説明

環状オレフィン付加重合体及びその製造方法

【解決手段】特定の環状オレフィン官能性シロキサン、又はこのシロキサンと特定の環状オレフィン化合物とを付加重合することにより得られ、特定の環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が付加重合体中5〜100モル%であり、THFを溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が10,000〜2,000,000である高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【効果】本発明の重合体は、優れた気体透過性、熱安定性、溶解性を有し、更には、機械的強度、特に柔軟性に優れる。また、本発明の重合体は、特定の多成分系触媒を用い、環状オレフィンのビニル付加重合により容易、且つ、高効率で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン付加重合体に関し、詳細には、特定のオルガノシロキサンをペンダントとして有する高気体透過性環状オレフィン付加重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
快適な生活・作業空間を提供するエアーコンディショナー(以下、エアコンと略称)は、オフィスビル、公共施設、病院、住宅はもちろん、自動車・鉄道・船舶・航空などの運搬輸送機にも必要不可欠な設備となっている。通常、エアコンを使用する環境は、エネルギー効率を高めるため密閉性が高い。従って、このような密閉空間で人間が作業を続けると、酸素が不足し、作業能率が低下する。特に、運搬輸送機の場合は、眠気を催すなど安全上の問題も発生し得る。窓の開放により、酸素濃度の低下を防ぐことが可能であるが、エネルギーのロスにつながると共に、花粉、黄砂、粉塵などの侵入を許し、構築された快適な環境が損なわれる。また、高層ビルや航空など作業環境によっては、窓の開放が不可能な場合もある。このような状況から、酸素を選択的に通過させる酸素富化膜を使用したエアコン等も開発されているが、未だ満足すべき性能は得られていない。
【0003】
酸素透過性に優れた材料として、オルガノポリシロキサンが知られている。しかしながら、オルガノポリシロキサン自体は機械的強度が低く、実用性には問題がある。これを改善すべく、ポリカーボネートとの共重合体(特許文献1:特公平4−001652号公報)、ポリシロキサン−芳香族ポリアミド系ブロック共重合体(特許文献2:特開平5−285216号公報)等が提案されている。しかし、合成が極めて煩雑なのに加え、加水分解性があるなど長期安定性に欠けるという問題点を有する。
【0004】
また、有機ケイ素基を置換基として有する各種ポリマー、例えば、ケイ素含有スチレン誘導体(特許文献3:特開平4−88004号公報)、ケイ素含有スチルベン誘導体(特許文献4:特開平8−198881号公報)、ケイ素含有セルロース(特許文献5:特開2001−79375号公報)などが提案されているが、酸素透過性、熱安定性及び機械的強度を満足するものは未だ得られていない。
【0005】
特許文献6(特開2007−291150号公報)には、オルガノシロキサンをペンダントとする環状オレフィン化合物の開環重合体及びその水素化物が提案されている。
【0006】
最近になり、特許文献7(特開2009−173824号公報)、特許文献8(特開2009−249610号公報)において、環状オレフィン官能性シロキサンを繰り返し単位として構造中に含む付加重合体が報告された。
【0007】
また、特許文献9(特開2010−174099号公報)には、環状オレフィン官能性シロキサンを繰り返し単位として構造中に含む高分子量の付加重合体が報告されている。しかしながら、いまだ満足する性能を得るにいたっていない。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、上記特許文献1〜9に加えて下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平4−001652号公報
【特許文献2】特開平5−285216号公報
【特許文献3】特開平4−88004号公報
【特許文献4】特開平8−198881号公報
【特許文献5】特開2001−79375号公報
【特許文献6】特開2007−291150号公報
【特許文献7】特開2009−173824号公報
【特許文献8】特開2009−249610号公報
【特許文献9】特開2010−174099号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.47,3982−3989(2009)
【非特許文献2】Polymer Journal,Vol.41,643−649(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、生産性が高く、優れた気体透過性、熱安定性、溶解性を併せ持ち、更には機械的強度、特に、柔軟性に優れる高気体透過性環状オレフィン付加重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと、下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することにより得られ、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が、付加重合体中5〜100モル%であり、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)を溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜2,000,000である特定構造の環状オレフィン付加重合体が、優れた酸素透過性、耐熱性、機械的強度、溶解性を併せ持ち、更には、優れた生産性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記に示す高気体透過性環状オレフィン付加重合体及びその製造方法を提供する。
〔請求項1〕
下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと、下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することにより得られ、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が、付加重合体中5〜100モル%であり、THFを溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜2,000,000であることを特徴とする高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【化1】


