説明

現像スリーブの製造方法、現像スリーブ、現像ローラ、現像装置

【課題】電子写真方式の現像装置に用いられる薄肉円筒状の現像スリーブの製造方法であって、偏肉や溝深さに偏差が生じることない高精度の現像スリーブが製造可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】マンドレルCに薄肉円筒状の非磁性ブランクWを挿入し、そのマンドレルCに挿入状態の非磁性ブランクWをマンドレルCに嵌着するようにしごき加工して、仮に、偏肉(肉厚差)が生じていても、そのしごき加工を経ることで、非磁性ブランクWの肉厚を薄肉化及び均一化する。そして、そのしごき加工により非磁性ブランクWがマンドレルCに嵌着した状態で、非磁性ブランクWの表面に、粉末状の現像剤を引っ掛け可能なV型状の溝1a(凹部)を転造加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる現像装置、その現像装置の一構成要素である現像ローラ、現像スリーブ、及び、その現像スリーブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真方式の画像形成装置の一構成要素として、感光体上に形成された静電潜像をトナー像に現像させる現像装置がある。この現像装置は、現像剤を収容させる容器と、容器内に軸架された現像ローラを備え、静電潜像が形成される感光体に対向配置されるものが一般的である。
さらに、上述した現像ローラは、一成分現像剤や二成分現像剤などの現像剤の種類や、現像法に応じて様々なタイプのものがあるが、その中で、例えば、複数の固定磁極を有するマグネットローラと、非磁性で円筒状に形成されマグネットローラを中心に回転可能に設けられた現像スリーブとを備えたものがある。
このような現像スリーブを備えた現像装置は、マグネットローラの磁力により現像剤が現像スリーブ表面に引き寄せられ、その現像スリーブの回転により、容器内の現像剤が感光体に向かって搬送されるようになっている。
【0003】
ところで、この種の現像装置は、容器内の現像剤を感光体に向かって効率的に搬送させるために様々な工夫がなされているが、その一例として、上述した現像スリーブの表面に軸方向に延びるV型状の溝を形成して、粉末状の現像剤が引っ掛かりやすく(現像剤が現像スリーブの表面から滑り落ちないようにする)している場合がある。
例えば、回転スラスト方向に対して鋭角に傾斜した方向に延びる複数の溝と、スラスト方向に対して反対側に鋭角に傾斜した方向に延びる複数の溝とが交差するように形成されてなるアヤメ状の溝を、そのスラスト方向に対する傾斜角度が0度より大きく、かつ40度以下の範囲内にしたものがある。この現像剤担持体は、現像剤保持量の経時低下を抑制できる極めて好適なものである(例えば特許文献1参照)。
この種の現像スリーブは、記録材への出力画像の更なる高画質化を満足するために、例えば、外周振れで0.02以下の極めて高精度の現像ローラが要求されている。
かかる要求を満足するために、上述したような従来の溝を有する現像スリーブの製造方法は、例えば、アルミニウム合金の押し出し引き抜き管からなる非磁性ブランクを用い、熱間押し出し加工によるV型状の溝を成形し、冷間引き抜き加工で小径・薄肉化し、その後、現像スリーブ外周部を旋削加工することで、外周振れの高精度化を行っていた。
【特許文献1】特開2007−127907公報(第1頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の現像スリーブは、上述した熱間押し出し加工の際に、その加工方法により偏肉(肉厚差)が発生しやすく(ポートホール押し出しで3%の偏肉発生が一般的)、偏肉が発生した場合、後工程である冷間引き抜き加工による塑性加工の割合(リダクション率)が円周上で異なってしまい、結果的に、円周方向での歪みが不均一になって曲がりが発生しやすかった。
さらに、冷間引き抜き加工の後工程である旋削加工は、V型状の溝が加工済みの非磁性ブランクの内周面をチャッキングして穴基準で旋削するため、要求する外周振れは得られるものの、スリーブの曲がりや偏肉に応じ円周方向での溝深さに偏差が生じてしまう恐れがあった。仮に、円周方向での溝深さに偏差が生じた現像スリーブを用いると、円周方向でトナー搬送量の多い箇所と少ない箇所とが発生してしまい、画像上の濃淡ムラとなってしまう。
