説明

環境素材マテリアルとその製造方法

【課題】植物由来の生分解性材料、ポリ乳酸を主成分としながら、延性、強度、透明性に優れたポリ乳酸系延伸マテリアルとその製造方法を提供することである。
【解決手段】ポリ乳酸60〜99重量%(A)及び該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体40〜1重量%(B)を含むことを特徴とするポリ乳酸系マテリアル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境素材マテリアルとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性プラスチックの開発が積極的に進められてきている。
これらの生分解性プラスチックの中で、ポリ乳酸樹脂(PLAともいう)は、他の生分解性プラスチックに比べて、透明性、剛性、加工性に優れるなどの利点を有するものの脆いことが問題点として指摘されており、フィルムとして用いた場合には機械的強度に欠ける樹脂であるとされている。
【0003】
そこで、他のポリエステル化合物などとの共重合体とし、延伸操作を施すことにより、腰が強い樹脂とする改良が行なわれている。そして、二軸延伸することにより機械的強度を向上させフィルムとして使用可能な物性となる。このものは、熱収縮性のフィルムであり、その後、熱処理することにより、寸法安定性を付与できることが、知られている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。これらの公報に示されているものは、テンター法による二軸延伸フィルムであり、引張破断強度、引張破断伸びについて、改良が進められているが、引裂強度の劣るフィルムしか得られていない。また、ポリ乳酸系重合体と結晶性脂肪族ポリエステルからなる易引裂性二軸延伸フィルム(特許文献4)、ポリ乳酸とポリエチレンテレフタレート及び/又はポリエチレンイソフタレートからなる易引裂性ポリ乳酸系二軸延伸フィルム(特許文献5)があるが、共に引裂直線性、手切れ性に優れ、引裂強度の劣るフィルムしか得られていない。
また、ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを重縮合した脂肪族ポリエステルなど(ガラス転移点Tgが10℃以下)からなる寸法安定性と高速カット性と衝撃性に優れた延伸フィルム(特許文献6)、同じく、JIS−K−7128法で測定して引き裂き強度が高く、ASTM−D1709−91法で測定した衝撃強度が高いフィルム(特許文献7)がある。
また、ポリ乳酸系重合体と脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを含む2軸延伸フィルムであって、縦方向と横方向で一定の熱収縮差を一定の値以下とし、100℃以下で絞り加工するフィルムも知られている(特許文献8)。
また、ポリ乳酸にセグメント化ポリエステル、天然ゴム、スチレンブタジエン共重合体を混合することで耐衝撃性を改善できる発明(特許文献9)があるが、一般にこれらの材料とポリ乳酸と相溶性が悪く、耐衝撃性は改善されるもののブレンドムラが発生しやすく場合、見た目に劣るだけでなく機械的強度も安定しない。
成形加工性を改良するための添加剤であるエポキシ化イソプレンを溶融したポリ乳酸に添加して混練することによる方法がある(特許文献10)。
天然ゴム及び合成ゴムを加熱して可塑化し、ポリ乳酸の粉末を添加し、ポリ乳酸の融点未満の温度で混練して混合物とし、さらに融点以上の温度で混練する方法(特許文献11)では煩雑な操作を必要とする。
ポリ乳酸を含むポリマーブレンド材料さらにポリ乳酸とポリウレタン、またはエポキシ基含有熱可塑性エラストマーを溶融混合することにより、溶融特性、機械特性、耐衝撃性、成形品外観などの改良が試みられているが(特許文献12)、衝撃強さなどもせいぜい倍程度にしか向上していない。
【0004】
さらにポリ乳酸とエポキシ化ジエン系ブロック共重合体との組成物、さらにこの系にポリカプロラクトンを添加した組成物も報告(特許文献13)され、機械特性、生分解性について検討されている。また、ポリ乳酸に変性オレフィン系化合物を添加して得られた樹脂組成物では、ポリ乳酸の強度を低下させることなく、耐衝撃性を向上し、かつ生分解性を制御することができるものが得られている。(特許文献14)しかし、これらの報告では本発明のように延伸処理を施すことによりさらにポリマーの高次構造を制御する試みはなされていない。
【0005】
ポリ乳酸とエポキシ基含有樹脂からなるポリマー組成物は、均一な組成となるものではあるが、引張り強さ、破断伸度や衝撃強さの点などでは、使用に耐えるという特性のものが得られていない。このようなことを背景に、透明性を有しつつ、引張り強さ、破断伸度や衝撃強さのなどの物性値が改良された材料が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開6−23836号公報
【特許文献2】特開7−207041号公報
【特許文献3】特開7−256753号公報
【特許文献4】特開2000−198913号公報
【特許文献5】特開2001−64413号公報
【特許文献6】特開2003−2863534号公報
【特許文献7】特開2003−292642号公報
【特許文献8】特開2003−342391号公報
【特許文献9】特許2725870号公報
【特許文献10】特開2000−95898号公報
【特許文献11】特開2004−143315号公報
【特許文献12】特開2002−37995号公報
【特許文献13】特開2000−219803号公報
【特許文献14】特開平09−316310号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、植物由来の生分解性材料、ポリ乳酸を主成分としながら、延性、強度、透明性に優れたポリ乳酸系延伸マテリアルとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】

【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ポリ乳酸60〜99重量%(A)及び該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体40〜1重量%(B)を含むことを特徴とするポリ乳酸系延伸マテリアル。
