説明

燃焼排ガス中の二酸化炭素を利用した圧力スイング法による園芸用施設への二酸化炭素供給装置

【課題】燃焼排ガス中の二酸化炭素を回収するにあたって、熱源を必要としない物理吸着法を用いて、燃焼ガスから二酸化炭素を回収・濃縮し、濃縮した二酸化炭素を貯留させ、温室内の二酸化炭素濃度が低下した際に迅速に貯留した二酸化炭素を放出することにより、昼間においてはほとんど電力を使用せずに二酸化炭素を供給することのできる、園芸用施設への二酸化炭素供給装置を提供する。
【解決手段】 二酸化炭素供給源において発生する燃焼排ガス中の窒素酸化物や硫黄酸化物を、植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする手段と、圧力スイングにより吸脱着が可能な二酸化炭素吸着剤を用いて、燃焼排ガス中に含有される二酸化炭素を回収・濃縮する手段と、濃縮した二酸化炭素を大気圧以上の圧力にて貯留する手段と、園芸用施設内において必要時に光合成に適した濃度となるよう、上記二酸化炭素吸着剤に貯留された二酸化炭素を園芸用施設内に迅速に放出させる手段を備える、園芸用施設への二酸化炭素供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設園芸用の温室に燃焼排ガスから回収した二酸化炭素を施用することにより、園芸作物の収率および品質の向上を可能とする、園芸用施設への二酸化炭素供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチゴやメロンなどの園芸作物においては、温度管理などの観点から一般に温室等の施設内で栽培されている。また、冬季の栽培においては、夜間温室内の温度が作物の生育に影響を与える温度以下とならないように、加温機を用いて温室内を暖めている。この加温機は、重油や灯油などを燃焼させることにより得られた熱を、温風として送るシステムとなっている。
【0003】
また、昼間には、園芸作物の収率および品質の向上のため、作物の成長に必要な二酸化炭素を施用する技術が開発されており(特許文献1)、温室内の二酸化炭素濃度を高めるための二酸化炭素施用装置が普及している。この場合の二酸化炭素施用装置も、前記加温機の場合と同様に重油や灯油を燃焼させ、燃焼ガス中の二酸化炭素を温室内に供給し、光合成を促進している(特許文献2、3)。
【0004】
上記のように、冬季の園芸作物の栽培においては、昼間は光合成促進用に夜間は加温用にボイラーにて重油や灯油を燃焼させている。昼間も夜間もボイラーにて燃焼させているが、昼間に必要なのは二酸化炭素であり熱は必要なく、夜間に必要なのは熱であり二酸化炭素は必要ない。それゆえ、夜間に温室を暖める目的で燃焼させた排ガスから二酸化炭素を回収・貯留しておき、それを昼間に温室へ供給することができれば、昼間ボイラーにて燃焼させる必要はなくなり、省エネルギーの促進・地球温暖化抑制という大きな効果が得られる。そのような背景から、夜間加温のために燃焼させた排ガスから二酸化炭素を回収し、回収した二酸化炭素を昼間に施用する技術が開発されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−184478号公報
【特許文献2】特開2009−153459号公報
【特許文献3】特開2009−213414号公報
【特許文献4】特開2006−340683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記方法における燃焼ガスからの二酸化炭素回収にあたっては、二酸化炭素吸着剤としてリチウム複合酸化物(LiSiO)を用いており、吸着した二酸化炭素を放出するにあたっては650℃以上に加熱しなければならず、かなりの電力を必要とするという問題点があった。
【0007】
二酸化炭素の吸着剤には、主に熱をかけることによって吸着した二酸化炭素を放出させる化学吸収法、圧力を低減させることによって二酸化炭素を放出させる物理吸着法(圧力スイング法)、二酸化炭素を選択的に分離させる膜分離法の3種類が重要な技術として挙げられる。
