説明

特定のガラス転移温度を有する物質を用いた多層補償フィルム

1層以上のポリマーからなる第一層及び、1層以上のポリマーからなる第二層を有する多層補償子を提供する。前記第一層は、−0.005以上、+0.005以下の面外複屈折を示すポリマーを有する。前記第二層は、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す非晶性ポリマーを有する。多層補償子全体の面内レターデーション(Rin)は+20nmより正であり、かつ全体の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負であるか、又は+20nmより正である。前記第二層の非晶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、多層補償子のRthが−20nmより負である場合は、110℃<Tg<180℃であり、多層補償子のRthが+20nmより正である場合は、110℃<Tg<160℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ用の多層光学補償子に関する。本発明はまた、そのような補償子及び、当該補償子を用いた液晶ディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は電子ディスプレイに広く利用されている。これらのディスプレイシステムでは、一般的には、液晶セルが偏光子と検光子との間に設けられている。偏光子によって偏光された入射光は液晶セルを通過し、液晶の分子配向の影響を受ける。液晶の分子配向はセルに電圧を印加することにより変化させることが可能である。そして、変換された光は検光子へ向かう。この原理を用いることで、周辺光を含む外部光源からの光の透過を制御することが可能となる。一般的に、この制御を実現するために必要なエネルギーは、陰極管(CRT)のような他のディスプレイに使用される発光材料に必要なエネルギーよりもはるかに小さい。そのため、液晶技術は、多数の電子画像装置に用いられている。そのような装置には、デジタル時計、電卓、ノートパソコン及び、電子ゲームが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの装置では、軽量、低消費電力及び動作時間が長いことが重要な特徴となる。
【0003】
コントラスト、色再現性、及び安定したグレースケール強度は、液晶技術を用いた電子ディスプレイにおいて重要な属性である。液晶ディスプレイ(LCD)のコントラストを制限する主要因は、液晶素子、あるいはセルを通じて、暗い、あるいは「黒い」画素状態の光が「漏れる」傾向によるものである。さらに、漏れ、つまり液晶ディスプレイのコントラストは、表示画面を見る方向(「視角」)にも依存する。典型的には、ディスプレイに対する法線入射を中心とする、狭い視角内でのみ、最適なコントラストが観察され、視角方向がディスプレイの法線から離れるにしたがってコントラストは急激に減少する。カラーディスプレイでは、漏れの問題は、コントラストを劣化させるのみならず、色再現性の低下につながり、色シフト、すなわち色相シフトを引き起こす。
【0004】
LCDは、デスクトップコンピューや、その他のオフィス又は家庭用設備のモニタ用途で、CRTの代替として急速に普及している。また、大画面サイズのLCDテレビモニタの台数が近い将来急激に増加することも予想されている。しかし、色相シフト、コントラスト劣化及び明暗反転のような視野角依存性に関する問題が解決されない限り、従来のCRTの代替としてのLCDの用途は限定されてしまう。
【0005】
垂直配向液晶ディスプレイ(VA−LCD)は、法線入射光に対してきわめて高いコントラストを有する。図2A及び図2Bは、OFF状態201及び、ON状態203でのVA液晶セルの概略図である。OFF状態では図2Aに図示されているように、液晶の光軸205は、基板207に対して略垂直である。電圧を印加すると図2Bに図示されているように、光軸205は、セル法線から傾斜する。OFF状態では、法線方向209の光は液晶層による複屈折を受けず、直交する偏光子の状態に近い、暗状態を与える。しかし、斜めに伝播する光211はレターデーションに遭遇し、それによって光漏れを引き起こす。その結果、ある視野角範囲でのコントラスト比が悪くなる。
【0006】
光学補償ベント液晶ディスプレイ(OCB−LCD)とも呼ばれる、ベント配向ネマティック液晶ディスプレイは、対称性を有するベント状態に基づいたネマティック液晶セルを利用する。実際の動作においては、ベント配向ネマティック液晶セルを用いたディスプレイの明るさは、図3A(OFF)301及び図3B(ON)303で図示されているように、セル内部でのベント配向の程度を変化させる印加電圧、つまり電場によって制御される。両方の状態において、液晶の光軸305は、セルの中心面307の周りで対称性を有するベント状態をとる。ON状態では、セル基板309の近傍を除いて、光軸はセル面に対して実質的に垂直となる。OCBモードは、液晶ディスプレイテレビ(LCD−TV)への応用に適した速い応答速度を有する。OCBモードはまた、ツイステッド・ネマティック液晶ディスプレイ(TN−LCD)のような従来のディスプレイよりも優れた視野角特性(Viewing angle characteristic、VAC)も有している。
【0007】
上述の2つのモードは、従来のTN−LCDよりも優れているため、LCD−TVのような高性能用途において有力となることが予想される。しかし、OCB及びVA−LCDの実用には、VACを最適化させるための光学補償手段が必要となる。いずれのモードにおいても、液晶及び交差偏光子が複屈折を起こすため、ディスプレイを斜めから見たときの視野角によるコントラスト劣化が引き起こされる。二軸フィルムを用いることで、OCB(特許文献1)及びVA−LCD(特許文献2)を補償することが示されている。両モードでは、液晶はON状態(OCB)、又はOFF状態(VA)でのセルの面に対して十分垂直に配向する。この状態は正の面外レターデーションRthを与えるため、満足のゆく光学補償を実現するためには、補償フィルムは十分大きな負のRthを有する必要がある。Rthが大きい二軸フィルムへの要求は、スーパー・ツイステッド・ネマティック液晶ディスプレイ(STN−LCD)についでも同じである。
【0008】
OCB、VA及びSTNのようなLCDモードを補償するのに適した十分な負の値のRthを有する二軸フィルムの製造方法が複数提案されてきた。
【0009】
特許文献3は、レターデーション上昇剤をトリアセチルセルロース(TAC)と組み合わせて利用することを開示している。レターデーション上昇剤は、少なくとも2つのベンゼン環を有する芳香族化合物から選択される。そのようなレターデーション上昇剤を添加したTACを延伸することで、Rth及び面内レターデーションRinを生じさせることが可能となる。しかしながら、この方法には、必要となる添加剤の量という問題がある。所望のRth及びRinの上昇効果をもたらすためには、このような添加剤の量を多くする必要があり、意図しない着色や、添加剤がLCD内の他の層への移動(拡散)を生じる場合がある。その結果、Rth及びRinの低下、及び、これらに近接する層への望ましくない化学的影響が生じる恐れがある。また、この方法では、Rth及びRinの値を各独立に制御するのは困難である。
