説明

燃料電池用カソード触媒、その製造方法及び固定化方法、並びに燃料電池

【課題】本発明は、燃料電池の酸化剤還元に用いる燃料電池用カソード触媒、その製造方法及び固定化方法、並びに上記燃料電池用カソード触媒を備える燃料電池に関し、本発明によれば、白金触媒に替わる安価、かつ高触媒活性を有する非白金系カソード触媒を提供でき、燃料電池の普及に貢献する。また、本発明のカソード触媒は、メタノールに対する耐久性の高いカソード触媒であるため、高濃度の燃料が使用可能になり、DMFCのエネルギー密度の大幅な増加が期待できる。
【解決手段】本発明の燃料電池用カソード触媒は、PdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のカソード触媒として使われている白金触媒を代替可能な新規燃料電池用カソード触媒、その製造方法及び固定化方法、並びにこれを備える燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質を用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC(Direct Methanol Fuel Cell))は、改質器などの捕助的な装置を必要としないことから、次世代小型電力源として注目されている。固体高分子型燃料電池(PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell))やDMFCにおいて、カソード触媒として酸素還元活性が高い白金担持カーボンが使用されている。しかし、白金供給量の制限及び高価格が、実用化において問題となっている。そのため、極微量白金担持カーボン触媒の開発、触媒の高活性化に関する研究及び白金代替触媒に関する研究が活発に行われている。白金に替わる安価、かつ高触媒活性を有する非白金系カソード触媒の開発は燃料電池普及の一つのキーとなっている。
【0003】
現在、Pt−M(Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cuなど)系のように二元合金化することにより白金使用量を低減するための研究が主になされているが、白金代替触媒として白金以外の触媒に関する報告はあまりなされてはいない。これらも、更に格段の白金使用量削減、高性能化を目指しているが、セル化、スタック化した時の性能向上への課題が残っているのが現状である。
【0004】
近年、スパッタリング法又はゾルゲル法で作製されたPd−Me(Me=Co,Ni,Cr)合金触媒が酸性溶液中で白金に相当する酸素還元活性を示すことが報告されている。しかしながら、実際の燃料電池への応用のためには、この合金を粒径化し、導電材料であるカーボンに担持させ、膜電極接合体(MEA)を作製して評価を行う必要があることから実用化には、合金粒子を簡便に合成し、合金粒子の大きな調節などが必要とされる。また、一般的なナノ粒子の合成方法である含浸法では、金属イオンを含む溶液から液相還元(N24、NaBH4、NaS25などを使用)又は気相還元(H2使用)を利用する。しかし、この方法では,金属担持量を多くすると、金属の凝集が起こりやすいという問題点がある。
【0005】
一方、白金代替触媒に関する研究は金属酸化物、カルコゲン、ポルフィリンなどが主に研究されているが、いずれも酸素還元活性は、白金よりは劣っているのが現実である。また、非白金系触媒の研究は、古くは有機金属錯体において、アルカリ溶液中の酸素還元反応が研究されていたが、有機金属錯体の安定性などが問題となっている。
【0006】
更に、DMFCの電解質膜として数多く用いられているナフィオン(登録商標)は、DMFCの燃料であるメタノールが固体高分子電解質膜を透過してカソードに至り、透過したメタノールがカソードで非電気化学的に酸化されることにより燃料が無駄に消費されること、酸素還元触媒を被毒して触媒活性を低下させることが問題になっており、メタノールに対する耐久性の高いカソード触媒の開発が求められている。
【0007】
なお、本発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある。
【非特許文献1】J.L.Fernandez et al,JACS,127,2005年,13100−13101
【非特許文献2】Jong−Eun Park et al,Ultrasonics Sonochem.,13,2006年,237
【非特許文献3】Jong−Eun Park et al,Chem. Commun.,25,2006年,2708
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、安価で、かつメタノールに対する耐久性の高い高活性な燃料電池用カソード触媒、その製造方法及び固定化方法、並びに燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、燃料電池の酸化剤の還元に用いるカソード触媒であって、PdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒を提供する。
【0010】
上記カソード触媒は、アルカリ水溶液中での酸化剤の還元に用いることが好ましい。
上記燃料電池は、直接メタノール型燃料電池であることが好ましい。
上記カソード触媒は、上記化合物中にPdを40〜95原子%で含むことが好ましい。
