説明

物理量センサ感度温度補償回路と補償方法

【課題】物理量センサの感度の温度特性を補償する回路とその補償方法に関し、温度検出電圧に対して異なる増幅率により温度検出電圧を増幅して、この増幅電圧に対応した電流を物理量センサに流して温度補償を行うことによって、温度補償と温度補償を行うための部品の選択を容易にする、物理量センサ感度温度補償回路と補償方法を提供すること。
【解決手段】温度検出電圧に関連した信号に基づき、物理量センサを駆動する物理量センサ感度温度補償回路において、前記温度検出電圧に対して異なる増幅率を有する可変増幅部と、この可変増幅部の出力電圧に対応した電流を、前記物理量センサに流す駆動部を備えた、ことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサの感度温度特性を補償する回路とその補償方法に関し、温度補償と温度補償を行うための部品の選択を容易にする物理量センサ感度温度補償回路とその補償方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体などで構成される圧力センサの感度は、1次で負および2次で正の両温度変動成分を併せ持つ温度特性を有するものがある。温度補償回路は、この温度特性を補償するものであり、図4を用いて説明する。図4は、前記1次の温度特性を補償するものである。
【0003】
圧力センサ温度補償回路400は、ブリッジ回路構成の抵抗Rs1からRs4により成る圧力センサ11と、圧力センサ11の感度の温度特性と逆で1次の温度特性(または温度係数)を持つ抵抗Rt15、抵抗R151からR156、演算増幅器(いわゆるオペアンプ)151から153およびボルテージホロワ154により成る差動増幅回路と、電源とグランドとの間に直列に接続される感温抵抗Rt4および抵抗R344とを備え、これら感温抵抗Rt4および抵抗R344の接続点の電圧を基準電圧Vof(t)として差動増幅回路に与えて、圧力センサ11のオフセットに対して1次温度補償を行うとともに、抵抗Rt15の温度特性および差動増幅回路の増幅率により、圧力センサ11の感度に対して1次温度補償を行う構成になっている。
【0004】
圧力センサ11を定電圧Vccで駆動すると、その感度およびオフセットは温度が高くなると低くなるものがあるので、このような温度変動を補償するために、前記基準電圧Vof(t)および抵抗Rt15に1次で正の温度特性を持たせることにより、圧力センサの感度およびオフセットに対して1次の温度変動成分を補償することができ、ほぼ温度補償された検出出力を得ることができる。
【0005】
また、図5を用いて、1次および2次の温度特性を補償する温度補償回路を説明する。
【0006】
圧力センサ温度補償回路401は、圧力センサ11、ボルテージホロワ12および差動増幅回路15のほか、感度温度補正回路23およびオフセット温度補正回路24を備えている。
【0007】
感度温度補正回路23は、出力端子がボルテージホロワ12を介して圧力センサ11の電源端子T1に接続される演算増幅器231と、1次で負の温度特性となる電圧Vbg1(t)を生成して演算増幅器231の非反転入力端子に印加するバンドギャップリファレンス回路232と、1次で正の温度特性を持ち、演算増幅器231の反転入力端子および出力端子間に接続される感温抵抗Rt23と、演算増幅器231の反転入力端子とグランドとの間に接続される抵抗R323とにより構成されている。
【0008】
また、上記バンドギャップリファレンス回路232は、電源およびグランド間に直列に接続される抵抗R231,R232およびトランジスタ(ダイオード)Q231と、電源およびグランド間に直列に接続される抵抗R233およびトランジスタ(ダイオード)Q232と、抵抗R231とR232の接続点に非反転入力端子が接続され、抵抗R233およびトランジスタQ232の接続点に反転入力端子が接続される演算増幅器233とにより構成されている。
【0009】
そして、上記構成の感度温度補正回路23は、電源電圧Vcc(t)としての出力電圧が、圧力センサ11の両出力端子T3,T4間に発生し1次で負および2次で正の両温度変動成分を併せ持つ感度温度変動成分を打ち消すように、1次で正および2次で負の両温度変動成分を併せ持つ温度特性を持つように設定される。
【0010】
ここで、感度温度補正回路23の出力を1次で正および2次で負の両温度変動成分を併せ持つ温度特性にするための条件を説明する。周囲温度をtとしたとき、バンドギャップリファレンス回路232の電圧Vbg1(t)を下記式(1)で表すことができ、また、感温抵抗Rt23の温度特性Rt23(t)を下記式(2)で表すことができる。ただし、b2,c2,b3,c3は定数で、b2<0、b3>0である。
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
この場合、電源端子T1に印加する電圧Vcc(t)は、下記式(3)で示される温度特性を持つことになる。
【0014】
【数3】

