説明

燃料電池触媒のための貴金属成分および炭素を有する酸化物またはオキシ水酸化物を含んでなるゾル−ゲル誘導複合体

本発明の一態様は、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を提供することである。本発明の別の態様は、このゾル−ゲル誘導複合体を製造するための方法を提供することである。別の態様は、該ゾル−ゲル複合体を含んでなる燃料電池および膜電極組立体を提供することである。別の態様は、支持体上に該ゾル−ゲル複合体を堆積させるための方法を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンシリコンまたはジルコニウムシリコン酸化物またはオキシ水酸化物母材中に貴金属と導電性成分とを含むゾル−ゲル誘導材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン(カチオン)交換膜を電解質として利用し、メタノール、エタノール、ジメトキシメタン、またはトリメトキシメタンおよび酸素/空気などの直接供給燃料を酸化体として使用する燃料電池は、小さな、持ち運びできる用途においてバッテリーの代わりに用いることができる。ダイレクトメタノール燃料電池は、このような用途のために特に注目されている。現在、ダイレクトメタノール燃料電池の性能レベルは、このタイプの小さな電池がサイズおよび重量に関して一次リチウムバッテリーと競合しうるほど十分に高い。このような燃料電池は、(a)ずっと軽量で小型、特に長い作動時間の可能性、(b)バッテリー交換ではなく、燃料の添加だけを必要とするより簡単な「再充電」、(c)(リチウム電池については非常に費用がかかる)廃棄問題とバッテリーの貯蔵の必要性をなくすなど、リチウムバッテリーよりもいくつかの利点がある。2003年1月21日にルフト(Luft)らに発行された特許文献1、2003年12月9日にヌーツラー(Neutzler)らに発行された特許文献2、および2003年11月4日にオールセン(Ohlsen)らに発行された特許文献3は、ダイレクトメタノール燃料電池の一般的な背景を提供する。
【0003】
白金−ルテニウム電気触媒などの貴金属電気触媒がダイレクトメタノール燃料電池において用いられる。これらの電気触媒は高表面積の炭素上に分散された白金−ルテニウム合金であり、貴金属の濃度が5〜40重量パーセント、白金対ルテニウムの原子比が1:1である。工業的な用途については、他の担体材料には、例えば、酸化アルミニウム、酸化シリコン、およびセラミックなどがある。
【0004】
ゾル−ゲルを製造する技術は、当該技術分野に公知である(例えば、1991年4月9日にアンダーソン(Anderson)らに発行された特許文献4、1992年3月17日にアンダーソンらに発行された特許文献5、1997年2月4日にジョウ(Jow)らに発行された特許文献6、1999年6月22日にサン(Sun)らに発行された特許文献7を参照のこと)。ゾル−ゲル方法は、従来の高温融解および蒸着経路よりも特定の利点を提供する。これらの利点を以下に挙げると、単純さ、超高均質性、高純度、狭い粒度分布、多成分系への簡単な経路、低いエネルギー必要量、および低い設備投資などがある。
【0005】
非特許文献1は、触媒材料の作製のためのゾル−ゲル方法の使用を一般に検討する。
【0006】
2004年2月10日にアルバース(Albers)らに発行された特許文献8には、炭素担体から形成された電気触媒の使用が記載されており、そこで触媒活性成分は白金もしくは二種または多種の金属がドープされるかまたは合金された白金である。
【0007】
2003年3月11日にボネマン(Boennemann)らに発行された特許文献9には、異なった溶媒に高い分散性を有するナノスケール遷移金属または合金コロイドを調製するための方法が開示されている。
【0008】
1998年12月22日にヘアー(Hair)らに発行された特許文献10には、原子状態で分散された貴金属を含有する無機エーロゲルおよびキセロゲルが開示されている。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,509,112号明細書
【特許文献2】米国特許第6,660,423号明細書
【特許文献3】米国特許第6,641,948号明細書
【特許文献4】米国特許第5,006,248号明細書
【特許文献5】米国特許第5,096,745号明細書
【特許文献6】米国特許第5,600,535号明細書
【特許文献7】米国特許第5,914,094号明細書
【特許文献8】米国特許第6,689,505号明細書
【特許文献9】米国特許第6,531,304号明細書
【特許文献10】米国特許第5,851,947号明細書
【非特許文献1】E.I.Ko,the Handbook of Heterogeneous Catalysis,G.アートル(G.Ertl)ら編、Vol.1.2.1.4(1997年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を提供することである。好ましくは、該少なくとも1つの貴金属が白金、ルテニウム、またはそれらの混合物を含んでなり、該少なくとも1つの導電性成分が黒鉛状炭素粉末である。
【0011】
好ましい実施態様において、ゾル−ゲル誘導複合体は、実験式
{[(Pt)(Ru)(M)1−(a+b)1−d[(TiZrSi1−x−y)(O1−eOH2e[C]
(式中、nが3〜4であり、xが0〜1であり、yが0〜1であり、x+y>0、z=[4(x+(1−x−y))+n(y)]/2、aが0.01〜1であり、b=0〜0.99であり、dが0.05〜0.95であり、eが0〜1であり、Mが、Ni、Co、Fe、W、およびMoから選択される促進剤元素であり、Cが該少なくとも1つの導電性成分であり、qが約5重量%〜約90重量%であり、rが1−qである。好ましくは、aが0.5であり、bが0.5であり、xが0〜0.5であり、yが0〜0.5であり、dが0.5であり、eが0〜1であり、qが40重量%である)で表される。
【0012】
本発明の別の態様は、
a)少なくとも1つの貴金属含有化合物を含んでなる第1の溶液と混合金属オキシ水酸化物と溶媒とを含んでなる第2の溶液とを配合して混合物を形成する工程と、
b)少なくとも1つの導電性成分を含んでなる第3の溶液を該混合物に添加する工程と、
c)該混合物を重合して無機ゲルを形成する工程と
を含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を製造するための方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の態様は、チャンバと、該チャンバをアノード区画とカソード区画とに分離する膜とを含んでなる燃料電池を提供することであり、該膜が、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を含んでなる触媒で少なくとも部分的にコーティングされる。
【0014】
本発明の別の態様は、
a)第1の電極と、
b)第2の電極と、
c)該第1および第2の電極の間に挟まれた固体ポリマー電解質膜と
