説明

特徴量抽出装置、対象物検出システム、コンピュータプログラム及び特徴量抽出方法

【課題】対象物と非対象物との間の本質的な違いが表れる特徴量を的確に抽出することができる特徴量抽出装置、対象物検出システム、コンピュータプログラム及び特徴量抽出方法を提供する。
【解決手段】特徴量候補決定部102は、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定する。識別器生成部103は、決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成する。特徴量抽出部105は、識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画素のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出する特徴量抽出装置、該特徴量抽出装置を備える対象物検出システム、該特徴量抽出装置を実現するためのコンピュータプログラム及び特徴量抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品検査又は生体検査などの各種検査で用いられる技術の一つとして、近年、近赤外光のスペクトル情報を利用した分析技術が注目されている。近赤外光は可視光域に近い波長を有し、分析対象物に対して非破壊・非侵襲な組成分析を可能にすることから、食品、医療、工業などの様々な分野で近赤外光を応用したオブジェクト検知システムの研究がなされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、近赤外スペクトル情報を分析する技術としては、多変量解析、あるいはデータマイニングなどのパターン認識技術が用いられることが多い。これらの手法は、大量のサンプルデータの学習を通して、対象物に対する識別基準又は検量線を生成するものである。
【0004】
また、近赤外スペクトル情報の表現方法の一つとして、近赤外マルチスペクトル画像(以下、「NIRMS画像」とも称する)がある。NIRMS画像は、画素毎に複数波長の近赤外スペクトル情報(強度あるいは吸光度など)を含む画像であり、NIRMS画像を用いることにより、物体が有する組成情報に基づいて画像処理技術を応用した分析を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】竹本菊郎、関 壽、牧内 正男、高橋 秀夫、「生体・環 境計測へ向けた近赤外光センシング技術」、サイエンスフォーラム社、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高性能なオブジェクト検知システムを実現するためには、オブジェクト(対象物)と非オブジェクト(非対象物)との間の本質的な違いが表れる特徴量を的確に抽出することが重要である。利用する特徴量が不十分である場合、識別に必要な情報が不足することになり、所望の識別精度を得ることができない。一方で、必要以上に多数の特徴量を利用した場合には、識別処理の計算量を増加させるだけでなく、学習サンプルへの過適合による識別器の精度低下を招くおそれもある。そして、対象物の識別に有意な特徴量を過不足なく的確に抽出するためには、対象物に対する専門的な知識、あるいは大量の地道な分析作業を必要とした。このことは、精度の高いオブジェクト検知システムの構築が容易ではないことを示している。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、対象物(オブジェクト)と非対象物(非オブジェクト)との間の本質的な違いが表れる特徴量を的確に抽出することができる特徴量抽出装置、該特徴量抽出装置を備える対象物検出システム、該特徴量抽出装置を実現するためのコンピュータプログラム及び特徴量抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る特徴量抽出装置は、複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出する特徴量抽出装置において、対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定する決定手段と、該決定手段で決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成する生成手段と、前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出する抽出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る特徴量抽出装置は、第1発明において、前記決定手段は、近赤外波長の範囲でスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