説明

燃料電池用電極製造装置およびその方法

【課題】少ない担持量でかつ同等の性能が得られ、付着した白金が殆ど離脱することがない燃料電池用電極を製造することができる燃料電池用電極製造装置およびその方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ2と、蒸着材料11の金属からなるカソード電極、トリガ電極13、アノード電極23、トリガ電源31、およびアークプラズマ発生用の並列に設けられたアーク電源32とコンデンサ33を備えた同軸型真空アーク蒸発源5と、前記同軸型真空アーク蒸発源5と対向して配置され、被蒸着体7である粉体状担体を収容する容器73と、前記容器73内で前記粉体状担体を攪拌する攪拌手段3と、前記攪拌手段3による攪拌過程で生じた前記粉体状担体の塊を粉砕するために、前記容器内の底面を叩く粉砕手段85とを有し、前記粉体状担体に前記金属を蒸着させて燃料電池用電極を製造する燃料電池用電極製造装置1及びその方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ微粒子を担持体に付着して燃料電池用電極を製造する燃料電池用電極製造装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の湿式法による燃料電池向けの電極の構成を図19に示す。つまり燃料極(水素極)、空気極(酸素極)側にカーボンの粉に白金(粒径サイズ:2nm〜10nm)が担持されている。
水素極側では白金触媒による水素の酸化反応により水素から電子を放出させる。イオン化された水素は固体高分子製固体電解質膜を通って酸素極側に移動する。放出された電子は電気を発生し、酸素極側では、導入された酸素(実際は空気中の酸素)が白金表面上で電子と水素イオンと反応して水となって燃料電池から放水される。
図20に従来の湿式法において、多孔質カーボン粉にナノ粒子サイズの白金を担持して電極を形成する方法を説明する。従来法では塩酸に粉砕された白金とカーボンパウダを入れて攪拌する。この時点で白金は原子状イオンに溶けており、カーボンの突起状や平坦ではない部分に集まりやすく、そこで結晶化してナノ粒子の白金を形成する。多孔質カーボンでは表面に付着するだけでなく、細孔の中にも入って白金ナノ粒子を形成する。これらの白金ナノ粒子とカーボンナノ粒子とは化学結合、つまり金属結合や共有結合で結合しているわけではなく、単に白金の結晶化したナノ粒子が付着しているだけである。
【0003】
次にこの溶液を濾して洗浄するが、この時点で付着力が弱かった白金はカーボンから流れ落ちてしまう。この濾して残ったものを乾燥させて多少界面活性剤等の化学溶液を加えてスラリ状にし、それを電極用金型に入れてホットプレスで焼き固めて形成する。このホットプレスで焼き固めるときにカーボン上に付着したナノ粒子サイズの白金が加熱されることでカーボン表面に多少付着力をもって密着する。
但し、水素は固体電解質と白金ナノ粒子の三相界面で電子放出するので、固体電解質はカーボン表面にしか付着しないので、細孔に入ってしまった白金ナノ粒子は有効に電子放出に寄与できない欠点がある。
【0004】
代表的な湿式法で作製された、ケッチェンブラックカーボンに白金を46%担持した(田中貴金属製)湿式法で作製された電極を回転リングディスクを用いたサイクリックボルタンメトリ法により電気化学反応を行い、酸素極、水素極で発生する電流量と起電力の測定を行った。
その結果を図21に示す。作用極上に載せる白金量は1μgである。起電力は酸素極電流値(一点鎖線のライン)がゼロから離れる点であり、図から約0.8Vであった。水素極電流値(点線の線)は最大でも0.8mAで酸素極電流値は約−0.9mAである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−204810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の湿式法では、担持率が46%と非常に高く、かつ製作工程も白金を粉砕し、さらに酸に溶解させて溶かして、さらにろ過して乾燥させて、独自の溶液を(各社でノウハウがある)混ぜてスラリにして、焼き固める多数の工程を要する。また、製作段階で廃液が発生し、その廃液を処理するエネルギまた酸を洗浄するときに離脱する白金等の損失の問題がある。