を含んでなる膜電極組立体を提供することであり、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体が、該第1の電極と該固体ポリマー電解質膜との間の境界面に配置される。
【0015】
本発明の他の目的および利点は、以下の詳細な説明を参照して当業者には明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願出願人は、この開示において引用されたすべての文献の全内容を具体的に援用する。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメーターが、ある範囲、好ましい範囲、または高い側の好ましい値および低い側の好ましい値のリストのいずれかとして与えられるとき、これは、範囲が別々に開示されているかどうかに関係なく、任意の範囲上限または好ましい値と任意の範囲下限または好ましい値との任意の対から形成されたすべての範囲を具体的に開示するものとして理解されなければならない。数値の範囲がここに記載される場合、別記しない限り、範囲は、それらの端点、および範囲内のすべての整数および端数を含めるものとする。範囲を規定する時に記載された特定の値に本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0017】
本開示に関して、多数の用語が使用される。
【0018】
「ゾル−ゲル技術」は、コロイド、アルコキシド、または金属塩などの適した前駆物質の材料を溶媒に溶解することによって、易流動性流体溶液「ゾル」を最初に調製する方法である。次いで、「ゾル」に試薬を添加して前駆物質の反応性重合を開始する。代表例は、エタノールに溶解されたテトラエトキシオルトシリケートである。加水分解を開始するために触媒として微量の酸または塩基とともに水を添加する。重合および架橋が進むにつれて、易流動性「ゾル」は粘度が増加し、最終的に硬質「ゲル」に硬化しうる。「ゲル」は、その開放多孔性構造内に元の溶媒を封入する所望の材料の架橋網目を含んでなる。
【0019】
ゲルは、凝集性、硬質の3次元ポリマー網目として説明することができる。本発明におけるゲルは、液体媒体、通常は水、アルコール、またはそれらの混合物中で形成される。用語「アルコゲル」は、細孔が主にアルコールを充填されるゲルを説明する。細孔が第一に水を充填されるゲルは、アクアゲルまたはヒドロゲルと称されてもよい。
【0020】
「キセロゲル」は、液体媒体が除去されてガスで置き換えられたゲルである。概して、液体が除去される時に生じる表面張力によって構造が圧縮され、多孔度がかなり低減される。液体が臨界温度を下回る温度においてゲルから蒸発し始めるとすぐ、表面張力がゲルの細孔に凹状のメニスカスを形成する。蒸発が続くにつれて、メニスカスがゲル体へ後退し、圧縮力がその外周の周りに形成され、外周が収縮し、ゲル体を内側に引く。最終的に表面張力がゲル体の著しいつぶれを起こし、しばしば、元の体積の3分の2もしくはそれ以上も体積の低減をもたらす。この収縮は、系および細孔サイズに応じて、しばしば90〜95パーセントも多孔度の著しい低減をもたらす。
【0021】
対照的に、「エーロゲル」は、液体が除去される時に構造の著しいつぶれまたは変化を防ぐように液体が除去されたゲルである。これは典型的に、液体の臨界温度を超えるまで液体の蒸気圧を上回る一般圧力を維持したままオートクレーブ内で液体充填ゲルを加熱し、次いで、臨界温度を上回る温度を維持したまま、通常、少しずつかまたは連続的に圧力を徐々に低減することによって、蒸気を徐々に放出することによって行なわれる。臨界温度は、圧力がどれぐらいかけられるかに関係なくそれを超えると気体を液化することが不可能である温度である。臨界温度を超える温度において、液相と気相との間の区別がなくなり、気体/液体界面の物理的発現もなくなる。液相と気相との間の界面がない時、表面張力がなく、したがって、ゲルをつぶす表面張力がない。このような方法を「超臨界乾燥」と呼んでもよい。超臨界乾燥によって製造されたエーロゲルは典型的に、50〜99体積パーセントのオーダーの、高い多孔性を有する。
【0022】
次に、「ゲル」を、典型的には乾燥空気中で単に加熱してキセロゲルを生じさせることによって乾燥させてもよく、または閉じ込められた溶媒を、液体COなどの超臨界流体で置き換えてエーロゲルを生じさせることによって除去してもよい。これらのエーロゲルおよびキセロゲルは場合により、高温においてカ焼され、典型的に非常に多孔性の構造および随伴して高い表面積を有する生成物をもたらすことができる。
【0023】
本明細書中で用いられるとき用語「母材」は、アルコキシドおよび他の試薬の加水分解および縮合から誘導されたオキシ水酸化物の骨格構造を意味する。以下に記載するように、多孔度およびミクロ構造は、いくつかの場合、合成パラメーター(例えば、pHおよび温度)、乾燥、および他の熱調整によって制御されうる。本明細書中で用いられるとき、用語「ミクロ構造」は、ドメインおよび微結晶の相互の結合および母材または固体中のそれらの配列および物理的外観またはモフォロジーについての、物理的および化学的性質の両方の説明を意味する。また、ミクロ構造は、本発明に含有される他の活性カチオン性前駆物質の構造およびモフォロジー、すなわち、結合および物理的外観について説明する。
【0024】
本明細書中で用いられるとき用語「貴金属」は、腐蝕および/または酸化に対して高度に耐性である金属元素を意味する。貴金属には、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、および金などがある。好ましい貴金属には、白金、ルテニウム、およびそれらの混合物などがある。
【0025】
本明細書中で用いられるとき用語「導電性成分」は、粒状炭素、導電性ポリマー、例えばポリアニリンまたはポリピロール、導電性遷移金属炭化物、導電性金属酸化物ブロンズ、および他の導電性炭素を含めることができる。好ましい炭素は様々な表面積の乱層(turbostratic)炭素または黒鉛状炭素であり、例えばヴァルカン(Vulcan)(登録商標)XC72R(ジョージア州、アルファレッタのキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.,Alpharetta,Ga.)から入手可能)、ケトジェンブラック(Ketjenblack)(登録商標)EC−600JDまたはEC−300J(イリノイ州、シカゴのアクゾ・ノーベル社(Akzo Nobel Inc.,Chicago,Ill.)から入手可能)、ブラック・パール(Black Pearls)(登録商標)(キャボット・コーポレーションから入手可能)、アセチレンブラック(日本、東京の電気化学株式会社からデンカ(Denka)(登録商標)ブラックとして入手可能)、ならびに他の電導性炭素の変種である。他の炭素には、炭素繊維、単一または多壁カーボンナノチューブ、および他の炭素構造(例えば、フラーレンおよびナノホーン)などがある。好ましい導電性成分には、ヴァルカン(登録商標)XC72Rおよびケトジェンブラック(登録商標)EC−600JDなどがある。