(2)ポリ乳酸(A)の重量平均分子量が5千〜100万であることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(3)ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)が、エポキシ基を有する共重合体であることを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(4)エポキシ基を有する共重合体(B)が不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30重量%含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(5)エポキシ基を有する共重合体(B)が、オレフィン系化合物の構造を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(6)エポキシ基を有する共重合体(B)が(a)エチレン単位を60〜99重量%、(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜20重量%、(c)エチレン系不飽和エステル化合物を0〜40重量%からなるエポキシ基含有エチレン共重合体であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(7)エポキシ基を有する共重合体(B)の融解熱量が3J/g未満であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(8)エポキシ基を有する共重合体(B)のムーニー粘度が、3〜70の範囲であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(9)エポキシ基を有する共重合体(B)がゴムである(1)〜(8)のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(10)エポキシ基を有するゴムが、(メタ)アクリル酸エステル−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル)共重合体であることを特徴とする(9)記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(11)前記(メタ)アクリル酸エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、2−エチルへキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(10)に記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(12)ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)が、少なくとも1個のビニル芳香族化合物の構造を含むブロック、及び少なくとも1個の共役ジエン化合物の構造を含むブロックを有するブロック共重合体であることを特徴とする(3)に記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(13)ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)がスチレン系エラストマーであることを特徴とする(12)記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(14)共重合体(B)が、エポキシ基を含有したトリブロック共重合体である(12)または(13)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(15)ヘーズが10%以下であることを特徴とする(1)〜(14)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(16)引張破断伸度が40%以上で、延伸方向の引張強さが70MPa以上、かつ結晶化度が15%以上(ΔH=93J/gとして示差走査熱量分析測定(DSC)より算出)であることを特徴とする(1)〜(15)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(17)ポリ乳酸60〜99重量%(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体40〜1重量%(B)を含むことを特徴とするポリ乳酸系延伸マテリアルの製造方法。
(18)形状がフィルム状、シート状又は板状である(1)〜(16)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(19)形状が網状、繊維状、不織布状、織布状、又はフィラメント状である(1)〜(16)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(20)形状がボトル状、チューブ状または管状である(1)〜(16)いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
(21)容器、家電製品用部品、電送用部品、ハウジング材、日用品、農業水産業用用途材料、モバイル機器部品、包装材料、医療用、又は自動車用部品である(18)〜(20)記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【発明の効果】
【0010】

このような特性は環境素材マテリアルとして期待されるものであり、包装材料から、自動車部品、電気電子部品、衣料品、ハウジング材、医療用、モバイル機器部品用まで広範囲な用途が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の環境素材マテリアルを製造するためには、ポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体 (B)の配合比を、A/B=99.0/1.0〜60.0/40.0(重量比)、好ましくは、98/2〜75/25(重量比)の混合物とする。ポリ乳酸(A)の鎖末端には水酸基または/かつカルボン酸基が存在するので、溶融混練を行なう高温にて、これらの官能基とカップリング反応や付加反応などの反応を生じさせるもう1つの官能基が共重合体(B)に存在すれば、界面でAとBを含む新たな共重合体(A-B)が生成し、その共重合体(A-B)が非相溶系の樹脂組成物の乳化剤の役目を果たし、分散の安定化、界面接着性の向上、機械物性の向上らに寄与することが可能となる。そして、この得られた樹脂混合物を均一な延伸可能な形状にして、ポリ乳酸のガラス転移点〜ガラス転移点+30℃の間で延伸操作を施すことにより、分子配向かつ結晶化が促進し、好ましい物性が発現するようになる。
ポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)の配合比が上記範囲をはずれ、共重合体(B)が少なすぎると、物性の向上は全く得られず、逆に多すぎると、透明度や引張強度が劇的に低下するようになる。
【0012】
前記溶融混練することにより得られる樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)から成る連続相中に、前記反応性共重合体(B)が平均粒径10ミクロンから10ナノメーターの範囲の分散相として不連続に分散した状態から成ることを特徴とする。成分ポリマーの分子量、溶融粘度、反応性共重合体(B)中に含まれる反応基の濃度、種類、高分子鎖中での位置や成形加工を行なう条件らにより、反応性共重合体(B)が平均粒径10ミクロンから10ナノメーターの範囲にわたり変化する。粒径が10ミクロン以上になると両成分ポリマーの混和性が劣り、本発明で見られたような特性が発現しなくなる。一方、高分子鎖のディメンションを考慮すると溶融混練により10ナノメーター以下の分散相を得ることは困難である。(特願2004−342958ですでに確認済み)
【0013】
ポリ乳酸(A)については、以下の通りである。
乳酸には光学異性体として、L−乳酸とD−乳酸が存在し、それらが重合してできるポリ乳酸には、D−乳酸単位が約10%以下でL−乳酸単位が約90%以上、又はL−乳酸単位が約10%以下でD−乳酸単位が約90%以上であるポリ乳酸で、光学純度が約80%以上の結晶性ポリ乳酸と、D−乳酸単位が10%〜90%でL−乳酸単位が90%〜10%であるポリ乳酸で、光学純度が約80%以下の非晶性ポリ乳酸とがあることが知られている。本発明で用いるポリ乳酸は、特にポリ乳酸の種類を特定するものではないが、光学純度の高い結晶性ポリ乳酸(D-体、L-体)を用いる方が結晶化が促進するので、より好ましい原料である。
ポリ乳酸の重量平均分子量は、5千から100万の範囲のものである。この範囲未満のもの、またこの範囲を超えるものは、ポリマー組成物としたときに十分な効果を期待できない。特にあまりにも高分子量となると、反応を起こすポリ乳酸末端基の濃度が低すぎ、さらに溶融粘度が高くなりすぎて、反応性共重合体との界面反応を生じることが極めて困難となる。前記範囲は、好ましくは、2万から70万、さらに好ましくは2万以上50万以下である。
【0014】
ポリ乳酸の成形性を良くするために、例えばポリオール、グリコール、酸を少量添加し、ポリ乳酸の末端基を封鎖し、分子量を調整することも可能である。一例を示すと、ポリエチレングリコールをポリ乳酸に0.5〜10重量%共重合することにより安定して成形することができる。
【0015】
該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)の該ポリ乳酸と反応性を有する官能基としては、ポリ乳酸(A)末端基(水酸基、カルボン酸基)と反応するものであればよく、例えばエポキシ基、アミノ基、イソシアネ−ト基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、オルト-エステル基等が挙げられる。好ましくはエポキシ基である。
【0016】
エポキシ基等は他の官能基の一部として存在していてもよく、そのような例としてグリシジル基があげられる。
【0017】
かかる官能基を有する単量体としては、とりわけグリシジル基を含有する単量体が好ましく使用される。グリシジル基を含有する単量体との例として、下記の一般式で示される不飽和カルボン酸グリシジルエステル、不飽和グリシジルエーテルが好ましく用いられる。


【0018】
ここで、不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、p−スチレンカルボン酸グリシジルエステルなどが挙げることができる。
【0019】
不飽和グリシジルエーテルとしては、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等が例示される。
具体的には、不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル単位0.1〜30質量%を含有することが好ましく、0.1〜20質量%を含有することがより好ましい。
【0020】
共重合体(B)にこのような官能基を導入する方法は特に限定されるものではなく、周知の方法で行うことができる。例えば共重合体の合成の段階で、該官能基を有する単量体を共重合することにより導入することも可能であるし、共重合体に該官能基を有する単量体をグラフト共重合にすることも可能である。不飽和結合の化学反応によりエポキシ基を導入することも可能である。
【0021】
共重合体(B)にゴムを含有する組成物中のゴム中に上述の官能基を導入する方法としては、特に限定されるものではなく、周知の方法で行うことができる。例えばゴムの合成段階で、該官能基を有する単量体を共重合により導入することも可能であるし、ゴムに該官能基を有する単量体をグラフト共重合することも可能である。
【0022】
また上記のポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)は、熱可塑性樹脂であってもゴムであってもよいし、ゴムと熱可塑性樹脂の混合物であってもよい。
エポキシ基を有する熱可塑性樹脂としては、(a)エチレン単位(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位(c)エチレン系不飽和エステル化合物共重合体からなる樹脂をあげることができる。
ゴムの具体例を挙げると以下の通りである。
(1)エポキシ基を有する(アクリル)ゴム、(2)ビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体などである。
【0023】
またポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)は、樹脂であることもでき、その具体例としてオレフィン系化合物を含有していても良い。
【0024】
例えば、エポキシ基を有する熱可塑性樹脂としては、(a) エチレン単位が60〜99重量%、(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1〜20重量%、(c)エチレン系不飽和エステル化合物単位が0〜40重量%からなるエポキシ基含有エチレン共重合体をあげることができる。
