説明

狭指向性コンデンサマイクロホン

【課題】音響管の大径化を伴うことなく、音響管の後端部側に有効振動板面積の大きなコンデンサマイクロホンユニットを配置して高感度が得られるようにする。
【解決手段】音響管10の後端側に、振動板と固定極とをスペーサを介して対向的に配置してなる単一指向性のコンデンサマイクロホンユニットが配置されている狭指向性コンデンサマイクロホンにおいて、コンデンサマイクロホンユニット20R,20Lの2つを、それらの振動板側を互いに平行として対向させて組み合わせてなるユニット対組立体20を備え、音響管10の管軸Xを中心として各コンデンサマイクロホンユニット20R,20Lが対称配置となるように、音響管10の後端側にユニット対組立体20を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響管を有する狭指向性コンデンサマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、有効振動板面積を大きくして高感度が得られるようにした狭指向性コンデンサマイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響管を有する狭指向性コンデンサマイクロホンは、その形態からして、ラインマイクロホンもしくはガンマイクロホンとも呼ばれ、従来においては、円筒状の音響管内に、同じく円筒状のコンデンサマイクロホンユニットを収納するようにしている。
【0003】
すなわち、音響管の管軸(指向軸もしくは収音軸)に対してコンデンサマイクロホンユニットに含まれている振動板を垂直として配置するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の狭指向性コンデンサマイクロホンにおいて、特に遠方の音源を収音する目的で使用されるときには、音源からの音波が弱いことから、マイクロホンの自己雑音が小さいことが求められる。
【0005】
そのためには、コンデンサマイクロホンユニットに含まれている振動板の有効振動板面積を大きくすればよいことが知られているが、上記従来例のような構造によると、コンデンサマイクロホンユニットの口径が音響管の内径の制約を受けるため、その振動板の有効振動板面積を大きくするにも限界がある。
【0006】
なお、内径の大きな音響管を用いれば、それに合わせて口径の大きなユニットを採用することができるが、音響管が太くなるため、見栄えがよくないばかりでなく、重量も増えるので好ましくない。
【0007】
振動板の有効振動板面積を大きくする手法の一つとして、特許文献2には、振動板を角型(長方形状)とすることが記載されている。本明細書において、角型の振動板を有するコンデンサマイクロホンユニットを角型ユニットと言うことがある。
【0008】
このほか、角型ユニットを用いたマイクロホンとして、特許文献3には、角型ユニットを3個使用して狭指向性マイクロホンとすることが記載されている。また、特許文献4には、角型ユニットを2個有するダブルカプセルマイクロホンが記載されている。
【0009】
このように、角型ユニットを用いたマイクロホンが種々提案されているが、そのいずれも角型ユニットに合わせた特種な形態をなし、円筒状の音響管内に角型ユニットを組み込むと言った試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2562295号公報
【特許文献2】特許第3325913号公報
【特許文献3】特許第4383242号公報
【特許文献4】特開2002−78062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、音響管を有する狭指向性コンデンサマイクロホンにおいて、音響管の大径化を伴うことなく、音響管の後端部側に有効振動板面積の大きなコンデンサマイクロホンユニットを配置して高感度が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、音響管の後端側に、振動板と固定極とをスペーサを介して対向的に配置してなる単一指向性のコンデンサマイクロホンユニットが配置されている狭指向性コンデンサマイクロホンにおいて、上記コンデンサマイクロホンユニットの2つを、それらの振動板側を互いに平行として対向させて組み合わせてなるユニット対組立体を備え、上記音響管の管軸を中心として上記各コンデンサマイクロホンユニットが対称配置となるように、上記音響管の後端側に上記ユニット対組立体が配置されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の好ましい態様によると、上記ユニット対組立体に含まれる上記各コンデンサマイクロホンユニットの振動板および固定極が、上記音響管の管軸に沿った辺を長辺とする長方形状に形成されている。すなわち、上記各コンデンサマイクロホンユニットに角型ユニットが用いられる。
【0014】
本発明において、上記ユニット対組立体に含まれる上記各コンデンサマイクロホンユニットの出力が並列接続としてインピーダンス変換器に接続されることが好ましい。
【0015】
本発明には、上記ユニット対組立体を複数備える態様も含まれる。この場合においても、上記各ユニット対組立体の一方の側のコンデンサマイクロホンユニットの各出力を直列接続とした第1出力と、他方の側のコンデンサマイクロホンユニットの各出力を直列接続とした第2出力とが並列接続としてインピーダンス変換器に接続されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単一指向性のコンデンサマイクロホンユニットの2つを、それらの振動板側を互いに平行として対向させて組み合わせてユニット対組立体とし、このユニット対組立体を、音響管の管軸を中心として各コンデンサマイクロホンユニットが対称配置となるように音響管の後端側に配置したことにより、音響管の大径化を伴うことなく、有効振動板面積の大きなコンデンサマイクロホンユニット(好ましくは、角型ユニット)を使用することができ、高感度化がはかられる。
