説明

物標探知装置および物標探知方法

【課題】変調パルス信号から得られる受信信号の飽和に起因する各問題を抑制できるレーダ装置を実現する。
【解決手段】送信部11は、通常処理として、無変調パルス信号のパルス状送信信号PSnと変調パルス信号のパルス状送信信号PMnとの組を所定のパルス群の繰り返し周期で送信する。受信部14で受信信号が飽和すると、飽和検出部16がこれを検出して、飽和情報を送信部11と画像形成部17へ出力する。送信部11は、飽和情報を取得すると、次の組のパルス状送信信号PSn+1の受信期間を延長し、パルス状送信信号PMn+1の送信を中止する。画像形成部17は、飽和したパルス状送信信号PMnのパルス圧縮後の信号を、次の組のパルス状送信信号PSn+1の受信期間における当該期間に対応する期間の受信信号に置き換えて画像処理用データを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス状の送信信号が物標に反射して得られる受信信号に基づいて物標の探知を行うレーダ装置等の物標探知装置および物標探知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物標探知装置の一種であるレーダ装置は、パルス信号を探知対象領域へ送信して反射信号から物標の探知を行う。このようなレーダ装置には、受信信号のS/Nを改善し、物標探知性能を向上させるために、パルス圧縮処理を用いたレーダ装置が存在する。
【0003】
このような変調パルス信号を用いたレーダ装置では、反射断面積が大きな物体が探知対象領域内に存在すると受信信号をLNAで増幅する際に飽和してしまうことがある。このように受信信号が飽和してしまうと、受信信号のピークレベルが頭打ちして、S/Nが低下したりすることで、正確な物標探知結果を得られなくなってしまう。特に、FMチャープ信号からなるパルス状の送信信号(以下、「変調パルス信号」と称する。)を送信するパルス圧縮処理を用いたレーダ装置の場合、受信信号が飽和すると、受信信号の周波数成分比と送信信号の周波数成分比が一致しなくなることで、パルス圧縮時に、ピーク周波数のレベルが低下したり、レンジサイドローブ(時間軸上でのサイドローブ)が発生してしまう。
【0004】
図4は従来のレーダ装置におけるパルス圧縮後の信号のレンジサイドローブの発生について説明するための図であり、図4(A)は送信信号、受信信号、およびパルス圧縮後の信号の時間軸波形を示す図であり、図4(B)は基本的な物標探知方法を説明するための平面図である。
【0005】
図4(B)に示すように、自船に搭載されたレーダ装置は、アンテナを介して図4(A)に示すように、短距離探知用のパルス信号PSn(nは正の整数)と中距離探知用のパルス信号PMn(nは正の整数)とを交互に、順次所定のタイミング間隔で送信する。この際、短距離探知用のパルス信号PSnは無変調パルスから形成されており、中距離探知用のパルス信号PMnは、変調パルスによって形成されている。
【0006】
ここで、図4(B)に示すように、中距離探知用のパルス信号PM1,PM2の送信方向に反射断面積の大きい物標90が存在すると、パルス信号PM1,PM2に対応する受信信号RE901,902が増幅時に飽和して、これらのパルス圧縮後の信号REC901,902には、図4(A)のハッチング部に示すように、レンジサイドローブが発生してしまう。このため、S/Nが劣化したり、他の物体からの反射信号が当該レンジサイドローブに埋もれてしまう等の問題が発生し、正確な物標探知を行えなくなってしまう。
【0007】
このような受信信号の飽和を回避する方法として、次に示すような各種の方法が存在する。
(1)所謂STC処理すなわち受信信号をアナログ的に振幅減衰させる方法、
(2)特許文献1に示すような、受信信号を減衰させない伝送系と受信信号を減衰させる伝送系との2系統備えて、ダイナミックレンジを改善する方法、
(3)特許文献2に示すような、受信信号をLNAに通す伝送系と、受信信号をLNAに通さない伝送系とを、飽和を検知して切り替える方法、
がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−137071号公報
【特許文献2】特開平9−72955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の(1)の方法を用いた場合、受信信号の振幅の減衰とともに、受信信号の一つの波形内で位相が変化してしまうので、パルス圧縮処理を行うと、上述の飽和の場合と同様に、レンジサイドローブが発生してしまう。
【0010】
