説明

環状カルボン酸エステルの触媒製造

イリジウム触媒を用いて、均一系反応混合物中で水素化を実施することを特徴とする、均一系貴金属触媒の存在下で水素を用いて環状ジカルボン酸無水物、またはポリカルボン酸無水物の無水物基:−C(O)−O−C(O)−の少なくとも1個のカルボニル基を水素化することによる、環状エステルを製造する方法。プロキラル無水物をキラルなイリジウム触媒と一緒に用いると、環状エステルが高い化学および光学収率で得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属がイリジウムである均一系貴金属触媒の存在下、環状ジカルボン酸無水物を、水素で水素化することにより環状モノカルボン酸エステルを製造する方法に関する。
【0002】
Bull. Chem. Soc. Jpn. 72 (1999), p573-580には、K. Nagayama et al.が、均一系触媒としてのPd[P(Cの存在下で水素により水素化する際に、無水安息香酸をベンズアルデヒドおよび安息香酸に開裂することを記載している。
【0003】
J. Organometal. Chem. 188 (1980), p109-119には、M. Bianchini et al.が、均一系触媒としての[Ru(CO)[P(n−ブチル)]の存在下で水素により無水コハク酸をγ−バレロラクトンに定量的水素化することを記載している。
【0004】
Bull. Chem. Soc. Jpn. 57 (1984), p897-898には、T. Ikariya et al.が、均一系ルテニウム触媒の存在下で、水素により2,2−ジメチルグルタル酸無水物を2,2−ジメチル−σ−カプロラクトンに水素化することを記載している。収量は低いが、化学選択性に優れている。
【0005】
Tetrahedron Letters, 22 (43), p4297-4300 (1981)には、K. Osakada et al.が、トリエチルアミンと、キラルジホスフィンリガンド(ここではDIOP)を含む均一系ルテニウム触媒の存在下、水素により、3位で置換されたプロキラルシクロアルカン−1,2−ジカルボン酸無水物またはプロキラル無水グルタル酸を、3位で置換されたγ−バレロラクトンまたはσ−カプロラクトンに水素化することを記載している。収量および化学選択性は中等度であり、得られた光学収率は、最大で20%eeに過ぎないと報告されている。
【0006】
それゆえ、これまで記載された方法は、工業的製造方法には適していない。この目的に合った薬学活性化合物および農薬(毒性農薬)および天然材料は、多くの場合ラクトン環を含み、場合により不斉炭素原子を含む。そのような活性化合物、またはそのような活性化合物の中間体を、良好な化学収率(および適宜、光学収率)で触媒製造することが求められている。
【0007】
意外にも、適宜、キラルリガンドを用いて均一系イリジウム触媒の存在下で水素化を実施すると、水素により可能な限りプロキラルの環状ジカルボン酸無水物を水素化してラクトンを形成させる際に、優れた化学選択性および顕著な鏡像選択性、ならびに高い化学および光学収率が得られることがここに見出された。その上、適切な反応条件下では、その反応は中間体(環状ヒドロキシエステル)の形成後に停止し、その後、形成した中間体を更に反応させて所望の環状エステルが得られることが見出された。
【0008】
本発明は、イリジウム触媒を用いて、均一系反応混合物中で水素化を実施することを特徴とする、均一系貴金属触媒の存在下で水素を用いて環状ジカルボン酸無水物、またはポリカルボン酸無水物の無水物基:−C(O)−O−C(O)−の少なくとも1個のカルボニル基を水素化することによる、式:
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R’およびR’は、それぞれ互いに独立して、−NR’R’基であり、R’およびR’は、それぞれ互いに独立して、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アルケニル、非置換もしくは置換シクロアルキル、非置換もしくは置換アリール、非置換もしくは芳香族置換アラルキル、非置換もしくは芳香族置換アラルケニル、非置換であるか、もしくはシクロアルキル内で置換されたシクロアルキルアルキル、ヘテロシクリル、非置換もしくは置換アルカノイル、非置換もしくは置換アロイル、非置換もしくは置換アルキルスルホニル、非置換もしくは置換アリールスルホニル、シリル基:Si(アルキル)、Si(アリール)、またはSi(アルキル)1もしくは2(アリール)2もしくは1であるか、あるいは2個の基:R’が、共に−C(O)−であり、そして2個の基:R’が、それぞれ互いに独立して、先に定義したとおりである)で示される環状エステルを除く、環状エステルを製造する方法を提供する。
【0011】
本発明の方法は、低温または高温、例えば−20〜150℃、好ましくは−10〜100℃、特に好ましくは10〜80℃の温度で実施することができる。光学収率は、一般に高温よりも比較的低温で良好であるが、高温ではより迅速に変換することができる。
【0012】
本発明の方法は、大気圧または超気圧で実施することができる。圧力は、10〜2×10Pa(パスカル)であってもよい。
【0013】
触媒は、環状酸無水物に基づいて、好ましくは0.0001〜10モル%、特に好ましくは0.001〜10モル%、非常に好ましくは0.01〜5モル%の量で用いる。
【0014】
水素化は、溶媒の非存在下で、または不活性溶媒の存在下で実施することができ、溶媒1種または溶媒の混合物を用いることができる。適切な溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式、および芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、またはジエチレングリコールモノエチルエーテル)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステルおよびラクトン(酢酸エチル、酢酸メチル、バレロラクトン)、N−置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキシアミド(ジメチルアミド、ジメチルホルムアミド)、非環状尿素(ジメチルイミダゾリン)、スルホキシドおよびスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)、非フッ素化またはフッ素化アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、1,1,1−トリフルオロエタノール)、ならびに水である。更に適切な溶媒は、低分子量カルボン酸、例えば酢酸である。溶媒は、単独で、または少なくとも2種の溶媒の混合物として用いることができる。好ましい溶媒は、炭化水素、アルコール、エーテル、およびそのような溶媒の少なくとも2種の混合物である。
【0015】
反応は、共触媒、例えばハロゲン化アルカリ金属(Li、K、Na)またはハロゲン化アンモニウム(特に第四級ハロゲン化アンモニウム)の存在下で実施することができ、ハロゲン化物は好ましくは、BrまたはI、特に好ましくはIである。ヨウ化テトラブチルアンモニウムが、特に有用であることが分かっている。共触媒の量は、イリジウム錯体に基づいて、例えば0.1〜100当量、好ましくは10〜80当量であってもよい。水素化は、共触媒およびプロトン酸(例えば鉱酸、カルボン酸またはスルホン酸)の存在下で実施することもできる(共触媒および酸については、例えば、US−A−5,371,256、US−A−5,446,844、US−A−5,583,241、およびEP−A−0691949参照)。酸は、例えば、溶媒として、またはイミンの量に基づいて、0.001〜50重量%、好ましくは0.1〜50重量%の量で用いることができる。同様に、1,1,1−トリフルオロエタノールなどのフッ素化アルコールの存在は、触媒反応を促進することができる。
【0016】
触媒として用いられる金属錯体は、別個に製造・単離した化合物として添加することができ、またはそれらは、反応の前にそのものの位置で形成させ、その後、基質と混合して、水素化させることができる。単離した金属錯体を用いた反応で、リガンドを追加的に加えるのが有利となり得、またはそのものの位置で製造する場合には過剰のリガンドを用いることが有利となり得る。過剰は、製造に用いたイリジウム化合物に基づいて、例えば1〜6モル、好ましくは1〜2モルであってもよい。
【0017】
本発明の方法は、一般に、最初に触媒を充填し、その後、基質(および適宜、反応助剤)を添加して、反応容器を水素で加圧し、その後、反応を開始させることにより実施する。該方法は、連続して、または様々な型の反応器でバッチ式に実施することができる。
【0018】
環状酸無水物は、骨格の構造および寸法に応じて、環状酸無水物基を1個以上、好ましくは環状酸無水物基を1〜4個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1または2個含むことができる。更に、該環状酸無水物基は、環原子を合計で4〜10個、好ましくは5〜8個、より好ましくは5〜7個、特に好ましくは5または6個有することができる。環状酸無水物そのものは、骨格内に炭素原子を合計で最大60個、好ましくは最大40個、特に好ましくは最大30個有することができ、炭素原子は、ヘテロ原子および/またはヘテロ原子基、例えば、−C(=O)−、−O−、−S−、−S(=O)−、−S(O)−、=N−、−HN−、または−RN−(式中、Rは、好ましくは、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキル、C〜C10−アリール、C〜C12−アラルキル、またはC〜C−アシルである)により置換されていてもよい。
【0019】
酸無水物基:−C(O)−O−C(O)−の少なくとも1個が結合する骨格は、例えば、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、脂環式−脂肪族、ヘテロ脂環式−脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、芳香族−脂肪族、またはヘテロ芳香族−脂肪族基を含むことができ、環状基は、例えば環原子を3〜8個、好ましくは5〜7個、特に好ましくは5または6個有している。上述の環状基は、架橋もしくは縮合され、または架橋および縮合されて、多環状基を形成していてもよい。そのような環系は、環状および/または複素環式炭化水素基を、例えば2〜6個、好ましくは2〜4個含むことができる。ヘテロ基内のヘテロ原子は、例えば、−O−、−S−、=N−、−HN−、および−RN−(式中、Rは、好ましくは、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキル、C〜C10−アリール、C〜C12−アラルキル、またはC〜C−アシルである)からなる群から選択することができる。
