説明

珪素改質したクラムラバー組成物

【課題】珪素改質クラムラバー組成物。珪素改質クラムラバーはそのまま用いるか、配合物の強化剤として用いすることができる。
【解決手段】触媒の存在下または非存在下でクラムラバー粒子中の不飽和基と水素化珪素との反応で形成した炭素−珪素結合を有する改質クラムラバー粒子。結合珪素含有率は約0.1〜10重量%である。本発明の珪素改質クラムラバーは一般にバージンゴム組成物中に存在するゴム全体の25重量%まで用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤのリセイクル分野、特に廃タイヤから得られるクラムラバーの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩耗や破損のため毎年数億本のタイヤが廃棄されている。現在、米国だけで年間約270,000,000本の廃タイヤが生まれている。廃タイヤの中で埋め立てられたり、備蓄されるのは約26%で、再生され、再利用されるゴムは約10%のみである。廃タイヤ全体の在庫は20〜30億本にもなる。
【0003】
この在庫をできるだけ少なくするために廃タイヤの利用法を見つける努力がされてきた。廃タイヤを丸ごと利用する方法の例としては人工漁礁、浮防波堤、道路や橋台周りの衝撃吸収具がある。廃タイヤの全体または細断したものは遊び場、植木鉢、靴底、ドックのバンパーでも用いられている。タイヤを丸ごとまたは破砕してチップにしたものを燃料として用いることもある。
再生タイヤゴムやクラムラバー(crumb rubber)は低価値ゴム製品、例えばフロアマットや道路用アスファルト中で用いることもできる。
【0004】
現在、タイヤゴムのような再生ゴムは加硫/架橋したクラムラバー粒子の形でほんの少量だけ(一般にタイヤのゴムの約10重量%以下)がタイヤで用いられているだけである。使用率が低い理由は、バージンゴム(未使用ゴム)コンパウンドにクラムラバーを添加するとタイヤの重要な機能・特性、例えば歪み弾性率および引張強度が低下してしまうためである。
従って、未使用ゴムタイヤコンパウンド中に10%以上の量で用いてもタイヤ特性をほとんど低下させないクラムラバーを開発することが望まれている。
タイヤおよびゴムの再利用の状況、ゴム再生技術/プロセス、「クラムラバー」の製造方法、クラムラバーを処理/改質して配合中でのクラムラバーの利用をより良くするための技術は下記文献によくまとめられている:
【非特許文献1】"Rubber recycling", Rubber Cjemistry and Technology, Vol. 75, pp429-469, Marvin Myhre and Duncan A. Mackillop
【0005】
最近、再利用で努力されていることは、クラムラバー粒子をより分散できるようにし、配合物中での他の成分と一緒に硬化できる(cure compatible)ようにクラムラバー粒子を処理または改質することである。本発明もこれを目標にしたものである。
【0006】
本発明ではクラムラバーと水素化珪素とを反応させて炭素−珪素結合を形成してクラムラバーを改質する。本発明で改質したクラムラバーは重要な特性をほとんど低下させずに未使用ゴム配合物中でより高い比率で用いることができる。
【0007】
水素化珪素と不飽和基>C=C<(炭素−炭素二重結合)とを反応させる化学は公知である。活性水素部位を有する水素化珪素と不飽和分子または化合物との反応で炭素−珪素結合を有する新規な化合物を製造する方法は下記文献に記載されている。
【特許文献1】米国特許第2,637,738号明細書
【特許文献2】米国特許第2,823,218号明細書
【特許文献3】米国特許第3,159,662号明細書
【0008】
不飽和化合物は低分子量の化合物またはポリマー、例えば未硬化または未架橋のゴムにすることができる。一般に、反応は市販のSpeir触媒(塩化白金酸)のような白金触媒またはカールシュテット(Karstedt's)触媒(ジビニルテトラメチルジシロキサンとのPtゼロ錯体)を用いて触媒される。無触媒では高温度でないと反応が遅く、所望生成物の収率が低く、望ましくない副生成物が多量に生じる。
白金で触媒されるヒドロシル化架橋反応は下記文献に記載されている。
【特許文献4】米国特許第5,672,660号明細書
