生体分子のインビトロ合成用の供給バッファー、系、及び方法
ポリペプチドなどの生体分子のインビトロ合成系のための組成物、方法、及びキットを本発明において提供する。インビトロタンパク質合成方法を使用して可溶性タンパク質の収量向上をもたらす細胞抽出物を提供する。本発明にはまた、進行中のインビトロ合成系にアミノ酸及びエネルギー源を含む供給溶液を添加し、高いタンパク質収量を得るための方法が含まれる。本発明にはまた、例えばNMRなどの方法による分析用に取り込まれた標識アミノ酸を有する大量のタンパク質を産生するための、高収量インビトロ合成系の使用方法が含まれる。本発明はさらに、インビトロ合成系を使用した鋳型核酸からのタンパク質産生向上のためのベクターを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は生命工学の分野に関する。特に本発明は、生体分子(例えば核酸及びポリペプチド)を合成、精製、標識及び/又は検出するためのインビトロの系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
インビトロタンパク質合成(IVPS)はとりわけ、タンパク合成において、インビボ又は細胞系でのタンパク質産生に使用される細胞の維持に必要とされる余分なタンパク質の産生を伴わずに、目的タンパク質を特異的に産生するという点で優位性を発揮する。細胞がタンパク質工場として用いられるとき、細胞は所望のタンパク質の産生に加え、他の必要な分子も産生する。それには不要なタンパク質が含まれるが、細胞を維持するためには必要なものである。
【0003】
インビトロタンパク質合成は、遺伝子発現の細胞内調節が基本的に存在しないため、細胞毒性のタンパク質、不安定なタンパク質、又は不溶性のタンパク質の産生に効果的である。インビボでの一定濃度以上のタンパク質の過剰産生は困難であり、その理由として、発現量が産生物の濃度によって調節されることが挙げられる。一般に細胞に蓄積されるタンパク質の濃度は、細胞の生存に影響を及ぼすため、所望のタンパク質の過剰産生は困難である。単離及び精製工程中、多くのタンパク質は不溶性又は不安定であり、細胞内のプロテアーゼにより分解されるか、又は封入体として凝集するため、回収率が低くなる。インビトロ合成は、これらの多くの課題を回避するものである。更に、多数の配列にてタンパク質を同時及び迅速に発現させることより、この技術は、研究目的での複合アレイの開発やタンパク質のスクリーニング作業に有益なツールを提供しうる。更に、様々な非天然アミノ酸は、特殊な目的に使用するタンパク質に能率的に取り込まれうる(Norenら、Science 244:182−188,1989)。しかしながら、その全ての優れた面をもってしても、インビトロの系はタンパク質のインビボ合成の代替技術として現実に広く受け入れられたわけではない。
【0004】
既存の大腸菌ベースの無細胞発現系は、細胞ベースの系と比較し、生成物を得るスピードや使用の容易性を含めた利点を数多く有するものである。特にプロテオミクスの分野でこれらの系が広く使用されている。Movahedzadehら、「In vitro transcription and translation」、Methods Mol Biol.235:247−255(2003);Kimら、Eur.J.Biochem.239:881,1996;Patnaik及びSwartz、Biotechniques 24:862,1998;Kim及びSwartz(1999)、Biotechnol.andBioeng.66:180−188;並びにKim及びSwartz(2000)、Biotechnol.Prog.16:385−390を参照のこと。全ゲノム配列情報を得ることにより、機能が不明又は十分理解されていない無数の遺伝子及びオープンリーディングフレームの分子構造及び系統に関する膨大な情報が得られる。すなわち、IVTT及び、更に一般的にいえばインビトロタンパク合成の有用性は、迅速かつ効率的なタンパク合成及び機能解析にとり、将来更に重要な位置を占めると期待される。
【0005】
しかしながら、現在のIVPS系には限界が存在する。例えば、これらの系では、詳細な分析に使用できる程の充分量のタンパク質が産生されない。短時間(1〜6時間)において、望ましい濃度(例えばmg/mL規模)で目的タンパク質の所望量(mg規模)を産生することは困難である。
【0006】
更に、IVPSでは、目的タンパク質への非天然(例えば検出用に標識された)アミノ酸の高効率での導入方法は、限られたものとなっている。Mamaevらは、IVPSによりタンパク質に標識アミノ酸を導入する方法を報告した(Anal Biochem 326:25−32(2004))が、それはアミノ末端に、フルオロフォア−アミノ酸コンジュゲートにより化学的にアミノアシル化された、外因性イニシエーターのサプレッサーtRNAを付加するに留まっている。更に、Mamaevらの方法は、27〜67%の特異的な標識に留まっている。
【0007】
特許文献
インビトロタンパク質合成の分野の特許には、以下のリストに挙げられるものが含まれるが、それらに限定されるものではない。このリストは、同等技術の広範囲にわたる再調査を目的とせず、またこれらの特許文献リストのいずれも、その文書が実際に同等技術であることを承認するものでもない。
米国特許第5,478,730号(Alakhovら、「Method of preparing polypeptides in cell−free translation system.」)。
米国特許第5,665,563号、第5,492,817号、及び第5,324,637号(Becklerら、「Coupled transcription and translation in eukaryotic cell−free extract.」)。
米国特許第6,337,191号(Swartzら、「In vitro Protein Synthesis using Glycolytic Intermediates as an Energy Source.」)。
米国特許第6,518,058号(Biryukovら、「Method of preparing polypeptides in cell−free system and device for its realization.」)。
米国特許第6,670,173号(Schelsら、「Bioreaction module for biochemical reactions.」)。
米国特許第6,783,957号(Biryukovら、「Method for synthesis of polypeptides in cell−free systems.」)。
米国特許出願第2002/0168706号(Chatterjeeら、2002年11月14日公開、「Improved in vitro synthesis system.」)。
米国特許第6,168,931号(Swartzら、2002年1月8日登録、「In vitro macromolecule biosynthesis methods using exogenous amino acids and a novel ATP regeneration system.」)。
米国特許第6,548,276号(Swartzら、2003年4月15日登録、「Enhanced in vitro synthesis of active proteins containing disulfide bonds.」)。
米国特許出願第2004/0110135号(Nemetzら、2004年6月10日公開、「Method for producing linear DNA fragments for the in vitro expression of proteins.」)。
米国特許出願第2004/0209321号(Swartzら、2004年10月21日公開、「Methods of in vitro protein synthesis.」)。
米国特許出願第2004/0214292号(Motodaら、2004年10月28日公開、「Method of producing template DNA and method of producing protein in cell−free protein synthesis system using the same.」)。
米国特許出願第2004/0259081号(Watzeleら、2004年12月23日公開、「Method for protein expression starting from stabilized linear short DNA in cell−free in vitro transcription/translation systems with exonuclease−containing lysates or in a cellular system containing exonucleases.」)。
米国特許出願第2005/0009013号(2005年1月13日公開)、米国特許出願第2005/0032078号(2005年2月10日公開)、Rothschildら、「Methods for the detection, analysis and isolation of nascent proteins.」。
米国特許出願第2005/0032086号(Sakanyanら、2005年2月10日公開、「Methods of RNA and protein synthesis.」)。
PCT特許出願国際公開公報第00/55353号(Swartzら、2000年3月15日、「In vitro macromolecule biosynthesis methods using exogenous amino acids and a novel ATP regeneration system.」)。
これらの特許及び特許出願の全ては、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【発明の開示】
【0008】
本発明の概要
本発明は、生体分子のインビトロ合成(例えばインビトロタンパク質合成(IVPS))に関する。本発明は、IVPSに用いる組成物、方法、クローニング及び発現ベクター、並びにキットを提供する。
【0009】
本発明はインビトロタンパク質合成(IVPS)のための組成物、方法及びキットに関する。本発明は、IVPS系、並びにその組成物、方法及びキットを含む。また、二つ以上の異なる要素(組成物、方法、キット)を組み合わせて、本発明の異なる態様とすることもできる。本発明の方法は、IVPS系の組成物の調製、及び効率的なIVPS反応の実施に有用である。本発明の組成物は、目的タンパク質の産生に使用でき、いかなる給源生物(例えばウイルス、原核生物、真核生物、古細菌、動物、植物、細菌その他由来の細胞又はオルガネラ)も使用できる。
【0010】
本発明には、IVPS反応の開始後に添加される、IVPS反応の幾つかの構成要素を含む供給溶液(Feeding Solution)(本明細書において「供給バッファー(Feeding Buffer)」とも称される)が提供される。進行中の無細胞発現の反応系に供給溶液を添加することにより、タンパク合成を促進させ、より高い収量が実現できる。本発明は、多くの望ましい特徴(例えば高収量でのタンパク質産生、反応時間短縮など)を有する優れた供給溶液を提供するものである。
【0011】
本発明の供給溶液には、少なくとも一つの追加的なエネルギー源及び/又は補因子が含まれる。「追加的な」とは、エネルギー源及び/又は補因子が、初めの反応混合物に排他的又は主に存在するエネルギー源及び/又は補因子と構成的に異なることを意味する。典型的には、反応時間0(t=0)での初めのエネルギー源がホスホエノールピルビン酸(PEP)及びアセチルリン酸(AP)である。補因子NAD又はNADHと共に供給溶液に含まれる(及び/又は初めのIVPS反応に添加される)好適な追加的エネルギー源には、限定するものではないが、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸又は3−ホスホグリセリン酸のような解糖系の中間代謝産物が含まれる。
【0012】
本発明はまた、IVPS系において可溶性タンパク質の収量増加をもたらす細胞抽出物を提供する。上記抽出物は、抽出物の調製にあたり細胞を溶解させたバッファーに脂質、表面活性剤又は界面活性剤を添加することによって調製される。
【0013】
本発明は更に、タンパク質をコードする配列の効率的クローニング用のベクターであって、その配列がコードするタンパク質の翻訳、溶解性及び活性を向上させる配列を有するベクターを提供する。
【0014】
他の態様において、本発明は、限定するものではないが、一つ以上の供給溶液、IVPS細胞抽出物、及び/又はキット化されたバージョンを含むベクターであって収量及び時間当たりのタンパク合成を最大化するベクターの使用を含む、IVPS方法に関する。本発明は、多量の目的タンパク質(POI)をmg単位、好ましくは少なくとも1から約1mg/mL〜100又は約100mg/mLの濃度で、約1〜約6時間で合成する方法を提供する。
【0015】
他の態様においては、本発明は、限定するものではないが、一つ以上の供給溶液、IVPS抽出物及び/又はベクター及びそのキット化されたバージョンを含み、IVPS反応の間、外部から添加されるアミノ酸の取り込みを最大化する、IVPS方法及び組成物に関する。この種の外部から添加されるアミノ酸には、検出可能な標識を付与されたアミノ酸(例えば蛍光標識アミノ酸、重元素アミノ酸及び放射性同位元素標識アミノ酸)が含まれうる。これらの本発明の態様は、質量分析及び核磁気共鳴法(NMR)などに使用する、標識目的タンパク質の調製に有用である。なぜなら、対応する非標識(天然)アミノ酸を除外した形で、検出可能な標識を付与された他の非天然アミノ酸の完全な取り込みが行われるからである。本発明はまた、質量分析及びNMRスペクトル解析に使用するタンパク質の完全な標識に使用可能な系及びキットを提供する。
【0016】
他の態様においては、本発明は、目的遺伝子をクローニングし、IVPS系で発現させるためのベクターに関する。インビトロタンパク質合成の好適な特徴としては、それが目的遺伝子を特定の目的タンパク質の産生のために提供できる、確立された系であることが挙げられる。目的遺伝子の発現効率は、そのリーディングフレーム外の配列により影響されるため、適切な制御配列を本発明のベクターの目的遺伝子に対し、制御可能に連結してもよい。アミノ酸タグ配列の目的タンパク質への融合を可能にする二つのベクターのペアであって、二つのベクターのうちの一つがN末端側アミノ酸タグを有する目的タンパク質の発現に用いられ、二つのベクターのもう一方がC末端側アミノ酸タグを有する目的タンパク質の発現に用いられるベクターのペアが提供される。そのベクターにより、アミノ酸タグを使用して単離、アフィニティー精製、又は検出される目的タンパク質の効率的な産生が行われ、またその合成されたタンパク質へのアミノ酸付加は最小限に留まる。
【0017】
略記及び定義
以下の記載において、組換え核酸技術で使用される多くの用語が広範囲に利用される。本明細書と請求項の明確かつ一貫した理解を可能にするため、この種の用語に与えられる範囲を含めて、以下のように定義する。
【0018】
アミノ酸:
本発明における「アミノ酸」とは、アミノ基(−NΗ2)及びカルボキシル基(−COOH)を含む有機化合物である。
【0019】
以下の表において、天然のタンパク質に通常存在する20の天然アミノ酸、及び各アミノ酸に関連する1及び3文字表記の一覧を記載する。
【0020】
(表1)天然アミノ酸及び遺伝子コード
*表中のコドンは、mRNA上に存在するときの態様である。DNA分子における対応するコドンは、RNA配列のあらゆるウラシル(U)ヌクレオチドをチミジン(T)ヌクレオチドに置換したものである。
【0021】
本明細書における「外来アミノ酸」の用語は、天然タンパク質には存在しないが、組換えDNAを使用して発現させるタンパク質に取り込まれるアミノ酸を指すものとして使用される。本願において「天然型」及び「野生型」とは、自然界において生じる生体分子を指す。「非天然」及び「修飾された」の用語は、その天然の形態に修正又は変更を加えた生体分子を指す。
【0022】
「アミノ酸」の用語には、天然アミノ酸(表1)及び修飾アミノ酸の両方が含まれる。修飾アミノ酸には、限定するものではないが、検出可能な標識付与された、及び/又は構造的に修飾されたアミノ酸が含まれる。タンパク合成においては、翻訳において、当然ながら好適に修飾されたアミノ酸をポリペプチドに取り込ませてもよい。
【0023】
ヒ素含有分子:
本願において、ヒ素含有分子とは、一つ以上のヒ素原子を含むあらゆる化学物質を指す。好適なヒ素含有分子は、特定のアミノ酸配列と結合する。好適な特定のアミノ酸配列はC−C−X−X−C−C(「C」はシステインを表し、「X」はシステイン以外の任意のアミノ酸を表す)である。二ヒ素(二つのヒ素原子)化合物及び四ヒ素(四つのヒ素原子)化合物の両化合物は、ヒ素含有化合物である。四ヒ素分子は、単体ヒ素及び二ヒ素のいずれかによる分子である。
【0024】
単体ヒ素、二ヒ素又は四ヒ素の分子は、好ましくは検出可能な基(例えば蛍光性の基、発光性の基、リン光性の基、スピン標識、光増感剤、光切断可能部分、キレート中心、重元素、放射性同位元素、核磁気共鳴法(NMR)によって検出可能な同位元素、正磁性原子及びそれらの組み合わせ)を含む。用途によっては、共有結合によるカップリングによって二ヒ素の分子を固相に固定するのが好ましい。この種の用途は、ビーズ又はアフィニティークロマトグラフィーに適する他のいずれかの基材への固定を含む。これは、タグ付きタンパク質の精製に用いられる。単体ヒ素、二ヒ素又は四ヒ素の分子は、好ましくは生体膜を通過できるものである。
【0025】
二ヒ素分子:
本発明において、二ヒ素分子とは、二つ以上のヒ素原子を含むあらゆる化学物質を指す。好適な二ヒ素分子は、特殊なアミノ酸配列と結合する。好適な特異的なアミノ酸配列はC−C−X−X−C−C(「C」はシステインを表し、「X」はシステイン以外の任意のアミノ酸を表す)である。米国特許出願公開第2005/017065号(二ヒ素分子に関する全ての開示内容が、本明細書に参照により組み入れられる)を参照。
【0026】
四ヒ素分子:
二ヒ素分子の代わりに、又はそれと組み合わせて使用する他の分子には、限定されないが、四ヒ素分子が含まれる。四ヒ素分子は、Tsienらの米国特許第6,054,271号において開示される化学式を有する二つの二ヒ素分子を含む(本明細書において四ヒ素分子に関する全ての開示内容が参照により組み入れられる)。例えば、二つの二ヒ素分子は、連結基で相互に連結される。
【0027】
細胞の抽出物又は細胞抽出物:
抽出物は、細胞溶解液若しくは浸出液、又はそれらのフラクションである。例えば、細胞抽出物は、溶解液中に含まれる他の細胞構成要素を遠心分離、濾過、選択的沈殿、選択的免疫沈降反応、クロマトグラフィー又は他の方法によって分離して得た、溶解液の一部であってもよい。例えば、IVPS用の細胞抽出物の通常の調製方法には、細胞可溶化物を遠心分離して膜及び他の不溶性の構成物を溶解液のペレットとし、上清(IVPS系に使用される抽出物)を取り出すことが含まれる。用語「細胞抽出物」及び「IVPS抽出物」にはまた、タンパク質又は核酸合成に必要又は要求される構成要素に関し、細胞可溶化物又は浸出液に似せて調製した構成要素の混合物が含まれる。IVPS抽出物は、タンパク合成反応において細胞可溶化物又は浸出物(又はそのフラクション)を模倣又は改善する、及び/又は核酸の鋳型からの合成に使用する構成要素を提供する、構成要素の混合物であってもよい。この種の混合物は、当業者にとり自明であろうが、部分的な抽出物又はそのフラクションの回収、及び/又は任意の数の個々の構成要素の混合によっても調製できる。後者は、天然由来でも、又はインビトロで合成されたものでもよい。
【0028】
含まない:
本発明において「含まない」の用語は、所与の物質又は構成要素が存在しないことを指す。本発明においては、ある物質が組成物中に、v/v、w/v又はw/wにおいて、1%未満又は約1%、好ましくは0.1%未満又は約0.1%、最も好ましくは0.01%未満又は約0.01%の濃度で存在する場合、その組成物はその物質を含まないという。
【0029】
実質的に含まない:
本発明において、ある物質が最も好ましくは25%未満又は約25%、好ましくは10%未満又は約10%、最も好ましくは5%未満又は約5%、最も好ましくは1.1%未満又は約1.1%である場合、組成物はその物質を実質的に含まないという。
【0030】
検出可能に標識された:
「検出可能に標識された」及び「標識された」の用語は、本発明において交換して使用可能であり、分子(例えば核酸分子、タンパク質、ヌクレオチド、アミノ酸など)が、他の部分又は分子であって、様々な検出手段(例えば測定機器、目視、写真撮影、X線撮影など)によって検出されうるシグナルを生じるものを付加されている状態を指す。この種の状態においては、分子は、共有結合又はイオン結合、凝集、アフィニティーカップリング(例えば一次及び/又は二次抗体の使用を含み、そのいずれも検出可能な標識を含みうる)などを含む、様々な任意の公知技術によって、シグナルを生じさせる分子又は部分(「標識」又は「検出可能な標識」)を付加(又は「標識」)されてもよい。本発明における、標識又は検出可能に標識された分子の調製に用いられる、検出可能な標識として適切なものには、例えば放射性同位元素標識、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、酵素標識及び当業者に公知の他のものが含まれる。
【0031】
遺伝子:
「遺伝子」の用語は、本発明において、ポリペプチド、タンパク質又は非翻訳RNA(例えばrRNA、tRNA、アンチセンスRNA)の発現に必要な情報を含む核酸を意味する。遺伝子がタンパク質をコードするときは、プロモーター及び構造遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(ORF)、並びにタンパク質発現に関係する他の配列を含む。遺伝子が非翻訳RNAをコードするときは、プロモーター及び非翻訳RNAをコードする核酸を含む。
【0032】
目的遺伝子(GOI):
「目的遺伝子」の用語は、任意の目的(例えば疾患の治療、改良された特性の付与、宿主細胞における目的タンパク質の発現、リボザイムの発現など)のために、それを操作することが望ましいと当業者が考える、あらゆるヌクレオチド配列(例えばRNA又はDNA)を指す。この種のヌクレオチド配列は、限定されないが、構造遺伝子(例えばリポーター遺伝子、選択標識遺伝子、腫瘍遺伝子、薬剤耐性遺伝子、生育因子など)のコーディング配列、並びにmRNA又はタンパク質をコードしないノンコーディング制御配列(例えばプロモーター配列、ポリアデニル化配列、ターミネーター配列、エンハンサー配列など)が挙げられる。
【0033】
宿主:
本発明における「宿主」の用語は、複製可能な発現ベクター、クローニングベクター又は任意の核酸分子の取り込み先となる、あらゆる原核生物又は真核生物(例えば哺乳類、昆虫、酵母、植物、鳥類、動物など)を指す。核酸分子は、制限されないが、目的配列、転写制御配列(例えばプロモーター、エンハンサー、阻止物質など)及び/又は複製開始点を含んでもよい。本発明における「宿主」、「宿主細胞」、「組換え宿主」及び「組換え宿主細胞」の用語は、相互に交換して使用できる。この種の宿主に関しては、例えばSambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory」(Cold Spring Harbor,New York)を参照のこと。
【0034】
インビトロ:
本発明において「インビトロ」の用語は、細胞又は有機体の外の系を指し、しばしば無細胞系のことを指すこともある。インビボの系は、基本的に完全な細胞であって、懸濁液又は、他の細胞若しくは固体に結合若しくは接触しているものに関する。インビトロの系は、操作がより容易であるという利点が存在する。構成要素を細胞内部に届けることがなく、細胞機能の維持にとって適切でない操作も可能である。一方、インビトロの系では破壊した細胞又は各種構成要素が使用されるため、所望の機能を発揮させることができ、またそれにより細胞の空間的関係が失われる。インビトロの系の調製時、おそらく所望の活性を左右するであろう構成要素が、廃棄される細胞残渣と共に除去されうる。すなわちインビトロの系は操作が簡便で、インビボの系とは異なる機能を発揮しうる。
【0035】
IVT:
「インビトロ転写」(IVT)及び「無細胞転写」の用語は、本発明において交換可能に使用され、RNAからのタンパク質合成を含まない、DNAからRNAへの無細胞合成の任意の方法を指す。好適なRNAは、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)である。
【0036】
IVTT:
「インビトロ転写−翻訳」(IVTT)、「無細胞転写−翻訳」、「DNA鋳型からのインビトロタンパク質合成」及び「無細胞でのDNA鋳型からのタンパク質合成」の用語は、本発明において相互に交換可能に使用され、あらゆる無細胞におけるDNAからのmRNA合成(転写)及びmRNAからのタンパク質合成(翻訳)方法を指す。
【0037】
IVPS:
「インビトロタンパク質合成」(IVPS)、「インビトロ翻訳」、「無細胞翻訳」、「RNA鋳型からのインビトロタンパク質合成」「無細胞のRNA鋳型からのタンパク合成」及び「無細胞タンパク合成」の用語は、本発明において交換可能に使用され、あらゆるタンパク質の無細胞合成方法を指す。転写及び転写の結合を含むIVTTは、IVPSの非限定的な一例である。
【0038】
IVPS適合:
本発明において、「IVPS適合の」及び「IVPSに適合した」の用語は、IVPS抽出物又はインビトロでのポリペプチドの産生に使用可能な系を指す。
【0039】
キット化された:
本発明において「キット化された」の用語は、キットの形態に調製された組成物を指すために用いられる。キットは一つ以上の試薬、一つ以上の装置又は一つ以上の補給物を含む構成要素の集合体であってよく、そのキットの組成物のうち二つ以上が、プロトコル又は一般方法と同一又は異なる工程で使用されうる。任意に、上記の組成物は、一つ以上の個別容器(例えばチューブ、バイアル、バブルパック、ブリスターパックなど)中に分注した状態で、好ましくは、直接又は間接的なユーザー向け取扱説明書を添えて、例えば箱、ラック、枠箱、パッケージなどの簡便な包装形態で一緒に梱包してもよい。しかしながら、場合によりキットの一つ以上の構成要素を別に梱包してもよい。
【0040】
核酸分子:
本発明における「核酸分子」の用語は、任意の長さの一連なりのヌクレオチド(リボNTP、dNTP、ddNTP又はそれらの組み合わせ)を指す。核酸分子は、完全長ポリペプチド若しくはその任意の長さの断片をコードしてよく、又はノンコーディングであってよい。本発明において「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」の用語は交換して使用でき、一本鎖(ss)及び二本鎖(ds)RNA、DNA及びRNA:DNAハイブリッドを含んでもよい。
【0041】
ポリメラーゼ:
本発明において、「ポリメラーゼ」は、既存の鋳型核酸を使用して核酸の合成反応を触媒する酵素を指す。例えば、DNAポリメラーゼ(DNA→DNA反応を触媒)、RNAポリメラーゼ(DNA→RNA)及び逆転写酵素(RNA→DNA)が含まれる。
【0042】
ポリペプチド:
本発明における「ポリペプチド」の用語は、任意の長さの一連のアミノ酸を指す。「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「タンパク質」の用語は、本発明において「ポリペプチド」の用語と交換して使用できる。
【0043】
プロモーター:
本発明において、「プロモーター」、「プロモーター要素」又は「プロモーター配列」の用語は、目的のヌクレオチド配列に連結されたときに、目的のヌクレオチド配列のmRNAの転写を制御できるDNA配列を指す。プロモーターは、必須ではないが典型的には、そのmRNA転写制御の目的となるヌクレオチド配列の5’側(すなわち上流)に位置し、RNAポリメラーゼ及び転写開始に関与する他の転写制御因子に対する特異的な結合部位を提供する。プロモーターは、構成的でも、又は制御可能であってもよい。プロモーターに関して「構成的」の用語が使用されるときは、そのプロモーターが刺激(例えば熱ショック、化学物質など)の非存在下でも、制御可能に連結された核酸の転写を誘導できることを意味する。対照的に、「制御可能な」プロモーターとは、刺激(例えば熱ショック、化学物質など)が存在する場合に、制御可能に連結された核酸の転写のレベルを、刺激の非存在下における、制御可能に連結された核酸の転写のレベルと異なるレベルにしうるものを指す。
【0044】
目的タンパク質(POI):
本発明において、目的タンパク質、POI及び「所望のタンパク質」の用語は、試験対象のポリペプチド、又は、その発現が本発明において開示される方法を実施する者により要求されるポリペプチドを指す。目的タンパク質は、その同系の目的遺伝子(GOI)によりコードされる。POIの相同性は公知でも公知でなくてもよい。POIは、オープンリーディングフレームにてコードされるポリペプチドであってよい。
【0045】
可溶化剤:
本発明において「可溶化試薬」及び「可溶化剤」の用語は、第二の、疎水性化合物が溶媒(典型的には水)に残留又は溶解するのを助長するあらゆる化合物を指す。
【0046】
転写:
本発明において、特に明記しない限り、「転写」の用語はDNA鋳型からのRNA合成を指す。
【0047】
翻訳:
本発明において、特に明記しない限り、「翻訳」の用語は、mRNA鋳型からのポリペプチドの合成を指す。
【0048】
ベクター:
本発明において、「ベクター」の用語には、例えばプラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどが含まれ、適当な調節要素と関係するときに複製可能で、細胞間で遺伝子配列を転移できる、任意の遺伝的因子のことを指す。ベクターは、形質転換細胞の識別の用に適する標識を含んでよい。例えば、標識はテトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性を与えるものでもよい。ベクターのタイプには、クローニング用及び発現用のベクターが含まれる。
【0049】
ベクター、クローニング:
本発明において「クローニングベクター」の用語は、宿主細胞において独立して複製可能であり、一つ又は少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位及び/又は部位特異的組換え部位の存在を特徴とするプラスミド又はバクテリオファージDNA又は他のDNA配列を指す。外来DNA断片はこれらの部位でベクターに連結され、断片の複製及びクローニングが可能となる。
【0050】
ベクター、発現:
本発明における「発現ベクター」の用語は、そこにクローニングされた遺伝子を発現できるベクターを指す。この種の発現は、宿主細胞の形質変換の後、又はIVPS系において生じうる。クローニングされたDNAは、通常一つ以上の制御配列(例えばプロモーター、リプレッサー結合部位、ターミネーター、エンハンサーなど)と、制御可能に連結される。プロモーター配列は構成的なものでも、誘導及び/又は抑制可能なものでもよい。
【0051】
本明細書で用いられる組換え核酸技術の分野及び分子及び細胞生物学で使用する他の語は、その分野の当業者によって通常どおり認識される。
【0052】
本発明の詳細な説明
インビトロタンパク質合成(IVPS)
総論
精製されたmRNA転写物、又は、インビトロ合成反応の間にDNAから転写されたmRNAからのインビトロタンパク質合成をサポートする、細胞抽出物を開発した。この種のタンパク合成系は、本明細書において「IVPS系」と称され、IVPSとは「インビトロ(In vitro)でのタンパク質(Protein)合成(Synthesis)」の頭字語である。
【0053】
一般的な系は、目的タンパク質をコードする鋳型核酸を含む。鋳型核酸はRNA分子(例えばmRNA)又はmRNAをコードする核酸(例えばRNA、DNA)であり、あらゆる形態(例えば直鎖、環状、スーパーコイル型、一本鎖、二本鎖など)をとる。鋳型核酸は、所望のタンパク質の産生を誘導する。IVPS系は、所望のタンパク質に、検出可能な標識を付与されたアミノ酸、又は一般的でない若しくは非天然のアミノ酸の取り込み用に設計してもよい。
【0054】
一般的なIVPS反応において、目的タンパク質をコードしている遺伝子は転写バッファー中で発現し、IVPS抽出物及び翻訳バッファー中でmRNAが目的タンパク質に翻訳されるに至る。転写バッファー、IVPS抽出物及び翻訳バッファーは別々に添加してもよく、又はこれらの溶液のうちの二つ以上をそれらの添加前に混合してもよく、又は同時に添加してもよい。
【0055】
インビトロでの目的タンパク質合成の際、IVPS抽出物に、幾つかの時点で目的タンパク質をコードするmRNA分子を含める必要がある。初期のIVPS実験では、mRNAは、天然の給源から精製した後に外因的に添加していたか、又はバクテリオファージRNAポリメラーゼを使用し、クローニングされたDNAからインビトロで合成して調製していた。他の系においては、mRNAは鋳型DNAからインビトロにおいて得られ、転写及び翻訳の両者がこの種のIVPS反応で生じる。転写及び翻訳系の組み合わせ、又は相互補完を用いた(同じ反応系でRNA及びタンパク質の合成を行う)技術が開発された。この種のインビトロでの転写及び翻訳(IVTT)系において、IVPS抽出物中には、単一の系内に転写(mRNA産生)及び翻訳(タンパク質合成)に必要な全ての構成要素が含まれる。初期のIVTT系は、細菌抽出物に基づくものである(Lederman及びZubay、Biochim.Biophys.Acta,149:253,1967)。IVTT系に添加される核酸は、通常mRNAより取得が非常に容易で、より簡便に操作(例えばクローニング、部位特異的組換えなど)できるDNAである。
【0056】
それらの調製方法又はそれらの添加順序に関係なく、IVTT反応混合物には以下の構成要素が含まれる。少なくとも一つのプロモーターに制御可能に連結した目的遺伝子(GOI)、任意に一つ以上の他の制御配列とを含む鋳型核酸(例えばDNA)(例えばGOIを含むクローニング用又は発現用ベクター)、GOIと制御可能に連結されているプロモーターを認識するRNAポリメラーゼ、及び、任意に、鋳型核酸が制御可能に連結している任意の制御配列に結合する一つ以上の転写制御因子、リボヌクレオチド三リン酸(rNTP)、任意に、他の転写制御因子及びその補因子、リボソーム、移転RNA(tRNA)、他の任意の翻訳因子(例えば翻訳開始、伸長及び終結因子)及びそれらの補因子、アミノ酸(任意に一つ以上の検出可能なアミノ酸を含む)、一つ以上のエネルギー源(例えばATP、GTP)、任意に、一つ以上のエネルギー再生構成要素(例えばPEP/ピルビン酸キナーゼ、AP/酢酸キナーゼ又はクレアチンリン酸/クレアチンキナーゼ)、任意に、収量及び/又は効率を顕著に向上させる因子(例えばヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ阻害剤、タンパク質安定化物質)及びそれらの補因子、並びに、任意に、可溶化剤。
【0057】
IVPS反応の構成要素を以下に詳細に記載する。
【0058】
鋳型核酸及びRNAポリメラーゼ
鋳型核酸は、他の鋳型核酸又はタンパク質の直接合成に関与する核酸分子である。鋳型は、多数のヌクレオチドサブユニットから構成される分子で、ヌクレオチドサブユニットの長さやタイプにおいて変化しうる。DNA及びRNA(例えばmRNA)は、タンパク質及び核酸合成の鋳型として使用可能な核酸種である。DNA鋳型の転写により、前記鋳型の全部又は一部と相補的なRNA鋳型が形成される。RNA鋳型の翻訳により、その鋳型の全部又は一部がコードするタンパク質又はペプチドが産生される。すなわち、合成反応における鋳型とは、所望のタンパク質を直接又は間接的にコードする核酸の一つ以上の種である。
【0059】
鋳型がDNA鋳型である場合、タンパク質が合成される前にRNA分子がRNAポリメラーゼによって転写されなければならない。本発明の方法への使用に適するRNAポリメラーゼには、タンパク質合成用に選択された鋳型を含む選択された系において活性を有する、あらゆるポリメラーゼが含まれる。IVPS細胞抽出物には、例えばRNAポリメラーゼII、SP6 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼIII及び/又はファージ由来RNAポリメラーゼなど、適切なポリメラーゼを含めてよい。これら又は他のポリメラーゼは公知で、一つ以上の公的又は私的なデータベースの検索により当業者によって直ちに検索されうる。適切なポリメラーゼを系に補充してもよい。所望の遺伝子が制御可能に連結されているプロモーターを認識する、RNAポリメラーゼが使用される。本発明に有用なRNAポリメラーゼ及び転写制御因子は公知で、当業者によって直ちに認識される。
【0060】
RNAポリメラーゼの調節は、DNA鋳型を使用してRNAを産生するIVPS系において有用でありえる。RNA合成が急速なとき、RNAはリボソームによる保護が不十分と考えられる。変異型の又は調節型のRNAポリメラーゼの使用により、リボソームによる生成RNAとの適当な時間における結合及び保護が行われるため、RNAを有利に節約できる。
【0061】
あるいは、鋳型核酸は、限定されないが、リプレッサー、アクチベーター、転写及び翻訳エンハンサー、DNA結合タンパク質などを含む任意の転写調節要因が結合する追加的な制御配列を含んでもよい。
【0062】
移転RNA(tRNA)
一般的に、IVPS抽出物に含まれるtRNA分子は、抽出物の調製に用いる給源細胞に由来する。しかしながら、本発明は、内因性のtRNAを欠失したIVPS抽出物を提供する。上記のtRNA欠失のIVPS反応はtRNA分子の添加によって制御され、それは合成物でも他の生物由来でもよい。更に、変異tRNAは、非天然アミノ酸を特殊な目的に使用するタンパク質に取り込むために使用されうる。
【0063】
荷電tRNA分子もまた、本発明で使用可能なtRNA分子の範囲に含まれる。荷電tRNA(別名アミノアシル−tRNA)は、特定のtRNAと、tRNAの3’側OH基に共有結合する特定のアミノ酸とを含んでなる。
【0064】
アミノ酸
一般に、IVPS抽出物に含まれるアミノ酸の少なくとも幾つかは、抽出物の調製に用いる給源細胞に由来する。しかしながら、本発明は、内因性のアミノ酸を実質的に欠失したIVPS抽出物を提供する。IVPS反応は更にアミノ酸の添加によっても制御可能であり、それは合成物でも他の生物由来のものでもよい。
【0065】
IVPS系に含まれるものとは異なる生物由来のアミノ酸の非限定的な例として、藻類のアミノ酸混合物が使用できる。これらは、特定のアミノ酸、特にAsn、Cys、Gln及びTrpを欠き、それはNMR解析にて様々に使用可能な特徴を有する。非標識の藻類アミノ酸抽出物を、補充されるアミノ酸Asn、Cys、Gln及び/又はTrpと組み合わせて使用でき、それらは標識(非限定的な実施例として、2H、13C及び/又は15N)してもしなくてもよい。ゆえに、標識された形態の特殊なアミノ酸(Asn、Cys、Gln及び/又はTrp)は、タンパク質の特定のアミノ酸残基のみの標識に使用できる。藻類のアミノ酸混合物は、標識及び非標識の形で市販(Cambridge Isotope Laboratories,Andover,MA、Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)されている。
【0066】
様々な非天然アミノ酸には、限定されないが、検出可能な標識アミノ酸が含まれ、それはIVPS反応に添加され、特殊な目的に使用するタンパク質に効率的に取り込まれうる。例えば、Norenら、Science 244:182−188(1989);Anthony−Cahillら、Trends Biochem Sci.14:400−403(1989);Ellmanら、Methods Enzymol.202:301−336(1991);及びLiuら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:10092−10097(1997)を参照されたい。
【0067】
エネルギー源及びエネルギー再生用の構成要素
タンパク質及び核酸の合成は、一般にエネルギー源を必要とする。この種の合成をサポートするのに充分なエネルギー源を提供することが、本発明の特徴である。エネルギーは、転写を開始しmRNAを産生する(例えばDNA鋳型を使用し翻訳を誘導するとき、例えばGTP形態の高エネルギー−リン酸が使用される)のに必要とされる。リボソームによる一つ一つのコドンにおける各反応(三つのヌクレオチドが一つのアミノ酸に対応)の際、更にGTPのGDPへの加水分解が必要となる。ATPも一般的に必要とされる。タンパク合成においてアミノ酸が重合するためには、最初に活性化される必要がある。活性化には、二つの高エネルギーリン酸結合の加水分解が必要となる。すなわち、アミノ酸モノマーは、Mg2+、tRNA及びATPの存在により反応し、アミノアシル−tRNA、AMP及び無機ピロリン酸(PPi)を形成する。すなわち、高エネルギーリン酸結合からの顕著な量のエネルギーが、タンパク質及び/又は核酸合成の進行に必要となる。
【0068】
エネルギー源とは、酵素処理を受けることにより、所望の化学反応を進行させるためのエネルギーを提供しうる化学物質である。例えばATPなど、ヌクレオシドトリホスフェートで見られるような、高エネルギーリン酸結合の裂開によって合成に用いられるエネルギーが放出されるエネルギー源が、一般に使用される。例えば高エネルギーリン酸結合を形成できる他のエネルギー源も、合成反応に推進力を与えうる。インビトロ合成に用いられる典型的なエネルギー源は、グルコース、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、カルバモイルリン酸、アセチルリン酸、クレアチンリン酸、ホスホピルビン酸、グリセルアルデヒド−3−リン酸、ピルビン酸、3−ホスホグリセリン酸、フルクトース−6−リン酸及びグルコース−6−リン酸である。高エネルギーリン酸結合に適するあらゆる給源が使用できる。例えば、ピルビン酸キナーゼは、PEP及びADPからピルビン酸及びATPを形成する反応を媒介する。ATPは、他のリボヌクレオシド三リン酸と可逆的に置換されうる。すなわち、ATP、GTP及び他の三リン酸は通常、タンパク合成を維持するための同等のエネルギー源と考えられうる。
【0069】
エネルギーを合成反応に提供するため、系にエネルギー源(例えばグルコース、ピルビン酸、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルバモイルリン酸、アセチルリン酸、クレアチンリン酸、リン酸ピルビン酸、グリセルアルデヒド−3−リン酸、3−ホスホグリセリン酸及びグルコース−6−リン酸などの、ATP、GTP及び他のNTPなど、高エネルギー三リン酸化合物を生成又は再生させうるもの)を含めるのが好ましい。所望の合成に適する程の、任意の量のエネルギー源を添加してもよい。例えば、それらの化学エネルギー源は、10〜100mMの濃度となるように添加されうる。15、20、25、30、50、60、70、80又は90mMを目標濃度としてもよい。合成によりエネルギーが消費されると実際の濃度は変化し、更にこれらの給源からエネルギーが補充される。特定のエネルギー源分子の濃度は、様々な範囲(例えば約10〜100mM、15〜90mM、20〜80mM、30〜60mMなど)で調整される。任意の目標濃度を、所望のエネルギー源濃度範囲の凡その境界として採用してもよい。二つ以上のエネルギー源分子が用いられるとき、各給源は同一又は異なる濃度であってもよい。
【0070】
充分なエネルギーが開始時の合成系に存在しないとき、追加的なエネルギー源を補充するのが好ましい。補充は連続的に行ってもよく、又は一つ以上に分割して行ってもよい。本発明の一つの特徴として、少なくとも二つ(又は3以上、4以上、5以上、6以上等)のエネルギー源を追加し、本発明の合成反応にエネルギーを提供することが含まれる。補充されたエネルギー源のうち少なくとも一つを、目的タンパク質のインビトロ合成反応の開始前に、抽出物に添加してもよい。例えば、エネルギーを提供する一つ以上の酵素、解糖系の中間代謝物又は他のエネルギー源分子を、IVPS反応の開始前の時点で抽出物に添加してもよい。更に、少なくとも一つ、好ましくは少なくとも二つのエネルギー源を、目的タンパク質のインビトロ合成反応の初期に添加してもよい。特に、解糖中間体が補充されるエネルギー源として本発明で用いられ、限定されないが、グルコース−6−リン酸(G−6−P)フルクトース−6−リン酸(F−6−P)及び3−ホスホグリセリン酸が含まれる。PEP、AP、並びに補因子のNAD又はNADHを添加してもよい。
【0071】
エネルギー源を、インビトロ合成反応中に添加又は補充してもよい。複数のエネルギー源が系に含まれるとき、合成(特にタンパク合成)反応の加速や時間の延長がみられ、その結果、合成系におけるタンパク質及び/又は核酸産物が効率的に産生される。例えば、ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びアセチルリン酸を初めのエネルギー源として使用した場合は、アセチルリン酸のみを添加した場合と比較し、タンパク質の合成量を2倍以上に増加できる。すなわち、本発明は、インビトロ合成系であって、合成反応に高エネルギーリン酸結合を提供する、少なくとも二つ、好ましくは少なくとも三つの異なるエネルギー源を含み、そのエネルギー源が酵素の基質分子となりうる系を含む。
【0072】
エネルギー源及び補因子(グルコース−6−リン酸及びNADH)の特殊な組み合わせを、無細胞発現の反応における一次エネルギーの補給としての使用する技術が開示されている。米国特許第6,337,191号(Swartzら、「In vitro Protein Synthesis using Glycolytic Intermediates as an Energy Source」)、及び米国特許第6,168,931号(Swartzrら、「Enhanced in vitro Synthesis of Biological Macromolecules Using a Novel ATP Regeneration System」)(両文献とも酵素及び基質を含むエネルギー源及びエネルギー再生系に関するものであり、全ての開示が本明細書において参照により組み入れられる)を参照されたい。
【0073】
PCT特許出願国際公開公報第00/55353号では、翻訳に必要なATPを補充する二つの方法が開示されている。これらの方法によれば、PEP(ホスホエノールピルビン酸)又はピルビン酸がATPエネルギー源の再生に使用される。開示された第一の方法は公知であり、それはホスホエノールピルビン酸(PEP)をピルビン酸キナーゼとの共役により使用し、ADPからATPを再生させるものである。国際公開公報第00/55353号における第二の方法では、ピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼとの共役により使用し、ATPを再生させている。エネルギー源及びアミノ酸は共に、タンパク合成と無関係に、これらの系において減少する(国際公開公報第00/55353号;Kim及びChoi、J.Biotech.,84:27,2000)。
【0074】
ヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ阻害剤
鋳型を保持し、合成過程の寿命を最大化するのが望ましい。本発明の合成系には、鋳型を保持する構成要素を添加してもよい。鋳型の酵素的な、化学的な、又はその他の分解を防止することにより、鋳型を保持できる。ゆえに、本発明の合成系では、物質合成を改善するために抽出物に工夫を加えてもよい。抽出物がタンパク質及び/又は核酸を産生する活性を有する酵素を含むときは、これらの酵素の抑制により、系におけるより効果的な合成が実現される。すなわち、少なくとも一つの酵素阻害剤を含むインビトロ合成系は、本発明の実施態様である。ヌクレアーゼ及びホスファターゼ阻害剤の使用は、タンパク質及び/又は核酸合成効率の向上にとって有利である。また、合成反応に使用する化合物を無駄に消費する酵素を阻害することで、合成効率を改善してもよい。抽出物に存在する特異的な酵素、例えば多くの公知のヌクレアーゼ、ポリメラーゼ又はホスファターゼに対する一つ以上の阻害剤を選択でき、それを使用することで、合成効率が有利に改善されうる。
【0075】
鋳型を保持するために、抽出物の調製に用いる細胞を選抜し、有害な酵素活性の減少、顕著な減少若しくは除去、又は酵素活性の修飾を行ってもよい。すなわち、(例えば、一つ以上の遺伝子を修飾又は変異させて)異なる活性を有するようになった細胞抽出物を含むインビトロ合成系が、本発明の実施態様である。修飾されたヌクレアーゼ又はホスファターゼ活性(例えば少なくとも一つの変異ホスファターゼ若しくはヌクレアーゼ遺伝子、又はそれらの組み合わせ)を有する細胞を細胞抽出物の合成に使用することにより、特に合成効率を有利に向上させる。例えば、IVPS用のS30抽出物を調製するために用いる大腸菌株は、(例えば突然変異により)RNaseE又はRNaseA欠損株であってよい。
【0076】
除去、阻害、変異、修正又は調整されうるヌクレアーゼの例としては、限定されないが、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼII、エキソヌクレアーゼIII、DNAポリメラーゼII、DNAポリメラーゼIII(εサブユニット)、エキソヌクレアーゼIVA及び、IVB、RecBCD(エキソヌクレアーゼV)、エキソヌクレアーゼVII、エキソヌクレアーゼVIII、RecJ、dRpase、エンドヌクレアーゼI、エンドヌクレアーゼIII、エンドヌクレアーゼIV、エンドヌクレアーゼV、エンドヌクレアーゼVII、エンドヌクレアーゼVIII、fpg、uvrABC、mutH、vsrエンドヌクレアーゼ、ruvC、ecoK、ecoB、mcrBC、mcrA、mrr、及びTOPO(登録商標)イソメラーゼ(例えばTOPO(登録商標)イソメラーゼI、TOPO(登録商標)イソメラーゼII、TOPO(登録商標)イソメラーゼIII及びTOPO(登録商標)イソメラーゼIV)、が含まれる。この種の除去、抑制その他により、本発明の合成反応で使用する鋳型核酸の保持又は保護が可能となる。例えば、細胞内DNAヌクレアーゼの変異、修飾、阻害などにより、DNA鋳型が保持又は保護される。大腸菌及び他の細胞由来のこのようなDNaseは公知である。
【0077】
RNAヌクレアーゼの調節は、RNA合成にDNA鋳型を使用するIVPS系において有用でありうる。RNA合成が急速なとき、リボソームによるRNAの保護が不十分になりうる。RNAヌクレアーゼに変異、修飾、阻害等を行うことにより、RNA鋳型を保護又は保持できる。例えば、大腸菌リボヌクレアーゼ(例えばエンドリボヌクレアーゼI、M、R、III、P、E、K、H、HII、IV、F、N、P2、0、PC及びPIV、並びにポリヌクレオチドホスホリラーゼ、オリゴリボヌクレアーゼ及びエキソリボヌクレアーゼII、D、BN、T、PH及びRのようなエキソヌクレアーゼ)を変異、修正、阻害することにより、タンパク合成に用いるmRNAを保護できる。抽出物に使用する細胞によっては、その細胞に内在する他のリボヌクレアーゼに変異、除去、修正又は阻害等を行い、タンパク合成に用いる鋳型を保持又は保護することができる。例えば、IVPS用の抽出物の調製に用いる大腸菌株が、RNアーゼE活性の減少又は欠失した突然変異株であってもよい。米国特許出願公開第2002/0168706号は、IVPS系にヌクレアーゼ活性を減少させた細胞抽出物の使用に関するものであり、全ての開示内容が本明細書に参照により組み入れられる。多くのヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ阻害剤は市販されている。例えば、RNasin(登録商標)(Promega)は、哺乳動物系のRNase阻害剤として知られているが、原核生物のRNases阻害には効果的でない。
【0078】
更に、阻害剤(例えば鋳型核酸、特に直鎖DNA鋳型のような直鎖鋳型と反応するヌクレアーゼの阻害剤(例えばRecBCDを阻害するバクテリオファージλのGamタンパク質)、又は合成反応系外の不必要又は有害な構成要素/タンパク質/酵素の阻害剤)を用い、インビトロで所望の産物の産生を促進させることができる。阻害剤は、公知のあらゆる方法により、本発明の系に使用又は含めることができる。例えば、阻害剤は、鋳型核酸の導入の前、間、又は後に系に添加してもよい。阻害剤は、抽出物の調製に用いる細胞において転写又は発現されてもよく、又はタンパク合成反応の間に転写又は発現されてもよい。阻害剤は生合成された化合物でもよいが、本発明の阻害剤は生物学的に産生される化合物に限られない。米国特許出願公開第2002/0168706号は、IVPS系のヌクレアーゼ阻害剤を含む細胞抽出物の使用に関するもので、その全ての開示内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0079】
可溶化剤
IVPSの構成成分及び/又はポリペプチド産物の可溶化を助長する物質を、IVPS系に添加してもよい。幾つかの本発明の態様において、一つ以上の脂質、表面活性剤(surfactant)又は界面活性剤(detergent)を、IVPS抽出物、IVPS反応系又は供給溶液又はその他に添加する。一つ以上の脂質、一つ以上の表面活性剤又は一つ以上の界面活性剤又はそれらの任意の組み合わせをIVPS反応に添加し、系におけるタンパク質の収量、可溶性タンパク質の収量又は活性型タンパク質の産生を改善することができる。いかなる特定の機構に限定されるものではないが、脂質、表面活性剤及び/又は界面活性剤は、タンパク質又はIVPS抽出物の構成要素の溶解性を改善しうる。好適な脂質にはリン脂質が含まれ、本明細書において以下に開示されている。表面活性剤には、界面活性剤でない表面活性剤であるスルホベタインを含むあらゆる表面活性剤が含まれるが、それに限定されない。好適な表面活性剤は、非イオン系及び両性イオン系の表面活性剤であり、本明細書において以下に更に記載されている。