【0020】
環状酸無水物の骨格は、非置換であるか、または置換基1個以上により置換されていてもよく、その置換基も、非置換であるか、または置換されていてもよい。置換基の数は、とりわけ分子の寸法に依存する。置換基の数は、例えば最大15個、好ましくは最大10個、特に好ましくは1〜5個であってもよい。置換基は、有利には、反応条件下で不活性である。
【0021】
置換または非置換の置換基は、例えばC〜C12−アルキル、好ましくはC〜C−アルキル、特に好ましくはC〜C−アルキルであってもよい。例は、メチル、エチル、n−またはi−プロピル、n−、i−またはt−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、およびドデシルである。
【0022】
置換または非置換の置換基は、例えばC〜C−シクロアルキル、好ましくはC〜C−シクロアルキルであってもよい。例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロオクチルである。
【0023】
置換または非置換の置換基は、例えばC〜C−シクロアルキル−アルキル、好ましくはC〜C−シクロアルキル−アルキルであってもよい。例は、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、およびシクロオクチルメチルである。
【0024】
置換または非置換の置換基は、例えばC〜C18−アリール、好ましくはC〜C10−アリールであってもよい。例は、フェニルおよびナフチルである。
【0025】
置換または非置換の置換基は、例えばC〜C12−アラルキル(例えばベンジルまたは1−フェニルエタ−2−イル)であってもよい。
【0026】
置換または非置換の置換基は、例えばトリ(C〜C−アルキル)Siまたはトリフェニルシリルであってもよい。トリアルキルシリルの例は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ−n−プロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、およびジメチル−t−ブチルシリルである。
【0027】
可能な置換基は、例えばハロゲンである。例は、F、ClおよびBrである。
【0028】
置換または非置換の置換基は、例えば、−OH、−SH、−CH(O)、−CN、−NCO、−OCN、または−NR0304(式中、R03およびR04は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、もしくはベンジルであるか、またはR03およびR04が一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、もしくは3−オキサペンタン−1,5−ジイルを形成している)であってもよい。
【0029】
置換または非置換の置換基は、例えば、式:−OR01、−SR01、−S(O)R01、または−S(O)01(式中、R01は、水素、C〜C12−アルキル(好ましくはC〜C−アルキル、特に好ましくはC〜C−アルキル);C〜C−シクロアルキル(好ましくはC〜C−シクロアルキル);C〜C18−アリール(好ましくはC〜C10−アリール);またはC〜C12−アラルキルである)で示される、オキシル基、チオ基、スルホキシド基、またはスルホン基であってもよい。これらの炭化水素基の例は、置換基に関して先に述べたとおりである。
【0030】
置換または非置換の置換基は、例えば、−CH(O)、−C(O)−C〜C−アルキル、または−C(O)−C〜C10−アリールであってもよい。
【0031】
置換または非置換の置換基は、例えば、−CO02または−C(O)−NR0304基(式中、R03およびR04は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、もしくはベンジルであるか、またはR03およびR04が一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、もしくは3−オキサペンタン−1,5−ジイルを形成しており、R02は、水素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、フェニルまたはベンジルである)であってもよい。
【0032】
置換または非置換の置換基は、例えば、−S(O)−O−R02、−S(O)−O−R02、−S(O)−NR0304、または−S(O)−NR0304基(式中、R03、R04およびR02は、先に定義したとおりである)であってもよい。
【0033】
置換または非置換の置換基は、例えば−P(OR02または−P(O)(OR02基(式中、R02は、先に定義したとおりである)であってもよい
【0034】
置換または非置換の置換基は、例えば−P(S)(R02または−P(S)(OR02基(式中、R02は、先に定義したとおりである)であってもよい。
【0035】
置換基の好ましい群の場合、これらは、C〜C−アルキル、置換もしくは非置換のフェニル、トリ(C〜C−アルキル)Si、トリフェニルシリル、ハロゲン(特に、F、ClおよびBr)、−OH、−SH、−OR、−SR、−CHOH、−CHO−R、−NR0304、−CH(O)、−COH、−CO、および−C(O)−NR0304(式中、Rは、炭素原子を1〜10個有する炭化水素基であり、R03およびR04は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、フェニル、もしくはベンジルであるか、またはR03およびR04が一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、もしくは3−オキサペンタン−1,5−ジイルを形成しており、炭化水素基は、置換されていてもよい)から選択される。
【0036】
置換基としての炭化水素基、または置換基内の炭化水素基も、例えば、ハロゲン(F、ClまたはBr、特にF)、−OH、−SH、−CH(O)、−CN、−NR0304、−C(O)−O−R02、−S(O)−O−R02、−S(O)−O−R02、−P(OR02、−P(O)(OR02、−C(O)−NR0304、−S(O)−NR0304、−S(O)−NR0304、−O−(O)C−R05、−R03N(O)−C−R05、−R03N−S(O)−R05、−R03N−S(O)−R05、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルキルチオ、C〜C−シクロアルキル、フェニル、ベンジル、フェノキシ、またはベンジルオキシ(式中、R03およびR04は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、もしくはベンジルであるか、またはR03およびR04が一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、もしくは3−オキサペンタン−1,5−ジイルを形成しており、R02は、水素、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、フェニルまたはベンジルであり、R05は、C〜C18−アルキル(好ましくはC〜C12−アルキル)、C〜C−ハロアルキル、C〜C−ヒドロキシアルキル、C〜C−シクロアルキル(例えばシクロペンチルまたはシクロヘキシル)、C〜C10−アリール(例えばフェニルまたはナフチル)、またはC〜C12−アラルキル(例えばベンジル)である)、により一置換または多置換(例えば一置換〜三置換、好ましくは一置換または二置換)されていてもよい。
【0037】
置換または非置換の置換基の例は、メチル、エチル、n−およびi−プロピル、n−、i−およびt−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、フェニル、ベンジル、トリメチルシリル、F、Cl、Br、メチルチオ、メチルスルホニル、メチルスルホキシル、フェニルチオ、フェニルスルホニル、フェニルスルホキシル、−CH(O)、−C(O)OH、−C(O)−OCH、−C(O)−OC、−C(O)−NH、−C(O)−NHCH、−C(O)−N(CH、−SOH、−S(O)−OCH、−S(O)−OC、−S(O)−OCH、−S(O)−OC、−S(O)−NH、−S(O)−NHCH、−S(O)−N(CH、−S(O)−NH、−S(O)−NHCH、−S(O)−N(CH、−P(OH)、−PO(OH)、−P(OCH、−P(OC、−PO(OCH、−PO(OC、トリフルオロメチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘキシルメチル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、ヒドロキシメチル、β−ヒドロキシエチル、γ−ヒドロキシプロピル、−CHNH、−CHN(CH、−CHCHNH、−CHCHN(CH、メトキシメチル、エトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、HS−CH−、HS−CHCH−、CHS−CH−、CHS−CHCH−、−CH−C(O)OH、−CHCH−C(O)OH、−CH−C(O)OCH、−CHCH−C(O)OCH、−CH−C(O)NH、−CHCH−C(O)NH、−CH−C(O)−N(CH、−CHCH−C(O)N(CH、−CH−SOH、−CHCH−SOH、−CH−SOCH、−CHCH−SOCH、−CH−SONH、−CH−SON(CH、−CH−PO、−CHCH−PO、−CH−PO(OCH)、−CHCH−PO(OCH、−C−C(O)OH、−C−C(O)OCH、−C−S(O)OH、−C−S(O)OCH、−CH−O−C(O)CH、−CHCH−O−C(O)CH、−CH−NH−C(O)CH、−CHCH−NH−C(O)CH、−CH−O−S(O)CH、−CHCH−O−S(O)CH、−CH−NH−S(O)CH、−CHCH−NH−S(O)CH、−P(O)(C〜C−アルキル)、−P(S)(C〜C−アルキル)、−P(O)(C〜C10−アリール)、−P(S)(C〜C10−アリール)、−C(O)−C〜C−アルキル、−C(O)−C〜C10−アリール、−OH、−SH、−NHCH、−N(CH、−NH、ピロリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、メトキシ、エトキシ、ならびにヒドロキシエトキシである。
【0038】
本発明の目的では、以下に定義する置換基は、好ましくは、実施形態および好ましい例を含む上述の置換基である。
【0039】
可能な酸無水物の骨格を例示するために、環状酸無水物の以下の式を例として表す。脂肪族またはヘテロ脂肪族基を有する環状酸無水物の例は、式IおよびII:
【0040】
【化4】

