説明

生体光計測装置、波形解析方法

【課題】ヘモグロビン波形を詳細かつ効率的に確認できる生体光計測装置等を提供する。
【解決手段】生体光計測装置1の制御部13は、被検者19のヘモグロビン波形を計測し(S1)、計測された一部又は全部のヘモグロビン波形31の類似性に基づいて複数のクラスタに分類し、クラスタ分布32を算出する(S2)。次に、制御部13は、クラスタごとに、クラスタ波形33を生成し(S3)、クラスタ特徴量38を算出する(S4)。そして、制御部13は、識別情報30ごとに、クラスタ分布32、クラスタ波形33、クラスタ特徴量38を記憶部14に記憶し(S5)、表示部15に表示する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光によって生体内部の血液量を非侵襲的に計測する生体光計測装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体光計測装置とは、近赤外光が生体を通過する際にヘモグロビンに吸収されることを利用し、生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン変化等を計測する装置である。生体光計測装置では、被検者をほとんど拘束することなく、かつ、被検者に害を与えずに、生体内部の血液量を計測することができる。生体光計測装置を用いると、例えば、頭部の表面から2〜3cmの範囲の脳血液量変化を測定でき、脳賦活を簡便に捉えることができる。このような生体光計測装置による脳機能の測定手法は、光脳機能イメージング、fNIRS(functional near-infrared spectroscopy:機能的近赤外線スペクトロスコピィ)、光トポグラフィ(登録商標)等と呼ばれる。
【0003】
生体光計測装置の医療分野における利用例としては、例えば、先進医療「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」が挙げられる(非特許文献1参照)。この検査内容の概要は、(1)被検者が、生体光計測装置のプローブを装着した状態で、指定の頭文字から始まる日本語の単語をできる限り多く発話する検査課題(「言語流暢性課題」)を60秒間行う、(2)被検者が検査課題を行っている間、生体光計測装置が、被検者の前頭葉や側頭葉における脳活動状態の変化を波形として測定し、リアルタイムに画像化する、(3)更に、生体光計測装置又は医師が、データを解析し、検査課題に対する脳(特に、大脳皮質)の活性化状態がいずれの精神疾患のパターンに合致するかを判定することにより、臨床診断を補助して正確な鑑別診断を行う、というものである。
【0004】
また、生体光計測装置の医療分野における他の利用例としては、脳虚血診断等が挙げられる(非特許文献2参照)。非特許文献2では、酸素吸入課題に伴う酸素化ヘモグロビン(oxy-hemoglobin)濃度の変化を計測し、測定データに対して主成分分析を行うことが記載されている。そして、非特許文献2では、第1主成分の重み値(存在頻度)を用いて作成されたトポグラフィ画像(以下、「重み値トポグラフィ画像」と表記する。)の左右均一度が、治療前後で異なることが報告されている。非特許文献2の報告を詳細に見ると、重み値トポグラフィ画像の治療改善領域が一部であること、非治療側のヘモグロビン変化と重み値トポグラフィ画像も治療前後で変化していることが分かる。このように、ヘモグロビン変化やトポグラフィ画像を詳細に解析することによって、より多くの臨床所見が得られることが期待できる。また、第2主成分以降のヘモグロビン変化や重み値トポグラフィ画像も考慮することによって、脳機能領域ごとの特徴が得られることも期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福田正人監修、心の健康に光トポグラフィー検査を応用する会編集、“NIRS波形の臨床判読〜先進医療「うつ症状の光トポグラフィー検査」ガイドブック”、中山書店発行、2011年4月
【非特許文献2】海老原彰 et al.、“酸素吸入法を用いた光トポグラフィーによる脳虚血側診断”、臨床神経生理学37(3):77−84,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状では、生体光計測装置の医療分野における利用例の報告が十分とは言えず、前述したように詳細に解析を行った報告は見られない。従って、生体光計測装置によって計測された酸素化ヘモグロビン(oxy-hemoglobin)、脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-hemoglobin)、これらの和である総ヘモグロビン(total-hemoglobin)等(以下、これらを総称するときは、単に「ヘモグロビン」と表記する。)