を決定するように構成してあることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る特徴量抽出装置は、第1発明又は第2発明において、各サンプル画素に任意の数値を付与する付与手段を備え、前記生成手段は、対象物又は非対象物であると正しく識別したサンプル画素の数値の合計が最大となるように識別器を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る特徴量抽出装置は、第3発明において、前記付与手段は、一の特徴量候補に対して前記生成手段が生成した識別器で対象物又は非対象物であると誤って識別したサンプル画素の数値を大きくするようにしてあり、前記生成手段は、次の特徴量候補に対して識別器を生成する場合、数値を大きくしたサンプル画素を用いて識別器を生成するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第5発明に係る対象物検出システムは、前述の発明のいずれか1つに係る特徴量抽出装置と、該特徴量抽出装置で抽出した特徴量を特徴ベクトルとして用いたサポートベクターマシンを有する対象物検出装置とを備えることを特徴とする。
【0013】
第6発明に係る対象物検出システムは、前述の発明のいずれか1つに係る特徴量抽出装置と、該特徴量抽出装置で生成した識別器を弱識別器として結合した強識別器を有する対象物検出装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
第7発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定するステップと、決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成するステップと、前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出するステップとを実行させることを特徴とする。
【0015】
第8発明に係る特徴量抽出方法は、複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出する特徴量抽出装置による特徴量抽出方法おいて、対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定するステップと、決定された特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成するステップと、前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出するステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
第1発明、第7発明及び第8発明にあっては、決定手段は、対象物(オブジェクト)及び非対象物(非オブジェクト)を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定する。画像は、画素毎に複数波長のスペクトル強度を示すスペクトル情報を含む。なお、強度の代わりに吸光度でもよい。特徴量候補は、例えば、任意のサンプル画素の2つの異なる波長λ1、λ2でのスペクトル強度をP(λ1)、P(λ2)とすると、特徴量候補x1をスペクトル強度の差として、x1=P(λ1)−P(λ2)とすることができる。例えば、異なる波長がλ1、λ2、…、λ256のように256個に区分されている場合、256個の中から2個選び出す組み合わせは、32640通り存在するので、特徴量候補は、各サンプル画素について32640個存在する。なお、決定する特徴量候補は、存在する特徴量候補をすべて含めてもよく、あるいは対象物に応じて、一部の特徴量候補を決定することもできる。
【0017】
生成手段は、決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成し、抽出手段は、当該識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出する。ブースティングとは、例えば、2種類の対象(オブジェクト及び非オブジェクト)のサンプル学習を通じて、オブジェクト及び非オブジェクトを区別する識別器を生成する手法の一つである。決定した特徴量候補の中から一の特徴量候補を選択し、予めオブジェクトであるか非オブジェクトであるかが判明しているサンプル画素を識別する識別器(サンプル画素を区別するための境界)を構成し、その中で最も正しく識別することができた識別器(サンプル画素を区別するための境界)を生成する。他の特徴量候補についても同様に識別器を生成する。そして、識別器を生成したときの特徴量候補を特徴量として抽出する。
【0018】
