説明

燃料電池用水処理装置、及び水処理方法

【課題】燃料電池からの凝縮水中の炭酸イオン等以外の成分(クラッド、PSS、アンモニア等)を除去して、高純度の凝縮水とする。電気式脱イオン水製造装置において、高い除去効率で炭酸イオンや炭酸水素イオン等を長期間、除去する。
【解決手段】燃料電池から回収した水を処理し、電気式脱イオン水製造装置及び前処理用水処理装置を有する燃料電池用水処理装置。電気式脱イオン水製造装置は、アニオン交換体が単床で充填された脱塩室を有する。前処理用水処理装置は、電気式脱イオン水製造装置の前段に設置され、カチオン交換体とアニオン交換体とが、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合で充填されている。前処理用水処理装置は、最も上流側に第1のイオン交換領域を有し、第1のイオン交換領域は少なくともカチオン交換体を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用水処理装置、及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出量が少なく、環境性能に優れた発電手段として、燃料電池が注目されるようになってきている。この燃料電池は、水素と酸素から水を生成する反応を行わせる際に発生するエネルギーを電力として取り出している。
【0003】
燃料電池の作動時には水素と酸素の反応によって熱が発生する。このため、燃料電池本体の冷却のために循環冷却水系を設けて、この中に水を循環させることにより、燃料電池の冷却を行っている。また、燃料電池の前段部に改質器を設けて、燃料の水蒸気改質を行うことにより水素等を発生させ、これを燃料電池の燃料極(アノード)に導入している。このように燃料電池では水を使用している。
【0004】
一方、燃料電池では、発電時に空気極(カソード)から水蒸気が発生する。また、循環冷却水系を流れる冷却水は、燃料電池の発電時の熱によって水蒸気と水の二相系となっている。このため、これらの水蒸気を回収して、凝縮器で凝縮させて水(以下、この水を「凝縮水」と記載する場合がある)としている。そして、系全体の使用水量を減らすため、この凝縮水を循環させて上記循環冷却水系や改質器等で再使用している。
【0005】
しかし、凝縮水中には、様々なイオン成分やクラッドが存在している。このため、凝縮水を上記循環冷却水系や改質器等で再使用するためには、水処理によりこれらのイオン成分やクラッドを除去する必要がある。そこで、従来から、凝縮水中のイオン成分等を除去するための水処理装置が検討されている。この中でも、電気式脱イオン水製造装置は、イオン成分の除去効率が高く、長期間の使用が可能であるため有用である。
【0006】
特許文献1(特開2001−176535号公報)には、改質器と、燃料電池本体と、この燃料電池本体から生成した水蒸気および燃焼排ガス中の水蒸気の凝縮水を回収する回収水タンクと、回収水を回収水導入配管から導入して高純度にした後,純水導出配管から導出する電気式脱イオン水製造装置とを備えた燃料電池発電装置の水処理装置が開示されている。
【0007】
特許文献2(特開2001−236981号公報)には、燃料電池で生じた生成水を水回収装置で回収し、得られた回収水をポンプにより電気式脱イオン水製造装置の脱塩室と濃縮室に送って脱イオン水と濃縮水に分離し、脱イオン水を燃料電池発電装置の冷却水とする燃料電池発電装置用水処理システムが開示されている。
【0008】
特許文献3(特開平11−86895号公報)には、燃料電池プラントから回収したプラント回収水を蓄える水処理原水タンクと、プラント回収水の脱塩処理を行う電気式脱イオン水製造装置と、電気式脱イオン水製造装置にて脱塩処理された処理水をプラント用補給水として燃料電池プラントへ送水する補給水ポンプとが設置された燃料電池プラント水処理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−176535号公報
【特許文献2】特開2001−236981号公報
【特許文献3】特開平11−86895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
燃料電池の凝縮水中には、様々なイオン成分や不純物が存在している。例えば、改質系燃料電池からは、炭酸イオンやアンモニウムイオンが溶出する。また、燃料電池スタックから、燃料電池の電解質として使用しているイオン交換膜に由来するPSS(ポリスチレンスルホン酸)が水中に溶出する。更に、金属配管を使用しているため、クラッド(腐食生成物)も生成する。
【0011】
しかし、特許文献1〜3に開示された電気式脱イオン水製造装置は、脱塩室にカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合床を充填した一般的な電気式脱イオン水製造装置であり、こうした燃料電池の凝縮水の特徴を考慮したものではなかった。そのため、装置サイズが大きくなり、不経済であった。
【0012】
ここで、アニオン成分の除去効率が高いアニオン除去型の電気式脱イオン水製造装置(以下、「アニオンEDI」と記載する場合がある)を用いることが考えられるが、凝縮水中のクラッド、PSS、アンモニア等が、アニオンEDIの作動に悪影響を及ぼす場合があった。特に、PSSは、アニオンEDIに含まれるアニオン交換体の有機物汚染の原因となり、アニオン交換容量の低下を引き起こすため、アニオンEDIによる炭酸イオン等の除去効率を大幅に低下させる場合があった。また、アニオンEDIでは、カチオンであるアンモニアを除去することができず、処理水の純度低下の原因となっていた。更に、凝縮水中にクラッドが存在すると、アニオン交換体の間に詰まることによって、アニオン交換体の間を流れる凝縮水の流動抵抗となる場合があった。このため、凝縮水が安定してアニオンEDI内を流れることができなくなり、その運転に支障が生じる場合があった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)の作動に悪影響を及ぼすイオン成分やクラッドなどの不純物を総合的に除去する前処理用水処理装置を前段に設けた燃料電池用水処理装置、及び水処理方法を提供することを目的とする。そして、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)による、炭酸イオン等の効率的な除去を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態は、
燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用水処理装置であって、
アニオン交換体が単床で充填された脱塩室を有する電気式脱イオン水製造装置と、
