説明

物体検知装置

【課題】超音波振動子の残響振動が小さい場合でも残響振動の中に埋もれた反射波を検出し、近距離に存在する物体を検知することのできる物体検知装置を提供する。
【解決手段】物体A1に超音波を送波して物体A1で反射した反射波を受波する超音波振動子1と、超音波振動子1を第1の周波数f1で駆動させた後に第1の周波数f1とは異なる第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動させる駆動部2及び制御部3と、第1の周波数f1と第2の周波数f2との差分に基づくビート信号を検波する包絡線検波部7と、包絡線検波部7の出力に基づいて物体A1を検知する信号処理部8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の存在の検知や物体までの距離を求める物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波信号の物体からの反射波を検出することで物体の存在検知や物体までの距離の算出を行う超音波センサーが知られている。超音波センサーはトランスデューサーから超音波信号を出力するとともに物体からの反射波をトランスデューサーで受けて、物体の存在の検出を行ったり、超音波信号の送出時刻から反射波の受信時刻までの時間から物体までの距離を検出するものである。このような超音波センサーでは、超音波信号の送出と反射波の受信とを単一のトランスデューサーで行うものが多い。
【0003】
ここで、発振出力をトランスデューサーに印加して超音波信号の送出を行った時、トランスデューサーは発振出力が止まった後も残響振動によるところの出力が受信出力に現れる。このため、物体からの反射波の検出にあたり、物体までの距離が短くて反射波が残響振動に埋もれてしまうと物体の検出ができないという問題があった。超音波信号の送出と反射波の受信とを異なるトランスデューサーで行うものにおいても、送出した超音波信号が受信用トランスデューサーに回り込むために、ほぼ同様の問題を有している。
【0004】
上記の問題を解決するものが、特許文献1に開示されている。この従来例は、超音波信号の送出と超音波信号の物体からの反射波の受信とをトランスデューサーで行う超音波センサーにおいて、トランスデューサーの共振周波数frと異なる周波数f0のパルス発振出力をトランスデューサーに加える発振回路を備える。そして、この従来例は、トランスデューサーの受信出力に接続されて|fr−f0|の周波数を通過させるフィルターと、該フィルター出力を処理する処理回路とを備えている。
【0005】
したがって、この従来例では、共振周波数frの残響振動の中に周波数f0の反射波が重なっても、フィルターの出力に|fr−f0|の周波数で反射波の存在を示す出力が現れることから、残響振動の中に埋もれた反射波の存在を抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−268035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例では、トランスデューサー(超音波振動子)の共振周波数frの残響振動と周波数f0の反射波との周波数差成分に基づいて残響振動の中に埋もれた反射波を検出している。このため、十分な大きさの残響振動が発生した場合には残響振動の中に埋もれた反射波を検出することができるが、残響振動が小さい場合には上記周波数差成分を検出することができず、残響振動の中に埋もれた反射波を検出し難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みて為されたもので、超音波振動子の残響振動が小さい場合でも残響振動の中に埋もれた反射波を検出し、近距離に存在する物体を検知することのできる物体検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の物体検知装置は、1乃至複数の超音波振動子を有し、超音波の送波及び受波を行う送受波部と、前記送受波部を第1の周波数で駆動させた後に前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で前記送受波部を駆動させる駆動制御部と、前記第1の周波数と前記第2の周波数との差分に基づくビート信号を検波する包絡線検波部と、前記包絡線検波部の出力に基づいて前記物体を検知する信号処理部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この物体検知装置において、前記送受波部は、1つの前記超音波振動子を有し、当該超音波振動子で超音波の送波及び受波を行うことが好ましい。
【0011】
この物体検知装置において、前記送受波部は、少なくとも2つの前記超音波振動子を有し、少なくとも1つの前記超音波振動子は超音波を送波する送波器であり、少なくとも1つの前記超音波振動子は超音波を受波する受波器であり、前記駆動制御部は、前記送波器を駆動させることが好ましい。
【0012】