【0026】
一実施態様において、ゾル−ゲル誘導複合体は、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなる。あるいは、該少なくとも1つの貴金属および少なくとも1つの導電性成分は、「母材に混入」されていると称されてもよい。
【0027】
合成方法によって、導電性成分は、チタン、ジルコニウム、またはシリコン母材(またはそれらの組合せ)中に複合体として存在する。ゾル−ゲル誘導母材の細孔構造に混入される貴金属成分は、チタン、ジルコニウム、チタン−シリコン、ジルコニウムシリコン、チタンジルコニウムシリコン酸化物またはオキシ水酸化物、またはそれらの混合物を含有する。
【0028】
好ましくは、該少なくとも1つの貴金属は白金、ルテニウム、またはそれらの混合物を含んでなる。
【0029】
ゾル−ゲル誘導複合体は、加水分解性母材前駆物質が可溶性金属塩および導電性成分の存在下で用いられるアルコゲルの一段法合成によって調製されてもよい。この調製方法は、少なくとも1つの貴金属含有化合物を含んでなる第1の溶液と金属アルコキシド、オルトシリケート、および溶媒を含んでなる第2の溶液とを配合して混合物を形成する工程と、少なくとも1つの導電性成分を含んでなる第3の溶液を該混合物に添加する工程と、該混合物を重合して無機ゲルを形成する工程とを特徴とする。試薬の添加の順序、前駆物質および溶媒の性質、およびゲル化剤の性質は、広範囲に変化しうる。用語「ゲル化剤」は、ゲルの形成をもたらすかまたは促進する試薬を意味する。ゲル化剤は、酸性、塩基性、または中性、例えば、水であってもよい。
【0030】
好ましくは、ゾル−ゲル誘導複合体は式{[(Pt)(Ru)(M)1−(a+b)1−d[(TiZrSi1−x−y)(O1−eOH2e[C]で表され、nが、Tiの酸化数を表し、3〜4であり、xが0〜1であり、yが0〜1であり、x+y>0、z=[4(x+(1−x−y))+n(y)]/2であり、aが0.01〜1であり、b=0〜0.99であり、dが0.05〜0.95であり、eが0〜1であり、Mが、Ni、Co、Fe、W、およびMoから選択される促進剤元素であり、Cが導電性成分であり、qが、重量パーセントを表し、約5重量%〜約90重量%であり、rが、重量パーセントを表し、1−qである。重量パーセントは、ゾル−ゲル誘導複合体のすべての成分の全重量を基準にしている。
【0031】
好ましい実施態様において、aが0.5であり、bが0.5であり、xが0〜0.5であり、yが0〜0.5であり、dが0.5であり、eが0〜1であり、qが40重量%である。
【0032】
1つまたはそれ以上の金属アルコキシド(例えば、チタンn−ブトキシド、テトラエチルオルトシリケート)を、ゲルを調製するための出発原料として用いてもよい。ここで用いられる無機金属アルコキシドは、アルコキシド基に1〜20個の炭素原子を含有する、好ましくは1〜5個の炭素原子を含有する任意のアルコキシドを含めることができ、好ましくは液体反応媒体に可溶性である。チタンn−ブトキシドおよびジルコニウムn−プロポキシド、およびテトラエチルオルトシリケートなどのC−Cアルコキシドが好ましい。
【0033】
市販されているアルコキシドを用いることができる。しかしながら、無機アルコキシドを他の経路によって調製することができる。例には、触媒の存在下で0価の金属とアルコールとの直接反応によって調製されたアルコキシドがある。多くのアルコキシドを金属ハロゲン化物とアルコールとの反応によって形成することができる。アルコキシ誘導体を配位子交換反応においてアルコキシドとアルコールとの反応によって合成することができる。金属ジアルキルアミドとアルコールとの直接反応もまた、アルコキシド誘導体を形成する。別の例が、D.C.ブラドレイ(D.C.Bradley)ら著、「金属アルコキシド(“Metal Alkoxides”)」アカデミック・プレス(Academic Press)(1978年)に開示されている。
【0034】
アルコール、またはアルコゲルを含有するゲルの合成の第1の工程は、アルコキシドおよび他の試薬の非水溶液、および水などのプロトン性溶媒を含有する別個の溶液を調製することからなる。
【0035】
塩化白金および塩化ルテニウムなどの可溶性貴金属塩をアルコキシド非水溶液に添加することができる。あるいは、可溶性白金塩を水溶液に添加することができる。貴金属塩をアルコキシド溶液に添加することが好ましい。
【0036】
炭素、金属酸化物ブロンズ、または他の導電性添加剤などの導電性成分をアルコキシド種を含有する水溶液または非水溶液のどちらかに添加することができる。導電性成分を非水溶液に添加することが好ましい。
【0037】
アルコキシド溶液が、プロトン性溶媒を含有する溶液と混合されるとき、アルコキシドは反応および重合してゲルを形成する。
【0038】
該方法において利用された媒体は概して、使用される無機アルコキシドと一段法合成において添加される付加的な金属試薬および促進剤との両方のための溶媒であるのが好ましい。それらの各媒体(水性および非水性)中の成分のすべての溶解度は、高度に分散された材料を生じるのが好ましい。このようにして可溶性試薬を使用することによって、活性金属と促進剤試薬との混合および分散は、それらの各溶液中のそれらの分散を反映して、原子に近い場合がある。従って、この方法によってこのように製造されたゲルは、高度に分散された活性貴金属を含有する。高分散は、ナノメートルサイズの範囲の触媒金属粒子、および触媒活性成分の高度に効率的な使用をもたらす。
【0039】
典型的に、使用される溶媒の濃度は、アルコキシド含量に結びついている。26.5:1のモル比のエタノール:全アルコキシドを使用することができるが、エタノール:全アルコキシドのモル比は約5:1〜53:1、もしくはそれ以上であってもよい。非常に過剰なアルコールが用いられる場合、ゲル化(gelatin)は概してすぐに起こらず、若干の溶媒の蒸発が必要とされる。より低い溶媒濃度において、より少ない細孔体積および表面積を有する、より重質のゲルが形成されると考えられる。
【0040】
本発明のために、水およびいずれかの水溶液をアルコール可溶性アルコキシドおよび他の試薬に滴下して加水分解および縮合反応を引き起こす。アルコキシド系に応じて、識別できるゲル化点に数分または数時間で達することができる。非水溶液中の全Zr、Ti、およびSiアルコキシドに添加された全水(水溶液中に存在する水を含める)のモル比は、反応させられる特定の無機アルコキシドによって変化する。
【0041】
概して、約0.1:1〜10:1の水:アルコキシドのモル比を用いる。例えば、ジルコニウム(アルコキシド)およびチタン(アルコキシド)のほぼ4:1の比を用いることができる。反応に使用された水の量は、反応混合物中の無機アルコキシドを加水分解するために計算された量である。アルコキシド種を加水分解するために必要とされる比よりも低い比は、部分的に加水分解された材料をもたらし、多くの場合、老化方法および大気の湿気の存在に応じて、ずっと遅い速度でゲル化点に達する。
【0042】