そこで本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決できる現像スリーブの製造方法、現像スリーブ、現像ローラ、現像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術課題を達成するために、本発明にかかる現像スリーブ、現像ローラ、現像装置、及び、現像スリーブの製造方法は、下記の技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1にかかる現像スリーブの製造方法は、マンドレルに薄肉円筒状の非磁性ブランクを挿入し、そのマンドレルに挿入状態の前記非磁性ブランクを前記マンドレルに嵌着するようにしごき加工し、そのしごき加工により前記非磁性ブランクが前記マンドレルに嵌着した状態で、前記非磁性ブランクの表面に、粉末状の現像剤を引っ掛け可能な凹部を転造加工してなることを特徴とする。
請求項2にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項1において、前記非磁性ブランクの一方の口を内方へ折り曲げて前記マンドレルの先端面と当接する掛止面を形成する絞り加工を備え、前記非磁性ブランクの他方の口を前記マンドレルの挿入口にし、折り曲げた一方の口側を前記しごき加工の加工開始側としたことを特徴とする。
請求項3にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項2において、前記非磁性ブランクは、前記マンドレルの先端面と前記掛止面との当接状態時に、前記マンドレルの基端が露出可能な前記マンドレルより短い長さからなり、前記マンドレルの基端側から遊挿可能、かつ、前記ブランクの基端側の端面に当接可能な所要の径からなる貫通穴を形成したストリッパーを前記マンドレルの基端側から挿入し、前記非磁性ブランクの基端側の端面に前記ストリッパーを押し当てて、前記非磁性ブランクを前記マンドレルから抜き取る抜去工程を備えたことを特徴とする。
【0006】
請求項4にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項1乃至3の何れか1項において、前記凹部は、軸方向に複数延出したV型状の溝からなり、前記転造加工は、前記溝を転造加工可能な転造ダイスを用いることを特徴とする。
請求項5にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項4において、前記転造ダイスは、前記凹部の深さが概ね0.1〜0.15mmとなるように成形してあることを特徴とする。
請求項6にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項4または5において、前記転造ダイスは、前記凹部の深さの偏差が30%を越えないように成形してあること特徴とする。
請求項7にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項1乃至3の何れか1項において、前記凹部は、前記非磁性ブランクの外周面全域に形成した点状の凹窩からなり、前記転造加工は、前記凹窩を転造加工可能な転造ダイスを用いることを特徴とする。
【0007】
請求項8にかかる現像スリーブの製造方法は、請求項7において、前記転造ダイスは、前記点状の凹窩により、前記非磁性ブランクの外周面の表面粗さ(RZ)が概ね30μm〜40μmとなるように成形してあることを特徴とする。
請求項9にかかる現像スリーブは、薄肉円筒状に形成した非磁性ブランクの外周面に、粉末状の現像剤が引っ掛かり可能な複数の凹部を転造成形してなることを特徴とする。
請求項10にかかる現像スリーブは、請求項9において、前記非磁性ブランクは、AL−Mg−Si系の合金材であることを特徴とする。
【0008】
請求項11にかかる現像スリーブは、請求項9または10において、前記凹部は、軸方向に複数延出されたV型状の溝であることを特徴とする。
請求項12にかかる現像スリーブは、請求項9乃至11の何れか1項において、前記凹部の深さが、概ね0.1〜0.15mmであることを特徴とする。
請求項13にかかる現像スリーブは、請求項9乃至12の何れか1項において、前記凹部は、その深さの偏差が30%を越えないように転造成形されていること特徴とする。
請求項14にかかる現像スリーブは、請求項9または10において、前記凹部は、前記非磁性ブランクの外周面全域に形成された点状の凹窩であることを特徴とする。
請求項15にかかる現像スリーブは、請求項14において、前記非磁性ブランクの外周面の表面粗さ(RZ)は、前記点状の凹窩により、概ね30μm〜40μmであることを特徴とする。
請求項16にかかる現像ローラは、請求項9乃至15の何れか1項記載の現像スリーブを、複数の固定磁極を有するマグネットローラの外方に回転可能に設けてなることを特徴とする。