この物体検知装置において、前記第1の周波数は、前記送受波部の共振周波数とは異なる周波数であり、前記第2の周波数は、前記送受波部の共振周波数と同じ、若しくはこれに近い周波数であることが好ましい。
【0013】
この物体検知装置において、前記駆動制御部は、前記送受波部に印加する駆動電圧を昇圧するトランスと、前記トランスの1次側巻線に直列に接続される抵抗とを備え、前記第1の周波数で前記送受波部を駆動する際には前記抵抗を使用せず、前記第2の周波数で前記送受波部を駆動する際には前記抵抗を前記トランスの1次側巻線に接続することが好ましい。
【0014】
この物体検知装置において、前記駆動制御部は、近距離に存在する前記物体を検知する近距離モードと、遠距離に存在する前記物体を検知する遠距離モードとを有し、前記近距離モードでは、前記送受波部を第1の周波数で駆動させた後に前記第2の周波数で前記送受波部を駆動させ、前記遠距離モードでは、前記送受波部を前記第2の周波数で駆動させた後に前記送受波部の駆動を停止させることが好ましい。
【0015】
この物体検知装置において、前記駆動制御部は、前記近距離モードにおいて前記遠距離モードのときよりも高い駆動電圧で前記送受波部を駆動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、超音波振動子の残響振動が小さい場合でも、残響振動の中に埋もれた反射波を検出し、近距離に存在する物体を検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る物体検知装置の実施形態を示す図で、(a)はブロック図で、(b)は波形図である。
【図2】同上の物体検知装置の駆動部を示す図で、(a)は回路概略図で、(b)は他の構成を示す回路概略図で、(c)は(b)の具体的構成を示す回路概略図である。
【図3】同上の物体検知装置の他の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る物体検知装置の実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態は、図1(a)に示すように、物体A1に超音波を送波して物体A1で反射した反射波を受波する超音波振動子1(送受波部)と、超音波振動子1に駆動電圧を印加する駆動部2と、駆動部2を制御する制御部3とを備える。また、本実施形態は、第1の周波数f1の発振信号を出力する第1の発振器4と、第1の周波数f1とは異なる第2の周波数f2の発振信号を出力する第2の発振器5と、超音波振動子1で受波した信号を増幅して出力する増幅部6とを備える。更に、本実施形態は、増幅部6の出力信号の包絡線を検波する包絡線検波部7と、包絡線検波部7の出力信号に基づいて物体A1を検知する信号処理部8と、物体A1までの距離を演算する測距部9とを備える。なお、特許請求の範囲における「駆動制御部」とは、駆動部2と制御部3とを含むものである。
【0019】
本実施形態は、例えば車両(図示せず)に装着されて、車両の周辺の障害物(物体A1)の検知及び障害物までの距離を求めるものである。本実施形態を車両に装着する場合には、超音波振動子1は車両のバンパーに埋め込まれ、その他の部材は車室内に配置される。
【0020】
超音波振動子1は、駆動部2からパルス状の駆動電圧を印加されることによって振動し、当該駆動電圧の周波数の超音波を外部空間に送波する。また、超音波振動子1は、外部空間に存在する物体A1からの反射波を受波して振動することにより、反射波の周波数に基づいた受波信号を出力して増幅部6に与える。
【0021】
駆動部2は、制御部3を介して何れかの発振器4,5から与えられる発振信号を増幅して超音波振動子1に駆動電圧を印加する。ここで、駆動部2の回路構成の一例について図面を用いて説明する。本実施形態の駆動部2は、図2(a)に示すように、定電圧源VR1と、PNP型トランジスタから成るスイッチング素子Q1と、トランス20と、抵抗R1及びスイッチSW1の並列回路とを備える。トランス20の1次側巻線20Aの一端には、スイッチング素子Q1を介して定電圧源VR1が接続されており、他端には抵抗R1が直列に接続されている。また、トランス20の2次側巻線20Bには、超音波振動子1が並列に接続されている。なお、1次側巻線20Aの巻数と2次側巻線20Bの巻数との巻数比は、1対n(n>1)である。
【0022】
以下、駆動部2の動作について説明する。スイッチング素子Q1のベース端子には、制御部3を介して何れかの発振器4,5から発振信号が入力される。したがって、スイッチング素子Q1は、発振信号の周波数に基づいてオン/オフを交互に切り替える。これにより、定電圧源VR1の電圧が1次側巻線20Aに間欠的に印加される。すなわち、1次側巻線20Aには、発振信号の周期と同じ周期のパルス状の電圧が印加される。トランス20では、1次側巻線20Aに印加されるパルス状の電圧を昇圧した誘起電圧(例えば、30V)が2次側巻線20Bに誘導される。そして、超音波振動子1には当該誘起電圧が駆動電圧として印加される。
【0023】