【0025】
上記(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位の定義、具体例は前記と同様である。
【0026】
また、上記エチレン系不飽和エステル化合物(c)としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのカルボン酸ビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルなどを挙げることができる。特に、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましい。
【0027】
該エポキシ基含有エチレン共重合体としては、例えば、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位及びアクリル酸メチル単位からなる共重合体、エチレン単位とグリシジルメタクリレート単位及び酢酸ビニル単位からなる共重合体を挙げることができる。
【0028】
該エポキシ基含有エチレン共重合体は、曲げ剛性率が10〜1300kg/cmの範囲のものが好ましく、20〜1100kg/cmのものが更に好ましい。曲げ剛性率がこの範囲外であると組成物の機械的性質が不十分となる場合がある。
【0029】
また、共重合体(B)としては、本発明の成形体の熱安定性や柔軟性を良好なものとするために、その結晶の融解熱量が3J/g未満の共重合体であることが好ましい。
【0030】
該エポキシ基含有エチレン共重合体は、通常不飽和エポキシ化合物とエチレンをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下または不存在下に共重合させる高圧ラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造することができる。
【0031】
該エポキシ基含有エチレン共重合体のメルトインデックス(以下、MFRということがある。JIS K6760、190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは、0.5〜100g/10分、更に好ましくは、2〜50g/10分である。メルトインデックスが100g/10分を越えると、組成物にした時の機械的物性の点で好ましくなく、0.5g/10分未満では(A)成分との相溶性が劣り好ましくない。
【0032】
共重合体(B)のムーニー粘度が3〜70のものが好ましく、3〜30のものがさらに好ましく、4〜25のものが特に好ましい。ここでいうムーニー粘度は、JIS−K6300に準じて100℃ラージローターを用いて測定した値をいう。
【0033】
上記ゴムの具体例(1)のエポキシ基を有する(アクリル)ゴムは、以下の通りである。
(メタ)アクリル酸エステル(またはメタクリル酸エステル)−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエ−テル)共重合体ゴムの場合が好ましい。
【0034】
前記(メタ)アクリル酸エステルとして、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、2−エチルへキシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0035】
上記ゴムの具体例(2)のエポキシ基を有するビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体については、以下の通りである。
ビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体ゴムにおけるビニル芳香族炭化水素化合物としては、たとえば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、a−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどをあげることができる。中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエンなどを挙げることができ、ブタジエンまたはイソプレンが好ましい。
かかるビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体あるいはその水添物は周知の方法で製造することができ、例えば、特公昭40−23798号公報、特開昭59−133203号公報に記載されている。
【0036】
ポリ乳酸と反応性を有する官能基を有する単量体と共重合体を形成するビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体ゴムは、上記の方法などで得られたビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体にエポキシ基など、ポリ乳酸と反応性を有する単量体を導入することで得ることができる。かかる単量体をビニル芳香族炭化水素化合物―共役ジエン化合物ブロック共重合体に導入する方法は特に限定するものではないが、グラフト共重合などで導入することが好ましい。
【0037】
スチレン−ブタジエンブロック共重合体においては、エポキシ基はスチレンブロックに存在していても良い。
【0038】
スチレン−ブタジエンブロック共重合体においては、エポキシ基はブタジエンブロックに存在していても良い。好ましくはブタジエン主鎖中よりも側鎖にエポキシ基が存在していた方が良い。
【0039】
スチレン−ブタジエンブロック共重合体のスチレン含有量は5〜80質量%を含有することが好ましく、2〜50質量%を含有することがより好ましい。
【0040】
ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)は、エポキシ基を官能基として含有するトリブロック共重合体でも良い。
【0041】
本発明の成分(B)としてのトリブロック共重合体としては、ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持つスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体なども例示することができる。
【0042】
本発明に用いる共重合体(B)としてのゴムは必要に応じて加硫を行い、加硫ゴムとして用いることができる。