【0007】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためのものであり、少ない担持量でかつ同等の性能が得られ、付着した白金が殆ど離脱するがない燃料電池用電極を製造することができる燃料電池用電極製造装置およびその方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、従来に比べて工程数を減らすことができ、かつ製作過程で酸や洗浄工程がないため廃液や水を多量に使用することがなく、環境負荷の少ないプロセスで燃料電池用電極を製造することができる燃料電池用電極製造装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために本発明の燃料電池用電極製造装置は、真空チャンバと、蒸着材料の金属からなるカソード電極、トリガ電極、アノード電極、トリガ電源、およびアークプラズマ発生用の並列に設けられたアーク電源とコンデンサを備えた同軸型真空アーク蒸発源と、前記同軸型真空アーク蒸発源と対向して配置され、被蒸着体である粉体状担体を収容する容器と、前記容器内で前記粉体状担体を攪拌する攪拌手段と、前記攪拌手段による攪拌過程で生じた前記粉体状担体の塊を粉砕するために、前記容器内の底面を叩く粉砕手段とを有し、前記粉体状担体に前記金属を蒸着させて燃料電池用電極を製造する。
【0009】
本発明の燃料電池用電極製造方法は、蒸着源と対向して配置された容器内の被蒸着体を攪拌させながら、前記蒸着源から飛翔した蒸着材を前記被蒸着体に担持させる燃料電池用電極製造方法であって、同軸型真空アーク蒸発源からの蒸着材を前記容器内の前記被蒸着体に担持させ、前記容器内で前記被蒸着体の粉体状担体を攪拌する過程で、粉砕手段で前記容器内の底面を叩いて、前記攪拌によって生じた前記粉体状担体の塊を粉砕する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ない担持量でかつ同等の性能が得られ、付着した白金が殆ど離脱するがない燃料電池用電極を製造することができる燃料電池用電極製造装置およびその方法を提供することができる。
また、本発明は、従来に比べて工程数を減らすことができ、かつ製作過程で酸や洗浄工程がないため廃液や水を多量に使用することがなく、環境負荷の少ないプロセスで燃料電池用電極を製造することができる燃料電池用電極製造装置およびその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係わる微粒子形成装置の模式図である。
【図2】図2は、放電電圧70V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合の酸素極、水素極で発生する電流量と起電力を説明するための図である。
【図3】図3は、放電電圧100V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合の酸素極、水素極で発生する電流量と起電力を説明するための図である。
【図4】図4は、放電電圧150V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合の酸素極、水素極で発生する電流量と起電力を説明するための図である。
【図5】図5は、放電電圧200V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合の酸素極、水素極で発生する電流量と起電力を説明するための図である。
【図6】図6は、放電電圧300V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合の酸素極、水素極で発生する電流量と起電力を説明するための図である。
【図7】図7は、図3〜図6の結果を比較して説明するための図である。
【図8】図8は、放電電圧70V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合に白金ナノ粒子をTEM観察した画像を説明するための図である。
【図9】図9は、放電電圧100V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合に白金ナノ粒子をTEM観察した画像を説明するための図である。
【図10】図10は、放電電圧150V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合に白金ナノ粒子をTEM観察した画像を説明するための図である。
【図11】図11は、放電電圧200V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合に白金ナノ粒子をTEM観察した画像を説明するための図である。
【図12】図12は、放電電圧300V、コンデンサ容量1080μFを用いて製造した場合に白金ナノ粒子をTEM観察した画像を説明するための図である。