前記電気式脱イオン水製造装置の前段に設置された前処理用水処理装置と、
を有し、
前記前処理用水処理装置は、カチオン交換体とアニオン交換体とが、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合で充填され、最も上流側に第1のイオン交換領域を有し、前記第1のイオン交換領域は少なくともカチオン交換体を有することを特徴とする、燃料電池用水処理装置に関する。
【0015】
他の一実施形態は、
燃料電池から回収した水を前処理用水処理装置で前処理する工程と、
前記前処理用水処理装置で前処理した水を電気式脱イオン水製造装置により処理する工程と、
を有し、
前記前処理用水処理装置は、カチオン交換体とアニオン交換体とが、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合で充填され、最も上流側に第1のイオン交換領域を有し、前記第1のイオン交換領域は少なくともカチオン交換体を有することを特徴とする、水処理方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
前処理用水処理装置により、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)の作動に悪影響を及ぼすイオン成分やクラッドを総合的に除去することができる。この結果、前処理用水処理装置の下流側に設ける電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)による、炭酸イオン等の効率的な除去を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図2】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図3A】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図3B】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図4A】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図4B】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図5A】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図5B】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図6】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図7A】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図7B】本発明の前処理用水処理装置の一例を表す図である。
【図8】本発明の燃料電池用水処理装置の一例を表す図である。
【図9】本発明の電気式脱イオン水製造装置の一例を表す図である。
【図10】発電装置の一例を表す図である。
【図11】実施例1で使用した前処理用水処理装置を表す図である。
【図12】比較例1で使用した前処理用水処理装置を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(前処理用水処理装置)
前処理用水処理装置は、燃料電池から回収し、凝縮させた水(以下、「凝縮水」と記載する場合がある)を処理するアニオン除去型の電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)の前処理用として用い、電気式脱イオン水製造装置の上流側に配置されるものである。すなわち、前処理用水処理装置で前処理した凝縮水は更に、電気式脱イオン水製造装置に導入して電気式脱イオン水製造装置で処理することを目的とする。
【0019】
この前処理用水処理装置は、カチオン交換体とアニオン交換体とを有し、前処理用水処理装置中の(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1となっている。イオン交換体としては、イオン交換樹脂、モノリス状イオン交換体を挙げることができる。なお、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜4:1が好ましい。
【0020】
イオン交換樹脂としては、ゲル形、MR形のいずれも用いることができるが、MR形のイオン交換樹脂を用いることが好ましい。MR形イオン交換樹脂は、PSSやクラッドを効率よく捕捉することができるためである。
【0021】
例えば、イオン交換体として、カチオン交換樹脂、モノリス状カチオン交換体を使用する場合、全カチオン交換体は、カチオン交換樹脂、モノリス状カチオン交換体、又はカチオン交換樹脂とモノリス状カチオン交換体の両方であっても良い。また、同様に、この全アニオン交換体は、アニオン交換樹脂、モノリス状アニオン交換体、又はアニオン交換樹脂とモノリス状アニオン交換体の両方であっても良い。
【0022】
粒子状のイオン交換樹脂の体積は、タッピング法によって測定する。このタッピング法では、試料樹脂の体積より容量の大きいメスシリンダーを用い、試料樹脂を水とともにメスシリンダーに移し入れ、水を試料樹脂が水面下になるように十分に加える。ガラス棒の先端に直径約30mmのゴム栓を取り付け、メスシリンダーの側面を前記ゴム栓の部分でたたく。この操作を試料樹脂層の高さが変化しなくなるまで繰り返し、試料樹脂の高さをmlの単位で読み取る。試料樹脂を振り混ぜた後、再びゴム栓の部分でメスシリンダーの側面を軽くたたいて、試料樹脂層の高さをmlの単位で読み取る。この操作を3回繰り返し、平均値を求めて試料樹脂の湿潤体積とする。
【0023】
また、モノリス状イオン交換体は、全体として1つの構造体を形成している。このため、モノリス状イオン交換体の体積としては、該構造体の外形部分の縦、横、高さ等の寸法を実測し、これらの値から外形部分の体積を求める。
【0024】
水処理装置は少なくとも、最も上流側に第1のイオン交換領域を有する。この第1のイオン交換領域は、少なくともカチオン交換体を有する。すなわち、前処理用水処理装置は、第1のイオン交換領域のみから構成されていても、上流側から順に第1、第2、第3・・・のように複数のイオン交換領域から構成されていても良い。また、第1のイオン交換領域はカチオン交換体を有するか、又はカチオン交換体とアニオン交換体の両方を有する。
【0025】
前処理用水処理装置において、各イオン交換領域が占める領域は、以下のようにして画定することができる。
