説明

生体情報検出式ハンドル

【課題】ハンドル把持部から、体脂肪率や、心電図や、体温や、皮膚電位等の生体情報を電気信号として良好に検出し得るようにした生体情報検出式ハンドルを提供する。
【解決手段】ステアリングホイールの円形リム1は、最外周における表皮層11と、該表皮層11の内周側にあってリム1の周方向へ導電性を有した導電層12と、該導電層12の内側におけるハンドル芯材13と、これら導電層12およびハンドル芯材13間に充填した発砲体層14とを、図示のごとく径方向に積層して構成したものである。そして、表皮層11の内外周間に貫通するよう貫通導電部15を設け、表皮層11の内周側(図の下側)における各貫通導電部15の内端15aを導電層12に電気的に接続させ、表皮層11の外周側(図の上側)における各貫通導電部15の外端15bは、表皮層11の外周面を握った人の手が触れるよう表皮層11の外周面に露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の手によって把持されるハンドル把持部から、体脂肪率や、心電図や、体温や、皮膚電位等の生体情報を電気信号として良好に検出し得るようにした生体情報検出式ハンドルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用内装品の表皮に用いられる本革材としては一般的に、表皮層を有する革の表面(銀面)に対し直にウレタン系等の塗料を塗装して、手で握ったときの触感の向上や、耐摩耗性および耐光性等の性能向上を実現し、これにより車両用内装品の表皮に要求される性能を満足させるようになすのが普通である。
【0003】
ところで、ハンドル把持部から生体情報を電気信号として検出する生体情報検出式ハンドルの表皮は、生体情報を電気信号として検出する必要から所定の導電性能を有し、生体情報を電気信号として取得可能なものであるを要する。
しかし、上記した一般的な本革材は基本的に絶縁体であって導電性能に欠け、生体情報検出式ハンドルの把持部における表皮として用いることができない。
【0004】
上記の導電性能は、皮革に代えて金属板を用いれば所定通り得られるが、この場合、手から得た生体情報を電気信号として取得し得るようにはなるものの、
手で握った時の触り心地が違和感のある触感となって好ましくないだけでなく、車両を炎天下に放置しておいた時ハンドルが、手を触れることができないほどに温度上昇してしまうという問題の発生も懸念される。
【0005】
導電性を持つ皮革を用いたハンドルとしては従来、例えば特許文献1に記載のごとく、導電性のメッシュ部材にトルマリン粉体を付着させた中間層をハンドルの基層に設け、かかる中間層の外側に通気性のよい表層を設けたハンドルが提案されている。
このハンドルによれば、ハンドルを握った人体の静電気が通気性のよい表層から導電性の中間層およびハンドル基層を順次経て除去することができ、ハンドルを握っていた人が静電気による電撃を受けることのないようにし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−322551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のハンドルに設けた導電性の中間層は、ハンドルを握っている人の静電気を除去して、この人が静電気による電撃を受けることのないようにする静電気対策のものである。
かかる静電気対策用にハンドル把持部に設けた導電性中間層は、ハンドル把持部の周方向へは導電性が高いものの、その外側における表層に対しては導電性が高くないものである。
【0008】
従って、特許文献1所載の静電気対策式ハンドルは、これを握った人の体脂肪率等の生体情報を電気信号として、最外側における表層から導電性中間層へと伝達し難く、生体情報検出式ハンドルとして実用するには不向きなものであった。
【0009】
本発明は、ハンドル把持部の外観や、握り心地や、風合い等、見た目や使用感に係わる品質を損なうことなく、当該ハンドル把持部から、これを握った人の生体情報を確実に電気信号として検出し得るようにした生体情報検出式ハンドルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明の生体情報検出式ハンドルは、これを以下のごとくに構成する。
先ず本発明の前提となる生体情報検出式ハンドルを説明するに、これは、
人の手によって把持される把持部が、把持部の断面最外周の表皮層と、該表皮層の断面内周にあって把持部の周方向へ導電性を有した導電層と、該導電層の断面内周におけるハンドル芯材とを順次積層したものである。
