説明

球面軸受

【課題】製造が容易で、そして小球同士の接触が防止され且つ大球を円滑に傾斜移動させることができる実用的な球面軸受を提供すること。
【解決手段】大球11、そして大球をその周囲に配設された複数個の小球12を介して収容保持するハウジング13からなる球面軸受であって、前記の小球の各々に小球を回転自在に保持する透孔14を持つ環状の保持器15が備えられ、そして各々の環状保持器の外周面に、前記大球の中心を頂点16とし且つ前記保持器の中心軸17に対して対称な円錐18の円錐面に相当する円錐面19が形成されていることを特徴とする球面軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元位置決め装置あるいは産業用ロボットの部品として有利に用いられる球面軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
球面軸受は、三次元位置決め装置のステージあるいは産業用ロボットのアームと、各々の駆動装置との間に接続され、ステージやアームを多自由度で移動するために用いられている。
【0003】
特許文献1には、ロッドを備える大球(前記ロッドの球状の先端部)、及びこの大球を複数個の小球(転動体)を介して収容保持するハウジング(外周部材)からなる球面軸受が開示されている。この球面軸受の複数個の小球の各々は、上記の大球とハウジングとの間に配設された中空球形の保持器に形成された複数個の透孔の各々に収容保持されている。このような球面軸受の大球及びロッドは、前記の複数個の小球が転動することによって円滑に傾斜移動(及び/又はロッドの軸を中心として回転)する。
【0004】
特許文献2には、前記のような中空球形の保持器が備えられていない簡単な構成を持つ球面軸受が開示されている。このように、球面軸受に保持器が備えられていないと、ロッドが傾斜移動する際に転動する幾つかの小球が互いに接触して停止する場合がある。そして、このように幾つかの小球の転動が停止すると、大球及びロッドの円滑な傾斜移動が妨げられる。同文献の球面軸受には、前記の停止した小球を押圧して転動を再開させる環状の押圧具が備えられ、大球をロッドと共に円滑に傾斜移動させる工夫がされている。
【0005】
一方、特許文献3には、ガイドレールと、このガイドレール上に複数個の小球(転動体)を介して設置されたガイド本体とから構成されるリニアガイドが開示されている。このリニアガイドにおいては、複数個の小球が互いに接触することを防止するため、各々の小球の周囲に合成樹脂製の環状の保持器が装着されている。同文献には、図1に示すように小球1を回転自在に保持するドーナツ状の保持器2が開示されている。
【特許文献1】特開平8−338422号公報
【特許文献2】国際公開第2007/037311号明細書
【特許文献3】実開昭63−69816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の特許文献1の球面軸受が備える中空球形の保持器は、予め複数個に分割された状態にて作製される。これらの分割体の各々は、その湾曲面に小球を保持する複数個の透孔を形成するという手間のかかる機械加工を経て作製される。そして同文献の球面軸受は、前記の保持器の分割体の複数個を、その各々の透孔に小球を収容させた状態で大球の周囲に配置し、これらを上側ハウジング部材と下側ハウジング部材とで挟んで両者を互いにボルトで固定するという複雑な手順によって組み立てられる。
【0007】
また、特許文献2の球面軸受は、前記のように転動する幾つかの小球が互いに接触して停止した場合であっても、この停止した小球を環状押圧具により押圧して転動を再開させることができるため、その大球及びロッドを円滑に傾斜移動させることができる。しかしながら、大球及びロッドの円滑な傾斜移動を妨げる原因となる小球同士の接触が防止される訳ではない。
【0008】
本発明の課題は、製造が容易で、そして小球同士の接触が防止され且つ大球を円滑に傾斜移動させることができる実用的な球面軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、大球、そして大球をその周囲に配設された複数個の小球を介して収容保持するハウジングからなる球面軸受であって、前記の小球の各々に小球を回転自在に保持する透孔を持つ環状の保持器が備えられ、そして各々の環状保持器の外周面に、前記大球の中心を頂点とし且つ前記保持器の中心軸に対して対称な円錐の円錐面に相当する円錐面が形成されていることを特徴とする球面軸受にある。以下、この球面軸受を、線接触型の球面軸受という。
【0010】
本発明はまた、球体を回転自在に保持可能な透孔を持つ環状の保持器であって、前記の環状保持器の外周面に、この保持器の外側にて保持器の中心軸上にある点を頂点とし、且つ前記中心軸に対して対称な円錐の円錐面に相当する円錐面が形成されていることを特徴とする環状保持器にもある。以下、この環状保持器を、線接触型の環状保持器という。
【0011】
本発明は更にまた、大球、そして大球をその周囲に配設された複数個の小球を介して収容保持するハウジングからなる球面軸受であって、前記の小球の各々に小球を回転自在に保持する透孔を持つ環状の保持器が備えられ、そして各々の環状保持器の外周面に、前記の大球の中心を頂点とし且つ前記保持器の中心軸に対して対称な角錐の角錐面に相当する角錐面が形成されていることを特徴とする球面軸受にもある。以下、この球面軸受を、面接触型の球面軸受という。
【0012】
本発明は更にまた、球体を回転自在に保持可能な透孔を持つ環状の保持器であって、前記の環状保持器の外周面に、この保持器の外側にて保持器の中心軸上にある点を頂点とし、且つ前記中心軸に対して対称な角錐の角錐面に相当する角錐面が形成されていることを特徴とする環状保持器にもある。以下、この環状保持器を、面接触型の環状保持器という。
【0013】
なお、本明細書において、前記の各々の球面軸受の「保持器の中心軸」とは、保持器をその中心軸が大球の中心を通るように配置した状態における保持器の中心軸を意味している。また、前記の「円錐の円錐面に相当する円錐面が形成されている」とは、前記の円錐の円錐面の一部分に相当する円錐面が形成されていることを意味する。この「円錐の円錐面に相当する円錐面」には、前記の円錐の円錐面に対して±5度以内(好ましくは±3度以内)の角度を以て傾斜している円錐面が含まれる。同様に、前記の「角錐の角錐面に相当する角錐面が形成されている」とは、前記の角錐の角錐面の一部分に相当する角錐面が形成されていることを意味する。この「角錐の角錐面に相当する角錐面」には、前記の角錐の角錐面に対して±5度以内(好ましくは±3度以内)の角度を以て傾斜している角錐面が含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の球面軸受は、中空球形の保持器を備えていないため、その製造が容易である。また、本発明の球面軸受は、各々の小球の周囲に環状保持器が装着されており、大球を傾斜移動(回転)させた際に転動する小球同士が互いに接触して停止することがないため、その大球を円滑に傾斜移動させることができる。そして、本発明の球面軸受では、各々の環状保持器が、保持器の外周面に形成された所定の円錐面(あるいは角錐面)にて、その周囲に配置された環状保持器に支持された状態で安定に配置される(すなわち小球を中心とする環状保持器の回転移動が抑制される)ため、環状保持器とハウジング内側面(あるいは大球表面)との接触頻度が低減される。従って、本発明の球面軸受は、前記接触による環状保持器の摩耗量が低減されるため、実用的に十分な耐久性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の線接触型の球面軸受を、添付の図面を用いて説明する。図2は、本発明の球面軸受(線接触型)の構成例を示す断面図であり、そして図3は、図2の球面軸受10の大球11を大球11に備えられたロッド21と共に傾斜させた状態を示す図である。但し、図2及び図3においては、球面軸受10をそのハウジング13のみを切断した断面として記入した。そして図2及び図3に示すように、球面軸受10が備える各々の環状保持器15は、その中心軸17が大球11の中心を通るように配置している。