サンプル学習の過程で識別器を生成した際に用いた特徴量候補を特徴量として抽出することにより、オブジェクトと非オブジェクトとを識別することができる特徴量、すなわちオブジェクトと非オブジェクトとの間の本質的な違いが表れる特徴量を、決定された多数の特徴量候補の中から的確に抽出することができる。
【0019】
第2発明にあっては、決定手段は、近赤外波長の範囲でスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を決定する。例えば、近赤外に対して感度を有するカメラでオブジェクト及び非オブジェクトを撮像して得られた近赤外マルチスペクトル画像(NIRMS画像)から、予めオブジェクト及び非オブジェクトが判明しているサンプル画素を収集する。そして、収集したサンプル画素から特徴量候補を決定する。近赤外光のスペクトル情報を利用した分析対象の解析(例えば、オブジェクトと非オブジェクトとの識別)の場合、分析対象によってはスペクトル強度の分布が複雑な形状となり、多変量解析又はデータマイニングなどの認識技術を用いる場合、従来であれば試行錯誤で特徴量を抽出する必要があった。波長分布が複雑な場合でも、多数の特徴量候補の中からオブジェクトと非オブジェクトとの識別に最適な特徴量を過不足なく抽出することができ、識別に必要な情報が不足することを防止することができるとともに、必要以上に多数の特徴量を利用する事態も防止することができる。
【0020】
第3発明にあっては、付与手段は、各サンプル画素に任意の数値(係数、重み付け等)を付与し、生成手段は、対象物又は非対象物であると正しく識別したサンプル画素の数値の合計が最大となるように識別器を生成する。これにより、サンプル画素を最も正しく識別することができる識別器(特徴量候補での境界)を生成することができる。
【0021】
第4発明にあっては、付与手段は、一の特徴量候補に対して生成手段が生成した識別器で対象物又は非対象物であると誤って識別したサンプル画素の数値を大きくする。生成手段は、次の特徴量候補に対して識別器を生成する場合、数値を大きくしたサンプル画素を用いて識別器を生成する。ある特徴量候補に対する識別器を生成する場合に、当該識別器で識別した結果、誤って識別されたサンプル画素の数値を大きくして、次の特徴量候補に対して識別器を生成するので、例えば、t番目に生成した識別器で正しく認識することができなかったサンプル画素が、次のt+1番目の識別器を生成する際に、数値が大きいことから重点的に学習されることになり、オブジェクトと非オブジェクトの識別に有意かつスペクトル強度の分布が相違する特徴量の組み合わせを可能な限り少なくすることができ、対象分析に必要な特徴量を過不足なく、かつ自動的に抽出することができる。
【0022】
第5発明にあっては、特徴量抽出装置と、当該特徴量抽出装置で抽出した特徴量を特徴ベクトルとして用いたサポートベクターマシンを有する対象物検出装置とを備える。これにより、オブジェクトと非オブジェクトとの識別を高精度に行うことができ、従来であれば分析対象に対する専門的知識の習得、あるいは分析作業に多大な労力を必要としていたのに対し、分析作業の簡素化、分析対象の拡大を行うことができる。
【0023】
第6発明にあっては、特徴量抽出装置と、当該特徴量抽出装置で生成した識別器を弱識別器として結合した強識別器を有する対象物検出装置とを備える。これにより、オブジェクトと非オブジェクトとの識別を高精度に行うことができ、従来であれば分析対象に対する専門的知識の習得、あるいは分析作業に多大な労力を必要としていたのに対し、分析作業の簡素化、分析対象の拡大を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オブジェクトと非オブジェクトとの間の本質的な違いが表れる特徴量を、決定された多数の特徴量候補の中から的確に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態の対象物検出システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】NIRMS画像の一例を示す模式図である。
【図3】特徴量候補の一例を示す模式図である。
【図4】特徴量候補の他の例を示す模式図である。
【図5】識別器の生成の一例を示す模式図である。
【図6】識別器を生成する際のサンプル画素の係数の一例を示す模式図である。
【図7】本実施の形態の特徴量抽出装置による特徴量抽出処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態と比較例との検出結果を示す説明図である。