【0010】
Sasakiらは、正の複屈折を示す熱可塑性基材上にコレステリック液晶を設けたものを用いることを提案した(特許文献4)。コレステリック液晶(CHLC)のピッチは、可視光の波長よりも短いため、適切に配向したCHLCは、負のRthを与える複屈折状態を示す。Rinは、熱可塑性基材の延伸倍率を調節することで制御される。この方法によって、Rth及びRinを各独立に調節することが可能となる。しかし、短いピッチを有するCHLCの使用は、製造コストが増大することに加えて、配向過程を有するために処理が複雑化してしまう。
【0011】
特許文献5は、プロピオン酸又は酪酸で置換されたTACの使用について開示している。これらの置換されたTACは、通常のTACよりも高い複屈折性を示す。よって、置換されたTACフィルムを二軸延伸することで、Rin及びRthが発生する。その方法は、付加的なコーティングや層を必要としないが、Rin及びRthを各独立して制御するのが困難であることが問題である。
【0012】
Wadaらは、光学異方性フィルムを(例えはウレタン接着剤を用いて)積層した、光学補償フィルムを開示している(特許文献6)。Wadaは特定のポリマーのみが光学補償フィルムとして適しており、特に、ポリカーボネートやポリスチレンのように高価でないありふれた物質を用いるべきでないと教示している。
【0013】
その他の有望なLCDの1種として、インプレーンスイッチングモードLCDがある。上記のVA−LCDやOCB−LCD装置では電極はLC層の反対側の面、すなわち、対局側の基板に配置される。それに対して、インプレーンスイッチングモードLCDでは、電極は 液晶層の同じ面、すなわち、同一の基板上に配置されている。しなしながら、インプレーンスイッチング装置では、斜め方向のコントラストを向上させるために、十分大きな正の面外レターデーションRthを有する光学補償子が必要である。特に、インプレーンスイッチング(IPS)モードのLCDを補償するためには、Rthが+20nmより正である多層補償子が有用である。
【特許文献1】米国特許第6108058号
【特許文献2】特開平11−95208号
【特許文献3】米国特許出願公開第2001/0026338号
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0086033号
【特許文献5】特開2002−210766号
【特許文献6】欧州特許公開第9544013号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そのため、解決すべき課題は、Rth及びRinを独立に制御できる多層補償子を提供することである。さらに、面内レターデーションRinの制御範囲が大きい多層補償子を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、1層以上のポリマーからなる第一層及び、1層以上のポリマーからなる第二層を有する多層補償を提供する。前記第一層は、−0.005以上、+0.005以下の面外複屈折を示すポリマーを有する。前記第二層は、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す非晶性ポリマーを有する。多層補償子全体全体の面内レターデーション(Rin)の大きさが+20nmより正であり、かつ全体の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負であるか、又は+20nmより正である。前記第二層の非晶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、多層補償子のRthが−20nmより負である場合は、110℃≦Tg≦180℃であり、多層補償子のRthが+20nmより正である場合は、110℃≦Tg≦160℃である、
【0016】
別の観点において、本発明は、ポリマーを有する1層以上からなる第一層上に、溶媒中に非晶性ポリマーを含有する1層以上の第二層をコーティング又は共流延する工程と、前記第一層と前記第二層を同時に延伸する工程と、を有する補償子の製造方法に関する。前記第一層のポリマーは、−0.005以上、0.005以下の面外(Δnth)複屈折を示す。前記1層以上の第二層の非晶性ポリマーは、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す。多層補償子全体の面内レターデーション(Rin)は+20nmより正であり、全体の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負であるか、又は+20nmより正である。前記第二層の非晶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、多層補償子のRthが−20nmより負である場合は、110℃≦Tg≦180℃であり、多層補償子のRthが+20nmより正である場合は、110℃≦Tg≦160℃である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書では、以下の定義を適用する。
【0018】
光軸とは、伝播する光が複屈折を受けない方向を意味する。
【0019】
ON、及びOFF状態とは、それぞれ、液晶セルに対して電圧が印加されている状態、及び印加されていない状態を意味する。
【0020】
面内レターデーションRinは、図1の層101を例にとって説明すると、(n−n)dで定義される量で、n、nはそれぞれ、x、y方向の屈折率である。x軸は、xy平面において屈折率が最大となる方向であり、y方向はx軸に垂直な方向である。従って、Rinは、常に正の値である。xy平面は、層の面103に平行である。dはz方向における層の厚みである。(n−n)の大きさは、面内複屈折Δninを表す。面内複屈折もまた、常に正の値を有する。以下、Δnin及びRinの値は、波長λ=590nmにおける値である。
【0021】
面外レターデーションRthは、図1の層101を例にとって説明すると、[n−(n+n)/2]dで定義される量である。nはz方向での屈折率である。[n−(n+n)/2]dの大きさは面外複屈折Δnthと呼ばれる。n>(n+n)/2である場合、Δnthは正で、それに対応するRthも正である。n<(n+n)/2である場合、Δnthは負で、それに対応するRthも負である。Δnth及びRthの値は、波長λ=590nmにおける値である。
【0022】
非晶性とは、分子秩序がないことを意味する。従って、非晶性ポリマーは、X線回折のような方法で測定されるときには分子の秩序を示さない。これは単なる例示だが、図6Aと図6Bの特徴を比較することで示される。図6Aは、剛性棒状ポリマーの広角X線回折パターン(透過モード)を図示している。剛性棒状ポリマーとは特に、米国特許第5344916号で参照されているような、(BPDA−TFNB)0.5−(PMDA−TFMB)0.5のポリイミドである。図6Bは、本発明の非晶性ポリマーである、[ポリ(4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデン−ビスフェノール−コ−4,4’−(2−ノルボルニリデン)ビスフェノール)テレフタレート−コ−イソフタレート)]の広角X線回折パターン(透過モード)である。