【0009】
この特許では白金触媒と熱可塑性樹脂の存在下で未硬化ジエン含有エラストマーを水素化珪素と反応させて熱可塑性エラストマーを製造する。
リサイクル材料として有用な表面改質ゴムの製造方法は下記文献に記載されている。
【特許文献5】米国特許第2004/0030053A1号明細書(2月12日、2004年)
【0010】
この材料は廃ラバー(クラム)とメルカプト基またはS−S結合を有するシランカップリング剤とを反応させて得られる。この反応では下記文献に記載のように硫黄−炭素(S−C)結合が形成され、珪素−炭素(Si−C)結合は形成されない。
【非特許文献2】“Rubber Chemistry and technology”, Vol. 69, 1996, Siegfried Wolff, "Chemical Aspects of Rubber Reinforcement by fillers"(pp 328-344参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は加硫/架橋したクラムラバー粒子をアルケン化学のヒドロシル化反応を用いて改質することを考えた。そして、触媒を添加または無添加下で加硫クラムラバーと水素化珪素化合物とを反応させると炭素−珪素(C−Si)結合を高い比率で有する改質クラムラバーが得られるということを見出した。さらに、得られた珪素改質クラムラバーは、未処理クラムラバーとは違って重要な特性をほとんど低下させずに、未使用ゴム配合物中でより高い比率で用いることができるということも見出した。クラムラバー粒子は炭素−珪素(C−Si)結合として存在する結合珪素をゴムの約0.1〜約10重量%で含むのが好ましい。この炭素−珪素結合はクラムラバー粒子と水素化珪素との反応によって形成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の珪素改質クラムラバーはクラムラバー中の不飽和基と下記式の水素化珪素との反応で容易に得られる:
xSiyz
〔ここで、Rはアルキル基、直鎖または分岐鎖のC3〜C6シクロアルキル基、フェニルのようなアリール基、トリルのようなアルカアリール基等を含む一価のC1〜C20炭化水素基、ハロゲン原子、−OR’基(アルコキシ)、−OCR基(カルボキシ)および−COOR'''基(エステル)から成る群の中から選択され、Zは1〜3の値、Xは0〜3の値、Yは1〜10であり、Zが1より大きい場合、Rの部分は同じでも異なっていてもよい〕
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で有用な水素化珪素の例としてはベンジルシラン、エトキシジメチルシラン、プロピルシラン、シリルベンゼン、トリメトキシシラン、クロロジイソプロピルシラン、クロロジフェニルシラン、クロロメチルフェニルシラン、エトキシジメチルシランおよびトリクロロシランが挙げられる。
【0014】
R基は1〜4個の炭素原子を有する炭化水素基および/または塩素のようなハロゲンであるのが好ましく、そうした水素化珪素の例としてはプロピルシラン、クロロジイソプロピルシランおよびトリクロロシランが挙げられる。
【0015】
本発明で有用なクラムラバーは不飽和基を有する任意のゴムである。このクラムラバーは天然または合成のエラストマー、架橋または網状化したゴムまたは両者の混合物にすることができる。タイヤ製造では一般に「ジエン」ゴムが用いられる。「ジエン」ゴムとは少なくとも部分的に炭素−炭素二重結合(>C=C<)を有するゴム(ホモポリマーまたはコポリマー)を意味する。一般に、クラムラバー中にはジエンゴム、例えばブチルゴムまたはEPDM型のジエンとα−オレフィンとのコポリマー(ジエン単位の含有率は低く、一般には15モル%以下)および不飽和度が高いゴム(ジエン単位の含有率が15モル%以上)が存在している。
【0016】
本発明は任意タイプのジエンゴムに適用できるが、本発明はタイヤで用いられるタイプのような不飽和度の高いジエンゴムと一緒に用いるのが好ましいということは当業者には理解できよう。そうしたゴムの例としてはポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ブタジエン−スチレンコポリマー、ブタジエン−イソプレンコポリマー、イソプレン−スチレンコポリマー、イソプレン−ブタジエン−スチレンコポリマーおよびこれらゴムの混合物(架橋前および完全架橋後)のから成る群の中から選択されるジエンゴムが挙げられる。