上記PdSnは、PdとSnとをPd:Sn=70:30〜50:50の原子比で含み、上記PdAuは、PdとAuとをPd:Au=70:30〜50:50の原子比で含み、上記PdCoは、PdとCoとをPd:Co=95:5〜60:40の原子比で含み、上記PdWO3は、PdとWとをPd:W=90:10〜40:60の原子比で含むことが好ましい。
上記カソード触媒は、平均粒径が30nm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明のPdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含む燃料電池用カソード触媒は、アルカリ水溶液中において、特に、固体高分子電解質膜におけるメタノールのクロスオーバーによるメタノールの影響を想定したメタノール高濃度のアルカリ水溶液においても、既存の白金触媒より優れた酸化剤還元特性を示す。また、アノードからカソードへのメタノールクロスオーバーが起こっても選択的な酸化剤還元が可能なことから、高濃度の燃料を使用することが期待でき、メタノールを含むアルカリ水溶液として酸化剤が供給され、これを選択的に還元する場合においても、高い酸化剤還元性能を発揮する。更に、メタノール存在下においても酸化剤還元性能の低下が少ないことから、特に、直接メタノール型の燃料電池におけるアノード側へのメタノール供給濃度を高くすることが可能となり、燃料電池の高エネルギー密度化が期待できる。
【0012】
また、本発明は、上記燃料電池用カソード触媒の製造方法として好適な方法として、原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンを含む原料金属の供給源と、有機酸と、水溶性有機化合物とを含有する水溶液中に超音波を照射し、該超音波により生成したラジカルにより、上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを還元して、原料金属を含む触媒粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒の製造方法を提供する。
【0013】
上記原料金属の供給源は、Pd、Sn、Au、Co及びWからなる群より選択される金属の上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを供給することができる水溶性塩であることが好ましい。
上記水溶液は、原料金属の供給源を原料金属基準で0.05〜2mmol/Lの濃度で含むことが好ましい。
上記有機酸は、カルボン酸であることが好ましい。
上記有機酸は、上記水溶液に1〜10mmol/Lの濃度で含まれることが好ましい。
上記水溶性有機化合物は、アルコールであることが好ましい。
上記水溶性有機化合物は、上記水溶液に1〜10mmol/Lの濃度で含まれることが好ましい。
上記超音波照射は、15kHz〜1.7MHzの周波数の超音波を照射して行われることが好ましい。
上記超音波照射は、10〜90W/cm2の単位面積当たりエネルギー束で超音波を照射して行われることが好ましい。
上記超音波照射は、10〜40℃で行われることが好ましい。
【0014】
この方法によれば、カソード触媒を凝集させることなく、高分散のナノサイズの超微粒子として簡便な方法で製造することができ、得られたカソード触媒により、高い還元効率を達成することができる。
【0015】
また、本発明は、原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンを含む原料金属の供給源と、有機酸と、水溶性有機化合物とを含有する水溶液中に超音波を照射し、該超音波により生成したラジカルにより、上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを還元して、原料金属を含む触媒粒子を生成させ、次いで上記触媒粒子が生成した溶液中に、表面に有機シラン化合物の単分子膜を形成した電極を浸漬して、上記電極表面に上記触媒粒子を固定化する工程を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒の固定化方法を提供する。
【0016】
この方法によれば、電極表面上にカソード触媒を固定化した表面粗さ(Ra)10nm以下の平坦性の高い表面を有する電極を製造することができ、得られた電極上のカソード触媒により、高い還元効率を達成することができる。この平坦性の高いカソード触媒固定化電極は、膜状のものと異なり、ナノ粒子一つ一つが積み重なった立体構造をもっているため、膜状のものと比べて比較的大きい表面積をもっていることから、この立体構造により、高い触媒活性が高い触媒利用率で発揮される。
【0017】
一般的なナノ粒子の製造方法である含浸法や熱還元法は、含浸法では粒子の製造の際、還元剤を使用するため、還元剤や副生物を除去する過程が必要となる。また、熱還元法では高温装置が必要となり簡便に合成するのは難しく、粒子の凝集も避けられない。一方、本発明の超音波法による方法では、水溶液中に超音波を照射しキャビテーションを生成させ、これによって生じる水素ラジカル(H)により還元できることから、還元剤や副生物の除去の必要がなく、また、超音波を照射するたけで合成が可能であるため還元剤が不必要となり簡便な工程で製造することが可能である。
【0018】
また、本発明は、上記燃料電池用カソード触媒をカソード触媒として備えることを特徴とする燃料電池を提供する。
【0019】
上記燃料電池は、アルカリ水溶液中で酸化剤の還元を行うものであることが好ましい。
