説明

現像剤担持体の製造方法

【課題】負帯電性トナーへの良好な摩擦帯電付与性能のバラツキが少ない現像剤担持体を量産する。
【解決手段】(1)アルミニウム製の円筒状基体の外周に塗料組成物の塗膜を形成する工程と、(2)該塗膜を、該塗膜の最高到達温度が160℃以上220℃以下となるように加熱して硬化させ、厚さが5μm以上30μm以下の樹脂層を形成する工程とを有し、該塗料組成物は−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、アルコール溶媒、該アルコール溶媒に可溶な第4級ホスホニウム塩化合物および導電性粒子を含有し、工程(2)における塗膜の温度プロファイルにおいて、加熱開始からq秒後における該塗膜の温度をT(q)℃としたときに、下記式(1)で定義されるαが、7.8×103以上4.8×104以下となるように総加熱時間Qを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は現像剤担持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第4級アンモニウム塩化合物を−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有する特定のレゾール型フェノール樹脂中に添加した樹脂層を有する現像剤担持体が開示されている。そして、この現像剤担持体によれば、高摩擦帯電量を有するトナーの摩擦帯電量を適正化できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−40797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、第4級アンモニウム塩化合物を特定のレゾール型フェノール樹脂中に添加した樹脂層を有する現像剤担持体の製造は150℃の雰囲気下の加熱装置内に30分間投入して加熱硬化を行っている。ところで、現像剤担持体の製造コストを下げるために、現像剤担持体1本あたりの製造時間(タクトタイム)を短くすることが好ましい。しかしながら、上記加熱硬化時間を短くすると、塗料組成物の硬化が不十分となりやすい。これを避けるためには、加熱硬化温度を従来よりも高くすることが考えられる。しかしながら、高温かつ短時間で加熱硬化を行なった場合、同一条件で製造した複数本の現像剤担持体の間で、負帯電性トナーに対する摩擦帯電制御性にばらつきが生じることがあった。そこで、本発明の目的は、性能のばらつきが生じにくい現像剤担持体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る現像剤担持体の製造方法は、(1)アルミニウム製の円筒状基体の外周に塗料組成物の塗膜を形成する工程と、
(2)該塗膜を、該塗膜の最高到達温度が160℃以上220℃以下となるように加熱して硬化させ、厚さが5μm以上30μm以下の樹脂層を形成する工程とを有する現像剤担持体の製造方法であって、
該塗料組成物は−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、アルコール溶媒、該アルコール溶媒に可溶な第4級ホスホニウム塩化合物および導電性粒子を含有し、かつ、
該工程(2)は、該工程(2)における加熱中の該塗膜の温度を測定して得られる温度プロファイルにおいて、加熱開始からq秒後における該塗膜の温度をT(q)℃としたときに、下記式(1)で定義されるαが、7.8×103以上4.8×104以下となるように総加熱時間Qを調整することを特徴とする:
【0006】
【数1】

【0007】
[式(1)中、Tは塗膜の温度(℃)、T(q)は該工程(2)における塗膜の加熱開始からq秒後における塗膜の温度(℃)、Qは該工程(2)における該塗膜の総加熱時間(秒)を示す。]。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負帯電性トナーへの良好な摩擦帯電付与性能のバラツキが少ない現像剤担持体を量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施例で使用した加熱装置の断面図である。
【図2】本実施例で使用した加熱装置の平面図である。
【図3】αの計算方法を示した図である。
【図4】アルミニウム製円筒状基体の温度プロファイルの概略図である。
【図5】アルミニウム製円筒状基体の温度プロファイルの概略図である。
【図6】アルミニウム製円筒状基体の温度プロファイルの概略図である。
【図7】アルミニウム製円筒状基体の温度プロファイルの概略図である。
【図8】現像剤担持体の樹脂層表面の研磨方法の説明のための概略図である。
【図9】現像装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について以下に詳細に説明する。
〔基体〕
本発明に係る現像剤担持体の基体としてはアルミニウム製の基体を用いる。アルミニウムは熱伝導性が高いため、周囲の熱を受けて、短時間で基体表面の温度分布を均等にできる。そのため、アルミニウム製の基体上に塗布された樹脂層にも熱が早く伝わる。このため樹脂層を加熱硬化するために要する時間を短くすることができ、生産性が向上する。また、基体の形状としては円筒形状のものを用いる。これにより、基体表面からだけでなく、基体内部の中空の部分からも基体へ熱が伝わり、基体の温度の上昇をさらに速くすることができる。また熱の伝わりやすさの点からアルミニウム製の基体の厚みは、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。また基体の外径は現像性の安定化や熱の伝わりやすさの点から、10mm以上32mm以下であることが好ましい。アルミニウム製基体は画像の均一性を良くするために、高精度に成型あるいは加工されて用いられる。前記、アルミニウム製基体の長手方向の真直度は20μm以下、特には、10μm以下が好ましい。また、現像剤担持体と感光体ドラムとの間隙の振れは20μm以下、特には10μm以下であることが好ましい。