また、上述の(2)の方法を用いた場合、受信系回路を複数設けなければならないため、ハードウエアの規模が大幅に大きくなってしまう。また、このような回路構成で稼ぐことができる追加のダイナミックレンジは小さく、飽和を完全に抑制することができるとは限らない。
【0011】
また、上述の(3)の方法を用いた場合、飽和を検知することで、伝送系を切り替えるので、飽和の検知のタイミングから切り替える期間に対しては、正確な探知画像を得ることができない。
【0012】
このような課題を鑑みて、本発明の目的は、受信信号が飽和しても正確な探知画像を形成できる物標探知装置、物標探知方法、およびパルスレーダ装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知装置に関するものである。この物標探知装置は、送信部、受信部、飽和検出部、画像形成部、を備える。送信部は、少なくとも2以上の異なるパルス状送信信号を所定のタイミングで送信する。受信部は、送信したパルス状信号の反射信号を受信して受信信号を生成する。飽和検出部は、送信したパルス状信号に対する受信信号のレベルを所定閾値と比較し、該受信信号の飽和を検出する。画像形成部は、受信信号に基づいて探知画像を形成する。そして、送信部は、飽和検出部が受信信号の飽和を検出した時、送信したパルス状信号とは異なる代替パルス状信号を生成する。画像形成部は、代替パルス状信号を用いて探索した受信信号を、飽和した受信信号に代えて用いる。
【0014】
この構成では、所定のパルス状信号による受信信号が飽和した場合に、代替パルス状信号を送信する。そして、飽和した受信信号を用いずに、代替パルス状信号の受信信号で画像を形成する。これにより、飽和した受信信号による不正確な画像の形成が防止される。
【0015】
また、この発明の物標探知装置の送信部は、代替パルス状信号として、飽和が検出された領域からの反射信号による受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号を送信する。
【0016】
この構成では、代替パルス状信号の受信信号が飽和しないので、当該代替パルス状信号の受信信号を用いれば、正確な画像を形成することができる。
【0017】
また、この発明の物標探知装置の送信部は、送信部は、少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と、中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信し、中距離領域探知用のパルス状信号が飽和した際に用いる代替パルス状信号に近距離領域探知用のパルス状信号を用いる。
【0018】
この構成では、近距離領域探知用のパルス状信号が、よりアンテナから遠い領域である中距離領域以遠では基本的に飽和しないことを利用している。そして、このように近距離領域探知用のパルス状信号を代替パルス状信号にすることで、確実に受信信号を飽和させず、正確な画像を形成することができる。
【0019】
また、この発明の物標探知装置の送信部は、代替パルス状信号として、一定のキャリア周波数のパルス状信号を用いる。
【0020】
この構成では、具体的な飽和検出に利用するパルス状信号として、一定のキャリア周波数のパルス状信号(無変調パルス信号)を用いる場合を示している。
【0021】
また、この発明の物標探知装置の送信部は、代替パルス状信号として、キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号を用いる。
【0022】
この構成では、具体的な飽和検出に利用するパルス状信号として、キャリア周波数が変化するパルス状信号(変調パルス信号)を用いる場合を示している。
【0023】
また、この発明の物標探知装置の飽和検出部は、パルス状信号のキャリア周波数が順次変化するパルス状信号である場合にのみ、飽和検出を行う。
【0024】
この構成では、パルス状信号が、一定のキャリア周波数からなるパルス信号である無変調パルス信号であれば、パルス圧縮処理を行わないので、飽和によるレンジサイドローブの発生はないことを利用し、当該無変調パルス信号の場合には飽和検出を行わない。そして、飽和によりレンジサイドローブが発生する変調パルス信号の場合にのみ飽和検出を行う。これにより、必要な場合にのみ飽和検出が行われ、不必要な飽和検出をなくすことができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、変調パルス信号を用いる物標探知装置や物標探知方法において、当該送信信号に基づく受信信号が飽和しても、正確な探知画像を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るレーダ装置の信号処理を説明するための図である。