請求項17にかかる現像装置は、前記現像剤を収容させる容器と、その容器内に設けられた請求項16記載の現像ローラとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マンドレルに薄肉円筒状の非磁性ブランクを挿入し、そのマンドレルに挿入状態の非磁性ブランクをマンドレルに嵌着するようにしごき加工したことで、仮に、偏肉(肉厚差)が生じていても、そのしごき加工を経ることで、非磁性ブランクの肉厚を薄肉化及び均一化することができる。
そして、そのしごき加工により非磁性ブランクがマンドレルに嵌着した状態で、非磁性ブランクの表面に、粉末状の現像剤を引っ掛け可能な凹部を転造で加工することで、薄肉円筒状にもかかわらず、非磁性ブランクの曲がりや撓みが発生することなく、非磁性ブランクに忠実に凹部が転写するので、高精度の凹部を成形できる。したがって、個々の凹部の深さに偏差が生じないから、円周方向でトナー搬送量の多い箇所と少ない箇所が発生せず、画像上の濃淡ムラを抑制可能な現像スリーブを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態にかかる現像ローラAは、図1に示すように、現像スリーブ1と、マグネットローラ部2と、フランジ部3とを備えて構成されている。
現像スリーブ1は、AL−Mg−Si系の非磁性の合金材で薄肉円筒状に形成したブランクWの外周面に、軸方向に向かって平行に延出された複数のV型状の溝1a(凹部)が全周に亘って転造成形されていると共に、その両端側の内周面に所要深さに亘って拡径されたインロー部1bが形成されている。
この上述したブランクWは、後述するマグネットローラ22から現像スリーブ1表面までの距離を可能な限り短くするため(スリーブ上の磁力を高くするため)に、概ね0.7〜0.8mmの肉厚であり、例えば0.75mmの厚さで薄肉円筒状に形成されている。
【0011】
さらに、V型状の溝1a(凹部)は、図2に示すように、開き角θが概ね85°〜95°で、その深さHが概ね0.1〜0.15mmであり、深さの偏差が30%を越えないように転造成形されている。このように形成することで、トナーとキャリアとからなる二成分現像剤(その粒径は概ね30〜50μm)が、その複数のV型状の溝1aに効率的に引っ掛かり、現像剤の搬送性を向上させることができる。
なお、V型状の溝1aの深さが0.1mm以下では溝1aの深さが浅すぎてトナーの搬送が低下し画像濃度の薄いものとなりやすく、逆にV型状の溝1aの深さが0.15mmを超えると、トナー搬送においてV型状の溝1aのトナー高さが低くなり画像に濃淡ムラが発生しやすい。また、溝深さの偏差が30%を超えると、トナー搬送にムラが発生し、濃淡ムラが発生してしまう。
【0012】
この現像スリーブ1の他の態様としては、図3(1)に示すように、AL−Mg−Si系の非磁性の合金材で薄肉円筒状に形成したブランクWの外周面全域に、点状の凹窩1cを転造成形させても良い。この場合、ブランクWの外周面の表面粗さ(RZ)は、上述した現像剤の搬送性という点から、概ね30μm〜40μmとなるように転造成形させることが好ましい。30μm以下では現像剤の引っ掛かり量が少なくなり、40μm以上では、現像剤の引っ掛かり量にムラが発生し濃淡ムラが発生してしまう。
なお、図3(1)は、凹窩1cの成形ピッチを凹窩1cの直径より大きくしたものを図示しているが、凹窩1cの縁同士が連続するような成形ピッチでも良い。
また、図3(2)に示すように、ブランクWの外周面に軸方向に向かって平行に延出された複数のV型状の溝1a(凹部)と、その溝1aと直交するように環状に延出された複数のV型状の溝1a(凹部)とで十字状に転造成形させたり、アヤメ状に転造成形させたり、あるいは、図3(3)に示すように、所要長さの複数のV型状の溝1aを、ブランクWの軸方向中間部を境に略ハの字状に転造成形させても良い。
すなわち、転造による成形が可能で、かつ、現像剤の搬送性を高める形状であれば特に限定されない。なお、これらの現像スリーブ1の製造方法は後述する。
【0013】
マグネットローラ部2は、棒状に形成された芯金21と、両端から突出するようにその芯金21を挿嵌させ周方向に向かってN極(固定磁極)とS極(固定磁極)とを交互に配設させたマグネットローラ22とを備えて構成されている。このように構成されたマグネットローラ部2は、後述するフランジ部3によって現像スリーブ1内に支持されている。