酸性または塩基性試薬を無機アルコキシド媒体に添加することは、加水分解と縮合反応との速度論、および可溶性金属と促進剤試薬とを閉じ込めるかまたは混入するアルコキシド前駆物質から誘導された酸化物/水酸化物母材のミクロ構造に影響を与えることがある。概して、1〜12の範囲内のpHを用いることができ、1〜6のpH範囲が好ましい。
【0043】
反応して本発明のゲルを形成した後、ゲルの若干の老化があるゲル化方法を完了することが必要である場合がある。この老化は、1分から数日の範囲であることがある。概して、すべてのアルコゲルは、少なくとも数時間、空気中で室温において老化される。
【0044】
アルコゲルからの溶媒の除去をいくつかの方法によって行なうことができる。真空乾燥または空気中での加熱による除去によって、キセロゲルが形成される。材料のエーロゲルは典型的に、オートクレーブなどの加圧システム内に入れることによって形成されてもよい。本発明の実施において形成される溶媒含有ゲルをオートクレーブ内に置き、そこで、超臨界流体によって溶媒がもはや抽出されなくなるまで超臨界流体をゲル材料中に流れさせることによって、それをその臨界温度および圧力を超えて流体と接触させることができる。この抽出を実施してエーロゲル材料を製造する時に、様々な超臨界流体をそれらの臨界温度および圧力において利用することができる。例えば、フレオン(Freon)(登録商標)フルオロクロロメタンによって代表されるフルオロクロロカーボン(例えば、フレオン(登録商標)11(CClF)、12(CCl)、または114(CClFCClF))、アンモニア、および二酸化炭素はすべて、この方法のために適している。典型的に、抽出流体は、大気条件において気体であり、その結果、液体/固体界面においての毛管力による細孔つぶれは、乾燥する間、避けられる。得られた材料は、多くの場合、非超臨界乾燥材料よりも大きな表面積を有する。
【0045】
このように製造されたキセロゲルおよびエーロゲルは、酸化物またはオキシ水酸化物母材中に分散された前駆物質塩として説明することができる。ヒドロキシル含量はこの時点で不確定である。理論上の最大量は、中心金属原子の原子価に相当する。したがって、Ti(O2−x(OH))は、xが2であるとき、理論上のヒドロキシル最大量を有する。HO:アルコキシドのモル比もまた、最終キセロゲル化学量論に影響を与えることがある。この場合、HO:Tiが4未満である場合、未老化ゲルに残余−OR基がある。しかしながら、大気の湿気との反応が、重合および脱水を続けた時にこれらを相当する−OH、および−O基に変換する。また、老化は、不活性条件下でも、架橋および重合の継続によって、−OHの縮合を引き起こし、HOを除去することができ、すなわち、ゲルを形成することができる。
【0046】
貴金属成分(例えば、白金、ルテニウム、およびそれらの混合物)は、還元された金属、酸化物、またはオキシ水酸化物として存在することができる。
【0047】
通常、使用前に母材の触媒金属成分をいくつかの場合in situ(電気化学測定の間に)またはex situ還元して金属元素(例えば、白金)を提供する。ex situ還元は、高温のHガスなどの様々な還元剤を用いて、または硼水素化ナトリウム、ヒドラジン、または次亜燐酸などの化学還元剤を用いて行なわれてもよい。
【0048】
触媒中に存在する貴金属の量は、式{[(Pt)(Ru)(M)1−(a+b)1−d[(TiZrSi1−x−y)(O1−eOH2e[C]によって示されるように、広範囲に変化してもよく、式中、nが、Tiの酸化数を表し、3〜4であり、xが0〜1であり、yが0〜1であり、x+y>0、z=[4(x+(1−x−y))+n(y)]/2であり、aが0.01〜1であり、b=0〜0.99であり、dが0.05〜0.95であり、eが0〜1であり、Mが、Ni、Co、Fe、W、およびMoから選択される促進剤元素であり、Cが導電性成分であり、qが、重量パーセントを表し、約5重量%〜約90重量%であり、rが、重量パーセントを表し、1−qである。重量パーセントは、ゾル−ゲル誘導複合体のすべての成分の全重量を基準にしている。好ましくは、aが0.5であり、bが0.5であり、xが0〜0.5であり、yが0〜0.5であり、dが0.5であり、eが0〜1であり、qが40重量%である。
【0049】
実例となる調製は、チタン/シリコンまたはジルコニウム/シリコンのオキシ水酸化物溶液中に白金またはルテニウム塩、またはそれらの混合物を混入することを必要とする。アルコキシドを加水分解して酸化物またはオキシ水酸化物を形成するのは、酸または塩基のどちらで触媒されてもよい。オキシ水酸化物前駆物質の加水分解は、縮合反応を伴う。
【0050】
当該技術分野に公知の条件(pH、ゲル化剤、反応体比、温度、時間、溶媒、および溶媒濃度)下で、これらは、所望の貴金属および導電性成分を含有する無機ゲルへの重合をもたらすことができる。いくつかの場合、貴金属は、重合網目の一部であるかまたは網目内に閉じ込められる。
【0051】
この方法の結果は、より普通の合成方法を用いて通常に達成可能であるよりも高い金属分散および均一性をオキシ水酸化物母材中に達成できることである。
【0052】
ゲル前駆物質は、オキシ水酸化物および他の試薬、および水などのプロトン性溶媒を含有する別個の溶液から調製される。オキシ水酸化物前駆物質溶液を、プロトン性溶媒を含有する溶液と混合し、オキシ水酸化物が反応および重合してゲルを形成する。プロトン性溶媒は、加水分解を開始するための触媒として微量の酸または塩基と共に、水を含有することができる。重合および架橋が進むにつれて、粘度が増加し、材料は最終的に硬質ゲルに硬化しうる。
【0053】
ゾル−ゲル誘導複合体の調製において、貴金属前駆物質および導電性成分を別々にもしくはプロトン性またはオキシ水酸化物前駆物質含有溶液に添加することができる。ゲル化の後、金属塩または錯体を均一にゲル網目に混入する。次いで、下に記載したように、ゲルを乾燥および加熱してキセロゲルまたはエーロゲル材料を製造することができる。
【0054】
合成技術および製造されたアルコゲル材料の物理的外観のために、前駆物質キセロゲルおよびエーロゲルは、活性金属および促進剤を高度に分散された状態で含有することが明らかである。最終触媒材料を製造するためのさらに別の加工には、高度に分散された最終材料を製造するための低温においての化学還元、または最終活性触媒を製造するための、水素などの様々な媒体中での加熱サイクルの組合せを含めてもよい。
【0055】
出発原料(好ましくはチタンまたはジルコニウムアルコキシドまたは金属塩)のための基準の1つは、それらが特定の媒体または溶媒に溶解することである。市販されているアルコキシドを使用できるのが好ましい。しかしながら、チタンまたはジルコニウムアルコキシドを他の経路によって調製することができる。例には、触媒の存在下での0価の金属とアルコールとの直接反応がある。多くのアルコキシドを金属ハロゲン化物とアルコールとの反応によって形成することができる。アルコキシ誘導体を配位子交換反応においてアルコキシドとアルコールとの反応によって合成することができる。また、ジアルキルアミドとアルコールとの直接反応はアルコキシド誘導体を形成する。該方法において利用された媒体は概して、利用されるチタンまたはジルコニウムアルコキシドおよび一段法合成において添加される付加的な金属試薬および促進剤のための溶媒であるのがよい。それらの各媒体(水性および非水性)中のすべての成分の溶解度は、高度に分散された材料を生じるのが好ましい。このようにして可溶性試薬を使用することによって、活性金属と促進剤試薬との混合および分散は、実際、それらの各溶液中のそれらの分散を反映して、原子に近い場合がある。この方法によってこのように製造されたゾル−ゲルは、高度に分散された活性金属および促進剤を有する。高分散は、ナノメートルサイズまたはそれ以下の範囲の前駆物質粒子をもたらす。
