生体試料の長期間ないし連続的検出方法
【課題】生きた細胞や組織等の生体試料の長期間ないし連続的検出が可能な装置および方法を提供すること。
【解決手段】本発明の生体試料検出装置は、高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えている。
【解決手段】本発明の生体試料検出装置は、高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織等の生体試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないようにして長期間ないし連続的に検出する方法に関する。本発明は、その方法により実行される自動化装置のためのソフトウェアも包含する。
【背景技術】
【0002】
生物学分野や医学分野の研究において、細胞等の生体試料の生物学的活性をレポータアッセイにより検出する技術が広く利用されてきた。レポータアッセイを用いると、視覚的に調べることが不可能な様様な生物学的活性を可視化することができる。従来の臨床的な検査は、生体試料から調べたい生体関連物質(核酸、血液、ホルモン、タンパク質等)のみを種々の分離方法により単離して、その単離した生体関連物質の量や活性を試薬と反応させていた。しかし、生命体においては、多様な生体関連物質同士の相互作用こそが真の生物学的活性を示すものである。近年、医療用薬剤を研究または開発する場合、生きた生体試料中での生物学的活性に対して最も効果的に作用する薬剤が決定的条件となっている。生きた生体試料を対象としたレポータアッセイには、生体試料と調べたい生体関連物質とを画像化して、生体試料内外におぇる動的変化を経時的に観察する必要性が高まってきている。
【0003】
具体的には、レポーター物質としての発光(生物発光、化学発光)や蛍光を用いる観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。現状では、蛍光試料を対象として撮像した画像による動的変化の観察(例えば、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察)が行われている。蛍光試料の撮像の場合、励起光を照射し続けることで蛍光試料から発せられる光量が時間の経過とともに減少するという性質があるため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることが困難であったが、しかし、鮮明な、つまり、空間分解能の高い画像を短い露出時間で撮ることができた。一方、発光試料を対象とした画像による動的変化の経時的観察においては、発光試料からの発光が極めて小さいので、発光試料の観察には、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラを用いて行われていた。発光試料の撮像の場合、励起光を照射する必要がないため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることができた。
【0004】
これまで、発光試料の観察においては、発光試料からの発光量の測定が行われていた。例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞の観察では、ルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さ(具体的には発現量)を調べるために、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定が行われていた。そして、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定は、まず細胞を溶解した細胞溶解液とルシフェリンやATPやマグネシウムなどを含む基質溶液とを反応させ、ついで基質溶液と反応させた細胞溶解液からの発光量を光電子増倍管を用いたルミノメーターで定量する、という手順で行われていた。つまり、発光量は細胞を溶解した後に測定されていた。これにより、ある時点でのルシフェラーゼ遺伝子の発現量を細胞全体の平均値として測定することができた。ここで、ルシフェラーゼ遺伝子などの発光遺伝子をレポーター遺伝子として細胞に導入する方法には例えばリン酸カルシウム法やリポフェクチン法やエレクトロポーション法などがあり、各方法は目的や細胞の種類の違いに応じて使い分けられている。また、ルシフェラーゼ遺伝子がレポーター遺伝子として導入された細胞においてルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さをルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量を指標として調べる際、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の上流や下流に目的のDNA断片を繋ぐことで当該DNA断片がルシフェラーゼ遺伝子の転写に及ぼす影響を調べることができ、また、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の転写に影響を及ぼすと思われる転写因子などの遺伝子を発現ベクターに繋いでルシフェラーゼ遺伝子と共発現させることで当該遺伝子の遺伝子産物がルシフェラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることができる。
【0005】
また、時間経過に沿って発光遺伝子の発現量を捉えるには生きた細胞からの発光量を経時的に測定する必要がある。そして、生きた細胞からの発光量の経時的測定は、まず細胞を培養するインキュベーターにルミノメーターの機能を付け、ついで培養している全細胞集団からの発光量をルミノメーターで一定時間ごとに定量する、という手順で行われていた。これにより、一定の周期性をもった発現リズムなどを測定することができ、よって、細胞全体における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。一方、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、個々の細胞での発現量に大きなばらつきがある。例えば、HeLa細胞などのクローン化した培養細胞であっても、細胞膜表面のレセプターを介した薬剤の応答が個々の細胞でばらつくことがある。すなわち、細胞全体としての応答は検出されなくとも数個の細胞は応答している場合がある。このことから、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、細胞全体からではなく個々の細胞から発光量を経時的に測定することが重要である。そして、顕微鏡を用いた生きた個々の細胞からの発光量の経時的測定は、各細胞の発光が極めて弱いので、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラとフォトンカウンティング装置とを用いたりして行われていた。これにより、生きた個々の細胞における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、発光試料からの発光量が極めて少ないため、どうしても肉眼では見ることが出来ず、CCDのような蓄積型の撮像手段を用いて光量を蓄積しなければ画像生成することができない、という制約が有る。しかも、単一の細胞ないし組織を構成する細胞群において、細胞1個当りから発生する微弱光は、あまりに弱過ぎるので、鮮明な画像を撮るのに必要な露出時間が長くなる、という問題点があった。即ち、撮像の時間間隔は単位時間あたりの光量に制約されるため、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、鮮明な画像を長い時間間隔で、例えば60分間隔で、経時的に撮ることができても、10〜30分程度の短い露光時間、ひいては1〜5分の露光でリアルタイムに撮像することはできなかった、という問題点があった。特に生細胞を長時間(例えば、50分以上)露光すると、培養容器等の支持体上でさえ細胞自身が動いて鮮明な画像を形成できない場合がある。一般に、画像を用いた解析を行なうためには、正確な輪郭を認識できなければならない。従って、画像が不鮮明なときは解析結果が不正確である可能性が有る。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、発光量の少ない発光試料でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の生体試料検出装置は、高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記撮像手段が、インターバル条件設定手段をさらに具備し、生体試料に関する複数の画像を異なる時間において複数取得するのが好ましい。本発明は、上記装置を用いる検出方法も包含する。ここで、前記方法においては、微弱光を発生する細胞を少なくとも含んでいることにより、細胞を含む画像解析も可能になる。
【0009】
なお、上記の装置および方法を具体化した発光試料撮像方法は、発光試料を撮像する発光試料撮像方法において、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いることを特徴とする。また、本発明は発光細胞撮像方法に具体化することができ、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項9に記載の対物レンズは、発光試料を撮像する発光試料撮像方法で用いる対物レンズにおいて、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項16に記載の対物レンズは、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法で用いる対物レンズにおいて、当該対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項17に記載の対物レンズは、発光試料を撮像する発光試料撮像方法で用いる対物レンズにおいて、当該対物レンズおよび/または当該対物レンズを包装する包装容器に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値を表記したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる発光試料撮像方法では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いる。これにより、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0014】
また、本発明にかかる発光細胞撮像方法では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いるので、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0015】
また、本発明にかかる対物レンズは、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であるので、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0016】
また、本発明にかかる対物レンズは、従来の対物レンズと比較して、開口数が大きいことと、倍率が小さいことの両方を備えているので、本発明にかかる対物レンズを用いれば広範囲を分解能よく撮像することができる。これにより、例えば移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料を撮像対象とすることができる。また、本発明にかかる対物レンズは、当該対物レンズおよび/または当該対物レンズを包装する包装容器(パッケージ)に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値(例えば0.01以上、好ましくは0.039以上)を表記した。これにより、例えば発光画像観察を行う者は、表記された(NA÷β)の2乗の値を確認すれば、発光試料を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するのに適した対物レンズを容易に選択することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
第1の実施形態
本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置の構成について図1を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の装置に関する構成の一例を示す図である。図1に示すように、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置は、撮像対象であるサンプル1を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するためのものであり、対物レンズ2と集光レンズ3とCCDカメラ4とモニタ5とで構成されている。なお、当該装置は図示の如くズームレンズ6をさらに備えてもよい。
【0019】
サンプル1は、発光試料であり、例えば、発光タンパク質(例えば導入された遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子など)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞や、発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の臓器や、発光性の個体(動物など)などである。また、サンプル1は、具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞でもよい。対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上のものである。集光レンズ3は、対物レンズ2を介して到達したサンプル1からの発光を集める。CCDカメラ4は、0℃程度の冷却CCDカメラであり、対物レンズ2や集光レンズ3を介してサンプル1を撮像する。モニタ5はCCDカメラ4で撮像した画像を出力する。
【0020】
そして、対物レンズ2や対物レンズ2の包装容器(パッケージ)には、(NA/β)の2乗の値を表記する。ここで、(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズの一例について図2を参照して説明する。図2は、(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズ2の一例を示す図である。従来の対物レンズには、レンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)および無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)が表記されていた。しかし、本発明にかかる対物レンズ(対物レンズ2)には、レンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)、無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)の他に、さらに射出開口角(例えば、“(NA/β)の2乗:0.05”)が表記されている。
【0021】
以上、説明したように、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置において、対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である。これにより、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。また、対物レンズ2は、従来の対物レンズと比較して、開口数が大きく且つ倍率が小さいので、対物レンズ2を用いれば広範囲を分解能よく撮像することができる。これにより、例えば動きのある発光試料や移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料を撮像対象とすることができる。また、対物レンズ2は、当該対物レンズ2および/または当該対物レンズ2を包装する包装容器(パッケージ)に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値(例えば0.01以上、好ましくは0.039以上)を表記した。これにより、例えば発光画像観察を行う者は、表記された(NA÷β)の2乗の値を確認すれば、発光試料を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するのに適した対物レンズを容易に選択することができる。
【0022】
従来、ルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーターアッセイにおいては、細胞を溶解した後に発光量を測定するため、ある時点での発現量しか捉えることができず、しかも細胞全体の平均値としての計測になってしまう。また、培養しながらの計測においては、細胞コロニーの経時的な発現量の変化を捉えることはできるが、個々の細胞での発現量の変化を捉えることはできない。そして、個々の細胞の発光を顕微鏡で観察するためには、生きた細胞からの発光量が極めて弱いため、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラでフォトンカウンティングをしたりしなければならない。そのため、発光検出のカメラは高価で大掛かりなものになってしまう。しかし、レポーター遺伝子産物としてのルシフェラーゼ活性を示す個々の細胞の発光を顕微鏡によって観察する際、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度の冷却CCDカメラを用いて定量的な画像を取得することができる。すなわち、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、生きた状態で個々の細胞の発光を0℃程度の冷却CCDカメラによって観察することができるので、イメージ・インテンシファイアやフォトンカウンティングのための装置が不要である。つまり、低コストで発光試料の撮像を行うことができる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、個々の生きた細胞の発光を、培養しながら経時的に観察することができ、さらにリアルタイムに観察することもできる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、同じ細胞について、異なった条件での薬剤や刺激の応答をモニタすることができる。
【0023】
ここで、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズの理解を容易にするために、従来の対物レンズおよびそれを用いた発光画像観察について簡単に説明する。
一般に、顕微鏡観察における空間分解能εは、下記数式1で表される。
ε=0.61×λ÷NA ・・・(数式1)
(数式1において、λは光の波長であり、NAは開口数である。)
また、観察範囲の直径dは、下記数式2で表される。
d=D÷M ・・・(数式2)
(数式2において、Dは視野数であり、Mは倍率である。なお、視野数は一般に22から26である。)
従来、顕微鏡用対物レンズの焦点距離は国際規格で45mmとされていた。そして、最近では、焦点距離を60mmとする対物レンズが使われはじめている。この焦点距離を前提にしてNAが大きい、つまり空間分解能が高いレンズを設計すると作動距離(WD)は一般には0.5mm程度であり、また長WD設計のものでも8mm程度であった。このような対物レンズを用いた場合、観察範囲は0.5mm径程度である。
【0024】
しかし、ディッシュやガラズボトムディッシュに分散した細胞群や組織、個体の観察を行う場合、観察範囲が1から数cmに及ぶことがある。このような範囲を分解能よく観察したいときには、低倍率でありながらNAを大きい値で維持しなければならない。換言すると、NAはレンズ半径と焦点距離との比であるので、NAが大きいまま広い範囲を観察できる対物レンズは、低倍である必要がある。そして、結果的に、このような対物レンズは大口径となる。なお、大口径の対物レンズの製作では、一般的に光学材料の物性の均一性やコーティングの均一性において、また、レンズ形状においても高い精度が求められる。
【0025】
また、顕微鏡観察の場合、光学系の透過率や対物レンズの開口数やCCDカメラのチップ面での投影倍率やCCDカメラの性能などが像の明るさに大きく影響してくる。そして、像の明るさは、開口数(NA)を投影倍率(β)で割った値の2乗、すなわち(NA/β)の2乗で評価される。ここで、図3に示すように、対物レンズには、一般に、入射開口角NAと射出開口角NA'との間に下記数式3の関係があり、NA'2が観察者の目やCCDカメラなどに届く明るさを示す値である。
NA'=NA÷β ・・・(数式3)
(数式3において、NAは入射開口角(開口数)であり、NA'は射出開口角であり、βは投影倍率である。)
一般の対物レンズにおいて、NA'は高々0.04であり、NA'2は0.0016である。また、現在市販されている一般的な顕微鏡の対物レンズにおける像の明るさ(NA/β)の2乗の値を調査したところ、図4に示すように、0.0005から0.002の範囲であった。
【0026】
ところが、図4に示す現在市販されている対物レンズを装着した顕微鏡を用いて、例えば細胞内でルシフェラーゼ遺伝子を発現させ発光している細胞を観察しても、当該細胞からの発光を目視で観察することができないし、さらに0℃程度に冷却したCCDカメラを用いて撮像した発光画像を観察しても細胞からの発光を確認することができない。なお、発光試料を観察する場合には、蛍光観察に必要な励起光の投影は不要である。例えば、落射蛍光観察では、対物レンズは、励起光投影レンズと蛍光を集光して画像を形成するレンズとの両方の機能を満たしている。そこで、光量の少ない発光を画像で観察するためには、大きなNAと小さいβの特性を有する対物レンズが必要である。そして、結果的に、当該対物レンズは大口径となる傾向がある。なお、このような対物レンズでは、励起光投影の機能を考慮することなく機能を単純化して設計、製造しやすくすることが求められる。
【0027】
また、発光や蛍光観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。最近では、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察が行われている。これらの撮像では単位時間の撮像フレーム数が多いほど画像1フレームあたりの露出時間は短くなる。このような観察においては、明るい光学系、特に、明るい対物レンズが必要となる。しかし、蛍光に比べて発光タンパク質の光量は少ないので、1フレームの撮像に、例えば20分の露出時間を要することが多い。このような露出時間でタイムラプス観察を行うには動的な変化が非常に遅い試料に限られる。例えば、約1時間に一度分裂する細胞では、その周期内の変化を観察することはできない。従って、シグナル・ノイズ比を高く維持しながら少ない光量を効率よく画像化するために、光学系の明るさを向上することは重要である。
【0028】
以上の経緯を踏まえて製作された本発明の対物レンズは、一般に市販されている対物レンズ(例えば図4参照)に比べて、大きなNAと小さいβの特性を有している。即ち、後述するように、0℃〜5℃の弱低温の冷却型CCDを用いた場合であって、(NA/β)の2乗の値が0.01〜0.09の範囲で個々の細胞の発光タンパク質による発光画像を5分以内で生成でき且つ個々の細胞についての発光量の計測も可能であった。これに対して、同様の条件で、(NA/β)の2乗の値が0.007以下の場合には肉眼ないし画像解析ソフトウェアによる認識可能な発光画像を生成出来なかった。よって、本発明に発光画像を生成可能な対物レンズの(NA/β)の2乗の値(またはNA'2)は従来使用されていた範囲よりも有意に大きな値である。つまり、本発明の対物レンズは従来使用されて来た条件とは異なる条件において明るい対物レンズである、と言うことができる。これにより、本発明の対物レンズのような明るい対物レンズを用いれば、光量の少ない発光試料からの発光を画像で観察することができる。また、より暗い像を観察するために、開口数の大きい本発明の対物レンズを実体顕微鏡に装着することで、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度に冷却したCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。また、液体窒素冷却を用いるCCDカメラで感度を上げる方法があるが、この場合CCDカメラが非常に高価に、大規模になる。しかし、本発明の対物レンズを用いれば、ペルチェ冷却によるCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。
【0029】
また、本発明の対物レンズは、5cmから10cm程度の大口径である。これにより、従来では撮像対象となり得なかった揺れ、変形、分裂、移動等の動きの有る発光試料や広い範囲に分布する発光試料などを撮像対象とすることができる。本発明によれば、例えば、細胞を含む培養試料(組織または細胞群)において、1cm角相当、好ましくは2cm〜5cm角相当以上の視野範囲を観察できるので、種々の重要な組織ないし器官(例えば、脳、視交叉上核、膵臓、腫瘍組織、線虫など)の全体もしくは大部分を適宜薄切片等で広視野で観察および解析できる点で好ましい。なお、上記の説明において、液体窒素のような極低温の冷却CCDを本発明に適用することを排除するものではない。本発明によれば、極低温の冷却CCDでも得られなかった高速な撮像を、対物レンズを含む受光前の光学的構成だけで実現するようにしたからである。従って、本発明の方法および装置に対して、極低温の冷却CCDを組合せることによって、高感度化が図れ、S/N比が増すので、画質を向上させるようにすることが出来る。
【0030】
第2の実施形態
つぎに、第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によって実際に撮像した画像を図5−1〜図5−4に示す。図5−1〜図5−4に示す画像は、ヒト由来のHeLa細胞にルシフェラーゼ遺伝子「pGL3-control vector(プロメガ社製)」を導入し、1日培養した後、ハンクス平衡塩類溶液で洗浄し、1mMのルシフェリンを含むハンクス塩類溶液に置換して作製した標本を撮像した画像である。
【0031】
対物レンズ2および結像用の集光レンズ3として用いたレンズは、それぞれ「Oil、40倍、NA1.0」および「5倍、NA0.13」の仕様である市販の顕微鏡用対物レンズであり、結像光学系の倍率Mgに対応する総合倍率は8倍である。使用したCCDカメラ4は、0℃冷却の天体観測用クールドCCDカメラ(SBIG社製)であり、CCD素子は2/3インチ型、画素数765×510、画素サイズ9μm角である。
