説明

生体分子のイソ型のインビボ代謝の同時測定

本発明は、生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を同時に測定するための方法を包含する。生体分子は、典型的には中枢神経系で産生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、少なくとも部分的に、National Institutes of Health(国立衛生研究所)助成金番号K23AG030946から財政的支援を得て行われた。従って、米国政府は、この発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
本発明は、生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を同時に測定するための方法を包含する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も一般的な要因であり、深刻化している公衆衛生問題である。他の中枢神経系(CNS)の変性疾患のように、ADは、生体分子の産生、蓄積、およびクリアランスにおける妨害によって特徴づけられる。結果として、対象内の生体分子代謝を測定する効率的な方法が必要とされる。特に、同試料内の生体分子の異なる異性体を同時に測定することが必要とされている。この方法は時間とお金を節約し、所与の対象からの生体試料がより少なくて済む。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様は、対象の中枢神経系で産生される生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を同時に測定するための方法を包含する。この方法は、対象に標識部分を投与することを含む。標識部分は、典型的に生体分子が対象内で産生される際に生体分子へ取り入れられる。試料は、次に対象から得られるが、ここで、試料には、標識部分を有する第1の生体分子画分、および非標識部分を有する第2の生体分子画分を含む。第1の生体分子断画分は、生体分子の2つ以上の標識されたイソ型を含み、第2の生体分子画分は、生体分子の2つ以上の非標識イソ型を含む。各標識されたイソ型および各非標識イソ型の量は検出され、特定のイソ型における標識されたイソ型と非標識イソ型の比率は、対象内の特定のイソ型の代謝に正比例している。
【0005】
本発明の別の態様は、治療薬が対象の中枢神経系で産生される生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝に作用するか否かを判別するための方法を包含する。その方法は、対象に治療薬を投与することおよび対象に標識部分を投与することを含む。標識部分は、典型的に、生体分子が対象内で産生される際に生体分子へ取り入れられる。試料は対象から得られ、概して、標識部分を有する第1の生体分子画分および非標識部分を有する第2の生体分子画分を含む。第1の生体分子画分は、生体分子の2つ以上の標識されたイソ型を含み、第2の生体分子画分は、生体分子の2つ以上の非標識イソ型を含む。生体試料内の各標識されたイソ型の量および各非標識イソ型の量は検出され、特定のイソ型における標識されたイソ型と非標識イソ型の比率は、対象における特定のイソ型の代謝に正比例している。各イソ型の代謝は、特定のイソ型への対象値からの変化が、治療薬が対象の中枢神経系で特定のイソ型の代謝に作用することを示すように、好適な対照値と比較される。
【0006】
本発明の他の態様および反復は、下記により詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】は、ナノ―LCタンデムMSによりヒトApoE2またはApoE4を発現する、不死化されたノックインマウス星状膠細胞におけるヒトApoEイソ型特異的トリプシンペプチドの検出を図示する。ApoE4培地(0.5mL)およびApoE2培地(1mL)をプールし、4℃で30分間、0.1mLのPHM-Liposorb(商標)を用いてインキュベートした。試料を変性させ、還元し、アルキル化し、トリプシンで消化し、イソ型特異的ペプチドを生成し、ナノ―LCタンデムMSで分析した。(A)各イソ型特異的ペプチドの二荷イオンのイオンクロマトグラフの抜粋。(B)bおよびyイオンを標識した各ペプチドの相当するMS2スペクトル。
【図2】は、ナノ―LCタンデムMSによる、CSF内でのヒトApoEイソ型特異的トリプシンペプチドの検出を図示する。若い一般の対照参加者からのCSF(0.1mL)を、0.1mLのPHM-Liposorb(商標)を用いて4℃で30分間インキュベートした。試料を変性させ、還元し、アルキル化し、トリプシンで消化し、イソ型特異的ペプチドを生成し、ナノ―LCタンデムMSにより分析した。(A)および(B)は、ApoE3/4遺伝子型を伴う個体に由来する。各イソ型特異的ペプチドの二荷イオンのイオンクロマトグラフの抜粋が(A)に示され、相当するMS2スペクトルが(B)、(C)および(D)に表され、ApoE3/2遺伝子型を伴う個体に由来する。各イソ型特異的ペプチドの二荷イオンのイオンクロマトグラフの抜粋は(C)に示され、および相当するMS2のスペクトルは(D)に表される。
【図3】は、ApoE3特異的ペプチドの検出を図示する。ApoEタンパク質は、WUE4抗体を用いて免疫沈降し、変性させ、還元し、アルキル化し、およびイソ型特異的ペプチドを生成するためトリプシンを用いて消化し、それらはナノ―LCタンデムMSにより分析した。(A)ApoE3特異的ペプチドのイオンクロマトグラフの抜粋。(B)各ペプチドの相当するMS2スペクトル。
【図4】は、13Cで標識されたApoE4およびApoE2星状膠細胞培地から単離するApoEイソ型特異的トリプシンペプチドのそれぞれの標準曲線を提示する。標識されたApoEイソ型特異的ペプチドおよび非標識ApoEイソ型特異的ペプチドをタンデムMSによって検出し、非標識イオンへの標識イオンの比率から標識率(%)を算出した。図4Aにおいて、(A)ApoE3/2ペプチド(B)ApoE3/4ペプチドであり、図4Bにおいて、(C)ApoE2ペプチド(D)ApoE4ペプチドである。
【図5】は、不死化されたノックインマウス星状膠細胞におけるヒトApoE4の産生を提示する。星状膠細胞を発現させるApoE4は培養密度まで生育した。13C6―ロイシンは、13C6―ロイシンの合計割合を50%になるまで、t=0時に培地に加えた。培地は48時間にわたって採取した。ApoEは、Liposorbを用いて捕捉し、還元し、アルキル化し、およびトリプシンを用いて消化した。ApoE4特異的ペプチドは、ナノLC MS/MSによって分析した。ApoEへの13C6―ロイシンの取り込みを判別するためSILT法を使用した(n=3、エラーバーSEM)。ApoE4の分画合成率(FSR)は、初期勾配および1時間あたり8.5%のプラトートレーサ/トレイシー比(TTR)を使用して算出した。
【図6】ヒトCNS内でのApoEイソ型の代謝を提示する。ApoE2、ApoE3、およびApoE4は、13C6―ロイシンを0〜9時間点滴された(2mg/kg/h)若い一般の対照参加者から単離した。(A)ApoE4=LGADMEDVR(SEQ ID NO:3)、ApoE3=LGADMEDVcGR(SEQ ID NO:1)。(B)ApoE3=LAVYQAGAR(SEQ ID NO:2)、ApoE2=cLAVYQAGAR(SEQ ID NO:4)。TTR=トレーサ/トレイシー比
【図7】は、CHO培地内の可溶性APP―ベータの判別を図示する。(A)は、ナノ―LCを経る非標識可溶性APP―ベータおよび標識された可溶性APP―ベータの分離を描写する。双方のペプチドは23.34分で同時に溶出する。(B)は、非標識可溶性APP―ベータペプチドおよび標識された可溶性APP―ベータペプチドの対のスペクトルを示す。スペクトルは、矢印で指し示されるイオンの質量における小さな推移を除いては、同様に見える。指し示されたイオンは、二荷性であるため、標識されたsAPP―ベータペプチドにおいて3m/z重い。非標識イオンへの標識イオンの信号強度の比較によって、イオンの標識率(%)/非標識率(%)比が得られる。多くのイオンの比率を合計して、全体のsAPP―ベータペプチドの正確な標識率(%)/非標識率(%)比を与えるため合計される。
【図8】は、CHO培地内での可溶性APP―アルファの検出を図示する。(A)ナノ―LCを経る非標識可溶性APP―アルファおよび標識された可溶性APP―アルファの溶出を描写する。双方のペプチドは25.18分で同時に溶出する。(B)は、非標識可溶性APP―アルファペプチドおよび標識された可溶性APP―アルファペプチドの対のスペクトルを示す。設計した標識イオンは、三価性であるため、標識イオンにおいて2m/z重い。非標識イオンへの標識イオンの信号強度の比較によって、イオンの標識率(%)/非標識率(%)比が得られる。多くのイオンの比率を合計して、全体のsAPP―ベータペプチドの正確な標識率(%)/非標識率(%)比を与えるため合計される。