(式(1)中のR1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、iは0又は1であり、jは1〜4の整数を示す。)
【化2】


(式(2)中のA1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。kは0又は1を示す。)
〔請求項2〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが0であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項3〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが1であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項4〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが2であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項5〕
式(2)中のA1〜A4がいずれも水素原子であり、kが0である請求項1〜4のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項6〕
ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が1.0〜6.0である請求項1〜5のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項7〕
ガラス転移温度が130〜400℃である請求項1〜6のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項8〕
差圧法により計測される高気体透過性環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの酸素透過係数が40Barrer以上である請求項1〜7のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項9〕
引っ張り試験により計測される高気体透過性環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの破壊伸びが50%以上である請求項1〜8のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項10〕
イソドデカン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン又はデカメチルシクロペンタシロキサン溶媒に10質量%溶液以上で溶解性を示す請求項1〜9のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
〔請求項11〕
下記化合物(A)、(B)及び(C)を含む多成分系触媒の存在下、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することを特徴とする請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔化合物(A)〕
0価のパラジウム化合物。
〔化合物(B)〕
イオン性ホウ素化合物。
〔化合物(C)〕
炭素数3〜6のアルキル基、シクロアルキル基及びアリール基から選ばれる置換基を有するホスフィン化合物。
【化3】

(式(1)中のR1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、iは0又は1であり、jは1〜4の整数を示す。)
【化4】

(式(2)中のA1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。kは0又は1を示す。)
〔請求項12〕
化合物(A)が0価のパラジウム1個にジベンジリデンアセトン2個が配位した錯体であるビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、化合物(B)がトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、化合物(C)がトリシクロヘキシルホスフィンである請求項11記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔請求項13〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが0であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔請求項14〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが1であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔請求項15〕
式(1)中のR1がメチル基であり、sが2であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔請求項16〕
式(2)中のA1〜A4がいずれも水素原子であり、kが0である請求項11〜15のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔請求項17〕
不活性ガス雰囲気下、0〜150℃で1〜72時間付加重合する請求項11〜16のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の重合体は、優れた気体透過性、熱安定性、溶解性を有し、更には、機械的強度、特に柔軟性に優れる。また、本発明の重合体は、特定の多成分系触媒を用い、環状オレフィンのビニル付加重合により容易、且つ、高効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたポリマーP(1)の1H−NMRチャートである。
【図2】実施例4で得られたポリマーP(4)の1H−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンと、下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することにより製造される。
【化5】

(式(1)中のR1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、iは0又は1であり、jは1〜4の整数を示す。)
【化6】

(式(2)中のA1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。kは0又は1を示す。)
【0016】
上記式(1)中、R1は、互いに同一又は異なってよい脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の1個又は2個以上がフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された基などが挙げられる。
【0017】
式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンとしては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。ここで、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す(以下、同様)。
【0018】
【化7】

【0019】
式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンは、一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンは、例えば式(1)において、R1がメチル基、i=0、j=2、s=2の場合、下記に示す方法により製造することができる。
下記反応式に示す通り、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンと相当するSiH基含有官能性シロキサンを白金触媒存在下で付加反応させて合成することができる。
【化8】

【0021】
ここで、式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンの重要構造要素であるjについて説明する。jは、1〜4の整数であり、好ましくは1又は2である。
一般に、環状オレフィンの付加重合反応は、置換基の影響を強く受ける。非特許文献1(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.47,3982−3989(2009))には、極性置換基の影響が、非特許文献2(Polymer Journal,Vol.41,643−649(2009))には、嵩高い置換基の影響がそれぞれ示されている。シリル基のように嵩高い置換基が環状オレフィンに隣接する場合、活性中心である金属の周囲を占有し、他の単量体が中心金属に接近するのを妨げるため、重合活性が低下することが知られている。そこで、置換基の嵩高い構造部分の位置を環状オレフィンから遠ざけることができれば、活性の低下を防ぐことが可能となる。遠ざける方法の一つとしては、構造異性体であるエキソ体の選択的な合成が挙げられるが、この方法は、必ずしも万能ではない。そこで本発明では、嵩高い構造部分と環状オレフィンを遠ざけるスペーサーとしてアルキル鎖を導入した。後述するが、このアルキル鎖の影響により、生産性の問題を解決するに至った。更に、アルキル鎖の影響により本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の機械的強度、特に柔軟性が著しく高まることを見出している。
【0022】
一方、上記式(2)中、A1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、炭素数1〜10のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリーロキシ基、3,3,3−トリフロロプロピル基、2−(パーフロロブチル)エチル基、2−(パーフロロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基から選ばれる基、又はオキセタニル基、メトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等の好ましくはアルコキシ基の炭素数が1〜10、特に1〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とは、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。
【0023】
この場合、式(2)中の脂環構造としては炭素数4〜10のものが挙げられ、芳香環構造としては、炭素数6〜12のものが挙げられる。これらの構造を例示すると下記の通りである。
【化9】