【0016】
図2及び図3に示す球面軸受10において、大球11とハウジング13との間にて隣接配置された環状保持器、例えば、図2に符号を記入した環状保持器15、15は、各々の外周面に形成された円錐面19、19にて互いに線接触している。
【0017】
図4は、図2の球面軸受10が備える小球12及び環状保持器(本発明の線接触型の環状保持器)15をハウジング13の側から見た図であり、そして図5は、図4に記入した切断線I−I線に沿って切断した小球12及び環状保持器15の断面図である。但し、図5において、小球12は断面として記入していない。
【0018】
図2〜図5に示すように、球面軸受10は、大球11、そして大球11をその周囲に配設された複数個の小球12を介して収容保持するハウジング13から構成されている。この球面軸受10が備える各々の小球12には、小球(球体)12を回転自在に保持する透孔14を持つ環状の保持器(本発明の線接触型の環状保持器)15が備えられており、そして各々の環状保持器15の外周面には、大球11の中心(保持器15の中心軸17上にある点)を頂点16とし且つ保持器15の中心軸17に対して対称な円錐18の円錐面に相当する円錐面19が形成されている。この球面軸受10の大球11には、ロッド21が固定されている。
【0019】
球面軸受10の大球11、小球12、ハウジング13、そしてロッド21の各々の材料としては、例えば、鋼、銅合金、あるいはステンレススチールなどの金属材料が用いられる。また、例えば、球面軸受が水中あるいは高温の環境下で使用される場合には、セラミック材料を用いることもできる。また、球面軸受を軽量化するために樹脂材料を用いることもできる。樹脂材料としては、球面軸受の剛性を高くするため、ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表される結晶性の樹脂材料を用いることが好ましい。
【0020】
球面軸受10では、大球11及びロッド21が傾斜移動することにより、大球11の表面に沿って配設された複数個の小球12の各々が転動する。このような複数個の小球12の転動によって、球面軸受10の大球11及びロッド21は、ハウジング13に対して大きな摩擦抵抗を生じることなく滑らかに傾斜移動(及び/又はロッド21の軸を中心に回転)することができる。
【0021】
複数個の小球12は、大球11とハウジング13との間隔が小球12の直径よりも僅かに小さな間隔(小球のサイズにも依存するが、例えば、小球の直径よりも1〜5μm程度小さな間隔)に設定されているため、大球11とハウジング13との間に加圧状態で配設される。このように、ハウジング13の内部には、大球11が複数個の小球12を介して緊密に支持された状態で嵌め合わされている。このため、球面軸受10は、特許文献1あるいは特許文献2の球面軸受の場合と同様に、その大球11及びロッド21を円滑かつ高精度に傾斜移動させることが可能であり、精密位置決め装置等への利用に適したものである。
【0022】
そして、球面軸受10の大球11及びロッド21が図2に記入した矢印22が示す方向に傾斜移動すると、複数個の小球12の各々は互いに同じ向きに(矢印23aが示す向きに)回転しながら、矢印23bが示す向きに移動(転動)する。
【0023】
このため、仮に各々の小球12に環状保持器15が備えられていないと、各々転動する幾つかの小球が互いに接触した場合に、これらの小球が、その接触部にて各々の小球の表面が互いに逆向きに移動しながら擦れ合うために停止する場合がある。このように幾つかの小球の転動が停止すると、大球11及びロッド21を傾斜移動させるために必要なトルクの大きさが変動するため、これらを滑らかに傾斜移動させることができなくなる。
【0024】
図2及び図3に示すように、本発明の球面軸受10には、その各々の小球12を回転自在に保持する環状の保持器15が備えられている。環状の保持器15の材料の例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂が挙げられる。環状保持器15は、例えば、前記の樹脂材料を公知の成形法(例、射出成形法、圧縮成形法、あるいは注型法など)で成形したり、あるいは前記の樹脂材料から形成した部材を機械加工(例、切削加工)したりするなどして、簡単に作製することができる。
【0025】
このような環状保持器15が備えられていると、各々の小球12は、別の小球と接触することなく保持器15の透孔14の内部にて滑らかに転動を続けることができる。このため、本発明の球面軸受10は、その大球11及びロッド21を滑らかに傾斜移動させることができる。
【0026】
そして、この環状保持器15の外周面には、大球11の中心を頂点16とし且つ保持器15の中心軸17に対して対称な円錐18の円錐面に相当する円錐面19が形成されている。この環状保持器15の外周面に形成された円錐面19の機能の理解を容易とするため、先ず、球面軸受に仮に公知の環状保持器を使用した場合の問題点について説明する。
【0027】
図6は、球面軸受に仮に公知の環状保持器を使用した場合において、この球面軸受の保持器5の近傍の部位の構成を示す拡大断面図である。また、図7及び図8は、それぞれ図6の球面軸受の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器5の動作を示す図である。
【0028】
環状保持器5は、小球12を中心として自在に回転(揺動)することができる。そして、例えば、環状保持器5が小球12を中心として時計回り方向に回転した場合には、先ず保持器5の表面上のA点が矢印28aが示す方向に移動してハウジング13の内側面に接触する。このため、環状保持器5は時計回り方向には更に回転することができなくなる。従って、環状保持器5の表面上のB点は、矢印28bが示す方向に移動するが大球11の表面に接触(到達)することはない。
【0029】
また、環状保持器5が小球12を中心として反時計回り方向に回転した場合には、先ず保持器5の表面上のC点が矢印28cが示す方向に移動してハウジング13の内側面に接触する。このため、環状保持器5は反時計回り方向には更に回転することができなくなる。従って、環状保持器5の表面上のD点は、矢印28dが示す方向に移動するが大球11の表面に接触(到達)することはない。
【0030】