【0015】
なお、A、B、Cは、下記式(4)から(6)で表すことができる。
【0016】
【数4】

【0017】
【数5】

【0018】
【数6】

【0019】
従って、Aは負であるので、Rt23(t)×Vbg1(t)の微分値あるいはBが正になるように設定すれば、感度温度補正回路23の出力が1次で正および2次で負の両温度変動成分を併せ持つ温度特性となる。
【0020】
そして、圧力センサ11の電源端子T1には、感度温度補正回路23からボルテージホロワ12を介して、1次で正および2次で負の両温度変動成分を併せ持つ温度特性となる電圧Vcc(t)が印加する。これにより、圧力センサ11から、感度温度変動成分が除去または低減された検出電圧が出力される。
【0021】
この検出電圧は、差動増幅回路15において所定増幅率で増幅され、出力電圧Vout(t)として出力される。オフセット温度補正回路24の説明は省略するが、以上により、圧力センサ11のオフセットおよび感度の温度特性に対して1次および2次温度変動成分を補償することができる。
【0022】
【特許文献1】特開2001−91387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図4における圧力センサ温度補償回路400は、圧力センサ11の感度温度特性と逆特性を有する抵抗Rt15を必要とする。しかし、このような抵抗Rt15の選択は容易ではなく、また一般の抵抗(例えば金属皮膜抵抗など)よりも高価である。
【0024】
また、圧力センサ11の感度は、2次で正の温度特性を有するため、温度に対する感度曲線は、所定温度以上と未満において対称になる。しかし、対称にならず曲率(曲がり)の異なる感度曲線を有する圧力センサに対して、Rt15を用いて1次の温度補償を行う感度温度補償回路は、例えば曲率が大きい部分において不十分な温度補償になり、誤差の大きい前記検出電圧を出力することがある。
【0025】
また、図5における感度温度補正回路23は、式(3)で示すように、定数A、B、Cから定められるVcc(t)を圧力センサ11に加えることにより、圧力センサ11の感度の温度特性を補償する。ここで、定数A、B、Cは、式(4)から式(6)で示すように、b2、c2、b3、c3、R323から定めらる。式(1)で示すように、b2、c2は、Vbg1(t)の温度特性を表すので、トランジスタQ231とQ232のVbe(ベースとエミッタ間の電圧)の温度特性により定められる。また、式(2)で示すように、b3、c3は、感温抵抗Rt23の温度特性により定められる。
【0026】
このため、トランジスタQ231、Q232と感温抵抗Rt23は、圧力センサ11の感度の温度特性を補償できる定数A、B、Cとなるように、選択する必要がある。しかし、式(4)から式(6)で示すように、b2、c2、b3、c3、R323は、相互に関連して干渉しあうため、トランジスタQ231、Q232と感温抵抗Rt23の選択が容易ではなく、感度の温度補償も容易ではない。
【0027】
本発明の目的は、物理量センサの感度温度特性を補償する回路とその補償方法に関し、温度検出電圧に対して異なる増幅率により温度検出電圧を増幅して、この増幅電圧に対応した電流を物理量センサに流して温度補償を行うことによって、温度補償と温度補償を行うための部品の選択を容易にする、物理量センサ感度温度補償回路とその補償方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
このような目的を達成するために、請求項1の発明は、
温度検出電圧に関連した信号に基づき、物理量センサを駆動する物理量センサ感度温度補償回路において、
前記温度検出電圧に対して異なる増幅率を有する可変増幅部と、
この可変増幅部の出力電圧に対応した電流を、前記物理量センサに流す駆動部を備えた、
ことを特徴とする。
【0029】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記可変増幅部は、所定電圧以上の前記温度検出電圧に対する第1増幅率と、この所定電圧未満の前記温度検出電圧に対する第2増幅率とが異なる、
ことを特徴とする。
【0030】
請求項3の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記可変増幅部は、前記所定電圧によりバイアスされた前段および後段演算増幅器と、前記第1増幅率と前記第2増幅率を定める前記後段演算増幅器の入力抵抗および帰還抵抗と、を備えた、
ことを特徴とする。
【0031】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明において、
前記駆動部は、前記可変増幅部の出力電圧に対応した電流と前記温度検出電圧に関連しない所定電流とを加算した電流を、前記物理量センサに流す、
ことを特徴とする。
【0032】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の発明において、
前記物理量センサは、圧力センサである、
ことを特徴とする。
【0033】
請求項6の発明は、
温度検出電圧に関連した信号に基づき、物理量センサを駆動する物理量センサ感度温度補償方法において、
前記温度検出電圧に対して異なる増幅率により増幅するステップと、
この増幅された出力電圧に対応した電流を、前記物理量センサに流すステップを備えた、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、物理量センサの感度温度特性を補償する回路とその補償方法に関し、温度検出電圧に対して異なる増幅率により温度検出電圧を増幅して、この増幅電圧に対応した電流を物理量センサに流して温度補償を行うことによって、温度補償と温度補償を行うための部品の選択を容易にすることを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[第1の実施例]
第1の実施例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明を適用した物理量センサ感度温度補償回路図である。本実施例は、温度検出電圧に対する増幅率を変更することにより、所定の温度特性を有する圧力センサの感度の温度補償を行うものである。
【0036】
