説明

生体成分精製溶液、生体成分分離方法および生体成分分離装置

【課題】臨床プロテオーム解析をする際に、微量成分の検出に対して妨害となる過剰な
タンパク質を取り除くための方法を得る。
【解決手段】血液由来試料から、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を用いた分離システムを用い、更に分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いて特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減した生体成分分離方法および生体成分分離装置。
本分離方法および装置により得られた溶液は、質量分析、電気泳動、液体クロマトグラフィー等のプロテオーム解析を目的としたタンパク質分析に用いられ、高感度の分析が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液由来試料から特定のタンパク質を、分離膜と抗体とを組み合わせて分離する方法および分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム解析(プロテオミクス)研究が注目され始めた。遺伝子産物であるタンパク質は遺伝子よりも疾患の病態に直接リンクしていると考えられることから、タンパク質を網羅的に調べるプロテオーム解析の研究成果は診断と治療に広く応用できると期待されている。しかも、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できる可能性が高い。
【0003】
プロテオーム解析の急速に進展しだしたのは、技術的には質量分析装置(mass spectrometer: MS)による高速構造分析が可能となってきたことが大きく、MALDI-TOF-MS (matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry)等の実用化によって、ポリペプチドのハイスルースループット超微量分析が可能となり、従来検出し得なかった微量タンパク質までが同定可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなってきている。
【0004】
プロテオーム解析の臨床応用の第一目的は、疾患によって誘導あるいは消失するバイオマーカータンパク質の発見である。バイオマーカーは、病態に関連して挙動するため、診断のマーカーとなり得るほか、創薬ターゲットとなる可能性も高い。すなわち、プロテオーム解析の成果は、特定遺伝子よりも診断マーカーや創薬ターゲットとなる可能性が高いため、ポストゲノム時代の診断と治療の切り札(エビデンス)技術となり、同定されたバイオマーカーは患者の薬剤応答性評価や副作用発現予測という直接的に患者が享受しえる利益につながることから、いわゆるテーラーメード医療(オーダーメード医療)の推進に大きな役割を果たすといえる。
【0005】
臨床研究にプロテオーム解析を導入する場合(臨床プロテオミクス)には、大量の検体を迅速、確実に解析することが求められており、しかも臨床検体は微量で貴重なために高分解能・高感度・高機能測定を迅速に行う必要がある。この大きな推進力となったのは質量分析(mass spectrometry)であり、質量分析装置のもつ超高感度でハイスループットの特性の貢献するところが大きい。しかしながら、その手法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、プロテオーム解析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況にはまだない。
【0006】
ヒト・タンパク質は10万種以上とも推定されているが、血清中に含まれるタンパク質だけでも約1万種類にものぼるといわれ、総量としての血清中濃度は約60〜80mg/mLである。血清中の高含量のタンパク質は、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜1000kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)等であり、いずれも大量(>mg/mL)に存在する。一方、病態のバイオマーカーや病因関連因子と考えられているペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質の多くは、極微量(<ng/mL)にしか存在せず。その含有量比は高分子の高含量成分に比べて、実にナノからピコレベルである。タンパク質の大きさという点では、タンパク質全種類の70%以上は分子量60kDa以下であり、上記の極微量なバイオマーカータンパク質はいずれもこの領域に含まれる場合がほとんどである(例えば非特許文献1)。これらのタンパク質は腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能である。
【0007】
一般的な血清学的検査でプロテオーム解析するには、病因関連の微量成分検出の妨害となる分子量6万以上の高分子成分を除外することがまず必須となる。また、分子量6万未満の成分についてはできるだけ多く回収することが必須となるが、分子量3万以上の特定の成分については除外することが必須となる。
【0008】
この高分子量タンパク質の分離手段として、現状では高速液体クロマトグラフィー(liquid chromatography: LC)や二次元電気泳動(2 dimensional-polyacrylamide gel electrophoresis: 2D-PAGE)が用いられているが、これらは、微量のサンプルしか処理できないために、目的とするサンプル量も少なく、MS分析、2次元電気泳動分析などの手法を用いて特定タンパク質の分析を試みても検出されない場合がある。
【0009】
この点が解決されると、臨床プロテオミクスによる臨床検査の診断の迅速性は飛躍的に向上すると期待できる。具体的には、効率的に目的タンパク質群を分離・分画できるデバイスがあればよい。
【0010】
アルブミンを主な対象物質として、すでに実用化されている製品あるいは開示されている技術としては、ブルー色素などのアフィニティーリガンドを固定化した担体(たとえば、日本ミリポア社:Montage Albumin Deplete Kit(登録商標)、日本バイオ・ラッド社:AffiGel Blueゲル(登録商標))、高分子量成分を遠心分離ろ過によって分離する遠心管形式の装置(たとえば、日本ミリポア社:アミコンウルトラ(登録商標))、特表2002−542163号公報(特許文献1)に開示されている電気泳動原理によって分画する方法(たとえば、グラディポア社:Gradiflow(登録商標)システム)、Cohnのエタノール沈澱などの伝統的な沈殿法やクロマトグラフィーによって分画する方法(例えば非特許文献2)などがある。
【0011】
しかしこれらは、いずれも分離分画性能が十分ではなかったり、微量サンプルには不適当であったり、サンプルが希釈されてしまったり、あるいは質量分析等に障害となる薬剤が混入したりするなどの問題点がある。
【0012】
また、人工腎臓、人工肺、血漿分離装置などに使用されている分離膜はその用途に応じて様々な大きさのものが開発され、生体成分との適合性を向上させるような改善もされているが(特許文献2)、臨床プロテオミクスが抱えている問題の解決を示唆するものはない。
【0013】
これらを解決する溶液の開発により、医学研究ならびに臨床現場でプロテオーム解析が広く行われるようになり、より迅速で高精度な検査や診断が可能となって、有用な治療法がない難治性の疾患の原因究明や早期の診断法の開発には強力なツールとなると期待できる。
【特許文献1】特表2002−542163号公報
【特許文献2】特許3297707
【非特許文献1】アンダーソン・NL(Anderson NL),アンダーソン・NG( Anderson, NG)著,「ザ・ヒューマン・プラズマ・プロテオーム:ヒストリー・キャラクター・アンド・ダイアグノスティック・プロスペクツ(The human plasma proteome: history, character, and diagnostic prospects)」,モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics),(米国),ザ・アメリカン・ソサエティー・フォー・バイオケミストリー・アンド・モレキュラー・バイオロジー・インコーポレーテッド(The American Society for Biochemistry and Molecular Biology, Inc.),2002年,第1巻,p845-867.
