説明

球状農作物の把持機構

【課題】 ゴム材で細長風船状に形成された複数本のフィンガーを備え、フィンガー内部への圧力流体の供給によってフィンガーを内向きに屈曲変形させるよう構成した球状農作物の把持機構において、補強糸を合理的に巻き付け装着して、耐久性を低下させることなくフィンガーを適切に屈曲作動させて球状農作物を良好に把持することができるようにする。
【解決手段】 フィンガー12の外向き周面に、フィンガー長手方向に略等ピッチで屈曲する蛇腹部25を形成するとともに、フィンガー12の内向き周面に、蛇腹部15の外向き山部15aに対向する複数の横長凹入溝26を並列形成し、蛇腹部25の外向き谷部25bと横長凹入溝26に亘って、フィンガー12の内向き周面より突出しない太さの補強糸27を一連に巻き付け装着してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、レタスやキャベツなどの結球した農作物、あるいは、球状の果物などの球状農作物を搬送する移載装置、などに利用する把持機構に係り、詳しくは、ゴム材で細長風船状に形成された複数本のフィンガーを備え、フィンガー内部への圧力流体の供給によって各フィンガーをそれぞれ内向きに屈曲変形させて把持機能を発揮させるよう構成した球状農作物の把持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製のフィンガーを利用した把持機構としては、フィンガーの外向き周面に蛇腹部を形成し、フィンガー内への圧力空気の供給によって蛇腹部を伸長変形させることでフィンガーを内向きに屈曲変形させるよう構成するとともに、補強糸を蛇腹部における外向き谷部と、フィンガーの内向き周面に形成した案内溝に亘って巻き付け装着して、流体圧によってフィンガーが径方向に膨らむのを阻止して適正に屈曲変形するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−15871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記把持機構に用いられているフィンガーにおいては、補強糸をフィンガーに往復して巻き付けるために、フィンガーの内向き周面に形成した案内溝を補強糸巻き付け径路に沿って斜めに交差して形成することで、補強糸がフィンガーの内向き周面からはみ出ないようにし、もって、把持された農作物が補強糸に接触して傷付けられることがないようにしているのであるが、フィンガーの内向き周面に、多数の細い案内溝が斜めに交差して形成されるために、フィンガーが屈曲変形および復帰変形する際に細い案内溝に応力が集中しやすく、繰返しの変形作動の間に案内溝、特に案内溝の交差部位付近に疲労による亀裂が発生するおそれがあった。そして、強い把持力を発揮させるために流体圧を高くほど上記亀裂の発生するおそれが大きくなるものであった。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、補強糸を合理的に巻き付け装着して、耐久性を低下させることなくフィンガーを適切に屈曲作動させて球状農作物を良好に把持することができる把持機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、ゴム材で細長風船状に形成された複数本のフィンガーを備え、フィンガー内部への圧力流体の供給によって前記フィンガーを内向きに屈曲変形させるよう構成した球状農作物の把持機構であって、
前記フィンガーの外向き周面に、フィンガー長手方向に略等ピッチで屈曲する蛇腹部を形成するとともに、フィンガーの内向き周面に、前記蛇腹部の外向き山部に対向する複数の横長凹入溝を並列形成し、前記蛇腹部の外向き谷部と前記横長凹入溝に亘って、フィンガーの内向き周面より突出しない太さの補強糸を一連に巻き付け装着してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、フィンガーの内向き周面に形成された複数の横長凹入溝はフィンガー長手方向に略等ピッチに並列されるので、圧力流体の供給によってフィンガーが内向きに屈曲変形する際にフィンガーが滑らかに湾曲して変形する。
【0007】
また、複数の横長凹入溝は各々が独立して互いに交差するものではないので、フィンガーの屈曲変形に伴う横長凹入溝での応力集中、および、繰返し変形に伴う疲労破壊が発生しにくいものとなる。
【0008】