【0017】
クラムラバーは各種タイプのタイヤおよび/またはタイヤの各種位置から得られることが多いので、加硫したクラムラバー粒子は当然複数のジエンゴムの混合物を含み、本発明で用いるクラムラバーは他のタイプのポリマーおよびエラストマー、例えば熱可塑性ポリマーやその部分架橋した誘導体を含むことができる。
【0018】
タイヤの製造では各種化学添加剤が用いられ、タイヤは10〜20種類またはそれ以上の種々の成分、例えばポリマー、充填剤、油、化学添加剤、硬化系を含んでいる。従って、タイヤから得られたクラムラバーは多種多様な成分、例えばカーボンブラック、シリカ、クレー等の充填剤、オゾン分解防止剤、酸化防止剤、防腐剤、硫黄や加硫剤、プロセス油等を含んでいる。従って、このクラムラバーはシリカ、クレー等の成分に起因するある程度の初期珪素含有率を有している。しかし、これらの珪素はC−Si共有結合の形では存在してはいないと考えられる。
【0019】
クラムラバー自体は廃タイヤまたはその他ゴムを粉砕して得られる粒子と定義され、鋼や繊維のような強化材料は粉塵、ガラスまたは岩石等の他の汚染物質と一緒に除去されている。加硫または架橋したゴムをクラムラバー粒子に粉砕する方法は上記非特許文献2(“Rubber Chemistry and technology”)に多数記載されている。任意の粉砕形式が適用できる。室温粉砕で製造されたゴム粒子は一般にカットされた表面形状を有し、きめが荒い。低温粉砕では一般に約1/4インチから30メッシュのゴム粒子にされ、得られた材料は輝いて見え、クリーンな破面を有する。微粉グレードおよび超微粉グレードのクラムラバーを製造するために米国では室温粉砕および低温粉砕の他にいくつかの湿式粉砕法が用いられている。
【0020】
本発明では任意の形式の粉砕法で得られる任意タイプの加硫クラムラバー粒子を使用できる。一般に、クラムラバーはその粒径とオリジン(起源)に従って分類され、格付けされる。クラムラバーは多くのサプライヤーから市場で入手できる。クラム(粉砕)ラバーの製造法および格付け法は下記文献には記載されている。
【非特許文献3】“Rubber and Plastic News”, Oct. 12, 1992, Gerald Holland, Benfei Hu and Mark Smith
【0021】
クラムラバー粒子の平均直径は約10mm〜0.18mmにすることができる。その寸法は一般に「メッシュ」で表され、約4メッシュ〜約120メッシュまたはそれ以上である。大抵の用途では約40メッシュ〜約100メッシュのクラムラバー寸法が適している。
【0022】
クラムラバーと水素化珪素との上記反応をカールシュテット触媒や塩化白金酸[H2PtCl6]のような白金触媒を用いて触媒することで水素化珪素とクラムラバー中の不飽和基と反応を効率的に達成できる。この反応はインシチュー(in situ)またはトルエンのようなクラムラバー用溶媒中で行う。温度範囲は室温(約20〜25℃)から50℃にすることができる。反応時間は1時間以上にすることができる。本発明の実施例では反応時間は一般に12時間から4日間である。反応後に未反応の水素化珪素をクロロホルムで抽出し、その後に溶媒を除去する。塩素含有水素化珪素を用いた場合には珪素改質クラムラバーを水と混合してSi−Cl基を加水分解し、HClを除去する。次に、珪素改質クラムラバーを乾燥し、試験する。
【0023】
驚くべきことに、上記反応は添加触媒を用いなくても同様に効率的に進行するということが分かっている。この「自己触媒」反応は加硫したクラムラバー粒子中に存在するであろうクレー等の成分を配合することによって促進されると考えられる。
【0024】
本発明の珪素改質クラムラバーはC−Si結合として存在する結合珪素を約0.1〜約10重量%の含有率で含み、さらに好ましくは約0.5%〜約5重量%の珪素を含む。
【0025】