【図3】第2の実施形態に係るレーダ装置の信号処理を説明するための図である。
【図4】従来のレーダ装置におけるパルス圧縮後の信号のレンジサイドローブの発生について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態に係る物標探知装置について、図を参照して説明する。なお、本実施形態で示す物標探知装置は具体的にはパルスレーダ装置であるが、変調パルス信号からなるパルス状送信信号を用いて物標を探知する装置であれば、他の装置であってもよい。
【0028】
まず、本実施形態のレーダ装置10の構成について説明する。図1は、本実施形態のレーダ装置10の主要回路構成を示すブロック図である。
【0029】
レーダ装置10は、送信部11、サーキュレータ12、アンテナ13、受信部14、パルス圧縮部15、飽和検出部16、および画像形成部17を備える。
【0030】
送信部11は、半導体等の発振素子を有し、通常の送信制御時には、従来技術の図4(A)に示したように、一定のパルス群の繰り返し周期(PRF)で、短距離探知用パルス信号PSn(nは正の整数)と中距離探知用のパルス信号PMn(nは正の整数)との組を、順次送信する。なお、パルス群の繰り返し周期とは、短距離探知用のパルス信号PSn、および中距離探知用のパルス信号PMnからなるパルス列を一群とし、当該一群が繰り返し送信される周期を示すものである。
【0031】
送信タイミングのフローとしては、例えば、送信部11は、まず短距離探知用のパルス状送信信号PS1を無変調パルス信号で送信する。送信部11は、このパルス状送信信号PS1の送信後、短距離領域に対応する時間長だけ短距離探知用の受信期間TWを設ける。ここで、短距離領域とは自船近傍の所定の距離範囲を意味する。
【0032】
次に、送信部11は、受信期間TW後に、中距離探知用のパルス状送信信号PM1を変調パルス信号で送信する。送信部11は、このパルス状送信信号PM1の送信後、中距離領域に対応する時間長だけ中距離探知用の受信期間TWを設ける。ここで、中距離領域とは、前述した近距離領域よりも遠方の所定の距離範囲を意味する。これら短距離探知用のパルス状送信信号PS1と中距離探知用のパルス状送信信号PM1とにより、第1のパルス送信の組が形成される。なお、本実施形態では、この短距離領域と中距離距離領域の受信信号を合成して、アンテナ位置から所定距離までの領域を探索する例について説明する。
【0033】
次に、送信部11は、受信期間TW後に、短距離探知用のパルス状送信信号PS2を無変調パルス信号で送信し、受信期間TWを設け、中距離探知用のパルス状送信信号PM2を送信し、受信期間TWを設ける。これら短距離探知用のパルス状送信信号PS2と中距離探知用のパルス状送信信号PM2とにより、第2のパルス送信の組が形成される。そして、送信部11は、このようなパルス送信の組を形成しながら、パルス状送信信号PSnとパルス状送信信号PMnとを交互に順次送信する。
【0034】
また、送信部11は、後述する飽和検出部16から受信信号の飽和情報を取得すると、後述の図2に示すように、当該受信信号が飽和したパルス状送信信号PMnを含むパルス送信の組の次の組に対する送信制御を変更する。具体的には、当該変更対象とする組の短距離探知用のパルス状送信信号PSn+1はそのまま送信し、中距離探知用のパルス状送信信号PMn+1は送信しない。そして、短距離探知用のパルス状送信信号PSn+1に対する受信期間を中距離探知用の受信期間TWに設定する。この次の組のパルス状送信信号PSn+1が本発明の「代替のパルス状送信信号」に相当する。
【0035】
サーキュレータ12は、送信部11からの各パルス状送信信号をアンテナ13へ伝送する。アンテナ13は、所定の回転速度で定速度回転し続けながら、供給されたパルス状送信信号を外部へ放射するとともに、パルス状送信信号が供給されていない期間(上述の受信期間TW、TW)は、外部の物標からの反射信号を受信して、受信信号をサーキュレータ12へ出力する。サーキュレータ12は、アンテナ13からの受信信号を受信部14へ出力する。なお、アンテナ13の回転速度と送信信号のビーム幅との関係は、レーダの仕様等で予め設定されており、例えば自装置から所定距離で所定反射断面積を有する物標であれば、連続する複数の送信信号が当該物標で反射されるように設定されている。
【0036】
