流量・流速、そして、エゼクタにおいて発生する負圧の大きさは、適切に変更できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、燃料電池の発電が安定する燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】アクセル開度と発電要求量との関係を示すマップである。
【図3】発電要求量とコンプレッサの回転速度との関係を示すマップである。
【図4】発電要求量と背圧弁の開度との関係を示すマップである。
【図5】発電要求量と目標電流値との関係を示すマップである。
【図6】第2実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【図7】第2実施形態に係るエゼクタの側断面図であり、ソレノイドがOFFされ、ノズルの開口面積が小さい状態を示す。
【図8】第2実施形態に係るエゼクタの側断面図であり、ソレノイドがONされ、ノズルの開口面積が大きい状態を示す。
【図9】第2実施形態に係る燃料電池システムの動作を示すフローチャートである。
【図10】第2実施形態に係る燃料電池システムの一動作例を示すタイムチャートである。
【図11】変形例に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
≪第1実施形態≫
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0028】
≪燃料電池システムの構成≫
図1に示す第1実施形態に係る燃料電池システム1は、図示しない燃料電池車(移動体)に搭載されている。燃料電池システム1は、燃料電池スタック10(燃料電池)と、燃料電池スタック10のアノードに対して水素(燃料)を給排するアノード系と、燃料電池スタック10のカソードに対して酸素(酸化剤)を含む空気(酸化剤含有ガス)を給排するカソード系と、燃料電池スタック10の出力端子(図示しない)に接続され、燃料電池スタック10の発電電力を消費する電力消費系と、これらを電子制御する制御手段であるECU70(Electronic Control Unit、電子制御装置)と、を備えている。
【0029】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック10は、複数(例えば200〜400枚)の固体高分子型の単セルが積層して構成されたスタックであり、複数の単セルは直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、これを挟む2枚の導電性を有するセパレータと、を備えている。MEAは、1価の陽イオン交換膜等からなる電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟むアノード及びカソード(電極)とを備えている。
【0030】
アノード及びカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体と、これに担持され、アノード及びカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)と、を含んでいる。
【0031】
各セパレータには、各MEAの全面に水素又は空気を供給するための溝や、全単セルに水素又は空気を給排するための貫通孔が形成されており、これら溝及び貫通孔がアノード流路11(燃料流路)、カソード流路12(酸化剤流路)として機能している。
【0032】
そして、アノード流路11を介して各アノードに水素が供給されると、式(1)の電極反応が起こり、カソード流路12を介して各カソードに空気が供給されると、式(2)の電極反応が起こり、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生するようになっている。次いで、燃料電池スタック10と後記するモータ51等の外部負荷とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック10が発電するようになっている。
2H→4H+4e …(1)
+4H+4e→2HO …(2)
【0033】
このように燃料電池スタック10が発電すると、水分(水蒸気)がカソードで生成し、その一部は、MEAを透過して、アノード流路11に流出する。したがって、アノード流路11内は多湿となる。
【0034】
<アノード系>
アノード系は、水素タンク21(燃料供給手段)と、常閉型の第1遮断弁22(インタンク電磁弁)と、第1調圧弁23(第1レギュレータ)と、常閉型の第2遮断弁24と、第2調圧弁25(第2レギュレータ)と、気液分離器26(流体回収手段)と、ポンプ27と、エゼクタ100と、常閉型のパージ弁28と、常閉型のドレン弁29と、を備えている。
【0035】
水素タンク21は、第1遮断弁22、配管22a、第1調圧弁23、配管23a、第2遮断弁24、配管24a、第2調圧弁25、配管25a、配管26aの一部、気液分離器26、配管26bを介して、アノード流路11の入口に接続されている。
そして、ECU70の指令に従って、第1遮断弁22、第2遮断弁24が開かれると、水素タンク21の水素が、配管22a等を通って、アノード流路11に供給されるようになっている。