【図9】は、sAPP―アルファペプチドおよびsAPP―ベータペプチドのそれぞれの標準曲線を提示する。実際の判別し、定量化した非標識割合への標識された割合は、理論的な非標識割合への標識された割合に対して描かれる(CHO培地の既知の非標識ロイシンへの標識されたロイシンに基づく)。(A)sAPP―アルファペプチド。(B)sAPP―ベータペプチド。
【図10】は、CSF内で測定されたように、48時間にわたりヒト対象内で測定された、割合非標識可溶性APPイオンへの割合標識された可溶性APPイオンの比率の変化を描写する。(A)は、可溶性APPデータペプチドイオンを示す。(B)は、可溶性APPアルファペプチドイオンを示す。可溶性APPアルファおよび可溶性APPベータの産生速度およびクリアランス速度を、合計されたAPPアルファペプチドイオンまたはAPPデータペプチドイオンの産生速度およびクリアランス速度を算出することによって判別する。
【図11】は、アミロイドベータ29―40、アミロイドベータ29―42、アミロイドベータ29―38等の混合物からのアミロイドベータ29―40ペプチドの検出を図示する。アミロイドベータを、抗アミロイドベータ抗体を用いて免疫沈降し、およびトリプシンを用いて消化した。ペプチドはナノLCタンデムMSによって分析された。(A)アミロイドベータ29―40ペプチドのイオンクロマトグラフの抜粋。(B)各ペプチドの相当するMS2スペクトル。
【図12】は、ナノLCタンデムMSによるCSF内のAβイソ型特異的Lys―Nペプチドの検出を図示するグラフを描写する。若い一般的な対照参加者からのCSF(1mL)を、HJ5.1抗体を用いてRTで2時間インキュベートした。精製したAβを、イソ型特異的ペプチドを生成するため、Lys―Nを用いて消化し、それらはナノLCタンデムMSによって分析した。各イソ型特異的ペプチドの二重荷電イオンのイオンクロマトグラフの抜粋は、パネル内に示され、図12Aにおいて(A)は、消化の合計溶出プロファイルであり、(B)は、Aβ1−38であり、(C)は、Aβ1−40であり、(D)は、Aβ1−42である。図12Bにおいて、相当するMS2スペクタルは、下部のパネル内に表され、(E)は、Aβ1−38であり、(F)は、Aβ1−40であり、(G)は、Aβ1−42である。
【図13】は、13C標識されたAβ細胞培養培地から単離したAβイソ型特異的Lys―Nペプチドのそれぞれの標準曲線を図示するグラフを描写する。標識されたAβイソ型特異的Lys―Nペプチドおよび非標識Aβイソ型特異的Lys―Nペプチドを、タンデムMSによって検出し、非標識イオンへの標識イオンの比率から標識率(%)を算出した。(A)Aβ1−38。(B)Aβ1−40。(C)Aβ1−42。
【図14】は、ヒト対象内のAβの経時変化の産生およびクリアランスを図示するグラフを描写する。Aβ1−40およびAβ1−42の個別曲線はヒトCSFからの単一免疫沈降から得たデータに由来した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、中枢神経系(CNS)内の生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を同時に測定するための方法を提供する。特に、本発明は、1つの生体試料内の幾つかの対象となる生体分子またはタンパク質の幾つかのイソ型のインビボ産生速度およびクリアランス速度を判別するための方法を提供する。本発明の方法は、代謝が様々なイソ型において異なるか、また1つ以上のイソ型の代謝が経時変化するか、を判別するためCNS由来の生体分子またはタンパク質の幾つかの異なるイソ型の代謝を比較するために使用し得る。典型的には、対象となる生体分子またはタンパク質は、神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害に関与し、したがって、本方法は神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害の診断または進行の診断もしくは監視、またはその治療のために使用することができる。さらに、本方法は治療薬がCNS由来の生体分子またはタンパク質の幾つかの異なるイソ型のインビボ代謝に作用するか判別するために提供される。
【0009】
(I)幾つかのイソ型の代謝を同時に測定するための方法
本発明は、単一生体試料内でのCNS由来の生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を並行して測定するための方法を提供する。CNS由来の生体分子またはタンパク質は、神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害に関与し得る。特に、本方法は、対象となる生体分子またはタンパク質が、CNS内で産生されている際に、それらを標識すること、生体分子またはタンパク質の標識されたイソ型および非標識イソ型を含む生体試料を採取すること、および各イソ型の代謝が判別できるように各標識されたイソ型および非標識イソ型の量を定量化すること、を含む。この方法は対象となる生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型のそれぞれのCNS内の産生速度およびクリアランス速度等の代謝パラメータを算出するために使用し得る。
【0010】
(a)神経変性疾患
本発明の方法は、幾つかの神経および/または神経変性の疾患、障害またはプロセスに関与するCNS由来の生体分子またはタンパク質の幾つかの異なるイソ型の代謝を判別するために使用し得るということが、当業者に理解されるであろう。好適な疾患または障害の限定されない実施例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、前頭側頭型認知症(FTD)、ハンチントン病、進行性核上まひ(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、老化関連の障害および認知症、多発性硬化、プリオン病(例えば、クロイツフェルトヤコブ病、牛海綿状脳症、狂牛病およびスクレピー等)、レヴィー小体病、統合失調症、および筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)を含む。本発明の方法は、一般の生理学、代謝、およびCNSの機能を研究するために使用し得ることも想定される。
【0011】
CNS由来の生体分子またはタンパク質のイソ型のインビボ代謝を哺乳類の対象内で測定する。一実施形態において、対象は、イヌやネコ等のコンパニオン動物であり得る。別の実施形態において、対象は、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジまたはヤギ等の家畜動物であり得る。さらに別の実施形態で、対象は、動物園の動物であり得る。別の実施形態において、対象は人間以外の霊長類または齧歯動物等の研究動物であり得る。さらに別の実施形態において、対象はヒトであり得る。対象は、上記に列挙した神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害を患っているか、または患っていなくてもよく、あるいは以前に患っていた、または患っていなくてもよい。
【0012】
(b)CNS由来の生体分子またはタンパク質のイソ型
本発明は、CNS内で産生される生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型の代謝を測定するための方法を提供する。生体分子は、タンパク質、脂質、核酸または炭水化物であり得る。使用可能な生体分子は、インビボ産生またはプロセシングの間それらを標識する能力と、代謝が測定され得るものからの生体試料を採取する能力にのみ限定されている。例示的実施形態において、生体分子はタンパク質である。好適なタンパク質の限定されない実施例は、アミロイド―β(Aβ)、そのC末端変異体およびN末端変異体、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、アポリポタンパク質E(イソ型は、2つ、3つまたは4つ)、アポリポタンパク質J(クラスタリングタウとも呼ばれる(ADに関する別のタンパク質))、ホスホタウ、グリア原線維酸性タンパク質、アルファ―2、マクログロブリン、シヌクレイン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質(多発性硬化に関与する)、プリオン、インターロイキン、TDP―43、スーパーオキシドジスムターゼ―1、ハンチンチン、腫瘍壊死因子(TNF)、熱ショックタンパク90(HSP90)、およびこれらの組み合わせを含む。標的にされ得る追加の生体分子は、GABA作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロン、ヒスタミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、コリナージック作動性ニューロンおよびグルタミン作動性ニューロンの産生物、またはこれらと相互作用するタンパク質またはペプチドを含む。
【0013】