従って、第1の発明によると、耐久性を低下させることなくフィンガーを適切に屈曲作動させて球状農作物を良好に把持することができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記横長凹入溝のフィンガー長手方向での幅を、往復して斜めに交差する補強糸の交差部付近を収容できる大きさに設定してあるものである。
【0010】
上記構成によると、横長凹入溝のフィンガー長手方向での幅は補強糸の太さに比べて相当大きいものとなって、横長凹入溝での応力集中が一層発生しにくいものとなり、第1の発明の上記効果を助長する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明に係る把持機構Aを用いたレタス移載装置の側面が示されている。この移載装置は、紙面手前に位置する図示されていないコンベアで載置搬送されてきたレタス(球状農作物)を掴み取って紙面奥側に位置する図示されていない包装装置に供給するものであって、前後水平の基端支点aを中心にして略180°の範囲でモータ1で往復揺動される搬送アーム2の遊端部に把持機構Aが装備されており、搬送アーム2が紙面手前側に揺動すると把持機構Aがコンベアの取り出し位置の上方に位置し、搬送アーム2が紙面奥側に揺動すると把持機構Aが包装装置における投入口の上方に位置するようになっている。
【0012】
前記搬送アーム2の遊端部には、支軸3を介して前後水平の支点b周りに回動可能に回動ブラケット4が取付けられており、この回動ブラケット4に把持機構Aが装着されている。前記支軸3の一端にはプーリ5が取付けられるとともに、搬送アーム2の基端部には前記プーリ5と同径のプーリ6が基端支点aと同心に固定配備され、両プーリ5,6に亘って歯付きベルト7が滑り無く巻回張設されており、搬送アーム2が揺動されても支軸3がアーム揺動度度と同角度だけ逆方向に相対回動されて、搬送アーム2の揺動位置にかかわらず把持機構Aが常に所定の鉛直姿勢に維持されるようになっている。
【0013】
把持機構Aは、前記回動ブラケット4に鉛直姿勢で連結された裾拡がり状の支持ケース11と、この支持ケース11の縦向き中心cを取り囲むようにケース下方に装備された複数本(この例では6本)のフィンガー12と、支持ケース11の中心下方に配備された押出し具13とから構成されている。
【0014】
図2,3に示すように、フィンガー12はゴム材によって細長風船状に成形されたものであり、その上部開口端が基端部材14に嵌め込み連結されてバンド15で外れ止めが施されている。支持ケース11の下端部には基端部材14を支持する底板16が連結固定されており、この底板16に形成された6本の放射状の案内溝17に沿って前記基端部材14がスライド移動可能に支持されている。また、底板16の上には、縦向き中心c周りに回動可能なカム板18が配備され、このカム板18に形成された螺旋放射状のカム溝19に前記基端部材14が係入されている。
【0015】
前記カム板18は支持ケース11の中心に組み込まれた回動軸20の下端に一体回動可能に連結されており、回動軸20の上部に一体連結した操作プーリ21をワイヤ操作によって正逆回動させると、回動軸20を介してカム板18が回動して各基端部材14が案内溝17に沿って内外に案内移動操作され、もって、全フィンガー12が同時に開閉移動されるようになっている。
【0016】
また、各基端部材14の上端から延出されたチューブ22が支持ケース11の上下中間部に形成したマニホールド部23に接続されるとともに、マニホールド部23が図示されていない圧力空気給排制御装置に接続されており、搬送アーム2の揺動作動と同調してフィンガー12への圧力空気の給排制御が行われるようになっている。
【0017】
前記回動軸20はエアーシリンダに構成されて、その内部に挿通したピストンロッド24が底板16から下方に突出されて前記押し出し具13が取付けられており、回動軸20の上端に加圧空気を供給することでピストンロッド24が下方に突出作動し、図1中に示すように、押し出し具13がフィンガー下端より下方にまで押し出し作動するようになっている。
【0018】
前記フィンガー12の詳細な構造が図5に示されている。フィンガー12は先細りに形成されるとともに、その外向き周面に、フィンガー長手方向に略等ピッチで屈曲する蛇腹部25が形成されるとともに、フィンガー12の内向き周面には、前記蛇腹部25の外向き山部25aに対向して複数の横長凹入溝26が並列形成されており、フィンガー内部に圧力空気が供給されていない状態ではフィンガー12は直線状にあり、圧力空気が供給されると、図4に示すように、前記蛇腹部25が伸展することでフィンガー12が内向きに屈曲変形されてレタスWを把持するようになっている。