【図9】本実施の形態と比較例との処理結果画像の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態の対象物検出システム1の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態の対象物検出システム1は、特徴量抽出装置10、対象物検出装置20などを備える。なお、対象物検出システム1は、NIRMS画像(近赤外マルチスペクトル画像)取得部2を備える構成でもよく、具備しない構成でもよい。
【0027】
NIRMS画像取得部2は、例えば、近赤外に対して感度を有するカメラである。NIRMS画像は、画像を構成する画素毎に、複数波長に対するスペクトル情報(例えば、強度、吸光度など)を有する。
【0028】
図2はNIRMS画像の一例を示す模式図である。図2に示すように、NIRMS画像は、各画素の中に、特定の波長範囲内で離散的にプロットされたスペクトル情報(例えば、強度、吸光度など)が記録されたものである。
【0029】
本実施の形態において、対象物(オブジェクトとも称する)は、食品検査又は生体検査などの各種検査において、検出(検知)する対象であり、非対象物(非オブジェクトとも称する)は、対象物以外のものであって、対象物とは区別(識別)されるものである。
【0030】
NIRMS画像取得部2は、学習処理においては、予めオブジェクト及び非オブジェクトが判明している撮像対象を撮像し、学習サンプルとしてのNIRMS画像を生成し、生成したNIRMS画像を特徴量抽出装置10へ出力する。学習処理は、オフラインで行うことができる。
【0031】
また、NIRMS画像取得部2は、検出処理においては、被検査対象を撮像してNIRMS画像を生成し、生成したNIRMS画像を対象物検出装置20へ出力する。検出処理はオンラインで行う。
【0032】
次に、学習処理に係る構成について説明する。図1に示すように、本実施の形態の特徴量抽出装置10は、サンプル画素収集部101、特徴量候補決定部102、識別器生成部103、係数付与部104、特徴量抽出部105などを備える。
【0033】
サンプル画素収集部101は、NIRMS画像の中から、学習処理(特徴量の抽出処理を含む)に用いるサンプル画素を収集する。例えば、オブジェクト(対象物)のサンプル画素、非オブジェクト(非対象物)のサンプル画素を合計N個収集する。
【0034】
特徴量候補決定部102は、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定する決定手段としての機能を有する。なお、スペクトル強度に代えて、吸光度のスペクトルでもよい。
【0035】
図3は特徴量候補の一例を示す模式図である。図3において、横軸は波長を示し、縦軸はスペクトル強度を示す。図3のグラフは、NIRMS画像の中の任意のサンプル画素(例えば、オブジェクトの画素でもよく、非オブジェクトの画素でもよい)の波長毎のスペクトル強度を示す。特徴量候補は、例えば、2つの異なる波長λ1、λ2でのスペクトル強度をP(λ1)、P(λ2)とすると、特徴量候補x1をスペクトル強度の差として、x1=P(λ1)−P(λ2)とすることができる。
【0036】
例えば、異なる波長がλ1、λ2、…、λ256のように256個に区分されている場合、256個の中から2個選び出す組み合わせMは、M=32640通り存在するので、特徴量候補は、各サンプル画素について32640個存在する。したがって、特徴量候補は、それぞれのサンプル画素毎に、M次元ベクトルX=(x1、x2、…xM)で表すことができる。なお、決定する特徴量候補は、存在する特徴量候補をすべて含めてもよく(上述の例ではM個の特徴量)、あるいは対象物に応じて、一部の特徴量候補(M個の一部)を決定することもできる。
【0037】
図4は特徴量候補の他の例を示す模式図である。図3の例では、任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補として、2つの異なる波長でのスペクトル強度の差分を特徴量候補としたが、特徴量候補は、図3の例に限定されるものではない。
【0038】
図4において、横軸は波長を示し、縦軸はスペクトル強度を示す。図4に示すように、異なる波長として、λ1、λ2、λ3の3つの波長に注目し、それぞれの波長でのスペクトル強度をP1、P2、P3とすると、特徴量候補xとして、x=(P3−P2)−(P2−P1)=P3−2×P2+P1を用いる。図4に例示する特徴量候補は、スペクトル強度の分布において、強度の極大点(又は極小点)近傍の強度の変化の度合い(曲線上の曲り具合)を特徴として捉えるものである。なお、以下の説明では、図3に例示の特徴量候補を採用する。
【0039】
識別器生成部103は、決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成する生成手段としての機能を有する。ブースティングとは、例えば、2種類の対象(オブジェクト及び非オブジェクト)のサンプル学習を通じて、オブジェクト及び非オブジェクトを区別する識別器を生成する手法の一つである。なお、ブースティングには、例えば、AdaBoost、Real-AdaBoost、LogitBoost、Gentle-AdaBoostなどを用いることができる。