【0023】
図6Aにおいては、2θ=17°の位置に、鋭いX線ピークの存在を確認できる。これらの鋭いピークは、明確な分子秩序の指標であることから、このようなポリマーが非晶性でないことを表している。図6Aにおける、非晶性でないこの状態について、米国特許第5344916号においては「剛性棒状」として適切に表現されている。他の非晶性でない状態としては、液晶状態や、三次元結晶状態が含まれる。
【0024】
それに対して、図6Bにおいては、図6Aに示されているような鋭いピークが観察されていないことがわかる。図6Bにおいては、バックグラウンドが少し上昇しているようにみえる。これが所謂「非晶性ハロー」であり、全ての非晶性物質において普遍的に現れるものである。液体の水においてもこの「非晶性ハロー」が現れる。このX線回折パターンに現れる「非晶性ハロー」の強度は、試料の厚みに依存する。
【0025】
図6Cは延伸したTAC層単体(「コーティングなし」の単なる第一層)、及びTACに本願発明の実施例のポリマーをコーティングした3層構造体を延伸したもの(2つの第一層と、「コーティング」による1つの第二層)の透過モードにおける広角X線回折パターンを示している。ポリマーのコーティングによってもピークが導入されないことからポリマーコーティングが非晶性構造であることがわかる。
【0026】
発色団とは、光吸収ユニットの役目を果たす原子又は原子団を意味する(Modern Molecular Photochemistry、 Nicholas J. Turro Editor、 Benjamin/Cummings Publishing、Menlo Park,CA、1978年、第77頁)。典型的な発色団の基としては、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基(すなわち、フェニル、ナフチル、ビフェニル、チオフェン、ビスフェノールのような複素環芳香族基、又は炭素環芳香族基)、スルホン基及び、アゾ基又は上記したものの組み合わせが含まれる。
【0027】
不可視発色団とは、400nmから700nmの範囲外で吸収が最大となる発色団を意味する。
【0028】
隣接とは、物質が互いに接触していることを意味する。2つの隣接する層では、1つのの層が他の層と直接接触している。よって、コーティングによってポリマー層が形成される場合、基材及びポリマー層は隣接している。
【0029】
2003年7月31日出願の米国特許出願第10/631152号(米国特許第7083835号)の内容を参照することによって、その内容を本明細書に取り込むものとする。上記特許出願においては、実施例の少なくとも1つにおいて、事前に延伸したポリマー支持層表面にコーティングされた非晶性層が供されている多層光学補償子が開示されている。支持層は、面内レターデーションが20nmより正となるように延伸される。
【0030】
また、2004年6月33日出願の米国特許出願第10/859670号(米国特許第7211304号)の内容を参照することによって、その内容も本明細書に取り込むものとする。上記特許出願においては、少なくとも、非晶性ポリマーをポリマー支持層の表面にコーティングした後に、多層光学補償子の両方の(又は全ての)層を同時に延伸することを特徴とする多層光学補償子が開示されている。延伸は、補償子が「湿った」状態、すなわち、層を共流延(又はコーティング)した後であり、非晶性ポリマーを乾燥する前(あるいは同時)に行うことができる。あるいは、それに代えて、多層補償子をキャストして、非晶性ポリマーを乾燥した後に、「乾いた」延伸を行うこともできる。
【0031】
様々な液晶ディスプレイでは、視野角を最適化して、完全な画面系を実現するために、偏光子の積層構造の複屈折を調節することが望ましい。本発明の実施例に従った製造方法と特定のポリマーとを組み合わせることで、1層以上の非晶性ポリマーの第二層(あるいは共流延層)によって、トリアセチルセルロース(TAC)の基材シートを調整することができる。TAC及び、第二層ポリマーの厚みを変化させることによって、ひとまとまりの光学特性を「調節可能」とすることができる。乾いた状態での延伸では、製造後のシートに加えられる応力によって、面内(x、y)レターデーションを制御することが可能であり、第二層ポリマーの厚みによって、面外レターデーションを制御することができる。このような非晶性層を使用することにより、コスト効率よく、有用なシートを単純な方法で作製できるようになる。
【0032】
既に乾燥した多層補償子を引っ張る(「能動延伸」する)ことによって、所望の面内異方性を発現できることが見出された。以降、「機械方向」という語は、フィルムのキャスト方向と同一の方向を指す。延伸は機械方向におこなうことができる。また、その代わりに、あるいはそれに加えて、延伸は、横方向、つまり機械方向と垂直な方向におこなうことができる。機械方向と横方向の延伸は逐次行ってもよいし、両方同時におこないこともできる。また、また、その代わりに、あるいはそれに加えて、延伸を横方向に対して斜めの方向(つまり対角線方向)に行うこともまた可能である。
【0033】
特に、乾燥済みの多層光学補償子を延伸することで面内レターデーションの値を200nm以上とすることができる。また、延伸工程において、乾燥済みの多層光学補償子を、少なくとも1層の前記第一層のガラス転移温度Tg以上に加熱することが有用であることを見出した。さらに、TACの第一層を延伸工程において180℃以上に加熱することで光学特性が悪化する場合があることが見出された。従って、多層光学補償子の各層はTgが180℃より低いことが好ましく、160℃より低いことがさらに好ましい。
【0034】
さらに、1層以上のTgの値が低すぎる場合は、フィルムがLCD装置に実装された場合における多層補償子の寸法安定性が不十分となる場合がある。とはいっても、全ての層のTgが100℃、より好ましくは110℃より高ければ、寸法安定性は十分となる。
【0035】
従って、本発明で開示する多層光学補償子は、少なくとも、非晶性ポリマーの第二層のガラス転移温度Tgが、多層補償子のRthが負の(例えば、−20nmより負である)場合には、110℃≦Tg≦180℃であり、多層補償子のRthが正の(例えば、+20nmより正である)場合には、100℃≦Tg≦160℃であることに特徴を有している。
【0036】
多層補償子の面外レターデーション(Rh)が−20nmより負である場合には、当該多層補償子は垂直配向(VA)モードのLCDの補償に有用である。多層補償子の面外レタ−デーションがが+20nmより正である場合には、インプレーンスイッチング(IPS)モードのLCDの補償に有用である。
【実施例】
【0037】
以下でより詳述する実験では、厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)ポリマー(アセチル置換度が2.86、分子量220,000g/モル)を、適宜に補完された溶液キャスト方によって製造した。以下の表Aに示す多数のポリマー組成物を用いてTACフィルム上に1つの第一層を塗布した。
【0038】
【表A】