この中で、膜分離法は、エネルギー的に最も小さいとされるが、少量の分離精製には対応可能であるものの燃焼排ガスを効率的に分離するだけの大きさの膜の開発には至っていない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、燃焼排ガス中の二酸化炭素を回収するにあたって、熱源を必要としない物理吸着法を用いて、燃焼ガスから二酸化炭素を回収・濃縮し、濃縮した二酸化炭素を貯留させ、温室内の二酸化炭素濃度が低下した際に迅速に貯留した二酸化炭素を放出することにより、昼間においてはほとんど電力を使用せずに二酸化炭素を供給することのできる、施設園芸用の二酸化炭素供給施用装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
熱源を必要としない物理吸着法を用いて燃焼排ガス中の二酸化炭素を回収するにあたっては、燃焼排ガス中から、植物の成長に影響を及ぼす窒素酸化物や硫黄酸化物を除去した後、物理吸着法により燃焼ガスから二酸化炭素を回収する必要がある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、硫黄酸化物を除去し、高活性炭素繊維による触媒機能等を用いて窒素酸化物を除いた後、物理吸着法により二酸化炭素の濃縮を行い、圧力を高めて二酸化炭素を貯留し必要時に放出させることのできる二酸化炭素供給装置が得られること、および該装置に用いるのに好適な吸着剤として、二酸化炭素貯留用として大気圧以上に圧力を高くすることにより二酸化炭素を吸着し、圧力を大気圧に戻すだけで二酸化炭素を放出するという特性を有する吸着剤を用いることにより、温室内の二酸化炭素濃度が規定値より下回った際に、センサーからの信号により二酸化炭素を貯留しているタンクのコックを開けるだけの操作で二酸化炭素を供給することができることを見いだし、昼間においてはほとんど電力を使用せずに二酸化炭素を供給することのできる本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
〔1〕二酸化炭素供給源において発生する燃焼排ガス中の窒素酸化物や硫黄酸化物を、植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする手段と、圧力スイングにより吸脱着が可能な二酸化炭素吸着剤を用いて、燃焼排ガス中に含有される二酸化炭素を回収・濃縮する手段をこの順に備え、さらに、濃縮した二酸化炭素を大気圧以上の圧力にて貯留する手段と、園芸用施設内において必要時に光合成に適した濃度となるよう、上記二酸化炭素吸着剤に貯留された二酸化炭素を園芸用施設内に迅速に放出させる手段を備えることを特徴とする園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
〔2〕前記二酸化炭素吸着剤が、大気圧以上に圧力を高くすることにより二酸化炭素を吸着し、圧力を大気圧に戻すだけで二酸化炭素を放出する特性を有することを特徴とする上記〔1〕の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
〔3〕二酸化炭素を供給する際には、大気圧以上の圧力にて貯留されている二酸化炭素を、圧力差によって迅速に園芸用施設内に供給する手段と、園芸用施設内にて十分な二酸化炭素が供給された際には、瞬時に二酸化炭素の供給を止める手段を有することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
〔4〕前記の窒素酸化物や硫黄酸化物を、植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする手段が、窒素酸化物除去装置と硫黄酸化物除去装置とからなる上記〔1〕〜〔3〕に記載の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
〔5〕前記の窒素酸化物除去装置が、洗浄時に発生する主に硝酸イオンとして水に溶解した窒素源を、園芸用施設内で利用する肥料として戻す手段を有することを特徴とする上記〔4〕の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の園芸用施設への二酸化炭素供給装置によれば、温室内の二酸化炭素濃度が規定値より下回った際に、センサーからの信号により二酸化炭素を貯留しているタンクのコックを開けるだけの操作で二酸化炭素を供給することができ、かつ温室内の二酸化炭素濃度が規定値よりも上回った際に、センサーからの信号により二酸化炭素を貯留しているタンクのコックを閉じるだけの操作で二酸化炭素の供給を止めることができ、夜間に使用したボイラーから排出される二酸化炭素の回収・濃縮・貯留までを連続的に行うことにより、昼間は最小限の電力にて二酸化炭素の温室内への供給・停止を容易に行えるという利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の園芸用施設への二酸化炭素供給装置の概念図