改質クラムラバーはそのまま用いたり、その他の成分と混合して有用な物品にすることができる。本発明の珪素改質クラムは例えば熱可塑性組成物または熱硬化性組成物に分散させることができる。このクラムラバーはセメント混合物の凝集体として用いることもできる。本発明の珪素改質クラムは一般にバージン(未使用)のゴム組成物と混合し、硬化して有用な物品にする。本発明の珪素改質クラムラバーは25重量%以下またバージン(未使用)のクラムラバーを同じ量だけ用いた場合より高い低歪み弾性率を示し、同様な凝集性を示す。これは珪素改質クラムラバーが強化材の役目をし、マトリクスとの相互作用を強化することを示している。本発明の珪素改質クラムラバーはバージンのクラムラバー組成物と同じ用途で使用でき、成形品、マット、ホース、靴底、ガスケット、タイヤ等のゴム製品の製造で使用できる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
材料
トリクロロシラン(Alfa Aesar)、塩化白金酸[H2PtCl6]、カールシュテット触媒(Gelest Laboratories)、80メッシュの全タイヤクラムラバー(Rouse Rubber)を使用した。
機器
IRスペクトルは液体窒素で冷却したMCT検出器を備えたニコレIR顕微鏡をニコレマグナ550分光光度計に接続して得た。ゴムのIRスペクトルはゴムの微粒子をKBr顕微鏡用スライド上で転がしながら得た。固体状態の13Cおよび29SiNMR測定はBruker二重共鳴MAS検出ヘッド中でBruker DSX-300分光計で行った。13CNMRではパルスリサイクルの遅れ=5秒、ns=2k、接触時間=1ミリ秒、スピン=5kHzを用いて標準的な直接分極(DP)測定を行った。29SiNMRではパルスリサイクルの遅れ=5秒、ns=4k、接触時間=5ミリ秒、スピン=5kHzを用いて標準的な交差分極(CP)測定を行った。珪素元素分析はニュージャージー州マジソンのRobertson Microlit Laboratoriesがパーキンエルマー3000DV機器を用いて行った。
【0027】
実施例1
この実施例は添加触媒を用いたおよび用いない場合の溶媒中での珪素改質クラムラバーの製造を示している。
(A)白金触媒反応
四つ口反応器に機械的攪拌器、N2導入口および熱電対を取り付けた。炎乾燥した反応器をN2で30分間パージし、予め乾燥させた200gのクラムラバーと、2.5リットルのトルエンと、白金触媒(1mlのカールシュテット触媒(キシレン中の白金濃度2.1〜2.4%)[1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン−Pt錯体)または1.3g(0.0031mol)の塩化白金酸を10mlのイソプロパノールで溶かしたもの)とをフラスコに添加した。混合物を30分間攪拌し、トリクロロシランの一部の100g(0.738mol)を添加した。反応は45℃で4日間行い、短路の蒸留装置を用いてトルエンを80℃で蒸留で分離した。トルエンを除去した後に、反応器に2.5lのクロロホルムを添加し、1時間攪拌し、全ての未反応のクロロシランを抽出した。クロロホルムを短路の蒸留装置を用いて45℃で除去した。水(2.5l)を添加し、混合物を1時間攪拌した。得られた改質ゴムを濾過分離し、48時間空気乾燥し、80℃で4〜8時間真空加熱した。
【0028】
(B)自己触媒反応
上記の実験を繰り返すが、触媒を添加しなかった。四つ口反応器に機械式攪拌器と、N2導入口と、熱電対とを取り付けた。炎乾燥した反応器をN2で30分間パージし、予め乾燥した200gのクラムラバーと、2.5リットルのトルエンとをフラスコに添加した。この混合物を30分間攪拌し、100g(0.738mol)のトリクロロシランを一部として添加した。反応を45℃で4日間行い、短路の蒸留装置を用いてトルエンを80℃で蒸留で分離した。トルエンを除去した後に、反応器に2.5lのクロロホルムを添加し、1時間攪拌し、全ての未反応のクロロシランを抽出した。クロロホルムを短経路蒸留装置を用いて45℃で除去した。水(2.5l)を添加し、混合物を1時間攪拌した。得られた改質ゴムを濾過分離し、48時間空気乾燥し、80℃で4〜8時間真空加熱した。
【0029】
生成物は固体13CNMR(DP MAS)および29SiNMR(CP MAS)で特徴決定した。ポリマーは固体13CNMRで124.3、128.6および133.0ppmにケミカルシフトが測定された([図1])。ポリマーのヒドロシル化によって133.9ppmと124.3ppmのピークが消失し、26、30ppmと37ppmで広い新しいピークが生成した。このデータから、新しいsp3ハイブリッド炭素原子の生成が確認された。128.6ppmでのケミカルシフトは変化せず、これはクラムラバー中にスチレンが存在することを示している。