【0024】
なお、これらがノルボルネン環と結合した状態を例示すると下記の通りである。式(2)において、k=0の場合を示す。
【化10】

【0025】
式(2)で表される環状オレフィン化合物としては、以下の化合物が例示できるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−アリル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−イソプロピリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸メチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸エチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸ブチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸プロピル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−カルボン酸トリフロロエチル、2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エニル酢酸エチル、アクリル酸2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル、メタクリル酸2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸ジメチル、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどを例示することができる。これらは、一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
式(2)で表される環状オレフィン化合物において、エステル基などの極性基を含んでいると、得られる重合体の被着体への接着性や有機溶媒への溶解性を高める反面、気体透過性能が低下する傾向があるので、目的に応じ、適宜選択することが好ましい。
【0027】
上記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンと、上記式(2)で表される環状オレフィン化合物との仕込み比率は、得られる本発明の環状オレフィン付加重合体の気体透過特性を考慮し、得られた重合体中の式(1)由来の構造単位は合計で5〜100モル%が好ましく、より好ましくは10〜100モル%となるように使用することが好ましい。
【0028】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、下記化合物(A)、(B)及び(C)を含む多成分系触媒を用いて、式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと、式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することで得られる。
〔化合物(A)〕
0価のパラジウム化合物。
〔化合物(B)〕
イオン性ホウ素化合物。
〔化合物(C)〕
炭素数3〜6のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれる置換基を有するホスフィン化合物。
【0029】
従来の環状オレフィン化合物の付加重合触媒としては、周期律表第8族元素、第9族元素及び第10族元素より選択された、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)などを中心金属とする遷移金属錯体が挙げられる。しかしながら、優れた物性を併せ持つ本発明の環状オレフィン付加重合体を得るためには、式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンへの反応性が高いこと、更に、得られる重合体が高分子量体であることが必要であり、この点から、パラジウムを中心金属とし特定の配位子を有する化合物(A)、イオン性ホウ素化合物(B)、ホスフィン化合物(C)を併せて使用する必要がある。
更に、パラジウムを中心金属とする化合物(A)は、重合活性、分子量調節能、取扱い性の点から、0価のパラジウム錯体がよい。
【0030】
〔化合物(A)〕
化合物(A)は、周期律表第10族元素であるパラジウムを中心金属とした化合物であり、特に0価のパラジウム化合物である。この具体例としては、0価のパラジウム1個にジベンジリデンアセトン2個が配位した錯体であるビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、0価のパラジウム2個にジベンジリデンアセトン3個が配位した錯体であるトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0価のパラジウム1個にエチレンが1個、トリシクロヘキシルホスフィンが2個配位した錯体である(エテン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、0価のパラジウム1個に一酸化炭素が1個、トリフェニルホスフィンが3個配位した錯体であるカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、0価のパラジウム1個に、t−ブチルイソシアニドが2個配位した錯体であるビス(t−ブチルイソシアニド)パラジウムなどが挙げられる。これらのなかで、取り扱い性の面や、入手しやすい点及び錯体の安定性を考慮すると、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが好ましい。
【0031】
〔化合物(B)〕
化合物(B)は、イオン性ホウ素化合物である。この具体例としては、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、あるいはリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート−エチルエーテルコンプレックスなどが挙げられる。これらのなかで、有機溶媒への溶解性、入手しやすい点を考慮するとトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0032】
〔化合物(C)〕