【0039】
乾燥後に、通常のコーティング法を用いて、上記の塗布後のフィルム上にポリカーボネートを含有する複屈折性の第二層をさらに塗布した。塗布に用いた多数のポリカーボネートを、示差熱分析(DSC)により測定したガラス転移温度(Tg)と共に以下の表Bに示す(各ポリカーボネートの入手元を括弧内に示してある)。
【0040】
【表B】

表B中の全てのポリマーは、塩化メチレン中、又は塩化メチレン及びメタノールの混合溶媒中に溶解させ、TAC基材上に塗布した第一層上に塗布した。
【0041】
80μmのTACシートの面外レターデーション(Rth)は、アニールによって、典型的には約−80nmから約−40nmまで変化する。TACのRthは、表面へのキャスティング時間や加熱を制御した領域内の温度によって操作可能である。しかし、一般的にTACフィルムで達成可能な面内レターデーションと面外レターデーションの水準は限られている。両方のレターデーションを大きくするためには、適切な複屈折を有する第二層をTAC基材上に塗布することが必要である。
【0042】
複屈折を有する非晶性ポリマーの第二層は、複屈折を確保するために急速に乾燥する必要がある。乾燥が相対的に速い場合は、TACシートの乾燥による溶媒は分子を緩和させるほど十分に第二層を柔らかくはしない。第二のポリマー層の厚みを調整することで、多層補償子の光学特性を調節することができる。複屈折性の第二層を形成する非晶性ポリマーのRin、すなわち、多層フィルムのRinは、第二層を塗布あるいは積層のような他の手段によって塗布した後の延伸工程における延伸の程度(延伸倍率)及び、延伸工程で適用される温度によって調整することができる。
【0043】
延伸は、テンター機構のような引っ張り機構によって行われる。コーティング後のフィルムは、事前に所望の温度まで加熱した後に、エッジ拘束ベルトに送られる。エッジベルトは、2本のエンドレスベルトであり、これらが一緒になることで曲がりくねったパスを形成し、適宜の把持機構を用いることで、ウェブが2本のベルト間に把持される。これらのベルトについては、米国特許第6152345号、米国特許6180930号に開示されている。これらの公報を参照することによってその内容を本明細書に取り込むものとする。その後フィルムは幅方向、すなわち横方向に引っ張られ、多層フィルムは横方向に配向する。引っ張り開始時と終了時の幅の比が延伸倍率である。機械方向の延伸(機械方向の配向)は、加熱したフィルムを、速度可変で回転する一対のロール間を通すことによって行われる。このロールの周速の比率が延伸倍率に対応する。これらの延伸過程を組合せて、同時、あるいは逐次に行うことによって、フィルムの二軸延伸ができる。
【0044】
延伸はコーティング後のフィルムが完全に乾燥していなくとも行うことができる。この、所謂「湿った」延伸によって、フィルムは溶剤を含んだままの状態で延伸することができ、溶剤は延伸中、あるいは延伸後に除去される。乾燥工程において、フィルムの端部(エッジ)を単に固定するだけでも、乾燥に伴うフィルムの収縮が抑制されるために、ある程度の配向及び面内レターデーションが生じる。これは積極的に延伸するような意図的な延伸とは異なり、ポリマーシートの乾燥に伴う収縮の応力を拘束するものであり、いはば「受動的延伸」とでもいうべきである。
【0045】
これまでに開示した例においては、フィルムは乾燥延伸法、すなわち、乾燥後の複合フィルムを以下の表Cに示されている2つの延伸法を用いて、フィルム延伸機によって一軸延伸する方法によって延伸される。延伸は高めの温度で行われる。しかしながら、本発明が、表Cの2つの延伸法を用いて、フィルム延伸機によって一軸延伸されたフィルムに限定されないことが理解できるであろう。
【0046】
【表C】

【0047】
自由端一軸延伸法(S−1)においては、複合フィルムの一方向だけを保持し、特定の温度に加熱後、その保持方向に所望の延伸倍率(伸び率)で延伸した。延伸倍率は延伸後の最終的な寸法と延伸前の最初の寸法の比で定義される。この延伸法は機械方向に配向させることと類似している。固定端一軸延伸法(S−2)においては、フィルムを両方向で保持し、特定の温度に加熱後、その保持方向の一方の方向に所望の延伸倍率(伸び率)で延伸した。この延伸法は、テンター延伸と非常に類似している。複合フィルムはその後、張力を開放する前に室温まで冷却した。面内(Rin)レターデーション及び、面外(Rth)レターデーションは、エリプソメータM−2000V(ウーラム社製)を用いて測定した。実施例において、延伸後の多層フィルムの最終的な厚みは、約80μmであった。
【0048】
実施例の複合フィルムの作成条件を以下の表Dに示す。
【0049】
【表D】

上記実施例のフィルムの、波長590nmにおける面内レターデーション(Rin)及び面外レターデーション(Rth)の値は以下の表Eに示す通りである。
【0050】
【表E】