【0032】
図5−1は、標本の明視野像を撮像した画像、図5−2および図5−3は、標本の自己発光による像を撮像した画像であって、それぞれ1分間および5分間露光して撮像した画像である。図5−4は、図5−1および図5−3に示す2つの画像を重ね合わせて表示した画像である。
図5−2に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、0℃冷却の比較的高温の冷却CCDであっても、フォトンカウンティングすることなく、1分間という短い露光時間で、ルシフェラーゼ遺伝子が発する微弱光を撮像できる。また、図7−3に示すように、露光時間を5分間にすることで、より微弱な光を発するルシフェラーゼ遺伝子を撮像することができる。さらに、図5−1に示すように、標本の明視野像を撮像することが可能であり、図5−4に示すように、明視野像と自己発光による像とを重ね合わせることによって、発光するルシフェラーゼ遺伝子の標本内の位置を観測することができるとともに、発光するルシフェラーゼ遺伝子を含む細胞を特定することができる。なお、非特許文献1(David K. Welsh, Seung-Hee Yoo, Andrew C. Liu, Joseph S. Takahashi, and Steve A. Kay: "Bioluminescence Imaging of Individual Fibroblasts Reveals Persistent, Independently Phased Circadian Rhythms of Clock Gene Expression," Current Biology, Vol. 14 (2004) 2289-2295.)では、この文献中のFigure 2. に示されるように、標本がモザイク状に撮像され、発光する細胞を特定することは非常に困難であった。
【0033】
さらに、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によって行った実験結果の別の一例として、単一細胞での経時的なレポーターアッセイの例を説明する。
【0034】
このレポーターアッセイでは、まず、テトラサイクリン・リプレッサー(TetR)を恒常的に発現させるベクター「pcDNA6/TR(インビトロジェン社製)」と、テトラサイクリン・オペレータ(TetO2)をもつ発現ベクター「pcDNA4/TO(インビトロジェン社製)」にルシフェラーゼ遺伝子をつなげたプラスミドとをHeLa細胞に共発現させて標本を作製する。この状態では、図6−1に示すように、TetRホモダイマーがTetO2領域に結合しているため、ルシフェラーゼ遺伝子の転写は抑制される。つぎに、図6−2に示すように、培養液中にテトラサイクリンを添加してTetRホモダイマーに結合させ、TetRホモダイマーの立体構造を変化させることによって、TetO2からTetRホモダイマーを分離させ、ルシフェラーゼ遺伝子の転写を誘導する。なお、培養液は10mMのHEPESを含むD−MEM培地であり、1mMのルシフェリンを含む。
【0035】
対物レンズ2および結像用の集光レンズ3として用いたレンズは、それぞれ「Oil、20倍、NA0.8」および「5倍、NA0.13」の仕様である市販の顕微鏡用対物レンズであり、倍率Mgに対応する総合倍率は4倍である。使用したCCDカメラ4は、5℃冷却の顕微鏡用デジタルカメラ「DP30BW(オリンパス社製)」であり、CCD素子は、2/3インチ型、画素数1360×1024、画素サイズ6μm角である。
【0036】
図7−1は、テトラサイクリンを添加する前の標本の明視野像を撮像した画像である。図7−2は、テトラサイクリンを添加してから9時間後の標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像である。図7−3は、図7−1および図7−2に示す2つの画像を重ね合わせた画像であって、一部を拡大表示した画像である。なお、これらの観察は、室温(25℃)で行われている。標本がインキュベーター内に載置される場合、あるいは、撮像ユニットまたは撮像装置の一部もしくは全部もインキュベーター内に収納される場合では、37℃の環境で観察が可能である。
【0037】
図7−2に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、5℃冷却の冷却CCDによって、フォトンカウンティングすることなく、1分間という短い露光時間で、ルシフェラーゼ遺伝子が発する微弱光を撮像できる。
【0038】
また、図7−3に示すように、明視野像と自己発光による像とを重ね合わせることによって、発光するルシフェラーゼ遺伝子の位置を鮮明な画像で観測することができるとともに、このルシフェラーゼ遺伝子を含む細胞を容易に特定することができる。
【0039】
図8は、図7−3に示した領域ROI−1,ROI−2について、ルシフェラーゼ遺伝子の発光強度の経時変化を測定した結果を示す図である。図8は、テトラサイクリンを添加した2時間後から発光が捉えられ,6〜7時間後でプラトーに達したことを示している。このように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、発光するルシフェラーゼ遺伝子の位置を特定して時系列に追跡し、発光現象の経時変化を測定することができる。
【0040】
ところで、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置では、対物レンズ2と結像用の集光レンズ3とからなる結像光学系を無限遠補正系とすることにより、対物レンズ2と結像用レンズ3との間に各種光学素子を配置して、サンプル1を様々な方法で観察することができる。
【0041】
図9は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、落射蛍光装置を備えた場合の一部構成を示す模式図である。この落射蛍光装置は、図9に示すように、蛍光ユニットとしての蛍光キューブ24、蛍光用投光管25および励起光源26を備える。蛍光キューブ24は、標本1を励起するための励起光を選択的に透過させる励起光透過フィルターとしての励起フィルター21と、励起光によって励起された標本1から発せられる蛍光を選択的に透過させる蛍光透過フィルターとしての吸収フィルター22と、励起光を反射し蛍光を透過させるダイクロイックミラー23とを一体に備える。蛍光用投光管25は、集光レンズ25a、明るさ絞り作りレンズ25b、投光レンズ25c、明るさ絞りASおよび視野絞りFSを同軸に備える。
【0042】
励起光源26は、励起光を発する光源であり、水銀ランプ、キセノンランプ、レーザー等によって実現される。蛍光照射手段としての励起光源26および蛍光用投光管25は、ダイクロイックミラー23によって励起光を反射させ標本1に照射する。励起フィルター21は、励起光源26から発せられた光の中から励起光を抽出するバンドパスフィルターであり、吸収フィルター22は、所定のカットオフ波長を有するロングウェーブパスフィルターである。蛍光キューブ24は、対物レンズ60と結像レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置される。なお、蛍光キューブ24とともに、励起光および蛍光の少なくとも一方に対する光学特性が異なる複数の交換用蛍光キューブを一体に保持し、保持した蛍光キューブのうち1つの蛍光キューブを選択的に対物レンズ6と結像レンズ7との間に配置する蛍光キューブ切替装置を備えるようにしてもよい。
【0043】
図9に示すように、落射蛍光装置を付加することによって、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置では、標本1の蛍光像を撮像することができる。また、この微弱光標本撮像ユニットによれば、微弱な蛍光を観測することができるため、落射蛍光レーザースキャニングコンフォーカル顕微鏡を利用する場合のように強力な励起光を標本に照射する必要がなく、標本の損傷を軽減させることができる。さらに、強力な励起光源用レーザー、ガルバノミラー等のスキャニング装置、コンフォーカル光学系、フォトマルチプライヤー、画像作成用処理装置などが不要となる。
【0044】
また、図9に示した微弱光標本撮像装置は、DNAチップリーダーとして利用することができる。DNAチップとは、ガラスやポリスチレンなどの樹脂基板上に、多種類のDNA断片や合成オリゴヌクレオチドを約0.3mmの径で約0.6mm間隔に数百個塗りつけたものであり、遺伝子の発現や特定遺伝子の存在などを調べるために用いるものである。通常、このDNAチップから発せられる蛍光は、微弱なものである。本発明の微弱光撮像装置を用いれば、従来の遺伝学的ないし免疫学的物質を固相化した微小なバイオチップへの固相化量を大幅に減らしてもリアルタイムな検出が可能となる可能性がある点で優れている。
【0045】
一般的なDNAチップリーダーは、レーザー照射のコンフォーカル光学系と高速移動スキャニングステージとの組み合わせであり、この装置での測光は、スポット励起光照射点の発光量の和であるため、スキャニング幅が変わると、その都度測定光量も変化することになり、絶対光量を測定することができない。図9に示した微弱光標本撮像装置を利用すると、たとえば、0.5mm径の視野を有する対物レンズに対して、0.6mmステップでDNAチップを保持するステージを移動させ、停止する毎に測光することによって絶対光量を測定することができる。
【0046】
図10は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、分光測光用のフィルターユニットを備えた場合の一部構成を示す模式図である。図10に示すように、分光測光用のフィルターユニット31は、穴部31a,31bにそれぞれ波長抽出フィルター32,33を有し、対物レンズ6と結像レンズ7との間に配置される。フィルターユニット31は、光軸OA2に略直交した面内でスライド式に移動可能に配置され、波長抽出フィルター32,33および空穴31cの1つを選択的に光軸OA2上に配設する。なお、フィルターユニット31は、ターレット式に移動可能としてもよく、さらに多くの波長抽出フィルターを保持するようにしてもよい。
【0047】
フィルターユニット31を利用して、たとえば、2色の光を発する多色ルシフェラーゼを標本1として分光測光を行う場合、波長抽出フィルター32は、650nm以上の長波長の光を透過させるロングウェーブパスフィルターとし、波長抽出フィルター33は、550nm以下の短波長の光を透過させるショートウェーブパスフィルターとするとよい。ここで、多色ルシフェラーゼの発光特性は、図11に示す分光特性曲線35G,35Rで表され、波長抽出フィルター32,33の透過率特性は、それぞれ図11に示す透過率曲線32LP,33SPで表される。
【0048】
この場合、図10のフィルターユニット31によって波長抽出フィルター32を光軸OA2上に配設することによって、多色ルシフェラーゼから発せられる赤色光を測光することができ、波長抽出フィルター33を光軸OA2上に配設することによって、多色ルシフェラーゼから発せられる緑色光を測光することができる。また、空穴31cを光軸OA2上に配設して、標本1の明視野像を観察することができる。なお、波長抽出フィルター32を配設した場合、分光特性曲線35G,35Rがクロスオーバーした波長域の一部が測光されるが、この光量は微量のため無視できる。
【0049】
また、図12に示すように、標本1から発せられる微弱光を検出するためのカメラC1と、標本1の明視野像を撮像するためのカメラC2とをスライダー等によって切り替えられるようにして、標本1の明視野像をカラー撮像できるようにしてもよい。カメラC2は、たとえば、CCD34a〜34cを有する3板式のカラーCCDカメラであり、各CCD34a〜34cは、CCD3よりも画素が小さく高精細なCCDとするとよい。また、カメラC2は、高精細なモノクロCCDを備えるモノクロCCDカメラとしてもよい。
【0050】
図12は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、カメラC1とともに分光測光用のカメラC3を備えた場合の一部構成を示す模式図である。図12に示すように、この微弱光標本撮像装置は、対物レンズ6と結像レンズ7との間に波長抽出フィルター32,33およびダイクロイックミラー35を一体に有した分光キューブ36を備えるとともに、標本1から発しダイクロイックミラー35で反射した微弱光を開口数NAiでテレセントリックに結像する結像用レンズ37と、カメラC1と同様の特性を有するカメラC3とを備える。ここで、ダイクロイックミラー35は、図11に示した特性曲線35G,35Rの交点に対応する約600nmの波長を透過および反射の反転波長とし、この反転波長以上の波長を透過するとともに反転波長より短い波長を反射する。
【0051】
図12に示す微弱光標本撮像装置では、たとえば、図11の特性曲線35G,35Rに示した発光特性を有する多色ルシフェラーゼを標本1として観察すると、カメラC1によって多色ルシフェラーゼから発せられる赤色光を測光することができるとともに、カメラC3によって多色ルシフェラーゼから発せられる緑色光を同時に測光することができる。なお、カメラC1,C3および結像レンズ7,37の特性の個体差に起因する撮像倍率等の差は、あらかじめキャリブレーションして取り除くことが望ましい。
【0052】
なお、分光キューブ36は、対物レンズ60と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置するとよい。また、分光キューブ36とともに、分光特性等の光学特性が異なる複数の交換用分光キューブを一体に保持し、このうち1つの分光キューブを選択的に対物レンズ60と結像用レンズ70との間に配置する分光キューブ切替装置を備えるようにしてもよい。さらに、分光キューブ切替装置は、ダイクロイックミラーおよび波長抽出フィルターを個別に交換できるようにしてもよい。
【0053】
図13は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、カメラC1とともに明視野像観察用のカメラC4を備えた場合の一部構成を示す模式図である。図13に示すように、この微弱光標本撮像装置は、ミラー38、結像用レンズ37、カメラC4および吸収フィルター22を備える。吸収フィルター22は、スライダー等の切替装置39によって、ミラー38と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置される。ミラー38は、図示しない挿脱手段によって、対物レンズ60と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置され、光軸OA2上に配置された場合、標本1からの光を結像レンズ37に向けて反射する。なお、標本1は、ミラー38が光軸OA2上に配置された場合、照明ファイバー15によって明視野照明される。
【0054】
カメラC4は、たとえば、CCD3よりも画素が小さく高精細なCCDを有したモノクロCCDカメラであり、ミラー38が光軸OA2上に配置された場合、標本1の明視野像を撮像する。一方、ミラー38が光軸OA2上に配置されない場合には、カメラC1が標本1の自己発光による像を撮像する。このとき、吸収フィルター22および切替装置39を図10に示したフィルターユニット31に替えて、標本1からの微弱光を分光測光するようにしてもよい。なお、カメラC4は、3板式のカラーCCDとしてもよい。
【0055】
一般に、CCDカメラ4として用いる高感度のクールドCCDカメラは、筐体が大きく、たとえば図10に示すようなカメラの交換は困難であるが、図13に示す微弱光標本撮像装置では、ミラー38を光軸OA2上に挿脱することによって、使用するカメラを容易に切り替えることが可能であり、標本1の明視野像および自己発光による像の撮像を容易に切り替えることができる。
【0056】
このように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置では、対物レンズ2(または60)と結像用レンズ3(または70)とからなる結像光学系を無限遠補正系としているため、対物レンズ2(または60)と結像用レンズ3(または70)との間に各種光学素子を配置して、この微弱光標本撮像装置を多機能化することができる。
【0057】
一方、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置は、たとえば図14に示すように、外部からの光を遮断するチャンバー等の遮光装置内に配置することによって、外部の光の影響を受けることなく精度よく安定して微弱光を検出することができ、標本1の自己発光による像を鮮明に撮像することができる。ここで、図14に示す遮光装置は、ベース41、囲い42および蓋43によって暗室を形成し、この暗室内でベース41上に微弱光標本撮像装置を備えている。この遮光装置では、ノブ45を持ち上げることによってヒンジ部44を中心に蓋43を開扉し、標本1を交換することができる。
【0058】
また、図14に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置を遮光装置内に配設した場合、キーボード、マウス等の入力装置47を有したコンピュータ等の制御装置46によって、この微弱光標本撮像装置を遮光装置の外部から遠隔操作および自動制御できるようにするとよく、特に、標本1に対する焦点合わせおよび位置合わせ動作、カメラC1等の撮像動作、照明ファイバー15による照明光の調光などを自動制御できるようにするとよい。
【0059】
ここで、標本1に対する位置合わせとは、対物レンズ60および結像用レンズ70からなる結像光学系、カメラC1および標本1を保持する試料台13の少なくとも1つを光軸OA2に略直交する方向に移動させて、対物レンズ60の視野内に標本1を配設する処理である。なお、このような位置合わせ処理を利用して、結像用レンズ70が形成したエアリーディスクのうち着目するエアリーディスク毎に、エアリーディスクの中心とCCDの画素の中心とが合致するように処理してもよい。この場合、たとえば、エアリーディスクと画素とを相対的に2次元的に操作して、この画素に対応する出力が最大となる位置を検出するようにすればよい。
【0060】
また、制御装置46は、図14に示すように、表示装置48を備え、標本1の明視野像と自己発光による像とに対応する画像を重ね合わせて表示できるようにするとよい。さらに、制御装置46は、これらの画像を保存するメモリー等の記憶部を備えるとよい。
【0061】
一方、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置は、試料台13に替えて、たとえば図15に示すように、シャーレ51、区画52および透明板53からなる収容手段としての密閉容器を備え、シャーレ51上に標本1を保持するようにしてもよい。ここで、この密閉容器は、図示しない空調装置によって生成される定温低湿のCO2を容器内に給気する給気パイプ54と、容器内のCO2を排気する排気パイプ55とを備え、容器内の温度、湿度、気圧およびCO2濃度の少なくとも1つを調整できるようにしている。なお、CO2を給排気する替わりに、この密閉容器の内部にヒートシート等を設けて電気的に容器内の温度調整等を行うようにしてもよい。
【0062】
ここで、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置に適用して好適な各部構成を系統的に図16に示す。図16に示すように、対物レンズ60には、「Oil,40倍,NA1.4,f5mm」の仕様である対物レンズ601を中心に、「20倍,NA0.8,f10mm」の仕様である対物レンズ602と、標本1の全体を観察できる「5倍,NA0.15,f40mm」の仕様である対物レンズ603を用いるとよい。これらの対物レンズ601〜603には、一般に市販されている瞳位置が互いにほぼ等しい顕微鏡用対物レンズを使用することができる。また、観察視野を大きくとれる「Oil,20倍,NA1.4,f10mm」の仕様である対物レンズ60を使用してもよい。ただし、この場合、対物レンズ60の射出瞳径が28mmに拡大し、対物レンズ60とともに結像用レンズ70やこれらのレンズ間に配置する光学素子の径が拡大し、一般の顕微鏡で使用される光学ユニット、光学素子等は使用できなくなる。なお、対物レンズ6に開口径が可変の可変開口絞りを備え、結像用レンズ70の開口数NAiを微調整できるようにするとよい。
【0063】
結像用レンズ70には、図16に示すように、「NA0.3,f25mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率5倍、実視野0.75mm、視野数3.75)」の仕様である結像レンズ701、「NA0.2,f35mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率7倍、実視野0.75mm、視野数5.25)」の仕様である結像レンズ702、「NA0.1,f70mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率14倍、実視野0.75mm、視野数10.3)」の仕様である結像用レンズ703、「NA0.15,f50mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率10倍)」の仕様である結像用レンズ704等を用いるとよい。また、明視野観察用に「NA0.03,f100mm(5倍対物レンズ使用時の総合倍率2.5倍、実視野6mm、視野数15)」の仕様である結像レンズ705を使用するとよい。なお、CCD3に2/3インチ型CCDを用いて画像を撮像すると、結像レンズ7が視野数10.3では画像の4隅にわずかなケラレが発生し、視野数が10.3より小さいと画像が丸くなり、視野数が10.3より大きいとケラレのない画像が撮像できる。また、「Oil,20倍,NA1.4,f10mm」の仕様である対物レンズ6を使用した場合、結像レンズ7として「NA0.2,f70mm」の仕様のレンズを使用すると、「総合倍率7倍、実視野1.5mm、視野数15」となる。
【0064】
対物レンズ60と結像用レンズ70との間に配置する中間鏡筒には、図9に示した蛍光キューブ24等を備える落射蛍光装置、図10に示したフィルターユニット31、図12に示した分光キューブ36等を備える分光ユニット、および図13に示したミラー38等を備えるミラー切換明視野撮像ユニットをそれぞれ用いるとよい。
【0065】
標本1の像を撮像するカメラには、微弱光である標本1の自己発光による像を撮像するカメラとして、高感度のクールドモノクロCCDカメラであるカメラC1,C3を用い、標本1の明視野像を撮像するカメラとして、3板式のカラーCCDカメラであるカメラC2または高精細なモノクロCCDカメラであるカメラC4を用いるとよい。なお、カメラC1,C3の画素の大きさは、6〜9μm角程度として、結像レンズ7によって形成されるエアリーディスクの大きさに合わせて選択するとよい。
【0066】
標本1を照明する照明手段には、白色光源等から照明光を導光する照明ファイバー15の他に、図16に示すように、白色LEDと単レンズとを組み合わせてクリティカル照明を実現する照明装置や、コンデンサーレンズを用いたケーラー照明装置である顕微鏡用UCDなどを用いてもよい。また、微分干渉観察や位相差観察を行う照明装置を備えてもよい。ただし、この場合、専用のリングストップ、プリズム、対物レンズ等を備える必要がある。
【0067】
なお、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置は、ここまで倒立型として説明してきたが、正立型としてもよい。正立型にする場合の利点は、試料容器への接地を良好にするためのメンブレンを用いた組織切片の観察において、メンブレンが邪魔にならない上方からの観察を行い易くする点に有る。組織切片においては、好適には1層に近い薄さにスライスされた細胞層を有する生体組織を用いて、長期間培養しながら発光画像を長期間かつ連続的に撮像できることは極めて重要な技術といえる。このような組織切片の例として、小脳、視交叉上核のような中枢系組織や膵臓、臓器腫瘍といった各種器官系組織が挙げられる。線虫のような光透過性を有する小動物ないし昆虫類であれば、スライスせずに観察することも可能となる。本発明は、広視野を有する光学系をも提供するので、かかる運動能力を維持した生体試料を無毒な発光画像によって長期間観察できる利点は大きい。
【0068】
また、上述した実施の形態1および第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットでは、撮像手段としてCCDを用いるようにしたが、これに限定されず、CMOS等の撮像素子であって、0℃程度の冷却CCDと同等の撮像感度を有する撮像素子であってもよい。
【実施例1】
【0069】
本実施例1では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を検討した。
【0070】
本実施例1における撮像対象(上述した実施の形態におけるサンプル1)は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子“pGL3 control vector”(プロメガ社(会社名))をトランスフェクションしたHeLa細胞である。なお、当該HeLa細胞の発光画像観察にあたり、HeLa細胞を、トランスフェクション後1日培養してハンクス平衡塩類溶液で洗浄した後、1mMのルシフェリンを含むハンクス平衡塩類溶液に置換した。本実施例1で用いた対物レンズ(上述した実施の形態における対物レンズ2)の開口数(NA)および投影倍率(β)の条件は図17に示す通りである。図17は、実施例1で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。図17に示すように、対物レンズのNAは0.074から0.4の値であり、対物レンズのβは0.27から1.5の値である。本実施例1で用いたCCDカメラ(上述した実施の形態におけるCCDカメラ4)は0℃の冷却CCDカメラであり、当該CCDカメラの画素数は765×510、画素サイズは9μm×9μm、チップの面積は6.89×4.59(mm2)、量子効率は550nmで55%の仕様である。なお、本実施例1において、HeLa細胞の撮像は、用いる装置(例えば図1参照)全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0071】
本実施例1では、図17に示すように、検討した全ての(NA/β)の2乗の条件で発光画像観察が可能であることが示された。これにより、(NA/β)の2乗が0.071以上の対物レンズを用いれば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【実施例2】
【0072】
本実施例2では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を、異なる露出時間で検討した。