ここで、物体A1を検知するために超音波振動子1から超音波を送波する際には、超音波振動子1に印加される駆動電圧が大きければ超音波の出力も増大する。この場合には、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスが小さいのが望ましい。一方、物体A1からの反射波を受波する際には、超音波振動子1での受波信号が大きければ受信感度も大きくなる。この場合には、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスが大きいのが望ましい。
【0024】
そこで、本実施形態では、抵抗R1及びスイッチSW1の並列回路を1次側巻線20Aに接続している。スイッチSW1は、制御部3から与えられる制御信号によってオン/オフを切り替えるようになっており、第1の周波数f1の超音波を送波する際にはオン、第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動させる際にはオフに切り替わる。なお、本実施形態では、第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動させる期間が、物体A1からの反射波を受波する期間となっている。
【0025】
したがって、超音波振動子1から超音波を送波する際には、スイッチSW1がオンに切り替わることで抵抗R1が1次側巻線20Aに接続されないため、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスを小さくすることができる。また、物体A1からの反射波を受波する際には、スイッチSW1がオフに切り替わることで抵抗R1が1次側巻線20Aに接続されるため、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスを大きくすることができる。
【0026】
なお、物体A1からの反射波を受波する際には第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動しているが、上記のようにインピーダンスを大きくすることで駆動電圧を小さく抑えることができる。したがって、物体A1からの反射波を受波する際に、超音波振動子1を駆動している第2の周波数f2の発振信号に含まれる第1の周波数f1の周波数成分を小さくすることができ、超音波振動子1に入力が無い状態でのフロアノイズを抑制することができる。
【0027】
制御部3は、例えばマイコンから成り、第1の発振器4から発振される第1の周波数f1の発振信号を駆動部2に供給する経路と、第2の発振器5から発振される第2の周波数f2の発振信号を駆動部2に供給する経路との切替制御を行う。また、制御部3は、上述のようにスイッチSW1のオン/オフを切り替える制御信号を駆動部2に出力する。更に、制御部3は、第1の発振器4から発振される第1の周波数f1の発振信号を駆動部2に供給する経路に切り替える際に、当該タイミングを超音波振動子1が超音波を送波する送波タイミングとして測距部9に与える。
【0028】
包絡線検波部7は、増幅部6からの出力信号のうち周波数|f1−f2|のビート信号の包絡線を検波する。ここで、増幅部6からの出力信号には、第1の周波数f1の送波信号、第2の周波数f2の送波信号、超音波振動子1の共振周波数frの残響振動が含まれる。また、増幅部6からの出力信号には、周波数|fr−f2|のビート信号、周波数|f1−f2|のビート信号が含まれる。そこで周波数|f1−f2|が他の信号の周波数と離れていることに着目して、包絡線検波部7には、周波数|f1−f2|のビート信号のみを通過させるバンドパスフィルタ又はローパスフィルタ(図示せず)が設けられている。
【0029】
信号処理部8は、包絡線検波部7の出力信号を更に包絡線検波する包絡線検波回路(図示せず)と、包絡線検波回路の出力値と所定の閾値とを比較するコンパレータ(図示せず)とを備える。信号処理部8は、包絡線検波部7の出力信号を包絡線検波することで、矩形波パルスを得る。そして、信号処理部8は、当該矩形波パルスの出力値と所定の閾値とを比較することで、当該矩形波パルスの立ち上がりタイミングを検出して測距部9にハイレベル信号を出力する。すなわち、信号処理部8は、矩形波パルスの立ち上がりタイミングを検出することで外部空間に物体A1が存在することを検知する。また、信号処理部8は、矩形波パルスの立ち上がりタイミングを検出することで物体A1からの反射波の受波タイミングを検出し、その検出結果を測距部9に与える。
【0030】
なお、上記の信号処理部8では、包絡線検波部7の出力信号を包絡線検波回路で検波しているが、包絡線検波回路の代わりに、包絡線検波部7の出力信号のピーク値を保持するピークホールド回路を用いてもよい。この場合でも、上記と同様に物体A1からの反射波の受波タイミングを検出することができる。
【0031】