モノリス状イオン交換体については、構造的に一体となった1つのイオン交換体が占める領域が、1つのイオン交換領域を構成する。なお、同種の2つのイオン交換体が隣接するように設けられている場合(例えば、モノリス状アニオン交換体とモノリス状アニオン交換体、モノリス状アニオン交換体とモノリス状カチオン交換体が隣接して設けられている場合など)、2つのイオン交換領域が存在するものとする。
【0026】
また、粒子状のイオン交換樹脂については、イオン交換樹脂が充填された特定部分を占める領域を1つのイオン交換領域とする。なお、(a)アニオン交換樹脂のみが充填された領域、(b)カチオン交換樹脂のみが充填された領域、(c)アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が混合して充填された領域が、互いに隣接して設けられている場合、(a)〜(c)の領域がそれぞれ1つのイオン交換領域を構成する。
【0027】
燃料電池からの凝縮水中には、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)に悪影響を及ぼすイオン成分(PSS、アンモニア等)やクラッドが含まれている。従って、最も上流側の第1のイオン交換領域中にカチオン交換体を設けることによって、上記イオン成分のうち、後段の電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)で除去できないカチオン成分(アンモニア等)やクラッドを効率的に除去することができる。なお、クラッドは、イオン交換体によるイオン交換の作用によって除去されるわけではなく、イオン交換体内の細孔やイオン交換体間の空隙内にクラッドが捕捉されることによって除去される。MR形カチオン交換樹脂は、その内部に細孔を多く有するため、より効果的にクラッドを除去することができる。
【0028】
また、前処理用水処理装置は、第1のイオン交換領域や、場合によっては第2、第3のイオン交換領域中等に、アニオン交換体を有する。これによって、電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすPSSやクラッド等を効率的に除去することができる。特に、凝縮水中のPSSは、電気式脱イオン水製造装置のアニオン交換体に付着して交換容量の低下などの原因となる場合がある。このため、予め前処理用水処理装置のアニオン交換体でPSSを除去することにより、電気式脱イオン水製造装置の高い除去効率を維持することができる。
【0029】
なお、前処理用水処理装置のアニオン交換体では、電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすPSSやクラッド等を除去することを目的とする。このため、前処理用水処理装置では、炭酸イオン等は完全に除去されなくても良い。すなわち、前処理用水処理装置により前処理された水中に、炭酸イオン等が一部、溶存していても良い。
【0030】
また、前処理用水処理装置中の(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1となっている。この体積比率は、燃料電池からの凝縮水中の、電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすイオン成分(炭酸イオン等を除くアニオン成分とカチオン成分)及びクラッドの濃度に対応したものとなっている。このため、これらのイオン成分やクラッドを効率的に除去することができる。この結果、前処理用水処理装置の下流側に配置する電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)において、効率的に炭酸イオン等を除去することができる。
【0031】
更に、燃料電池からの凝縮水中には、大量の炭酸イオン等が含まれる。電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)は、その他のイオン交換体に比べて長期間、高い効率で炭酸イオン等を除去できる、という特性を有する。このように、前処理用水処理装置で電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすイオン成分やクラッドを除去し、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)で炭酸イオン等を除去可能とするように、装置ごとに凝縮水中の特定成分を除去する。これにより、最終的に、凝縮水中の全イオン成分及びクラッドを効率的に除去する。また、装置ごとに特定成分を除去することにより、電気式脱イオン水製造装置と前処理用水処理装置で構成される装置全体を小型化、コンパクト化することが可能となる。
【0032】
以下に、図1〜7を参照して、本発明の前処理用水処理装置の例を示す。なお、下記例は、本発明のより一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0033】
図1は、本発明の前処理用水処理装置の一例を示す図である。図1中の矢印の方向が凝縮水の流れる方向を表し、矢印7aの側が上流側、7bの側が下流側に相当する。なお、以下の図2〜7においても、同様に、矢印の方向が凝縮水の流れる方向を表し、矢印7aの側が上流側、7bの側が下流側となる。
【0034】
図1の前処理用水処理装置3では、上流側から下流側に向かって順に、カチオン交換樹脂1が充填された第1のイオン交換領域4、アニオン交換樹脂2が充填された第2のイオン交換領域5が設けられている。すなわち、この前処理用水処理装置においては、上流側から下流側に向かって順に、(カチオン交換樹脂1)−(アニオン交換樹脂2)が充填されている。このように、第1及び第2のイオン交換領域を設けることによって、前処理用水処理装置の上流側ではカチオン成分を重点的に除去し、その下流側ではアニオン成分を重点的に除去することができる。
【0035】
図2は、本発明の前処理用水処理装置の他の一例を示す図である。図2の前処理用水処理装置3の上流側から下流側に向かう領域中に、カチオン交換樹脂1とアニオン交換樹脂2の混合体が充填された第1のイオン交換領域4が設けられている。このように、第1のイオン交換領域を設けることによって、効率的に、カチオン成分とアニオン成分を同時に除去することができる。
【0036】
図3A及びBは、本発明の前処理用水処理装置の他の例を示す図である。図3Aの前処理用水処理装置3では、上流側から下流側に順に、カチオン交換樹脂1が充填された第1のイオン交換領域4、モノリス状アニオン交換体からなる第2のイオン交換領域5が設けられている。すなわち、この前処理用水処理装置においては、上流側から下流側に向かって順に、(カチオン交換樹脂1)−(モノリス状アニオン交換体)が形成されている。