受信部14は、LNA(低雑音増幅器)を備え、受信信号を増幅して出力する。受信部14には送信部11から送信タイミングに関するデータが与えられており、受信部14は、送信タイミングに関するデータに基づいて、無変調パルス信号による受信信号であれば画像形成部16へ出力し、変調パルス信号であればパルス圧縮部15へ出力する。
【0037】
パルス圧縮部15は、例えば、フーリエ変換部、マッチドフィルタ、逆フーリエ変換部を備え、受信部14からの変調パルス信号を既知の方法でパルス圧縮して、パルス圧縮後の信号を、画像形成部17へ出力する。
【0038】
飽和検出部16は、受信部14のLNAで増幅する受信信号の飽和を検出すると、飽和情報を送信部11および画像形成部17へ出力する。
【0039】
画像形成部17は、飽和検出部16からの飽和情報が入力されていなければ、受信部14からの無変調パルス信号の受信信号とパルス圧縮部15からのパルス圧縮後の信号とを用いて、探知画像データを形成する。この際、画像形成部17は、必要に応じて、既知のパルス積分処理を行う。パルス積分処理とは、アンテナ13の回転する方向に沿って隣り合う受信信号同士を積算する処理である。画像形成部17から出力された探知画像データは、図示しない表示器に表示される等の処理が施される。
【0040】
また、画像形成部17は、飽和情報が入力されると、飽和した受信信号によるパルス圧縮後の信号でのレンジサイドローブ発生区間に対して、次の組のパルス状送信信号PSn+1のレンジサイドローブ発生区間に対応する区間の受信信号で置き換え、当該置き換えた受信信号に基づいてレンジサイドローブ発生区間に対する画像形成を行う。
【0041】
次に、受信部14での飽和が発生した場合のより具体的な処理について、図2を参照して説明する。図2は本実施形態に係るレーダ装置の信号処理を説明するための図である。なお、以下では、図4(B)に示すように、短距離探知領域に反射断面積の小さい物標91が存在し、中距離探知領域に反射断面積が大きい物標90が存在している場合を例に説明する。
【0042】
まず、第1のパルス送信の組として、無変調パルス信号からなるパルス状送信信号PS1が送信され、受信期間TW内における自装置から物標91までの距離に準じたタイミングで受信信号RE911が得られる。この受信信号は、無変調パルス信号に対する受信信号であるので、そのまま画像形成部17に入力されて、画像形成に利用される。
【0043】
次に、パルス状送信信号PS1の送信完了タイミングから受信期間TWの後、変調パルス信号からなるパルス状送信信号PM1が送信され、受信期間TW内における自装置から物標90までの距離に準じたタイミングで受信信号RE901が得られる。ここで、物標90の反射断面積が大きいことにより、受信信号RE901を受信部14で増幅した際に飽和してしまうと、パルス圧縮後の信号REC901は、ピークレベルを有するものの、レンジサイドローブを有する信号となる(図2の三段目の信号波形参照)。
【0044】
この際、飽和検出部16は受信信号RE901の飽和を検出しており、飽和情報が送信部11および画像形成部17へ入力されている。
【0045】
送信部11は、この飽和情報に基づいて、第2のパルス送信の組の短距離探知用のパルス状送信信号PS2の送信後の受信期間を中距離探知用のTWに設定するとともに、パルス状送信信号PM2の送信を中止する。
【0046】
画像形成部17は、物標91に対する無変調パルス信号の受信信号RE911については、そのまま探知画像用信号として利用する。
【0047】
また、画像形成部17は、物標90に対するパルス圧縮後の信号REC901がパルス圧縮部15から入力されると、当該パルス圧縮後の信号REC901のピークレベルのタイミングtを検出する。さらに、画像形成部17は、ピークレベルのタイミングtを時間軸の中心として、パルス状送信信号PM1のパルス幅WPMの略2倍の期間TRSのデータを「0」データ列に置き換える。これは、パルス圧縮後のレンジサイドローブが発生する期間が送信信号のパルス幅の略2倍であることに基づくものである。これにより、レンジサイドローブが発生している期間を確実に「0」データ列に置き換えることができる。
【0048】
次に、送信部11から無変調パルス信号からなるパルス状送信信号PS2が送信されると、受信期間TW内における自装置から物標91までの距離に準じたタイミングで受信信号RE912が得られ、自装置から物標90までの距離に準じたタイミングで受信信号RE902が得られる。これらの受信信号は、無変調パルス信号に対する受信信号であるので、そのまま画像形成部17に入力される。
【0049】