【0043】
アクリル酸エステル(またはメタクリル酸エステル)−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル)共重合体ゴムの加硫の場合、多官能性有機酸、多官能性アミン化合物、イミダゾール化合物などを用いることで達成されるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明のポリマー組成物を製造する方法は、前記ペレット混合物を溶融状態で各成分を混練(溶融混練)する。溶融混練に際しては、一般に使用されている一軸または二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用いることができる。なかでも、二軸の押出機が好ましい。溶融混練の温度は、180から250℃程度の範囲が採用される。
【0045】
溶融混練することにより、ポリ乳酸(A)のマトリックス中に該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体 (B)が微細に分散した状態のポリマー組成物を得ることができる。
【0046】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
タンブラー又はヘンシェルミキサー内の温度は180℃以上の温度が採用される。通常210℃位でよく、280℃以上の高温となるような温度は避けるべきである。
【0047】
ポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体 (B)からなる樹脂組成物には、滑剤のほか、必要に応じて、結晶化促進剤を含有してもよい。
【0048】
本発明で使用する結晶化促進剤/または結晶核剤の配合量は、ポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体 (B)からなる樹脂組成物を100重量部としたときに、30〜0.01重量部であることが好ましく、20〜0.05重量部であることがさらに好ましい。さらに好ましくは10〜0.05重量部である。
【0049】
本発明で使用する結晶化促進剤として使用する結晶核剤としては、一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限することなく用いられることができ、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれも使用することができる。無機系結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、およびフェニルホスホネートの金属塩などを挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、樹脂組成物での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。
【0050】
有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベゾエート、カリウムジベゾエート、リチウムジベゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸などのポリマー、エチレン−アクリル酸またはメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩または、カリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−、2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
【0051】
前記のポリマー組成物は、公知の各種成形方法によって所望の形状に成形することにより、各成形体を得ることができる。具体的には、以下の成形方法を挙げることができる。
押出成形、射出成形、回転成形、吹き込み成形、ブロー成形、トランスファー成形、プレス成形、溶液キャスト法等である。
これらの成形方法により得られる成形体を、前記成形方法に対応して、順に、押出成形体、射出成形体、回転成形体、吹込成形体、ブロー成形体、トランスファー成形体、プレス成形体、溶液キャスト法成形体と呼ぶ。
【0052】
延伸処理を施すためには成形体の厚みが大きいと困難であるので、成形方法にはこだわらないが、形状がフィルム状、シート状又は板状の物、さらに網状、繊維状、不織布状、織布状、又はフィラメント状であると都合がよい。また形状がボトル状である物も、ブロー成形過程で延伸の効果を施すことも可能である。
【0053】
本発明の樹脂組成物を成形してフィルム類を得るには。例えば、上記樹脂組成物を、ダイ(口金)を備えた押出機に供給する方法を使用できる。
フィルム類の製造に用いるダイとしては、Tダイ、円筒スリットのダイが好ましく用いられる。また、キャスト法や熱プレス法なども、フィルム類の製造に適用することができる。
【0054】
上記成形体がフィルム類である場合、その厚みは特に限定するものではないが、1〜1000mmの範囲が実用上好ましく、1〜500mmの範囲がさらに好ましい。フィルム表面には、必要に応じて表面処理を施すことができる。このような表面処理法としては、例えばα線、β線、γ線あるいは電子線等の照射、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、赤外線処理、スパッタリング処理、溶剤処理、研磨処理などが挙げられ、さらにポリアミド、ポリオレフィン等の樹脂の塗布、ラミネートあるいは酸化アルミニウム等金属の蒸着、あるいは酸化珪素、酸化チタン等のコーティング等を施す場合もある。
これらの処理は、成形加工の過程で行なっても良いし、成形加工後のフィルム、シートに対して行なっても良いが、成形加工の過程、特に巻き取り機の手前でかかる処理を施すのが好ましい。
【0055】
フィルム製造時や工程通過性をさらによくするため、シリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤を、必要量添加して製膜し、フィルム表面にスリップ性を付与することが望ましい。さらに、フィルムの印刷加工性を向上させるため、例えば、帯電防止剤等を含有させることもできる。
【0056】
ポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体 (B)からなる樹脂組成物には、滑剤のほか、必要に応じて、フィルムとして用いる場合であれば静電ピニング性付与剤としての金属化合物、あるいは難燃剤(有機リン系、ホウ酸系、水酸化アルミなど)、消泡剤等の添加剤を含有してもよい。
さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤(フェノール系、芳香族アミン系、有機イオウ系、有機リン系など)、光安定剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの各種の添加剤を含有していてもよい。
【0057】
これらの添加剤を加える方法については熱安定性を有するものであれば樹脂混練の際に添加しても良いし、熱安定性がないものであれば混練後、別途塗布、含有、あるいは表面処理で加えることも可能であり、その方法についてはとくに限定されることはなく、用途に応じた最適な方法を用いればよい。これらの添加剤を少量混練する際や主として表面に処理を施す場合は、本発明の樹脂組成物の機械特性は主としてバルクの特性で決定されるので、これらで述べる延性、靭性、強度、耐衝撃性らの特性は保持され、これらをいかした分野で用いることができる。
【0058】
本発明のフィルムは、ポリ乳酸単体のフィルムよりも、靭性、耐衝撃性を改善し、脆性から延性(破断伸度が数倍)に改質され、さらに、屈曲性、耐油性および接着性、ヒートシール性に優れるので、それらの特性を生かした食品の包装用フィルムやテープ、生ごみ包装用袋、ラミネート用フィルム、電気・電子部品等のラッピング、記録メディアのシュリンクフィルム、農水産用フィルム等の用途にも好適に使用できる。
【0059】
また、成形してフィラメントを得るには、前記樹脂組成物を、押出機によってストランドダイへ溶融押出した後、高速で巻き取る方法を使用できる。
【0060】
また、樹脂組成物を成形して容器、ボトルなどの中空成形体を得るには、例えば、ブロー成形機を使用して、上記樹脂組成物に、空気、水などの流体圧力を吹き込んで、金型内へ密着させる方法(ブロー成形)を使用できる。また、射出成形も適用可能である。
【0061】
また、上記の樹脂組成物を成形して管、チューブを得るには、チューブ成形機を使用して、押出機からチューブダイへ溶融押出する方法を使用できる。
【0062】
以上より成形体の形状には、フィルム状、シート状又は板状、網状、繊維状、不織布状、織布状、又はフィラメント状、前記成形体の形状が棒状や異形品、チューブ、管、ボトル、容器などが含まれる。これらの成形体の形状としてはフィルム状(フィルム、シートら)、板状、円柱状、フィラメント状、不織布状、織布状、管状、チューブ状、その他の異形品状である。
【0063】
延伸を施すと分子鎖が引張方向に沿って配向し、結晶化が容易となる。本発明のポリ乳酸系延伸マテリアルでも未延伸のフィルムは結晶化度が10%以下であるのに、延伸を行うと結晶化度は15%~45%の範囲で急激に上昇することが、確認されている。
【0064】
延伸を施すと結晶化度が上昇するものの、可視光の波長より大きい球晶の構造が破壊されるので、散乱が抑制され、結果として透明度が上昇する。本発明のポリ乳酸系延伸マテリアルでも10重量部の(B)成分を含む未延伸フィルムのヘーズは25%であったのに、延伸を行うと3〜10%へと急激に減少することが、確認されている。(表Iを参照)
【0065】
さらに、表IIの比較例に示したように、未延伸のポリ乳酸フィルム、または未延伸の成分(A)と成分(B)から成るフィルムは破断伸度が低い(10〜30%)。またポリ乳酸フィルムに延伸を施しても破断伸度はMD方向で上昇するものの、TD方向ではあまり変化がない。一方、本発明のポリ乳酸系延伸マテリアルはMD方向、TD方向ともに急激な上昇を示し、50%~200%以上の範囲まで急激に上昇し、延性な物質になることが、確認されている。
【0066】
以上、安全で優れた機械物性を有し、環境に考慮したマテリアルとして、家庭用雑貨、家電製品部品、事務機器、自動車部品、医療用器具、電気・電子部品、AV機器、水産分野でのネット、フィルター、衣料品用途などにも好適である。
【0067】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、本発明の試験は以下の方法による。
【0068】
(1)引張試験
約250ミクロンの厚みを有するフィルムを様々な延伸条件下(延伸比、延伸速度、延伸温度)で処理をした後、JIS K7113に準じて引張試験を実施した。試験機はUTM-III-10T Orientec Tensilonを用いた。測定は同じ試料について3〜5回繰り返した。
以上の引張試験より引張弾性率、破断伸度らを求めた。
【0069】
(2)ヘーズ
Hazeメーター(Suga Test Instrument HGM-2DP)により、フィルムの濁り度を測定した。
【0070】
(3)示差走査熱量分析計(DSC)
Perkin Elmer DSC7Eを用いて、窒素雰囲気中で昇温速度10℃/minにてDSC測定を行い、ポリ乳酸の融解エンタルピーΔH=93J/gとして、結晶化度を求めた。
【0071】
実施例及び比較例に用いた原料は以下の通りである。
(A)成分:ポリ乳酸(PLA)
三井化学社製H-100 [190℃におけるMFRは8g/10min、重量平均分子量 Mw=約14〜15万、D体含有量=1−2%、ガラス転移点62.5℃、融点164℃]
(B)成分:ポリ乳酸と反応性を有する組成物
住友化学工業(株)社製、ボンドファースト7L(エチレン/アクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート=67/30/3 重量比、 MFR(190℃)=9g/10min)
【0072】
せん断混練装置について説明する。
ポリ乳酸含有樹脂組成物の試料調製にはテクノベル社製2軸押出機 KZW15-30MG(スクリュー外径15mm、セグメントタイプスクリュー、L/D = 30)の混練装置を用いた。これによりポリ乳酸(A)と該ポリ乳酸と反応基を有するポリマー(B)の(A)/(B)の重量比が(95/5)、(90/10)である組成物のペレットを得た。
【0073】
ポリ乳酸(A)のペレットは80℃で、上記二種類のポリマー組成物のペレットは真空乾燥機中60℃にて一晩乾燥した後、150mm幅のTダイのついた一軸押出機にてフィルムを得た。フィルム厚みはほぼ250ミクロンに統一した。
【0074】
上記のように得られたフィルムを、延伸機(東洋精機X6H-S型二軸延伸試験装置)にて、ポリ乳酸のガラス転移点〜ガラス転移点+30℃の範囲において、引張速度5cm/min〜30m/minにて、一軸延伸、二軸延伸を行った。延伸フィルムの構造と物性について考察を行った。