上記燃料電池は、直接メタノール型燃料電池であるがこと好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、白金触媒に替わる安価、かつ高触媒活性を有する非白金系カソード触媒を提供でき、燃料電池の普及に貢献する。また、本発明のカソード触媒は、メタノールに対する耐久性の高いカソード触媒であるため、高濃度の燃料が使用可能になり、DMFCのエネルギー密度の大幅な増加が期待できる。本発明のカソード触媒は、固体高分子型燃料電池、各種工業電解、また腐食反応など広い範囲の電気化学分野で白金代替触媒として使用することができ、特に、燃料電池のカソード触媒として特に有効であり、産業界に及ぼす影響は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明の燃料電池用カソード触媒は、燃料電池の酸化剤の還元に用いるカソード触媒であり、PdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含むパラジウム系触媒である。
【0022】
本発明のPdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含むカソード触媒は、アルカリ水溶液において、また、固体高分子電解質膜におけるメタノールのクロスオーバーによるメタノールの影響を想定した、特に、メタノールを高濃度(例えば、0.1〜2mol/L)で含むメタノール水溶液(特にメタノール−アルカリ水溶液)において、カソード触媒として既存の白金触媒より優れた還元特性を示すことから、このような条件下で燃料電池の空気、酸素(O2)、オゾン(O3)、過酸化水素(H22)等の酸化剤を還元する場合に好適である。
【0023】
また、アノードからカソードへのメタノールクロスオーバーが起こっても、選択的な酸化剤還元が可能なことから、高濃度の燃料を使用することが期待できる。また、メタノールを含むアルカリ水溶液として酸化剤が供給され、これを選択的に還元する場合においても、高い酸化剤還元性能を発揮する。更に、メタノール存在下においても還元性能の低下が少ないことから、特に、直接メタノール型の燃料電池におけるカソード側へのメタノール供給濃度を高くすることが可能となり、燃料電池の高エネルギー密度化が期待できる。
【0024】
本発明のカソード触媒において、PdとPd以外の金属(M)(即ち、M=Sn、Au、Co又はW)との原子比は、特に限定されるものではないが、Pd:Pd以外の金属(M)=95:5〜40:60であることが好ましい。特に、PdSnの場合、Pd:Sn=70:30〜50:50、PdAuの場合、Pd:Au=70:30〜50:50、PdCoの場合、Pd:Co=95:5〜60:40、PdWO3の場合、Pd:W=90:10〜40:60であることが好ましい。
【0025】
このような本発明のカソード触媒は、原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンを含む原料金属の供給源と、有機酸と、水溶性有機化合物とを含有する水溶液中に超音波を照射することにより製造することができる。液体中に超音波を照射すると、キャビテーションを生じ、生成した泡は、成長して、内破崩壊を引き起こし、崩壊泡のガスの中で断熱圧縮又は衝撃波によって局所的なホットスポットを発生させる。
【0026】
発生したホットスポットにおいては、温度は最大5000K、圧力は2000atmにも達し、この雰囲気により、水(H2O)から、水素ラジカル(H)とヒドロキシラジカル(HO)とが生成し、この水素ラジカルによって、原料イオン(原料金属イオン、原料金属含有イオン)が還元されることにより触媒粒子(合金粒子)が生成する。
【0027】
この触媒粒子の生成反応は、主に以下の反応機構によるものと考えられる。
2O→H+HO (1)
RH(有機物)+HO→R+H2O (2)
RH(有機物)→有機熱分解ラジカル (3)
nH+M+→M+nH+ (4)
nR+M+→M+R’+nH+ (5)
n(M0)→(M0n (6)
【0028】
超音波を照射する水溶液(原料液)には、原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンが含まれるが、このようなものとしては、PdSn、PdAu、PdCo及びPdWO3の各々に対応する原料金属(即ち、Pd、Sn、Au、Co又はW)のイオン及び、原料金属を含有するイオン(例えば、金属酸イオン、塩化金属酸イオンなど)を供給することができる水溶性塩を用いることができる。水溶性塩としては、例えば、Pd源としては、(NH42PdCl4、PdCl2など、Sn源としては、SnCl2・2H2O、SnCl2など、Au源としては、NaAuCl4・2H2O、HAuCl4など、Co源としては、CoSO4・7H2O、CoCl2、CoCl2(H2O)6など、W源としては、Na2WO4・2H2Oなどが挙げられる。原料液中の原料イオン(原料金属イオン及び/又は原料金属含有イオン)を含む原料金属の供給源の濃度は、上記原料金属(即ち、Pd、Sn、Au、Co及びW)基準で0.05〜2mmol/L程度が好ましい。
【0029】
また、原料液には、有機酸が含まれる。有機酸は、生成した触媒粒子の分散性を向上させる目的で添加される。このような有機酸としては、カルボン酸、特にヒドロキシカルボン酸が好適であり、具体的には、クエン酸、グリセリン酸、グリコール酸、イソクエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸は、生成した触媒粒子に配位して、触媒粒子相互の凝集を抑制することができることから特に好適である。原料液中の有機酸の濃度は、1〜10mmol/L程度が好ましい。