測距部9は、制御部3から与えられる送波タイミングと、信号処理部8から与えられる受波タイミングとから超音波の伝播時間T1を求め、この伝播時間T1に基づいて物体A1までの距離を演算する。この演算結果は、例えばブザー等の装置に与えられる。ブザーに与えられる場合には、物体A1までの距離が所定の閾値以下になると警報音を鳴動するように構成することが考えられる。また、演算結果をディスプレイに表示させ、運転者に物体A1までの距離を知らせる構成も考えられる。
【0032】
以下、本実施形態の動作について図1(b)を用いて説明する。なお、以下の説明では、第1の周波数f1を62kHz、第2の周波数f2を57kHz、超音波振動子1の共振周波数frを72kHzと定めるものとする。
【0033】
先ず、制御部3は、第1の発振器4から出力される第1の周波数f1の発振信号を駆動部2に供給する経路に切り替える。駆動部2は、当該発振信号を増幅し、第1の周波数f1のパルス状の駆動電圧を超音波振動子1に印加する。これにより、超音波振動子1は、第1の周波数f1の超音波を一定期間の間、外部空間に向けて送波する。
【0034】
一定期間の経過後、制御部3は第2の発振器5から出力される第2の周波数f2の発振信号を駆動部2に供給する経路に切り替える。駆動部2は、当該発振信号を増幅し、第2の周波数f2のパルス状の駆動電圧を超音波振動子1に印加する。これにより、超音波振動子1は、第1の周波数f1での駆動を停止し、第2の周波数f2の超音波を一定期間の間、外部空間に向けて送波する。
【0035】
ここで、超音波振動子1はQ値が高いために、第1の周波数f1での駆動を停止しても直ぐに振動を止めることができず、振動は徐々に減衰していく。これが超音波振動子1の残響振動であり、この残響振動時の周波数は、超音波振動子1の固有振動数、すなわち共振周波数frとなる。
【0036】
外部空間に物体A1が存在する場合、超音波振動1から送波される第1の周波数f1の超音波が物体A1で反射し、その反射波を超音波振動子1で受波する。このとき、超音波振動子1は第2の周波数f2で駆動しているため、超音波振動子1において第1の周波数f1の反射波と第2の周波数f2の送信波とで唸りが生じる。この唸りによって生じるビート信号は次式で表される。
【0037】
【数1】

【0038】
次に、超音波振動子1で受信した上式で表されるビート信号は、包絡線検波部7において検波される。ここで、包絡線検波部7においては包絡線検波を行い、高周波成分を無視することで、次式で表される出力信号を得る。
【0039】
【数2】

【0040】
したがって、包絡線検波部7では、周波数|f1−f2|(=5kHz)のビート信号を検波することができる。包絡線検波部7の出力信号は信号処理部8に入力される。そして、信号処理部8では、当該出力信号を上記のように処理することで物体A1が外部空間に存在することを検知し、また、物体A1からの反射波の受波タイミングを測距部9に与える。測距部9は、制御部3から与えられる送波タイミングと、信号処理部8から与えられる受波タイミングとから超音波の伝播時間T1を求め、この伝播時間T1に基づいて物体A1までの距離を演算する。
【0041】
なお、超音波振動子1を第2の周波数f2で駆動している期間においては、超音波振動子1の残響振動と第2の周波数f2の送信波とによりビート信号が生じる。このビート信号は、上記と同様に包絡線検波部7において包絡線検波を行うと、周波数|fr−f2|(=15kHz)の周波数成分となる。したがって、包絡線検波部7に遮断周波数が5〜15kHzとなるローパスフィルタを設けることで当該ビート信号を遮断することができるので、周波数|f1−f2|のビート信号のみを検波することができる。
【0042】
また、超音波振動子1を第2の周波数f2で駆動することで、超音波振動子1から第2の周波数f2の超音波が外部空間に送波される。この送信波は物体A1で反射し、第2の周波数f2の反射波として超音波振動子1で受信されるが、超音波振動子1は第2の周波数f2で駆動しているため、ビート信号は生じず、包絡線検波部7で検波されることがない。更に、第2の周波数f2の反射波は、第1の周波数f1の反射波を超音波振動子1で受信した後に受信することになるため、物体A1の検知及び物体A1までの距離の演算に影響を与えない。
【0043】
上述のように、本実施形態では、第1の周波数f1の超音波を送波した後に第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動させ、第1の周波数f1の反射波と第2の周波数f2の送信波とで生じるビート信号を検波することで、物体A1からの反射波を検出している。したがって、超音波振動子1の残響振動の有無に依らず物体A1からの反射波を検出することができるので、超音波振動子1の残響振動が小さい場合でも、残響振動の中に埋もれた反射波を検出し、近距離に存在する物体A1を検知することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、第2の周波数f2を第1の周波数f1及び超音波振動子1の共振周波数frと異なる周波数に設定しているが、第2の周波数f2を超音波振動子1の共振周波数frと同じ周波数、若しくはこれに近い周波数に設定してもよい。この場合、超音波振動子1を第2の周波数f2で駆動している期間において、超音波振動子1の残響振動と第2の周波数f2の送信波とによるビート信号が生じ難いため、第1の周波数f1の反射波と第2の周波数f2の送信波とによるビート信号を検出し易くなる。