【0011】
本発明は、上記した生体情報検出式ハンドルにおける表皮層の断面内外周間に貫通させて貫通導電部を設け、
表皮層の断面内周側における貫通導電部の内端を上記導電層に電気的に接続させ、表皮層の断面外周側における貫通導電部の外端を人の手が触れるよう表皮層の外周面に露出させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明の生体情報検出式ハンドルによれば、その把持部(表皮層の外周面)を握った人の手が、表皮層の外周面に露出する貫通導電部の外端に触れ、
当該人の生体情報が電気信号として貫通導電部から、該貫通導電部の内端および導電層間の電気接続部を経て導電層に至る。
よって、生体情報に係わる電気信号がハンドル把持部の表皮層から内側へ確実に伝達され得ることとなり、生体情報の確実な検出を可能にし得る。
【0013】
また、かかる効果を達成するために設けた貫通導電部が表皮層の断面内外周間に貫通されているため、ハンドル把持部の外観や、握り心地や、風合い等、見た目や使用感に係わる品質を何ら損なうことがなく、
当該品質の低下を生ずることなしに上記の効果を得ることができて、生体情報検出式ハンドルの商品価値を高く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ステアリングホイールとして構成した本発明の実施形態になる生体情報検出式ハンドルの全体を示す平面図である。
【図2】図1に示したステアリングホイールのリムを、図1のA−A線上で断面とし、矢の方向に見て示す横断面図である。
【図3】ステアリングホイールリムを、図2のB−B線上で断面とし、矢の方向に見て示す要部拡大縦断側面図である。
【図4】ステアリングホイールリム内におけるハンドル芯材の変形例を示す、図2と同様な横断面図である。
【図5】図1〜3に示したステアリングホイールの生体情報信号強度を測定する時における結線要領の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1は、本発明の実施形態になる生体情報検出式ハンドルを示し、図2は、図1のA−A線上で断面とし、矢の方向に見て示す断面図、図3は、図2のB−B線上で断面とし、矢の方向に見て示す断面図である。
【0016】
これら図1〜3では生体情報検出式ハンドルを、以下のような車両のステアリングホイールとして構成する。
つまりステアリングホイールは、全体を図1に示すように、ハンドル把持部である円形のリム1と、当該円形の中心位置におけるハブ2と、これらリム1およびハブ2を相互に結合するよう放射状に延在する複数個(図1では3個)のスポーク3とで構成する。
かかるステアリングホイールは、ハブ2を、図示せざるステアリングシャフトに結合して車両に実用し、運転者は手でリム1を握ってステアリングホイールを回転することにより、車両を操舵可能である。
【0017】
ハンドル把持部である円形のリム1は、図2に示すごとく略円形断面形状とし、その断面最外周における表皮層11(例えば0.7mm厚)と、該表皮層11の断面内周側にあってリム1の周方向へ導電性を有した導電層12(例えば0.1mm厚)と、該導電層12の内側における鉄などのハンドル芯材13と、これら導電層12およびハンドル芯材13間に緩衝用に充填したウレタン層などの発砲体層14(例えば10mm厚)とを、図2,3のごとく径方向に積層して構成したものである。
【0018】
なおハンドル芯材13は、必ずしも図2に示すようなチューブ状のものである必要はなく、図4に示すようなU字状断面形状など任意のものを用いることができる。
また本明細書において「ハンドル」と称するは、上記した車両用ステアリングホイールに限られるものでなく、自転車用ハンドルグリップや、エクササイズ用器具のハンドルグリップや、体組成計のグリップ部とか、各種のスイッチなど、人が手で触れる物体の全てを包含するものとする。
【0019】
本発明の実施形態では特に、図3に明示するごとく、表皮層11の断面内外周間に貫通させて貫通導電部15を設ける。
貫通導電部15を、好ましくは表皮層11の全域に亘って均一に分散させて多数個設け、表皮層11の断面内周側(図3の下側)における各貫通導電部15の内端15aを導電層12に電気的に接続させ、表皮層11の断面外周側(図3の上側)における各貫通導電部15の外端15bを、人の手が触れるよう表皮層11の外周面に露出させる。
なお貫通導電部15は、図3に示すような中空形状とする代わりに、中実体で構成してもよい。
【0020】
<作用・効果>
生体情報検出式ハンドル(ステアリングホイール)を上記の構成としたことにより、以下のような作用および効果が奏し得られる。