【0030】
官能化したクラムラバーと未反応のクラムラバーを固体29SiNMRで分析した。官能化したクラムラバーは−74.7ppmでケミカルシフトを示した([図2])。ケミカルシフトは同じタイプの化合物の文献値の範囲内である。固体29SiNMRスペクトル中の新しい信号によって、新しいC−Si結合(ca.−75ppm)の生成が確認された。
【0031】
改質したクラムラバーと未反応のクラムラバーの元素分析を行い、比較した([表1])。元素分析データから、H2PtCl6触媒を用いた場合は珪素含有率が4.3重量%Siで、カールシュテット触媒を用いた場合は4.1重量%Siであることがわかり、未反応のクラムラバー対照は珪素含有率が0.81重量%であった。自己触媒クラムラバーサンプルは珪素含有率が9.0重量%であった。
改質したクラムラバーと未反応のクラムラバーのサンプルをIR(ATR)分光法によって特徴付けた。良く洗浄した改質クラムラバーには1020〜1100、820〜900および1000〜1100cm-1で新しいピークが観察された。これはそれぞれ新しいSi−O−Si、Si−OH結合の生成を示している([図3])。固体13Cおよび29SiNMR、IR(ATR)元素分析およびマクロ灰分によって得られる全てのデータから、加硫したクラムラバー粒子とトリクロロシランとの間にC−Si結合の生成が確認された。マクロ灰分はASTM D297−35に従う方法で炉を800℃に維持して得た。
【0032】
元素分析およびマクロ灰分含有率%は[表1]に示してある。
【表1】

【0033】
実施例2
実施例1に記載の反応を基本的に繰り返したが、反応時間を一日にした。カールシュテット触媒を用いて製造した改質クラムラバーの珪素含有率は4.0重量%であり(マクロ灰分重量%は19.5重量%)、自己触媒反応で製造したクラムラバーの珪素含有率は3.4重量%であった(マクロ灰分含有率は12.5%)。
【0034】
実施例3
この実施例では溶媒中で触媒(種々の率の水素化珪素)を用いて珪素改質クラムラバーを製造した。基本的に白金触媒反応に関する実施例2の反応を繰り返したが、トリクロロシランの濃度を5重量%、12.5重量%および50重量%にした。5重量%では製造した改質クラムラバーの珪素含有率は1.7重量%であった(マクロ灰分含有率は6.0重量%であった)。12.5重量%では製造した改質クラムラバーの珪素含有率は2.6重量%であった(マクロ灰分含有率は8.1重量%であった)。50重量%では、製造した改質クラムラバーの珪素含有率は3.3重量%であった(マクロ灰分含有率は10.2重量%)。
【0035】
実施例4
この実施例は溶媒を用いずにクラムラバーと水素化珪素とを反応させた例を示している(触媒を用いた場合と用いない場合)。
(A)溶媒を用いない白金触媒反応
三つ口反応器に機械的攪拌器と、N2導入口と、熱電対きを取り付けた。炎乾燥した反応器をN2で30分間パージし、予め乾燥した20gのクラムラバーおよび白金触媒(0.1mlのカールシュテット触媒(キシレン中の白金濃度2.1〜2.4%)[1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン−Pt錯体)をフラスコに添加した。混合物を30分間攪拌し、10g(0.0738mol)のトリクロロシランの一部を添加した。反応は45℃で1日行った。反応後、反応器に250mlのクロロホルムを添加し、1時間攪拌し、全ての未反応のクロロシランを抽出した。クロロホルムを短経路蒸留装置を用いて45℃で除去した。水(250ml)を添加し、混合物を1時間攪拌した。改質ゴムを濾過分離し、48時間空気乾燥し、80℃で4〜8時間真空加熱した。
【0036】
(B)溶媒を用いない自己触媒反応
実施例4Aの反応を繰り返すが、触媒は添加しなかった。三つ口反応器に機械的攪拌器と、N2導入口と、熱電対とを取り付けた。炎乾燥した反応器をN2で30分間パージし、予め乾燥した20gのクラムラバーをフラスコに添加した。混合物を30分間攪拌し、10g(0.0738mol)のトリクロロシランの一部を添加した。反応は45℃で1日行った。反応後、反応器に250mlのクロロホルムを添加し、1時間攪拌し、全ての未反応のクロロシランを抽出した。クロロホルムを短路の蒸留装置を用いて45℃で除去した。水(250ml)を添加し、混合物を1時間攪拌した。改質ゴムを濾過分離し、48時間空気乾燥し、80℃で4〜8時間真空加熱した。