このように、球面軸受に仮に公知の環状保持器5を用いた場合には、保持器5は、球面軸受の大球11の表面(凸面)とハウジング13の内側面(凹面)との間に配設されるため、小球12を中心として何れの方向に回転した場合であっても、大球11の表面には接触することなくハウジング13の内側面にのみ接触する。
【0031】
そして、公知の環状保持器5を用いた球面軸受において、例えば、大球11を図7に記入した矢印29aが示す方向に回転(傾斜移動)させると、小球12は矢印30aが示す方向に回転しながら矢印31aが示す方向に移動(すなわち転動)する。そして環状保持器5は、回転する小球12との摩擦によって矢印32aが示す方向に回転する。この際に、環状保持器5は、転動する小球12の移動方向(矢印31aが示す方向)の前方側にてハウジング13の内側面に接触する。
【0032】
また、例えば、大球11を図8に記入した矢印29bが示す方向に回転(傾斜移動)させると、小球12は矢印30bが示す方向に回転しながら矢印31bが示す方向に移動(すなわち転動)する。そして環状保持器5は、回転する小球12との摩擦によって矢印32bが示す方向に回転する。この際にもまた、環状保持器5は、転動する小球12の移動方向(矢印31bが示す方向)の前方側にてハウジング13の内側面に接触する。
【0033】
すなわち、公知の環状保持器5を用いた球面軸受では、大球11を何れの方向に回転させた場合であっても、保持器5が小球12の移動方向の前方側にてハウジング13の内側面に接触する。このように、環状保持器5が小球12の移動方向の前方側にてハウジング13の内側面(凹面)に接触すると、保持器5が転動する小球12によってハウジング13の内側面に強く押し付けられて摩耗し易くなる。このため、公知の環状保持器を用いる場合には、実用的に十分な耐久性を示す球面軸受を得ることが難しい。
【0034】
また、公知の環状保持器5を用いた球面軸受では、前記のハウジング13の内側面に押し付けられた保持器5が減速し、そして小球12が前記の減速した保持器の内側面に強く押し付けられて停止する場合がある。このため、公知の環状保持器を用いた球面軸受は、大球11を円滑に傾斜移動できない場合がある。
【0035】
従って、前記のような小球の移動方向の前方側での環状保持器とハウジングの内側面との接触の発生を防止あるいは抑制することが望ましい。
【0036】
一方、図2及び図3に示す本発明の球面軸受10の各々の環状保持器15は、その外周面に形成された円錐面19にて隣りに配置された環状保持器と線接触するため、保持器15の中心軸17が大球11の中心を通るように配置された状態で安定する。すなわち、各々の環状保持器15は、その周囲に配置された環状保持器に支持された状態で安定に配置される(すなわち小球12を中心とする環状保持器15の回転移動が抑制される)。
【0037】
従って、本発明の球面軸受10は、環状保持器15とハウジング13の内側面との接触頻度、すなわち保持器15の摩耗量が低減されるため、実用的に十分な耐久性を示す。また、本発明の球面軸受10は、前記のように環状保持器15とハウジング13の内側面との接触頻度、すなわち前記接触が原因で小球12が停止する頻度が低減されるため、その大球11を安定且つ円滑に傾斜移動させることができる。
【0038】
本発明の球面軸受10は、例えば、次のようにして簡単に組み立てることができる。
【0039】
先ず、球面軸受10の大球11の周囲に配置される小球12の各々を、それぞれ環状保持器15の透孔14の内部に押し込んで、保持器15にて保持する。次に、ハウジング13の本体13aを開口が上方を向くようにして(図2の場合とは上下の向きが逆になるようにして)配置する。この本体13aの内部に、各々環状保持器15によって保持された所定の数(概ね本体13aの内側面の下側の半球部分に配置できる数)の小球12を、本体13aの内側面に沿って並べて配置する。そして、本体13aの内部に、ロッド21が固定された大球11を挿入する。この大球11とハウジング13の本体13aとの間隙に、各々環状保持器15によって保持された残りの小球12を押し入れる。最後に、ハウジング13の本体13aに、例えば、ボルト(図示は略する)を用いて蓋13bを固定することにより、球面軸受10を組み立てることができる。なお、ハウジング13の蓋13bの内周面と大球11との間隙は、小球12の直径よりも小さな間隔に設定されているため、小球12がハウジング13の外部に脱落することはない。
【0040】
このように、本発明の球面軸受10は、組み立てに手間がかかる中空球形の保持器を備えていないため、その製造が用意である。
【0041】
なお、大球11とハウジング13との間隙に配設される小球12の数は、小球12が環状保持器15に保持された状態にて、前記の間隙に収容可能な数である限り特に制限はない。大球11とハウジング13との間隙に入れる小球12の数は、小球12が環状保持器15に保持された状態で前記の間隙に収容できる最大数の65〜95個数%の範囲内にあることが好ましい。小球の数が少なすぎると球面軸受の耐荷重が小さくなる。
【0042】
また、図2及び図3に示すように、本発明の球面軸受10のハウジング13の内側面には、大球11とハウジング13の内側面との間隔を、小球12の直径よりも僅かに大きな間隔(例えば、小球の直径よりも1μm程度大きな間隔)に設定する凹部24が形成されていることが好ましい。これにより、図2に示す球面軸受10のロッド21に上下方向に加わる荷重は、凹部24にて加圧状態から解放された小球に集中して付与されることはなく、この凹部の外側にて大球11の周囲に配設された多数の小球に分散して付与されるため、球面軸受10の耐荷重を増大させることができる。
【0043】
図9は、本発明の球面軸受(線接触型)の別の構成例を示す拡大断面図である。また、図10及び図11は、それぞれ図9の球面軸受40の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器45の動作を示す図である。
【0044】
図9〜図11に示す球面軸受40は、各々の環状保持器45の形状が下記の(1)〜(3)の条件を満たすように設計されていること以外は図2の球面軸受10と同様である。
(1)保持器の厚みが、小球の直径の50乃至95%の範囲内の長さにある。
(2)保持器を厚み方向に均等に二分する平面が、小球の中心よりも大球の側にある。
(3)保持器の前記平面と小球の中心とが、小球の直径の1乃至24%の範囲内の距離にて離隔している。
【0045】
図9に示すように、球面軸受40の環状保持器45では、環状保持器45の厚みTが、小球12の直径Dの50乃至95%の範囲内(例えば、76%)の長さに設定されており、保持器45を厚み方向に均等に二分する平面(図9の紙面に垂直な面)27が、小球12の中心(すなわち保持器45の透孔14の球面の中心)26よりも大球11の側に配置されており、そして保持器45の前記平面27と小球12の中心26とが、小球26の直径Dの1乃至24%の範囲内(例えば、6%)の距離にて離隔している(すなわち、環状保持器45の前記平面27と小球12の中心26との距離Lが、小球12の直径Dの1乃至24%の範囲内(例えば、6%)の長さに設定されている)。
【0046】