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明について更に詳細に説明する。
図1は、燃焼排ガス中から植物の生育に影響を与える窒素酸化物および硫黄酸化物を除去した後に、二酸化炭素を回収し貯留することが可能な、本発明の園芸用施設への二酸化炭素供給装置の1例を示す概念図であって、図中、1は灯油燃焼式加温機、2は熱交換器および硫黄酸化物除去装置、3は強制排気用送風ファン、4は窒素酸化物除去装置、5は二酸化炭素回収・濃縮装置、6は圧縮用コンプレッサー、7は貯留タンク、8は放出用コントロールバルブ、9は二酸化炭素モニター、10は窒素成分再利用システム、をそれぞれ示している。
【0014】
次に、本発明の硫黄酸化物および窒素酸化物除去手段、二酸化炭素回収・濃縮手段、二酸化炭素圧縮・貯留手段、二酸化炭素放出手段について、順に説明する。
【0015】
(硫黄酸化物および窒素酸化物除去手段)
植物の生育にあたっては、硫黄酸化物や窒素酸化物が悪影響を及ぼすため、それらを取り除くことが必要である。
図1に図示する装置においては、灯油燃焼式加温機1から排出される燃焼ガスを、強制排気用送風ファン3により、熱交換器および硫黄酸化物除去装置2へ導入される。熱交換器および硫黄酸化物除去装置は、水溜めの中をバブリングさせることにより灯油燃焼式加温機から排出される燃焼ガス温度を下げるとともに硫黄酸化物を取り除くことができる。あるいは灯油燃焼式加温機から排出されるガスを、配管経路を長くすることにより冷却を行うと排ガス中に含まれていた水蒸気が凝縮し水滴ができるが、この際水滴に硫黄酸化物が取りこまれるため、水溜め用のトラップを設けることによっても熱交換と硫黄酸化物の除去を行うことができる。
上記の操作を経た後に、窒素酸化物除去装置4へと導入する。窒素酸化物除去の一例として、高活性炭素繊維を用いることができ、この高活性炭素繊維はNOやNOをNOの形態へと触媒作用により変えることにより窒素酸化物を除去することができる。さらに窒素酸化物除去装置4においては、定期的な洗浄が必要となるが、洗浄方法は水洗いによるものである。それゆえ、洗浄後の水にはNOが溶解した状態になっている。このNOが溶解した状態にある硝酸水溶液は、植物にとって必須な成分である窒素を含んでいるため、再度温室に肥料として戻す窒素成分再利用システムとして用いることが可能である。
【0016】
(二酸化炭素回収・濃縮手段)
窒素酸化物除去装置による処理後、排ガスは二酸化炭素回収・濃縮装置5へと送られるが、このときの排ガス中の主な成分は、窒素、水蒸気、二酸化炭素である。二酸化炭素回収・濃縮装置5において物理吸着により二酸化炭素の回収・濃縮を行うにあたっては水蒸気の回収を事前に行うかどうかの二つの方法がある。
二酸化炭素回収・濃縮装置においてゼオライトなどの親水性多孔質材料を用いる場合には、二酸化炭素の回収を行う前に水蒸気の除去が必要となる。水蒸気の除去については、前処理として除湿を行うが、除湿の方法としてはデシカントローターを用いる方法、除湿塔に除湿剤を詰めその中に排ガスを流し水蒸気を除去後、温めた空気を送風することによって再生させる方法、深冷分離による方法等が挙げられる。水蒸気を除去した後の空気は、ゼオライト等により二酸化炭素を選択的に吸着することができる吸着剤を選ぶことにより、大気圧下で吸着させ、真空に引くことによって吸着剤から二酸化炭素を放出させる。
一方、水蒸気の吸着性能が低い疎水性の吸着剤を用いることも可能である。疎水性二酸化炭素吸着剤である、カーボンモレキュラーシーブや活性炭等を用いることにより、水蒸気の除去を行うことなく二酸化炭素を回収することができる。この場合の二酸化炭素放出方法は、真空に引くことによって吸着剤から二酸化炭素を放出させる。
【0017】
(二酸化炭素圧縮・貯留手段)