【0041】
(式中、R06、R07、R08およびR09は、それぞれ互いに独立して、水素もしくは置換基であり、式IのR06およびR09は、先に定義したとおりであり、そしてR07およびR08は、結合を表すか、またはR06およびR09が、先に定義したとおりであり、そして式IのR07およびR08が共に、−C(O)−O−C(O)−、−O−CR010011(O)−、−O−C2y−O−、−NRCR010011CR−、もしくは−C(O)−C2y−(O)−であり、それぞれの場合のR06およびR07、またはR08およびR09は、一緒になって、置換または非置換のテトラメチレンまたはペンタメチレンを形成しており、X01は、−O−、−NH−、−NR−、または−C2y−、好ましくは−CR010011−であり、yは、1〜5、好ましくは1〜3、特に好ましくは1または2であり、R010およびR011は、それぞれ互いに独立して、水素もしくは置換基であり、R07および/もしくはR08は、基:−C2y−の末端炭素原子と一緒になって結合を表すか、あるいはR07およびR010が、結合を表す)で示される酸無水物である。置換基:R06およびR09の例は、HO−、保護されたHO−、C〜C−アルコキシ、または−NR0304(式中、R03およびR04は、互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、フェニル、またはベンジルである)である。
【0042】
脂環式またはヘテロ脂環式基を有する環状酸無水物の例は、式III:
【0043】
【化5】

【0044】
(式中、R06およびR09が、それぞれ互いに独立して、水素もしくは置換基であるか、またはR06およびR09が、共に結合を表し、R012およびR013は、結合する炭素原子と一緒になって、非置換もしくは置換の単環式もしくは多環式、飽和もしくはエチレン性不飽和炭化水素環系、ならびに/または基:−O−、S−、−N=、−NH−およびNR−を含むヘテロ炭化水素環系を形成している)で示される酸無水物である。R012およびR013は、例えば一緒になって、−C2r−(式中、rは、2〜5である)、−HC=CH−、−HC=CH−CH−、−HC=CH−CH−CH−、CH−HC=CH−CH−、−HC=CH−CH=CH−、=CH−CH−CH=、=CH−CH−CHCH=、−O−CH−O−、−O−CH(CH)−O−、−O−C(CH−O−、−CH−O−CH−、−CH−O−CH−CH−、−CH−O−CH=CH−、−CH−S−CH−、−CH−S−CH−CH−、−CH−NH−CH−、−CH−NR−CH−、−CH−NH−CH−CH−、−CH−NR−CH−、−CH−NR−CH−CH−、−NR−CH(CH)−NR−、−NR−C(CH−NR−および−NR−CH−NR−からなる群から選択される非置換または置換された二価基を形成していてもよい。酸無水物基の炭素原子上の二重結合の場合、R06および/またはR09は、基:R012および/またはR013への結合を表す。二価基のH原子は、置換されていてもよく、脂肪族および/または芳香族炭化水素環またはヘテロ炭化水素環は、縮合していてもよく、その脂肪族環は、架橋していてもよい。
【0045】
脂環式−脂肪族およびヘテロ脂環式−脂肪族基を有する環状酸無水物の例は、式IV:
【0046】
【化6】

【0047】
(式中、R06およびR09は、それぞれ互いに独立して、水素もしくは置換基であるか、またはR06およびR09が、共に結合を表し、R014およびR015は、結合する炭素原子と一緒になって、非置換もしくは置換の単環式もしくは多環式、飽和もしくはエチレン性不飽和炭化水素環系、ならびに/または−O−、S−、−NH−、−N=およびNR−を含むヘテロ炭化水素環系を形成しており、カルボニル基の一方または両方は、−CH−または−CH−CH−基を介して環に結合している)で示される酸無水物である。二価基のH原子は、置換されていてもよく、脂肪族および/または芳香族炭化水素環またはヘテロ炭化水素環は、縮合していてもよく、その脂肪族環も、架橋していてよい。R014およびR015は、一緒になって、例えば、結合した−CH−もしくは−CH−CH−基、または1,2−位で結合した−CH−もしくは−CH−CH−基を含む、シクロブタン、シクロブテン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジヒドロチオフェン、テトラヒドロチオフェン、ピロリン、ピロリジン、N−メチルピロリン、N−メチルピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ジヒドロベンゾフラン、またはジヒドロインドールを形成していてもよい。
【0048】
芳香族およびヘテロ芳香族基を有する環状酸無水物の例は、式V:
【0049】
【化7】