【0080】
幾つかの本発明の態様において、ナノスケールのリン脂質二重層のディスクをIVPS反応混合物に添加してもよい。アポリポタンパク質A1(Apo A1)のような骨格タンパク質又はその誘導体によって取り囲まれたリン脂質二重層構造中を含むこの種のリン脂質−タンパク質粒子又は「ナノディスク」は、Bayburtら(J.Struct.Biol.123:37−44(1998))、及びBayburt及びSligar(PNAS99:6725−6730(2002)、Protein Science 12:2476−2481(2004))の文献に記載され、また米国特許出願公開第2005/0182243にも開示されており、そのナノサイズのリン脂質二重層ディスク及び骨格タンパク質に関する全ての開示内容が参照により本発明に組み入れられる。特に膜タンパク質がIVPS反応において合成されるときには、ナノサイズのリン脂質二重層ディスク包含体により可溶性タンパク質の収量を改善できる。ナノサイズのリン脂質二重層ディスクを、例えば0.1〜100mm、好ましくは0.2〜50m、最も好ましくは0.5mm〜40mmの濃度で、本明細書に記載のIVPS反応に含めてよい。例えば、ナノディスクを約1mm〜約20mmにてIVPS反応に存在させてもよい。
【0081】
ナノスケールのリン脂質二重層ディスクがIVPS反応に含まれると、インビトロで翻訳された膜タンパク質の溶解性は非常に高くなる。ナノスケールのリン脂質二重層ディスクがIVPS反応に含まれると、インビトロ翻訳された膜タンパク質は、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクに挿入され、ナノディスク中の骨格タンパク質に存在する親和性タグにより、ナノディスク内に取り込まれ、可溶性の形態にて単離されうる。
【0082】
IVPS抽出物の調製
一般に、IVPS反応の幾つかの構成要素(例えばリボソーム、tRNA、翻訳因子及び補因子)は、給源生物から調製されたIVPS抽出物の形で調製される。限定されないが、原核細胞、真核細胞、細胞器官及びウイルスを含む任意のタイプの給源生物が、IVPS系のための給源生物として使用可能である(例えばPelhamら、European Journal Of Biochemistry,67:247,1976を参照)。原核生物の系では、同時又は「共役」による転写及び翻訳が可能である点で有利である。
【0083】
真核生物由来のIVPS系には、限定されないが、ウサギ網状赤血球溶解物、小麦麦芽溶解物、ショウジョウバエ胚エキス、ホタテ貝溶解物(Storchら、J.Comparative Physiology B、173:611−620(2003))、マウス脳抽出物(Campagnoniら、J Neurochem.28:589−596,1977、Gilbertら、J Neurochem.23:811−818,1974)及びトリ脳(Liuら、Transactions of the Illinois State Academy of Science,Volume68,1975)が含まれる。
【0084】
抽出物は、転写/翻訳系の均一性を維持しうるいかなる公知の方法によっても調製でき、また、その方法工程において転写/翻訳の段階で必要な一つ以上の構成要素が損害を受けた場合でも、その損害を受けた構成要素はその後の調製抽出物と交換できる。細菌抽出物は、Zubay(1973)の方法及びその変法に従って調製することができる。一般的な熟練した当業者であれば、抽出工程に関する多くの変更が、本発明の範囲内で可能であると認識するであろう。抽出物は好ましくは、通常では系に存在しない、合成に用いられる全ての必要な構成要素を含む。エネルギー及び他の構成要素を合成反応に提供する、抽出物中の酵素及び他の構成要素は、抽出された細胞の由来であっても、また抽出物の調製において添加してもよい。抽出物の補充により、存在しない、不充分に存在する、又は最適量で存在する構成要素の濃度を、追加又は増加させてもよい。抽出物は、多くの公知技術のいずれか一つ以上を使用して濃縮してもよい。
【0085】
IVPS抽出物を調製する一般的方法において、抽出物は、細胞残渣を除去する工程に供される。遠心分離が、この種の固形成分を除去する一般的な方法である。濾過、クロマトグラフィー又は他の任意の分離又は精製工程を、所望の抽出物の調製に用いてよい。場合により、例えば一つ以上の望ましくない構成要素を捕捉又は除去できる親和性物質を用いて、その抽出物中の望ましくない構成要素を除去することができる。
【0086】
本発明の幾つかの態様において、IVPS抽出物は、変異型の生物又は細胞から調製される。特に、IVPS抽出物は、SlyDタンパク質を欠失又はそのレベルが減少した細胞から調製されうる。これは、ヒスチジン残基6つが連続する配列(「Hisタグ」)、及び/又は、検出可能な標識(「FlAsH」又は「LUMIO」タグ)を付与された、ヒ素分子と結合するアミノ酸配列を含む融合タンパク質を調製するためにIVPS抽出物を使用する場合に特に望ましい。SlyDは、これらのアミノ酸配列のいずれとも相互作用するため、野生型の細菌又はIVPS抽出物の場合に生じた融合タンパク質をしばしばコンタミネーションさせる物質でもある。米国特許出願公開第2005/0136449号は、SlyDタンパク質のレベルが減少した細胞抽出物の翻訳系への使用に関するものであり、その全ての開示内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0087】
Expressway IVPSシステム
幾つかの実施態様において、本発明は、一つ以上のExpressway(商標)IVPSシステム(Invitrogen、Carlsbad、CA)、又はそのアッセイ使用に関する。Expressway(商標)システムは、限定されるものではないが以下のものを含む。
【0088】
Expressway(商標)Plus発現システムは、共役する転写及び翻訳反応を利用して活性型の組換えタンパク質を産生するものである。Expressway(商標)Plusシステムには、無細胞タンパク質産生に必要な全ての構成要素が含まれる。そのキットには、転写及び翻訳を推進するのに必要な細胞内機構を含む大腸菌抽出物が含まれる。キットにはIVPS Plus反応バッファーも含まれ、そこには必要なアミノ酸(メチオニンを除く)及びエネルギー再生系用のATPが含まれる。反応バッファー、メチオニン、T7酵素ミックス、並びにT7プロモーターに制御可能に連結された目的物質のDNA鋳型が、大腸菌抽出物と混合されている。DNA鋳型が転写される際、鋳型の3’末端がまだ転写されているときでもmRNAの5’末端にリボソームが結合し、翻訳が行われる。
【0089】
Expressway(商標)Linear発現システムは、直鎖DNA鋳型からの迅速かつ高収量なインビトロ発現に使用される。その系では大腸菌抽出物が用いられ、直鎖鋳型から完全長の活性型タンパク質を発現させるために最適化されている。その結果、直鎖鋳型は転写及び翻訳の間安定に保持され、適切にフォールディングされた産物が高収量で得られる。Expressway(商標)Linear発現システムでは、少なくとも二つのオプションが、T7プロモーターで誘導される鋳型の生成に利用できる。Expressway(商標)Linear発現キットは、発現の際に使用される適切な要素(T7プロモーター、リボソーム結合部位、T7ターミネーター配列)を含むプラスミドから生じるPCR鋳型の発現に使用可能である。TOPO(登録商標)ツールを有するExpressway(商標)Linear発現キットには、PCR産物に制御可能に連結できる5’及び3’エレメントが含まれる。5’エレメントには、T7プロモーター、リボソーム結合部位及び開始コドンが含まれる。3’エレメントには、V5エピトープタグ、それに続く6×His領域及びT7ターミネーターが含まれる。TOPO(登録商標)ツールの上記エレメントは、TOPO(登録商標)のライゲーション反応でPCR産物に連結され、更にPCRにより増幅される。
【0090】
Lumio(商標)テクノロジーキットを有するExpressway(商標)Plus発現システムには、IVPS Lumio(商標)大腸菌抽出物、IVPS Plus大腸菌反応バッファー、RNaseA、T7酵素ミックス、メチオニン、反応チューブ、pEXP3−DESTベクター、対照プラスミド、並びにLumio(商標)グリーン検出キット又はその構成要素が含まれる。Keppetipolaら、「Rapid Detection of in vitro expressed proteins using LumioTM Technology」Focus25.3:7,2003を参照されたい。
【0091】
これらの、また他のExpressway(商標)システムは、これらの製品に関する以下に示す取扱説明書において詳述され、その全ての内容が、IVPS系及び方法に関する本発明の開示において参照により本明細書に組み入れられる。
ExpresswayTM In vitro Protein Synthesis System Manual、Version C、2003年4月11日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expressway_man.pdf参照)。
ExpresswayTM Linear Expression System Manual、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswaylinear_man.pdf参照)。
ExpresswayTM Linear Expression System with TOPO(registered trademark) Tools Technology、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswaylinearwithTOPO(registered trademark)tools_man.pdf参照)。
Expressway Plus Expression System Manual、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswayplus_man.pdf参照)。
Expressway Plus Expression System with Lumio Technology Manual、Version B、2004年2月27日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswayplus_lumio_man.pdf参照)。
【0092】
供給溶液
幾つかの態様において、本発明は、供給溶液、並びに供給溶液の調製及び使用方法に関する。供給溶液とは、反応開始後、インビトロタンパク質合成(IVPS)反応に添加される溶液である。すなわち、供給溶液が存在しない場合でも反応が進行するという点では、供給溶液はIVPSに必須の構成要素ではない。供給溶液は、IVPS反応の進行中に添加され、系において産生されるタンパク質の収量、可溶性タンパク質の収量又は活性タンパク質の収量の一つ以上を向上させる。
【0093】
技術背景としては、IVPS系には、一般に四つのタイプのIVPS反応が含まれる。
【0094】
1.バッチIVPS反応:
バッチ反応においては、合成の初速度が速く、やがて減速し、約3時間後に最終的に停止する。アミノ酸が取り込まれ又は代謝されると、反応混合物の組成が変化し、またエネルギー源が代謝されると反応抑制性の遊離リン酸が生じる。例えばKawarsakiら、Anal.Biochem.226:320,1995、Patnaikら、BioTechniques 24:862,1998及びKigawaら、J.Biochem.,110:166,1991を参照されたい。
【0095】
2.供給/希釈IVPS反応:
IVPS反応は、一定時間経過後に「供給溶液」(別名「供給バッファー」)として新鮮な構成要素を供給することで延長でき、それにより反応抑制性の副産物が希釈されるという望ましい効果も奏される。しかしながら一方では、転写及び/又は翻訳因子の過度な希釈により、IVPS系の活性減少又は損失となりうる。
【0096】
3.二重層積層IVPS反応:
より高密度の反応混合物が供給溶液によって積層され、構成要素は受動拡散で交換される。反応速度は、反応器の「非振とう」のために遅い。例えばSawasakiら、2 FEBS Lett 514:102,2002を参照。
【0097】
4.連続交換IVPS反応:
反応チャンバーが一つ以上の透析膜によって供給溶液と隔離されており、基質及び副産物の連続的な交換が可能である。例えばEndoら、J.Biotechnol.25:221,1992;及びSpirinら、Science 24:1162,1988を参照。
【0098】
本発明の供給溶液及び他の組成物は完全又は部分的に、上記四つのIVPS反応のいずれをも含む、あらゆるタイプのIVPS系に適用できる。好ましくは、供給溶液は、1)バッファー、2)アミノ酸、及び3)少なくとも一つのエネルギー源又はエネルギー発生酵素を含む。
【0099】
本発明の代表的な供給溶液は、以下のうち幾つか(ただし全てである必要はない)を含む。
(a)バッファー(10〜500mM、好ましくは10〜100mM)、
(b)10〜500mM(好ましくは60〜120mM)の酢酸アンモニウムを含む、一つ以上の塩、
(c)一つ以上の還元剤、
(d)少なくとも四つのアミノ酸、及び
(e)一つ以上のエネルギー源及び/又は補因子。
【0100】
これらの構成要素の各々につき、以下に詳細に記載する。
【0101】
(a)バッファー:バッファーは、反応系のpHを維持するために供給溶液に含まれる。一般に、初めの反応混合物及び供給溶液で同じバッファーが使用されるが、ただし同じである必要はない。供給溶液のバッファーのpHは、初めの反応混合物のそれから変化してもよい。バッファーの非限定的な例として、トリス、Bis−トリス及びHEPESが含まれる。
【0102】
本発明の幾つかの実施態様において、10〜100mMの最終濃度のHEPESバッファーが、反応系のpHを維持するために供給溶液に含まれる。供給溶液バッファーのpHは約7〜約9でよいが、好ましくは約7.5〜約8.5である。例示的な実施態様において、バッファーのpHは約8.0である。
【0103】
(b)還元剤は、限定されないが、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、グルタチオン、ジチオスレイトール(DTT)及びβ−メルカプトエタノールを含んでよい。Getzら、Analytical Biochemistry 273,73−80(1999)を参照。
【0104】
(c)塩類:塩は、酸(又はそのカチオン)と塩基又は金属との結合によって形成される中性化合物である。塩類は、それらを構成するイオンに従って命名される。カチオン成分、しばしば金属イオン(例えばCa++、Mg++、Mn++)又はアンモニウムイオン(NH4+)が最初に添加され、それに続いてアニオン性(負に荷電する)構成要素が添加される。カチオンは一価(+1)、二価(+2)、三価(+3)その他であってもよい。また、一価のカチオンには、限定されないが、H+及びK+が含まれる。二価のカチオンには、限定されないがCa++、Zn++、Hg++、Mn++、Mg++、Ba++及びSr++が含まれる。多くのインビボ及びインビトロでの生化学反応において、二価のカチオンは補因子となる。より詳しくは、Ca++、Mn++及びMg++は、酵素反応にしばしば用いられる補因子であって、ゆえに幾つかの生化学の系において好まれる。
【0105】
アニオンは一価(−1)、二価(−2)、三価(−3)その他であってよい。アニオンは一般に、それらの共役酸(例えば酢酸塩、炭酸塩、塩化物、シアン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩及びクエン酸塩)に従って命名される。
【0106】
上記の非限定的なアニオンの例のいずれも、本発明の組成物において使用する塩の一部でありえる。アミノ酸塩(例えばグルタミン酸カリウム)も同様に使用できる。
【0107】
好適な塩類として、限定されるものではないが、例えば、5〜50mM、好ましくは10〜15mMのマグネシウム塩、180〜250mM、好ましくは230mMのグルタミン酸カリウム、1〜750mM、好ましくは5、10、20、30、50又は100mMのCaCl2、及び10〜500mM、好ましくは60〜120mM、より好ましくは70〜90mMの酢酸アンモニウム、が含まれる。本発明の幾つかの態様において、酢酸カリウムはグルタミン酸カリウムの代替となりうる。
【0108】
供給溶液に含まれる塩類は、初めの反応バッファーに含まれるものと同じでもよく、又は更なる塩類(例えば塩化カルシウム)を添加してもよい。供給溶液を異なる塩濃度にし、それにより供給溶液が添加された後の反応系の全体の濃度を増減させてもよい。供給バッファーへのカルシウムの添加により、例えば、IVPS反応において0.1〜10mM、好ましくは0.5〜5mM、より好ましくは約1〜2.5mMにカルシウム濃度を増加させることにより、約10%の収量増加が可能となる。
【0109】
(d)アミノ酸は、0.05〜5.0mM、好ましくは0.25〜2.5mM、より好ましくは0.5〜2mM、最も好ましくは1.0〜1.5mMで供給溶液に存在する。天然アミノ酸の全20種又はそれらの幾つかを供給バッファーに添加してもよい。幾つかの好ましい実施例においては、全20種が含まれる。一つ以上のアミノ酸が、他の種類のものより高い又は低い濃度で含まれていてもよい。例えば、幾つかの場合において、一つ以上のアミノ酸が特に他のものより高い濃度で存在するときに、タンパク合成がより効率的になりうる。他の場合において、特に、タンパク質は修飾アミノ酸により標識されうる。この場合、その対応する天然アミノ酸は、供給溶液において低濃度で含めてもよく、又は供給溶液中から省いてもよい。
【0110】
本発明の幾つかの実施態様において、IVPS反応は、目的タンパク質に検出可能な標識を付された及び/又は非天然のアミノ酸を能率的かつ特異的に付与するのに使用され、そこでは一つ以上のアミノ酸が標識又は修飾された形態で提供され、又は非天然又は修飾されたアミノ酸が「標準」アミノ酸と置換される。検出可能な標識を付されたアミノ酸は、蛍光物質(例えばフルオレセイン5−イソチオシアネート(FITC))とのコンジュゲート、ビオチン又はストレプトアビジンとのコンジュゲート、又は、限定されないが、重元素若しくは放射性同位元素で標識されたアミノ酸(15N標識アミノ酸、35S標識アミノ酸、14C標識アミノ酸、及び2H標識アミノ酸を含む)により生じうる。
【0111】
(e)エネルギー源には、限定しないが、解糖系の中間代謝物又は他のリン酸輸送分子(例えばアセチルリン酸、クレアチンリン酸又はホスホアルギニン)が含まれる。エネルギー源は、基質分子(例えば解糖系の中間代謝物)又は酵素(例えばヘキソキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、アルギニンキナーゼ又はピルビン酸オキシダーゼ(米国特許第6,168,931号及び第6,337,191号(双方ともエネルギー源及びエネルギー発生酵素及び系に関し、本明細書において全ての開示内容が参照によって組み入れられる)を参照))であってもよい。
【0112】
本発明において、解糖系の中間代謝物は、供給溶液に含ませる好適なエネルギー源である(例えば、米国特許第6,337,191号(IVPS系のエネルギー源として解糖系の中間代謝物を使用、全ての開示内容が参照によって本明細書に組み入れられる)を参照)。限定されないが、3−ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、フルクトース−6−リン酸又はグルコース−6−リン酸のような解糖系の中間代謝物、又はその他の解糖系の中間代謝物を、1〜200mM、好ましくは10〜100mMで添加してもよい。
【0113】
本発明において、供給溶液に含ませる好適なエネルギー源は、初めの反応バッファーに含まれないエネルギー源分子である。例えば、初めの反応IVPSバッファーには、好ましくはアセチルリン酸及びホスホエノールピルビン酸が含まれる。発明者らは、t=0にて添加されるものと異なるエネルギー源分子を添加することにより、同じエネルギー源分子(例えばアセチルリン酸及びホスホエノールピルビン酸)を更に添加するよりもより良好な翻訳収量が得られることを見出した。好ましくは、供給溶液に添加される追加的なエネルギー源分子は、ベースとなる反応バッファーに添加されていない解糖系の中間代謝物である。好適な解糖系の中間代謝物には、限定されないが、ヒスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸及び3−ホスホグリセリン酸の個々、又はそれらの組み合わせが含まれる。IVPS反応の解糖中間体の最適全体の濃度は、好ましくは20mM〜60mMであり、80mMを上回らない。
【0114】
好ましくは、初め又は「ベース」のIVPS反応バッファーは少なくとも二つのエネルギー源を含み、供給溶液はベースの反応バッファーのエネルギー源とは異なる少なくとも一つのエネルギー源を含む。それにより、反応系には供給溶液の添加後、少なくとも三つの異なるエネルギー源が添加されていることになる。好ましくは、供給溶液に含まれるエネルギー源は解糖系の中間代謝物であり、IVPS系に添加されると、タンパク質の収量の向上、可溶タンパク質の収量の向上、又は活性を有するタンパク質の収量の向上、のうちの少なくとも一つが得られる。他の好ましい実施態様において、供給溶液に添加される一つ以上のいずれかのエネルギー源は酵素ではない。これにより、供給バッファーにおける酵素の安定性の問題が回避され、単一の供給試薬を反応系に添加することが可能となり、更には酵素の浪費が回避される。
【0115】
幾つかの好ましい実施例においては、ベースの反応IVPSバッファー又は供給バッファーに添加されるエネルギー源は、酵素ではない。供給バッファーへの酵素の不使用による利点はまた、初めの反応系にも当てはまる。しかしながら、好ましい実施態様では、一つ以上のエネルギー源生成酵素を、IVPS試薬の添加前(例えばIVT反応の前に実行されうる抽出物のプレインキュベーションの前又は間に、好ましくは抽出物の分注及び貯蔵前)に、S30抽出物に添加してもよい。例えば、ピルビン酸キナーゼを抽出物のプレインキュベーション前にS30抽出物に添加し、内因性の情報伝達に必要なエネルギー源として提供してもよい。すなわち、本発明の方法で使用するインビトロ系翻訳には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を添加してもよい。例えば、インビトロ翻訳系は最低四つの異なる追加的なエネルギー源を含みうるが、その少なくとも一つは解糖系の中間代謝物である。更に、他の好ましい実施形態では、インビトロ翻訳系には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、またその他の少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。好ましい態様において、インビトロでの翻訳系には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、その他の少なくとも一つが、IVPS反応の開始後に添加されてIVPS系の性能を強化する解糖系の中間代謝物である。本発明の方法において、少なくとも一つの解糖系の中間代謝物を、反応の開始の少なくとも10分後にインビトロ翻訳反応の供給溶液に添加することにより、系中で合成されるタンパク質の収量、可溶性タンパクの収量、又は活性を有するタンパクの収量が向上する。非常に好適な実施態様において、インビトロ翻訳系には最低四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、その他の少なくとも一つが、IVPS反応の開始後に添加されてIVPS系の性能を強化する解糖系の中間代謝物であって、そこにおいて、反応開始後に添加される解糖系の中間代謝物は、系に添加される他のエネルギー源のいずれとも異なる。本発明の方法において、反応開始の少なくとも10分後にインビトロ翻訳反応に添加される供給溶液に、少なくとも一つの解糖系の中間代謝物を添加することにより、収量、可溶性タンパクの収量又は活性を有するタンパク質の収量の一つ以上が向上する。
【0116】
補因子NAD又はNADHの存在しない供給溶液への解糖系中間代謝物の添加により、合成されるタンパク質の活性の向上が可能となり、更に、例えばNAD又はNADHを、限定されないが、0.1〜25mM、好ましくは0.1〜1mM共存させることにより、合成タンパク質の良好な発現及び活性を高めることができる。これらの効果は、以下の各構成要素の濃度範囲:アミノ酸 1mM〜5mM;解糖系の中間代謝物 5mM〜100mM;及びNAD/H 0.1mM〜1mM、において観察されうる。
【0117】
一つの態様において、本発明は、多くの望ましい特徴(例えば、タンパク質の収量増加、タンパク質の溶解性増加、短いタンパク合成反応時間でタンパク質収量を同等又は増加量得ること)を有する有効な供給溶液を提供する。
【0118】
他の態様においては、本発明はまた、インビトロタンパク質合成を実行する方法であって、タンパク質の産生に充分な量の細胞抽出物、鋳型核酸及び試薬を含む進行中のタンパク合成反応に、供給溶液を添加する方法を含む。
【0119】
初めの合成混合物は、供給バッファーが存在しない状態で、タンパク合成が少なくとも30分間、好ましくは少なくとも60分間行われるのに充分な試薬を含む。供給溶液は、進行中のタンパク合成を強化するために添加される。本発明は、いかなるタイプのIVPS系又は技術(例えばバッチ反応、供給/希釈、二重層積層、連続交換その他)にも適用できる。供給/希釈IVPS系においては、反応開始(t=0)後、IVPS反応は随時供給溶液による補充を受ける。
【0120】
一つの実施態様において、上記方法には、細胞抽出物に対して、初めの合成混合物を構成する、アミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源及び鋳型核酸を添加することと、一定時間、初めの合成混合物をインキュベートすることと、バッファー、アミノ酸及び少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液を、初めの合成混合物に添加して拡張型合成混合物を調製することであって、その供給溶液に添加されている一つ以上の追加的なエネルギー源が初めの合成混合物の一つ以上のエネルギー源と異なることと、及び、追加された時間、拡張型合成混合物をインキュベートし、少なくとも一つのタンパク質を合成すること、が含まれる。
【0121】
好ましい実施態様において、これらの方法で使用する供給溶液には、バッファー、一つ以上の塩類、少なくとも4、好ましくは少なくとも15、より好ましくは20種類のアミノ酸(その一つ以上が非天然(例えば標識又は修飾)であってもよい)、及び解糖中間体のエネルギー源が含まれる。好ましくは、上記供給溶液には補因子(例えばNAD又はNADH)も含まれる。
【0122】
本明細書において開示される供給溶液を使用する方法は、この種のインビトロ反応において二つの点で有用である。第一に、IVPS反応が新規な構成要素(反応の間に減少又は分解した構成要素及び/又は初めの反応には存在しない新規な構成要素のいずれか)で補充されることである。第二に、いかなる反応抑制性の副産物もバッファーの付加によって希釈されるため、合成反応が延長されることである。但し、転写及び/又は翻訳因子の過度の希釈は、IVPS系の活性の減少又は損失をもたらしうる。本発明の組成物は、濃縮形態にて調製されることで、IVPS系の活性低下又は損失をもたらしうる、転写及び/又は翻訳因子の過剰な希釈を回避できる。
【0123】
供給バッファーは、初めの合成混合物に対して、例えば初めの合成混合物容量の10分の1〜初めの合成混合物容量の10倍の任意の量で添加することができる。好ましくは、初めの合成混合物容量の4分の1〜初めの合成混合物容量の2倍の量を供給の際に添加する。更により好ましくは、当初のIVPSの液量の半分量〜等量を、IVPS反応系に添加する。しかしながら、単一のIVPS反応系内に三つ以上のエネルギー源を存在させることもまた、それらが反応初めに添加されるか、又は一つ以上のエネルギー源が供給溶液に存在するかに関係なく、本発明の態様に含まれると解される。すなわち、本発明には、三つ以上のエネルギー源を含むIVPS系が含まれ、そのうちの少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS系は三つ以上のエネルギー源を含み、そのうちの少なくとも一つが解糖系の中間代謝物であり、また少なくとも一つが酵素である。本発明にはまた、四つ以上のエネルギー源を含むIVPS系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS反応には四つ以上のエネルギー源が含まれ、その少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS系には四つ以上のエネルギー源が含まれ、その少なくとも一つが解糖系の中間代謝物であり、少なくとも一つが酵素である。
【0124】
本発明は、供給溶液をIVPS反応に添加することによって、目的タンパク質(POI)をmg単位の量で合成できる方法を提供する。好ましくは、上記タンパク質は少なくとも1〜約1mg/mLから、又はより好ましくは約100mg/mL〜約800mg/mLの濃度で、IVPS反応時間のうち約1時間〜約10時間、好ましくはIVPS反応時間のうち約2時間〜約8時間、更に好ましくは総IVPS反応時間のうち約3時間〜約7時間にて合成される。例えば、0.5〜5mL(一つ以上の供給後の最終容量)での4〜6時間の反応において、タンパク質をmg単位の量で合成できる。供給溶液を使用する典型的なIVPS反応により、1〜2mLの最終反応液量を用いた4〜6時間の反応により、少なくとも0.8mg、より好ましくは少なくとも1mgのタンパク質が合成される。
【0125】
本明細書において「供給溶液」とされる組成物は、供給及び/又は希釈のないIVPS系又は工程でも使用できることを理解すべきである。例えば、本発明の供給溶液として本明細書において記載されている組成物は、t=0の時点でバッチ反応又は連続交換系などにおいて連続的、断続的に添加してもよい。
【0126】
本発明の方法には、IVPS反応に一回、二回又はそれ以上の回数、供給溶液を添加することが含まれる。好ましくは、簡便化のために一、二回の供給が行われる。例えば、供給溶液を二つの時点でIVPSに添加することができ、その各供給では初めの合成混合物の半分量を添加してもよい。あるいは、初めの合成混合物の等量を一度に供給してもよい。なお、これらの例は限定的なものではない。
【0127】
IVPS反応の間、供給溶液を任意の時点で添加することができるが、好ましくは反応開始後の初めの1時間以内に、少なくとも一度の供給を行うべきである。以下の実施例にて説明するように、IVPS開始後、第一の供給が1時間以内に行われる場合、その後でその第一の供給が行われる場合よりも、反応後のタンパク質収量において良好な結果が得られる。但し、反応開始時に供給バッファーを添加することは最適ではない。それは必須の構成要素を希釈することになるためと考えられる。すなわち、供給溶液の第一の添加は、IVPS開始後早くとも5分後に、好ましくはIVPS開始後早くとも10分後に行われる。供給溶液は例えば、IVPSの開始後15分後又はそれ以後に添加されるのがよい。1時間後に第一の供給を行っても、それほど効果的でない。すなわち、一つ以上の供給が行われる場合、第一の供給は好ましくはIVPS開始後約15〜約60分後に行われる。第二の供給を行う場合、第一の供給後の任意の時点で、好ましくは少なくとも30分、より好ましくは少なくとも60分後に添加される。
【0128】
IVPS抽出物及び反応系への界面活性剤の添加
本発明の幾つかの態様において、一つ以上の脂質、表面活性剤又は界面活性剤が、IVPS細胞抽出物又はIVPS反応混合物に添加される。一つ以上の脂質、表面活性剤又は界面活性剤により、幾つかのタンパク質(例えば膜タンパク質)の溶解性又は活性が向上する。IVPS系における、一つ以上の脂質及び一つ以上の表面活性剤、一つ以上の脂質及び一つ以上の界面活性剤、一つ以上の表面活性剤及び一つ以上の界面活性剤、並びに、一つ以上の脂質及び一つ以上の表面活性剤及び一つ以上の界面活性剤、の組み合わせの使用が含まれると解される。
【0129】
好適な脂質は、グリセロール又はスフィンゴ脂質をベースとして形成されるリン脂質であってよく、例えば、二つの炭素原子数6〜20の飽和脂肪酸、及び一般的に用いられるヘッドグループ(例えば、限定されないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン)を含むことができる。頭部基は、非荷電でも、正荷電でも、負荷電でも、両性イオン性でもよい。リン脂質は、天然物(天然にて得られる)、合成物(天然にて得られない)又は天然物及び合成物の混合物であってもよい。リン脂質の例としては、PC(ホスファチジルコリン)、PE(ホスファチジルエタノールアミン)、PI(ホスファチジルイノシトール)、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、DMPC(ジミリストイルホスファチジルコリン)、POPC(1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン)、DHPC(ジヘキサノイルホスファチジルコリン)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジヘキサノイルホスファチジルエタノールアミン、ジヘキサノイルホスファチジルイノシトール、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン、又は1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルイノシトールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない
【0130】
非界面活性剤の表面活性剤として、限定するものではないが、非界面活性剤スルホベタイン(NDSB)などをIVPS反応に含めてもよい。NDSBは、スルホベタイン親水基及び短い疎水基を有する両性イオン性の化合物である。ミセルを形成して凝集できないため、NDSBは界面活性剤とは考えられていない。
【0131】
イオン系、非イオン系及び両性イオン系の界面活性剤を含む界面活性剤を、IVPS反応に含めてもよい。非イオン系及び両性イオン系界面活性剤は、本発明の大部分の態様において好適である。幾つかの実施態様において、IVPS反応に添加される界面活性剤は、好ましくは15〜300mM、より好ましくは、20〜50mMの臨界ミセル濃度を有する非イオン系又は両性イオン系界面活性剤である。
【0132】
アニオン系界面活性剤には、限定されるものではないが、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム塩、グリココール酸水和物(合成)、グリココール酸ナトリウム塩水和物、グリコデオキシコール酸一水和物、グリコデオキシコール酸ナトリウム塩、グリコリトコール酸3−硫酸塩二ナトリウム塩、及びグリコリトコール酸エチルエステル、
1−ブタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1−ノナンスルホン酸ナトリウム、1−プロパンスルホン酸ナトリウム一水和物、及び2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム、
コール酸ナトリウム水和物、胆汁酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサンスルホン酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ペンタンスルホン酸ナトリウム、及びタウロコール酸ナトリウム、
タウロケノデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム一水和物、タウロヒオデオキシコール(Taurohyodeoxycholic)酸ナトリウム塩水和物、タウロリトコール酸3−硫酸二ナトリウム塩、及びタウロウルソデオキシコール酸ナトリウム塩、
並びに、ケノデオキシコール酸、コール酸(雄牛又は羊胆汁)、デヒドロコール酸、デオキシコール酸メチルエステル、ジギトニン、ジギトキシゲニン、N,N−ジメチルドデシルアミン N−オキシド、ドキュセートナトリウム塩、N−ラウロイルザルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、Niaproof4(Type4)、1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、Trizma(登録商標)ドデシル硫酸、及びウルソデオキシコール酸、が含まれる。
【0133】
カチオン系界活性剤には、限定されないが、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、臭化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム、及びベンジルトリメチルアンモニウムテトラクロロヨウ素酸、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、臭化ドデシルエチルジメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化エチルヘキサデシルジメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化トンゾニウム、及び臭化トリメチル(テトラデシル)アンモニウムが含まれる。
【0134】
非イオン系表面活性剤には、限定されないが、Brij(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないがBrij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)58P、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92V、Brij(登録商標)97、及びBrij(登録商標)58P、
Span(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないがSpan(登録商標)20、Span(登録商標)40、Span(登録商標)60、Span(登録商標)65、Span(登録商標)80、及びSpan(登録商標)85、
Triton系界面活性剤、例えば、限定されないがTriton CF−21、Triton CF−32、Triton DF−12、Triton DF−16、Triton GR−5M、Triton QS−15、Triton QS−44、Triton X−100、Triton X−102、Triton X−15、Triton X−151、Triton X−200、Triton X−207、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−114、Triton(登録商標)X−165、Triton(登録商標)X−305、Triton(登録商標)X−405、Triton(登録商標)X−45、及びTriton(登録商標)X−705、
Tergitol系界面活性剤、例えば、限定されないが、Tergitol(Type 15−S−12)、Tergitol(Type 15−S−30)、Tergitol(Type 15−S−5)、Tergitol(Type 15−S−7)、Tergitol(Type 15−S−9)、Tergitol(Type NP−10)、Tergitol(Type NP−4)、Tergitol(Type NP−40)、Tergitol(Type NP−7)、Tergitol(Type NP−9)、Tergitol(Type TMN−10)、及びTergitol(Type TMN−6)、
TWEEN(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないが、TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)21、TWEEN(登録商標)40、TWEEN(登録商標)60、TWEEN(登録商標)61、TWEEN(登録商標)65、TWEEN(登録商標)80、TWEEN(登録商標)80、TWEEN(登録商標)81、及びTWEEN(登録商標)85、
Mega系の界面活性剤、例えば、限定されないが、Mega−8及びMega−10、
N−ドデカノイル−N−メチルグルカミン、n−デシル a−D−グルコピラノシド、デシル β−D−マルトピラノシド、n−ドデカノイル−N−メチルグルカミド、n−ドデシル a−D−マルトシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、及びn−ヘキサデシル−β−D−マルトシド、
ヘプタエチレングリコールモノデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル、及びヘプタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
オクタエチレングリコールモノデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びオクタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、オクチル−b−D−グルコピラノシド、
ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びペンタエチレングリコールモノオクチルエーテル、
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールエーテルW−1、
ポリオキシエチレン10トリデシルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレン100、ポリオキシエチレン20イソヘキサデシルエーテル、及びポリオキシエチレン20オレイルエーテル、
ステアリン酸ポリオキシエチレン40、ステアリン酸ポリオキシエチレン50、ステアリン酸ポリオキシエチレン8、ポリオキシエチレンビス(イミダゾリルカルボニル)、及びポリオキシエチレン25、
テトラエチレングリコールモノデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、及びテトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
トリエチレングリコールモノデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
ホスフィンオキシド(例えばAPO−9、APO−10、APO−12)、
並びに、ビス(ポリエチレングリコールビス[イビダゾリルカルボニル])、Cremophor(登録商標)EL、デカエチレングリコールモノドデシルエーテル、チロキサポール、及びn−ウンデシル−β−D−グルコピラノシド、Igepal CA−630、メチル−6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)−a−D−グルコピラノシド、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル、N−ノナノイル−N−メチルグルカミン、NP−40、ステアリン酸プロピレングリコール、サポニン(例えばキラヤ樹皮からのサポニン)、及びテトラデシル−b−D−マルトシド、が含まれる。
【0135】
両性イオン系界面活性剤には、限定されないが、Zwittergent(登録商標)界面活性剤、限定されないが、例えばZwittergent(登録商標)3−12(3−ドデシル−ジメチルアンモニオ−プロパン−1−スルホン酸エステル)、Zwittergent(登録商標)3−08、Zwittergent(登録商標)3−10、Zwittergent(登録商標)3−14、及びZwittergent(登録商標)3−16、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル分子内塩、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル分子内塩、3−(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル、3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル、及び3−(N,N−ジメチルパルミチルアンニオ)プロパンスルホン酸エステル、
並びに、BigCHAP、CHAPS、CHAPSO、ジメチル−ドデシルアミン、DDMAU、ラウリルジメチルアミンオキシド(LADAO、LDAO)、及びN−ドデシル−N,N−ジメチルグリシン、が含まれる。
【0136】
本発明の幾つかの実施態様において、一つ以上のリン脂質、表面活性剤又は界面活性剤を直接反応混合物に添加し、IVPS反応混合物に存在させる。一つ以上の界面活性剤、表面活性剤若しくはリン脂質、又はそれらの組み合わせを、本発明の供給溶液に使用できる。
【0137】
本発明の幾つかの態様において、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクを、IVPS反応混合物に添加してもよい。リン脂質を二重層構造に含むリン脂質−タンパク質粒子又は「ナノディスク」であって、アポリポタンパク質A1(ApO−A1)のような骨格タンパク質又はその誘導体によって囲まれたものが、Bayburtら(J.Struct.Biol.123:37−44(1998))、Bayburt及びSligar(PNAS99:6725−6730(2002)、Protein Science12:2476−2481(2004))に記載されており、また米国特許出願公開第2005/0182243号において開示されており、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクに及びそれらの構成要素(例えばリン脂質及び骨格タンパク質)に関する全ての開示内容が参照によって本明細書に組み入れられる。特に膜タンパク質をIVPS反応で合成するとき、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクの添加により可溶タンパク質の収量を向上させることができる。例えば、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクは、本明細書に記載のIVPS反応において、0.1〜100mm、好ましくは0.2〜50m、最も好ましくは0.5mm〜40mmの濃度で添加できる。例えば、ナノディスクを約1mmから約20mmにてIVPS反応に存在させてもよい。
【0138】
ナノスケールのリン脂質二重層ディスクをIVPS反応に添加して、インビトロ翻訳された膜タンパク質の溶解性を増加させることができる。膜タンパク質(貫通型、埋め込み型及び周辺膜タンパク質を含む)は、ナノディスクの存在下でインビトロ翻訳ができ、その結果膜タンパク質はナノスケールのリン脂質二重層ディスクに挿入される。本発明の幾つかの態様において、ナノディスクに挿入された膜タンパク質は、ナノディスクの骨格タンパク質に存在する親和性タグにより単離できる。
【0139】
他の本発明の好ましい実施例において、一つ以上のリン脂質、表面活性剤又は界面活性剤を、IVPSに使用する細胞抽出物の調製中に細胞又は細胞溶解物に添加して、IVPS反応混合物中に存在させる。リン脂質、表面活性剤又は界面活性剤は、細胞溶解前の細胞に、又は細胞溶解物からの細胞残渣除去前の細胞溶解物に添加するのが好ましい。実施例において示すように、細胞又は細胞溶解物からの細胞残渣の除去前の細胞溶解物への界面活性剤の添加により、界面活性剤なしで調製される抽出物の場合よりも多量の可溶タンパク質を生じさせる細胞抽出物が結果的に得られる。すなわち、本発明の方法では、調製物の上清を(例えば、遠心分離、濾過、クロマトグラフィーその他によって)抽出する間、細胞溶解物から分離される膜及び細胞残渣は、細胞溶解物からの除去前に、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は添加された脂質に暴露される。
【0140】
本発明は特定の方法に限定されるものではないが、抽出物が本発明の方法を使用して調製されるとき、特定の周辺膜タンパク質、凝集タンパク質又は他の生体分子であって、標準IVPS抽出物の調製の間、遠心分離によって取り除かれるものは、界面活性剤による処理によって可溶化され、細胞溶解物の遠心分離の間に上清画分に移行すると考えられる。ゆえにこれらの可溶化された構成要素は細胞溶解物の上清画分の一部となり、細胞残渣から分離されてIVPSにおける細胞抽出物として用いられる。この種の可溶化タンパク質又は生体分子により、インビトロ合成されたタンパク質の収量向上、可溶化の促進、溶解性又は活性の増加がなされる。
【0141】
非界面活性剤の表面活性剤及び/又はリン脂質もまた、生体分子又はタンパク合成、フォールディング又は可溶化を促進する因子の遊離を促進しうる。本発明にはまた、一つ以上の表面活性剤、一つ以上の界面活性剤又は一つ以上の脂質(限定しないが一つ以上のリン脂質)を含む抽出物を有するIVPS系が含まれ、そこにおいて、一つ以上の表面活性剤、界面活性剤又はリン脂質が、細胞溶解に先立ち抽出物の調製に用いる細胞に添加されるか、又は、細胞溶解物からの細胞残渣除去前に、細胞抽出物の調製に用いる細胞溶解物に添加される。
【0142】
本発明には、IVPS系に使用する界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物が含まれ、そこにおいて、その細胞抽出物は細胞を溶解して細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去することによって調製され、そこにおいて、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質が、細胞溶解前の細胞に、又は、細胞残渣を除去する前の細胞溶解物に添加される。本発明において、「細胞残渣」とは、溶解物の構成要素を含んでもよく、限定されないが、例えば、細胞壁の断片、細胞膜の断片、ゲノムDNAの断片又は生体分子の大型の凝集体(例えばサイズ又は密度に基づいて、溶解物から遊離型リボソームを実質的に除去しない方法を使用して溶解物から除去できる)を含む。好ましくは、細胞残渣は、遠心分離又は濾過(最も好ましくは遠心分離)法を使用して溶解物から除去される。
【0143】
遠心分離の代替として又は補足的に、濾過、選択的沈殿、親和性による捕捉又はクロマトグラフィーを、細胞残渣又は望ましくない物質をIVPS用の細胞抽出物として使用される細胞溶解物から分離する方法として任意に使用できる。IVPSに使用する細胞抽出物の調製方法は、様々な真核生物及び原核生物由来の系に関して公知である。本発明は、これらのIVPSに細胞抽出物を使用するいかなる方法又はその変法であって、細胞を溶解し、細胞残渣及び/又は他の望ましくない構成要素を溶解物から除去し、IVPSに使用する抽出物を調製する方法に適用できる。細胞残渣及び/又は望ましくない構成要素の除去は、例えば遠心分離、濾過、クロマトグラフィー、親和性による捕捉などの方法でなされうる。
【0144】
本発明の幾つかの好適な態様において、界面活性剤又は表面活性剤は、細胞溶解バッファー、又は溶解物からの細胞残渣除去前の溶解物に添加される。本発明の幾つかの好適な態様において、界面活性剤は、細胞溶解バッファー、又は溶解物からの細胞残渣除去前の溶解物に添加される。好ましくは、界面活性剤は、非イオン系界面活性剤又は両性イオン系界面活性剤である。
【0145】
本発明のIVPS抽出物の調製に用いる非イオン系界面活性剤は、非限定的な例として、グリコピラノシド(又はグルコピラノシド)、Brij系の界面活性剤、Triton系の界面活性剤、nonidet系の界面活性剤又はTween系の界面活性剤であってよい。幾つかの好適な非イオン系界面活性剤は、グリコピラノシド(又はグルコピラノシド)(例えばドデシルマルトシド、オクチルグルコピラノシド又はオクチルチオグルコピラノシド)、Brij系の界面活性剤(例えばBrij(登録商標)35m)又はTriton系界面活性剤(例えばTriton X−100)である。本発明のIVPS抽出物の調製に用いる両性イオン系界面活性剤は、非限定的な例として、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系の界面活性剤、CHAPS又はCHAPSOであってよく、例えばZwittergent(登録商標)3−14又はCHAPSであってよい。
【0146】
界面活性剤は、他の界面活性剤との、一つ以上の表面活性剤との、若しくは一つ以上の脂質(限定されないが例えばリン脂質)との組み合わせ、又は、一つ以上の追加的な界面活性剤、一つ以上の表面活性剤若しくは一つ以上の脂質とのいかなる組み合わせによっても使用できる。
【0147】
(表2)典型的な界面活性剤
*特に明記しない限りCMCは50mM Na+の数値である。
【0148】
一つの態様において、本発明には、タンパク合成に使用する抽出物の調製方法であって、バッファー中に細胞を再懸濁すること、細胞を溶解させ溶解物を得ること、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質を溶解物に添加すること、及び、溶解物から細胞残渣を除去してタンパク合成に使用する抽出物を得ること、を含む方法が含まれる。好適な方法において、細胞残渣の除去には、溶解物を遠心分離し、リボソームを含む上清の少なくとも一部を除去しタンパク合成に使用する細胞抽出物を得ることが含まれる。細胞は、原核生物でも真核生物細胞でもよい。