の波形を詳細かつ効率的に確認する手法も、十分に考案されていない。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、ヘモグロビン波形を詳細かつ効率的に確認できる生体光計測装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために第1の発明は、近赤外光を被検者に照射する照射プローブ、及び前記被検者の内部を通過した前記近赤外光を検出する検出プローブが配置され、前記被検者に装着される装着部と、前記照射プローブと前記検出プローブの間の部位である計測チャネルごとにヘモグロビン波形を計測し、計測結果を表示する装置本体部と、から構成される生体光計測装置であって、計測された一部又は全部の前記ヘモグロビン波形の類似性に基づいて複数のクラスタに分類する分類手段と、前記クラスタを代表する波形であるクラスタ波形を生成する生成手段と、前記クラスタ波形とともに、前記計測チャネルと前記クラスタとの対応付けを示す情報であるクラスタ分布を表示する表示手段と、を備えることを特徴とする生体光計測装置である。
【0009】
第2の発明は、近赤外光を被検者に照射する照射プローブ、及び前記被検者の内部を通過した前記近赤外光を検出する検出プローブが配置され、前記被検者に装着される装着部と、前記照射プローブと前記検出プローブの間の部位である計測チャネルごとにヘモグロビン波形を計測し、計測結果を表示する装置本体部と、から構成される生体光計測装置が実行する波形解析方法であって、計測された一部又は全部の前記ヘモグロビン波形の類似性に基づいて複数のクラスタに分類する分類ステップと、前記クラスタを代表する波形であるクラスタ波形を生成する生成ステップと、前記クラスタ波形とともに、前記計測チャネルと前記クラスタとの対応付けを示す情報であるクラスタ分布を表示する表示ステップと、を含むことを特徴とする波形解析方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヘモグロビン波形を詳細かつ効率的に確認できる生体光計測装置等を提供することができる。特に、本発明に係る生体光計測装置等によれば、ヘモグロビン波形の類似性に基づいてヘモグロビン波形を分類するので、主成分分析等のようにヘモグロビン波形の特徴成分を分離しないことから、分類された波形群の分布を示す画像によって、脳機能領域での特徴を明瞭に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】生体光計測装置のハードウエア構成の一例を示す図
【図2】装着部の一例を示す図
【図3】生体光計測装置の処理の流れを示すフローチャート
【図4】今回のクラスタ波形及びクラスタ分布の表示例を示す図
【図5】合成画像の表示例を示す図
【図6】前回のクラスタ波形及びクラスタ分布の表示例を示す図
【図7】複数の識別情報におけるヘモグロビン波形の差分の表示例を示す図
【図8】複数の識別情報におけるクラスタ分布の差分の表示例を示す図
【図9】クラスタ特徴量の第1の表示例を示す図
【図10】クラスタ特徴量の第2の表示例を示す図
【図11】複数のクラスタ数についてのクラスタ分布の表示例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の適用範囲は、診断目的(鑑別診断等)や検査内容(検査課題等)等によって限定されるものではない。本発明は、生体光計測装置によって取得される計測データ(ヘモグロビン波形)であれば適用することができる。以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
最初に、図1及び図2を参照しながら、生体光計測装置1のハードウエア構成について説明する。尚、図1及び図2に示す生体光計測装置1のハードウエア構成は一例である。本発明は、生体光計測装置1のハードウエア構成によって限定されるものではない。
【0014】
図1に示すように、生体光計測装置1は、装置本体部2及び装着部3によって構成されている。装置本体部2と装着部3は、送信用光ファイバ4及び受信用光ファイバ5によって接続されている。生体光計測装置1による計測の間、装着部3は被検者19の頭部に装着される。
【0015】
図2に示すように、装着部3には、近赤外光(可視から赤外の波長領域の光)を被検者19に照射する照射プローブ21、及び被検者19の内部を通過した近赤外光を検出する検出プローブ22が、それぞれ複数個配置されている。大脳皮質の情報を頭皮の上から検出する為には、頭皮上での照射位置と検出位置との間隔が30mm程度離れていることが必要である。その為、照射プローブ21及び検出プローブ22は、30mm間隔で交互に正方格子状に配置される。生体中での光伝播特性から、照射位置と検出位置の各中点では大脳皮質が感度良く計測できるため、隣接した照射プローブ21及び検出プローブ22の間の部位を計測チャネル23とする。