【0073】
本実施例2における撮像対象は上述した実施例1と同じである。また、本実施例2で用いた対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件は、図18に示す通りである。図18は、実施例2で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。なお、本実施例2で用いた対物レンズは、上述した実施例1における図17に記載の“0.4X”、“0.83X”および“1.5X”に対応するものである。また、本実施例2で用いたCCDカメラは上述した実施例1と同じである。そして、露出時間は、図18に示すように、1分間または5分間である。なお、上述した実施例1と同様、本実施例2においても、HeLa細胞の発光画像撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0074】
本実施例2では、図19に示すように、“0.4X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像A、“0.83X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像B、“1.5X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像Cおよび“1.5X”の対物レンズを用いて1分間の露出時間で撮った画像Dの全ての画像において、発光画像観察が可能である。これにより、(NA/β)の2乗が0.071以上の対物レンズを用いる場合、露出時間が1分間でも、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【実施例3】
【0075】
本実施例3では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を、投影倍率(β)を固定して検討した。
【0076】
本実施例3における撮像対象は上述した実施例1または実施例2と同じである。また、本実施例3で用いた物レンズの開口数(NA)の条件は、図20に示す通りである。図20は、実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。図20に示すように、開口数(NA)の値は0.248から0.055である。なお、図20に示す対物レンズ(A〜F)の投影倍率(β)の値は、すべて0.83である。よって、対物レンズの(NA/β)の2乗の値は、0.089から0.004まで変動する。また、本実施例3で用いたCCDカメラは上述した実施例1または実施例2と同じである。そして、露出時間は1分間である。なお、上述した実施例1および実施例2と同様、本実施例3においても、HeLa細胞の撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0077】
本実施例3では、図21に示すように、NAが0.248の対物レンズ(図20の対物レンズA)で撮った画像A、NAが0.207の対物レンズ(図20の対物レンズB)で撮った画像BおよびNAが0.164の対物レンズ(図20の対物レンズC)で撮った画像Cについては、容易にHeLa細胞の発光を確認することができた。一方、NAが0.121の対物レンズ(図20の対物レンズD)で撮った画像D、NAが0.083の対物レンズ(図20の対物レンズE)で撮った画像EおよびNAが0.055の対物レンズ(図20の対物レンズF)で撮った画像Fについては、発光の確認が困難であった。図21から分かるように、投影倍率(β)の値が0.83の対物レンズを用い、露出時間が1分間である場合、(NA/β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【0078】
ここで、実施例3で用いる対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す画像Aの丸で囲んだ領域の平均発光強度との関係を示す図22から、HeLa細胞の発光画像観察ができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を検討した。図22は、実施例3で用いる対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す画像Aの丸で囲んだ領域の平均発光強度との関係を示した図である。ここで、図22において、相対発光強度とは、測定した発光強度の最大値を1として他の測定した発光強度を規格化したものである。測定した発光強度の数値範囲(約0.6から1.0の相対発光強度の数値範囲)における半値を、HeLa細胞の発光を観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件(下限値)とすると、本実施例3において当該半値を与える(NA/β)の2乗の値は0.05であった。これにより、投影倍率(β)の値が0.83の対物レンズを用い、露出時間が1分間である場合、(NA/β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察することが可能であることが示された。
【0079】
産業上の利用可能性について
以上のように、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズは、例えば、ルシフェラーゼなどの発光遺伝子をレポーター遺伝子とし、遺伝子発現を制御するプロモーターやエンハンサーの解析や、転写因子などのエフェクター遺伝子や様々な薬剤の効果などを調べるレポーターアッセイにおいて、好適に用いることができる。
【0080】
次に、本発明の主旨に基づいて適用可能な範囲を述べる。
画像分析用の細胞および試料の例
本発明のシステムおよび方法は、基板の種類に応じて各種多様なかたちで提供される各種の任意の細胞を画像化するよう容易に適合させることができる。例えば、細胞は、細菌、原生動物、菌類の原核細胞、または真核細胞とすることができ、かつ、鳥類、爬虫類、両生類、植物、または哺乳類(例えば、霊長類(例えば、ヒト)、齧歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ、有蹄類(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ等)など)に由来する細胞とすることもできる。細胞は、一次細胞、正常および癌化した株化細胞、遺伝子改変細胞、ならびに培養細胞とすることができる。これらの細胞には、自発的に誘導された各種の株化細胞、または個々の株化細胞から所望の生育特性または応答特性について選択された各種の株化細胞が含まれ、腫瘍の種類としては類似しているものの異なった患者または部位から誘導した複数の株化細胞が含まれている。細胞の培養は、通常、保湿した92〜95%の空気/5〜8%のCO2の雰囲気を含むインキュベーター中例えば37℃において、滅菌環境にて行う。細胞の培養は、成分未特定のウシ胎児血清のような生物学的流体を含有する栄養混合物中で行うことも、成分がすべて既知の無血清培地中で行うこともできる。
【0081】
特に関心対象のものは、神経細胞および神経前駆細胞の画像化である。画像化を行う細胞は、遺伝的に改変した細胞(例えば、組換え細胞)とすることもできる。特に関心対象のものは、生細胞の画像化であるが、本発明は、態様によっては、細胞膜浸透化または固定細胞の画像化も意図する。細胞は、通常細胞の維持および/または生育を目的とした培養液を含む試料中で画像化される。
【0082】
本発明の多くの態様、特に、同一の細胞視野、および/または細胞視野中の同じ個別の細胞に戻る工程を含む態様において、細胞は基板表面に十分固定化され、例えば、基板または(例えば、細胞に対して付着性の物質でコーティングすることによって)処理した基板に付着させ、基板の操作を行っても細胞が基板に対して相対的に移動することのないようにしておく。例えば、細胞は、基板、例えば、(例えばウェル中の)組織培養用プラスチックに直接付着させ、細胞の位置が基板に対して相対的に固定されて基板に対する細胞の位置が移動することなく基板の操作を行えるようにしておく。こうすると、同一の細胞視野に正確に戻ることも、細胞視野中の同じ個別の細胞に正確に戻ることも可能となる。
【0083】
本発明は一般に単一細胞レベルの画像化を意図しており、特に生きた細胞の画像化を意図する。細胞は基板表面に孤立した単一細胞として分散していてもよく、(例えば、単層の場合のように)他の細胞と接触していてもよく、または(例えば、組織切片の場合のように)薄層を形成していてもよい。画像化を行う細胞は、均質な細胞集団であっても、異質な細胞集団(例えば、混合細胞培養物)であってもよい。このように、本発明は、単一細胞の画像化、および細胞集団の画像化を可能とするものであり、この細胞集団は、場合によっては複数の異なった細胞を含んでいてもよい。
【0084】
細胞の画像化は、検出可能なマーカー、例えば蛍光ラベルを利用して行っても、それらを利用せずに行ってもよい。こうした検出可能なマーカーや検出可能なマーカーを細胞と共に利用する方法は当技術分野で周知である。検出可能なマーカーとしては、フルオロフォア(または蛍光)(本明細書では、例としてあげるものであって、これらに限定されるものではない)、化学発光体、また他の適当な検出可能標識、例えば、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)およびBRET(生物発光共鳴エネルギー転移)検出系で使用する標識が挙げられる。
【0085】
本発明のシステムおよび方法は、細胞集団および個々の細胞の画像化、特に、細胞の生存度(例えば、細胞の生存率や細胞の健康)、細胞の生理学的性質(シナプスの生理学的性質)、シグナル伝達、オルガネラの位置および機能、タンパク質の位置および機能(相互作用およびターンオーバーを含む)、酵素活性、レセプターの発現および位置、細胞表面の変化、細胞構造、分化、細胞分裂などを観察するための経時的な画像化を可能とする。例えば、一つの態様において、本発明のシステムおよび方法を、タンパク質の発現(例えば、ハンティントン舞踏病におけるハンティンギン(huntingin)の役割)および、タンパク質のレベル変化もしくは凝集が細胞死を引き起こしているのか、またはそれらは細胞死の症状(例えば、細胞による、細胞死を防止するための試みであって、細胞死自体の原因で
はない)なのかを判断する際に使用する。特に関心対象のものは、培養中における神経細胞の神経変性についての研究である。
【0086】
本発明のシステムおよび方法は、単一細胞または細胞の集団をリアルタイムで所望の時間例えば、比較的に短い時間をおいて画像化することを可能とする。例えば、24ウェルの基板で、各ウェルが、CCDによって撮影する互いに接する光学視野を13個含む場合、このウェルは、約10分で画像化することができる。別の事例においては、細胞の画像化に要する時間は、カバーする全面積、CCDの解像度、および焦点合わせのルーチンとして何を選ぶかに応じて決まる。いすれの場合でも、本発明でのデータ取得は、秒単位(例えば、本実施例では平均で1視野あたりわずか約1〜3秒)ですみ、焦点を合わせおよび次の位置までの移動にかかる時間を考慮すると、実際の画像化に要する時間はより少なくなる。焦点合わせの工程を完了するのに最大約10〜15秒を要するのに対し、視野の像を取り込むのに要する時間は、約50ms〜1秒であり、視野間の移動に要する時間は無視することができる。したがって、さらに別の視野の画像化を行っても、消費時間の観点からは、焦点を合わせ直さない限りは実質的に問題になることはない。
【0087】
細胞の画像化、例えば隣接したウェルに位置する細胞の画像化を迅速に行うことができ、さらに、比較的短い時間をおいて(同じ個別の細胞を含む同一の細胞視野に戻ることによって)再度画像化を行うことができるので、従来の方法では各画像の取得に要する時間の長さなどの事由ゆえに到底行いえなかったような観察を行うことが可能となった。本発明では、細胞現象、例えば、細胞の機能、細胞の生存、集団中の個々の細胞の運命を、上述したように比較的短い時間をおいて追跡することもできる。こうしたことは、特定の時点で撮影された画像しか得られず、進行する現象(例えば、変性)について得られる情報の量に制限があり、ひたすら時間が必要とされた従来の免疫細胞化学研究とは対照的である(例えば、神経変性についての研究で300,000個の細胞を分析するには通常約6週間を要していたが、本発明を用いるとこの同じ分析を半分にもはるかに満たない時間で完了させることができる)。本発明の諸側面を用いると、免疫細胞化学的な分析や顕微鏡を用いた分析を手動で行う場合に通常丸6日かかるような作業を、顕微鏡およびコンピュータの処理時間で1時間で終えることができる。
【0088】
また、本発明のシステムおよび方法では、基板をシステムから取り出し、その後再度システムに載置して、同じ細胞集団、および細胞集団中の個々の細胞を正確に特定できるので、単一細胞および選択された細胞集団の長期(例えば、数時間〜数日から数週間またはそれ以上といった期間)にわたる分析も可能となっている。
【0089】
本発明のシステムおよび方法では、複数の生物学的変数(例えば、細胞機能のパラメータまたは変数)を、ほぼ、またはまったく同時に、(定性的または定量的に)測定することもできる。例えば、細胞を、位相差および蛍光の両方を用いて画像化することにより、細胞の形態や分子の諸現象の変化についての情報を得ることができる。別の態様において、細胞は、複数の検出可能なマーカー(例えば複数の蛍光マーカー)を使用して画像化することができる。
【0090】
本発明のシステムおよび方法は、同じ細胞または細胞集団の画像を順次得ることにより従来のシステムに付随していたユーザーごとの偏りや変異を防止する。また、本発明は光や激しい操作に対して感受性を有する細胞を画像化する際に使用することができ、具体的には画像を得るに際の光源への暴露が比較的少なくてすみ、細胞を載置した基板を比較的細かく動かすだけでよい。
【0091】
キット
本発明では、本発明で使用するためのキットも提供する。こうしたキットは、上述の機能を実現、あるいは実施するための指示書とプログラムを含む、コンピュータによる読み取りが可能な媒体を少なくとも含むことが好ましい。指示書は、普通の顕微鏡または細胞スキャナーをプログラミングして上述のように機能させるためのソフトウェアのインストールまたはセットアップの指示を含むものとすることができる。指示書は、顕微鏡を所望の通りに作動させるための指示も含むものとすることができる。指示書は、両方のタイプの情報を含むものとすることが好ましい。
【0092】
ソフトウェアおよび指示書をキットとして提供することにはいくつかの意味がある。この組み合わせは、既存の顕微鏡をアップグレードする手段としてパッケージングし、販売することができる。完全なプログラムまたはその一部(好ましくは、少なくとも本発明の方法を定義するコードを単独またはすでに入手可能なコードと組み合わせて含むもの)を、アップグレード・パッチとして提供することができる。また、この組み合わせはソフトウェアが顕微鏡に予め搭載された新規な顕微鏡に付随するかたちで提供することもでき、この場合、指示書は参照用マニュアル(またはその一部)の役目を果たし、かつ予め搭載してあるユーティリティのバックアップ・コピーであるコンピュータによる読み取りが可能な媒体の役目も果たす。
【0093】
指示書は、通常適当な記録媒体に記録しておく。例えば、指示書は紙またはプラスチックなどのような基材に印刷することができる。この場合、指示書はキットの添付文書として提供することも、キットの容器またはその部品のラベルとして(すなわち、梱包材また内部梱包材に付随させて)提供することもできる。別の態様において、指示書は、プログラムが搭載されているのと同一の媒体も含め、CD-ROM、ディスケットなどのコンピュータによる読み取りが可能な適当な記憶媒体上の電子記憶データファイルとして提供する。
【0094】
さらに別の態様において、指示書自体はキットには含ませず、遠隔ソースからインターネットなどを通じて指示書を入手する手段をキットに同梱しておく。この態様の例としては、指示書を閲覧、および/または指示書をダウンロードすることのできるウェブ・アドレスを同梱したキットがある。逆に、例えばウェブ・アドレスを提供することによって、本発明のプログラムを遠隔ソースから入手する手段を提供することもできる。さらに、指示書とソフトウェアの両方を、インターネットやワールドワイドウェブのような遠隔ソースから入手またはダウンロードするかたちのキットとすることもできる。当然ながら、アクセス・セキュリティまたはIDプロトコールを使用して、アクセスを、本発明を使用する権利を有する者に限定することもできる。指示書の場合と同様に、指示書および/またはプログラムを入手する手段についても、通常、適当な記録媒体に記録しておく。
【0095】
本発明の画像化システムおよび方法の適用事例
本発明の画像化システムおよび方法は、多種多様な細胞を用いた各種の設定において有用である。本発明のシステムおよび方法では、組織培養中で細胞または細胞集団を任意の所望の期間、例えば、2時間、5時間、12時間、24時間、2日、4日、6日、7日、数週間、および/または関心対象の細胞の寿命に至るまでの期間にわたって追跡することも可能である。細胞をはじめとする生体試料の画像化は、上記に対応する一定の時間をおいて行うことも、他の態様で行うこともできる。以下はそうした画像化の例であるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下の画像化の例では、本発明の特定の利点や特徴を強調する。
【0096】
光毒性を防止または低減するための細胞の画像化
光毒性は、生きた試料の画像化を行う上で常に重要な制限要因となっており、光毒性は、入射光の強度、照射時間、波長と直接関連している。本発明のシステムおよび方法を使用して、利用可能な信号を検出するために必要な入射光の量を低減する。徐々に進行するプロセスを調べる場合、同一細胞試料を繰り返し照射せねばならないので、光毒性は特に問題になる。本発明では、光毒性をいくつかの方法によって有意に低減する。低強度の白色光を極めて短時間照射することによって顕微鏡の焦点を合わせ、その後、より強度の光を照射することによって高解像度の蛍光画像を取得することができる。自動化を行わない場合、焦点は、通常高強度の蛍光を連続照射することによって合わせることになる。顕微鏡の焦点を合わせ、その後画像を取得するのに要する時間を考慮すると、細胞は、光毒性を有する高強度の光に、自動化を行った場合と比べると一桁程度も長時間にわたって照射されうることになる。
【0097】
また、1度焦点を合わせた後、焦点を合わせなおすことなく複数の隣接した蛍光画像を取得する本発明の方法も光毒性を低減するうえで有利である。このアプローチは、細胞の視野の大半が画像の生成に必要な光のみを有意な光として受け取るので、蛍光画像を取得するうえで最適化された方法であるといえる。最後に、自動化によって高強度の光の照射時間が実質的に低減するので、光褪色も生じにくくなる。発せられる蛍光が明るいので、高解像度の画像を生成するのに必要な励起時間もさらに低減する。
【0098】
刺激による遺伝子発現の光学イメージング
本発明は例えば、下記のように実施することが出来る。
細胞の定数(例えば、該物質を細胞に接触させる刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域(好ましくは、c-fos遺伝子のプロモーター領域)に発現可能に連結されたレポーター遺伝子(好ましくは蛍もしくはウミシイタケなどに由来するルシフェラーゼ)を前記の遺伝子導入方法を用いて細胞に導入する。得られた前記の遺伝子導入された細胞の定数(例えば、1〜1x109個、好ましくは1x103〜1x106個)を所望の細胞培養が可能な器具(例えば、シャーレ、多数のウェルを有するマルチプレートなど)を用いて所望の栄養培地(例えば、D-MEM培地など)中で培養する。この定数の細胞からなる試料を、あらかじめ細胞にとって最適な温度(例えば、25〜37℃、好ましくは35〜37℃)に保温し、試料の乾燥を防ぐため水を注入して保湿した発光顕微鏡の培養装置部に設置し、該発光顕微鏡の試料観察部にある対物レンズを通してデジタルカメラで発光イメージを記録する。前記の試料に、細胞に接触させて刺激を行なうための物質(例えば、化合物)を所望の濃度(例えば、1pM〜1M、好ましくは100nM〜1mM)で加えて、所望の時間間隔(例えば5分間〜5時間、好ましくは10分間〜1時間)で発光イメージを記録する。記録した画像を市販の画像解析ソフトウェア(例えば、MetaMorph;ユニバーサルイメージング社製など)を用いて画像内の所望の領域における輝度値を取得する。さらに、発光イメージと同視野において明視野イメージも撮像して記録する構成を有する場合には、画像解析ソフトウェアが発光イメージと明視野イメージを重ね合わせる機能を有することにより、意外に速く動いた細胞等(組織全体、特定細胞群、個々の細胞、細胞の一部の領域など)のよる不鮮明な発光画像についても、明視野画像による鮮明な画像を利用して細胞等の認識を正確に行なえるため解析の信頼性も安定に維持できる利点がある。このように、本発明による撮像方法および装置を用いた画像解析を行なうための画像解析用ソフトウェアは、少なくとも発光画像において個々の細胞等(組織全体、特定細胞群、個々の細胞、細胞の一部の領域など)を形状や大きさ等のパラメータによる輪郭情報により識別するような認識機能と、認識した細胞等から発生する発光量を計測する計測機能とを有し、好ましくは、撮像装置を制御するコンピュータや操作者による入力手段(キーボード、マウス、テンキー、タッチパネル等)からの要求に応じて計測結果を出力する機能を有する。計測結果は、認識した細胞等の画像情報と対応付けて出力するのが、さらに好ましい。出力の形式は、発光量に応じた擬似画像、数値であり得、多数の細胞を解析する場合には、正規分布、ヒストグラム、折れ線グラフ、棒グラフ等のグラフィック表現でもよい。また、同じ細胞等に関する時系列の解析結果を出力する場合には、経過時間順に発光量を並べた点分布や、時間順に線で繋げた波形パターンでもよい。波形パターンは、特に時計遺伝子のような周期性を示す発光データに適している。必要に応じて、画像解析用のソフトウェアは、出力後のグラフや波形パターンを単独ないし、他の細胞等との相関を解析するように構成されてもよい。さらに、ディスプレイ上に出力した解析結果について興味有る部分を上記入力手段を通じて指定した時に対応する細胞等の画像をディスプレイ上に表示するリコール機能を具備するのが好ましい。このリコール機能は、指定された細胞等に関して撮像した全期間ないし特定期間における動画情報を上映する上映モードを有するのがさらに好ましい。
【0099】
生細胞の長時間にわたる画像化
生細胞は、大抵組織培養用プラスチック上で培養される。生細胞を調べる場合、特に、生細胞を徐々に進行するプロセスにおいて調べる場合には、生細胞(例えば神経細胞)の健康を、調べているプロセスをカバーするのに十分な期間にわたって維持する必要がある。理想的には、細胞がもともと生育していたのと同じ培養皿で一定時間をおいて細胞の画像化を行うと細胞の健康が保たれ、かく乱の程度も最小限ですむ。組織培養皿中の細胞を、滅菌条件下で倒立顕微鏡を使用して画像化することは可能であるが、倒立顕微鏡の場合、細胞が生育している基板(例えば、ガラスまたはプラスチック)を通して画像化を行うことになる。ガラスと比較すると、組織培養用プラスチックは波長によっては(例えば紫外線)透過性に劣り、光の散乱を生じ、画像分解能が低減してしまう。しかし、神経細胞をはじめとする多くの細胞は、ポリリジンおよびラミニンで基板をコーティングして細胞の付着および分化を促した場合でも、ガラスと比べて組織培養用プラスチックで生育させた場合の方が長期にわたって生存し、健康な外観を示す。したがって、本発明の目標は、透過させるのがプラスチックであるかガラスであるかを問わずに高品質の画像が得られるような光学系を備えたシステムを提供することにある。
【0100】
ガラスまたはプラスチックを通して画像を自動的に取得する場合、使用が可能な対物レンズについても重要な影響が及ぶ。すなわち、液浸レンズは通常非液浸(空気)対物レンズよりおおくの光を集光するが、液浸レンズは浸漬溶媒を必要とし、自動画像化の場合にはこの溶媒を供給することは現実的ではない。非液浸レンズを使用して各種の組成および厚さを有する基板を通して焦点を合わせる作業も問題が多い。これらの基板の屈折率は製品ごとに異なり、発せられた蛍光が対物レンズに集光されるまでの間通過する空気の屈折率とも異なっている。異なった屈折率の物質を通して画像化を行うと色収差および球面収差が生じ、この収差によってレンズの開口数が増大する。収差は、20倍で顕在化し、40倍で実質的となり、60倍でほぼ克服不能となる。最後に、試料によっては、培養脳切片のように組織培養皿の底面から比較的離れて存在するものもあり、焦点面を自動的に判断するアルゴリズムを用いてZ軸に沿った各種の平面から画像を取得する必要がある。このような場合、光学的なコンボリューション機能を本発明の発光撮像データに対して適用することが好ましい。光学的なコンボリューション機能を採用することにより、切片に限らず、生体組織や小型の生物(昆虫、動物、植物など)にも3次元的な画像を提供し得る。なお、焦点距離が極めて長い対物レンズを使用すると離れた対象物に焦点を合わせることが可能となり、自動焦点合わせの間に対物レンズと組織培養プレートとが衝突することを防止することができる。
【0101】
高処理スクリーニング・アッセイ法
本発明のシステムおよび方法は、高処理スクリーニング・アッセイ法を行ううえで特に有用である。こうしたアッセイ法の例としては、細胞の所望の応答(例えば、細胞死の調節、レセプターの内部移行、信号伝達経路の活性の調節(上昇または低下)、転写活性の調節、など)を惹起する物質の同定、およびこれまで知られていない、または調べられていない機能を有する核酸の分析(例えば、関心対象のコード配列を標的細胞に導入し、細胞中で発現させて行うような分析)があるが、これらに限定されるものではない。応答が観察される細胞を、本明細書では「標的細胞」と称するが、これは、細胞の種類について限定を行うための用語ではなく、むしろ物質によってその細胞が影響を受けることを示唆するための用語である。
【0102】
一般に、本発明のシステムおよび方法を用いると、生細胞中での物質の効果を、所望の時間間隔を置いて、しかも同じ細胞について分析することができる。ここで、細胞は均一な細胞集団または混合細胞集団とすることができる。本発明のアッセイ法は、物質によって改変された細胞が培養中で他の細胞に与える効果、例えば、核酸物質の標的細胞中での発現が、同一ウェル中の標的細胞や他の細胞に与える影響についても調べることができる
。例えば、本発明のアッセイ法は、物質によって改変された細胞が、その物質によって直接的には改変されていない細胞に及ぼす「傍観者(bystander)効果」を検出する際に使用することができ、ここで、後者の細胞は、物質によって改変された細胞と物理的に接触していても接触していなくてもよい。この文脈において、本発明のアッセイ法は例えばコードまたは物質によって誘導された分泌タンパク質または細胞表面タンパク質について調べる際に使用することができる。