【図13】図13は、図1に示す微粒子形成装置のスクレーパの機能を説明するための図である。
【図14】図14は、図1に示す微粒子形成装置のスクレーパおよびスタンプを説明するための図である。
【図15】図15は、図1に示す微粒子形成装置の攪拌容器の外観図である。
【図16】図16は、図15に示すスタンプの構成の一部を説明するための図である。
【図17】図17は、本発明の実施形態に係わるスタンプと、攪拌容器の底面との距離の変化を時系列的に説明するための図である。
【図18】図18は、図15に示すスタンプの部分断面図である。
【図19】図19は、燃料電池向けの電極の構成を説明するための図である。
【図20】図20は、従来の湿式法を説明するための図である。
【図21】図21は、図20の手法で製造した燃料電池電極の特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係わる微粒子形成装置について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の微粒子形成装置では、アークプラズマ蒸着源で白金プラズマを発生させて、下方のカーボンパウダに照射して、かつ粉を攪拌しながら行うことで、白金ナノ粒子がカーボンパウダに分散して均一に付着する。
【0013】
図1は、同軸型真空アーク蒸着源5を用いた燃料電池用電極製造装置1の模式図である。
図1に示す燃料電池用電極製造装置1は、例えば、真空中の円筒容器である攪拌容器73に収納された担持体であるケッチェンブラックカーボン粉(被蒸着体7)を攪拌しながら真空アークプラズマ発生装置3を用いて発生させた触媒金属である白金の原子状イオン化したプラズマを上から照射し、ナノ粒子をケッチェンブラックカーボン粉表面に形成して触媒金属を担持させる。
図1に示す真空チャンバ2は、円筒状をしている。
真空チャンバ2内には、攪拌装置3および同軸型真空アーク蒸着源5が収納されている。
【0014】
[同軸型真空アーク蒸着源5]
同軸型真空アーク蒸着源5は、カソード電極に取付けられた金で成る円柱状の蒸着材料11と、アルミナで成るハット状の絶縁碍子14(以下、ハット型碍子と呼ぶ)と、トリガ電極13とを有する。
カソード電極に取付けられた蒸着材料11と、ハット型碍子14と、トリガ電極13は同心円状に密着させて取り付けられている。
【0015】
アノード電極23は、ステンレスで成り、円筒状をしている。また、このアノード電極23は、カソード電極に取付けられた蒸着材料11と同心円状に取付けられている。
なお、同軸型真空アーク蒸着源5は、図示しない支柱と図示しない真空フランジを介して、真空チャンバ2の壁面に取付けられている。
【0016】
また、図1中に簡易的な配線図で電源装置6を示す。
電源装置6は、トリガ電源31、アーク電源32、コンデンサユニット33を有する。
トリガ電源31は、パルストランスからなり、入力200VのμS単位のパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV、数μS単位のプラス極性のトリガパルスを出力する。
【0017】
アーク電源32は、100V数Aの容量の直流電源であり、コンデンサユニット33に充電している。充電時間は約1秒必要とするので放電周期は1Hzとなる。
コンデンサユニット33は、720〜1080μF、耐圧400Vである。コンデンサユニット33は、アーク電源32により、約150Vで充電される。この約150Vは後述するように実験結果に基づいて決定された。
ここで、アーク電源32の放電電圧と、コンデンサユニット33の容量の少なくとも一方を調整できる調整手段を備えてもよい。
この場合に、当該調整手段を用いて、プラズマのエネルギー分布が10eV〜30eVになるように調整する。また、当該調整手段を用いて、白金の粒子の粒径が1nm〜20nmになるように調整を行う。
【0018】
トリガ電源31のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、マイナス端子はアーク電源32のマイナス出力端子と同じ電位に接続され、さらにカソード電極に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、アーク電源32のプラスおよびマイナス端子間に接続されている。
【0019】
真空排気系9は、ターボ分子ポンプ51、仕切りバルブ52、ロータリポンプ53、調整バルブ54を有する。
ターボ分子ポンプ51からロータリポンプ53までは、金属製の配管で接続されており、真空チャンバ2内の真空排気を行っている。真空排気を行うことで、真空チャンバ2内は、10−4Pa以下に保たれている。
【0020】