【0040】
図5は識別器の生成の一例を示す模式図である。上述の例では、決定された特徴量候補は、x1、x2、…、xM(M=32640)で表すことができ、M次元ベクトルとして表現することができる。図5は、M次元の空間の代わりに、便宜上、xi及びxjの2つの特徴量候補で表される2次元空間を表したものである。N個のサンプル画素は、この2次元空間(実際にはM次元空間)に存在する。なお、サンプル画素のうち、符号Oで示すサンプル画素は、対象物(オブジェクト)の画素であり、符号×で示すサンプル画素は、非対象物(非オブジェクト)の画素であるとする。
【0041】
識別器生成部103は、決定されたM個の特徴量候補の中から、任意の一の特徴量候補(例えば、xiとする)を選択し、予めオブジェクトであるか非オブジェクトであるかが判明しているサンプル画素を識別する識別器(サンプル画素を区別するための境界)を構成し、その中で最も正しく識別することができた識別器(サンプル画素を区別するための境界)htを生成する。
【0042】
すなわち、図5に示すように、M次元空間(図5の例では簡略化のため2次元空間で表す)での各サンプルを特徴量候補xi(M次元空間の1つの軸に相当)へ写像し、特徴量候補xi(軸xi)上で、正しく識別することができたサンプル画素の数が最大となるときの軸xi上での境界を識別器htとして生成する。
【0043】
特徴量抽出部105は、識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出する抽出手段としての機能を有する。図5の例では、特徴量抽出部105は、識別器Htを生成したときに用いた特徴量候補xiを特徴量として抽出する。
【0044】
識別器生成部103は、他の特徴量候補についても同様に識別器を生成し、特徴量抽出部105は、識別器が生成されるときに用いた特徴量候補を特徴量として抽出する。なお、生成される識別器の数Tは、例えば、10〜100程度であるので、抽出する特徴量の数は、決定された特徴量候補の数Mに比べて極めて少なくすることができる。
【0045】
サンプル学習の過程で識別器を生成した際に用いた特徴量候補を特徴量として抽出することにより、オブジェクトと非オブジェクトとを識別することができる特徴量、すなわちオブジェクトと非オブジェクトとの間の本質的な違いが表れる特徴量を、決定された多数の特徴量候補の中から的確に抽出することができる。
【0046】
本実施の形態では、NIRMS画像を取得し、予めオブジェクト及び非オブジェクトが判明しているサンプル画素を収集する。そして、収集したサンプル画素から、近赤外波長の範囲でスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を決定する。近赤外光のスペクトル情報を利用した分析対象の解析(例えば、オブジェクトと非オブジェクトとの識別)の場合、分析対象によってはスペクトル強度の分布が複雑な形状となり、多変量解析又はデータマイニングなどの認識技術を用いる場合、従来であれば試行錯誤で特徴量を抽出する必要があった。本実施の形態では、波長分布が複雑な場合でも、多数の特徴量候補の中からオブジェクトと非オブジェクトとの識別に最適な特徴量を過不足なく抽出することができ、識別に必要な情報が不足することを防止することができるとともに、必要以上に多数の特徴量を利用する事態も防止することができる。
【0047】
一の特徴量候補に対して、識別器(境界)を生成する場合に、各サンプル画素に係数を付与することもできる。なお、本実施の形態では、係数とは、数値、重み付け数などを意味するものとする。係数付与部104は、各サンプル画素に任意の係数を付与する。そして、識別器生成部103は、オブジェクト又は非オブジェクトであると正しく識別したサンプル画素の係数の合計が最大となるように識別器を生成する。これにより、サンプル画素を最も正しく識別することができる識別器(特徴量候補での境界)を生成することができる。
【0048】
図6は識別器を生成する際のサンプル画素の係数の一例を示す模式図である。係数付与部104は、N個のサンプル画素(学習サンプル)に対して係数wi(i=1、2、…、N)を付与する。係数wiは、初期値としては、例えば、1/Nとすることができる。一の特徴量候補xiに対して識別器htを生成したとする。識別器htで正しく識別することができたサンプル画素に対しては、係数を小さくする。また、識別器htで誤って識別したサンプル画素に対しては、係数を大きくする。
【0049】