【0051】
上記の例の第二層の面外複屈折は−0.06(例3)から−0.016(例11)の範囲であった。80μmのTACフィルムを、延伸倍率1.3、温度150℃で固定端一軸延伸法(S−1)によって延伸して、比較例となるフィルムを作成した。延伸TACフィルムはRinの値が28nm、Rthの値が−34nm(面外複屈折−0.0005に相当)であった。これらの値はVAモードLCDを適切に補償するのには十分とはいえない。
【0052】
上記の例においては、薄いポリカーボネートの層を含む複合フィルムは、Rinの値が概ね30〜100nmの範囲、Rthが−100nm〜−160nmの範囲とすることができる。これらの値はVAモードLCDの効果的な補償が可能となる範囲である。Rin及びRthの値は、複屈折を有する第二層の厚みや、延伸温度、延伸倍率、あるいは延伸方法を変えることで調整することができる。
【0053】
上記の方法によって、後述の多層補償子の製造が可能になる。すなわち、これらの方法によって、1層以上のポリマーからなる第一層及び、1層以上のポリマーからなる第二層を有し、1層以上の第一層が、−0.005以上、0.005以下の面外(Δnth)複屈折を示すポリマーを有し、第二層が、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す非晶性ポリマーを有する多層補償子を得ることができる。多層補償子の全体の面内レターデーション(Rin)は+20nmより正であり、かつ全体の面外レターデーション(Rth)は−20nmより負であるか、又は+20nmより正である。前記第一層及び第二層の2層以上は任意に隣接していてもよい。
【0054】
前期第一層は、好ましくは、面外複屈折(Δnth)が−0.005以上、+0.005以下のポリマーフィルムから作られる。このようなポリマーの例としては、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレートのようなセルロース系、環状ポリオレフィン、アクリル系、フルオレン基を含有するポリアリレート、及び、その他の当業者に知られたポリマーを含む。
【0055】
複数の第二層を組み合わせた厚みは、30μm未満が好ましく、1.0から10μmがより好ましく、1から8μmがさらに好ましい。
【0056】
多層補償子の全体の面内レターデーション(Rin)は、21から200nmであることが好ましく、25から150nmであることがより好ましく、30から100nmであることがさらに好ましい。
【0057】
第一層と第二層とを組み合わせた厚みは、200μm未満が好ましく、40から150μmがより好ましく、60から110μmがさらに好ましい。
【0058】
多層補償子の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負である場合には、少なくとも1つの第二層は、主鎖に不可視発色団を有し、ガラス転移温度(Tg)が110℃≦Tg≦180℃である非晶性ポリマーを含む。非晶性ポリマーは、主鎖にぶら下がった脂環基を含んでいてもよい。脂環基は、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン−5−イリデン、アダマンタン、及び、これらの脂環基の1つ以上の水素原子がフッ素置換されたものからなる群の中の少なくとも1つから選択し得る。さらに、非晶性ポリマーは、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、アゾ基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、又はチオフェン基を含む不可視発色団を主鎖に含んでいてもよい。
【0059】
特に、ポリカーボネートは第二層のポリマーとして適している。これらの物質は、典型的にはホスゲンと1以上のジオール(例えばビスフェノール)の縮合ポリマーであるが、これに限定されるわけではない。
【化1】

【0060】
第二層に好適に用いられるジオール構造の例は、下記のものを含む。
【0061】
【化2】


4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール
【0062】
【化3】


4,4’−ノルボルニリデンビスフェノール
【0063】
【化4】


4,4’−(2,2’−アダマンタンジイル)ジフェノール
【0064】
【化5】


4,4’−(ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン−5−イリデン)ビスフェノール
【0065】
【化6】


4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラクロロビスフェノール
【0066】
【化7】


4,4’−イソプロピリデン−2,2’,6,6’−テトラブロモビスフェノール
【0067】
【化8】


2,6−ジヒドロキシナフタレン
【0068】
【化9】


1,5−ジヒドロキシナフタレン
【0069】
【化10】


1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
【0070】
多層補償子の面外レターデーション(Rth)が+20nmより正である場合には、少なくとも1つの第二層は、主鎖外に不可視発色団を有し、ガラス転移温度(Tg)が110℃≦Tg≦160℃である非晶性ポリマーを含む。不可視発色団は、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、又はチオフェン基を含み得る。第二層の非晶性ポリマーは、主鎖外に、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、又はアゾ基を有していてもよい。第二層に好適なポリマーの例としては、ポリ(4ビニルフェノール)、ポリ(4ビニルビスフェニル)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(メチルカルボキシフェニルメタクリルアミド)、ポリ[(1−アセチルインダゾール−3−イルカルボニルオキシ)エチレン]、ポリ(フタルイミドエチレン)、ポリ(4−(1−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)スチレン)、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(2−ジメチルアミノカルボニルスチレン)、ポリ(2−フェニルアミノカルボニルスチレン)、ポリ(3−(4−ビフェニル)スチレン)、ポリ(4−(4−ビフェニル)スチレン)、ポリ(4−シアノフェニルメタクリレート)、ポリ(2,6−ジクロロスチレン)、ポリ(パーフルオロスチレン)、ポリ(2,4−ジイソプロピルスチレン)、ポリ(2,5−ジイソプロピルスチレン)、ポリ(2,4,6−トリメチルスチレン)、又はこれらの2種以上の共重合体が含まれる。
【0071】
多層補償子の面外レターデーション(Rth)が+20nmより正となる場合の第二層の1つの実施例として、非晶性ポリマーに該当するものを、その構造と共に以下に示す。
【0072】
【化11】