本実施形態では、アーク電源32の放電電圧を70V、100V,150V、200V、300Vに変えて真空中でケッチェンブラックカーボン粉の上に白金ナノ粒子を担持し、サイクリックボルタンメトリ法により電気化学反応を行って、酸素極、水素極で発生する電流量と起電力の測定を行った。
その結果を図2〜図6に示す。白金の担持率は約5%である。作用極上に載せる白金量は全て1μgとした。
【0021】
また、図7に電流のアーク放電電圧依存性のグラフを示す。左側縦軸は0.8Vにおける酸素極電流値を示す。この電流値はこの電池での起電力の大きさに比例する。また右側縦軸は0.1Vにおける水素極の電流値である。
この結果、150Vで放電させた場合が一番起電力も高くかつ、水素電流、酸素電流(同グラフに示していない)も高いことがわかる。
また、図21を用いて説明した従来の湿式法による白金ナノ粒子の担持された粉の電流電圧特性とアークプラズマ蒸着源による150Vで担持した電流電圧特性のグラフと比較すると起電力はほぼ同じ0.8Vが得られており、また水素極電流はアークプラズマ蒸着源によって担持された粉の方が約1mA、酸素極電流について−1.5mAと、従来の湿式法よりも高い電流値が得られている。
このような理由から、本実施形態では、アーク電源32の電圧(放電電圧)として150Vを用いる。
【0022】
また担持量の検証として放電電圧100V,150Vで蒸着したパウダを昇温脱離ガス分析装置TGDにかけて担持量を測定しところ、両方とも残存重量(白金量)は約3%であり、実際の担持量は期待値5%より少なかった可能性が高い。
【0023】
図8〜図12に、各電圧での白金のナノ粒子をTEM観察した結果を記載する。72Vでは1nm程度の白金粒子が均一に分散しているが放電電圧150Vになると6nm程度のナノ粒子が非常に多く高分散していることがわかる。300Vになると、さらに8nmの粒子と細かな粒子が混在する傾向にある。コンデンサユニット33の容量を変えてアーク放電エネルギーを変化させても白金ナノ粒子の大きさを変えることができる。
【0024】
このように燃料電池用電極製造装置1を用いてカーボンパウダに蒸着することで従来の湿式法よりも担持率および担持量を減らして同等の起電力が得られることができた。
また、酸素極電流、水素極電流に関しては従来の湿式法よりも電流値が高い値が得られている。これは、アークプラズマ蒸着源では表面にしか白金ナノ粒子が付着しないため、水素や酸素と接触する面積が多いためと考えられる。このことから、アークプラズマ蒸着源を用いる燃料電池用白金担持において、少ない担持量で起電力は同等の性能が得られ、電流値に関しては湿式法を上回る性能を得られている。また、製造工程数の削減ならびに廃液処理、洗浄等のエネルギーを削減できる効果を奏することが確認できた。
【0025】
以下、図1に示す攪拌装置3について説明する。
[攪拌装置3]
攪拌装置3は、被蒸着体7を入れるための攪拌容器73と、被蒸着体7を攪拌するための固定羽根であるスクレーパ75a,75bと、攪拌過程で生じる被蒸着体7のダマ(塊)を潰すスタンプ85とを有する。
被蒸着体7は、例えば、粒径0.1μm以上、1mm以下の粉体であるチタニアの粉である。
【0026】
攪拌容器73の下面の中心には、攪拌容器73をその中心軸80を中心に回転させる回転機構72が接続されている。
回転機構72は、固定テーブル71の下方に配置されている。
攪拌容器73の材質は、例えばステンレスであり、内壁(内側側面及び底面73a)はバフ研磨されている。攪拌容器73の上部開口部の径は例えば60〜300mmである。当該上部開口部は楕円形状でもよい。
攪拌容器73の内壁は、アルミナかテフロン(登録商標)でコーティングされている。コーティング方法はCVD,スパッタ,アーク方式いずれでも良い。テフロン(登録商標)であれば容器自体をテフロン(登録商標)で製作してもよい。
【0027】
図13は、燃料電池用電極製造装置1のスクレーパ75a,75bの機能を説明するための図である。図13(A)は攪拌容器73の上部開放部側から見た平面方向におけるスクレーパ75a,75bの配置を説明するための図、図13(B)はスクレーパ75aの側面方向から見た配置を説明するための図である。
図13(A)に示すように、攪拌容器73の周囲には、スクレーパ75a,75bが固定されている。
スクレーパ75a,75bは、例えばステンレスで製作されている。また、スクレーパ75a,75bは、直径1mm〜5mm程度の棒材で形成され、外側をテフロン(登録商標)チューブで被覆されている。
【0028】
スクレーパ75aは、攪拌容器73の上部開放部から攪拌容器73内に延び、攪拌容器73の底面73aの内周面付近に当接し、当該当接した箇所から底面73aに接触しながら内側に延びている。