【0103】
スクリーニング・アッセイ法における複数の変数の検出
本発明の画像化システムおよび方法は単一試料中の複数の変数についてのデータを得るのに使用することができるので、例えば1種以上の生物学的変数を検出することができ、かつ本発明のシステムを使用することによって得られた画像同士を比較することによって例えばある時間にわたって検出されたそうした生物学的変数の変化を検出することもできる。
【0104】
例として、本発明のシステムは、生物学的材料の経時的変化、例えば材料が特定の物質と接触することによって生じた変化(例えばある物質の濃度の上昇、別の物質の添加等によって生じた変化)、環境条件の変化(例えば、温度、浸透圧等の調節)によって生じた変化を分析する際に使用することができる。生物学的材料の変化は、例えば、核酸については、検出可能なプローブによる特定の核酸配列へのアクセス可能性、スーパーコイルまたは二重鎖の程度等とすることができる。タンパク質については、変化はタンパク質の折り畳みの程度、プローブの結合部位へのアクセス(例えば、検出可能な抗体または他のタンパク質結合物質)などとすることができる。
【0105】
例えば、細胞の集団または単一の細胞における細胞に関する変数(例えば、細胞についての1以上の変数、2以上の変数など)については、スクリーニング・アッセイ法を行って単一細胞の複数の細胞変数について調べることができ、これらの細胞変数は必要に応じて各種の時間をおいて調べることができる。一般に、細胞変数は検出が可能な、特に十分に正確な検出が可能な、好ましくは、本発明の高処理アッセイ法に適した方法で検出が可能な、生物学的活性、細胞成分、または細胞生成物とすることができる。細胞変数の例としては、細胞の健康(例えば、トリパンブルーまたは臭化エチジウムのような染料に対する細胞膜の透過性によって検出される生死の別、アポトーシスの誘導、など);細胞表面のレセプターの状態(例えば、レセプターの結合、活性化、再利用など);遺伝子転写レベル(例えば、レポーター遺伝子(例えば、GFP融合タンパク質)で検出されるレベル);細胞分化(例えば、細胞構造の形成(例えば、神経細胞での樹状突起の形成)、細胞分化抗原の存在の有無などによって検出される状態);トランスフェクションの状態(すなわち、標的細胞中での分析に使用する組換えポリヌクレオチドの存在の有無)などがある。本明細書で「細胞変数」に言及する際は何らかの限定を意図しているものではなく、説明上の都合と内容の明確さと期すためにのみ言及するものである。
【0106】
変数の大半は、定量的な読み取り結果を提供するが、準定量的または定性的な結果も場合によっては許容される。読み取り結果は単一の判定結果を含むものとすることも、平均、中央値、または分散などを含むものとすることもできる。各パラメータについてのある範囲のパラメータ読み取り値は、特徴的には同じアッセイ法の組み合わせを複数回行うことよって得られ、通常同じアッセイ法の組み合わせを少なくとも約2回行うことによって値を得る。値にはばらつきが生じることが予測され、各セットの試験変数についての値の範囲は標準的な統計学的方法を単一の値を得る際に使用される一般的な統計学的方法と共に使用することによって得られる。
【0107】
分析を行う細胞パラメータは一般に以下の規準、すなわちアッセイ法を組み合わせることによってシミュレートしている生理学的状態を調節するかどうか;利用が可能かつインビトロで当該パラメータを調節することが知られている因子によって、インビボでその当該パラメータが(例えば、対照として)調節されるのと類似したかたちで調節されるかどうか;検出が可能な程度に確実で、他の分析対象細胞変数との識別が可能であるような応答を伴うかどうか;および、場合によっては、特に薬剤のスクリーニング・アッセイ法においてパラメータの変化が細胞死に至るような毒性を示唆するものであるかどうか、によって選択する。なお、細胞パラメータは、必ずしもこれらの全ての規準を満たす必要はない。
【0108】
複数のパラメータを評価する場合には、検出の際に区別が可能なマーカーを使用して異なった変数を検出することができる。例えば、スクリーニング・アッセイ法がポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物の影響の評価を含む場合、1種のマーカーを使用して対象構築物でトランスフェクトされた細胞を同定し(例えば、関心対象のポリヌクレオチドを含む構築物中にコードされた検出可能なマーカーの利用、または関心対象の構築物と共に同時トランスフェクションされた構築物上に存在する検出可能なマーカーの利用による、関心対象の構築物におけるトランスフェクトされた細胞の同定)、第二のマーカーを使用して遺伝子産物の発現を検出し(例えば、そのポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物から生成された融合タンパク質の提供する検出可能なマーカー中の遺伝子産物の検出)、第三の検出可能なマーカーを使用して遺伝子産物の標的細胞に対する影響を評価することができる(例えば、細胞の生存度を評価する場合には、候補ポリヌクレオチドの遺伝子産物によって調節されていることが想定されているプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現によって、または候補ポリヌクレオチドの遺伝子産物によって調節されている因子によって、など)。また、細胞の形態の変化(例えば、細胞の分化や細胞構造(例えば樹状突起)の形成)についての情報を位相差画像から得ることもでき、この場合、位相差画像を例えば細胞ごとに所定の選択した時間をおいて取得した蛍光画像と重ね合わせて比較することができる。
【0109】
スクリーニング・アッセイ法により標的細胞上のレセプターの活性を調節する物質を同定する別の例において、第一マーカーを使用して物質のレセプターに対する結合を検出し、その一方で第二マーカーを使用してレポーター遺伝子の転写による活性化を検出することができる。本発明で使用する場合には、「検出可能なマーカー」は所定の波長で励起すると検出可能なシグナルを発するような分子を包含する。態様によっては、分子が細胞の異なった区画に位置していると、異なった波長で励起および/または発光するというかたちで同じ分子が複数の異なったマーカーの役目を果たす場合もある(例えば、細胞表面に存在している場合には細胞内の酸性の区画に存在している場合とは異なる波長で発光する分子の場合)。
【0110】
選択したマーカーの存在の有無を定量的に調べる際には各種の方法を利用することができる。ほぼ全種類の生体分子、構造、細胞を標識しうる蛍光部分が容易に入手可能である。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質のみならず、特定のコンホメーション、切断生成物、リン酸化のような特定部位の修飾とも結合させることができる。個々のペプチドおよびタンパク質は、例えば、細胞中で緑色蛍光タンパク質のキメラとして発現させることによって、自己蛍光を発するように操作することができる(総説については、Jonesら(1999) Trends Biotechnol 17(12):477-81)を参照のこと)。
【0111】
蛍光技術は、現在では数多くの有用な染料が市販される段階まで成熟してきている。蛍光染料は数多くの供給元から入手することができ、例えば、Sigma Chemical Company(ミズーリ州、セントルイス)、およびMolecular Probes(「Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals」、第7版、Molecular Probes、Eugene OR)から購入できる。他にも、生物学的活性や環境の変化、例えば、pH、カルシウム濃度、電位、他のプローブとの近接性などについてレポートするよう設計された蛍光センサーがある。重要な方法としては、カルシウム流動法、ヌクレオチド組み込み法、定量的PAGE(プロテオミクス)などが挙げられる。
【0112】
同一アッセイ法で複数の蛍光標識を使用し、細胞を個々に定性的または定量的に検出して、複数の細胞応答を同時に検出および/または測定することを可能とすることもできる。蛍光の独特の特性を利用すべく数多くの定量的技術が開発されており、そうした技術としては、例えば、直接蛍光測定法、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光偏光法または異方性法(FP)、時間分解蛍光法(TRF)、蛍光寿命測定法(FLM)、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光退色回復法(FPR)が挙げられる(「Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals」、第7版、Molecular Probes、Eugene OR)。特に関心対象のものは、生細胞に適用可能であり、かつ場合によっては所望の時間をおいて使用することのできる(例えば、何時間または何日かの間隔をおいて撮影された画像同士の比較が可能な)標識技術である。これらの蛍光を用いたアッセイ法を、本発明のために光励起が不要な発光を用いたアッセイ法に適用できるように適宜の工程ないし装置の変更(または改良)を行なうことができる。
【0113】
候補物質
この「候補物質」という場合の「物質」という用語は、生細胞と接触させて生細胞に対する影響を評価することのできる任意の対象分子のことを称する。本発明は、ハイスループットな性能を有しているため、異なったウェル(例えば、マルチウェル・プレートの異なったウェルで)で異なった物質濃度の複数の評価混合物を並行して処理して、観察された効果の濃度依存性を調べることができる。通常、こうした濃度の1つがネガティブ・コントロール、すなわちゼロ濃度または検出濃度未満の濃度となるようにする。
【0114】
本明細書で使用する場合、候補物質は数多くの化学的分類群、例えば核酸(例えば、DNA、RNA、アンチセンス・ポリヌクレオチドなど)、ポリペプチド(例えば、タンパク質、ペプチドなど)、有機分子(例えば、分子量が50ダルトンより大きく、約2,500ダルトン未満の小型の有機化合物)、リボザイムなどを包含するが、それらに限定されるものではない。候補物質は、タンパク質との構造的な相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含むことができ、通常少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの化学的官能基を含むことができる。候補物質は、上記の官能基1つ以上で置換された環状炭素構造もしくは複素環構造および/または芳香族もしくはポリ芳香族構造を有することも多い。上述したように、候補物質は、生体分子、例えばポリヌクレオチド、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似物質、またはそれらの組み合わせとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
候補物質は、合成化合物または天然化合物のライブラリーをはじめとする多種多様なソースから得ることができる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダムなおよび指向的な合成を行うために、ランダム化したオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現をはじめとして数多くの手段を用いることができる。あるいは、細菌、菌類、植物、動物の抽出物という天然化合物のライブラリーも入手可能であり、または容易に作製可能である。さらに、天然または合成のライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、生化学的手段で容易に改変することができ、コンビナトリアルライブラリーの生成に使用することができる。公知の薬理物質に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向的またはランダムな化学修飾を行って、構造類似物を生成することもできる。
【0116】
候補物質としてのポリヌクレオチド
候補物質がポリヌクレオチドである場合、分子は任意の長さのポリマーの形態とすることができ、リボヌクレオチドとすることも、デオキシヌクレオチドとすることもできる。このように、「ポリヌクレオチド」は、一本鎖、二本鎖、または複数本鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、または、プリン塩基およびピリミジン塩基、もしくは他の天然の化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然の、もしくは変性ヌ
クレオチド塩基を含むポリマーを包含するが、これらに限定されるものではない。ポリヌクレオチドが遺伝子産物をコードしている場合は、ポリヌクレオチドはイントロンおよびエクソン配列を含むものとすることもできる。
【0117】
ポリヌクレオチドの骨格は、(RNAまたはDNAで通常見られるような)糖およびリン酸基を含むものとすることも、修飾または置換糖またはリン酸基を含むものとすることもできる。また、ポリヌクレオチドの骨格は、合成サブユニット、例えば、ホスホアミダイトのポリマーを含むものとすることもでき、したがって、オリゴデオキシヌクレオシドホスホアミダイト、またはホスホアミダイト-ホスホジエステルオリゴマー混合物とすることもできる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞内での安定性と結合親和性を高めるために、未変性のホスホジエステル構造を化学的に修飾したポリヌクレオチドである。骨格の化学的性質の変化として有用なものとしては、ホスホロチオエート、非架橋酸素が双方とも硫黄で置換されたホスホロジチオエート、ホスホロアミダイト、アルキルホスホトリエステル、およびボラノホスフェートが挙げられる。アキラルなリン酸誘導体としては、3'-O'-5'-S-ホスホロチオエート、3'-S-5'-O-ホスホロチオエート、3'-CH2-5'-O-ホスホネート、3'-NH-5'-O-ホスホロアミデートが挙げられる。ペプチド核酸の場合は、リボースホスホジエステル骨格全体がペプチド結合で置換されている。糖による修飾を使用して安定性および親和性を高めることも行われている(例えば、モルホリノオリゴヌクレオチド類似物質)。天然のα-アノマーに対して塩基が反転しているデオキシリボースのβ-アノマーを使用することもできる。リボース糖の2'-OHが、2'-O-メチルまたは2'-O-アルキル糖となるように変化させて、親和性を犠牲にすることなく耐分解性を付与することもできる。
【0118】
ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似物質、ウラシル、他の糖、ならびに結合基、例えばフルオロビオースおよびチオエート、ヌクレオチドの分枝を含むものとすることもできる。塩基配列の間には非ヌクレオチド成分が介在していてもよい。ポリヌクレオチドは、重合後に例えば標識成分と結合させることによって修飾またはさらなる修飾を行って、分子を検出しやすくすることもできる。さらに別の修飾としては、キャップ、1個以上の天然に生じるヌクレオチドの類似物質による置換、およびポリヌクレオチドをタンパク質、金属イオン、標識成分、他のポリヌクレオチド、または基板(例えば、ビーズ)に結合させる手段の導入があるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
以下で詳述する一つの態様において、本発明のアッセイ法でポリヌクレオチドをスクリーニングし、このポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物の影響を評価する。この態様において、ポリヌクレオチドを発現に適した構築物の一部として提供することができる。この態様において、ポリヌクレオチドを修飾することによって、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームにプロモーター要素を機能的に結合させ、標的細胞中での遺伝子産物の発現を促すことができる。
【0120】
候補物質としてのポリペプチド
態様によっては、候補物質は「ポリペプチド」または「タンパク質」である。これらの用語は互換的に使用するものであり、任意の長さの重合体形態アミノ酸のことを称する。例としては、遺伝的にコードされたアミノ酸および遺伝的にコードされていないアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾された(例えば、翻訳後修飾、例えばグリコシル化された)アミノ酸、または変性アミノ酸、重合体ポリペプチド、ならびに修飾ペプチド骨格を備えたポリペプチドが挙げられる。候補物質としてスクリーニングすることのできる「ポリペプチド」としては、エフュージョン(effusion)タンパク質で、異種アミノ酸配列を有するもの、異種および同種リーダー配列と融合させたもの、N末端メチオニン残基を有するかまたは有さないもの、免疫的に標識したタンパク質などがある。ポリペプチドの修飾は、例えば、基材(例えば、ビーズ)への付着を促すために行うこともできる。ポリペプチドが細胞内に取り込まれない場合には、ポリペプチドは例えばマイクロインジェクションによって標的細胞に導入することができる。しかし、こうした方法はマイクロインジェクション操作が高処理スクリーニング・アッセイ法への使用に適していないので望ましくない可能性もある。
【0121】
スクリーニング・アッセイ法に使用する細胞
本発明のスクリーニング・アッセイ法に使用するのに適した細胞としては、上述したものが挙げられる。態様によっては、標的遺伝子産物を発現する組換え細胞のアッセイ、およびアッセイ法を、例えば標的遺伝子産物への結合、標的遺伝子産物の発現の調節、または標的遺伝子産物の生物学的活性の調節によって標的遺伝子産物と相互作用を生じる候補物質の検出に適したものとすることが特に関心対象である。本明細書で使用する場合、「標的遺伝子産物」は、候補物質のスクリーニングの中心となるタンパク質をはじめとする各種の遺伝子産物のことを称するが、それらに限定されるものではない。例えば、標的遺伝子産物をレセプターとし、アッセイ法を、レセプターの活性を調節する物質の同定に適合させることができる。
【0122】
一般的なアッセイ方法
何を目的としてスクリーニング・アッセイ法を行うかに関わらず、アッセイ法の工程において、物質と細胞とを接触させることになり、この工程では、遺伝物質のような場合、物質を細胞内に導入し、細胞の1以上の変数について検出を行うことになる。物質に対応した細胞パラメータの読み取り値の変化を測定し、できれば標準化し、このパラメータを照合用の読み取り値と比較することによって評価する。照合用の読み取り結果、各種因子の存在下および不在下で得られた基礎読み取り値、他の物質(公知の経路の公知の阻害物質を含んでも含まなくてもよい)を用いることによって得られた読み取り値、などを用いることができる。分析対象物質としては、対象となる細胞の対象の細胞パラメータを直接または間接的に調節する能力を備えた任意の生物学的活性を有する分子を挙げることができる。
【0123】
物質は細胞に溶液のかたちで、または易溶性の形態で培養中の細胞の培養液に加えるのが好都合である。物質はフロースルーシステムに間歇的もしくは連続したストリームのかたちで加えることも、または添加時以外は静的な溶液に、化合物を一度にまたは少量ずつまとめて加えることもできる。フロースルーシステムの一例では2種の流体を使用し、一方は生理学的に中性の溶液、他方は同じ溶液で試験化合物を加えたものとする。第一の流体を細胞上に通過させ、その後第二の流体を通過させる。溶液を1種のみ使用する方法において、試験化合物を細胞の周囲の特定量の培養液にまとめて加える。培養液の成分の全体的濃度が、試験化合物の添加によって、またはフロースルー法における2種の溶液の間で有意に変動するようなことがあってはならない。
【0124】
態様によっては、物質の組成は全体の組成に有意な影響を及ぼしうるうな追加の成分、例えば防腐剤などを含有しない。この場合、物質の組成は試験対象物質および生理学的に許容される担体、例えば、水、細胞培養液などから本質的に構成される。他の態様において、スクリーニング・アッセイ法において別の物質を含有させることができ、こうした物質としては、例えば、物質の結合パートナーへの静的な結合を可能とするための物質、非特異的な相互作用またはバックグラウンドでの相互作用を低減するための物質が挙げられる。こうした物質については、当然ながら生細胞のスクリーニングと適合するものを選択する必要がある。
【0125】
上述したように、異なる物質濃度を用いた複数のアッセイ法を並行して実施して、各種の濃度に対応する示差的な応答を得ることができる。当技術分野で公知のように、物質の有効濃度を決定する際には、通常、1:10、または他の対数尺度を用いた希釈によって得られたある範囲の濃度を使用する。この濃度は、必要に応じて、二度目の一連の希釈を行うことによってさらに精緻化することができる。通常、これらの濃度の1つがネガティブ・コントロールの役目を果たし、このネガティブ・コントロールはゼロ濃度、または物質の検出レベル未満、または表現型の検出が可能な変化が得られない物質濃度以下の濃度とする。
【0126】
本発明のシステムおよび方法の各種の側面や特徴を利用したアッセイ法の例を以下に示すが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0127】
薬剤スクリーニング・アッセイ法
本発明の画像化システムおよび方法は、多岐にわたるアッセイ様式に適合させて、候補物質が標的細胞に対して及ぼす所望の生物学的効果(例えば、対象細胞パラメータの調節)に関してスクリーニングを行うことができ、この生物学的効果は、物質を薬剤として使用する際に意味を持つようなものとすることができる。例えば、各種の物質を、細胞分化、細胞死(例えば、アポトーシスの調節)、シグナル伝達(例えば、G結合タンパク質レセプターでのシグナル伝達、GTP結合、第二メッセンジャー系の検出など)、イオンチャネルの活性(例えば、流入を、例えばカルシウム・画像化を使用して評価することによって)、転写(例えばレポーター遺伝子アッセイ法を使用して、例えば標的遺伝子産物の発現に影響を及ぼす物質を同定する)などの調節について調べることができる。特に関心対象のものは、生細胞と共に使用することのできるアッセイ法である。
【0128】
一つの態様において、スクリーニング・アッセイ法は細胞中における候補物質の結合パートナーに対する結合を検出する結合アッセイ法、例えばレセプターに対してアゴニストまたはアンタゴニスト・リガンドとして作用する物質を同定するためのスクリーニングとすることができる。特定の態様において、アッセイ法は、例えば公知のレセプター・リガンド(例えば、公知のアゴニストまたはアンタゴニスト)の活性の阻害について候補物質を評価する、拮抗結合アッセイ法とすることもできる。この後者の態様において、公知のリガンドを検出可能となるよう標識し、例えば公知のリガンドの活性の低下または結合にともなって、その公知のリガンドの検出可能な標識も低減するようにしておくことができる。
【0129】
候補物質を標的細胞と共にインキュベートする際、培養は任意の適当な温度で行うことができ、通常は、4〜40℃で培養することができる。インキュベーション時間は活性が最適となるように選択するが、迅速でハイスループットなスクリーニングを進行させるうえで最適な時間を選ぶこともできる。インキュベーション時間は通常0.1〜1時間で十分であるが、態様によっては、細胞をこの培養時間〜もっと長い適当な時間をおいてから調べることが望ましい場合もある。
【0130】
機能的遺伝分析
一つの態様において、本発明の画像化システムおよび方法はハイスループットな機能的遺伝スクリーニング・アッセイ法を実現するために使用される。こうしたアッセイ法では、一般に(例えば、組換え遺伝子の安定した導入もしくは過渡的な導入、またはアンチセンス技術によって)遺伝的に改変した細胞を調べ、遺伝的改変を行った結果標的細胞において生物学的機能の獲得または喪失が生じたかどうかについて評価する。こうしたアッセイ法は、(例えば、遺伝子治療またはアンチセンス治療で)薬剤として有用である可能性のある物質の同定だけでなく、例えば機能の獲得または喪失を利用した対象遺伝子の同定、および機能が未知の遺伝子の分析にも有用である。
【0131】
遺伝子改変細胞を作製する方法は当技術分野で公知である。例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」 John Wiley & Sons, New York, N.Y., 2000を参照されたい。機能遺伝分析は、態様によっては候補物質が例えば対象とする遺伝子産物(例えば、ペプチド、タンパク質、またはアンチセンスRNA)をコード、およびアンチセンス分子として作用等をする可能性のあるポリヌクレオチドであるような薬剤スクリーニング・アッセイ法の役割も果たすことができる。「遺伝物質」の具体例については後述する。この遺伝子改変は、相同組換えの結果標的遺伝子の発現が(例えば検出不能なレベルまで)低減するような欠失を生じるノックアウトとすることも、細胞に通常は存在しない遺伝配列を安定的に導入するノックインとすることもできる。
【0132】
本発明では、部位特異的な組換え、アンチセンス、またはドミナントネガティブな変異体の発現をはじめとする各種の方法を使用してノックアウト体を作製することができる。ノックアウト体は、遺伝子ターゲティングの場合には内在遺伝子の対立遺伝子の一方または両方の機能を部分的または完全に喪失している。標的遺伝子産物の発現は、分析対象の細胞中において検出不能またはわずかであることが好ましく、そのためには、コード配列への破断部分の導入、例えば、1つ以上の停止コドンの挿入、DNA断片の挿入等、コード配列の欠失、コード配列の停止コドンへの置換等を行えばよい。場合によっては、導入した配列は最終的にゲノムから除去され、未変性の配列には変化が残らないこともある。
【0133】
機能遺伝分析のための細胞の改変
一般に、機能遺伝分析では、核酸を導入することによって細胞を操作して(例えば組換えタンパク質の発現、およびアンチセンスを媒介させた発現の阻害などによって)遺伝子産物の機能の付加または喪失がどのような効果を及ぼすのかについてスクリーニングを行う。こうした物質を本発明では便宜上「遺伝物質」と称するが、この「遺伝物質」は特に限定されるものではない。遺伝物質を導入すると、通常細胞の全体的な核酸組成が変化する。DNAのような遺伝物質を用いることによって通常は配列の染色体への組み込みにより、細胞ゲノムの変化を実験的に生じさせることができる。外来の配列が組み込まれずに、エピソーム物質として保持される場合には、遺伝的変化は一過性の場合もある。アンチセンス・オリゴヌクレオチドのような遺伝物質は、mRNAの転写または翻訳を妨害することによって、細胞の遺伝子型を変化させることなくタンパク質の発現に影響を及ぼすことができる。一般に、遺伝物質の影響は、細胞における1種以上の遺伝子産物の発現を増大または減少させるというものである。