用語「イソ型」は、異なる型の生体分子またはタンパク質を指す。異なる型の生体分子またはタンパク質は、様々なプロセスまたは機序により産生し得る。生体分子がタンパク質である実施形態において、イソ型は、1つ以上のアミノ酸により配列が異なるタンパク質であり得る。例えば、タンパク質イソ型は、遺伝的対立遺伝子であり得る。代替として、タンパク質イソ型は、代替のスプライシング、RNAの編集、翻訳後プロセシング、および同等のものにおける産生物であり得る。下記に詳細に説明するように、このイソ型は無傷で分析することが可能であり、またそれらは「イソ型特異的断片」を生成するため、様々な型のタンパク質のエクスビボ切断を経て、検出されることが可能である。
【0014】
生体分子がタンパク質である他の実施形態において、イソ型は、プロテアーゼ活性によりインビボで生成される切断産物であり得る。好適なプロテアーゼの限定されない実施例は、アルファセクレターゼ、ベータセクレターゼおよび変異のガンマセクレターゼを包含する。代替として、切断産物はインビボで非プロテアーゼによっても生成され得る。好適な非プロテアーゼ切断系は、限定されないが、リソソーム酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、遊離基、および同等のものを含む。
【0015】
一つの好ましい実施形態において、タンパク質はアミロイド前駆体タンパク質(APP)であり得、APPのイソ型は可溶性APP―アルファおよび可溶性APP―ベータであり得、それらは、それぞれアルファセクレターゼおよびベータセクレターゼの切断産物である。別の好ましい実施形態において、タンパク質はアミロイドベータであり得、アミロイドベータのC末端イソ型は、アミロイドベータ1―37、アミロイドベータ1―38、アミロイドベータ1―39、アミロイドベータ1―40、アミロイドベータ1―41、アミロイドベータ1―42、および/またはアミロイドベータ1―43であり得る。さらに別の好ましい実施形態において、タンパク質はアポリポタンパク質E(ApoE)であり得、ApoEのイソ型はApoEの遺伝的イソ型のイソ型特異的断片であり得る(例えば、ApoE2、ApoE3、およびApoE4)。
【0016】
(c)標識部分
標識部分は、放射性同位体または非放射性(安定)同位体を含み得る。好ましい実施形態において、非放射性同位体を使用し、質量分析法によって測定し得る。好ましい安定同位体は、重水素(2H)、13C、15N、17O、18O、33S、34S、または36Sを包含する。しかし、一般的な天然型で見られるより多いか少ない中性子による原子の質量を変化する他の安定同位体の数もまた効果的であろうことが認識される。好適な標識は概して、質量分析計で検出し得るように、研究中のイソ型の断片の質量を変化するだろう。一実施形態において、測定される生体分子は核酸であり得、標識部分は、非放射性同位体を含むヌクレオシド三リン酸(例えば、15N)であり得る。別の実施形態において、測定される生体分子は、タンパク質であり得、標識部分は非放射性同位体を含むアミノ酸(例えば13C)であり得る。代替として、タンパク質は酢酸塩または好適な同位体を含むATP等の標識部分で翻訳後に標識され得る。
【0017】
好ましい実施形態において、本方法がタンパク質イソ型の代謝を測定するために用いられる場合、標識部分は、典型的にアミノ酸であるだろう。幾つかのアミノ酸が本発明の方法で使用され得るということが当業者に理解されるであろう。概して、アミノ酸の選択は、(1)少なくとも1つのアミノ酸の残留が、対象となるタンパク質の2つ以上のイソ型のそれぞれに存在している。(2)アミノ酸は概して、血液脳関門をわたって急速に平衡を保ち、タンパク質産生の位置に素早く到達することができる。実施例で明示したように、ロイシンはCNS内で産生されるタンパク質を標識するための好ましいアミノ酸である。(3)アミノ酸は理想的に、必須アミノ酸(体により産生されない)であり得、それにより高割合の標識が得られ得る。非必須アミノ酸もまた使用し得る。しかしながら、測定はより正確でなくなるであろう。(4)アミノ酸標識は概して対象となるタンパク質の代謝に影響しない(例えば、極多量のロイシンは筋肉代謝に作用し得る。)。(5)所望のアミノ酸の利用の可能性(すなわち、幾つかのアミノ酸の産生は他のアミノ酸の産生より多大な費用を必要とする)。等の様々な要因に基づいている。1つの好ましい実施形態において、標識されたアミノ酸、6つの13C原子を含有する13C6フェニルアラニンであり得る。別の好ましい実施形態において、標識されたアミノ酸は13C6ロイシンであり得る。異なる安定同位体を含む1つ以上の標識されたアミノ酸を、本発明の範囲から逸脱することなく同時または順に使用する、ということも想定される。
【0018】
標識されたアミノ酸、非放射性同位体および放射性同位体の双方の数々の商業的供給源がある。概して、標識されたアミノ酸を、生物学的または合成的のいずれかにより産生し得る。生物学的に産生されたアミノ酸は、13C、15N、または有機体がタンパク質を産生する際にアミノ酸に取り入れられる別の同位体の富栄養の混合物において成長する有機体(例えば、ケルプ/海藻)から得られ得る。アミノ酸を、次に分離し、精製する。代替として、アミノ酸は、既知の合成化学的なプロセスで作られ得る。
【0019】
(d)標識部分の投与
標識部分は、幾つかの方法により対象へ投与し得る。好適な投与の経路は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、または経口を含む。タンパク質が標識される好ましい実施形態において、標識部分は、アミノ酸であり得る。一実施形態において、標識されたアミノ酸は静脈内点滴によって投与し得る。別の実施形態において、標識されたアミノ酸は経口的に摂取し得る。
【0020】
好ましい実施形態において、標識部分を、1)ゆっくりと長期にわたって2)選択した分析の種類(例えば、定常状態またはボーラス投与/チェイス)に依る多量の単回投与で3)最初のポーラス投与の後ゆっくりと長期にわたって、投与し得る。標識された生体分子またはタンパク質の安定状態度を得るため、標識する時間は概して、十分な存続時間であるべきであり、それにより標識された生体分子またはタンパク質を確実に定量化する。一実施形態において、標識されたアミノ酸は標識されたロイシンであり、標識されたロイシンは、静脈内に投与され得る。標識されたロイシンを、約1時間〜約24時間の間静脈内に投与する。標識されたロイシンの投与の速度は、約0.5mg/kg/時〜約5mg/kg/時であり得、好ましくは、約1mg/kg/時〜約3mg/kg/時であり得、より好ましくは1.8mg/kg/時〜約2.5mg/kg/時であり得る。別の実施形態において、標識されたロイシンは、約50〜約500mg/kg(対象の体重)、約50〜約300mg/kg(対象の体重)または約100〜約300mg/kg(対象の体重)、をポーラス投与で投与し得る。さらに別の実施形態において、標識されたロイシンは約200mg/kg(対象の体重)をポーラス投与で投与し得る。代替の実施形態において、標識されたロイシンは、約0.5〜約10mg/kg(対象の体重)の間、約1〜約4mg/kg(対象の体重)の間、または約2mg/kg(対象の体重)の初期ポーラス投与の後、上記に詳しく説明されるように、静脈内に投与し得る。
【0021】
標識されたアミノ酸の量(または投与量)は、変化し得るということが当業者に理解されるであろう。概して、その量は下記の要因に依存する(また下記により推定される。)。(1)所望の分析の種類。例えば、血漿内の約15%の標識されたロイシンの安定状態を得るためには、10分間にわたる2mg/kgの最初のポーラス投与の後、9時間にわたる2mg/kg/時の投与が必要となる。対照的に、安定状態が必要とされない場合、標識されたロイシンの多量のポーラス投与(例えば、標識されたロイシンの1または5グラム)を、最初に与える。(2)分析中のタンパク質。例えば、タンパク質が急速に産生された場合、必要な標識時間は短くなり、必要な標識も少なくなる―おそらく、1時間で0.5mg/kgほど少なくなる。しかしながら、ほとんどのタンパク質は数時間〜数日間の半減期を有する。そのため、よりふさわしくは、4、9または12時間の持続点滴を、0.5mg/kg〜4mg/kgで使用し得る。(3)標識の検出の感度。例えば、標識検出の感度が増加するにつれて、必要とされる標識の量は減少し得る。
【0022】
1つ以上の標識されたアミノ酸が単一対象内で使用し得るということが当業者に理解されるであろう。これは、対象となるタンパク質の2つ以上のイソ型の多重標識を可能にし、異なる時間での各イソ型の代謝上の情報を提供し得る。例えば、第1の標識されたアミノ酸を、最初の期間にわたり対象へ与え、続いて治療薬を与え、次に第2の標識されたアミノ酸を投与し得る。概して、この対象から得られた生体試料の分析は、治療薬の投与前および投与後に、タンパク質イソ型のそれぞれの代謝の測定を提供し、それによって同対象内における治療薬の、薬力学的効果を直接的に測定する。代替として、多重の標識されたアミノ酸を、対象となるタンパク質の多重イソ型の標識を増加させるため、同時に対象へ投与し得る。
【0023】
(e)生体試料
