説明

燃焼方法、加熱方法、及び水蒸気改質炉

【課題】火炎が加熱管に接触したり、バーナーチップが閉塞することがない、加熱バーナーによる燃料ガスの燃焼方法、更には、かかる燃焼方法を利用した加熱バーナーによる被加熱物の加熱方法を提供する。
【解決手段】燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させることを特徴とする燃焼方法、並びに、加熱炉内に配置された加熱管を加熱バーナーにより加熱し、該加熱管内の被加熱物を加熱する加熱方法において、燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを前記加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させて、前記加熱管を加熱することを特徴とする加熱方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱バーナーによる燃料ガスの燃焼方法、加熱バーナーによる被加熱物の加熱方法、及び加熱バーナーを備えた水蒸気改質炉に関し、特に形状に優れ揺らぎなどの少ない安定した火炎が得られる加熱バーナーによる燃焼方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントや石油化学プラントなどにおいては、加熱管内の被加熱物を加熱バーナーの火炎の輻射熱により加熱するタイプの加熱炉が広く用いられている。このような加熱炉用の加熱バーナーとしては、燃料と燃焼用空気とを予め混合してから燃焼させる予混合タイプと、バーナーから燃料ガスを噴射させた後に空気と混合する拡散混合タイプがあるが、一般には拡散混合タイプのバーナーが多く用いられる。
【0003】
上記拡散混合タイプのバーナーにおいては、一般に火炎の形状が広がるような形状となり、運転条件によっては、火炎が加熱管に近接あるいは接触し、加熱管が局部的に加熱されてしまう問題がある。これに対して、バーナーの火炎が加熱管に接触しているか否かを検出する方法として、加熱管近傍に火炎検出装置を設置する方法も行われている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】実開平7−35985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バーナーの火炎が加熱管に接触しているか否かを火炎検出器で検出する方法では、例えば、加熱炉の中心部分に加熱管が位置する場合、該加熱管に検出器を設置することは困難であった。
【0006】
また、加熱炉の温度が高い場合、燃料ガスがバーナーチップ内でコーキングを起こしてコーク等が堆積し、バーナーチップが閉塞することにより燃焼状態が悪化してしまうため、バーナーチップの清掃が頻繁に必要になるという問題も生じていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、火炎が加熱管に接触したり、バーナーチップが閉塞することがない、加熱バーナーによる燃料ガスの燃焼方法、更には、かかる燃焼方法を利用した加熱バーナーによる被加熱物の加熱方法、及び火炎が改質管に接触することがない水蒸気改質炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、拡散混合方式のバーナーを用いる加熱炉において、バーナーの交換などの多額の費用を要する設備の大幅な改造を行うことなく、バーナーの手前で燃料ガスに水蒸気を添加して燃焼させることにより、バーナーの火炎の揺らぎを防止し、火炎をシャープな形状とすることができ、更にはバーナーチップ内のコーキングの発生を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の燃料ガスの燃焼方法は、燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の被加熱物の加熱方法は、加熱炉内に配置された加熱管を加熱バーナーにより加熱し、該加熱管内の被加熱物を加熱する加熱方法において、燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを前記加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させて、前記加熱管を加熱することを特徴とする。ここで、本発明の加熱方法の好適例においては、前記加熱炉が炭化水素の水蒸気改質炉であり、前記加熱管が炭化水素の水蒸気改質管である。また、本発明の加熱方法の他の好適例においては、前記加熱バーナーが前記加熱炉の上部に設置されており、該加熱バーナーが鉛直方向下向きに火炎を吹く。
【0011】
更に、本発明の水蒸気改質炉は、炭化水素の水蒸気改質用触媒が充填され、水蒸気改質の原料である炭化水素及び水蒸気を投入して炭化水素の水蒸気改質反応を行うための改質管と、該改質管を炭化水素の水蒸気改質反応が起こる温度に加熱するための加熱バーナーとを備え、
前記加熱バーナーが、前記水蒸気改質炉の上部において鉛直方向下向きに火炎を吹くように設置されており、