図6の例において、識別器(境界)htが、境界の右側で対象物(オブジェクト)であると正しく識別することができ、境界の左側で非対象物(非オブジェクト)であると正しく識別することができたとする。この場合、境界の右側の対象物のサンプル画素Oは正しく識別することができたので係数を小さくし、非対象物のサンプル画素×は誤って識別したので係数を大きくする。また、境界の左側の対象物のサンプル画素Oは誤って識別したので係数を大きくし、非対象物のサンプル画素×は正しく識別することができたので係数を小さくする。
【0050】
識別器生成部103は、次の特徴量候補に対して識別器を生成する場合、係数を大きく(又は小さく)したサンプル画素を用いて識別器を生成する。ある特徴量候補に対する識別器を生成する場合に、当該識別器で識別した結果、誤って識別されたサンプル画素の係数を大きくして、次の特徴量候補に対して識別器を生成するので、例えば、t番目に生成した識別器で正しく認識することができなかったサンプル画素が、次のt+1番目の識別器を生成する際に、係数が大きいことから重点的に学習されることになり、オブジェクトと非オブジェクトの識別に有意かつスペクトル強度の分布が相違する特徴量の組み合わせを可能な限り少なくすることができ、対象分析に必要な特徴量を過不足なく、かつ自動的に抽出することができる。
【0051】
図7は本実施の形態の特徴量抽出装置10による特徴量抽出処理の手順を示すフローチャートである。特徴量抽出装置10(以下、「装置10」と称する)は、サンプル画素を取得し(S11)、サンプル画素に係数を設定(付与)する(S12)。なお、設定する係数は初期値(例えば、サンプル画素数をNとすると、1/N)である。
【0052】
装置10は、反復回数Tを設定する(S13)。なお、反復回数Tは、最終的に抽出される特徴量の数となる。装置10は、例えば、M個の特徴量候補を決定し(S14)、決定した特徴量候補の中から一の特徴量候補を選択する(S15)。
【0053】
装置10は、選択した特徴量候補に対してサンプル画素の学習を通じて識別器を構成し、その中で正しく識別したサンプル画素の係数の合計が最大となる識別器(特徴量候補でも境界)を生成する(S16)。
【0054】
装置10は、生成した識別器で正しく識別したサンプル画素の係数を小さくし(S17)、生成した識別器で誤って識別したサンプル画素の係数を大きくする(S18)。装置10は、反復回数Tになったか否かを判定し(S19)、反復回数Tになっていない場合(S19でNO)、次の特徴量候補を選択し(S20)、ステップS16以降の処理を繰り返す。
【0055】
反復回数Tになった場合(S19でYES)、装置10は、選択した特徴量候補を特徴量として抽出し(S21)、処理を終了する。本実施の形態の特徴量抽出処理により、大量(例えば、M=32640個)の特徴量候補の中からT個(例えば、10〜100程度)の特徴量を自動的に抽出することができ、かつ抽出したT個の特徴量は、オブジェクト(対象物)と非オブジェクト(非対象物)との間の本質的な違いが表れるものである。
【0056】
本実施の形態の特徴量抽出装置10は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図7に示すような処理手順を定めたコンピュータプログラムをCD、DVD、USBメモリ等のコンピュータプログラム記録媒体に記録しておき、当該コンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPUで実行することにより、コンピュータ上で特徴量抽出装置10を実現することができる。
【0057】
次に、検出処理に係る構成について説明する。図1に示すように、本実施の形態の対象物検出装置20は、識別処理部201などを備える。識別処理部201は、特徴量抽出装置10で抽出した特徴量を特徴ベクトルとして用いたサポートベクターマシンを備える。例えば、抽出したT個の特徴量を有する特徴ベクトルZ=(xt1、xt2、…、xtT)で表されるT次元のベクトル空間で識別器F(Z)を構成し、F(Z)>0であれば、Zはオブジェクト(対象物)であり、F(Z)≦0であれば、Zは非オブジェクト(非対象物)であると判定することができる。なお、F(Z)は、例えば、W・Z+bと表すことができ、Wはベクトル空間での境界(識別器)を表すベクトルであり、W・Zはベクトルの内積である。また、bは適宜設定可能な定数である。
【0058】
これにより、オブジェクトと非オブジェクトとの識別を高精度に行うことができ、従来であれば分析対象に対する専門的知識の習得、あるいは分析作業に多大な労力を必要としていたのに対し、分析作業の簡素化、分析対象の拡大を行うことができる。なお、識別器の構成手順としては、サポートベクターマシン(SVM)に代えて判別分析(LDA)などのパターン認識技術を用いることができる。
【0059】