【0134】
ポリペプチドをコードする発現ベクターの導入は、その配列が欠失している細胞においてコード産物を発現、または産物を過剰に発現(例えば、内在的な遺伝子のみの場合よりも高いレベルに発現)させるために利用することができる。構成的または誘導性の各種のプロモーターを使用することができる。これらのコード配列は、全長cDNAまたはゲノム・クローン、それらに由来する断片、または天然の配列を他のコード配列の機能または構造ドメインと組み合わせたキメラを含むものとすることができる。あるいは、導入する遺伝物質は、アンチセンス配列をコードするもの、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、ドミナントネガティブな変異、天然配列のドミナントまたは構成的な活性な変異をコードするもの、改変調節配列などとすることができる。
【0135】
宿主細胞種由来の配列を有する遺伝物質に加えて、他の遺伝物質として関心対象のものとしては、例えば病原体から得た配列を有する遺伝物質、例えばウイルス、細菌、原虫の遺伝子のコード領域であり、特にヒトをはじめとする宿主の細胞の機能に遺伝子が影響を及ぼす部分を挙げることができる。対応する同種配列が存在する場合または存在しない場合に、他種由来を配列を導入してもよい。
【0136】
遺伝子配列、例えばヒト、他の哺乳動物、ヒトの病原体の配列のソースとして、数多くの公的リソースを利用することができる。ヒトゲノムの相当部分は配列が決定されており、公的データベース、例えばGenbankを通じてアクセスすることができる。リソースとしては、単一(uni)遺伝子のセットおよびゲノム配列も利用することができる。例えば、Dunhamら(1999) Nature: 402 489-495、またはDeloukasら(1998) Science 282: 744-746を参照されたい。多くのヒトの遺伝子配列に対応するcDNAクローンが、イメージ・コンソーシアム(IMAGE consortium)で利用可能である。国際的なイメージ・コンソーシアム・ラボラトリーズ(IMAGE Consortium laboratories)は、世界規模での利用に備えてcDNAクローンを開発し、アレイとしている。こうしたクローンは、例えばミズーリ州セントルイスのゲノム・システムズ社(Genome Systems Inc.)から市販されている。DNA配列情報に基づいてPCRを行うことによって配列をクローニングする方法も、当技術分野では公知である。
【0137】
一つの態様において、遺伝物質は相補的配列の発現を低減させるように作用するアンチセンス配列とする。アンチセンス核酸は、RNAと特異的に結合してRNA-DNAまたはRNA-RNAハイブリッドを形成し、DNAの複製、逆転写、またはメッセンジャーRNAによる翻訳を阻害するよう設計する。アンチセンス分子は、例えば、翻訳の際の利用可能なmRNAの量の低減、RNAse Hの活性化、または立体障害をはじめとする各種の機構によって遺伝子の発現を阻害する。選択した核酸配列に基づくアンチセンス核酸は対応する遺伝子の発現を妨害することができる。アンチセンス核酸は、アンチセンス鎖を転写鎖として含むアンチセンス構築物からの転写によって細胞中で生成させることができる。
【0138】
アンチセンス物質は、アンチセンス・オリゴヌクレオチド(ODN)、特に未変性核酸由来の化学修飾を有する合成ODN、またはRNAのようなアンチセンス分子を発現する核酸構築物とすることができる。アンチセンス分子は1種を投与することも、組み合わせて投与することもでき、組み合わせて投与する場合には、投与アンチセンス分子は複数の異なった配列を含むものとすることができる。
【0139】
一般に、内在的センス鎖mRNA配列の特定の1つまたは複数の特定の領域をアンチセンス配列による相補的対合用に選択する。オリゴヌクレオチド用に特定の配列を選択する際には経験的な手法を使用することができ、この場合、いくつかの候補配列を標的遺伝子の発現の阻害に関して調べる。配列を組み合わせて使用することもでき、その場合には、mRNA配列のいくつかの領域をアンチセンスによる相補的対合用に選択する。
【0140】
ドミナントネガティブな変異を細胞の機能の喪失が生じているかどうかについてスクリーニングして、例えばタンパク質機能の分析を容易にすることもできる。これらはいくつかの異なった機構、例えば基質結合ドメインの変異、触媒ドメインの変異、タンパク質結合ドメインの変異(例えば、マルチマーの形成、エフェクター、またはタンパク質結合ドメインの活性化)、細胞局在化ドメインの変異などによって作用する可能性がある。ドミナントネガティブな変異の作製のために、一般的な戦略を使用することができる(例えば、Herskowitz (1987) Nature 329:219、および上掲の参照文献を参照のこと)。
【0141】
当業者に周知の方法を使用してコード配列と適当な転写および翻訳制御シグナルとを含む発現ベクターを構築し、細胞に導入された外来遺伝子の発現を増大させることができる。こうした方法としては、例えば、インビトロでの組換えDNA技術、合成技術、およびインビボの遺伝子組換えを挙げることができる。また、遺伝子産物の配列をコードしうるRNAを、例えば合成システムで化学的に合成することもできる。例えば、OligonucleotideSynthesis」, 1984, Gait, M. J.編, IRL Press, Oxfordに記載された技術を参照されたい。
【0142】
遺伝子コード配列を発現させる際、各種の宿主-発現ベクター系を利用することができる。発現構築物は、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えばメタロチオネイン・プロモーター、伸長因子プロモーター、アクチン・プロモーターなど)、哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えばアデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40後期プロモーター、サイトメガロウイルスなど)を含むことができる。哺乳動物の宿主細胞において、数多くのウイルス・ベースの発現系、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスなどをベースとした発現系を使用することができる。
【0143】
遺伝子全体、すなわちこの遺伝子の開始コドンおよび隣接した配列を含む遺伝子全体を適当な発現ベクターに挿入する場合、標的細胞で発現させるためにさらに翻訳制御シグナルが必要になることはない。しかし、遺伝子コード配列の一部のみを挿入する場合には、おそらくはATG開始コドンを含む外来の翻訳制御シグナルを用いる必要がある可能性がある。さらに、開始コドンは所望のコード配列のリーディングフレームと一致させて、挿入物全体が確実に翻訳されるようにする必要がある。これらの外来の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の双方を含め、各種の起源のものとすることができる。発現効率は、適当な転写エンハンサー因子、転写ターミネータなどを含ませることによって上昇させることができる(Bittnerら, 1987, Methods in Enzymol. 153:516-544を参照のこと)。
【0144】
トランスフェクションを高い効率(例えば、細胞の約80〜100%)で行いうる技術を使用すれば、選択性のマーカーを使用してトランスフェクトした細胞を同定する必要性を回避できる。こうした技術としては、アデノウイルスによる感染(例えば、Wrighton、1996, J. Exp. Med. 183: 1013; Soares, J. Immunol., 1998、161: 4572; Spiecker, 2000, J. Immunol 164: 3316; およびWeber, 1999, Blood 93: 3685を参照のこと)、およびレンチウイルスによる感染(例えば、国際特許出願第000600号または第9851810号)が挙げられる。他の重要なベクターとしてはレンチウイルス・ベクターが挙げられる。例として、Barry ら (2000) Hum Gene Ther 11(2):323-32;およびWangら (2000) Gene Ther 7(3):196-200を参照されたい。
【0145】
態様によっては、例えばトランスフェクト細胞の非トランスフェクト細胞に対する影響について調べようとする場合や、または複数のトランスフェクト細胞から検出される信号のために単一細胞の正確な画像化が困難である場合のように、トランスフェクション効率が低いことが望ましい場合もある。低トランスフェクション効率は、トランスフェクトした細胞の約25%、20%、10%、または5%未満、場合によっては約1%未満であってもよい。本発明の画像化システムおよび方法を使用すると、迅速な同定および、同じ細胞の再同定を行うことができるので、遺伝物質の標的細胞に対する影響を評価するにあたってトランスフェクション効率は重要ではない。
【0146】
以下の変形例は、当業者に対して本発明の利用のしかたについて完全に開示および記載するために挙げたものであって、本発明者が発明であるとみなす範囲がこれらの実施例によって限定を意図するものではなく、かつこれらの実施例は、以下の実験が行った実験の全てであるか、または以下の実験のみが行われたことを示すものでもない。使用した数字(例えば、長さ、量、温度など)についてはなるべく正確を期したが、いくつかの実験誤差や偏りが包含されている可能性を排除するものではない。特記しないかぎり、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0147】
変形例1:対物レンズの開口数に関する変形例
開口数の低い対物レンズを併用するという変形例について述べる。開口数を下げると視野の深さが増し、Z軸方向の位置がより広い範囲に分布する対象物が画像内で焦点が合ったままとどまった。例えば、低倍率、低開口数の対物レンズ(例えば、4倍で、開口数が0.13の対物レンズ)の場合、24ウェル・プレートのウェルの中央で1回で焦点を合わせれば、さらに焦点を合わせ直さなくても、顕微鏡の隣接視野をはっきりと画像化する事ができる。この設定は、低倍率の各視野に数多くの細胞が含まれるため、ハイスループットな細胞の計数を行う場合に都合が良い。また、この設定では、焦点を合わせ直すことで時間を費やすことなく同一ウェル中の他の視野の像を取得することも可能となる利点が有る。
【0148】
開口数が中程度から高めの対物レンズについては別の解決法を開発した。開口数を増やすと(例えば、10倍で開口数が0.30の対物レンズ、20倍で開口数が0.45の対物レンズ、40倍で開口数が0.60の対物レンズ)、視野の深さは、狭め、すなわち浅めとなり、ウェルの周縁部よりはウェルの中央に位置する細胞、例えば、神経細胞のz方向のわずかな位置の差が解像されるようになり、(焦点が、もともとウェルの中央に設定されていたと仮定すると)ウェルの中央に位置する神経細胞のみに、はっきり焦点が合うようになる。
【0149】
ウェル中の細胞のz方向の位置は、プレート・ホルダー中のマルチウェル・プレートの全体的な傾きによって、主に決定されることも見いだした。この傾きは、プレートをホルダーに載置する各回ごとに、わずかに、予測不能なかたちで変化するものの、プレートがホルダー中にとどまる画像化の各セッション1回についてみれば、プレートの位置はほぼ一定であった。そこで、自動焦点合わせを使用してホルダー中でのプレートの傾斜を経験則に基づいて測定し、次にこの測定値を使用して、ウェルの、すなわちウェル中のx-y方向の正確な位置に応じて、焦点の位置(z方向)を自動的に詳細に調整するプログラムを開発した。このプログラムを用いると、単一ウェル中、または4つの異なるウェルの中央に位置する、x-y方向の異なる4つの位置について、焦点面のz方向の詳細な位置を測定することができる。4つの異なる焦点位置についての正確なx、y、zの値を使用すると、xまたはy方向の変化に伴って生じる焦点面(z方向)の変化を計算することが可能となる。これらの値を自動焦点合わせプログラムに組み込み、各ウェルの中央の位置について焦点面を経験則に基づいて決定して、プログラムが自動的に、同一ウェル中の他のすべての視野についても、焦点位置を自動的に計算できるようにした。この方法によって、開口数の高いレンズを自動取得プログラムと共に使用できるようになり、ウェル全体について正確に焦点を合わせ、顕微鏡の各視野に焦点を合わせ直す場合に要する時間に比べればはるかに短時間で画像を取得できるようになった。
【0150】
各種波長についての焦点合わせ
異なった波長の蛍光を使用して顕微鏡の同一視野の像を集めるべく試行している工程において、レンズは異なる波長の光を異なる量で屈折させるので、放出された蛍光の波長が異なると、その光によって形成される像の位置が厳密には同じ位置とならないのである。この差は小さいので開口数の低い対物レンズ(例えば、4倍で、開口数が0.13の対物レンズ)の場合には検出されることはなかった。しかし、開口数が増えるとこうした違いも解像されるようになる。したがって、蛍光を用いる方法または装置においては、励起発光フィルターを交換した場合には対物レンズを配置し直して、同じ顕微鏡の視野の焦点をはっきり合わせる必要があった。しかし、本発明の場合、異なる波長の発光を検出するために、対応する異なる波長の励起光を照射する必要が無いので、波長ごとに焦点を調節する必要は実質的に無くなった。
【0151】
透過光を用いた自動焦点合わせによって決定された焦点面を、発光画像の位置を決定する際の基準としても用いることもできる。すなわち、透過光により得た焦点面をから相対的に固定された距離に位置させるようにすればよい。このとき、各種の発光成分について、基準焦点面に対する焦点面の位置を経験則に基づいて決定し、その後、コンピュータが発光検出用の光学フィルターを交換すると共に、適当な補償を自動的に導入するようなプログラムを実行することができる。
【0152】
変形例2:正確でハイスループットな画像の取得
取得プログラムを、プレートホルダーからプレートをはずさずに同じプレートに関して2回実施した場合には、得られる2枚の画像は、顕微鏡の視野がほとんど同一のものであった。しかし、画像化工程間にプレートを一度はずして載置し直した場合、画像の顕微鏡視野の内容は、部分的に重複しているのみであった。前者の場合には同一の顕微鏡視野が得られるのに対し、後者の場合には得られないことからは、ステージの動きが極めて精密であるのに対し、ホルダー内でのプレートの位置は変化しやすいことが示唆された。プレートホルダー内でプレートの位置を固定する試みは、実用的とはいいがたく、基本的に効果がなかった。
【0153】
この問題はむしろ、画像取得プログラムの動作をプレート自体の内部照合ポイントと関連づける単純なプログラムを開発することによって解決した。例えば、マルチウェル・プレートには、製造業者によっては、プレートの下側の各ウェルに隣接して文字や数字の記号がスタンピングされているものがある。こうしたスタンプの一つを本発明者らのプログラムの基準マークとして使用した。このプログラムでは、ステージをこの基準マークの位置が画像化されるように移動し、自動焦点合わせを行い、その後このマークの照合画像を取得する。取得プログラムの他のすべての点をこの照合マークと関連づける。プレートが次の画像化工程に備えてプレートホルダーに戻った際にプレートを配置し直し、基準マークの位置を前回の取得工程に合わせて戻し、その後取得プログラムを実施する。
【0154】
変形例3:個々の神経細胞の生存状態のモニタリング
顕微鏡の同じ視野に一定間隔をおいて定期的に正確に戻り、かつ個々の神経細胞の生存状態をモニターすることが可能となった結果、データ分析の自由度が増している。例えば、低倍率の対物レンズ使用して(この分析では、視野、すなわち画像内の細胞数が多いので、本明細書では「集団ベースの」分析と称する)、または高倍率を使用して(この分析では、視野、すなわち画像内の細胞数が少ないので、本明細書では「単一細胞ベースの」分析と称する)得たデータの分析結果に、十分に確立された手法であるカプラン-マイヤー分析を適用して、Aktの生存促進作用を定量化することができる。
【0155】
集団ベースの分析に使用する低倍率(4×)では、視野あたり、約50〜500個の神経細胞(例えば、1視野あたり、約100〜約400個、約150〜350個、または約300個の神経細胞)が観察された。単一細胞ベースの分析は神経細胞内の変化(例えば、封入体の形成、樹状突起の形状の変化など)についての空間解像が可能な倍率である高めの倍率(20×)で実施し、この倍率では視野あたり約10〜100個の神経細胞(1視野あたり約15〜約75個、約20〜50個、または約30個の神経細胞)を観察することができた。単一細胞ベースの分析はこの実施例では長期的に追跡した(すなわち、所定の選択した期間にわたって所定の選択した回数だけ画像を取得)3つのランダムな画像の全神経細胞を分析することによって実施した。カプラン-マイヤー分析(この分析は基本的に個々の対象についての長期分析である)を適用することは正当であり、これは各回とも顕微鏡の同じ視野に戻り、戻るまでの時間に消失した個々の神経細胞の数を「推測」しているからである。
【0156】
自動化分析を、まず特定の視野を選択し、各測定間隔をおいて視野内の神経細胞の数をモニターするために使用した。これらの神経細胞は有糸分裂後であったので、特定の時点での視野内の神経細胞の数をその視野内の以前の神経細胞の数から差し引いて、介在期間のある時点で死滅した神経細胞の数を推定した。生存分析という目的上および便宜上、非観察期間中に死んだ神経細胞については、トランスフェクションを行ってから最初に画像から消滅するまでの時間を細胞死が生じた時間とした。
【0157】
本発明を特定の態様に言及しつつ記載したが、当業者であれば、本発明の真の精神と範
囲から逸脱することなく各種の変更を加え、かつ等価物を置換することができることを理
解するはずである。当業者であれば、本発明の真の精神と範囲から逸脱することなく各種
の変更を加え、かつ等価物を置換することができることを理解するはずである。また、多
くの改変を加えることによって、特定の状況、材料、物質の組成、方法、その方法の工程
を、本発明の目的、精神、範囲に適合させることができる。こうした改変は、いずれも本
明細書に添付した特許請求の範囲の範囲に含まれる。本発明の範囲は以下の特許請求の範
囲の文字どおりの範囲または公正な範囲によってのみ限定される。
【0158】
さらに、発明者は、同一シャーレ内で培養された複数の細胞において、遺伝子発現の変動パターンが異なることも発見した。さらに、発明者が追究した光学的条件によれば、撮像装置の対物レンズを開口数(NA)/投影倍率(β)の2乗で表される光学的条件が0.071以上である場合に、1〜5分以内で画像化でき、画像解析も可能な細胞画像を提供できること突き止めた。これらの発光画像を蓄積型の撮像装置により顕微鏡観察する発光解析システムを発光顕微鏡と呼ぶこととする。発光顕微鏡は、好ましくは遮光のための開閉蓋(ないし開閉窓)を具備する遮光手段を有し、この遮光手段の開閉によって必要な生体試料をセットまたは交換するようになっている。目的に応じて、生体試料を収容する容器に対して化学的ないし物理学的刺激を行なう操作を手動ないし自動で行なうようにしてもよい。最良の一形態では、発光顕微鏡は公知または独自の培養装置を搭載いる。培養装置は、長期間のシステム内での解析を可能にするように、温度、湿度、pH、外気成分、培地成分、培養液成分を最適に維持する機能を備えている。
【0159】
発光試料の元となる生物学的材料は、例えば、真核動物、シアノバクテリア由来の細胞または組織が挙げられる。医学用途において、哺乳類、とくひヒトにおける検査すべき部位からバイオプシーにより切除した細胞を含む試料がとくに例示される。再生医療においては、少なくとも一部が人工的に改良ないし合成された生体試料であって、生物学的活性を良好に維持するかどうかを検査する目的に利用できる。他の一面において、本発明のアッセイ対象は、動物由来の細胞または生体組織に限らず、植物や昆虫由来の細胞または生体組織であったもよい。菌、ウイルスにおいては、従来のルミノメータでは実行されなかった容器内の部分ごとの解析が対象となり得る。ルミノメータではウエルまたはシャーレ等の容器内に無数の試料(例えば1ウェル当り100万個以上)を重積することで強大な発光量を迅速に得るようにしている。本発明では、肉眼では全く見えない個々の発光試料の画像を生成するので、個々の細胞が識別できる程度の密度で容器内に収容しても、個別の細胞ないし生体組織を解析できる。このような個別の解析は、発光している細胞だけを統計的に合計したり平均化する解析方法を含んでいる。これにより、細胞1個当りの正確な相互作用に関する評価が行なえる。また、多数の混在する発光試料において、同様の発光量ないし発光パターンを有する細胞群ないし組織領域を識別することが可能となる。
【0160】
第1の実施形態に関する用語の補足説明および変形例
サンプル1を収容する試料容器としては、シャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、フローセルが挙げられる。ここで、容器底面は、光透過性の材料(ガラス、プラスチックなど)であるのは勿論のこと、2次元的データが得られやすいように、幅広(ないし扁平)な底面を有する容器であるのがさらに好ましい。複数の収容部分を一体化したウェルやキュベットにおいては、各収容部分の仕切り部分が遮光性の材料ないし染料で全面的に成形するのが好ましい。また、シャーレ等の上部開口を有する容器については、蒸発防止用のフタを覆い被せるのが好ましく、さらにフタの内面が反射防止用の被膜ないし染色を施すのがS/N比を向上させる上で好ましい。このような硬質のフタの代わりに、容器内の試料の上面にミネラルオイルのような液状のフタを配置するようにしてもよい。試料容器を載置するための試料ステージを、必要に応じて一般の顕微鏡装置のように、別の撮像用の視野に変更するために、X軸方向およびY軸方向に移動させるようにしてもよい。
【0161】
対物レンズ2は、サンプル1の下方に倒立形式で配置してもよい。対物レンズ2は、生きた発光試料を培養条件のような恒温環境で安定に機能するように適宜の加熱手段(ペルチェ素子、温風ヒーターなど)により加熱してもよい。対物レンズ2は、さらに、光軸方向であるZ軸方向に駆動(図では上下方向)するようにしてもよい。機構9が備えられており、対物レンズ15をZ軸(光軸方向)に沿って自動的に駆動する。対物レンズのZ軸駆動機構としては、ラックピニオン機構やフリクションローラー機構が例として挙げられる。
【0162】
また、対物レンズ2は、所望の倍率に応じて適宜、油浸式にすることができる。また、どの倍率を選択するかは、評価(ないし解析)すべき試料のサイズに応じて任意に設定する。具体的には、細胞や組織を観察できる程度の低倍率(例えば5倍から20倍)や細胞内または細胞外の微小物質を観察できる程度の高倍率(例えば40倍〜100倍)であり得る。
【0163】
モニタ5は、発光試料の画像情報を動画で表示する構成を具備することにより、1以上の所望の細胞に関する活性の変化をリアルタイムな映像でもって観察するような解析方法を提供するのがこ好ましい。これにより、細胞単位または組織単位での発光の様子を臨場感有る映像でもって、時系列で観察することが可能となる。
【0164】
本発明において、時系列で観察するための方法および装置は、必要とする装置構成を制御したり連携するためのソフトウェアまたは該ソフトウェアを特徴づけるコンピュータプログラムの形態で提供されてもよい。また、本発明の方法または装置を装置と同一ないし別個に配置されたデータベースと電気的に接続することにより、画像容量ないし解析情報量に制限されることなく、高速で且つ信頼性と質の高い解析結果を提供することが可能になる。
【0165】
本発明においては、化学的励起試薬としての基質溶液による発光(冷光)を用いることにより、検出工程において励起光照射のための構成を不要にする。さらに顕微鏡を用いた観察において、肉眼で見えないような微弱光を発する発光試料に対して、高開口数の対物レンズを用いることにより、液体窒素を用いた極低温(例えば−30〜−60℃)の冷却を必要とするような大型且つ高コストな超冷却CCDを採用することなく、高速に画像化できるようにした。具体的には、高開口数(高NA)で且つ対象物を観察視野内に含むような投影倍率を有する対物レンズと、弱低温(例えば−5℃かそれ以上の高温)で、たかだか室温(ないし装置内温度)付近で、連続的に機能し得る撮像素子(CCD、CMOSなど)と、対象物を画像生成に適した位置に保持する保持手段と、これら対物レンズ、撮像素子、保持手段をハウジングして画像生成時の遮光を保障するための遮光手段とを主要な構成として具備する。CCDが小型で且つ弱低温で制御できる場合、トータルシステムとしてコンパクトであり、同じハウジング内に全ての構成要素を収容しても、机上で見下ろせるような高さに設計することも可能である。従って、本発明を具現化した装置は、非常に小型で低コストの商品となる。小型化することにより、装置内空間も小体積となるので装置内の生物学的環境(温度、湿度、エアー成分)の条件を培養や微量反応に適したレベルに調節し易くなり、さらなる低コストと高い信頼性を有するという利点もある。また、装置全体の高さを低くすることにより、発光試料の出し入れや収容済みの試料に対する薬剤の分注のような刺激処理を、装置の上部から適宜の開閉窓ないし開閉カバーを介して簡単に行なえる。
【0166】
他方、本発明は、光走査を行なわずに多数のピクセル(好ましくは多画素数)で画像生成する方法および装置を提供する。生成された画像の画像解析において、細胞を解析するような画像解析ソフトウエアも本発明の一部として、単独、ないし発光顕微鏡とのトータルシステムとして産業利用可能な製品を提供できる。
【0167】
以下のハイスループット撮像装置に関する説明もまた、本発明として単独ないし、以上の説明に記載された発明との組合せとして含まれる。但し、下記に示す内容が共有出来る他の方法または装置については、以下の説明の範囲において、本発明の要旨に限定されず、分割可能な発明の記載を含んでいる。
【0168】
ハイスループット撮像装置の技術分野について
本発明は1以上の生物学的試料に設定された多数の撮像領域をタイムラプスにより撮像する撮像装置に関し、特にハイスループットな撮像を可能するためのハイスループット撮像装置に関する。また、本発明は、このような撮像装置の機能を行わせるプログラムを含んでいるソフトウェアに関する。本発明は、生命体由来の細胞などの生物学的試料の生物学的活性を多数効率良く検査するような研究ないし臨床用途に適している。
【0169】
ハイスループット撮像装置の背景技術について
生物は高度な複雑性を持つため、構造や機能を理解するのは容易なことではない。そのため、近年生命現象を再現できる最小単位である細胞、つまり培養細胞を用いた単純な実験系が用いられている。培養細胞を用いることで、ホルモンの応答などの解析が生体内の他要因による影響を受けることのない実験が可能となる。つまり遺伝子の導入や阻害により遺伝子の機能解析を行うことが可能となる。