運転者がステアリングホイールのリム1(表皮層11の外周面)を握って運転している間、運転者の手が、表皮層11の外周面に露出する貫通導電部15の外端15bに触れる。
このため、運転者の生体情報が電気信号として貫通導電部15から、貫通導電部15の内端15aおよび導電層12間の電気接続部を経て導電層12に至る。
よって、運転者の生体情報に係わる電気信号がステアリングホイールのリム1(表皮層11)から導電層12に向け内側へ確実に伝達され得ることとなり、生体情報の確実な検出が可能である。
【0021】
特に、生体情報として体脂肪率をステアリングホイールから検出する場合、50kHzの電気信号に対しては、数dB〜数十dBの信号強度の向上が可能である。
【0022】
また、上記のような作用・効果を達成するために設ける貫通導電部15が表皮層11の断面内外周間に貫通させたため、
ステアリングホイールのリム1(表皮層11)の外観や、握り心地や、風合い等、見た目や使用感に係わる品質を何ら損なうことがなく、
当該品質の低下を生ずることなしに上記の作用・効果を得ることができて、生体情報検出式ハンドルの商品価値を高く保つことができる。
【0023】
上記の作用・効果を達成するための貫通導電部15を設けるに際しては、特別な制限はないが、導電ペースト、カーボン粉末、金属蒸着膜、導電性高分子等の導電材料を用いるのがよい。
また、表皮層11として用いる材料の厚さは、特別な制限はないが、0.5〜3.0mm程度であるのが好ましい。
表皮層11は更に、車室内が佳麗に見えるよう、少なくとも目止め層が設けられる面、すなわち手が触れる外周面を、バフ研磨等により平滑にすることが好ましい。
【0024】
表皮層11として皮革を用いる場合、皮革は貫通部を設けたものを用いるのが、貫通導電部15を形成する上で簡便である。
このとき皮革表面からパンチング等により貫通孔を形成したもの等を用いることが出来る。
また、表皮層11に用いる材料としては、特別な制限はないが、牛革、馬革、豚革等の本革や、樹脂層と繊維質基材とからなる合成皮革等が有用である。
【0025】
合成皮革としては例えば、繊維基材として両面編組織を有する緯編布を用い、かかる繊維基材の表面に、ポリウレタン樹脂接着層を介して、シリコーン変性無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂表皮層を積層したものや、
基布表面上に、ウレタン系接着層及びポリウレタン表皮層を順次積層し、該基布が表面に起毛を有するメリヤスを用いたものや、
グランド糸と起毛糸がポリエステルマルチフィラメント糸からなり、起毛丸編地の起毛面側に、ポリウレタン接着層、及びポリウレタン表皮層が順次積層されたもの等が有用である。
【0026】
導電層12としては、ヒーター線にも用いられる金属線や、金属線の織布や、樹脂織布の芯材に金属コートした導電性のテープや、金属ペーストの塗装層等を用いることができる。
また導電層12およびハンドル芯材13間の発泡体層14としては、特別な制限はないが、一般的な発泡ウレタンを用い、ハンドル芯材13としては、特別な制限はないが、鉄芯材を用いるのが好ましい。
【0027】
なお貫通導電部15は、表皮層11の外周面と内周面との間の抵抗値を100kΩ以下となすようなものであるのがよい。
そして、貫通導電部15を図3に示すごとく複数個設ける場合は、これら複数の貫通導電部15がセットで、表皮層11の内外周面間の抵抗値を100kΩ以下となすような合計導電面積を有したものとするのがよい。
【0028】
かように表皮層11の内外周面間の抵抗値を100kΩ以下にすることで、生体情報を検出・測定する際に電気信号を大きな強度で拾うことができ、その分、ノイズを拾いにくくし得る効果も得られる。
なお貫通導電部15は1個のみでも生体情報の検出がであるが、より確実に生体情報の検出を行うためには、図3に示すごとく複数個の貫通導電部15を設置し、リム1の握り具合や、手の凹凸によって、貫通導電部15の外端15bに手が触れないケースの発生を減らすのがよいのは言うまでもない。
【0029】
貫通導電部15としては導電性高分子材料を用いるのが有利であり、その理由は導電性高分子材料の場合、金属や、カーボン等と異なり、バインダーを必要とせず、脱離を防ぎやすい他、酸化・劣化もしなくて、耐久性の点でも有利であるためである。
ここで言う導電性高分子材料としては、導電性を示す高分子であれば特に制限されることはないが、例えば、以下の化学式1で表される基本骨格を有したアセチレン系や、複素5員環系の、導電性を示す高分子を用いることができる。