〔塗料組成物〕
本発明に係る塗料組成物は、第4級ホスホニウム塩化合物、特定のレゾール型フェノール樹脂(結着樹脂)、導電性粒子、アルコール溶媒を含む。
〔第4級ホスホニウム塩化合物〕
アルコール溶媒に可溶な第4級ホスホニウム塩化合物を含有する樹脂層を形成することが、トナーに対する摩擦帯電制御性のばらつきが少ない現像剤担持体を製造するために必要である。第4級ホスホニウム塩化合物としては、具体的には例えば下記構造式(1)で示されるものが挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
上記構造式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、炭素数2〜3のアルケニル基及び炭素数1〜7のアルキル基から選ばれる何れかを示す。A-は、アニオンを示す。ここで、樹脂層の形成に用いる塗料中に、樹脂層中に分散させる黒鉛化粒子や黒鉛化カーボンブラックを含有させる場合には、上記構造式(1)中のR1〜R4から選ばれる1以上4以下の基をフェニル基又はベンジル基とすることが好ましい。即ち、樹脂層に黒鉛化粒子や黒鉛化カーボンブラック(以降「黒鉛化粒子等」ともいう)を極性の高いフェノール樹脂溶液に良好に分散させる場合、表面に官能基を持っていない黒鉛化粒子等とフェノール樹脂溶液を湿潤させる必要がある。本発明者らは、黒鉛化粒子等が豊富に持っているπ電子に着目し、特定構造の第4級ホスホニウム塩化合物をフェノール樹脂用溶液中に添加することで、黒鉛化粒子等がフェノール樹脂溶液により良好に湿潤されることを見出した。すなわち、第4級ホスホニウム塩化合物のR1〜R4から選ばれる1以上4以下の基がフェニル基またはベンジル基である場合、第4級ホスホニウム塩化合物と黒鉛化粒子等のπ−π結合により両者が吸着され、良好に湿潤される。また、R1〜R4のうちの、フェニル基またはベンジル基でない基が、炭素数2〜3のアルケニル基や炭素数1〜7のアルキル基であると、第4級ホスホニウム塩化合物とフェノール樹脂溶液の相溶性が良好となる。その結果、フェノール樹脂溶液中に黒鉛化粒子等が良好に分散させることが可能となる。また、A−で示されるアニオンの具体例としては、ハロゲンイオン、OH-、有機酸イオン及び無機酸イオン等が挙げられる。中でも、フェノール樹脂に添加して塗料とした場合の保存安定性がより優れる傾向にあることから、ハロゲンイオン又はOH-であることが好ましい。下記表1に、本発明に好適に用いられる第4級ホスホニウム塩化合物を列記する。
【0013】
【表1】

【0014】
従来、第4級ホスホニウム塩化合物はトナーの正の摩擦帯電量を高める為の荷電制御剤として用いられている。しかしながら、本発明では、これら第4級ホスホニウム塩化合物を特定の結着樹脂に添加することで、該結着樹脂との相互作用により樹脂層の正の摩擦帯電特性(トナーへの負の摩擦帯電付与性)を抑制する方向に働く。つまり、負帯電性トナーを用いた場合過剰な摩擦帯電を防止することできる。これにより、現像剤担持体上でのトナーのチャージアップを防ぎ、トナーの摩擦帯電量を適切に維持でき、その結果、高精細画像を提供することが可能となる。この明確な理由は定かではないが、本発明で好適に用いられる第4級ホスホニウム塩化合物は、構造中に−NH2基、=NH基または−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂中に添加され均一に溶解される。この樹脂が加熱硬化され架橋が進む際に、−NH2基、=NH基または−NH−結合と何らかの相互作用を及ぼし、第4級ホスホニウム塩化合物がフェノール樹脂の骨格中に取り込まれるのではないかと推測している。そして、第4級ホスホニウム塩化合物が取り込まれた結着樹脂は、第4級ホスホニウムイオンのカウンターイオンの帯電極性が発現するようになり、その結果、樹脂層が負の摩擦帯電性を持つようになるものと考えられる。このような効果を発現させるためには、第4級ホスホニウム塩化合物を溶液中で溶解し、イオンとして電離させる必要がある。そのため本発明では、第4級ホスホニウム塩化合物が溶解できるアルコールを使用する。なお、これら第4級ホスホニウム塩化合物の樹脂層中での存在を確認するには、例えば、現像剤担持体表面からの研削やクロロホルムの如き溶媒による抽出で採取したサンプルを、GC−MSの如き方法で測定することによりその存在の確認が可能である。
【0015】
樹脂層中に第4級ホスホニウム塩化合物を含有する現像剤担持体は、高温かつ短時間の加熱硬化においても負帯電性トナーへの帯電制御能が安定している。これは本発明に用いる第4級ホスホニウム塩化合物が熱安定性に優れ、また結着樹脂との反応性に優れるためであると考えている。そのため、本発明のような加熱硬化条件においても、個々の現像剤担持体の帯電制御能にばらつきが生じることなく、ほぼ同等の性能を有する現像剤担持体を短時間に大量生産することが可能なのであると推測している。一方、従来技術である第4級アンモニウム塩化合物を含有する現像剤担持体では、160℃を超えるような高温においては第4級アンモニウム塩化合物自身が分解しやすく、所望の帯電制御性を得ることができない場合がある。このように帯電制御性のコントロールが不安定な加熱硬化条件にて現像剤担持体を製造すると、現像剤担持体の摩擦帯電特性の安定化を図ることが困難となる。本発明で使用する第4級ホスホニウム塩化合物の添加量は、結着樹脂100質量部に対して5質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。この範囲とすることで負帯電性トナーの摩擦帯電量を適切にすることができ、高画質な画像を得ることができる。