【0016】
図2では、被検者19が装着部3を装着している様子を模式的に示している。被検者19は、右側頭部の一部、前頭上部及び左側頭部の一部を覆うように、装着部3を装着している。
【0017】
図2に示す装着部3の拡大模式図では、内部が「×」の円が照射プローブ21、内部が「●」の円が検出プローブ22を示している。そして、照射プローブ21及び検出プローブ22の間の小さい点が、計測チャネル23を示している。図2に示す例では、装着部3は52個の計測チャネル23(CH1〜CH52)を有している。尚、本発明は計測チャネル23の個数に限定されない。
【0018】
図1の説明に戻る。装置本体部2は、計測部6及びコンピュータ7から構成される。計測部6及びコンピュータ7は、1つの筐体に格納されても良いし、別々の筐体に格納されても良い。
【0019】
計測部6は、レーザダイオード8、検出器9、ロックインアンプ10及びAD変換11から構成される。レーザダイオード8(光源部)は、複数の波長の光を放射する複数の光モジュールを備える。また、レーザダイオード8は、発振周波数の異なる複数の発振器によって構成される発振部を備えており、各光モジュールにそれぞれ異なる変調を与える。レーザダイオード8から放射される複数波長の光は、送信用光ファイバ4を通り、照射プローブ21から被検者19の頭部に照射される。
【0020】
検出器9は、検出プローブ22によって検出され、受信用光ファイバ5を通る光を、光量に対応する電気信号に変換する光電変換素子(フォトダイオード、光電子増倍管等)を備える。光電変換素子としてフォトダイオードを用いる場合には、高感度な光計測が実現できるアバランシェフォトダイオードが好適である。
【0021】
ロックインアンプ10は、検出器9からの電気信号を入力し、照射位置及び波長に対応した変調信号を選択的に検出する。ロックインアンプ10については、例えば、特許第3599426号公報、特許第3839202号公報等に記載されている為、詳細な説明は省略する。
【0022】
AD変換器11は、ロックインアンプ10からのアナログ信号を入力し、デジタル信号に変換する。AD変換器11によって変換されたデジタル信号は、コンピュータ7に出力される。
【0023】
コンピュータ7は、デジタルボード12、制御部13、記憶部14、表示部15、入力部16等から構成される。デジタルボード12は、AD変換器11からの信号を入力する為のインタフェースである。
【0024】
制御部13は、CPU、ROM、RAM等を備え、生体光計測装置1の各種装置を制御する。特に、制御部13は、デジタルボード12を介して入力される信号(又は記憶部14に記憶されている信号)から、計測チャネル23ごとに複数波長の検出光量を用いて、脳活動に伴う酸素化ヘモグロビン(oxy-hemoglobin)、脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-hemoglobin)、これらの和である総ヘモグロビン(total-hemoglobin)の時間的な変化をヘモグロビン波形(図4のヘモグロビン波形31x等を参照)として計測し、計測結果を表示部15に表示する。この計測方法および画像化方法は、例えば、特許第3599426号公報等に記載されている為、詳細な説明は省略する。
【0025】
記憶部14は、例えば、内蔵のハードディスク装置、外付のハードディスク装置、各種の記憶媒体(USBメモリ等)であり、デジタルボード12を介して入力される信号や、制御部13による処理結果を記憶する。尚、記憶部14に記憶されるデータは、病院内やネットワーク上のサーバ(不図示)等に記憶させても良い。
【0026】
表示部15は、液晶ディスプレイ等のモニタであり、制御部13による処理結果などを表示する。入力部16は、マウスやキーボードなどの入力装置である。表示部15及び入力部16は、ユーザ(医者等)とコンピュータ7との対話処理を実現するユーザインタフェースの役割を果たす。尚、表示部15及び入力部16は、例えば、タッチパネル型ディスプレイ等のように一体であっても良い。
【0027】
次に、図3のフローチャートに対して、図4〜図11を適宜参照しながら、生体光計測装置1の処理の詳細について説明する。尚、生体光計測装置1は、図4〜図11に示す処理結果を得る為に、必要に応じて、図3に示す処理順序の一部を変えたり、処理の一部を複数回実行したり、処理の一部を省略したりしている。以下では、混乱を避ける為に、図3に記載されている順に処理内容を説明する。
【0028】