また、識別処理部201は、SVM等に代えて、特徴量抽出装置10で生成した識別器を弱識別器として結合した強識別器を備えることもできる。例えば、特徴量抽出装置10で生成した識別器をh1、h2、…、hTとすると、強識別器Hは、H=h1+h2+…+hTとすることができる。なお、識別器hに所望の係数を乗算してもよい。
【0060】
これにより、オブジェクトと非オブジェクトとの識別を高精度に行うことができ、従来であれば分析対象に対する専門的知識の習得、あるいは分析作業に多大な労力を必要としていたのに対し、分析作業の簡素化、分析対象の拡大を行うことができる。
【0061】
次に、本実施の形態の対象物検出システムを食品加工ラインに混入した毛髪を異物(対象物、オブジェクト)として検出した検出結果について説明する。なお、以下の説明では、本実施の形態によるブースティングを用いて特徴量を抽出し、抽出した特徴量を用いた検出方式Aと、比較例として試行錯誤で(人の知見に基づいて)選択した特徴量を用いた検出方式Bについて説明する。
【0062】
基本的な設定として、近赤外カメラで食品加工ラインを撮像したNIRMS画像を187枚用意する。このうち、オブジェクトである毛髪が映っている画像が46枚あり、残りの141枚には毛髪が映っていない。また、NIRMS画像には、各画素に対して、1.0μm〜2.5μmの波長範囲を約6nmの間隔で離散的にプロットした256個の近赤外スペクトル強度が格納されている。
【0063】
オブジェクトを「毛髪が映っている画素」、非オブジェクトを「毛髪が映っていない画素」とする。そして、サンプル画素として、12枚のNIRMS画像から、オブジェクトを8706個収集し、非オブジェクトを32690個収集した。すなわち、サンプル画素の総数は、41396個である。また、特徴量候補は、相異なる2つの波長の間のスペクトル強度の差分値を考え、考え得る特徴量候補(すなわち決定する特徴量候補)は、32640通り存在する。
【0064】
本実施の形態の検出方式Aは、32640通りの特徴量候補の中から、ブースティングを用いて44個の特徴量を抽出した。特徴量を抽出する際に用いたサンプル画素は、8706個のオブジェクトと、32690個の非オブジェクトである。また、識別処理は、まず線形SVMでNIRMS画像の全画素に対して識別を実施し、次に、線形SVMでオブジェクト(毛髪画素)と判定された画素に対してのみ非線形SVMで識別を実施した。
【0065】
一方、比較例(従来)の検出方式Bは、32640通りの特徴量候補の中から、人の知見に基づいて選択した44個の特徴量を抽出した。学習サンプル画素は、検出方式Aと同様に、8706個のオブジェクトと、32690個の非オブジェクトである。また、識別処理も、検出方式Aと同様に、まず線形SVMでNIRMS画像の全画素に対して識別を実施し、次に、線形SVMでオブジェクト(毛髪画素)と判定された画素に対してのみ非線形SVMで識別を実施した。
【0066】
サンプル画素(学習サンプル)として用いていない34枚の画像には、304本の毛髪が存在しており、304本中何本の毛髪を検出できたかによって検出率を求める。ただし、毛髪が存在する位置に3画素以上連結してオブジェクトであると識別された画素が存在するという条件が満たされた場合に、当該毛髪を検出できたと判定する。また、毛髪の映っていない141枚のNIRMS画像の全画素に対して、いくつの画素を毛髪として識別したかによって誤検出率を求めた。また、処理速度は、1つの画素を識別するのに要した時間の平均値である。
【0067】
図8は本実施の形態と比較例との検出結果を示す説明図である。図8に示すように、検出率、誤検出率及び処理速度のすべての面で比較例(検出方式B)に比べて本実施の形態(検出方式A)の方が優れているのが分かる。
【0068】
図9は本実施の形態と比較例との処理結果画像の一例を示す模式図である。図9において、細い線分が毛髪を表し、点は誤検出したノイズを表す。図9に示すように、比較例(検出方式B)に比べて本実施の形態(検出方式A)の方が毛髪の形状(軌跡)が一層明瞭、鮮明になっていることが分かる。また、誤検出したノイズも比較例(検出方式B)に比べて本実施の形態(検出方式A)の方が減少していることが分かる。
【0069】
従来、対象の識別に有意な特徴量を必要な数だけ的確に選択するためには、オブジェクトに関する専門的な知識を必要とし、また、大量な地道な分析作業を必要としていたのに対して、本実施の形態によれば、オブジェクトと非オブジェクトとを識別するのに有意な特徴量を自動的かつ的確に過不足なく抽出することができ、オブジェクト検出システムの構成を容易に行うことができる。すなわち、特徴量の自動抽出による識別処理の高性能化(高精度化、高速化)を可能とする。また、オブジェクト検出システムの実現に必要な専門知識の習得、あるいは分析作業の負荷を軽減することができる。さらに、オブジェクト検出システムの構成、構築を容易に行うことができる。
【0070】