前記加熱バーナーに、燃料ガスと水蒸気との混合ガスを供給するための供給ラインが連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多額の費用を要する装置の大規模な改造を行うことなく、以下の優れた効果を得ることができる。(1)火炎の形状がシャープな形状となり揺らぎの少ない安定した火炎となることから、火炎が加熱管に接触して局部的な加熱が起こることを防止できる。(2)バーナーチップにおけるコークの発生を防止できる。(3)火炎の温度が低下するため、燃焼排ガス中のNOxの排出量を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の実施に好適な加熱バーナーの一例の概略断面図であり、図2は、図1に示す加熱バーナーの下面図である。図1及び2に示す加熱バーナーは、センターバーナー1とサイドバーナー2とを備え、これらバーナーをバーナーケーシング3が囲んでいる。また、図1に示す加熱バーナーは、バーナータイル4を介して加熱炉5の上部に設置されており、火炎を鉛直方向下向きに吹くことができる。
【0014】
更に、図示例の加熱バーナーのセンターバーナー1及びサイドバーナー2には、燃料ガスと水蒸気との混合ガスを供給するための混合ガス供給ライン6がそれぞれ連結されており、該混合ガス供給ライン6には、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給ライン7と、水蒸気を供給するための水蒸気供給ライン8とが連結されている。なお、図示例の加熱バーナーには、更に、パイロットバーナー9が、センターバーナー1の近傍に設置されており、該パイロットバーナー9には、燃料ガス供給ライン7が連結されている。また、図示例の加熱バーナーは、図示しないが、エアーの供給ラインを備え、センターバーナー1及びサイドバーナー2から噴射される燃料ガスと水蒸気との混合ガス、並びにパイロットバーナー9から噴射される燃料ガスにエアーを供給し、これら混合ガス及び燃料ガスを燃焼させることができる。
【0015】
本発明においては、加熱バーナーの燃焼用の燃料ガスに加熱バーナーの手前で水蒸気を投入する、即ち、燃料ガスと水蒸気とを予混合することが必要である。ここで、燃料ガスへの水蒸気の投入方法は、予混合を行える方法であれば特に限定されない。具体的には、図1に示すように、燃料ガスの供給ライン7に水蒸気の供給ライン8を接続し、燃料ガスに直接水蒸気を吹き込めばよい。
【0016】
燃料ガスと水蒸気とを予混合して加熱バーナーに投入することで、加熱バーナーのバーナーチップからのガスの噴射速度が上昇し、燃料ガスの拡散が改善されて、燃料ガスとエアーとの混合状態が良くなり、シャープな形状の揺らぎの少ない安定した火炎が得られる。そのため、火炎が加熱管に接触して局部的に加熱されるのを防止することが可能となる。
【0017】
また、燃料ガスと水蒸気との混合ガスの一部は、高温のバーナーノズル内で水蒸気改質反応を受け、水素やメタン等が生成する。同時に、燃料ガス中の重質分(炭素数5以上の成分等)は、炭素数のより小さい炭化水素(例えば、エタン、プロパン等)に変化する。そして、コーキングを受け易い燃料ガス中の重質分が少なくなることにより、バーナーチップの閉塞が防止される。
【0018】
更には、燃料ガスに水蒸気を予混合することで、アトマイジング効果により、火炎温度が低下し、排ガス中の窒素酸化物濃度が低下する。
【0019】
燃料ガスへの水蒸気の投入量は、加熱バーナーの燃焼状態、火炎の形状などに応じて適宜調整すればよく、水蒸気の投入量の管理は、例えば、圧力を指標として行うことができる。また、水蒸気の投入量の管理は、流量計を用いて行ってもよい。なお、圧力を指標として水蒸気投入量を管理した場合、簡便にかつ容易に管理が行えるというメリットがある。
【0020】
例えば、圧力を指標として水蒸気投入量を管理する場合、燃料ガスの着圧に対して、+0.01〜0.02MPa程度水蒸気を投入することが好ましい。なお、水蒸気の投入量が少ない場合は、本発明の効果が十分に得られないおそれがあり、一方、水蒸気の投入量が多い場合は、失火の原因となり好ましくない。
【0021】
燃料ガスに投入する水蒸気は、できるだけ乾いた状態の中圧水蒸気を用いることが好ましい。圧力が低く(即ち温度が低い)、湿った水蒸気を投入すると、火炎の温度が必要以上に低下するため、加熱炉としての効率が低下するので好ましくなく、更に、場合によってはバーナーの失火の原因ともなる。
【0022】
一方、使用する燃料ガスとしては、加熱炉の加熱バーナーに通常用いられる燃料ガスであれば特に限定されない。例えば、天然ガス、LPG、LNG、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス、コークス炉ガス、石油精製工程あるいは石油化学工程から得られるオフガスなどを例示することができる。
【0023】
加熱炉としては、加熱管内の被加熱物を加熱バーナーの火炎の輻射熱で加熱する方式の加熱炉が好適である。かかる加熱炉としては、炭化水素の水蒸気改質を行う改質炉(水蒸気改質炉)などを例示できる。なお、加熱炉の炉内温度としては、600℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。かかる炉内温度となる加熱炉において本発明を実施すると、着火源が不安定にならず好ましい。
【0024】
また、本発明においては、加熱バーナーを加熱炉の上部に設置し、且つ該加熱バーナーが鉛直方向下向きに火炎を吹くように配置することが好ましい。この場合、火炎が所謂ダウンファイアーとなるため、失火等の問題を確実に防止することができる。
【0025】