二酸化炭素回収・濃縮装置5において、二酸化炭素濃度を高めた排ガスは、圧縮用コンプレッサー6を通じて、貯留タンク7へと導入される。このときの貯留タンク内の圧力は大気圧以上にする。さらに貯留タンク内に高圧条件下において二酸化炭素の吸着性能の高い二酸化炭素吸着剤を入れることが望ましい。この二酸化炭素吸着剤を入れることにより、貯留タンク7の大きさをコンパクトにすることができる。
貯留タンク7に入れる二酸化炭素吸着剤としては、大気圧以上で二酸化炭素の吸着量が多くかつ、大気圧に戻すだけで放出する吸着剤が望ましい。その一つの例として、低結晶性粘土と非晶質物質の複合体からなるハスクレイが挙げられる(国際公開第2009/084632号参照)。ハスクレイに限らず、大気圧以上で二酸化炭素の吸着量が多く、大気圧で二酸化炭素を放出することができる吸着剤であれば何ら問題はない。
【0018】
(二酸化炭素放出手段)
二酸化炭素の放出は、温室内に設置された二酸化炭素モニター9と放出用コントロールバルブ8をコントローラー等により接続することにより稼動させる。温室内に設置された二酸化炭素モニター9にて、二酸化炭素濃度が設定下限値を下回った場合に、放出用コントロールバルブ8のバルブが開き二酸化炭素が放出され、温室内に設置された二酸化炭素モニター9にて、二酸化炭素濃度が設定上限値を上回った場合に、放出用コントロールバルブ8のバルブが閉じ二酸化炭素の温室内への導入が停止する。また放出用コントロールバルブ8のバルブが開き、二酸化炭素が温室内へ導入される際には、貯留タンク7の内圧が大気圧以上の高圧であるため、バルブを開けるだけで駆動力をほとんど必要とせず迅速に二酸化炭素を温室へ導入される。
【符号の説明】
【0019】
1:灯油燃焼式加温機
2:熱交換器および硫黄酸化物除去装置
3:強制排気用送風ファン
4:窒素酸化物除去装置
5:二酸化炭素回収・濃縮装置
6:圧縮用コンプレッサー
7:貯留タンク
8:放出用コントロールバルブ
9:二酸化炭素モニター
10:窒素成分再利用システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素供給源において発生する燃焼排ガス中の窒素酸化物や硫黄酸化物を、植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする手段と、圧力スイングにより吸脱着が可能な二酸化炭素吸着剤を用いて、燃焼排ガス中に含有される二酸化炭素を回収・濃縮する手段をこの順に備え、さらに、濃縮した二酸化炭素を大気圧以上の圧力にて貯留する手段と、園芸用施設内において必要時に光合成に適した濃度となるよう、上記二酸化炭素吸着剤に貯留された二酸化炭素を園芸用施設内に迅速に放出させる手段を備えることを特徴とする園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
【請求項2】
前記二酸化炭素吸着剤が、大気圧以上に圧力を高くすることにより二酸化炭素を吸着し、圧力を大気圧に戻すだけで二酸化炭素を放出する特性を有することを特徴とする請求項1に記載の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
【請求項3】
二酸化炭素を供給する際には、大気圧以上の圧力にて貯留されている二酸化炭素を、圧力差によって迅速に園芸用施設内に供給する手段と、園芸用施設内にて十分な二酸化炭素が供給された際には、瞬時に二酸化炭素の供給を止める手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
【請求項4】
前記の窒素酸化物や硫黄酸化物を、植物の成長に影響を及ぼさない濃度以下にする手段が、硫黄酸化物除去装置と窒素酸化物除去装置とからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。
【請求項5】
前記の窒素酸化物除去装置が、洗浄時に発生する主に硝酸イオンとして水に溶解した窒素源を、園芸用施設内で利用する肥料として戻す手段を有することを特徴とする請求項4に記載の園芸用施設への二酸化炭素供給装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−16322(P2012−16322A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156369(P2010−156369)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】