【0050】
(式中、R06およびR09は、共に結合を表し、R016およびR017は、結合する炭素原子と一緒になって、非置換または置換の単環式または多環式、芳香族またはヘテロ芳香族の、5または6員環を形成している)で示される酸無水物である。脂肪族、架橋、または非架橋の、炭化水素環またはヘテロ炭化水素環が、これらの環に縮合していてもよい。そのような環の幾つかの例は、フェニレン、ナフチレン、フラン−2,3−または−3,4−ジイル、チオフェン−2,3−または−3,4−ジイル、ピロール−2,3−または−3,4−ジイル、ベンゾフランジイル、ベンゾチオフェンジイル、ピリジニレン、ピリミジニレン、ピラジニレン、およびキノリンジイルである。
【0051】
芳香族−脂肪族およびヘテロ芳香族−脂肪族基を有する環状酸無水物の例は、式VI:
【0052】
【化8】

【0053】
(式中、R06およびR09は、共に結合を表し、R018およびR019は、結合する炭素原子と一緒になって、非置換または置換の単環式または多環式、芳香族またはヘテロ芳香族の、5または6員環を形成しており、カルボニル基の一方または両方は、−CH−または−CH−CH−基を介して環に結合している)で示される酸無水物である。脂肪族、架橋、または非架橋の、炭化水素環またはヘテロ炭化水素環が、これらの環に縮合していてもよい。そのような環の幾つかの例は、−C−CH−、−CH−C−CH−、−C−CH−CH−、−CH−CN−、−CH−CO−および−CNH−CH−である。
【0054】
式III〜VIで示される化合物は、更に、1,2位で結合した−C(O)−O−C(O)−基を含んでいてもよい。
【0055】
適切な均一系イリジウム触媒は、例えば、式VIIおよびVIII:
【0056】
【化9】

【0057】
(式中、
は、Ir原子と一緒になって5〜10員環(好ましくは5〜8員環、特に好ましくは5〜7員環)を形成する、tert−モノホスフィン2個またはジ−tert−ジホスフィン1個を表し;
e1は、イリジウムであり;
Yは、オレフィン2個またはジエン1個を表し;
Zは、Cl、Br、またはIであり;そして
は、オキシ酸または錯酸のアニオンである)に対応する。
【0058】
オレフィン:Yは、C〜C12−オレフィン、好ましくはC〜C−オレフィン、特に好ましくはC〜C−オレフィンであってもよい。例は、プロペン、1−ブテンであり、特にエチレンである。ジエンは、炭素原子を5〜12個、好ましくは5〜8個有していてもよく、開鎖、環式、または多環式のジエンであってもよい。ジエンのオレフィン基2個は、好ましくは、CH−基1または2個に結合している。例は、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−または1,5−ヘプタジエン、1,4−または1,5−シクロヘプタジエン、1,4−または1,5−オクタジエン、1,4−または1,5−シクロオクタジエン、およびノルボルナジエンである。Yは、好ましくはエチレン2個、または1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエンもしくはノルボルナジエンを表す。
【0059】
式VIIにおいて、Zは、好ましくはClまたはBrである。E−1の例は、ClO、CFSO、CHSO、HSO、BF、B(フェニル)、B(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、PF、SbCl、AsF、またはSbFである。
【0060】
本発明の目的では、tert−モノホスフィンは、O−結合の置換基3個が、P原子(ホスファイト)1個に結合し、O−結合の置換基2個およびN−結合の置換基1個が、P原子1個に結合するか、またはC−結合の置換基3個が、P原子1個に結合するリガンドである。本発明の目的では、ジ−tert−ジホスフィンは、P原子2個が、架橋基を介して連結し、それらP原子が、O、NまたはC原子を介して架橋基に結合し、それらのP原子が、更にO−またはC−結合の置換基を2個含むリガンドである。適切な置換基は、C−結合の置換基を3個有するtert−モノホスフィン、およびホスフィノ基:XおよびXに関して以下に記載および説明している。O−結合の置換基2個は、好ましくは、ジオールの基を表し、そのため環状ホスホナイト基が存在する。ジオールは、好ましくは、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニルまたは−ビナフチルであり、特に6および/または6’位で、例えば、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキル、C〜C10−アリール、C〜C12−アラルキル、C〜C−アルキルオキシ、C〜C−シクロアルキルオキシ、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキルオキシ、C〜C10−アリールオキシ、またはC〜C12−アラルキルオキシにより一置換または多置換されていてもよい。幾つかの例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、フェニル、ベンジル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、シクロヘキシル(cyclohexyo)、フェニルオキシ、およびベンジルオキシである。
【0061】
大多数のtert−モノホスフィンおよびtert−ジホスフィンが公知であり、文献に記載されている。プロキラル環状酸無水物を水素化する際に光学異性体を優先的に形成させるために、モノホスフィンおよびジホスフィンがキラルであってもよい。
【0062】
O−結合の置換基3個またはO−結合の置換基2個、およびN−結合の置換基1個を有する適切なtert−モノホスフィンは、例えば、式:
【0063】
【化10】

【0064】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、一価の非置換または置換の脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、脂環式−脂肪族、ヘテロ脂環式−脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、芳香族−脂肪族、またはヘテロ芳香族−脂肪族基であり、RおよびRは、一緒になって、二価の非置換または置換の脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、脂環式−脂肪族、ヘテロ脂環式−脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、芳香族−脂肪族、またはヘテロ芳香族−脂肪族基を形成しており、RおよびRは、N原子と一緒になって、5または6員環を形成している)を有する。適切な置換基は、先に記載しており、一価および二価基の実施形態および好ましい例は、C−結合の置換基を有するホスフィンに関して以下に述べる。RおよびRは、好ましくは一緒になって、二価基、特に好ましくは非置換または置換の1,1’−ビナフタ−2,2’−ジイルまたは1,1’−ビフェナ−2,2’−ジイルを形成している。後者の例は、式:
【0065】
【化11】

