説明

玉軸受用冠形保持器および深溝玉軸受

【課題】ポケットでのボールの抱え込みを浅くすることなく、深溝玉軸受の軌道溝の溝肩部を高くしても、ポケットの背面側部分が溝肩部と干渉しないようにすることである。
【解決手段】冠形保持器5を形成する環状体の内外輪2、3の軌道溝2a、3aよりも軸方向外側に位置するポケット7の背面部7bの半径方向高さ寸法Hを、軌道溝2a、3aの中心部に位置するポケット7の軸方向中央部の半径方向高さ寸法Hよりも小さくすることにより、ポケット7でのボール4の抱え込みを浅くすることなく、深溝玉軸受1の軌道溝2a、3aの溝肩部を高くしても、ポケット7の背面部7bが溝肩部と干渉しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状体の円周方向複数箇所に、軸方向の一方向に開口し、開口と反対側の背面側が閉塞されたボール保持用のポケットを設けた玉軸受用冠形保持器と深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
内外輪の軌道溝間に配列した複数のボールを保持器で保持した深溝玉軸受は、環状体の円周方向複数箇所に、軸方向の一方向に開口し、開口と反対側の背面側が閉塞されたボール保持用のポケットを設けた冠形保持器を用いたものが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような冠形保持器は、特許文献1に記載されたものも含めて、環状体の半径方向高さ寸法が軸方向で等しい一定寸法に形成され、ボールを保持するポケットの内面は、ボールの直径よりもわずかに内径が大きい球面で形成されている。
【0004】
一方、自動車に搭載される電装補機やトランスミッション等の軸受装置のように、振動等による急激な荷重が負荷されたり、アキシアル方向のモーメント荷重が負荷される用途に使用される深溝玉軸受は、ボールが内輪や外輪の軌道溝の肩に乗り上げる不具合が発生することがある。このような不具合を防止するために、軌道溝を深くして溝肩部を高くし、ボールが溝肩部に乗り上げ難くした深溝玉軸受が用いられている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−114098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように軌道溝の溝肩部を高くした深溝玉軸受に、特許文献1に記載されたような環状体の半径方向高さ寸法が軸方向で一定寸法に形成された冠形保持器を用いると、ボールの軌道溝中心からのずれ等によって、冠形保持器が軸直交断面から傾くと、内外輪の軌道溝よりも軸方向外側に位置するポケットの背面側部分が軌道溝の溝肩部と干渉しやすくなる問題がある。
【0007】
このポケットの背面側部分が溝肩部と干渉するのを防止するためには、環状体の半径方向高さ寸法を小さくすればよいが、冠形保持器のポケットの内面は、ボールの直径よりもわずかに内径が大きい球面で形成されているので、ポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法を小さくすると、ボールの抱え込みが浅くなる。このため、ボールに対する保持器の相対動き量が増大して、保持器とボールの衝突による騒音が発生するとともに、ボールとの衝突によって保持器が損傷する恐れがある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、ポケットでのボールの抱え込みを浅くすることなく、深溝玉軸受の軌道溝の溝肩部を高くしても、ポケットの背面側部分が溝肩部と干渉しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、環状体の円周方向複数箇所に、軸方向の一方向に開口し、開口と反対側の背面側が閉塞されたポケットを設け、深溝玉軸受の内外輪の軌道溝間に配列される複数のボールを前記ポケットに保持する玉軸受用冠形保持器において、前記環状体の前記内外輪の軌道溝よりも軸方向外側に位置する前記ポケットの背面側の部分の半径方向高さ寸法を、前記軌道溝の中心部に位置する前記ポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法よりも小さくした構成を採用した。
【0010】
すなわち、環状体の内外輪の軌道溝よりも軸方向外側に位置するポケットの背面側の部分の半径方向高さ寸法を、軌道溝の中心部に位置するポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法よりも小さくすることにより、ポケットでのボールの抱え込みを浅くすることなく、深溝玉軸受の軌道溝の溝肩部を高くしても、ポケットの背面側部分が溝肩部と干渉しないようにした。
【0011】
前記環状体の半径方向高さ寸法を、前記ポケットの軸方向中央部から前記ポケットの背面側の軸方向外端まで、段差を設けずに滑らかに小さくすることにより、応力集中による環状体の破損を防止することができる。
【0012】
前記環状体のポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法を、前記外輪の軌道溝の溝肩部の内径と前記内輪の軌道溝の溝肩部の外径との寸法差よりも小さくした範囲でこの寸法差に近づけることにより、ポケットでのボールの抱え込み深さを十分に確保することができる。
【0013】
前記環状体を樹脂の射出成形で形成することにより、半径方向高さ寸法が軸方向で異なる環状体を容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明の深溝玉軸受は、上述したいずれかの玉軸受用冠形保持器で、内外輪の軌道溝間に配列された複数のボールを保持した構成を採用した。
【0015】
前記深溝玉軸受は、自動車に搭載される軸受装置に使用されるものに好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の玉軸受用冠形保持器は、環状体の内外輪の軌道溝よりも軸方向外側に位置するポケットの背面側の部分の半径方向高さ寸法を、軌道溝の中心部に位置するポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法よりも小さくしたので、ポケットでのボールの抱え込みを浅くすることなく、深溝玉軸受の軌道溝の溝肩部を高くしても、ポケットの背面側部分が溝肩部と干渉しないようにすることができる。