【化1】

【0030】
なお上記の複素5員環系としては、以下の化学式2で表される骨格を有したピロール系高分子や、
【化2】

以下の化学式3で表される基本骨格を有したチオフェン系高分子や、
【化3】

以下の化学式4で表される基本骨格を有したイソチアナフテン系高分子が好ましい。
【化4】

【0031】
具体的には、例えばモノマーとして、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキル−3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子などが挙げられる。
なお、上記導電性高分子は、それぞれ1種類のみを単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0032】
また導電性高分子材料としては、前記の化学式1で表される基本骨格を有したアセチレン系や、複素5員環系に代えて、以下の化学式5で表される基本骨格を有したフェニレン系や、
【化5】

以下の化学式6で表される基本骨格を有したアニリン系の、導電性を示す高分子を用いることができる。
【化6】

【0033】
更に導電性高分子材料としては、前記の化学式1,5,6で表される基本骨格を有した各系の、導電性を示す高分子の共重合体を用いることもできる。
【0034】
上記導電性高分子のうち、ポリピロール、ポリアニリン、およびポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンよりなる群から選択された一つのモノマーを重合した高分子には、ポリ4−スチレンサルフォネートをドープしたPEDTOT/PSS、およびポリパラフェニレンビニレンよりなる群から選択された導電性高分子、および/またはこれらの誘導体から選ばれた少なくとも1種を含ませるのがよい。
【0035】
次にこれらの導電性高分子にはドーパントが含まれてもよく、使用する導電性高分子の種類などによって適宜選択可能である。
導電性高分子を水あるいは有機溶剤に溶解した混合溶液を用いて塗布することにより、信号強度を向上させられる皮革を効率良く安価に製造することができる。
混合溶液を構成する溶媒としては、例えば水、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒や、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、更にはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などを用いることができるが、
これらの中でも、とりわけ水やDMSO、エチレングリコール等がコスト、回収性等の工程通過性の点で有利である。
【0036】
混合溶液中の導電性高分子濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、混合溶液には上記原材料以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。
更にこれらは、一種類または二種類以上のものを併用して使用しても構わない。
【0037】
この塗布、含浸時に、混合溶液の粘度の制御を行うことで作業を容易に行うことができる。
樹脂材料と溶媒との少なくとも2成分を混合した混合溶液の粘度が、粘度500mPa・s以上、10,000mPa・s以下であることが好ましく、更に好ましくは1,000 mPa・s以上、5,000 mPa・s以下であることが好ましい。
500mPa・s以下では皮革裏面に塗布する際、表面に流れ出してしまい好適ではないことがある。
10,000mPa・s以上では、粘度が高すぎて、逆に裏面表面が大きな凹凸になってしまうため好ましくない。
【0038】
このようにして得られた貫通導電部15を設置した表皮層11に、熱処理を施し導電性能をさらに向上させることもできる。
そのための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは110℃〜250℃の温度で行うのがよい。
温度が100℃未満の場合、導電性能の向上効果が不十分であり、また温度が250℃を越えると導電層12の表面に部分的な融解が生じ、導電層12自体の力学物性の低下をもたらすので好ましくない。
【0039】
表皮層11の断面内周側に形成される導電性高分子の膜厚は、特別な制限はないものの、厚さが大きくなると皮革が硬くなってしまい、課題の一つである触感や風合いが損なわれるので好ましくないため、500μm程度以下とすることが好ましい。