【0037】
図3Bの前処理用水処理装置3では、上流側から下流側に順に、カチオン交換樹脂1とアニオン交換樹脂2の混合体が充填された第1のイオン交換領域4、モノリス状アニオン交換体からなる第2のイオン交換領域5が設けられている。すなわち、この前処理用水処理装置においては、上流側から下流側に向かって順に、(カチオン交換樹脂1とアニオン交換樹脂2の混合体)−(モノリス状アニオン交換体)が形成されている。
【0038】
図3A及びBの前処理用水処理装置のモノリス状アニオン交換体は表面積が大きく、イオン交換容量が大きいという特性を有する。このため、第2のイオン交換領域では、凝縮水中のアニオン成分を効率的に除去することができる。
【0039】
図4A及びBは、本発明の前処理用水処理装置の他の例を示す図である。図4Aの前処理用水処理装置3では、上流側から下流側に順に、カチオン交換樹脂1が充填された第1のイオン交換領域4、モノリス状カチオン交換体からなる第2のイオン交換領域5、モノリス状アニオン交換体からなる第3のイオン交換領域6が設けられている。すなわち、この前処理用水処理装置においては、上流側から下流側に向かって順に、(カチオン交換樹脂1)−(モノリス状カチオン交換体)−(モノリス状アニオン交換体)が形成されている。
【0040】
図4Bの前処理用水処理装置3では、上流側から下流側に順に、カチオン交換樹脂1とアニオン交換樹脂2の混合体が充填された第1のイオン交換領域4、モノリス状カチオン交換体からなる第2のイオン交換領域5、モノリス状アニオン交換体からなる第3のイオン交換領域6が設けられている。すなわち、この前処理用水処理装置においては、上流側から下流側に向かって順に、(カチオン交換樹脂1とアニオン交換樹脂2の混合体)−(モノリス状カチオン交換体)−(モノリス状アニオン交換体)が形成されている。
【0041】
図4A及びBのモノリス状カチオン交換体は表面積が大きいため、第2及び第3のイオン交換領域では、凝縮水中のカチオン成分及びアニオン成分を効率的に除去することができる。また、モノリス状カチオン交換体5は、前処理用水処理装置内にイオン交換樹脂を充填する際に、樹脂止めとしても利用することができ、前処理用水処理装置の組み立てが容易となる。
【0042】
図5A及びBは、本発明の前処理用水処理装置の他の例を示す図である。図5A及びBの前処理用水処理装置3は、図4A及びBの前処理用水処理装置の変形例であり、モノリス状カチオン交換体とモノリス状アニオン交換体が上流側から下流側に向かって交互に3つずつ設けられている点が、図4A及びBとは異なる。なお、モノリス状カチオン交換体とモノリス状アニオン交換を交互に設ける個数は3つに限定されるわけではなく、2つであっても、4つ以上であっても良い。
【0043】
図5A及びBでは、モノリス状カチオン交換体とモノリス状アニオン交換体が交互に設けられているため、図4A及びBの効果を更に向上させることができる。すなわち、モノリス状カチオン交換体とモノリス状アニオン交換体の積層部分では、交互にカチオン成分とアニオン成分を除去するため、この部分でのイオン成分の除去効率をより高めることができる。
【0044】
図6は、本発明の前処理用水処理装置の他の例を示す図である。図6の前処理用水処理装置3は、図2の前処理用水処理装置の変形例であり、上流側に更に、モノリス状カチオン交換体からなる領域4を設けている点が、図2とは異なる。このイオン交換領域4、5がそれぞれ、第1、第2のイオン交換領域に相当する。
【0045】
図7は、本発明の前処理用水処理装置の他の例を示す図である。図7A及びBの前処理用水処理装置3は、図3A及びBの前処理用水処理装置の変形例であり、上流側に更に、モノリス状カチオン交換体からなる領域4を設けている点が、図3A及びBとは異なる。このイオン交換領域4、5及び6がそれぞれ、第1、第2及び第3のイオン交換領域に相当する。
【0046】
図6及び7の前処理用水処理装置では、このように第1のイオン交換領域を設けることによって、樹脂止めやクッションとして利用することができ、前処理用水処理装置の構造を安定化させることができる。また、表面積の大きいモノリス状カチオン交換体により、効率的にカチオン成分を除去することができる。
【0047】
以下に、前処理用水処理装置の中で使用するイオン交換体について詳細に説明する。
カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂としては、MR形(マクロポーラス形)イオン交換樹脂を使用することが好ましい。このMR形イオン交換樹脂は、モノマーの溶剤であり、かつ共重合体の沈殿剤として作用する有機溶媒の共存下で共重合を行わせることで、小さな球状ゲル粒子の集合体としての共重合体を母体構造として有し、これに官能基を導入したものである。MR形イオン交換樹脂の母体構造は、粒子間に巨大孔(マクロポア)を有する。
【0048】
モノリス状アニオン交換体及びモノリス状カチオン交換体としては例えば、特開2002−306976号公報、特開2009−062512号公報、特開2009−067982号公報、及び特開2009−108294号公報に記載のものを用いることができる。
【0049】
特開2002−306976号公報に記載のイオン交換体としては、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均径が1〜1000μmのメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1〜50ml/gであり、イオン交換基が均一に分布され、イオン交換容量が0.5mg当量/g乾燥多孔質体以上であるものを挙げることができる。このイオン交換体は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均径が1〜1000μm、好ましくは10〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造を有している。この連続気泡は、通常、平均径2〜5000μmのマクロポアとマクロポアが重なり合り、この重なる部分が共通の開口となるメソポアを有するもので、その大部分がオープンポア構造となっている。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個となる。
【0050】