化合物(C)は、炭素数3〜6のアルキル基、シクロアルキル基及びアリール基から選ばれる置換基を有するホスフィン化合物である。この具体例としては、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジt−ブチルフェニルホスフィンなどが挙げられる。これらのなかで、触媒の活性と安定性の両立の面から、トリシクロヘキシルホスフィンが好ましい。
【0033】
本発明では、化合物(A)としてビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウムあるいはトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、化合物(B)としてトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、化合物(C)としてトリシクロヘキシルホスフィンを用いて、高気体透過性環状オレフィン付加重合体を製造することが好ましい態様の一つである。
【0034】
上記多成分系触媒を構成する化合物(A)、(B)、(C)は、以下の範囲の使用量で用いられる。
化合物(A)は、式(1)及び(2)で示される単量体の合計1モルに対して100万分の1〜100分の1モル原子が好ましく、より好ましくは10万分の1〜1000分の1モル原子である。化合物(A)の使用量が多すぎると目的とする分子量の重合体が得られない場合があり、少なすぎると重合活性が低下する場合がある。
また、化合物(B)は、化合物(A)1モルに対して1.0〜2.0モルが好ましく、より好ましくは1.0〜1.5モルである。化合物(B)の使用量が多すぎると重合体中に残存し、着色する場合があり、少なすぎると重合活性が低下する場合がある。
化合物(C)は、化合物(A)1モルに対して、0.25〜2.0モルが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5モルである。化合物(C)の使用量が多すぎると重合活性が低下する場合があり、少なすぎると触媒の安定性が低下する場合がある。
【0035】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、上記化合物(A)、(B)、(C)からなる多成分系触媒を用い、シクロヘキサン、シクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの環状ポリシロキサン溶媒などから選ばれる一種又は二種以上の溶媒中で重合を行うことにより製造することができる。
【0036】
溶媒の使用量は、溶媒(S)と上記環状オレフィン単量体(上記式(1)、(2)で表される化合物の合計量)(M)の質量比(S/M)が、1〜30の範囲、特に1〜20の範囲とすることが好ましい。溶媒の使用量が、上記質量比より少ないと溶液粘度が高く、取り扱い性が困難になる場合があり、上記質量比より多いと重合活性の点で劣る場合がある。
【0037】
上記化合物(A)、(B)、(C)からなる多成分系触媒を上記環状オレフィン単量体と接触混合させる場合、(操作手順1)化合物(B)、(C)、環状オレフィン単量体及び上記溶媒からなる溶液に、化合物(A)を上記溶媒に溶解した溶液を投入混合してもよく、(操作手順2)化合物(B)、環状オレフィン単量体及び溶媒からなる溶液に、化合物(A)、(C)を上記溶媒に溶解した溶液を投入混合してもよく、(操作手順3)環状オレフィン単量体及び溶媒からなる溶液に、化合物(A)、(B)、(C)を上記溶媒に溶解した溶液を投入混合してもよい。このなかでも、触媒活性種の効率的な発生の点から、操作手順3がより好ましい。
【0038】
重合方法としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、上述した操作手順により反応容器中に仕込み、0〜150℃、特に20〜100℃の範囲の温度で1〜72時間、特に2〜48時間重合することが好ましい。ただし、反応温度が低すぎると重合活性の点で劣る場合があり、高すぎるとゲル化を引き起こしたり、分子量の調節が困難になる場合がある。
【0039】
また、上記化合物(A)、(B)、(C)からなる多成分系触媒を用いた場合、特に分子量調節剤を添加する必要はないが、併せて用いることで分子量調節効果を高めてもよい。分子量調節剤としては、水素、エチレン,ブテン,1−ヘキセン,1−オクテンなどのα−オレフィン、シクロペンテン,シクロオクテンなどのシクロアルケン、スチレン,3−メチルスチレン,ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物、トリス(トリメチルメトキシ)ビニルシラン,ジビニルジヒドロシラン,ビニルシクロテトラシロキサンなどのビニルケイ素化合物が挙げられる。
【0040】
上述した溶媒と単量体の比率、重合温度、重合時間などは一概に限定することが難しい。上記特定構造の重合体を得るべく、目的に応じて使い分ける必要がある。
【0041】
重合の停止は、水、アルコール、ケトン、有機酸などから選ばれた化合物によって行われる。重合体溶液に、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸などの酸の水とアルコール混合物を添加することで、触媒残渣を重合体溶液から分離・除去することができる。また、触媒残渣の除去には、活性炭、珪藻土、アルミナ、シリカなどを用いての吸着除去や、フィルターなどによる濾過分離除去などが適用できる。
【0042】
重合体は、重合体溶液をメタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類中に入れて、凝固し、60〜150℃で6〜48時間減圧乾燥することにより得ることができる。この工程で、重合体溶液中に残存する触媒残渣や未反応モノマーも除去される。また、本発明において用いられる、シロキサンを含有する未反応モノマーは、上記アルコール類やケトン類にオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの環状ポリシロキサンを混合した溶媒を用いることで、容易に除去することができる。
【0043】
このようにして得られる本発明の環状オレフィン付加重合体は、上記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンを単量体として付加重合することにより形成される、下記式(3)で示される繰り返し単位を含む。
【化11】