【非特許文献2】日本生化学会編,「新生化学実験講座(第1巻)タンパク質(1)分離・精製・性質」, 東京化学同人, 1990年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のとおり、プロテオーム解析をする際に、妨害となる過剰な高分子量のタンパク質を除去することが必要である。
【0015】
極最近でも、Affi-Gel Blueゲルを用いた方法(N. Ahmed et al., Proteomics, On-line版, 2003/06/23)が有効な改良されたアルブミン除去法として発表されているが、 Blueゲルは、アルブミンのみを特異的に除去するものではなくプロテオーム解析のターゲットタンパク質をも同時に除去する可能性は否定できず、より多くの情報を得るための分析用溶液を得ることができる生体成分分離溶液と、それを得るための生体成分分離方法および生体成分分離装置はない。このことは本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る生体成分精製溶液とそれを得るための生体成分分離方法および生体成分分離装置は以下の(1)から(20)のような構成をとる。
(1) 血液由来試料から得られる、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を用いた分離システムを用い、更に分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いて、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減させたことを特徴とする生体成分分離溶液。
(2) 特定のタンパク質がアルブミン、免疫グロブリンG、トランスフェリン、フィブリノゲン、免疫グロブリンA、α2マクログロブリン、免疫グロブリンM、α1アンチトリプシン、補体C3因子、ハプトグロビン、アポリポプロテインA1、アポリポプロテインB、α1酸性糖タンパク、リピドプロテインa、ファクターH、セルロプラスミン、補体C4因子、補体ファクターB、プレアルブミン、補体C9因子、補体C1q因子、補体C8因子、コラーゲン、ミオシン、アクチン、サイトケラチン、ケラチン、フィブロネクチンのいずれかであることを特徴とする(1)に記載の生体成分精製溶液
(3) 複数の特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減させたことを特徴とする(1)または(2)に記載の生体成分精製溶液
(4) 分離膜が中空糸膜であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(5) 分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
(6) 親水性成分の含有率が1重量%以上の分離膜であることを特徴とする(5)に記載の生体成分分離溶液。
(7) 血液由来試料から生体成分を分離する方法であって、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を用いた分離システムを用い、更に分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いて、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減することを特徴とする生体成分分離方法
(8) 特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、少なくとも分離膜もしくは分離膜によって処理された溶液が通過する流路、の一部に組み込まれていることを特徴とする(7)に記載の生体成分分離方法
(9) 分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットであり、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、第一段目の分離膜の下流側に組み込まれていることを特徴とする(7)または(8)に記載の生体成分分離方法。
(10) アフィニティーリガンドおよび/または抗体で処理した溶液を、50%カットオフ値が分子量1000以下の膜を用いてさらに溶媒を取り除くことを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の生体成分分離方法。
(11) 分離膜が中空糸膜であることを特徴とする(7)〜(10)のいずれかに記載の生体成分分離方法。
(12) 分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする(7)〜(11)のいずれかに記載の生体成分分離方法。
(13) 親水性成分の含有率が1重量%以上の分離膜であることを特徴とする(12)に記載の生体成分分離方法。
(14) 血液由来試料から生体成分を分離する装置であって、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を有し、分子量3万以上の特定のタンパク質を、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ10%以下の濃度に低減する、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を内蔵することを特徴とする生体成分分離装置
(15) 特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、分離膜もしくは、分離膜によって処理された溶液が通過する流路の一部に組み込まれていることを特徴とする(14)に記載の生体成分分離装置
(16) 分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットであり、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、第一段目の分離膜の下流側に組み込まれていることを特徴とする(14)または(15)
に記載の生体成分分離装置。
(17) アフィニティーリガンドおよび/または抗体で処理した溶液を、50%カットオフ値が分子量1000以下、好ましくは100以下の膜を用いてさらに溶媒を取り除くことを特徴とする(14)〜(16)のいずれかに記載の生体成分分離装置。
(18) 分離膜が中空糸膜であることを特徴とする(14)〜(17)のいずれかに記載の生体成分分離装置。
(19) 分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする(14)〜(17)のいずれかに記載の生体成分分離装置。
(20) 親水性成分の含有率が1%以上の分離膜であることを特徴とする(19)に記載の生体成分分離装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって得た生体成分精製溶液とそれを得るための生体成分分離方法および生体成分分離装置によって、血漿をはじめとする血液由来試料から従来検出されなかった微量のタンパク質を数多く検出することが可能となる。
【0018】
本発明者らは、生体成分精製溶液とそれを得るための生体成分分離方法および生体成分分離装置を得る方法として、血液由来試料溶液から分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である膜分離システムを用い、特定のタンパク質、例えばアルブミン、免疫グロブリンG、トランスフェリン、フィブリノゲン、免疫グロブリンA、α2マクログロブリン、免疫グロブリンM、α1アンチトリプシン、補体C3因子、ハプトグロビン、アポリポプロテインA1、α1酸性糖タンパク、リピドプロテインa、ファクターH、セルロプラスミン、補体C4因子、補体ファクターB、プレアルブミン、補体C9因子、補体C1q因子、補体C8因子、コラーゲン、ミオシン、アクチン、サイトケラチン、ケラチン、フィブロネクチン等のタンパク質、に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いてアルブミンに代表される分子量3万以上の特定のタンパク質を特異的に除去し、アフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いなかった場合の10%以下の濃度に低減させることが好ましいことを見い出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で言う「生体成分精製溶液」とはプロテオーム解析を主目的としたタンパク質分析に用いられる溶液のことであり、「生体成分分離方法」とはタンパク質分析に用いられる溶液を得る方法のことであり「生体成分分離装置」とはタンパク質分析に用いられる溶液を得る方法を有する装置・システムのことである。タンパク質分析の手法としては特に限定しないがLC(液体クロマトグラフィー)や2D-PAGE(二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、核磁気共鳴(NMR)、MALDI-TOF-MSやESI-MS(electro spray ionization-MS)等を例示することができる。これらは、分子量3万以上の特定のタンパク質、例えばアルブミンが大量に含まれていることによって、分析感度が低くなる分析方法であり、本発明の生体成分分離溶液、あるいは生体成分分離方法や生体成分分離装置により得られた溶液を用いることによって、高感度分析が可能となる。
【0020】