【0066】
(式中、RおよびRは、先に定義したとおりである)で示されるリガンドである。
【0067】
適切なtert−モノホスフィンは、例えば、炭素および/またはヘテロ原子を合計で1〜18個、好ましくは1〜12個、特に好ましくは1〜8個含み、環原子を4〜8個、好ましくは5〜7個、特に好ましくは5または6個含む、非置換または置換の脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、脂環式−脂肪族、ヘテロ脂環式−脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、芳香族−脂肪族、およびヘテロ芳香族−脂肪族基からなる群から選択されるC−結合の置換基を含む。上述の環状基は、架橋もしくは縮合され、または架橋および縮合されて、多環状基を形成していてもよい。そのような環系は、例えば環状または複素環式炭化水素基を2〜6個、好ましくは2〜4個含んでいてもよい。ヘテロ基内のヘテロ原子は、例えば、−O−、−S−、=N−、−HN−、および−RN−(式中、Rは、好ましくは、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキル、C〜C10−アリール、C〜C12−アラルキル、またはC〜C−アシルである)からなる群から選択してもよい。脂肪族またはヘテロ脂肪族基は、例えば、直鎖状または分枝状C〜C12−アルキル、好ましくはC〜C−アルキルであってもよく、−O−または−S−により中断されていてもよい。脂環式またはヘテロ脂環基は、例えばC〜C−シクロアルキルであってもよく、−O−、−S−または−NR−により中断されていてもよい。脂環式−脂肪族またはヘテロ脂環式−脂肪族基は、例えばC〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキルであってもよく、−O−、−S−または−RN−により中断されていてもよい。芳香族またはヘテロ芳香族基は、例えば、O−、−S−、=N−、−HN−、および−RN−からなる群から選択されるヘテロ原子を含むC〜C12−アリールまたはC〜C11−ヘテロアリールであってもよい。芳香族−脂肪族またはヘテロ芳香族−脂肪族基は、例えば、−O−、−S−、=N−、−HN−および−RN−からなる群から選択されるヘテロ原子を含むC〜C12−アリール−C〜C−アルキルまたはC〜C11−ヘテロアリール−C〜C−アルキルであってもよい。tert−ホスフィンは、例えば環原子を合計で4〜6個有する、P−置換のP−環状化合物(ホスフェタン、ホスホラン、ホスファン)であってもよい。tert−ホスフィンのP置換基は、例えばジ−tert−ジホスフィンに関して以下に記載するとおり置換されていてもよい。tert−ジホスフィンは、同一または異なる置換基を含んでいてもよい。tert−モノホスフィンの幾つかの例は、トリメチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリキシリルホスフィン、フェニルホスホラン、およびジフェニル−t−ブチルホスフィンである。
【0068】
アキラルまたはキラルのジ−tert−ジホスフィンは、ホスフィン基2個が、直鎖状または環状架橋基の異なる炭素原子に結合したジホスフィン:好ましくは、
a)炭素鎖が単環系もしくは二環系の一部(例えば、ビフェニル、ビナフチル、またはフェロセン内の、シクロペンタジエニルフェニル、シクロペンタジエニル−CH−フェニル、もしくはシクロペンタジエニル−CH(OCH)−フェニル)であってもよい、炭素原子を2〜6個有する炭素鎖の異なる炭素原子に結合したジホスフィン、または
b)それぞれの場合の、置換もしくは非置換のフェロセンのシクロペンタジエニル環に結合したジホスフィン、であってもよい。
【0069】
ジ−tert−ジホスフィンは、第2級ホスフィノ基:XおよびXを2個含み、それらは、同一または異なる炭化水素基を2個含んでいてもよい。第2級ホスフィノ基:XおよびXは、好ましくはそれぞれ、同一の炭化水素基を2個含む。更に第2級ホスフィノ基:XおよびXは、同一または異なっていてもよい。
【0070】
炭化水素基は、非置換であるか、もしくは置換されていてもよく、そして/またはO、SおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよい。それらは、炭素原子を1〜22個、好ましくは1〜12個、特に好ましくは1〜8個有していてもよい。好ましい第2級ホスフィンは、ホスフィノ基が、直鎖状または分枝状C〜C12−アルキル;非置換、またはC〜C−アルキル−もしくはC〜C−アルコキシ−置換の、C〜C12−シクロアルキルまたはC〜C12−シクロアルキル−CH−;フェニル、ナフチル、フリルまたはベンジル;およびハロゲン(例えばF、ClおよびBr)、C〜C−アルキル、C〜C−ハロアルキル(例えばトリフルオロメチル)、C〜C−アルコキシ、C〜C−ハロアルコキシ(例えばトリフルオロメトキシ)、(CSi、(C〜C12−アルキル)Si、第2級アミノ、または−CO−C〜C−アルキル(例えば−COCH)により置換された、フェニルまたはベンジルからなる群から選択される同一または異なる基を2個含むいずれかのものである。
【0071】
好ましくは炭素原子を1〜6個含む、P上のアルキル置換基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ならびにペンチルおよびヘキシルの異性体である。P上の非置換またはアルキル置換のシクロアルキル置換基の例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、およびジメチルシクロヘキシルである。P上のアルキル−、アルコキシ−、ハロアルキル−、ハロアルコキシ−、およびハロゲン−置換の、フェニルおよびベンジル置換基の例は、o−、m−またはp−フルオロフェニル、o−、m−またはp−クロロフェニル、ジフルオロフェニル、ジクロロフェニル、ペンタフルオロフェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、メチルベンジル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビス−トリフルオロメチルフェニル、トリス−トリフルオロメチルフェニル、トリフルオロメトキシフェニル、ビス−トリフルオロメトキシフェニル、および3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0072】
好ましい第2級ホスフィノ基は、同一の基が、C〜C−アルキル、非置換のシクロペンチルまたはシクロヘキシル、およびC〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたシクロペンチルまたはシクロヘキシル、非置換であるか、またはC〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、F、Cl、C〜C−フルオロアルキルもしくはC〜C−フルオロアルコキシ基1〜3個により置換された、ベンジルおよび特にフェニルからなる群から選択されるものである。
【0073】
第2級ホスフィノ基は、好ましくは式:−PR(式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素原子を1〜18個有し、非置換であるか、またはハロゲン、C〜C−アルキル、C〜C−ハロアルキル、C〜C−アルコキシ、C〜C−ハロアルコキシ、(C〜C−アルキル)アミノ、(CSi、(C〜C12−アルキル)Si、もしくは−CO−C〜C−アルキルにより置換され、そして/あるいはヘテロ原子:Oを含む炭化水素である)に対応する。
【0074】
およびRは、好ましくは、直鎖状または分枝状C〜C−アルキル、非置換のシクロペンチルまたはシクロヘキシル、およびC〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたシクロペンチルまたはシクロヘキシル、フリル、非置換のベンジル、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたベンジル、ならびに特に非置換のフェニル、またはC〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、−NH、−N(C〜C−アルキル)、OH、F、Cl、C〜C−フルオロアルキルもしくはC〜C−フルオロアルコキシ基1〜3個により置換されたフェニルからなる群から選択される同一の基である。
【0075】
およびRは、特に好ましくは、C〜C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フリル、および非置換のフェニル、またはC〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、および/もしくはC〜C−フルオロアルキル基1〜3個により置換されたフェニルからなる群から選択される同一の基である。
【0076】
第2級ホスフィノ基:XおよびXは、環状第2級ホスフィノ、例えば、非置換であるか、または−OH、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルコキシ−C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−アルキルフェニル、C〜C−アルコキシフェニル、ベンジル、C〜C−アルキルベンジル、C〜C−アルコキシベンジル、ベンジルオキシ、C〜C−アルキルベンジルオキシ、C〜C−アルコキシベンジルオキシ、もしくはC〜C−アルキリデンジオキシ基1個以上により置換された、式:
【0077】
【化12】

【0078】
で示される基であってもよい。
【0079】
置換基は、キラル炭素原子を導入するために、α位の一方または両方のP原子に結合していてもよい。α位の一方または両方の置換基は、好ましくはC〜C−アルキルまたはベンジル、例えば、メチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、ベンジル、−CH−O−C〜C−アルキル、または−CH−O−C〜C10−アリールである。
【0080】
β、γ位の置換基は、例えば、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、ベンジルオキシ、または−O−CH−O−、−O−CH(C〜C−アルキル)−O−、および−O−C(C〜C−アルキル)−O−であってもよい。幾つかの例は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、−O−CH(メチル)−O−、および−O−C(メチル)−O−である。
【0081】
他の公知で適切な第2級ホスフィノ基は、環内に炭素原子を7個有する環状のキラルホスホランから誘導されたもの、例えば、式:
【0082】
【化13】

【0083】
(式中、芳香族環は、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルコキシ−C〜C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、C〜C−アルキリデンジオキシ、またはC〜C−アルキレンジオキシにより置換されていてもよい)で示されるものである(US2003/0073868A1およびWO02/048161参照)。
【0084】
置換の型および置換基の数に応じて、環状ホスフィノ基は、C−キラル、P−キラル、またはC−およびP−キラルであってもよい。
【0085】
脂肪族5もしくは6員環化合物、またはベンゼンは、上記式の基内の隣接する炭素原子2個で縮合していてもよい。
【0086】
環状第2級ホスフィノは、例えば、式:
【0087】
【化14】