(式(3)中のR1、i、j及びsは式(1)と同じである。)
【0044】
また、本発明の環状オレフィン付加重合体は、式(2)で表される環状オレフィン化合物を用いた場合、式(2)で表される環状オレフィン化合物を単量体として付加重合することにより形成される、下記式(4)で示される繰り返し単位を含む。
【化12】

(式(4)中のA1〜A4及びkは式(2)と同じである。)
【0045】
ここで、式(4)で示される繰り返し単位は、例えばkが0、A1〜A4がいずれも水素原子の場合、2,3付加構造単位を示すものであるが、上記式(2)で表される環状オレフィン化合物を単量体として付加重合することによる2,7付加構造単位となっているものが含まれていてもよい。また、この構造単位については、式(3)で示される繰り返し単位においても、同様である。
【0046】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体中の式(3)で表される構造単位の割合は、通常5〜100モル%、好ましくは10〜100モル%である。式(3)で表される構造単位の割合が、5モル%未満では気体透過性が不十分になる。また特に、気体透過性、有機溶媒への溶解性、機械強度の点から、環状オレフィン化合物中、式(1)由来の構造単位が50〜100モル%であり、式(2)由来の構造単位が0〜50モル%の割合で含まれることが好ましい。
【0047】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体中の式(3)及び式(4)で表される構造単位は、ランダムに存在してもよく、またブロック状に偏在してもよい。
【0048】
本発明の環状オレフィン付加重合体の分子量は、優れた物性の発現に関与する重要な因子である。THFを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜2,000,000であり、好ましくは50,000〜1,500,000であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(分散度:Mw/Mn)が、1.0〜6.0が好ましく、より好ましくは1.0〜5.5の範囲である。数平均分子量が10,000未満では、薄膜、フィルム及びシートとした際、脆く割れやすくなり、実使用に耐える膜強度が得られない。一方、数平均分子量が2,000,000を超えると、成形加工性及び溶媒類への溶解性が低下したり、溶液粘度が高くなり、取り扱い性が困難となる。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、6.0を超えると、割れや脆さの点で劣るものとなる場合がある。本発明においては、上記化合物(A)、(B)、(C)からなる多成分系触媒を用いた場合、数平均分子量(Mn)が10,000〜2,000,000で、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.0〜6.0の範囲である分子量分布の狭い環状オレフィン付加重合体が容易に得られる。このため、コーティング被膜、フィルムあるいはシートなどの薄膜にしたとき、割れや脆さの点で優れたものとなる。
【0049】
本発明の環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は、TMA(Thermal Mechanical Analysis)を用いて測定される。こうして評価される本発明の環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は、130〜400℃であることが好ましく、より好ましくは140〜350℃である。ガラス転移温度が130℃未満の場合、本発明の環状オレフィン付加重合体を含む成形体の加工時あるいは使用時に、熱変形などの問題が生じる可能性がある。また、ガラス転移温度が400℃を超える場合、熱加工を行う際に、加工温度が高すぎて、本発明の環状オレフィン付加重合体を含む成形体が熱劣化する可能性がある。
【0050】
本発明の環状オレフィン付加重合体は、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR,29Si−NMR)を用いて、その構造を確認することができる。例えば、1H−NMR(重クロロホルム中)においては、7.8〜6.5ppmの−O−Si(C65)−O−の−C65による吸収、0.6〜3.0ppmの脂環式炭化水素に由来する吸収、0.0〜0.6ppmの−Si−CH2−、−Si−CH3、−O−Si−CH3の吸収、−0.1〜0.0ppmの−O−Si(CH3)−O−の吸収、また29Si−NMR(重ベンゼン中)においては、下記式(5)に記載のM単位(R3:メチル基、10.0〜5.0ppm)に由来する吸収、D単位(R3:メチル基、−15.0〜−25.0ppm、R3:フェニル基、−45.0〜−50.0ppm)に由来する吸収、T単位(R3:アルキル基、−65.0〜−70.0)に由来する吸収とその積分比から構造を確認できる。
【0051】
【化13】