〔フェノール樹脂〕
次に結着樹脂について説明する。本発明においては、−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂を使用することが特徴である。窒素化合物を触媒としたフェノール樹脂は、その構造中に−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有する。例えば、フェノール樹脂を、アンモニア触媒の存在下にて重合した場合は、アンモニアレゾールと呼ばれる中間体が生成されることが一般的に確認されており、反応終了後においても下記の化学式(2)のような構造としてフェノール樹脂中に存在する。このようなアンモニアレゾール中間体を生成するフェノール樹脂を用いることで、加熱硬化時に第4級ホスホニウム塩化合物がフェノール樹脂の構造中に取り込まれやすく、良好な現像特性が得られる。
【0016】
【化2】

【0017】
フェノール樹脂の製造工程において触媒に用いる含窒素化合物の具体例を以下に示す。酸性触媒としては、硫酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、スルファミド酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウムおよびマレイン酸アンモニウム等。塩基性触媒としては以下の化合物が挙げられる。アンモニア、或はジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジアミルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルアミン、トリアミルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、N、N−ジn−ブチルアニリン、N、N−ジアミルアニリン、N、N−ジt−アミルアニリン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、n−ブチルジエタノールアミン、ジn−ブチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラアミン等のアミノ化合物、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン等のピリジン及びその誘導体、キノリン化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールの如きイミダゾール及びその誘導体、の含窒素複素環式化合物。これらフェノール樹脂に関しては、IR(赤外吸収分光法)やNMR(核磁気共鳴分光法)の如き方法で測定することにより、その構造の分析をすることが可能である。
〔アルコール〕
本発明に使用することができるアルコールとしては、特に限定はないが、第4級ホスホニウム塩化合物を溶解しやすい極性を有するアルコールが好ましい。具体的には炭素数が6以下の低級アルコールが高い極性を有する点で好ましい。これらは単独で用いても良いし、複数のアルコールを混合させて用いても良い。
〔球状粒子〕
本発明の塗料組成物には、現像剤担持体の表面に凹凸を形成するための球状粒子を含有させることができる。球状粒子としては樹脂粒子、アルミナ、酸化物(酸化亜鉛、シリコーン、酸化チタン、酸化錫等)の粒子、炭素化粒子、導電処理を施した樹脂粒子等。
〔導電性粒子〕
本発明の塗料組成物には、樹脂層の体積抵抗値の調整、チャージのリークサイトの付与、トナーとの離形性付与を目的として、導電性粒子が含有されている。導電性粒子としては、特に黒鉛化度p(002)が0.20以上0.95以下である黒鉛粒子が好ましい。なお、黒鉛化度p(002)とは、フランクリンのp値といわれるもので、該黒鉛粒子のX線回折図から得られる黒鉛の格子間隔d(002)から、下記計算式で求められる。このp(002)値は、炭素の六方網目平面の積み重なりのうち、無秩序な部分の割合を示すもので、この値が小さいほど黒鉛化の程度が大きい。
【0018】
d(002)=3.440−0.086(1−p2
黒鉛粒子のp(002)を特定の範囲とすることで、トナーへの安定的な帯電制御能および、高潤滑性を有することができる。
【0019】
本発明で使用できる黒鉛粒子として、グラファイト、及びメソカーボンマイクロビーズ又はバルクメソフェーズピッチ粒子を焼成して得られた黒鉛粒子を挙げることができる。このうち、メソカーボンマイクロビーズ又はバルクメソフェーズピッチ粒子を焼成して得られた黒鉛粒子を使用することがより好ましい。本発明の塗料組成物には、樹脂層の体積抵抗値を調整するためには、前記黒鉛粒子に加えて、下記に挙げる導電性粒子を樹脂層中に添加することが好ましい。これらは単独で添加しても良いし、また複数の導電性粒子を添加させても良い。アルミニウム、銅、ニッケル、銀の如き金属の微粉末;酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、チタン酸カリウムの如き導電性金属酸化物;ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックの如きカーボンブラック;更には、各種カーボンファイバー、金属繊維。本発明においては、中でもカーボンブラック、とりわけ導電性のアモルファスカーボンは、特に電気伝導性に優れ、高分子材料に充填して導電性を付与し、その添加量をコントロールするだけで、ある程度任意の導電度を得ることができるため好適である。