アルブミンの他にも一般に生体中に多く含まれる免疫グロブリン類や比較的多く含まれる、補体成分やフィブリノーゲン等の、分子量3万以上の特定のタンパク質を除去することによって高感度分析が可能となる。また、複数の分子量3万以上の特定のタンパク質を同時に除去することで、さらに高感度分析が可能となる。
【0021】
「アルブミン」とはヒト、ウシ、その他哺乳動物及び鳥類由来のアルブミンのことをいう。本発明はアルブミンを指標とした溶液分離方法および装置により得られた溶液がタンパク質の分析液として優れた特性を示すことを発見したものである。具体的には膜分離システムを用いて分子量6万以下の物質の存在比が上昇するように処理された溶液から更にアルブミンを特異的に除去するということは、アルブミンより分子量の小さいタンパク質がさらに高濃度に濃縮され、従来アルブミンの存在によって分析が難しかった非常に多くのタンパク質についての情報を得ることが可能となる。
【0022】
「免疫グロブリン類」とはヒト、ウシ、その他哺乳動物、魚類、両生類、は虫類および鳥類由来の各種の免疫グロブリン及びその構成成分のことをいう。免疫グロブリンは一般にアルブミンよりも分子量が大きいために、アルブミンを除去可能な膜分離システムを用いて得た溶液中には分子的に欠けのない免疫グロブリンとしては多くは存在しないが低分子量化した構成成分の一部が含まれることがある。そう言った場合にはアルブミンだけでなく免疫グロブリン類およびそれらのフラグメントを除去することによってさらに多くのタンパク情報を得ることが可能となる。このことは免疫グロブリン類に限らず、補体成分やフィブリノーゲン等の他のタンパク質にも同様にいえることである。
【0023】
「血液由来試料」とはヒトなどの動物血液のことであり、血液そのものに加え血清、血漿さらにはそれらを希釈・分画して得た溶液など血液中の一部の成分からなる溶液も含まれる。
【0024】
本発明でいう「分離」とは回収目的のタンパク質と廃棄目的のタンパク質を弁別することをいう。「分離」の意味で「分画」を用いる場合もある。分画とは膜孔径を利用した分離方法以外の方法を用いて試料を分離することをいう。主なタンパク質を分離・分画する手法は、濃度差による凝集沈殿法、分子ふるい効果、イオン的相互作用、疎水的相互作用、水素結合、アフィニティーによる特異的結合などを利用したクロマトグラフィー、さらに電気泳動などが挙げられる。分離能を上げるためには、一般的には単一の手法では難しく、通常、複数の分離モードを利用して達成される。たとえば、陽イオンクロマトグラフィーと逆相液体クロマトグラフィーの組み合わせや、ゲルろ過とアフィニティークロマトグラフィーの組み合わせ、逆相液体クロマトグラフィーとSDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)の組み合わせなどである。
【0025】
本発明の生体成分精製溶液を得る方法および/または生体成分精製溶液を得るために用いる装置の構成は以下のとおりである。
(1)膜分離工程
「膜分離工程」とは試料から廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と、回収目体である分子量6万以下のタンパク質を分離膜を使って分離する工程を意味する。
【0026】
また本発明で言う「分離膜」とは多孔性の分離膜のことであり、平面フィルター、カートリッジ式フィルター等の平膜型分離膜、中空糸膜等の中空状分離膜のいずれも用いることができる。特に、中空糸膜は処理液量あたりの膜表面積が大きく、圧損も少なくできるため、効率よく用いることができる。
【0027】
処理液量あたりの膜表面積を大きくするためには、中空糸膜の内径は小さい方が好ましく、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。また、平面フィルターは製膜が容易で安価に作成することができると言う利点がある。分離膜素材としては、セルロース、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート等のポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアミド、ポリ弗化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリエチレンおよびポリプロピレンおよびこれらの誘導体からなる群より1種類以上選択される素材を例示することができる。この中でも近年透析器などに良く用いられているポリスルホンは分画特性が良好であるために好ましい素材である。
【0028】
分離膜にはできるだけタンパク質が吸着しないことが好ましく、親水性の分離膜が好ましい。親水性の分離膜であるためには、親水性成分が含有されていることが好ましい。親水性成分を含有させる方法としては、親水性の単量体と疎水性の単量体を共重合させたり、親水性の高分子と疎水性の高分子をブレンド製膜したり、あるいは疎水性の高分子からなる膜の表面に親水性ポリマーを結合、付着させたり、疎水性の高分子からなる膜の表面を化学処理、プラズマ処理、放射線処理したり、などの方法が挙げられる。
【0029】
親水性成分は特に限定しないが、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性高分子が好ましい。また親水性成分は、膜中に1重量%以上含まれていることが好ましい。これらの親水性膜は必要とするタンパク質の吸着を抑え、無駄なく回収する効果がある。
【0030】
また本発明で言う「分離膜モジュール」とは、分離膜をハウジング内に収納してなるものである。このハウジングには、分離される溶液が流入する入口及び流出する出口と、分離膜を透過して分離された溶液が流出する透過液流出口が備えられている。上記ハウジングの素材は特に限定しないが、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のプラスチック製のものを挙げることができる。
【0031】
本発明で得られる生体成分含有溶液の組成が変化した溶液は、タンパク質分析、特にプロテオーム解析のためのタンパク質分析に好ましく用いられるものである。分析法としては特に限定しないがLCや2D-PAGE、核磁気共鳴(NMR)、MALDI-TOF-MSやESI-MS等を例示することができる。これらは、一部の溶液中にアルブミン等の分子量3万以上の特定のタンパク質が高い含有率で含まれていることによって、分析感度が低くなる分析方法であり、本発明で得られた生体成分分離溶液、あるいは生体成分分離方法や生体成分分離装置により得られた溶液を用いることによって、高感度分析が可能となる。またMS、電気泳動を用いたプロテオーム解析にも有用である。
【0032】
本発明の溶液調製装置が直接あるいは間接的に連結できるMSは特に限定されないが、好ましくは、電子スプレーイオン化型、大気圧イオン化型、四重極(QQQ)型、磁気セクター型、飛行時間型、MS/MS、MSn、FT-MS型、イオン捕捉型およびこれらの組合せ型のものである。また、MS/MSまたはMSn(例えばMS3)のようなタンデムMSを含む。タンデムMSの場合は、全てのタイプのMSが適用可能であるが、特にイオン捕捉、四重極−飛行時間(Q-TOF)、FT-MS、および四重極およびイオン捕捉とのセクター機器の組合せを使用することが効率がよい。これにより、MS/MSおよび/またはMSn測定において生じるピークの選択的な検出が可能となる。
【0033】
本発明で得られた生体成分分離溶液、あるいは生体成分分離方法又は生体成分分離装置で得られた溶液を用いて、上記分析装置を使用することにより、さらに発展されれば各種微量タンパク質成分の構造情報を集めることができる。それらはペプチド・マスフィンガープリント(peptide-mass fingerprint: PMF)のみならず、各ペプチドの一次構造情報(アミノ酸配列)も含まれる。
【0034】
本発明では、血液由来試料の組成を変化させ、タンパク質分析の行いやすいアルブミン等の分子量3万以上の特定のタンパク質の濃度組成比が低い溶液を得るためには、血液由来試料を分子量3万のデキストランのふるい係数を分子量6万のデキストランのふるい係数で除した値である透過比率が3以上である分離膜に供給し、分離膜を透過した液を採取する方法が採用される。
【0035】
分子量1万以下のより低分子量の物質のみを効率よく分離するのであれば、分離膜を多段に組合せ、分子量の大きい物質を排除すればよいが、本発明の特徴は、分子量1万から6万程度の分子量領域に存在する含有量の高くない(血漿中の総タンパク量の1%以下の含有量)タンパク質を濃縮できることにある。その方法のためには、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、なおかつ分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を使用し、さらにアフィニティーリガンドや抗体を組み合わせることが必要である。前記分離膜のデキストランのふるい係数は0.01以上であることが好ましく、また分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率は5以上であることが好ましく、更には10以上であることが好ましい、上限値は特に設けないが、この値があまりにも高い膜分離ユニットでは、所望の分子量領域のタンパク質を回収する量が少なくなってしまうことが懸念されるため、好ましくは100以下である方がよい。
【0036】
この分離膜には中空糸膜を用いることが好ましい。中空糸膜はタンパク質を透過する目的では、従来より人工腎臓と言われる透析モジュールの素材として多く利用されている。人工腎臓に使用される分離膜は、アルブミン等のタンパク質をなるべく透過させないようにし、クレアチニンや尿素などの低分子成分を透過させるよう設計されており、中空糸内腔側に血液を流し、中空糸外腔から、生体にとって不要な老廃物や低分子のタンパク質を流出させることにより血液を浄化している。