本発明の方法は、生体試料が、対象となる生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を判別し得るように、対象から得ることを提供する。分析のため採取する対象となる標識されたイソ型および非標識イソ型を含む生体試料は、実施形態に依存して変化し得る。幾つかの実施形態において、生体試料は、体液であり得る。好適な体液は、限定されないが、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、全血、尿、唾液、汗、および涙を含む。他の実施形態において、生体試料はCNC組織、すなわち脳組織または脊髄組織、であり得る。概して、当業者は生体試料を既知の標準手順を用いて採取させるであろう。
【0024】
例えば、脳脊髄液は、CSFカテーテルを留置するまたは留置することなしに腰椎穿刺により得ることができる(長い期間をかけて多重採取が行われる場合、カテーテルが好ましい)。血液は、静脈内カテーテルを用いるまたは用いることなしに静脈穿刺により採取し得る。尿は、単純な尿採取によるか、またはより正確にはカテーテルを用いて採取し得る。唾液および涙は、標準の医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)の方法を用いて、直接採取により採取し得る。CNS組織は、組織検査、切開、または切除を経て得られてよく、または代替として、レーザーマイクロダイセクションを用いて得られてよい。対象は、所望のCNS試料および利用する対象に依存して、CNS組織試料を得るために犠牲を腹払わなければならない可能性がある。
【0025】
概して、本発明は、対象へ基準値を提供するため、第1の生体試料を、標識部分の投与の前に対象から取ることを典型的に提供する。標識部分の投与後、概して1つ以上の生体試料を対象から取るだろう。当業者は理解するだろうが、生体試料の数および取られる時期は、分析の種類、投与の種類、対象となるタンパク質、代謝の速度、判別の種類等の要因の数に依存する。
【0026】
一実施形態において、生体試料は(例えば、血液および/またはCSF)標識を開始した後、36時間、1時間に一度取ることが可能である。代替として、生体試料は1時間おきまたはさらに少ない頻度で取ることが可能である。概して、最初のわずかなタンパク質の半減期(例えば、アミロイドベータの標識を始めて約12時間後)の間に得た生体試料は、各イソ型の産生率を判別するために使用し、また標識が終了した後、タンパク質の幾つかの半減期に取った生体試料は(例えば、アミロイドベータの標識を始めて約24〜36時間後)、イソ型のそれぞれのクリアランス速度を判別するために使用し得る。別の代替において、1つの生体試料は、12時間等の一定の期間の標識の後、産生速度を推定するため取ることが可能である。しかし、これは多重の生体試料より正確でない可能性がある。さらに追加の代替において、生体試料は、タンパク質の産生速度およびクリアランス速度に依存して1時間〜数日にかけて、または数週おきにも取ることが可能である。
【0027】
(f)検出
本方法は、異なるイソ型のインビボ代謝を判別し得るように、対象となる生体分子またはタンパク質の各標識されたイソ型および各非標識イソ型の量を検出することを含む。非標識イソ型への標識されたイソ型の比率は、対象のCNS内のそのイソ型の代謝に直接的に正比例している。標識されたイソ型および非標識イソ型の検出のための好適な方法は対象となる生体分子またはタンパク質および対象となる生体分子またはタンパク質を標識するために使用した標識部分の種類に依存して変化し得る。
【0028】
好ましい実施形態において、質量分析法は生体分子またはタンパク質の標識されたイソ型と非標識イソ型の質量の違いを検出するため使用し得る。一実施形態において、ガスクロマトグラフィー質量分析法が標識されたイソ型および非標識イソ型の量を検出するために使用し得る。代替の実施形態において、MALDI―TOF質量分析法を標識されたイソ型および非標識イソ型を検出するために使用し得る。好ましい実施形態において、高分解能タンデム質量分析法を、標識されたイソ型および非標識イソ型を検出するために使用し得る。
【0029】
例示的な実施形態において、生体分子はタンパク質であり、タンパク質の異なるイソ型は質量分析法により検出される。インビボで生成された切断産物に相当するイソ型はその状態のまま検出し得るか、または検出のため、より小さなペプチドを生成するため、質量分析法によりインビトロでさらに消化し得る、ということが当業者に理解されるであろう。異なるタンパク質の種類に相当するイソ型(すなわち、遺伝的対立遺伝子、転写後の、翻訳の、翻訳後の過程)は、概して、検出のためイソ型特異的断片を生成するため質量分析法によってエクスビボで消化する。「イソ型特異的断片」は、典型的に対象となるタンパク質を単離すること(下記に示す)および好適なプロテアーゼ(実施例1に詳しく説明される)を用いてそれらを消化することにより生成される。イソ型特異的断片を生成するために使用し得る、好適なプロテアーゼの限定されない実施例は、トリプシン、キモトリプシン、エンドペプチダーゼArg―C、エンドペプチダーゼLys―CおよびエンドペプチダーゼGlu―Cを含む。
【0030】
追加の技術は、検出および分析の前に生体試料内の他の生体分子から生体分子またはタンパク質のイソ型を単離するために使用し得る。例として、標識されたイソ型および非標識イソ型を特異抗体を用いて免疫沈降により単離し、精製することができる。別の実施形態において、標識されたイソ型および非標識イソ型は誘導体化高分子への吸着によって単離し、精製し得る。例えば、高分子を、対象となるイソ型へ特異的である抗体で抱合するか、または、高分子をイソ型を結合する別の基質で抱合し得る。代替として、高分子は脂肪オキシエチル化アルコール(fat oxyethylized alcohol)(Calbiochem社により生産されるPHM―Liposorb(商標)、San Diego,CA等)で、高分子がリポタンパクを結合するように誘導体化されるポリヒドロキシメチレン高分子であり得る。さらに、イソ型はまた液体クロマトグラフィーによっても単離および/または分離し得る。例えば、実施例で示されるように、クロマトグラフィー設定を有する質量分析計を使用して、イソ型を単離および分離し、次に、質量分析に供することができる。
【0031】
一例示的実施形態において、イソ型を、免疫沈降し、小さめのペプチドに消化し、次にエレクトロスプレーイオン源を備えるタンデムMS装置と連動する液体クロマトグラフィーシステムによって分析し得る(LC―ESIタンデムMS)。別の例示的実施形態において、対象となるイソ型は、誘導体化されたPHMマトリクスへの吸着によって単離し、小さめのペプチド(またはイソ型特異的断片)へ消化し、次にエレクトロスプレーイオン源を備えるタンデムMS装置と連動する液体クロマトグラフィーシステムによって分析し得る(LC-ESIタンデムMS)。
【0032】
(g)分析
一度生体試料内で2つ以上の標識されたイソ型および非標識イソ型の量を検出すると、各標識されたイソ型の割合の比率を判別し得る。各イソ型の代謝(産生速度、クリアランス速度、遅延時間、半減期等)は、経時的な非標識イソ型への標識されたイソ型の比率から算出し得る。これらのパラメータを算出する多くの好適な方法がある。
【0033】
本発明の方法は、各イソ型のため非標識イソ型への標識されたイソ型の比率を算出し得るように、同生体試料内で同時に標識されたイソ型および非標識イソ型のそれぞれの量の測定を可能にする。当業者は、本発明の方法に使用し得る一次速度則型の標識に精通しているであろう。例えば、各イソ型の分画合成率(FSR)を算出し得る。FSRは、前駆体濃縮により分裂された非標識イソ型への標識されたイソ型の増加の最初の割合と等しくなる。同様に、各イソ型の分画クリアランス率(FCR)を算出し得る。加えて、他のパラメータ(例えば、絶対的な産生速度、絶対的なクリアランス速度、新規に生成された生体分子の濃度曲線下面積分析、遅延時間、および同位体トレーサ安定状態等)を、各イソ型のため判別し得、およびイソ型の代謝および生理学における指標として使用し得る。また、コンパートメント間の移動を推定するため多重のコンパートメントモデルを適合するため、データのモデリングが実施し得る。当然、選ばれた数学モデリングの種類は、個別のタンパク質産生パラメータおよびクリアランスパラメータに依存するであろう(例えば、1回のプール、多重のプール、安定状態、非安定状態、コンパートメントモデリング等)。
【0034】
本発明は、対象となるイソ型の産生は典型的に標識された/非標識イソ型の割合の経時的な増加率に基づく(すなわち、勾配、指数適合曲線またはコンパートメントモデルは産生率を画定する)。これらの算出において、典型的に、最小でも1つの生体試料を必要とし(1つで、基本の標識が推定され得る)、2つが好ましく、生体分子またはタンパク質への標識の取り込みの正確な曲線を算出するため、多重の生体試料はより好ましい(すなわち、産生速度)。逆に、標識の投与が終了した後、非標識イソ型への標識されたイソ型の割合の減少率は、典型的にそのイソ型のクリアランス速度に反映する。これらの算出では、典型的に、最小でも1つの生体試料を必要とし(1つで、基本の標識が推定され得る)、2つが好ましく、経時的な生体試料またはタンパク質からの標識の減少の正確な曲線を算出するため、多重の生体試料がより好ましい(すなわち、クリアランス速度)。所与の時間で生体試料内の各標識されたイソ型の量は、産生速度またはクリアランス速度(すなわち、除去または破壊)に反映し、その量は大抵、対象内のイソ型の1時間におけるパーセントまたは質量/時間(例えば、mg/時)として発現する。