なお、水素タンク21からの水素は、配管25aと配管26aとの接続点及びその下流で、後記するようにエゼクタ100からのアノードオフガス及び水と混合されながら、気液分離器26に向かう。
【0036】
第1遮断弁22は、水素タンク21の口金部に螺設され、その一部が水素タンク21内に配置されたインタンク電磁弁と称されるものである。
第1調圧弁23は、水素タンク21内の水素の圧力(タンク圧)を、下流の第2調圧弁25等が故障しない程度に減圧する機械式の減圧弁である。
【0037】
第2遮断弁24は、第1遮断弁22が開故障(開いたままで閉じない状態)した場合や、その下流の配管24a等から構成された水素の通流する流路が破損した場合、に閉じられる電磁弁である。
なお、第2遮断弁24は、第2調圧弁25よりも下流の配管25a等に配置することも可能であるが、図1に示すように、第1調圧弁23と第2調圧弁25との間に配置することが好ましい。このように配置すれば、第2遮断弁24を閉じた場合、第2調圧弁25に高圧の水素が作用しないので、第2調圧弁25の耐圧強度を下げることができ、第2調圧弁25の構造は簡便となり、第2調圧弁25は安価になる。
【0038】
第2調圧弁25は、例えば本願出願人による特開2005−183357号公報に記載されるように、上流端が配管41aに接続された細い配管25bを通って入力される空気の圧力である信号圧(パイロット圧)に基づいて、開/閉を繰り返し、その二次側圧力(アノード流路11の圧力)と、カソード流路12の圧力とをバランスさせ、燃料電池スタック10を構成する各MEA(電解質膜)の破れ等を防止するものである。
【0039】
詳細には、燃料電池車を減速させるため、アクセル開度が小さくなると、コンプレッサ41の回転速度が低下し、そして、信号圧が低下するので、第2調圧弁25の開いている時間が短くなり、第2調圧弁25の二次側圧力(アノード流路11の圧力)が低くなる。
一方、燃料電池車を加速させるため、アクセル開度が大きくなると、コンプレッサ41の回転速度が高まり、そして、信号圧が上昇するので、第2調圧弁25の開いている時間が長くなり、第2調圧弁25の二次側圧力(アノード流路11の圧力)が高くなる。
また、信号待ち等によって、所定のアイドル停止条件が成立すると、アイドル停止が実行され、コンプレッサ41が停止する。そうすると、信号圧が大きく低下し、第2調圧弁25は閉じ、水素タンク21からアノード流路11への水素の供給は停止される。
【0040】
なお、このように燃料電池車が減速又はアイドル停止したとしても、例えば、車両用の空調システム等から発電要求がある場合、バッテリ(図示しない)に充電する場合、アノード流路11、カソード流路12の圧力を下げる場合、アノード流路11に残留する水素等を消費しながら燃料電池スタック10の発電は継続される。すなわち、水素の流量が減少又は停止している状態で、燃料電池スタック10が発電するので、カソードからアノードにクロスリークした水分(水蒸気)が、アノード流路11に残留しやすい状態になる。
【0041】
気液分離器26は、前記したように、配管25aと配管26aとの接続点よりも下流で、水素タンク21からの水素と、アノードオフガスと、後記するノズル130から噴射された水(液体)とが混合したものから、水分(液体、気体のもの)の少なくとも一部(一部又は全部)を分離・回収するものである。これにより、水分がアノード流路11に流入せず、燃料電池スタック10の発電性能が低下することはない。
【0042】
水分の分離方式としては、例えば、(1)気液分離器26において、前記混合したものが通流する流路の断面積を拡大し、水素よりも比重の大きい、水分(液体、気体のもの)を自重により留まらせる方式を採用できる。その他、(2)気液分離器26内に、低温冷媒が通流する低温冷媒管を設け、前記混合したものを冷却し、水分を分離する方式も採用できる。
【0043】
なお、分離された水分は、気液分離器26の底部に形成されたタンク部26dに一時的に貯溜されるようになっている。
また、気液分離器26が、アノード流路11の下流の配管26cに設けられた構成でもよいが、前記したように、アノード流路11への水分の流入を防止するため、第1実施形態のように、エゼクタ100とアノード流路11の入口との間に設けられていることが好ましい。
【0044】
次に、アノード流路11の下流を説明する。
アノード流路11の出口は、配管26c、エゼクタ100、配管26aを介して、気液分離器26に接続されている。なお、配管26cの下流端は、エゼクタ100の吸気口に接続されている。
【0045】
そして、アノード流路11から排出され、アノードにおける電極反応で消費されなかった水素、及び、水蒸気を含むアノードオフガスは、配管26c、エゼクタ100、配管26a、気液分離器26、配管26bを通って、アノード流路11に供給されるようになっている。
すなわち、アノード流路11から排出された水素は、配管26c等を通って、再びアノード流路11に供給され、水素が循環するようになっている。
【0046】
つまり、第1実施形態において、水素を循環させる水素循環経路(燃料循環経路)は、配管26cと、配管26aと、配管26bとを備えて構成されている。そして、エゼクタ100は、この水素循環経路に設けられている。