【0056】
別の態様において、ゾル−ゲル誘導複合体を乾燥させて電気触媒粉末を形成する。触媒粉末を支持体上にコーティングすることができる。例えば、電気化学燃料電池は、2つの電極、すなわちカソードとアノードの間に配置された電解質を使用する。固体ポリマー燃料電池は概して、電解質が固体ポリマー電解質(「SPE」)を含んでなり、多孔性導電性シート材料を含んでなる2つの電極層の間に配置されたイオン交換膜である膜電極組立体を使用する。SPEはイオン導電性(典型的にプロトン導電性)であり、また、反応体の流れを互いに単離するためのバリアとして作用する。膜の別の機能は、2つの電極層の間の電気絶縁体として作用することである。電気触媒は、所望の電気化学反応を引き起こすためにSPEと電極との間の界面に配置される。従って、電気−酸化触媒がSPEとアノードとの界面において用いられ、電気−還元触媒が、SPEとカソードとの間の界面において用いられる。
【0057】
少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を含んでなる電気触媒粉末は、燃料電池中の電気−酸化触媒として特に適している。従って、別の実施態様によって、電気触媒をアノードに面するSPEの表面に、SPEに面するアノードの表面に、または両方の表面に適用することができる。別の実施態様において、電気触媒をSPEに面する両方の電極の表面の上に、SPEの両方の表面の上に、またはそれらの組合せにコーティングする。別の態様によって、支持体はSPEを含んでなる。さらに別の態様によって、支持体は電極、好ましくはアノードを含んでなる。
【0058】
本発明の一実施態様において、電極上の触媒幾何学表面は、燃料電池の燃料および/または電力条件に応じて0.1mg Pt/cmしかない場合がある。別の実施態様において、電極上の触媒幾何学表面は、燃料電池の燃料および/または電力条件に応じて4mg Pt/cmもしくはそれ以上もある場合がある。
【0059】
本発明の別の態様によって、燃料電池、好ましくはダイレクトメタノール燃料電池は、チャンバと、該チャンバをアノード区画とカソード区画とに分離する膜とを含んでなり、該膜は、少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を含んでなる触媒で少なくとも部分的にコーティングされる。好ましくは、該膜が、アノードチャンバに面する第1の表面とカソードチャンバに面する第2の表面とを含んでなり、該触媒が、該第1の表面上に少なくとも部分的にコーティングされる。さらに、本発明のこの態様による燃料電池は、少なくとも2つの燃料電池を含んでなる燃料スタックの一部であってもよい。燃料スタックのわずか1つの燃料電池がゾル−ゲル誘導複合体を含んでなることがあるが、燃料スタック中の燃料電池のすべてがゾル−ゲル誘導複合体を含んでなることが好ましい。
【0060】
ゾル−ゲル誘導複合体が電気触媒コーティング組成物として使用されるとき、アノード電気触媒が得られた電極の重量での主成分であるように、アノード電気触媒、イオン交換ポリマー、および存在する場合、他の成分の量を調節するのが好ましい。より好ましくは、電極中のアノード電気触媒の、イオン交換ポリマーに対する重量比が約2:1〜約10:1である。
【0061】
公知の電気触媒コーティング技術が使用可能であり、非常に厚い、例えば、20μm以上〜非常に薄い、例えば、1μm以下の範囲の本質的に任意の厚さの多種多様な適用された層を製造する。
【0062】
触媒のコーティングされた膜(「CCM」)の作製に使用するための支持体は、電気触媒コーティング組成物に使用するために上に記載された同じイオン交換ポリマーの膜であってもよい。膜は、公知の押出またはキャスチング技術によって製造されてもよく、所期の用途に応じて変化しうる厚さを有することができる。膜は典型的に、350μm以下の厚さを有するが、最近、非常に薄い、すなわち、50μm以下の膜が使用されている。ポリマーはアルカリ金属またはアンモニウム塩の形であってもよいが、後処理酸交換工程を避けるために膜中のポリマーが酸の形であるのが代表的である。酸の形の適した過フッ素化スルホン酸ポリマー膜は、E.I.デュ・ポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.du Pont de Nemours and Company)によって商標ナフィオン(Nafion)(登録商標)として入手可能である。
【0063】
また、強化過フッ素化イオン交換ポリマー膜をCCM製造において利用することができる。強化膜は、多孔性の膨張ポリテトラフルオロエチレン(「ePTFE」)にイオン交換ポリマーを含浸することによって作製することができる。ePTFEは、W.L.ゴア・アンド・アソシェーツ社(W.L.Gore and Associates,Inc.)(メリーランド州、エルクトン(Elkton,Md.))から商品名「ゴアテックス(Goretex)」としておよびテトラテック(Tetratec)(ペンシルベニア州、フィースタヴィル(Feasterville,Penn.))から商品名「テトラテックス(Tetratex)」として入手可能である。ePTFEに過フッ素化スルホン酸ポリマーを含浸することは、1996年8月20日にバハール(Bahar)らに発行された米国特許第5,547,551号明細書、および2000年8月29日にスペスマン(Spethmann)らに発行された米国特許第6,110,333号明細書に開示されている。
【0064】
あるいは、イオン交換膜は多孔性担体であってもよい。多孔性担体は、いくつかの用途のための機械的性質を改良し、および/またはコストを減少させることができる。多孔性担体は、炭化水素およびポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンの他、ポリオレフィンを含有するコポリマーなど、広範囲の成分から作製されてもよい。また、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのペルハロゲン化ポリマーを用いることができる。また、膜は、1996年6月11日にサビネル(Savinell)らに発行された米国特許第5,525,436号明細書、1998年2月10日にサビネルらに発行された米国特許第5,716,727号明細書、2000年2月15日にサビネルらに発行された米国特許第6,025,085号明細書、および2000年8月8日にサビネルらに発行された米国特許第6,099,988号明細書に記載されているように、例えば、トリフルオロ酢酸(「TFA」)をドープされたリン酸(HPO)中のポリベンズイマダゾールの溶液をキャスチングすることによって、ポリベンズイマダゾールポリマーから作製されてもよい。