図3に示すように、生体光計測装置1の制御部13は、被検者19のヘモグロビン波形を計測し、RAMや記憶部14等に記憶する(S1)。図4に示すように、制御部13は、計測結果に対して、計測結果を一意に識別する識別情報30xを付与し、計測結果ごとに記憶する。図4では、被検者「S」、計測開始時刻「2011年7月1日13時10分10秒」の計測結果に対して、計測ID「1002」が付与されている。
【0029】
尚、図4では今回の計測結果を示し、図6では前回の計測結果を示している。これらを区別する為に、今回の計測結果に関する要素の符号には「x」、前回の計測結果に関する要素の符号には「y」を付けることにする。また、これらを区別せずに総称する場合には、「x」や「y」を付けないことにする。
【0030】
図4に示すように、ヘモグロビン波形31xは、計測チャネル23ごとに計測される。ヘモグロビン波形31xは、横軸が計測開始時刻からの経過時間(秒)、縦軸が計測値(mM・mm)のグラフとして表示される。計測値(mM・mm)は、ヘモグロビン濃度(mM)と長さ(mm)の積であるヘモグロビン濃度長である。計測値は、例えば、0.1秒ごとにサンプリングされる。図4に示す例では、横軸が0秒〜125秒、縦軸が−0.2〜+0.4の範囲となっている。尚、経過時間が10秒と70秒における縦方向の点直線は、図9、図10に示す特徴量算出区間37の開始時間と終了時間を示している。
【0031】
図3の説明に戻る。制御部13は、計測された一部又は全部のヘモグロビン波形31の類似性(特に、波形全体の類似性)に基づいて複数のクラスタに分類し、クラスタ分布32を算出する(S2)。クラスタとは、データ解析手法の1つであるクラスタリング手法によって、データの集合から、何らかの尺度によって切り分けられたデータの部分集合を意味する。クラスタリング手法では、部分集合に含まれるデータが、ある共通の特徴(本発明の実施の形態では、波形全体の類似性)を持つように分類される。クラスタ数は、最小値が2個、最大値が計測チャネル23の個数である。また、クラスタ分布32とは、計測チャネル23とクラスタとの対応付けを示す情報である。
【0032】
クラスタリング手法は、階層的手法(最短距離手法など)と、分割最適化手法(k平均法など)に分けられる。階層的手法は、最も距離が近いクラスタ間の逐次的な併合を繰り返すことによって階層構造を生成する手法である。階層的手法は、外乱(ノイズ等)に弱く、実データではあまり良い結果が得られない傾向がある。そこで、本発明の実施の形態では、外乱に対して頑健な分割最適化手法であるk平均法を採用する。k平均法は、入力データ群を分割するクラスタ数を予めk個と設定して分割し、これを初期状態として分割を繰り返し実行することで、より良い分割を探し出す手法である。但し、本発明は、k平均法に限定されるものではない。
【0033】
まず、制御部13は、計測されたヘモグロビン波形31の全体から、例えば、アーチファクト等と考えられるヘモグロビン波形31を除外し、分類対象を決める。尚、アーチファクトの原因は、光ファイバの動き、被検者19の頭部位置の変化、被検者19の側頭筋の動きなどがある。アーチファクトの判定については、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0034】
次に、制御部13は、分類対象のヘモグロビン波形31の計測値を、計測チャネル23ごとに正規化(zスコア化)する。正規化処理では、例えば、計測区間全体(0〜125秒)の計測値の平均値及び標準偏差を用いる。サンプリング間隔が0.1秒の場合、計測区間全体(0〜125秒)の計測値は1250個である。
【0035】
次に、制御部13は、計測チャネル23ごとの正規化された計測値のベクトルデータ(前述した例であれば、1250次元のベクトルデータ)を入力データ集合とし、k平均法を用いて、複数のクラスタに分類する。クラスタ数、反復回数及び初期値(初期状態における各クラスタの代表データ)は、例えば、予め記憶部14等に記憶されているデフォルト値、又はユーザによって入力部16から入力される入力値を用いれば良い。k平均法は、公知のクラスタリング手法である為、詳細な説明を省略する。
【0036】
図4に示すクラスタ分布32xは、計測チャネル23ごとに小領域を配置し、計測チャネル23同士の位置関係を2次元的に示している。また、クラスタ分布32xは、クラスタごとに小領域の形態(形状、模様、色彩、又はこれらの組合せ等)を変えている。図4では、第1クラスタを内部が「+」の模様の小円とし、第2クラスタを内部が黒色の小円として示している。
【0037】
一般に、ヘモグロビン波形31の特徴を、波形から直接、正確に読み取る為には、かなりの習熟度が必要となる。また、計測チャネル23の個数が多くなると、習熟度が高いユーザであっても非常に時間がかかる。例えば、主成分分析等によってヘモグロビン波形31の特徴成分を分離することもできるが、かえって直観的な理解を妨げる場合もある。