【0047】
前記した気液分離器26のタンク部26dは、配管27a、ポンプ27、配管27bを介して、エゼクタ100のノズル130に接続されている。そして、ECU70の指令に従ってポンプ27が作動すると、気液分離器26に貯溜されている水(液体)がノズル130に圧送されるようになっている。
【0048】
エゼクタ100は、ポンプ27から圧送される水(負圧発生用の流体)をノズル130で噴射することで、負圧を発生するものである。そして、このように負圧が発生すると、エゼクタ100の吸気口に接続された配管26cを介して、アノード流路11の滞留、結露する水分が吸引され、アノード流路11から排出されるようになっている。
【0049】
なお、吸引された水分を含むアノードオフガスは、ディフューザ150でノズル130から噴射された水と混合後、さらに、水素タンク21からの水素と混合し、気液分離器26に向かう。そして、気液分離器26において、前記したように、水、つまり、吸引された水分及び噴射された水は、分離・回収される。
【0050】
すなわち、アノード流路11からの水分を含むアノードオフガスは、エゼクタ100に吸引された後、アノード流路11に向かうが、その水分は途中の気液分離器26で回収、貯溜される。そして、この回収された水は、ポンプ27によってノズル130に圧送され、ノズル130から噴射されることで、エゼクタ100において負圧を発生させる負圧発生用の流体として利用された後、再び、気液分離器26で回収、貯溜される。つまり、気液分離器26とエゼクタ100との間で、水が循環することになる。
【0051】
言い換えると、燃料電池スタック10の発電に伴って生成し回収した水を利用し、そして、この水を循環させて負圧を発生させるので、別途に負圧発生用の流体が貯溜されたタンクを備える必要はなく、システムが簡便かつ安価となる。
【0052】
配管26cの途中は、配管28a、常閉型のパージ弁28、配管28bを介して、後記する希釈器43に接続されている。そして、ECU70によってパージ弁28が開かれると、水分(水蒸気)を含むアノードオフガスが、希釈器43に排出され、燃料電池スタック10の発電性能が回復するようになっている。
なお、ECU70は、例えば、燃料電池スタック10を構成する単セルの電圧のうちの最低の電圧(最低セル電圧)が、所定単セル電圧以下である場合、パージ弁28を開く必要があると判断するように設定されている。
【0053】
前記した気液分離器26のタンク部26dは、配管29a、常閉型のドレン弁29、配管29bを介して、希釈器43に接続されている。そして、ECU70によってドレン弁29が開かれると、タンク部26dに貯溜されている水分が希釈器43に排出されるようになっている。
なお、ECU70は、所定時間の経過毎に、または、水位センサ(図示しない)によって貯溜されている水分量を把握し、水分がオーバーフローしないようにドレン弁29を開く。
【0054】
<カソード系>
カソード系は、コンプレッサ41(酸化剤供給手段)と、常開型の背圧弁42と、希釈器43とを備えている。
コンプレッサ41は、配管41aを介して、カソード流路12の入口に接続されている。そして、コンプレッサ41は、ECU70の指令に従って作動すると、酸素を含む空気を吸気し、配管41aを介して、カソード流路12に供給するようになっている。
なお、コンプレッサ41、背圧弁42、及び、前記した第1遮断弁22、第2遮断弁24、ポンプ27、パージ弁28、ドレン弁29は、燃料電池スタック10及び/又はバッテリ(図示しない)を電源としている。
【0055】
配管41aと後記する配管42bとを跨ぐように、加湿器(図示しない)が設けられている。この加湿器は、水分透過性を有する中空糸膜を複数本内蔵し、この中空糸膜を介して、カソード流路12に向かう空気と、カソード流路12から排出された多湿のカソードオフガスとの間で水分交換し、カソード流路12に向かう空気を加湿するものである。
【0056】
カソード流路12の出口は、配管42a、背圧弁42、配管42bを介して、希釈器43に接続されている。そして、カソード流路12から排出されたカソードオフガスは、配管42a等を通って希釈器43に導かれるようになっている。
【0057】
背圧弁42は、例えばバタフライ弁から構成され、その開度がECU70によって制御されることで、カソード流路12における空気の圧力を制御するものである。
【0058】
希釈器43は、配管28bからのアノードオフガスと、配管42bからのカソードオフガス(希釈用ガス)とを混合し、アノードオフガス中の水素を、カソードオフガスで希釈する容器であり、その内部に希釈空間を備えている。そして、希釈後のガスは、配管43aを通って車外に排出されるようになっている。
【0059】
<電力消費系>
電力消費系は、燃料電池車を走行させるモータ51と、電力制御器52と、出力検出器53とを備えている。そして、モータ51は、電力制御器52、出力検出器53を順に介して、燃料電池スタック10の出力端子(図示しない)に接続されている。
【0060】
モータ51は、燃料電池車を走行させるためのモータである。