【0035】
(h)応用
本発明の方法は、対象となる生体分子またはタンパク質の2つ以上のイソ型のインビボ代謝において違いがあるか否かを判別するために使用し得る。1つのイソ型における産生率またはクリアランス率は、対象となる他のイソ型の産生率およびクリアランス率と異なる可能性がある。さらに、本発明の方法は対象となる1つ以上のイソ型のインビボ代謝が経時変化するか否かを判別するために使用し得る。このような情報は、当業者に、神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害の診断または進行の診断もしくは監視、またはその治療を可能にし得る。同様に、このような情報は疾患または障害に関する病院学および/または病態生理学の理解を容易にし得る。
【0036】
加えて、本方法は、様々なイソ型に異なって作用するように作られた治療薬治療法の効果を判別するために使用し得る。例えば、ガンマセクレターゼ変調器は、アミロイドベータ1―38イソ型を増加させる一方で、アミロイドベータ1―42イソ型を減少させるように設計し得る。本発明の方法は、アミロイドベータイソ型の産生速度およびクリアランス速度の双方を測定し、同試料および実験における双方のイソ型に対応する特定の治療法を同定し得る。この発明は、同実験からの同生体試料におけるイソ型の直接比較を可能にする。これは異なる実験的な状況を照合し、対照および実験の条件間の仮定の必要性を取り除く。このように、実験における生物学的および実験的可変性を減少させる。加えて、この発明はまた、各試料調製において1つ以上のイソ型を測定することにより、試料調製の数もまた減少する。また、この発明は、全てのタンパク質イソ型が共に採取され得、またLC―MSが次に全てのイソ型を共に分析し得るように、各タンパク質イソ型への特定の精製または特異抗体の必要性を減らす。これは各イソ型の特異抗体を成長させるための時間、試料精製時間および質量分析法の分析時間に相当な還元をもたらす。より多くのイソ型が分析されるにつれ、より多くの時間および資源の節約がなされるだろう。
【0037】
(II)治療薬が、タンパク質の2つ以上の断片における代謝に作用するか否かを判別する方法
本発明の別の態様は、神経あるいは神経変性の疾患または障害を治療するために使用される治療薬が対象のCNS内で産生される生体分子またはタンパク質における様々なイソ型の任意の代謝に作用するか否かを評価するための方法を提供する。例えば、各イソ型の代謝は、特定の治療法が、所与のイソ型における産生の増加、産生の減少、クリアランスの増加またはクリアランスの減少をもたらすか否かを判別するためそれぞれの断片を通して測定し得る。従って、この方法の使用は、当業者が、対象となるイソ型の改変した産生またはクリアランスの程度を正確に判別し、またこれらの測定を治療の臨床転帰と相関することを可能にするであろう。この方法からの結果は、故に、治療薬の至適用量および投薬回数の判別を助け、臨床試験の様式に関する意志決定を補助し、最終的に神経または神経変性疾患の治療における効果的な治療薬の検証を速め得る。
【0038】
本方法は治療薬および標識部分を対象へ投与することを含み、標識は、CNSで産生される際に、生体分子またはタンパク質へ取り入れられる。一実施形態において、治療薬は標識部分の投与の前に対象へ投与し得る。別の実施形態において、標識部分は、治療薬の投与の前に対象へ投与し得る。各投与間の時間は数分、1時間、数時間または長時間であり得る。さらに別の実施形態において、治療薬および標識部分は同時に投与し得る。本方法は対象となる生体分子またはタンパク質の標識されたイソ型および非標識イソ型を含む、少なくとも1つの生体試料を採取すること、各イソ型の代謝を判別するため標識されたイソ型および非標識イソ型の量を検出すること、および治療薬が対象のCNS内の特定のイソ型の産生率またはクリアランス率を改変するか否かを判別するため、各イソ型の代謝と好適な対照値を比較すること、をさらに含む。
【0039】
神経変性疾患、生体分子またはタンパク質のイソ型、標識部分、標識部分の投与の経路、生物試料、検出方法、および分析方法の限定されない実施例は、それぞれ上記の(l)(a)、(l)(b)、(l)(c)、(l)(d)、(l)(e)、(l)(f)、および(l)(g)に詳細に説明される。
【0040】
(a)治療薬
治療薬は、治療される神経もしくは神経変性の疾患あるいは障害および/または代謝が、分析されているイソ型に依存して変化し得るということが当業者に理解されるであろう。イソ型が可溶性APP―アルファ、可溶性APP―ベータまたはアミロイドベータ(Aβ)ペプチドを包含する実施形態において、好適な治療薬の限定されない実施例は、ガンマセクレターゼ阻害剤、ガンマセクレターゼ変調器、ベータセクレターゼ阻害剤、アルファセクレターゼ活性剤、RAGE阻害剤、Aβ産生の小分子阻害剤、Aβ重合の小分子阻害剤、Aβ産生の白金を中心とした阻害剤、重合の白金を中心とした阻害剤、金属タンパク相互作用を妨げる薬剤、可溶性Aβを結合するタンパク質(例えば、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)または可溶性LRP等)および可溶性Aβを除去し、および/または沈着したAβを分解する抗体を含む。アルツハイマー病に治療に使用する他の治療薬は、コレステリルエステル転送タンパク(CETP)阻害剤、金属プロテアーゼ阻害剤、コリンエステラーゼ阻害剤、NMDA受容体拮抗薬、ホルモン、神経保護薬および細胞死阻害剤を含む。上記の多くの治療薬は、神経変性障害に関与する他のタンパク質のインビボ代謝にも作用し得る。タウおよびタウイソ型の代謝に作用し得る追加の治療薬は、例えば、タウキナーゼ阻害剤、タウ凝集阻害剤、カテプシンD阻害剤等を包含する。さらに、治療薬は、サーチュイン2阻害剤、シヌクレイン凝集阻害剤、プロテアソーム阻害剤等を包含する、シヌクレインおよびシヌクレインイソ型のインビボ代謝に作用し得る。様々な異なる治療薬が本発明の方法で使用し得るということが当業者に理解されるであろう。
【0041】
治療薬は、既知の方法に従って、対象へ投与し得る。典型的に、治療薬は経口的に投与するだろうが、非経口または局所投与等の他の投与の経路もまた利用し得る。対象へ投与される治療薬の量は、薬剤の種類、対象および投与の特定の様式次第で変化し得る。投与量はGoodman&GoldmansのThe Pharmacological Basis of Therapeutics,Tenth Edition(2001)、AppendixII,pp475−493および米医薬品便覧(Physicians’Desk Reference)からの指導を用いて判別され得るということが当業者に理解されるであろう。
【0042】
(b)対照値
概して、対照値は、治療薬投与の前に同対象内の対象となる特定のイソ型のインビボ代謝、治療薬により異なって作用すると予測される対照イソ型のインビボ代謝、または治療薬を投与されていない異なる対象のインビボ代謝を指す。試験対象と対照対象の違いは、概して、治療薬が対象となる特定のイソ型の産生率またはクリアランス率に作用するか否かを明らかにするであろう。治療薬を、この情報が、どの対象が特定の治療薬に対応するかを予測するために使用し得るように、対象となる1つのイソ型の代謝を異なるように改変し得る。さらに、この情報は、特定の治療薬の投与における適正量および適時を判別するために使用し得る。
定義
【0043】
指定されない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、この発明が属する当業者により共通に理解される意味を有する。下記の参考は、当業者に、本発明において使用される多くの用語についての一般的定義を提供する。:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al(eds),Springer Verlag(1991);Hale&Marham,The Harper Collins Dictonary of Biology(1991)本明細書に使用されるように、下記の用語は、特に指定がない限り、これらに帰する意味を有する。
【0044】
「Aβ」はアミロイドベータを指す。
【0045】
「クリアランス速度」は生体分子またはそのイソ型を除去した速度を指す。
【0046】
「CNS試料」は、CNS組織またはCNS液に由来する生体試料を指す。「CNS組織」は、血液脳関門内の全ての組織を含む。同様に「CNS液」は血液脳関門内の全ての液を含む。
【0047】
「CNS由来の細胞」は、ニューロン、星状膠細胞、小膠細胞、脈絡叢細胞、上衣細胞、他の膠細胞等を包含する、血液脳関門内の全ての細胞を含む。
【0048】
「分画クリアランス率」またはFCRは、特定の期間にわたる標識された生体分子またはイソ型の比率における自然対数として算出する。
【0049】
「分画合成率」またはFSRは、標識された前駆体の予測安定状態値により導出された特定の期間にわたる生体分子またはそのイソ型の増加比率の勾配として算出する。
【0050】