【0038】
一方、本発明の実施の形態では、生体光計測装置1の制御部13が自動的にクラスタ分布32を算出するので、習熟度が低いユーザや計測チャネル23の個数が多い場合も、時間をかけずに測定結果を判読することができる。更に、図4に示すクラスタ分布32xでは、計測チャネル23同士の位置関係が示された画像にクラスタリングの結果が重畳されているので、脳機能領域での特徴を明瞭に確認することができる。また、クラスタ分布32は、波形全体の類似性に基づいて分類された結果なので、直観的な理解を妨げることがない。
【0039】
図5には、クラスタ分布32の他の表示例を示している。図5(a)は、ブロードマン脳地図に、クラスタ分布32を重畳した合成画像の模式図である。ブロードマン脳地図とは、コルビニアン・ブロードマンによる大脳新皮質の解剖学・細胞構築学的区分の通称である。ブロードマンの原典では、大脳皮質組織の神経細胞を染色して可視化し(特許図面の制約の為、図5ではグレースケールに変換している。)、組織構造が均一である部分をひとまとまりの領域として区分して、1から52までの番号が振られている。
【0040】
図5(a)では、可読性を確保する為、一部の計測チャネル23(CH28、CH29、CH38、CH39、CH49)に対するクラスタリング結果のみを示している。図5(a)を見ると、ブロードマン脳地図における10野と46+47野との脳機能領域の境界が、クラスタ分布32として明瞭に表現されていることが分かる。図5(a)に示す合成画像であれば、解剖学・細胞構築学的区分と対比してクラスタリング結果を確認することができる。
【0041】
図5(b)は、不特定多数の脳画像(MRI画像など)に基づいて生成された平均脳画像に、クラスタ分布32を重畳した合成画像の模式図である。図5(b)では、平均脳画像の形状に合わせて計測チャネル23に対応する小領域を変形し、変形した小領域を平均脳画像に重畳している。図5(b)の合成画像は回転することができる。つまり、図5(b)では左側頭部を正面としているが、ユーザが入力部16を介して指示することによって、右側頭部を正面とすることができる。図5(b)に示す合成画像であれば、被検者19自身のMRI画像がなくても生成することができ、より直観的に脳機能領域での特徴を確認することができる。
【0042】
図5(c)は、被検者19のMRI画像に、クラスタ分布32を重畳した合成画像の模式図である。図5(c)の合成画像も回転することができる。図5(c)に示す合成画像であれば、より正確に脳機能領域での特徴を確認することができる。
【0043】
図3の説明に戻る。制御部13は、クラスタごとにクラスタ波形33を生成する(S3)。クラスタ波形33は、クラスタを代表する波形であり、例えば、各クラスタに含まれるヘモグロビン波形31の各サンプリング点における平均値をグラフ化したものである。また、クラスタ波形33は、例えば、各クラスタに含まれるヘモグロビン波形31の各サンプリング点における中央値、最頻値、最小値、最大値、最頻値等をグラフ化したものでも良い。また、クラスタ波形33は、1つだけではなく、複数の基準値(例えば、最小値、中央値、最大値等)をグラフ化したものであっても良い。
【0044】
図4には、第1クラスタ波形33ax、第2クラスタ波形33bxが示されている。図4に示すように、クラスタ波形は、クラスタ数だけ存在することから、これらを区別する為に、第1クラスタに関する要素の符号には「a」、第2クラスタに関する要素の符号には「b」を付けることにする。また、これらを区別せずに総称する場合には、「a」や「b」を付けないことにする。
【0045】
図4に示すように、計測チャネル23の個数分のヘモグロビン波形31を全て表示する為には、各波形の表示サイズを小さくしなければならず、視認性が悪くなる。また、計測チャネル23の個数分のヘモグロビン波形31を判読するよりも、クラスタ数分のクラスタ波形33を判読する方が効率的である。
【0046】
図3の説明に戻る。制御部13は、クラスタごとにクラスタ特徴量38を算出する(S4)。クラスタ特徴量38は、クラスタ波形33の特徴量である。波形の特徴量としては、例えば、積分値、平均値、標準偏差、重心値、傾き値などがある。積分値は、特徴量算出区間37を積分した値である。平均値は、特徴量算出区間37における計測値の平均値である。標準偏差は、特徴量算出区間37における計測値の平均値である。重心値は、計測開始時刻から計測終了時刻までの全体を通して、計測値の正方向の面積が半分になる時間である。傾き値は、特徴量算出区間37の開始時間から所定時間(例えば、5秒)の傾きである。特徴量算出区間37=検査課題の実施区間の場合、積分値が検査課題中の反応の大きさ、重心値が検査全体を通して見た場合の反応タイミング、傾き値が反応の速さ(初期賦活)を示している。