電力制御器52は、ECU70の指令に従って、燃料電池スタック10の出力(電流値、電圧値)を、0を含めて制御するものであり、DC−DCチョッパ回路等の電子回路を備えている。
なお、モータ51と電力制御器52との間には、ECU70の指令に従って、電力制御器52からの直流電力を、三相交流電力に変換し、モータ51に出力する図示しないPDU(Power Drive Unit)が設けられている。
【0061】
出力検出器53は、燃料電池スタック10の現在の電流値及び電圧値を検出する機器であり、電流センサ及び電圧センサを備えている。そして、出力検出器53は、現在の電流値及び電圧値をECU70に出力するようになっている。
ここで、燃料電池スタック10の現在の電流値は、燃料電池システム1の一運転状態であり、出力検出器53は、この運転状態を検出する運転状態検出手段である。
【0062】
<その他機器>
アクセル61は、運転者が燃料電池車を走行させるために踏み込むペダルであり、運転席の足元に配置されている。そして、アクセル61は、その開度(踏み込み量)をECU70に出力するようになっている。
【0063】
ブレーキ62は、運転者が燃料電池車を制動するために踏み込むペダルであり、運転席の足元に配置されている。そして、ブレーキ62は、踏み込まれているか否かに関するブレーキ信号を、ECU70に出力するようになっている。
【0064】
<ECU>
ECU70は、燃料電池システム1を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機能を発揮し、各種機器を制御するようになっている。
【0065】
<ECU−発電要求量算出機能>
ECU70は、アクセル61から入力されるアクセル開度と、図2のマップとに基づいて、発電要求量(W)を算出する機能を備えている。図2に示すように、アクセル開度が大きくなると、発電要求量が大きくなる関係となっている。
なお、図2のマップは、事前試験等によって求められ、ECU70に予め記憶されている。
【0066】
<ECU−コンプレッサ制御機能>
ECU70は、算出された発電要求量と、図3のマップとに基づいて、目標とするべきコンプレッサ41の回転速度を算出し、これに従って、コンプレッサ41を制御する機能を備えている。図3に示すように、発電要求量が大きくなると、カソードで空気不足とならず、大流量で供給されるように、コンプレッサ41の回転速度が高くなる関係となっている。
なお、図3のマップは、事前試験等によって求められ、ECU70に予め記憶されている。
【0067】
<ECU−背圧弁制御機能>
ECU70は、算出された発電要求量と、図4のマップとに基づいて、目標とするべき背圧弁42の開度を算出し、これに従って、背圧弁42の開度を制御する機能を備えている。図4に示すように、発電要求量が大きくなると、カソードで空気不足とならず、空気が高圧で供給されるように、背圧弁42の開度が小さくなる関係となっている。
なお、図4のマップは、事前試験等によって求められ、ECU70に予め記憶されている。
【0068】
<ECU−電流制御機能>
ECU70は、算出された発電要求量と、図5のマップとに基づいて、目標とするべき燃料電池スタック10の電流値(出力)を算出し、この電流値となるように電力制御器52を制御する機能を備えている。図5に示すように、発電要求量が大きくなると、目標とするべき電流値は大きくなる関係となっている。つまり、燃料電池車が加速すると、発電要求量が大きくなるから、目標とするべき電流値は大きくなり、逆に、燃料電池車が減速すると、発電要求量が小さくなるから、目標とするべき電流値は小さくなる関係となっている。
なお、図5のマップは、事前試験等によって求められ、ECU70に予め記憶されている。
【0069】
<ECU−減速判定機能>
ECU70は、燃料電池車が現在減速中であるか否か判定する機能を備えている。
ここでは、所定時間Δt(例えば3〜10秒)における実際の電流値の変化量ΔIが0よりも小さい場合、燃料電池車は現在減速中であると判定するように設定されている。これに対し、所定時間Δtにおける実際の電流値の変化量ΔIが0である場合、燃料電池車は一定速度で定常走行中であると判定し、所定時間Δtにおける実際の電流値の変化量ΔIが0よりも大きい場合、燃料電池車は加速中であると判定するように設定されている。
【0070】
ただし、燃料電池車が減速中であるか否かについての判定方法は、これに限定されず、例えば、次のようにしてもよい。
(1)所定時間Δtにおいて、アクセル61の開度を検出する開度センサ(運転状態検出手段)から入力されるアクセル開度θの変化量Δθが0よりも小さい場合、減速中であると判定するようにしてもよい。
(2)所定時間Δtにおいて、車速センサ(運転状態検出手段)から入力される車速vの変化量Δvが0よりも小さい場合、減速中であると判定するようにしてもよい。
(3)配管26bまたは配管26cにアノード流路11を通流するガスの流量Qを検出する流量センサ(運転状態検出手段)を設け、所定時間Δtにおいて、前記流量Qの変化量ΔQが0よりも小さい場合、減速中であると判定するようにしてもよい。
【0071】
<ECU−アイドル停止制御機能>