【0037】
本発明の分離膜においては、中空糸膜を通じて中空糸内腔側から外側に透過していく手法が好ましい。特に、中空糸内腔側にはアルブミン等の高分子量成分をなるべく透過せず、一方、主に分子量3万以下のタンパク質成分を透過させることにより、溶液を得る方法が好ましい。平膜の分離膜を用いても同様の結果を得ることは可能であるが、中空糸膜の利用は処理液量あたりの表面積を大きくする事が容易であること、また操作上の圧力損失が少ないため、効率よく本発明を実施することができる。また、中空糸膜の内径は、1000μm以下であることが好ましく、更に500μm以下であることが好ましい。特に下限は設けないが、中空糸膜の圧力損出が大きくなり過ぎないように50μm以上であることが好ましい。また中空糸型分離膜に親水性成分が1重量%以上含まれていることが好ましい。
【0038】
本発明においては、分離膜の原液側に、生体成分含有溶液を流入開始後に、生体成分含有溶液に対する希釈液を流入させる。希釈液を追加すると、膜の表面での過剰な濃縮が防止され、分離膜の透過比率の悪化が防止されるからである。
【0039】
また、希釈液には生理的食塩水または「緩衝溶液」を用いることが好ましい。「緩衝溶液」としては、MES、BIS−TRIS、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、BIS−TRIS PROPANE、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、MOBS、TAPSO、TRIZMA、HEPPSO、POPSO、TEA、EPPS、TRICINE、GLY−GLY、BICINE、PBS、TAPS、AMPD、TABS、AMPSO、CHES、CAPSO、AMP、CAPS、CABS等を挙げることができる。上記緩衝溶液は略称で示してあるが、詳細な内容は和光純薬工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)などの試薬メーカーのカタログ(例えば2004年度版)やMSDS(安全性データシート)を参照すれば理解できる。
【0040】
本発明の分離膜ユニットとは、分離膜を内蔵し、分離膜の原液側流路に連結された原液入口および原液出口、ならびに分離膜の透過液の出口を有するモジュール、原液入口と原液出口とを連結し、途中にポンプおよび分離用対象液入口を有する溶液循環回路、ならびに分離用対象液入口の上流の位置に、又は溶液循環回路の途中の位置に、設けられた希釈液流入口を具備することを特徴とする生体成分の組成が変化した溶液を調製するための液流回路を備えたものをさす。複数の分離膜モジュールを多段に組み合わせることが好ましい。
【0041】
分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットとは、前記分離膜モジュールを少なくとも2個含み、前記の液流回路の分離対象液出口と他の液流回路の分離対象液入口が液流路で直接又は間接に連結されていることを特徴とする、生体成分の組成が変化した溶液を調製するための装置のことである。また、第1段目のユニットは分離膜の原液側に流入する生体成分含有溶液の流量Q1、透過した液の流量Q2が、0.005≦Q2/Q1≦0.5を満たす条件で分離されることを特徴としているものであり、透過した液の流量Q2と分離膜の原液側に流入する生体成分含有溶液および希釈液の流量の和Q3は、ほぼ等量である。
【0042】
さらに、2個のモジュールを準備し、第1のモジュールにおいて、上述のように希釈液を追加流入させつつ、生体成分の組成が変化した溶液を得た後、当該溶液を第2のモジュールに流入させ、さらに希釈液を追加流入させつつ、さらに生体成分の組成が変化した溶液を調整すれば、プロテオーム解析にさらに好適な高分子量のタンパク質が除去された溶液を調整することができる。
【0043】
さらに、第3、第4など追加のモジュールを準備し、同様の工程を行うこともできる。分離膜は分子量1万以上6万以下のタンパク質を得ることを目的とするものであるが、膜による分離後、余分な水分などの溶媒を取り除きタンパク質を濃縮する機能を有したユニットを必要に応じて組み合わせてもよい。濃縮用に使用される分離膜の分子分画性能に関しては、生理的食塩水中でペプチドを通過させない程度の分子分画能、すなわち50%カットオフ値が分子量1000以下が好ましく、さらに好ましくは100以下である分離膜が用いられる。この、タンパク質を濃縮するためのユニットを「濃縮ユニット」とよぶ。濃縮については(3)の濃縮工程で子細説明する。
【0044】
「膜分離システム」とは膜を用いて血清などの血液由来試料から回収目的である分子量1万以上3万以下のタンパク質を分離する膜分離工程を単独であるいは連結された多段膜で有するシステムのことである。
(2)吸着工程
「吸着工程」とは水溶液中のアルブミン等の分子量3万以上の特定タンパク質を吸着する工程を意味する。ここでいう「吸着」とは水溶液中に可溶化しているアルブミンおよび他の特定タンパク質がアフィニティーリガンドおよび/または抗体との相互作用により捕捉されることをいう。分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体は、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減するものである。
【0045】
本発明において、アフィニティーリガンドおよび/または抗体の存在場所は第一段目の膜分離工程で処理された液が接触する部位であれば特に特定しないが分離膜もしくは分離膜によって処理された溶液が通過する流路、の一部に組み込まれていることが好ましい。また、分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットの場合には、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、第一段目の分離膜の下流側に組み込まれていることが好ましい。まず第1段目の分離膜で分子量6万以上の高分子成分を除外することが効果的だからである。
【0046】
存在形態としてはビーズに固定化したアフィニティーリガンドおよび/または抗体を回路の一部もしくは全体に充填して用いることや、アフィニティーリガンドおよび/または抗体を平面フィルター、あるいは中空糸モジュールの膜に固定化させることが好ましい。
【0047】
補足される目的の特定のタンパク質は、血液試料中に存在するものから少なくとも1種類選ばれ、通常は存在量の多いものから選ばれるが、この生体成分分離溶液を分析などに使用するときに分析感度に影響を与えるものが適宜選択される。好ましくは、具体的にはアルブミン、免疫グロブリンG、トランスフェリン、フィブリノゲン、免疫グロブリンA、α2マクログロブリン、免疫グロブリンM、α1アンチトリプシン、補体C3因子、ハプトグロビン、アポリポプロテインA1、α1酸性糖タンパク、リピドプロテインa、ファクターH、セルロプラスミン、補体C4因子、補体ファクターB、プレアルブミン、補体C9因子、補体C1q因子、補体C8因子、コラーゲン、ミオシン、アクチン、サイトケラチン、ケラチン、フィブロネクチンを例示することができる。
【0048】
また、ミオシン、アクチン、サイトケラチン、ケラチン等は通常血液には含まれない成分であるが、組織からの混入や、採血の際の皮膚からの混入などによって、この生体成分分離溶液を分析などに使用するときに分析感度に影響を与える場合があり、除去することが必要となった場合に特定のタンパク質として選択される。
【0049】
この中で、血液由来試料中に大量に含まれることから、アルブミンは好ましい物質である。アルブミン以外にも免疫グロブリンGや免疫グロブリンAに代表される免疫グロブリン類、トランスフェリン、ハプトグロビン、アンチトリプシン等の血液中に特に高濃度で存在するタンパク質を選択することは特に好ましい選択方法である。また、複数の特定のタンパク質を同時に除去することは好ましい。ここで、他の方法により取り除くことが可能であれば、特に帆属されるタンパク質として選定しなくても良い。
【0050】
補足される目的の特定タンパク質が免疫グロブリン類である場合には、免疫グロブリンに対する抗体を用いる代わりにアフィニティーリガンドであるプロテインAやプロテインGあるいはプロテインL等を用いることが好ましい。
【0051】
抗体の固定化方法としては、特に限定しないが、抗体の−NH2末端を固定する方法や抗体の糖部分を酸化処理して固定化する方法、プロテインAやプロテインG等のリガンドに固定化する方法等が効率よく抗体を固定化する方法として使用できる。
【0052】
用いる抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも限定されることなく使用できる。また抗体を構成するタンパク質は免疫グロブリン類であれば特に限定されるものではないが、免疫グロブリンGが好ましい。
【0053】
本発明で用いる担体の素材は特に限定しないが、セルロース、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ弗化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より1種類以上選択される高分子を含むの素材が使用されるのが好ましい。膜構造に関しては、均一構造に近いスポンジ構造を有するものや、緻密層と空隙率が高く膜強度を維持する支持層の二層構造からなるもののいずれも用いることができる。
【0054】
また素材形態としては、球状ビーズ、繊維等の形態、繊維を編地、不織布、ステープルを用いた平面状の形態、中空糸の形態などが挙げられ、それぞれに表面の凹凸が大きい多孔体形状であることが吸着表面積を増大させる効果のために好ましい。また、平膜や中空糸膜等の分離膜の形態であれば、分離と吸着を同時に達成できるため、特に好ましい。