〔樹脂層〕
本発明において、基体の外周に形成される樹脂層の層厚としては、5μm以上30μm以下である。またこの樹脂層の体積抵抗値は、104Ω・cm以下、特には、103Ω・cm以下が好ましい。この範囲にすることにより、チャージアップによる現像剤の現像剤担持体上への固着や、現像剤のチャージアップに伴って生じる現像剤担持体の表面から現像剤への摩擦帯電付与の不良を未然に防ぐことができる。また、本発明において導電性粒子の添加量は、結着樹脂100質量部に対して20質量部以上100質量部以下が好ましい。20質量部以上とすることで、樹脂層の体積抵抗値を所望のレベルに下げることができ、また100質量部以下であると、樹脂層の強度(耐摩耗性)を維持することが可能である。
【0020】
本発明の樹脂層の形成は、各成分を溶剤中に分散混合して塗料化し、円筒状基体の外周に塗料組成物を塗布し、加熱硬化させることにより達成できる。各成分の分散混合には、サンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル、パールミルの如きビーズを利用した公知の分散装置が好適に利用可能である。また、塗工方法としては、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法の如き公知の方法が適用可能である。これらの塗工方法の中で、スプレー法は樹脂層の膜厚を耐久性に必要な膜厚以上にすることなく、適切な膜厚で樹脂層を形成できるため、短時間で塗料組成物を加熱硬化し易い点で好ましい。
〔現像剤担持体の製造〕
本発明に係る現像剤担持体の製造方法は、(1)上記の塗料組成物の塗膜をアルミニウム製の円筒状基体の外周に形成する工程と、(2)該塗膜を、該塗膜の最高到達温度が160℃以上220℃以下となるように加熱して硬化させ、厚さが5μm以上30μm以下の樹脂層を形成する工程とを有する。そして、工程(2)においては、当該工程(2)における加熱中の塗膜の加熱開始からq秒後における該塗膜の温度をT(q)℃としたときに、該工程(2)における該塗膜の温度T(q)の温度プロファイルにおいて、下記式(1)で定義するαが7.8×103以上4.8×104以下となるように総加熱時間(Q秒)を調整する。
【0021】
【数2】

【0022】
上記式(1)で求まるαは、温度と時間の積で表される、塗膜が加熱中に受ける熱量に相当する。塗膜の最高到達温度を160℃以上220℃以下に制御した上でαを7.8×103以上4.8×104以下となるように総加熱時間Qを設定することで、摩擦帯電付与能に優れた現像剤担持体を安定的に得ることが可能となる。すなわち、前記の加熱条件に設定することで塗膜中の第4級ホスホニウム塩化合物と−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂との反応が均一に進行する。その結果、所定の摩擦帯電付与能を有する現像剤担持体を安定して製造することができる。最高到達温度が160℃以上220℃以下でαが7.8×103未満であると塗膜中の第4級ホスホニウム塩化合物と−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂との反応が均一に進行しにくくなる。その結果、適切な摩擦帯電付与能を有する現像剤担持体を製造することができず、高画質な画像を得ることができない。加えて、塗膜の加熱硬化反応が不十分となり、現像剤担持体の樹脂層の耐久性も不十分なものとなってしまう。最高到達温度が160℃以上220℃以下でαが4.8×104を超えると過度の熱量が加わることによる樹脂層の劣化が起こる。また第4級ホスホニウム塩化合物の分解反応も起こり、所望の摩擦帯電付与能を有する現像剤担持体を安定的に製造することが困難となる。
【0023】
ここで、塗膜の最高到達温度を160℃を下回っていると、αが4.8×104を超えていても第4級ホスホニウム塩化合物と−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂との反応が十分に進行しにくくなる。また、最高到達温度が220℃を超えると、αが7.8×103以上4.8×104以下であっても塗膜の厚み方向での均一な硬化が進行しにくくなる。なお、本発明における塗膜の温度(T)は、塗膜が加熱により硬化して形成される樹脂層の層厚を5μm以上30μm以下と薄く設定していることから、樹脂層と基体表面との温度差は実質的に無視し得るところ、基体表面の温度として測定される温度とする。
【0024】
本発明に係る、総加熱時間Qは、90秒乃至300秒の範囲内で設定することが好ましい。この範囲内であれば、負帯電性トナーへの摩擦帯電制御性がより安定し、濃度、ゴーストともにより良好な画像を得ることができる。300秒を超えると摩擦帯電制御性にほとんど差が出なくなるため、タクトタイムを考慮すると、加熱時間を300秒よりも長く設定することに意味がない。また、300秒以下であれば第4級ホスホニウム塩化合物の分解反応も、塗膜の最高到達温度が220℃以下であることを前提として生じない。なお、本発明における総加熱時間Qとは、塗膜が表面に形成された基体が、加熱状態にある加熱硬化装置内の滞留時間と同義である。即ち、本発明に係る被加熱体である塗膜は、膜厚が5〜30μmの樹脂層形成用の塗膜であることから極めて薄く、かつ、熱伝導率の高いアルミニウム基体上に形成されている。そのため、加熱硬化装置から常温の室内に取り出した直後には、フェノール樹脂の硬化膜の特性に影響を与え得る温度と考えられる130℃以下に温度が低下している。そのため、加熱硬化装置から取り出し直後の余熱については無視し得るものである。
【0025】