図3は、本発明の水蒸気改質炉の一例の概略断面図であり、図4は、図3に示す水蒸気改質炉の下面図である。図示例の水蒸気改質炉は、改質管10と、加熱バーナー11とを備え、改質管10には、炭化水素の水蒸気改質用触媒が充填され、水蒸気改質の原料である炭化水素及び水蒸気が投入され炭化水素の水蒸気改質反応が行われ、一方、加熱バーナー11には、燃料ガスと水蒸気との混合ガスが供給され、加熱バーナー11で燃料ガスが燃焼することにより改質管11が炭化水素の水蒸気改質反応が起こる温度に加熱される。
【0026】
なお、本発明の水蒸気改質炉において、改質管10及び加熱バーナー11の数は特に限定されない。また、改質管10に充填される水蒸気改質用触媒としては、公知のものを使用でき、水蒸気改質の原料の炭化水素としても、公知のものを使用できる。
【0027】
また、図示例の水蒸気改質炉は、上部に加熱バーナー11を備え、該加熱バーナー11は鉛直方向下向きに火炎を吹くように設置されている。なお、図示例の水蒸気改質炉においては、改質管10に炭化水素及び水蒸気の混合ガスを供給するための原料供給ライン12と、改質管10内での改質反応により生成した改質ガスを排出するための改質ガス排出ライン13とが改質管10にそれぞれ連結されている。
【0028】
本発明の水蒸気改質炉は、燃料ガスと水蒸気との混合ガスを供給するための混合ガス供給ライン6が連結された加熱バーナー11を上部に備えるため、改質管10に加熱バーナー11からの火炎が接触することがない。そのため、本発明の水蒸気改質炉では、改質管10の加熱を均一に行うことができる。また、本発明の水蒸気改質炉では、加熱バーナー11のバーナーチップにコーク等が析出することがなく、清掃作業を行う必要もない。更に、加熱バーナー11からの火炎が所謂ダウンファイアーとなるため、失火等の問題を確実に防止することもできる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
図3及び図4に示す炭化水素の水蒸気改質炉において、燃料ガスの供給ラインに中圧水蒸気の供給ラインを連結し、燃料ガスに中圧水蒸気を燃料ガスの着圧+0.02MPaとなるように投入した。その結果、水蒸気を投入しない場合にはバーナーの火炎は広がって揺らいでいたものが、水蒸気投入後の火炎はシャープな形状となり揺らぎも殆ど無くなった。
【0031】
また、水蒸気投入前には、火炎が改質管に直接触れる場合があり、水蒸気改質炉内の確認用の除き窓からサーモビューアーにて改質管の表面温度を測定したところ880℃であったものが、水蒸気の投入後は火炎が安定したため、改質管の温度は860℃であり、20℃低下した。
【0032】
更に、バーナーチップのコーキングによる閉塞に関しては、水蒸気を投入しない状態でバーナーを燃焼させて連続運転を行い、6ヶ月後にバーナーチップを水蒸気改質炉より取り外して点検したところ、バーナーチップ内部にコーキングによる堆積物が確認された。一方、水蒸気を上記のように投入してバーナーを燃焼させ連続運転を行った場合、同様に6ヶ月後にバーナーチップの点検を行ったところ、コーキングによる堆積物は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施に好適な加熱バーナーの一例の概略断面図である。
【図2】図1に示す加熱バーナーの下面図である。
【図3】本発明の水蒸気改質炉の一例の概略断面図である。
【図4】図3に示す水蒸気改質炉の下面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 センターバーナー
2 サイドバーナー
3 バーナーケーシング
4 バーナータイル
5 加熱炉
6 混合ガス供給ライン
7 燃料ガス供給ライン7
8 水蒸気供給ライン
9 パイロットバーナー
10 改質管
11 加熱バーナー
12 原料供給ライン
13 改質ガス排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させることを特徴とする燃焼方法。
【請求項2】
加熱炉内に配置された加熱管を加熱バーナーにより加熱し、該加熱管内の被加熱物を加熱する加熱方法において、
燃料ガスと水蒸気とを混合した後、該混合ガスを前記加熱バーナーに供給し、該加熱バーナーにて燃焼させて、前記加熱管を加熱することを特徴とする加熱方法。
【請求項3】
前記加熱炉が炭化水素の水蒸気改質炉であり、前記加熱管が炭化水素の水蒸気改質管であることを特徴とする請求項2に記載の加熱方法。
【請求項4】
前記加熱バーナーが前記加熱炉の上部に設置されており、該加熱バーナーが鉛直方向下向きに火炎を吹くことを特徴とする請求項2又は3に記載の加熱方法。
【請求項5】
炭化水素の水蒸気改質用触媒が充填され、水蒸気改質の原料である炭化水素及び水蒸気を投入して炭化水素の水蒸気改質反応を行うための改質管と、該改質管を炭化水素の水蒸気改質反応が起こる温度に加熱するための加熱バーナーとを備える水蒸気改質炉において、
前記加熱バーナーが、前記水蒸気改質炉の上部において鉛直方向下向きに火炎を吹くように設置されており、
前記加熱バーナーに、燃料ガスと水蒸気との混合ガスを供給するための供給ラインが連結されていることを特徴とする水蒸気改質炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−14574(P2008−14574A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186726(P2006−186726)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000181343)鹿島石油株式会社 (11)
【Fターム(参考)】