このように、球面軸受40に各々上記の条件(2)及び(3)を満たす環状保持器45を用いると、各々の環状保持器45を、球面軸受に公知の環状保持器を用いる場合よりも、ハウジング13の内側面から遠ざけることができる。
【0047】
この球面軸受40において、例えば、環状保持器45が小球12を中心として時計回り方向に回転した場合には、先ず保持器45の表面上のB点が矢印28bが示す方向に移動して大球11の表面に接触する。このため、環状保持器45は時計回り方向には更に回転することができなくなる。従って、環状保持器45の表面上のA点は、矢印28aが示す方向に移動するがハウジング13の内側面に接触(到達)することはない。
【0048】
また、環状保持器45が小球12を中心として反時計回り方向に回転した場合には、先ず保持器45の表面上のD点が矢印28dが示す方向に移動して大球11の表面に接触する。このため、環状保持器45は反時計回り方向には更に回転することができなくなる。従って、環状保持器45の表面上のC点は、矢印28cが示す方向に移動するがハウジング13の内側面に接触(到達)することはない。
【0049】
すなわち、球面軸受40の環状保持器45は、小球12を中心として何れの方向に回転した場合であっても、ハウジング13の内側面には接触することなく大球11の表面にのみ接触する。球面軸受40では、各々の環状保持器45が、保持器45の外周面に形成された円錐面にて、その周囲に配置された環状保持器に支持された状態で安定に配置される(すなわち小球12を中心とする保持器45の回転移動が抑制される)ため、保持器45と大球12の表面との接触頻度が低減される。従って、球面軸受40もまた、前記接触による環状保持器45の摩耗量が低減されるため、実用的に十分な耐久性を示す。
【0050】
そして、本発明の球面軸受40において、例えば、大球11を図10に記入した矢印29aが示す方向に回転(傾斜移動)させると、小球12は矢印30aが示す方向に回転しながら矢印31aが示す方向に移動(すなわち転動)する。そして環状保持器45は、回転する小球12との摩擦によって矢印32aが示す方向に回転する。この際に、環状保持器45は、転動する小球12の移動方向(矢印31aが示す方向)の後方側にて大球11の表面に接触する。
【0051】
また、例えば、大球11を図11に記入した矢印29bが示す方向に回転(傾斜移動)させると、小球12は矢印30bが示す方向に回転しながら矢印31bが示す方向に移動(すなわち転動)する。そして環状保持器45は、回転する小球12との摩擦によって矢印32bが示す方向に回転する。この際にもまた、環状保持器45は、転動する小球12の移動方向(矢印31bが示す方向)の後方側にて大球11の表面に接触する。
【0052】
すなわち、図9〜図11に示す本発明の球面軸受40では、大球11を何れの方向に回転させた場合であっても、環状保持器45が小球12の移動方向の後方側にて大球11の表面に接触する。このように、環状保持器45が小球12の移動方向の後方側にて大球11の表面(凸面)に接触すると、保持器45は転動する小球12によって大球11の表面に強く押し付けられることがないため、(前記のように保持器がハウジングの内側面に接触する場合と比較して)保持器45の摩耗量が低減される。
【0053】
従って、本発明の球面軸受40は、仮に各々の環状保持器45が、その周囲に配置された環状保持器に支持されて安定に配置された状態から脱して小球12を中心として回転した場合であっても、保持器45の大球11の表面との接触による摩耗量が小さいため、更に優れた耐久性を示す。また、本発明の球面軸受40は、前記のように環状保持器45とハウジング13の内側面とが接触することがない、すなわち前記接触が原因で小球12が停止することがないため、その大球11を更に安定に、かつ円滑に傾斜移動させることができる。
【0054】
また、本発明の球面軸受40において、環状保持器45の厚みTは、小球12の直径Dの50乃至95%の範囲内(例えば、76%)の長さに設定される。
【0055】
環状保持器の厚みが小球の直径の50%未満の長さに設定されていると、保持器による小球の保持が不十分になったり、あるいは互いに隣接する小球の各々に備えられた保持器が、前記の安定配置された状態から脱した際に両者の小球の間において互いに重なり合い、そして一方の小球の保持器が他方の小球に接触し、この小球の転動を停止させたりするなどの問題を生じ易い。その一方で、環状保持器の厚みが小球の直径の95%を超える長さに設定されていると、保持器が前記の安定配置された状態から脱した際に高い頻度で大球に接触するため、球面軸受の耐久性が低下する傾向にある。
【0056】
環状保持器により確実に小球を保持し、そして保持器が前記の安定配置された状態から脱した際の大球への接触頻度を低下させるため、保持器の厚みは、小球の直径の55乃至90%の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
なお、図9に示す球面軸受40において、環状保持器45を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心26との距離Lの長さを、仮に小球の直径の1%の長さから次第に大きな長さに設定していくと、保持器は、先ずハウジングの内側面にのみ接触する(すなわち図示した角度αと角度βとが、α<βの関係を満たす)構成、次にハウジングの内側面と大球の表面との両者に接触する(α=βの関係を満たす)構成になり、そして大球の表面にのみ接触する(α>βの関係を満たす)構成になる。
【0058】
そして、本発明の球面軸受のうち、環状保持器が前記のα<βの関係を満たすもの(例えば、前記の図2に示す球面軸受10)、あるいはα=βの関係を満たすものは、保持器が前記の安定配置された状態から脱した際に、保持器のハウジング内側面への接触頻度を低減することができ、そして環状保持器が前記のα>βの関係を満たすもの(例えば、前記の図9に示す球面軸受軸40)は、保持器が前記の安定配置された状態から脱した際に、保持器のハウジング内側面への接触を防止することができる。
【0059】
なお、前記の角度αは、図9に示すように環状保持器45を透孔14の中心軸17が大球11の中心を通るように配置した状態で軸17に沿って切断した断面において、保持器45の外縁上で且つ保持器45の回転方向において最もハウジング13の内側面の近くにある点(すなわちC点)からハウジング13の内側面にまで至る小球12と同心の円弧の各々の端部と小球12の中心26とを結ぶ線分33c、33cにより形成される角度を意味する。そして角度βは、環状保持器45の透孔14の中心軸17を挟んで前記C点がある側とは逆側にて、保持器45の外縁上で且つ保持器45の回転方向において最も大球11の表面の近くにある点(すなわちD点)から大球11の表面にまで至る小球12と同心の円弧の各々の端部と小球12の中心26とを結ぶ線分33d、33dにより形成される角度を意味する。
【0060】
前記の環状保持器45を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心26との距離Lは、小球12の直径Dの1乃至10%、特に2乃至10%の範囲にあることが好ましい。前記の距離Lが短すぎると環状保持器のハウジングの内側面への接触頻度を十分に低減することができず、その一方で距離Lが長すぎると保持器が小球を極端に大球の側にて保持するようになり、保持器による小球の保持が不十分になる(小球が保持器から外れやすくなる)傾向にある。