【0037】
[表2]は実施例1〜4の種々の条件下で製造した未反応のクラムラバー、白金触媒クラムラバーおよび自己触媒クラムラバーの分析結果をまとめて示している。この結果から自己触媒反応は同じ条件下での触媒反応と同じ効率で起こること、反応は溶媒を添加しない状態で容易に起こることがわかる。
【表2】

【0038】
実施例5
この実施例は未使用のゴム配合物中で珪素改質クラムラバーを用いることによって、未処理のクラムラバーを用いたものよりも良い物理特性が得られることを示す。
ゴム混合配合物は本発明に従って作った。通常の一段混合法を用いた。混合は440mlの密閉式ミキサーおよび2ロールミルを用いて実施した。混合した組成物はレオメータを用いてその硬化時間および硬化状態で評価した。試験した混合配合物は[表3]に100のゴム当たりの部で示してある。SBRはTgが−25℃で、ムーニー粘度が55MUである非油展溶液SBR、N330は強化カーボンブラック、TESPTはビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラスルファン、カップリング剤、6PPDはパラフェニルジアミン酸化防止剤およびオゾン分解防止剤、Sは硫黄、CBSはスルフェンアミドベースの促進剤、ZnOは酸化亜鉛、SADはステアリン酸(いずれも硬化活性化剤)である。
【0039】
【表3】

【0040】
硬化特性は[表4]にまとめてある。硬化特徴(50%および95%硬化までの時間)をASTM D5289に従って測定した。弾性率および引張強度はASTM D412試験方法Aに従って測定した。ASTM D412試験方法Aに対する弾性率の測定の唯一の違いは、サンプルを所定の伸び率まで2回循環させた後に、100%および300%で弾性率レベルを測定することである。ショアー硬度はASTM D2240に従って「A型デュロメーター」という名前の装置を用いて測定した。可変の動的歪み特性をMTS動的試験機で25℃および10Hzで剪断で測定した。混合物番号1は対照化合物である。
【0041】
【表4】

【0042】
未反応のクラムラバーを含む混合物(混合物番号2〜4)は破断特性は低下するが、低歪み弾性率レベルは維持されることは理解できよう。高歪み弾性率の降下はマトリクス中の低い架橋密度と、未使用の化合物と未反応のクラムラバーとの低い相互作用が原因と考えられる。破断特性の低下はこの架橋密度要因、追加の開始部位を形成する粒子および不十分な界面特性によって引き起こされると考えられる。5%変形では、ヒステリシス(5%歪みでのtanδ)は同様の弾性率を維持するので対照と同じである。
【0043】
珪素改質クラムラバー(混合物番号5および6)の室温特性は、低歪み弾性率の著しい向上を示している。破断特性は未反応のクラムラバーの場合よりも大きく低下している。しかし、この傾向は最適な充填剤の添加が終わったときに、弾性率の向上と、充填剤が凝集性に与える従来の増大した影響によって予期されたものである。TESPTの添加(混合物番号7対混合物番号6)によって、破断点応力が著しく向上する。これは珪素改質クラムラバーとエラストマーとの間の相互作用がより強いことを示す。これは([非特許文献2]のゴム化学および技術、第69巻、1996年、Siegfried Wolff「充填剤によるゴム強化の化学的側面」(328〜344頁)に記載されているように)沈降シリカを含む混合物にTESPTを添加する場合に見られる。凝集性のこの向上は未処理のクラムラバー(混合物番号3対混合物番号4)では見られない。自己触媒クラムラバーの添加(混合物8)によって白金触媒珪素改質クラムラバー(混合物番号5)の特性に同様の傾向が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】13CNMR(DP MAS)のスペクトルオーバーレイで、(a)は未反応クラムタイヤラバー、(b)は溶媒添加の白金触媒で作ったクラムラバー、(c)溶媒添加の自己触媒で作ったクラムラバーである。