ECU70は、燃料電池車(燃料電池システム1)のアイドル停止を許可するか否か判定する機能を備えている。例えば、所定時間(5〜10秒)、車速センサ(図示しない)から入力される車速が0であって、ブレーキ62が踏み込まれている場合、アイドル停止条件が成立し、アイドル停止を許可すると判定するように設定されている。
【0072】
そして、ECU70は、アイドル停止を許可すると判定した場合、コンプレッサ41を停止し、アイドル停止を実行する。これにより、コンプレッサ41による電力消費は停止し、これに連動して信号圧が下がり、第2調圧弁25が閉じ、新規な水素の供給は停止され、燃費が向上する。
【0073】
なお、アイドル停止中であるか否かについては、例えば、アイドル停止に係るフラグによって記憶される。
また、アイドル停止中において、ブレーキ62が解除されると、アイドル停止を終了すると共に、前記フラグをリセットし、コンプレッサ41を作動させるようになっている。
【0074】
≪燃料電池システムの動作≫
次に、燃料電池システム1の動作について説明する。
【0075】
ECU70は、ポンプ27を一定の回転速度で作動させる。そうすると、タンク部26dの水がノズル130に圧送される。そして、ノズル130から水が噴射されると、エゼクタ100において負圧が発生し、この負圧によって、配管26cを介して、アノード流路11に滞留する水分(水蒸気、結露水)が吸引され、アノード流路11から水分が排出される。これにより、燃料電池スタック10の発電性能が低下することはない。
【0076】
ECU70は、ポンプ27を作動させると共に、アイドル停止に関するフラグを参照して、燃料電池車(燃料電池システム1)が、アイドル停止中であるか否か判定する。
アイドル停止中であると判定した場合、コンプレッサ41を停止させる。これにより、第2調圧弁25に入力される信号圧が下がり、第2調圧弁25が閉じ、アノード流路11におけるガスの流量が減少する。そして、このような状況において、例えばバッテリを充電するため、アノード流路11に残留する水素を消費しながら燃料電池スタック10が発電する。
【0077】
一方、アイドル停止中でないと判定した場合、ECU70は、燃料電池車が現在減速中であるか否か判定する。
燃料電池車は減速中であると判定した場合、ECU70は、アイドル停止中であると判定した場合と同様にコンプレッサ41を停止させる。
なお、このように減速中である場合、コンプレッサ41の回転速度は低下し、信号圧も下がり、第2調圧弁25が開いている時間が短くなり、新規に供給される水素の流量及びアノード流路11を通流するガスの流量が減少する。
【0078】
一方、燃料電池車は減速中でないと判定した場合、すなわち、燃料電池車が加速中、または、一定速度で定常走行中の状態にあると判断した場合、ECU70は、コンプレッサ41を作動させる。
【0079】
これに連動して、信号圧が入力される第2調圧弁25が開閉し、アノード流路11を適量の水素が通流しているので、アノード流路11に水分が滞留することはない。
【0080】
一方、ノズル130から噴射された水と、アノード流路11から吸引された水分とは、エゼクタ100のディフューザ150で混合されながら気液分離器26に向かい、気液分離器26で分離・回収され、タンク部26dに貯溜される。すなわち、水分がアノード流路11に流入することはなく、燃料電池スタック10の発電性能が低下することはない。
【0081】
≪燃料電池システムの効果≫
このような燃料電池システム1によれば次の効果を得る。
ポンプ27が常に作動するので、つまり、燃料電池車がアイドル停止中である場合、減速中である場合はもちろん、燃料電池車が加速中及び定常走行中も、ポンプ27が作動し、エゼクタ100において負圧が発生するので、残留する水素を消費し、燃料電池スタック10を発電させたとしても、発電に伴って生成する水分(水蒸気)は、前記負圧によって吸引され、アノード流路11から排出される。よって、水分によって燃料電池スタック10の発電性能が低下することはない。
【0082】
気液分離器26がエゼクタ100とアノード流路11との間に設けられているので、アノードオフガス中の水分(水蒸気、結露水)と、負圧発生用にノズル130から噴射された水とを、この気液分離器26で分離・回収できる。よって、これらがアノード流路11に流入することなく、燃料電池スタック10の発電性能が低下することもない。
【0083】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、後記する実施形態と適宜組み合わせたり、次のように変更できる。
【0084】
前記した第1実施形態では、負圧発生用の流体が水(液体)である場合を例示したが、例えば、窒素(気体)でもよい。この場合、配管26aに、負圧を発生させるためノズル130から噴射された窒素を回収する流体回収手段として、例えば、窒素と水素とを分離する窒素(水素)分離膜を内蔵する窒素回収装置を設ければよい。
そして、前記窒素(水素)分離膜の分離能(膜厚、膜の材質、連続孔の大きさ等)は、水素分子と窒素分子との大きさに基づいて、膜内における窒素と水素との拡散速度に差異ができるように設計すればよい。
【0085】
前記した第1実施形態では、燃料電池システム1が四輪や二輪の燃料電池車に搭載された場合を例示したが、その他の移動体、例えば列車、船舶に搭載された燃料電池システムでもよい。また、定置型の燃料電池システムに本発明を適用してもよい。