本発明で使用することができる加熱硬化装置としては、塗布した塗料組成物の温度を160℃以上にすることができる加熱装置ならば特に限定はない。汎用性の面から熱風加熱装置、近赤外線加熱装置、遠赤外線乾燥機が好ましい。また、加熱装置の形状としては、効率的に加熱を行い得るため、基体の形状に合わせた円筒形状のものが好ましい。円筒形状の装置の場合、上下の面は基体の径の1.1倍から3倍の円形面であることが良く、高さは基体の長さの1倍から3倍程度が良い。上下の面が基体の1.1倍から3倍であれば、アルミニウム製円筒状基体が加熱されやすく熱効率が良い。高さが基体の長さがの1倍から3倍であれば、基体の熱分布が一様となり長手方向で均一に加熱することができる。つまり加熱装置の容量が基体の容量に対して、1.2倍から18倍程度であることが短時間での加熱硬化を行うためには好ましい。
【0026】
本発明の製造方法によって作製した現像剤担持体は、樹脂層表面に黒鉛粒子の露出性を高める目的で、表面処理工程として、表面に磨き加工を施すことが好ましい。この理由は、トナーに対する摩擦帯電付与能力や潤滑性を高めることができるためである。磨き加工としては、フェルト、織布、紙の如き砥粒を含まない磨き部材を用いても良いが、研磨粒子を表面に担持した帯状研磨材を用いた方が効率の面から好ましい。帯状研磨材としては、酸化アルミニウム、シリコンカーバイト、酸化クロム、ダイヤモンドの如き比較的高硬度の微粒子を、ポリエステルの如きフィルムに塗布・固定したものが効率的に研磨されやすいため好ましく使用できる。また、これら研磨粒子の粒度としてはJIS R6001−1998において#800以上のものが好ましい。粒度が#800未満(粗すぎるもの)では、樹脂層の表面粗さが不均一になり易い。
【0027】
以下に、本発明で用いることのできる磨き加工法の一例を示す。図8は現像剤担持体表面の樹脂層の表面処理を行うための磨き装置を示す概略図である。図8の磨き装置は、帯状研磨材(研磨テープ)6の繰り出し軸9、巻き取り軸10を備えており、帯状研磨材6は、現像剤担持体1をプーリ7の間に保持し、さらにプーリB8に図の如く掛けまわされている。プーリB8を上下(矢印aの方向)に変位させることによって、帯状研磨材6の現像剤担持体1への当接力を調節できる。また、プーリA7を左右(矢印bの方向)に変位させることで帯状研磨材6の現像剤担持体1への巻き付け角度θを調節することができる。なお、帯状研磨材6は繰り出し軸9から順次繰り出し可能になっており、引き取り軸10に使用後の帯状研磨材6は巻き取られる。ここで磨き装置のこれら部材7乃至10は1つの台に載置されていて、この台を紙面に垂直な方向、即ち現像剤担持体1の長手方向に移動させることにより、回転駆動されている現像剤担持体1をその長手方向に沿って摺擦磨きすることができる。なお、台を移動させず、現像剤担持体1自身を回転駆動しながら長手方向に移動させてもよい。この磨き装置では、研磨強度を、例えば帯状研磨材6の現像剤担持体1への当接力、帯状研磨材6の移動速度、及び研磨粒子の材質や粒径によって任意の範囲で調整することが可能である。
【0028】
図9は、本発明により製造された現像剤担持体を組み込んだ現像装置の一例を示す模式図である。図9に示した現像装置は、トナーを収容するための容器(現像容器17)と、前記容器に貯蔵された磁性トナー(不図示)を担持搬送するための現像剤担持体1を有している。現像容器17は磁性トナーを現像剤担持体1へ安定的に供給するために現像剤供給部材23、仕切り部材21、攪拌搬送部材18、攪拌部材22、第一室20、第二室19を備えている。この現像容器17から前記現像剤担持体1に供給された磁性トナーは現像剤層厚規制部材(磁性ブレード)15によりAの方向に回転する前記現像剤担持体1上にトナー薄層を形成する。次いで現像剤担持体1上のトナーをBの方向に回転する感光体ドラム14と対向する現像領域Cへと搬送する。次いで前記感光体ドラム14の静電潜像を搬送されたトナーにより現像し、トナー像を形成する。現像剤担持体1の内部には磁性部材13が嵌入されている。また、現像剤担持体1と感光体ドラム14に電位差を設けるために現像バイアス電源16が設置されている。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を説明する。まず、以下に本発明に関わる物性の測定方法について述べる。
(1)現像剤担持体表面の算術平均粗さ(Ra)の測定
現像剤担持体を装置に組み込む前に現像剤担持体の表面の算術平均さ(Ra)を、JIS B0601−2001に従って測定した。測定には、表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダSE−3500、株式会社小坂研究所製)を用いた。測定箇所としては、現像剤担持体の軸に沿う方向に3ヶ所(中心1ヶ所および両端から3cmの箇所)及び、周方向の6ヶ所(60°回転毎)の計18ヶ所とした。そして、各々の測定箇所における測定値の平均値を、測定対象とした現像剤担持体の表面粗さとした。なお、各測定箇所におけるRaの測定に際しては、カットオフを0.8mm、測定距離を8.0mm、送り速度を0.5mm/secとした。
(2)現像剤担持体の樹脂層の層厚
デジタル寸法測定器:LS−7070M(装置名、株式会社キーエンス製)を防振台の上に設置し、塗料組成物を塗布する前のアルミニウム製円筒状基体の外径を長手方向に3点(中心1ヶ所および両端から3cmの箇所)測定してその平均値を外径とした。その後、塗料組成物を塗布し樹脂層が形成された該アルミニウム製円筒状基体の前記対応箇所3点において外径を同様に測定する。それぞれの平均値の差を2で割って現像剤担持体の樹脂層の層厚とした。
(3)αの測定