特開2009−062512号公報に記載のイオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、厚み1mm以上、全細孔容積0.5〜5ml/g、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.4mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布しており、且つ該連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25〜50%であるものを挙げることができる。このイオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体を有する。骨格部面積は好ましくは画像領域中25〜45%であり、イオン交換容量は好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlである。
【0051】
特開2009−067982号公報に記載のイオン交換体としては、イオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布しているものを挙げることができる。このイオン交換体は、イオン交換基が導入された太さが1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μm、好ましくは15〜90μm、特に20〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体を有する。イオン交換容量は好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlである。
【0052】
特開2009−108294号公報に記載のイオン交換体としては、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該複合構造体中に均一に分布したものを挙げることができる。この有機多孔質体としては、2種類の有機多孔質体を用いることができる。第1の有機多孔質体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体を構成する。第2の有機多孔質体は、直径が1〜50μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に10〜100μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造を構成する。
【0053】
また、上記の公報に記載のモノリス状イオン交換体以外に、下記のモノリス状イオン交換体を使用することができる。すなわち、このモノリス状イオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる厚みが1mm以上の連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.4mg当量/ml以上であり、イオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している。この重なる部分の平均直径は、20〜150μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。また、この重なる部分の平均直径は、水湿潤状態で30〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましく、35〜150μmが更に好ましい。モノリス状イオン交換体の比表面積は、20m2/g〜70m2/gであることが好ましい。モノリス状イオン交換体の厚みは、3mm〜1000mmであることが好ましい。モノリス状イオン交換体の水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量は、0.4〜1.8mg当量/mlであることが好ましい。
【0054】
上記モノリス状イオン交換体において、母体構造を構成するポリマー材料としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルベンジルクロライド等のスチレン系ポリマー及びそれらの架橋共重合体であるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等が好ましく用いられる。上記ポリマーは、単独のモノマーを重合させて得られるホモポリマーでも、複数のモノマーを重合させて得られるコポリマーであってもよく、また、2種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、イオン交換基の導入の容易性と機械的強度の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体を挙げることができる。
【0055】
また、モノリス状カチオン交換体ではイオン交換基として、カルボキシル基、イミノジ酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等を用いることができる。モノリス状アニオン交換体ではイオン交換基として、四級アンモニウム基、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリエチレンイミン、第三スルホニウム基、ホスホニウム基等を用いることができる。
【0056】
(燃料電池用水処理装置)
燃料電池用水処理装置は、上記前処理用水処理装置と、アニオン除去型の電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)を有する。この電気式脱イオン水製造装置は、前処理用水処理装置の下流側に配置され、前処理用水処理装置によって前処理された水を処理する。電気式脱イオン水製造装置は、アニオン交換体が単床で充填された脱塩室を有する。このため、この電気式脱イオン水製造装置は、水中のアニオン成分のみを除去する。
【0057】
図8は、本発明の燃料電池用水処理装置の一例を示す図である。図8に示すように、燃料電池からの凝縮水は矢印の方向に沿って流れ、まず、前処理用水処理装置3に導入される。この前処理用水処理装置3の中では凝縮水の前処理が行われ、電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすイオン成分やクラッド等が除去される。この前処理用水処理装置3で前処理された凝縮水は次に、電気式脱イオン水製造装置17に導入される。電気式脱イオン水製造装置17の中では炭酸イオン等が除去され、最終的に高純度の水を生成する。
【0058】
このように燃料電池用水処理装置では、前処理用水処理装置3で電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすイオン成分やクラッド等、電気式脱イオン水製造装置17で炭酸イオン等を除去し、装置ごとに凝縮水中の特定の成分を除去する。この結果、装置全体として、凝縮水中の全イオン成分及びクラッドを効率的に除去できる。
【0059】