フランジ部3は、円筒状のすべり軸受け32が内嵌され一方のインロー部1bに内嵌された従動側フランジ31と、一端面側に凹状のすべり軸受け34が内嵌される共に他端面側に支軸部35が突設されその支軸部35が外方に突出するように他方のインロー部1bに内嵌された駆動側フランジ33とを備えて構成されている。
このフランジ部3は、円筒状のすべり軸受け32と凹状のすべり軸受け34とで芯金21を軸支させてマグネットローラ22を支持させている。
このように現像ローラAは、マグネットローラ22の外方に現像スリーブ1が回転可能に構成されており、現像剤を収容させる容器内に現像スリーブ1が回転するように架設される。この現像ローラAと現像剤を収容させる容器とを備えて、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる現像装置が構成される。なお、本発明の要旨である転造スリーブ以外の構成は周知のものである。
【0014】
以上のように構成された本実施の形態にかかる現像ローラAは、薄肉円筒状に形成したブランクWの外周面に、二成分現像剤が引っ掛かり可能な複数のV型状の溝1a(凹部)を転造成形したことで、個々の溝1aの深さに偏差が生じないから、円周方向でトナー搬送量の多い箇所と少ない箇所が発生せず、画像上の濃淡ムラを抑制可能な現像スリーブ1を提供できる。
このように極めて好適な現像スリーブ1ではあるが、概ね0.7〜0.8mmの肉厚、例えば0.75mm厚さの薄肉円筒状でV型状の溝1a(凹部)を有した現像スリーブ1を形成するには、従来の一般的な転造加工ではなし得ない。すなわち、従来の一般的な転造加工を適用すれば、上述の薄肉円筒状のブランクWに転造ダイスEをそのまま押し付けることになるため、ブランクW自体が即座に塑性変形してしまう。
【0015】
そこで、本実施の形態にかかる薄肉円筒状の現像スリーブ1を形成するための特異な製造方法を以下に詳述する。
なお、本実施の形態にかかる現像スリーブ1と従来の現像スリーブとの外見上の差異を説明すると、従来の現像スリーブは、その製造方法により、円周方向での凹部(溝1a)の深さに偏差(許容範囲の)が生じていたり、スリーブ表面に形成された凹部に、押し出し加工、引き抜き加工、切削加工による加工特有の痕(引き抜き痕、切削による引き痕等)が生じていたりするが、本実施の形態にかかる現像スリーブ1では、これらが認められない。すなわち、引き抜き痕、切削による引き痕等がなく、高精度の凹部を有した薄肉円筒状の現像スリーブ1は、以下の製造方法を用いたものと推定できる。
【0016】
(1)絞り工程
まず、押し出し加工したAL−Mg−Si系のアルミニウム合金パイプを所望の内径、外径になるように引き抜き加工して、図4に示すようなブランクWを成形する。このとき、後工程でしごき加工を行うため、完成品肉厚の2倍から2.5倍のブランクWを押し出し加工、引き抜き加工により形成しておく(しごき加工における断面減少率(リダクション率)は一般的に50%〜60%であるため)。
そして、図5に示すように、所要長さに加工したブランクWの一端側を、底面が平坦な止まり穴状の絞り金型Bに押し当てて、一方の口を内方へ折り曲げ、丸棒状のマンドレルCの先端面c1と当接する掛止面w1を形成する。なお、このマンドレルCは、その基端c2側に汎用の工作機械にチャックキングさせるストレートまたはテーパーのシャンクc3が突設され、マンドレルCの先端面c1の中央にセンター穴c4が形成されている。
【0017】
(2)しごき工程
ブランクWの一方の口を内方へ折り曲げて掛止面w1を形成したら、ブランクWの他方の口を挿入口にして、マンドレルCの先端面c1が掛止面w1に当接するまでマンドレルCを挿入する。なお、このブランクWは、マンドレルCの先端面c1と掛止面w1とが当接し掛止した状態の時に、マンドレルCの基端c2が露出可能な長さになっている。
マンドレルCにブランクWをセットしたら、図6に示すように、ブランクWの外径より僅かに縮径した口径のしごきダイスDに向かって、折り曲げた一方の口側を加工の加工開始側として押し込んでいく。
このしごき加工により、ブランクWの肉厚が薄肉化及び均一化し、表面が滑らかになると同時にブランクWがマンドレルCに嵌着する。
【0018】
(3)転造工程
そのしごき加工によりブランクWがマンドレルCに嵌着したら、その状態で、ブランクWの表面に、2成分現像剤を引っ掛け可能なV型状の溝1a(凹部)を転造加工する。