物理量センサ感度温度補償回路34は、温度検出部30、可変増幅部31、駆動部33などから構成される。圧力センサ35は駆動部33により駆動され、差動増幅部36は圧力センサ35の出力を増幅する。これにより、圧力センサ35に加えられた圧力に対応して、かつ温度補償された電圧VpおよびVoが得られる。
【0037】
温度検出部30は、抵抗R1とダイオードD1から構成される。可変増幅部31などの各部に電力を供給する内部電源電圧VCは、抵抗R1の一端に接続され、抵抗R1の他端は、ダイオードD1のアノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、前記各部の共通電位L1に接続される。
【0038】
抵抗R1とダイオードD1との接続点から出力される温度検出電圧Vtは、ダイオードD1の順方向電圧(アノードとカソード間の電圧)である。Vtは、ダイオードD1の周囲温度に対応して変化するため、周囲温度を検出する。
【0039】
可変増幅部31は、抵抗R21、ダイオードD21、演算増幅器OP2、OP3、直流電圧部32などから構成される。
【0040】
温度検出部30の出力であるVtは、抵抗R21の一端と抵抗R24の一端に接続される。抵抗R21の他端は、前段演算増幅器OP2の反転入力端子、ダイオードD21のカソードと抵抗R22の一端に接続される。前段演算増幅器OP2の非反転入力端子は、直流電圧部32の正電圧側に接続されて、直流電圧部32の負電圧側は、共通電位L1に接続される。そして、前段演算増幅器OP2の非反転入力端子は、直流電圧部32の電圧である所定電圧Vrefによりバイアスされる。前段演算増幅器OP2の出力端子は、ダイオードD21のアノードとダイオードD22のカソードに接続される。ダイオードD22のアノードは、抵抗R22の他端と抵抗R23の一端に接続される。
【0041】
抵抗R23の他端は、後段演算増幅器OP3の反転入力端子、抵抗R24の他端と抵抗R25の一端に接続される。後段演算増幅器OP3の出力端子は、抵抗R25の他端に接続され、後段演算増幅器OP3の非反転入力端子は、直流電圧部32の正電圧側に接続されて、所定電圧Vrefによりバイアスされる。ここで、抵抗R23は、後段演算増幅器OP3の入力抵抗であり、抵抗R25は、後段演算増幅器OP3の帰還抵抗である。Vtsは、後段演算増幅器OP3の出力であり、温度検出電圧Vtを増幅した電圧である。
【0042】
駆動部33は、抵抗R2、演算増幅器OP1、トランジスタQ1などから構成される。
【0043】
可変増幅部31の出力であるVtsは、抵抗R3の一端に接続され、抵抗R3の他端は、演算増幅器OP1の反転入力端子、抵抗R2とR4の一端に接続され、抵抗R2の他端は、VCに接続される。演算増幅器OP1の非反転入力端子は、直流電圧部32の正電圧側に接続されて、所定電圧Vrefによりバイアスされる。演算増幅器OP1の出力端子は、トランジスタQ1のベース端子に接続される。トランジスタQ1のエミッタ端子は、抵抗4の他端と抵抗R5の一端に接続され、抵抗R5の他端は、共通電位L1に接続される。トランジスタQ1のコレクタ端子は、圧力センサ35に接続される。
【0044】
圧力センサ35は、抵抗Rp1からRp4などから構成され、これらの抵抗は、ブリッジを構成する。抵抗Rp1とRp2との接続点は、VCに接続され、抵抗Rp3とRp4との接続点は、トランジスタQ1のコレクタ端子に接続される。抵抗Rp1とRp4との接続点および抵抗Rp2とRp3との接続点は、それぞれ差動増幅器36に接続される。
【0045】
駆動部33は、圧力センサ35を駆動するために、VCから圧力センサ35、トランジスタQ1、抵抗R5を経由して共通電位L1へ、Vtsに対応した電流Ipを流す。抵抗Rp1からRp4は、例えば半導体圧力センサの場合、圧力を加えられる半導体(例えばシリコン)上に形成されて、これらの抵抗値は、前記圧力に対応して変化する。そして、抵抗Rp1とRp4との接続点および抵抗Rp2とRp3との接続点間の電圧Vpは、前記圧力に対応した電圧である。差動増幅器36は、Vpを増幅して、前記圧力に対応した電圧Voを出力する。
【0046】
ここで、圧力センサ35の感度は、圧力センサ35に所定の圧力が加えられ変化したとき、この圧力変化分に対応するVpの変化分である。例えば、圧力が0kPaから10kPaに変化したとき、この圧力変化分に対応するVpの変化分が、圧力センサ35の感度である。
【0047】
つぎに、圧力センサ35の感度温度補償の動作について、図2を用いて説明する。ここで、圧力センサ35の感度電圧Vsは、前記圧力変化分に対応するVpの変化分を表す。図2(d)は、一定の電流Ipが圧力センサ35に流れたとき、Vs(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わしており、Vsは所定の温度特性を有する。Vsの勾配について、所定温度Trefを超える場合における勾配と所定温度Tref以下における勾配とは異なる。なお、近似的に直線(破線)により、これらの勾配を表している。Trefのとき、VsはVsrefになる。この温度特性を補償するための動作を説明する。
【0048】
図2(a)は、温度検出電圧Vt(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図2(b)は、Vts(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図2(c)は、Ip(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図2(e)は、図2(d)におけるVsを温度補償したVs(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。
【0049】
図2(a)において、ダイオードD1の順方向電圧であるVtは、温度に対して負の勾配を有する直線になる(例えば、勾配は+1℃あたり−2mV)。所定温度Tref(例えば25℃)のとき、VtはVrefになる。
【0050】
図2(b)を説明するために、可変増幅部31の動作について説明する。Vtに対する可変増幅部31の増幅率は、Vtの電圧値により異なる。Vtが所定電圧Vref以上のとき、Vtsは下記式(7)で、Vtが所定電圧Vref未満のとき、Vtsは下記式(8)で表わされる。
【0051】
【数7】