特に、凝縮水中にクラッドが存在すると、脱塩室13内のアニオン交換体の間に詰まることによって、脱塩室13内を流れる凝縮水の流動抵抗となる。このため、凝縮水が安定して脱塩室13内を流れることができなくなり、電気式脱イオン水製造装置の処理能力が低下する。また、PSSが脱塩室13内のアニオン交換体に付着するとアニオン交換容量を低下させることとなる。前処理用水処理装置3では、このように電気式脱イオン水製造装置に悪影響を及ぼすクラッドやPSS等を効率的に除去することができる。
【0060】
また、前処理用水処理装置3では、電気式脱イオン水製造装置(アニオンEDI)で除去できないアンモニアを除去することができる。この結果、電気式脱イオン水製造装置では、凝縮水中に高濃度で存在する炭酸イオン等を効率的に除去することができる。
【0061】
また、装置ごとに凝縮水中の特定の成分を除去することにより、電気式脱イオン水製造装置と前処理用水処理装置で構成される装置全体を小型化、コンパクト化することが可能となる。
【0062】
図9は、アニオン交換体が単床で充填された1つの脱塩室を有する、電気式脱イオン水製造装置の一例を表す図面である(以下、このように脱塩室を1つだけ有する電気式脱イオン水製造装置を、「1セル構造の電気式脱イオン水製造装置」と記載する場合がある)。図9に示すように、アニオン交換膜16a、16bの間に、アニオン交換体1を充填した脱塩室13が設けられている。また、アニオン交換膜16aの外側に陽極室14及び陽極12、アニオン交換膜16bの外側に陰極室15及び陰極18が設けられている。陽極12及び陰極18は直流電源19に接続されている。
そして、脱塩室13を凝縮水が流れ、陽極室14及び陰極室15を水が流れるようになっている。
【0063】
凝縮水が脱塩室13を流れている間に、凝縮水中の炭酸イオン等は、アニオン交換体1に捕捉される。そして、脱塩室13を流れる凝縮液に対して、陽極12及び陰極18を介して電源19から直流電流を流すことにより、アニオン交換体1に捕捉された炭酸イオン等はアニオン交換膜16aを通って陽極室14まで移動し、除去される。
【0064】
この電気式脱イオン水製造装置では、電極間に電圧を印加することによって、脱塩室13内のアニオン交換体1に捕捉された炭酸イオン等は、随時、陽極室14内に除去され、長時間、安定的に炭酸イオン等を除去できる。
【0065】
図9の変形例として、陰極室にアニオン交換体を充填し、陽極室にカチオン交換体を充填しても良い。この場合、電気式脱イオン水製造装置は、陰極を備え、アニオン交換体が充填された陰極室/アニオン交換膜/アニオン交換体が充填された脱塩室/アニオン交換膜/陽極を備え、カチオン交換体が充填された陽極室の順に配列された構成となる。この電気式脱イオン水製造装置では、電極室の抵抗を下げることができる。
【0066】
同様に、電極室の抵抗を下げる目的で、電気式脱イオン水製造装置を、陰極を備え、アニオン交換体が充填された陰極室/アニオン交換膜/アニオン交換体が充填された脱塩室/アニオン交換膜/陽極を備え、アニオン交換体が充填された陽極室の順に配列された構成としても良い。
【0067】
電気式脱イオン水製造装置の脱塩室、電極室(陽極室、陰極室)に用いるイオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換膜、イオン交換繊維、モノリス状イオン交換体を使用することができる。
【0068】
図9のような1セル構造の電気式脱イオン水製造装置は、水量が少ない家庭用の燃料電池から生じる凝縮水を処理する場合に使用できる。この電気式脱イオン水製造装置では、1セル構造のため、複数のセルを重ね合わせた場合のように濃縮室中の炭酸イオン等が隣のセルの陰極室に移動するのを防止するためのカチオン交換膜を設ける必要がない。この結果、装置の構成を簡易化することができる。
【0069】
(発電装置、燃料電池から回収した水の処理方法)
図10は、本発明の燃料電池用水処理装置を備えた発電装置の一例を表す図である。図10に示すように、発電装置では、燃料極21、電解質膜24、空気極25、冷却部29を有する燃料電池を備える。この燃料電池の発電時には、空気極25及び冷却部29から水蒸気が発生する。
【0070】
これらの水蒸気は、凝縮器23で回収、凝縮されて、凝縮水となる。この凝縮水は、前処理用水処理装置26に供給されて前処理が行われ、凝縮水中のイオン成分(アンモニア、PSS等)及びクラッドが除去される。この前処理用水処理装置26は、カチオン交換体とアニオン交換体とを有し、前処理用水処理装置26中の(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1となっている。また、前処理用水処理装置26は少なくとも、最も上流側に第1のイオン交換領域を有する。この第1のイオン交換領域は、少なくともカチオン交換体を有する。この前処理後の凝縮水は、電気式脱イオン水製造装置27に導入され、炭酸イオン等が除去される。
【0071】
電気式脱イオン水製造装置27で処理された凝縮水は処理水タンク28で冷却されて冷却水となる。この冷却水は冷却部29に供給されると共に、改質器22の前段部分に供給されて燃料ガスと混合される。燃料ガスと混合された冷却水は、改質器22に導入される。改質器22の中では、燃料ガスの水蒸気改質が行われ、水素を生成させる。改質器22の中で生成した水素は、燃料電池の燃料極21に導入される。一方、燃料電池の空気極25には空気が導入される。この燃料極21に導入された水素と、空気極25に導入された空気中の酸素の反応により、燃料電池は発電する。
【0072】
空気極25と冷却部29で発生した水蒸気は上記のようにして凝縮後、前処理用水処理装置26及び電気式脱イオン水製造装置27で再生された後、再利用される。
【0073】
なお、上記前処理用水処理装置26及び電気式脱イオン水製造装置27での処理工程を挙げると、下記の通りとなる。
(1)燃料電池から回収した水を前処理用水処理装置で前処理する工程、
(2)前処理用水処理装置で前処理した水を電気式脱イオン水製造装置により処理する工程。
【0074】
なお、上記発電装置では、概念的に1セルの燃料電池を示した。しかし、必要な発電量に応じて、複数のセルを、セパレータを介して積層させたセルスタックの形態の燃料電池としても良い。また、使用する燃料電池の種類は特に限定されず、固体高分子形燃料電池(PEFC, Polymer Electrolyte Fuel Cell)、りん酸形燃料電池(PAFC, Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC, Molten Carbonate Fuel Cell)、固体酸化物形燃料電池(SOFC, Solid Oxide Fuel Cell)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC, Alkaline Fuel Cell)等を使用することができる。なお、内部改質型の燃料電池の場合は、図10の改質器を設けずに、冷却水を直接、燃料電池内に供給する。