【0047】
また、制御部13は、識別情報30ごとに、クラスタ分布32、クラスタ波形33、クラスタ特徴量38を記憶部14に記憶する(S5)。そして、制御部13は、クラスタ分布32、クラスタ波形33、クラスタ特徴量38を表示部15に表示する(S6)。表示態様には、単独表示、比較表示、差分表示などがある。単独表示では、単一の計測結果(複数の計測チャネル23のヘモグロビン波形31)を詳細かつ効率的に確認できる。比較表示や差分表示では、治療による経時的変化や疾患等に起因した複数の計測結果同士の差異を詳細かつ効率的に確認することができる。
【0048】
<単独表示の例>
制御部13は、単独表示として、例えば、図4に示す情報を表示する。また、制御部13は、図4のクラスタ分布32xを、図5(a)〜(c)に示す合成画像に代えて表示しても良い。
【0049】
<比較表示の第1の例>
制御部13は、比較表示として、例えば、図4及び図6に示す情報を同時に表示する。図4に示す情報は今回の計測結果であり、図6に示す情報は前回の計測結果である。図6には、被検者「S」、計測開始時刻「2011年4月1日13時05分05秒」の計測結果に対して、計測ID「1001」が付与されている。
【0050】
このように、制御部13は、異なる複数の識別情報30についてクラスタ分布32を表示する。これによって、例えば、両者の期間内に、被検者「S」に対して何らかの治療を施した場合、その治療による効果を容易に確認することができる。
【0051】
<比較表示+差分表示の第1の例>
また、制御部13は、比較表示及び差分表示として、例えば、図7に示す情報を表示する。図7には、ヘモグロビン波形の比較表示34、ヘモグロビン波形の差分表示35が示されている。ヘモグロビン波形の比較表示34は、計測チャネル23ごとに、ヘモグロビン波形31xとヘモグロビン波形31yとを重畳したものである。ヘモグロビン波形の差分表示35は、各サンプリング点におけるヘモグロビン波形31xの計測値から、ヘモグロビン波形31yの計測値を引いた値を波形として示したものである。ヘモグロビン波形の差分表示35を見ると、ヘモグロビン変化としては、今回の計測結果の方が大きいことが明瞭に確認することができる。
【0052】
<比較表示+差分表示の第2の例>
また、制御部13は、比較表示及び差分表示として、例えば、図8に示す情報を表示する。図8には、今回のクラスタ分布32x、前回のクラスタ分布32y、クラスタ分布の差分表示36が示されている。
【0053】
クラスタ分布の差分表示36は、今回のクラスタ分布32xと前回のクラスタ分布32yとの差分である。図8では、今回のクラスタ分布32xと前回のクラスタ分布32yとを比較し、クラスタリング結果に差がある計測チャネル23を、内部が「■」の小円として示している。クラスタ分布の差分表示36を見ると、今回のクラスタ分布32xと前回のクラスタ分布32yとにほとんど差異がなく、機能領域的には、今回と前回との間に変化が少ないことが分かる。
【0054】
このように、制御部13は、異なる複数の識別情報30についてクラスタ分布32を表示したり、異なる2つの識別情報30におけるクラスタ分布32の差分を表示したりする。これによって、例えば、両者の期間内に、被検者「S」に対して何らかの治療を施した場合、その治療による効果を容易に確認することができる。
【0055】
<比較表示+差分表示の第3の例>
また、制御部13は、比較表示及び差分表示として、例えば、図9に示す情報を表示する。図9には、特徴量算出区間37、今回の第1クラスタ波形33ax、今回の第2クラスタ波形33bx、今回の第1クラスタ特徴量38ax、今回の第2クラスタ特徴量38bx、前回の第1クラスタ波形33ay、前回の第2クラスタ波形33by、前回の第1クラスタ特徴量38ay、前回の第2クラスタ特徴量38by、第1クラスタ特徴量の差分39a、第2クラスタ特徴量の差分39bが示されている。
【0056】
特徴量算出区間37は、入力部16を介してユーザが任意の値を入力することができる。今回の第1クラスタ特徴量38axは、今回の計測結果の第1クラスタに関する特徴量(積分値、平均値、標準偏差、重心値、傾き値)である。また、今回の第2クラスタ特徴量38bx、前回の第1クラスタ特徴量38ay、前回の第2クラスタ特徴量38byも同様である。尚、図9に示す具体的な数値は、正規化(zスコア化)される前の値から算出されている。
【0057】
また、第1クラスタ特徴量の差分39aは、今回の第1クラスタ特徴量38axから前回の第1クラスタ特徴量38ayを引いた値である。第2クラスタ特徴量の差分39bも同様である。
【0058】