【0149】
好ましい実施態様において、一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤を、IVPS用の細胞抽出物として使用する細胞溶解物から細胞残渣を分離する前の、細胞溶解物に添加する。例えば、一つ以上の界面活性剤を、IVPSに使用する細胞抽出物として使用される細胞溶解物から細胞残渣を分離する前に、細胞溶解物に添加してもよい。好ましくは、界面活性剤が抽出物の調製の際に用いられるとき、界面活性剤は、界面活性剤を細胞溶解物に添加後、その細胞溶解物の界面活性剤濃度が界面活性剤のCMSと同等又はそれ以上となるような濃度において用いられる。幾つかの好ましい実施態様において、界面活性剤が抽出物の調製に用いられるとき、界面活性剤は、界面活性剤を細胞溶解物に添加した後、その細胞溶解物の界面活性剤濃度が界面活性剤のCMCの2倍以下となるような濃度において用いられる。
【0150】
本発明には、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物は、細胞を溶解して細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去することによって調製され、そこにおいて、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質が、溶解物からの細胞残渣の除去前に細胞溶解物に添加される、系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、本発明は、少なくとも一つの界面活性剤を含む細胞抽出物を含み、その抽出物が、一つ以上の界面活性剤を細胞残渣の除去前の細胞溶解物に添加することによって調製される、インビトロタンパク質合成系が含まれる。
【0151】
本発明の幾つかの態様において、IVPS抽出物の調製に用いる細胞は、細胞の溶解前に、添加された界面活性剤、表面活性剤又は脂質に暴露される。添加される界面活性剤、表面活性剤又は脂質は、細胞の溶解が始まるのに充分な濃度又は強度では使用されない。例えば、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質を細胞懸濁液に添加してよく、その後、細胞溶解が行われる。他の好ましい実施態様において、界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質は、IVPS抽出物調製用の細胞溶解バッファーに添加される。本発明には、タンパク合成に使用する抽出物の調製方法であって、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質を含むバッファーに細胞を再懸濁すること、細胞を溶解させ細胞溶解物を得ること、及びIVPSに使用する細胞抽出物を調製するために細胞残渣をその溶解物から分離すること、を含む方法が含まれる。好適な方法において、細胞残渣の分離には、溶解物を遠心分離し、少なくとも一部の上清を取り除き、タンパク合成に使用する細胞抽出物を得ることが含まれる。細胞は、原核生物でも真核生物細胞でもよい。
【0152】
幾つかの好ましい実施態様において、一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤が、IVPSに使用する抽出物の調製用の未処理細胞に添加される。一つ以上の界面活性剤は、例えば、細胞溶解前の未処理細胞に添加してもよい。例えば、細胞ペレットをバッファー中に再懸濁し、一つ以上の界面活性剤をその再懸濁液に添加してもよい。好ましくは、細胞懸濁液中の界面活性剤の最終濃度が、界面活性剤のCMCと同等又はそれ以上となる量の、界面活性剤を添加する。あるいは、細胞ペレットを、一つ以上の界面活性剤を含むバッファー中に再懸濁してもよく、その場合、バッファー中の界面活性剤濃度は、界面活性剤のCMC以上であるのが好ましい。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS抽出物の調製の際、界面活性剤が細胞溶解前の細胞懸濁液に添加されるとき、細胞懸濁液中の界面活性剤濃度は界面活性剤のCMCの2倍未満である。
【0153】
本発明には、界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去して調製され、そのとき一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤が溶解前の細胞に添加される、系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、本発明には、少なくとも一つの界面活性剤含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去して調製され、そのときその細胞を、溶解前に一つ以上の界面活性剤に暴露させる、系が含まれる。
【0154】
本発明には、インビトロタンパク質合成方法であって、IVPS反応で使用する抽出物の調製に用いる細胞溶解物が、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に少なくとも一つの脂質、少なくとも一つの表面活性剤又は少なくとも一つの界面活性剤によって処理されている、方法が含まれる。上記方法には、インビトロタンパク質合成混合物を構成する細胞抽出物に対してアミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源及び鋳型核酸を添加すること(その細胞抽出物は、細胞又は細胞溶解物が、その抽出物の調製前に少なくとも一つの脂質、表面活性剤又は界面活性剤によって処理されている)と、インビトロタンパク質合成混合物をインキュベートしてタンパク質を合成すること、が含まれる。上記方法の実施において、従来技術で公知のIVPSのプロトコル、又はその改良若しくは最適化法を使用してもよい。細胞抽出物は、原核生物又は真核生物由来の細胞から調製してもよい。上記方法は、バッチIVPS、連続交換IVPS、二重層積層IVPS又は供給/希釈IVPSに適用することができる。IVPS系は、RNA又はDNAの鋳型を使用できる。
【0155】
幾つかの実施態様において、上記方法では、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質でその細胞溶解物を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、上記方法では、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に一つ以上の界面活性剤でその細胞溶解物を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、細胞溶解物は、一つ以上の両性イオン系界面活性剤又は一つ以上の非イオン系界面活性剤(例えば本明細書において開示されるもの)によって処理される。
【0156】
幾つかの実施態様において、上記方法では、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質で細胞を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、上記方法では、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤で細胞を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、細胞は、一つ以上の両性イオン系界面活性剤又は一つ以上の非イオン系界面活性剤(例えば本明細書において開示されるもの)によって処理される。
【0157】
上記方法には、バッファー、アミノ酸及びインビトロ翻訳反応の初めの翻訳反応において存在するエネルギー源以外の少なくとも一つのエネルギー源を含む、供給溶液を添加することを更に含めてもよく、その場合、翻訳反応液を一定時間インキュベートした後に供給溶液を添加し、拡張された合成反応混合物が得られる。拡張された合成反応混合物は、更なる時間インキュベートされ、一つ以上のタンパク質が合成される。供給溶液及び供給溶液を使用したIVPSの実施方法は、本明細書において開示される。
【0158】
界面活性剤処理された細胞の抽出物又は溶解物を含むIVPS反応系が構成されるとき、一つ以上の界面活性剤を、細胞抽出物中よりも低い濃度でインビトロ合成反応に含めてもよく、又は、界面活性剤が反応バッファーに添加される場合には、インビトロ合成反応における界面活性剤濃度は、抽出物中の濃度と比較し、同等のままか又は高くてもよい。これらの方法の幾つかの実施態様において、界面活性剤はそのCMC以上の濃度で細胞溶解物又は細胞抽出物中に存在し、IVPS反応においてそのCMC以下に希釈される。これらの方法の他の実施態様において、界面活性剤はそのCMCと同等又はそれ以上で細胞溶解物中に存在し、また希釈される場合においても、IVPS反応においてそのCMC以上に維持される。
【0159】
上記抽出物は、IVPS反応系中の界面活性剤濃度を低下させるために透析してもよい。CMC以上の濃度の界面活性剤は理論的に「透析不可能」であるが、実際的には、そのCMC以上の界面活性剤を若干希釈することは可能であり、透析の間透析バッグを膨張させ、サンプル中の界面活性剤を結果的に希釈するか、あるいは、透析バッグ内をCMC以下の濃度に希釈するに場合は、サンプル中の界面活性剤を更に透析希釈すればよい。
【0160】
細胞溶解バッファーへの界面活性剤の添加により、界面活性剤の初濃度における細胞膜及び構成要素の処理が可能となり、その後、IVPS反応系に界面活性剤含有細胞抽出物を添加することによって界面活性剤が希釈されると、IVPS反応系の界面活性剤濃度は低いものとなる。界面活性剤は、タンパク合成を最適にするために、溶解バッファー中の濃度に関して試験してもよい。図4において、本発明の組成物及び方法に使用できる界面活性剤の例、溶解バッファー中のそれらの濃度及び結果として生じる抽出物、並びに可溶タンパク質の収量に与えるそれらの効果を示す。0.09%のBrij35、0.1%のドデシルマルトシド、0.1%のTriton X−100及び0.3%のCHAPSは、全てIVPS系において可溶性のSTK17Bタンパク質の収量を向上させるものである。
【0161】
インビトロ合成による、核磁気共鳴(NMR)法に用いるタンパク質の標識方法
本発明はまた、NMRに用いる同位体標識タンパク質の標識方法を提供する。上記方法には、インビトロタンパク質合成系において少なくとも一つの同位元素で標識されたアミノ酸を含むタンパク質の合成が含まれ、そこでは供給溶液が反応開始後1時間までにインビトロ翻訳反応に添加される。上記方法には、好ましくは、IVPS反応の前に、少なくとも一度のバッファー交換を伴う少なくとも8時間の透析がなされた細胞抽出物の使用が含まれる。より好ましくは、細胞抽出物はIVPS反応の前に少なくとも2時間の透析、それに続く少なくとも8時間の透析がなされ、最も好ましくは、細胞抽出物はIVPS反応の前に少なくとも2時間の透析、それに続く少なくとも12時間の透析がなされる。
【0162】
例えば、細胞抽出物はS30の抽出物であってよく、またIVPSバッファー及び供給溶液は、実施例2及び供給溶液については表3において開示するような、mg単位でのタンパク質合成に使用するものと同様であってよいが、合成に使用する同系の非標識アミノ酸が同位元素標識アミノ酸に置き換わっていることを除く。
【0163】
あるいは、場合によっては、グルタミン酸カリウムが酢酸カリウムと置き換わっているIVPS反応バッファー及び供給溶液の使用が有利なこともある。本発明には、NMR分析に使用するタンパク質をIVPS系にて調製する方法であって、細胞抽出物が少なくとも8時間透析され、反応バッファー及び供給バッファーに酢酸カリウムが含まれ、グルタミン酸カリウムが含まれない方法が含まれる。
【0164】
ベクター、DNAクローニング及び発現系
本発明は、幾つかの態様において、クローニング用及び発現用ベクター及びその宿主に関する。本明細書において用いられるTOPO(登録商標)クローニングシステムは、公開された米国特許出願2003/0022179号(Chesnutら、2003年1月30日に公開、「Methods and reagents for molecular cloning」)に記載されており、そのTOPO(登録商標)クローニングシステム及び方法に関する全ての開示内容が本明細書に参照により組み入れられる。
【0165】
本発明は、簡便なTOPO(登録商標)ベースのDNA断片(PCR断片を含むがこれに限らない)のクローニングに使用可能なベクターを提供し、DNAからRNAへのT7ポリメラーゼ特異的な転写を促進する配列を提供し、更にRNAに転写されると、RNA転写物の翻訳効率を向上させる配列を提供する。
【0166】
更に、上記ベクターは、Hisタグをコードする配列を含むため、転写及び翻訳過程で、クローニングされた目的タンパク質のN末端又はC末端にそのペプチドタグを融合させることが可能となり、それはpEXP5−CT(配列番号:41)又はpEXP5−NT(配列番号:38)ベクターを用いて行われる。更に、本発明において提供されるベクター上には、TEVプロテアーゼ部位が、6×Hisタグ及びクローニングされた目的タンパク質との間に位置するようにコードされている。pEXP5−NT(配列番号:38)ベクターの構築物により、目的遺伝子のN末端に21アミノ酸のみが付加され、プロテアーゼ(TEV)裂開の後は、合成された産物上に二つの付加的なアミノ酸だけが残る。プラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)は、目的の遺伝子を停止コドンと共に挿入できるように設計されている。終止コドンが含まれない場合、クローニングされた目的タンパク質のカルボキシル末端に、C末端Hisタグとして8つのアミノ酸が付加された形で発現される。
【0167】
キット
インビトロ合成用のキットもまた、本発明を特徴づけるものである。このキットには、本発明の実施に試用する試薬又は構成要素を任意の数又は組み合わせで含めることができる。本発明のキットは、好ましくは、本発明の一つ以上の構成要素であって、例えば、細胞抽出物、IVPS反応バッファー、供給溶液、酵素、阻害剤、アミノ酸混合物又は一つ以上のアミノ酸又はその誘導体、一つ以上のポリメラーゼ、一つ以上の補因子、一つ以上のバッファー又は緩衝塩、一つ以上のエネルギー源、一つ以上の鋳型核酸、キットの分析の効率若しくは目的物(例えば核酸及びタンパク質)の生成を測定する一つ以上の試薬、並びに、本発明の方法を実施するための、又は、本発明のキット及び/若しくはその構成要素の使用上の指示書又はプロトコル、からなる群から選択される一つ以上の要素を含む。本発明のキットには、上記の構成要素の一つ以上を任意の数の別々の容器、チューブ、バイアルなどに含めることができ、又は、この種の構成要素を上記容器中で様々に組み合わせてもよい。
【0168】
幾つかの実施態様において、本発明のキットには、少なくとも一つのタンパク合成用の抽出物を含めることができ、その抽出物は、細胞を、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質に暴露させ、抽出物を調製する方法、又は、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又は脂質を、溶解物からの細胞残渣の除去前に細胞溶解物に添加する方法により調製される。上記キットにはまた、IVT反応バッファー、アミノ酸及びポリメラーゼ(例えばRNAポリメラーゼ)が含まれる。上記キットに供給バッファーを添加してもよい。
【0169】
幾つかの実施態様において、本発明のキットは、少なくとも一つのタンパク合成用の抽出物、並びにアミノ酸及び少なくとも一つのエネルギー源を含む供給バッファーを含む。好ましくは、その細胞抽出物は、細胞溶解物を遠心分離する前に、リン脂質、界面活性剤又は表面活性剤を細胞又は細胞溶解物に添加して調製される。上記キットにはまた、好ましくは一つ以上のアミノ酸を含む少なくとも一つの溶液が含まれる。上記キットにはまた、好ましくはポリメラーゼ(好ましくはRNAポリメラーゼ)が含まれる。
【0170】
上記キットには、本明細書において開示されるpEXP−CT及び−NTベクターを含むベクター、一つ以上の標識アミノ酸及び、好ましくは取扱説明書を添加してもよい。
【0171】
キットには通常、細菌宿主の特性及び/又はその精製用途に関する指示(例えばその遺伝子型)、及び/又は生体分子(例えばHisタグ付き組換えポリペプチド)の検出に関して記載されている説明書が含まれる。
【0172】
実施例
実施例1
供給溶液の組成
代表的な溶液は、
(a)バッファー(最終濃度10〜100mM)、
(b)一種以上の塩、
(c)一種以上の還元剤、
(d)一種以上のエネルギー源及び/又は補因子、
(e)少なくとも4種のアミノ酸、及び
(f)酢酸アンモニウムを含有する。
【0173】
インビボ合成反応において、反応によるタンパク質収量の最適化のために、供給溶液の成分を様々な濃度で試験した。
【0174】
A.バッファー:
反応のpHを維持するためにHEPESバッファーを添加した。供給溶液のpHは、pH8.0(反応初めは7.6)に上昇した。HEPESバッファーは、インビトロ合成反応系での最終濃度が20〜80mMとなるよう含有させるのが好ましく、その場合、典型的な供給溶液は、HEPESの最終反応濃度が57.5mMとなる。供給溶液としてバッファーを単独で添加しても収量が上昇しなかったが、おそらくタンパク質のフォールディングを適切にすることによる、合成産物の活性を僅かな刺激効果が見られた。
【0175】
B.塩:
2mM CaCl2の存在を除き、初めの反応液中の塩と同一となるように供給溶液に塩を含め、イオン強度を維持した。カルシウムの添加により、収量が約10%上昇した。
【0176】
C.還元剤:
ジチオスレイトール(DTT)を還元剤として用いた。
【0177】
D.1.エネルギー源:
試験した解糖系中間体は、ホスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸、グルコース−6−リン酸(Glu−6−P)、フルクトース−6−リン酸、及び3−ホスホグリセリン酸単独、又はそれらの組み合わせである。最適な解糖系中間体の総濃度は、20mM〜60mM(合成反応における最終濃度)であると見出された。
【0178】
補因子NAD又はNADHを除く任意の解糖系中間体を添加することにより酵素活性が上昇し、またNAD又はNADHを共存させると良好な発現及び活性の向上の両方が見られた。これらの効果に関し、各成分の濃度範囲を、例えばアミノ酸1〜5mM、解糖系中間体5〜100mM、及びNAD/H 0.1〜1mMで観察した。
【0179】
D.2.補因子:
NAD又はNADHを溶液中に添加し、アッセイにおける最終濃度を0.1〜1mMとした。
【0180】
E.アミノ酸:
アミノ酸を供給溶液中に添加し、最終濃度を1.25mMとした。5mMまでのアミノ酸の最終濃度は有害ではなかった。供給溶液中に添加されたアミノ酸は、バッファー単独の添加と比較し、収量を30%まで上昇させ(表4)、これは分解又は劣化したアミノ酸の幾らかが、新鮮なアミノ酸と交換されたことによるものと考えられる。反応開始時のアミノ酸濃度は、各アミノ酸で1.25mMであり(1.5mMで添加したメチオニン及びシステインを除く)、このアミノ酸濃度の上昇は当初、収量における同様の刺激効果を生じさせなかった。したがって、後における補充が重要であると示唆された。この時点での供給溶液は、1.5mMで存在するメチオニン及びシステインを除き、1.25mMの各アミノ酸が含まれている。
【0181】
好ましい供給溶液を、以下の表に記載する(1.5mMで存在するメチオニン及びシステインを除き、一様に供給溶液中に添加された1.25mMのアミノ酸は記載しない)。表3に記載した供給溶液(アミノ酸以外)は、以下の実施例に記載するIVPS反応にて調製及び評価された。
【0182】
(表3)供給溶液
【0183】
実施例2
供給溶液中の様々な成分による収量及び活性
標準的な50μL Expressway(商標)Plus(Invitrogen、Carlsbad、CA)反応系を構築し、原則的に製造業者の指示に従い37℃でインキュベートした。反応系には、大腸菌のRNaseA欠損変異体の抽出液600〜800μg、2.5μg/mL Gamタンパク質、820U T7酵素、20U RNaseOut、1mM アミノ酸(メチオニンを除く)、1.5mMメチオニン、及び0.5〜1μg鋳型DNA(環状及び直鎖のいずれか)を含む1×IVPSバッファー(58mM Hepes(pH7.6)、1.7mM DTT、1.2mM ATP、0.88mM UTP、0.88mM CTP、0.88mM GTP、34μg/mL フォリン酸、30mM アセチルリン酸、230mM グルタミン酸カリウム、12mM 酢酸マグネシウム、80mM NH4OAc、0.65mM cAMP、30mM ホスホエノールピルビン酸、2% ポリエチレングリコール)を添加した。エッペンドルフサーモミキサーを使用し1.5〜2mL微量遠心管内で、30℃又は37℃のいずれかにて2〜6時間緩やかに振とう(1000〜1400rpm)し、反応を進行させた。反応時間全体に亘り、異なる時間間隔において、反応液に1/2量(初めの反応液の容量に対する)の供給バッファーを供給した。
【0184】
界面活性剤の効果を試験するアッセイにおいて、細胞を溶解したS30バッファー中に界面活性剤を含ませた。該界面活性剤は、反応物中に様々な濃度で添加した:オクチルグルコピラノシド(0.6%、1.2%、2%)、オクチルチオグルコピラノシド(0.3%、0.6%、0.9%)、Zwittergent(登録商標)3−14(0.01%、0.025%、0.05%)、ドデシルマルトシドナトリウム(0.01%、0.025%、0.05%)、及びTriton(登録商標)X−100(0.01%、0.025%、0.05%)。各界面活性剤を、その界面活性剤の臨界ミセル濃度以下、臨界ミセル濃度と同等、及び臨界ミセル濃度以上に対応する三つの濃度にて、反応物中に添加した。
【0185】
プラスミドDNA 1μg、又は直鎖鋳型2〜3μgを用い、反応物を調製した。DNA鋳型として用いたプラスミドは、pEXP1−LacZ、pCR2.1−GFP(緑色蛍光タンパク質)、及びpEXP3−GUSであった。
【0186】
上気した成分を含有する供給溶液を、反応から30分及び2時間後に25μLずつ供給した。供給溶液を、58mM HEPES−KOH(pH8.0)、230mM グルタミン酸カリウム、12mM 酢酸マグネシウム、80mM 酢酸アンモニウム、2mM 塩化カルシウム及び1.7mM DTTにて調製した。供給溶液にはまた、各々1mMのアミノ酸(1.5mMのメチオニン以外)、及び/又は30mMの解糖系中間体、例えばグルコース−6−リン酸、3−ホスホグリセリン酸(3−PGA)又はアセチルリン酸(AP)、並びに0.3mMのNADHを添加してもよい。合成されたGFPの量、及び活性(相対蛍光単位、RFU)を測定した(表4)。以下に記載する全ての反応供給溶液は、「供給なし」又は「バッファーのみ」の対照と比較し高い収量であった。アミノ酸、Glu−6−P及びNADHを含む供給溶液において最適な効果を示し、次いでアミノ酸、3−PGA、及びNADHを含む供給溶液が良好に作用した。
【0187】
アミノ酸及びエネルギー源を含有する供給溶液を30分、及び2時間後に添加した、4〜6時間の反応において合成された一連の対照タンパク質の収量は、一貫して1mg/mLより多いタンパク質量であった。
【0188】
(表4)供給溶液を用いたExpressway反応
【0189】
実施例3
LacZ及びGFPの発現に与える、供給時間及び供給量の効果
標準的な50μL Expressway(商標)Plusの反応系を、実施例1に記載の通り構成し、37℃でインキュベートした。指示通りの時点で供給バッファーを添加した。単回供給の場合は供給溶液を1容量(50μL)添加し、二回供給の場合は供給溶液2容量(各25μL)を添加した。[35S]メチオニンの取り込みに基づき、タンパク質の総収量を算出した。発光アッセイによりLacZ活性を測定し、これを相対発光単位(RLU)として示した。GFP活性をその蛍光(励起:395nm、放射:509nm)により測定し、これを相対蛍光単位(RFU)として示した。
【0190】
一回供給の場合、両タンパク質において、溶液が反応の開始後15分、30分、1時間又は2時間の時点で添加された場合、活性の上昇が見られた(表5)。しかしながら、タンパク質の合成量は15分後に供給された場合に最適であり、収量もまた30分及び1時間後に供給された場合に上昇した。2時間後の一回供給が収量に与える効果は、それ以前での一回供給の効果と比較し顕著に低かった。
【0191】
二回供給の場合、両タンパク質において、供給溶液を、0及び2時間後、15分及び2時間後、30分及び2時間後、1時間及び2時間後、並びに1時間及び3時間後にて二回添加した場合に活性の上昇が見られた。一回供給反応の場合と同様、最初の供給を、反応の開始から1時間後以降に行った場合、タンパク質収量における効果は、それ以前(15分、30分、60分後)に最初の供給を行った場合と比較し顕著に低かった。
【0192】
(表5)供給の時間及び量による効果
【0193】
同様の実験において、インビトロでの発現反応中の緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光活性をモニターした。一連の50μLの反応混合物を調製し、指示された寮の供給バッファーを、時間を変えて供給した。反応は、断続的に振とうしつつ37℃で6時間行った。Spectramax Gemini Fluorometer内で、6時間のインキュベートの間、GFP活性をモニターした。結果を図2に示す。標準的なインビトロ反応(ダイヤモンド)は、2時間後にほぼ完全に停止した。Expressway−Milligram供給技術を用い、(1)30分後及び再度2時間後(四角)、又は(b)1時間後及び再度2時間後及び4時間後(三角形)のいずれかの方法で供給バッファーを添加したところ、反応がほぼ一定に6時間継続した。
【0194】
実施例4
mg単位のタンパク質合成
以下のヒトORFを、Gateway技術(Invitrogen、Carlsbad、CA、米国特許第5,888,732号及び米国特許第6,277,608号を参照、両方のGatewayクローニング技術、方法、及びベクター系に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)を使用して、pEXP1又はpEXP3内に、またTOPO(登録商標)TAクローニング(Invitrogen、Carlsbad、CA、米国特許第5,851,808号及び米国特許第6,828,093号、両方のTOPO(登録商標)クローニング技術、方法、及びベクター系に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)によりpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:38)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)にクローニングした:脳クレアチンキナーゼB鎖(CKB、Invitrogenカタログ#IOH5211、Ganbank NM001823)、主要組織適合性複合体、クラスII、DOα、HLA−DO−α、(HLA−DOA、Invitrogenカタログ#IOH10959、クレアチンキナーゼに類似した、筋(CKM、Invitrogenカタログ#IOH7287、Ganbank NM001823)、カルモジュリン様3(CALML3、Invitrogenカタログ#IOH22362、Ganbank NM005185)、及びインターロイキン24(IL24、Invitrogenカタログ#IOH9846、Ganbank BC009681)。
【0195】
初めの反応容量が1mLとし、1容量の(1mL)供給溶液による一回供給を30分後に実施することを除き、実施例2に示す初めの反応条件、及び表3に示した供給溶液を用いて、インビトロでのタンパク質合成反応を行った。8種のタンパク質の代表的な収量を、35Sメチオニン取り込みにより測定した。これらの実験では、初めの反応において5(Ciの[35S]メチオニン(10μCi/μL、1175Ci/mmol)を含めた。供給バッファーを補充し、[35S]メチオニンをベースの(開始の)反応系と同一の濃度にした(50μL当たり0.5(Ci(10μCi/μL、1175Ci/mmol))。これらのExpressway(商標)−Milligramによる反応産物のうち、数種の0.25(Lを、クマシーブルーで染色した4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲル上で電気泳動し、8種のタンパク質の各収量を測定した。図3に、このExpressway(商標)−Milligram系内で合成された各タンパク質量を示す。発現したタンパク質は、左から右に向かってGFP、ヒトORF脳クレアチンキナーゼ、LacZ、6−ヒトORF MHCクラスII、N末端Hisタグベクター(pEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:38))内のヒトORF筋肉由来クレアチンキナーゼ、ヒトORFカルモジュリン様タンパク3、ヒトORFインターロイキン24、及びC末端Hisタグベクター(pEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)内のヒトORF筋肉由来クレアチンキナーゼである。
【0196】
8種のタンパク質において、タンパク質産生量の範囲は、約890〜1,700mgであった。8種のタンパク質のうち5種は>1.3mgの量で産生され、8種のタンパク質のうち2種は>1.5mgの量で産生された。産生されたタンパク質の平均量は、1.275mgであった。
【0197】
実施例5
細菌細胞からのIVPS抽出物
以下のプロトコルを用いて、大腸菌を含む細菌株から、S30抽出物を調製した。
【0198】
細胞ペースト
大腸菌K12 A19細胞を、セレローズ(Cerelose)(5g/L)を添加した50L緩衝2×YT(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、塩化ナトリウム 5g/L、無水第二リン酸ナトリウムNa2HPO4 5.68g/L、無水第一リン酸ナトリウムNa2HPO4 2.64g)培地中で増殖させた。細胞を、回転盤(一般に、250rpm)上にて、37℃で、OD590が約3.0〜約5.0の範囲に到達するまで(通常約6〜約8時間)培養した。細胞を更に新鮮な培地中に播種し、その際、初期OD590が約0.05〜約0.10であった。その後、37℃、250rpm、50slpm、5psiにて、OD590約3.0〜約3.5となるまで培養した。細胞をSorvall GS3型ローターに移し、5000×gで15分間遠心分離した。必要に応じて上清を吸引除去した(細胞ペーストは、次の工程に進む前に、好ましくは5日間又はそれ以下の期間−80℃で保存してもよい)。
【0199】
1gの細胞ペーストを(−80℃で保存した場合解凍して)、使用直前にDTTを添加した1mLの冷却(4℃)S30バッファー中に再懸濁した(例えば細胞250gに対してS30バッファー250mL)。
【0200】
再懸濁を促進するために、細胞を数分間(泡を生成させずに)手動で緩やかに回旋した。細胞を入れる瓶内に滅菌済み撹拌棒を入れ、約15分間緩やかに撹拌し、細胞を完全に再懸濁させた。再懸濁液を直ちに氷上に置いた。
【0201】
細胞溶解
細胞溶解に先立ち、細胞をS30バッファー+6mM β−メルカプトエタノールで洗浄した。S30バッファー、6mM β−メルカプトエタノールを細胞に添加し、細胞ペーストが溶解するまで、25mLピペットで「破砕、撹拌」した。S30バッファーは、10mMトリス、14mM酢酸マグネシウム及び60mM酢酸カリウム(pH8.2)である。懸濁液をRC3B遠心分離機にて4,500rpmで20分間回転させた。上清をデカントし、洗浄を繰り返した。
【0202】
細胞を0.85〜1容量(0.85mLバッファー:1gペレット)の1×S30バッファー(1mM DTT、0.5mM PMSF及び0.1% TritonX100)中に再懸濁した。場合によっては、界面活性剤を全く加えず、又は例えばBrij35(0.09%)、ドデシルマルトシド(0.1%)、及びCHAPS(0.3%)のような異なる界面活性剤を溶解バッファーに添加した。
【0203】
再懸濁細胞のサンプル5mLを、水995mLに添加し(1:200希釈)、初期ODを測定した。このサンプルをボルテックスし、水をブランクとして使用し、590nmにて測定した。細胞破砕の直前に、再懸濁した細胞ペーストに0.1Mフッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF)を添加した。細胞懸濁液1mLあたり5μLの0.1M PMSFを使用した。
【0204】
Emulsiflex C50ホモジナイザー(Avestin Inc.、Ottawa、Canada)を使用し細胞を破砕した。圧力を少なくとも約25,000〜約30,000psiに維持した。500mLの細胞懸濁液をホモジナイザーに通過させるのに通常約15〜20分間を要した。
【0205】
溶解の効率が約90%未満の場合、細胞懸濁液を再度ホモジナイザーに通過させた。溶解効率は、以下のように計算した。
(最初の通過OD590/初めのOD590(上記参照))×100=未溶解率(%)
100−未溶解率(%)=溶解効率(%)
【0206】
1M DTTを溶解物に直ちに添加し、最終濃度を1mMとした(例えば、溶解物250mLにつき1M DTTを250μL)。次いで、溶解物をSS34ローター内で、16,000rpm(30,000×g)にて4℃で40分間遠心分離した。上清の上部4/5を無菌プラスチック製の目盛り付きピペットにより除去し、1Lの無菌容器内に収集した。
【0207】
プレインキュベーション
上清の容量を測定した。10×プレインキュベーションミックスを上清に添加し(2回の溶解後遠心分離後)て1×最終濃度とし、溶解物を37℃で150分間インキュベートした。プレインキュベーションミックスは、使用直前に、その成分を以下の順序で添加し調製した。調製後、氷上に静置した。
【0208】
(表6)プレインキュベーションミックス
【0209】
プレインキュベーションミックス、1×濃度:
73mM トリス−酢酸、22℃にてpH8.2
10μM アミノ酸ミックス
1.1mM ジチオスレイトール(DTT)
2.3mM 酢酸マグネシウム
21mM ホスホエノールピルビン酸
60mM 酢酸カリウム
3.3mM ATP
126U/mL ピルビン酸キナーゼ
【0210】
混合物を37℃の振とう水浴内で、150rpmにて150分間緩やかに振とうしながらインキュベートした。次いで、抽出物を、細胞の再懸濁に使用したS30バッファーと同一濃度の1×S30バッファー+1mM DTTにより、一晩で二度の交換を伴う透析を行った。次いで抽出物を分注し、−80℃で保存した。
【0211】
実施例6
異なる界面活性剤を用いて調製したIVPS抽出物を使用した、可溶性タンパク質の収量の比較
細菌細胞ペレットを、界面活性剤を添加しない、又は以下の界面活性剤の一つを添加したS30バッファーに再懸濁したことを除き、上記実施例に記載の要領にてS30抽出物を調製した:0.09%Brij35、0.1%ドデシルマルトシド、0.1%Triton X−100、又は0.3%CHAPS。全ての界面活性剤を、CMCの濃度以上の濃度で使用した。次いで、再懸濁した細胞をC5 Emulsiflex内で溶解した。溶解した細胞を上述のように遠心分離し、上清を1/10容量の翻訳ミックス及びピルビン酸キナーゼと共にプレインキュベートした。次いで、抽出物を、S30バッファー(界面活性剤無添加)により、一晩で二度の交換を伴う透析を行った。
【0212】
IVT反応を実施例2に記載のとおり実施し、そこにおいて、表3に示した供給溶液を使用し一回供給を30分後に行った。鋳型にはSTK17Bキナーゼタンパク質(セリンスレオニンキナーゼ17b、Invitrogenカタログ#IOH21114、Ganbank NM004226.2)をコードするプラスミドを用い、異なる界面活性剤を用いて調製した抽出物を使用した。図4は、細胞溶解中の界面活性剤の添加により、界面活性剤無添加で調製したS30と比較しSTK17Bキナーゼタンパク質の可溶性が上昇したことを示す。非イオン系(Brij35、ドデシルマルトシド、Triton X−100)及び両性イオン系界面活性剤(CHAPS)の双方が、可溶性タンパク質の収量を上昇させたことは注目に値する。
【0213】
別の実験のセットにおいて、細胞再懸濁に0.1%Triton X−100を含有するS30バッファーを使用し、数種のタンパク質の可溶性向上効果を試験した。図5に、細胞溶解中に界面活性剤(Triton X−100)を添加し及び添加せずに調製した抽出物を使用して翻訳した際の、可溶性GFP、LacZ、及びSTK17Bキナーゼタンパク質の産生を示す。三つの場合全てにおいて、可溶性タンパク質の収量は、S30バッファー中の界面活性剤の存在により向上した。
【0214】
図6に、細胞を溶解させたS30バッファー中の0.1%Triton X−100を用いて調製した、S30抽出物中で合成された一連のタンパク質における可溶性の向上効果を示す。該タンパク質は、(右から左に向かって)CDC28タンパク質キナーゼ調節サブユニット1B(CKS1B、Invitrogenカタログ#IOH6416、Ganbank NM_001826)、シンタキシン結合タンパク質1(STXBP1、Invitrogenカタログ#IOH3588、Ganbank BC015749.1)、Sumoタンパク質(配列番号:1)、カルモジュリン様3(CALML3、Invitrogenカタログ#IOH22362、Ganbank NM005185)、アデニレートキナーゼ3α様(AK3L1、Invitrogenカタログ#IOH11046、Ganbank NM_016282)、GFP、脳クレアチンキナーゼB鎖(5211、Ganbank NM001823)、及び受容体−相互作用セリン/スレオニンキナーゼ(6368、Ganbank NM003821)を含む。
【0215】
実施例7
界面活性剤で抽出した細胞膜をインビトロ翻訳系へ添加することによる効果
翻訳に使用される細胞抽出物から細胞膜を分離する前に一種又は二種以上の表面活性剤又は界面活性剤による細胞又は細胞溶解物の処理が、タンパク質合成の収量又は活性に有利な効果を与えるか否かを解析するため、「アッドバック(add back)」実験を行った。以下の実験において、細胞を溶解し、界面活性剤の不在下で、細胞抽出物を(遠心分離を用い)調製した。界面活性剤で溶解した細胞ペレット抽出物を用いて溶解させた細胞ペレットを別に抽出し、そのペレット抽出物の一部を、IVTT反応に使用するS30抽出物にアッドバックすることにより、界面活性剤を用いて調製した細胞ペレットの画分から抽出できる成分が、果たしてインビトロ翻訳に有利な効果を与えるかを解析した。
【0216】
細菌(大腸菌A19)S30抽出物を、標準的な方法に従い調製した。端的には、洗浄済み大腸菌細胞をS30バッファー(10mM トリス、14mM 酢酸マグネシウム及び60mM 酢酸カリウム(pH8.2))中に再懸濁し、Emulsiflex C50ホモジナイザー(Avestin Inc.、Ottawa、Canada)中で溶解させた。溶解物を遠心分離した。S30上清を除去し、分割した。
【0217】
1Lの細胞培養液から得たS30ペレットを、10mLのバッファー(20mM KHPO4(pH8)、150mM KCl)中に再懸濁した。再懸濁したS30ペレットを500μLずつ1.5mLチューブに分注し、氷上に置いた。多数の非イオン系及び両性イオン系の界面活性剤(デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルマルトシドナトリウム、ジギトニン、オクチルチオグルコシド、オクチルグルコシド、又はCHAPS)を50又は100μLずつS30画分に添加し、最終濃度0.5%とし、画分及び界面活性剤を室温で30分間インキュベートした。対照には、100μLのバッファー(20mM KHPO4(pH8)、150mM KCl)のみ、又は0.5M NH4OAcを添加した。次いで、サンプルを微量遠心分離機内で14,000×gにて30分間遠心分離した。上清を清潔なチューブ内に移した。
【0218】
S30ペレットの界面活性剤抽出物の上清10μLずつを、SDS−PAGEゲル上にロードした。ゲルを電気泳動し、クマシーブルーで染色した。染色したゲルを目視した結果、S30ペレット界面活性剤抽出物を有するゲルのレーンには、バッファー又は塩でインキュベートしたS30ペレットの上清を乗せたレーン内では見られない、高分子量(120kDa以上)の染色バンド及びその分解物が存在した。
【0219】
上記抽出物をIVTT反応においても使用した。20μLの2.5×IVTバッファー(145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEG)、最終濃度1.25mMのアミノ酸(メチオニン及びシステインが1.5mMであることを除く)、0.25μLの35Sメチオニンを有する17μLのS30ペレット抽出物、0.75μgのpUCT7−GFPプラスミドDNA、1μLのT7ポリメラーゼ、及び3μLのS30ペレット抽出物を使用し、標準的な50μL反応を行った。ペレットを、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.5%ドデシルマルトシドナトリウム、0.5%ジギトニン、0.5%オクチルチオグルコシド、0.5%オクチルグルコシド、又は0.5%CHAPSのいずれかで処理した。翻訳反応における界面活性剤の最終濃度は、各場合において0.03%であった。対照として、界面活性剤の代わりに0.5M NH4OAcを用いてペレット画分をインキュベートして得た3μLのS30ペレット抽出物を用い、IVTT反応を実施した。更なる対照として、3μLの2.5×IVSバッファー、又は更なるS30抽出物を反応物に添加した。
【0220】
エッペンドルフサーモミキサー内で、1.5〜2mL微量遠心管内にて37℃で2時間緩やかに振とう(1,000〜1,400rpm)し、反応させた。
【0221】
活性GFPタンパク質の収量を、一定時間GFP蛍光をモニターして評価した。タンパク質の収量は、35Sメチオニンの取り込みにより測定した。図7は、大腸菌Al9株からの抽出物を使用した場合、S30ペレットの界面活性剤抽出物のIVPS反応への添加により、タンパク質の合成量が増大することを示す。
【0222】
実施例8
15N標識細胞フリーアミノ酸のインビトロで発現したタンパク質への取り込み
15Nで標識したSUMOタンパク質(配列番号:1、米国特許第6,872,343号、SUMOタンパク質及び核酸配列、並びにそれらの使用に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)を精製し、質量分析法により試験して15Nの取り込みの程度を測定した。理想的には、目的タンパク質は、非標識アミノ酸を全く有さない必要があり、NMR等の用途には均質な標識タンパク質が望ましい。図4に、対照(非標識)SUMOタンパク質と、15N標識したSUMOタンパク質を質量分析で検出した際の比較実験の結果を示す。上記結果は、いかなる天然の非標識アミノ酸を排除する、15N標識アミノ酸の完全又はほぼ完全な取り込みを示す。
【0223】
Expressway(商標)NMRにおけるCALML3の発現及び精製
SUMO及びヒトORFカルモジュリン様3タンパク質(CALML3)を、pEXP5−NT/TOPO(登録商標)TAベクター内にクローニングし、均一に標識した10mg/mLのNアミノ酸を含有する5mL Expressway(商標)NMR反応で発現させた。SUMO及びCALML3タンパク質を、上記のように合成及び精製した。最終反応物を結合バッファーで1:1に希釈し、Ni−NTA樹脂上で精製し、精製プロファイルをクマシー染色した4〜12%NuPAGE(登録商標)ゲル上で分析した。ピーク画分を回収し、質量分析の前に透析した。最終的な回収物は、約4mgのSUMO及び4.5mgの精製CALML3であった。
【0224】
SUMOタンパク質の標識
各IVTT反応において、以下の成分を添加し、30℃で4時間インキュベートした。大腸菌S30 20mL、2.5×IVPS NMRバッファー(145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEG(バッファー中にアミノ酸存在せず))20mL、T7 RNAポリメラーゼ1mL、RNaseOUT(商標)0.5mL、5mLの100mg/mL 15N標識細胞フリーアミノ酸(反応物中の最終濃度は10mg/mL)、DNA 1mg、35S−メチオニン 0.5mL、更にヌクレアーゼフリーH2Oで50mLとした。50mLの供給バッファー(25mL 2×供給バッファー、0.5mL 35Sメチオニン、5mLの100mg/mL 15N標識細胞フリーアミノ酸、ヌクレアーゼフリーH2Oで50mLとした)を、各反応物に30分後に添加した。4時間目の終わりに、5mLの反応物をTCA沈殿し、タンパク質の収量を測定した。非標識タンパク質発現においては、標識したアミノ酸を非標識アミノ酸(最終反応物中1mM)で代替し、上記のIVTT反応を実施した。
【0225】
13C又は15N標識アミノ酸を用いた標識においては、適切な非標識アミノ酸を標識アミノ酸で代替した。完全アミノ酸(13C又は15N標識アミノ酸を含む)を用いた標識には、100mg/mLを50mM HEPES(pH7.5)中に溶解し、5μLずつを50μL IVTT反応に使用した。最終反応物中のアミノ酸濃度は、10mg/mLであった。研究者の希望に応じ、濃度を変更してもよい。
【0226】
10mMの全20アミノ酸の混合物50μLを0.25mLの2×供給バッファーに添加し、ヌクレアーゼフリー水により液量を0.5mLとした。
【0227】
0.5mLのExpressway NMR反応において、以下の成分を混合した。大腸菌S30 0.2mL、2.5×NMR IVPSバッファー0.2mL、T7 RNAポリメラーゼミックス10μL、10mMアミノ酸ミックス(標識アミノ酸混合物又は非標識アミノ酸混合物)50μL、DNA鋳型(環状又は直鎖)2.5〜5μg。次に、混合物の最終容量を、ヌクレアーゼフリー水により0.5mLとした。反応物を、30℃又は37℃で4時間インキュベートした。反応の開始から15〜30分後、供給バッファー0.25mLをIVTT反応に添加した。次いで2時間後、0.25mLの供給バッファーを反応液に添加し、30℃又は37℃でインキュベートした。
【0228】
反応後、反応物の5μLずつを、NaOH水100μLを用いて室温で5分間インキュベートした。次に、10%の冷TCA(トリクロロ酢酸)を添加し、4℃で数分間静置した。真空マニフォルドを使用して、沈殿したタンパク質をグラスファイバーフィルター(GF/C)で回収した。フィルターを5%TCAで2回洗浄し、最後に100%エタノールで洗浄した。乾燥したフィルターを、シンチレーション液で満たしたシンチレーションバイアルに移した。TCA沈殿物カウントにおける35Sメチオニン取り込み量を基に、タンパク質収量を算出した。
【0229】
IVTT反応の完了後、反応物を、16,000×gで約5分間遠心分離した。サンプルを結合バッファー中で1:1に希釈し、結合バッファーで平衡化済の適当量のNi−NTAカラムにロードした。サンプルをカラム内で約5分間インキュベートし、フロースルーを回収した。次いで、カラムを10カラム容量の洗浄バッファーで洗浄し、前半分を洗浄物1、後半分を洗浄物2として回収した(各々5カラム容量)。1カラム容量の溶出バッファー1をカラムに添加し、カラムに結合した非特異的タンパク質を溶出した。1カラム容量の溶出バッファー2をカラムに添加し、約3〜5分間インキュベートの後タンパク質を溶出し、1カラム容量の溶出バッファー2で溶出を繰り返した。特異的に結合したタンパク質の全部をカラムから溶出した後、カラムを溶出バッファー3で洗浄した。サンプルをNuPAGEゲル上で泳動した。タンパク質を含有する溶出液をプールし、透析バッファーにより数時間透析した。Bio−Radアッセイ試薬を用いてタンパク質濃度を測定し、質量分析法により標識アミノ酸の取り込みパーセンテージを測定した。
【0230】
例えばNaCl及びDTTのようなMALDI−TOFに適合しないバッファー成分を除去するため、滴下透析法によりサンプルを0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)によりバッファー交換した。次に、バッファー交換したサンプルを、50%アセトニトリル/0.1% TFA中に溶解した過飽和シナピン酸をマトリクスとして使用して、VOYAGER−DE−STR MALDI/TOF装置(ABI、Foster City、CA)上で分析した。サンプルを、Invitromass−IV及びInvitromass−30kDaに対して内的及び外的に校正した。
【0231】
10ng/mL トリプシン(シークエンシング等級の修飾トリプシン、Promega)を含む20mM 重炭酸アンモニウム(pH8.0)中で、サンプルを37℃にて30分間消化した。タンパク質の分解後、Zip−Tips(Millipore)を使用したCl8逆相抽出により、サンプルを濃縮した。溶出液をステンレス鋼MALDI−TOF−MSサンプルターゲット上に堆積させ、MaxIon AC MALDIマトリクス(Invitrogen)と1:1で混合した。
【0232】
Applied Biosystems Voyager DE STR機器を使用し、MALDI−TOF−MS分析を行った。全てのMALDI−TOF−MSスペクトルは、加速電圧20kV、遅延時間50〜250nsec、1スペクトルにつき300のレーザーショット、レーザー強度1500〜1700、デジタイザー縦軸設定500mVにて、正反射モード(指定する場合を除く)で取得した。InvitroMass LMW calibrantキット(Invitrogen)を使用し、スペクトルを外的又は内的に較正した。消化されたカルモジュリン及びSUMOタンパク質のペプチド質量フィンガープリントを、Voyager Explorerソフトウエア(Applied Biosystems)により分析した。同位体比測定器(ChemSW)を使用し、重同位体の取り込み量を計算した。
【0233】
Applied Biosystems Voyager DE STR装置を使用し、未処理タンパク質のMALDI−TOF−MS分析を行った。線形モードにおける一定のレーザー強度1998の設定により、分析を行った。サンプルを、50%アセトニトリル0.1%TFA(Pierce)中のシナピン酸(Sigma)飽和溶液を用い1:1(v/v)に希釈した。
取り込みパーセンテージの計算式:
取り込み=標識時ピーク強度/(対照ピーク強度+標識時ピーク強度)
標識ペプチドに対する15Nアルギニンの取り込み(%)=100/(25+100)=80%
【0234】
酢酸カリウム又はグルタミン酸カリウムを含む2.5×IVPS NMRバッファー
IVPSバッファー中の一成分、グルタミン酸カリウムは、タンパク質の高発現を補助する。系内のグルタミン酸カリウムは、反応液中に遊離グルタミン酸を放出する。グルタミン酸は、グルタミン及びアスパラギン酸の前駆体である。この化合物の存在により、タンパク質の13C/15Nアスパラギン酸、13C/15Nアスパラギン、13C/15Nグルタミン酸又は13C/15Nグルタミンによる標識が困難となる。この問題を克服するため、本発明者等は、タンパク質収量を低下させない、グルタミン酸カリウムの代替化合物を数々試験した。本発明者が試験した化合物のほとんどは、タンパク質収量を有意に低下させるものであった。酢酸カリウムは、グルタミン酸カリウムを置換する一選択肢であったが、タンパク質収量はグルタミン酸カリウムよりも50%低かった。
【0235】
グルタミン酸塩をベースとする系
二種のSUMOペプチドについて、グルタミン酸カリウムベースのバッファーを使用した際の、安定な同位体の該ペプチドへの取り込みの程度を試験した。
【0236】
15N−Glu
SUMO47−54ペプチド(質量ピーク965.4)は、そのアミノ酸配列:Arg−Leu−Met−Glu−Ala(配列番号:2)内に一つのGlu残基を含む。
【0237】
グルタミン酸塩の存在下、15N Gluの取り込みは全く検出されなかった(取り込み0%)。
【0238】
15N−Gln
SUMO72−109ペプチド(質量ピーク4229.1)は、そのアミノ酸配列:Ile−Gln−Ala−Asp−Gln−Thr−Pro−Glu−Asp−Leu−Asp−Met−Glu−Asp−Asn−Asp−Ile−Ile−Glu−Ala−His−Arg−Glu−Gln−Ile−Gly−Gly−Pro−Gly−Gly−Gly−Ser−His−His−His−His−His−His(配列番号:3)内に、三つのGln残基を含む。
【0239】
グルタミン酸塩の存在下、15N Glnの取り込みは全く検出されなかった(取り込み0%)。
【0240】
酢酸塩をベースとする系
CALML3ペプチドについて、酢酸カリウムベースの組成物を使用した際の、安定な同位体の該ペプチドへの取り込みの程度を試験した。
【0241】
15N−Glu
47−54CALML3ペプチド(質量ピーク965.5242)は、そのアミノ酸配列:Gly−Cys−Ile−Thr−Thr−Arg−Glu−Leu(配列番号:4)内に一つのGlu残基を含む。
【0242】
反応に15N−Gluを使用した際、通常のピークの一部(m/z=965.5242)は、15Nの取り込みを原因として、1ダルトン(+1Da)「シフト」した(m/z=966.5238)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、35%であった(取り込み35%)。
【0243】
48−55CALML3ペプチド(質量ピーク966.5380)は、アミノ酸配列:Cys−Ile−Thr−Thr−Arg−Glu−Leu−Gly(配列番号:5)内に一つのGlu残基を含む。
【0244】
