説明

現在位置表示装置

【課題】 3軸の磁気検知部で地磁気ベクトルの方位角と伏角を求めて、この地磁気情報に基づいて、表示画面に表示されている地図情報の向きを安定して切り換えることができる現在位置表示装置を提供する。
【解決手段】 地磁気ベクトルを検知して得られた方位角の変化に基づいて、表示画面15aに表示されている現在位置の地図情報が常に表示画面15aの向きに合うように段階的に回転させられる。方位角の変化が規定角度になると地図情報を回転させるが、地磁気ベクトルの伏角が大きくなるにしたがって、前記規定角度が大きくなるように切り換えられる。その結果、伏角の大きい地磁気ベクトルを検知する際のノイズが表示されている地図情報の回転切り換えに与える影響を少なくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在位置を演算して表示部に現在位置を含む地図情報を表示する現在位置表示装置に係り、特に、向きを変えたときに、前記地図情報の向きを切換える機能を有する現在位置表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1と特許文献2には、互いに直交する3方向の磁界強度を検知する3軸の磁気センサによって地磁気の向きを検知する地磁気検知装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された地磁気検知装置は、3軸直交座標上に3軸磁気センサを有している。三次元空間内で地磁気検知装置を回転させたときに、3軸の出力データを用いて異なる2時点間の差分ベクトルを求め、その差分ベクトルが予め決められたしきい値よりも小さくなるか否かを判定して、3軸のうちのどの軸を中心として回転しているのかを特定できるようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載された地磁気検知装置は、目的物体の姿勢を検出するために、3方向の検出が可能な磁気センサと、3方向の検出が可能なジャイロセンサの双方を使用している。
【0005】
特許文献1や特許文献2に記載された地磁気検知装置は、携帯用などの移動式の現在位置表示装置に搭載される。現在位置表示装置は、GPS装置などの現在位置を検知する手段を有しており、検知された現在位置に対応する地図情報が表示画面に表示される。現在位置表示装置の向きが変えられると、地磁気検知装置で地磁気の向きの変化が検知されて、空間内での現在位置表示装置の方位の変化が認識される。この方位の変化に合わせて、表示画面に表示されている地図情報の向きが切換えられて、常に現在位置表示装置の方位に合う向きで地図情報が表示されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−224642号公報
【特許文献2】特開平11−248456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地磁気検知装置で検知される地磁気ベクトルの伏角、すなわち水平面からの立ち上がり角度は、緯度が高くなるにしたがって大きくなる。地磁気検知装置は、地磁気ベクトルを水平面に投影した成分の方位角を求めるのが一般的であるが、水平面に投影した成分の絶対値は、緯度が高くなるにつれて短くなるため、方位角の変化を検知する精度は、緯度が高くなるにつれて低下する。
【0008】
緯度が高い位置で現在位置表示装置の向きを変え、これに応じて表示画面の表示されている地図情報の向きを切換えようとすると、地磁気ベクトルの方位の検知精度が低下し検知出力にノイズが重畳しやすいために、地図情報の向きがうまく切り換えられなかったり、または表示画面に表示されている地図情報が細かく往復回転するなどの誤動作が生じやすくなる。
【0009】
また、高いビルの谷間などでは、地磁気の回折効果により、地磁気の伏角がその周辺よりも大きくなることがある。現在位置表示装置がこのような領域内へ移動すると、地磁気検知装置が伏角の大きい地磁気を検知することになって、方位の検知精度が低下し、高い緯度の場所へ移動したときと同様の問題が生じやすくなる。
【0010】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、地磁気検知部で検知される地磁気ベクトルの伏角が大きくなっても、表示画面に地図情報を安定した状態で表示させることができる現在位置表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、互いに直交する基準X軸と基準Y軸および基準Z軸に向くX軸センサとY軸センサおよびZ軸センサを有する磁気検知部と、前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力に基づいて地磁気の伏角と方位角を演算する伏角・方位角演算部と、現在位置を演算する現在位置演算部と、前記現在位置演算部で演算された現在位置を含む地図情報を表示装置に表示させる表示制御装置とが設けられ、