【0030】
原料液には、上記有機酸以外の有機化合物として、水溶性の有機化合物を含む。この有機化合物は、上述した反応機構において示した有機物として作用するものである。この水溶性の有機化合物としては、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコールが好適である。原料液中のこの水溶性の有機化合物の濃度は、1〜10mmol/L程度が好ましい。
【0031】
原料液に超音波を照射することにより、上述したように、水素ラジカル(H)が発生し、この水素ラジカル、更には、ヒドロキシラジカル(OH)と反応した有機物から生成したラジカル(R)によって、原料イオン(原料金属イオン及び/又は原料金属含有イオン)が還元されて、原料金属を含む触媒粒子(合金粒子)が生成する。生成した触媒粒子は、必要に応じて、公知の手法により液中から分離、回収することが可能であるが、後述するように、電極表面上に固定化する場合は、触媒粒子が分散した液をそのまま固定化に用いることも可能である。
【0032】
超音波の照射には、市販の超音波照射装置を用いることができ、その照射条件は適宜選定することができるが、例えば、周波数は15kHz〜1.7MHz、単位面積あたりのエネルギー束は10〜90W/cm2とすることができる。また、照射温度(水溶液温度)は常温前後(例えば、10〜40℃)でよく、照射時間は0.5〜4時間程度が好適である。
【0033】
本発明のカソード触媒が粒子の場合、その平均粒子径(例えば、透過型電子顕微鏡による形態観察等によって測定することができる)は30nm以下、特に4〜10nmとすることができる。
【0034】
更に、本発明においては、上記方法で生成させた触媒粒子を、電極の表面上に固定化することができる。この場合、電極の表面に有機シラン化合物の単分子膜を形成し、この有機シラン化合物の単分子膜を介して触媒粒子を固定化することが好ましい。電極としては、後述する有機シラン化合物を使用する点から、表面にOH基を形成でき、かつ電極として機能する(即ち、導電性を有する)材質であることが好ましい。このようなものとしては、ITO(酸化インジウム錫)等の導電性金属酸化物が好適である。このような導電性金属酸化物は、例えば、アルカリ水溶液に電極である導電性金属酸化物を浸漬するなどの方法で、表面を処理することによりOH基を生成することができる。
上記アルカリ水溶液によるアルカリ処理工程は、電極の洗浄及びOH基を電極の表面に生成するためのものであって、上記アルカリ処理により電極の表面に生成したOH基が有機シラン化合物のアルコキシ基と反応(加水分解反応)することにより、電極上に有機シラン化合物の単分子膜が形成される。
この際、アルカリ水溶液を形成するアルカリ物質としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される金属の水酸化物を用いることができ、具体的にはKOH,NaOH等を用いることができる。上記アルカリ水溶液は、0.01〜5mol/Lの濃度でアルカリ物質を含むことができる。
【0035】
次に、電極表面に有機シラン化合物の単分子膜を形成するが、この有機シラン化合物の単分子膜としては、例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(トリメトキシシリル)エチル−2−ピリジン、(アミノエチル)−フェネチルトリメトキシシラン等のアミノ基を有すると共に、アルコキシ基を有する有機シラン化合物が、特に触媒粒子の固定化のしやすさと密着性との点から好ましい。例えば、上述した電極表面上に生成したOH基と、有機シラン化合物のアルコキシ基との反応(加水分解反応)により、有機シラン化合物が電極に結合し、アミノ基を電極から離間する側に向けて配列した有機シラン化合物の単分子膜が形成される。
【0036】
上記有機シラン化合物の単分子膜は、気相法、溶液法のいずれの方法を用いても形成することができるが、簡便性、生産性が良好な点において溶液法による作製が好ましい。溶液法では、有機シラン化合物は、溶媒に有機シラン化合物を溶解させた溶液として用いられ、有機シラン化合物溶液に、OH基が生成した電極を浸漬するなどの方法により、電極を有機シラン化合物に接触させて有機シラン化合物の単分子膜を形成する。この場合、溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、トルエン等の炭化水素系溶媒等が用いられる。
【0037】
有機シラン化合物溶液の濃度は、電極を浸漬する(接触させる)時間にもよるが、好ましくは0.2〜3質量%、特に1質量%前後が好ましい。また、この有機シラン化合物溶液は、好ましくは20〜90℃、特に40〜70℃、とりわけ50〜60℃の温度範囲で用いられる。なお、浸漬(接触)時間は、有機シラン化合物の濃度及び溶液の温度により適宜決定されるが、1分間〜12時間、特に5分間〜12時間程度が好ましい。
【0038】
有機シラン化合物による処理の後、余剰の有機シラン化合物を除去すれば、電極表面上に有機シラン化合物の単分子膜が形成される。余剰の有機シラン化合物の除去は、例えばエタノール等のアルコール、又はアルコールと水の混合液等と接触、或いはこれら液中に浸漬するなどの方法により可能であり、この際、超音波による洗浄を併用してもよい。