【0088】
(式中、基:R’およびR''は、それぞれC〜C−アルキル、例えばメチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、ベンジル、−CH−O−C〜C−アルキル、または−CH−O−C〜C10−アリールであり、R’およびR''は、同一または異なっていてもよい)に対応する(可能なジアステレオマーのうちの一例のみを示した)。R’およびR''が、同一の炭素原子に結合する場合、それらは、一緒になってC〜C−アルキレンを形成していてもよい。
【0089】
好ましい実施形態において、XおよびXは、好ましくは、−P(C〜C−アルキル)、−P(C〜C−シクロアルキル)、−P(C〜C−ビシクロアルキル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P[2−(C〜C−アルキル)C、−P[3−(C〜C−アルキル)C、−P[4−(C〜C−アルキル)C、−P[2−(C〜C−アルコキシ)C、−P[3−(C〜C−アルコキシ)C、−P[4−(C〜C−アルコキシ)C、−P[2−(トリフルオロメチル)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(C〜C−アルキル)、−P[3,5−ビス(C〜C−アルコキシ)、および−P[3,5−ビス(C〜C−アルキル)−4−(C〜C−アルコキシ)Cからなる群から選択される同一または異なる非環式第2級ホスフィノ、あるいは非置換であるか、またはC〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、C〜C−アルコキシ−C〜C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、もしくはC〜C−アルキリデンジオキシル基1個以上により置換された、
【0090】
【化15】

【0091】
からなる群から選択される環状ホスフィノである。
【0092】
幾つかの具体的な例は、−P(CH、−P(i−C、−P(n−C、−P(i−C、−P(C11、−P(ノルボルニル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P[2−(メチル)C、−P[3−(メチル)C、−P[4−(メチル)C、−P[2−(メトキシ)C、−P[3−(メトキシ)C、−P[4−(メトキシ)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(メチル)、−P[3,5−ビス(メトキシ)、および−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C、ならびに式:
【0093】
【化16】

【0094】
(式中、R’は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル、またはベンジルオキシメチルであり、R''は、R’と同じ意義を有する)で示される基である。
【0095】
ジ−tert−ジホスフィンは、好ましくは、式IX:
【0096】
【化17】

【0097】
[式中、Rは、非置換、またはC〜C−アルキル−、C〜C−アルコキシ−、C−シクロアルキル、C−シクロアルキル−、フェニル−、ナフチル−もしくはベンジル−置換のC〜C−アルキレン;炭素原子を4〜10個有する、非置換、またはC〜C−アルキル、フェニル−もしくはベンジル−置換の、1,2−もしくは1,3−シクロアルキレン、1,2−もしくは1,3−シクロアルケニレン、1,2−もしくは1,3−ビシクロアルキレン、または1,2−もしくは1,3−ビシクロアルケニレン;炭素原子を4〜10個有し、1位および/もしくは2位、または3位に結合した、メチレンまたはC〜C−アルキリデンを有する、非置換、またはC〜C−アルキル−、フェニル−、もしくはベンジル−置換の、1,2−もしくは1,3−シクロアルキレン、1,2−もしくは1,3−シクロアルケニレン、1,2−もしくは1,3−ビシクロアルキレン、または1,2−もしくは1,3−ビシクロアルケニレン;2,3位がRC(O−)(式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、フェニル、またはベンジルである)により置換され、そして1および/または4位が非置換であるか、またはC〜C−アルキル、フェニルもしくはベンジルにより置換された、1,4−ブチレン;N原子が、水素、C〜C12−アルキル、フェニル、ベンジル、C〜C12−アルコキシカルボニル、C〜C−アシル、またはC〜C12−アルキルアミノカルボニルにより置換された、3,4−もしくは2,4−ピロリジニレン、またはメチレン−4−ピロリジン−4−イル;あるいは非置換、またはハロゲン−、HO−、C〜C−アルキル−、C〜C−アルコキシ−、フェニル−、ベンジル−、フェニルオキシ−もしくはベンジルオキシ−置換の、1,2−フェニレン、2−ベンジレン、1,2−キシリレン、1,8−ナフチレン、1,1’−ビナフチレン、または1,1’−ビフェニレンであるか、あるいはRは、式:
【0098】
【化18】

【0099】
(式中、
は、水素、C〜C−アルキル、C〜C−フルオロアルキル、非置換のフェニル、またはF、Cl、Br、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシもしくはフルオロメチル基1〜3個により置換されたフェニルであり;
nは、0、または1〜4の整数であり;
R’は、C〜C−アルキル、C〜C−フルオロアルキル、およびC〜C−アルコキシからなる群から選択される同一または異なる置換基であり;
Tは、C〜C20−アリーレンまたはC〜C16−ヘテロアリーレンであり;
遊離結合は、T−シクロペンタジエニル結合に対してオルト位に位置し;
R''は、水素、R001002003Si−、ハロゲン−、ヒドロキシ−、C〜C−アルコキシ−、もしくはR004005N−置換のC〜C18−アシルであるか、またはR006−X001−C(O)−であり;
001、R002およびR003は、それぞれ互いに独立して、C〜C12−アルキル、非置換、またはC〜C−アルキル−もしくはC〜C−アルコキシ−置換の、C〜C10−アリールまたはC〜C12−アラルキルであり;
004およびR005は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C12−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アリール、もしくはC〜C12−アラルキルであるか、またはR004およびR005が一緒になって、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、もしくは3−オキサペンチレンを形成しており;
006は、C〜C18−アルキル、非置換、またはC〜C−アルキル−もしくはC〜C−アルコキシ−置換の、C〜C−シクロアルキル、C〜C10−アリールまたはC〜C12−アラルキルであり;そして
001は、−O−または−NH−である)の一つで示される基である]に対応する。
【0100】
上記式の中のシクロペンタジエニル環は、互いに独立して、例えばC〜C−アルキルにより置換されていてもよい。tert−モノホスフィンおよびジ−tert−ジホスフィンは、ラセミ体もしくはジアステレオマーの混合物の形態で、または本質的に鏡像異性的に純粋な形態で用いることができる。
【0101】
アキラルおよびキラルジホスフィンの好ましい群は、式X〜XXIX:
【0102】
【化19】



【0103】
(式中、
、T、R’、R''、XおよびXは、好ましい例などの先に示した意義を有し、
10およびR11は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、非置換のベンジルもしくはフェニル、またはC〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたベンジルもしくはフェニルであり、
12およびR13は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、フェニルまたはベンジルであり、
14およびR15は、それぞれ互いに独立して、水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、非置換のベンジルもしくはフェニル、またはC〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたベンジルもしくはフェニルであり、
16は、水素、C〜C−アルキル、非置換のベンジルもしくはフェニル、C〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたベンジルもしくはフェニル、C〜C12−アルコキシ−C(O)−、非置換のフェニル−C(O)−もしくはベンジル−C(O)−、C〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたフェニル−C(O)−もしくはベンジル−C(O)−、C〜C12−アルキル−NH−C(O)、非置換のフェニル−NH−C(O)−もしくはベンジル−NH−C(O)−、またはC〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシ基1〜3個により置換されたフェニル−NH−C(O)−もしくはベンジル−NH−C(O)−であり、
nは、0、1または2であり、
17およびR18は、それぞれC〜C−アルキルもしくはC〜C−アルコキシであるか、またはR17およびR18が一緒になって、オキサジメチレンを形成しており、
19、R20、R21、R22、R23およびR24は、それぞれ互いに独立して、H、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、C−もしくはC−シクロアルキルもしくは−アルコキシ、フェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、ハロゲン、OH、−(CH−C(O)−O−C〜C−アルキル、−(CH−C(O)−N(C〜C−アルキル)、または−N(C〜C−アルキル)であるか、あるいはそれぞれの場合のR19およびR21、ならびに/もしくはR17およびR21、ならびに/もしくはR20およびR22、ならびに/もしくはR18およびR22、またはR21およびR23ならびに/もしくはR22およびR24が一緒になって、縮合した5または6員の単環式または二環式炭化水素環系を形成しており、そして
25は、水素、C〜C−アルキル、シクロヘキシル、またはフェニルである)で示されるものである。
【0104】
キラルのジ−tert−ジホスフィンの幾つかの好ましい例は、以下の式:
【0105】
【化20】