前記表示制御装置は、前記方位角が所定の規定角度を越えて変化したときに、前記表示装置に表示されている前記地図情報の向きを切換える機能と、前記伏角に応じて、前記規定角度を変化させる機能を有していることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、前記伏角は、水平線から地磁気ベクトルまでの立ち上がり角度であり、前記伏角が大きくなるにしたがって、前記規定角度が大きくなるように切換えられる。
【0013】
例えば、本発明は、前記X軸センサは前記基準X軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となり、前記Y軸センサは前記基準Y軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となり、前記Z軸センサは前記基準Z軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となるものであり、
前記伏角・方位角演算部では、前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサのそれぞれの検知出力から三次元座標上に球体を設定して、地磁気ベクトルの向きを前記球体表面の点として認識し、前記球体上で前記点を含む緯度線が描く円の直径が小さくなるにしたがって、前記規定角度が大きくなるように切換えられるものである。
【0014】
上記のように、地磁気検知部で検知される地磁気の伏角が大きくなるにしたがって、表示画面の角度を切り換える頻度を少なく設定することにより、地磁気の伏角が大きくなって、方位角の検知精度が低下しノイズが重畳したときであっても、表示画面に地図情報を安定して表示させることができる。
【0015】
例えば、本発明は、出力ノイズによって緯度線上で前記点が振れる振れ幅の最大値をNとし、前記円の直径をRとしたときに、画面の分割数(前記規定角度/360度)が、(R/N)×A(Aは定数)となるように設定される。
【0016】
本発明は、前記基準Z軸の重力方向に対する傾き角度を検知する傾き検知部を有しており、前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力が前記傾き角度で補正されて、前記伏角と前記方位角が求められる。
【0017】
この場合に、前記傾き検知部は、前記磁気検知部とは別に設けられているものであってもよいし、前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力により、前記基準Z軸が特定されて、前記基準Zの重力方向に対する傾き角度が検知されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、地磁気検知部で検知される地磁気の伏角が大きくなって、方位角の検知精度が低下しても、表示画面での地図情報の表示を安定させることができる。また、伏角が小さい場所では、高い分解能で、地図情報を切換えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の現在位置表示装置の回路ブロック図、
【図2】現在位置表示装置に搭載された地磁気検知部の構造を示す説明図、
【図3】基準Z軸が重力方向に向けられた状態での地磁気ベクトルの演算動作を説明する三次元極座標の説明図、
【図4】基準Z軸以外の軸Oaが重力方向に向けられた状態での地磁気ベクトルの演算動作を説明する三次元極座標の説明図、
【図5】表示画面の切り換え動作の説明図、
【図6】現在位置表示装置の向きと、画面の地図情報の向きとの関係を示す説明図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す本発明の実施の形態の現在位置表示装置1は、磁気検知部2を有しており、磁気検知部2に、X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5が搭載されている。X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5は磁場データ検知部6に接続されており、磁場データ検知部6で地磁気ベクトルが検知され、その検知出力が伏角・方位角演算部8に与えられる。現在位置表示装置1は加速度センサ9を有している。加速度センサ9は、現在位置表示装置1の傾きを検知する傾き検知部として機能しており、加速度センサ9の検知出力が伏角・方位角演算部8に与えられる。伏角・方位角演算部8にはメモリ7が接続されている。