すなわち、図7に示すように、V型状の溝1aを形成するための山形状の凸部e1が全周に亘って形成された転造ダイスE、または、点状の凹窩1cを形成するための凸部が全周に亘って形成された転造ダイスEと、バックアップローラGとの間に、マンドレルCに嵌着したブランクWを挟み込んで転造ダイスEを回転駆動する。転造ダイスEの回転により、ブランクW、バックアップローラGとが連れ回りし、これと同時に、ブランクWの表面に転造ダイスEの凸部e1が食い込んで凹部を転造成形する。このとき、ブランクWがマンドレルCに嵌着しているため、ブランクWにつぶれや曲がりが発生することなく、かつ、ブランクWが周方向に逃げることなく正確に転造していく。
【0019】
(4)抜去工程
このようにして、軸方向に向かって平行に延出された複数のV型状の溝1a(凹部)がブランクWの表面全周に転造成形したら、図8に示すように、マンドレルCの基端c2側から遊挿可能、かつ、ブランクWの基端側の端面に当接可能な所要径の貫通穴を形成したストリッパーFを、マンドレルCの基端c2側から遊挿し、ストリッパーFの位置を固定し、シャンクc3を介してマンドレルCを引き抜く。
マンドレルCを引き抜いたら、図9に示すように、ブランクWの両端側の内周面を、所要深さに亘って拡径するようにインロー部1bを旋削加工し、その後、洗浄処理をして、高精度の凹部を転造成形した薄肉円筒状の現像スリーブ1が完成する。
このように本実施の形態にかかる現像スリーブ1の製造方法によれば、押し出し加工、引き抜き加工でブランクWを成形した際に、仮に、偏肉(肉厚差)が生じていても、(2)のしごき工程を経ることで、ブランクWの肉厚を薄肉化及び均一化することができる。
そして、そのしごき工程によりブランクWをマンドレルCに嵌着し、その状態で転造加工を行うので、薄肉円筒状にもかかわらず、ブランクWの曲がりや撓みが発生することなく、転造ダイスEの転造面がブランクWに忠実に転写するので、高精度の凹部を成形できる。したがって、個々の凹部の深さに偏差が生じないから、円周方向でトナー搬送量の多い箇所と少ない箇所が発生せず、画像上の濃淡ムラを抑制可能な現像スリーブ1を製造できる。
また、本実施の形態にかかる現像スリーブ1の製造方法は、特殊な工作機械や工具を用いることなく汎用の工作機械で実施可能であるため、生産コストを抑えることができる。
【0020】
以上、本実施の形態にかかる現像ローラA、現像スリーブ1の製造方法を説明したが、上述した実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変形実施が可能である。
例えば、本実施の形態では、(2)しごき工程の直後に(3)転造工程を経る製造方法を例示したが、要求される精度がより高精度化の場合、図10に示すように、しごき加工後、マンドレルCにブランクWが嵌着した状態で、マンドレルCのシャンクc3を汎用工作機械のチャックM1に取り付け、マンドレルCのセンター穴c4に汎用工作機械のセンターM2を係合させて汎用工作機械にセットし、所望の精度になるように切削工具K(または研削工具)を用いて旋削加工を行っても良い。この場合、ブランクWとマンドレルCとが嵌着した状態での旋削加工なので、加工時の旋削負荷や回転によるブランクWの曲がりが生じないので極めて高精度の加工ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態にかかる現像ローラの縦断正面図である。
【図2】現像スリーブの部分拡大縦断側面図である。
【図3】現像スリーブの他の態様を示した正面図であり、(1)は点状の凹窩を転造成形した現像スリーブの正面図、(2)は複数のV型状の溝で十字状に転造成形した現像スリーブの正面図、(3)複数のV型状の溝で略ハの字状に転造成形した現像スリーブの正面図である。
【図4】本実施の形態にかかる現像スリーブの製造工程図である。
【図5】図3に続く製造工程図である。
【図6】図4に続く製造工程図である。
【図7】図5に続く製造工程図である。
【図8】図6に続く製造工程図である。
【図9】図7に続く製造工程図である。
【図10】旋削加工の模式図である。
【符号の説明】
【0022】
A 現像ローラ、1 現像スリーブ、1a V型状の溝、θ 溝の開き角、H 溝の深さ、1b インロー部、1c 凹窩、2 マグネットローラ部、21 芯金、22 マグネットローラ、3 フランジ部、31 従動側フランジ、32 円筒状のすべり軸受け、33 駆動側フランジ、34 凹状のすべり軸受け、35 支軸部、W ブランク、w1 掛止面、B 絞り金型、C マンドレル、c1 先端面、c2 基端、c3 シャンク、c4 センター穴、D しごきダイス、E 転造ダイス、e1 凸部、F ストリッパー、G バックアップローラ、K 切削工具、M1 チャック、M2 センター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルに薄肉円筒状の非磁性ブランクを挿入し、そのマンドレルに挿入状態の前記非磁性ブランクを前記マンドレルに嵌着するようにしごき加工し、そのしごき加工により前記非磁性ブランクが前記マンドレルに嵌着した状態で、前記非磁性ブランクの表面に、粉末状の現像剤を引っ掛け可能な凹部を転造加工してなることを特徴とする現像スリーブの製造方法。