【0061】
更に、本発明の球面軸受においては、環状保持器45の厚みを均等に二分する平面27と小球12の中心26との距離Lを調節して、上記のように保持器45を大球11にのみ接触する構成とすることが特に好ましい。球面軸受に用いる大球の直径、小球の直径、そしてハウジングの内側面の直径が定まれば、環状保持器が大球にのみ接触するように前記の距離Lを幾何学的に決定する(例えば、図9に示す角度αと角度βとがα>βの関係を満足するように前記の距離Lを決定する)ことができる。
【0062】
また、図9に示す環状保持器45の外径は、小球12の直径の約1.2倍の長さに設定されている。環状保持器45の外径は、小球12の直径の1.1乃至5.0倍、特に1.1乃至3.0倍の範囲内の長さに設定することが好ましい。
【0063】
環状保持器の外径が小さ過ぎると、小球を保持器の透孔に押し込む際に保持器に塑性変形(あるいは破損)を生じ易くなり、その一方で保持器の外径が大きすぎると、ハウジングの内部に収容できる小球の数が少なくなるために球面軸受の耐荷重が減少する。なお、例えば、環状保持器45の外径とは、保持器45を透孔14の中心軸17に垂直で且つ透孔14の球面の中心(すなわち小球12の中心)26を含む平面に沿って切断した断面の外径を意味する。
【0064】
図12は、本発明の球面軸受(面接触型)の構成例を示す断面図である。但し、図12においては、球面軸受70をそのハウジング73のみを切断した断面として記入した。図13は、図12の球面軸受70が備える小球12及び環状保持器75の拡大図であり、そして図14は、図13に示す小球12及び環状保持器75の底面図である。
【0065】
図12〜図14に示すように、球面軸受70は、大球11、そして大球11をその周囲に配設された複数個の小球12を介して収容保持するハウジング73から構成されている。この球面軸受70が備える各々の小球12には、小球(球体)12を回転自在に保持する透孔74を持つ環状の保持器(本発明の面接触型の環状保持器)75が備えられており、そして各々の環状保持器75の外周面には、大球11の中心(保持器75の中心軸77上にある点)を頂点76とし且つ保持器75の中心軸77に対して対称な角錐(八角錐)78の角錐面に相当する角錐面79が形成されている。
【0066】
球面軸受70の構成は、環状保持器75の形状、そしてハウジング73の蓋73bの内周面の形状が異なること以外は図2の球面軸受10と同様である。なお、この環状保持器75は、大球11の表面にのみ接触する。
【0067】
球面軸受70の各々の環状保持器75は、その外周面に形成された角錐面79にて隣りに配置された環状保持器と面接触するため、保持器75の中心軸77が大球11の中心を通るように配置された状態にて安定する。すなわち、各々の環状保持器75は、その周囲に配置された環状保持器に支持された状態で安定に配置される(すなわち小球12を中心とする保持器75の回転移動が抑制される)。
【0068】
従って、本発明の球面軸受70もまた、環状保持器75と大球11の表面との接触頻度、すなわち保持器75の摩耗量が低減されため、実用的に十分な耐久性を示す。
【0069】
また、球面軸受70の環状保持器75の厚みは、小球12の直径の72%の長さに、保持器75を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心26との距離Lは、小球12の直径の8%の長さに、そして保持器75の外径は、小球12の直径の1.3倍の長さに設定されている。このような設定により、環状保持器75を、大球11の表面にのみ接触させることができる。
【0070】
従って、本発明の球面軸受70は、仮に各々の環状保持器75が、その周囲に配置された環状保持器に支持されて安定に配置された状態から脱して小球12を中心として回転した場合であっても、保持器75の大球11の表面との接触による摩耗量が小さいため、優れた耐久性を示す。また、本発明の球面軸受70は、環状保持器75とハウジング73の内側面とが接触することがない、すなわち前記接触が原因で小球12が停止することがないため、その大球11を安定且つ円滑に傾斜移動させることができる。
【0071】
なお、球面軸受70が備える各々の環状保持器75の外周面は、図13及び図14に示すように前記の角錐面79が形成されている円錐状の表面75a、この表面75aに接続する球状の表面75b、及びこの表面75bに接続する円錐状の表面75cとから構成されている。
【0072】
また、図12の球面軸受70のハウジング73の蓋73bの内周面には、蓋73bの内周面と大球11との間隔を小球12の直径よりも大きな間隔(例えば、小球12の直径よりも10〜20μm程度大きな間隔)に設定する環状の凹部81と、前記内周面と大球11との間隔を小球12の直径よりも小さな間隔(例えば、小球の直径よりも20〜50μm程度小さな間隔)に設定する環状の凸部82とが備えられている。この環状の凸部82は、ハウジング73の外部への小球12の脱落を防止するために設けられている。
【0073】
仮に、ハウジング73の蓋73bの内周面に環状の凹部81が形成されていないと、大球11を極端に大きく傾斜移動させた際にハウジング73の本体13aの内部から蓋73bの内部へと転動する小球が、蓋73bの内周面に強く接触して停止する場合がある。そして、この停止した小球を保持する環状保持器に、別の環状保持器が接触してその内部に保持されて転動している小球が停止する場合がある。このように、幾つかの小球が停止すると、球面軸受の大球及びロッドの円滑な傾斜移動が妨げられる。
【0074】
一方、ハウジング73の蓋73bの内周面に環状の凹部81が形成されていると、大球11を極端に大きく傾斜移動させた際にハウジング73の本体13aの内部から蓋73bの内部へと転動する小球は、前記の環状の凹部81に到達すると加圧状態から解放されて凹部81の内部を自由に移動することができるようになる。すなわち前記の小球が蓋73bの内周面に強く接触して停止することはない。このため、球面軸受70は、その大球11及びロッド21を滑らかに且つ大きく傾斜移動させることができる。なお、前記の環状の凹部は、ハウジング73の本体13aの内側面の下端部に形成されていてもよい。
【0075】
図15は、本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図であり、そして図16は、図15の球面軸受100のロッド21が傾斜した状態を示す図である。但し、図15及び図16においては、球面軸受100をそのハウジング73、環状保持器105及び環状押圧具101のみを断面として記入した。また、図17は、図15の球面軸受100が備える小球12及び環状保持器105の拡大図である。なお、図17に示す環状保持器105は、その上面がハウジングの側に、そして下面が大球の側に配置される。
【0076】
球面軸受100の構成は、環状保持器105の形状が異なること、ハウジング73の蓋73bの内周面に、図12の球面軸受70の場合と同様に環状の凹部81及び環状の凸部82が形成されていること、そして後に説明する環状の押圧具101が備えられていること以外は図2の球面軸受10と同様である。なお、この環状保持器105は、大球の表面にのみ接触する。