αは以下のように測定した。まず、アルミニウム製円筒状基体表面の温度を以下のように測定する。アルミニウム製円筒状基体を長手方向に三等分し、三等分したそれぞれの位置に温度センサ:ST−13K−008(装置名、安立計器株式会社製)を貼り付け、温度センサをサーモロガー:AM−8000K(装置名、安立計器株式会社製)に接続する。加熱装置内にこのアルミニウム製円筒状基体を入れ、1秒ごとに温度を1℃単位で記録し、各3点の温度の平均値をとり、温度プロファイルを得る。既に所定の加熱出力にプログラムされている加熱装置内にアルミニウム製円筒状基体を投入した直後を0秒とし、q秒後のアルミニウム製円筒状基体表面の温度をT(q)℃とする。加熱時間がQ秒の時、式(1)よりαを得ることができる。実際の計算では、図3のように1秒ごとに四角形を作成し、それぞれの面積を加熱終了時まで積算して得られた値をαとした。つまり、本発明では以下の計算を行った。
α=T(0)×(1−0)+T(1)×(2−1)+・・・+T(q−1)×(q−(q−1))+・・・+T(Q−1)×(Q−(Q−1))
この計算により得られた値の10の位を四捨五入し、αとした。
(4)黒鉛粒子の黒鉛化度p(002)
黒鉛化度p(002)は、マックサイエンス社製の強力型全自動X線回折装置“MXP18”システムにより、黒鉛のX線回折スペクトルから得られる格子間隔d(002)を測定することで、d(002)=3.440−0.086(1−P2)で求めた。尚、格子間隔d(002)は、CuKαをX線源とし、CuKβ線はニッケルフィルターにより除去している。標準物質に高純度シリコーンを使用し、C(002)及びSi(111)回折パターンのピーク位置から算出した。主な測定条件は以下のとおりである。
【0030】
【表2】

【0031】
(5)現像剤担持体樹脂層の引っかき硬度(鉛筆法)
測定はJIS K5600−5−4に準じて行った。現像剤担持体を水平に置き、手かき法にて樹脂層の硬度を測定した。測定は同一処方の20本の現像剤担持体について実施し、そのうち硬度の最も低いものを現像剤担持体の硬度とした。
(6)現像剤担持体樹脂層の密着性(クロスカット法)
測定はJIS K5600−5−6に準じて行った。切りこみの間隔は1mmで行った。但し、本評価では試験板としてアルミニウム製円筒状基体を用いた。樹脂層に垂直に切りこみがはいるように、曲率に合わせてスペーサーをあてがって切りこみを入れた。測定は同一処方の20本の現像剤担持体について実施し、そのうち樹脂層が剥がれた現像剤担持体が一つもなければ○、一つでもあれば×とした。
(7)現像剤担持体上のトナー帯電量(Q/M)
現像剤担持体上に担持されたトナーを、金属円筒管と円筒フィルターにより吸引捕集し、その際金属円筒管を通じてコンデンサーに蓄えられた電荷量Q、捕集されたトナー質量Mを測定した。これらの値から、単位質量当たりの電荷量Q/M(mC/kg)を算出した。測定は初期画出し(100枚)時に行った。同一処方の20本の現像剤担持体を用いて測定して得られた20回分の測定値の最大値、最小値および標準偏差を算出した。
【0032】
なお、以下の配合における部数は、特に断らない限り質量部である。また、基体は、特に断らない限り、アルミニウム製円筒状基体(外径24.5mmφ、中心線平均粗さRa=0.2μmの研削加工あり、円筒状基体の厚み0.7mm)である。
【0033】
また、以下に述べる実施例及び比較例で製造したすべての現像剤担持体は、加熱硬化後、空冷し、図8で示す磨き装置によって、樹脂層表面の研磨を行った。使用した帯状研磨材はAX−3000(商品名、富士フイルム株式会社製)であり、帯状研磨材の現像剤担持体への当接圧は25.0N、帯状研磨材の移動速度は40mm/s、現像剤担持体の回転速度は1050rpmとした。また、同一製造条件にて20本の現像剤担持体を作成した。加熱装置としては、図1及び図2に示す形状の半径30mm、高さ500mmのステンレス製円筒管の内壁全面に波長1μm以上の赤外線を放射するφ12mm、全長500mmの遠赤外線ヒーター管16本を備えた装置を用意した。加熱硬化時の大気圧は1気圧であり、湿度は45%RHであった。
〔1〕温度プロファイルの測定
表面温度が室温(25℃)の基体を所定の加熱出力にそれぞれプログラムした加熱装置内に投入した。その結果、図4〜図7に示す温度プロファイルF−1〜F−11、及び、F’−1〜F’−6を得た。
〔2〕現像剤担持体S−1の製造
〔2−1〕黒鉛粒子の製造
コールタールピッチから溶剤分別によりβ−レジンを抽出し、これを水素添加、重質化処理を行った後、微粉砕し、次いでトルエンにより溶剤可溶分を除去することでメソフェーズピッチを得た。そのメソフェーズピッチを微粉砕し、それを空気中において約300℃で酸化処理した後、窒素雰囲気下にて2800℃で熱処理を行い、分級を経て体積平均粒径3.4μm、黒鉛化度p(002)が0.39である黒鉛粒子を得た。
〔2−2〕塗料組成物T−1の調製
−NH−結合を有する結着樹脂として、アンモニア触媒を使用したレゾール型フェノール樹脂溶液:J−325(商品名、DIC株式会社製、メタノール40%含有、樹脂固形分として60%)250質量部(固形分として150質量部)を用いた。これに、カーボンブラック:Conductex975(商品名、コロンビアカーボン社製)5質量部、上記の黒鉛粒子45質量部、第4級ホスホニウム塩化合物P−1:ヒシコーリンBTPPBr(商品名、日本化学株式会社製)15質量部、球状粒子:ニカビーズPC0520(商品名、日本カーボン社製)50質量部及びメタノール100質量部を加えた。得られた原料混合物をサンドミル(直径1mmのガラスビーズをメディア粒子として使用)で2時間分散した。その後、篩を用い分散液からビーズを分離し、メタノールで固形分を40%に調整し、塗料組成物T−1を得た。
【0034】
〔2−3〕樹脂層の形成