画像形成部17は、物標91に対する無変調パルス信号の受信信号RE912については、受信信号RE911とともに、そのまま探知画像用信号として利用する。
【0050】
さらに、画像形成部17は、パルス状送信信号PS2に対する受信期間TW内の上述の破棄対象の期間TRSに対応する期間T’RSの受信信号、すなわち、実質的に物標90の反射エコーであるRE902を含む期間の受信信号を取得する。そして、画像形成部17は、当該RE902を含む受信信号をそのまま探知画像用信号として利用するとともに、当該RE902を含む受信信号を、前の処理で「0」データ列に置き換えた期間に補填する。
【0051】
このような処理を行うことで、パルス圧縮によってレンジサイドローブが生じた信号を用いることなく、画像形成を行うことができる。これにより、レンジサイドローブの発生によるS/Nの低下を防止できるとともに、レンジサイドローブの期間内に反射断面積の小さな物標があったとしても、確実に探知することができる。すなわち、物標探知性能を向上することができる。
【0052】
なお、この処理の際、アンテナを回転しながら送信を行い、飽和したパルス状送信信号PM1の次の組のパルス状送信信号PS2による受信信号を、パルス状送信信号PM1の受信信号に置き換えているので、現実的に正確な物標90のエコーを得られないようにも感じられる。しかしながら、本装置からの送信信号は上述のようにビーム幅を有するものであり、飽和が生じるような反射断面積が大きな物標であり、且つ受信信号のレベルが飽和するほど大きければ、飽和が生じた次の組での受信信号は、確実に同じ物標90に反射して得られるものとなる。したがって、本実施形態の構成及び処理を用いることで、反射断面積の大きな物標90を正確に探知するとともに、レンジサイドローブによる悪影響を防止することができる。
【0053】
また、本実施形態では、中距離探知用のパルス状送信信号PMnの送信中止処理を、飽和が発生したパルス送信の組の次の一組にのみ実行する例を示したが、複数組に亘って実行することも可能である。
【0054】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態では、第1の実施形態のレーダ装置10に対して、レーダ装置のブロック構成としては同じであり、送信部11および画像形成部17の処理が異なるのみであるので、必要部のみを説明する。
【0055】
概略的には、本実施形態では、受信信号が飽和すると、送信部11は、当該飽和したパルス状送信信号PMnの直後に、無変調パルス信号からなる代替のパルス状送信信号PM’nを送信し、中距離探知用の受信期間TWを設けて、通常の送信制御処理に対して挿入する。そして、画像形成部17は、代替のパルス状送信信号PM’nの受信信号で、飽和したパルス状送信信号PM2のパルス圧縮後の信号の期間を補填する。
【0056】
具体的には、図3に示すような処理が実行される。図3は本実施形態に係るレーダ装置の信号処理を説明するための図である。なお、以下でも、第1の実施形態と同様に図4(B)に示すように、短距離探知領域に反射断面積の小さい物標91が存在し、中距離探知領域に反射断面積が大きい物標90が存在している場合を例に説明する。
【0057】
まず、第1のパルス送信の組として、無変調パルス信号からなるパルス状送信信号PS1が送信され、受信期間TW内における自装置から物標91までの距離に準じたタイミングで受信信号RE911が得られる。この受信信号は、無変調パルス信号に対する受信信号であるので、そのまま画像形成部17に入力されて、画像形成に利用される。
【0058】
次に、パルス状送信信号PS1の送信完了タイミングから受信期間TWの後、変調パルス信号からなるパルス状送信信号PM1が送信され、受信期間TW内における自装置から物標90までの距離に準じたタイミングで受信信号RE901が得られる。ここで、物標90の反射断面積が大きいことにより、受信信号RE901を受信部14で増幅した際に飽和してしまうと、パルス圧縮後の信号REC901は、ピークレベルを有するものの、レンジサイドローブを有する信号となる(図2の三段目の信号波形参照)。
【0059】
この際、飽和検出部16は受信信号RE901の飽和を検出しており、飽和情報が送信部11および画像形成部17へ入力されている。
【0060】
送信部11は、この飽和情報に基づいて、パルス状送信信号PM1に対する受信期間TWの後に、無変調パルスからなる代替のパルス状送信信号PM1’を送信し、当該送信後に中距離探知用の受信期間TWを設定する。なお、代替のパルス状送信信号PM1’は、変調パルス信号からなるパルス状送信信号PM1のパルス圧縮後の信号と距離分解能及びS/N比が略同一となるような信号であることが望ましく、飽和したパルス状送信信号に応じて、無変調パルスからなる代替のパルス状送信信号PM1’の送信電力及びパルス幅が適宜設定される。