【0045】
但し、実際には、第1の周波数f1での超音波振動子1を駆動した後、超音波振動子1の残響振動の周波数は第1の周波数f1から共振周波数frまで過渡的に変化するため、残響振動には共振周波数fr以外の周波数成分も含まれる。したがって、超音波振動子1の残響振動には第1の周波数f1の周波数成分も少しながら含まれるため、超音波振動子1の残響振動と第2の周波数f2の送信波とによるビート信号は生じ得る。勿論、当該ビート信号は小さいものであるため、第1の周波数f1の反射波と第2の周波数f2の送信波とによるビート信号の検出には影響を与えない。
【0046】
ところで、駆動部2において、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスは、上述のように超音波振動子1から超音波を送波する際に小さく、物体A1からの反射波を受波する際に大きくなればよい。したがって、図2(b)に示すように、第2の周波数f2の超音波を送波する際に駆動するハイインピーダンス駆動部21と、第1の周波数f1の超音波を送波する際に駆動するローインピーダンス駆動部22とを1次側巻線20Bに接続する構成であってもよい。
【0047】
ハイインピーダンス駆動部21は、例えば図2(c)に示すように、定電圧源VR1と、PNP型トランジスタから成るスイッチング素子Q2と、抵抗R2との直列回路を1次側巻線20Aの一端に接続して構成される。ローインピーダンス駆動部22は、例えば図2(c)に示すように、定電圧源VR1と、PNP型トランジスタから成るスイッチング素子Q3との直列回路を1次側巻線20Aの一端に接続して構成される。
【0048】
したがって、第1の周波数f1の超音波を送波する際には、制御部3がスイッチング素子Q3に制御信号を与えてオンに切り替える。この場合、1次側巻線20Aには抵抗R2が直列に接続されないため、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスを小さくすることができる。また、第2の周波数f2の超音波を送波する際には、制御部3がスイッチング素子Q2に制御信号を与えてオンに切り替える。この場合、1次側巻線20Aに抵抗R2が直列に接続されるので、超音波振動子1から見たトランス20の1次側のインピーダンスを大きくすることができる。
【0049】
ところで、本実施形態は、超音波振動子1の残響振動に反射波が埋もれてしまう場合、すなわち物体A1までの距離が短い場合を考慮して構成されたものである。一方、超音波振動子1の残響振動に反射波が埋もれない場合、すなわち物体A1までの距離が長い場合には、超音波振動子1から送波する超音波の周波数は、最も送受波の感度が高い超音波振動子1の共振周波数fr、若しくはこれに近い周波数であるのが好ましい。
【0050】
そこで、制御部3に、近距離に存在する物体A1を検知する近距離モードと、遠距離に存在する物体A1を検知する遠距離モードとを切り替えて制御させるようにしてもよい。例えば、図3に示すように、包絡線検波部7と並列にスイッチSW2を設け、当該スイッチSW2と制御部3とに外部の制御装置(図示せず)からモード切替信号を与える構成が考えられる。以下、当該構成における動作について説明する。
【0051】
モード切替信号が近距離モードへの切り替えを指令するものである場合、モード切替信号によってスイッチSW2はオフに切り替えられる。そして、制御部3では、上記実施形態と同様に、超音波振動子1を第1の周波数f1で駆動させた後に第2の周波数f2で超音波振動子1を駆動させる。したがって、近距離モードにおいては、上記実施形態と同様に、超音波振動子1の残響振動が小さい場合でも、残響振動の中に埋もれた反射波を検出し、近距離に存在する物体A1を検知することができる。
【0052】
一方、モード切替信号が遠距離モードへの切り替えを指令するものである場合、モード切替信号によってスイッチSW2はオンに切り替えられる。これにより、増幅部6の出力信号は包絡線検波部7を介さずに信号処理部8に与えられる。そして、制御部3では、超音波振動子1を第2の周波数f2で駆動させた後に超音波振動子1の駆動を停止させる。したがって、遠距離モードにおいては、単に第2の周波数f2で超音波の送受波を行い、包絡線検波を行うことがないため、ビート信号を検出する必要がない。このため、第2の周波数f2を超音波振動子1の共振周波数fr、若しくはこれに近い周波数に設定することで、超音波振動子1の送受波の感度を最も高くすることができ、物体A1の測定距離を伸ばすことができる。
【0053】
なお、上記構成では外部の制御装置からモード切替信号を与えているが、制御部3自身でモード切替を行い、且つ制御部3からスイッチSW2にモード切替信号を与える構成であってもよい。この構成では、例えば制御部3において先ず遠距離モードで物体A1の検知及び物体A1までの距離の測定を行い、測距部9で得られる物体A1までの距離が所定の閾値を下回ると近距離モードに切り替える制御が可能である。