【0055】
膜基材自体の特性としては、非特異的タンパク質吸着を抑えるために親水性化されたものや、アルブミン等の高分子量タンパク質を選択的に吸着するために疎水性化されたものが、分離と吸着の各工程に応じて、適宜選択されて使用される。
【0056】
親水性膜では、親水性の単量体と疎水性の単量体を共重合させたものや、親水性の高分子と疎水性の高分子をブレンド製膜したもの、あるいは疎水性の高分子からなる膜の表面に親水性ポリマーを結合、付着させたもの、疎水性の高分子からなる膜の表面を化学処理、プラズマ処理、放射線処理したものなどがあげられるが、親水化されていればその方法は特に限定されない。親水性成分は特に限定しないが、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性高分子が好ましい。疎水性膜では、疎水性成分を混入させたり、疎水性リガンドを膜表面に導入したものが用いられる。疎水性成分としてはメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の炭素−炭素二重結合を有する付加重合性化合物からなる重合体や、ポリスルホン、セルロースなどの重合体を例示することができるが、膜素材として用いることができるものであれば特に限定されるものではない。
【0057】
さらには、ポリエチレンイミン、アミノメチルピリジン、ポリフェノール、ブルー色素、2価金属イオン、疎水性芳香族化合物等のうち、少なくともいずれかひとつ以上を固定化した素材を用いることもできる。
【0058】
担体固定用膜の分子分画性能に関しては特に限定しないが、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である膜を用いることが好ましい。
【0059】
この工程で得られた非吸着画分は必要に応じ次の再膜分離工程に供される。再膜分離工程は省略してもよい。
【0060】
吸着工程と再膜分離工程では、展開する緩衝液中に、各種の薬剤を加えて、吸着あるいは分離性能を向上させることができる。具体的には、工程に用いる水溶液中に、界面活性剤、乳化剤、有機溶媒、アルコール、エチレングルコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンイミン、アミノメチルピリジン、硫酸プロタミン、硫酸アンモニウム、ポリフェノール、ブルー色素、カオトロピック塩および疎水性化合物からなる群より1種類以上選択される物質を含むことを特徴とする
たとえば、吸着工程ではアルブミンの凝集を促進させる硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、ポエチレンイミン、カオトロピック塩等を適宜加えることにより、高分子成分のタンパク質の凝集による巨大分子化を促進し、吸着の促進や膜からの漏出を抑制し、高分子成分を効率的にカットオフすることができる。一方、再膜分離工程では、界面活性剤(両性界面活性剤や陰イオン性海面活性剤等)を適宜加えることにより、タンパク質間の相互作用を抑制し、分子量分画を効率的に行うことができる。
【0061】
この工程で得られたろ過画分は次の濃縮工程に供される。吸着工程や再膜分離工程で溶液を十分に分離分画できる場合には、濃縮工程は省略される。
(3)濃縮工程
「濃縮工程」とは水溶液中のタンパク質を濃縮する工程を意味する。ここでいう「濃縮」とは水溶液中から過剰な水及び分子量1000以下の低分子成分を除去し、残液中のポリペプチド部分が濃縮されることをいう。本工程では、平面フィルターあるいは中空糸モジュールの膜に分子ふるい効果を有する多孔性膜を用い、分子ふるいによる濃縮を行う。サンプルが少量の場合には、遠心型のチューブに平面フィルターを貼り付けた濃縮デバイスを、大量のサンプルの場合には、中空糸を用いることが有効である。
【0062】
本発明で用いる膜の素材は特に限定しないが、セルロース、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート等のポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ弗化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より1種類以上選ばれる高分子を含む素材が使用される。膜構造に関しては、均一構造に近いスポンジ構造を有するものや、緻密層と空隙率が高く膜強度を維持する支持層の二層構造からなるもののいずれも用いることができる。
【0063】
濃縮工程に使用する膜の分子分画性能に関しては、生理的食塩水中でペプチドを通過させない程度の分子分画能(50%カットオフ値が分子量1000以下、好ましくは100以下)を有する膜か限外ろ過膜が好ましく用いられる。
(4)全体の構成ならびに運転条件
各工程は水溶液流路で直結され、連続して稼動できることによって、簡便かつ自動的に連続運転できるという効果が得られるが、必要により、各工程を独立して稼動させてもよい。チューブにはポンプが装着され、ポンプにより送液されるが、小規模の場合にはシリンジによる送液、濃縮行程では遠心チューブ型装置による濃縮を行っても構わない。また、本発明のいう「組み合わされた各工程が、水溶液流路によって直結され、連続して稼働できる」とは、複数の工程が水溶液流路で結ばれた複数の装置で行われていることを意味し、単独で複数の工程を行う装置を複数個水溶液流路によって直結される態様も含む。すなわち、分子量6万以下の分子量を有するタンパク質を効率よく得る第一工程の中空糸モジュールと、アルブミン等の特定のタンパク質を吸着除去する工程とタンパク質溶液を濃縮する工程を同時に行う第二の中空糸モジュールが水溶液流路で直結されているような態様も含まれる。
【0064】
上記の(1)(2)の工程はこの順列で組み合わせることが必須であるが、(3)は組み合わせることによって、より優れた効果を得ることができる。また、(1)の前処理として更に膜分離工程を組み合わせることや、(1)と(2)の工程の間に濃縮工程を挟み込むこと、更には(2)の後で再度膜分離工程を組み合わせることについての判断は、検体に含まれるタンパク質の組成の程度によって判断される。また、(1)と(2)の機能を併せ持つ分離膜ユニットの繰り返しや(3)の工程との組合せも検体によって適宜判断される。
【0065】
本発明は血液由来試料、特にヒトの血漿、血清等からの生体分子の分離に適する。上記の各フィルターならびに中空糸モジュールのサイズならびに還流液の流速は、試料の質と量に依存して適宜決められるが、いわゆる卓上サイズで実施する場合、血漿では0.1〜400mL好ましくは1〜20mLで実施され、流速は0.2〜20mL/min好ましくは1〜10mL/minで行われる。
【0066】
また、膜分離システムは高速処理が可能であり、所要時間としては、1回の処理時間が0.5〜6時間以内で、検体のコンタミネーションおよびバイオハザードの防止の点から、一連のデバイスは一回使用とする装置を作製する事が可能である。電気泳動システムや液体クロマトグラフィーを用いる分析では、機器を再使用して用いるため、検体による汚染の危険性や再生した分析カラムによる再現性への影響などが問題となることがあり、操作の煩雑さも含めて必ずしも多数の検体の頻回処理には向いていない。本発明になるタンパク質分画デバイスはディスポーザブル仕様化が可能であり、検体からの汚染の回避や分析の再現性の確保の点からも大きな利点である。
【0067】
以下、本発明の分離膜の使用の一態様例につき、図を用いながら説明する。図1は、溶液を調製する装置の例を示した概略図である。液の流れを矢印で示してある。血清など生体成分である検体又はそれを含む生体成分含有溶液は、注入用ポンプ100から、三方バルブ101を通じて、第1工程の特定の透過比率を有する分離膜を内蔵する第1分離膜モジュール105に注入され、チューブからなる溶液循環回路102の中を循環用ポンプ103によって送液せられ、循環する。第1工程で分離膜を透過した透過液は、透過液の出口である1段目の膜ユニット処理液回収口104から得られる。この態様が1工程の基本単位(ユニット)である。高分子量のタンパク質をさらに除去したい場合には、複数のモジュールを連結することができる。図2は2本のモジュールを連結して2段処理を行う例を示している。
【0068】
透過した液は、透過液出口である膜分離ユニットの処理液回収口に直結されたチューブによって次工程のユニットに注入される。目的とする溶液は工程の最下流のユニットに存在する回収口(図1の装置においては104,図2の装置においては204)から得られる。
【0069】
図3は2段処理を行った後3段目に濃縮用の分離膜ユニットを連結して3段処理を行う例を示している。目的とする溶液は濃縮用のユニットの処理液回収口308から回収される。
【0070】
本発明においてアフィニティーリガンドあるいは抗体で特定タンパク質を除去するのは、第1段目の分離によって大分子量領域の物質排除後の工程に限定される。すなわち図1および図2においては107の膜の外側から回収口に至る間であり、図3においては107の膜の外側から307の膜の内側に限定される。図3の装置の様に濃縮用のユニットを連結している場合には回収液への抗体の混入を防止するために、抗体は107の膜の外側から207の膜の内側に存在することが好ましい。図4は、特定タンパク質を除去するための抗体を抗体モジュールとして1段処理した後の工程に組み込む例を示している。
【実施例】
【0071】
以下実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない
(透過比率の測定方法)