【図2】29SiNMR(CP MAS)スペクトルオーバーレイで、(a)は未反応クラムタイヤラバー、(b)は白金触媒で作ったクラムラバー、(c)は自己触媒で作ったクラムラバーサンプルである。
【図3】IRスペクトルのオーバーレイで、(a)は未反応クラムタイヤラバー、(b)は白金触媒で作ったクラムラバー、(c)は自己触媒で作ったクラムラバーである。
【図4】13CNMR(DP MAS)オーバーレイで、(a)は未反応クラムタイヤラバー、(b)は溶媒添加無しの白金触媒で作ったクラムラバーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラムラバー粒子中の不飽和基と水素化珪素との反応によって炭素−珪素共有結合が形成されていることを特徴とする有機珪素の組成物。
【請求項2】
クラムラバー粒子がジエンゴムを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ジエンゴムがポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ブタジエン−スチレンコポリマー、ブタジエン−イソプレンコポリマー、イソプレン−スチレンコポリマー、イソプレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、イソブチレン−イソプレンコポリマー、これらの架橋誘導体およびこれらの混合物から成る群の中から選択される請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
水素化珪素が式:RxSiYz(ここで、Rはアルキル基、直鎖または分岐鎖のC3〜C6シクロアルキル基、フェニルのようなアリール基、トリルのようなアルカアリール基等の炭化水素基およびその置換基を含むC1〜C20の炭化水素基または置換炭化水素基;ハロゲン原子;−OR’基(アルコキシ)、−OCR基(カルボキシ)および−COOR'''基(エステル)から成る群の中から選択され、Zは1〜3の値、Xは0〜3の値、Yは1〜10であり、Zが1より大きい場合、Rの部分は同じでも異なっていてもよい)を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
炭素−珪素共有結合が添加触媒の存在下でのクラムラバー粒子中の不飽和基と水素化珪素との反応で形成される請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
上記触媒が白金触媒である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
白金触媒がカールシュテット(Karstedt's)触媒および塩化白金酸から成る群の中から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
炭素−珪素共有結合が触媒非存在下でのクラムラバー粒子中の不飽和基と水素化珪素との反応で形成される請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を含む物品。
【請求項10】
物品がゴムのコンパウンバドである請求項9に記載の物品。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物が物品中の全ゴム含有量の25重量%以下である請求項10に記載の物品。
【請求項12】
タイヤである請求項10に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−508996(P2009−508996A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531317(P2008−531317)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/035818
【国際公開番号】WO2007/035401
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(599140471)ソシエテ ドゥ テクノロジー ミシュラン (96)
【出願人】(597011441)ミシュラン ルシェルシェ エ テクニク ソシエテ アノニム (94)
【Fターム(参考)】