【0170】
細胞を培養するためには、生体内を真似た環境を用いる必要がある。そのため温度は体温の37℃とし、また細胞間液を真似た培地が用いられる。培地にはアミノ酸などの栄養源の他に、PH調整のための炭酸バッファーが含まれる。炭酸バッファーは5%という高い分圧の炭酸ガスを含む空気の存在下で平衡状態になり、デッシュなどの開放系の培養に利用される。また培地から水分の蒸発を防ぐため、95〜100%の高湿度の環境が要求される。
【0171】
細胞の培養には上記環境条件を備えた炭酸ガスインキュベータが用いられる。さらに、細胞の状態観察には位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡、GFPなどの発現観察には蛍光顕微鏡が用いられる。また、顕微鏡画像の撮影および表示にはCCDカメラとコントローラ(パソコン)が用いられ、これらを組合せた培養顕微鏡が提案されている(特許文献;特開2003−29164)。
【0172】
ハイスループット撮像装置に係る解決すべき課題について
培養している細胞を長時間または長期的に顕微鏡で観察する場合、タイムラプス観察方式で行われ時系列的に画像を取得している。タイムラプスとは一定間隔の時間で試料の撮影、画像の保存を行い、長時間かけて変化する細胞の状態を確認しやすくするために用いられる。例えば、始めに細胞1個を所要撮影時間(カメラの露出時間)で1回撮影し、その後1時間毎に1回ずつ撮影し続け24時間撮影すれば25枚の画像を取得できる。これらを撮影したあと連続的に再生すれば1時間ごとの細胞の変化を容易に確認することができる。撮影間隔を例えば30分、15分と短くすれば動きの速い細胞の観察も行える。
【0173】
また、細胞を複数箇所観察したい場合は、顕微鏡に付随する電動ステージを用い目的の場所に顕微鏡または試料を移動し観察を行っている。観察位置への移動はタイムラプスと同期して行っている。このような複数の観察位置を順次観察するタイムラプスを多点タイムラプスという。なお、上述した本発明の発光撮像方法および発光撮像装置によれば、独自に究明された明るい開口数の対物レンズを採用することによって、従来よりも顕著に短時間(例えば30分の1以下の所要時間)で発光画像を生成できるので、5〜20分単位、好適条件では5分未満、最短で約1分単位の微弱光画像による時系列評価が実現する。このことは、従来、肉眼で観察できるような輝度の蛍光画像に対して、肉眼で見えないような発光画像を代替ないし連携させることと可能とし、高速な反応ないし生体分子の動態の解析にも利用できるという画期的技術を提供するものである。発光画像を得るには、励起光を必要としないので、概日リズムのような光感受性試験は勿論のこと、生物材料への過度な刺激ないしダメージを無くして正確かつ長期安定な解析を実現する。再生医療においては、発光画像による解析により、何ら生物学的ダメージを受けていない生体材料を用いた治療、診断、創薬等の医学利用が可能であるという可能性を有する。
【0174】
しかしながら、タイムラプスによる撮像を多数の細胞について行おうとすると、最初に撮像した細胞と最後に撮像した細胞とで少なからず有意な時間差が生じる場合がある。有意な時間差は、細胞同士の比較を行う場合にしばしば致命的である。また、任意に指定した複数の細胞について時間差が生じないように撮像する有効な方法は知られていない。従来は、複数の細胞について順次に撮像を行うように撮像間隔を手作業で変更し、誤動作したら停止して再トライするような対応しか知られていない。とくに、昨今のセルベースアッセイのように、多数の細胞を自動的に解析するシステムにおいては、タイムラプスによる画像を用いるとスループットが激減する可能性がある。
【0175】
以上のような実情に鑑みて本発明の方法および装置を、タイムラプスの撮影作業を効率的に行うように改良した応用例を以下に説明する。なお、以下に説明するハイスループット撮像装置およびそのためのソフトウェアは、本発明の主旨に基づき、さらなる特許性を有する優れた発明である。ここにおいて、以下に示す発明は、多数の撮像対象からのタイムラプスデータを同時期に得ることが可能なハイスループット撮像装置およびそのためのソフトウェアを提供することを目的とすることができる。
【0176】
課題を解決するためのハイスループット撮像装置の手段について
上記目的を達成するために本発明のハイスループット撮像装置は、複数の撮像領域に存在している生物学的試料を撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記撮像領域の数に基づいてインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴としている。インターバル撮影の条件の一例として、生物学的試料の活性速度ないし反応速度に応じて、タイムラプス条件としての撮像時間を変更することも含まれる。本発明の発光撮像方法および装置によれば、1分〜20分の露光時間ないしそれ以上の時間から適当な露光時間を選択することができる。反応(ないし活性)速度が速い試料については画像解析可能なレベルの発光画像が得られる範囲で最小の露光時間を設定することができる。逆に、反応(ないし活性)速度が遅い試料については画像容量が余分にならない程度に長い露光時間を設定することができる。好ましくは、同一ないし異なる撮像視野において、複数段階の露光時間(例えば、1分、5分、10分、20分、30分の群から2以上の任意の組合せの段階)または連続的時間範囲(例えば、1〜30分の露光時間において、1〜3分単位の分割目盛または無段階で選ばれる任意の露光時間)を設定することによって、試料ごと、ないし試料中の領域(ないし部位)ごとの画像解析を実行できる。さらに、反応(ないし活性)の速度が異なる発光画像において、画像再生手段における再生速度を制御することによって擬似的に類似の速度による動画映像を提供でき、診断などの評価を簡単且つ効率良いものとし、試料ごとに非特異的なばらつきがあった場合にも正確に解析できるので最終的な評価結果を早く出せるという利点もある。また、試料ごとに画像解析可能なレベルの発光画像が得られる範囲で最小の露光時間を設定することができ、解析時間の短縮にも役立ち、スループットを高める。露光時間の選択は、自動でも手動でもよい。
【0177】
また、本発明のハイスループット撮像装置は、複数の撮像領域に存在している生物学的試料を異なる画像関連情報を抽出する画像情報抽出手段により撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記画像情報抽出手段の種類に基づいてインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴としている。このような構成においても、制御手段により設定された撮像条件によって撮像の作業が効率的に実行されるので、多数の撮像領域を短時間で撮像することが可能となる。
【0178】
本発明において「生物学的試料」はあらゆる生命体を対象とすることができ、関心がある生物学的活性を維持可能な状態で適当な保持手段としての容器または生命体に保持することによって、撮像手段に対し撮像すべき撮像領域を提供することができる。ここで、容器は、所望の撮像手段により撮像が可能な状態で試料を保持するあらゆる収容体を含み、具体的にはウェル、シャーレ、スライドチャンバー、キュベットが挙げられる。また、生命体としては、植物、哺乳類、魚類、昆虫類、細菌、ウイルスが挙げられる。生命体が生命を維持している状態で、必要に応じて生命体の一部を撮像可能な状態に処置し、適宜の撮像手段により生命体の撮像領域にアクセスできる場合には、生物学的試料が生命体に保持されていることになる。生物学的試料としては、生命体に由来するあらゆる部分を含むが、好ましくは生物学的な細胞であり、さらに好ましくは発生学的な分裂または増殖が可能な有核細胞である。細胞が異なる機能に分離した複数の器官を構築している生命体については、関心ある生物学的活性を示している任意の器官であってよい。生物学的活性としては、生理学的、遺伝学的、免疫学的、生化学的、血液学的活性のうち1以上の活性であり得る。「複数の撮像領域」は、同一の保持手段に保持された1個以上の生物学的試料、または別々の保持手段にぞれぞれ保持された1種類以上の被撮像部位を意味する。
【0179】
ハイスループット撮像装置の効果について
以上のように本発明のハイスループット撮像装置は、制御手段により設定された撮像条件によって撮像の作業が効率的に実行されるので、多数の撮像領域を短時間で撮像することが可能となる。また、多数のタイムラプスデータを試料の数が非常に多い場合でも同時期に得ることができるので、生物学的活性に関する研究や臨床において大きく寄与する。
【0180】
本発明の第一の実施例として、図23を参照して説明する。図23は本発明の装置の全体構成を示す概念図である。培養顕微鏡本体101は細胞を培養するインキュベータ室と細胞を観察する顕微鏡部分が一体となっている。培養顕微鏡本体101には内部にコントローラ102が内蔵されており、後述する各ユニットの制御を行っている。コントローラ102は培養顕微鏡のスペースをコンパクトにするため培養顕微鏡本体101内部に配置したが、コントローラの発熱による影響がある場合は本体の外部に配置してもよい。さらに、培養顕微鏡本体101は警告ブザー103と警告表示装置104を備えている。警告ブザー103は実験中に何か問題が発生した場合などに警告音を鳴らすことができる。また、警告表示装置104は警告ブザー103と同様に何か問題が発生した場合の警告表示や、作業指示などの表示が可能である。特に、警告表示装置104は操作パネルとしての機能を持つタッチパネル104aにしてあり、作業者が警告表示装置104に表示される指示にしたがい、タッチパネルに触れ操作を選択することができる。
【0181】
コントローラ102にはフォーカスハンドル・ジョイスティック105が接続されており、フォーカスハンドルにて後述する顕微鏡部分のZ軸方向、即ち、試料にピントを合わせる方向とジョイスティックにてRステージ、θステージを移動させることができる。θステージは軸を中心に回転方向に移動、Rステージは前記θステージの中心軸と垂直な1つの軸の方向に移動可能な電動ステージである。これらは装置サイズをコンパクトにするため使用したが、一般的なXYステージでもよい。とくに、Rステージモータ30とθステージモータ31は、後述する本発明の装置のインターバル撮像条件設定手段により設定された条件に基づいて、コントローラ102を通じて駆動制御される。
【0182】
培養顕微鏡本体101はインキュベータ室内に温度制御用のヒータ112を有し、ヒータ112をコントロールする温度コントローラ106が装備されている。
【0183】
コントローラ102および温度コントローラ106はコンピュータ109(図23ではパソコン)に、例えばRS−232Cなどのインターフェイスで接続されており、コンピュータ109から制御が可能になっている。また、インターフェイスとして必要な各手段(メモリ、演算回路、表示部、入力部等)も含んでいる。
【0184】
培養顕微鏡本体101のインキュベータ室内には外部に温度(37℃)、湿度(95〜100%)、炭酸ガス(二酸化炭素;5%)(各数値は一般的な値であり調整可能である)濃度を制御した混合エアーを蓄積してあるタンク107があり、電磁弁108の開閉により混合エアーを供給できる。本発明ではタンク107に混合エアーを入れているが、タンク107を炭酸ガスのみとし、湿度を維持するための不図示の水槽をインキュベータ室内に設置してもよい。またタンク107を37℃に維持しないで炭酸ガスをインキュベータ室に供給することも可能である。この電磁弁108はコンピュータ109により制御するようにしても良い。
【0185】
コンピュータ109はLAN、インターネット等のネットワーク110につながれており、さらに、ネットワーク110は遠隔地コンピュータ111に接続されており、ネットワーク110を介して遠隔地コンピュータ111(図23ではパソコン)からコンピュータ109を制御することができ、ついては培養顕微鏡本体1を遠隔地コンピュータ111からタイムラプス・インターバル撮像を監視したり、撮像データを大量に蓄積して検索可能なデータベースとして機能することが可能である。遠隔地コンピュータ111はユーザの利害関係者であってよいが、複雑多岐に亘るタイムラプス撮像の利用を順調に継続するために、システム運用を行う外部の専門業者との業務契約でまかなうのが好ましい。また、遠隔地コンピュータ111として、装置の現場(検査室、実験室等)以外の場所であれば、退室時、帰宅時、主張時、休暇時の任意の時刻において、主に監視を行う目的の携帯型の画像受信機であってもよい。携帯型の遠隔地コンピュータ111によれば、所望の画像を呼び出したり、警告時にブザー、ランプ、異常マーク等で異常を把握したりという即座の対応が可能となる。いずれにしても、装置本体と通信手段で接続する遠隔地コンピュータ111においては、適切な認証手段(例えば、暗証番号、担当者ID、電子鍵、バイオメトリックス(指紋、虹彩、静脈等))によるアクセス制限を行うのが好ましい。また、適切な認証が行われたアクセス者であれば、遠隔コンピュータ111を通じて、インターバル撮像条件を変更するようにリモート・コントロール出来るようにすることのがさらに好ましい。このように、遠隔地コンピュータ111は、装置の現場に行かなくとも、監視や一部の操作を可能にすることも出来るので、使用者の負担(例えば工数、経費、移動時間)を大幅に軽減する優れた利用システムを提供する。
【0186】
図24は本発明の培養顕微鏡本体1の内部構成図である。インキュベータ室20はフタ22により外部から密閉され、その内部の培養環境の温度と湿度と炭酸ガス(CO2)濃度を一定に維持したり、また積極的に制御したりする。混合エアーはエアー配管24を介してタンク7から供給されている。不要なエアーは不図示の配管から廃棄される。フタ22はヒンジ23を軸に把手21により開閉可能である。フタ22が開いている場合、フタ開閉センサー28が作動し、コントローラ2に対しフタ22の開閉を知らせることができる。
【0187】
ヒータ12はインキュベータ室20内部に設置され、不図示の温度センサーにより定められた温度、例えば37℃以下になったことを検出した場合、自動的に動作し温度を維持することができる。図24にはヒータ12を1個しか記載していないが、フタ22やベース55全体に取り付けインキュベータ室内の温度ムラが小さくするようにしてもよい。
【0188】
円形トレイ26は複数の試料設置穴52を有し、これらに複数の試料容器25が設置できる。試料容器25は円形トレイ26に対し上方向に取出すことが可能である。反対に試料容器25を円形トレイ26に設置すると試料容器25の底面が円形トレイ26の試料設置穴52のリング状突起51に接触し下に落ちないようになっている。さらに、試料容器25は円形トレイ26に対し位置決め可能で設置できるようになっている。試料容器25の底面は透明のガラスまたは樹脂でできており、対物レンズ33から観察可能である。
【0189】
また、試料容器フタ57は培地交換で試料をインキュベータ室20から外に出し、試料が冷えた状態でインキュベータ室20に入れたときに試料容器25についているフタが結露する可能性がある。結露した場合は試料容器フタ57と交換できるように予備として保管するスペースを設けてある。試料容器フタ57は培地交換中もインキュベータ室20内にあるため冷えることはない。さらに、試料容器25は例えばガラスのような透明で観察可能な底面部材93と上面部材91に例えば金属のように熱容量の大きい部材90、92からできており、底面部材93と部材92は接着により固定され、上面部材91は部材90と接着されている。部材92と部材90は着脱可能になっている。このような構造にすることで、上面部材91と底面部材93の結露を防止している。
【0190】
円形トレイ26は回転ベース34から脱着可能で、円形トレイ26を外した場合、円形トレイ脱着センサー27が作動し、コントローラ2へ円形トレイ26が外れていることを知らせることができる。円形トレイ脱着センサー27は図24では押しボタン式を記載しているが、円形トレイ26の脱着を検知できるセンサーならどのようなものでもよい。
【0191】
回転ベース34はθ回転軸35に取り付けられており、θステージモーター31の回転により円形トレイ26を図示した図26の矢印方向に1トレイずつ間欠的に回転停止させることができる。この円形トレイ26の回転と停止からなる回転周期は、後述する本発明の装置のインターバル撮像条件設定手段により設定された条件に基づいて、コントローラ2を通じて駆動制御される。回転周期の変形例として、円形トレイ26に配置した同一円周上の全ての試料容器25の個数より1トレイ分だけ多いか又は少ない回転距離で停止するような回転停止の周期を行うことによって、見かけ上は1試料容器ずつ間欠的に進むような停止でありながら、間欠的移動するごとに殆ど全ての試料容器25を毎回1周させることも可能となり、この各周回移動において、個々の試料容器25に関する培養状態の良否などの監視を行うことも可能となる。
【0192】
Rステージモーター30によりリードネジ38が回転し、ナット53に取り付けられている直線移動ベース36が左右に移動する。直線移動ベース36には直線ガイド54があり直線方向のみ移動可能になっている。θ回転軸35は直線移動ベース36に対し回転可能に取り付けられており、直線移動ベース36が左右に移動すると回転ベース34も左右に移動させることができる。これにより、試料をRθ極座標系で移動できるステージを実現できる。
【0193】
ベース55はインキュベータ室20とモータ室58とを分けており、インキュベータ室20高湿のエアーがモータ室58に進入しないように各部が密閉されている。まず回転ベース34とベース55の間には平面状のシート50を挟んであり滑動可能になっている。
【0194】
蛇腹56は対物レンズ33がインキュベータ室20内に露出している部分を囲むように取り付けてあり、対物レンズ先端部分とベースに端面を接着等で固定し密閉されている。これによりベース55と対物レンズ33の隙間からモータ室58に高湿のエアーが入らないようにしている。
【0195】
対物レンズ33はZステージモーター32がリードネジ39を回すことにより上下させることができる。対物レンズ33が上下することで試料にピントを合わせることができる。対物レンズ33が上下しても蛇腹56はゴムなどのやわらかい樹脂でできているため伸び縮みすることができ、密閉は維持される。
【0196】
顕微鏡室59は温度変化による光学系部材の膨張がない程度に温度を維持するようになっている。温度維持には不図示のヒータ等が用いられる。
【0197】
顕微鏡室にはコントローラ2が設置されており、各ユニットへの配線がされ接続されている。LED照明41は蛍光観察用の照明で蛍光キューブ42を介して通過窓40、対物レンズ33を経由して試料を照明する。試料からの光は対物レンズ33、通過窓40、蛍光キューブ42を介して、倍率変更レンズ43を通過しミラー44で光路を90度曲げてCCDカメラ45に入射される。ミラー44はCCDカメラ45の設置スペースを確保するために付けたもので、CCDカメラ45の設置スペースがあれば光路を折り曲げる必要は無い。
【0198】
LED照明41の代わりに不図示の水銀ランプ等、光ファイバーを用いて光源として用いることも可能である。水銀ランプの場合、LED照明41のように高速で点灯消灯ができないため、シャッターを取り付けて光の入射をオン/オフする必要がある。これらもコントローラ2から制御可能である。なお、倍率変更レンズ43を介さずにCCDカメラ45に入射する場合もある。つまり、倍率変更レンズ43は対物レンズ33からCCDカメラ45に延びる光路上に適宜挿脱されてよい。
【0199】
蛍光キューブ42は軸48を中心に回転可能になっており、波長の異なる蛍光キューブに切換えることができる。回転はキューブターレットモータ47の駆動により電動で行える。これらもコントローラ2から制御可能である。
【0200】
倍率変更レンズ43は軸49を中心に回転可能になっており、倍率の異なるレンズに切換えることができる。回転はレンズターレットモータ46の駆動により電動で行える。これらもコントローラ2から制御可能である。この倍率変更レンズ43は、ズーム機能を内臓した1個のズームレンズであってもよい。また、必要に応じ、所望の倍率等の仕様のレンズに交換するだけの構成でもよい。
【0201】
図25は図23、図24に記載したユニットで電気的方法などにより制御可能なユニットをブロック図に示したものである。図23と図24で説明した各ユニットについての説明は省略するが、各ユニットはコントローラ102に接続されコンピュータ(パソコン)109のユーザインターフェイスから観察者が制御可能になっている。CCDカメラ45は冷却CCDを用いた高感度タイプが用いられ直接コンピュータ109に接続されている。ヒータ112は温度コントローラ106を介してコンピュータ109に接続されているが温度コントローラ106の機能がコントローラ102にあればコントローラ102を介してヒータ112を制御してもよい。
【0202】
図25の特徴的な構成としては、装置本体101内部の機能を外部より制御する外部制御系60において、セッティングされた各試料容器25に関する撮像条件を設定するインターバル撮像条件設定手段70がコンピュータ109を介してコントローラ102に接続している点である。また、コントローラ102が撮像手段としてのCCDカメラ45の撮像動作についても駆動制御するべく接続している点も特徴の一つである。これにより、コンピュータ109に付随する入力手段や表示手段のような各種インターフェイスを含む外部制御系60と、インターバル撮像条件設定手段70と、内部制御系としてのコントローラ102と、撮像手段としてのCCDカメラ45と、各試料容器25を保持する円形トレイ26のための各種モータ30、31とを連携可能にしている。
【0203】
ここで、インターバル撮像条件設定手段70による設定内容について説明する。このインターバル撮像条件設定手段70は、次に示すようにあらゆる場面での想定に対応した装置を提供する。
装置1:複数の撮像領域に存在している生物学的試料を撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記撮像領域の数に基づいて前記撮像領域ごとのインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置2:装置1に記載の装置において、前記インターバル撮影の条件は、複数の撮像領域を複数回切り換えて撮像する設定を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置3:装置2に記載の装置において、前記画像取得手段から送出される画像信号を撮像領域ごとに積算して画像を生成することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置4:装置1に記載の装置において、前記インターバル撮影の条件は、撮像に必要な時間以外に別種の処理を行うための余剰時間を含んでいることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置5:装置4に記載の装置において、前記撮像領域を前記画像取得手段による撮像可能な光環境に維持するために外部との遮光を行う遮光手段と、前記遮光手段による光環境を一時的に解除して前記画像取得手段による撮像以外の処理を行うための処理手段とを備えたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0204】
装置6:装置1から5のいずれかに記載の装置において、前記複数の撮像領域に対して前記画像取得手段を相対的に移動する移動手段を備えることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置7:装置6に記載の装置において、複数の生物学的試料を円形トレイの円周に沿って順次配置するとともに、この円形トレイを前記制御手段の撮像条件に応じて回転および停止可能としたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置8:装置7に記載の装置において、前記円形トレイの回転周期を複数の撮像領域を通過してから停止する構成としたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置9:装置8に記載の装置において、前記円形トレイの回転周期が、1回転±1個の撮像領域分の長距離回転モードを有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置10:装置9に記載の装置において、前記長距離回転モードの長距離回転中に前記円形トレイ上の全ての撮像領域に関する別種の参考情報を取得する参考情報取得手段を備えたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置11:装置1〜4のいずれかに記載の装置において、前記画像取得手段は撮像時の撮像倍率を変更可能な撮像倍率変更手段を有し、前記撮像倍率変更手段による撮像倍率に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置12:装置1〜4のいずれかに記載の装置において、前記画像取得手段は撮像領域から得られる光信号を受光する受光素子を備え、受光素子の受光能力に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0205】
装置13:複数の撮像領域に存在している生物学的試料を異なる画像関連情報を抽出する画像情報抽出手段により撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記画像情報抽出手段の種類に基づいて前記撮像領域ごとのインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置14:装置13に記載の装置において、前記画像情報抽出手段が、同一の撮像領域に対して同時または連続的に異なる画像関連情報を抽出することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置15:装置14に記載の装置において、前記画像情報抽出手段が抽出した異なる画像関連情報を撮像領域上の試料に対応付けて合成する画像合成手段を有することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置16:装置13〜16のいずれかに記載の装置において、前記画像情報抽出手段が、透過光、蛍光、生物発光、化学発光、ラマン分光、赤外線の2組以上の組合せであることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置17:装置1〜16のいずれかに記載の装置において、前記生物学的試料中の細胞を継続して培養するための培養手段を備え、前記制御手段が復すの撮像領域に存在する細胞に関する各培養期間中の撮像時期に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0206】