【0075】
上記発電装置では、改質器で発生する二酸化炭素が凝縮水中に溶けて、炭酸イオン等となっている。また、空気極25及び冷却部29から回収される水蒸気は高温となっている。このため、この水の配管から凝縮水中に、クラッドが溶出する。更に、燃料電池スタックにおいてセル間を分離するセパレータや、燃料電池のイオン交換膜等に由来するPSS(ポリスチレンスルホン酸)やアンモニア等が溶出する。従って、凝縮水中には、様々なイオン成分やクラッドが存在している。
【0076】
そこで、前処理用水処理装置26及び電気式脱イオン水製造装置27により、凝縮水中の様々なイオン成分及びクラッドを効率的に除去することが可能となる。この結果、高純度の水を生成することができる。この水を利用することにより、改質器では高い効率で水蒸気改質を行うと共に、冷却部において安定して燃料電池を冷却することができる。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
表1に示す体積比率で、MR形カチオン交換樹脂:MR形アニオン交換樹脂=9:1となるように、MR形カチオン交換樹脂とMR形アニオン交換樹脂を混合し、内径5cm、高さ8cmのカラム内に充填して前処理用水処理装置を製造した。なお、MR形カチオン交換樹脂とMR形アニオン交換樹脂の体積は、タッピング法によって測定した。また、MR形カチオン交換樹脂はロームアンドハース社製 アンバーライト200CT(商品名)、MR形アニオン交換樹脂はロームアンドハース社製 アンバーライトIRA900J(商品名)、を使用した。この前処理用水処理装置を図11に示す。
【0078】
この後、図11の前処理用水処理装置の下流側に、図9の電気式脱イオン水製造装置の電極室中に更にイオン交換樹脂を充填させた電気式脱イオン水製造装置を設けた。この電気式脱イオン水製造装置の仕様を以下に示す。
脱塩室の大きさ:40×50×40mm厚
脱塩室への充填樹脂:アニオン交換樹脂 OH形IRA402BL−HG
陰極室への充填樹脂:アニオン交換樹脂 OH形IRA402BL−HG
陽極室への充填樹脂:カチオン交換樹脂 H形IR120B−HG。
【0079】
そして、前処理用水処理装置で前処理した水が、下記試験条件で、電気式脱イオン水製造装置内を流れるようにした。この際、電気式脱イオン水製造装置の陽極室と陰極室間に直流電流を300mA流した時の、通水開始時(0時間)と100時間後の電気式脱イオン水製造装置の電圧を測定した。この結果を表2に示す。
【0080】
<試験条件>
流量:60ml/min
水:質量基準で2ppmのポリスチレンスルホン酸を含有する水(超純水中に、SP1(東ソー社製)を希釈したものを添加することによって調整)
通水温度:40℃。
【0081】
(比較例1)
実施例1と同形のカラム内にMR形カチオン交換樹脂(ロームアンドハース社製 アンバーライト200CT(商品名))を充填してイオン交換カートリッジを製造した。このイオン交換カートリッジにはMR形カチオン交換樹脂のみが充填されているため、表1に示すように、MR形カチオン交換樹脂:アニオン交換体=10:0となる。このイオン交換カートリッジを図12に示す。次に、このイオン交換カートリッジの下流側に、実施例1と同じ仕様の電気式脱イオン水製造装置を設けた。そして、実施例1と同様の条件で、イオン交換カートリッジにより前処理した水が電気式脱イオン水製造装置内を流れるようにして、電圧を測定した。この測定結果を下記表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表2に示すように、実施例1では通水開始電圧(0時間)と100時間後の電圧が共に10Vであるのに対して、比較例1では通水開始電圧(0時間)が10Vであるのに対して100時間後の電圧が25Vに増加した。この結果から、前処理用水処理装置中の(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合にすることで、水中のポリスチレンスルホン酸による電気式脱イオン水製造装置の電圧上昇を回避して、長期間の安定運転が可能なことが分かる。
【0085】
(比較例2)
体積基準でMR形カチオン交換樹脂:MR形アニオン交換樹脂=1:2となるように、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合し、内径5cm、高さ100cmのカラム内に充填してイオン交換カートリッジを製造した。カチオン交換樹脂はロームアンドハース社製 アンバーライト200CT(商品名)、アニオン交換樹脂はロームアンドハース社製 アンバーライトIRA900J(商品名;イオン交換能1.0eq/L−wet)、を使用した。
【0086】
このイオン交換カートリッジに下記通水条件で水を流し、水を運転時間中、1μS/cm2以下の純度まで処理するのに必要な樹脂体積量として算出した。この樹脂の算出方法を下記に示す。また、結果を表3に示す。
【0087】
<通水条件>
水:超純水中に、アニオン負荷として1.0meq/hの炭酸、カチオン負荷として0.015meq/hのアンモニアを添加した水を使用した。
運転時間:4万時間
水温:50℃。
【0088】
<樹脂の算出方法>
アニオン交換樹脂の樹脂体積量
1.0×10-3eq/h(アニオン負荷)×40000h(運転時間)÷1.0eq/L−wet(アニオン交換樹脂のイオン交換能)=40L
カチオン交換樹脂の樹脂体積量
カチオン交換樹脂:アニオン交換樹脂=1:2(体積比)であるため、
40L×0.5=20L
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の総樹脂体積量
40+20=60L
以上より、処理水純度1μS/cm2以下を保つためには、60L以上の樹脂が必要となる。
【0089】
(実施例2)
MR形カチオン交換樹脂(ロームアンドハース社製 アンバーライト200CT(商品名);イオン交換能1.75eq/L−wet)とMR形アニオン交換樹脂(ロームアンドハース社製 アンバーライトIRA900J(商品名);イオン交換能1.0eq/L−wet)とを9:1の体積比で混合し、比較例2と同形のカラム内に充填して図11に示した前処理用水処理装置を製造した。この前処理用水処理装置の下流側に、実施例1と同じ仕様の電気式脱イオン水製造装置を設けた。そして、比較例2と同じ条件で、前処理用水処理装置により前処理した水が電気式脱イオン水製造装置内を流れるようにした。この際、電気式脱イオン水製造装置の陽極室と陰極室間に300mAの直流電流を流した状態で運転時間中、1μS/cm2以下の純度まで水を処理するのに前処理用水処理装置と電気式脱イオン水製造装置に必要な樹脂体積量を求めた。必要な樹脂体積量は、上記通水条件(アニオン/カチオン負荷、運転時間)および樹脂の交換容量から処理水質(1μS/cm2以下)を維持できる樹脂量として算出した。この樹脂の算出方法を下記に示す。また、結果を表3に示す。