【0019】
ここで、フィンガー内部に圧力空気が供給された際に、フィンガー12が拡径方向に膨らんでしまうと所望の屈曲変形が行われなくなるので、これを阻止するためにフィンガー12に拡径阻止用の補強糸27が巻き付け装着されている。この補強糸27は、前記蛇腹部25の外向き谷部25bと前記横長凹入溝26に亘って往復して一連に巻き付けられており、往復して斜めに交差する補強糸27の交差部付近が横長凹入溝26に過不足無く収まるように、横長凹入溝26のフィンガー長手方向での幅が設定されている。また、フィンガー12の内向き周面より補強糸27が突出しないように、補強糸27の太さに対応して横長凹入溝26の深さが設定されている。
【0020】
本発明の把持機構Aは以上のように構成されており、次に、レタス移載作動の概略について説明する。
【0021】
搬送アーム2がコンベア上の取り出し位置に向けて移動する場合、把持機構Aにおける各フィンガー12が外側に開放移動されるとともに、直線状に伸展された復元姿勢にあり、かつ、押し出し具13は押し出し作動位置にある。
【0022】
搬送アーム2が揺動してコンベア上のレタスに近づくと、先ず、押し出し具13がレタスWに押付けられて相対的に押し上げられ、かつ、開放姿勢のフィンガー12がレタスWに上方から被さる。
【0023】
次いで、回動軸20が回動されてフィンガー12が内方に閉じ移動されるとともに加圧空気の供給によってフィンガー12が内向きに屈曲変形されてレタスWを掴み取り、掴み取りが完了すると、搬送アーム2がコンベア上から離れる方向に復帰揺動して、把持したレタスWを搬送装置における投入口に持ち込む。
【0024】
その後、フィンガー12内部からの排気によってフィンガー12を直線姿勢まで弾性復元させるとともに、加圧空気の供給によって押し出し具13を下方移動させてレタスWを投入口の内奥まで押し込み供する。そして、供給作動の完了すると、搬送アーム2が再び次の取り出しのためにコンベア側に揺動してゆく。
【0025】
〔他の実施例〕
【0026】
(1)上記実施例では、屈曲変形操作されるフィンガー12を内外に開閉移動させて把持対象の大きさに対応できるものにしているが、定形の球農作物を把持対象とする場合には内外に開閉移動することなく、フィンガー12を一定位置で単に屈曲変形操作する形態で実施することもできる。
【0027】
(2)移載装置の仕様、あるいは、把持対象の種類によっては、前記押し出し具13を備えない形態で実施することもできる。
【0028】
(3)フィンガー12を屈曲変形させる圧力流体として、上記のように圧力空気を用いる他に圧力液体を用いることもでき、また、把持対象によっては、冷却あるいは加温した圧力流体を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】移載装置の側面図
【図2】把持機構の縦断側面図
【図3】把持機構の要部を示す平面図
【図4】把持作動状態の把持機構を示す側面図
【図5】フィンガーの説明図
【符号の説明】
【0030】
12 フィンガー
25 蛇腹部
25a 外向き山部
25b 外向き谷部
26 横長凹入溝
27 補強糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材で細長風船状に形成された複数本のフィンガーを備え、フィンガー内部への圧力流体の供給によって前記フィンガーを内向きに屈曲変形させるよう構成した球状農作物の把持機構であって、
前記フィンガーの外向き周面に、フィンガー長手方向に略等ピッチで屈曲する蛇腹部を形成するとともに、フィンガーの内向き周面に、前記蛇腹部の外向き山部に対向する複数の横長凹入溝を並列形成し、前記蛇腹部の外向き谷部と前記横長凹入溝に亘って、フィンガーの内向き周面より突出しない太さの補強糸を一連に巻き付け装着してあることを特徴とする球状農作物の把持機構。
【請求項2】
前記横長凹入溝のフィンガー長手方向での幅を、往復して斜めに交差する補強糸の交差部付近を収容できる大きさに設定してある請求項1記載の球状農作物の把持機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−204117(P2006−204117A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16723(P2005−16723)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】