図26は円形トレイの上面図である。円形トレイ26には試料容器25を入れる試料設置穴52がθ回転軸35の軸を中心とした円周上に均等の間隔に振り分けられている。各試料設置穴52にセットされた試料容器25に関する試料情報は、コンピュータ109に内臓のメモリに記憶され、タイムラプスのインターバル撮像条件の設定時に呼び出され、撮像条件を決定して、コントローラ102による撮像が実行される。決定した撮像条件に関する情報は、コントローラ102を介してコンピュータ9に通知され、試料情報と対応付けてコンピュータ9のメモリに記憶されるとともに、適宜、ユーザインターフェイスに表示することが可能である。
【0207】
コンピュータ9のユーザインターフェイスには、円形トレイ26の試料容器25の個別IDが付与されており、このIDを通じて撮像装置および円形トレイの動作が対応するようにプログラミングされている。ユーザインターフェイスの入力手段(オプティカルマウス、キーボード、タッチパネル、電子ペン等)は、ユーザが前記IDごとに選択した情報に基づいた撮像条件を設定するようにコンピュータ9を促がす。ここにおいて、図27のフローチャートに示すように、観察準備状態となって、GUI表示される(S1)とともに、ステージ原点出しが実行される(S2)。ここで、ユーザが観察したい試料容器を入力可能となり入力待ち(S3)になった後、好ましくはStage/RθとStage/Zにある各方向矢印ボタンを押し試料容器内の細胞画像をライブイメージウィンドとして表示させながら、タイムラプス撮像を希望する細胞を探して、入力手段により表示画面上で位置を選択する。即ち、この例においては、最初に、上述したような明視野画像および/または発光画像を表示した上で所望の細胞、細胞群、組織領域、ひいては細胞中の特定部位を指定するようになっている。好ましくは、任意の撮像時期において、タイムラプス撮像の途中でも、現在の撮像結果ないし解析結果を表示できるようにするのが好ましい。このためには、タイムラプス撮像の継続中に得られた発光画像を逐次解析するようにして、迅速な結果出しを行うような制御を実行するのがさらに好ましい。
【0208】
次に、選択した観察位置に関する観察条件の待ち状態となり(S4)、ユーザが所望の観察条件を入力する(S5)する。入力においては、例えば要求に沿った観察条件(例えば、使用する試薬の種類や実験条件に応じて微弱発光の波長や、検出感度、明視野観察における明るさ等)を上記と同様に入力する。また、図のように蛍光測定を併用する例においては、例えばLED-G(緑色)、LED-B(青色)のどちらを使うか選択したり、LED照明41の明るさを決定する。また、Cubeにて選択した波長に対応する蛍光キューブを選択したり、Lensにて番号のボタンに対応する倍率変更レンズを決定する。さらに、Camera ControlにてCCDカメラの露出時間やAEを実行するかどうかなどカメラの撮影条件を決定、Image File Nameにて撮影後の画像を保存するファイル名の決定、Time-lapseにてタイムラプスのインターバル時間、実験期間の設定をなど観察条件として必要なパラメータを全て設定する。ここでタイムラプスのインターバル時間とは、多点タイムラプス(1点のみの場合も含む)を行う場合の1回目の多点を撮影するための電動ステージ移動時間、撮影時間及び制御時間と、前記多点の2回目を撮影開始する直前までの待機時間を合計したものである。
【0209】
次に、入力された撮影条件を記憶(S6)すると、例えばタイムラプスのインターバル時間に対して、ステージの移動時間やカメラの露出時間の合計時間が長い場合、正しくタイムラプス・インターバル撮像を行うことができないため、コンピュータがタイムラプスのインターバル時間の再設定や撮像時間の再設定を行って、所望の数の撮像領域を漏れなく撮像できるようにすることができる。例えば、自動調整ボタンをクリックすることで、ステージの移動時間、カメラの露出時間の合計時間よりも多少長くした時間を自動的に算出しタイムラプスのインターバル時間として設定することができる。または、待機時間をゼロに近づけることで、連続性のあるタイムラプス撮像に切り換えるようにしてもよい。こうして、特定の観察位置における設定が終了すると(S7)、観察準備が終了して、撮像が開始できる状態となる。なお、入力した条件の記憶を中止して入力をやり直したい場合や別の観察位置についての設定を行いたい場合は、S3に戻って、入力を繰返すこととなる。
以上のように、この例に示した多点タイムラプスによれば、所望の観察対象のそれぞれに対して、ハイスループットで且つ適切な撮像条件で漏れなく自動観察できる。
【0210】
以上、上記の例では、蛍光顕微鏡をも兼用した例で説明したが、本発明は発光画像を専用に撮像してもよく、その場合には、励起光を照射する必要が無いので、照射光学系を除去することができる。蛍光標識した細胞等の観察を発光標識した細胞等の画像と同時に又は別々に観察するようにしてもよい。発光標識の例としては、顕微鏡下でも肉眼では見えないような微弱光を発する生物発光(または化学発光)が挙げられる。
【0211】
生物発光(または化学発光)の例として、特定の関心ある遺伝子領域のプロモーターの下流に連結したレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を含むDNAが導入された細胞または組織が挙げられる。ルシフェラーゼをレポーターとして発現させた細胞または組織を用いることにより、所望の発現部位におけるルシフェラーゼ活性を検出することによって、転写の経時的変化を実時間で検出することが可能である。
【0212】
好ましい態様は、導入した発光遺伝子が末梢組織中でリズムを有するように発現される脊椎動物由来の細胞または組織である。末梢組織には、肝臓、肺、および骨格筋が含まれるが、これらに限定されることはない。これらの末梢組織は、7〜12時間の位相差でもって概日リズムを刻んでいることが報告されている。概日リズムの遅延パターンを示したことは、多器官から構成される複雑な哺乳動物の生物リズムの正常な協調性を反映したものと考えられる。
【0213】
これによれば、本発明により解析した情報が、概日リズムと関係のある時差ぼけまたは睡眠障害の機序を解明するため、ならびに概日リズム障害の治療に有用な化合物のスクリーニングおよび試験を目的として用いる哺乳動物モデルを開発するために有用であるといえる。
【0214】
また、レポーター遺伝子を発現する本発明のDNAを含む形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物を用ると、種々の試験またはスクリーニングを行うことができる。さまざまな任意の条件下でこれらの組織または細胞におけるレポーター遺伝子の発現を検出することにより、レポーター遺伝子の発現を調節する刺激もしくは化合物の効果を評価すること、またはこれらをスクリーニングすることが可能である。刺激には温度、光、運動、および他のショックが含まれる。使用する化合物に制限はない。本発明は特に、本発明の形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物に導入された時計遺伝子(例えばPeriod 1)のプロモーターによって誘導される発現を改変する化合物を、その形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物を用いて試験またはスクリーニングする方法に適用可能である。
【0215】
本発明の試験またはスクリーニングの方法としては、以下の方法が挙げられる。
方法(1):本発明の形質転換体における導入遺伝子の発現を改変する活性を有する化合物を試験またはスクリーニングする方法であって、(a)前記形質転換体を前記化合物で処理する段階;および(b)処理した形質転換体における前記導入遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
方法(2):本発明の哺乳動物における導入遺伝子の発現を改変する活性を有する化合物を試験またはスクリーニングする方法であって、(a)前記哺乳動物を前記化合物で処理する段階;および(b)処理した哺乳動物における前記導入遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
【0216】
本発明の方法は、Period 1遺伝子の発現を調節する化合物をスクリーニングするために有用である。本方法はまた、概日リズム障害に対する医薬品をスクリーニングするためにも有用である。従って、上記の方法(1)、(2)に加えて、以下に挙げるスクリーニング法も本発明によって可能となる。
方法(3): 概日リズム睡眠障害の治療に有用な医薬品の試験またはスクリーニングの方法であって、(a)本発明の形質転換体またはトランスジェニック非ヒト哺乳動物をその医薬品で処置する段階;および (b)処置した形質転換体または哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
【0217】
本発明の試験またはスクリーニングの方法に使用する化合物に特に制限はない。その例には、無機化合物、有機化合物、ペプチド、蛋白質、天然または合成性の低分子化合物、天然または合成性の高分子化合物、組織または細胞の抽出物、微生物の培養上清、植物または海洋生物に由来する天然成分などが含まれるが、これらに限定されることはない。遺伝子ライブラリーまたはcDNA発現ライブラリーなどの発現産物を使用してもよい。化合物による処置の方法に特に制限はない。インビトロでの処置は、例えば化合物を培養液に添加して細胞を化合物と接触させたり、微量注入またはトランスフェクション試薬を用いて化合物を細胞内に導入することなどにより実施しうる。インビボでの治療の方法には、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、または腹腔内注射;経口投与、経腸投与、筋肉内投与、または鼻腔内投与;眼への投与;注射もしくはカテーテルを介した脳内投与、脳室内投与、または末梢器官内投与などの、当業者に公知の方法が含まれる。化合物は適宜組成物として投与する。例えば、それを水、生理食塩水、緩衝液、塩、安定剤、保存剤、懸濁剤などと混合することができる。
【0218】
レポーター遺伝子の発現は、哺乳動物または細胞が生きたまま測定することもでき、細胞を可溶化した後に測定することもできる。例えば、生組織におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現を測定するために、実施例に示すように光電子増倍管により、または本明細書に参照として組み入れられるヤマザキ(Yamazaki, S.)ら(Science、2000、288、682〜685)に記載された他の類似の検出器により、生物発光を連続的に測定することが可能である。可溶化した組織または細胞におけるルシフェラーゼ活性は、例えば、ルシフェラーゼレポーター二重アッセイ系(Dual-Luciferase Reporter Assay System)(Promega)などを使用して測定することができる。レポーター遺伝子の発現は、時間的または空間的に測定することができる。発現リズムの位相、振幅、および/または周期を検出することによって発現を分析することもできる。本発明の方法により、化合物の即時的または長期的な効果(位相変化を含む)の評価が可能となる。化合物の投与によってこれらの発現が改変されれば、その化合物はPeriod 1遺伝子の発現を調節する薬剤候補となる。このような化合物は、睡眠障害を含むさまざまな概日リズム障害に対する医薬品として適用されることが期待される。例えば、レポーター遺伝子の発現の振動をリセットまたは開始する薬剤は、ペースメーカの位相を後退または前進させると期待される。したがって、これらの薬剤は脱同調した発現パターンを正常な同調に導くために使用することができる。本発明によってスクリーニングされる医薬品は、薬剤の治療効果を評価するために、概日リズム障害モデルとなるように誘導した本発明のトランスジェニック哺乳動物に投与される。
【0219】
トランスジェニック哺乳動物における遺伝子の発現を検出する場合、測定する器官に特に制限はなく、これには視床下部の視交叉上核(SCN)を含む中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)、ならびに肝臓、肺、および骨格筋を非制限的に含む他の末梢組織が含まれる。本発明で開示する系は、SCNおよび末梢組織におけるPeriod 1発現の位相関係および同調機構を評価するために有用である。ここで、本発明による発光顕微鏡により得られる微弱光画像を、さらに異なる所望の経過時間ごとの微弱光画像を連続的ないし断続的に取得するようにする場合には、1以上の同一の細胞に関する時間ごとの光強度を網羅的に解析した解析データに基づいて、例えば時間遺伝子の活性パターンや薬剤等による細胞内物質の応答パターンを網羅的に評価することができるようになる。また、前記認識した細胞のうち所定の光強度ないし光分布を示さない細胞については網羅的評価を行わないことにより、解析すべきでない細胞を除外して正確な評価を実施できるようになる。また、前記画像解析した全ての細胞の光強度を合計値または平均値を算出することにより、個々の細胞の評価の他に解析した細胞全体の評価も実施できるようになる。また、前記画像解析した2以上の細胞の光強度および/または光強度パターンに応じて同一または異なる細胞グループに分類することにより、解析したパターンごとに活性を評価できるようになる。場合によっては、パターンが異なる細胞ごとに活性度ないし活性変化の詳細を調べることができるようになる。本発明によれば、時計遺伝子の発現パターンの周期の波形形状(振幅長、周期幅など)や波形強度(発現量、活性速度など)といった変動パラメータに関して、多様な組合せでもって解析を行うことができる。時計遺伝子の波形解析の結果は、診断、治療、生育(ないし生物学的発生)等の研究用途や産業上(医学、農産など)用途に重要な情報をもたらすので、本発明の果たす役割は大きい。
【0220】
また、本発明の装置は、多数の細胞を含む生物学的試料を画像取得可能な状態に保持する保持手段と、前記生物学的試料から発する微弱な光学的データを蓄積して画像解析可能な画像情報を取得する微弱光画像取得手段と、前記微弱光画像を形態的に解析して個々の細胞を認識するとともに認識した細胞に関する微弱光の光強度を網羅的に評価するための画像解析手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記保持手段が、複数のウェルを一体化したプレートをアドレス化可能に保持する構成を有することにより、複数のウェル間の評価を同一視野内または所定の順番で行うようになるので、異なる試料または異なる薬剤等による活性評価の結果を比較したり相関させることができるようになる。こ場合、前記保持手段が複数の独立した容器をアドレス化可能に保持する構成としてもよく、画像取得手段の視野に限定されず、多数の容器についての評価を行えるようになる。また、画像取得した時刻に応じた評価を行うように制御する制御手段を有することにより、経過時間ごとの同一細胞に関する解析、特定の活性を示した異なる時間同士の細胞(同一または異なる細胞)の比較解析といった多様な時間解析ができるようになる。また、前記画像解析した結果を画像情報と関連付けて表示する表示手段をさらに有することにより、解析結果の中から画像として見たい結果に対応する画像を表示できるよになる。また、前記表示手段が所望の画像情報を動画表示する構成を有することにより、1以上の所望の細胞に関する活性の変化をリアルタイムな映像でもって観察することができるようになる。動画表示としては、同一細胞に関する時間ごとの微弱光画像を画像処理により重ね合わせて臨場感を向上させるようにするとさらに好ましい。また、同一細胞に関する時系列の複数画像を駒送りで並列(ないし一部ずらしただけでもよい)表示するようにして、時間ごとの画像を全貌できるようにしてもよい。
【0221】
本発明の系は、Period 1の発現を調節すると推定される多くの因子を同定するために使用され得る。概日リズムと関係のある新規なインビボ因子および遺伝子が本発明の系を用いて同定されれば、これらの因子および遺伝子の発現のインビボでの振動を評価することができる。それにより、SCNおよび末梢組織の振動位相を制御する因子を単離することが可能である。これらは概日リズムに関与する新規な遺伝子および蛋白質であると考えられ、これらを標的として用いることにより、新規薬剤のスクリーニングが可能になると考えられる。このようなスクリーニングはインビボおよびインビトロのどちらでも行える。
【0222】
具体的には、本発明のトランスジェニック哺乳動物を用いるインビボでのスクリーニング方法は以下の段階を含む方法(4)により達成される。
方法(4):(a)概日リズムが既に決定されているトランスジェニック哺乳動物に化合物を投与する段階;(b)トランスジェニック哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現レベルを定期的に検出し、発現リズムを検証する段階; (c)化合物の投与後のレポーター遺伝子の発現リズムを投与前のものと比較する段階;および(d)発現リズムの位相、周期、または振幅を改変する化合物を選択する段階。
【0223】
レポーター遺伝子の発現リズムは、生きた動物の体内でのレポーター遺伝子の発現リズムを検出する方法;切り出した組織を培養することによって発現の変動を連続的に観察する方法;または動物組織の抽出物を定期的に調製して、各時点での発現レベルを検出する方法によって検出可能である。例えば、適した方法(例えば、静脈内注射、腹腔内投与、脳室内投与など)により、適切なタイミングでトランスジェニック動物にルシフェリンを投与する。続いてこの動物を麻酔し、CCDカメラによってルシフェラーゼ発光を計測することにより、レポーター遺伝子の発現部位および発現レベルを決定する。個々の動物の発現リズムを確認するために、この測定を数時間毎に数回ずつ行う(Sweeney TJら、「生きた動物における腫瘍細胞クリアランスの可視化(Visualizing the kinetics of tumor-cell clearance in living animals)」、PNAS、1999、96、12044〜12049;およびContag PRら、「生きた哺乳動物における生物発光標識(Bioluminescent indicators in living mammals)」、Nature Medicine、1998、4、245〜247を参照のこと)。
【0224】
前記の通り、インビトロでも本発明を用いて新規薬剤のスクリーニングを行うことができる。このようなインビトロスクリーニング法は以下の段階を含む方法(5)により達成できる。
方法(5): (a)本発明の形質転換体、または本発明のトランスジェニック哺乳動物に由来する組織もしくは細胞を培養する段階; (b)形質転換体または組織もしくは細胞を適切な期間にわたって化合物で処理し、さらに培養を続ける段階; (c)レポーター遺伝子の発現レベルを定期的に検出する段階;および(d)(b)の処理後にレポーター遺伝子の発現リズム(位相、周期、および振幅)を改変する化合物を選択する段階。
【0225】
本明細書において、本発明の撮像すべき組織または細胞は、初代培養物または樹立細胞系の細胞であってもよい。本明細書で用いる組織、細胞などに制限はないが、脊椎動物におけるSCN、視床下辺縁細胞、末梢神経などが好ましい。化合物による処理は、例えば、化合物を添加しておいた溶媒中に組織、細胞などを一定期間、浸漬することによって行ってもよい。レポーター遺伝子の発現リズムの変化を測定する場合には、発現リズムがあらかじめ決定された同一の組織もしくは細胞、または化合物による処理を受けていない対照組織または細胞を用いた比較を行ってもよい。
【0226】
上記のインビボおよびインビトロのスクリーニング方法において、光刺激などの刺激処理を、化合物の投与または処理とともに行ってもよい。
【0227】
本発明の試験またはスクリーニングの方法により同定された化合物は、所望の概日リズム疾患または障害に対する医薬品として用いることができる。これらの薬剤は、適宜薬学的に許容される担体、溶質、および溶媒と組み合わせることによって医薬組成物として製剤化することができる。本薬剤は、時差症候群、交代制勤務による睡眠障害、睡眠相後退症候群、および不規則性睡眠覚醒障害などの疾患または障害に対して適用することができる。
【0228】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を医薬品として用いる場合には、それを患者に直接的に投与することもでき、またはそれを公知の医薬品製剤法によって医薬組成物の形態に製剤化することもできる。例えば、それを薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤などと適宜組み合わせた後に投与することができる。本発明の医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、吸入液などの形態でありうる。化合物の含有量は適宜決
定してよい。これらは例えば、通常は動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、または経口投与によって患者に投与することができ、このような方法は当業者に公知である。投与量は患者の体重、年齢、投与方法、および症状により変動するが、当業者であれば投与量を適宜選択することができる。一般に、投与量は薬剤の有効血中濃度および代謝時間により異なるが、1日当たりの維持用量は約0.001mg/kg〜1g/kg、好ましくは、0.01mg/kg〜100mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgであると考えられる。投与は1日当たり1回から複数回であってもよい。化合物がDNAによってコードされうる場合には、遺伝子治療を行うためにDNAを遺伝子治療用ベクターに組み入れることが可能である。
【0229】
また、本発明によれば、次のような撮像装置のためのソフトウェアの発明も包含する。
ソフトウェア1:上述した装置1〜17のいずれかに記載の装置において、設定したインターバル撮像条件によるインターバル撮像が実行されるように、前記制御手段および前記画像取得手段を機能させるためのプログラムを有することを特徴とするハイスループット撮像装置のためのソフトウェア。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置の構成の一例を示す図である。
【図2】(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズ2の一例を示す図である。
【図3】対物レンズを簡略に示した図である。
【図4】現在市販されている一般的な顕微鏡の対物レンズによる像の明るさ(NA/β)の2乗の一例を示す図である。
【図5−1】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の明視野像を撮像した画像を示す図である。
【図5−2】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図5−3】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を5分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図5−4】図5−1および図5−3に示した画像を重ね合わせて表示した画像を示す図である。
【図6−1】図1に示した微弱光撮像装置による実験の標本の作成方法を説明する図である。
【図6−2】図1に示した微弱光撮像装置による実験の標本の作成方法を説明する図である。
【図7−1】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の明視野像を撮像した画像を示す図である。
【図7−2】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図7−3】図7−1および図7−2に示した画像を重ね合わせて拡大表示した画像を示す図である。
【図8】図7−3に示した画像のうち所定の2つの領域に対応する標本からの発光強度の経時変化を測定した結果を示す図である。
【図9】図1に示した微弱光撮像装置に落射蛍光装置を付加した場合の一部構成を示す図である。
【図10】図1に示した微弱光撮像装置にフィルターユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図11】多色ルシフェラーゼ遺伝子の発光特性および図10に示した波長抽出フィルターの透過率特性を示す図である。
【図12】図1に示した微弱光撮像装置に分光ユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図13】図1に示した微弱光撮像装置にミラー切換明視野撮像ユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図14】図1に示した微弱光標本撮像装置を遮光装置内に配置して外部から自動制御を行う場合の構成を示す図である。
【図15】図1に示したサンプル1を内部に保持し環境条件が可変な収容器の構成を示す図である。
【図16】図1に示した微弱光撮像装置(ないし微弱光撮像ユニット)に適用可能な各部構成を系統的に示す図である。
【図17】実施例1で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。
【図18】実施例2で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。
【図19】実施例2において撮像したHeLa細胞の発光画像を示す図である。
【図20】実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。
【図21】実施例3において撮像したHeLa細胞の発光画像を示す図である。
【図22】実施例3で用いた対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す発光画像の発光強度との関係を示した図である。
【図23】本発明の応用例としてのハイスループットな撮像装置に関する全体構成を示す概念図である。
【図24】本発明に適用可能な培養装置と顕微鏡装置を一体化した本発明の撮像装置の内部構成図である。
【図25】ハイスループットな撮像装置における電気的に制御可能なユニットをブロック図に示したものである。
【図26】ハイスループットな撮像装置において試料容器を保持する移動可能な円形トレイの上面図(平面図)を示す図である。
【図27】ハイスループットな撮像装置における操作ステップを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0231】
1:サンプル
2:対物レンズ
3:集光レンズ
4:CCDカメラ
5:モニタ
101:培養顕微鏡本体
102:コントローラ
103:警告ブザー
104:警告表示装置