【0106】
(式中、
Rは、分枝状C〜C−アルキル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチル、非置換のフェニル、またはC〜C−アルキル、C〜C−アルコキシもしくはトリフルオロメチル基1〜3個により置換されたフェニル、または−NH、(C〜C−アルキル)NH−もしくは(C〜C−アルキル)N−基1個により置換されたフェニルであり、
は、水素またはC〜C−アルキルであり、
Tは、1,2−フェニレンであり、R’は、水素であり、R''は、C〜C−アルキルであり、
26およびR27は、それぞれ互いに独立して、C〜C−アルキル、フェニルまたはベンジルであり、特に好ましくはメチルであり、
28は、C〜C−アルキル、C〜C−アシルまたはC〜C−アルコキシカルボニルであり、
29は、水素であるか、または独立してR30に関して示した意義の一つを有し、R30は、C〜C−アルキル、フェニル、またはベンジルであり、
31は、メチルもしくはメトキシであるか、または2個の基:R31が一緒になって、オキサジメチレンを形成しており、
32およびR33は、それぞれ互いに独立して、H、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、または(C〜C−アルキル)N−であり、
34およびR35は、それぞれ互いに独立して、H、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ、−(CH−C(O)−O−C〜C−アルキル、または−(CH−C(O)−N(C〜C−アルキル)−であり、そして
36は、C〜C−アルキル、特に好ましくはメチルである)で示されるものである。
【0107】
複素環骨格を有する適切なジ−tert-ジホスフィンは、EP−A−0770085、T. Benincori et al.によるJ. of Organomet. Chem. 529 (1997), p445-458、およびJ. Org. Chem., 61, p. 6244, (1996)、F. Bonifacio et alによるChiratech 1997, November 11-13, 1997, Philadelpia, Pennsylvania, USA、ならびにL. F. Tietze et alによるChem. Commun. pp. 1811-1812 (1999)に記載されている。幾つかの例は、
【0108】
【化21】

【0109】
である。
【0110】
適切なジ−tert−ジホスフィンは、例えば、Comprehensive Asymmetric Catalysis (E. N. Jacobsen, A. Pfaltz and H. Yamamoto (eds.), Vol. I-III, Springer Verlag, Berlin, 1999に記載されている。
【0111】
水素化は、化学選択性であり、それゆえ他の水素化可能な基(例えば、炭素二重および三重結合、ケト、ならびにアルデヒド基)の存在下で実施することができる。反応時間は短く、高い化学収率が得られる。キラルリガンドを有するイリジウム触媒を使用する場合、プロキラル環状酸無水物を用いれば、高い立体選択性も実現できる。水素化の際、カルボニル基が第1のステップで−CH−OH基に水素化されるのを観察することができる。このモノヒドロキシ生成物は、クロマトグラフィーで反応生成物を精製する際に副生成物として検出することもできる。
【0112】
金属錯体は、文献から公知の方法により製造することができる(US−A−5,371,256、US−A−5,446,844、US−A−5,583,241およびE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (Eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I-III, Springer Verlag, Berlin, 1999、およびそれらに引用された参考資料を参照)。
【0113】
以下の実施例は、本発明を例示している。リガンドL1〜L5は、以下の式(CHは遊離結合のそれぞれに結合する)に対応する。
【0114】
【化22】

【0115】
実施例1:シス−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物の水素化
【0116】
【化23】

【0117】
シス−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物0.25g(1.62mmol)および脱気したジクロロメタン5mlを、アルゴンを充填したSchlenk管に連続して導入した。アルゴンを充填した第2のSchlenk管で、[Ir(シクロ−1,15−オクタジエン)Cl] 10.9(0.0165mmol)、(R)−2,2’−ジフェニルホスフィノ−6,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル 30.5mg(0.036mmol)および脱気したジクロロメタン5mlを含む触媒溶液を製造した。その後、この溶液および触媒溶液を、アルゴンを充填した50ml容スチール製オートクレーブに、スチール製キャピラリーで連続して移した。s/c(触媒に対する基質)比は、50であった。オートクレーブを閉じて、4回のフラッシュサイクルで圧力80バールに設定した(水素を20バールに加圧)。オートクレーブを60℃に加熱し、撹拌器を入力することにより反応を開始させた。反応器を15時間撹拌した。冷却して反応器を開けた後、赤みを帯びた反応溶液を単離した。変換率は定量的であった(GCおよびH−NMRにより測定)。ロータリーエバポレータで溶媒を除去して、鏡像体純度62%ee(ee=鏡像体過剰率による)を有する定量的収率のラクトンを得た(GC(カラム:Beta-Dex)により測定)。
【0118】
実施例2:式:
【0119】
【化24】

【0120】
で示される3−メチル−δ−バレロラクトンの製造
アルゴン雰囲気下で、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 6.72mg(0.01mmol)、(R)−L1 25.94mg(0.021mmol)、およびテトラヒドロフラン5mlを、10ml容Schlenk管に連続して導入した。この溶液を、室温で15分間撹拌した。ラセミ体の3−メチルグルタル酸無水物256.26mg(2mmol)およびテトラヒドロフラン5mlを、第2のSchlenk管にアルゴン雰囲気下で導入した。基質溶液を5分間撹拌した。酸無水物/Ir比は、100であった。続いて、触媒溶液および基質溶液を、アルゴン雰囲気下の50ml容スチール製オートクレーブに、スチール製キャピラリーで連続して移した。オートクレーブを閉じて、4回のフラッシュサイクル(20バール/1バール)で、アルゴン雰囲気を水素雰囲気に交換した。水素圧を70バールに設定し、オートクレーブを撹拌しながら60℃に加熱した。15時間後に、オートクレーブを冷却し減圧した。変換率および鏡像体純度を、ガスクロマトグラフィーにより測定した。変換率は100%であり、形成した3−メチル−δ−バレロラクトンの鏡像体純度は、51%eeであった。
【0121】
実施例3:3−メチル−δ−バレロラクトンの製造
(R)−L1の代わりに(R)−L2 14.02mg(0.021mmol)を用い、実施例2の手順を繰り返し行った。水素圧は70バールであり、反応温度は110℃であった。変換率は74%であり、eeは16%であった。
【0122】
実施例4:式:
【0123】
【化25】

【0124】
で示される3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンの製造
アルゴン雰囲気下で、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 13.43mg(0.02mmol)、(S)−(S)−L3 25.94mg(0.042mmol)、およびテトラヒドロフラン5mlを、10ml容Schlenk管に連続して導入した。この溶液を、室温で15分間撹拌した。シス−3−オキサビシクロ[3.1.0]へキサン−2,4−ジオン 222.16mg(2mmol)およびテトラヒドロフラン5mlを、第2のSchlenk管にアルゴン雰囲気下で導入した。基質溶液を5分間撹拌した。酸無水物/Ir比は、50であった。続いて、触媒溶液および基質溶液を、アルゴン雰囲気下の50ml容スチール製オートクレーブに、スチール製キャピラリーで連続して移した。オートクレーブを閉じて、4回のフラッシュサイクル(20バール/1バール)で、アルゴン雰囲気を水素雰囲気に交換した。水素圧を80バールに設定し、オートクレーブを撹拌しながら100℃に加熱した。20時間後に、オートクレーブを冷却し減圧した。変換率および鏡像体純度を、ガスクロマトグラフィーにより測定した。変換率は62%であり、形成した二環式γ−ラクトン(3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オン)の鏡像体純度は、21%eeであった。
【0125】
実施例5:3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンの製造
(S)−(S)−L3の代わりに(R)−2,2’−ジフェニルホスフィノ−6,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル 13.43mg(0.021mmol)を用い、実施例4の手順を繰り返し行った。水素圧は80バールであり、反応温度は100℃であった。変換率は92%であり、eeは24%であった。
【0126】
実施例6:式:
【0127】
【化26】