内径200μmの中空糸膜100本を、直径約5mm、長さ12cmのガラス製ハウジングに充填し、分離される溶液が流入する入口及び流出する出口をコニシ(株)製エポキシ樹脂系化学反応形接着剤クイックメンダー(登録商標)でポッティングすることによって、分離膜モジュールを作製する。次いで、該モジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて、1時間洗浄する。
【0072】
デキストランの透過率の測定方法は次のように行った。FULKA社製デキストラン 平均分子量〜1500(No.31394)、平均分子量〜6000(No.31388)、平均分子量15000〜20000(No.31387)、平均分子量〜40000(No.31389)、平均分子量〜60000(No.31397)、平均分子量〜200000(No.31398)を各々0.5mg/mL(溶質全体では3.0mg/mL)になるように蒸留水で溶解し、デキストラン水溶液(原液)を作成する。モジュールに対して、原液側の液を循環するポンプと濾過をかけるポンプを準備し、限外濾過水を用いて、原液循環流量が5ml/min、濾過流量が0.2mL/minになるように流速を調整する。次いで、充填している限外濾過水を原液に置換した後、室温(25℃)にて濾過を開始する。この時、モジュール出口の原液および濾液は戻さずに廃棄する。60分から75分後の液を採取し、モジュール原液入口、出口および濾液中のデキストランの示差屈折率を測定し、これらの測定値からデキストランのふるい係数を算出する。
【0073】
デキストラン濃度の測定は、次のように行った。サンプリングした溶液を細孔径0.5ミクロンのフィルターで濾過し、その濾液をGPC用カラム(東ソーTSK-gel-G3000PWXL)、カラム温度40℃、移動相を液クロ用蒸留水1mL/min、サンプル打ち込み量100μlで分析を行い、示差屈折率計(東ソー社製 RI-8020)にてslice time 0.02min、base-line-range 4.5〜11.0minで測定する。カラムのキャリブレーションは、測定直前に単分散のデキストラン(Fluka社製デキストランスタンダードNo.31416, No.31417, No.31418, No.31420, No.31422)を用いて行う。キャリブレーションでは、各デキストランスタンダードをNo.31416, No.31418, No.31422とNo.31417, No.31420に分けて、各々0.5mg/mLに溶解し、各々のピークトップのretention timeと重量平均分子量をプロットし、指数近似曲線を求めることでretention timeと重量平均分子量の関係を求めた。ふるい係数は、モジュール原液入口の示差屈折率値(Ci)、出口の示差屈折率値(Co)、濾液の示差屈折率値(Cf)を測定し、以下の式によりふるい係数(SC)を算出することができる。
【0074】
SC=2Cf/(Ci+Co)
得られたデキストラン重量平均分子量3万のふるい係数をデキストラン重量平均分子量6万のふるい係数で除した値を透過比率とする。
(電気泳動によるタンパク質分析)
得られた生体成分分離溶液(分析用溶液)を電気泳動法によって分析した。方法は次の通りである。
【0075】
1.生体成分分離溶液にサンプルバッファーを等量加え、100℃3分加温し、泳動用サンプルとする。サンプルバッファーとして、グリセリン10ml、SDS 1g、BPB 0.05g、0.2M Tris-HCl pH6.8(TrisにHClを加え、pH6.8にしたもの)25ml、蒸留水14mlを混合したものを用いる。
【0076】
2.市販のSDS-PAGE用ゲルであるSDS-PAGEmini 4-20% 1.0mm厚 10well(TEFCO製)を用いて、非特許文献6に記載の方法にて泳動する。
【0077】
3.ゲルカセットからゲルを取り出し、蛍光染色を行う。蛍光染色は、市販のキットであるDeep Purple Total Protein Stain(アマシャムバイオサイエンス社製)を使用する。
【0078】
(実施例1)
東レ製人工腎臓であるトレスルホンBS−Pから取り出したポリスルホン中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを同様に2本作成した。該ミニモジュールの内直径は約7mm、長さは約12cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。内1本の分子量6万のデキストランふるい係数は0.15、3万のデキストランのふるい係数は0.857であり、分子量3万と6万のデキストラン透過比率は5.7であった。その後、PBS溶液(生化学工業製、ダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」を調整したもの。以降PBSと略す)を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。
【0079】
ヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した(本工程は、廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と回収目的の分子量6万以下のタンパク質を分離する工程に相当する)。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。分画前の血清中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製Cat No. E80-129)にて測定した結果は22872μgであり、2時間で得た濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は9456μgであった。
【0080】
得られた濾液を遠心分離型分離膜(ザルトリウス製vivaspin, 3000MWCO)を用いて1mLまで濃縮し、さらに緩衝液A(アジレント製No.5185-5987)4mlを加え、0.22μmの遠心フィルターにて濾過した。この濾過液の内500ulを6種の抗体を組み合わせたカラムであるMultiple Affinity Removal Column(アジレント製No.5185-5985)にアプライした。このカラムに固定化されている抗体は表1に示した6種類である。
【0081】
【表1】

【0082】
次に緩衝液Aをカラムボリュームの10倍量流し、得た溶液を素通り画分とした。つぎに、カラムに吸着したタンパク質を緩衝液B(アジレント製No.5185-5988)をカラムボリュームの10倍量流し、得た溶液を吸着画分とした。素通り画分、吸着画分を遠心分離型分離膜(ザルトリウス製vivaspin, 3000MWCO)を用いて濃縮し、SDS-PAGEにて分析した。分析の結果を図5に示す。素通り画分から分離されたバンドと吸着画分から分離されたバンド位置には重なりはほとんどなく、6種類のタンパク質は抗体によってほぼ吸着除去され、特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であった。プロテオーム解析に好ましく用いることができた。
【0083】
(比較例1)
実施例1で用いたのと同一ロットのヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)40μLを実施例1で用いた抗体カラム専用緩衝液にて5倍に希釈し分離した。素通り画分、吸着画分を遠心分離型分離膜(ザルトリウス製vivaspin, 3000MWCO)を用いてそれぞれ0.2mLまで濃縮し、内、各5μLをSDS-PAGEにて分析した。分析の結果を図6に示す。抗体によってアルブミンをはじめいくつかのバンドが消失し、特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であったが、図5のレーン3に比べ広範囲の分子量領域に渡り多くのバンドが存在していた。プロテオーム解析に好ましく用いることができなかった。
【0084】
(実施例2)
東レ製人工腎臓であるトレスルホンBS−ULから取り出したポリスルホン中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを同様に2本作成した。該ミニモジュールの内直径は約7mm、長さは約12cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。内1本の分子量6万のデキストランふるい係数は0.0226、分子量3万のデキストランのふるい係数は0.3829であり、分子量3万と6万のデキストラン透過比率は16.9であった。その後、PBS溶液(生化学工業製、ダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」を調整したもの。以降PBSと略す)を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。
【0085】
ヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した(本工程は、廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と回収目的の分子量6万以下のタンパク質を分離する工程に相当する)。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。分画前の血清中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製Cat No. E80-129)にて測定した結果は22872μgであり、2時間で得た濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は791μgであった。