【0039】
次に、有機シラン化合物の単分子膜を形成した電極を、前述した方法により超音波を照射して触媒粒子が生成した分散液に浸漬することにより、電極上に触媒粒子を固定化することができる。この場合、分散液中の触媒粒子は、液中に含まれる有機酸が触媒粒子を中心として、カルボキシル基を外方に向けて触媒粒子に配位することから、このカルボキシル基と、有機シラン化合物の単分子膜のアミノ基との作用によって、触媒粒子が、電極上に有機シラン化合物の単分子膜を介して固定化される。
【0040】
この触媒粒子の固定化は、有機シラン化合物の単分子膜を形成した電極を、例えば、常温前後(例えば、10〜40℃)で、0.5〜24時間、上述した触媒粒子が生成した分散液に浸漬することで可能である。なお、この触媒粒子が固定化された層の厚さは、通常、70〜200nm程度である。
【0041】
この方法によれば、触媒粒子を固定化した電極の表面の粗さを、Ra=10nm以下、特にRa=8nm以下、とりわけRa=5〜7nm程度とすることができ、この方法により触媒粒子を固定化した良好な平坦性を有し、かつナノ粒子一つ一つが積み重なった立体構造を有する電極を用いることにより、高い触媒活性そして高い触媒の利用率が期待できる。
【0042】
本発明のカソード触媒は、燃料電池、特に、直接メタノール型燃料電池用のカソード触媒として好適であり、アルカリ水溶液中で酸化剤の還元を行うものとして好適である。なお、このカソード触媒を用いた燃料電池のカソード触媒以外の構成は、従来公知の構成を適用することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び参考例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実施例1]
(NH42PdCl4を0.2mmol/L、SnCl2・2H2Oを0.2mmol/L、クエン酸を4mmol/L含有する水溶液100mLに、エタノールを10mL加えた水溶液を、150mLガラスビーカーに入れ、この水溶液に、Branson社製 Sonifier 450Dを用いて、20kHz、55W(42W/cm2)、2時間、25±2℃の条件で超音波を照射し、PdSn合金ナノ粒子を生成させた。この粒子のPdとSnの原子比(X線光電子分光(XPS)にて測定)は、Pd70Sn30であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPdSn合金ナノ粒子を観察した。粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像を図1に示す。TEM像から測定した粒子径は8〜10nmであった。
【0045】
[実施例2]
SnCl2・2H2OをNaAuCl4・2H2Oに代えた以外は、実施例1と同様の方法で、PdAu合金ナノ粒子を生成させた。この粒子のPdとAuの原子比は、Pd85Au15(XPSにて測定)であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPdAu合金ナノ粒子を観察した。粒子のTEM像を図2に示す。TEM像から測定した粒子径は6〜7nmであった。
【0046】
[実施例3]
SnCl2・2H2OをCoSO4・7H2Oに代えた以外は、実施例1と同様の方法で、PdCo合金ナノ粒子を生成させた。この粒子のPdとCoの原子比は、Pd95Co5(XPSにて測定)であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPdCo合金ナノ粒子を観察した。粒子のTEM像を図3に示す。TEM像から測定した粒子径は30nmであった。
【0047】
[実施例4]
SnCl2・2H2OをNa2WO4・2H2Oに代えた以外は、実施例1と同様の方法で、PdWO3合金ナノ粒子を生成させた。この粒子のPdとWO3の原子比(XPSにて測定)は、Pd60(WO340であった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPdWO3合金ナノ粒子を観察した。粒子のTEM像を図4に示す。TEM像から測定した粒子径は7〜8nmであった。
【0048】
[参考例1]
SnCl2・2H2Oを用いず、(NH42PdCl4を0.2mmol/Lとした以外は、実施例1と同様の方法で、Pdナノ粒子を生成させた。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPdナノ粒子を観察した。粒子のTEM像を図5に示す。TEM像から測定した粒子径は4〜5nmであった。
【0049】
[参考例2]
(NH42PdCl4及びSnCl2・2H2Oを用いず、H2PtCl6・6H2Oを0.2mmol/Lとした以外は、実施例1と同様の方法で、Ptナノ粒子を生成させた。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、生成したPtナノ粒子を観察した。
粒子のTEM像を図6に示す。TEM像から測定した粒子径は2〜3nmであった。
【0050】
[実施例5]
ITO電極を1mol/LのKOH水溶液に浸漬して、電極を洗浄すると共に、その表面にOH基を形成した。次に、表面にOH基が形成されたITO電極を、2.5質量%γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)−トルエン溶液に25℃で6時間浸漬することにより、ITO電極表面にAPSの単分子膜を形成した。次に、単分子膜を形成した電極を、実施例1のPdSn合金ナノ粒子(触媒粒子)が生成した液中に25℃で12時間浸漬し、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。