【0065】
ガス拡散裏材料は、親水性または疎水性挙動を示すように処理することができる、織または不織炭素繊維から作製された紙または布などの多孔性導電性シート材料と、典型的に炭素粒子とPTFEなどのフルオロポリマーとのフィルムを含んでなる、ガス拡散層とを含んでなる。電気触媒コーティング組成物をガス拡散裏材料上にコーティングする。アノードまたはカソードを形成する電気触媒コーティング組成物は、触媒のコーティングされた膜を作製する時に使用するために上に記載された組成物と同じである。
【0066】
電気触媒組成物が膜またはガス拡散裏材料の上のどちらかもしくは両方の上にコーティングされた、膜とガス拡散裏材料とを有する組立体は、膜電極組立体(「MEA」)と称されることがある。導電性材料から作製され、反応体のためのフローフィールドを提供する、バイポーラセパレータ板が多数の隣接したMEAの間に置かれる。多数のMEAおよびバイポーラ板をこのようにして組み立てて燃料電池スタックを提供する。
【0067】
電極が燃料電池内で有効に機能するために、有効なアノードおよびカソード電気触媒部位が設けられる。有効なアノードおよびカソード電気触媒部位は、いくつかの望ましい特性を有する。すなわち、(1)該部位は反応体にアクセス可能である、(2)該部位はガス拡散層に電気的に接続されている、および(3)該部位は燃料電池電解質にイオン的に接続されている。
【0068】
燃料および酸化体流体の流れの漏れまたは混合を防ぐために燃料電池スタック内の反応体流体の流れの通路を封止することが望ましい。燃料電池スタックは典型的に、セパレータ板と膜との間のエラストマーガスケットなど、防流体弾性封止を使用する。このような封止は典型的に、マニホールドと電気化学活性領域の境界を定める。圧縮力を弾性ガスケット封止に適用することによって封止を達成することができる。圧縮は、セパレータ板の表面とMEAとの間の封止および電気的接触の両方、および隣接した燃料電池スタック成分の間の封止を強化する。通常の燃料電池スタックにおいて、燃料電池スタックは典型的に、1つもしくはそれ以上の金属タイロッドまたは引張部材によって一対の端板の間で圧縮され、それらの組み立てられた状態に維持される。タイロッドは典型的に、スタック端板に形成された孔を通して延在し、それらをスタック集成体に固定するための付属ナットまたは他の締結手段を有する。タイロッドは外部的であってもよく、すなわち、燃料電池板およびMEAを通して延在しない。しかしながら、外部タイロッドは、スタックの重量および体積をかなり増すことがある。1996年1月16日にギブ(Gibb)らに発行された米国特許第5,484,666号明細書に記載されているように、燃料電池板およびMEAの開口を通してスタック端板の間に延在する1つもしくはそれ以上の内部タイロッドを使用することが概して好ましい。典型的に弾性部材を利用して、タイロッドおよび端板と協働して2つの端板を互いに近づけて燃料電池スタックを圧縮する。
【0069】
弾性部材は、例えば、熱または圧力による膨張および収縮、および/または歪みによって引き起こされたスタックの長さの変化に対応する。すなわち、燃料電池組立体の厚さが収縮する場合、弾性部材が膨張して燃料電池組立体に圧縮負荷を維持する。また、弾性部材は圧縮して燃料電池組立体の厚さの増加に対応することができる。好ましくは、弾性部材は、動作燃料電池の予想された膨張および収縮限界内に、実質的に均一な圧縮力を燃料電池組立体に提供するように選択される。弾性部材は、機械ばね、または液圧もしくは空気圧ピストン、またはばね板、もしくは圧力パッド、あるいは他の弾性の圧縮デバイスまたは機構を含んでなることができる。例えば、1つもしくはそれ以上のばね板をスタックに層状にすることができる。弾性部材が引張応力部材と協働して端板を互いに近づけ、それによって燃料電池組立体に圧力負荷を適用し、引張応力部材に引張負荷を適用する。
【実施例】
【0070】
本発明は以下の実施例においてさらに規定される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すが、実例として示されるにすぎないことは理解されるはずである。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の好ましい特徴を確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更および改良を実施してそれを様々な用途および条件に適合させることができる。
【0071】
略語の意味は以下の通りである。「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「S」は秒を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「M」はモルを意味し、「cm」はセンチメートルを意味し、「mA」はミリアンペアを意味し、「V」はボルトを意味し、「重量%」は重量パーセント(パーセンテージ)を意味する。
【0072】
実施例1
不活性雰囲気ドライボックス中で、3.0957gの四塩化白金(PtCl、マサチューセッツ州、ウォード・ヒルのアルファ・エイサー(Alfa Aesar,Ward Hill,Mass.))に2.033gの塩化ルテニウム水和物(RuCl×HO、Ru含量=45.6重量%、ミズーリ州、セントルイスのシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo.))および800mLのパンクチリアスエタノール(punctilious ethanol)を配合した。第2の溶液を調製するために、3.1224gチタンn−ブトキシド(シグマ・アルドリッチ)に1.911gのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ)および50mLのパンクチリアスエタノールを配合した。不活性雰囲気ドライボックス中で、撹拌しながら第2の溶液を第1の溶液に添加した。6gのヴァルカン(登録商標)XC72R(ジョージア州、アルファレッタのキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.,Alpharetta,Ga.)のカーボンブラック)を約10秒後に添加した。
【0073】
約5分後、1.32gのHOを溶液に添加した。溶液を穏やかに撹拌し、窒素で覆った。約72時間後、材料を5時間、100℃の真空下で乾燥させた。
【0074】
乾燥された粉末を還元するために、最初に7gの触媒粉末を20gの水で湿潤した。次に、14M NaOH中の37.4869gのNaBHを室温において粉末と接触させた。引き続いて粉末を数回洗浄して、残留したNaおよび他の汚染物質を還元剤から除去した。
【0075】