【実施例1】
【0075】
上記成分(A)を80℃で8時間真空乾燥し、上記成分(B)を60℃で4時間真空乾燥した後、(A)成分95重量部、(B)成分5重量部とするペレットを混合してL/D=30の2軸押出成形機で溶融混練した。このとき、減圧ベントをつけた2軸押出成形機を170−215℃に加熱し、上記ペレットを混合して加え、スクリュー回転数200rpmで混練した。押出機から吐出される溶融ストランド物は水中で冷却した後、ペレタイザーにてペレットを得た。次にこのペレットを60度で再び真空乾燥した後、150mm幅のTダイをつけた一軸押出成形機を170−215℃に加熱して厚さ約250ミクロンのフィルムを得た。さらに、このフィルムを90mmx90mmの大きさに切り、延伸機(東洋精機X6H-S型二軸延伸試験装置)にて70℃、引張速度5cm/minにて延伸比=2になるように一軸延伸を施した。得られた延伸フィルムのヘーズ測定、引張試験による機械特性の検討、示差走査熱量分析測定(DSC)による結晶化度の算出(ポリ乳酸のΔH=93J/gとして計算)を行った。その結果を表Iにまとめた。(MDは引張方向、TDはそれと垂直方向を示す。)
【実施例2】
【0076】
延伸比=3になるように一軸延伸を行った以外は実施例1と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例3】
【0077】
延伸比=3.5になるように一軸延伸を行った以外は実施例1と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例4】
【0078】
延伸比=4.5になるように一軸延伸を行った以外は実施例1と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例5】
【0079】
(A)成分90重量部、(B)成分10重量部として溶融混練を行った以外は実施例1と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例6】
【0080】
延伸比=3になるように一軸延伸を行った以外は実施例5と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例7】
【0081】
延伸比=3.5になるように一軸延伸を行った以外は実施例5と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【実施例8】
【0082】
延伸比=4.5になるように一軸延伸を行った以外は実施例5と同じに処理し、物性試験の結果を表Iにまとめた。
【比較例1】
【0083】
(A)成分、PLA100重量部を原料ペレットとして、80度で一晩真空乾燥した後、150mm幅のTダイをつけた一軸押出成形機を170−215℃に加熱して厚さ約250ミクロンのフィルムを得た。そしてフィルムのヘーズ測定、引張試験による機械特性の検討、示差走査熱量分析測定(DSC)による結晶化度の算出(ポリ乳酸のΔH=93J/gとして計算)を行い、その結果を表IIにまとめた。(MDは引張方向、TDはそれと垂直方向を示す。)
【比較例2】
【0084】
(A)成分、PLA100重量部を原料ペレットとして、80度で一晩真空乾燥した後、150mm幅のTダイをつけた一軸押出成形機を170−215℃に加熱して厚さ約250ミクロンのフィルムを得た。さらに、このフィルムを90mmx90mmの大きさに切り、延伸機(東洋精機X6H-S型二軸延伸試験装置)にて70℃、引張速度5cm/minにて延伸比=2になるように一軸延伸を施した。得られた延伸フィルムの分析方法は実施例1と同様に行い、その結果を表IIにまとめた。
【比較例3】
【0085】
延伸比=3になるように一軸延伸を施した以外は比較例2と同じ操作を行い、物性試験の結果を表IIにまとめた。
【比較例4】
【0086】
延伸比=4になるように一軸延伸を施した以外は比較例2と同じ操作を行い、物性試験の結果を表IIにまとめた。
【比較例5】
【0087】
(A)成分95重量部、(B)成分5重量部とするペレットを混合してL/D=30の2軸押出成形機で溶融混練した。このとき、減圧ベントをつけた2軸押出成形機を170−215℃に加熱し、上記ペレットを混合して加え、スクリュー回転数200rpmで混練した。押出機から吐出される溶融ストランド物は水中で冷却した後、ペレタイザーにてペレットを得た。次にこのペレットを60度で再び真空乾燥した後、150mm幅のTダイをつけた一軸押出成形機を170−215℃に加熱して厚さ約250ミクロンのフィルムを得た。得られたフィルムの分析方法は実施例1と同様に行い、表IIにまとめた。
【比較例6】
【0088】
(A)成分90重量部、(B)成分10重量部とするペレットを混合してL/D=30の2軸押出成形機で溶融混練した。このとき、減圧ベントをつけた2軸押出成形機を170−215℃に加熱し、上記ペレットを混合して加え、スクリュー回転数200rpmで混練した。押出機から吐出される溶融ストランド物は水中で冷却した後、ペレタイザーにてペレットを得た。次にこのペレットを60度で再び真空乾燥した後、150mm幅のTダイをつけた一軸押出成形機を170−215℃に加熱して厚さ約250ミクロンのフィルムを得た。得られたフィルムの分析方法は実施例1と同様に行い、表IIにまとめた。


【0089】

【0090】








【0091】
比較例5と実施例1〜4、比較例6と実施例5〜8を比べてみても明らかなように、延伸を施すと分子鎖が引張方向に沿って配向し、結晶化が容易となる。未延伸のフィルムは結晶化度が10%以下であるのに、延伸を行うと結晶化度は15%~45%の範囲で急激に上昇することが表より分かる。
【0092】
延伸を施すと結晶化度が上昇するものの、可視光の波長より大きい球晶の構造が破壊されるので、散乱が抑制され、結果として透明度が上昇する。たとえば、延伸前の比較例5と延伸後の実施例1〜4、または延伸前の比較例6と延伸後の実施例5〜8を見ても分かるように、未延伸フィルムのヘーズがそれぞれ17%、25%であったのに、延伸を行うと10%以下へと急激に減少し、フィルムの透明度が上がることが分かる。
【0093】
さらに、表IIの比較例に示したように、比較例1の未延伸のポリ乳酸フィルム、または比較例5と6の未延伸の成分(A)と成分(B)から成るフィルムは破断伸度が低い(10〜30%)。また比較例2〜4のように、ポリ乳酸フィルムに延伸を施しても破断伸度はMD方向で上昇するものの、TD方向ではあまり変化がない。一方、実施例1〜8で示した本発明のポリ乳酸系延伸マテリアルはMD方向、TD方向ともに急激な上昇を示し、50%〜200%以上の範囲まで急激に上昇し、延性な物質になることが分かる。