また、スクレーパ75bは、攪拌容器73の上部開放部から攪拌容器73内に延び、底面73aの中心軸付近に当接し、当該した箇所から底面73aに接触しながら内周面に向けて延びている。
また、スクレーパ75bの先端と、スクレーパ75aとの間には、隙間76が形成されている。
【0029】
攪拌容器73内の被蒸着体7は、スクレーパ75bに衝突して隙間76に向けて(攪拌容器73の内周面に向けて)移動し、隙間76を介してスクレーパ75aに衝突して中心軸80に向けて移動する。被蒸着体7の一部は、スクレーパ75a,75bに衝突して、上向きに指向されて、それらを乗り越えて移動する。
このように、スクレーパ75a,75bを構成することで、攪拌容器73内の被蒸着体7を中心軸80から内周面に向けて、内周面から中心軸80に向けて、並びに深さ方向に移動でき、効率的に攪拌することができる。
これにより、ケッチェンブラックカーボン粉末上に金を蒸着した場合には、ケッチェンブラックカーボン表面上での白金のナノ粒子の数nm〜10nmの白金のナノ粒子がケッチェンブラックカーボン表面上に担持される。
【0030】
また、スクレーパ75a,75bを駆動するのではなく、スクレーパ75a,75bを固定して攪拌容器73を回転させるため、駆動機構を簡単にすることができる。
【0031】
図14は、燃料電池用電極製造装置1のスクレーパ75a,75bおよびスタンプ85を説明するための図である。
図14に示すように、攪拌容器73の周囲には、スクレーパ75a,75bの他にスタンプ85が配置されている。
スタンプ85は、スクレーパ75a,75bによる攪拌過程で生じた被蒸着体(粉体状担体)7のダマを粉砕するために、攪拌容器73内の底面73aを叩くスタンプヘッド87と、スタンプヘッドを支持するアーム部89とを有する。
【0032】
スタンプ85は、攪拌容器73が中心軸80を中心に回転する過程で、スタンプヘッド87を攪拌容器73の底面73aに衝突させる第1の動作と、スタンプヘッド87を上記底面73aに接触した状態で保持する第2の動作と、スタンプヘッド87を上記底面73aから徐々に離す第3の動作とを繰り返す。
【0033】
図15に示すように、攪拌容器73の上部開口部の円状の縁部90は、斜めに切り欠けられており、中心軸80が延びる方向に滑らかに傾斜するスロープを形成している。
攪拌容器73の上部開口部の縁部90は、傾斜していない第1の縁部90aと、底面73aから離れる向きに滑らかに傾斜する第2の縁部90bと、段差90cとを有する。
段差90bは、例えば3〜20mmである。
【0034】
アーム部89は、攪拌容器73内に配置される側の一端にスタンプヘッド87を固定し、その他端は図14および図16に示すように、スタンプヘッド保持部93に固定されている。アーム部89の直径は、例えば1mm〜5mm程度である。
【0035】
アーム部89の長手方向の中央付近は、攪拌容器73の上部開口部の縁部90に当接している。アーム部89は、バネ95によって攪拌容器73の底面73aに向けて付勢されている。
これにより、アーム部89は、攪拌容器73が中心軸80を中心に回転する過程で、その中央部付近を縁部90に常に接触させている。
アーム部89は、上述した縁部90の段差90cで底面73aに向けて落下してスタンプヘッド87を底面73aに衝突させ、第1の縁部90aでスタンプヘッド87を底面73aに接触させた状態を所定期間保持する。その後、第2の縁部90bでスタンプヘッド87cと底面73aとを非接触状態にする。この動作は、攪拌容器73が中心軸80を中心に1回転する間に行われ、当該回転中、上述した第1、2、3の動作が繰り返し行われる。
【0036】
図17は、上述した中心軸80の回転中におけるスタンプヘッド87と攪拌容器73の底面73aとの距離の時間変化を説明するための図である。
図17に示すように、スタンプヘッド87と攪拌容器73の底面73aとは周期的に接触する。
すなわち、アーム部89が縁部90のスロープを登るにつれ、スタンプヘッド87は底面73a(床面)から徐々に上方に浮き上がる。
なお、攪拌容器73の被蒸着体7の深さ、並びにスタンプヘッド87の上下運動の移動量は、スタンプヘッド87が被蒸着体7の表面から出ないように設定される。
なお、攪拌容器73の回転数は、例えば、20〜100rpmである。
【0037】
スタンプヘッド87の先端87aは、例えば、図18に示すように、攪拌容器73の底面73aから離れる向きに傾いている。これにより、攪拌容器73の回転に応じて被蒸着体7をスタンプヘッド87aに衝突させ、スタンプヘッド87と底面73aとの間に効率的に引き込むことができる。そのため、被蒸着体7のダマを完全に粉砕できる確率を高めることができる。