【0052】
【数8】

【0053】
このため、Vtが所定電圧Vref以上のとき、可変増幅部31の増幅率G1(第1増幅率)は下記式(9)で、Vtが所定電圧Vref未満のとき、可変増幅部31の増幅率G2(第2増幅率)は下記式(10)で表わされる。
【0054】
【数9】

【0055】
【数10】

【0056】
ここで、図2(d)における所定温度Tref以下の破線の勾配の逆極性値が、G1に一致して、所定温度Trefを超える場合の破線の勾配の逆極性値が、G2に一致すれば、Vsの温度補償ができる。詳細に関しては後述する。
【0057】
そして、VtがTref以下のとき、Vtsは式(7)で、VtがTrefを超える場合、Vtsは式(8)で表わせる。Trefのとき、VtはVrefであるので、VtsはVrefとなる。以上より、Vtsは図2(b)で表わされ、Vrefで折り返される形になる。
【0058】
図2(c)を説明するために、駆動部33の動作について説明する。駆動部33は、R3経由で流れるVtsに対応した電流I1と、R2経由で流れるVCに対応した電流I2との加算電流を、圧力センサ35に流す。駆動部33は、圧力センサ35に流れる電流Ipを抵抗R5で検出し、この検出電圧を抵抗R4を経由して演算増幅器OP1に帰還して、前記加算電流を圧力センサ35に流す。ここで、Ipは下記式(11)で表わされる。
【0059】
【数11】