【0017】
また、ユニット対組立体に含まれる各コンデンサマイクロホンユニットの出力を並列接続としてインピーダンス変換器に接続することにより、タッチノイズやハンドリングノイズと言った振動雑音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る狭指向性コンデンサマイクロホンの内部構造を示す正面視断面図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】図1のユニット対組立体を示す拡大断面図。
【図4】図3のB−B線矢視図。
【図5】図3の分解断面図。
【図6】ユニット対組立体の接続配線の一例を示す模式図。
【図7】ユニット対組立体の接続配線の他の例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1ないし図7を参照して、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
まず、図1,図2を参照して、この狭指向性コンデンサマイクロホンは、基本的な構成として、円筒状に形成された音響管10と、ユニット対組立体20と、マイクロホンケース30とを備えている。
【0021】
音響管10は、金属もしくは合成樹脂材から形成されてよく、その周面の一部分に干渉用の音波導入孔11が設けられている。音波導入孔11は、通常の形態と同じく、音響管10の周面の180゜対向する位置において管軸X方向に沿って形成されてよい。管軸Xとは、音響管10の中心軸線で、収音軸もしくは指向軸でもある。
【0022】
ユニット対組立体20は、後述するように単一指向性コンデンサマイクロホンユニット(以下、単に「マイクロホンユニット」と言うことがある。)を2個含み、音響管10の後端側(図1,図2において下端側)に配置される。
【0023】
マイクロホンケース30は、音響管10およびユニット対組立体20をカバーする長尺の円筒管で、収音時に音源側に向けられる先端側(図1,図2において上端側)30aには防塵用のガードネット31が設けられている。
【0024】
マイクロホンケース30は、ユニット対組立体20よりもさらに後方に延びており、その後端側30bの内部には、3ピン型の出力コネクタ34が装着されている。マイクロホンケース30内におけるユニット対組立体20と出力コネクタ34との間に回路基板35が配置される。
【0025】
図示しないが、回路基板35にはインピーダンス変換器や音声信号出力回路等が実装されている。インピーダンス変換器には、通常の形態と同じく、FET(電界効果トランジスタ)が用いられる。
【0026】
マイクロホンケース30の周面には、その先端30a側からユニット対組立体20の収納部分にかけて音波透孔としての開口32が設けられている。この実施形態において、開口32は、マイクロホンケース30の軸線と直交する矩形孔として、その複数個がマイクロホンケース30の軸線方向に所定の間隔をもって短冊状に配置されている。
【0027】
図3ないし図5を参照して、ユニット対組立体20は、一対のマイクロホンユニット21R,21Lを含む。マイクロホンユニット21R,21Lは単一指向性で、その指向周波数特性を含めてほぼ同一のユニットが用いられる。
【0028】
すなわち、マイクロホンユニット21R,21Lは、ともに、金属製の支持リング(ダイアフラムリング)212に所定の張力をもって張設された振動板211と、合成樹脂製の絶縁座214に支持された固定極213とをスペーサリング218を介して対向的に配置してなる。
【0029】
振動板211には、固定極213と対向する反対側の片面に金属蒸着膜を有する合成樹脂の薄膜が用いられてよい。また、固定極213には、アルミニウム等の金属板が用いられるが、振動板211との対向面にエレクトレット膜が設けられてもよい。
【0030】
絶縁座214は、固定極213の背面側に所定容積の空気室が存在するように底の浅い皿状に形成され、その周縁に固定極213が嵌合固定されている。絶縁座214の底部には、図示しないリード配線を介して固定極213と電気的に接続された電極引出用の端子ピン217が設けられている。
【0031】
この実施形態において、マイクロホンユニット21R,21Lはともに角型ユニットであり、振動板211は長方形の枠体からなる支持リング212に張設され、固定極213および絶縁座214は長方形に形成されている。
【0032】
単一指向性であることから、振動板211側が前部音響端子で、絶縁座214の底部には後部音響端子としての音孔215が穿設されている。音孔215は、不織布もしくは網目体からなる音響抵抗材216によって覆われている。
【0033】
また、図4に示すように、固定極213にも多数の音孔213aが穿設されており、絶縁座214の音孔215(後部音響端子)からの音波が固定極213の音孔213aを通って振動板211の背面に作用するようになっている。
【0034】
図3,図5に示すように、マイクロホンユニット21R,21Lは、それらの振動板211,211側を互いに平行として対向させた状態で、ユニットホルダ22内に組み付けられ、それらの周囲に配置される押さえ金具23,23にてユニットホルダ22に固定される。
【0035】
ユニットホルダ22は合成樹脂材よりなり、マイクロホンユニット21Rの収納部側とマイクロホンユニット21Lの収納部側とに、それらの支持リング212,212が当接され、各ユニット間の対向面間距離を一定に保つための段差部222,223が形成されている。
【0036】
また、ユニットホルダ22の音響管10の後端が嵌合される一端側には、音響管10内を通って到来する音波をマイクロホンユニット21R,21Lの対向面間の前部音響端子に導くための開口部221がホーン形として形成されている。
【0037】