(式(5)中のR3は、式(1)中のR1と同じである。)
【0052】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、薄膜、シートあるいはフィルム形状として用いることが好ましい。薄膜、シートあるいはフィルム厚さとしては、特に制限されないが、通常10nm〜3mmの範囲で目的に応じて調整される。薄膜、シートあるいはフィルム形状とする方法は、特に限定されることなく、任意の方法で成形することができるが、熱履歴による重合体の劣化を抑制できる点で、本発明の重合体を溶媒に溶解させて支持体に塗工し、しかる後に溶媒を乾燥させる溶液流延法(キャスト法)や、本発明の重合体溶液を水面に滴下後、支持体等で掬い取る水面展開薄膜法、本発明の重合体を溶媒に溶解させて支持体に塗工し、しかる後に貧溶媒中に浸漬する乾湿式相転換法により成形するのが好ましい。
【0053】
溶液流延法、水面展開薄膜法、乾湿式相転換法に用いられる溶媒は、本発明の付加重合体を溶解させる溶媒である必要がある。本発明にかかる付加重合体の多くは、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、デカン、イソドデカン等の脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒、ヘキサメチルジシロキサン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のポリシロキサン溶媒に溶解し、これらの溶媒を一種単独あるいは二種以上の混合溶媒として使用することができる。本発明の環状オレフィン付加重合体は、上記いずれの溶媒にも優れた溶解性を示すが、膜厚や塗工条件によっては、乾燥時に残留溶媒が除去できない場合がある。このため、比較的沸点の低い、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等を主成分とした溶媒が好ましい。
【0054】
上記方法により成形された本発明の環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの酸素透過係数は、差圧法を用いて測定される。こうして評価される本発明の環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの酸素透過係数は、40Barrer(1Barrer=10-10cm3(STP)・cm/cm2・s・cmHg)以上であることが好ましく、より好ましくは50Barrer(1Barrer=10-10cm3(STP)・cm/cm2・s・cmHg)以上である。酸素透過係数が40Barrer(1Barrer=10-10cm3(STP)・cm/cm2・s・cmHg)未満の場合、十分な酸素輸送性能が得られない場合がある。
【0055】
上記方法により成形された本発明の環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの破壊伸びは、引っ張り試験により計測される。こうして評価される本発明の環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの破壊伸びは、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上である。破壊伸びが50%未満の場合、加工プロセスや作業中に割れが発生し、実使用に耐えない場合がある。
【0056】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、上記式(1)の単量体由来の構造単位である上記式(3)で表される構造単位を高い割合で含有するため、イソドデカン溶媒やメチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のポリシロキサン溶媒に高い溶解性を示す。これらの溶媒は、人体への影響や環境への負荷が低く、安全性の高い溶媒として知られている。このため、既存の環状オレフィン付加重合体では困難な場合が多い医療・食品・化粧品分野への応用も可能である。これらの分野への用途では、イソドデカン溶媒やシロキサン溶媒への溶解性が10質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましい。10質量%未満の場合、塗工後の被膜が薄く、割れや脆さの点で劣る場合がある。
【0057】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体を含む溶液には、公知の酸化防止剤を配合して、酸化安定性を向上させることができる。
【0058】
酸化防止剤としては、
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、
4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、
1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、
ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系、
トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、
トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、
ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系、更にはチオエーテル系、ラクトン系化合物などが挙げられる。これらの化合物の中でも、その分解温度(5%の質量減少温度)が250℃以上のものが好ましい。また、これら酸化防止剤の配合量は、本発明の環状オレフィン付加重合体100質量部に対し、0.05〜5.0質量部の範囲である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記例中、Meはメチル基、Phはフェニル基、Cyはシクロヘキシル基をそれぞれ表す。
【0060】
重合体の分子量、分子量分布、単量体の組成比、溶解性、ガラス転移温度、破壊強度、破壊伸び及び酸素透過係数は下記の方法で評価した。
1)実施例中で得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は、THFを溶媒とするGPCによりポリスチレンを標準物質として用いて求めた。
2)共重合体中のノルボルネン誘導体/ノルボルネンの組成比は、1H−NMRにより得られたピークの積分比から求めた。
3)有機溶媒への溶解性は、溶媒として、イソドデカン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(以下、M3T)、デカメチルシクロペンタシロキサン(以下、D5)を用い、10質量%溶液になるように調製して評価した。
4)ガラス転移温度は、TMA装置を用い、膜厚100μm、幅3mm、長さ20mmの試料をプローブに固定し、室温から10℃/minで昇温して測定した。
5)破壊強度及び破壊伸びは、膜厚100μmのフィルムを2号ダンベル形状に打ち抜き、それを試験機のプローブに固定して、50mm/minの速度で引っ張り測定した。
6)酸素透過係数は、膜厚100μm、直径3cmの円形状試料を用い、差圧法にて測定した。
【0061】
[実施例1]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、下記式(6)で表される単量体A214.8g(0.8mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、70℃で2.5時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、206g(収率96%)のポリマーP(1)が得られた。
得られたポリマーP(1)のGPC測定による分子量はMn=558,000、分子量分布Mw/Mn=3.22であった。図1にポリマーP(1)の1H−NMRスペクトル
を示す。
【化14】