また、攪拌装置3では、スクレーパ75a,75bおよびスタンプ85のアーム部89の直径を非常に細くし、且つ、スタンプヘッド87が被蒸着体7の表面から出ないように設定されるため、同軸型真空アーク蒸着源5からのナノ粒子(蒸着体)が、スクレーパ75a,75bおよびスタンプヘッド87に衝突する量を少なくできる。
【0038】
燃料電池用電極製造装置1では、前述したようにパルスをトリガとして周期的に放電を行う。この放電(蒸着)の周期が短くなるに従ってダマが生じる量が多くなるため、攪拌容器73の回転速度を高めるように制御を行う。また、構造的理由から、スタンプ85の底面73aへの衝突周期は、攪拌容器73の回転速度に比例する。なお、攪拌容器73の回転開始してから所定時間経過後の攪拌容器73の回転速度を、当該所定時間内での回転速度に比べて早くしてもよい。
すなわち、被蒸着体に蒸着される蒸着材の量が増えるに従って攪拌容器73の回転速度を速くしてもよい。
【0039】
以下、図1に示す燃料電池用電極製造装置1の動作例を説明する。
[同軸型真空アーク蒸着源5の動作例]
アーク電源32により、放電電圧150Vで電荷を充電しておく。ここで、コンデンサユニット33は、720〜1800μFとする。
トリガ電極13にトリガ電源31からの3.4kVのトリガパルスを印加し、カソード電極に取付けられた蒸着材料11とトリガ電極13の間に、ハット型碍子14を介して印加することで、ハット型碍子14表面で沿面放電が発生し、蒸着材料11とアノード電極23との間でコンデンサユニット33に蓄電された電荷が放電され、カソード電極に多量の電流が流入し、金で成るカソード電極に取付けられた蒸着材料11が液相から気相、さらに金のプラズマが形成される。
【0040】
この時、カソード電極に多量の電流(2000A〜5000A)が、200μS〜500μSの間に流れるので、カソード電極に取付けられた蒸着材料11に磁場が形成される。プラズマ中の電子が、カソード電極に取付けられた蒸着材料11の形成した磁場によるローレンツ力を受けて、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0041】
プラズマ中の蒸着材料である金イオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する電子に引き付けられるようにして同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0042】
一方、プラズマ中の蒸着材料である白金のイオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する。その結果、白金のイオンは、ケッチェンブラックカーボン粉7aを核にして成長し、ナノメートル単位の金粒子が形成される。
【0043】
このように白金イオンを照射しながら、ケッチェンブラックカーボン粉をスクレーパ75a,75b上に攪拌容器73を回転させてケッチェンブラックカーボン粉を攪拌する。これを継続して、ケッチェンブラックカーボン粉に均一に白金のナノ粒子を形成する。
【0044】
さらに詳しくは、攪拌容器73の中のケッチェンブラックカーボン粉7に向かって白金イオンを照射する。ここで、攪拌容器73は回転機構72により回転しており、スクレーパ75a,75bによって、攪拌容器73内のカーボン等の被蒸着体7は攪拌される。
被蒸着体7は、スクレーパ75a,75bに衝突することにより、攪拌容器73の上に現れて白金イオンに曝される。これを次々と継続することによって、攪拌容器73内の全ての被蒸着体7の粒子に均一に白金の微粒子を形成するというものである。
【0045】
[攪拌および塊潰し動作]
図1に示す燃料電池用電極製造装置1は、例えば、真空中の円筒容器である攪拌容器73に収納された担持体であるアルミナ粉(被蒸着体7)を攪拌しながら真空アークプラズマ発生装置3を用いて発生させた触媒金属であるナノ粒子(蒸着体)のプラズマを上から照射し、アルミナ粉表面に触媒金属を担持させる。
この過程では、図14に示すスタンプ85のアーム部89は、中心軸80を中心とした攪拌容器73の回転に連動して、攪拌容器73の上部開口部の縁部90の斜めに切り欠けたスロープ(図15に示す第2の縁部90b)を登る。そして、スタンプヘッド87は、攪拌容器73の底面73aから徐々に上方に浮き上がる。
このとき、スタンプヘッド87は、アーム部89がバネ97で攪拌容器73の底面73a(下方)に引っ張られながら持ち上げられる。
【0046】