【0017】
前記環状体の半径方向高さ寸法を、ポケットの軸方向中央部からポケットの背面側の軸方向外端まで、段差を設けずに滑らかに小さくすることにより、応力集中による環状体の破損を防止することができる。
【0018】
前記環状体のポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法を、外輪の軌道溝の溝肩部の内径と内輪の軌道溝の溝肩部の外径との寸法差よりも小さくした範囲でこの寸法差に近づけることにより、ポケットでのボールの抱え込み深さを十分に確保することができる。
【0019】
前記環状体を樹脂の射出成形で形成することにより、半径方向高さ寸法が軸方向で異なる環状体を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この深溝玉軸受1は、図1に示すように、内輪2と外輪3の軌道溝2a、3a間に配列された複数のボール4を冠形保持器5で保持したものであり、各軌道溝2a、3aの深さを標準品よりも深くして溝肩部が高く形成され、ボール4が溝肩部に乗り上げ難くなっている。
【0021】
前記冠形保持器5は樹脂の射出成形で形成され、図2に示すように、環状体6の円周方向複数箇所に、軸方向の一方向に開口7aを有し、開口7aと反対側の背面部7bが閉塞されたポケット7を設けたものであり、ポケット7の内面7cは、保持されるボール4の直径よりもわずかに大きい内径の球面で形成されている。
【0022】
図1に示したように、前記環状体6は、内輪2と外輪3の軌道溝2a、3aよりも軸方向外側に位置するポケット7の背面部7bの半径方向高さ寸法Hが、軌道溝2a、3aの中心部に位置するポケット7の軸方向中央部の半径方向高さ寸法Hよりも小さく形成され、半径方向高さ寸法Hは、外輪3の軌道溝3aの溝肩部の内径と内輪2の軌道溝2aの溝肩部の外径との寸法差Hよりも小さくした範囲でこの寸法差Hに近づけられている。また、環状体6の半径方向高さ寸法は、ポケット7の軸方向中央部からポケット7の背面部7bの軸方向外端まで、テーパ状に滑らかに小さくされている。
【0023】
図3は、上述した深溝玉軸受1を使用した自動車のトランスミッションを示す。このトランスミッションは、マニュアル式のものであり、ハウジング11内にインプットシャフト12、アウトプットシャフト13および中間シャフトとしてのパイロットシャフト14が直列に配置され、さらに中間シャフトとしてのカウンターシャフト15とリバースシャフト16がアウトプットシャフト13と平行に配置されている。なお、図3は、図面を見やすくするために展開表示しており、リバースシャフト16はアウトプットシャフト13とも係合するようになっている。
【0024】
前記各シャフト12、13、14、15、16には多数のギヤ群が設けられており、外部からの操作でシフトされるクラッチハブ17で、これらのギヤ群の噛み合わせを変えることにより、インプットシャフト12からアウトプットシャフト13へのトルク伝達経路が適切に選択されるようになっている。このトランスミッションでは、インプットシャフト12、アウトプットシャフト13、パイロットシャフト14、カウンターシャフト15、およびカウンターシャフト15の一端側に取り付けられたギヤ部材18が、前記深溝玉軸受1で支持されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る冠形保持器を用いた深溝玉軸受の実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の冠形保持器の展開横断面図
【図3】図1の深溝玉軸受を使用したトランスミッションを示す縦断面図
【符号の説明】
【0026】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
2a、3a 軌道溝
4 ボール
5 冠形保持器
6 環状体
7 ポケット
7a 開口
7b 背面部
11 ハウジング
12 インプットシャフト
13 アウトプットシャフト
14 パイロットシャフト
15 カウンターシャフト
16 リバースシャフト
17 クラッチハブ
18 ギヤ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状体の円周方向複数箇所に、軸方向の一方向に開口し、開口と反対側の背面側が閉塞されたポケットを設け、深溝玉軸受の内外輪の軌道溝間に配列される複数のボールを前記ポケットに保持する玉軸受用冠形保持器において、前記環状体の前記内外輪の軌道溝よりも軸方向外側に位置する前記ポケットの背面側の部分の半径方向高さ寸法を、前記軌道溝の中心部に位置する前記ポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法よりも小さくしたことを特徴とする玉軸受用冠形保持器。
【請求項2】
前記環状体の半径方向高さ寸法を、前記ポケットの軸方向中央部から前記ポケットの背面側の軸方向外端まで、段差を設けずに滑らかに小さくした請求項1に記載の玉軸受用冠形保持器。
【請求項3】
前記環状体のポケットの軸方向中央部の半径方向高さ寸法を、前記外輪の軌道溝の溝肩部の内径と前記内輪の軌道溝の溝肩部の外径との寸法差よりも小さくした範囲でこの寸法差に近づけた請求項1または2に記載の玉軸受用冠形保持器。
【請求項4】
前記環状体を樹脂の射出成形で形成した請求項1乃至3のいずれかに記載の玉軸受用冠形保持器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の玉軸受用冠形保持器で、内外輪の軌道溝間に配列された複数のボールを保持したことを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項6】
前記深溝玉軸受が、自動車に搭載される軸受装置に使用されるものである請求項5に記載の深溝玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−115224(P2009−115224A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289373(P2007−289373)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】