【0021】
現在位置表示装置1には、現在位置を検知する現在位置検知部であるGPS装置11が搭載されている。GPS装置11は、衛星からの電波を受信するものであり、その受信出力が現在位置演算部12に与えられて、現在位置表示装置1が位置している現在位置が演算されて特定される。現在位置演算部12で演算された現在位置の情報、および伏角・方位角演算部8で演算された方位角と伏角の情報は表示制御装置14に与えられる。
【0022】
表示制御装置14は、現在位置演算部12で演算された現在位置の情報に基づいて、メモリ13に格納されている地図データから地図情報を選択して取得し、表示装置15の表示画面15a(図6参照)に地図情報を表示させる。この際、伏角・方位角演算部8で演算された方位角の情報にしたがって、表示装置15の表示画面に表示されている地図情報の向きが切り換えられる。例えば、現在位置表示装置1が携帯用である場合に、この現在位置表示装置1を保持した人が回転して、現在位置表示装置1の向きを変えると、表示画面に表示されている地図情報の向きが段階的に切り換えられる。
【0023】
図6は、現在位置表示装置1に設けられた表示画面15aの向きと、この表示画面15aに表示されている地図情報の向きとの関係を示している。人が現在位置表示装置1を北(N)に向けているときは、表示画面15aの前方に地図情報の北(N)が向けられる。人が反時計方向へ回転して、現在位置表示装置1が北西(NW)に向けられると、表示画面15aに表示されている地図情報が時計方向が回転し、表示画面15aの前方に地図情報の北西が向けられる。さらに、現在位置表示装置1が西(W)に向けられると、表示画面15aに表示されている地図情報が時計方向が回転し、表示画面15aの前方に地図情報の西が向けられる。
【0024】
表示制御装置14は、伏角・方位角演算部8から得られた方位角の情報に基づいて、その方位角が規定角度を越えたら、表示された地図情報を回転させる制御を行う。さらに、伏角・方位角演算部8から得られた伏角の情報に基づいて、前記規制角度の大きさが切り換えられる。すなわち、現在位置表示装置1の方位が360度回転する間に地図情報を段階的に回転させる分割数が、伏角が大きくなるほど少なくなるように切り換えられる。
【0025】
図2に示すように、磁気検知部2およびこの磁気検知部2が搭載されている現在位置表示装置1は、装置内で、互いに直交する基準X軸x0と基準Y軸y0および基準Z軸z0が予め固定軸として決められている。
【0026】
図2に示すように、X軸センサ3は基準X軸x0に沿って固定され、Y軸センサ4は基準Y軸y0に沿って固定され、Z軸センサ5は基準Z軸z0に沿って固定されている。
【0027】
X軸センサ3、Y軸センサ4およびZ軸センサ5は、いずれもGMR素子で構成されている。GMR素子は、Ni−Co合金やNi−Fe合金で形成された軟磁性材料で形成された固定磁性層および自由磁性層と、固定磁性層と自由磁性層との間に挟まれた銅などの非磁性導電層とを有している。固定磁性層の下に反強磁性層が積層され、反強磁性層と固定磁性層との反強結合により、固定磁性層の磁化が固定されている。
【0028】
図2に示すように、X軸センサ3は、地磁気の基準X軸x0に向く成分Bxを検知するものであり、基準X軸x0でのプラス方向の磁界成分B+xと、基準X軸x0のマイナス方向の磁界成分B−xを検知できる。
【0029】
X軸センサ3は、固定磁性層の磁化の向きがX軸に沿う方向であるPx方向に固定されている。自由磁性層の磁化の向きは地磁気の向きによって決められる。自由磁性層の磁化の向きが固定磁性層の固定磁化の向きであるPx方向と平行になると、X軸センサ3の抵抗値が極小になり、自由磁性層の磁化の向きがPx方向と逆向きになると、X軸センサ3の抵抗値が極大になる。また、自由磁性層の磁化の向きがPx方向に直交すると、抵抗値が前記極大値と極小値との平均値となる。
【0030】
図1に示す磁場データ検知部6では、X軸センサ3と固定抵抗とが直列に接続されて、X軸センサ3と固定抵抗との直列回路に電圧が与えられており、X軸センサ3と固定抵抗との間の中点電圧がX軸の検知出力として取り出される。X軸センサ3に対して、基準X方向に向く磁場成分が与えられていないとき、またはPxに対して直交する磁場が与えられているときの前記検知出力が、X軸方向の磁場の検知出力の原点となる。
【0031】