次に、触媒を電気化学半電池測定のためにインクとして調製した。0.2158gの触媒、0.4065gのナフィオン(登録商標)イオノマー水溶液(ペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレンコポリマー、10.62重量%、水素の形、デラウェア州、ウィルミントンのE.I.デュ・ポン・ドゥ・ヌムール社(E.I.du Pont de Nemours & Co.,Wilmington,Del.))、および5.3775gのHOを30秒間、室温においてオムニ・ミキサー・ホモジナイザー(Omni Mixer Homogenizer)内で微粉砕した。次に、インクをカーボン紙ストリップ上に1.5cmの面積にわたってコーティングし、その結果、ストリップ上の触媒の最終幾何学表面は約0.3mg Pt/1.5cmである。1.0×5.5cmである全ストリップを、測定前に1時間120℃の流動水素中で加熱した。
【0076】
実施例2
NaBH中で触媒粉末を還元する代わりに粉末を1時間120℃までの流動H中で還元したことを除いて、実施例1に記載されたのと同じ手順を用いた。
【0077】
次に、触媒を電気化学半電池測定のためにインクとして調製した。0.1829gの触媒、0.3445gのナフィオン(登録商標)イオノマー水溶液(10.62重量%、水素の形、E.I.デュ・ポン・ドゥ・ヌムール社)、および5.4726gのHOを30秒間、室温においてオムニ・ミキサー・ホモジナイザー内で微粉砕した。次に、インクをカーボン紙ストリップ上に1.5cmの面積にわたってコーティングし、その結果、ストリップ上の触媒の最終幾何学表面は約0.3mg Pt/1.5cmである。1.0×5.5cmである全ストリップを、測定前に1時間120℃の流動水素中で加熱した。
【0078】
実施例3
実施例2に記載された手順と同様な手順を用いた。4.077gのPtCl(アルファ・エイサー)に、不活性雰囲気ドライボックス中で2.6765gのRuCl×HO(Ru含量=45.6重量%、シグマ・アルドリッチ)および600mLのパンクチリアスエタノールを配合した。1.028gのチタンn−ブトキシド(シグマ・アルドリッチ)、0.629gのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ)および100mLのパンクチリアスエタノールを含有する第2の溶液を調製した。不活性雰囲気ドライボックス中で、第2の溶液を第1の溶液に添加し、その直後に6gのヴァルカン(登録商標)XC72R(キャボット・コーポレーション(Cabot Corp.))を混合した。0.4535gのHOをこの混合物に添加して縮合および重合反応を開始した。
【0079】
後続のすべての工程は、実施例2に記載されたものと同じである。次に、触媒を電気化学半電池測定のためにインクとして調製した。0.1569gの触媒、0.2955gのナフィオン(登録商標)イオノマー水溶液(10.62重量%、水素の形、E.I.デュ・ポン・ドゥ・ヌムール社)、および5.5476gのHOを30秒間、室温においてオムニ・ミキサー・ホモジナイザー内で微粉砕した。次に、インクをカーボン紙ストリップ上に1.5cmの面積にわたってコーティングし、その結果、ストリップ上の触媒の最終幾何学表面は約0.3mg Pt/1.5cmである。1.0×5.5cmである全ストリップを、測定前に1時間120℃の流動水素中で加熱した。
【0080】
実施例4
実施例2に記載された手順と同様な手順を用いた。2.816gのPtCl(アルファ・エイサー)に不活性雰囲気ドライボックス中で1.8492gのRuCl×HO(Ru含量=45.6重量%、シグマ・アルドリッチ)および600mLのパンクチリアスエタノールを混合した。第2の溶液を調製するために、1.4684gのジルコニウムn−プロポキシド(エタノール中に70重量%、アルファ・エイサー)、1.7388gのテトラエチルオルトシリケート(シグマ・アルドリッチ)、および20mLのパンクチリアスエタノールを混合した。第2の溶液を不活性雰囲気ドライボックス中で第1の溶液に添加した。その直後に、6gのヴァルカン(登録商標)XC72R(キャボット・コーポレーション)を溶液に添加し、その約5分後、1.2gのHOを混合物に添加して加水分解および縮合反応を開始した。後続のすべての手順は、実施例2に記載された手順と同じである。
【0081】
次に、触媒を電気化学半電池測定のためにインクとして調製した。0.2166gの触媒および0.4079gのナフィオン(登録商標)イオノマー水溶液(10.62重量%、水素の形、E.I.デュ・ポン・ドゥ・ヌムール社)、および5.3755gのHOを30秒間、室温においてオムニ・ミキサー・ホモジナイザー内で微粉砕した。次に、インクをカーボン紙ストリップ上に1.5cmの面積にわたってコーティングし、その結果、ストリップ上の触媒の最終幾何学表面は約0.3mg Pt/1.5cmである。1.0×5.5cmである全ストリップを、測定前に1時間120℃の流動水素中で加熱した。
【0082】
実施例5
電気化学データ:ピーク酸化電流
【0083】
【表1】

【0084】
アービン・インストルメンツ(Arbin Instruments)によって製造されたアービン(Arbin)試験システムステーション(モデルBT2043、ソフトウェアバージョンMITS’97)を用いて電気化学半電池のデータを集めた。1M CHOH/0.5M HSO溶液中でサイクリックボルタメトリー(CV)を用いて3電極系を用い、電極をメタノール酸化についてそれらの活性を測定し、そこで対向電極はPtコイルであり、SCE(標準カロメル電極)を参照電極として用いた。電位は、50mV/Sの走査速度において開路電位(Eoc)から1.1V、−0.25Vまで走査された。走査は、電流が安定するまで1.1Vから−0.25V、1.1Vまで繰り返された。電流を幾何学表面積のために規準化した。表にされた電流はipt1であり、それは、mA/cmにおいてのCV走査からのピーク酸化電流であり、mA単位の電流を1.5cmの幾何学電極面積で割った値である。ipt1Aは、触媒ストリップ上のPtの量(mg単位)に規準化されたCV走査からのピーク酸化電流である。
【0085】
データは、これらの材料を電極として、具体的にはダイレクトメタノール燃料電池のアノードとして使用できることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項2】
少なくとも1つの貴金属が白金、ルテニウム、またはそれらの混合物を含んでなる請求項1に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項3】

{[(Pt)(Ru)(M)1−(a+b)1−d[(TiZrSi1−x−y)(O1−eOH2e[C]
(式中、nが3〜4であり、
xが0〜1であり、
yが0〜1であり、
x+y>0、
z=[4(x+(1−x−y))+n(y)]/2、
aが0.01〜1であり、
b=0〜0.99であり、
dが0.05〜0.95であり、
eが0〜1であり、
Mが、Ni、Co、Fe、W、およびMoから選択される促進剤元素であり、
Cが少なくとも1つの導電性成分であり、
qが約5重量%〜約90重量%であり、