【0060】
ここで、Ipの第1項と第2項は、前記I2に相当して、温度(温度検出電圧Vt)に関連しない所定電流値Irefになる。Ipの第3項は、前記I1に相当して、可変増幅部31の出力電圧Vtsに関連して温度補償を行う。Trefのとき、VtsはVrefであるので、IpはIref(例えば0.6mA)になる。以上より、Ipは図2(c)で表わされ、Irefで折り返される形になる。
【0061】
そして、Ipが、図2(d)における破線の勾配の逆極性になることにより、Vsは、図2(e)に示す実線になり、圧力センサ35の感度の温度補償ができる。なお、図2(e)の破線は、図2(d)の破線を温度補償したものである。
【0062】
つぎに、図2(e)に示すように温度補償するために、図2(d)における所定温度Tref以下の破線の勾配の逆極性値が、G1に一致して、所定温度Trefを超える場合の破線の勾配の逆極性値が、G2に一致するように、部品を選択することについて説明する。
【0063】
圧力センサ35の感度温度特性として、図2(d)における所定温度Tref以下の破線の勾配が、+1℃あたり−A(V)、所定温度Trefを超える場合の破線の勾配が、+1℃あたり+B(V)の場合について説明する。A、Bは正の値とする。ここで、下記式(12)で表わされるように部品を選択する。
【0064】
【数12】