基体を、上下端部にマスキングし、垂直に立てて一定速度で回転させた。その後、該基体に上記塗料組成物T−1を、スプレーガンを一定速度で下降させながら、エアスプレー法で塗布した。続いて、温度プロファイルF−1が得られるように、温度プロファイルF−1を得た時と同じ加熱出力にプログラムした加熱装置内に、塗料組成物が塗布された基体を180秒間投入し、塗料組成物を硬化させ、現像剤担持体S−1を得た。温度プロファイルF−1より、加熱時間180秒での基体表面の最高到達温度は180℃であり、αは19300であった。
〔3〕現像剤担持体S−2〜S−7の製造
表4のS−2からS−7に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は現像剤担持体S−1の製造方法と同様の方法で現像剤担持体S−2〜S−7を得た。
〔4〕現像剤担持体S−8〜S−32の製造
塗料組成物T−1を、表4のS−8〜S−32に記載の塗料組成物に変更し、表4のS−8〜S−32に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は、現像剤担持体S−1の製造方法と同様の方法で、現像剤担持体S−8〜S−32を製造した。
〔5〕現像剤担持体S−33〜S−36の製造
表4のS−33〜S−36に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は現像剤担持体S−1の製造方法と同様の方法で現像剤担持体S−33〜S−36を得た。
〔6〕比較現像剤担持体S’−1の製造
基体を、上下端部にマスキングし、垂直に立てて一定速度で回転させた。その後、該基体に塗料組成物T−1を、スプレーガンを一定速度で下降させながら、エアスプレー法で塗布した。続いて、温度プロファイルF’−1が得られるように、温度プロファイルF’−1を得た時と同じ加熱出力にプログラムした加熱装置内に、塗料組成物が塗布された基体を95秒間投入し、塗布液を硬化させ、現像剤担持体S’−1を得た。温度プロファイル11より、加熱時間95秒での基体表面の最高到達温度は145℃であり、αは8100であった。
【0035】
〔7〕比較現像剤担持体S’−2〜S’−6の製造
表5のS’−2からS’−6に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は現像剤担持体S’−1の製造方法と同様の方法で現像剤担持体S’−2〜S’−6を得た。
〔8〕比較現像剤担持体S’−7〜S’−17の製造
塗料組成物T−1を、表5のS’−7〜S’−17に記載の塗料組成物に変更し、表5のS’−7〜S’−17に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は、現像剤担持体S’−1の製造方法と同様の方法で、現像剤担持体S’−7〜S’−17を製造した。
〔9〕比較現像剤担持体S’−18〜S’−41の製造
塗料組成物T−1を、表5のS’−18〜S’−41に記載の塗料組成物に変更し、表5のS’−18〜S’−41に示す加熱条件でそれぞれ加熱硬化した以外は、現像剤担持体S’−1の製造方法と同様の方法で、現像剤担持体S’−18〜S’−41を製造した。なお塗料組成物T’−1及びT’−2においては、NaOH触媒を使用したレゾール型フェノール樹脂:GF9000(商品名、DIC株式会社製)を使用した。塗料組成物T’−3及びT’−4においては、アルコール溶媒に不溶な第4級ホスホニウム塩化合物P’−1またはP’−2を使用した。塗料組成物T’−5においては、第4級アンモニウム塩化合物A’−1を使用した。塗料組成物T’−6においては、荷電制御剤を使用しなかった。塗料組成物の処方を表2に、使用した荷電制御剤の一覧を表3に、現像剤担持体の加熱条件、表面粗さを表4及び5に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
(実施例1)
現像剤担持体S−1を20本用意し、樹脂層の引っかき硬度(評価1)、密着性(評価2)の評価を行った。次いで、キヤノン製複写機iR5075Nから現像器を取り出し、上記の評価を行っていない現像剤担持体S−1にマグネットローラおよびフランジを装着して現像器に組み込んだ。同じ現像剤担持体S−1を組み込んだ現像器を20台用意し、それぞれ評価した。磁性ブレードと現像剤担持体との間隙を250μmとした。評価は常温常湿環境(23℃、50%RH;N/N)において実施した。複写機用普通紙(75g/m2)の転写材を用いて印字比率が2%の横線のプリントを行い、100枚プリント終了時に初期画像濃度(評価3)および現像剤担持体上のQ/M(評価4)、現像剤担持体ゴースト(スリーブゴースト)(評価5)の評価を実施した。
(評価1)現像剤担持体樹脂塗膜の引っかき硬度(鉛筆法)
測定した20本の現像剤担持体S−1の中で最低の硬度は6Hであった。20本の現像剤担持体S−1のすべてが高温かつ短時間による樹脂組成物の加熱硬化で十分な耐久性を有し、硬度について安定的で高い生産性を示した。
(評価2)現像剤担持体樹脂層の密着性(クロスカット法)
測定した20本の現像剤担持体S−1の中で樹脂層が剥がれたものは一つもなかった。20本の現像剤担持体S−1のすべてが高温かつ短時間による樹脂組成物の加熱硬化で十分な密着性を有し、密着性について安定的で高い生産性を示した。
(評価3)初期画像濃度
初期画像濃度はベタ画像を出力し、その濃度を測定することにより評価した。得られた20本分の画像濃度の最大値、最小値および標準偏差を算出した。なお画像濃度は「マクベス反射濃度計 RD918」(マクベス社製)を用いて、白地部分の画像に対する相対濃度を測定した。測定した20回の中で初期画像濃度の最大値は1.46、最小値は1.44、標準偏差は0.01であった。すべての現像剤担持体S−1で初期画像濃度は十分に大きく、実用上問題はなかった。またそれぞれの評価で初期画像濃度のばらつきはほとんどなく現像剤担持体S−1は初期画像濃度について安定的で高い生産性を示した。