【請求項2】
前記非磁性ブランクの一方の口を内方へ折り曲げて前記マンドレルの先端面と当接する掛止面を形成する絞り加工を備え、前記非磁性ブランクの他方の口を前記マンドレルの挿入口にし、折り曲げた一方の口側を前記しごき加工の加工開始側としたことを特徴とする請求項1記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項3】
前記非磁性ブランクは、前記マンドレルの先端面と前記掛止面との当接状態時に、前記マンドレルの基端が露出可能な前記マンドレルより短い長さからなり、前記マンドレルの基端側から遊挿可能、かつ、前記ブランクの基端側の端面に当接可能な所要の径からなる貫通穴を形成したストリッパーを前記マンドレルの基端側から挿入し、前記非磁性ブランクの基端側の端面に前記ストリッパーを押し当てて、前記非磁性ブランクを前記マンドレルから抜き取る抜去工程を備えたことを特徴とする請求項2記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項4】
前記凹部は、軸方向に複数延出したV型状の溝からなり、前記転造加工は、前記溝を転造加工可能な転造ダイスを用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項5】
前記転造ダイスは、前記凹部の深さが概ね0.1〜0.15mmとなるように成形してあることを特徴とする請求項4記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項6】
前記転造ダイスは、前記凹部の深さの偏差が30%を越えないように成形してあること特徴とする請求項4または5記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項7】
前記凹部は、前記非磁性ブランクの外周面全域に形成した点状の凹窩からなり、前記転造加工は、前記凹窩を転造加工可能な転造ダイスを用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項8】
前記転造ダイスは、前記点状の凹窩により、前記非磁性ブランクの外周面の表面粗さ(RZ)が概ね30μm〜40μmとなるように成形してあることを特徴とする請求項7記載の現像スリーブの製造方法。
【請求項9】
薄肉円筒状に形成した非磁性ブランクの外周面に、粉末状の現像剤が引っ掛かり可能な複数の凹部を転造成形してなることを特徴とする現像スリーブ。
【請求項10】
前記非磁性ブランクは、AL−Mg−Si系の合金材であることを特徴とする請求項9記載の現像スリーブ。
【請求項11】
前記凹部は、軸方向に複数延出されたV型状の溝であることを特徴とする請求項9または10記載の現像スリーブ。
【請求項12】
前記凹部の深さが、概ね0.1〜0.15mmであることを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の現像スリーブ。
【請求項13】
前記凹部は、その深さの偏差が30%を越えないように転造成形されていること特徴とする請求項9乃至12の何れか1項記載の現像スリーブ。
【請求項14】
前記凹部は、前記非磁性ブランクの外周面全域に形成された点状の凹窩であることを特徴とする請求項9または10記載の現像スリーブ。
【請求項15】
前記非磁性ブランクの外周面の表面粗さ(RZ)は、前記点状の凹窩により、概ね30μm〜40μmであることを特徴とする請求項14記載の現像スリーブ。
【請求項16】
請求項9乃至15の何れか1項記載の現像スリーブを、複数の固定磁極を有するマグネットローラの外方に回転可能に設けてなることを特徴とする現像ローラ。
【請求項17】
前記現像剤を収容させる容器と、その容器内に設けられた請求項16記載の現像ローラとを備えたことを特徴とする現像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−168905(P2009−168905A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4271(P2008−4271)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】