N−ビニルカルバゾール−スチレン共重合体
(x=51モル%、y=49モル%)
【0073】
以下の表Fは、上記のx=51モル%/y=49モル%のN−ビニルカルバゾールとスチレンの共重合体(固形分15%のトルエン/塩化メチレン溶液をコーティングしたもの)の7μmの層と、厚み80μmのTAC上にポリウレタン(サンキュア898)/ポリエステル(イースタック1100)の混合物の2μmの層で構成される多層光学補償子のRin及びRthの、延伸倍率による影響を示している。x=51モル%/y=49モル%のN−ビニルカルバゾールとスチレンの共重合体は、正の複屈折を示す、すなわち正の面外複屈折を発現しうる物質である。レターデーションは、エリプソメータ(ジェー・エー・ウーラム社製、モデルM2000V)によって波長590nmで測定したものである。
【0074】
本例で示されている面内レターデーションは正の値を有しているが、これらは前の例(例11〜17)に示された負の複屈折を示すポリマーによって得られる面内レターデーションとは符号が逆になっている点に着目すべきである。つまり、これらの例においては面内屈折率の大きい方向が、延伸方向と垂直になっている。このポリマーの示差熱分析(DSC)で測定したTgは147℃である。本例の多層フィルムは、例1〜17と本質的に同一の方法で作成される。
【0075】
【表F】

表Fから、第二層に含まれる正の複屈折を示すポリマーによって、正の面外レターデーションを有する多層補償子を得られることが分かる。これはIPSモードLCDの補償に有用となる可能性がある。表F中のフィルムの第二層の面外複屈折は、+0.013から+0.015に相当する。
【0076】
その他の正の複屈折ポリマーも、IPSモードLCD用の多層補償子として適用可能である。このようなポリマーの例を、各ポリマーのガラス転移温度と共に表Gに示す。これらの正の複屈折を示すポリマーは、Tgが160℃より低いために、本願で開示する装置や方法に適用される。例示されたポリマーのTg及び複屈折は、ポリマーを構成するコモノマーの組成比を変えることによって異なる値とすることができる。
【0077】
【表G】