上述の実施の形態では、近赤外光のスペクトル情報を用いる構成であったが、近赤外光に限定されるものではなく、可視光のスペクトル情報を用いることもできる。
【0071】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
2 NIRMS画像取得部
10 特徴量抽出装置
101 サンプル画素収集部
102 特徴量候補決定部
103 識別器生成部
104 係数付与部
105 特徴量抽出部
20 対象物検出装置
201 識別処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出する特徴量抽出装置において、
対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定する決定手段と、
該決定手段で決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成する生成手段と、
前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出する抽出手段と
を備えることを特徴とする特徴量抽出装置。
【請求項2】
前記決定手段は、
近赤外波長の範囲でスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を決定するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の特徴量抽出装置。
【請求項3】
各サンプル画素に任意の数値を付与する付与手段を備え、
前記生成手段は、
対象物又は非対象物であると正しく識別したサンプル画素の数値の合計が最大となるように識別器を生成するように構成してあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の特徴量抽出装置。
【請求項4】
前記付与手段は、
一の特徴量候補に対して前記生成手段が生成した識別器で対象物又は非対象物であると誤って識別したサンプル画素の数値を大きくするようにしてあり、
前記生成手段は、
次の特徴量候補に対して識別器を生成する場合、数値を大きくしたサンプル画素を用いて識別器を生成するように構成してあることを特徴とする請求項3に記載の特徴量抽出装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の特徴量抽出装置と、該特徴量抽出装置で抽出した特徴量を特徴ベクトルとして用いたサポートベクターマシンを有する対象物検出装置とを備えることを特徴とする対象物検出システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の特徴量抽出装置と、該特徴量抽出装置で生成した識別器を弱識別器として結合した強識別器を有する対象物検出装置とを備えることを特徴とする対象物検出システム。
【請求項7】
コンピュータに、複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出させるためのコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、
対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定するステップと、
決定した特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成するステップと、
前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出するステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
複数画素からなる画像に含まれる画素毎に複数波長のスペクトル情報を含む画像データに基づいて対象物を識別するための特徴量を抽出する特徴量抽出装置による特徴量抽出方法おいて、
対象物及び非対象物を撮像した画像から抽出した複数のサンプル画素から、各サンプル画素の任意の複数の波長でのスペクトル強度の変位に関連する特徴量候補を複数決定するステップと、
決定された特徴量候補の中の一部の特徴量候補毎にブースティングを用いて対象物及び非対象物を識別するための識別器を生成するステップと、
前記識別器を生成するために用いた特徴量候補を特徴量として抽出するステップと
を含むことを特徴とする特徴量抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58162(P2013−58162A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197433(P2011−197433)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】