【0077】
球面軸受100の各々の環状保持器105は、その外周面に形成された円錐面19にて隣りに配置された環状保持器と線接触するため、保持器105の中心軸17が大球11の中心を通るように配置された状態にて安定する。すなわち、各々の環状保持器105は、その周囲に配置された環状保持器に支持された状態で安定に配置される(すなわち小球12を中心とする保持器105の回転移動が抑制される)。
【0078】
従って、本発明の球面軸受100もまた、環状保持器105と大球11の表面との接触頻度、すなわち保持器105の摩耗量が低減されるため、実用的に十分な耐久性を示す。
【0079】
また、球面軸受100の環状保持器105の厚みは、小球12の直径の76%の長さに、保持器105を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心26との距離Lは、小球12の直径の7%の長さに、そして保持器105の外径は、小球12の直径の1.3倍の長さに設定されている。このような設定により、環状保持器105を、大球11の表面にのみ接触させることができる。
【0080】
従って、本発明の球面軸受100は、仮に各々の環状保持器105が、その周囲に配置された環状保持器に支持されて安定に配置された状態から脱して小球12を中心として回転した場合であっても、保持器105の大球11の表面との接触による摩耗量が小さいため、優れた耐久性を示す。また、本発明の球面軸受100は、環状保持器105とハウジング73の内側面とが接触することがない、すなわち前記接触が原因で小球12が停止することがないため、その大球11を安定且つ円滑に傾斜移動させることができる。
【0081】
更に、環状保持器105は、そのハウジング側の開口の周縁部を、例えば、円筒状に切り欠いて形成した切り欠き部102aと、大球側の開口の周縁部を、例えば、円筒状に切り欠いて形成した切り欠き部102bとを備えている。このような切り欠き部102a、102bを備えていると、保持器105の内側面に小球12が接触した際の前記周縁部(機械的な強度が小さい部分)の破損(あるいは塑性変形)を防止することができる。
【0082】
また、図15に示すように、球面軸受100のハウジング73の蓋73bに設けられた環状の凹部81の内側には、前記のように凹部81に到達して加圧状態から解放された小球を、大球11とハウジング本体13aとの間隙に押し戻す環状の押圧具101が配置されている。
【0083】
この環状押圧具101は、大球11と同様の材料から形成される。環状押圧具101は、押圧具101との接触による小球12の転動の停止を抑制するため、含油プラスチックや含油金属から形成することもできる。
【0084】
この球面軸受100の大球11及びロッド21を、例えば、図15に記入した矢印106が示す方向に大きく傾斜移動させると、小球12aが環状の凹部81(図において凹部81の左端の部分)に到達して加圧状態から解放される。
【0085】
仮に、球面軸受100が環状押圧具101を備えていない場合には、前記のように小球12aが環状の凹部81に配置された状態から、大球11及びロッド21を前記とは逆の方向に傾斜移動させた場合であっても、前記の小球12aは加圧状態から解放されて転動しないために凹部81に配置された状態を保つ。このように小球12aが環状の凹部81に配置されたままであると、この小球12aは、ロッド21に加わる荷重を受けることができないため、球面軸受100の耐荷重が低下する。
【0086】
一方、球面軸受100に環状押圧具101が備えられていると、前記のように小球12aが環状の凹部81に配置された場合であっても、図16に示すようにロッド21を傾斜移動させた際に転動する小球12bを保持している環状保持器105bが、押圧具101の図の右端の部分を下方に押し下げる。これにより環状押圧具101の図の左端の部分が上方に押し上げられ、前記のように環状の凹部81に配置された小球12aが大球11とハウジング本体13aとの間に押し戻され、球面軸受100の耐荷重の低下が抑制される。なお、環状押圧具101は、ハウジング73の蓋73bの環状の凸部82の径よりも大きな外径を有しているため、ハウジング73の外部に抜け落ちることはない。
【0087】
また、環状押圧具101は、ハウジング73の内部にゴミや埃等が侵入し、これが原因でハウジング内にて転動する小球が停止した場合であっても、この小球を保持する環状保持器を(直接的にあるいは別の小球を保持する環状保持器を介して)押圧して転動を再開させる機能も有している。例えば、図16に示す小球12aが停止した場合、大球11及びロッド21を更に図16に記入した矢印107が示す方向に傾斜移動させると、ロッド21の基部が環状押圧具101の内縁に接触して係合する。そして、更に大球11及びロッド21を傾斜移動させると、ロッド21が環状押圧具101の図の左端の部分を小球12aと共に上方に押し上げるため、小球12aの転動を再開させることができる。
【0088】
図18は、本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す平面図であり、図19は、図18に記入した切断線II−II線に沿って切断した環状保持器135の断面図であり、そして図20は、図19に示す環状保持器135の透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態を示す図である。なお、図19及び図20に示す環状保持器135は、球面軸受のハウジングの内部に収容された状態にて、その上面がハウジングの側に、そして下面が大球の側に配置される。
【0089】
図18〜図20に示す環状保持器135の構成は、保持器135の内周面に複数本の溝131が形成されていること以外は図17の環状保持器105と同様である。但し、環状保持器135の厚みは、小球12の直径(すなわち透孔14の球面の直径)の78%の長さに、保持器135を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心(すなわち透孔14の球面の中心)26との距離Lは、小球12の直径の3%の長さに、そして保持器135の外径は、小球12の直径の1.4倍の長さに設定されている。
【0090】
このように、環状保持器135の内周面に溝131が形成されていると、球面軸受の大球とハウジングとの間に潤滑剤(例、グリース)を充填した際に、この潤滑剤が前記の溝131の内部に保持される。そして、この溝131に保持された潤滑剤が、小球12の表面に長期間にわたって供給され続け、小球と、保持器、大球あるいはハウジングとの摩耗が低減されるため、球面軸受の耐久性が向上する。なお、この溝131の形状に特に制限はなく、例えば、環状保持器の内周面に、その周方向に沿って溝が形成されていてもよいし、あるいは保持器の軸を中心として螺旋状に溝が形成されていてもよい。
【0091】