【0061】
画像形成部17は、物標91に対する無変調パルス信号の受信信号RE911については、そのまま探知画像用信号として利用する。
【0062】
また、画像形成部17は、物標90に対するパルス圧縮後の信号REC901がパルス圧縮部15から入力されると、当該パルス圧縮後の信号REC901のピークレベルのタイミングtを検出する。さらに、画像形成部17は、ピークレベルのタイミングtを時間軸の中心として、パルス状送信信号PM1のパルス幅WPMの略2倍の期間TRSのデータを「0」データ列に置き換える。
【0063】
次に、送信部11から無変調パルス信号からなる代替のパルス状送信信号PM1’が送信されると、受信期間TW内における自装置から物標91までの距離に準じたタイミングで受信信号RE911’が得られ、自装置から物標90までの距離に準じたタイミングで受信信号RE901’が得られる。
【0064】
画像形成部17は、物標91に対する無変調パルス信号の受信信号RE911’は破棄し、上記期間TRSに対応する期間T’RSの受信信号、すなわち、実質的に物標90の反射エコーであるRE901’を含む期間の受信信号を取得する。そして、画像形成部17は、当該RE901’を含む受信信号を、前の処理で「0」データ列に置き換えた期間に補填する。
【0065】
このような処理を行っても、パルス圧縮によってレンジサイドローブが生じた信号を用いることなく、画像形成を行うことができる。これにより、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、飽和を検出した際の代替のパルス状送信信号の送信回数を一回としているが、送信回数は必要に応じて適宜設定することも可能である。
【0067】
また、上述の各実施形態では、代替のパルス状送信信号を無変調パルス信号とする例を示したが、変調パルス信号であって、パルス状送信信号PMnよりも送信電力を低下させた信号であってもよい。この場合、送信電力は、例えば短距離探知領域と中距離探知領域との境界に、現実的考え得る最大の反射断面積を有する物標が存在しても受信信号が飽和しないように設定すると上述の問題は生じない。ただし、この設定の場合、送信電力が必要以上に低くなりすぎてしまう可能性があるので、例えば無変調パルス信号を用いて物標の反射断面積を把握してから、把握した反射断面積に応じた送信電力で変調パルス信号を送信する等の方法を用いると良い。
【0068】
一方で、上述の無変調パルス信号を用いた場合、パルス圧縮処理を行わないので、このような代替のパルス状送信信号を変調パルス信号で設定する場合のような煩雑な送信電力の設定処理を必要とせずとも、受信信号を得ることができる。これは、無変調パルス信号ならば、万が一、飽和しても、物標90のエコーを時間軸上で独立して得られ、且つレンジサイドローブが発生しないからである。
【0069】
また、上述の説明では、短距離探知用のパルス状送信信号PSnと中距離探知用のパルス状送信信号PMnとの2種類のパルス状送信信号でパルス送信の組を構成する例を示したが、上述の第2の実施形態であれば、探知の全体領域を距離毎に3つ以上の範囲に分割し、それぞれの範囲に対する複数種類のパルス状送信信号を用いるような処理を行っても、上述の効果を奏することができる。
【0070】
また、上述の各実施形態では、物標探知装置として、レーダ装置10を例に説明したが、レーダ装置以外の物標探知装置であっても、同様に上述の構成を適用することができる。例えば、超音波振動子からパルス状の超音波信号を送信して、反射信号を受信するソナーや魚群探知機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
10−レーダ装置、11−送信部、12−サーキュレータ、13−アンテナ、14−受信部、15−パルス圧縮部、16−飽和検出部、17−画像形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知装置であって、
少なくとも2以上の異なるパルス状送信信号を所定のタイミングで送信する送信部と、
送信したパルス状信号の反射信号を受信して受信信号を生成する受信部と、
送信したパルス状信号に対する受信信号のレベルを所定閾値と比較し、該受信信号の飽和を検出する飽和検出部と、
前記受信信号に基づいて探知画像を形成する画像形成部と、を備え、