(評価4)現像剤担持体上のトナー帯電量(Q/M)
測定した20回の中でトナー帯電量の最大値は−6.7、最小値は−6.4、標準偏差は0.2であった。現像剤担持体S−1上のトナー帯電量はすべて十分な値であり、実用上問題はなかった。またそれぞれの評価でトナー帯電量のばらつきはほとんどなく現像剤担持体S−1はトナー帯電量について安定的で高い生産性を示した。
(評価5)現像剤担持体ゴースト(スリーブゴースト)
出力方向に対してべた白縦帯とべた縦帯が隣り合う画像が現像剤担持体1周分続いた後にハーフトーン画像(濃度40h)が続く画像を1枚出力する。この時ハーフトーン画像上に現れる、べた白縦帯部及びべた縦帯部に対応する濃度不良部と通常のハーフトーン画像部との濃淡差を下記の基準に基づいて目視により評価した。得られた20回分の中で最良と最悪の評価を行った。
A:濃淡差が全く見られない
B:軽微な濃淡差が見られる
C:濃淡差がやや見られる
D:目立つ濃淡差が現像剤担持体1周分以上
【0041】
(実施例2〜実施例36)
表6に示す現像剤担持体を使用し、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表6に示す。いずれの実施例においても、表6に示すように初期画像濃度、引っかき硬度、樹脂層の密着性、トナー帯電量、スリーブゴーストについて実用上問題はなかった。また20本の現像剤担持体のばらつきもなく、安定的で高い生産性を示した。
(比較例1〜比較例41)
表7に示す現像剤担持体を使用し、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表7に示す。比較例1、7、12、14、16は加熱硬化温度が不十分であったため、引っかき硬度、樹脂層の密着性が不十分で、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例2、8、13、15は加熱硬化温度が低めでαの値が不十分であったため、引っかき硬度、樹脂層の密着性が不十分で、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例3、9は加熱硬化温度が高めでαの値が不十分であったため、初期画像濃度、引っかき硬度、樹脂層の密着性が不十分で、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。
【0042】
比較例4、5、10、11、17は加熱硬化温度が過剰であったため、初期画像濃度が不十分で、初期画像濃度、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例6は加熱硬化温度がやや不十分であったため、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例18〜比較例21は現像剤担持体の結着樹脂としてNaOH触媒を使用したレゾール型フェノール樹脂を使用したため、初期画像濃度、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。
【0043】
比較例22〜31はアルコール溶媒に不溶な第4級ホスホニウム塩化合物を使用したため、初期画像濃度、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例32〜36は第4級アンモニウム塩化合物を使用したため、トナー帯電量、スリーブゴーストの評価がばらつき、安定的な生産性を示さなかった。比較例37〜41は荷電制御剤を使用しなかったため、スリーブゴーストが悪く、高画質な画像を得ることができなかった。
【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【符号の説明】
【0046】
1 現像剤担持体
2 赤外線ヒーター管
3 ステンレス製円筒
4 断熱材
5 アルミニウム製円筒管支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アルミニウム製の円筒状基体の外周に塗料組成物の塗膜を形成する工程と、
(2)該塗膜を、該塗膜の最高到達温度が160℃以上220℃以下となるように加熱して硬化させ、厚さが5μm以上30μm以下の樹脂層を形成する工程とを有する現像剤担持体の製造方法であって、
該塗料組成物は−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、アルコール溶媒、該アルコール溶媒に可溶な第4級ホスホニウム塩化合物および導電性粒子を含有し、かつ、
該工程(2)においては、該工程(2)における該塗膜の温度プロファイルにおいて、加熱開始からq秒後における該塗膜の温度をT(q)℃としたときに、下記式(1)で定義されるαが、7.8×103以上4.8×104以下となるように総加熱時間Qを調整することを特徴とする現像剤担持体の製造方法。
【数1】

[式(1)中、Tは塗膜の温度(℃)、T(q)は該工程(2)における塗膜の加熱開始からq秒後における塗膜の温度(℃)、Qは該工程(2)における該塗膜の総加熱時間(秒)を示す。]。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−154334(P2011−154334A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17496(P2010−17496)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】