【0062】
[実施例2]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(6)で表される単量体A150.4g(0.56mol)と、下記式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、70℃で2.5時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、158g(収率91%)のポリマーP(2)が得られた。
得られたポリマーP(2)のGPC測定による分子量はMn=599,000、分子量分布Mw/Mn=3.24であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体A由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はA/B=70/30(mol/mol)であることを確認した。
【化15】

【0063】
[実施例3]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(8)で表される単量体C191.9g(0.56mol)と、式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、60℃で1.5時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、189g(収率85%)のポリマーP(3)が得られた。
得られたポリマーP(3)のGPC測定による分子量はMn=867,000、分子量分布Mw/Mn=3.24であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体C由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はC/B=70/30(mol/mol)であることを確認した。
【化16】

【0064】
[実施例4]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(9)で表される単量体D233.5g(0.56mol)と、式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、55℃で2.0時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、192g(収率75%)のポリマーP(4)が得られた。
得られたポリマーP(4)のGPC測定による分子量はMn=1,330,000、分子量分布Mw/Mn=3.04であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体D由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はD/B=67/33(mol/mol)であることを確認した。図2にポリマーP(4)の1H−NMRスペクトルを示す。
【化17】

【0065】
実施例1〜4の結果を表1に示す。
【表1】

【0066】
[比較例1]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、下記式(10)で表される単量体E192.4g(0.8mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、70℃で16時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、102g(収率53%)のポリマーP(5)が得られた。
得られたポリマーP(5)のGPC測定による分子量はMn=620,000、分子量分布Mw/Mn=2.60であった。
【化18】

【0067】
[比較例2]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(10)で表される単量体E134.7g(0.56mol)と、式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、70℃で12時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、99g(収率63%)のポリマーP(6)が得られた。
得られたポリマーP(6)のGPC測定による分子量はMn=421,000、分子量分布Mw/Mn=2.00であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体E由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はE/B=66/34(mol/mol)であることを確認した。
【0068】
[比較例3]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(11)で表される単量体F176.2g(0.56mol)と、式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、60℃で6時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、127g(収率64%)のポリマーP(7)が得られた。
得られたポリマーP(7)のGPC測定による分子量はMn=666,000、分子量分布Mw/Mn=2.88であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体F由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はF/B=67/33(mol/mol)であることを確認した。
【化19】

【0069】
[比較例4]
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(C1714O)2]0.0057g(1.0×10-5mol)、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[Ph3C][B(C654]}0.0092g(1.0×10-5mol)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)0.0028g(1.0×10-5mol)をそれぞれトルエン10mlに溶解させ、触媒溶液を調製した。次に、窒素置換したガラス製容器中で、式(12)で表される単量体G217.7g(0.56mol)と、式(7)で表される単量体B22.5g(0.24mol)をトルエン600mlに溶解した。そこへ調製した触媒溶液を添加し、55℃で16時間重合反応を行った。
反応終了後、多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、濾別洗浄後、120℃で12時間減圧乾燥し、149g(収率62%)のポリマーP(8)が得られた。
得られたポリマーP(8)のGPC測定による分子量はMn=554,000、分子量分布Mw/Mn=3.24であった。1H−NMRスペクトルにより、重合体中の単量体G由来の構造体及び単量体B由来の構造体の組成比はG/B=67/33(mol/mol)であることを確認した。
【化20】

【0070】
比較例1〜4の結果を表2に示す。
【表2】

【0071】
以上の結果から、本発明の環状オレフィン付加重合体の製造にあたり、上記式(1)で表される特定構造の環状オレフィン官能性シロキサンを用いることに関して、高い優位性が確認できる。
【0072】
表3には、実施例1〜4に記載のP(1),P(2),P(3)及びP(4)の溶解性を示す。
【0073】
【表3】