図2に示す基準X軸x0を地磁気ベクトルに一致させ、X軸センサ3の固定磁性層の磁化の固定方向Pxを地磁気ベクトルと平行な向きにすると、X軸センサ3の自由磁性層の磁化が磁界成分B+xで飽和させられて、X軸の検知出力が、前記原点に対してプラス側の最大値となる。逆に、X軸センサ3の固定磁性層の磁化の固定方向Pxが地磁気ベクトルと反平行に向けられると、X軸センサ3の自由磁性層が磁界成分B−xによって飽和させられ、X軸の検知出力が、前記原点に対してマイナス側の最大値となる。
【0032】
同様に、Y軸センサ4に対してY軸方向の磁界成分Byが与えられていないとき、またはPy方向と直交する磁場が与えられているときに、磁場データ検知部6から出力されるY軸の検知出力が原点となる。基準Y軸y0を地磁気ベクトルに一致させ、地磁気ベクトルの向きを固定磁性層の磁化の固定方向Pyに一致させると、Y軸センサ4の自由磁性層が磁界成分B+yで飽和させられて、Y軸の検知出力が原点に対してプラス側の最大値となる。地磁気ベクトルの向きを固定方向Pyと逆向きにすると、Y軸センサ4の自由磁性層が磁界成分B−yで飽和させられて、Y軸の検知出力が、原点に対してマイナス側の最大値となる。
【0033】
また、Z軸センサ5に対してZ軸方向の磁界成分Bzが与えられていないとき、またはPzと直交する磁場が与えられているとき、磁場データ検知部6から出力されるZ軸の検知出力が原点となる。基準Z軸z0を地磁気ベクトルに一致させ、地磁気ベクトルの向きを固定磁性層の磁化の固定方向Pzに一致させると、Z軸センサ5の自由磁性層が磁界成分B+zで飽和させられて、Z軸の検知出力が原点に対してプラス側の最大値となる。地磁気ベクトルの向きを固定方向Pzと逆向きにすると、Z軸センサ5の自由磁性層が磁界成分B−yで飽和させられて、Z軸の検知出力が、原点に対してマイナス側の最大値となる。
【0034】
X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5のプラス側の検知出力の最大値の絶対値と、マイナス側の検知出力の絶対値は、全てが同じ値である。
【0035】
なお、X軸センサ3としては、磁界成分B+xによってプラス側の検知出力が得られ、磁界成分B−xによってマイナス側の検知出力が得られ、プラス側の検知出力の最大値とマイナス側の検知出力の最大値とで絶対値が同じになれば、GMR素子以外の磁気センサで構成することができる。例えば、基準X軸x0に沿ってプラス側の磁界強度のみを検知できるホール素子またはMR素子と、マイナス側の磁界強度のみを検知できるホール素子またはMR素子を組み合わせて、X軸センサ3として使用してもよい。これは、Y軸センサ4とZ軸センサ5においても同じである。
【0036】
図1に示す伏角・方位角演算部8は、A/D変換部とCPUおよびクロック回路などから構成されている。演算部8のクロック回路の計測時間に応じて、磁場データ検知部6で検知されたX軸とY軸およびZ軸の検知出力が、短いサイクルで間欠的に伏角・方位角演算部8に読み出され、それぞれの検知出力は、演算部内に設けられた前記A/D変換部によってディジタル値に変換される。
【0037】
伏角・方位角演算部8は、方位角演算部8aと伏角演算部8bとを有している。これら演算部は、いずれもプログラミングされたソフトウエアによって実行される。ただし、方位角演算部8aと伏角演算部8bで、一部のデータが共通に使用される。
【0038】
図1に示すメモリ7には、方位角演算部8aと伏角演算部8bのそれぞれの処理を行うソフトウエアがプログラミングされて格納されている。また、方位角演算部8aと伏角演算部8bで演算されたデータは必要に応じてメモリ7に記憶される。
【0039】
伏角・方位角演算部8では、磁場データ検知部6で検出された基準X軸x0に向く磁場の検知出力と、基準Y軸y0に向く磁場の検知出力、および基準Z軸z0に向く磁場の検知出力に基づいて以下の演算処理が行われる。
【0040】
図3に示すように、伏角・方位角演算部8では、X軸センサ3による検知出力XgとY軸センサ4による検知出力YgおよびZ軸センサ5による検知出力Zgから、地磁気ベクトルBgの向きが演算される。この演算処理では、三次元座標上の球面座標である球体Baが設定され、検知出力Xg,Yg,Zgから演算される地磁気ベクトルBgの位置が、球体Ba上の点である極座標上の座標点S(R,θ,φ)のデータとして認識される。図3に示す球体Baの半径Rは、X軸センサ3の検知出力の最大値の絶対値、Y軸センサ4の検知出力の最大値の絶対値、およびZ軸センサ5の検知出力の最大値の絶対値によって決められる。
【0041】