【0094】
引張強度は比較例1,5,6の未延伸マテリアル(55〜61MPa)と実施例1〜8(70〜175MPa)を見ても明らかなように、延伸処理とともに急激に上昇する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸60〜99重量%(A)及び該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体40〜1重量%(B)を含むことを特徴とするポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項2】
ポリ乳酸(A)の重量平均分子量が5千〜100万であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項3】
ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)が、エポキシ基を有する共重合体であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項4】
エポキシ基を有する共重合体(B)が不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜30重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項5】
エポキシ基を有する共重合体(B)が、オレフィン系化合物の構造を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項6】
エポキシ基を有する共重合体(B)が(a)エチレン単位を60〜99重量%、(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位および/または不飽和グリシジルエーテル単位を0.1〜20重量%、(c)エチレン系不飽和エステル化合物を0〜40重量%からなるエポキシ基含有エチレン共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項7】
エポキシ基を有する共重合体(B)の融解熱量が3J/g未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項8】
エポキシ基を有する共重合体(B)のムーニー粘度が、3〜70の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項9】
エポキシ基を有する共重合体(B)がゴムである請求項1〜8のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項10】
エポキシ基を有するゴムが、(メタ)アクリル酸エステル−エチレン−(不飽和カルボン酸グリシジルエステルおよび/または不飽和グリシジルエーテル)共重合体であることを特徴とする請求項9記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、2−エチルへキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10に記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項12】
ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)が、少なくとも1個のビニル芳香族化合物の構造を含むブロック、及び少なくとも1個の共役ジエン化合物の構造を含むブロックを有するブロック共重合体であることを特徴とする請求項3に記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項13】
ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体(B)がスチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項12記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項14】
共重合体(B)が、エポキシ基を含有したトリブロック共重合体である請求項12または13いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項15】
ヘーズが10%以下であることを特徴とする請求項1〜14いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項16】
引張破断伸度が40%以上で、延伸方向の引張強さが70MPa以上、かつ結晶化度が15%以上(ΔH=93J/gとして示差走査熱量分析測定(DSC)より算出)であることを特徴とする請求項1〜15いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項17】
ポリ乳酸60〜99重量%(A)と該ポリ乳酸と反応性を有する官能基を持った共重合体40〜1重量%(B)を含むことを特徴とするポリ乳酸系延伸マテリアルの製造方法。
【請求項18】
形状がフィルム状、シート状又は板状である請求項1〜16いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項19】
形状が網状、繊維状、不織布状、織布状、又はフィラメント状である請求項1〜16いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項20】
形状がボトル状、チューブ状または管状である請求項1〜16いずれかに記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。
【請求項21】
容器、家電製品用部品、電送用部品、ハウジング材、日用品、農業水産業用用途材料、モバイル機器部品、包装材料、医療用、又は自動車用部品である請求項18〜20記載のポリ乳酸系延伸マテリアル。

【公開番号】特開2007−70379(P2007−70379A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255628(P2005−255628)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】