【0074】
得られたポリマーP(1),P(2),P(3),P(4)をトルエンに溶解し、5質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を用いて溶液流延法にて製膜後、80℃で12時間減圧乾燥させてポリマーフィルムF(1),F(2),F(3),F(4)をそれぞれ作製した。作製したポリマーフィルムのガラス転移温度及び酸素透過係数を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
比較例で得られたポリマーP(5),P(6),P(7),P(8)をトルエンに溶解し、5質量%のポリマー溶液を調製した。この溶液を用いて溶液流延法にて製膜後、80℃で12時間減圧乾燥させてポリマーフィルムF(5),F(6),F(7),F(8)をそれぞれ作製した。作製したポリマーフィルムの引っ張り試験結果をポリマーフィルムF(1),F(2),F(3),F(4)と比較して表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
以上の結果から、本発明のオルガノシロキサンをペンダントとして有する環状オレフィン付加重合体が、優れた溶解性、耐熱性、気体透過性を併せ持ち、更に、機械的強度、特に柔軟性に優れることがわかる。また、本発明の重合体は、特定の多成分系触媒を用い、環状オレフィンのビニル付加重合により容易、且つ、高効率で製造できることがわかる。
【0079】
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、製膜性に優れ、優れた気体透過性、耐熱性、機械的強度を有する。本発明の重合体は、エアコンや燃料電池用の酸素富化膜、コンタクトレンズ等への応用が期待される。更に、本発明の重合体は、優れた有機溶媒及びポリシロキサン溶媒への溶解性も有する。よって、医薬品・食品・化粧品用途の被膜剤等への応用も期待できる。また、本発明の重合体は、特に柔軟性に優れるため割れにくく、フィルムやインターフェイスマテリアルとして表示デバイスや半導体への応用も期待できる。
本発明の高気体透過性環状オレフィン付加重合体は、特定構造の多成分系触媒を用いて、容易に、且つ、高効率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと、下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することにより得られ、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサンに由来する構造単位の割合が、付加重合体中5〜100モル%であり、THFを溶媒とするGPCで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜2,000,000であることを特徴とする高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【化1】


(式(1)中のR1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、iは0又は1であり、jは1〜4の整数を示す。)
【化2】


(式(2)中のA1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。kは0又は1を示す。)
【請求項2】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが0であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項3】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが1であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項4】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが2であり、jが2である請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項5】
式(2)中のA1〜A4がいずれも水素原子であり、kが0である請求項1〜4のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項6】
ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が1.0〜6.0である請求項1〜5のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項7】
ガラス転移温度が130〜400℃である請求項1〜6のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項8】
差圧法により計測される高気体透過性環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの酸素透過係数が40Barrer以上である請求項1〜7のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項9】
引っ張り試験により計測される高気体透過性環状オレフィン付加重合体キャストフィルムの破壊伸びが50%以上である請求項1〜8のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項10】
イソドデカン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン又はデカメチルシクロペンタシロキサン溶媒に10質量%溶液以上で溶解性を示す請求項1〜9のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体。
【請求項11】
下記化合物(A)、(B)及び(C)を含む多成分系触媒の存在下、下記式(1)で表される環状オレフィン官能性シロキサン、又はこの式(1)の環状オレフィン官能性シロキサンと下記式(2)で表される環状オレフィン化合物とを付加重合することを特徴とする請求項1記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
〔化合物(A)〕
0価のパラジウム化合物。
〔化合物(B)〕
イオン性ホウ素化合物。
〔化合物(C)〕
炭素数3〜6のアルキル基、シクロアルキル基及びアリール基から選ばれる置換基を有するホスフィン化合物。
【化3】

(式(1)中のR1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない一価の有機基であり、sは0〜2の整数であり、iは0又は1であり、jは1〜4の整数を示す。)
【化4】

(式(2)中のA1〜A4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又はオキセタニル基及びアルコキシカルボニル基から選ばれる極性を有する置換基である。また、A1とA2又はA1とA3とが、それぞれが結合する炭素原子と共に脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基又は酸無水物基を形成してもよい。kは0又は1を示す。)
【請求項12】
化合物(A)が0価のパラジウム1個にジベンジリデンアセトン2個が配位した錯体であるビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、化合物(B)がトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、化合物(C)がトリシクロヘキシルホスフィンである請求項11記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【請求項13】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが0であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【請求項14】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが1であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【請求項15】
式(1)中のR1がメチル基であり、sが2であり、jが2である請求項11又は12記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【請求項16】
式(2)中のA1〜A4がいずれも水素原子であり、kが0である請求項11〜15のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。
【請求項17】
不活性ガス雰囲気下、0〜150℃で1〜72時間付加重合する請求項11〜16のいずれか1項記載の高気体透過性環状オレフィン付加重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201794(P2012−201794A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67614(P2011−67614)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】