図21は、本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図21においては、環状保持器165をその透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態にて示した。なお、図21に示す環状保持器165は、球面軸受のハウジングの内部に収容された状態にて、その上面がハウジングの側に、そして下面が大球の側に配置される。
【0092】
図21に示す環状保持器165の構成は、保持器165の内周面(図5の保持器15の内周面に対応する球面)に凹部161が形成されていること以外は図17の環状保持器105と同様である。但し、環状保持器165の厚みは、小球12の直径(すなわち透孔14の球面の直径)の83%の長さに、保持器165を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心(すなわち透孔14の球面の中心)26との距離Lは、小球12の直径の4%の長さに、そして保持器165の外径は、小球12の直径の1.4倍の長さに設定されている。
【0093】
図21に示すように、環状保持器165の内周面に前記の溝に代えて凹部161が形成されている場合であっても、潤滑剤が凹部161の内部に保持されるため、球面軸受の耐久性が向上する。
【0094】
図22は、本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図22においては、環状保持器175をその透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態にて示した。なお、図22に示す環状保持器175は、球面軸受のハウジングの内部に収容された状態にて、その上面がハウジングの側に、そして下面が大球の側に配置される。
【0095】
図22に示す環状保持器175の構成は、保持器175に、その内周面と外周面とを結ぶ細孔171が備えられていること以外は図17の環状保持器105と同様である。但し、環状保持器175の厚みは、小球12の直径(すなわち透孔14の球面の直径)の83%の長さに、保持器175を厚み方向に均等に二分する平面27と小球12の中心(すなわち透孔14の球面の中心)26との距離Lは、小球12の直径の3%の長さに、そして保持器175の外径は、小球12の直径の1.3倍の長さに設定されている。
【0096】
図22に示すように、環状保持器175の内周面に前記の溝に代えて細孔171が形成されている場合であっても、潤滑剤が細孔171の内部に保持されるため、球面軸受の耐久性が向上する。
【0097】
図23は、本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図23においては、球面軸受180をそのハウジング183のみを切断した断面として記入した。
【0098】
図23の球面軸受180の構成は、ハウジング183が上下の各々に開口する空洞部を持つ本体183aと、本体183aの各々の開口近傍の部位に形成された溝に嵌め合わされた環状の蓋183bとから構成されていること、そして大球11にハウジング183の本体183aの各々の開口から外部に突き出された合計で二本のロッド21a、21bが備えられていること以外は図2の球面軸受10と同様である。
【0099】
但し、各々の環状保持器105としては、図15の球面軸受100が備える環状保持器と同様の構成のものが用いられており、この保持器105の厚みは、小球12の直径(すなわち保持器105の透孔の球面の直径)の69%の長さに、保持器105を厚み方向に均等に二分する平面と小球12の中心(すなわち保持器105の透孔の球面の中心)との距離は、小球12の直径の5%の長さに、そして保持器105の外径は、小球12の直径の1.2倍の長さに設定されている。この環状保持器105は、大球11の表面にのみ接触する。
【0100】
このように、本発明の球面軸受の大球11には、図23に示すように上下の各々に合計で二本のロッドが固定されていてもよい。球面軸受180は、例えば、各種の産業用ロボットの部品(例、駆動装置と駆動対象物とを連結するジョイント)として有利に用いることができる。
【0101】
球面軸受180において、ハウジング183の本体183aは、図2に示すハウジング13の本体13aと同様の材料から形成される。一方、ハウジング183の蓋183bは、例えば、金属材料や樹脂材料などの弾性を示す材料から形成されており、周方向の一部分が切り欠かれて間隙が形成された環状の形状(図23の上側から見て略C字形状)を有している。
【0102】
蓋183bは、その外周側から力を付与すると前記間隙が狭くなり、その外径が小さくなるように変形し、この力の付与を停止すると元の形状に復帰する。従って、蓋183bは、その外周側から力を付与してその外径が小さくなるように変形させた状態でハウジング183の本体183aの開口から内部に挿入されると、本体183aの開口近傍の部位に形成された溝に到達した際に外径が拡がって(蓋183bが元の形状に復帰して)前記溝に嵌め合わされる。このように、ハウジング183の本体183aに嵌め合わされた蓋183bを利用して、ハウジング183の外部への小球12の脱落を防止することもできる。
【0103】
図24は、本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図24においては、球面軸受190をその大球191、ハウジング183、および環状押圧具192のみを切断した断面として記入した。
【0104】
図24の球面軸受190の構成は、大球191がロッドを備えておらす、ロッドを挿入固定する透孔191aを備えていること、そして大球191の透孔191aの上下の開口の各々に環状押圧具192が圧入されて固定されていること以外は図23の球面軸受180と同様である。
【0105】
球面軸受190は、図25に示すように大球191の透孔(図24:191a)の内部にロッド201を挿入し仮固定した状態にて使用される。ロッド201は、大球191の透孔に挿入されたのちに、例えば、ナット202a、202bを用いて大球191を締め付けることにより大球191に仮固定される。このように、本発明の球面軸受の大球には、必ずしも予めロッドが固定されている必要はない。
【0106】
また、環状押圧具192は、ハウジング183の内部で転動する小球12が停止した場合であっても、この小球12を保持する環状保持器105を(直接的にあるいは別の小球を保持する環状保持器を介して)押圧して転動を再開させる機能を有している。このように、環状押圧具192は、大球191に固定されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】特許文献3に開示されたリニアガイド用の環状保持器の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の球面軸受(線接触型)の構成例を示す断面図である。但し、図2においては、球面軸受10をそのハウジング13のみを切断した断面として記入した。
【図3】図2の球面軸受10の大球11を大球11に備えられたロッド21と共に傾斜させた状態を示す図である。
【図4】図2の球面軸受10が備える小球12及び環状保持器15をハウジング13の側から見た図である。
【図5】図4に記入した切断線I−I線に沿って切断した小球12及び環状保持器15の断面図である。但し、図5において、小球12は断面として記入していない。