球体Ba上の座標点Sを決めるパラメータθは、基準X軸x0と基準Y軸y0を含む平面からの地磁気ベクトルBgの立ち上がり角度である。パラメータφは、地磁気ベクトルBgを基準X軸x0と基準Y軸y0を含む平面に投影したときの投影成分と、基準軸である基準X軸x0との間の角度である。
【0042】
図3に示すように、基準Z軸z0が重力方向に向けられているときには、パラメータθが、地磁気ベクトルBgの地上の水平面からの立ち上がり角度である伏角であり、パラメータφが現在位置表示装置1の方位を示す方位角である。
【0043】
現在位置表示装置1を、地球の赤道上において基準Z軸z0を重力方向に向けて使用すると、伏角θ=0度となり、地磁気ベクトルBgの座標点S(R,θ,φ)は、図3に示す三次元座標に設定した球体Baの赤道線Hg上に存在する。そして、赤道上で現在位置表示装置1を保持した人が回転するなどして現在位置表示装置1の向きを変えると、前記座標点Sが赤道線Hg上を移動する。また、地球の北半球の所定の緯度の場所において、基準Z軸z0を重力方向に向けて使用すると、地磁気ベクトルBgの位置を示す座標点S(R,θ,φ)が、基準Z軸z0を中心とする緯度線Ha上に位置する。このとき、現在位置表示装置1を保持した人が回転するなどして現在位置表示装置1の向きを変えると、前記座標点Sが緯度線Ha上を移動する。
【0044】
図4には、現在位置表示装置1の基準X軸x0と基準Y軸y0または基準Z軸z0とは別の軸Oaが、重力方向に向けて使用されたときの、地磁気ベクトルBgの座標の演算方法が示されている。図4では、基準Z軸z0と、重力方向に向いている軸Oaとの傾き角度がγzである。
【0045】
地球の赤道上において、現在位置表示装置1を図4に示す姿勢として、現在位置表示装置1を軸Oaを中心として回転させ、または軸Oaを重力方向に向けたままこれを保持した人が地平面上で円を描くように移動すると、地磁気ベクトルBgの三次元座標上の座標点S(R,θ,φ)は、球面座標である球体Bbにおいて、前記軸Oaと直交する軸Xaと軸Xbを含む平面上に位置する赤道線Hgbを移動する。図3に示す赤道線Hgと図4に示す赤道線Hgbとの傾き角度はγzである。
【0046】
また、北半球の所定の緯度の場所において、軸Oaを重力方向に向けて、現在位置表示装置1を軸Oaを中心として回転させ、または軸Oaを重力方向に向けたままこれを保持した人が地平面上で円を描くように移動すると、地磁気ベクトルBgの三次元座標上の座標点S(R,θ,φ)が緯度線Hbを移動する。図4に示す緯度線Hbと図3に示す緯度線Haは、北半球の同じ場所での測定であるならば、半径が同じであり、緯度線Haと緯度線Hbとの傾き角度はγzである。
【0047】
図4に示すように、基準Z軸z0以外の軸が重力方向に向いているときは、図1に示す加速度センサ9から傾き情報を得ることによって、重力に向けられている軸Oaを特定することができる。
【0048】
加速度センサ9は、基準Z軸z0の向きの重力の加速度を検知するZセンサと、基準Y軸y0の向きの重力の加速度を検知するYセンサと、基準X軸x0の向きの重力の加速度を検知するZセンサを有している。Zセンサは、Z方向へ移動する重りと、この重りのZ方向への移動量を検知する検知部とを有している。これは、YセンサやXセンサにおいても同じである。
【0049】
伏角・方位角演算部8は、加速度センサ9からの情報に基づいて、基準X軸x0と基準Y軸y0および基準Z軸z0の地上の空間内での傾き方向と傾き角度を知ることができる。この傾き情報と磁場データ検知部6で検知される地磁気ベクトルの検知情報とから、重力方向に向く軸Oaを特定でき、よって赤道線Hgbや緯度線Hbを特定することができる。
【0050】
なお、加速度センサ9を設けていなくても、磁場データ検知部6からのデータに基づいて以下の演算を行うことで、軸Oaを特定することが可能である。
【0051】
図4に示すように、基準Z軸z0以外の軸Oaが重力へ向けられて、現在位置表示装置1が軸Oaを中心として反時計方向(CCW)へ回転すると、球面座標を意味する球体Bbの上に現れる地磁気ベクトルBgの極座標上の座標点S(R,θ,φ)が、緯度線Hb上を移動する。磁場データ検知部6においてクロックのタイミングで間欠的に検出された座標点S(R,θ,φ)の極座標データD1,D2,・・・Dnを順番に取得しメモリ7に格納していく。
【0052】
そして、緯度線Hb上に現れる任意の3箇所のデータ(D1,Dx,Dn)を抽出し、座標点D1と座標点Dxを結ぶ線に直交する二等分線と、座標点Dxと座標点Dnを結ぶ線に直交する二等分線を求め、両二等分線の交点を求めることで、回転中心となる軸Oa、すなわち重力に向く軸Oaを特定することができる。さらに、赤道線Hgbや緯度線Hbを特定することができる。