「イソ型」は、生体分子またはタンパク質の任意の代替の型を指し、タンパク質のイソ型は、次の限定されない機序により生成し得る。産生物への異なる遺伝的対立遺伝子または複製物、転写の間の改変したプロセシング、翻訳後修飾、産生後修飾、内因性のプロセシング、または内因性切断。
【0051】
「同位体」は、異なる中性子数を含有するため所与の成分の神経核が同じ原子番号を有し、しかし、異なる質量番号を有する、全ての型を指す。限定されない実施例として、12Cおよび13Cは双方とも炭素の安定同位体である。
【0052】
「遅延時間」は、概して生体分子またはそのイソ型を最初に標識してから標識された生体分子またはそのイソ型を検出するまでの時間の遅れを指す。
【0053】
「代謝」は、生体分子またはそのイソ型の産生、輸送、分解、修飾、またはクリアランス速度の任意の組み合わせを指す。
【0054】
「産生速度」は、生体分子またはそのイソ型が産生される速度を指す。
【0055】
「安定状態」は、特定の期間にわたって測定されたパラメータで、わずかな変化がある間の状態を指す。
【0056】
代謝のトレーサ研究において、「安定同位体」は、最も多量の自然に発生する同位体よりも少ない非放射性同位体である。
【0057】
本明細書で使用される「対象」は、中枢神経系を有する生命有機体を意味する。特に、対象は、哺乳類であり得る。好適な対象は、研究動物、コンパニオン動物、家畜動物、および動物園の動物を含む。
【0058】
本明細書で開示され、請求される全ての方法は、当開示をふまえると、過度の実験なしに実施され、遂行され得る。この発明の方法が、好ましい実施形態の関点から説明されているのに対し、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本方法またはそのステップまたは本明細書で説明される方法の一連の工程に変化を加えることが可能である、ということは当業者に明らかであろう。より具体的には、化学的および生理学的の双方にて関連する幾つかの薬剤は、同じまたは類似の結果が得られるうちは本明細書で説明される薬剤に代わって代用し得る、とうことは明らかであろう。当業者にとって明らかであるこのような類似の代用品および修正の全ては請求項により画定されるように本発明の精神、範囲、概念にとどまると見なされる。
【実施例】
【0059】
次の実施例は好ましい実施形態を明示するため含有される。次の実施例で開示されている技術は、本発明の実践で満足に機能するため、発明者らによって開発された技術を説明し、よってその実践のために好ましい様式を構成するため考慮され得る、ということが当業者に理解されるだろう。しかしながら、本発明の開示の関点において、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている実施形態での変更で、未然として同様または類似の結果が得られる特有の実施形態において多くの変更がなされ得る。
【0060】
実施例1:アポリポタンパク質Eイソ型安定同位体標識動態
アポリタンパク質E(ApoE)は、アルツハイマー病の主な危険因子である。ヒトはApoEをもたらす3つの主な対立遺伝子を有する。ApoE2(cys112,cys158)、ApoE3(cys112,cys158)、およびApoE4(arg112,arg158)。次の実施例は安定同位体標識タンデム質量分析法を用いて、同試料内の異なるApoEイソ型の同時検出および定量化のための方法を明示する。
【0061】
ApoEの源は、13C標識および非標識生体試料であった。標識されたおよび非標識ヒトCSF試料は進行しているインビボの安定同位体標識研究から得た。星状膠細胞培地は、不死化されたヒトApoE2またはApoE4を発現するノックインマウスに由来するマウス星状膠細胞から採取した。細胞は培養基を含有する血清内でほぼ培養密度まで成長し、その際培地は0、1.25、2.5、5、10、または20%の13C6―ロイシン(98%13C6Cambridge Isotpe Laboratories,Andover,MA)を24時間補充された無血清培地へ変更した。
【0062】
ApoEは、CNBr活性化セファロースビーズに結合する抗ApoE抗体(WUE4)を用いて一晩のインキュベーションか、またはPHM―Liposorb(商標)(Calbiochem社、San Diego,CA)を用いた30分間(4℃)のインキュベーションかのいずれかによって単離した。ビーズをPBSおよび100mMトリス、pH8.5を用いて洗浄した。結合ApoEタンパク質をトリフルオロエタノールを用いて変性した(40%の25mMトリアンモニウム炭酸水素)。変性後、ApoEタンパク質を30分間、室温で5mMジチオスレイトール(DTT)を用いて減少し、また30分間、室温で、暗所で、ヨートアセトミド(IAM)を用いてアルキル化した。試料をビーズ上で37℃の0.5μgのトリプシンを用いて、一晩で消化した。Nu―tip carbon tips(Glygen Corp社、コロンビア、メリーランド州)を用いて脱塩後、ApoEペプチドを含有する上清は、上記に説明されたように、ナノLCタンデムMS(New Objective nanoflow ESI sourceを備えるThermo-Finnigan LTQ)によって分析した(Bateman et al.,2006,Nature Medicine,12;856―861)。試料は、安定同位体タンデム標識(SILT)質量分光法を用いてBateman et al.2007 J Am Soc Mass Spectrum18(6):007―1006により説明されるように定量化した。標識イオン質量は、任意の特定の前駆体の荷電(すなわち、それぞれ、+1、+21、+3、または+4)に依存して、6、3、2、または1.5m/zの間を推移するだろう。標識されたApoEの割合を、非標識ペプチドへの標識されたペプチドの全てのb―およびy―イオンの比率を用いて算出した。
【0063】
4つの同位体特異ApoEペプチドを検出した(表1を参照)。ApoE2およびApoE4培地は、共にプールした時、4つのイソ型特異ペプチドの全てを産出した(図1)。同様に、4つのペプチド全てを異なる2つのイソ型を発現するヘテロ接合個体からCSF内で検出した(図2)。図1および2で検出されたApoEペプチドはLiposorbへ吸着することによって単離したApoEタンパク質から生成された。図3は、免疫沈降によって単離したApoEタンパク質から生成したApoE3ペプチドの検出を図示する。4つのApoEペプチドの全ては、非標識ペプチドへの標識されたペプチドの観察された割合対予測された割合に関して、1−20%、13C標識される領域にわたり強い線形相関を示した(図4)。これらのデータはこれらのイソ型特異ペプチドの検出は、堅固で定量化のため再現可能であるということを示す。
【0064】
【表1】

【0065】
ApoE特異イソ型の代謝は、Bateman et al.2006,Nature Med12(7):856―861により詳細のように検出された。不死化されたノックインマウス星状膠細胞内のヒトApoE4の分画合成率(FSR)は図5に提示される。FSRは、最初の勾配およびプラトートレーサ/トレイシー比(TTR)を用いて算出した。
【0066】
この実施例で提示されるデータは、ApoEの4つの異なるイソ型特異ペプチドを、1つの試料内で同時に単離し、検出し、および定量化し得るということを明らかにする。
【0067】
実施例2:ヒト中枢神経系内での可溶性APP-アルファおよび可溶性APP-ベータの定量化
アルツハイマー病において、タンパク質アミロイド前駆体タンパク質(APP)は、疾患の病変形成において中心的役割を有する。アミロイドベータ(Aβ)は、APPの1つの産生物であり、アミロイド斑の主成分であって、アミロイド斑は、アルツハイマー病の特徴である。加えて、他のAPPの代謝産物は、それぞれ、アルファ―セクレターゼ経路およびベータ―セクレターゼの産生物である可溶性APP(sAPP)―アルファおよびsAPP―ベータを含む。ベータ―セクレターゼおよびガンマ―セクレターゼを用いたAPPの消化はAβを産生する。よって、ベータ―セクレターゼ経路はAβを生成し、それはアミロイド形成的経路である。従ってベータ―セクレターゼ経路はアルツハイマー病の抑制のため重要なターゲットである。アルファ―セクレターゼ経路での活性の増加(すなわち、非アミロイド形成的経路)も、アルツハイマー病の潜在的な治療としてターゲットとされている。次の実施例は、インビボでAPPのアルファ―セクレターゼ経路およびベータ―セクレターゼ経路を定量化し得る方法について詳細に説明する。
【0068】
本方法は、APPをアルファ―セクレターゼ、またはベータ―セクレターゼおよびガンマ―セクレターゼによって、継続的に切断した後、2つのタンパク質産物の産生速度およびクリアランス速度の測定を可能にする(sAPP―アルファおよびsAPP―ベータ)。この切断は、どの経路をAPPがとるのか、それがsAPP―アルファになるのか否か、どれが神経保護であるように示されているか、または、それがガンマ―セクレターゼによって切断するためアミロイド―ベータ産生の最終結果を用いてsAPP―ベータを産生し、膜結合型のAPPC末端断片を露呈するであろう経路を下りていくのか否かを判別する。
【0069】