【図6】球面軸受に仮に公知の環状保持器を使用した場合において、この球面軸受の保持器5の近傍の部位の構成を示す拡大断面図である。但し、図6において、大球11及び小球12は断面として記入していない。
【図7】図6の球面軸受の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器5の動作を示す図である。
【図8】図6の球面軸受の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器5の動作を示す別の図である。
【図9】本発明の球面軸受(線接触型)の別の構成例を示す拡大断面図である。
【図10】図9の球面軸受40の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器45の動作を示す図である。
【図11】図9の球面軸受40の大球11を回転(傾斜移動)させた際の小球12及び環状保持器45の動作を示す別の図である。
【図12】本発明の球面軸受(面接触型)の構成例を示す断面図である。但し、図12においては、球面軸受70をそのハウジング73のみを切断した断面として記入した。
【図13】図12の球面軸受70が備える小球12及び環状保持器75の拡大図である。
【図14】図13に示す小球12及び環状保持器75の底面図である。
【図15】本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、但し、図15においては、球面軸受100をそのハウジング73、環状保持器105及び環状押圧具101のみを断面として記入した。
【図16】図15の球面軸受100のロッド21が傾斜した状態を示す図である。
【図17】図15の球面軸受100が備える小球12及び環状保持器105の拡大図である。
【図18】本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す平面図である。
【図19】図18に記入した切断線II−II線に沿って切断した環状保持器135の断面図である。
【図20】図19に示す環状保持器135の透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態を示す図である。
【図21】本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図21においては、環状保持器165をその透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態にて示した。
【図22】本発明の球面軸受に有利に用いることができる環状保持器(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図22においては、環状保持器175をその透孔14の内部に小球12を収容保持させた状態にて示した。
【図23】本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図23においては、球面軸受180をそのハウジング183のみを切断した断面として記入した。
【図24】本発明の球面軸受(線接触型)の更に別の構成例を示す断面図である。但し、図24においては、球面軸受190をその大球191、ハウジング183、および環状押圧具192のみを切断した断面として記入した。
【図25】図24の球面軸受190の大球191にロッド201を取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0108】
1 小球
2 ドーナツ状の保持器
5 環状保持器
10 球面軸受
11 大球
12、12a、12b 小球
13 ハウジング
13a 本体
13b 蓋
14 透孔
15 環状保持器
16 円錐18の頂点
17 中心軸
18 円錐
19 円錐面
21、21a、21b ロッド
22 大球の傾斜方向を示す矢印
23a 小球の回転方向を示す矢印
23b 小球の移動方向を示す矢印
24 凹部
26 小球の中心
27 環状保持器を厚み方向に均等に二分する平面
28a 環状保持器のA点の移動方向を示す矢印
28b 環状保持器のB点の移動方向を示す矢印
28c 環状保持器のC点の移動方向を示す矢印
28d 環状保持器のD点の移動方向を示す矢印
29a、29b 大球の回転(傾斜移動)の方向を示す矢印
30a、30b 小球の回転方向を示す矢印
31a、31b 小球の移動方向を示す矢印
32a、32b 環状保持器の回転方向を示す矢印
33c、33d 線分
40 球面軸受
45 環状保持器
70 球面軸受
73 ハウジング
73b 蓋
74 透孔
75 環状保持器
75a、75c 円錐状の表面
75b 球状の表面
76 角錐78の頂点
77 中心軸
78 角錐
79 角錐面
81 環状の凹部
82 環状の凸部
100 球面軸受
101 環状押圧具
102a、102b 切り欠き部
105、105a、105b 環状保持器
106、107 大球11の傾斜方向を示す矢印
131 溝
135 環状保持器
161 凹部
165 環状保持器
171 細孔
175 環状保持器
180 球面軸受
183 ハウジング
183a 本体
183b 蓋
190 球面軸受
191 大球
191a 透孔
192 環状押圧具
201 ロッド
202a、202b ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大球、そして該大球をその周囲に配設された複数個の小球を介して収容保持するハウジングからなる球面軸受であって、該小球の各々に該小球を回転自在に保持する透孔を持つ環状の保持器が備えられ、そして各々の環状保持器の外周面に、該大球の中心を頂点とし且つ該保持器の中心軸に対して対称な円錐の円錐面に相当する円錐面が形成されていることを特徴とする球面軸受。
【請求項2】
球体を回転自在に保持可能な透孔を持つ環状の保持器であって、該環状保持器の外周面に、該保持器の外側にて該保持器の中心軸上にある点を頂点とし、且つ該中心軸に対して対称な円錐の円錐面に相当する円錐面が形成されていることを特徴とする環状保持器。
【請求項3】
大球、そして該大球をその周囲に配設された複数個の小球を介して収容保持するハウジングからなる球面軸受であって、該小球の各々に該小球を回転自在に保持する透孔を持つ環状の保持器が備えられ、そして各々の環状保持器の外周面に、該大球の中心を頂点とし且つ該保持器の中心軸に対して対称な角錐の角錐面に相当する角錐面が形成されていることを特徴とする球面軸受。
【請求項4】
球体を回転自在に保持可能な透孔を持つ環状の保持器であって、該環状保持器の外周面に、該保持器の外側にて該保持器の中心軸上にある点を頂点とし、且つ該中心軸に対して対称な角錐の角錐面に相当する角錐面が形成されていることを特徴とする環状保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2009−41735(P2009−41735A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209964(P2007−209964)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【Fターム(参考)】