【0086】
この操作で得られた濾液を実施例1と同じ方法で濃縮し、実施例1と同じ抗体カラムで分離した。得られた溶液を濃縮後、SDS−PAGEにて分析した。その結果アルブミンより高分子量領域のタンパク質はほぼ膜分離によって除去され、特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であり、分子量3万近傍の領域に存在するタンパク質が濃縮された。プロテオーム解析に好ましく用いることができた。
【0087】
(実施例3)
東レ製人工腎臓であるトレスルホンTS−MLから取り出したポリスルホン中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを同様に2本作成した。該ミニモジュールの内直径は約7mm、長さは約12cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。内1本の分子量6万のデキストランふるい係数は0.007329、分子量3万のデキストランのふるい係数は0.244であり、分子量3万と6万のデキストラン透過比率は33.3であった。その後、PBS溶液(生化学工業製、ダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」を調整したもの。以降PBSと略す)を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。
【0088】
ヒト血清(SIGMA社 H1388、Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した(本工程は、廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と回収目的の分子量6万以下のタンパク質を分離する工程に相当する)。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。分離前の血清中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製Cat No. E80-129)にて測定した結果は22872μgであり、2時間で得た濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は99μgであった。
【0089】
この操作で得られた濾液を実施例1と同じ方法で濃縮し、実施例1と同じ抗体カラムで分離した。得られた溶液を濃縮後、SDS−PAGEにて分析した。結果を図7に示す。アルブミンのみならずアルブミンより低分子量領域のタンパク質も多くは膜分離によって除去され、特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であった。膜を透過したタンパクの絶対量が低く、プロテオーム解析に用いるには、さらなる濃縮が必要であったが、ある程度の解析結果は得ることが出来た。分子量6万のデキストランのふるい係数は0.01以上あることが、より好ましいことが確認できた。
【0090】
(比較例2)
東レにて試験的に製糸したポリスルホン中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを同様に2本作成した。該ミニモジュールの内直径は約7mm、長さは約12cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。内1本の分子量6万のデキストランふるい係数は0.000872、分子量3万のデキストランのふるい係数は0.0012であり、分子量3万と6万のデキストラン透過比率は13.8であった。その後、PBS溶液(生化学工業製、ダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」を調整したもの。以降PBSと略す)を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。
【0091】
ヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した(本工程は、廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と回収目的の分子量6万以下のタンパク質を分離する工程に相当する)。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。分離前の血清中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製Cat No. E80-129)にて測定した結果は22872μgであり、2時間で得た濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は2.3μgであった。
【0092】
この操作で得られた濾液を実施例1と同じ方法で濃縮し、実施例1と同じ抗体カラムで分離した。得られた溶液を濃縮後、SDS−PAGEにて分析した。特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であったが、アルブミンのみならずアルブミンより低分子量領域のタンパク質もその殆どが膜分離によって除去され、特定バンドとして検出できなかった。特定のタンパク質の濃度変化も検出できなかった。分子量6万のデキストランのふるい係数は少なくとも0.001以上必要であることが確認できた。
【0093】
(比較例3)
旭メディカル(現 旭化成メディカル)製人工腎臓であるAM−SDから取り出した再生セルロース中空糸100本を束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを同様に2本作成した。該ミニモジュールの内直径は約7mm、長さは約12cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有している。該ミニモジュールの中空糸およびモジュール内部を蒸留水にて洗浄した。内1本の分子量6万のデキストランふるい係数は0.0154、分子量3万のデキストランのふるい係数は0.0292であり、分子量3万と6万のデキストラン透過比率は1.9であった。その後、PBS溶液(生化学工業製、ダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」を調整したもの。以降PBSと略す)を充填し、中空糸膜ミニモジュール(以降、ミニモジュール1と略す)を得た。
【0094】
ヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)を3000rpm15分の条件にて遠心処理を行い沈殿物を取り除いた後0.45μmのフィルター処理を行った。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した(本工程は、廃棄目的の分子量6万以上のタンパク質と回収目的の分子量6万以下のタンパク質を分離する工程に相当する)。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。分離前の血清中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製Cat No. E80-129)にて測定した結果は22872μgであり、2時間で得た濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は269μgであった。
【0095】
この操作で得られた濾液を実施例1と同じ方法で濃縮し、実施例1と同じ抗体カラムで分離した。得られた溶液を濃縮後、SDS−PAGEにて分析した。その結果アルブミンのみならずアルブミンより低分子量領域のタンパク質も多くは膜分離によって除去され、特定のタンパク質の濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であったが、プロテオーム解析に好ましく用いることができなかった。分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率は3以上が必要であることが確認できた。
【0096】
(実施例4)
HiTrap NHS-activated(アマシャムバイオサイエンス製)に抗ヒトアルブミン抗体(Goat Anti-Human Albumin, Policlonal Antibody; Affinity Purified、Academy Bio-Medical Company,Inc.製)5mgを固定化し、抗ヒトアルブミン抗体カラムを作製した。過剰のヒトアルブミン溶液を本カラムにアプライし、本カラムのアルブミン吸着容量を測定したところ960μgであった。本カラムは0.1Mのグリシン塩酸緩衝液(pH2.7)にて洗浄し、PBSで洗浄・平衡化した。グリシン塩酸緩衝液とPBSにて交互に洗浄を繰り返し、抗体がカラムから外れてこないことを確認した。
【0097】
実施例2と同様にトレスルホンBS−ULから取り出したポリスルホン中空糸100本を束ね、ミニモジュール1を作成し、実施例1と同様にヒト血清(SIGMA社 H1388、 Lot 28H8550)をフィルター処理した。ミニモジュール1の透析液側の一方をキャップし、一方はシリコーンチューブをつなぎ、ペリスタリックポンプに接続した。中空糸膜内側の液は入口と出口をシリコーンチューブでつなぎ、ペリスタリックポンプを用いて血清を循環できるようにした。透析液側のシリコンチューブを抗ヒトアルブミン抗体カラムに接続し、中空糸膜で濾過された溶液が抗体カラムを通過するようにした。