前記送信部は、前記飽和検出部が受信信号の飽和を検出した時、送信したパルス状信号とは異なる代替パルス状信号を生成し、
前記画像形成部は、前記代替パルス状信号を用いて探索した受信信号を、飽和した受信信号に代えて用いる、
ことを特徴とする物標探知装置。
【請求項2】
前記送信部は、前記代替パルス状信号として、飽和が検出された領域からの反射信号による受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号を送信する、請求項1に記載の物標探知装置。
【請求項3】
前記送信部は、少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と、中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信し、前記中距離領域探知用のパルス状信号が飽和した際に用いる代替パルス状信号に前記近距離領域探知用のパルス状信号を用いる、
請求項1または請求項2に記載の物標探知装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記代替パルス状信号として、一定のキャリア周波数のパルス状信号を用いる、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項5】
前記送信部は、前記代替パルス状信号として、キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号を用いる、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項6】
前記飽和検出部は、前記パルス状信号がキャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号である場合にのみ、飽和検出を行う、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項7】
前記送信部は、前記パルス状送信信号を電波信号として所定のタイミングで1つのアンテナから送信し、
前記受信部は、前記1つのアンテナから得られる前記反射信号で前記受信信号を生成する、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の物標探知装置。
【請求項8】
異なる探知領域を異なるパルス状信号で探知し、探知した情報を合成してアンテナ位置から所定距離までの領域を探知する物標探知方法であって、
少なくとも2以上の異なるパルス状送信信号を所定のタイミングで送信し、
送信したパルス状信号の反射信号を受信して受信信号を生成し、
送信したパルス状信号に対する受信信号のレベルを所定閾値と比較し、該受信信号の飽和を検出し、
前記受信信号に基づいて探知画像を形成する、過程を有し、
前記飽和検出部が受信信号の飽和を検出した時、送信したパルス状信号とは異なる代替パルス状信号を生成し、
前記代替パルス状信号を用いて探索した受信信号を、飽和した受信信号に代えて用いる、
ことを特徴とする物標探知方法。
【請求項9】
前記代替パルス状信号は、飽和が検出された領域からの反射信号による受信信号のレベルが飽和しないパルス状信号である、請求項8に記載の物標探知方法。
【請求項10】
少なくとも近距離領域探知用のパルス状信号と、中距離領域探知用のパルス状信号とを含む2以上の異なるパルス状信号を予め決められた順序で送信し、前記代替パルス状信号に前記近距離領域探知用のパルス状信号を用いる、
請求項8または請求項9に記載の物標探知方法。
【請求項11】
前記代替パルス状信号は、一定のキャリア周波数のパルス状信号である、請求項8〜請求項10のいずれかに記載の物標探知方法。
【請求項12】
前記代替パルス状信号は、キャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号である、請求項8〜請求項10のいずれかに記載の物標探知方法。
【請求項13】
前記パルス状信号がキャリア周波数が順次変化し、振幅レベルが制限されたパルス状信号である場合にのみ、飽和検出を行う、請求項8〜請求項12のいずれかに記載の物標探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−13183(P2011−13183A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159775(P2009−159775)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】