【0086】
前記した第1実施形態では、燃料電池車の走行状態に関係なくポンプ27を一定の回転速度で作動させている場合を例示したが、アイドル停止中又は減速中の場合はポンプ27の回転速度を低くし、加速中又は定常走行中の場合はポンプ27の回転速度を高くなるように制御してもよい。これにより、燃料電池車の走行状況に応じた水素(燃料)の供給が可能となるうえ、無駄なポンプ27の作動も防止できる。
【0087】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の第2実施形態について、図6〜図10を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0088】
≪燃料電池システムの構成≫
図6に示すように、第2実施形態に係る燃料電池システム2は、三方弁31(切換手段)と、エゼクタ200と、を備えている。
具体的には、配管25aの下流端は三方弁31の第1ポートに接続されており、配管27bの下流端は三方弁31の第2ポートに接続されており、三方弁31の第3ポートは配管31aを介してエゼクタ200のノズル130に接続されている。
【0089】
三方弁31は、ECU70の指令に従って作動し、エゼクタ200から見て、(1)配管25aと配管31aとを連通させ、水素タンク21側を開く第1ポジションと、(2)配管27bと配管31aとを連通させ、ポンプ27側を開く第2ポジションと、を適宜切り換えるようになっている。
【0090】
エゼクタ200は、図7、図8に示すように、基体220と、基体220に螺設されたノズル130と、ノズル130の中空部131において、その軸線上を進退自在に移動すると共に、ノズル130の噴射口132に遊挿されたニードル240と、ノズル130の外側で基体220に螺設されたディフューザ150と、ディフューザ150に外嵌したケーシング260と、基体220に螺設されると共にソレノイド271を有するソレノイド部270と、を主に備えている。
【0091】
ニードル240は、ソレノイド部270に内蔵された圧縮コイルばね272によってノズル130側に付勢されている。そして、ソレノイド271がOFFされている場合、ストッパとして機能するニードル240の基端部241が基体220に当接し、ニードル240がソレノイド271のOFF位置で配置されるようになっている。そして、このようにニードル240がOFF位置にある場合、ニードル240の先端242がノズル130の噴射口132から突出し、噴射口132における開口面積が小さくなるように設計されている(図7参照)。
【0092】
一方、ソレノイド271がECU70によりONされた場合、ニードル240がノズル130に対して後退し、ソレノイド271のON位置で配置されるようになっている。そして、このようにニードル240がON位置にある場合、ニードル240の先端242が噴射口132から離間し、噴射口132における開口面積が大きくなるように設計されている(図8参照)。
【0093】
すなわち、第2実施形態において、ノズル130の開口面積を可変する可変部は、ニードル240と、ソレノイド271と、圧縮コイルばね272とを備えて構成されている。
【0094】
ディフューザ150は、その中心軸線上に流路151を有すると共に、その下流側に向かって、略円形の流路151の断面積が徐々に縮径する縮径部152と、断面積が最小となるスロート部153と、断面積が徐々に拡径する拡径する拡径部154と、を備えている。縮径部152には、周方向において複数(例えば4つ)のアノードオフガス導入孔155が形成されている。
【0095】
そして、水素タンク21からの水素、または、ポンプ27からの水が、基体220に形成された第1入口ポート221、ノズル130の中空部131を通って、噴射口132から噴射されると、負圧が発生するようになっている。この負圧により、アノードオフガスが、配管26c(図6参照)から、ケーシング260の第2入口ポート261、ケーシング260とディフューザ150との間に形成されたリング状の分配マニホールド空間262、複数のアノードオフガス導入孔155を介して、流路151に吸引されるようになっている。その後、拡径部154内の流路151において、噴射された水素又は水と、吸引されたアノードオフガスとが混合され、気液分離器26に向かうようになっている。
【0096】
≪燃料電池システムの動作≫
次に、燃料電池システム2の動作について、図9、図10を参照して説明する。
【0097】
図9に示すように、ステップS101において、ECU70は、アイドル停止に関するフラグを参照して、燃料電池車(燃料電池システム1)が、アイドル停止中であるか否か判定する。
アイドル停止中であると判定した場合(S101・Yes)、ECU70の処理は、ステップS106に進む。
なお、このようにアイドル停止中である場合、コンプレッサ41は停止するため、第2調圧弁25に入力される信号圧が下がり、第2調圧弁25が閉じ、アノード流路11におけるガスの流量が減少する。そして、このような状況において、例えばバッテリを充電するため、アノード流路11に残留する水素を消費しながら燃料電池スタック10が発電した場合、発電に伴って生成する水分が、アノード流路11に滞留しやすい。