反応に15N−Gluを使用した際、通常のピークの一部(m/z=966.5380)は、1ダルトン(+1Da)だけシフトした(m/z=967.5344)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、35%であった(取り込み35%)。
【0245】
15N−Gln
CALML3 56−64ペプチド(質量ピーク1063.521)は、そのアミノ酸配列:Thr−Val−Met−Arg−Ser−Leu−Gly−Gln−Asn(配列番号:6)内に一つのGln残基を含む。
【0246】
反応に15N−Glnを使用した際、通常のピークの一部(m/z=1063.521)は、15Nの取り込みを原因として、1ダルトン(+1Da)「シフト」した(m/z=1064.5759)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、65%であった(取り込み65%)。
【0247】
S30抽出物の透析
標識効率を評価するために、SUMO及びCALML3タンパク質の双方を、数種の15N標識アミノ酸で標識した。短時間透析したS30(2時間透析したS30)を用いて、15Nアスパラギン、15Nグリシン、15Nチロシン、15Nグルタミン及び15Nグルタミン酸(Cambridge Isotope Laboratory)を使用してSumoタンパク質を合成し、取り込みにを評価した。取り込みは、同位体比測定器(ChemSW)分析によれば、各々0%、65%、65%、0%及び0%であった。Sumoのペプチド65−71(Phe−Leu−Tyr−Asp−Gly−Ile−Arg、配列番号:7)を用いて、標識の効率性を比較した。非標識ペプチドは、883.59Daの質量を有する。非標識ペプチドは、一つのグリシン及び一つのチロシンを有する。以上より、標識したペプチドの質量は、884.59Daであると想定される。MSデータは、いずれかのアミノ酸で標識したペプチドの両方に関して、質量ピーク884.5Daを示す。グルタミン酸カリウムを含有するIVPSバッファーを使用して、タンパク質合成を行った。
【0248】
S30の短時間の透析(2時間透析)により、15NアルギニンはCALML3に100%未満で取り込まれた(80%:Cambridge Isotope Laboratory及び91%:Spectra Stable Isotope)。S30の延長した透析(2時間透析した後、透析バッファーを交換し、一夜透析する)を、15Nアルギニン(Spectra Stable Isotope)3を含む同一のタンパク質の合成に使用した場合、ほぼ100%取り込まれた。以上より、100%の標識を得るために長時間の透析を必要とした。
【0249】
実施例9
N末端タンパク質融合のためのベクター作成
IVPSによるタンパク質の発現及び精製用に、数種のベクターを形成した。全構築物をDNAシークエンシングにより確認した。この実施例では、目的のクローニングタンパク質のアミノ末端に、一種又は二種以上の目的の融合タンパク質要素が融合されているベクターの作成について説明する。
【0250】
プラスミドpEXP1−DEST(配列番号:8)(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、プラスミドpFKI090(配列番号:9)の形成を補助するために使用した。プラスミドpEXP1−DESTは、二つの複製開始点(f1 ori及びpUC ori)、正の選択用のアンピシリン耐性遺伝子、及びクローニングカセットを含む。クローニングカセットは、RBS(リボソーム結合部位)に対して操作可能に結合したT7プロモーター、開始コドン(ATG)、Hisタグ配列(6×His)、Xpress(商標)エピトープ(Asp−Leu−Tyr−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号:10)、エンテロキナーゼ(EK)切断部位、attR1部位、クロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)、ccdB遺伝子、及びattR1部位を、この順序で含む。att部位は、部位特異的組み換えによってattR1部位とattR2部位間のベクターのセグメントが除去され、そのセグメントが目的遺伝子で置き換えられるものであり、Gateway(商標)技術によるクローニング反応を実施する際に使用される。除去されたセグメント断片は、負の選択に有用なccdB遺伝子も含む。ccdB遺伝子産物は、機能的ccdA遺伝子を欠く細胞を殺傷するため(Bernardら、J.Mol.Biol.226:735、1992)、ccdB+ベクターは、ccdA−株、例えば、OneShot(登録商標)ccdB Survival(商標)T1ファージ耐性細胞[F−mcrA(mrr−hsdRMS−mcrBC) 80lacZM15 lacX74 recA1 ara139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR) endA1 nupG tonA::Ptrc ccdA−](Invitrogen)内で増やす。クローニング反応物のccdA+細胞内への形質転換により、attR1−attR2セグメントを保持するベクターが、それらの宿主細胞を殺傷することにより、負の選択によってクローニング産物から除外されることを確実にする。
【0251】
IVPS反応において翻訳を向上させる配列を含むmRNAをもたらすベクター配列は、あるタンパク質の発現を増強する。この実施例で説明したTOPO(登録商標)ベクターの場合、対応するDNA配列をベクターに添加することにより、発現増強ステムループ構造(Paulus等、Nucleic Acids Res.32:e78、2004)がmRNA内に形成された(図8)。
【0252】
二つの異なるリボソーム結合部位(RBS)及びRBSと5’−CCCTT−3’TOPO(登録商標)充填部位(charging site)との間の異なるスペーシングを含む5個のDNA断片を、pEXP2誘導体内のcycle3 GFP遺伝子のATG開始コドンに隣接してクローニングした。35S−Metの存在下、pFK1032及び他の構築物を使用し、cycle3 GFPの無細胞合成を行った。発現溶解物をNuPAGE(登録商標)ゲルで分離し、タンパク質をクマシー染色及びオートラジオグラムにより検出した。35Sメチオニンの取り込みを基に収量を測定し、収量1mg毎の相対発光単位(RLU)を基に特異的活性を測定し、オートラジオグラム上での完全長バンドの密度を基に完全長タンパク質の相対的な量を測定した。図8に示すプラスミドのうち、「TOPO(登録商標)2」の名称のExpressway反応にて最適な構築物を確認し、このベクターを使用して更なるベクターを作製した。
【0253】
プラスミドpEXP1−DESTは、PCR鋳型として機能した。最初にプライマーTA−IN−F(配列番号:17)及びTA−B(配列番号:18)を使用し、次にプライマーOUT−F(配列番号:19)及びTA−B(配列番号:18)を使用して、PCR断片をタンデムに増幅した(表7)。得られたPCR断片をXbaI及びBcIIで消化し、制限酵素XbaI及びBamHIで既に処理したpUCT7GFP内にクローニングした。続いて、得られたプラスミドからの2個のDNA断片を、制限酵素NotI及びPstIを使用した2サイクルの制限酵素処理及び自己ライゲーションにより除去し、プラスミドpFKI090(配列番号:9)を得た。
【0254】
本願に記載の試験において、Hisタグに対する2種の抗体を使用した。抗HisGは、H−H−H−H−H−H−G(配列番号:37)(タンパク質の任意の箇所に発生)を認識する抗体であり、認識はグリシンに依存し、一方で、抗His(C末端)抗体はカルボキシ末端のH−H−H−H−H−H−(COOH)(配列番号:38)を認識し、認識はカルボキシル基に依存する。抗HisG及び抗His(C末端)抗体の両方、並びにその様々な標識誘導体は、市販(Invitrogen)されている。抗HisGはC末端Hisタグを認識しないため、本願に記載する実験ではN末端Hisタグを検出するために使用される。
【0255】
抗HisGによる、N末端Hisタグを含む目的のクローニングタンパク質の検出を可能にするため、グリシンのコドンをpFKI090内の6×Hisコード配列に隣接して導入し、pFKI090内の100bp XbaI−Bsu361断片を、プライマーpEXP1−TOPO(登録商標)−FOR(配列番号:20)及びpEXP1−TOPO(登録商標)−REV(配列番号:21)を用いてpFKI090から増幅したDNA断片と交換した。PCR産物を、制限酵素XbaI及びBsu361で処理し、XbaI及びBsu361で同様に処理したpFKI090バックボーンDNA内にライゲーションし、プラスミドpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:39)を作製した。
【0256】
図8は、図9に示すpEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクター内のコード配列を示す。効果的なTOPO(登録商標)−TAクローニングは、上述したように、ccdB遺伝子を排除して負の選択を可能にすると考えられる。この構築物は、21個のアミノ酸のみを目的の遺伝子のN末端上に追加し、プロテアーゼ(TEV)切断後、追加の2個のアミノ酸のみを合成産物上に残留させる(図9B及び図9C)。これはpEXP1−DESTベクターと比較して有利であり、該ベクターは、ベクターから発現させた際、目的タンパク質に余分な51個のアミノ酸を付加し、プロテアーゼ(EK)切断後でさえも最終的なタンパク質産物中に追加の19個のアミノ酸を残留させる。
【0257】
(表7)N末端及びC末端ベクターの構築に使用するオリゴヌクレオチド
*これらのオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologiesから、5’−リン酸化及びHPLC精製済みのものを購入した。
【0258】
実施例10
pEXP−NT/TOPO(登録商標)を使用したTOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを使用した、TOPO(登録商標)クローニングの一般的な工程図を図10に示す。pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを用いたTOPO(登録商標)クローニングの幾つかの実施例を、以下に示す。
【0259】
TOPO(登録商標)充填
プラスミドpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(100μg)を、50℃で16時間、最終液量500μLにて、100Uの制限酵素BfuA1(NEB)で完全に消化した。80μLの4M LiCl及び1mLのエタノールを添加し、DNAをエタノール沈殿した。この混合液を−80℃で10分間インキュベートし、4℃で30分間遠心分離した。ペレットを70%エタノールで洗浄し、100μLの無菌水に再懸濁した。
【0260】
各断片1.8pmolに相当する消化DNA5μgを、以下のようにTOPO(登録商標)アダプテーションに使用した。最初に、消化DNA(配列番号:40)を、リン酸化し、かつHPLC精製したアダプターオリゴヌクレオチドとライゲーションした。オリゴヌクレオチドを最初に100℃で2分間インキュベートした。ライゲーション反応液は、5μgの消化プラスミド、3.2nmol(約17μg)のリン酸化及びHPLC精製オリゴヌクレオチドIDT−TOPO(登録商標)−B−TA−F、800UのT4DNAリガーゼ(NEB)、5μLの10×リガーゼバッファー(NEB)を含み、無菌水を50μLとなるまで添加した。反応を室温で30分間行った。次に、PureLink PCR精製キット(Invitrogen)を使用して、原則的にメーカーの指示に準拠し、遊離オリゴヌクレオチドを除去した。DNAを50μLの無菌水で溶出し、ワクシニアTOPO(登録商標)イソメラーゼIを充填した。以下の試薬を、総反応液量50μLにて、所定の順序で加えた(表8)。
【0261】
(表8)TOPO(登録商標)充填反応
【0262】
TOPO(登録商標)イソメラーゼ反応物を、37℃で15分間インキュベートした。次いで、6μLの10×Stop TOPO(登録商標)バッファーを添加し、反応物を室温で5分間インキュベートした。TOPO充填DNAをゲル精製し、他のTOPO(登録商標)ベクターに関するメーカー(Invitrogen)の指示に準拠し保存した。
【0263】
TOPO(登録商標)クローニング
ベクターのTOPO(登録商標)TAクローニングの性能を評価するため、lacZαペプチドをレポーターとしてコードするDNA断片を使用した。この断片のベクター内へのクローニングが成功すると、X−galプレート上にTOP10形質転換細胞の青色コロニーを生成する一方、他の構築物では白色コロニーを生成する。充填DNAを用いた一回のTOPO(登録商標)反応により、2,712コロニーを生成し、そのうち44(1.6%)のみが白色であった。ほぼ全て(98.4%)のコロニーが青色であり、これはすなわち、これらがlacZを発現し、非常に効率的で正確にクローニングされたことを示す。
【0264】
PCR断片のTOPO(登録商標)−TAクローニングを、TOPO(登録商標)TAクローニングマニュアル(Invitrogen)の指示どおりに実施した。Platinum(登録商標)PCR SuperMix High Fidelity(Invitrogen)及び遺伝子特異的プライマーを使用し、ヒトORFを増幅した。「終止なし(No stop)」C末端構築物において、逆方向プライマーはTAG配列を含んでいなかった。端的には、1μLのPCR反応物を、1μLのTOPO(登録商標)ベクター及び1μLの塩溶液と共に、6μLの最終反応液量にて、室温で10分間インキュベートした。得られた構築物でTop10細胞を形質転換し、コロニーPCRによりスクリーニングした(Zonら、Biotechniques7:696、1989)。次いで、陽性クローンをシークエンシングにより確認した。
【0265】
実施例11
C末端タンパク質融合用のベクター作製
IVPSによるタンパク質の発現及び精製用に、数種のベクターを構築した。全ての構築物をDNAシークエンシングで確認した。この実施例では、目的のクローニングタンパク質のカルボキシル末端側で、一種又は二種以上の所望の融合タンパク質要素と融合されるベクターの作製について説明する。ベクターは終止コドンを含むクローニングにより完全長の目的の天然タンパク質を生成する選択肢を研究者に与え、又は終止コドンを含ませずにクローニングした場合、C末端Hisタグは、目的タンパク質と8つの追加アミノ酸(KGHHHHHH、配列番号:41)とを含む融合タンパク質の一部として発現されると想定される。
【0266】
リボソーム結合部位と開始コドンとの間のベクターのN末端配列を解析し、TOPO(登録商標)部位の最良のスペーシングを決定した。プラスミドpFKI032(配列番号:42)を、試験構築物を構築するための鋳型として使用し、また対照ベクターとしての役割も果たした。pFKI032プラスミドは、T7プロモーターから終止コドンを有するcycle3 GFP遺伝子の第一のATGまでの、天然型T7配列を有する。終止コドンの後の3’配列は、atttL2部位及びT7ターミネーターを含む。
【0267】
RBS及びTOPO(登録商標)部位変異体を含むDNA配列を、上述したようにPCR変異誘発によりクローニングした。TOPO(登録商標)2バージョン(配列番号:14)を開始材料として使用し、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクター(配列番号:43)を作製した。端的には、存在する二つのBsaI部位を除去し、5’及び3’のBsaI部位、TOPO(登録商標)クローニング部位、及び6×His配列を加え、バックグラウンドを低減するために二つのBsaI部位間の大きい方の断片をクローニングすることにより実施される。
【0268】
プライマーNMRFor(配列番号:24)及びRTRev(配列番号:25)を用いたpFKI032(配列番号:42)プラスミドのPCRにより、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを作製した(表7)。PCR断片は、RBS及びTOPO(登録商標)2部位変異を含んでいた。120bp断片を、BglII及びNheIで消化した後、ゲル精製した。pFK1032ベクターもまたBglII及びNheIで消化した。pFK1032バックボーンを精製し、新しいRBS及びEcoRI部位を有する120bpのBglII及びNheI断片とのライゲーションに使用した。陽性クローンの配列確認をし、変異誘発反応の鋳型として使用した。
【0269】
望ましくないBsaI部位をベクターから除去するため、Gene Tailorキット(Invitrogen)を使用し、存在する二つのBsaI部位に変異導入した。AmpBSAForプライマー及びAmpBSARevプライマー(表7)を使用し、アンピシリン耐性遺伝子内のSer13におけるTCTのコドンをSer TCAと置換した。45BSAForプライマー(配列番号:28)及び45BSARevプライマー(配列番号:29)を使用し、未翻訳配列の45番目の部位に一つのアデニン(A)ヌクレオチドを挿入した。シークエンシングにより二つの突然変異を確認した後、陽性クローンを同定した。
【0270】
所望の3’BsaI部位、TOPO(登録商標)アダプション部位及び6×Hisコード配列を、プライマーRevAatII(配列番号:30)及びBSATAfor(配列番号:32)を用いたpCRT7−CT/TOPO(登録商標)(Invitrogen、配列番号:44)によるPCRにより得て、新たに作製したベクターに挿入した。PCR産物及び変異型ベクターを、EcoRI及びAatIIで消化した。240bp断片を精製し、調製したバックボーン内にライゲーションした。このステップにより、attB2部位も除去された。陽性クローンを配列決定し、以降の構築に使用した。
【0271】
所望の5’BsaI部位及びTOPO(登録商標)アダプション部位を挿入するため、BSATA(配列番号:32)及びNMRFor(配列番号:24)プライマーを使用し、RBS、TOPO(登録商標)アダプション部位、BsaI部位及びEcoRI部位を含む、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターの最終5’配列を含むPCR断片を増幅した。126bpのPCR産物をBglII及びEcoRIにより消化した後精製し、同じ制限酵素で消化した調製済みのバックボーン内にライゲーションした。陽性クローン(pEXP5−CT/TOPO(登録商標)−SM(配列番号:45))を単離した。このクローンは、EcoRIカットバック(cut−back)部位を含む18塩基からなる開始断片により分離された2個のBsaI部位を有していた。より大きい(27bp)部分を、BsaI部位間に挿入した。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)の最後から2番目の(penultimate)ベクターを、NMRfor(配列番号:24)及びTAECORI(配列番号:33)プライマーを用いたPCR反応の鋳型として使用した。PCR産物をBglII及びMfeIで消化し、BglII及びEcoRIで消化したpEXP5−CT/TOPO(登録商標)−SMのDNA内にライゲーションした。PCR後にコロニースクリーニングを行い、クローンを選択し、その全体を配列決定した。
【0272】
このプラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:42)を図11に示す。目的遺伝子は、終止コドンと共に挿入してもよい。終止コドンが含まれない場合、C末端Hisタグは、クローニングした目的タンパク質のカルボキシル末端に8個の追加のアミノ酸が追加された形で発現される。
【0273】
実施例12
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)を使用したTOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニングの一般的な工程を図12に示す。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニングの数個の実施例を以下に示す。
【0274】
TOPO(登録商標)充填
プラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(100μg)を、500UのEcoRI(NEB)を用い、400μLにて、NEBバッファー3中で2時間消化させ、直鎖状にした。次いで、500UのBsaI(NEB)を用い、反応物に制限酵素を補充し、50℃で4時間インキュベートしてベクターを消化した。3M酢酸ナトリウム40μL、及びエタノール880μLを添加しDNAをエタノール沈殿した。混合物を−80℃で10分間インキュベートし、4℃で30分間遠心分離した。ペレットを70%エタノールで洗浄し、68μLのTEに再懸濁した。大きい断片をイソプロパノール沈殿により除去した。これは3M酢酸ナトリウム6μL、及びイソプロパノール73μLを加え、5分間遠心分離する前に、室温で5分間インキュベートすることにより行った。ペレットを70%エタノールで洗浄し、無菌水100μLに再懸濁した。
【0275】
消化したDNA(配列番号:47) 10μgを、TOPO(登録商標)−アダプテーションに使用した。最初に、調製したDNAをリン酸化及びHPLC−精製アダプターオリゴヌクレオチドと一晩ライゲーションさせた。オリゴヌクレオチドを最初に100℃で2分間インキュベートした。ライゲーション反応は、10μgの消化したプラスミド、25μg(200モル過剰)のリン酸化及びHPLC−精製オリゴヌクレオチドIDT−TOPO(登録商標)−B−TA−F(配列番号:22)、400UのT4DNAリガーゼ(NEB)、10μLの10×リガーゼバッファー(NEB)を含み、無菌水で100μLにした。翌日、PureLink PCR精製キット(Invitrogen)を使用して、原則的にメーカーの指示に準拠し、遊離オリゴヌクレオチドを除去した。DNAを50μLの無菌水に溶解した。最後に、DNAにワクシニアTOPO(登録商標)イソメラーゼIを充填した。以下の試薬を、その通りの順序で、総反応容量100μLとなるように添加した(表9)。反応物を37℃で15分間インキュベートした。次いで、11μLの10×Stop TOPO(登録商標)バッファーを添加し、反応物を室温で5分間インキュベートした。TOPO(登録商標)充填したDNAをゲル精製し、最終推定濃度2.5μL/μg(合計1250μL)に希釈し、他のInvitrogen TOPO(登録商標)ベクターの説明書どおり保存した。
【0276】
(表9)TOPO(登録商標)充填反応
【0277】
TOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)構築物を、原則的に上記のとおり完全長タンパク質の発現レベルに関して、Gateway(登録商標)pEXP4ベクターと比較した。各レーンからの完全長産物のPhosphorimagerによる解析結果を、各発現構築物内のメチオニンの合計数で割ることにより発現を測定した。ORFの各対に関して最も高い発現を示したものの数値を標準とし、パーセンテージで表示した。
【0278】
全て終止コドンを含むキナーゼクローンIOH6416(1826)、IOH5211(4914)、IOH6368(4553)(そのGateway組み換えに使用したORFエントリークローンは全て終止コドンを含むため)を、二つのベクターによる発現レベルの比較を行った。ほとんどの場合、総発現レベルは、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクター内でほぼ5倍の高い収量を得たIOH6416(1826)を除き、同様であった。また、pEXP4産物と比較して、pEXP−CT産物ではバックグラウンドが少なかった。
【0279】
実施例13
TOPO(登録商標)ベクターからのタンパク質発現
pEXP1−DEST対pEXP5−NT/TOPO(登録商標)の発現レベルの比較
TOPO(登録商標)ベクターから発現した産物の相対的な品質及び収量を評価するため、異なる6の哺乳動物種由来ORFを(1)pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクター内にTOPO(登録商標)クローニングし、また(2)Gateway(商標)技術を用いてattL×attR組み換えによりpEXP1−DESTベクター内にクローニングした。上記の「供給」法により、無細胞反応を行った。2μLのサンプルをアセトン沈殿し、SDS−PAGEゲル上にロードした。電気泳動の後、ゲルをクマシーブルー染色し、phosphorimagerのスクリーンに露出した。完全長産物の相対存在量を、ホスファストレージオートラジオグラフィーにより測定し、IMAGEQUANTソフトウエア(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して、Typhoon 8600可変モードイメージャーにより解析した。
【0280】
N末端構築物からの完全長産物の発現レベル及び量を比較した。各レーンからの完全長産物のホスファイメージャー解析結果を、各発現構築物内のメチオニン数で割ることにより発現レベルを測定した。ORFの各対に関して最も高い発現を示したものの数値を標準とし、パーセンテージで表示した。
【0281】
試験の結果、TOPO(登録商標)ベクターから発現させた場合、試験した6配列のうち四つは、pEXP1から発現した場合と比較し平均2倍高い発現を示した。pEXP1−DESTから発現させた場合は、唯一ORF(IOH11046)がより高い収量を示し、またもう一つ(IOH3588)の場合では同等のレベルにて発現した。他のタンパク質、例えばGFPは、TOPO(登録商標)ベクターの場合に有意に高発現した(図示せず)。また、実際、TOPO(登録商標)ベクターから発現させた全配列において、pEXP1から発現したものと比較し、切断産物又は不完全産物の産生が少なかった。
【0282】
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターにおける発現比較
ベクターpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(CT)及びpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(NT)を、CALML3、IOH6416、IOH5211及びIOH6368タンパク質の発現に使用した。発現プラスミド内にクローニングしたこれらORFを用いてインビトロ合成反応において合成したタンパク質を、4〜12% NuPAGE(登録商標)ビス/トリスゲルで電気泳動し、ゲルをオートラジオグラフィーし、タンパク質レベルを分析した。図13は、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)又はpEXP5−NT/TOPO(登録商標)からの四つのORFの発現レベルを比較するグラフを示す。
【0283】
新しいTOPO(登録商標)ベクター内にクローニングした様々なORFの発現レベルの試験において、幾つかの遺伝子はN末端ベクター内で良好に発現する一方、他の遺伝子はC末端の場合に良好に発現することが観察された。タンパク質の発現レベルは、タンパク質依存性であることが公知であり、単に6×Hisタグのようなコード配列を一端から他端へ移動するだけでも、全ての場合においてタンパク質収量に劇的な効果を与えうる。CALML3を除き、タグの移動により発現レベルの強い差異が観察された。全ての場合において、CALML3 ORFは、終止コドンと共にCT−ベクター内にクローニングされ、発現レベルは、N末端タグを有する融合タンパク質と、6×Hisタグを有さないタンパク質との間で比較した。
【0284】
実施例14
タンパク質の検出及び精製
アミノ末端融合タンパク質(pEXP5−NT/TOPO(登録商標))の検出及び精製
His6タグ及びニッケル樹脂によるタンパク質の検出及び精製を、TOPO(登録商標)ベクターからインビトロ発現させたタンパク質に関して行った。N末端ベクターの場合、合成した産物をTEVプロテアーゼで処理してHis6タグを除去し、この除去を、それが未使用Ni−NTA樹脂へ結合しないことにより確認した。
【0285】
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターから発現させた6×Hisタグ付きタンパク質の精製において、合成GFPを含有する100μLのExpressway(商標)Milligram反応物を、Ni−NTA樹脂上に直接チャージした。チャージしたサンプル2μL、フロースルー、3つの洗浄画分(W)及び3つの溶出画分(E)を分析した。サンプルを4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲルにて電気泳動し、これをクマシーブルー染色した。その結果、サンプル中のほとんどのタンパク質が樹脂に結合せず、そのためフロースルー中に存在することが示された。しかしながら、Hisタグ付きタンパク質は、3回の洗浄の間結合した状態で保持及び残留し、第一の溶出時に遊離した。次の溶出では、(存在した場合)非常に少量のタンパク質が含まれ、Hisタグ付きタンパク質は一回の溶出で効率よく遊離したことが示された。
【0286】
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターから調製されたタンパク質産物はまた、TEVプロテアーゼにより効率良く切断された。GFPを含むpEXP5−NT/TOPO(登録商標)構築物によるIVPS反応由来のサンプルをカラムにチャージし、最初のフロースルー、5mMイミダゾールによる2回の洗浄、及び20mMイミダゾールによる2回の洗浄においてサンプルを採取した。タンパク質を、200mMイミダゾールにより溶出した。溶出したタンパク質をTEVプロテアーゼで消化したところ、効率良いタンパク質分解が見られたTEV処理したタンパク質は、第二のProBond(商標)カラムに捕捉されず、予想通りのHis6タグの除去が示された。
【0287】
カルボキシル末端での融合タンパク質(pEXP5−CT/TOPO(登録商標))
プラスミドpEXP5−CT/CALML3(終止コドンなし)を、200μLのExpressway−Milligram反応にて発現させた。25μLの反応物を、Ni−NTAカラム上に直接チャージした。カラムを3回洗浄し、結合したタンパク質を4画分に溶出した。各画分のサンプルを、二つの4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲル上で分離した。一方のゲルはSimplyBlue(商標)(Invitrogen)で染色し、他方はニトロセルロースに転写し、Western Breeze(商標)抗マウス化学発光キット(Invitrogen)を使用して、抗HisCによりプローブした。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)構築物から生成されたHisタグ付きタンパク質を検出するために、抗HisC(C末端)抗体(Invitrogen)を使用した。抗His(C末端)抗体(Lindner等、BioTechniques22:140、1997)は、タンパク質のカルボキシ末端のポリヒスチジンアミノ酸配列を認識するモノクローナル抗体である。抗His(C末端)抗体は、配列−His−His−His−His−His−His−COOHを認識し、末端ヒスチジン残基の遊離カルボキシル末端は、エピトープ認識部位の一要素である。その結果、CALML3−6×Hisタンパク質がNi−NTAカラム上で効率良く精製されたことが示された。
【0288】
実施例15
Expressway(商標)Milligram IVTTキット
Expressway(商標)IVPS系(Invitrogen、Carlsbad、CA)は、mg規模のタンパク質を発現させるためのキットを含む。このようなキットには、1)IVPS大腸菌抽出物、2)2.5×IVPS反応バッファー、3)2×IVPS供給バッファー、4)T7酵素ミックス、5)50mM アミノ酸ミックス(Met及びCysを除く)、6)75mM Met、及び7)75mM Cysが含まれる。キットにはヌクレアーゼフリーの蒸留水も含まれる。キットにはまた、pEXP5−NT/CALML3発現対照プラスミドも含まれる。
【0289】
キットに用いられる大腸菌抽出物は、細胞溶解に先立ち、抽出物の調製用の細胞を、最終濃度0.1%のTriton X−100を含有するバッファー中に再懸濁して調製される。
【0290】
2.5×IVPS反応バッファーは、145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5%PEGである。
【0291】
2×供給バッファーは、115mM HEPES−KOH(pH8)、3.4mM DTT、68μg/mL フォリン酸、460mM 酢酸カリウム、28mM 酢酸マグネシウム、160mM NH4OAc、4mM CaC12、1.3mM cAMP、90mM グルコース−6−リン酸、及び1mM NADである。
【0292】
幾つかのキットには、クローニングベクターpEXP5−NT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)も含まれる。幾つかのキットにはコンピテント細胞も含まれる。
【0293】
上記キットには、IVPS反応を複数回行うのに十分な試薬が含まれる。
【0294】
キットには、取り扱い説明書が含まれる。
【0295】
実施例16
Expressway(商標)NMR IVTTキット
Expressway(商標)IVPS系(Invitrogen、Carlsbad、CA)は、NMR分析用の、IVPSにて標識され得るタンパク質の発現キットを含む。このようなキットは、1)IVPS大腸菌抽出物、2)2.5×IVPS反応バッファー、3)2×IVPS供給バッファー、4)T7酵素ミックス、5)各アミノ酸の200mM溶液(Leuを除く)、及び6)150mM Leu、を含む。キットにはヌクレアーゼ−フリー蒸留水も含まれる。キットにはまた、pEXP5−NT/CALML3発現対照プラスミドも含まれる。
【0296】
キットに用いられる大腸菌抽出物は、細胞溶解に先立ち、抽出物調製用の細胞を、最終濃度0.1%のTriton X−100を含有するバッファー中に再懸濁して調製される。
【0297】
2.5× IVPS反応バッファーの組成は、145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEGである。
【0298】
2×供給バッファーの組成は、115mM HEPES−KOH、pH8、3.4mM DTT、68μg/mL フォリン酸、460mM 酢酸カリウム、28mM 酢酸マグネシウム、160mM NH4OAc、4mM CaC12、1.3mM cAMP、90mM グルコース−6−リン酸、及び1mM NADである。
【0299】
幾つかのキットには、クローニングベクターpEXP5−NT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)も含まれる。
【0300】
キットは、IVPS反応を複数回行うのに十分な試薬を含む。
【0301】
キットには取り扱い説明書が含まれる。
【0302】
別に定義しない限り、本願にて使用する全ての技術及び科学用語は、バイオテクノロジー分野の当業者により一般に理解されている意味である。本明細書にて言及する全刊行物、特許出願、特許及びその他の参照は、その全内容が参照により組み入れられる。一部に齟齬が存在する場合は、定義を含む本明細書が優先する。
【0303】
見出しは読者の理解を補助するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0304】
本願にて引用する全参考文献は、その全内容が参照により組み入れられる。
【0305】
本発明の一つ又は二つ以上の実施態様の詳細を、添付の図面及びその下の注記において説明する。本発明の他の特徴、課題及び効果は、本発明の記載から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0306】
【図1】供給溶液を用いたインビトロタンパク質合成(IVPS)の典型的な流れを示す。
【図2】緑色蛍光タンパク質(GFP)のリアルタイム発現を示す。
【図3】本発明のIVPS系を使用した、各種タンパク質のmg単位での産生を示す。
【図4】IVPSに用いる細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の、可溶タンパク質の合成量に与える効果を示す。
【図5】細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の効果を示す。
【図6】細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の効果を示す。
【図7】S30ペレットの界面活性剤による抽出物のIVPS反応への添加による、タンパク質の合成量に与える効果を示す。
【図8】本発明の幾つかの発現ベクターのクローニングカセット配列、並びにオープンリーディングフレーム(ORF)を示す図である。「RBS」の下の下線部の配列はリボソーム結合部位を、二重下線部の文字はTOPO(登録商標)配列(5’−CCCTT)を、「ATG」の下の下線部の配列は開始コドンを示す。
【図9】pEXP5 NT/TOPO(登録商標)ベクターを示す。(A)はベクターマップを、(B及びC)はpEXP5−NT/TOPO(登録商標)によってコードされるヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。矢印は、グルタミン(「Q」)及びセリン(「S」)残基との間のTEV切断部位を示す。TEV切断の後、主ポリペプチド鎖に二つの追加的なアミノ酸残基のセリン及びロイシン(「L」)のみが残る。GOIは目的遺伝子の略記である。
【図10】pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニング法を示す。
【図11】pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを示す。(A)はベクターマップを、(B)は終止コドンがGOIに存在しない時に産生されるアミノ配列(KGHHHHHH)を含む、クローニングカセットのヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図12】pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニング法を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は生命工学の分野に関する。特に本発明は、生体分子(例えば核酸及びポリペプチド)を合成、精製、標識及び/又は検出するためのインビトロの系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
インビトロタンパク質合成(IVPS)はとりわけ、タンパク合成において、インビボ又は細胞系でのタンパク質産生に使用される細胞の維持に必要とされる余分なタンパク質の産生を伴わずに、目的タンパク質を特異的に産生するという点で優位性を発揮する。細胞がタンパク質工場として用いられるとき、細胞は所望のタンパク質の産生に加え、他の必要な分子も産生する。それには不要なタンパク質が含まれるが、細胞を維持するためには必要なものである。
【0003】
インビトロタンパク質合成は、遺伝子発現の細胞内調節が基本的に存在しないため、細胞毒性のタンパク質、不安定なタンパク質、又は不溶性のタンパク質の産生に効果的である。インビボでの一定濃度以上のタンパク質の過剰産生は困難であり、その理由として、発現量が産生物の濃度によって調節されることが挙げられる。一般に細胞に蓄積されるタンパク質の濃度は、細胞の生存に影響を及ぼすため、所望のタンパク質の過剰産生は困難である。単離及び精製工程中、多くのタンパク質は不溶性又は不安定であり、細胞内のプロテアーゼにより分解されるか、又は封入体として凝集するため、回収率が低くなる。インビトロ合成は、これらの多くの課題を回避するものである。更に、多数の配列にてタンパク質を同時及び迅速に発現させることより、この技術は、研究目的での複合アレイの開発やタンパク質のスクリーニング作業に有益なツールを提供しうる。更に、様々な非天然アミノ酸は、特殊な目的に使用するタンパク質に能率的に取り込まれうる(Norenら、Science 244:182−188,1989)。しかしながら、その全ての優れた面をもってしても、インビトロの系はタンパク質のインビボ合成の代替技術として現実に広く受け入れられたわけではない。
【0004】
既存の大腸菌ベースの無細胞発現系は、細胞ベースの系と比較し、生成物を得るスピードや使用の容易性を含めた利点を数多く有するものである。特にプロテオミクスの分野でこれらの系が広く使用されている。Movahedzadehら、「In vitro transcription and translation」、Methods Mol Biol.235:247−255(2003);Kimら、Eur.J.Biochem.239:881,1996;Patnaik及びSwartz、Biotechniques 24:862,1998;Kim及びSwartz(1999)、Biotechnol.andBioeng.66:180−188;並びにKim及びSwartz(2000)、Biotechnol.Prog.16:385−390を参照のこと。全ゲノム配列情報を得ることにより、機能が不明又は十分理解されていない無数の遺伝子及びオープンリーディングフレームの分子構造及び系統に関する膨大な情報が得られる。すなわち、IVTT及び、更に一般的にいえばインビトロタンパク合成の有用性は、迅速かつ効率的なタンパク合成及び機能解析にとり、将来更に重要な位置を占めると期待される。
【0005】
しかしながら、現在のIVPS系には限界が存在する。例えば、これらの系では、詳細な分析に使用できる程の充分量のタンパク質が産生されない。短時間(1〜6時間)において、望ましい濃度(例えばmg/mL規模)で目的タンパク質の所望量(mg規模)を産生することは困難である。
【0006】
更に、IVPSでは、目的タンパク質への非天然(例えば検出用に標識された)アミノ酸の高効率での導入方法は、限られたものとなっている。Mamaevらは、IVPSによりタンパク質に標識アミノ酸を導入する方法を報告した(Anal Biochem 326:25−32(2004))が、それはアミノ末端に、フルオロフォア−アミノ酸コンジュゲートにより化学的にアミノアシル化された、外因性イニシエーターのサプレッサーtRNAを付加するに留まっている。更に、Mamaevらの方法は、27〜67%の特異的な標識に留まっている。
【0007】
特許文献
インビトロタンパク質合成の分野の特許には、以下のリストに挙げられるものが含まれるが、それらに限定されるものではない。このリストは、同等技術の広範囲にわたる再調査を目的とせず、またこれらの特許文献リストのいずれも、その文書が実際に同等技術であることを承認するものでもない。
米国特許第5,478,730号(Alakhovら、「Method of preparing polypeptides in cell−free translation system.」)。
米国特許第5,665,563号、第5,492,817号、及び第5,324,637号(Becklerら、「Coupled transcription and translation in eukaryotic cell−free extract.」)。
米国特許第6,337,191号(Swartzら、「In vitro Protein Synthesis using Glycolytic Intermediates as an Energy Source.」)。
米国特許第6,518,058号(Biryukovら、「Method of preparing polypeptides in cell−free system and device for its realization.」)。
米国特許第6,670,173号(Schelsら、「Bioreaction module for biochemical reactions.」)。
米国特許第6,783,957号(Biryukovら、「Method for synthesis of polypeptides in cell−free systems.」)。
米国特許出願第2002/0168706号(Chatterjeeら、2002年11月14日公開、「Improved in vitro synthesis system.」)。
米国特許第6,168,931号(Swartzら、2002年1月8日登録、「In vitro macromolecule biosynthesis methods using exogenous amino acids and a novel ATP regeneration system.」)。
米国特許第6,548,276号(Swartzら、2003年4月15日登録、「Enhanced in vitro synthesis of active proteins containing disulfide bonds.」)。
米国特許出願第2004/0110135号(Nemetzら、2004年6月10日公開、「Method for producing linear DNA fragments for the in vitro expression of proteins.」)。
米国特許出願第2004/0209321号(Swartzら、2004年10月21日公開、「Methods of in vitro protein synthesis.」)。
米国特許出願第2004/0214292号(Motodaら、2004年10月28日公開、「Method of producing template DNA and method of producing protein in cell−free protein synthesis system using the same.」)。
米国特許出願第2004/0259081号(Watzeleら、2004年12月23日公開、「Method for protein expression starting from stabilized linear short DNA in cell−free in vitro transcription/translation systems with exonuclease−containing lysates or in a cellular system containing exonucleases.」)。
米国特許出願第2005/0009013号(2005年1月13日公開)、米国特許出願第2005/0032078号(2005年2月10日公開)、Rothschildら、「Methods for the detection, analysis and isolation of nascent proteins.」。
米国特許出願第2005/0032086号(Sakanyanら、2005年2月10日公開、「Methods of RNA and protein synthesis.」)。
PCT特許出願国際公開公報第00/55353号(Swartzら、2000年3月15日、「In vitro macromolecule biosynthesis methods using exogenous amino acids and a novel ATP regeneration system.」)。
これらの特許及び特許出願の全ては、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【発明の開示】
【0008】
本発明の概要
本発明は、生体分子のインビトロ合成(例えばインビトロタンパク質合成(IVPS))に関する。本発明は、IVPSに用いる組成物、方法、クローニング及び発現ベクター、並びにキットを提供する。
【0009】
本発明はインビトロタンパク質合成(IVPS)のための組成物、方法及びキットに関する。本発明は、IVPS系、並びにその組成物、方法及びキットを含む。また、二つ以上の異なる要素(組成物、方法、キット)を組み合わせて、本発明の異なる態様とすることもできる。本発明の方法は、IVPS系の組成物の調製、及び効率的なIVPS反応の実施に有用である。本発明の組成物は、目的タンパク質の産生に使用でき、いかなる給源生物(例えばウイルス、原核生物、真核生物、古細菌、動物、植物、細菌その他由来の細胞又はオルガネラ)も使用できる。
【0010】
本発明には、IVPS反応の開始後に添加される、IVPS反応の幾つかの構成要素を含む供給溶液(Feeding Solution)(本明細書において「供給バッファー(Feeding Buffer)」とも称される)が提供される。進行中の無細胞発現の反応系に供給溶液を添加することにより、タンパク合成を促進させ、より高い収量が実現できる。本発明は、多くの望ましい特徴(例えば高収量でのタンパク質産生、反応時間短縮など)を有する優れた供給溶液を提供するものである。
【0011】
本発明の供給溶液には、少なくとも一つの追加的なエネルギー源及び/又は補因子が含まれる。「追加的な」とは、エネルギー源及び/又は補因子が、初めの反応混合物に排他的又は主に存在するエネルギー源及び/又は補因子と構成的に異なることを意味する。典型的には、反応時間0(t=0)での初めのエネルギー源がホスホエノールピルビン酸(PEP)及びアセチルリン酸(AP)である。補因子NAD又はNADHと共に供給溶液に含まれる(及び/又は初めのIVPS反応に添加される)好適な追加的エネルギー源には、限定するものではないが、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸又は3−ホスホグリセリン酸のような解糖系の中間代謝産物が含まれる。
【0012】
本発明はまた、IVPS系において可溶性タンパク質の収量増加をもたらす細胞抽出物を提供する。上記抽出物は、抽出物の調製にあたり細胞を溶解させたバッファーに脂質、表面活性剤又は界面活性剤を添加することによって調製される。
【0013】
本発明は更に、タンパク質をコードする配列の効率的クローニング用のベクターであって、その配列がコードするタンパク質の翻訳、溶解性及び活性を向上させる配列を有するベクターを提供する。
【0014】
他の態様において、本発明は、限定するものではないが、一つ以上の供給溶液、IVPS細胞抽出物、及び/又はキット化されたバージョンを含むベクターであって収量及び時間当たりのタンパク合成を最大化するベクターの使用を含む、IVPS方法に関する。本発明は、多量の目的タンパク質(POI)をmg単位、好ましくは少なくとも1から約1mg/mL〜100又は約100mg/mLの濃度で、約1〜約6時間で合成する方法を提供する。
【0015】
他の態様においては、本発明は、限定するものではないが、一つ以上の供給溶液、IVPS抽出物及び/又はベクター及びそのキット化されたバージョンを含み、IVPS反応の間、外部から添加されるアミノ酸の取り込みを最大化する、IVPS方法及び組成物に関する。この種の外部から添加されるアミノ酸には、検出可能な標識を付与されたアミノ酸(例えば蛍光標識アミノ酸、重元素アミノ酸及び放射性同位元素標識アミノ酸)が含まれうる。これらの本発明の態様は、質量分析及び核磁気共鳴法(NMR)などに使用する、標識目的タンパク質の調製に有用である。なぜなら、対応する非標識(天然)アミノ酸を除外した形で、検出可能な標識を付与された他の非天然アミノ酸の完全な取り込みが行われるからである。本発明はまた、質量分析及びNMRスペクトル解析に使用するタンパク質の完全な標識に使用可能な系及びキットを提供する。
【0016】
他の態様においては、本発明は、目的遺伝子をクローニングし、IVPS系で発現させるためのベクターに関する。インビトロタンパク質合成の好適な特徴としては、それが目的遺伝子を特定の目的タンパク質の産生のために提供できる、確立された系であることが挙げられる。目的遺伝子の発現効率は、そのリーディングフレーム外の配列により影響されるため、適切な制御配列を本発明のベクターの目的遺伝子に対し、制御可能に連結してもよい。アミノ酸タグ配列の目的タンパク質への融合を可能にする二つのベクターのペアであって、二つのベクターのうちの一つがN末端側アミノ酸タグを有する目的タンパク質の発現に用いられ、二つのベクターのもう一方がC末端側アミノ酸タグを有する目的タンパク質の発現に用いられるベクターのペアが提供される。そのベクターにより、アミノ酸タグを使用して単離、アフィニティー精製、又は検出される目的タンパク質の効率的な産生が行われ、またその合成されたタンパク質へのアミノ酸付加は最小限に留まる。
【0017】
略記及び定義
以下の記載において、組換え核酸技術で使用される多くの用語が広範囲に利用される。本明細書と請求項の明確かつ一貫した理解を可能にするため、この種の用語に与えられる範囲を含めて、以下のように定義する。
【0018】
アミノ酸:
本発明における「アミノ酸」とは、アミノ基(−NΗ2)及びカルボキシル基(−COOH)を含む有機化合物である。
【0019】
以下の表において、天然のタンパク質に通常存在する20の天然アミノ酸、及び各アミノ酸に関連する1及び3文字表記の一覧を記載する。
【0020】
(表1)天然アミノ酸及び遺伝子コード
*表中のコドンは、mRNA上に存在するときの態様である。DNA分子における対応するコドンは、RNA配列のあらゆるウラシル(U)ヌクレオチドをチミジン(T)ヌクレオチドに置換したものである。
【0021】
本明細書における「外来アミノ酸」の用語は、天然タンパク質には存在しないが、組換えDNAを使用して発現させるタンパク質に取り込まれるアミノ酸を指すものとして使用される。本願において「天然型」及び「野生型」とは、自然界において生じる生体分子を指す。「非天然」及び「修飾された」の用語は、その天然の形態に修正又は変更を加えた生体分子を指す。