【0054】
また、近距離モードで物体A1を検知する場合には、超音波振動子1から送波する超音波の周波数は第1の周波数f1であって共振周波数frではない。このため、近距離モードで送波する超音波の出力は、共振周波数frで送波する場合と比較して小さくなる。近距離モードでは、近距離に存在する物体A1の検知を目的としているために、超音波振動子1から送波する超音波の出力はそれほど大きくする必要がないが、より確実に物体A1を検知するためには、送波する超音波の出力は大きい方が望ましい。
【0055】
そこで、近距離モードにおいて送波する超音波の出力を大きくするために、例えば駆動部2の増幅率を大きくすることで、遠距離モードのときよりも高い駆動電圧で超音波振動子1を駆動させるように構成してもよい。例えば、図3の破線で示すように、モード切替信号を駆動部2に与え、近距離モードに切り替えられた際に駆動部2の増幅率を大きくする構成が考えられる。なお、駆動部2の増幅率を変化させる構成については従来周知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
なお、本実施形態では、超音波の送波及び受波を行う1つの超音波振動子1で送受波部を構成したものについて説明したが、送受波部を2つ以上の超音波振動子1で構成してもよい。例えば、超音波の送波を行う送波器と、超音波の受波を行う受波器とをそれぞれ少なくとも1つ以上設け、駆動部2及び制御部3によって送波器を駆動させる構成であってもよい。この構成でも、本実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 超音波振動子(送受波部)
2 駆動部(駆動制御部)
3 制御部(駆動制御部)
7 包絡線検波部
8 信号処理部
A1 物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1乃至複数の超音波振動子を有し、超音波の送波及び受波を行う送受波部と、前記送受波部を第1の周波数で駆動させた後に前記第1の周波数とは異なる第2の周波数で前記送受波部を駆動させる駆動制御部と、前記第1の周波数と前記第2の周波数との差分に基づくビート信号を検波する包絡線検波部と、前記包絡線検波部の出力に基づいて前記物体を検知する信号処理部とを備えたことを特徴とする物体検知装置。
【請求項2】
前記送受波部は、1つの前記超音波振動子を有し、当該超音波振動子で超音波の送波及び受波を行うことを特徴とする請求項1記載の物体検知装置
【請求項3】
前記送受波部は、少なくとも2つの前記超音波振動子を有し、少なくとも1つの前記超音波振動子は超音波を送波する送波器であり、少なくとも1つの前記超音波振動子は超音波を受波する受波器であり、前記駆動制御部は、前記送波器を駆動させることを特徴とする請求項1記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記第1の周波数は、前記送受波部の共振周波数とは異なる周波数であり、前記第2の周波数は、前記送受波部の共振周波数と同じ、若しくはこれに近い周波数であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記送受波部に印加する駆動電圧を昇圧するトランスと、前記トランスの1次側巻線に直列に接続される抵抗とを備え、前記第1の周波数で前記送受波部を駆動する際には前記抵抗を使用せず、前記第2の周波数で前記送受波部を駆動する際には前記抵抗を前記トランスの1次側巻線に接続することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の物体検知装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は、近距離に存在する前記物体を検知する近距離モードと、遠距離に存在する前記物体を検知する遠距離モードとを有し、前記近距離モードでは、前記送受波部を第1の周波数で駆動させた後に前記第2の周波数で前記送受波部を駆動させ、前記遠距離モードでは、前記送受波部を前記第2の周波数で駆動させた後に前記送受波部の駆動を停止させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の物体検知装置。
【請求項7】
前記駆動制御部は、前記近距離モードにおいて前記遠距離モードのときよりも高い駆動電圧で前記送受波部を駆動させることを特徴とする請求項6記載の物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−220434(P2012−220434A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89014(P2011−89014)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】