このように、ユニット対組立体20は、一対のマイクロホンユニット(角型ユニット)21R,21Lを含んだ状態で音響管10の後端部側に取り付けられるが、その場合、図1および図2に示すように、角型ユニットの長辺を音響管10の管軸Xに沿わせるとともに、音響管10の管軸Xを中心としてマイクロホンユニット21R,21Lが対称配置となるようにする。
【0038】
これにより、マイクロホンユニット21R,21Lの振動板211,211の前部音響端子側に至る音波経路がほぼ同一、また、後部音響端子側から振動板211,211の背面に至る音波経路もほぼ同一となるため、マイクロホンユニット21R,21Lは、指向周波数応答がほぼ同一の単一指向性として動作する。
【0039】
また、マイクロホンユニット21R,21Lが角型ユニットで、しかも角型ユニットが2つであることにより、有効振動板面積が大きくなり、高感度化がはかれる。この点について、振動板および固定極を円形とした従来の一般的な円型ユニットと対比する。
【0040】
例えば、有効振動径φが13mmの円型ユニットの場合、その有効振動板面積は、
6.5×6.5×3.14≒132.7mm
である。
【0041】
これに対して、短辺をφ13mmよりも小さな11.3mmとし,長辺を20.5mmとした角型ユニットを2つ用いる場合の有効振動板面積は
(11.3×20.5)×≒463mm
となり、上記円型ユニットに比べて約3.5倍の有効振動板面積が得られ、これに伴って、感度が大幅に高められる。
【0042】
タッチノイズやハンドリングノイズについて、例えばマイクロホンケース30が手で擦られることにより発生する振動は、各振動板211,211にその振動方向を含めて等しく加えられるため、図6に示すように、各振動板211,211を接地(例えば、マイクロホンケース30に接続)し、マイクロホンユニット21Rの出力41aとマイクロホンユニット21Lの出力42aとを並列としてインピーダンス変換器40に入力することにより、振動雑音をキャンセルすることができる。
【0043】
また、本発明には、ユニット対組立体20を複数備える態様も含まれる。図7に2つのユニット対組立体20A,20Bを用いる場合の例を示す。
【0044】
この場合には、ユニット対組立体20A,20Bの各一方のマイクロホンユニット21R,21Rの振動板211,211同士を直列に接続し、また、各他方のマイクロホンユニット21L,21Lの振動板211,211同士を直列に接続し、ともに接地に接続する。なお、各振動板211を個別的に接地してもよい。
【0045】
同様に、各一方のマイクロホンユニット21R,21Rの固定極213,213同士を直列に接続するとともに、各他方のマイクロホンユニット21L,21Lの固定極213,213同士を直列に接続し、それらの各直列出力41b,42bを並列としてインピーダンス変換器に入力する。
【0046】
なお、上記実施形態では、ユニット対組立体20に含まれるマイクロホンユニット21R,21Lを角型ユニットとしているが、マイクロホンユニット21R,21Lに円型ユニットを用いてユニット対組立体20とする態様も本発明に含まれ、その場合には、図7に示すように、複数のユニット対組立体20を接続することにより、有効振動板面積をより大きくすることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 音響管
20,20A,20B ユニット対組立体
21R,21L 単一指向性コンデンサマイクロホンユニット
211 振動板(前部音響端子)
212 支持リング
213 固定極
214 絶縁座
215 音孔(後部音響端子)
216 音響抵抗材
217 端子ピン
218 スペーサリング
22 ユニットホルダ
221 開口部
30 マイクロホンケース
34 出力コネクタ
35 回路基板
40 インピーダンス変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響管の後端側に、振動板と固定極とをスペーサを介して対向的に配置してなる単一指向性のコンデンサマイクロホンユニットが配置されている狭指向性コンデンサマイクロホンにおいて、
上記コンデンサマイクロホンユニットの2つを、それらの振動板側を互いに平行として対向させて組み合わせてなるユニット対組立体を備え、上記音響管の管軸を中心として上記各コンデンサマイクロホンユニットが対称配置となるように、上記音響管の後端側に上記ユニット対組立体が配置されていることを特徴とする狭指向性コンデンサマイクロホン。
【請求項2】
上記ユニット対組立体に含まれる上記各コンデンサマイクロホンユニットの振動板および固定極が、上記音響管の管軸に沿った辺を長辺とする長方形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の狭指向性コンデンサマイクロホン。
【請求項3】
上記ユニット対組立体に含まれる上記各コンデンサマイクロホンユニットの出力が並列接続としてインピーダンス変換器に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の狭指向性コンデンサマイクロホン。
【請求項4】
上記ユニット対組立体を複数備え、上記各ユニット対組立体の一方の側のコンデンサマイクロホンユニットの各出力を直列接続とした第1出力と、他方の側のコンデンサマイクロホンユニットの各出力を直列接続とした第2出力とが並列接続としてインピーダンス変換器に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の狭指向性コンデンサマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23544(P2012−23544A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159728(P2010−159728)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】