他の有用な第2のコモノマーとしては、例えば、アクリルイミド、アクロロニトリル、ビニルピロリドン、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸エチルが含まれる。
【0078】
ここで、図を参照する。図中には、本発明の様々な構成要素に番号が付され、当業者が本発明を実施できるように、本発明について説明している。特に図示又は説明のない構成要素は、当業者にとって周知の様々な形式の要素を用いることができる。
【0079】
図4A、図4B及び図4Cは、本発明に従った、典型的な多層光学補償子の正面概略図である。当該多層光学補償子は、−0.005以上、+0.005以下の面外複屈折を示すポリマーAの層、及び面外複屈折が−0.005より負であるか、又は+0.005より正である非晶性ポリマーBの層を有する。図4Aの補償子401は、B層409がA層407上に設けられた構造を有する。A層407とB層409とは隣接している。図4Bの補償子403のように、1層のA層411の上に2層のB層413、415を設けることもできる。他の例である405では、1層のB層417が2層のA層419、421によって挟まれている。補償子405は例えば、隣接するA層421及びB層417並びに、単一層であるA層419を積層することによって作製できる。積層はB層417とA層419との界面で実現され、417及び419の2つの層は、積層方法によって、隣接していても良いし、隣接していなくても良い。当業者であれば、より複雑な構造を想到することも可能であろう。
【0080】
図5Aに図示されたLCD501では、液晶セル503が偏光子505と検光子507との間に設けられている。偏光子505の透過軸509と検光子507の透過軸511とは、互いに90±10°の角度をなすので、対をなす偏光子509と検光子511とは、「交差偏光子」と呼ばれる。多層光学補償子512は、偏光子505と液晶セル503との間に設けられている。多層光学補償子512はまた、液晶セル503と検光子507との間に設けられても良い。図5Bで概略的に図示されているLCD513は、液晶セル503の両面に設けられた2つの多層光学補償子515、517を有する。図5Cは、反射型LCD519における多層光学補償子の応用例である。液晶セル503は、偏光子605と反射板521との間に設けられている。この図では、参照符号609は偏光子605の透過軸を表す。この例に示されているように、多層補償子523は、液晶セル503と偏光子605との間に設けられている。一方、多層補償子523は、反射板521と液晶セル503との間に設けることもできる。
【0081】
従来技術と比較すると、上記の実施例は、意図しない着色を引き起こしたり、あるいは、補償子外への拡散によるレターデーションの損失、及び/又は意図しない化学反応を引き起こしたりする可能性のある、レターデーション上昇剤の使用を回避し、液晶化合物の使用やその配向処理を必要とせずに、比較的薄い(<200μm)構造で大きな光学補償能を有し、かつ、容易に製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】厚みdの典型的な層を図示している。層の横にはx−y−z座標系を示している。
【図2A】VA液晶セルでの一般的なOFF状態を概略的に図示している。
【図2B】VA液晶セルでの一般的なON状態を概略的に図示している。
【図3A】OCB液晶セルでの一般的なOFF状態を概略的に図示している。
【図3B】OCB液晶セルでの一般的なON状態を概略的に図示している。
【図4A】本発明の多層光学補償子を正面から見た概略図である。
【図4B】本発明の多層光学補償子を正面から見た概略図である。
【図4C】本発明の多層光学補償子の正面から見た概略図である。
【図5A】本発明の多層光学補償子を有する液晶ディスプレイの概略図である。
【図5B】本発明の多層光学補償子を有する液晶ディスプレイの概略図である。
【図5C】本発明の多層光学補償子を有する液晶ディスプレイの概略図である。
【図6A】高秩序、つまり非晶性でない無延伸材料の透過モードにおける広角X線回折パターンを示している。
【図6B】本発明の非晶性ポリマーの無延伸での透過モードにおける広角X線回折パターンを示している。
【図6C】延伸したTAC層単体(コーティングなし)及びTACに本願発明の実施例のポリマーをコーティングした3層構造体を延伸したもの(コーティングあり)の透過モードにおける広角X線回折パターンを示している。
【符号の説明】
【0083】
101 フィルム
103 フィルム面
201 OFF状態でのVA液晶セル
203 ON状態でのVA液晶セル
205 液晶の光軸
207 液晶セル基板
209 セルの法線方向を伝播する光
211 斜め方向を伝播する光
301 OFF状態でのOCB液晶セル
303 ON状態でのOCB液晶セル
305 液晶の光軸
307 セル中心面
309 セル境界
401 多層光学補償子
403 多層光学補償子
405 多層光学補償子
407 A層
409 B層
411 A層
413 B層
415 B層
417 B層
419 A層
421 A層
501 LCD
503 液晶セル
505 偏光子
507 検光子
509 偏光子の透過軸
511 検光子の透過軸
512 多層光学補償子
513 LCD
515 多層光学補償子
517 多層光学補償子
519 LCD
521 反射板
523 多層光学補償子
x方向における屈折率
y方向における屈折率
z方向における屈折率
Δnth 面外複屈折
Δnin 面内複屈折
d 層又はフィルムの厚み
th 面外レターデーション
in 面内レターデーション
λ 波長
Tg ガラス転移温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層以上のポリマーからなる第一層及び、1層以上のポリマーからなる第二層を有し、
前記第一層は、−0.005以上、+0.005以下の面外複屈折を示すポリマーを有し;
前記第二層は、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す非晶性ポリマーを有し;
全体の面内レターデーション(Rin)の大きさが、+20nmより正であり、かつ全体の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負であるか、又は+20nmより正であり、
前記第二層の非晶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、多層補償子のRthが−20nmより負である場合は、110℃≦Tg≦180℃であり、多層補償子のRthが+20nmより正である場合は、110℃≦Tg≦160℃である;
多層補償子。
【請求項2】
前記の層のうち少なくとも2つの層が隣接する、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項3】
前記第一層及び前記第二層の全てが隣接する、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項4】
前記複数の第二層を組み合わせた厚みが、30μm未満である、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項5】
前記複数の第二層を組み合わせた厚みが、1.0から30μmの範囲である、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項6】
前記複数の第二層を組み合わせた厚みが、1から8μmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項7】
全体の面内レターデーション(Rin)が、21から200nmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項8】
全体の面内レターデーション(Rin)が25から150nmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項9】
全体の面内レターデーション(Rin)が30から100nmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項10】
前記第一層と前記第二層とを組み合わせた厚みが200μm未満である、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項11】
前記第一層と前記第二層とを組み合わせた厚みが40から150μmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項12】
前記第一層と前記第二層とを組み合わせた厚みが60から110μmである、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項13】
面外レターデーション(Rth)が−20nmより負である、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項14】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、その主鎖に不可視発色団を有する、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項15】
前記非晶性ポリマーが、主鎖にぶら下がった脂環基を有する、請求項14記載の多層補償子。
【請求項16】
前記脂環基が、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン−5−イリデン、アダマンタン、あるいはこれらの脂環基の1つ以上の水素原子がフッ素置換されたもの、からなる群より選択される、請求項15記載の多層補償子。
【請求項17】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖に、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、チオフェン基、又はアゾ基のいずれかの不可視発色団を有する請求項13に記載の多層補償子。
【請求項18】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基又はアゾ基のいずれかの不可視発色団が主鎖にぶら下がった構造を有する、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項19】
前記第一層のうちの少なくとも1層が、セルロース系、アクリル系、若しくはオレフィン系ポリマー、又はフルオレン基を含有するポリアリレートを有する、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項20】
前記第二層うちの少なくとも1層が、レキサン(登録商標)131−112、マクロロン(登録商標)DPI−1265、アペック(登録商標)1803、パンライト(登録商標)AD503、ハイレックス(登録商標)、マクロロン(登録商標)5705、レキサン(登録商標)141−112、からなる群のいずれかを含む、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項21】
面外レターデーション(Rth)が+20nmより正である、請求項1に記載の多層補償子。
【請求項22】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖外に不可視発色団を有する、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項23】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖外に、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、アゾ基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チオフェン基、又はアゾ基を有する、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項24】