【0128】
で示される3−オキサビシクロ[3.4.0]ノナン−2−オンの製造
アルゴン雰囲気下で、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 6.74mg(0.01mmol)、(S)−L4 24.21mg(0.021mmol)、およびテトラヒドロフラン5mlを、10ml容Schlenk管に連続して導入した。この溶液を、室温で15分間撹拌した。シス−3−オキサビシクロ[3.4.0]ノナン−2,4−ジオンおよびテトラヒドロフラン5mlを、第2のSchlenk管にアルゴン雰囲気下で導入した。基質溶液を5分間撹拌した。酸無水物/Ir比は、100であった。続いて、触媒溶液および基質溶液を、アルゴン雰囲気下の50ml容スチール製オートクレーブに、スチール製キャピラリーで連続して移した。オートクレーブを閉じて、4回のフラッシュサイクル(20バール/1バール)で、アルゴン雰囲気を水素雰囲気に交換した。水素圧を80バールに設定し、オートクレーブを撹拌しながら100℃に加熱した。15時間後に、オートクレーブを冷却し減圧した。変換率および鏡像体純度を、ガスクロマトグラフィーにより測定した。変換率は100%であり、形成した3−オキサビシクロ[3.4.0]ノナン−2−オンの鏡像体純度は、87%eeであった。
【0129】
実施例7:3−オキサビシクロ[3.4.0]ノナン−2−オンの製造
(S)−L4の代わりに、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 13.45mg(0.02mmol)および(S)−(S)−L3 35.78mg(0.042mmol)を用い、実施例6の手順を繰り返し行った。酸無水物/Ir比は50であり、水素圧は80バールであり、反応温度は100℃であった。変換率は92%であり、eeは13%であった。
【0130】
実施例8:式:
【0131】
【化27】

【0132】
で示されるγ−ブチロラクトンの製造
アルゴン雰囲気下で、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 6.74mg(0.01mmol)、(R)−2,2’−ジフェニルホスフィノ−6,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル 13.41mg(0.021mmol)、およびテトラヒドロフラン5mlを、10ml容Schlenk管に連続して導入した。この溶液を、室温で15分間撹拌した。無水コハク酸200.3mg(2mmol)およびテトラヒドロフラン5mlを、第2のSchlenk管にアルゴン雰囲気下で導入した。基質溶液を5分間撹拌した。酸無水物/Ir比は、100であった。続いて、触媒溶液および基質溶液を、アルゴン雰囲気下の50ml容スチール製オートクレーブに、スチール製キャピラリーで連続して移した。オートクレーブを閉じて、4回のフラッシュサイクル(20バール/1バール)で、アルゴン雰囲気を水素雰囲気に交換した。水素圧を80バールに設定し、撹拌器を入力して、オートクレーブを100℃に加熱した。15時間後に、オートクレーブを冷却し減圧した。変換率を、ガスクロマトグラフィーにより測定した。変換率は100%であった。
【0133】
実施例9:3−オキサビシクロ[3.4.0]ノナン−2−オンの製造
(S)−L4の代わりに、[Ir(1,5−シクロオクタジエン)Cl] 13.45mg(0.02mmol)および(R)−(S)−L5 44.23mg(0.042mmol)を用い、実施例6の手順を繰り返し行った。酸無水物/Ir比は50であり、水素圧は80バールであり、反応温度は100℃であった。変換率は98%であり、eeは7%であった。
【0134】
実施例10:3−メチル−δ−バレロラクトンの製造
(R)−L1の代わりに、(R)−(S)−L5 22.02mg(0.021mmol)を用い、実施例2の手順を繰り返し行った。水素圧は70バールであり、反応温度は110℃であった。変換率は91%であり、eeは13%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム触媒を用いて、均一系反応混合物中で水素化を実施することを特徴とする、均一系貴金属触媒の存在下で水素を用いて環状ジカルボン酸無水物、またはポリカルボン酸無水物の無水物基:−C(O)−O−C(O)−の少なくとも1個のカルボニル基を水素化することによる、式:
【化1】


(式中、R’およびR’は、それぞれ互いに独立して、−NR’R’基であり、R’およびR’は、それぞれ互いに独立して、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アルケニル、非置換もしくは置換シクロアルキル、非置換もしくは置換アリール、非置換もしくは芳香族置換アラルキル、非置換もしくは芳香族置換アラルケニル、非置換であるか、もしくはシクロアルキル内で置換されたシクロアルキルアルキル、ヘテロシクリル、非置換もしくは置換アルカノイル、非置換もしくは置換アロイル、非置換もしくは置換アルキルスルホニル、非置換もしくは置換アリールスルホニル、シリル基:Si(アルキル)、Si(アリール)、またはSi(アルキル)1もしくは2(アリール)2もしくは1であるか、あるいは2個の基:R’が、共に−C(O)−であり、そして2個の基:R’が、それぞれ互いに独立して、先に定義したとおりである)で示される環状エステルを除く、環状エステルを製造する方法。
【請求項2】
−20〜150℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
10〜2×10Pa(パスカル)の圧力で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
触媒が、その環状酸無水物に基づいて0.0001〜10モル%の量で用いられることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
溶媒を用いずに、または不活性溶媒の存在下で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
環状酸無水物が、環状酸無水物基を1〜4個含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
環状酸無水物基が、環原子を合計で4〜10個有することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
環状酸無水物が、骨格内の原子を合計で最大60個有し、炭素原子が、
−C(=O)−、−O−、−S−、−S(=O)−、−S(O)−、=N−、−HN−、および−RN−(式中、Rは、C〜C−アルキル、C〜C−シクロアルキル、C〜C−シクロアルキル−C〜C−アルキル、C〜C10−アリール、C〜C12−アラルキル、またはC〜C−アシルである)からなる群から選択されるヘテロ原子および/またはヘテロ原子基により置換することができることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項9】
酸無水物基:−C(O)−O−C(O)−の少なくとも1個が結合する骨格が、脂肪族、ヘテロ脂肪族、脂環式、ヘテロ脂環式、脂環式−脂肪族、ヘテロ脂環式−脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族、芳香族−脂肪族、またはヘテロ芳香族−脂肪族基を含み、環状基が、環原子を3〜8個有し、上述の環状基が、架橋もしくは縮合され、または架橋および縮合されて、多環状基を形成することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
均一系イリジウム触媒が、式VIIおよびVIII:
【化2】


(式中、
は、Ir原子と一緒になって5〜10員環を形成する、tert−モノホスフィン2個またはジ−tert−ジホスフィン1個を表し;
e1は、イリジウムであり;
Yは、オレフィン2個またはジエン1個を表し;
Zは、Cl、Br、またはIであり;そして
は、オキシ酸または錯酸のアニオンである)に対応することを特徴とする、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2008−539165(P2008−539165A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504779(P2008−504779)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061424
【国際公開番号】WO2006/108802
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】