【0051】
得られた電極の触媒粒子が固定化された表面の粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)により得られた表面像の画像解析により算出したところRa=7nmであった。
【0052】
[実施例6]
実施例2のPdAu合金ナノ粒子が生成した液を用いた以外は実施例5と同様の方法で、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。
【0053】
[実施例7]
実施例3のPdCo合金ナノ粒子が生成した液を用いた以外は実施例5と同様の方法で、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。
【0054】
[実施例8]
実施例4のPdWO3合金ナノ粒子が生成した液を用いた以外は実施例5と同様の方法で、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。
【0055】
[参考例3]
参考例1のPdナノ粒子が生成した液を用いた以外は実施例5と同様の方法で、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。得られた電極の触媒粒子が固定化された表面の粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)により得られた表面像の画像解析により算出したところRa=10nmであった。
【0056】
[参考例4]
参考例2のPtナノ粒子が生成した液を用いた以外は実施例5と同様の方法で、触媒粒子をAPSの単分子膜を介してITO電極の表面に固定化した。得られた電極の触媒粒子が固定化された表面の粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)により得られた表面像の画像解析により算出したところRa=13nmであった。
【0057】
また、実施例5〜8、及び参考例3,4で得られた電極を用いて、酸化剤還元に対する特性をサイクリックボルタンメトリー(CV)法により評価した。カソードスキャンを速度100mV/sで実施し、(a)0.5mol/LでKOHを含む水溶液中の飽和酸素、(b)0.5mol/LでKOH及び2mol/Lでメタノールを含む水溶液中の飽和酸素の2種において評価した。(a)の結果を図7に、(b)の結果を図8に示す。なお、図7,8中、X軸(横軸)[E/V vs. Ag/AgCl]は、参照電極Ag/AgClに対する作用電極(Pdベースの非白金ナノ粒子修飾電極)の電位であり、Y軸(縦軸)[Current/mAcm-2]は、電流密度を示す。
【0058】
以上の結果から、図7に示されるように、実施例5〜8のカソード触媒により、アルカリ溶液中で参考例4の白金触媒より優れた酸化剤還元特性が得られることがわかる。アルカリ溶液中の酸化剤還元性能は、PdSn>PdAu>PdWO3>PdCoの順である。更に、図8に示されるように、参考例4の白金触媒では2mol/Lメタノール存在下での酸素還元電位が、図7に示されるメタノール不存在下と比べ約400mV負の電位へシフトしたが、実施例5〜8のカソード触媒では、2mol/Lメタノール存在下でも酸素還元電位の変化は小さかった(約50mV程度のシフト)。メタノール存在下での酸化剤還元性能は、PdSn>PdCo>PdAu>PdWO3の順である。この結果から、本発明のカソード触媒は、ナフィオン(登録商標)等の固体高分子電解質膜におけるメタノールのクロスオーバーの影響をほとんど受けない。その結果、高濃度の燃料メタノールを使用することができるので、燃料電池の高エネルギー密度化が可能となることがわかる。
また、上記のようなメタノール存在有無により実施例5〜8によるカソード触媒の酸化剤還元性能が異なってくるのは、酸素還元活性がそれぞれ異なるためである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1で得られたPdSn触媒粒子のTEM像である。
【図2】実施例2で得られたPdAu触媒粒子のTEM像である。
【図3】実施例3で得られたPdCo触媒粒子のTEM像である。
【図4】実施例4で得られたPdWO3触媒粒子のTEM像である。
【図5】参考例1で得られたPd触媒粒子のTEM像である。
【図6】参考例2で得られたPt触媒粒子のTEM像である。
【図7】実施例5〜8及び参考例3,4の触媒のKOH水溶液中での酸化剤の還元特性を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図8】実施例5〜8及び参考例3,4の触媒のメタノールを含むKOH水溶液中での酸化剤の還元特性を示すサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の酸化剤の還元に用いるカソード触媒であって、PdSn、PdAu、PdCo、PdWO3、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒。
【請求項2】
アルカリ水溶液中での酸化剤の還元に用いることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用カソード触媒。