前記不可視発色団が、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、又はチオフェン基を含む、請求項22に記載の多層補償子。
【請求項25】
前記不可視発色団が、複素環芳香族基、又は炭素環芳香族基を含む、請求項22に記載の多層補償子。
【請求項26】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、スチレン、又はフェニル、ナフチル、若しくはその他のポリマー主鎖にぶら下がった不可視発色団を有するその他のビニル系モノマーを含む、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項27】
前記第一層のうちの1層以上のポリマーが、セルロース系、アクリル系、若しくはオレフィン系ポリマー、又はフルオレン基を含有するポリアリレートを有する、請求項26に記載の多層補子。
【請求項28】
前記第一層のうちの1層以上のポリマーが、トリアセチルセルロース、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリカーボネート、ノルボルネン基を含む環状ポリオレフィン、ポリスチレン、又はフルオレン基を含有するポリアリレートを有する、請求項27に記載の多層補償子。
【請求項29】
前記第二層のうちの少なくとも1層が、N−ビニルカルバゾールとスチレンの共重合体を含む、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項30】
液晶セルと、該セルの各面に一枚ずつ設置されている一対の交差偏光子と、少なくとも1つの請求項1記載の補償子と、を有する液晶ディスプレイ。
【請求項31】
前記液晶セルが、垂直配向セル、ツイステッド・ネマティックセル、インプレーンスイッチングモードセル、又は光学補償ベント液晶セルである、請求項30に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項32】
液晶セルと、少なくとも1枚の偏光子と、反射板と、少なくとも1つの請求項1記載の補償子と、を有する液晶ディスプレイ。
【請求項33】
ポリマーを有する1層以上からなる第一層上に、溶媒中に非晶性ポリマーを含有する1層以上の第二層をコーティング又は共流延する工程、及び
1層以上の前記第一層が、−0.005以上、0.005以下の面外(Δnth)複屈折を示すポリマーを有し;
1層以上の前記第二層の非晶性ポリマーが、−0.005より負であるか、又は+0.005より正である面外複屈折を示す非晶性ポリマーを有し;
前記多層補償子全体の面内レターデーション(Rin)が+20nmより正であり、全体の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負であるか、又は+20nmより正であり、さらに、
1層以上の前記第二層の非晶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、多層補償子のRthが−20nmより負である場合は、110℃≦Tg≦180℃であり、多層補償子のRthが+20nmより正である場合は、110℃≦Tg≦160℃である、との条件を満足するように、前記第一層と前記第二層を同時に延伸する工程、
を有する補償子の製造方法。
【請求項34】
前記第一層と前記第二層を同時に延伸する工程が、把具によって前記第一層と第二層の端部を保持するテンターによって前記第一層と第二層を幅方向に引き伸ばして、横方向の配向を誘起するものである、請求項33に記載の補償子の製造方法。
【請求項35】
前記第一層と前記第二層を同時に延伸する工程が、異なる周速に制御された2つの前後に配置された回転ロール間に、第一層と前記第二層を、固定端あるいは自由端で通すことによって機械方向の配向を誘起する工程を含む、請求項33に記載の補償子の製造方法。
【請求項36】
前記第一層及び第二層を、機械方向及び横方向に、同時又は逐次に延伸する、請求項33に記載の補償子の製造方法。
【請求項37】
前記延伸工程が、前記多層フィルムの少なくとも2辺を拘束する工程と、前記第一層、並びに第二層を加熱によって乾燥させる工程と、を有する、請求項33に記載の製造方法。
【請求項38】
さらに、前記第一層、及び第二層を乾燥させて、溶媒を実質的に除去する工程の後に、前記第一層、及び第二層を加熱後に延伸する工程を有する、請求項33に記載の製造方法。
【請求項39】
前記多層補償子の面外レターデーション(Rth)が−20nmより負である、請求項39に記載の製造方法。
【請求項40】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、その主鎖に不可視発色団を有する、請求項39に記載の製造方法。
【請求項41】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖にぶら下がった脂環基を有する、請求項40に記載の多層補償子。
【請求項42】
前記脂環基が、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン−5−イリデン、アダマンタン、あるいはこれらの脂環基の1つ以上の水素原子がフッ素置換されたもの、からなる群より選択される、請求項41に記載の多層補償子。
【請求項43】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖に、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、チオフェン基、又はアゾ基のいずれかの不可視発色団を有する、請求項39に記載の製造方法。
【請求項44】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基又はアゾ基のいずれかの不可視発色団が主鎖にぶら下がった構造を有する、請求項39に記載の製造方法。
【請求項45】
前記第一層のうちの少なくとも1層が、セルロース系、アクリル系、若しくはオレフィン系ポリマー、又はフルオレン基を含有するポリアリレートを有する、請求項44に記載の製造方法。
【請求項46】
前記第二層うちの少なくとも1層が、レキサン(登録商標)131−112、マクロロン(登録商標)DPI−1265、アペック(登録商標)1803、パンライト(登録商標)AD503、ハイレックス(登録商標)、マクロロン(登録商標)5705、レキサン(登録商標)141−112、からなる群のいずれかを含む、請求項394に記載の製造方法。
【請求項47】
前記多層補償子の面外レターデーション(Rth)が+20nmより正である、請求項33に記載の製造方法。
【請求項48】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖外に不可視発色団を有する、請求項47に記載の製造方法。
【請求項49】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖外に、ビニル基、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、芳香族基、スルホン基、アゾ基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、又はチオフェン基を有する、請求項48に記載の製造方法。
【請求項50】
前記不可視発色団が、カルボニル基、アミド基、イミド基、エステル基、カルボン酸基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ビスフェノール基、又はチオフェン基を含む、請求項48に記載の製造方法。
【請求項51】
前記不可視発色団が、複素環芳香族基、又は炭素環芳香族基を含む、請求項48に記載の製造方法。
【請求項52】
前記第二層のうちの1層以上の非晶性ポリマーが、主鎖にぶら下がった不可視発色団を有する、請求項48に記載の製造方法。
【請求項53】
前記第一層のうちの1層以上のポリマーが、セルロース系、アクリル系、若しくはオレフィン系ポリマー、又はフルオレン基を含有するポリアリレートを有する、請求項52に記載の製造方法。
【請求項54】
前記第二層のうちの少なくとも1層が、N−ビニルカルバゾールとスチレンの共重合体を含む、請求項47に記載の製造方法。
【請求項55】
液晶セルと、前記セルの各面に1枚ずつ設置されている1対の交差偏光子と、少なくとも1つの請求項33記載の製造方法によって製造された補償子と、を有する液晶ディスプレイ。
【請求項56】
前記液晶セルが、垂直配向セル、ツイステッド・ネマティックセル、インプレーンスイッチングモードセル、又は光学補償ベント液晶セルである、請求項55に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項57】
液晶セルと、少なくとも1枚の偏光子と、反射板と、少なくとも1つの請求項33に記載の製造方法によって製造された補償子と、を有する液晶ディスプレイ。
【請求項58】
前記液晶セルが、垂直配向セル、ツイステッド・ネマティックセル、インプレーンスイッチングモードセル、又は光学補償ベント液晶セルである、請求項57に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項59】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、145℃≦Tg≦180℃である、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項60】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、140℃≦Tg≦180℃である、請求項13に記載の多層補償子。
【請求項61】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、147℃≦Tg≦160℃である、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項62】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、142℃≦Tg≦160℃である、請求項21に記載の多層補償子。
【請求項63】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、145℃≦Tg≦180℃である、請求項39に記載の製造方法。
【請求項64】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、145℃≦Tg≦180℃である、請求項39に記載の製造方法。
【請求項65】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、147℃≦Tg≦160℃である、請求項47に記載の製造方法。
【請求項66】
前記第二層の非晶性ポリマーのTgが、142℃≦Tg≦160℃である、請求項47に記載の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2008−544317(P2008−544317A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517223(P2008−517223)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/023927
【国際公開番号】WO2007/002050
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】