【0053】
したがって、現在位置表示装置1の姿勢がどの向きであろうと、伏角・方位角演算部8では、軸Oaを特定でき、その結果、地表面からの立ち上がり角である伏角θと、地表面を基準とした方位角φを演算して表示制御装置14に与えることができる。
【0054】
GPS装置11からの検知出力は、現在位置演算部12に与えられて現在位置を示すデータが生成されて、この現在位置の情報が表示制御装置14に与えられる。表示制御装置14は、現在位置の情報に基づいて、メモリ13から現在位置を含む地図データを抽出して地図情報を作図し、表示装置15の表示画面15aに表示させる。また、表示制御装置14は、伏角・方位角演算部8から得られる方位角φの情報に基づいて、表示装置15の表示画面15aに表示する地図情報の向きを段階的に回転させる。これにより、図6に示すように、現在位置表示装置1が向けられている方位に応じて、地図情報のうちの現在位置表示装置1が向けられている方位が表示画面15aの前方に向くように切り換えられる。
【0055】
さらに、表示制御装置14では、伏角・方位角演算部8から得られる伏角θの情報に基づいて、地図情報を回転させる際の規定角度を変更する制御が行なわれる。
【0056】
地磁気ベクトルBgを表す座標点Sが、図3に示す赤道線Hgや図4に示す赤道線Hgbの上を移動しているときは、大きな半径Rの円の上を移動する座標点Sと、基準となる軸(例えば基準X軸x0や図4に示す軸xa)との角度からその方位角φが求められる。一方、地磁気ベクトルBgを表す座標点Sが、図3に示す緯度線Haや図4に示す緯度線Hb上を移動しているときは、半径Rよりも小さい半径の円の上を移動する座標点Sと、基準となる軸との角度からその方位角φが求められることになる。
【0057】
図5(A)は、伏角θが10度のときの緯度線の円を示し、図5(B)は、伏角θが40度のときの緯度線の円を示し、図5(C)は伏角θが70度のときの緯度線の円を示しているが、伏角θが大きくなるにしたがって、方位角φを検出する基準となる緯度線の円の半径が短くなる。
【0058】
図5(A)(B)(C)に図示するように、方位角φの変化量が一定の場合に、緯度線の半径の大小に拘わらず(方位角φ/360度)は一定であるが、同じ方位角φに相当する座標点Sの円周移動量は、伏角θが大きくなり緯度線の半径が短くなるにしたがって短縮されていく。
【0059】
一方、図5(A)(B)(C)には、センサや演算部ならび表示制御装置14などの各種回路でのノイズに起因する座標点Sの円周方向への揺れ幅(振れ幅)をNで示している。このノイズの揺れ幅Nは、地磁気ベクトルBgの伏角θが変わって座標点Sが移動する緯度線の半径が変わっても、大きく変化するものではない。そのため、図5(C)に示すように、緯度線の円の半径が小さくなるにしたがって、方位角φの変化に対する座標点Sの移動量に対して、ノイズの影響による座標点Sの振れ幅Nが占める割合が大きくなる。
【0060】
表示制御装置14では、図6に示すように、方位角θが一定の規定角度だけ変化すると、表示画面15aに表示させる地図情報を規定角度分だけ回転させている。図5(A)に示すように、座標点Sが移動する緯度線の角度が大きいときには、緯度線の円の円周に対するノイズ幅Nの割合が小さいために、表示画面を切り換える前記規定角度が小さく設定されても、ノイズの影響を受けにくい。一方、図5(B)(C)に示すように、座標点Sが移動する緯度線の角度が小さくなると、緯度線の円周に対してノイズの揺れ幅Nが占める割合が大きくなるため、表示画面を切り換える前記規定角度を図5(A)のときと同じにすると、ノイズにより座標点Sが揺れる度に、画面が切り換えられてしまい、表示画面15aに表示される地図情報が細かく往復回転して振れるなどの不都合が生じやすい。
【0061】
そこで、表示制御装置14では、座標点Sが移動する緯度線の半径が小さくなるにしたがって、表示画面を切り換える前記規定角度が大きくなるように切り換えている。すなわち、前記規定角度は、図5(A)(B)(C)のそれぞれにおいて、ノイズによる座標点Sの振れ幅Nよりも十分に大きくなるように設定される。
【0062】
これにより、図5(A)に示すように、緯度線の半径が大きいときは、現在位置表示装置1の方位が360度回転する際の規定角度の分割数が多くなり、現在位置表示装置1の向きの変化に追従して、表示される地図情報がスムースに回転する。一方、図5(C)に示すように緯度線の半径が小さいときは、現在位置表示装置1の方位が360度回転する際の規定角度の分割数が少なくなり、ノイズに反応して地図情報の表示が勝手に回転したり、またはノイズによる座標点Sの触れに追従して、表示されている地図表示がパタパタと往復回転するような誤動作を防止できるようになる。