【0090】
<樹脂の算出方法>
(a)前処理用水処理装置
カチオン交換樹脂の樹脂体積量
0.015×10-3eq/h(カチオン負荷)×40000h(運転時間)÷1.75eq/L−wet(カチオン交換樹脂のイオン交換能)=0.34L
アニオン交換樹脂の樹脂体積量
カチオン交換樹脂:アニオン交換樹脂=9:1(体積比)であるため、0.34×1÷9=0.038L
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の樹脂体積量
0.34+0.038=0.378L
(b)電気式脱イオン水製造装置
SV100の電気式脱イオン水製造装置を使用した場合、通水流量が60ml/min(3.6L/h)であるため、樹脂体積量は3.6÷100=0.036(L)となる。
(SV;空間速度;樹脂体積V(L)に対する、通水流量F(L/h)の割合F/Vを意味する。)。
【0091】
(c)前処理用水処理装置と電気式脱イオン水製造装置の総樹脂体積量
0.378L+0.036L=0.41(L)
【0092】
【表3】

【0093】
表3の結果より、比較例2の場合と比べて、実施例2では樹脂体積量が1/146以下となった。この結果から、前処理用水処理装置とアニオンEDIの併用により、装置のコンパクト化が可能なことが分かる。
【符号の説明】
【0094】
1 カチオン交換樹脂
2 アニオン交換樹脂
3 前処理用水処理装置
4 第1のイオン交換領域
5 第2のイオン交換領域
6 第3のイオン交換領域
7a、7b 凝縮水の流れる方向
8 第4のイオン交換領域
9 第5のイオン交換領域
10 第6のイオン交換領域
11 第7のイオン交換領域
12 陽極
13 脱塩室
14 陽極室
15 陰極室
16a、16b アニオン交換膜
17 電気式脱イオン水製造装置
18 陰極
19 電源
21 燃料極
22 改質器
23 凝縮器
24 イオン交換膜
25 空気極
26 前処理用水処理装置
27 電気式脱イオン水製造装置
28 処理水タンク
29 冷却部
30 MR形アニオン交換樹脂
31 MR形カチオン交換樹脂
32 モノリス状アニオン交換体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用水処理装置であって、
アニオン交換体が単床で充填された脱塩室を有する電気式脱イオン水製造装置と、
前記電気式脱イオン水製造装置の前段に設置された前処理用水処理装置と、
を有し、
前記前処理用水処理装置は、カチオン交換体とアニオン交換体とが、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合で充填され、最も上流側に第1のイオン交換領域を有し、前記第1のイオン交換領域は少なくともカチオン交換体を有することを特徴とする、燃料電池用水処理装置。
【請求項2】
前記第1のイオン交換領域のカチオン交換体は、MR形カチオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用水処理装置。
【請求項3】
前記前処理用水処理装置は、上流側から下流側に向かって、
MR形カチオン交換樹脂を有する前記第1のイオン交換領域と、
MR形アニオン交換樹脂を有する第2のイオン交換領域と、
を有することを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池用水処理装置。
【請求項4】
前記前処理用水処理装置は、上流側から下流側に向かって、
MR形カチオン交換樹脂を有する前記第1のイオン交換領域と、
モノリス状アニオン交換体からなる第2のイオン交換領域と、
を有することを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池用水処理装置。
【請求項5】
前記第1のイオン交換領域は、MR形カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混合されて充填された領域であることを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池用水処理装置。
【請求項6】
燃料電池から回収した水を前処理用水処理装置で前処理する工程と、
前記前処理用水処理装置で前処理した水を電気式脱イオン水製造装置により処理する工程と、
を有し、
前記前処理用水処理装置は、カチオン交換体とアニオン交換体とが、(全カチオン交換体の体積):(全アニオン交換体の体積)=9:1〜2:1の割合で充填され、最も上流側に第1のイオン交換領域を有し、前記第1のイオン交換領域は少なくともカチオン交換体を有することを特徴とする、水処理方法。
【請求項7】
前記第1のイオン交換領域のカチオン交換体は、MR形カチオン交換樹脂であることを特徴とする、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記前処理用水処理装置は、上流側から下流側に向かって、
MR形カチオン交換樹脂を有する前記第1のイオン交換領域と、
MR形アニオン交換樹脂を有する第2のイオン交換領域と、
を有することを特徴とする、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記前処理用水処理装置は、上流側から下流側に向かって、
MR形カチオン交換樹脂を有する前記第1のイオン交換領域と、
モノリス状アニオン交換体からなる第2のイオン交換領域と、
を有することを特徴とする、請求項7に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記第1のイオン交換領域は、MR形カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混合されて充填された領域であることを特徴とする、請求項7に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−159426(P2011−159426A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18433(P2010−18433)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】