【請求項3】
燃料電池が、直接メタノール型燃料電池であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用カソード触媒。
【請求項4】
上記化合物中にPdを40〜95原子%で含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒。
【請求項5】
上記PdSnが、PdとSnとをPd:Sn=70:30〜50:50の原子比で含み、上記PdAuが、PdとAuとをPd:Au=70:30〜50:50の原子比で含み、上記PdCoが、PdとCoとをPd:Co=95:5〜60:40の原子比で含み、上記PdWO3が、PdとWとをPd:W=90:10〜40:60の原子比で含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒。
【請求項6】
平均粒径が30nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒。
【請求項7】
原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンを含む原料金属の供給源と、有機酸と、水溶性有機化合物とを含有する水溶液中に超音波を照射し、該超音波により生成したラジカルにより、上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを還元して、原料金属を含む触媒粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項8】
上記原料金属の供給源が、Pd、Sn、Au、Co及びWからなる群より選択される金属の上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを供給することができる水溶性塩であることを特徴とする請求項7記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項9】
上記水溶液が、原料金属の供給源を原料金属基準で0.05〜2mmol/Lの濃度で含むことを特徴とする請求項7又は8記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項10】
上記有機酸が、カルボン酸であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項11】
上記有機酸が、上記水溶液に1〜10mmol/Lの濃度で含まれることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項12】
上記水溶性有機化合物が、アルコールであることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項13】
上記水溶性有機化合物が、上記水溶液に1〜10mmol/Lの濃度で含まれることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項14】
上記超音波照射が、15kHz〜1.7MHzの周波数の超音波を照射して行われることを特徴とする請求項7乃至13のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項15】
上記超音波照射が、10〜90W/cm2の単位面積当たりエネルギー束で超音波を照射して行われることを特徴とする請求項7乃至14のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項16】
上記超音波照射が、10〜40℃で行われることを特徴とする請求項7乃至15のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒の製造方法。
【請求項17】
原料金属イオン、原料金属含有イオン、及びこれらの混合物からなる群より選択される原料イオンを含む原料金属の供給源と、有機酸と、水溶性有機化合物とを含有する水溶液中に超音波を照射し、該超音波により生成したラジカルにより、上記原料金属イオン又は原料金属含有イオンを還元して、原料金属を含む触媒粒子を生成させ、次いで上記触媒粒子が生成した溶液中に、表面に有機シラン化合物の単分子膜を形成した電極を浸漬して、上記電極表面に上記触媒粒子を固定化する工程を含むことを特徴とする燃料電池用カソード触媒の固定化方法。
【請求項18】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の燃料電池用カソード触媒をカソード触媒として備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項19】
アルカリ水溶液中で酸化剤の還元を行うものであることを特徴とする請求項18記載の燃料電池。
【請求項20】
直接メタノール型燃料電池であることを特徴とする請求項18又は19記載の燃料電池。

【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−135380(P2008−135380A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277536(P2007−277536)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】