【0098】
1mlの血清をPBSで4mlに希釈し、循環流量5ml/min、濾過流量0.2mL/minの流速で20℃、2時間濾過を実施した。この時濾過された容量分はPBSを血清に加えて、循環する液量は一定に保った。実施例2の結果から、分離・分画前の血清中の総アルブミン量は22872μgであり、2時間で得た抗体カラム通過前の濾液中の総アルブミン量は791μgと予測される。2時間で得た抗体カラム通過後の濾液中の総アルブミン量をHuman Albumin ELISA Quantitation Kitにて測定した結果は1μg以下であった。アルブミンの濃度は抗体カラムを用いない場合に比べて10%以下の濃度であり、プロテオーム解析に好ましく用いることができた。この結果、連結された回路の中で膜による分離と抗体によるアルブミン除去が同時に行えたことになる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の分離システムの膜分離ユニット概略図である。
【図2】本発明の分離システムの概略図である。(膜分離ユニットが2個)
【図3】本発明の分離システムの概略図である。(膜分離ユニットが2個、濃縮ユニットが1個の例)
【図4】本発明の分離システムの概略図である。(膜分離ユニットが2個、アフィニティーリガンドあるいは抗体含有モジュールが1個、濃縮ユニットが1個の例)
【図5】実施例1で得られた各画分の電気泳動(SDS-PAGE)写真である。抗体カラム(Multiple Affinity Removal Column)処理前のサンプルに多量に存在していたアルブミンが抗体カラム素通り画分からはほぼ消失している。
【図6】比較例1で得られた各画分の電気泳動写真である。分離膜未処理血清を抗体カラム処理しても、高分子量領域に多くのタンパク質が存在している。
【図7】実施例3で得られた各画分の電気泳動写真である。得られた溶液のタンパク量が低くバンドは全体的にうすい。
【符号の説明】
【0100】
100 注入用ポンプ
101 三方バルブ
102 溶液循環回路
103 循環用ポンプ
104 膜分離ユニット処理液回収口
105 分離膜モジュール
106 モジュールの下部ポート
107 モジュール内部の半透膜(イメージ)
202 2段目溶液循環回路
203 2段目循環用ポンプ
204 2段目の膜分離ユニットの処理液回収口
205 第2分離膜モジュール
206 2段目のモジュールの下部ポート
207 2段目モジュール内部の半透膜(イメージ)
302 濃縮ユニット溶液循環回路
303 濃縮ユニット循環ポンプ
304 濃縮ユニットの濾液出口
305 濃縮膜モジュール
306 濃縮用モジュールの下部ポート
307 濃縮用モジュール内部の半透膜(イメージ)
308 濃縮ユニットの処理液回収口
400 アフィニティーリガンドあるいは抗体含有モジュール
1 電気泳動用分子量マーカー(RPN5800)
2 実施例1で得た濾液
3 実施例1で得た濾液の抗体カラム素通り画分
4 実施例1で得た濾液の抗体カラム吸着画分
5 実施例1のヒト血清
6 ヒト血清の抗体カラム素通り画分(比較例1)
7 ヒト血清の抗体カラム吸着画分
8 実施例3で得た濾液
9 実施例3で得た濾液の抗体カラム素通り画分
10 実施例3で得た濾液の抗体カラム吸着画分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液由来試料から得られる生体成分分離溶液であって、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を用いた分離システムを用い、更に分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いて、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減させたことを特徴とする生体成分分離溶液。
【請求項2】
特定のタンパク質がアルブミン、免疫グロブリンG、トランスフェリン、フィブリノゲン、免疫グロブリンA、α2マクログロブリン、免疫グロブリンM、α1アンチトリプシン、補体C3因子、ハプトグロビン、アポリポプロテインA1、アポリポプロテインB、α1酸性糖タンパク、リピドプロテインa、ファクターH、セルロプラスミン、補体C4因子、補体ファクターB、プレアルブミン、補体C9因子、補体C1q因子、補体C8因子、コラーゲン、ミオシン、アクチン、サイトケラチン、ケラチン、フィブロネクチンのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の生体成分精製溶液
【請求項3】
複数の特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減させたことを特徴とする請求項1または2に記載の生体成分精製溶液
【請求項4】
分離膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
【請求項5】
分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体成分分離溶液。
【請求項6】
親水性成分の含有率が1重量%以上の分離膜であることを特徴とする請求項5に記載の生体成分分離溶液。
【請求項7】
血液由来試料から生体成分を分離する方法であって、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を用いた分離システムを用い、更に分子量3万以上の特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いて、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ、特定のタンパク質を10%以下の濃度に低減することを特徴とする生体成分分離方法
【請求項8】
特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、少なくとも分離膜もしくは分離膜によって処理された溶液が通過する流路、の一部に組み込まれていることを特徴とする請求項7に記載の生体成分分離方法
【請求項9】
分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットであり、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、第一段目の分離膜の下流側に組み込まれていることを特徴とする請求項7または8に記載の生体成分分離方法。
【請求項10】
アフィニティーリガンドおよび/または抗体で処理した溶液を、50%カットオフ値が分子量1000以下の膜を用いてさらに溶媒を取り除くことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の生体成分分離方法。
【請求項11】
分離膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の生体成分分離方法。
【請求項12】
分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の生体成分分離方法。
【請求項13】
親水性成分の含有率が1重量%以上の分離膜であることを特徴とする請求項12に記載の生体成分分離方法。
【請求項14】
血液由来試料から生体成分を分離する装置であって、分子量6万のデキストランのふるい係数が0.001以上0.5以下であり、分子量3万のデキストランと分子量6万のデキストランの透過比率が3以上である分離膜を有し、分子量3万以上の特定のタンパク質を、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を用いない場合に比べ10%以下の濃度に低減する、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体を内蔵することを特徴とする生体成分分離装置
【請求項15】
特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、分離膜もしくは、分離膜によって処理された溶液が通過する流路の一部に組み込まれていることを特徴とする請求項14に記載の生体成分分離装置
【請求項16】
分離膜モジュールを多段に組み合わせたユニットであり、特定のタンパク質に対するアフィニティーリガンドおよび/または抗体が、第一段目の分離膜の下流側に組み込まれていることを特徴とする請求項14または15に記載の生体成分分離装置。
【請求項17】
アフィニティーリガンドおよび/または抗体で処理した溶液を、50%カットオフ値が分子量1000以下、好ましくは100以下の膜を用いてさらに溶媒を取り除くことを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の生体成分分離装置。
【請求項18】
分離膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の生体成分分離装置。
【請求項19】
分離膜に親水性成分が含有されていることを特徴とする請求項14〜17のいずれかに記載の生体成分分離装置。
【請求項20】
親水性成分の含有率が1%以上の分離膜であることを特徴とする請求項19に記載の生体成分分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−256995(P2006−256995A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74810(P2005−74810)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】