【0022】
「アミノ酸」の用語には、天然アミノ酸(表1)及び修飾アミノ酸の両方が含まれる。修飾アミノ酸には、限定するものではないが、検出可能な標識付与された、及び/又は構造的に修飾されたアミノ酸が含まれる。タンパク合成においては、翻訳において、当然ながら好適に修飾されたアミノ酸をポリペプチドに取り込ませてもよい。
【0023】
ヒ素含有分子:
本願において、ヒ素含有分子とは、一つ以上のヒ素原子を含むあらゆる化学物質を指す。好適なヒ素含有分子は、特定のアミノ酸配列と結合する。好適な特定のアミノ酸配列はC−C−X−X−C−C(「C」はシステインを表し、「X」はシステイン以外の任意のアミノ酸を表す)である。二ヒ素(二つのヒ素原子)化合物及び四ヒ素(四つのヒ素原子)化合物の両化合物は、ヒ素含有化合物である。四ヒ素分子は、単体ヒ素及び二ヒ素のいずれかによる分子である。
【0024】
単体ヒ素、二ヒ素又は四ヒ素の分子は、好ましくは検出可能な基(例えば蛍光性の基、発光性の基、リン光性の基、スピン標識、光増感剤、光切断可能部分、キレート中心、重元素、放射性同位元素、核磁気共鳴法(NMR)によって検出可能な同位元素、正磁性原子及びそれらの組み合わせ)を含む。用途によっては、共有結合によるカップリングによって二ヒ素の分子を固相に固定するのが好ましい。この種の用途は、ビーズ又はアフィニティークロマトグラフィーに適する他のいずれかの基材への固定を含む。これは、タグ付きタンパク質の精製に用いられる。単体ヒ素、二ヒ素又は四ヒ素の分子は、好ましくは生体膜を通過できるものである。
【0025】
二ヒ素分子:
本発明において、二ヒ素分子とは、二つ以上のヒ素原子を含むあらゆる化学物質を指す。好適な二ヒ素分子は、特殊なアミノ酸配列と結合する。好適な特異的なアミノ酸配列はC−C−X−X−C−C(「C」はシステインを表し、「X」はシステイン以外の任意のアミノ酸を表す)である。米国特許出願公開第2005/017065号(二ヒ素分子に関する全ての開示内容が、本明細書に参照により組み入れられる)を参照。
【0026】
四ヒ素分子:
二ヒ素分子の代わりに、又はそれと組み合わせて使用する他の分子には、限定されないが、四ヒ素分子が含まれる。四ヒ素分子は、Tsienらの米国特許第6,054,271号において開示される化学式を有する二つの二ヒ素分子を含む(本明細書において四ヒ素分子に関する全ての開示内容が参照により組み入れられる)。例えば、二つの二ヒ素分子は、連結基で相互に連結される。
【0027】
細胞の抽出物又は細胞抽出物:
抽出物は、細胞溶解液若しくは浸出液、又はそれらのフラクションである。例えば、細胞抽出物は、溶解液中に含まれる他の細胞構成要素を遠心分離、濾過、選択的沈殿、選択的免疫沈降反応、クロマトグラフィー又は他の方法によって分離して得た、溶解液の一部であってもよい。例えば、IVPS用の細胞抽出物の通常の調製方法には、細胞可溶化物を遠心分離して膜及び他の不溶性の構成物を溶解液のペレットとし、上清(IVPS系に使用される抽出物)を取り出すことが含まれる。用語「細胞抽出物」及び「IVPS抽出物」にはまた、タンパク質又は核酸合成に必要又は要求される構成要素に関し、細胞可溶化物又は浸出液に似せて調製した構成要素の混合物が含まれる。IVPS抽出物は、タンパク合成反応において細胞可溶化物又は浸出物(又はそのフラクション)を模倣又は改善する、及び/又は核酸の鋳型からの合成に使用する構成要素を提供する、構成要素の混合物であってもよい。この種の混合物は、当業者にとり自明であろうが、部分的な抽出物又はそのフラクションの回収、及び/又は任意の数の個々の構成要素の混合によっても調製できる。後者は、天然由来でも、又はインビトロで合成されたものでもよい。
【0028】
含まない:
本発明において「含まない」の用語は、所与の物質又は構成要素が存在しないことを指す。本発明においては、ある物質が組成物中に、v/v、w/v又はw/wにおいて、1%未満又は約1%、好ましくは0.1%未満又は約0.1%、最も好ましくは0.01%未満又は約0.01%の濃度で存在する場合、その組成物はその物質を含まないという。
【0029】
実質的に含まない:
本発明において、ある物質が最も好ましくは25%未満又は約25%、好ましくは10%未満又は約10%、最も好ましくは5%未満又は約5%、最も好ましくは1.1%未満又は約1.1%である場合、組成物はその物質を実質的に含まないという。
【0030】
検出可能に標識された:
「検出可能に標識された」及び「標識された」の用語は、本発明において交換して使用可能であり、分子(例えば核酸分子、タンパク質、ヌクレオチド、アミノ酸など)が、他の部分又は分子であって、様々な検出手段(例えば測定機器、目視、写真撮影、X線撮影など)によって検出されうるシグナルを生じるものを付加されている状態を指す。この種の状態においては、分子は、共有結合又はイオン結合、凝集、アフィニティーカップリング(例えば一次及び/又は二次抗体の使用を含み、そのいずれも検出可能な標識を含みうる)などを含む、様々な任意の公知技術によって、シグナルを生じさせる分子又は部分(「標識」又は「検出可能な標識」)を付加(又は「標識」)されてもよい。本発明における、標識又は検出可能に標識された分子の調製に用いられる、検出可能な標識として適切なものには、例えば放射性同位元素標識、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、酵素標識及び当業者に公知の他のものが含まれる。
【0031】
遺伝子:
「遺伝子」の用語は、本発明において、ポリペプチド、タンパク質又は非翻訳RNA(例えばrRNA、tRNA、アンチセンスRNA)の発現に必要な情報を含む核酸を意味する。遺伝子がタンパク質をコードするときは、プロモーター及び構造遺伝子のオープンリーディングフレーム配列(ORF)、並びにタンパク質発現に関係する他の配列を含む。遺伝子が非翻訳RNAをコードするときは、プロモーター及び非翻訳RNAをコードする核酸を含む。
【0032】
目的遺伝子(GOI):
「目的遺伝子」の用語は、任意の目的(例えば疾患の治療、改良された特性の付与、宿主細胞における目的タンパク質の発現、リボザイムの発現など)のために、それを操作することが望ましいと当業者が考える、あらゆるヌクレオチド配列(例えばRNA又はDNA)を指す。この種のヌクレオチド配列は、限定されないが、構造遺伝子(例えばリポーター遺伝子、選択標識遺伝子、腫瘍遺伝子、薬剤耐性遺伝子、生育因子など)のコーディング配列、並びにmRNA又はタンパク質をコードしないノンコーディング制御配列(例えばプロモーター配列、ポリアデニル化配列、ターミネーター配列、エンハンサー配列など)が挙げられる。
【0033】
宿主:
本発明における「宿主」の用語は、複製可能な発現ベクター、クローニングベクター又は任意の核酸分子の取り込み先となる、あらゆる原核生物又は真核生物(例えば哺乳類、昆虫、酵母、植物、鳥類、動物など)を指す。核酸分子は、制限されないが、目的配列、転写制御配列(例えばプロモーター、エンハンサー、阻止物質など)及び/又は複製開始点を含んでもよい。本発明における「宿主」、「宿主細胞」、「組換え宿主」及び「組換え宿主細胞」の用語は、相互に交換して使用できる。この種の宿主に関しては、例えばSambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory」(Cold Spring Harbor,New York)を参照のこと。
【0034】
インビトロ:
本発明において「インビトロ」の用語は、細胞又は有機体の外の系を指し、しばしば無細胞系のことを指すこともある。インビボの系は、基本的に完全な細胞であって、懸濁液又は、他の細胞若しくは固体に結合若しくは接触しているものに関する。インビトロの系は、操作がより容易であるという利点が存在する。構成要素を細胞内部に届けることがなく、細胞機能の維持にとって適切でない操作も可能である。一方、インビトロの系では破壊した細胞又は各種構成要素が使用されるため、所望の機能を発揮させることができ、またそれにより細胞の空間的関係が失われる。インビトロの系の調製時、おそらく所望の活性を左右するであろう構成要素が、廃棄される細胞残渣と共に除去されうる。すなわちインビトロの系は操作が簡便で、インビボの系とは異なる機能を発揮しうる。
【0035】
IVT:
「インビトロ転写」(IVT)及び「無細胞転写」の用語は、本発明において交換可能に使用され、RNAからのタンパク質合成を含まない、DNAからRNAへの無細胞合成の任意の方法を指す。好適なRNAは、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)である。
【0036】
IVTT:
「インビトロ転写−翻訳」(IVTT)、「無細胞転写−翻訳」、「DNA鋳型からのインビトロタンパク質合成」及び「無細胞でのDNA鋳型からのタンパク質合成」の用語は、本発明において相互に交換可能に使用され、あらゆる無細胞におけるDNAからのmRNA合成(転写)及びmRNAからのタンパク質合成(翻訳)方法を指す。
【0037】
IVPS:
「インビトロタンパク質合成」(IVPS)、「インビトロ翻訳」、「無細胞翻訳」、「RNA鋳型からのインビトロタンパク質合成」「無細胞のRNA鋳型からのタンパク合成」及び「無細胞タンパク合成」の用語は、本発明において交換可能に使用され、あらゆるタンパク質の無細胞合成方法を指す。転写及び転写の結合を含むIVTTは、IVPSの非限定的な一例である。
【0038】
IVPS適合:
本発明において、「IVPS適合の」及び「IVPSに適合した」の用語は、IVPS抽出物又はインビトロでのポリペプチドの産生に使用可能な系を指す。
【0039】
キット化された:
本発明において「キット化された」の用語は、キットの形態に調製された組成物を指すために用いられる。キットは一つ以上の試薬、一つ以上の装置又は一つ以上の補給物を含む構成要素の集合体であってよく、そのキットの組成物のうち二つ以上が、プロトコル又は一般方法と同一又は異なる工程で使用されうる。任意に、上記の組成物は、一つ以上の個別容器(例えばチューブ、バイアル、バブルパック、ブリスターパックなど)中に分注した状態で、好ましくは、直接又は間接的なユーザー向け取扱説明書を添えて、例えば箱、ラック、枠箱、パッケージなどの簡便な包装形態で一緒に梱包してもよい。しかしながら、場合によりキットの一つ以上の構成要素を別に梱包してもよい。
【0040】
核酸分子:
本発明における「核酸分子」の用語は、任意の長さの一連なりのヌクレオチド(リボNTP、dNTP、ddNTP又はそれらの組み合わせ)を指す。核酸分子は、完全長ポリペプチド若しくはその任意の長さの断片をコードしてよく、又はノンコーディングであってよい。本発明において「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」の用語は交換して使用でき、一本鎖(ss)及び二本鎖(ds)RNA、DNA及びRNA:DNAハイブリッドを含んでもよい。
【0041】
ポリメラーゼ:
本発明において、「ポリメラーゼ」は、既存の鋳型核酸を使用して核酸の合成反応を触媒する酵素を指す。例えば、DNAポリメラーゼ(DNA→DNA反応を触媒)、RNAポリメラーゼ(DNA→RNA)及び逆転写酵素(RNA→DNA)が含まれる。
【0042】
ポリペプチド:
本発明における「ポリペプチド」の用語は、任意の長さの一連のアミノ酸を指す。「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「タンパク質」の用語は、本発明において「ポリペプチド」の用語と交換して使用できる。
【0043】
プロモーター:
本発明において、「プロモーター」、「プロモーター要素」又は「プロモーター配列」の用語は、目的のヌクレオチド配列に連結されたときに、目的のヌクレオチド配列のmRNAの転写を制御できるDNA配列を指す。プロモーターは、必須ではないが典型的には、そのmRNA転写制御の目的となるヌクレオチド配列の5’側(すなわち上流)に位置し、RNAポリメラーゼ及び転写開始に関与する他の転写制御因子に対する特異的な結合部位を提供する。プロモーターは、構成的でも、又は制御可能であってもよい。プロモーターに関して「構成的」の用語が使用されるときは、そのプロモーターが刺激(例えば熱ショック、化学物質など)の非存在下でも、制御可能に連結された核酸の転写を誘導できることを意味する。対照的に、「制御可能な」プロモーターとは、刺激(例えば熱ショック、化学物質など)が存在する場合に、制御可能に連結された核酸の転写のレベルを、刺激の非存在下における、制御可能に連結された核酸の転写のレベルと異なるレベルにしうるものを指す。
【0044】
目的タンパク質(POI):
本発明において、目的タンパク質、POI及び「所望のタンパク質」の用語は、試験対象のポリペプチド、又は、その発現が本発明において開示される方法を実施する者により要求されるポリペプチドを指す。目的タンパク質は、その同系の目的遺伝子(GOI)によりコードされる。POIの相同性は公知でも公知でなくてもよい。POIは、オープンリーディングフレームにてコードされるポリペプチドであってよい。
【0045】
可溶化剤:
本発明において「可溶化試薬」及び「可溶化剤」の用語は、第二の、疎水性化合物が溶媒(典型的には水)に残留又は溶解するのを助長するあらゆる化合物を指す。
【0046】
転写:
本発明において、特に明記しない限り、「転写」の用語はDNA鋳型からのRNA合成を指す。
【0047】
翻訳:
本発明において、特に明記しない限り、「翻訳」の用語は、mRNA鋳型からのポリペプチドの合成を指す。
【0048】
ベクター:
本発明において、「ベクター」の用語には、例えばプラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどが含まれ、適当な調節要素と関係するときに複製可能で、細胞間で遺伝子配列を転移できる、任意の遺伝的因子のことを指す。ベクターは、形質転換細胞の識別の用に適する標識を含んでよい。例えば、標識はテトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性を与えるものでもよい。ベクターのタイプには、クローニング用及び発現用のベクターが含まれる。
【0049】
ベクター、クローニング:
本発明において「クローニングベクター」の用語は、宿主細胞において独立して複製可能であり、一つ又は少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位及び/又は部位特異的組換え部位の存在を特徴とするプラスミド又はバクテリオファージDNA又は他のDNA配列を指す。外来DNA断片はこれらの部位でベクターに連結され、断片の複製及びクローニングが可能となる。
【0050】
ベクター、発現:
本発明における「発現ベクター」の用語は、そこにクローニングされた遺伝子を発現できるベクターを指す。この種の発現は、宿主細胞の形質変換の後、又はIVPS系において生じうる。クローニングされたDNAは、通常一つ以上の制御配列(例えばプロモーター、リプレッサー結合部位、ターミネーター、エンハンサーなど)と、制御可能に連結される。プロモーター配列は構成的なものでも、誘導及び/又は抑制可能なものでもよい。
【0051】
本明細書で用いられる組換え核酸技術の分野及び分子及び細胞生物学で使用する他の語は、その分野の当業者によって通常どおり認識される。
【0052】
本発明の詳細な説明
インビトロタンパク質合成(IVPS)
総論
精製されたmRNA転写物、又は、インビトロ合成反応の間にDNAから転写されたmRNAからのインビトロタンパク質合成をサポートする、細胞抽出物を開発した。この種のタンパク合成系は、本明細書において「IVPS系」と称され、IVPSとは「インビトロ(In vitro)でのタンパク質(Protein)合成(Synthesis)」の頭字語である。
【0053】
一般的な系は、目的タンパク質をコードする鋳型核酸を含む。鋳型核酸はRNA分子(例えばmRNA)又はmRNAをコードする核酸(例えばRNA、DNA)であり、あらゆる形態(例えば直鎖、環状、スーパーコイル型、一本鎖、二本鎖など)をとる。鋳型核酸は、所望のタンパク質の産生を誘導する。IVPS系は、所望のタンパク質に、検出可能な標識を付与されたアミノ酸、又は一般的でない若しくは非天然のアミノ酸の取り込み用に設計してもよい。
【0054】
一般的なIVPS反応において、目的タンパク質をコードしている遺伝子は転写バッファー中で発現し、IVPS抽出物及び翻訳バッファー中でmRNAが目的タンパク質に翻訳されるに至る。転写バッファー、IVPS抽出物及び翻訳バッファーは別々に添加してもよく、又はこれらの溶液のうちの二つ以上をそれらの添加前に混合してもよく、又は同時に添加してもよい。
【0055】
インビトロでの目的タンパク質合成の際、IVPS抽出物に、幾つかの時点で目的タンパク質をコードするmRNA分子を含める必要がある。初期のIVPS実験では、mRNAは、天然の給源から精製した後に外因的に添加していたか、又はバクテリオファージRNAポリメラーゼを使用し、クローニングされたDNAからインビトロで合成して調製していた。他の系においては、mRNAは鋳型DNAからインビトロにおいて得られ、転写及び翻訳の両者がこの種のIVPS反応で生じる。転写及び翻訳系の組み合わせ、又は相互補完を用いた(同じ反応系でRNA及びタンパク質の合成を行う)技術が開発された。この種のインビトロでの転写及び翻訳(IVTT)系において、IVPS抽出物中には、単一の系内に転写(mRNA産生)及び翻訳(タンパク質合成)に必要な全ての構成要素が含まれる。初期のIVTT系は、細菌抽出物に基づくものである(Lederman及びZubay、Biochim.Biophys.Acta,149:253,1967)。IVTT系に添加される核酸は、通常mRNAより取得が非常に容易で、より簡便に操作(例えばクローニング、部位特異的組換えなど)できるDNAである。
【0056】
それらの調製方法又はそれらの添加順序に関係なく、IVTT反応混合物には以下の構成要素が含まれる。少なくとも一つのプロモーターに制御可能に連結した目的遺伝子(GOI)、任意に一つ以上の他の制御配列とを含む鋳型核酸(例えばDNA)(例えばGOIを含むクローニング用又は発現用ベクター)、GOIと制御可能に連結されているプロモーターを認識するRNAポリメラーゼ、及び、任意に、鋳型核酸が制御可能に連結している任意の制御配列に結合する一つ以上の転写制御因子、リボヌクレオチド三リン酸(rNTP)、任意に、他の転写制御因子及びその補因子、リボソーム、移転RNA(tRNA)、他の任意の翻訳因子(例えば翻訳開始、伸長及び終結因子)及びそれらの補因子、アミノ酸(任意に一つ以上の検出可能なアミノ酸を含む)、一つ以上のエネルギー源(例えばATP、GTP)、任意に、一つ以上のエネルギー再生構成要素(例えばPEP/ピルビン酸キナーゼ、AP/酢酸キナーゼ又はクレアチンリン酸/クレアチンキナーゼ)、任意に、収量及び/又は効率を顕著に向上させる因子(例えばヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ阻害剤、タンパク質安定化物質)及びそれらの補因子、並びに、任意に、可溶化剤。
【0057】
IVPS反応の構成要素を以下に詳細に記載する。
【0058】
鋳型核酸及びRNAポリメラーゼ
鋳型核酸は、他の鋳型核酸又はタンパク質の直接合成に関与する核酸分子である。鋳型は、多数のヌクレオチドサブユニットから構成される分子で、ヌクレオチドサブユニットの長さやタイプにおいて変化しうる。DNA及びRNA(例えばmRNA)は、タンパク質及び核酸合成の鋳型として使用可能な核酸種である。DNA鋳型の転写により、前記鋳型の全部又は一部と相補的なRNA鋳型が形成される。RNA鋳型の翻訳により、その鋳型の全部又は一部がコードするタンパク質又はペプチドが産生される。すなわち、合成反応における鋳型とは、所望のタンパク質を直接又は間接的にコードする核酸の一つ以上の種である。
【0059】
鋳型がDNA鋳型である場合、タンパク質が合成される前にRNA分子がRNAポリメラーゼによって転写されなければならない。本発明の方法への使用に適するRNAポリメラーゼには、タンパク質合成用に選択された鋳型を含む選択された系において活性を有する、あらゆるポリメラーゼが含まれる。IVPS細胞抽出物には、例えばRNAポリメラーゼII、SP6 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、T7 RNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼIII及び/又はファージ由来RNAポリメラーゼなど、適切なポリメラーゼを含めてよい。これら又は他のポリメラーゼは公知で、一つ以上の公的又は私的なデータベースの検索により当業者によって直ちに検索されうる。適切なポリメラーゼを系に補充してもよい。所望の遺伝子が制御可能に連結されているプロモーターを認識する、RNAポリメラーゼが使用される。本発明に有用なRNAポリメラーゼ及び転写制御因子は公知で、当業者によって直ちに認識される。
【0060】
RNAポリメラーゼの調節は、DNA鋳型を使用してRNAを産生するIVPS系において有用でありえる。RNA合成が急速なとき、RNAはリボソームによる保護が不十分と考えられる。変異型の又は調節型のRNAポリメラーゼの使用により、リボソームによる生成RNAとの適当な時間における結合及び保護が行われるため、RNAを有利に節約できる。
【0061】
あるいは、鋳型核酸は、限定されないが、リプレッサー、アクチベーター、転写及び翻訳エンハンサー、DNA結合タンパク質などを含む任意の転写調節要因が結合する追加的な制御配列を含んでもよい。
【0062】
移転RNA(tRNA)
一般的に、IVPS抽出物に含まれるtRNA分子は、抽出物の調製に用いる給源細胞に由来する。しかしながら、本発明は、内因性のtRNAを欠失したIVPS抽出物を提供する。上記のtRNA欠失のIVPS反応はtRNA分子の添加によって制御され、それは合成物でも他の生物由来でもよい。更に、変異tRNAは、非天然アミノ酸を特殊な目的に使用するタンパク質に取り込むために使用されうる。
【0063】
荷電tRNA分子もまた、本発明で使用可能なtRNA分子の範囲に含まれる。荷電tRNA(別名アミノアシル−tRNA)は、特定のtRNAと、tRNAの3’側OH基に共有結合する特定のアミノ酸とを含んでなる。
【0064】
アミノ酸
一般に、IVPS抽出物に含まれるアミノ酸の少なくとも幾つかは、抽出物の調製に用いる給源細胞に由来する。しかしながら、本発明は、内因性のアミノ酸を実質的に欠失したIVPS抽出物を提供する。IVPS反応は更にアミノ酸の添加によっても制御可能であり、それは合成物でも他の生物由来のものでもよい。
【0065】
IVPS系に含まれるものとは異なる生物由来のアミノ酸の非限定的な例として、藻類のアミノ酸混合物が使用できる。これらは、特定のアミノ酸、特にAsn、Cys、Gln及びTrpを欠き、それはNMR解析にて様々に使用可能な特徴を有する。非標識の藻類アミノ酸抽出物を、補充されるアミノ酸Asn、Cys、Gln及び/又はTrpと組み合わせて使用でき、それらは標識(非限定的な実施例として、2H、13C及び/又は15N)してもしなくてもよい。ゆえに、標識された形態の特殊なアミノ酸(Asn、Cys、Gln及び/又はTrp)は、タンパク質の特定のアミノ酸残基のみの標識に使用できる。藻類のアミノ酸混合物は、標識及び非標識の形で市販(Cambridge Isotope Laboratories,Andover,MA、Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)されている。
【0066】
様々な非天然アミノ酸には、限定されないが、検出可能な標識アミノ酸が含まれ、それはIVPS反応に添加され、特殊な目的に使用するタンパク質に効率的に取り込まれうる。例えば、Norenら、Science 244:182−188(1989);Anthony−Cahillら、Trends Biochem Sci.14:400−403(1989);Ellmanら、Methods Enzymol.202:301−336(1991);及びLiuら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:10092−10097(1997)を参照されたい。
【0067】
エネルギー源及びエネルギー再生用の構成要素
タンパク質及び核酸の合成は、一般にエネルギー源を必要とする。この種の合成をサポートするのに充分なエネルギー源を提供することが、本発明の特徴である。エネルギーは、転写を開始しmRNAを産生する(例えばDNA鋳型を使用し翻訳を誘導するとき、例えばGTP形態の高エネルギー−リン酸が使用される)のに必要とされる。リボソームによる一つ一つのコドンにおける各反応(三つのヌクレオチドが一つのアミノ酸に対応)の際、更にGTPのGDPへの加水分解が必要となる。ATPも一般的に必要とされる。タンパク合成においてアミノ酸が重合するためには、最初に活性化される必要がある。活性化には、二つの高エネルギーリン酸結合の加水分解が必要となる。すなわち、アミノ酸モノマーは、Mg2+、tRNA及びATPの存在により反応し、アミノアシル−tRNA、AMP及び無機ピロリン酸(PPi)を形成する。すなわち、高エネルギーリン酸結合からの顕著な量のエネルギーが、タンパク質及び/又は核酸合成の進行に必要となる。
【0068】
エネルギー源とは、酵素処理を受けることにより、所望の化学反応を進行させるためのエネルギーを提供しうる化学物質である。例えばATPなど、ヌクレオシドトリホスフェートで見られるような、高エネルギーリン酸結合の裂開によって合成に用いられるエネルギーが放出されるエネルギー源が、一般に使用される。例えば高エネルギーリン酸結合を形成できる他のエネルギー源も、合成反応に推進力を与えうる。インビトロ合成に用いられる典型的なエネルギー源は、グルコース、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、カルバモイルリン酸、アセチルリン酸、クレアチンリン酸、ホスホピルビン酸、グリセルアルデヒド−3−リン酸、ピルビン酸、3−ホスホグリセリン酸、フルクトース−6−リン酸及びグルコース−6−リン酸である。高エネルギーリン酸結合に適するあらゆる給源が使用できる。例えば、ピルビン酸キナーゼは、PEP及びADPからピルビン酸及びATPを形成する反応を媒介する。ATPは、他のリボヌクレオシド三リン酸と可逆的に置換されうる。すなわち、ATP、GTP及び他の三リン酸は通常、タンパク合成を維持するための同等のエネルギー源と考えられうる。
【0069】
エネルギーを合成反応に提供するため、系にエネルギー源(例えばグルコース、ピルビン酸、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルバモイルリン酸、アセチルリン酸、クレアチンリン酸、リン酸ピルビン酸、グリセルアルデヒド−3−リン酸、3−ホスホグリセリン酸及びグルコース−6−リン酸などの、ATP、GTP及び他のNTPなど、高エネルギー三リン酸化合物を生成又は再生させうるもの)を含めるのが好ましい。所望の合成に適する程の、任意の量のエネルギー源を添加してもよい。例えば、それらの化学エネルギー源は、10〜100mMの濃度となるように添加されうる。15、20、25、30、50、60、70、80又は90mMを目標濃度としてもよい。合成によりエネルギーが消費されると実際の濃度は変化し、更にこれらの給源からエネルギーが補充される。特定のエネルギー源分子の濃度は、様々な範囲(例えば約10〜100mM、15〜90mM、20〜80mM、30〜60mMなど)で調整される。任意の目標濃度を、所望のエネルギー源濃度範囲の凡その境界として採用してもよい。二つ以上のエネルギー源分子が用いられるとき、各給源は同一又は異なる濃度であってもよい。
【0070】
充分なエネルギーが開始時の合成系に存在しないとき、追加的なエネルギー源を補充するのが好ましい。補充は連続的に行ってもよく、又は一つ以上に分割して行ってもよい。本発明の一つの特徴として、少なくとも二つ(又は3以上、4以上、5以上、6以上等)のエネルギー源を追加し、本発明の合成反応にエネルギーを提供することが含まれる。補充されたエネルギー源のうち少なくとも一つを、目的タンパク質のインビトロ合成反応の開始前に、抽出物に添加してもよい。例えば、エネルギーを提供する一つ以上の酵素、解糖系の中間代謝物又は他のエネルギー源分子を、IVPS反応の開始前の時点で抽出物に添加してもよい。更に、少なくとも一つ、好ましくは少なくとも二つのエネルギー源を、目的タンパク質のインビトロ合成反応の初期に添加してもよい。特に、解糖中間体が補充されるエネルギー源として本発明で用いられ、限定されないが、グルコース−6−リン酸(G−6−P)フルクトース−6−リン酸(F−6−P)及び3−ホスホグリセリン酸が含まれる。PEP、AP、並びに補因子のNAD又はNADHを添加してもよい。
【0071】
エネルギー源を、インビトロ合成反応中に添加又は補充してもよい。複数のエネルギー源が系に含まれるとき、合成(特にタンパク合成)反応の加速や時間の延長がみられ、その結果、合成系におけるタンパク質及び/又は核酸産物が効率的に産生される。例えば、ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びアセチルリン酸を初めのエネルギー源として使用した場合は、アセチルリン酸のみを添加した場合と比較し、タンパク質の合成量を2倍以上に増加できる。すなわち、本発明は、インビトロ合成系であって、合成反応に高エネルギーリン酸結合を提供する、少なくとも二つ、好ましくは少なくとも三つの異なるエネルギー源を含み、そのエネルギー源が酵素の基質分子となりうる系を含む。
【0072】
エネルギー源及び補因子(グルコース−6−リン酸及びNADH)の特殊な組み合わせを、無細胞発現の反応における一次エネルギーの補給としての使用する技術が開示されている。米国特許第6,337,191号(Swartzら、「In vitro Protein Synthesis using Glycolytic Intermediates as an Energy Source」)、及び米国特許第6,168,931号(Swartzrら、「Enhanced in vitro Synthesis of Biological Macromolecules Using a Novel ATP Regeneration System」)(両文献とも酵素及び基質を含むエネルギー源及びエネルギー再生系に関するものであり、全ての開示が本明細書において参照により組み入れられる)を参照されたい。
【0073】
PCT特許出願国際公開公報第00/55353号では、翻訳に必要なATPを補充する二つの方法が開示されている。これらの方法によれば、PEP(ホスホエノールピルビン酸)又はピルビン酸がATPエネルギー源の再生に使用される。開示された第一の方法は公知であり、それはホスホエノールピルビン酸(PEP)をピルビン酸キナーゼとの共役により使用し、ADPからATPを再生させるものである。国際公開公報第00/55353号における第二の方法では、ピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼとの共役により使用し、ATPを再生させている。エネルギー源及びアミノ酸は共に、タンパク合成と無関係に、これらの系において減少する(国際公開公報第00/55353号;Kim及びChoi、J.Biotech.,84:27,2000)。
【0074】
ヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ阻害剤
鋳型を保持し、合成過程の寿命を最大化するのが望ましい。本発明の合成系には、鋳型を保持する構成要素を添加してもよい。鋳型の酵素的な、化学的な、又はその他の分解を防止することにより、鋳型を保持できる。ゆえに、本発明の合成系では、物質合成を改善するために抽出物に工夫を加えてもよい。抽出物がタンパク質及び/又は核酸を産生する活性を有する酵素を含むときは、これらの酵素の抑制により、系におけるより効果的な合成が実現される。すなわち、少なくとも一つの酵素阻害剤を含むインビトロ合成系は、本発明の実施態様である。ヌクレアーゼ及びホスファターゼ阻害剤の使用は、タンパク質及び/又は核酸合成効率の向上にとって有利である。また、合成反応に使用する化合物を無駄に消費する酵素を阻害することで、合成効率を改善してもよい。抽出物に存在する特異的な酵素、例えば多くの公知のヌクレアーゼ、ポリメラーゼ又はホスファターゼに対する一つ以上の阻害剤を選択でき、それを使用することで、合成効率が有利に改善されうる。
【0075】
鋳型を保持するために、抽出物の調製に用いる細胞を選抜し、有害な酵素活性の減少、顕著な減少若しくは除去、又は酵素活性の修飾を行ってもよい。すなわち、(例えば、一つ以上の遺伝子を修飾又は変異させて)異なる活性を有するようになった細胞抽出物を含むインビトロ合成系が、本発明の実施態様である。修飾されたヌクレアーゼ又はホスファターゼ活性(例えば少なくとも一つの変異ホスファターゼ若しくはヌクレアーゼ遺伝子、又はそれらの組み合わせ)を有する細胞を細胞抽出物の合成に使用することにより、特に合成効率を有利に向上させる。例えば、IVPS用のS30抽出物を調製するために用いる大腸菌株は、(例えば突然変異により)RNaseE又はRNaseA欠損株であってよい。
【0076】
除去、阻害、変異、修正又は調整されうるヌクレアーゼの例としては、限定されないが、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼII、エキソヌクレアーゼIII、DNAポリメラーゼII、DNAポリメラーゼIII(εサブユニット)、エキソヌクレアーゼIVA及び、IVB、RecBCD(エキソヌクレアーゼV)、エキソヌクレアーゼVII、エキソヌクレアーゼVIII、RecJ、dRpase、エンドヌクレアーゼI、エンドヌクレアーゼIII、エンドヌクレアーゼIV、エンドヌクレアーゼV、エンドヌクレアーゼVII、エンドヌクレアーゼVIII、fpg、uvrABC、mutH、vsrエンドヌクレアーゼ、ruvC、ecoK、ecoB、mcrBC、mcrA、mrr、及びTOPO(登録商標)イソメラーゼ(例えばTOPO(登録商標)イソメラーゼI、TOPO(登録商標)イソメラーゼII、TOPO(登録商標)イソメラーゼIII及びTOPO(登録商標)イソメラーゼIV)、が含まれる。この種の除去、抑制その他により、本発明の合成反応で使用する鋳型核酸の保持又は保護が可能となる。例えば、細胞内DNAヌクレアーゼの変異、修飾、阻害などにより、DNA鋳型が保持又は保護される。大腸菌及び他の細胞由来のこのようなDNaseは公知である。
【0077】
RNAヌクレアーゼの調節は、RNA合成にDNA鋳型を使用するIVPS系において有用でありうる。RNA合成が急速なとき、リボソームによるRNAの保護が不十分になりうる。RNAヌクレアーゼに変異、修飾、阻害等を行うことにより、RNA鋳型を保護又は保持できる。例えば、大腸菌リボヌクレアーゼ(例えばエンドリボヌクレアーゼI、M、R、III、P、E、K、H、HII、IV、F、N、P2、0、PC及びPIV、並びにポリヌクレオチドホスホリラーゼ、オリゴリボヌクレアーゼ及びエキソリボヌクレアーゼII、D、BN、T、PH及びRのようなエキソヌクレアーゼ)を変異、修正、阻害することにより、タンパク合成に用いるmRNAを保護できる。抽出物に使用する細胞によっては、その細胞に内在する他のリボヌクレアーゼに変異、除去、修正又は阻害等を行い、タンパク合成に用いる鋳型を保持又は保護することができる。例えば、IVPS用の抽出物の調製に用いる大腸菌株が、RNアーゼE活性の減少又は欠失した突然変異株であってもよい。米国特許出願公開第2002/0168706号は、IVPS系にヌクレアーゼ活性を減少させた細胞抽出物の使用に関するものであり、全ての開示内容が本明細書に参照により組み入れられる。多くのヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ阻害剤は市販されている。例えば、RNasin(登録商標)(Promega)は、哺乳動物系のRNase阻害剤として知られているが、原核生物のRNases阻害には効果的でない。
【0078】
更に、阻害剤(例えば鋳型核酸、特に直鎖DNA鋳型のような直鎖鋳型と反応するヌクレアーゼの阻害剤(例えばRecBCDを阻害するバクテリオファージλのGamタンパク質)、又は合成反応系外の不必要又は有害な構成要素/タンパク質/酵素の阻害剤)を用い、インビトロで所望の産物の産生を促進させることができる。阻害剤は、公知のあらゆる方法により、本発明の系に使用又は含めることができる。例えば、阻害剤は、鋳型核酸の導入の前、間、又は後に系に添加してもよい。阻害剤は、抽出物の調製に用いる細胞において転写又は発現されてもよく、又はタンパク合成反応の間に転写又は発現されてもよい。阻害剤は生合成された化合物でもよいが、本発明の阻害剤は生物学的に産生される化合物に限られない。米国特許出願公開第2002/0168706号は、IVPS系のヌクレアーゼ阻害剤を含む細胞抽出物の使用に関するもので、その全ての開示内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0079】
可溶化剤
IVPSの構成成分及び/又はポリペプチド産物の可溶化を助長する物質を、IVPS系に添加してもよい。幾つかの本発明の態様において、一つ以上の脂質、表面活性剤(surfactant)又は界面活性剤(detergent)を、IVPS抽出物、IVPS反応系又は供給溶液又はその他に添加する。一つ以上の脂質、一つ以上の表面活性剤又は一つ以上の界面活性剤又はそれらの任意の組み合わせをIVPS反応に添加し、系におけるタンパク質の収量、可溶性タンパク質の収量又は活性型タンパク質の産生を改善することができる。いかなる特定の機構に限定されるものではないが、脂質、表面活性剤及び/又は界面活性剤は、タンパク質又はIVPS抽出物の構成要素の溶解性を改善しうる。好適な脂質にはリン脂質が含まれ、本明細書において以下に開示されている。表面活性剤には、界面活性剤でない表面活性剤であるスルホベタインを含むあらゆる表面活性剤が含まれるが、それに限定されない。好適な表面活性剤は、非イオン系及び両性イオン系の表面活性剤であり、本明細書において以下に更に記載されている。
【0080】
幾つかの本発明の態様において、ナノスケールのリン脂質二重層のディスクをIVPS反応混合物に添加してもよい。アポリポタンパク質A1(Apo A1)のような骨格タンパク質又はその誘導体によって取り囲まれたリン脂質二重層構造中を含むこの種のリン脂質−タンパク質粒子又は「ナノディスク」は、Bayburtら(J.Struct.Biol.123:37−44(1998))、及びBayburt及びSligar(PNAS99:6725−6730(2002)、Protein Science 12:2476−2481(2004))の文献に記載され、また米国特許出願公開第2005/0182243にも開示されており、そのナノサイズのリン脂質二重層ディスク及び骨格タンパク質に関する全ての開示内容が参照により本発明に組み入れられる。特に膜タンパク質がIVPS反応において合成されるときには、ナノサイズのリン脂質二重層ディスク包含体により可溶性タンパク質の収量を改善できる。ナノサイズのリン脂質二重層ディスクを、例えば0.1〜100mm、好ましくは0.2〜50m、最も好ましくは0.5mm〜40mmの濃度で、本明細書に記載のIVPS反応に含めてよい。例えば、ナノディスクを約1mm〜約20mmにてIVPS反応に存在させてもよい。
【0081】
ナノスケールのリン脂質二重層ディスクがIVPS反応に含まれると、インビトロで翻訳された膜タンパク質の溶解性は非常に高くなる。ナノスケールのリン脂質二重層ディスクがIVPS反応に含まれると、インビトロ翻訳された膜タンパク質は、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクに挿入され、ナノディスク中の骨格タンパク質に存在する親和性タグにより、ナノディスク内に取り込まれ、可溶性の形態にて単離されうる。
【0082】
IVPS抽出物の調製
一般に、IVPS反応の幾つかの構成要素(例えばリボソーム、tRNA、翻訳因子及び補因子)は、給源生物から調製されたIVPS抽出物の形で調製される。限定されないが、原核細胞、真核細胞、細胞器官及びウイルスを含む任意のタイプの給源生物が、IVPS系のための給源生物として使用可能である(例えばPelhamら、European Journal Of Biochemistry,67:247,1976を参照)。原核生物の系では、同時又は「共役」による転写及び翻訳が可能である点で有利である。
【0083】
真核生物由来のIVPS系には、限定されないが、ウサギ網状赤血球溶解物、小麦麦芽溶解物、ショウジョウバエ胚エキス、ホタテ貝溶解物(Storchら、J.Comparative Physiology B、173:611−620(2003))、マウス脳抽出物(Campagnoniら、J Neurochem.28:589−596,1977、Gilbertら、J Neurochem.23:811−818,1974)及びトリ脳(Liuら、Transactions of the Illinois State Academy of Science,Volume68,1975)が含まれる。
【0084】
抽出物は、転写/翻訳系の均一性を維持しうるいかなる公知の方法によっても調製でき、また、その方法工程において転写/翻訳の段階で必要な一つ以上の構成要素が損害を受けた場合でも、その損害を受けた構成要素はその後の調製抽出物と交換できる。細菌抽出物は、Zubay(1973)の方法及びその変法に従って調製することができる。一般的な熟練した当業者であれば、抽出工程に関する多くの変更が、本発明の範囲内で可能であると認識するであろう。抽出物は好ましくは、通常では系に存在しない、合成に用いられる全ての必要な構成要素を含む。エネルギー及び他の構成要素を合成反応に提供する、抽出物中の酵素及び他の構成要素は、抽出された細胞の由来であっても、また抽出物の調製において添加してもよい。抽出物の補充により、存在しない、不充分に存在する、又は最適量で存在する構成要素の濃度を、追加又は増加させてもよい。抽出物は、多くの公知技術のいずれか一つ以上を使用して濃縮してもよい。
【0085】
IVPS抽出物を調製する一般的方法において、抽出物は、細胞残渣を除去する工程に供される。遠心分離が、この種の固形成分を除去する一般的な方法である。濾過、クロマトグラフィー又は他の任意の分離又は精製工程を、所望の抽出物の調製に用いてよい。場合により、例えば一つ以上の望ましくない構成要素を捕捉又は除去できる親和性物質を用いて、その抽出物中の望ましくない構成要素を除去することができる。
【0086】
本発明の幾つかの態様において、IVPS抽出物は、変異型の生物又は細胞から調製される。特に、IVPS抽出物は、SlyDタンパク質を欠失又はそのレベルが減少した細胞から調製されうる。これは、ヒスチジン残基6つが連続する配列(「Hisタグ」)、及び/又は、検出可能な標識(「FlAsH」又は「LUMIO」タグ)を付与された、ヒ素分子と結合するアミノ酸配列を含む融合タンパク質を調製するためにIVPS抽出物を使用する場合に特に望ましい。SlyDは、これらのアミノ酸配列のいずれとも相互作用するため、野生型の細菌又はIVPS抽出物の場合に生じた融合タンパク質をしばしばコンタミネーションさせる物質でもある。米国特許出願公開第2005/0136449号は、SlyDタンパク質のレベルが減少した細胞抽出物の翻訳系への使用に関するものであり、その全ての開示内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0087】
Expressway IVPSシステム
幾つかの実施態様において、本発明は、一つ以上のExpressway(商標)IVPSシステム(Invitrogen、Carlsbad、CA)、又はそのアッセイ使用に関する。Expressway(商標)システムは、限定されるものではないが以下のものを含む。
【0088】
Expressway(商標)Plus発現システムは、共役する転写及び翻訳反応を利用して活性型の組換えタンパク質を産生するものである。Expressway(商標)Plusシステムには、無細胞タンパク質産生に必要な全ての構成要素が含まれる。そのキットには、転写及び翻訳を推進するのに必要な細胞内機構を含む大腸菌抽出物が含まれる。キットにはIVPS Plus反応バッファーも含まれ、そこには必要なアミノ酸(メチオニンを除く)及びエネルギー再生系用のATPが含まれる。反応バッファー、メチオニン、T7酵素ミックス、並びにT7プロモーターに制御可能に連結された目的物質のDNA鋳型が、大腸菌抽出物と混合されている。DNA鋳型が転写される際、鋳型の3’末端がまだ転写されているときでもmRNAの5’末端にリボソームが結合し、翻訳が行われる。
【0089】
Expressway(商標)Linear発現システムは、直鎖DNA鋳型からの迅速かつ高収量なインビトロ発現に使用される。その系では大腸菌抽出物が用いられ、直鎖鋳型から完全長の活性型タンパク質を発現させるために最適化されている。その結果、直鎖鋳型は転写及び翻訳の間安定に保持され、適切にフォールディングされた産物が高収量で得られる。Expressway(商標)Linear発現システムでは、少なくとも二つのオプションが、T7プロモーターで誘導される鋳型の生成に利用できる。Expressway(商標)Linear発現キットは、発現の際に使用される適切な要素(T7プロモーター、リボソーム結合部位、T7ターミネーター配列)を含むプラスミドから生じるPCR鋳型の発現に使用可能である。TOPO(登録商標)ツールを有するExpressway(商標)Linear発現キットには、PCR産物に制御可能に連結できる5’及び3’エレメントが含まれる。5’エレメントには、T7プロモーター、リボソーム結合部位及び開始コドンが含まれる。3’エレメントには、V5エピトープタグ、それに続く6×His領域及びT7ターミネーターが含まれる。TOPO(登録商標)ツールの上記エレメントは、TOPO(登録商標)のライゲーション反応でPCR産物に連結され、更にPCRにより増幅される。
【0090】
Lumio(商標)テクノロジーキットを有するExpressway(商標)Plus発現システムには、IVPS Lumio(商標)大腸菌抽出物、IVPS Plus大腸菌反応バッファー、RNaseA、T7酵素ミックス、メチオニン、反応チューブ、pEXP3−DESTベクター、対照プラスミド、並びにLumio(商標)グリーン検出キット又はその構成要素が含まれる。Keppetipolaら、「Rapid Detection of in vitro expressed proteins using LumioTM Technology」Focus25.3:7,2003を参照されたい。
【0091】
これらの、また他のExpressway(商標)システムは、これらの製品に関する以下に示す取扱説明書において詳述され、その全ての内容が、IVPS系及び方法に関する本発明の開示において参照により本明細書に組み入れられる。
ExpresswayTM In vitro Protein Synthesis System Manual、Version C、2003年4月11日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expressway_man.pdf参照)。
ExpresswayTM Linear Expression System Manual、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswaylinear_man.pdf参照)。
ExpresswayTM Linear Expression System with TOPO(registered trademark) Tools Technology、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswaylinearwithTOPO(registered trademark)tools_man.pdf参照)。
Expressway Plus Expression System Manual、Version A、2003年9月26日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswayplus_man.pdf参照)。
Expressway Plus Expression System with Lumio Technology Manual、Version B、2004年2月27日(www.invitrogen.com/content/sfs/manuals/expresswayplus_lumio_man.pdf参照)。
【0092】
供給溶液
幾つかの態様において、本発明は、供給溶液、並びに供給溶液の調製及び使用方法に関する。供給溶液とは、反応開始後、インビトロタンパク質合成(IVPS)反応に添加される溶液である。すなわち、供給溶液が存在しない場合でも反応が進行するという点では、供給溶液はIVPSに必須の構成要素ではない。供給溶液は、IVPS反応の進行中に添加され、系において産生されるタンパク質の収量、可溶性タンパク質の収量又は活性タンパク質の収量の一つ以上を向上させる。
【0093】
技術背景としては、IVPS系には、一般に四つのタイプのIVPS反応が含まれる。
【0094】
1.バッチIVPS反応:
バッチ反応においては、合成の初速度が速く、やがて減速し、約3時間後に最終的に停止する。アミノ酸が取り込まれ又は代謝されると、反応混合物の組成が変化し、またエネルギー源が代謝されると反応抑制性の遊離リン酸が生じる。例えばKawarsakiら、Anal.Biochem.226:320,1995、Patnaikら、BioTechniques 24:862,1998及びKigawaら、J.Biochem.,110:166,1991を参照されたい。
【0095】
2.供給/希釈IVPS反応:
IVPS反応は、一定時間経過後に「供給溶液」(別名「供給バッファー」)として新鮮な構成要素を供給することで延長でき、それにより反応抑制性の副産物が希釈されるという望ましい効果も奏される。しかしながら一方では、転写及び/又は翻訳因子の過度な希釈により、IVPS系の活性減少又は損失となりうる。
【0096】
3.二重層積層IVPS反応:
より高密度の反応混合物が供給溶液によって積層され、構成要素は受動拡散で交換される。反応速度は、反応器の「非振とう」のために遅い。例えばSawasakiら、2 FEBS Lett 514:102,2002を参照。
【0097】
4.連続交換IVPS反応:
反応チャンバーが一つ以上の透析膜によって供給溶液と隔離されており、基質及び副産物の連続的な交換が可能である。例えばEndoら、J.Biotechnol.25:221,1992;及びSpirinら、Science 24:1162,1988を参照。
【0098】
本発明の供給溶液及び他の組成物は完全又は部分的に、上記四つのIVPS反応のいずれをも含む、あらゆるタイプのIVPS系に適用できる。好ましくは、供給溶液は、1)バッファー、2)アミノ酸、及び3)少なくとも一つのエネルギー源又はエネルギー発生酵素を含む。
【0099】
本発明の代表的な供給溶液は、以下のうち幾つか(ただし全てである必要はない)を含む。
(a)バッファー(10〜500mM、好ましくは10〜100mM)、
(b)10〜500mM(好ましくは60〜120mM)の酢酸アンモニウムを含む、一つ以上の塩、
(c)一つ以上の還元剤、
(d)少なくとも四つのアミノ酸、及び
(e)一つ以上のエネルギー源及び/又は補因子。
【0100】
これらの構成要素の各々につき、以下に詳細に記載する。
【0101】
(a)バッファー:バッファーは、反応系のpHを維持するために供給溶液に含まれる。一般に、初めの反応混合物及び供給溶液で同じバッファーが使用されるが、ただし同じである必要はない。供給溶液のバッファーのpHは、初めの反応混合物のそれから変化してもよい。バッファーの非限定的な例として、トリス、Bis−トリス及びHEPESが含まれる。
【0102】
本発明の幾つかの実施態様において、10〜100mMの最終濃度のHEPESバッファーが、反応系のpHを維持するために供給溶液に含まれる。供給溶液バッファーのpHは約7〜約9でよいが、好ましくは約7.5〜約8.5である。例示的な実施態様において、バッファーのpHは約8.0である。
【0103】
(b)還元剤は、限定されないが、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、グルタチオン、ジチオスレイトール(DTT)及びβ−メルカプトエタノールを含んでよい。Getzら、Analytical Biochemistry 273,73−80(1999)を参照。
【0104】
(c)塩類:塩は、酸(又はそのカチオン)と塩基又は金属との結合によって形成される中性化合物である。塩類は、それらを構成するイオンに従って命名される。カチオン成分、しばしば金属イオン(例えばCa++、Mg++、Mn++)又はアンモニウムイオン(NH4+)が最初に添加され、それに続いてアニオン性(負に荷電する)構成要素が添加される。カチオンは一価(+1)、二価(+2)、三価(+3)その他であってもよい。また、一価のカチオンには、限定されないが、H+及びK+が含まれる。二価のカチオンには、限定されないがCa++、Zn++、Hg++、Mn++、Mg++、Ba++及びSr++が含まれる。多くのインビボ及びインビトロでの生化学反応において、二価のカチオンは補因子となる。より詳しくは、Ca++、Mn++及びMg++は、酵素反応にしばしば用いられる補因子であって、ゆえに幾つかの生化学の系において好まれる。
【0105】
アニオンは一価(−1)、二価(−2)、三価(−3)その他であってよい。アニオンは一般に、それらの共役酸(例えば酢酸塩、炭酸塩、塩化物、シアン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩及びクエン酸塩)に従って命名される。