【0065】
式(12)を、式(9)と式(10)に代入することにより、G1とG2の比率は、下記式(13)で表わされる。
【0066】
【数13】

【0067】
圧力センサ35の感度温度特性を補償するために、下記式(14)で示すように、G1が+A、G2が−Bになるようにする。
【0068】
【数14】

【0069】
式(14)に示すように、抵抗R23とR25の抵抗値を選択すれば、図2(e)に示すように、Vsの温度補償ができる。このように、第1増幅率G1と第2増幅率G2は、後段演算増幅器OP3の入力抵抗R23と帰還抵抗R25の比率に基づいて定められて、Vsの温度補償が行える。そして、抵抗R23とR25の抵抗値を選択すればよいので、部品の選択が容易になり、温度補償が容易になる。抵抗R23とR25は、安価な抵抗(例えば金属皮膜抵抗)を選択できる。また、図2(d)に示すように、所定温度Trefを超える場合と以下の場合におけるVsの曲率(曲がり)が異なっていても、温度補償を行うことができる。
【0070】
本実施例によって、物理量センサの感度の温度特性を補償する回路とその補償方法に関し、温度検出電圧に対して異なる増幅率により温度検出電圧を増幅して、この増幅電圧に対応した電流を物理量センサに流して温度補償を行うことによって、温度補償と温度補償を行うための部品の選択を容易にすることを実現できる。
【0071】
[第2の実施例]
第2の実施例について、図3を用いて説明する。本実施例は、温度検出電圧Vtが、温度に対して曲線であっても、所定の温度特性を有する圧力センサの感度の温度補償を行うものである。
【0072】
図3(a)は、温度検出電圧Vt(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図3(b)は、Vts(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図3(c)は、Ip(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図3(d)は、一定の電流Ipが圧力センサ35に流れたとき、Vs(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。図3(e)は、図3(d)におけるVsを温度補償したVs(縦軸)と温度(横軸)との関係を表わす。ここで、図3(d)は、図2(d)と同じである。
【0073】
図3(a)において、Vtは、温度に対して負の勾配を有する曲線になる。ここで、破線は、この曲線に近似した直線を表わす。Vtは、Trefを超えるまたは以下になるに従い、破線よりやや小さくなる。Trefを超えるに従い、VtとVrefとの差が、破線とVrefとの差より大きくなる。また、Tref以下になるに従い、VtとVrefとの差が、破線とVrefとの差より小さくなる。
【0074】
このため、式(8)より、図3(b)において、Vtsは、Trefを超えるに従い、破線より大きくなる。また、これとは逆に、式(7)より、Vtsは、Tref以下になるに従い、破線より小さくなる。
【0075】
同様に、式(11)より、図3(c)において、Ipは、Trefを超えるに従い、破線より小さくなる。また、Ipは、Tref以下になるに従い、破線より大きくなる。
【0076】
そして、図3(a)から(d)の温度補償により、図3(e)において、Trefを超える場合、Vsはほぼ平坦になり、Tref以下になるに従い、Vsは破線よりやや大きくなり、温度補償が行われる。なお、図3(a)から(e)の各破線は、各部の動作に対応している。
【0077】
このように、例えば、温度が上がると抵抗値が小さくなるサーミスタが、ダイオードD1の代わりに用いられても、温度補償を行うことができる。また、例えば、温度が上がると抵抗値が大きくなる測温抵抗体が、ダイオードD1の代わりに用いられて場合、Vtは、温度に対して正の勾配を有する。そのため、可変増幅部31と駆動部33の間に、反転増幅部を入れることにより、温度補償を行うことができる。
【0078】
本実施例によって、温度検出電圧が温度に対して曲線であっても、第1の実施例と同様な温度補償を実現できる。
【0079】
なお、VtがVrefであるとき、式(7)と式(8)におけるVtsは、いずれもVrefである。このため上述した、「Vref以上」は「Vrefを超える」と、「Vref未満」は「Vref以下」と表すことができる。同様に、「Trefを超える」は「Tref以上」と、「Tref以下」は「Tref未満」と表すことができる。
【0080】
また、物理量として圧力のほか、流量、加速度、振動などを検出する物理量センサが、図2(d)と同様の温度特性を有する場合にも、温度補償を行うことができる。ほかに、図2(d)と逆温度特性(上に凸)を有する物理量センサについても、可変増幅部31と駆動部33の間に、反転増幅部を入れるなどにより、温度補償を行うことができる。
【0081】
なお、本発明は、前述の実施例に限定されることなく、その本質を逸脱しない範囲で、さらに多くの変更および変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明を適用した物理量センサ感度温度補償回路図である。
【図2】本発明を適用した物理量センサ感度温度補償回路の各部の動作説明図である。
【図3】本発明を適用した物理量センサ感度温度補償回路の各部の他の動作説明図である。
【図4】従来の圧力センサの温度補償回路図である。
【図5】従来の他の圧力センサの温度補償回路図である。
【符号の説明】
【0083】
30 温度検出部
31 可変増幅部
32 直流電圧部
33 駆動部
34 物理量センサ感度温度補償回路
35 圧力センサ
36 差動増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度検出電圧に関連した信号に基づき、物理量センサを駆動する物理量センサ感度温度補償回路において、
前記温度検出電圧に対して異なる増幅率を有する可変増幅部と、
この可変増幅部の出力電圧に対応した電流を、前記物理量センサに流す駆動部を備えた、
ことを特徴とする物理量センサ感度温度補償回路。
【請求項2】
前記可変増幅部は、所定電圧以上の前記温度検出電圧に対する第1増幅率と、この所定電圧未満の前記温度検出電圧に対する第2増幅率とが異なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の物理量センサ感度温度補償回路。
【請求項3】
前記可変増幅部は、前記所定電圧によりバイアスされた前段および後段演算増幅器と、前記第1増幅率と前記第2増幅率を定める前記後段演算増幅器の入力抵抗および帰還抵抗と、を備えた、
ことを特徴とする請求項2に記載の物理量センサ感度温度補償回路。
【請求項4】
前記駆動部は、前記可変増幅部の出力電圧に対応した電流と前記温度検出電圧に関連しない所定電流とを加算した電流を、前記物理量センサに流す、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の物理量センサ感度温度補償回路。
【請求項5】
前記物理量センサは、圧力センサである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の物理量センサ感度温度補償回路。
【請求項6】
温度検出電圧に関連した信号に基づき、物理量センサを駆動する物理量センサ感度温度補償方法において、
前記温度検出電圧に対して異なる増幅率により増幅するステップと、
この増幅された出力電圧に対応した電流を、前記物理量センサに流すステップを備えた、
ことを特徴とする物理量センサ感度温度補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−281374(P2008−281374A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124051(P2007−124051)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】