【0098】
一方、アイドル停止中でないと判定した場合(S101・No)、ECU70の処理は、ステップS102に進む。
【0099】
ステップS102において、ECU70は、燃料電池車が現在減速中であるか否か判定する。
燃料電池車は減速中であると判定した場合(S102・Yes)、ECU70の処理は、ステップS106に進む。
なお、このように減速中である場合、コンプレッサ41の回転速度は低下し、信号圧も下がり、第2調圧弁25が開いている時間が短くなり、新規に供給される水素の流量及びアノード流路11を通流するガスの流量が減少する。そして、このような状況において、例えばバッテリを充電するため、燃料電池スタック10が発電した場合、発電に伴って生成する水分が、アノード流路11に滞留しやすい。
【0100】
一方、燃料電池車は減速中でないと判定した場合(S102・No)、ECU70の処理は、ステップS103に進む。なお、この場合、燃料電池車は加速中、または、一定速度で定常走行中の状態にある(図10参照)。
【0101】
ステップS103において、ECU70は、三方弁31の水素タンク21側を開ける、つまり、配管25aと配管31aとを連通させる。そうすると、水素タンク21からの水素が、配管25a、配管31aを通って、エゼクタ200のノズル130に向かう。
【0102】
ステップS104において、ECU70は、エゼクタ200のソレノイド271をOFFし、ノズル130の開口面積を小さくする(図7、図10参照)。そうすると、水素タンク21からの水素がノズル130から噴射され、負圧が発生する。
【0103】
この場合において、ノズル130の開口面積が小さくなっているので、ノズル130から噴射される水素の流速は、開口面積が大きい場合よりも、大きくなり、その結果、発生する負圧はさらに低くなる。したがって、このさらに低い負圧によって、アノード流路11内の水分を速やかに吸引できる。
【0104】
ステップS105において、ECU70は、ポンプ27を停止させる。そうすると、ノズル130から水が噴射されず、エゼクタ100において負圧は発生しないが、燃料電池車が加速中または略一定速度での定常走行中であるから、コンプレッサ41はこれに対応して作動し、これに連動して、信号圧が入力される第2調圧弁25が開閉し、アノード流路11を適量の水素が通流しているので、アノード流路11に水分が滞留することはない。
また、このようにポンプ27を停止させるので、ポンプ27による消費電力は抑えられる。
その後、ECU70の処理は、リターンを通ってスタートに戻る。
【0105】
次に、ステップS101の判定結果がYes、又は、ステップS102の判定結果がYesとなって進むステップS106を説明する。なお、この場合、燃料電池車は、アイドル停止中、または、減速中の状態にある(図10参照)。
ステップS106において、ECU70は、三方弁31のポンプ27側を開ける、つまり、配管27bと配管31aとを連通させる。
【0106】
ステップS107において、ECU70は、エゼクタ200のソレノイド271をONし、ノズル130の開口面積を大きくする(図8、図10参照)。
【0107】
ステップS108において、ECU70は、ポンプ27を作動させる。そうすると、気液分離器26のタンク部26dの水が、配管27a、配管27b、配管31aを通って、ノズル130に圧送される。圧送された水は、ノズル130から噴射され、エゼクタ100において負圧が発生する。この負圧によって、配管26cを介して、アノード流路11に滞留する水分(水蒸気、結露水)が吸引され、アノード流路11から水分が排出される。これにより、燃料電池スタック10の発電性能が低下することはない。
【0108】
一方、ノズル130から噴射された水と、アノード流路11から吸引された水分とは、エゼクタ100のディフューザ150で混合されながら気液分離器26に向かい、気液分離器26で分離・回収され、タンク部26dに貯溜される。
【0109】
この場合において、ノズル130の開口面積は大きくなっているが(図8、図10参照)、水(液体)の比重は水素(気体)の比重よりも大きいので、負圧を良好に発生させることができる。そして、このように負圧を良好に発生させつつ、開口面積が大きいので流路抵抗が小さくなり、ポンプ27に作用する負荷は軽減される。
その後、ECU70の処理は、リターンを通ってスタートに戻る。
【0110】
≪燃料電池システムの効果≫
このような燃料電池システム2によれば次の効果を得る。
燃料電池車がアイドル停止中であるか否か(S101)、減速中であるか否か(S102)に対応して、つまり、燃料電池システム2の運転状態に対応して、三方弁31を制御し、エゼクタ200のノズル130に、水素又は水を供給するので、全ての運転状態においてエゼクタ200を有効利用できる。
【0111】
また、アイドル停止中(S101・Yes)、減速中(S102・Yes)、三方弁31のポンプ27側を開き、水素タンク21側を閉じるので(S106)、新規な水素がエゼクタ200には導入されず、水が循環しやすくなる。
【0112】
さらに、ノズル130から噴射される流体(水素、水)の種類に対応して、その開口面積を可変するので(S104、S107)、適切に負圧を発生させることができる。