【0106】
上記の非限定的なアニオンの例のいずれも、本発明の組成物において使用する塩の一部でありえる。アミノ酸塩(例えばグルタミン酸カリウム)も同様に使用できる。
【0107】
好適な塩類として、限定されるものではないが、例えば、5〜50mM、好ましくは10〜15mMのマグネシウム塩、180〜250mM、好ましくは230mMのグルタミン酸カリウム、1〜750mM、好ましくは5、10、20、30、50又は100mMのCaCl2、及び10〜500mM、好ましくは60〜120mM、より好ましくは70〜90mMの酢酸アンモニウム、が含まれる。本発明の幾つかの態様において、酢酸カリウムはグルタミン酸カリウムの代替となりうる。
【0108】
供給溶液に含まれる塩類は、初めの反応バッファーに含まれるものと同じでもよく、又は更なる塩類(例えば塩化カルシウム)を添加してもよい。供給溶液を異なる塩濃度にし、それにより供給溶液が添加された後の反応系の全体の濃度を増減させてもよい。供給バッファーへのカルシウムの添加により、例えば、IVPS反応において0.1〜10mM、好ましくは0.5〜5mM、より好ましくは約1〜2.5mMにカルシウム濃度を増加させることにより、約10%の収量増加が可能となる。
【0109】
(d)アミノ酸は、0.05〜5.0mM、好ましくは0.25〜2.5mM、より好ましくは0.5〜2mM、最も好ましくは1.0〜1.5mMで供給溶液に存在する。天然アミノ酸の全20種又はそれらの幾つかを供給バッファーに添加してもよい。幾つかの好ましい実施例においては、全20種が含まれる。一つ以上のアミノ酸が、他の種類のものより高い又は低い濃度で含まれていてもよい。例えば、幾つかの場合において、一つ以上のアミノ酸が特に他のものより高い濃度で存在するときに、タンパク合成がより効率的になりうる。他の場合において、特に、タンパク質は修飾アミノ酸により標識されうる。この場合、その対応する天然アミノ酸は、供給溶液において低濃度で含めてもよく、又は供給溶液中から省いてもよい。
【0110】
本発明の幾つかの実施態様において、IVPS反応は、目的タンパク質に検出可能な標識を付された及び/又は非天然のアミノ酸を能率的かつ特異的に付与するのに使用され、そこでは一つ以上のアミノ酸が標識又は修飾された形態で提供され、又は非天然又は修飾されたアミノ酸が「標準」アミノ酸と置換される。検出可能な標識を付されたアミノ酸は、蛍光物質(例えばフルオレセイン5−イソチオシアネート(FITC))とのコンジュゲート、ビオチン又はストレプトアビジンとのコンジュゲート、又は、限定されないが、重元素若しくは放射性同位元素で標識されたアミノ酸(15N標識アミノ酸、35S標識アミノ酸、14C標識アミノ酸、及び2H標識アミノ酸を含む)により生じうる。
【0111】
(e)エネルギー源には、限定しないが、解糖系の中間代謝物又は他のリン酸輸送分子(例えばアセチルリン酸、クレアチンリン酸又はホスホアルギニン)が含まれる。エネルギー源は、基質分子(例えば解糖系の中間代謝物)又は酵素(例えばヘキソキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、アルギニンキナーゼ又はピルビン酸オキシダーゼ(米国特許第6,168,931号及び第6,337,191号(双方ともエネルギー源及びエネルギー発生酵素及び系に関し、本明細書において全ての開示内容が参照によって組み入れられる)を参照))であってもよい。
【0112】
本発明において、解糖系の中間代謝物は、供給溶液に含ませる好適なエネルギー源である(例えば、米国特許第6,337,191号(IVPS系のエネルギー源として解糖系の中間代謝物を使用、全ての開示内容が参照によって本明細書に組み入れられる)を参照)。限定されないが、3−ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、フルクトース−6−リン酸又はグルコース−6−リン酸のような解糖系の中間代謝物、又はその他の解糖系の中間代謝物を、1〜200mM、好ましくは10〜100mMで添加してもよい。
【0113】
本発明において、供給溶液に含ませる好適なエネルギー源は、初めの反応バッファーに含まれないエネルギー源分子である。例えば、初めの反応IVPSバッファーには、好ましくはアセチルリン酸及びホスホエノールピルビン酸が含まれる。発明者らは、t=0にて添加されるものと異なるエネルギー源分子を添加することにより、同じエネルギー源分子(例えばアセチルリン酸及びホスホエノールピルビン酸)を更に添加するよりもより良好な翻訳収量が得られることを見出した。好ましくは、供給溶液に添加される追加的なエネルギー源分子は、ベースとなる反応バッファーに添加されていない解糖系の中間代謝物である。好適な解糖系の中間代謝物には、限定されないが、ヒスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸及び3−ホスホグリセリン酸の個々、又はそれらの組み合わせが含まれる。IVPS反応の解糖中間体の最適全体の濃度は、好ましくは20mM〜60mMであり、80mMを上回らない。
【0114】
好ましくは、初め又は「ベース」のIVPS反応バッファーは少なくとも二つのエネルギー源を含み、供給溶液はベースの反応バッファーのエネルギー源とは異なる少なくとも一つのエネルギー源を含む。それにより、反応系には供給溶液の添加後、少なくとも三つの異なるエネルギー源が添加されていることになる。好ましくは、供給溶液に含まれるエネルギー源は解糖系の中間代謝物であり、IVPS系に添加されると、タンパク質の収量の向上、可溶タンパク質の収量の向上、又は活性を有するタンパク質の収量の向上、のうちの少なくとも一つが得られる。他の好ましい実施態様において、供給溶液に添加される一つ以上のいずれかのエネルギー源は酵素ではない。これにより、供給バッファーにおける酵素の安定性の問題が回避され、単一の供給試薬を反応系に添加することが可能となり、更には酵素の浪費が回避される。
【0115】
幾つかの好ましい実施例においては、ベースの反応IVPSバッファー又は供給バッファーに添加されるエネルギー源は、酵素ではない。供給バッファーへの酵素の不使用による利点はまた、初めの反応系にも当てはまる。しかしながら、好ましい実施態様では、一つ以上のエネルギー源生成酵素を、IVPS試薬の添加前(例えばIVT反応の前に実行されうる抽出物のプレインキュベーションの前又は間に、好ましくは抽出物の分注及び貯蔵前)に、S30抽出物に添加してもよい。例えば、ピルビン酸キナーゼを抽出物のプレインキュベーション前にS30抽出物に添加し、内因性の情報伝達に必要なエネルギー源として提供してもよい。すなわち、本発明の方法で使用するインビトロ系翻訳には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を添加してもよい。例えば、インビトロ翻訳系は最低四つの異なる追加的なエネルギー源を含みうるが、その少なくとも一つは解糖系の中間代謝物である。更に、他の好ましい実施形態では、インビトロ翻訳系には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、またその他の少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。好ましい態様において、インビトロでの翻訳系には、少なくとも四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、その他の少なくとも一つが、IVPS反応の開始後に添加されてIVPS系の性能を強化する解糖系の中間代謝物である。本発明の方法において、少なくとも一つの解糖系の中間代謝物を、反応の開始の少なくとも10分後にインビトロ翻訳反応の供給溶液に添加することにより、系中で合成されるタンパク質の収量、可溶性タンパクの収量、又は活性を有するタンパクの収量が向上する。非常に好適な実施態様において、インビトロ翻訳系には最低四つの異なる追加的なエネルギー源を含めてよく、その少なくとも一つが酵素であり、その他の少なくとも一つが、IVPS反応の開始後に添加されてIVPS系の性能を強化する解糖系の中間代謝物であって、そこにおいて、反応開始後に添加される解糖系の中間代謝物は、系に添加される他のエネルギー源のいずれとも異なる。本発明の方法において、反応開始の少なくとも10分後にインビトロ翻訳反応に添加される供給溶液に、少なくとも一つの解糖系の中間代謝物を添加することにより、収量、可溶性タンパクの収量又は活性を有するタンパク質の収量の一つ以上が向上する。
【0116】
補因子NAD又はNADHの存在しない供給溶液への解糖系中間代謝物の添加により、合成されるタンパク質の活性の向上が可能となり、更に、例えばNAD又はNADHを、限定されないが、0.1〜25mM、好ましくは0.1〜1mM共存させることにより、合成タンパク質の良好な発現及び活性を高めることができる。これらの効果は、以下の各構成要素の濃度範囲:アミノ酸 1mM〜5mM;解糖系の中間代謝物 5mM〜100mM;及びNAD/H 0.1mM〜1mM、において観察されうる。
【0117】
一つの態様において、本発明は、多くの望ましい特徴(例えば、タンパク質の収量増加、タンパク質の溶解性増加、短いタンパク合成反応時間でタンパク質収量を同等又は増加量得ること)を有する有効な供給溶液を提供する。
【0118】
他の態様においては、本発明はまた、インビトロタンパク質合成を実行する方法であって、タンパク質の産生に充分な量の細胞抽出物、鋳型核酸及び試薬を含む進行中のタンパク合成反応に、供給溶液を添加する方法を含む。
【0119】
初めの合成混合物は、供給バッファーが存在しない状態で、タンパク合成が少なくとも30分間、好ましくは少なくとも60分間行われるのに充分な試薬を含む。供給溶液は、進行中のタンパク合成を強化するために添加される。本発明は、いかなるタイプのIVPS系又は技術(例えばバッチ反応、供給/希釈、二重層積層、連続交換その他)にも適用できる。供給/希釈IVPS系においては、反応開始(t=0)後、IVPS反応は随時供給溶液による補充を受ける。
【0120】
一つの実施態様において、上記方法には、細胞抽出物に対して、初めの合成混合物を構成する、アミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源及び鋳型核酸を添加することと、一定時間、初めの合成混合物をインキュベートすることと、バッファー、アミノ酸及び少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液を、初めの合成混合物に添加して拡張型合成混合物を調製することであって、その供給溶液に添加されている一つ以上の追加的なエネルギー源が初めの合成混合物の一つ以上のエネルギー源と異なることと、及び、追加された時間、拡張型合成混合物をインキュベートし、少なくとも一つのタンパク質を合成すること、が含まれる。
【0121】
好ましい実施態様において、これらの方法で使用する供給溶液には、バッファー、一つ以上の塩類、少なくとも4、好ましくは少なくとも15、より好ましくは20種類のアミノ酸(その一つ以上が非天然(例えば標識又は修飾)であってもよい)、及び解糖中間体のエネルギー源が含まれる。好ましくは、上記供給溶液には補因子(例えばNAD又はNADH)も含まれる。
【0122】
本明細書において開示される供給溶液を使用する方法は、この種のインビトロ反応において二つの点で有用である。第一に、IVPS反応が新規な構成要素(反応の間に減少又は分解した構成要素及び/又は初めの反応には存在しない新規な構成要素のいずれか)で補充されることである。第二に、いかなる反応抑制性の副産物もバッファーの付加によって希釈されるため、合成反応が延長されることである。但し、転写及び/又は翻訳因子の過度の希釈は、IVPS系の活性の減少又は損失をもたらしうる。本発明の組成物は、濃縮形態にて調製されることで、IVPS系の活性低下又は損失をもたらしうる、転写及び/又は翻訳因子の過剰な希釈を回避できる。
【0123】
供給バッファーは、初めの合成混合物に対して、例えば初めの合成混合物容量の10分の1〜初めの合成混合物容量の10倍の任意の量で添加することができる。好ましくは、初めの合成混合物容量の4分の1〜初めの合成混合物容量の2倍の量を供給の際に添加する。更により好ましくは、当初のIVPSの液量の半分量〜等量を、IVPS反応系に添加する。しかしながら、単一のIVPS反応系内に三つ以上のエネルギー源を存在させることもまた、それらが反応初めに添加されるか、又は一つ以上のエネルギー源が供給溶液に存在するかに関係なく、本発明の態様に含まれると解される。すなわち、本発明には、三つ以上のエネルギー源を含むIVPS系が含まれ、そのうちの少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS系は三つ以上のエネルギー源を含み、そのうちの少なくとも一つが解糖系の中間代謝物であり、また少なくとも一つが酵素である。本発明にはまた、四つ以上のエネルギー源を含むIVPS系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS反応には四つ以上のエネルギー源が含まれ、その少なくとも一つが解糖系の中間代謝物である。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS系には四つ以上のエネルギー源が含まれ、その少なくとも一つが解糖系の中間代謝物であり、少なくとも一つが酵素である。
【0124】
本発明は、供給溶液をIVPS反応に添加することによって、目的タンパク質(POI)をmg単位の量で合成できる方法を提供する。好ましくは、上記タンパク質は少なくとも1〜約1mg/mLから、又はより好ましくは約100mg/mL〜約800mg/mLの濃度で、IVPS反応時間のうち約1時間〜約10時間、好ましくはIVPS反応時間のうち約2時間〜約8時間、更に好ましくは総IVPS反応時間のうち約3時間〜約7時間にて合成される。例えば、0.5〜5mL(一つ以上の供給後の最終容量)での4〜6時間の反応において、タンパク質をmg単位の量で合成できる。供給溶液を使用する典型的なIVPS反応により、1〜2mLの最終反応液量を用いた4〜6時間の反応により、少なくとも0.8mg、より好ましくは少なくとも1mgのタンパク質が合成される。
【0125】
本明細書において「供給溶液」とされる組成物は、供給及び/又は希釈のないIVPS系又は工程でも使用できることを理解すべきである。例えば、本発明の供給溶液として本明細書において記載されている組成物は、t=0の時点でバッチ反応又は連続交換系などにおいて連続的、断続的に添加してもよい。
【0126】
本発明の方法には、IVPS反応に一回、二回又はそれ以上の回数、供給溶液を添加することが含まれる。好ましくは、簡便化のために一、二回の供給が行われる。例えば、供給溶液を二つの時点でIVPSに添加することができ、その各供給では初めの合成混合物の半分量を添加してもよい。あるいは、初めの合成混合物の等量を一度に供給してもよい。なお、これらの例は限定的なものではない。
【0127】
IVPS反応の間、供給溶液を任意の時点で添加することができるが、好ましくは反応開始後の初めの1時間以内に、少なくとも一度の供給を行うべきである。以下の実施例にて説明するように、IVPS開始後、第一の供給が1時間以内に行われる場合、その後でその第一の供給が行われる場合よりも、反応後のタンパク質収量において良好な結果が得られる。但し、反応開始時に供給バッファーを添加することは最適ではない。それは必須の構成要素を希釈することになるためと考えられる。すなわち、供給溶液の第一の添加は、IVPS開始後早くとも5分後に、好ましくはIVPS開始後早くとも10分後に行われる。供給溶液は例えば、IVPSの開始後15分後又はそれ以後に添加されるのがよい。1時間後に第一の供給を行っても、それほど効果的でない。すなわち、一つ以上の供給が行われる場合、第一の供給は好ましくはIVPS開始後約15〜約60分後に行われる。第二の供給を行う場合、第一の供給後の任意の時点で、好ましくは少なくとも30分、より好ましくは少なくとも60分後に添加される。
【0128】
IVPS抽出物及び反応系への界面活性剤の添加
本発明の幾つかの態様において、一つ以上の脂質、表面活性剤又は界面活性剤が、IVPS細胞抽出物又はIVPS反応混合物に添加される。一つ以上の脂質、表面活性剤又は界面活性剤により、幾つかのタンパク質(例えば膜タンパク質)の溶解性又は活性が向上する。IVPS系における、一つ以上の脂質及び一つ以上の表面活性剤、一つ以上の脂質及び一つ以上の界面活性剤、一つ以上の表面活性剤及び一つ以上の界面活性剤、並びに、一つ以上の脂質及び一つ以上の表面活性剤及び一つ以上の界面活性剤、の組み合わせの使用が含まれると解される。
【0129】
好適な脂質は、グリセロール又はスフィンゴ脂質をベースとして形成されるリン脂質であってよく、例えば、二つの炭素原子数6〜20の飽和脂肪酸、及び一般的に用いられるヘッドグループ(例えば、限定されないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン)を含むことができる。頭部基は、非荷電でも、正荷電でも、負荷電でも、両性イオン性でもよい。リン脂質は、天然物(天然にて得られる)、合成物(天然にて得られない)又は天然物及び合成物の混合物であってもよい。リン脂質の例としては、PC(ホスファチジルコリン)、PE(ホスファチジルエタノールアミン)、PI(ホスファチジルイノシトール)、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、DMPC(ジミリストイルホスファチジルコリン)、POPC(1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン)、DHPC(ジヘキサノイルホスファチジルコリン)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジヘキサノイルホスファチジルエタノールアミン、ジヘキサノイルホスファチジルイノシトール、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン、又は1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルイノシトールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない
【0130】
非界面活性剤の表面活性剤として、限定するものではないが、非界面活性剤スルホベタイン(NDSB)などをIVPS反応に含めてもよい。NDSBは、スルホベタイン親水基及び短い疎水基を有する両性イオン性の化合物である。ミセルを形成して凝集できないため、NDSBは界面活性剤とは考えられていない。
【0131】
イオン系、非イオン系及び両性イオン系の界面活性剤を含む界面活性剤を、IVPS反応に含めてもよい。非イオン系及び両性イオン系界面活性剤は、本発明の大部分の態様において好適である。幾つかの実施態様において、IVPS反応に添加される界面活性剤は、好ましくは15〜300mM、より好ましくは、20〜50mMの臨界ミセル濃度を有する非イオン系又は両性イオン系界面活性剤である。
【0132】
アニオン系界面活性剤には、限定されるものではないが、グリコケノデオキシコール酸ナトリウム塩、グリココール酸水和物(合成)、グリココール酸ナトリウム塩水和物、グリコデオキシコール酸一水和物、グリコデオキシコール酸ナトリウム塩、グリコリトコール酸3−硫酸塩二ナトリウム塩、及びグリコリトコール酸エチルエステル、
1−ブタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1−ノナンスルホン酸ナトリウム、1−プロパンスルホン酸ナトリウム一水和物、及び2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム、
コール酸ナトリウム水和物、胆汁酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサンスルホン酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ペンタンスルホン酸ナトリウム、及びタウロコール酸ナトリウム、
タウロケノデオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム一水和物、タウロヒオデオキシコール(Taurohyodeoxycholic)酸ナトリウム塩水和物、タウロリトコール酸3−硫酸二ナトリウム塩、及びタウロウルソデオキシコール酸ナトリウム塩、
並びに、ケノデオキシコール酸、コール酸(雄牛又は羊胆汁)、デヒドロコール酸、デオキシコール酸メチルエステル、ジギトニン、ジギトキシゲニン、N,N−ジメチルドデシルアミン N−オキシド、ドキュセートナトリウム塩、N−ラウロイルザルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、Niaproof4(Type4)、1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、Trizma(登録商標)ドデシル硫酸、及びウルソデオキシコール酸、が含まれる。
【0133】
カチオン系界活性剤には、限定されないが、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、臭化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム、及びベンジルトリメチルアンモニウムテトラクロロヨウ素酸、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、臭化ドデシルエチルジメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化エチルヘキサデシルジメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化トンゾニウム、及び臭化トリメチル(テトラデシル)アンモニウムが含まれる。
【0134】
非イオン系表面活性剤には、限定されないが、Brij(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないがBrij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)58P、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92V、Brij(登録商標)97、及びBrij(登録商標)58P、
Span(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないがSpan(登録商標)20、Span(登録商標)40、Span(登録商標)60、Span(登録商標)65、Span(登録商標)80、及びSpan(登録商標)85、
Triton系界面活性剤、例えば、限定されないがTriton CF−21、Triton CF−32、Triton DF−12、Triton DF−16、Triton GR−5M、Triton QS−15、Triton QS−44、Triton X−100、Triton X−102、Triton X−15、Triton X−151、Triton X−200、Triton X−207、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−114、Triton(登録商標)X−165、Triton(登録商標)X−305、Triton(登録商標)X−405、Triton(登録商標)X−45、及びTriton(登録商標)X−705、
Tergitol系界面活性剤、例えば、限定されないが、Tergitol(Type 15−S−12)、Tergitol(Type 15−S−30)、Tergitol(Type 15−S−5)、Tergitol(Type 15−S−7)、Tergitol(Type 15−S−9)、Tergitol(Type NP−10)、Tergitol(Type NP−4)、Tergitol(Type NP−40)、Tergitol(Type NP−7)、Tergitol(Type NP−9)、Tergitol(Type TMN−10)、及びTergitol(Type TMN−6)、
TWEEN(登録商標)系界面活性剤、例えば、限定されないが、TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)21、TWEEN(登録商標)40、TWEEN(登録商標)60、TWEEN(登録商標)61、TWEEN(登録商標)65、TWEEN(登録商標)80、TWEEN(登録商標)80、TWEEN(登録商標)81、及びTWEEN(登録商標)85、
Mega系の界面活性剤、例えば、限定されないが、Mega−8及びMega−10、
N−ドデカノイル−N−メチルグルカミン、n−デシル a−D−グルコピラノシド、デシル β−D−マルトピラノシド、n−ドデカノイル−N−メチルグルカミド、n−ドデシル a−D−マルトシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、及びn−ヘキサデシル−β−D−マルトシド、
ヘプタエチレングリコールモノデシルエーテル、ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル、及びヘプタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
オクタエチレングリコールモノデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びオクタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、オクチル−b−D−グルコピラノシド、
ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル、及びペンタエチレングリコールモノオクチルエーテル、
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールエーテルW−1、
ポリオキシエチレン10トリデシルエーテル、ステアリン酸ポリオキシエチレン100、ポリオキシエチレン20イソヘキサデシルエーテル、及びポリオキシエチレン20オレイルエーテル、
ステアリン酸ポリオキシエチレン40、ステアリン酸ポリオキシエチレン50、ステアリン酸ポリオキシエチレン8、ポリオキシエチレンビス(イミダゾリルカルボニル)、及びポリオキシエチレン25、
テトラエチレングリコールモノデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、及びテトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
トリエチレングリコールモノデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル、
ホスフィンオキシド(例えばAPO−9、APO−10、APO−12)、
並びに、ビス(ポリエチレングリコールビス[イビダゾリルカルボニル])、Cremophor(登録商標)EL、デカエチレングリコールモノドデシルエーテル、チロキサポール、及びn−ウンデシル−β−D−グルコピラノシド、Igepal CA−630、メチル−6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)−a−D−グルコピラノシド、ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル、N−ノナノイル−N−メチルグルカミン、NP−40、ステアリン酸プロピレングリコール、サポニン(例えばキラヤ樹皮からのサポニン)、及びテトラデシル−b−D−マルトシド、が含まれる。
【0135】
両性イオン系界面活性剤には、限定されないが、Zwittergent(登録商標)界面活性剤、限定されないが、例えばZwittergent(登録商標)3−12(3−ドデシル−ジメチルアンモニオ−プロパン−1−スルホン酸エステル)、Zwittergent(登録商標)3−08、Zwittergent(登録商標)3−10、Zwittergent(登録商標)3−14、及びZwittergent(登録商標)3−16、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル分子内塩、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル分子内塩、3−(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル、3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸エステル、及び3−(N,N−ジメチルパルミチルアンニオ)プロパンスルホン酸エステル、
並びに、BigCHAP、CHAPS、CHAPSO、ジメチル−ドデシルアミン、DDMAU、ラウリルジメチルアミンオキシド(LADAO、LDAO)、及びN−ドデシル−N,N−ジメチルグリシン、が含まれる。
【0136】
本発明の幾つかの実施態様において、一つ以上のリン脂質、表面活性剤又は界面活性剤を直接反応混合物に添加し、IVPS反応混合物に存在させる。一つ以上の界面活性剤、表面活性剤若しくはリン脂質、又はそれらの組み合わせを、本発明の供給溶液に使用できる。
【0137】
本発明の幾つかの態様において、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクを、IVPS反応混合物に添加してもよい。リン脂質を二重層構造に含むリン脂質−タンパク質粒子又は「ナノディスク」であって、アポリポタンパク質A1(ApO−A1)のような骨格タンパク質又はその誘導体によって囲まれたものが、Bayburtら(J.Struct.Biol.123:37−44(1998))、Bayburt及びSligar(PNAS99:6725−6730(2002)、Protein Science12:2476−2481(2004))に記載されており、また米国特許出願公開第2005/0182243号において開示されており、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクに及びそれらの構成要素(例えばリン脂質及び骨格タンパク質)に関する全ての開示内容が参照によって本明細書に組み入れられる。特に膜タンパク質をIVPS反応で合成するとき、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクの添加により可溶タンパク質の収量を向上させることができる。例えば、ナノスケールのリン脂質二重層ディスクは、本明細書に記載のIVPS反応において、0.1〜100mm、好ましくは0.2〜50m、最も好ましくは0.5mm〜40mmの濃度で添加できる。例えば、ナノディスクを約1mmから約20mmにてIVPS反応に存在させてもよい。
【0138】
ナノスケールのリン脂質二重層ディスクをIVPS反応に添加して、インビトロ翻訳された膜タンパク質の溶解性を増加させることができる。膜タンパク質(貫通型、埋め込み型及び周辺膜タンパク質を含む)は、ナノディスクの存在下でインビトロ翻訳ができ、その結果膜タンパク質はナノスケールのリン脂質二重層ディスクに挿入される。本発明の幾つかの態様において、ナノディスクに挿入された膜タンパク質は、ナノディスクの骨格タンパク質に存在する親和性タグにより単離できる。
【0139】
他の本発明の好ましい実施例において、一つ以上のリン脂質、表面活性剤又は界面活性剤を、IVPSに使用する細胞抽出物の調製中に細胞又は細胞溶解物に添加して、IVPS反応混合物中に存在させる。リン脂質、表面活性剤又は界面活性剤は、細胞溶解前の細胞に、又は細胞溶解物からの細胞残渣除去前の細胞溶解物に添加するのが好ましい。実施例において示すように、細胞又は細胞溶解物からの細胞残渣の除去前の細胞溶解物への界面活性剤の添加により、界面活性剤なしで調製される抽出物の場合よりも多量の可溶タンパク質を生じさせる細胞抽出物が結果的に得られる。すなわち、本発明の方法では、調製物の上清を(例えば、遠心分離、濾過、クロマトグラフィーその他によって)抽出する間、細胞溶解物から分離される膜及び細胞残渣は、細胞溶解物からの除去前に、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は添加された脂質に暴露される。
【0140】
本発明は特定の方法に限定されるものではないが、抽出物が本発明の方法を使用して調製されるとき、特定の周辺膜タンパク質、凝集タンパク質又は他の生体分子であって、標準IVPS抽出物の調製の間、遠心分離によって取り除かれるものは、界面活性剤による処理によって可溶化され、細胞溶解物の遠心分離の間に上清画分に移行すると考えられる。ゆえにこれらの可溶化された構成要素は細胞溶解物の上清画分の一部となり、細胞残渣から分離されてIVPSにおける細胞抽出物として用いられる。この種の可溶化タンパク質又は生体分子により、インビトロ合成されたタンパク質の収量向上、可溶化の促進、溶解性又は活性の増加がなされる。
【0141】
非界面活性剤の表面活性剤及び/又はリン脂質もまた、生体分子又はタンパク合成、フォールディング又は可溶化を促進する因子の遊離を促進しうる。本発明にはまた、一つ以上の表面活性剤、一つ以上の界面活性剤又は一つ以上の脂質(限定しないが一つ以上のリン脂質)を含む抽出物を有するIVPS系が含まれ、そこにおいて、一つ以上の表面活性剤、界面活性剤又はリン脂質が、細胞溶解に先立ち抽出物の調製に用いる細胞に添加されるか、又は、細胞溶解物からの細胞残渣除去前に、細胞抽出物の調製に用いる細胞溶解物に添加される。
【0142】
本発明には、IVPS系に使用する界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物が含まれ、そこにおいて、その細胞抽出物は細胞を溶解して細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去することによって調製され、そこにおいて、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質が、細胞溶解前の細胞に、又は、細胞残渣を除去する前の細胞溶解物に添加される。本発明において、「細胞残渣」とは、溶解物の構成要素を含んでもよく、限定されないが、例えば、細胞壁の断片、細胞膜の断片、ゲノムDNAの断片又は生体分子の大型の凝集体(例えばサイズ又は密度に基づいて、溶解物から遊離型リボソームを実質的に除去しない方法を使用して溶解物から除去できる)を含む。好ましくは、細胞残渣は、遠心分離又は濾過(最も好ましくは遠心分離)法を使用して溶解物から除去される。
【0143】
遠心分離の代替として又は補足的に、濾過、選択的沈殿、親和性による捕捉又はクロマトグラフィーを、細胞残渣又は望ましくない物質をIVPS用の細胞抽出物として使用される細胞溶解物から分離する方法として任意に使用できる。IVPSに使用する細胞抽出物の調製方法は、様々な真核生物及び原核生物由来の系に関して公知である。本発明は、これらのIVPSに細胞抽出物を使用するいかなる方法又はその変法であって、細胞を溶解し、細胞残渣及び/又は他の望ましくない構成要素を溶解物から除去し、IVPSに使用する抽出物を調製する方法に適用できる。細胞残渣及び/又は望ましくない構成要素の除去は、例えば遠心分離、濾過、クロマトグラフィー、親和性による捕捉などの方法でなされうる。
【0144】
本発明の幾つかの好適な態様において、界面活性剤又は表面活性剤は、細胞溶解バッファー、又は溶解物からの細胞残渣除去前の溶解物に添加される。本発明の幾つかの好適な態様において、界面活性剤は、細胞溶解バッファー、又は溶解物からの細胞残渣除去前の溶解物に添加される。好ましくは、界面活性剤は、非イオン系界面活性剤又は両性イオン系界面活性剤である。
【0145】
本発明のIVPS抽出物の調製に用いる非イオン系界面活性剤は、非限定的な例として、グリコピラノシド(又はグルコピラノシド)、Brij系の界面活性剤、Triton系の界面活性剤、nonidet系の界面活性剤又はTween系の界面活性剤であってよい。幾つかの好適な非イオン系界面活性剤は、グリコピラノシド(又はグルコピラノシド)(例えばドデシルマルトシド、オクチルグルコピラノシド又はオクチルチオグルコピラノシド)、Brij系の界面活性剤(例えばBrij(登録商標)35m)又はTriton系界面活性剤(例えばTriton X−100)である。本発明のIVPS抽出物の調製に用いる両性イオン系界面活性剤は、非限定的な例として、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系の界面活性剤、CHAPS又はCHAPSOであってよく、例えばZwittergent(登録商標)3−14又はCHAPSであってよい。
【0146】
界面活性剤は、他の界面活性剤との、一つ以上の表面活性剤との、若しくは一つ以上の脂質(限定されないが例えばリン脂質)との組み合わせ、又は、一つ以上の追加的な界面活性剤、一つ以上の表面活性剤若しくは一つ以上の脂質とのいかなる組み合わせによっても使用できる。
【0147】
(表2)典型的な界面活性剤
*特に明記しない限りCMCは50mM Na+の数値である。
【0148】
一つの態様において、本発明には、タンパク合成に使用する抽出物の調製方法であって、バッファー中に細胞を再懸濁すること、細胞を溶解させ溶解物を得ること、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質を溶解物に添加すること、及び、溶解物から細胞残渣を除去してタンパク合成に使用する抽出物を得ること、を含む方法が含まれる。好適な方法において、細胞残渣の除去には、溶解物を遠心分離し、リボソームを含む上清の少なくとも一部を除去しタンパク合成に使用する細胞抽出物を得ることが含まれる。細胞は、原核生物でも真核生物細胞でもよい。
【0149】
好ましい実施態様において、一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤を、IVPS用の細胞抽出物として使用する細胞溶解物から細胞残渣を分離する前の、細胞溶解物に添加する。例えば、一つ以上の界面活性剤を、IVPSに使用する細胞抽出物として使用される細胞溶解物から細胞残渣を分離する前に、細胞溶解物に添加してもよい。好ましくは、界面活性剤が抽出物の調製の際に用いられるとき、界面活性剤は、界面活性剤を細胞溶解物に添加後、その細胞溶解物の界面活性剤濃度が界面活性剤のCMSと同等又はそれ以上となるような濃度において用いられる。幾つかの好ましい実施態様において、界面活性剤が抽出物の調製に用いられるとき、界面活性剤は、界面活性剤を細胞溶解物に添加した後、その細胞溶解物の界面活性剤濃度が界面活性剤のCMCの2倍以下となるような濃度において用いられる。
【0150】
本発明には、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物は、細胞を溶解して細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去することによって調製され、そこにおいて、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質が、溶解物からの細胞残渣の除去前に細胞溶解物に添加される、系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、本発明は、少なくとも一つの界面活性剤を含む細胞抽出物を含み、その抽出物が、一つ以上の界面活性剤を細胞残渣の除去前の細胞溶解物に添加することによって調製される、インビトロタンパク質合成系が含まれる。
【0151】
本発明の幾つかの態様において、IVPS抽出物の調製に用いる細胞は、細胞の溶解前に、添加された界面活性剤、表面活性剤又は脂質に暴露される。添加される界面活性剤、表面活性剤又は脂質は、細胞の溶解が始まるのに充分な濃度又は強度では使用されない。例えば、一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質を細胞懸濁液に添加してよく、その後、細胞溶解が行われる。他の好ましい実施態様において、界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質は、IVPS抽出物調製用の細胞溶解バッファーに添加される。本発明には、タンパク合成に使用する抽出物の調製方法であって、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又はリン脂質を含むバッファーに細胞を再懸濁すること、細胞を溶解させ細胞溶解物を得ること、及びIVPSに使用する細胞抽出物を調製するために細胞残渣をその溶解物から分離すること、を含む方法が含まれる。好適な方法において、細胞残渣の分離には、溶解物を遠心分離し、少なくとも一部の上清を取り除き、タンパク合成に使用する細胞抽出物を得ることが含まれる。細胞は、原核生物でも真核生物細胞でもよい。
【0152】
幾つかの好ましい実施態様において、一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤が、IVPSに使用する抽出物の調製用の未処理細胞に添加される。一つ以上の界面活性剤は、例えば、細胞溶解前の未処理細胞に添加してもよい。例えば、細胞ペレットをバッファー中に再懸濁し、一つ以上の界面活性剤をその再懸濁液に添加してもよい。好ましくは、細胞懸濁液中の界面活性剤の最終濃度が、界面活性剤のCMCと同等又はそれ以上となる量の、界面活性剤を添加する。あるいは、細胞ペレットを、一つ以上の界面活性剤を含むバッファー中に再懸濁してもよく、その場合、バッファー中の界面活性剤濃度は、界面活性剤のCMC以上であるのが好ましい。幾つかの好ましい実施態様において、IVPS抽出物の調製の際、界面活性剤が細胞溶解前の細胞懸濁液に添加されるとき、細胞懸濁液中の界面活性剤濃度は界面活性剤のCMCの2倍未満である。
【0153】
本発明には、界面活性剤、表面活性剤又は脂質を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去して調製され、そのとき一つ以上の界面活性剤又は表面活性剤が溶解前の細胞に添加される、系が含まれる。幾つかの好ましい実施態様において、本発明には、少なくとも一つの界面活性剤含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、その細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得、その細胞溶解物から細胞残渣を除去して調製され、そのときその細胞を、溶解前に一つ以上の界面活性剤に暴露させる、系が含まれる。
【0154】
本発明には、インビトロタンパク質合成方法であって、IVPS反応で使用する抽出物の調製に用いる細胞溶解物が、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に少なくとも一つの脂質、少なくとも一つの表面活性剤又は少なくとも一つの界面活性剤によって処理されている、方法が含まれる。上記方法には、インビトロタンパク質合成混合物を構成する細胞抽出物に対してアミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源及び鋳型核酸を添加すること(その細胞抽出物は、細胞又は細胞溶解物が、その抽出物の調製前に少なくとも一つの脂質、表面活性剤又は界面活性剤によって処理されている)と、インビトロタンパク質合成混合物をインキュベートしてタンパク質を合成すること、が含まれる。上記方法の実施において、従来技術で公知のIVPSのプロトコル、又はその改良若しくは最適化法を使用してもよい。細胞抽出物は、原核生物又は真核生物由来の細胞から調製してもよい。上記方法は、バッチIVPS、連続交換IVPS、二重層積層IVPS又は供給/希釈IVPSに適用することができる。IVPS系は、RNA又はDNAの鋳型を使用できる。
【0155】
幾つかの実施態様において、上記方法では、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質でその細胞溶解物を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、上記方法では、細胞溶解物からの細胞残渣の除去前に一つ以上の界面活性剤でその細胞溶解物を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、細胞溶解物は、一つ以上の両性イオン系界面活性剤又は一つ以上の非イオン系界面活性剤(例えば本明細書において開示されるもの)によって処理される。
【0156】
幾つかの実施態様において、上記方法では、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質で細胞を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、上記方法では、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤で細胞を処理して調製された細胞抽出物を使用する。幾つかの好ましい実施態様において、細胞は、一つ以上の両性イオン系界面活性剤又は一つ以上の非イオン系界面活性剤(例えば本明細書において開示されるもの)によって処理される。
【0157】
上記方法には、バッファー、アミノ酸及びインビトロ翻訳反応の初めの翻訳反応において存在するエネルギー源以外の少なくとも一つのエネルギー源を含む、供給溶液を添加することを更に含めてもよく、その場合、翻訳反応液を一定時間インキュベートした後に供給溶液を添加し、拡張された合成反応混合物が得られる。拡張された合成反応混合物は、更なる時間インキュベートされ、一つ以上のタンパク質が合成される。供給溶液及び供給溶液を使用したIVPSの実施方法は、本明細書において開示される。
【0158】
界面活性剤処理された細胞の抽出物又は溶解物を含むIVPS反応系が構成されるとき、一つ以上の界面活性剤を、細胞抽出物中よりも低い濃度でインビトロ合成反応に含めてもよく、又は、界面活性剤が反応バッファーに添加される場合には、インビトロ合成反応における界面活性剤濃度は、抽出物中の濃度と比較し、同等のままか又は高くてもよい。これらの方法の幾つかの実施態様において、界面活性剤はそのCMC以上の濃度で細胞溶解物又は細胞抽出物中に存在し、IVPS反応においてそのCMC以下に希釈される。これらの方法の他の実施態様において、界面活性剤はそのCMCと同等又はそれ以上で細胞溶解物中に存在し、また希釈される場合においても、IVPS反応においてそのCMC以上に維持される。
【0159】
上記抽出物は、IVPS反応系中の界面活性剤濃度を低下させるために透析してもよい。CMC以上の濃度の界面活性剤は理論的に「透析不可能」であるが、実際的には、そのCMC以上の界面活性剤を若干希釈することは可能であり、透析の間透析バッグを膨張させ、サンプル中の界面活性剤を結果的に希釈するか、あるいは、透析バッグ内をCMC以下の濃度に希釈するに場合は、サンプル中の界面活性剤を更に透析希釈すればよい。
【0160】
細胞溶解バッファーへの界面活性剤の添加により、界面活性剤の初濃度における細胞膜及び構成要素の処理が可能となり、その後、IVPS反応系に界面活性剤含有細胞抽出物を添加することによって界面活性剤が希釈されると、IVPS反応系の界面活性剤濃度は低いものとなる。界面活性剤は、タンパク合成を最適にするために、溶解バッファー中の濃度に関して試験してもよい。図4において、本発明の組成物及び方法に使用できる界面活性剤の例、溶解バッファー中のそれらの濃度及び結果として生じる抽出物、並びに可溶タンパク質の収量に与えるそれらの効果を示す。0.09%のBrij35、0.1%のドデシルマルトシド、0.1%のTriton X−100及び0.3%のCHAPSは、全てIVPS系において可溶性のSTK17Bタンパク質の収量を向上させるものである。
【0161】
インビトロ合成による、核磁気共鳴(NMR)法に用いるタンパク質の標識方法
本発明はまた、NMRに用いる同位体標識タンパク質の標識方法を提供する。上記方法には、インビトロタンパク質合成系において少なくとも一つの同位元素で標識されたアミノ酸を含むタンパク質の合成が含まれ、そこでは供給溶液が反応開始後1時間までにインビトロ翻訳反応に添加される。上記方法には、好ましくは、IVPS反応の前に、少なくとも一度のバッファー交換を伴う少なくとも8時間の透析がなされた細胞抽出物の使用が含まれる。より好ましくは、細胞抽出物はIVPS反応の前に少なくとも2時間の透析、それに続く少なくとも8時間の透析がなされ、最も好ましくは、細胞抽出物はIVPS反応の前に少なくとも2時間の透析、それに続く少なくとも12時間の透析がなされる。
【0162】
例えば、細胞抽出物はS30の抽出物であってよく、またIVPSバッファー及び供給溶液は、実施例2及び供給溶液については表3において開示するような、mg単位でのタンパク質合成に使用するものと同様であってよいが、合成に使用する同系の非標識アミノ酸が同位元素標識アミノ酸に置き換わっていることを除く。
【0163】
あるいは、場合によっては、グルタミン酸カリウムが酢酸カリウムと置き換わっているIVPS反応バッファー及び供給溶液の使用が有利なこともある。本発明には、NMR分析に使用するタンパク質をIVPS系にて調製する方法であって、細胞抽出物が少なくとも8時間透析され、反応バッファー及び供給バッファーに酢酸カリウムが含まれ、グルタミン酸カリウムが含まれない方法が含まれる。
【0164】
ベクター、DNAクローニング及び発現系
本発明は、幾つかの態様において、クローニング用及び発現用ベクター及びその宿主に関する。本明細書において用いられるTOPO(登録商標)クローニングシステムは、公開された米国特許出願2003/0022179号(Chesnutら、2003年1月30日に公開、「Methods and reagents for molecular cloning」)に記載されており、そのTOPO(登録商標)クローニングシステム及び方法に関する全ての開示内容が本明細書に参照により組み入れられる。
【0165】
本発明は、簡便なTOPO(登録商標)ベースのDNA断片(PCR断片を含むがこれに限らない)のクローニングに使用可能なベクターを提供し、DNAからRNAへのT7ポリメラーゼ特異的な転写を促進する配列を提供し、更にRNAに転写されると、RNA転写物の翻訳効率を向上させる配列を提供する。
【0166】
更に、上記ベクターは、Hisタグをコードする配列を含むため、転写及び翻訳過程で、クローニングされた目的タンパク質のN末端又はC末端にそのペプチドタグを融合させることが可能となり、それはpEXP5−CT(配列番号:41)又はpEXP5−NT(配列番号:38)ベクターを用いて行われる。更に、本発明において提供されるベクター上には、TEVプロテアーゼ部位が、6×Hisタグ及びクローニングされた目的タンパク質との間に位置するようにコードされている。pEXP5−NT(配列番号:38)ベクターの構築物により、目的遺伝子のN末端に21アミノ酸のみが付加され、プロテアーゼ(TEV)裂開の後は、合成された産物上に二つの付加的なアミノ酸だけが残る。プラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)は、目的の遺伝子を停止コドンと共に挿入できるように設計されている。終止コドンが含まれない場合、クローニングされた目的タンパク質のカルボキシル末端に、C末端Hisタグとして8つのアミノ酸が付加された形で発現される。
【0167】
キット
インビトロ合成用のキットもまた、本発明を特徴づけるものである。このキットには、本発明の実施に試用する試薬又は構成要素を任意の数又は組み合わせで含めることができる。本発明のキットは、好ましくは、本発明の一つ以上の構成要素であって、例えば、細胞抽出物、IVPS反応バッファー、供給溶液、酵素、阻害剤、アミノ酸混合物又は一つ以上のアミノ酸又はその誘導体、一つ以上のポリメラーゼ、一つ以上の補因子、一つ以上のバッファー又は緩衝塩、一つ以上のエネルギー源、一つ以上の鋳型核酸、キットの分析の効率若しくは目的物(例えば核酸及びタンパク質)の生成を測定する一つ以上の試薬、並びに、本発明の方法を実施するための、又は、本発明のキット及び/若しくはその構成要素の使用上の指示書又はプロトコル、からなる群から選択される一つ以上の要素を含む。本発明のキットには、上記の構成要素の一つ以上を任意の数の別々の容器、チューブ、バイアルなどに含めることができ、又は、この種の構成要素を上記容器中で様々に組み合わせてもよい。
【0168】
幾つかの実施態様において、本発明のキットには、少なくとも一つのタンパク合成用の抽出物を含めることができ、その抽出物は、細胞を、細胞溶解前に一つ以上の界面活性剤、表面活性剤又は脂質に暴露させ、抽出物を調製する方法、又は、少なくとも一つの界面活性剤、表面活性剤又は脂質を、溶解物からの細胞残渣の除去前に細胞溶解物に添加する方法により調製される。上記キットにはまた、IVT反応バッファー、アミノ酸及びポリメラーゼ(例えばRNAポリメラーゼ)が含まれる。上記キットに供給バッファーを添加してもよい。
【0169】
幾つかの実施態様において、本発明のキットは、少なくとも一つのタンパク合成用の抽出物、並びにアミノ酸及び少なくとも一つのエネルギー源を含む供給バッファーを含む。好ましくは、その細胞抽出物は、細胞溶解物を遠心分離する前に、リン脂質、界面活性剤又は表面活性剤を細胞又は細胞溶解物に添加して調製される。上記キットにはまた、好ましくは一つ以上のアミノ酸を含む少なくとも一つの溶液が含まれる。上記キットにはまた、好ましくはポリメラーゼ(好ましくはRNAポリメラーゼ)が含まれる。
【0170】
上記キットには、本明細書において開示されるpEXP−CT及び−NTベクターを含むベクター、一つ以上の標識アミノ酸及び、好ましくは取扱説明書を添加してもよい。
【0171】