【0040】
図1〜3につき上述したステアリングホイールは、前記したごとく車両のステアリングシャフトに結合して用いる場合、通常のステアリングホイールでは困難であった生体情報の電気的な検出が容易になり、生体情報に係わる電気信号を車両の制御や、人体情報の状態により車両を緊急停止させたり、情報を蓄積することで健康管理に用いる等、車両への新たな機能の付与が可能になる。
【0041】
なお本発明で得られる生体情報検出式ハンドルは、生体情報を表皮層11からの電気信号として検出可能であることから、例えば、スイッチ、帯電材、除電材、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして、多種多様な用途に道が開けて大いに有用である。
【実施例】
【0042】
以下、個々の実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお後記の各実施例においては、表皮層11の厚さ、信号強度、体脂肪率を下記の方法により測定した。
[表皮層11の厚さ測定]
表皮層11の厚さは、マイクロメーター(ミツトヨ製MDC―25MJ)を用いて測定した。
[信号強度測定]
図5に示すように、リム表皮層11の外周面に沿うようステンレス電極21(7cm×7cm)を設置し、信号入力側の電極とした。
信号強度の測定に際しては、後記する各実施例において、このステンレス電極21と、導電層12との間に、ファンクションジェネレータ22(ヒューレット・パッカード社製「HP33120A」)、およびオシロスコープ23(テクトロニクス製DSA8200)を介在させ、
ファンクションジェネレータ22を用いて4V、50kHzの正弦波電圧を印加し、オシロスコープ23(テクトロニクス製DSA8200)により、周波数50kHzでの信号強度を測定した。
[体脂肪率測定]
市販の両手式体脂肪計(オムロン製HBF−306)の電極表面に、各実施例、各比較例での皮革を3.5cm×4cmに切り出して設置し、体脂肪率の測定可否を評価した。
【0043】
これらの測定により、以下の各実施例においては、次の表1に示すような評価結果が得られた。
【表1】

【0044】
以下、実施例ごとの評価結果を説明する。
[実施例1]
PEDOT/PSS粉末(アグフア製Orgacon Dry)をPEDOT/PSS濃度が3wt%となるようにエチレングリコール(表1中でEGと略する)(和光純薬製特級)に分散させて混合溶液を得た。
厚さ1.0mmの牛革に貫通導電部を設置するため1箇所φ1mmの孔を空け、該牛革の断面内周面側から上記の混合溶液を、コーティング装置(Mathis製LTE−S)により塗布した(塗布厚10μm)。
ポリウレタン発泡体が取り付けられたハンドル芯材に対し、導電層として導電テープ(北川工業製CSTK)を貼り付けた。
ハンドルのスポーク部から、外部へ取り出す電極を設置した。
表皮層として皮革を縫い合わせた。
最後に、スポーク領域で余分な皮革を切り取り、皮革を加熱してシワを取り除き、ハンドルを得た。
得られたハンドルの信号強度は50kHzで−5dBとなり、従来品より大きく優れるものであった。
表皮層の抵抗値をJIS K6911に準拠し、8cm角に切り出し、アドバンテスト社製「METER R8340A」と、測定用電極としての安藤電気製SE−71とを用い、恒温槽(エスペック製SH−240)中で25℃、60%R.H.条件下で測定したところ、10kΩの値となった。
[実施例2]
貫通導電部を複数個設置するため、パンチングメタルでφ0.5mmの孔を5mmピッチで空けたものを用いる以外は、実施例1と同様にしてハンドルを得た。
[実施例3]
混合溶液のPEDOT/PSS濃度を1.5wt%とした以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例4]
貫通導電部の設置方法として、導電ペースト(藤倉化成製ドータイトD−550)を用いる以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例5]
皮革の厚さを1.3mmとする以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例6]
皮革の厚さを0.7mmとする以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例7]
用いる皮革を豚革、厚さを0.6mmとする以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例8]