そして、最終上段まで上がったときに、図15に示す段差90cで低い段差に急激に落とされて、バネ97で下方に引っ張られていたスタンプヘッド87は攪拌容器73の底面73aにたたきつけて、その下部にあった被蒸着体7の塊を粉砕する
【0047】
そして、段差の底面73aにあってもスタンプヘッド87にはバネ97の弾性力が働いているので、攪拌容器73の回転にともないスタンプヘッド87は底面73aに接触しながら動く。すなわち、アーム部89と図15に示す第1の縁部90aとが接触している間は、スタンプヘッド87は底面73aに接触しながら移動する。
この時のスタンプヘッド87と底面73aとの間に進入した細かい粒はスタンプヘッド87と底面73aとの間を通過するため、そば粉のすり鉢のようにすれてさらに粉に砕かれる。
そして再度、スタンプヘッド87か下段から徐々に縁部90bのスロープを登って、最上段の段差90cの位置に到達した時点で一気に下段に落とされることで、バネ97の張力が解放されて、ダマを潰して、その後すりつぶす。これを繰り返す。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、燃料電池用電極製造装置1を用いてカーボンパウダに蒸着することで従来の湿式法よりも担持率および担持量を減らして同等の起電力が得られることができた。
また、酸素極電流、水素極電流に関しては従来の湿式法よりも電流値が高い値が得られており、これは、アークプラズマ蒸着源では表面にしか白金ナノ粒子が付着しないため、水素や酸素と接触する面積が多いためと考えられる。このことから、アークプラズマ蒸着源を用いる燃料電池用白金担持において、少ない担持量で起電力は同等の性能が得られ、電流値に関しては湿式法を上回る性能を得られており、製造工程数の削減ならびに廃液処理、洗浄等のエネルギーを削減できる効果を奏することが確認できた。
【0049】
また、燃料電池用電極製造装置1は、スタンプ85を用いて攪拌容器73内の被蒸着体7のダマに圧力を加えて押しつぶすしかつ、そのつぶした粉をスタンプ85のスタンプヘッド87と攪拌容器73の底面73aとの間で攪拌容器73の回転に応じてさらに細かくすりつぶす。
これにより、真空中で各種金属、反応性物を蒸着担持する場合に粉のダマ形成の抑制と形成されたダマの加砕を行いすりつぶすことでき、触媒担持中の粉の凝集を防ぎ、均一で担自前と粒度を保持したままで粉に触媒を担持することができる。
【0050】
[第1の変形例]
上述した実施形態では、スタンプヘッド87の上下動作に、攪拌容器73の壁上縁にスロープと段差をつけ、スタンプ85のアーム部89をバネ97で下方に引っ張り、攪拌容器73の回転を利用して段差部で下方にたたきつける機構を用いた。
本発明は、例えば、攪拌容器73の回転と連動せずに、独立してスタンプ85を上下駆動する機構を用いてもよい。
【0051】
[第2の変形例]
上述した実施形態では、ダマをすりつぶすのにスタンプ85を利用していたが、代わりに、ローラーやプロペラでダマをすりつぶす機構を用いてもよい。
【0052】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
また、上述した実施形態では、円筒状の攪拌容器73を例示したが、円錐状の攪拌容器73を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、燃料電池の電極製造に適用される。
【符号の説明】
【0054】
1…微粒子形成装置
3…攪拌装置
5…同軸型真空アーク蒸着源
6…電源装置
7…被蒸着体
31…トリガ電源
32…アーク電源
33…コンデンサユニット
73…攪拌容器
75a,75b…スクレーパ
85…スタンプ
87…スタンプヘッド
89…アーム部
90…縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、蒸着材料の金属からなるカソード電極、トリガ電極、アノード電極、トリガ電源、およびアークプラズマ発生用の並列に設けられたアーク電源とコンデンサを備えた同軸型真空アーク蒸発源と、
前記同軸型真空アーク蒸発源と対向して配置され、被蒸着体である粉体状担体を収容する容器と、
前記容器内で前記粉体状担体を攪拌する攪拌手段と、
前記攪拌手段による攪拌過程で生じた前記粉体状担体の塊を粉砕するために、前記容器内の底面を叩く粉砕手段と
を有し、
前記粉体状担体に前記金属を蒸着させて燃料電池用電極を製造する
燃料電池用電極製造装置。
【請求項2】
前記粉体状担体の粒径は、1μm以上、1mm以下である
請求項1に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項3】