このように、制御部13は、異なる複数の識別情報30についてクラスタ特徴量38を表示したり、異なる2つの識別情報30におけるクラスタ特徴量38の差分を表示したりする。これによって、例えば、両者の期間内に、被検者「S」に対して何らかの治療を施した場合、その治療による効果を定量的に確認することができる。
【0059】
<比較表示の第2の例>
また、制御部13は、比較表示として、例えば、図10に示す情報を表示する。図10には、特徴量算出区間37、今回の第1クラスタ波形33ax、今回の第2クラスタ波形33bx、今回の第1クラスタ特徴量38ax、今回の第2クラスタ特徴量38bx、前回の第1クラスタ波形33ay、前回の第2クラスタ波形33by、前回の第1クラスタ特徴量38ay、前回の第2クラスタ特徴量38by、クラスタ特徴量散布図40が示されている。
【0060】
クラスタ特徴量散布図40は、横軸をクラスタ特徴量38の1つである積分値、縦軸をクラスタ特徴量38の1つである重心値とした散布図である。図10に示すクラスタ特徴量散布図40には、今回の第1クラスタ、今回の第2クラスタ、前回の第1クラスタ、及び前回の第2クラスタの4点が示されている。クラスタ特徴量散布図40を見ると、クラスタ特徴量38の定量的な違いを直観的に理解することができる。
【0061】
<変形例>
前述の説明では同一の計測結果に対するクラスタの分類処理(S2)を1回としたが、本発明はこの例に限定されない。以下、変形例として、同一の計測結果に対するクラスタの分類処理(S2)を複数回行う例について説明する。
【0062】
図11では、同一の計測結果(計測ID「1002」)に対して、クラスタ数を2、3、4とし、クラスタの分類処理を3回行った結果を例示的に示している。生体光計測装置1の制御部13は、同一の計測結果に対して、クラスタ数を2、3、4に設定してk平均法によるクラスタの分類処理を行い、それぞれのクラスタ分布32、クラスタ波形33、クラスタ特徴量38を算出する。
【0063】
図11では、3種類のクラスタ分布32を示している。これらを区別する為に、クラスタ数が2に関する要素の符号には「l」、クラスタ数が3に関する要素の符号には「m」、クラスタ数が4に関する要素の符号には「n」を付けている。尚、図11には示していないが、制御部13は、クラスタ波形33やクラスタ特徴量38を表示部15に比較表示しても良い。
【0064】
このように、制御部13は、異なる複数のクラスタ数によって複数回の分類処理を行い、異なる複数のクラスタ数についてクラスタ分布32、クラスタ波形33、クラスタ特徴量38を表示部15に表示する。これによって、ユーザは、クラスタの分類処理を行う前に予めクラスタ数を決定する作業を行う必要がない。そして、ユーザは、最適なクラスタ数の分類結果を選択し、選択した分類結果についての詳細な情報を表示させることができる。
【0065】
更に、制御部13が、異なる複数のクラスタ数によって複数回の分類処理を行った後、最適なクラスタ数の分類結果を自動的に選択しても良い。この選択処理について、2つの例を説明する。
【0066】
例えば、制御部13は、k=2から再帰的にk平均法を実行し、クラスタの分割前と分割後で情報量基準(ベイズ情報量基準、赤池情報量基準等)を比較し、値が改善しなくなるまで処理を行う。そして、制御部13は、値が改善しなくなった分類結果の1つ前の分類結果を、最適なクラスタ数の分類結果として選択する。
【0067】
また、例えば、制御部13は、k=2から再帰的にk平均法を実行してクラスタ特徴量38を実行し、クラスタの分割前と分割後で、クラスタ間の距離を算出し、閾値以下となるクラスタ間が出てくるまで処理を行う。そして、制御部13は、閾値以下となるクラスタ間が出てきた分類結果の1つ前の分類結果を、最適なクラスタ数の分類結果として選択する。ここで、クラスタ間の距離とは、例えば、図10に示すクラスタ特徴量散布図40のように、クラスタ特徴量38の1つである積分値をx座標、クラスタ特徴量38の1つである重心値をy座標としたときのユークリッド距離などである。
【0068】
このように、制御部13は、複数回の分類結果から、クラスタ特徴量38に基づいて最適なクラスタ数の分類結果を選択する。これによって、ユーザは、最適なクラスタ数の分類結果を選択する作業を行う必要がない。そして、制御部13は、最適なクラスタ数の分類結果についての詳細な情報を表示部15に表示することができる。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る生体光計測装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0070】
1………生体光計測装置
2………装置本体部
3………装着部
4………送信用光ファイバ
5………受信用光ファイバ
6………計測部