【0063】
すなわち、表示制御装置14では、現在位置表示装置1の方位が360度回転する際の規定角度の分割数(規定角度/360度)=(R/N)×A(Aは定数)の演算を行い、その結果に基づいて、表示画面15aに表示される地図情報の回転切り替えを行う。
【0064】
これにより、現在位置表示装置1が、緯度の高い地域で使用し、またはビルの谷間に入ったときのように地磁気ベクトルの伏角が大きい領域で使用したときに、表示画面の回転切り替えをノイズに影響を受けることなく確実にできる。また、地磁気ベクトルの伏角が小さい地域で使用すると、現在位置表示装置1の向きの変化にスムースに追従して、表示画面15aに表示される地図情報が回転できるようになる。
【符号の説明】
【0065】
1 現在位置表示装置
2 磁気検知部
3 X軸センサ
4 Y軸センサ
5 Z軸センサ
6 磁場データ検知部
7 メモリ
8 伏角・方位角演算部
9 加速度センサ(傾き検知部)
11 GPS装置(現在位置検知部)
12 現在位置演算部
14 表示制御装置
15 表示装置
15a 表示画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する基準X軸と基準Y軸および基準Z軸に向くX軸センサとY軸センサおよびZ軸センサを有する磁気検知部と、前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力に基づいて地磁気の伏角と方位角を演算する伏角・方位角演算部と、現在位置を演算する現在位置演算部と、前記現在位置演算部で演算された現在位置を含む地図情報を表示装置に表示させる表示制御装置とが設けられ、
前記表示制御装置は、前記方位角が所定の規定角度を越えて変化したときに、前記表示装置に表示されている前記地図情報の向きを切換える機能と、前記伏角に応じて、前記規定角度を変化させる機能を有していることを特徴とする現在位置表示装置。
【請求項2】
前記伏角は、水平線から地磁気ベクトルまでの立ち上がり角度であり、前記伏角が大きくなるにしたがって、前記規定角度が大きくなるように切換えられる請求項1記載の現在位置表示装置。
【請求項3】
前記X軸センサは前記基準X軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となり、前記Y軸センサは前記基準Y軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となり、前記Z軸センサは前記基準Z軸が地磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が最大となるものであり、
前記伏角・方位角演算部では、前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサのそれぞれの検知出力から三次元座標上に球体を設定して、地磁気ベクトルの向きを前記球体表面の点として認識し、前記球体上で前記点を含む緯度線が描く円の直径が小さくなるにしたがって、前記規定角度が大きくなるように切換えられる請求項2記載の現在位置表示装置。
【請求項4】
出力ノイズによって緯度線上で前記点が振れる振れ幅の最大値をNとし、前記円の直径をRとしたときに、画面の分割数(前記規定角度/360度)が、(R/N)×A(Aは定数)となるように設定される請求項3記載の現在位置表示装置。
【請求項5】
前記基準Z軸の重力方向に対する傾き角度を検知する傾き検知部を有しており、前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力が前記傾き角度で補正されて、前記伏角と前記方位角が求められる請求項1ないし4のいずれかに記載の現在位置表示装置。
【請求項6】
前記傾き検知部は、前記磁気検知部とは別に設けられている請求項5記載の現在位置表示装置。
【請求項7】
前記X軸センサとY軸センサおよびZ軸センサからの検知出力により、前記基準Z軸が特定されて、前記基準Zの重力方向に対する傾き角度が検知される請求項5記載の現在位置表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−237030(P2010−237030A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85232(P2009−85232)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】