キットには通常、細菌宿主の特性及び/又はその精製用途に関する指示(例えばその遺伝子型)、及び/又は生体分子(例えばHisタグ付き組換えポリペプチド)の検出に関して記載されている説明書が含まれる。
【0172】
実施例
実施例1
供給溶液の組成
代表的な溶液は、
(a)バッファー(最終濃度10〜100mM)、
(b)一種以上の塩、
(c)一種以上の還元剤、
(d)一種以上のエネルギー源及び/又は補因子、
(e)少なくとも4種のアミノ酸、及び
(f)酢酸アンモニウムを含有する。
【0173】
インビボ合成反応において、反応によるタンパク質収量の最適化のために、供給溶液の成分を様々な濃度で試験した。
【0174】
A.バッファー:
反応のpHを維持するためにHEPESバッファーを添加した。供給溶液のpHは、pH8.0(反応初めは7.6)に上昇した。HEPESバッファーは、インビトロ合成反応系での最終濃度が20〜80mMとなるよう含有させるのが好ましく、その場合、典型的な供給溶液は、HEPESの最終反応濃度が57.5mMとなる。供給溶液としてバッファーを単独で添加しても収量が上昇しなかったが、おそらくタンパク質のフォールディングを適切にすることによる、合成産物の活性を僅かな刺激効果が見られた。
【0175】
B.塩:
2mM CaCl2の存在を除き、初めの反応液中の塩と同一となるように供給溶液に塩を含め、イオン強度を維持した。カルシウムの添加により、収量が約10%上昇した。
【0176】
C.還元剤:
ジチオスレイトール(DTT)を還元剤として用いた。
【0177】
D.1.エネルギー源:
試験した解糖系中間体は、ホスホエノールピルビン酸、アセチルリン酸、グルコース−6−リン酸(Glu−6−P)、フルクトース−6−リン酸、及び3−ホスホグリセリン酸単独、又はそれらの組み合わせである。最適な解糖系中間体の総濃度は、20mM〜60mM(合成反応における最終濃度)であると見出された。
【0178】
補因子NAD又はNADHを除く任意の解糖系中間体を添加することにより酵素活性が上昇し、またNAD又はNADHを共存させると良好な発現及び活性の向上の両方が見られた。これらの効果に関し、各成分の濃度範囲を、例えばアミノ酸1〜5mM、解糖系中間体5〜100mM、及びNAD/H 0.1〜1mMで観察した。
【0179】
D.2.補因子:
NAD又はNADHを溶液中に添加し、アッセイにおける最終濃度を0.1〜1mMとした。
【0180】
E.アミノ酸:
アミノ酸を供給溶液中に添加し、最終濃度を1.25mMとした。5mMまでのアミノ酸の最終濃度は有害ではなかった。供給溶液中に添加されたアミノ酸は、バッファー単独の添加と比較し、収量を30%まで上昇させ(表4)、これは分解又は劣化したアミノ酸の幾らかが、新鮮なアミノ酸と交換されたことによるものと考えられる。反応開始時のアミノ酸濃度は、各アミノ酸で1.25mMであり(1.5mMで添加したメチオニン及びシステインを除く)、このアミノ酸濃度の上昇は当初、収量における同様の刺激効果を生じさせなかった。したがって、後における補充が重要であると示唆された。この時点での供給溶液は、1.5mMで存在するメチオニン及びシステインを除き、1.25mMの各アミノ酸が含まれている。
【0181】
好ましい供給溶液を、以下の表に記載する(1.5mMで存在するメチオニン及びシステインを除き、一様に供給溶液中に添加された1.25mMのアミノ酸は記載しない)。表3に記載した供給溶液(アミノ酸以外)は、以下の実施例に記載するIVPS反応にて調製及び評価された。
【0182】
(表3)供給溶液
【0183】
実施例2
供給溶液中の様々な成分による収量及び活性
標準的な50μL Expressway(商標)Plus(Invitrogen、Carlsbad、CA)反応系を構築し、原則的に製造業者の指示に従い37℃でインキュベートした。反応系には、大腸菌のRNaseA欠損変異体の抽出液600〜800μg、2.5μg/mL Gamタンパク質、820U T7酵素、20U RNaseOut、1mM アミノ酸(メチオニンを除く)、1.5mMメチオニン、及び0.5〜1μg鋳型DNA(環状及び直鎖のいずれか)を含む1×IVPSバッファー(58mM Hepes(pH7.6)、1.7mM DTT、1.2mM ATP、0.88mM UTP、0.88mM CTP、0.88mM GTP、34μg/mL フォリン酸、30mM アセチルリン酸、230mM グルタミン酸カリウム、12mM 酢酸マグネシウム、80mM NH4OAc、0.65mM cAMP、30mM ホスホエノールピルビン酸、2% ポリエチレングリコール)を添加した。エッペンドルフサーモミキサーを使用し1.5〜2mL微量遠心管内で、30℃又は37℃のいずれかにて2〜6時間緩やかに振とう(1000〜1400rpm)し、反応を進行させた。反応時間全体に亘り、異なる時間間隔において、反応液に1/2量(初めの反応液の容量に対する)の供給バッファーを供給した。
【0184】
界面活性剤の効果を試験するアッセイにおいて、細胞を溶解したS30バッファー中に界面活性剤を含ませた。該界面活性剤は、反応物中に様々な濃度で添加した:オクチルグルコピラノシド(0.6%、1.2%、2%)、オクチルチオグルコピラノシド(0.3%、0.6%、0.9%)、Zwittergent(登録商標)3−14(0.01%、0.025%、0.05%)、ドデシルマルトシドナトリウム(0.01%、0.025%、0.05%)、及びTriton(登録商標)X−100(0.01%、0.025%、0.05%)。各界面活性剤を、その界面活性剤の臨界ミセル濃度以下、臨界ミセル濃度と同等、及び臨界ミセル濃度以上に対応する三つの濃度にて、反応物中に添加した。
【0185】
プラスミドDNA 1μg、又は直鎖鋳型2〜3μgを用い、反応物を調製した。DNA鋳型として用いたプラスミドは、pEXP1−LacZ、pCR2.1−GFP(緑色蛍光タンパク質)、及びpEXP3−GUSであった。
【0186】
上気した成分を含有する供給溶液を、反応から30分及び2時間後に25μLずつ供給した。供給溶液を、58mM HEPES−KOH(pH8.0)、230mM グルタミン酸カリウム、12mM 酢酸マグネシウム、80mM 酢酸アンモニウム、2mM 塩化カルシウム及び1.7mM DTTにて調製した。供給溶液にはまた、各々1mMのアミノ酸(1.5mMのメチオニン以外)、及び/又は30mMの解糖系中間体、例えばグルコース−6−リン酸、3−ホスホグリセリン酸(3−PGA)又はアセチルリン酸(AP)、並びに0.3mMのNADHを添加してもよい。合成されたGFPの量、及び活性(相対蛍光単位、RFU)を測定した(表4)。以下に記載する全ての反応供給溶液は、「供給なし」又は「バッファーのみ」の対照と比較し高い収量であった。アミノ酸、Glu−6−P及びNADHを含む供給溶液において最適な効果を示し、次いでアミノ酸、3−PGA、及びNADHを含む供給溶液が良好に作用した。
【0187】
アミノ酸及びエネルギー源を含有する供給溶液を30分、及び2時間後に添加した、4〜6時間の反応において合成された一連の対照タンパク質の収量は、一貫して1mg/mLより多いタンパク質量であった。
【0188】
(表4)供給溶液を用いたExpressway反応
【0189】
実施例3
LacZ及びGFPの発現に与える、供給時間及び供給量の効果
標準的な50μL Expressway(商標)Plusの反応系を、実施例1に記載の通り構成し、37℃でインキュベートした。指示通りの時点で供給バッファーを添加した。単回供給の場合は供給溶液を1容量(50μL)添加し、二回供給の場合は供給溶液2容量(各25μL)を添加した。[35S]メチオニンの取り込みに基づき、タンパク質の総収量を算出した。発光アッセイによりLacZ活性を測定し、これを相対発光単位(RLU)として示した。GFP活性をその蛍光(励起:395nm、放射:509nm)により測定し、これを相対蛍光単位(RFU)として示した。
【0190】
一回供給の場合、両タンパク質において、溶液が反応の開始後15分、30分、1時間又は2時間の時点で添加された場合、活性の上昇が見られた(表5)。しかしながら、タンパク質の合成量は15分後に供給された場合に最適であり、収量もまた30分及び1時間後に供給された場合に上昇した。2時間後の一回供給が収量に与える効果は、それ以前での一回供給の効果と比較し顕著に低かった。
【0191】
二回供給の場合、両タンパク質において、供給溶液を、0及び2時間後、15分及び2時間後、30分及び2時間後、1時間及び2時間後、並びに1時間及び3時間後にて二回添加した場合に活性の上昇が見られた。一回供給反応の場合と同様、最初の供給を、反応の開始から1時間後以降に行った場合、タンパク質収量における効果は、それ以前(15分、30分、60分後)に最初の供給を行った場合と比較し顕著に低かった。
【0192】
(表5)供給の時間及び量による効果
【0193】
同様の実験において、インビトロでの発現反応中の緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光活性をモニターした。一連の50μLの反応混合物を調製し、指示された寮の供給バッファーを、時間を変えて供給した。反応は、断続的に振とうしつつ37℃で6時間行った。Spectramax Gemini Fluorometer内で、6時間のインキュベートの間、GFP活性をモニターした。結果を図2に示す。標準的なインビトロ反応(ダイヤモンド)は、2時間後にほぼ完全に停止した。Expressway−Milligram供給技術を用い、(1)30分後及び再度2時間後(四角)、又は(b)1時間後及び再度2時間後及び4時間後(三角形)のいずれかの方法で供給バッファーを添加したところ、反応がほぼ一定に6時間継続した。
【0194】
実施例4
mg単位のタンパク質合成
以下のヒトORFを、Gateway技術(Invitrogen、Carlsbad、CA、米国特許第5,888,732号及び米国特許第6,277,608号を参照、両方のGatewayクローニング技術、方法、及びベクター系に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)を使用して、pEXP1又はpEXP3内に、またTOPO(登録商標)TAクローニング(Invitrogen、Carlsbad、CA、米国特許第5,851,808号及び米国特許第6,828,093号、両方のTOPO(登録商標)クローニング技術、方法、及びベクター系に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)によりpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:38)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)にクローニングした:脳クレアチンキナーゼB鎖(CKB、Invitrogenカタログ#IOH5211、Ganbank NM001823)、主要組織適合性複合体、クラスII、DOα、HLA−DO−α、(HLA−DOA、Invitrogenカタログ#IOH10959、クレアチンキナーゼに類似した、筋(CKM、Invitrogenカタログ#IOH7287、Ganbank NM001823)、カルモジュリン様3(CALML3、Invitrogenカタログ#IOH22362、Ganbank NM005185)、及びインターロイキン24(IL24、Invitrogenカタログ#IOH9846、Ganbank BC009681)。
【0195】
初めの反応容量が1mLとし、1容量の(1mL)供給溶液による一回供給を30分後に実施することを除き、実施例2に示す初めの反応条件、及び表3に示した供給溶液を用いて、インビトロでのタンパク質合成反応を行った。8種のタンパク質の代表的な収量を、35Sメチオニン取り込みにより測定した。これらの実験では、初めの反応において5(Ciの[35S]メチオニン(10μCi/μL、1175Ci/mmol)を含めた。供給バッファーを補充し、[35S]メチオニンをベースの(開始の)反応系と同一の濃度にした(50μL当たり0.5(Ci(10μCi/μL、1175Ci/mmol))。これらのExpressway(商標)−Milligramによる反応産物のうち、数種の0.25(Lを、クマシーブルーで染色した4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲル上で電気泳動し、8種のタンパク質の各収量を測定した。図3に、このExpressway(商標)−Milligram系内で合成された各タンパク質量を示す。発現したタンパク質は、左から右に向かってGFP、ヒトORF脳クレアチンキナーゼ、LacZ、6−ヒトORF MHCクラスII、N末端Hisタグベクター(pEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:38))内のヒトORF筋肉由来クレアチンキナーゼ、ヒトORFカルモジュリン様タンパク3、ヒトORFインターロイキン24、及びC末端Hisタグベクター(pEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:41)内のヒトORF筋肉由来クレアチンキナーゼである。
【0196】
8種のタンパク質において、タンパク質産生量の範囲は、約890〜1,700mgであった。8種のタンパク質のうち5種は>1.3mgの量で産生され、8種のタンパク質のうち2種は>1.5mgの量で産生された。産生されたタンパク質の平均量は、1.275mgであった。
【0197】
実施例5
細菌細胞からのIVPS抽出物
以下のプロトコルを用いて、大腸菌を含む細菌株から、S30抽出物を調製した。
【0198】
細胞ペースト
大腸菌K12 A19細胞を、セレローズ(Cerelose)(5g/L)を添加した50L緩衝2×YT(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、塩化ナトリウム 5g/L、無水第二リン酸ナトリウムNa2HPO4 5.68g/L、無水第一リン酸ナトリウムNa2HPO4 2.64g)培地中で増殖させた。細胞を、回転盤(一般に、250rpm)上にて、37℃で、OD590が約3.0〜約5.0の範囲に到達するまで(通常約6〜約8時間)培養した。細胞を更に新鮮な培地中に播種し、その際、初期OD590が約0.05〜約0.10であった。その後、37℃、250rpm、50slpm、5psiにて、OD590約3.0〜約3.5となるまで培養した。細胞をSorvall GS3型ローターに移し、5000×gで15分間遠心分離した。必要に応じて上清を吸引除去した(細胞ペーストは、次の工程に進む前に、好ましくは5日間又はそれ以下の期間−80℃で保存してもよい)。
【0199】
1gの細胞ペーストを(−80℃で保存した場合解凍して)、使用直前にDTTを添加した1mLの冷却(4℃)S30バッファー中に再懸濁した(例えば細胞250gに対してS30バッファー250mL)。
【0200】
再懸濁を促進するために、細胞を数分間(泡を生成させずに)手動で緩やかに回旋した。細胞を入れる瓶内に滅菌済み撹拌棒を入れ、約15分間緩やかに撹拌し、細胞を完全に再懸濁させた。再懸濁液を直ちに氷上に置いた。
【0201】
細胞溶解
細胞溶解に先立ち、細胞をS30バッファー+6mM β−メルカプトエタノールで洗浄した。S30バッファー、6mM β−メルカプトエタノールを細胞に添加し、細胞ペーストが溶解するまで、25mLピペットで「破砕、撹拌」した。S30バッファーは、10mMトリス、14mM酢酸マグネシウム及び60mM酢酸カリウム(pH8.2)である。懸濁液をRC3B遠心分離機にて4,500rpmで20分間回転させた。上清をデカントし、洗浄を繰り返した。
【0202】
細胞を0.85〜1容量(0.85mLバッファー:1gペレット)の1×S30バッファー(1mM DTT、0.5mM PMSF及び0.1% TritonX100)中に再懸濁した。場合によっては、界面活性剤を全く加えず、又は例えばBrij35(0.09%)、ドデシルマルトシド(0.1%)、及びCHAPS(0.3%)のような異なる界面活性剤を溶解バッファーに添加した。
【0203】
再懸濁細胞のサンプル5mLを、水995mLに添加し(1:200希釈)、初期ODを測定した。このサンプルをボルテックスし、水をブランクとして使用し、590nmにて測定した。細胞破砕の直前に、再懸濁した細胞ペーストに0.1Mフッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF)を添加した。細胞懸濁液1mLあたり5μLの0.1M PMSFを使用した。
【0204】
Emulsiflex C50ホモジナイザー(Avestin Inc.、Ottawa、Canada)を使用し細胞を破砕した。圧力を少なくとも約25,000〜約30,000psiに維持した。500mLの細胞懸濁液をホモジナイザーに通過させるのに通常約15〜20分間を要した。
【0205】
溶解の効率が約90%未満の場合、細胞懸濁液を再度ホモジナイザーに通過させた。溶解効率は、以下のように計算した。
(最初の通過OD590/初めのOD590(上記参照))×100=未溶解率(%)
100−未溶解率(%)=溶解効率(%)
【0206】
1M DTTを溶解物に直ちに添加し、最終濃度を1mMとした(例えば、溶解物250mLにつき1M DTTを250μL)。次いで、溶解物をSS34ローター内で、16,000rpm(30,000×g)にて4℃で40分間遠心分離した。上清の上部4/5を無菌プラスチック製の目盛り付きピペットにより除去し、1Lの無菌容器内に収集した。
【0207】
プレインキュベーション
上清の容量を測定した。10×プレインキュベーションミックスを上清に添加し(2回の溶解後遠心分離後)て1×最終濃度とし、溶解物を37℃で150分間インキュベートした。プレインキュベーションミックスは、使用直前に、その成分を以下の順序で添加し調製した。調製後、氷上に静置した。
【0208】
(表6)プレインキュベーションミックス
【0209】
プレインキュベーションミックス、1×濃度:
73mM トリス−酢酸、22℃にてpH8.2
10μM アミノ酸ミックス
1.1mM ジチオスレイトール(DTT)
2.3mM 酢酸マグネシウム
21mM ホスホエノールピルビン酸
60mM 酢酸カリウム
3.3mM ATP
126U/mL ピルビン酸キナーゼ
【0210】
混合物を37℃の振とう水浴内で、150rpmにて150分間緩やかに振とうしながらインキュベートした。次いで、抽出物を、細胞の再懸濁に使用したS30バッファーと同一濃度の1×S30バッファー+1mM DTTにより、一晩で二度の交換を伴う透析を行った。次いで抽出物を分注し、−80℃で保存した。
【0211】
実施例6
異なる界面活性剤を用いて調製したIVPS抽出物を使用した、可溶性タンパク質の収量の比較
細菌細胞ペレットを、界面活性剤を添加しない、又は以下の界面活性剤の一つを添加したS30バッファーに再懸濁したことを除き、上記実施例に記載の要領にてS30抽出物を調製した:0.09%Brij35、0.1%ドデシルマルトシド、0.1%Triton X−100、又は0.3%CHAPS。全ての界面活性剤を、CMCの濃度以上の濃度で使用した。次いで、再懸濁した細胞をC5 Emulsiflex内で溶解した。溶解した細胞を上述のように遠心分離し、上清を1/10容量の翻訳ミックス及びピルビン酸キナーゼと共にプレインキュベートした。次いで、抽出物を、S30バッファー(界面活性剤無添加)により、一晩で二度の交換を伴う透析を行った。
【0212】
IVT反応を実施例2に記載のとおり実施し、そこにおいて、表3に示した供給溶液を使用し一回供給を30分後に行った。鋳型にはSTK17Bキナーゼタンパク質(セリンスレオニンキナーゼ17b、Invitrogenカタログ#IOH21114、Ganbank NM004226.2)をコードするプラスミドを用い、異なる界面活性剤を用いて調製した抽出物を使用した。図4は、細胞溶解中の界面活性剤の添加により、界面活性剤無添加で調製したS30と比較しSTK17Bキナーゼタンパク質の可溶性が上昇したことを示す。非イオン系(Brij35、ドデシルマルトシド、Triton X−100)及び両性イオン系界面活性剤(CHAPS)の双方が、可溶性タンパク質の収量を上昇させたことは注目に値する。
【0213】
別の実験のセットにおいて、細胞再懸濁に0.1%Triton X−100を含有するS30バッファーを使用し、数種のタンパク質の可溶性向上効果を試験した。図5に、細胞溶解中に界面活性剤(Triton X−100)を添加し及び添加せずに調製した抽出物を使用して翻訳した際の、可溶性GFP、LacZ、及びSTK17Bキナーゼタンパク質の産生を示す。三つの場合全てにおいて、可溶性タンパク質の収量は、S30バッファー中の界面活性剤の存在により向上した。
【0214】
図6に、細胞を溶解させたS30バッファー中の0.1%Triton X−100を用いて調製した、S30抽出物中で合成された一連のタンパク質における可溶性の向上効果を示す。該タンパク質は、(右から左に向かって)CDC28タンパク質キナーゼ調節サブユニット1B(CKS1B、Invitrogenカタログ#IOH6416、Ganbank NM_001826)、シンタキシン結合タンパク質1(STXBP1、Invitrogenカタログ#IOH3588、Ganbank BC015749.1)、Sumoタンパク質(配列番号:1)、カルモジュリン様3(CALML3、Invitrogenカタログ#IOH22362、Ganbank NM005185)、アデニレートキナーゼ3α様(AK3L1、Invitrogenカタログ#IOH11046、Ganbank NM_016282)、GFP、脳クレアチンキナーゼB鎖(5211、Ganbank NM001823)、及び受容体−相互作用セリン/スレオニンキナーゼ(6368、Ganbank NM003821)を含む。
【0215】
実施例7
界面活性剤で抽出した細胞膜をインビトロ翻訳系へ添加することによる効果
翻訳に使用される細胞抽出物から細胞膜を分離する前に一種又は二種以上の表面活性剤又は界面活性剤による細胞又は細胞溶解物の処理が、タンパク質合成の収量又は活性に有利な効果を与えるか否かを解析するため、「アッドバック(add back)」実験を行った。以下の実験において、細胞を溶解し、界面活性剤の不在下で、細胞抽出物を(遠心分離を用い)調製した。界面活性剤で溶解した細胞ペレット抽出物を用いて溶解させた細胞ペレットを別に抽出し、そのペレット抽出物の一部を、IVTT反応に使用するS30抽出物にアッドバックすることにより、界面活性剤を用いて調製した細胞ペレットの画分から抽出できる成分が、果たしてインビトロ翻訳に有利な効果を与えるかを解析した。
【0216】
細菌(大腸菌A19)S30抽出物を、標準的な方法に従い調製した。端的には、洗浄済み大腸菌細胞をS30バッファー(10mM トリス、14mM 酢酸マグネシウム及び60mM 酢酸カリウム(pH8.2))中に再懸濁し、Emulsiflex C50ホモジナイザー(Avestin Inc.、Ottawa、Canada)中で溶解させた。溶解物を遠心分離した。S30上清を除去し、分割した。
【0217】
1Lの細胞培養液から得たS30ペレットを、10mLのバッファー(20mM KHPO4(pH8)、150mM KCl)中に再懸濁した。再懸濁したS30ペレットを500μLずつ1.5mLチューブに分注し、氷上に置いた。多数の非イオン系及び両性イオン系の界面活性剤(デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルマルトシドナトリウム、ジギトニン、オクチルチオグルコシド、オクチルグルコシド、又はCHAPS)を50又は100μLずつS30画分に添加し、最終濃度0.5%とし、画分及び界面活性剤を室温で30分間インキュベートした。対照には、100μLのバッファー(20mM KHPO4(pH8)、150mM KCl)のみ、又は0.5M NH4OAcを添加した。次いで、サンプルを微量遠心分離機内で14,000×gにて30分間遠心分離した。上清を清潔なチューブ内に移した。
【0218】
S30ペレットの界面活性剤抽出物の上清10μLずつを、SDS−PAGEゲル上にロードした。ゲルを電気泳動し、クマシーブルーで染色した。染色したゲルを目視した結果、S30ペレット界面活性剤抽出物を有するゲルのレーンには、バッファー又は塩でインキュベートしたS30ペレットの上清を乗せたレーン内では見られない、高分子量(120kDa以上)の染色バンド及びその分解物が存在した。
【0219】
上記抽出物をIVTT反応においても使用した。20μLの2.5×IVTバッファー(145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEG)、最終濃度1.25mMのアミノ酸(メチオニン及びシステインが1.5mMであることを除く)、0.25μLの35Sメチオニンを有する17μLのS30ペレット抽出物、0.75μgのpUCT7−GFPプラスミドDNA、1μLのT7ポリメラーゼ、及び3μLのS30ペレット抽出物を使用し、標準的な50μL反応を行った。ペレットを、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.5%ドデシルマルトシドナトリウム、0.5%ジギトニン、0.5%オクチルチオグルコシド、0.5%オクチルグルコシド、又は0.5%CHAPSのいずれかで処理した。翻訳反応における界面活性剤の最終濃度は、各場合において0.03%であった。対照として、界面活性剤の代わりに0.5M NH4OAcを用いてペレット画分をインキュベートして得た3μLのS30ペレット抽出物を用い、IVTT反応を実施した。更なる対照として、3μLの2.5×IVSバッファー、又は更なるS30抽出物を反応物に添加した。
【0220】
エッペンドルフサーモミキサー内で、1.5〜2mL微量遠心管内にて37℃で2時間緩やかに振とう(1,000〜1,400rpm)し、反応させた。
【0221】
活性GFPタンパク質の収量を、一定時間GFP蛍光をモニターして評価した。タンパク質の収量は、35Sメチオニンの取り込みにより測定した。図7は、大腸菌Al9株からの抽出物を使用した場合、S30ペレットの界面活性剤抽出物のIVPS反応への添加により、タンパク質の合成量が増大することを示す。
【0222】
実施例8
15N標識細胞フリーアミノ酸のインビトロで発現したタンパク質への取り込み
15Nで標識したSUMOタンパク質(配列番号:1、米国特許第6,872,343号、SUMOタンパク質及び核酸配列、並びにそれらの使用に関する全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)を精製し、質量分析法により試験して15Nの取り込みの程度を測定した。理想的には、目的タンパク質は、非標識アミノ酸を全く有さない必要があり、NMR等の用途には均質な標識タンパク質が望ましい。図4に、対照(非標識)SUMOタンパク質と、15N標識したSUMOタンパク質を質量分析で検出した際の比較実験の結果を示す。上記結果は、いかなる天然の非標識アミノ酸を排除する、15N標識アミノ酸の完全又はほぼ完全な取り込みを示す。
【0223】
Expressway(商標)NMRにおけるCALML3の発現及び精製
SUMO及びヒトORFカルモジュリン様3タンパク質(CALML3)を、pEXP5−NT/TOPO(登録商標)TAベクター内にクローニングし、均一に標識した10mg/mLのNアミノ酸を含有する5mL Expressway(商標)NMR反応で発現させた。SUMO及びCALML3タンパク質を、上記のように合成及び精製した。最終反応物を結合バッファーで1:1に希釈し、Ni−NTA樹脂上で精製し、精製プロファイルをクマシー染色した4〜12%NuPAGE(登録商標)ゲル上で分析した。ピーク画分を回収し、質量分析の前に透析した。最終的な回収物は、約4mgのSUMO及び4.5mgの精製CALML3であった。
【0224】
SUMOタンパク質の標識
各IVTT反応において、以下の成分を添加し、30℃で4時間インキュベートした。大腸菌S30 20mL、2.5×IVPS NMRバッファー(145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEG(バッファー中にアミノ酸存在せず))20mL、T7 RNAポリメラーゼ1mL、RNaseOUT(商標)0.5mL、5mLの100mg/mL 15N標識細胞フリーアミノ酸(反応物中の最終濃度は10mg/mL)、DNA 1mg、35S−メチオニン 0.5mL、更にヌクレアーゼフリーH2Oで50mLとした。50mLの供給バッファー(25mL 2×供給バッファー、0.5mL 35Sメチオニン、5mLの100mg/mL 15N標識細胞フリーアミノ酸、ヌクレアーゼフリーH2Oで50mLとした)を、各反応物に30分後に添加した。4時間目の終わりに、5mLの反応物をTCA沈殿し、タンパク質の収量を測定した。非標識タンパク質発現においては、標識したアミノ酸を非標識アミノ酸(最終反応物中1mM)で代替し、上記のIVTT反応を実施した。
【0225】
13C又は15N標識アミノ酸を用いた標識においては、適切な非標識アミノ酸を標識アミノ酸で代替した。完全アミノ酸(13C又は15N標識アミノ酸を含む)を用いた標識には、100mg/mLを50mM HEPES(pH7.5)中に溶解し、5μLずつを50μL IVTT反応に使用した。最終反応物中のアミノ酸濃度は、10mg/mLであった。研究者の希望に応じ、濃度を変更してもよい。
【0226】
10mMの全20アミノ酸の混合物50μLを0.25mLの2×供給バッファーに添加し、ヌクレアーゼフリー水により液量を0.5mLとした。
【0227】
0.5mLのExpressway NMR反応において、以下の成分を混合した。大腸菌S30 0.2mL、2.5×NMR IVPSバッファー0.2mL、T7 RNAポリメラーゼミックス10μL、10mMアミノ酸ミックス(標識アミノ酸混合物又は非標識アミノ酸混合物)50μL、DNA鋳型(環状又は直鎖)2.5〜5μg。次に、混合物の最終容量を、ヌクレアーゼフリー水により0.5mLとした。反応物を、30℃又は37℃で4時間インキュベートした。反応の開始から15〜30分後、供給バッファー0.25mLをIVTT反応に添加した。次いで2時間後、0.25mLの供給バッファーを反応液に添加し、30℃又は37℃でインキュベートした。
【0228】
反応後、反応物の5μLずつを、NaOH水100μLを用いて室温で5分間インキュベートした。次に、10%の冷TCA(トリクロロ酢酸)を添加し、4℃で数分間静置した。真空マニフォルドを使用して、沈殿したタンパク質をグラスファイバーフィルター(GF/C)で回収した。フィルターを5%TCAで2回洗浄し、最後に100%エタノールで洗浄した。乾燥したフィルターを、シンチレーション液で満たしたシンチレーションバイアルに移した。TCA沈殿物カウントにおける35Sメチオニン取り込み量を基に、タンパク質収量を算出した。
【0229】
IVTT反応の完了後、反応物を、16,000×gで約5分間遠心分離した。サンプルを結合バッファー中で1:1に希釈し、結合バッファーで平衡化済の適当量のNi−NTAカラムにロードした。サンプルをカラム内で約5分間インキュベートし、フロースルーを回収した。次いで、カラムを10カラム容量の洗浄バッファーで洗浄し、前半分を洗浄物1、後半分を洗浄物2として回収した(各々5カラム容量)。1カラム容量の溶出バッファー1をカラムに添加し、カラムに結合した非特異的タンパク質を溶出した。1カラム容量の溶出バッファー2をカラムに添加し、約3〜5分間インキュベートの後タンパク質を溶出し、1カラム容量の溶出バッファー2で溶出を繰り返した。特異的に結合したタンパク質の全部をカラムから溶出した後、カラムを溶出バッファー3で洗浄した。サンプルをNuPAGEゲル上で泳動した。タンパク質を含有する溶出液をプールし、透析バッファーにより数時間透析した。Bio−Radアッセイ試薬を用いてタンパク質濃度を測定し、質量分析法により標識アミノ酸の取り込みパーセンテージを測定した。
【0230】
例えばNaCl及びDTTのようなMALDI−TOFに適合しないバッファー成分を除去するため、滴下透析法によりサンプルを0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)によりバッファー交換した。次に、バッファー交換したサンプルを、50%アセトニトリル/0.1% TFA中に溶解した過飽和シナピン酸をマトリクスとして使用して、VOYAGER−DE−STR MALDI/TOF装置(ABI、Foster City、CA)上で分析した。サンプルを、Invitromass−IV及びInvitromass−30kDaに対して内的及び外的に校正した。
【0231】
10ng/mL トリプシン(シークエンシング等級の修飾トリプシン、Promega)を含む20mM 重炭酸アンモニウム(pH8.0)中で、サンプルを37℃にて30分間消化した。タンパク質の分解後、Zip−Tips(Millipore)を使用したCl8逆相抽出により、サンプルを濃縮した。溶出液をステンレス鋼MALDI−TOF−MSサンプルターゲット上に堆積させ、MaxIon AC MALDIマトリクス(Invitrogen)と1:1で混合した。
【0232】
Applied Biosystems Voyager DE STR機器を使用し、MALDI−TOF−MS分析を行った。全てのMALDI−TOF−MSスペクトルは、加速電圧20kV、遅延時間50〜250nsec、1スペクトルにつき300のレーザーショット、レーザー強度1500〜1700、デジタイザー縦軸設定500mVにて、正反射モード(指定する場合を除く)で取得した。InvitroMass LMW calibrantキット(Invitrogen)を使用し、スペクトルを外的又は内的に較正した。消化されたカルモジュリン及びSUMOタンパク質のペプチド質量フィンガープリントを、Voyager Explorerソフトウエア(Applied Biosystems)により分析した。同位体比測定器(ChemSW)を使用し、重同位体の取り込み量を計算した。
【0233】
Applied Biosystems Voyager DE STR装置を使用し、未処理タンパク質のMALDI−TOF−MS分析を行った。線形モードにおける一定のレーザー強度1998の設定により、分析を行った。サンプルを、50%アセトニトリル0.1%TFA(Pierce)中のシナピン酸(Sigma)飽和溶液を用い1:1(v/v)に希釈した。
取り込みパーセンテージの計算式:
取り込み=標識時ピーク強度/(対照ピーク強度+標識時ピーク強度)
標識ペプチドに対する15Nアルギニンの取り込み(%)=100/(25+100)=80%
【0234】
酢酸カリウム又はグルタミン酸カリウムを含む2.5×IVPS NMRバッファー
IVPSバッファー中の一成分、グルタミン酸カリウムは、タンパク質の高発現を補助する。系内のグルタミン酸カリウムは、反応液中に遊離グルタミン酸を放出する。グルタミン酸は、グルタミン及びアスパラギン酸の前駆体である。この化合物の存在により、タンパク質の13C/15Nアスパラギン酸、13C/15Nアスパラギン、13C/15Nグルタミン酸又は13C/15Nグルタミンによる標識が困難となる。この問題を克服するため、本発明者等は、タンパク質収量を低下させない、グルタミン酸カリウムの代替化合物を数々試験した。本発明者が試験した化合物のほとんどは、タンパク質収量を有意に低下させるものであった。酢酸カリウムは、グルタミン酸カリウムを置換する一選択肢であったが、タンパク質収量はグルタミン酸カリウムよりも50%低かった。
【0235】
グルタミン酸塩をベースとする系
二種のSUMOペプチドについて、グルタミン酸カリウムベースのバッファーを使用した際の、安定な同位体の該ペプチドへの取り込みの程度を試験した。
【0236】
15N−Glu
SUMO47−54ペプチド(質量ピーク965.4)は、そのアミノ酸配列:Arg−Leu−Met−Glu−Ala(配列番号:2)内に一つのGlu残基を含む。
【0237】
グルタミン酸塩の存在下、15N Gluの取り込みは全く検出されなかった(取り込み0%)。
【0238】
15N−Gln
SUMO72−109ペプチド(質量ピーク4229.1)は、そのアミノ酸配列:Ile−Gln−Ala−Asp−Gln−Thr−Pro−Glu−Asp−Leu−Asp−Met−Glu−Asp−Asn−Asp−Ile−Ile−Glu−Ala−His−Arg−Glu−Gln−Ile−Gly−Gly−Pro−Gly−Gly−Gly−Ser−His−His−His−His−His−His(配列番号:3)内に、三つのGln残基を含む。
【0239】
グルタミン酸塩の存在下、15N Glnの取り込みは全く検出されなかった(取り込み0%)。
【0240】
酢酸塩をベースとする系
CALML3ペプチドについて、酢酸カリウムベースの組成物を使用した際の、安定な同位体の該ペプチドへの取り込みの程度を試験した。
【0241】
15N−Glu
47−54CALML3ペプチド(質量ピーク965.5242)は、そのアミノ酸配列:Gly−Cys−Ile−Thr−Thr−Arg−Glu−Leu(配列番号:4)内に一つのGlu残基を含む。
【0242】
反応に15N−Gluを使用した際、通常のピークの一部(m/z=965.5242)は、15Nの取り込みを原因として、1ダルトン(+1Da)「シフト」した(m/z=966.5238)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、35%であった(取り込み35%)。
【0243】
48−55CALML3ペプチド(質量ピーク966.5380)は、アミノ酸配列:Cys−Ile−Thr−Thr−Arg−Glu−Leu−Gly(配列番号:5)内に一つのGlu残基を含む。
【0244】
反応に15N−Gluを使用した際、通常のピークの一部(m/z=966.5380)は、1ダルトン(+1Da)だけシフトした(m/z=967.5344)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、35%であった(取り込み35%)。
【0245】
15N−Gln
CALML3 56−64ペプチド(質量ピーク1063.521)は、そのアミノ酸配列:Thr−Val−Met−Arg−Ser−Leu−Gly−Gln−Asn(配列番号:6)内に一つのGln残基を含む。
【0246】
反応に15N−Glnを使用した際、通常のピークの一部(m/z=1063.521)は、15Nの取り込みを原因として、1ダルトン(+1Da)「シフト」した(m/z=1064.5759)。取り込みパーセンテージは、グルタミン酸塩の不在下、65%であった(取り込み65%)。
【0247】
S30抽出物の透析
標識効率を評価するために、SUMO及びCALML3タンパク質の双方を、数種の15N標識アミノ酸で標識した。短時間透析したS30(2時間透析したS30)を用いて、15Nアスパラギン、15Nグリシン、15Nチロシン、15Nグルタミン及び15Nグルタミン酸(Cambridge Isotope Laboratory)を使用してSumoタンパク質を合成し、取り込みにを評価した。取り込みは、同位体比測定器(ChemSW)分析によれば、各々0%、65%、65%、0%及び0%であった。Sumoのペプチド65−71(Phe−Leu−Tyr−Asp−Gly−Ile−Arg、配列番号:7)を用いて、標識の効率性を比較した。非標識ペプチドは、883.59Daの質量を有する。非標識ペプチドは、一つのグリシン及び一つのチロシンを有する。以上より、標識したペプチドの質量は、884.59Daであると想定される。MSデータは、いずれかのアミノ酸で標識したペプチドの両方に関して、質量ピーク884.5Daを示す。グルタミン酸カリウムを含有するIVPSバッファーを使用して、タンパク質合成を行った。
【0248】
S30の短時間の透析(2時間透析)により、15NアルギニンはCALML3に100%未満で取り込まれた(80%:Cambridge Isotope Laboratory及び91%:Spectra Stable Isotope)。S30の延長した透析(2時間透析した後、透析バッファーを交換し、一夜透析する)を、15Nアルギニン(Spectra Stable Isotope)3を含む同一のタンパク質の合成に使用した場合、ほぼ100%取り込まれた。以上より、100%の標識を得るために長時間の透析を必要とした。
【0249】
実施例9
N末端タンパク質融合のためのベクター作成
IVPSによるタンパク質の発現及び精製用に、数種のベクターを形成した。全構築物をDNAシークエンシングにより確認した。この実施例では、目的のクローニングタンパク質のアミノ末端に、一種又は二種以上の目的の融合タンパク質要素が融合されているベクターの作成について説明する。
【0250】
プラスミドpEXP1−DEST(配列番号:8)(Invitrogen、Carlsbad、CA)を、プラスミドpFKI090(配列番号:9)の形成を補助するために使用した。プラスミドpEXP1−DESTは、二つの複製開始点(f1 ori及びpUC ori)、正の選択用のアンピシリン耐性遺伝子、及びクローニングカセットを含む。クローニングカセットは、RBS(リボソーム結合部位)に対して操作可能に結合したT7プロモーター、開始コドン(ATG)、Hisタグ配列(6×His)、Xpress(商標)エピトープ(Asp−Leu−Tyr−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号:10)、エンテロキナーゼ(EK)切断部位、attR1部位、クロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)、ccdB遺伝子、及びattR1部位を、この順序で含む。att部位は、部位特異的組み換えによってattR1部位とattR2部位間のベクターのセグメントが除去され、そのセグメントが目的遺伝子で置き換えられるものであり、Gateway(商標)技術によるクローニング反応を実施する際に使用される。除去されたセグメント断片は、負の選択に有用なccdB遺伝子も含む。ccdB遺伝子産物は、機能的ccdA遺伝子を欠く細胞を殺傷するため(Bernardら、J.Mol.Biol.226:735、1992)、ccdB+ベクターは、ccdA−株、例えば、OneShot(登録商標)ccdB Survival(商標)T1ファージ耐性細胞[F−mcrA(mrr−hsdRMS−mcrBC) 80lacZM15 lacX74 recA1 ara139 Δ(ara−leu)7697 galU galK rpsL(StrR) endA1 nupG tonA::Ptrc ccdA−](Invitrogen)内で増やす。クローニング反応物のccdA+細胞内への形質転換により、attR1−attR2セグメントを保持するベクターが、それらの宿主細胞を殺傷することにより、負の選択によってクローニング産物から除外されることを確実にする。
【0251】
IVPS反応において翻訳を向上させる配列を含むmRNAをもたらすベクター配列は、あるタンパク質の発現を増強する。この実施例で説明したTOPO(登録商標)ベクターの場合、対応するDNA配列をベクターに添加することにより、発現増強ステムループ構造(Paulus等、Nucleic Acids Res.32:e78、2004)がmRNA内に形成された(図8)。
【0252】
二つの異なるリボソーム結合部位(RBS)及びRBSと5’−CCCTT−3’TOPO(登録商標)充填部位(charging site)との間の異なるスペーシングを含む5個のDNA断片を、pEXP2誘導体内のcycle3 GFP遺伝子のATG開始コドンに隣接してクローニングした。35S−Metの存在下、pFK1032及び他の構築物を使用し、cycle3 GFPの無細胞合成を行った。発現溶解物をNuPAGE(登録商標)ゲルで分離し、タンパク質をクマシー染色及びオートラジオグラムにより検出した。35Sメチオニンの取り込みを基に収量を測定し、収量1mg毎の相対発光単位(RLU)を基に特異的活性を測定し、オートラジオグラム上での完全長バンドの密度を基に完全長タンパク質の相対的な量を測定した。図8に示すプラスミドのうち、「TOPO(登録商標)2」の名称のExpressway反応にて最適な構築物を確認し、このベクターを使用して更なるベクターを作製した。
【0253】
プラスミドpEXP1−DESTは、PCR鋳型として機能した。最初にプライマーTA−IN−F(配列番号:17)及びTA−B(配列番号:18)を使用し、次にプライマーOUT−F(配列番号:19)及びTA−B(配列番号:18)を使用して、PCR断片をタンデムに増幅した(表7)。得られたPCR断片をXbaI及びBcIIで消化し、制限酵素XbaI及びBamHIで既に処理したpUCT7GFP内にクローニングした。続いて、得られたプラスミドからの2個のDNA断片を、制限酵素NotI及びPstIを使用した2サイクルの制限酵素処理及び自己ライゲーションにより除去し、プラスミドpFKI090(配列番号:9)を得た。
【0254】
本願に記載の試験において、Hisタグに対する2種の抗体を使用した。抗HisGは、H−H−H−H−H−H−G(配列番号:37)(タンパク質の任意の箇所に発生)を認識する抗体であり、認識はグリシンに依存し、一方で、抗His(C末端)抗体はカルボキシ末端のH−H−H−H−H−H−(COOH)(配列番号:38)を認識し、認識はカルボキシル基に依存する。抗HisG及び抗His(C末端)抗体の両方、並びにその様々な標識誘導体は、市販(Invitrogen)されている。抗HisGはC末端Hisタグを認識しないため、本願に記載する実験ではN末端Hisタグを検出するために使用される。
【0255】
抗HisGによる、N末端Hisタグを含む目的のクローニングタンパク質の検出を可能にするため、グリシンのコドンをpFKI090内の6×Hisコード配列に隣接して導入し、pFKI090内の100bp XbaI−Bsu361断片を、プライマーpEXP1−TOPO(登録商標)−FOR(配列番号:20)及びpEXP1−TOPO(登録商標)−REV(配列番号:21)を用いてpFKI090から増幅したDNA断片と交換した。PCR産物を、制限酵素XbaI及びBsu361で処理し、XbaI及びBsu361で同様に処理したpFKI090バックボーンDNA内にライゲーションし、プラスミドpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(配列番号:39)を作製した。
【0256】
図8は、図9に示すpEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクター内のコード配列を示す。効果的なTOPO(登録商標)−TAクローニングは、上述したように、ccdB遺伝子を排除して負の選択を可能にすると考えられる。この構築物は、21個のアミノ酸のみを目的の遺伝子のN末端上に追加し、プロテアーゼ(TEV)切断後、追加の2個のアミノ酸のみを合成産物上に残留させる(図9B及び図9C)。これはpEXP1−DESTベクターと比較して有利であり、該ベクターは、ベクターから発現させた際、目的タンパク質に余分な51個のアミノ酸を付加し、プロテアーゼ(EK)切断後でさえも最終的なタンパク質産物中に追加の19個のアミノ酸を残留させる。
【0257】
(表7)N末端及びC末端ベクターの構築に使用するオリゴヌクレオチド
*これらのオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologiesから、5’−リン酸化及びHPLC精製済みのものを購入した。
【0258】
実施例10
pEXP−NT/TOPO(登録商標)を使用したTOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを使用した、TOPO(登録商標)クローニングの一般的な工程図を図10に示す。pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを用いたTOPO(登録商標)クローニングの幾つかの実施例を、以下に示す。
【0259】
TOPO(登録商標)充填
プラスミドpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(100μg)を、50℃で16時間、最終液量500μLにて、100Uの制限酵素BfuA1(NEB)で完全に消化した。80μLの4M LiCl及び1mLのエタノールを添加し、DNAをエタノール沈殿した。この混合液を−80℃で10分間インキュベートし、4℃で30分間遠心分離した。ペレットを70%エタノールで洗浄し、100μLの無菌水に再懸濁した。
【0260】
各断片1.8pmolに相当する消化DNA5μgを、以下のようにTOPO(登録商標)アダプテーションに使用した。最初に、消化DNA(配列番号:40)を、リン酸化し、かつHPLC精製したアダプターオリゴヌクレオチドとライゲーションした。オリゴヌクレオチドを最初に100℃で2分間インキュベートした。ライゲーション反応液は、5μgの消化プラスミド、3.2nmol(約17μg)のリン酸化及びHPLC精製オリゴヌクレオチドIDT−TOPO(登録商標)−B−TA−F、800UのT4DNAリガーゼ(NEB)、5μLの10×リガーゼバッファー(NEB)を含み、無菌水を50μLとなるまで添加した。反応を室温で30分間行った。次に、PureLink PCR精製キット(Invitrogen)を使用して、原則的にメーカーの指示に準拠し、遊離オリゴヌクレオチドを除去した。DNAを50μLの無菌水で溶出し、ワクシニアTOPO(登録商標)イソメラーゼIを充填した。以下の試薬を、総反応液量50μLにて、所定の順序で加えた(表8)。
【0261】
(表8)TOPO(登録商標)充填反応
【0262】
TOPO(登録商標)イソメラーゼ反応物を、37℃で15分間インキュベートした。次いで、6μLの10×Stop TOPO(登録商標)バッファーを添加し、反応物を室温で5分間インキュベートした。TOPO充填DNAをゲル精製し、他のTOPO(登録商標)ベクターに関するメーカー(Invitrogen)の指示に準拠し保存した。
【0263】
TOPO(登録商標)クローニング
ベクターのTOPO(登録商標)TAクローニングの性能を評価するため、lacZαペプチドをレポーターとしてコードするDNA断片を使用した。この断片のベクター内へのクローニングが成功すると、X−galプレート上にTOP10形質転換細胞の青色コロニーを生成する一方、他の構築物では白色コロニーを生成する。充填DNAを用いた一回のTOPO(登録商標)反応により、2,712コロニーを生成し、そのうち44(1.6%)のみが白色であった。ほぼ全て(98.4%)のコロニーが青色であり、これはすなわち、これらがlacZを発現し、非常に効率的で正確にクローニングされたことを示す。
【0264】
PCR断片のTOPO(登録商標)−TAクローニングを、TOPO(登録商標)TAクローニングマニュアル(Invitrogen)の指示どおりに実施した。Platinum(登録商標)PCR SuperMix High Fidelity(Invitrogen)及び遺伝子特異的プライマーを使用し、ヒトORFを増幅した。「終止なし(No stop)」C末端構築物において、逆方向プライマーはTAG配列を含んでいなかった。端的には、1μLのPCR反応物を、1μLのTOPO(登録商標)ベクター及び1μLの塩溶液と共に、6μLの最終反応液量にて、室温で10分間インキュベートした。得られた構築物でTop10細胞を形質転換し、コロニーPCRによりスクリーニングした(Zonら、Biotechniques7:696、1989)。次いで、陽性クローンをシークエンシングにより確認した。
【0265】
実施例11
C末端タンパク質融合用のベクター作製
IVPSによるタンパク質の発現及び精製用に、数種のベクターを構築した。全ての構築物をDNAシークエンシングで確認した。この実施例では、目的のクローニングタンパク質のカルボキシル末端側で、一種又は二種以上の所望の融合タンパク質要素と融合されるベクターの作製について説明する。ベクターは終止コドンを含むクローニングにより完全長の目的の天然タンパク質を生成する選択肢を研究者に与え、又は終止コドンを含ませずにクローニングした場合、C末端Hisタグは、目的タンパク質と8つの追加アミノ酸(KGHHHHHH、配列番号:41)とを含む融合タンパク質の一部として発現されると想定される。
【0266】
リボソーム結合部位と開始コドンとの間のベクターのN末端配列を解析し、TOPO(登録商標)部位の最良のスペーシングを決定した。プラスミドpFKI032(配列番号:42)を、試験構築物を構築するための鋳型として使用し、また対照ベクターとしての役割も果たした。pFKI032プラスミドは、T7プロモーターから終止コドンを有するcycle3 GFP遺伝子の第一のATGまでの、天然型T7配列を有する。終止コドンの後の3’配列は、atttL2部位及びT7ターミネーターを含む。
【0267】
RBS及びTOPO(登録商標)部位変異体を含むDNA配列を、上述したようにPCR変異誘発によりクローニングした。TOPO(登録商標)2バージョン(配列番号:14)を開始材料として使用し、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクター(配列番号:43)を作製した。端的には、存在する二つのBsaI部位を除去し、5’及び3’のBsaI部位、TOPO(登録商標)クローニング部位、及び6×His配列を加え、バックグラウンドを低減するために二つのBsaI部位間の大きい方の断片をクローニングすることにより実施される。
【0268】
プライマーNMRFor(配列番号:24)及びRTRev(配列番号:25)を用いたpFKI032(配列番号:42)プラスミドのPCRにより、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを作製した(表7)。PCR断片は、RBS及びTOPO(登録商標)2部位変異を含んでいた。120bp断片を、BglII及びNheIで消化した後、ゲル精製した。pFK1032ベクターもまたBglII及びNheIで消化した。pFK1032バックボーンを精製し、新しいRBS及びEcoRI部位を有する120bpのBglII及びNheI断片とのライゲーションに使用した。陽性クローンの配列確認をし、変異誘発反応の鋳型として使用した。