7………コンピュータ
8………レーザダイオード
9………検出器
10………ロックインアンプ
11………AD変換
12………デジタルボード
13………制御部
14………記憶部
15………表示部
16………入力部
19………被検者
21………照射プローブ
22………検出プローブ
23………計測チャネル
30………識別情報
31………ヘモグロビン波形
32………クラスタ分布
33………クラスタ波形
34………ヘモグロビン波形の比較表示
35………ヘモグロビン波形の差分表示
36………クラスタ分布の差分表示
37………特徴量算出区間
38………クラスタ特徴量
39………クラスタ特徴量の差分
40………クラスタ特徴量散布図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を被検者に照射する照射プローブ、及び前記被検者の内部を通過した前記近赤外光を検出する検出プローブが配置され、前記被検者に装着される装着部と、前記照射プローブと前記検出プローブの間の部位である計測チャネルごとにヘモグロビン波形を計測し、計測結果を表示する装置本体部と、から構成される生体光計測装置であって、
計測された一部又は全部の前記ヘモグロビン波形の類似性に基づいて複数のクラスタに分類する分類手段と、
前記クラスタを代表する波形であるクラスタ波形を生成する生成手段と、
前記クラスタ波形とともに、前記計測チャネルと前記クラスタとの対応付けを示す情報であるクラスタ分布を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
前記分類手段は、前記ヘモグロビン波形の波形全体の類似性に基づいて複数のクラスタに分類する
ことを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項3】
計測結果を識別する情報である識別情報ごとに前記クラスタ波形及び前記クラスタ分布を記憶する記憶手段、
を更に備え、
前記表示手段は、異なる複数の前記識別情報について前記クラスタ波形及び前記クラスタ分布を表示する、並びに/或いは、異なる2つの前記識別情報における前記クラスタ分布の差分を表示する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体光計測装置。
【請求項4】
前記クラスタ波形の特徴量であるクラスタ特徴量を算出する算出手段、
を更に備え、
前記記憶手段は、前記識別情報ごとに前記クラスタ特徴量を記憶し、
前記表示手段は、異なる複数の前記識別情報について前記クラスタ特徴量を表示する、及び/又は、異なる2つの前記識別情報における前記クラスタ特徴量の差分を表示する
ことを特徴とする請求項3に記載の生体光計測装置。
【請求項5】
前記分類手段は、異なる複数のクラスタ数によって複数回の分類処理を行い、
前記生成手段は、異なる複数のクラスタ数について前記クラスタ波形を生成し、
前記算出手段は、異なる複数のクラスタ数について前記クラスタ特徴量を算出し、
前記表示手段は、異なる複数のクラスタ数について前記クラスタ波形及び前記クラスタ分布を表示する、並びに/或いは、異なる複数のクラスタ数について前記クラスタ特徴量を表示する
ことを特徴とする請求項4に記載の生体光計測装置。
【請求項6】
前記分類手段における複数回の分類結果から、前記クラスタ特徴量に基づいて最適なクラスタ数の分類結果を選択する選択手段、
を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の生体光計測装置。
【請求項7】
近赤外光を被検者に照射する照射プローブ、及び前記被検者の内部を通過した前記近赤外光を検出する検出プローブが配置され、前記被検者に装着される装着部と、前記照射プローブと前記検出プローブの間の部位である計測チャネルごとにヘモグロビン波形を計測し、計測結果を表示する装置本体部と、から構成される生体光計測装置が実行する波形解析方法であって、
計測された一部又は全部の前記ヘモグロビン波形の類似性に基づいて複数のクラスタに分類する分類ステップと、
前記クラスタを代表する波形であるクラスタ波形を生成する生成ステップと、
前記クラスタ波形とともに、前記計測チャネルと前記クラスタとの対応付けを示す情報であるクラスタ分布を表示する表示ステップと、
を含むことを特徴とする波形解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−17494(P2013−17494A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150582(P2011−150582)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】