APPは、13C6―ロイシンを用いて、0−9時間のヒト参加者への投与により標識された(Bateman et al.,2006 supra)。CSF試料を、腰椎穿刺により36時間または48時間の時間経過で毎時採取した。加えて、標識のない(0%)2つのヒトCSF試料を準備した。CHO細胞もまた0、1.25、2.5、5、10または20%の13C6―ロイシンを用いてインキュベートされ、試料は適切な時間で取った。APPは、抗体8E5(Eli Lilly)を用いて免疫沈降し、抗体8E5は、APP―アルファまたはAPP―ベータに特異的でなく、しかし概してAPPを結合する。APP試料は、エンドプロテアーゼArgCまたはトリプシンによって消化した。結果のペプチドは、上記に詳しく説明されたようにナノLCタンデムMSによって分析した。標識イオン質量は、任意の特定の前駆体の荷電(それぞれ、+1、+2、+3、または+4)に依存して、6、3、2、または1.5m/zの間を推移した。これらのデータから、任意の所与の試料の標識の標識率を判別した。
【0070】
消化上で、APP特異ペプチドは、sAPP―アルファ(C末端またはC短)PGSGLTNIKTEEISEVKMDAEFR(SEQ ID NO:5)およびsAPP―ベータ(C末端またはC短)はPGSGLTNIKTEEISEVKM(SEQ ID NO:6)であった。これらの2つのペプチドを、急速に分離し単一生体試料から定量化した。標識されたおよび非標識sAPP―アルファペプチド信号およびsAPP―ベータペプチド信号は検出閾値を上まわり、すなわち、それぞれ培地内で非標識ロイシンへの標識されたロイシンの標識率(%)信頼性のある解読を産生した。よって、幾つかの標準曲線は、LC―MS結果を用いて描いた。
【0071】
図7および図8は、それぞれ20%のロイシン標識のCHO培地試料でのsAPP―ベータおよびsAPP―アルファの検出を提示する。非標識ペプチドへの標識されたペプチドの理論的割合と、非標識ペプチドへの標識されたペプチド実際の割合を比較する標準曲線は、各ペプチドの直線関係(図9)を示す。
【0072】
APP特異ペプチドをCSF内で検出し、合計sAPPの分画合成率(FSR)および分画クリアランス率(FCR)を判別した。FSR(勾配/前駆体)は1時間あたり3.9%でありFCR(勾配)は1時間あたり4.7%であった(データ図示せず)。sAPPのFSRおよびFCRはアミロイドベータの相当する率の略半分であった。
【0073】
図10の(A)および(B)はCSF内で48時間にわたって測定した際の、ヒト対象内の割合非標識可溶性APPアルファ(図10(B))およびベータ(図10(A))への割合標識された可溶性APPアルファおよびベータの比率の変化を掲示する。可溶性APPアルファおよび可溶性APPベータ産生速度およびクリアランス速度を、合計されたAPPアルファペプチドイオンまたはAPPベータペプチドイオンの産生速度およびクリアランス速度を算出することによって判別する。
【0074】
これらのデータはAPPの2つの異なる消化産物が1つの生体試料内で同時に検出され、定量化され得るということを明示する。
【0075】
実施例3:アミロイドベータイソ型の同時検出および定量化
アミロイドベータ(Aβ)はガンマ―セクレターゼおよびベータ―セクレターゼでの消化によりAPPから生成される。幾つかの異なるAβの型はC末端先端で異なって存続する(例えば、Aβ1−38、Aβ1−40、およびAβ1−42)。Aβのこれらの各イソ型の代謝の理解は、アルツハイマー病の病態生理学への病識を提供し得、また選択的にAβ1−42を減少すること、またはAβ1−38または小さめの種を増加することはアルツハイマー病の治療において有用であるだろうと信じられるように、治療薬の開発に極めて有益であり得る。
【0076】
ペプチターゼを用いたAβの消化は独特なC末端および、潜在的にN末端ペプチドを包含する、独特のペプチドを生成するだろう。例えば、Aβをトリプシンを用いて消化した時、Aβ29−38のC末端ペプチド配列は、GAIGLMVGG(SEQ IS NO:7)であり、Aβ29−40のC末端ペプチド配列はGAIIGLMVGGVV(SEQ IS NO:8)、およびAβ29−42のC末端ペプチド配列は、GAIIGLMVGGVVIA(SEQ IS NO:9)である。
【0077】
標識されたおよび非標識Aβは、上記に詳しく説明されるようにCSFおよび細胞培地から単離し得る。AβはN末端または中間領域結合抗体によって免疫沈降し、次にトリプシンを用いて消化し得る(または他のペプチターゼ)。例えば、AβをHJ5.1抗Aβ抗体(中間領域)および消化されたトリプシンを用いて培地から免疫沈降した。結果のペプチド(Aβ29−40)は上記に詳しく説明されるようにナノLCタンデムMSによって分析した。結果は図11に提示される。加えて、2つ以上の異なるC末端AβペプチドをXbridgeC8(WatersCorporation社)液体クロマトグラフィーカラム上でまた質量分析法を用いて異なる質量により分離した。代替として、Aβを図12−14に図示されるように、Lys―Nを用いて消化し、次に分析し得る。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の中枢神経系で産生される生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝を同時に測定するための方法であって、前記方法は、
a)前記対象へ、前記生体分子が前記対象内で産生される際に前記生体分子へ取り入れられる標識部分を投与することと、
b)前記対象から、前記標識部分を有する第1の生体分子画分と、前記非標識部分を有する第2の生体分子画分とを含み、前記第1の生体分子画分は、前記生体分子の2つ以上の標識されたイソ型を含み、前記第2の生体分子画分は、前記生体分子の2つ以上の非標識イソ型を含む、生体試料を得ることと、
c)各標識されたイソ型の量および各非標識イソ型の量を検出することであって、特定のイソ型における標識されたイソ型と非標識イソ型との比率は、前記対象における前記特定のイソ型の代謝に正比例する、
を含む、方法。
【請求項2】
前記生体分子はタンパク質であって、前記タンパク質の前記2つ以上のイソ型は、プロテアーゼ活性によりインビボで生成される切断断片、非プロテアーゼ活性によってインビボで生成される切断断片、前記タンパク質の遺伝的対立遺伝子、RNAプロセシング産物、および翻訳後産物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝的対立遺伝子、前記RNAプロセシング産物、および前記翻訳後産物は、プロテアーゼ活性によりエクスビボで生成されるイソ型特異的断片として、ステップ(c)で検出される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質は、アミロイドベータ、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、TDP―43、ハンチンチン、プログラニュリン、アルファ―2マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、およびTNFからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記標識部分は、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34S、および36Sからなる群から選択される非放射性同位体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記標識部分は、13Cを含むアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標識部分は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、および経口からなる群から選択される経路によって前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生体試料は、脳脊髄液、血液、尿、唾液、涙、脳組織、および脊髄組織からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料から、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型を単離することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記標識された断片および前記非標識断片は、免疫沈降、誘導体化高分子への吸着、液体クロマトグラフィー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって、前記生体試料から単離される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