rが1−qである)で表される請求項2に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項4】
aが0.5である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項5】
bが0.5である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項6】
xが0〜0.5である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項7】
yが0〜0.5である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項8】
dが0.5である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項9】
qが40重量%である請求項3に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項10】
少なくとも1つの導電性成分が乱層炭素または黒鉛状炭素を含んでなる請求項1に記載のゾル−ゲル誘導複合体。
【請求項11】
請求項1に記載のゾル−ゲル誘導複合体を含んでなる物品。
【請求項12】
請求項1に記載のゾル−ゲル誘導複合体でコーティングされた支持体。
【請求項13】
a)少なくとも1つの貴金属含有化合物を含んでなる第1の溶液と金属アルコキシド、オルトシリケート、および溶媒を含んでなる第2の溶液とを配合して混合物を形成する工程と、
b)少なくとも1つの導電性成分を含んでなる第3の溶液を混合物に添加する工程と、
c)混合物を重合して無機ゲルを形成する工程と
を含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を製造するための方法。
【請求項14】
少なくとも1つの貴金属含有化合物が白金、ルテニウム、またはそれらの混合物を含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの導電性成分が乱層炭素または黒鉛状炭素を含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
金属アルコキシドがチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドを含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項17】
金属アルコキシドが金属エトキシド、金属n−ブトキシド、金属イソプロポキシド、または金属n−プロポキシドである請求項13に記載の方法。
【請求項18】
金属アルコキシドがチタンn−ブトキシドまたはジルコニウムn−プロポキシドである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
オルトシリケートがテトラエチルオルトシリケートである請求項13に記載の方法。
【請求項20】
ゲル化剤が重合工程を促進する請求項13に記載の方法。
【請求項21】
ゲル化剤が水である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
水が、約0.1:1〜約10:1の範囲の水:金属アルコキシドのモル比で存在する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
重合工程の後に無機ゲルを乾燥させるさらなる工程を含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項24】
乾燥工程が、無機ゲルを加熱するかまたは溶媒を無機ゲルから除去することによって行なわれる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
乾燥工程の後に無機ゲルをカ焼するさらなる工程を含んでなる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
溶媒がエタノールである請求項13に記載の方法。
【請求項27】
エタノールが約5:1〜約53:1の範囲のエタノール:金属アルコキシドのモル比で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
混合物が約1〜約12の範囲のpHを有する請求項13に記載の方法。
【請求項29】
チャンバと、チャンバをアノード区画とカソード区画とに分離する膜とを含んでなる燃料電池であって、膜が、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体を含んでなる触媒で少なくとも部分的にコーティングされる、燃料電池。
【請求項30】
膜が、アノードチャンバに面する第1の表面とカソードチャンバに面する第2の表面とを含んでなり、触媒が、第1の表面上に少なくとも部分的にコーティングされる請求項29に記載の燃料電池。
【請求項31】
ダイレクトメタノール燃料電池である請求項29に記載の燃料電池。
【請求項32】
少なくとも2つの燃料電池を含んでなり、少なくとも2つの燃料電池の少なくとも1つが請求項29に記載の燃料電池を含んでなる、燃料電池スタック。
【請求項33】
a)第1の電極と、
b)第2の電極と、
c)第1および第2の電極の間に挟まれた固体ポリマー電解質膜と
を含んでなる膜電極組立体であって、チタンシリコンゾル−ゲル誘導材料、ジルコニウムシリコンゾル−ゲル誘導材料、またはそれらの混合物を含んでなる母材中に分散されてその全体にわたって分布された少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体が、第1の電極と固体ポリマー電解質膜との間の境界面に配置される、膜電極組立体。
【請求項34】
第1の電極がアノードである請求項33に記載の膜電極組立体。
【請求項35】
ゾル−ゲル誘導複合体が、固体ポリマー電解質膜に面する第1の電極の表面、第1の電極に面する固体ポリマー電解質膜の表面、またはそれらの組合せの上にコーティングされる請求項33に記載の膜電極組立体。
【請求項36】
少なくとも1つの貴金属と少なくとも1つの導電性成分とを含んでなるゾル−ゲル誘導複合体が、第2の電極と固体ポリマー電解質膜との間の境界面に配置される請求項33に記載の膜電極組立体。
【請求項37】
ゾル−ゲル誘導複合体が、固体ポリマー電解質膜に面する第1の電極の表面および固体ポリマー電解質に面する第2の電極の表面、固体ポリマー電解質膜の両方の表面、またはそれらの組合せの上にコーティングされる請求項36に記載の膜電極組立体。


【公表番号】特表2008−500171(P2008−500171A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515468(P2007−515468)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018989
【国際公開番号】WO2005/119828
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】