【0113】
以上、本発明の第2実施形態について説明したが、その他に例えば、次のように変更できる。
前記した第2実施形態では、ソレノイド271のON/OFFによって、ノズル130の開口面積を2段階で可変する構成を例示したが、例えば、ニードル240の先端242を先細のテーパ状にすると共に、ステッピングモータ等によって無段階で可変する構成としてもよい。この場合、燃料電池スタック10の電流値が大きくなるにつれて、ノズル130の開口面積が小さくなるように制御することが好ましい。
【0114】
前記した第2実施形態では、三方弁31で切り換える構成としたが、図11に示す燃料電池システム3でもよい。燃料電池システム3は、開閉弁32及び開閉弁33(いずれも切換手段)を備えており、配管25aの下流端は開閉弁32に、配管27bの下流端は開閉弁33に、それぞれ接続されている。また、開閉弁32及び開閉弁33は、上流側が二股の配管32aを介して、エゼクタ200のノズル130に接続されている。
そして、開閉弁32及び開閉弁33を適宜開閉することにより、三方弁31と同様に切り換えることができる。
【符号の説明】
【0115】
1、2、3 燃料電池システム
10 燃料電池スタック(燃料電池)
11 アノード流路(燃料流路)
12 カソード流路(酸化剤流路)
21 水素タンク(燃料供給手段)
26 気液分離器(流体回収手段)
27 ポンプ(流体圧送手段)
26a、26b、27a、27b 配管(燃料循環経路)
31 三方弁(切換手段)
32、33 開閉弁(切換手段)
53 出力検出器(運転状態検出手段)
70 ECU(制御手段)
100、200 エゼクタ
130 ノズル
240 ニードル(可変部)
271 ソレノイド(可変部)
272 圧縮コイルばね(可変部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料流路及び酸化剤流路を有し、前記燃料流路に燃料が供給され、前記酸化剤流路に酸化剤が供給されることで発電する燃料電池と、
前記燃料流路から排出された燃料を、再び前記燃料流路に供給し、燃料を循環させる燃料循環経路と、
前記燃料循環経路に設けられたエゼクタと、
前記燃料流路又は前記エゼクタのノズルに燃料を供給する燃料供給手段と、
前記エゼクタのノズルに負圧発生用の流体を圧送する流体圧送手段と、
前記エゼクタから排出された流体を回収する流体回収手段と、
を備え、前記エゼクタで発生する負圧によって、前記燃料流路から水分を排出する燃料電池システムであって、
前記流体圧送手段は、前記流体回収手段で回収された流体を前記エゼクタに圧送する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記流体回収手段は、前記エゼクタと前記燃料流路の入口との間に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
システムの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記運転状態検出手段が検出する運転状態に基づいて、前記流体圧送手段を制御する制御手段と、
を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料供給手段は前記エゼクタのノズルに燃料を供給し、
前記燃料供給手段から燃料、又は、前記流体圧送手段から流体の前記エゼクタへの供給を切り換える切換手段を備え、
前記制御手段は、
前記運転状態検出手段の検出する運転状態が増加又は一定である場合、前記燃料供給手段から前記エゼクタに燃料が供給されるように、前記切換手段を制御し、
前記運転状態検出手段の検出する運転状態が減少している場合、前記流体圧送手段から前記エゼクタに流体が供給されるように、前記切換手段を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記エゼクタは、そのノズルの開口面積を可変する可変部を備え、
前記制御手段は、前記運転状態検出手段の検出する運転状態に基づいて、前記可変部を制御する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料供給手段から前記エゼクタに向かう燃料は気体であり、
前記流体圧送手段から前記エゼクタに向かう流体は液体であり、
前記エゼクタは、そのノズルの開口面積を可変する可変部を備え、
前記制御手段は、
前記運転状態検出手段の検出する運転状態が増加又は一定である場合、前記ノズルの前記開口面積が小さくなるように、前記可変部を制御し、
前記運転状態検出手段の検出する運転状態が減少している場合、前記ノズルの前記開口面積が大きくなるように、前記可変部を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−129377(P2011−129377A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286694(P2009−286694)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】