説明

生体内留置チューブ

【課題】本発明は唾液、汗、尿、皮脂等の生体由来成分、栄養剤等の付着を防止し、細菌、真菌の繁殖、バイオフィルムの形成を抑制することが出来る体腔内に留置するチューブを提供するものである。
【解決手段】留置チューブの内面、外面にフッ素樹脂の被膜を形成させる。チューブの基材としては、ポリオレフィン系のエラストマー材料、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーンゴム等がある。コーテング方法としては、フッ素樹脂を任意の溶媒に溶解したものに、チューブを一定時間デイッピングした後、乾燥する方法、スプレーで噴射する方法等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔内に留置して、例えば栄養剤の投与に使用する生体内留置チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
経口摂取が困難・不能な患者に対する経管栄養法として、持続的経鼻経管栄養法が主流となっており、広く用いられている。経鼻胃管栄養法は簡便な方法であり、短期間の管理は行いやすい。
【0003】
経鼻胃管チューブは他の体腔、組織内に留置するカテーテルに比べて清潔管理や交換時期について厳密な管理がされていない。その理由として留置部位が鼻、咽頭、胃と比較的汚染に強いとされる部位であることが挙げられる。
【0004】
経鼻胃管チューブそのものは消化管内に存在するとしても、これが不潔な状態であれば結果的に鼻腔、口腔、咽頭、食道部の細菌、真菌定着の原因になりうる。
【0005】
実際、長期に渡って経鼻胃管チューブを留置している患者の咽頭部に、緑膿菌感染や日和見感染が多いこと(非特許文献1)、一定期間留置した後、抜去した経鼻胃管チューブの外表面に複数種の菌が検出され、咽頭部や口腔内の菌と同じであること(非特許文献2)、などが報告されている。
【0006】
経鼻胃管チューブの内腔汚染とその対策については数多く報告(非特許文献3)されているが、外表面の汚染対策は、あまり注目されていない。
【0007】
経鼻胃管栄養法以外の栄養法として胃ろうを介した栄養法も行われている。胃ろうカテーテルにおいても、栄養剤が通過するカテーテル内面の汚染対策は複数報告されているが生体組織と接触する外面の汚染対策は、報告が少ない。
【0008】
胃ろうカテーテル外面への細菌繁殖によって形成されたバイオフィルムがろう孔周囲炎、不良性肉芽といったスキントラブルの原因であるとする報告もある(非特許文献4)。
【0009】
また経管栄養法以外の体腔内への留置チューブとして人工呼吸に用いる気管チューブがあるが、気管チューブ外面へ口腔、咽頭部の細菌が付着、バイオフィルムを形成、呼吸器感染症を引き起こすといったことも報告されている(非特許文献5)。
【0010】
本発明で使用するフッ素樹脂のコーティング剤について説明する。フッ素樹脂は耐薬品性、耐酸性、低誘電性、低表面エネルギー、非粘着性、耐候性、化学的耐熱性(熱分解温度が高い)等に優れているために、汎用のプラスチックでは使用できない種々の用途に用いられている。
【0011】
これらのうち多くの場合は、フッ素樹脂の表面特樹脂が溶剤に不溶でコーテイングが不能であるために、切削加工、溶融成形等によって製品を得ており、非常に高価なものとなっていた。近年、ディップコート、ポッティングといった基材の形状を問わず簡便にコーティングが可能なフッ素樹脂が商品化され、光学材料、半導体材料、その他各種機能材料の表面改質剤として広く利用されている。
【0012】
【非特許文献1】金城利雄:経管栄養患者の看護, 第6回摂食・嚥下リハビリテーション学会講演抄録, 6(10):106−109.2000
【非特許文献2】高橋福佐代,他:日摂食嚥下リハ会誌, 9(2):199−205.2005
【非特許文献3】前田伊美子,他:健生病院医報, 26, 17−18, 2003
【非特許文献4】Dautle MP, et al:J Pediatr Surg. 2003 Feb;38(2):216-20
【非特許文献5】Safdar N, et al: Respir Care. 2005 Jun;50(6):725-39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は体腔内に留置するチューブにおいて、その内面、外面にフッ素樹脂の被膜を形成させることによって、唾液、汗、尿、皮脂等の生体由来成分、栄養剤等の付着、胃酸、薬剤等によるチューブ表面の劣化を防止し、細菌、真菌の繁殖、バイオフィルムの形成を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的は下記(1)〜(5)の発明により達成される。
(1)チューブの内表面、外表面にフッ素樹脂のコーティング層を有する生体内留置チューブ。
(2)生体内留置チューブが経鼻胃管チューブである(1)に記載のチューブ。
(3)生体内留置チューブが胃ろうカテーテルである(2)に記載のチューブ。
(4)生体内留置チューブが気管カテーテルである(3)に記載のチューブ。
(5)生体内留置チューブが尿管ステントである(4)に記載のチューブ。
【発明の効果】
【0015】