各標識されたイソ型の量および各非標識イソ型の量は、質量分析法により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記生体分子はタンパク質であり、前記標識部分は、13C6―ロイシンであり、前記タンパク質は、アポリポタンパク質E(ApoE)であり、ApoEは、免疫沈降または誘導体化ポリヒドロキシメチレン高分子への吸着によって前記生体試料から単離され、検出される前記イソ型は、ApoEのエクスビボ切断により生成されるApoEイソ型特異的断片であり、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は、質量分析法により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生体分子はタンパク質であり、前記標識部分は、13C6―ロイシンであり、前記タンパク質は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)であり、前記イソ型は、可溶性APP―アルファおよび可溶性APP―ベータであり、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は免疫沈降により前記試料から単離され、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は質量分析法により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生体分子はタンパク質であり、前記標識部分は、13C6―ロイシンであり、前記タンパク質は、アミロイドベータであり、前記イソ型は、アミロイドベータ1−38、アミロイドベータ1−39、アミロイドベータ1−40、アミロイドベータ1−41、およびアミロイドベータ1−42からなる群から選択され、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は免疫沈降により前記試料から単離され、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は質量分析法により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
治療薬が、対象の中枢神経系で産生される生体分子の2つ以上のイソ型のインビボ代謝に作用するか否かを判別するための方法であって、前記方法は、
a)前記対象へ前記治療薬を投与することと、
b)前記対象へ、前記生体分子が前記対象内で産生される際に前記生体分子へ取り入れられる標識部分を投与することと、
c)前記対象から、前記標識部分を有する第1の生体分子画分と、前記非標識部分を有する第2の生体分子画分とを含み、前記第1の生体分子画分は、前記生体分子の2つ以上の標識されたイソ型を含み、前記第2の生体分子画分は、前記生体分子の2つ以上の非標識イソ型を含む、生体試料を得ることと、
d)前記生体試料中の各標識されたイソ型の量および各非標識イソ型の量を検出することであって、特定のイソ型における標識されたイソ型と非標識イソ型の比率は、前記対象における前記特定のイソ型の代謝に正比例し、
e)特定のイソ型における前記対照値からの変化は、前記治療薬が、前記対象の中枢神経系で前記特定のイソ型の代謝に作用することを示すようにするように、好適な対照値と各イソ型の代謝を比較することと、
を含む、方法。
【請求項16】
ステップ(b)は、ステップ(a)の前に実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記生体分子はタンパク質であり、前記タンパク質の前記2つ以上のイソ型は、プロテアーゼ活性によりインビボで生成される切断断片、非プロテアーゼ活性によりインビボで生成される切断断片、前記タンパク質の遺伝的対立遺伝子、RNAプロセシング産物、および翻訳後産物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝的対立遺伝子、RNAプロセシング産物、および翻訳後産物は、プロテアーゼ活性によりエクスビボで生成されるイソ型特異的断片として、ステップ(d)で検出される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質は、アミロイドベータ、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、TDP―43、ハンチンチン、プログラニュリン、アルファ―2、マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、およびTNFからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記標識部分は、2H、13C、15N、17O、18O、33S、34S、および36Sからなる群から選択される非放射性同位体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記標識部分は、13Cを含むアミノ酸である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記標識部分は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、および経口からなる群から選択される経路によって前記対象に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、および経口からなる群から選択される経路によって前記対象に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記生体試料は、脳脊髄液、血液、尿、唾液、涙、脳組織、および脊髄組織とからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記好適な対照値は、前記治療薬投与前の前記同対象、前記治療薬を投与されていない対照対象、および対照イソ型からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記生体試料から前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型を単離することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は、免疫沈降、誘導体化高分子への吸着、液体クロマトグラフィー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって、前記生体試料から単離される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
各標識されたイソ型の量および各非標識イソ型の量は、質量分析法により検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項29】
前記生体分子はタンパク質であり、前記標識部分は13C6―ロイシンであり、前記タンパク質はアポリポタンパク質E(ApoE)であり、ApoEは免疫沈降または誘導体化ポリヒドロキシメチレン高分子への吸着によって前記生体試料から単離され、検出される前記イソ型は、ApoEのエクスビボ切断により生成されるApoEイソ型特異的断片であり、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は、質量分析法により検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
前記生体分子はタンパク質であり、前記標識部分は13C6―ロイシンであり、前記タンパク質はアミロイド前駆体タンパク質(APP)であり、前記イソ型は可溶性APP―アルファおよび可溶性APP―ベータであり、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は免疫沈降により前記試料から単離され、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は質量分析法により検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項31】
前記生体分子はタンパク質であり、前記タンパク質はアミロイドベータであり、前記標識部分は13C6―ロイシンであり、前記イソ型は、アミロイドベータ1−38、アミロイドベータ1−39、アミロイドベータ1−40、アミロイドベータ1−41、およびアミロイドベータ1−42からなる群から選択され、前記標識されたイソ型および前記非標識イソ型は、免疫沈降により前記試料から単離され、前記標識されたイソ型および非標識イソ型は質量分析法により検出される、請求項15に記載の方法。

【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【公表番号】特表2012−508886(P2012−508886A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536454(P2011−536454)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/064146
【国際公開番号】WO2010/056815
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(511115963)ザ ワシントン ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】