混合溶液のPEDOT/PSS濃度を0.5wt%とする以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
[実施例9]
混合溶液のPEDOT/PSS濃度を0.1wt%とする以外は、実施例2と同様にしてハンドルを得た。
【0045】
次に、上記実施例1〜9と比較すべき比較例1,2を説明する。
[比較例1]
貫通導電部を設置しないこと以外は、実施例1と同様にしてハンドルを得た。
表皮層の抵抗値を実施例1と同様に測定したところ、1×108Ωの値となった。
[比較例2]
貫通導電部を設置しないこと以外は、実施例7と同様にしてハンドルを得た。
【0046】
前記の表1における実施例1〜9の評価結果から明らかなように、本発明の生体情報検出式ハンドルは貫通導電部の設置によって、上記比較例1,2として示す従来のハンドルに比べ、優れた信号強度を持つようになった。
体脂肪率の測定評価について付言するに、従来の皮革をそのまま用いた比較例1,2では体脂肪率を測定できなかったのに、実施例1〜9ではいずれの場合も、体脂肪率を確実に測定可能であった。
また実施例1〜9と比較例1,2との間に、ハンドルの外観や、握り心地や、風合い等、見た目や使用感に係わる品質の差異は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、従来技術で達成することができなかった、優れた生体情報の信号強度を得ることができるハンドルを提供可能である。
また本発明の生体情報検出式ハンドルは特別に高価な工程を必要とせず、通常の工程で安価に製造可能である。
更に、本発明の生体情報検出式ハンドルは、表皮層を通過して生体情報信号の取得が可能であることから、例えば、スイッチ、帯電材、除電材、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして、多くの用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ステアリングホイールのリム(把持部)
2 中心ハブ
3 スポーク
4 モータ/ジェネレータ軸
5 モータ/ジェネレータ(動力源:電動モータ)
11 リムの表皮層
12 導電層
13 ハンドル芯材
14 発砲体層
15 貫通導電部
15a 貫通導電部の内端
15b 貫通導電部の外端
21 ステンレス電極
22 ファンクションジェネレータ
23 オシロスコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の手によって把持される把持部を有し、該把持部が、把持部の断面最外周の表皮層と、該表皮層の断面内周にあって把持部の周方向へ導電性を有した導電層と、該導電層の断面内周におけるハンドル芯材との順次積層になる生体情報検出式ハンドルにおいて、
前記表皮層の断面内外周間に貫通させて貫通導電部を設け、表皮層の断面内周側における該貫通導電部の内端を前記導電層に電気的に接続させ、表皮層の断面外周側における該貫通導電部の外端を人の手が触れるよう表皮層の外周面に露出させたことを特徴とする生体情報検出式ハンドル。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報検出式ハンドルにおいて、
前記貫通導電部は、内端および外端間の抵抗値が100kΩ以下であることを特徴とする生体情報検出式ハンドル。
【請求項3】
前記貫通導電部が複数個設けられた、請求項1または2に記載の生体情報検出式ハンドルにおいて、
前記複数個の貫通導電部は、全体として内端および外端間の抵抗値が100kΩ以下となるものであることを特徴とする生体情報検出式ハンドル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体情報検出式ハンドルにおいて、
前記導電層は、導電性高分子材料からなるものであることを特徴とする生体情報検出式ハンドル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体情報検出式ハンドルを車両のステアリングホイールとして具え、運転者の生体情報を検出可能にしたことを特徴とする生体情報検出式ハンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−157603(P2012−157603A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20342(P2011−20342)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】