前記放電直流電源の電源電圧と、前記コンデンサの容量との少なくとも一方を調整する調整手段
をさらに有する請求項1に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項4】
前記アーク電源の電源電圧(放電電圧)は約150Vであり、前記コンデンサの容量は約1080μFである
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項5】
前記被蒸着体はケッチェンブラックカーボンであり、前記金属は白金である
請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項6】
前記プラズマのエネルギー分布が10eV〜30eVになるように、前記調整手段を調整する
請求項3に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項7】
前記金属の粒子の粒径が1nm〜20nmになるように、前記調整手段を調整する
請求項3に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項8】
前記粉砕手段は、
スタンプヘッドを前記底面に衝突させる第1の動作と、前記スタンプヘッドを前記底面に接触させた状態で保持する第2の動作と、前記スタンプヘッドを前記底面から離す第3の動作とを順に繰り返す
請求項1に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項9】
前記粉砕手段は、板状の前記スタンプヘッドを、前記底面に対して上下移動させて、当該スタンプヘッドのスタンプ面を前記底面に衝突させ、
前記スタンプ面の前記被蒸着体が侵入する側の端部は、前記底面から離れる向きに傾斜している
請求項1に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項10】
前記容器の前記開放部の円状の縁部は、前記中心軸が延びる方向に傾斜するスロープとなり、所定箇所で段差を有し、
前記粉砕手段は、
前記底面に向けて付勢されながら前記縁部に当接するアーム部を有し、当該アーム部が前記段差で前記底面に向けて落下したときに前記スタンプヘッドを前記底面に接触させ、前記アーム部が前記スロープに沿って所定の位置に達したときに前記スタンプヘッドを前記底面から離す
請求項8または請求項9に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項11】
前記容器は、円筒状あるいは円錐状であり、中心軸を中心に回転し、
前記攪拌手段は、前記容器の周囲に一端が固定され、他端が前記容器内に挿入され、前記前記容器の回転と連動して移動する前記前記粉体状担体に衝突して攪拌する
請求項8または請求項9に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項12】
前記撹拌手段は、
前記容器の上部開放部から当該容器の前記底面の外周付近に当接し、当該当接した箇所から底面に沿って内側に延びる第1のスクレーパと、
前記上部開放部から前記容器の前記底面の前記中心軸付近に当接し、当該した箇所から底面に沿って外側に延びる第2のスクレーパと
を有する請求項8〜12のいずれかに記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項13】
前記容器の回転速度は、前記蒸着源の蒸着周期が短くなるに従って高まり、
前記攪拌手段の前記スタンプヘッドの前記底面への衝突周期は、前記蒸着源の放電周期が短くなるに従って高まる
請求項11に記載の燃料電池用電極製造装置。
【請求項14】
蒸着源と対向して配置された容器内の被蒸着体を攪拌させながら、前記蒸着源から飛翔した蒸着材を前記被蒸着体に担持させる燃料電池用電極製造方法であって、
同軸型真空アーク蒸発源からの蒸着材を前記容器内の前記被蒸着体に担持させ、
前記容器内で前記被蒸着体の粉体状担体を攪拌する過程で、粉砕手段で前記容器内の底面を叩いて、前記攪拌によって生じた前記粉体状担体の塊を粉砕する
燃料電池用電極製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−7216(P2012−7216A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144988(P2010−144988)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000192383)アルバック理工株式会社 (26)
【Fターム(参考)】