【0269】
望ましくないBsaI部位をベクターから除去するため、Gene Tailorキット(Invitrogen)を使用し、存在する二つのBsaI部位に変異導入した。AmpBSAForプライマー及びAmpBSARevプライマー(表7)を使用し、アンピシリン耐性遺伝子内のSer13におけるTCTのコドンをSer TCAと置換した。45BSAForプライマー(配列番号:28)及び45BSARevプライマー(配列番号:29)を使用し、未翻訳配列の45番目の部位に一つのアデニン(A)ヌクレオチドを挿入した。シークエンシングにより二つの突然変異を確認した後、陽性クローンを同定した。
【0270】
所望の3’BsaI部位、TOPO(登録商標)アダプション部位及び6×Hisコード配列を、プライマーRevAatII(配列番号:30)及びBSATAfor(配列番号:32)を用いたpCRT7−CT/TOPO(登録商標)(Invitrogen、配列番号:44)によるPCRにより得て、新たに作製したベクターに挿入した。PCR産物及び変異型ベクターを、EcoRI及びAatIIで消化した。240bp断片を精製し、調製したバックボーン内にライゲーションした。このステップにより、attB2部位も除去された。陽性クローンを配列決定し、以降の構築に使用した。
【0271】
所望の5’BsaI部位及びTOPO(登録商標)アダプション部位を挿入するため、BSATA(配列番号:32)及びNMRFor(配列番号:24)プライマーを使用し、RBS、TOPO(登録商標)アダプション部位、BsaI部位及びEcoRI部位を含む、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターの最終5’配列を含むPCR断片を増幅した。126bpのPCR産物をBglII及びEcoRIにより消化した後精製し、同じ制限酵素で消化した調製済みのバックボーン内にライゲーションした。陽性クローン(pEXP5−CT/TOPO(登録商標)−SM(配列番号:45))を単離した。このクローンは、EcoRIカットバック(cut−back)部位を含む18塩基からなる開始断片により分離された2個のBsaI部位を有していた。より大きい(27bp)部分を、BsaI部位間に挿入した。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)の最後から2番目の(penultimate)ベクターを、NMRfor(配列番号:24)及びTAECORI(配列番号:33)プライマーを用いたPCR反応の鋳型として使用した。PCR産物をBglII及びMfeIで消化し、BglII及びEcoRIで消化したpEXP5−CT/TOPO(登録商標)−SMのDNA内にライゲーションした。PCR後にコロニースクリーニングを行い、クローンを選択し、その全体を配列決定した。
【0272】
このプラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(配列番号:42)を図11に示す。目的遺伝子は、終止コドンと共に挿入してもよい。終止コドンが含まれない場合、C末端Hisタグは、クローニングした目的タンパク質のカルボキシル末端に8個の追加のアミノ酸が追加された形で発現される。
【0273】
実施例12
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)を使用したTOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニングの一般的な工程を図12に示す。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニングの数個の実施例を以下に示す。
【0274】
TOPO(登録商標)充填
プラスミドpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(100μg)を、500UのEcoRI(NEB)を用い、400μLにて、NEBバッファー3中で2時間消化させ、直鎖状にした。次いで、500UのBsaI(NEB)を用い、反応物に制限酵素を補充し、50℃で4時間インキュベートしてベクターを消化した。3M酢酸ナトリウム40μL、及びエタノール880μLを添加しDNAをエタノール沈殿した。混合物を−80℃で10分間インキュベートし、4℃で30分間遠心分離した。ペレットを70%エタノールで洗浄し、68μLのTEに再懸濁した。大きい断片をイソプロパノール沈殿により除去した。これは3M酢酸ナトリウム6μL、及びイソプロパノール73μLを加え、5分間遠心分離する前に、室温で5分間インキュベートすることにより行った。ペレットを70%エタノールで洗浄し、無菌水100μLに再懸濁した。
【0275】
消化したDNA(配列番号:47) 10μgを、TOPO(登録商標)−アダプテーションに使用した。最初に、調製したDNAをリン酸化及びHPLC−精製アダプターオリゴヌクレオチドと一晩ライゲーションさせた。オリゴヌクレオチドを最初に100℃で2分間インキュベートした。ライゲーション反応は、10μgの消化したプラスミド、25μg(200モル過剰)のリン酸化及びHPLC−精製オリゴヌクレオチドIDT−TOPO(登録商標)−B−TA−F(配列番号:22)、400UのT4DNAリガーゼ(NEB)、10μLの10×リガーゼバッファー(NEB)を含み、無菌水で100μLにした。翌日、PureLink PCR精製キット(Invitrogen)を使用して、原則的にメーカーの指示に準拠し、遊離オリゴヌクレオチドを除去した。DNAを50μLの無菌水に溶解した。最後に、DNAにワクシニアTOPO(登録商標)イソメラーゼIを充填した。以下の試薬を、その通りの順序で、総反応容量100μLとなるように添加した(表9)。反応物を37℃で15分間インキュベートした。次いで、11μLの10×Stop TOPO(登録商標)バッファーを添加し、反応物を室温で5分間インキュベートした。TOPO(登録商標)充填したDNAをゲル精製し、最終推定濃度2.5μL/μg(合計1250μL)に希釈し、他のInvitrogen TOPO(登録商標)ベクターの説明書どおり保存した。
【0276】
(表9)TOPO(登録商標)充填反応
【0277】
TOPO(登録商標)クローニング
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)構築物を、原則的に上記のとおり完全長タンパク質の発現レベルに関して、Gateway(登録商標)pEXP4ベクターと比較した。各レーンからの完全長産物のPhosphorimagerによる解析結果を、各発現構築物内のメチオニンの合計数で割ることにより発現を測定した。ORFの各対に関して最も高い発現を示したものの数値を標準とし、パーセンテージで表示した。
【0278】
全て終止コドンを含むキナーゼクローンIOH6416(1826)、IOH5211(4914)、IOH6368(4553)(そのGateway組み換えに使用したORFエントリークローンは全て終止コドンを含むため)を、二つのベクターによる発現レベルの比較を行った。ほとんどの場合、総発現レベルは、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクター内でほぼ5倍の高い収量を得たIOH6416(1826)を除き、同様であった。また、pEXP4産物と比較して、pEXP−CT産物ではバックグラウンドが少なかった。
【0279】
実施例13
TOPO(登録商標)ベクターからのタンパク質発現
pEXP1−DEST対pEXP5−NT/TOPO(登録商標)の発現レベルの比較
TOPO(登録商標)ベクターから発現した産物の相対的な品質及び収量を評価するため、異なる6の哺乳動物種由来ORFを(1)pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクター内にTOPO(登録商標)クローニングし、また(2)Gateway(商標)技術を用いてattL×attR組み換えによりpEXP1−DESTベクター内にクローニングした。上記の「供給」法により、無細胞反応を行った。2μLのサンプルをアセトン沈殿し、SDS−PAGEゲル上にロードした。電気泳動の後、ゲルをクマシーブルー染色し、phosphorimagerのスクリーンに露出した。完全長産物の相対存在量を、ホスファストレージオートラジオグラフィーにより測定し、IMAGEQUANTソフトウエア(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して、Typhoon 8600可変モードイメージャーにより解析した。
【0280】
N末端構築物からの完全長産物の発現レベル及び量を比較した。各レーンからの完全長産物のホスファイメージャー解析結果を、各発現構築物内のメチオニン数で割ることにより発現レベルを測定した。ORFの各対に関して最も高い発現を示したものの数値を標準とし、パーセンテージで表示した。
【0281】
試験の結果、TOPO(登録商標)ベクターから発現させた場合、試験した6配列のうち四つは、pEXP1から発現した場合と比較し平均2倍高い発現を示した。pEXP1−DESTから発現させた場合は、唯一ORF(IOH11046)がより高い収量を示し、またもう一つ(IOH3588)の場合では同等のレベルにて発現した。他のタンパク質、例えばGFPは、TOPO(登録商標)ベクターの場合に有意に高発現した(図示せず)。また、実際、TOPO(登録商標)ベクターから発現させた全配列において、pEXP1から発現したものと比較し、切断産物又は不完全産物の産生が少なかった。
【0282】
pEXP5−CT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターにおける発現比較
ベクターpEXP5−CT/TOPO(登録商標)(CT)及びpEXP5−NT/TOPO(登録商標)(NT)を、CALML3、IOH6416、IOH5211及びIOH6368タンパク質の発現に使用した。発現プラスミド内にクローニングしたこれらORFを用いてインビトロ合成反応において合成したタンパク質を、4〜12% NuPAGE(登録商標)ビス/トリスゲルで電気泳動し、ゲルをオートラジオグラフィーし、タンパク質レベルを分析した。図13は、pEXP5−CT/TOPO(登録商標)又はpEXP5−NT/TOPO(登録商標)からの四つのORFの発現レベルを比較するグラフを示す。
【0283】
新しいTOPO(登録商標)ベクター内にクローニングした様々なORFの発現レベルの試験において、幾つかの遺伝子はN末端ベクター内で良好に発現する一方、他の遺伝子はC末端の場合に良好に発現することが観察された。タンパク質の発現レベルは、タンパク質依存性であることが公知であり、単に6×Hisタグのようなコード配列を一端から他端へ移動するだけでも、全ての場合においてタンパク質収量に劇的な効果を与えうる。CALML3を除き、タグの移動により発現レベルの強い差異が観察された。全ての場合において、CALML3 ORFは、終止コドンと共にCT−ベクター内にクローニングされ、発現レベルは、N末端タグを有する融合タンパク質と、6×Hisタグを有さないタンパク質との間で比較した。
【0284】
実施例14
タンパク質の検出及び精製
アミノ末端融合タンパク質(pEXP5−NT/TOPO(登録商標))の検出及び精製
His6タグ及びニッケル樹脂によるタンパク質の検出及び精製を、TOPO(登録商標)ベクターからインビトロ発現させたタンパク質に関して行った。N末端ベクターの場合、合成した産物をTEVプロテアーゼで処理してHis6タグを除去し、この除去を、それが未使用Ni−NTA樹脂へ結合しないことにより確認した。
【0285】
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターから発現させた6×Hisタグ付きタンパク質の精製において、合成GFPを含有する100μLのExpressway(商標)Milligram反応物を、Ni−NTA樹脂上に直接チャージした。チャージしたサンプル2μL、フロースルー、3つの洗浄画分(W)及び3つの溶出画分(E)を分析した。サンプルを4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲルにて電気泳動し、これをクマシーブルー染色した。その結果、サンプル中のほとんどのタンパク質が樹脂に結合せず、そのためフロースルー中に存在することが示された。しかしながら、Hisタグ付きタンパク質は、3回の洗浄の間結合した状態で保持及び残留し、第一の溶出時に遊離した。次の溶出では、(存在した場合)非常に少量のタンパク質が含まれ、Hisタグ付きタンパク質は一回の溶出で効率よく遊離したことが示された。
【0286】
pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターから調製されたタンパク質産物はまた、TEVプロテアーゼにより効率良く切断された。GFPを含むpEXP5−NT/TOPO(登録商標)構築物によるIVPS反応由来のサンプルをカラムにチャージし、最初のフロースルー、5mMイミダゾールによる2回の洗浄、及び20mMイミダゾールによる2回の洗浄においてサンプルを採取した。タンパク質を、200mMイミダゾールにより溶出した。溶出したタンパク質をTEVプロテアーゼで消化したところ、効率良いタンパク質分解が見られたTEV処理したタンパク質は、第二のProBond(商標)カラムに捕捉されず、予想通りのHis6タグの除去が示された。
【0287】
カルボキシル末端での融合タンパク質(pEXP5−CT/TOPO(登録商標))
プラスミドpEXP5−CT/CALML3(終止コドンなし)を、200μLのExpressway−Milligram反応にて発現させた。25μLの反応物を、Ni−NTAカラム上に直接チャージした。カラムを3回洗浄し、結合したタンパク質を4画分に溶出した。各画分のサンプルを、二つの4〜12% NuPAGE(登録商標)ゲル上で分離した。一方のゲルはSimplyBlue(商標)(Invitrogen)で染色し、他方はニトロセルロースに転写し、Western Breeze(商標)抗マウス化学発光キット(Invitrogen)を使用して、抗HisCによりプローブした。pEXP5−CT/TOPO(登録商標)構築物から生成されたHisタグ付きタンパク質を検出するために、抗HisC(C末端)抗体(Invitrogen)を使用した。抗His(C末端)抗体(Lindner等、BioTechniques22:140、1997)は、タンパク質のカルボキシ末端のポリヒスチジンアミノ酸配列を認識するモノクローナル抗体である。抗His(C末端)抗体は、配列−His−His−His−His−His−His−COOHを認識し、末端ヒスチジン残基の遊離カルボキシル末端は、エピトープ認識部位の一要素である。その結果、CALML3−6×Hisタンパク質がNi−NTAカラム上で効率良く精製されたことが示された。
【0288】
実施例15
Expressway(商標)Milligram IVTTキット
Expressway(商標)IVPS系(Invitrogen、Carlsbad、CA)は、mg規模のタンパク質を発現させるためのキットを含む。このようなキットには、1)IVPS大腸菌抽出物、2)2.5×IVPS反応バッファー、3)2×IVPS供給バッファー、4)T7酵素ミックス、5)50mM アミノ酸ミックス(Met及びCysを除く)、6)75mM Met、及び7)75mM Cysが含まれる。キットにはヌクレアーゼフリーの蒸留水も含まれる。キットにはまた、pEXP5−NT/CALML3発現対照プラスミドも含まれる。
【0289】
キットに用いられる大腸菌抽出物は、細胞溶解に先立ち、抽出物の調製用の細胞を、最終濃度0.1%のTriton X−100を含有するバッファー中に再懸濁して調製される。
【0290】
2.5×IVPS反応バッファーは、145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5%PEGである。
【0291】
2×供給バッファーは、115mM HEPES−KOH(pH8)、3.4mM DTT、68μg/mL フォリン酸、460mM 酢酸カリウム、28mM 酢酸マグネシウム、160mM NH4OAc、4mM CaC12、1.3mM cAMP、90mM グルコース−6−リン酸、及び1mM NADである。
【0292】
幾つかのキットには、クローニングベクターpEXP5−NT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)も含まれる。幾つかのキットにはコンピテント細胞も含まれる。
【0293】
上記キットには、IVPS反応を複数回行うのに十分な試薬が含まれる。
【0294】
キットには、取り扱い説明書が含まれる。
【0295】
実施例16
Expressway(商標)NMR IVTTキット
Expressway(商標)IVPS系(Invitrogen、Carlsbad、CA)は、NMR分析用の、IVPSにて標識され得るタンパク質の発現キットを含む。このようなキットは、1)IVPS大腸菌抽出物、2)2.5×IVPS反応バッファー、3)2×IVPS供給バッファー、4)T7酵素ミックス、5)各アミノ酸の200mM溶液(Leuを除く)、及び6)150mM Leu、を含む。キットにはヌクレアーゼ−フリー蒸留水も含まれる。キットにはまた、pEXP5−NT/CALML3発現対照プラスミドも含まれる。
【0296】
キットに用いられる大腸菌抽出物は、細胞溶解に先立ち、抽出物調製用の細胞を、最終濃度0.1%のTriton X−100を含有するバッファー中に再懸濁して調製される。
【0297】
2.5× IVPS反応バッファーの組成は、145mM HEPES−KOH(pH7.6)、4.25mM DTT、3.0mM ATP、2.2mM UTP、2.2mM CTP、2.2mM GTP、85μg/mL フォリン酸、75mM アセチルリン酸、575mM 酢酸カリウム、30mM 酢酸マグネシウム、200mM NH4OAc、1.625mM cAMP、75mM PEP、5% PEGである。
【0298】
2×供給バッファーの組成は、115mM HEPES−KOH、pH8、3.4mM DTT、68μg/mL フォリン酸、460mM 酢酸カリウム、28mM 酢酸マグネシウム、160mM NH4OAc、4mM CaC12、1.3mM cAMP、90mM グルコース−6−リン酸、及び1mM NADである。
【0299】
幾つかのキットには、クローニングベクターpEXP5−NT/TOPO(登録商標)及びpEXP5−CT/TOPO(登録商標)も含まれる。
【0300】
キットは、IVPS反応を複数回行うのに十分な試薬を含む。
【0301】
キットには取り扱い説明書が含まれる。
【0302】
別に定義しない限り、本願にて使用する全ての技術及び科学用語は、バイオテクノロジー分野の当業者により一般に理解されている意味である。本明細書にて言及する全刊行物、特許出願、特許及びその他の参照は、その全内容が参照により組み入れられる。一部に齟齬が存在する場合は、定義を含む本明細書が優先する。
【0303】
見出しは読者の理解を補助するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0304】
本願にて引用する全参考文献は、その全内容が参照により組み入れられる。
【0305】
本発明の一つ又は二つ以上の実施態様の詳細を、添付の図面及びその下の注記において説明する。本発明の他の特徴、課題及び効果は、本発明の記載から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0306】
【図1】供給溶液を用いたインビトロタンパク質合成(IVPS)の典型的な流れを示す。
【図2】緑色蛍光タンパク質(GFP)のリアルタイム発現を示す。
【図3】本発明のIVPS系を使用した、各種タンパク質のmg単位での産生を示す。
【図4】IVPSに用いる細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の、可溶タンパク質の合成量に与える効果を示す。
【図5】細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の効果を示す。
【図6】細胞抽出物の調製に使用した界面活性剤の効果を示す。
【図7】S30ペレットの界面活性剤による抽出物のIVPS反応への添加による、タンパク質の合成量に与える効果を示す。
【図8】本発明の幾つかの発現ベクターのクローニングカセット配列、並びにオープンリーディングフレーム(ORF)を示す図である。「RBS」の下の下線部の配列はリボソーム結合部位を、二重下線部の文字はTOPO(登録商標)配列(5’−CCCTT)を、「ATG」の下の下線部の配列は開始コドンを示す。
【図9】pEXP5 NT/TOPO(登録商標)ベクターを示す。(A)はベクターマップを、(B及びC)はpEXP5−NT/TOPO(登録商標)によってコードされるヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。矢印は、グルタミン(「Q」)及びセリン(「S」)残基との間のTEV切断部位を示す。TEV切断の後、主ポリペプチド鎖に二つの追加的なアミノ酸残基のセリン及びロイシン(「L」)のみが残る。GOIは目的遺伝子の略記である。
【図10】pEXP5−NT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニング法を示す。
【図11】pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを示す。(A)はベクターマップを、(B)は終止コドンがGOIに存在しない時に産生されるアミノ配列(KGHHHHHH)を含む、クローニングカセットのヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図12】pEXP5−CT/TOPO(登録商標)ベクターを使用したTOPO(登録商標)クローニング法を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤又は表面活性剤を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、該細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得て、上清画分を該細胞溶解物から分離することによって調製され、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤が、溶解前の細胞又は上清画分の分離前の細胞溶解物に添加される、インビトロタンパク質合成系。
【請求項2】
細胞抽出物が、上清画分を分離する前に一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤を細胞溶解物に添加することによって調製される、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項3】
分離が、細胞溶解物を遠心分離し、細胞抽出物として上清を取り出すことである、請求項2記載のインビトロ合成系。
【請求項4】
細胞抽出物が、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤を、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤が溶解前の細胞に添加されるところへ添加することによって調製される、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項5】
少なくとも一つの界面活性剤又は表面活性剤が、少なくとも一つの界面活性剤である、請求項1記載のインビトロ系。
【請求項6】
少なくとも一つの界面活性剤が、非イオン系界面活性剤又は両性イオン系界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ系。
【請求項7】
界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、請求項6記載のインビトロ系。
【請求項8】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤、Triton系の界面活性剤、又はグリコピラノシド界面活性剤である、請求項7記載のインビトロ合成系。
【請求項9】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項10】
界面活性剤が、Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92、又はBrij(登録商標)97である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項11】
界面活性剤が、Brij(登録商標)35である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項12】
界面活性剤が、Triton(登録商標)系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項13】
界面活性剤が、Triton(登録商標)CF系、Triton(登録商標)DF系、Triton(登録商標)GR系、Triton(登録商標)QS系、Triton(登録商標)X系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項14】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項15】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X−15、Triton(登録商標)X−45、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−102、Triton(登録商標)X−114、Triton(登録商標)X−151、Triton(登録商標)X−165、Triton(登録商標)X−200、Triton(登録商標)X−207、Triton(登録商標)X−305、Triton(登録商標)X−405、又はTriton(登録商標)X−705−70である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項16】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X−100である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項17】
界面活性剤が、グリコピラノシド界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項18】
界面活性剤が、グルコピラノシド界面活性剤、マルトピラノシド界面活性剤、又はグルカミド界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項19】
界面活性剤が、N−デカノイル−N−メチルグルカミン、n−デシルa−D−グルコピラノシド、デシルβ−D−マルトピラノシド、n−ドデカノイル−N−メチルグルカミド、n−ドデシルa−D−マルトシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、n−ヘキサデシル−β−D−マルトシド、又はオクチルグルコピラノシドである、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項20】
界面活性剤がドデシルマルトシドである、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項21】
少なくとも一つの界面活性剤が、両性イオン系界面活性剤である、請求項3記載のインビトロ合成系。
【請求項22】
少なくとも一つの界面活性剤が、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系の界面活性剤、CHAPS、又はCHAPSOである、請求項21記載のインビトロ合成系。
【請求項23】
少なくとも一つの界面活性剤が、CHAPS又はCHAPSOである、請求項22記載のインビトロ合成系。
【請求項24】
少なくとも一つの界面活性剤が、CHAPSである、請求項23記載のインビトロ合成系。
【請求項25】
界面活性剤の濃度がCMC以上である、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項26】
界面活性剤の濃度がCMCの2倍未満である、請求項25記載のインビトロ合成系。
【請求項27】
アミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源、及び鋳型核酸を、細胞抽出物調製前に少なくとも一つの表面活性剤又は界面活性剤によって処理された細胞又は細胞溶解物から調製される細胞抽出物に添加して、インビトロタンパク質合成混合物を調製する工程;並びに
インビトロタンパク質合成混合物をインキュベートしてタンパク質を合成する工程
を含むタンパク質合成方法。
【請求項28】
細胞抽出物が、細胞溶解物の上清の単離を目的に抽出物を遠心分離する前に少なくとも一つの表面活性剤又は界面活性剤によって処理された細胞から調製される、請求項27記載のインビトロ合成系。
【請求項29】
細胞抽出物が、界面活性剤により細胞を処理することにより調製される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
界面活性剤が両性イオン系又は非イオン系界面活性剤である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも一つの界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、Triton(登録商標)系の界面活性剤、又はグリコピラノシド界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
界面活性剤がBrij(登録商標)系の界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
界面活性剤がBrij(登録商標)35である、請求項34記載の方法。
【請求項35】
界面活性剤がTriton(登録商標)系の界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
界面活性剤がTriton(登録商標)X−100である、請求項36記載の方法。
【請求項37】
界面活性剤がグリコピラノシド界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項38】
界面活性剤がグルコピラノシド界面活性剤、マルトピラノシド界面活性剤、又はグルカミド界面活性剤である、請求項38記載の方法。
【請求項39】
界面活性剤が、ドデシルマルトシド、オクチルグルコピラノシド、又はオクチルチオグルコピラノシドである、請求項5記載の方法。
【請求項40】
少なくとも一つの界面活性剤が両性イオン系界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項41】
少なくとも一つの界面活性剤が、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系界面活性剤、CHAPS、又はCHAPSOである、請求項41記載の方法。
【請求項42】
少なくとも一つの界面活性剤がZwittergent(登録商標)3−14である、請求項42記載の方法。
【請求項43】
少なくとも一つの界面活性剤がCHAPSである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
細胞又は細胞溶解物に添加された後の界面活性剤の最終濃度がCMC以上である、請求項27記載の方法。
【請求項45】
細胞又は細胞溶解物に添加された後の界面活性剤の最終濃度がCMCの2倍未満である、請求項45記載の方法。
【請求項46】
一定時間反応混合物をインキュベートした後、合成混合物に、バッファー、アミノ酸、少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液(Feeding Solution)を添加する工程であって、その少なくとも一つの追加的なエネルギー源は、拡張型合成混合物を調製するために初めの合成混合物の少なくとも一つのエネルギー源とは異なる、工程;及び
拡張型合成混合物を、更に一定時間インキュベートして少なくとも一つのタンパク質を合成する工程
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項47】
細胞抽出物にアミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源、及び鋳型核酸を添加して初めのインビトロタンパク質合成混合物を調製する工程;
初めの合成混合物に、バッファー、アミノ酸、及び少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液を添加する工程であって、その少なくとも一つの追加的なエネルギー源は、拡張型合成混合物を調製するために初めの合成混合物の少なくとも一つのエネルギー源とは異なる、工程;並びに
拡張型合成混合物を一定時間インキュベートしてタンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を合成する方法。
【請求項48】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が、初めの合成混合物において提供されるエネルギー源とは異なる、請求項47記載の方法。
【請求項49】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が酵素でない、請求項48記載の方法。
【請求項50】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が解糖中間体である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が、フルクトース−6−リン酸、グルコース−6−リン酸、又は3−ホスホグリセリン酸である、請求項49記載の方法。
【請求項52】
供給溶液が補因子を更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項53】
補因子がNAD又はNADHである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
初めの合成反応に少なくとも二つのエネルギー源が含まれる、請求項47記載の方法。
【請求項55】
初めの合成反応に少なくとも三つのエネルギー源が含まれる、請求項54記載の方法。
【請求項56】
供給溶液が、初めの合成混合物が調製されてから少なくとも10分後に添加される、請求項47記載の方法。
【請求項57】
供給溶液が、初めの合成混合物が調製されてから約15分〜約60分後に添加される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
少なくとも一つの追加的な時点に供給溶液をタンパク質合成混合物に添加する工程を更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項59】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つが酵素である、請求項55記載の方法。
【請求項60】
酵素がピルビン酸キナーゼである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つがホスホエノールピルビン酸(PEP)である、請求項55記載の方法。
【請求項62】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つがアセチルリン酸である、請求項55記載の方法。
【請求項63】
供給溶液が塩化カルシウムを更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項64】
供給溶液が、初めのインビトロタンパク質合成混合物のpHより高いpHを有する、請求項47記載の方法。
【請求項65】
IVPS抽出物を調製する工程;
IVPS抽出物を少なくとも2時間、その後少なくとも8時間透析する工程; 透析した細胞抽出物に反応バッファー、鋳型核酸、及び少なくとも一つの同位元素標識アミノ酸を添加してIVPS反応を構成する工程;並びに
IVPS反応をインキュベートし、NMR分析用の少なくとも一つの同位元素標識タンパク質を調製する工程
を含むNMR用のタンパク質の標識方法。
【請求項66】
N末端アミノ酸配列タグとオープンリーディングフレームとの融合に使用可能な少なくとも一つのベクターと、
C末端アミノ酸配列タグとオープンリーディングフレームとの融合に使用可能な少なくとも一つのベクターとを含む、オープンリーディングフレームをクローニングして発現させるための一組の発現ベクターであって、
該ベクターは、発現されたタンパク質からのアミノ酸配列タグの切除に使用可能な少なくとも一つのプロテアーゼ切断部位を含む、一組の発現ベクター。
【請求項67】
発現されたタンパク質からアミノ酸配列タグを除去することにより、合成タンパク質上に外因性アミノ酸が二つを超えて残留しない、請求項66記載の一組の発現ベクター。
【請求項1】
界面活性剤又は表面活性剤を含む細胞抽出物を含むインビトロタンパク質合成系であって、該細胞抽出物が、細胞を溶解させて細胞溶解物を得て、上清画分を該細胞溶解物から分離することによって調製され、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤が、溶解前の細胞又は上清画分の分離前の細胞溶解物に添加される、インビトロタンパク質合成系。
【請求項2】
細胞抽出物が、上清画分を分離する前に一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤を細胞溶解物に添加することによって調製される、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項3】
分離が、細胞溶解物を遠心分離し、細胞抽出物として上清を取り出すことである、請求項2記載のインビトロ合成系。
【請求項4】
細胞抽出物が、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤を、一つ又は複数の界面活性剤又は表面活性剤が溶解前の細胞に添加されるところへ添加することによって調製される、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項5】
少なくとも一つの界面活性剤又は表面活性剤が、少なくとも一つの界面活性剤である、請求項1記載のインビトロ系。
【請求項6】
少なくとも一つの界面活性剤が、非イオン系界面活性剤又は両性イオン系界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ系。
【請求項7】
界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、請求項6記載のインビトロ系。
【請求項8】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤、Triton系の界面活性剤、又はグリコピラノシド界面活性剤である、請求項7記載のインビトロ合成系。
【請求項9】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項10】
界面活性剤が、Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)58、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92、又はBrij(登録商標)97である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項11】
界面活性剤が、Brij(登録商標)35である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項12】
界面活性剤が、Triton(登録商標)系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項13】
界面活性剤が、Triton(登録商標)CF系、Triton(登録商標)DF系、Triton(登録商標)GR系、Triton(登録商標)QS系、Triton(登録商標)X系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項14】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X系の界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項15】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X−15、Triton(登録商標)X−45、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−102、Triton(登録商標)X−114、Triton(登録商標)X−151、Triton(登録商標)X−165、Triton(登録商標)X−200、Triton(登録商標)X−207、Triton(登録商標)X−305、Triton(登録商標)X−405、又はTriton(登録商標)X−705−70である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項16】
界面活性剤が、Triton(登録商標)X−100である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項17】
界面活性剤が、グリコピラノシド界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項18】
界面活性剤が、グルコピラノシド界面活性剤、マルトピラノシド界面活性剤、又はグルカミド界面活性剤である、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項19】
界面活性剤が、N−デカノイル−N−メチルグルカミン、n−デシルa−D−グルコピラノシド、デシルβ−D−マルトピラノシド、n−ドデカノイル−N−メチルグルカミド、n−ドデシルa−D−マルトシド、n−ドデシル−β−D−マルトシド、n−ヘキサデシル−β−D−マルトシド、又はオクチルグルコピラノシドである、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項20】
界面活性剤がドデシルマルトシドである、請求項5記載のインビトロ合成系。
【請求項21】
少なくとも一つの界面活性剤が、両性イオン系界面活性剤である、請求項3記載のインビトロ合成系。
【請求項22】
少なくとも一つの界面活性剤が、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系の界面活性剤、CHAPS、又はCHAPSOである、請求項21記載のインビトロ合成系。
【請求項23】
少なくとも一つの界面活性剤が、CHAPS又はCHAPSOである、請求項22記載のインビトロ合成系。
【請求項24】
少なくとも一つの界面活性剤が、CHAPSである、請求項23記載のインビトロ合成系。
【請求項25】
界面活性剤の濃度がCMC以上である、請求項1記載のインビトロ合成系。
【請求項26】
界面活性剤の濃度がCMCの2倍未満である、請求項25記載のインビトロ合成系。
【請求項27】
アミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源、及び鋳型核酸を、細胞抽出物調製前に少なくとも一つの表面活性剤又は界面活性剤によって処理された細胞又は細胞溶解物から調製される細胞抽出物に添加して、インビトロタンパク質合成混合物を調製する工程;並びに
インビトロタンパク質合成混合物をインキュベートしてタンパク質を合成する工程
を含むタンパク質合成方法。
【請求項28】
細胞抽出物が、細胞溶解物の上清の単離を目的に抽出物を遠心分離する前に少なくとも一つの表面活性剤又は界面活性剤によって処理された細胞から調製される、請求項27記載のインビトロ合成系。
【請求項29】
細胞抽出物が、界面活性剤により細胞を処理することにより調製される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
界面活性剤が両性イオン系又は非イオン系界面活性剤である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも一つの界面活性剤が非イオン系界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
界面活性剤が、Brij(登録商標)系の界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系の界面活性剤、Triton(登録商標)系の界面活性剤、又はグリコピラノシド界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
界面活性剤がBrij(登録商標)系の界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
界面活性剤がBrij(登録商標)35である、請求項34記載の方法。
【請求項35】
界面活性剤がTriton(登録商標)系の界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
界面活性剤がTriton(登録商標)X−100である、請求項36記載の方法。
【請求項37】
界面活性剤がグリコピラノシド界面活性剤である、請求項32記載の方法。
【請求項38】
界面活性剤がグルコピラノシド界面活性剤、マルトピラノシド界面活性剤、又はグルカミド界面活性剤である、請求項38記載の方法。
【請求項39】
界面活性剤が、ドデシルマルトシド、オクチルグルコピラノシド、又はオクチルチオグルコピラノシドである、請求項5記載の方法。
【請求項40】
少なくとも一つの界面活性剤が両性イオン系界面活性剤である、請求項30記載の方法。
【請求項41】
少なくとも一つの界面活性剤が、スルホベタイン界面活性剤、Zwittergent(登録商標)系界面活性剤、EMPIGEN(登録商標)系界面活性剤、CHAPS、又はCHAPSOである、請求項41記載の方法。
【請求項42】
少なくとも一つの界面活性剤がZwittergent(登録商標)3−14である、請求項42記載の方法。
【請求項43】
少なくとも一つの界面活性剤がCHAPSである、請求項42記載の方法。
【請求項44】
細胞又は細胞溶解物に添加された後の界面活性剤の最終濃度がCMC以上である、請求項27記載の方法。
【請求項45】
細胞又は細胞溶解物に添加された後の界面活性剤の最終濃度がCMCの2倍未満である、請求項45記載の方法。
【請求項46】
一定時間反応混合物をインキュベートした後、合成混合物に、バッファー、アミノ酸、少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液(Feeding Solution)を添加する工程であって、その少なくとも一つの追加的なエネルギー源は、拡張型合成混合物を調製するために初めの合成混合物の少なくとも一つのエネルギー源とは異なる、工程;及び
拡張型合成混合物を、更に一定時間インキュベートして少なくとも一つのタンパク質を合成する工程
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項47】
細胞抽出物にアミノ酸、少なくとも一つのエネルギー源、及び鋳型核酸を添加して初めのインビトロタンパク質合成混合物を調製する工程;
初めの合成混合物に、バッファー、アミノ酸、及び少なくとも一つの追加的なエネルギー源を含む供給溶液を添加する工程であって、その少なくとも一つの追加的なエネルギー源は、拡張型合成混合物を調製するために初めの合成混合物の少なくとも一つのエネルギー源とは異なる、工程;並びに
拡張型合成混合物を一定時間インキュベートしてタンパク質を合成する工程
を含む、タンパク質を合成する方法。
【請求項48】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が、初めの合成混合物において提供されるエネルギー源とは異なる、請求項47記載の方法。
【請求項49】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が酵素でない、請求項48記載の方法。
【請求項50】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が解糖中間体である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
少なくとも一つの追加的なエネルギー源が、フルクトース−6−リン酸、グルコース−6−リン酸、又は3−ホスホグリセリン酸である、請求項49記載の方法。
【請求項52】
供給溶液が補因子を更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項53】
補因子がNAD又はNADHである、請求項52記載の方法。
【請求項54】
初めの合成反応に少なくとも二つのエネルギー源が含まれる、請求項47記載の方法。
【請求項55】
初めの合成反応に少なくとも三つのエネルギー源が含まれる、請求項54記載の方法。
【請求項56】
供給溶液が、初めの合成混合物が調製されてから少なくとも10分後に添加される、請求項47記載の方法。
【請求項57】
供給溶液が、初めの合成混合物が調製されてから約15分〜約60分後に添加される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
少なくとも一つの追加的な時点に供給溶液をタンパク質合成混合物に添加する工程を更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項59】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つが酵素である、請求項55記載の方法。
【請求項60】
酵素がピルビン酸キナーゼである、請求項59記載の方法。
【請求項61】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つがホスホエノールピルビン酸(PEP)である、請求項55記載の方法。
【請求項62】
少なくとも三つのエネルギー源のうちの少なくとも一つがアセチルリン酸である、請求項55記載の方法。
【請求項63】
供給溶液が塩化カルシウムを更に含む、請求項47記載の方法。
【請求項64】
供給溶液が、初めのインビトロタンパク質合成混合物のpHより高いpHを有する、請求項47記載の方法。
【請求項65】
IVPS抽出物を調製する工程;
IVPS抽出物を少なくとも2時間、その後少なくとも8時間透析する工程; 透析した細胞抽出物に反応バッファー、鋳型核酸、及び少なくとも一つの同位元素標識アミノ酸を添加してIVPS反応を構成する工程;並びに
IVPS反応をインキュベートし、NMR分析用の少なくとも一つの同位元素標識タンパク質を調製する工程
を含むNMR用のタンパク質の標識方法。
【請求項66】
N末端アミノ酸配列タグとオープンリーディングフレームとの融合に使用可能な少なくとも一つのベクターと、
C末端アミノ酸配列タグとオープンリーディングフレームとの融合に使用可能な少なくとも一つのベクターとを含む、オープンリーディングフレームをクローニングして発現させるための一組の発現ベクターであって、
該ベクターは、発現されたタンパク質からのアミノ酸配列タグの切除に使用可能な少なくとも一つのプロテアーゼ切断部位を含む、一組の発現ベクター。
【請求項67】
発現されたタンパク質からアミノ酸配列タグを除去することにより、合成タンパク質上に外因性アミノ酸が二つを超えて残留しない、請求項66記載の一組の発現ベクター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2008−514240(P2008−514240A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534846(P2007−534846)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/035419
【国際公開番号】WO2006/039622
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(502221282)インヴィトロジェン コーポレーション (113)
【出願人】(307039868)
【出願人】(307039879)
【出願人】(307039905)
【出願人】(307039927)
【出願人】(307039949)
【出願人】(307039950)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/035419
【国際公開番号】WO2006/039622
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(502221282)インヴィトロジェン コーポレーション (113)
【出願人】(307039868)
【出願人】(307039879)
【出願人】(307039905)
【出願人】(307039927)
【出願人】(307039949)
【出願人】(307039950)
【Fターム(参考)】
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