体腔内に留置するチューブの内、外表面にフッ素樹脂を被覆することで唾液等の生体由来物質、また投与される栄養剤等の付着を防止でき、細菌等の繁殖およびバイオフィルムの形成を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を具体的に説明する。
まず本発明で使用するフッ素樹脂コーティング剤について説明する。フッ素樹脂コーティング剤としては、市販のものが使用可能であり、具体的な商品としては、「サイトップ」(旭硝子社製)、「ノベックEGC-1720」「ノベックEGC-1700」(3M社製)、「ディフェンサTR」(大日本インキ化学社製)が挙げられる。
【0017】
基材としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン系のエラストマー材料、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等がある。
【0018】
コーティング方法としては、フッ素樹脂を任意の溶媒に溶解したものに、チューブを一定時間ディッピングした後、乾燥する方法、スプレーで噴射しながら、チューブにコーティングする方法、などが挙げられる。
【0019】
以下に、実施例をもって本発明を説明するが、これらは一例として示すものであり、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
シリコーンゴム製の胃ろうカテーテル(ナイスフロガストロストミーシステム アボット社製)からチューブ片10cmを切り取った。フッ素樹脂コーティング剤「ノベックEGC-1720」0.1wt%パーフロロイソブチレン溶液にチューブ片を5秒間、ディップした後、チューブを取り出し、常温で放置乾燥した。この操作を5回繰り返した。
【実施例2】
【0021】
シリコーンゴム製の体腔内留置カテーテル(シリコーンバルーンカテーテル テルモ社製)からチューブ片10cmを切り取った。フッ素樹脂コーティング剤「ノベックEGC-1720」0.1wt%パーフロロイソブチレン溶液にチューブ片を5秒間、ディップした後、チューブを取り出し、常温で放置乾燥した。この操作を5回繰り返した。
(比較例1)
シリコーンゴム製の胃ろうカテーテル(ナイスフロガストロストミーシステム アボット社製)からチューブ片10cmを切り取ったものを比較例1として用いた。
(比較例2)
シリコーンゴム製の体腔内留置カテーテル(シリコーンバルーンカテーテル テルモ社製)からチューブ片10cmを切り取ったものを比較例2として用いた。
【0022】
唾液浸漬試験
実施例1、比較例1のチューブをガラス製試験管に入れ、健常人から採取した唾液をチューブ全体が浸るまで加えた。ふたをした状態で37℃恒温オーブン内に放置した。 1日に一回の頻度で、唾液を交換した。7日後に取り出し、生理食塩水で軽く洗浄した後、市販の歯垢染色剤に10秒間浸し、生理食塩水で余剰な染色剤を除去した。フッ素樹脂をコーティングした実施例1は、唾液の沈着、唾液中の成分の付着が防止されたため、比較例1と比べ染色の度合いが著しく弱かった(図1)。電子顕微鏡観察においても実施例1は、比較例1と比べ、付着物が非常に少なかった(図2)。本試験からフッ素樹脂コーティングした体内留置チューブの有効性が確認出来た。
【0023】
人工胃液浸漬試験
実施例2、比較例2のチューブをガラス製試験管に入れ、人工胃液(0.2%の塩化ナトリウムを含む0.1N塩酸)をチューブ全体が浸るまで加えた。ふたをした状態で37℃恒温オーブン内に放置した。 7日後に取り出し、蒸留水で軽く洗浄した後、表面状態を電子顕微鏡で観察した。フッ素樹脂をコーティングした実施例1は、浸漬前と変わらず平滑性を維持していた。それに対し比較例1は、浸漬後、表面に多数のクラックが発生し劣化が観察された。本試験からフッ素樹脂コーティングした体腔内留置チューブの有効性が確認出来た。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】7日間唾液に浸漬した後、歯垢染色剤で染色したときの外観写真
【図2】7日間唾液に浸漬した後のチューブ表面の電子顕微鏡写真
【図3】人工胃液に浸漬する前後のチューブ表面の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブの内表面、外表面にフッ素樹脂のコーティング層を有する生体内留置チューブ。
【請求項2】
生体内留置チューブが経鼻胃管チューブである請求項1に記載のチューブ。
【請求項3】
生体内留置チューブが胃ろうカテーテルである請求項1に記載のチューブ。
【請求項4】
生体内留置チューブが気管カテーテルである請求項1に記載のチューブ。
【請求項5】
生体内留置チューブが尿管ステントである請求項1に記載のチューブ。

































【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−6006(P2008−6006A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178690(P2006−178690)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】