104a:タッチパネル
105:フォーカスハンドル・ジョイスティック
106:温度コントローラ
107:タンク
108:電磁弁
109:コンピュータ
110:ネットワーク
111:遠隔地コンピュータ
112:ヒータ
20:インキュベータ室
21:トッテ
22:フタ
23:ヒンジ
24:エアー配管
25:試料容器
26:円形トレイ
27:円形トレイ脱着センサー
28:フタ開閉センサー
29:ゴム
30:Rステージモーター
31:θステージモーター
32:Zステージモーター
33:対物レンズ
34:回転ベース
35:θ回転軸
36:直線移動ベース
38:リードネジ
39:リードネジ
40:通過窓
41:LED照明
42:蛍光キューブ
43:倍率変更レンズ
44:ミラー
45:CCDカメラ
46:レンズターレットモータ
47:キューブターレットモータ
48:軸
49:軸
50:シート
51:リング状突起
52:試料取り付け穴
53:ナット
54:直線ガイド
55:ベース
56:蛇腹
57:試料容器フタ
58:モータ室
59:顕微鏡室
60;外部制御系
70;インターバル撮像条件設定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織等の生体試料中における生物学的活性をその活性を極力損なわないようにして長期間ないし連続的に検出する方法に関する。本発明は、その方法により実行される自動化装置のためのソフトウェアも包含する。
【背景技術】
【0002】
生物学分野や医学分野の研究において、細胞等の生体試料の生物学的活性をレポータアッセイにより検出する技術が広く利用されてきた。レポータアッセイを用いると、視覚的に調べることが不可能な様様な生物学的活性を可視化することができる。従来の臨床的な検査は、生体試料から調べたい生体関連物質(核酸、血液、ホルモン、タンパク質等)のみを種々の分離方法により単離して、その単離した生体関連物質の量や活性を試薬と反応させていた。しかし、生命体においては、多様な生体関連物質同士の相互作用こそが真の生物学的活性を示すものである。近年、医療用薬剤を研究または開発する場合、生きた生体試料中での生物学的活性に対して最も効果的に作用する薬剤が決定的条件となっている。生きた生体試料を対象としたレポータアッセイには、生体試料と調べたい生体関連物質とを画像化して、生体試料内外におぇる動的変化を経時的に観察する必要性が高まってきている。
【0003】
具体的には、レポーター物質としての発光(生物発光、化学発光)や蛍光を用いる観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。現状では、蛍光試料を対象として撮像した画像による動的変化の観察(例えば、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察)が行われている。蛍光試料の撮像の場合、励起光を照射し続けることで蛍光試料から発せられる光量が時間の経過とともに減少するという性質があるため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることが困難であったが、しかし、鮮明な、つまり、空間分解能の高い画像を短い露出時間で撮ることができた。一方、発光試料を対象とした画像による動的変化の経時的観察においては、発光試料からの発光が極めて小さいので、発光試料の観察には、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラを用いて行われていた。発光試料の撮像の場合、励起光を照射する必要がないため、定量的な評価に利用できる安定した画像を経時的に撮ることができた。
【0004】
これまで、発光試料の観察においては、発光試料からの発光量の測定が行われていた。例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が導入された細胞の観察では、ルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さ(具体的には発現量)を調べるために、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定が行われていた。そして、ルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量の測定は、まず細胞を溶解した細胞溶解液とルシフェリンやATPやマグネシウムなどを含む基質溶液とを反応させ、ついで基質溶液と反応させた細胞溶解液からの発光量を光電子増倍管を用いたルミノメーターで定量する、という手順で行われていた。つまり、発光量は細胞を溶解した後に測定されていた。これにより、ある時点でのルシフェラーゼ遺伝子の発現量を細胞全体の平均値として測定することができた。ここで、ルシフェラーゼ遺伝子などの発光遺伝子をレポーター遺伝子として細胞に導入する方法には例えばリン酸カルシウム法やリポフェクチン法やエレクトロポーション法などがあり、各方法は目的や細胞の種類の違いに応じて使い分けられている。また、ルシフェラーゼ遺伝子がレポーター遺伝子として導入された細胞においてルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さをルシフェラーゼ活性に因る細胞からの発光量を指標として調べる際、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の上流や下流に目的のDNA断片を繋ぐことで当該DNA断片がルシフェラーゼ遺伝子の転写に及ぼす影響を調べることができ、また、細胞に導入するルシフェラーゼ遺伝子の転写に影響を及ぼすと思われる転写因子などの遺伝子を発現ベクターに繋いでルシフェラーゼ遺伝子と共発現させることで当該遺伝子の遺伝子産物がルシフェラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることができる。
【0005】
また、時間経過に沿って発光遺伝子の発現量を捉えるには生きた細胞からの発光量を経時的に測定する必要がある。そして、生きた細胞からの発光量の経時的測定は、まず細胞を培養するインキュベーターにルミノメーターの機能を付け、ついで培養している全細胞集団からの発光量をルミノメーターで一定時間ごとに定量する、という手順で行われていた。これにより、一定の周期性をもった発現リズムなどを測定することができ、よって、細胞全体における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。一方、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、個々の細胞での発現量に大きなばらつきがある。例えば、HeLa細胞などのクローン化した培養細胞であっても、細胞膜表面のレセプターを介した薬剤の応答が個々の細胞でばらつくことがある。すなわち、細胞全体としての応答は検出されなくとも数個の細胞は応答している場合がある。このことから、発光遺伝子の発現が一過性である場合には、細胞全体からではなく個々の細胞から発光量を経時的に測定することが重要である。そして、顕微鏡を用いた生きた個々の細胞からの発光量の経時的測定は、各細胞の発光が極めて弱いので、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラとフォトンカウンティング装置とを用いたりして行われていた。これにより、生きた個々の細胞における発光遺伝子の発現量の経時的な変化を捉えることができた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、発光試料からの発光量が極めて少ないため、どうしても肉眼では見ることが出来ず、CCDのような蓄積型の撮像手段を用いて光量を蓄積しなければ画像生成することができない、という制約が有る。しかも、単一の細胞ないし組織を構成する細胞群において、細胞1個当りから発生する微弱光は、あまりに弱過ぎるので、鮮明な画像を撮るのに必要な露出時間が長くなる、という問題点があった。即ち、撮像の時間間隔は単位時間あたりの光量に制約されるため、微弱な発光の発光試料を撮像する場合、鮮明な画像を長い時間間隔で、例えば60分間隔で、経時的に撮ることができても、10〜30分程度の短い露光時間、ひいては1〜5分の露光でリアルタイムに撮像することはできなかった、という問題点があった。特に生細胞を長時間(例えば、50分以上)露光すると、培養容器等の支持体上でさえ細胞自身が動いて鮮明な画像を形成できない場合がある。一般に、画像を用いた解析を行なうためには、正確な輪郭を認識できなければならない。従って、画像が不鮮明なときは解析結果が不正確である可能性が有る。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、発光量の少ない発光試料でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の生体試料検出装置は、高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記撮像手段が、インターバル条件設定手段をさらに具備し、生体試料に関する複数の画像を異なる時間において複数取得するのが好ましい。本発明は、上記装置を用いる検出方法も包含する。ここで、前記方法においては、微弱光を発生する細胞を少なくとも含んでいることにより、細胞を含む画像解析も可能になる。
【0009】
なお、上記の装置および方法を具体化した発光試料撮像方法は、発光試料を撮像する発光試料撮像方法において、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いることを特徴とする。また、本発明は発光細胞撮像方法に具体化することができ、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項9に記載の対物レンズは、発光試料を撮像する発光試料撮像方法で用いる対物レンズにおいて、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項16に記載の対物レンズは、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法で用いる対物レンズにおいて、当該対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は対物レンズに関するものであり、本発明にかかる請求項17に記載の対物レンズは、発光試料を撮像する発光試料撮像方法で用いる対物レンズにおいて、当該対物レンズおよび/または当該対物レンズを包装する包装容器に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値を表記したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる発光試料撮像方法では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いる。これにより、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0014】
また、本発明にかかる発光細胞撮像方法では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である対物レンズを用いるので、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0015】
また、本発明にかかる対物レンズは、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であるので、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる、という効果を奏する。
【0016】
また、本発明にかかる対物レンズは、従来の対物レンズと比較して、開口数が大きいことと、倍率が小さいことの両方を備えているので、本発明にかかる対物レンズを用いれば広範囲を分解能よく撮像することができる。これにより、例えば移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料を撮像対象とすることができる。また、本発明にかかる対物レンズは、当該対物レンズおよび/または当該対物レンズを包装する包装容器(パッケージ)に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値(例えば0.01以上、好ましくは0.039以上)を表記した。これにより、例えば発光画像観察を行う者は、表記された(NA÷β)の2乗の値を確認すれば、発光試料を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するのに適した対物レンズを容易に選択することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
第1の実施形態
本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置の構成について図1を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の装置に関する構成の一例を示す図である。図1に示すように、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置は、撮像対象であるサンプル1を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するためのものであり、対物レンズ2と集光レンズ3とCCDカメラ4とモニタ5とで構成されている。なお、当該装置は図示の如くズームレンズ6をさらに備えてもよい。
【0019】
サンプル1は、発光試料であり、例えば、発光タンパク質(例えば導入された遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子など)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞や、発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の臓器や、発光性の個体(動物など)などである。また、サンプル1は、具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞でもよい。対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上のものである。集光レンズ3は、対物レンズ2を介して到達したサンプル1からの発光を集める。CCDカメラ4は、0℃程度の冷却CCDカメラであり、対物レンズ2や集光レンズ3を介してサンプル1を撮像する。モニタ5はCCDカメラ4で撮像した画像を出力する。
【0020】
そして、対物レンズ2や対物レンズ2の包装容器(パッケージ)には、(NA/β)の2乗の値を表記する。ここで、(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズの一例について図2を参照して説明する。図2は、(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズ2の一例を示す図である。従来の対物レンズには、レンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)および無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)が表記されていた。しかし、本発明にかかる対物レンズ(対物レンズ2)には、レンズ種類(例えば“PlanApo”)、倍率/NA油侵(例えば“100×/1.40oil”)、無限遠/カバーガラス厚(例えば“∞/0.17”)の他に、さらに射出開口角(例えば、“(NA/β)の2乗:0.05”)が表記されている。
【0021】
以上、説明したように、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置において、対物レンズ2は、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上である。これにより、発光量の少ない発光試料(例えば、発光タンパク質(例えば、導入された遺伝子(例えばルシフェラーゼ遺伝子)から発現された発光タンパク質)や、発光性の細胞または発光性の細胞の集合体や、発光性の組織試料や、発光性の個体(例えば動物や臓器など)など)でも、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像対象として、鮮明な画像を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮ることができる。また、対物レンズ2は、従来の対物レンズと比較して、開口数が大きく且つ倍率が小さいので、対物レンズ2を用いれば広範囲を分解能よく撮像することができる。これにより、例えば動きのある発光試料や移動する発光試料や広い範囲に分布する発光試料を撮像対象とすることができる。また、対物レンズ2は、当該対物レンズ2および/または当該対物レンズ2を包装する包装容器(パッケージ)に、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)の2乗の値(例えば0.01以上、好ましくは0.039以上)を表記した。これにより、例えば発光画像観察を行う者は、表記された(NA÷β)の2乗の値を確認すれば、発光試料を短い露出時間で、ひいてはリアルタイムに撮像するのに適した対物レンズを容易に選択することができる。
【0022】
従来、ルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーターアッセイにおいては、細胞を溶解した後に発光量を測定するため、ある時点での発現量しか捉えることができず、しかも細胞全体の平均値としての計測になってしまう。また、培養しながらの計測においては、細胞コロニーの経時的な発現量の変化を捉えることはできるが、個々の細胞での発現量の変化を捉えることはできない。そして、個々の細胞の発光を顕微鏡で観察するためには、生きた細胞からの発光量が極めて弱いため、液体窒素温度レベルの冷却CCDカメラで長時間露光したり、イメージ・インテンシファイアを装着したCCDカメラでフォトンカウンティングをしたりしなければならない。そのため、発光検出のカメラは高価で大掛かりなものになってしまう。しかし、レポーター遺伝子産物としてのルシフェラーゼ活性を示す個々の細胞の発光を顕微鏡によって観察する際、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度の冷却CCDカメラを用いて定量的な画像を取得することができる。すなわち、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、生きた状態で個々の細胞の発光を0℃程度の冷却CCDカメラによって観察することができるので、イメージ・インテンシファイアやフォトンカウンティングのための装置が不要である。つまり、低コストで発光試料の撮像を行うことができる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、個々の生きた細胞の発光を、培養しながら経時的に観察することができ、さらにリアルタイムに観察することもできる。また、本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置を利用すれば、同じ細胞について、異なった条件での薬剤や刺激の応答をモニタすることができる。
【0023】
ここで、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズの理解を容易にするために、従来の対物レンズおよびそれを用いた発光画像観察について簡単に説明する。
一般に、顕微鏡観察における空間分解能εは、下記数式1で表される。
ε=0.61×λ÷NA ・・・(数式1)
(数式1において、λは光の波長であり、NAは開口数である。)
また、観察範囲の直径dは、下記数式2で表される。
d=D÷M ・・・(数式2)
(数式2において、Dは視野数であり、Mは倍率である。なお、視野数は一般に22から26である。)
従来、顕微鏡用対物レンズの焦点距離は国際規格で45mmとされていた。そして、最近では、焦点距離を60mmとする対物レンズが使われはじめている。この焦点距離を前提にしてNAが大きい、つまり空間分解能が高いレンズを設計すると作動距離(WD)は一般には0.5mm程度であり、また長WD設計のものでも8mm程度であった。このような対物レンズを用いた場合、観察範囲は0.5mm径程度である。
【0024】
しかし、ディッシュやガラズボトムディッシュに分散した細胞群や組織、個体の観察を行う場合、観察範囲が1から数cmに及ぶことがある。このような範囲を分解能よく観察したいときには、低倍率でありながらNAを大きい値で維持しなければならない。換言すると、NAはレンズ半径と焦点距離との比であるので、NAが大きいまま広い範囲を観察できる対物レンズは、低倍である必要がある。そして、結果的に、このような対物レンズは大口径となる。なお、大口径の対物レンズの製作では、一般的に光学材料の物性の均一性やコーティングの均一性において、また、レンズ形状においても高い精度が求められる。
【0025】
また、顕微鏡観察の場合、光学系の透過率や対物レンズの開口数やCCDカメラのチップ面での投影倍率やCCDカメラの性能などが像の明るさに大きく影響してくる。そして、像の明るさは、開口数(NA)を投影倍率(β)で割った値の2乗、すなわち(NA/β)の2乗で評価される。ここで、図3に示すように、対物レンズには、一般に、入射開口角NAと射出開口角NA'との間に下記数式3の関係があり、NA'2が観察者の目やCCDカメラなどに届く明るさを示す値である。
NA'=NA÷β ・・・(数式3)
(数式3において、NAは入射開口角(開口数)であり、NA'は射出開口角であり、βは投影倍率である。)
一般の対物レンズにおいて、NA'は高々0.04であり、NA'2は0.0016である。また、現在市販されている一般的な顕微鏡の対物レンズにおける像の明るさ(NA/β)の2乗の値を調査したところ、図4に示すように、0.0005から0.002の範囲であった。
【0026】
ところが、図4に示す現在市販されている対物レンズを装着した顕微鏡を用いて、例えば細胞内でルシフェラーゼ遺伝子を発現させ発光している細胞を観察しても、当該細胞からの発光を目視で観察することができないし、さらに0℃程度に冷却したCCDカメラを用いて撮像した発光画像を観察しても細胞からの発光を確認することができない。なお、発光試料を観察する場合には、蛍光観察に必要な励起光の投影は不要である。例えば、落射蛍光観察では、対物レンズは、励起光投影レンズと蛍光を集光して画像を形成するレンズとの両方の機能を満たしている。そこで、光量の少ない発光を画像で観察するためには、大きなNAと小さいβの特性を有する対物レンズが必要である。そして、結果的に、当該対物レンズは大口径となる傾向がある。なお、このような対物レンズでは、励起光投影の機能を考慮することなく機能を単純化して設計、製造しやすくすることが求められる。
【0027】
また、発光や蛍光観察を利用する研究分野では、試料内のタンパク質分子の動的な機能発現を捉えるためにタイムラプスや動画撮像が求められている。最近では、蛍光を利用したタンパク質1分子の動画観察が行われている。これらの撮像では単位時間の撮像フレーム数が多いほど画像1フレームあたりの露出時間は短くなる。このような観察においては、明るい光学系、特に、明るい対物レンズが必要となる。しかし、蛍光に比べて発光タンパク質の光量は少ないので、1フレームの撮像に、例えば20分の露出時間を要することが多い。このような露出時間でタイムラプス観察を行うには動的な変化が非常に遅い試料に限られる。例えば、約1時間に一度分裂する細胞では、その周期内の変化を観察することはできない。従って、シグナル・ノイズ比を高く維持しながら少ない光量を効率よく画像化するために、光学系の明るさを向上することは重要である。
【0028】
以上の経緯を踏まえて製作された本発明の対物レンズは、一般に市販されている対物レンズ(例えば図4参照)に比べて、大きなNAと小さいβの特性を有している。即ち、後述するように、0℃〜5℃の弱低温の冷却型CCDを用いた場合であって、(NA/β)の2乗の値が0.01〜0.09の範囲で個々の細胞の発光タンパク質による発光画像を5分以内で生成でき且つ個々の細胞についての発光量の計測も可能であった。これに対して、同様の条件で、(NA/β)の2乗の値が0.007以下の場合には肉眼ないし画像解析ソフトウェアによる認識可能な発光画像を生成出来なかった。よって、本発明に発光画像を生成可能な対物レンズの(NA/β)の2乗の値(またはNA'2)は従来使用されていた範囲よりも有意に大きな値である。つまり、本発明の対物レンズは従来使用されて来た条件とは異なる条件において明るい対物レンズである、と言うことができる。これにより、本発明の対物レンズのような明るい対物レンズを用いれば、光量の少ない発光試料からの発光を画像で観察することができる。また、より暗い像を観察するために、開口数の大きい本発明の対物レンズを実体顕微鏡に装着することで、イメージ・インテンシファイアを装着することなく、0℃程度に冷却したCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。また、液体窒素冷却を用いるCCDカメラで感度を上げる方法があるが、この場合CCDカメラが非常に高価に、大規模になる。しかし、本発明の対物レンズを用いれば、ペルチェ冷却によるCCDカメラでも、細胞の発光を画像で観察することができる。
【0029】
また、本発明の対物レンズは、5cmから10cm程度の大口径である。これにより、従来では撮像対象となり得なかった揺れ、変形、分裂、移動等の動きの有る発光試料や広い範囲に分布する発光試料などを撮像対象とすることができる。本発明によれば、例えば、細胞を含む培養試料(組織または細胞群)において、1cm角相当、好ましくは2cm〜5cm角相当以上の視野範囲を観察できるので、種々の重要な組織ないし器官(例えば、脳、視交叉上核、膵臓、腫瘍組織、線虫など)の全体もしくは大部分を適宜薄切片等で広視野で観察および解析できる点で好ましい。なお、上記の説明において、液体窒素のような極低温の冷却CCDを本発明に適用することを排除するものではない。本発明によれば、極低温の冷却CCDでも得られなかった高速な撮像を、対物レンズを含む受光前の光学的構成だけで実現するようにしたからである。従って、本発明の方法および装置に対して、極低温の冷却CCDを組合せることによって、高感度化が図れ、S/N比が増すので、画質を向上させるようにすることが出来る。
【0030】
第2の実施形態
つぎに、第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によって実際に撮像した画像を図5−1〜図5−4に示す。図5−1〜図5−4に示す画像は、ヒト由来のHeLa細胞にルシフェラーゼ遺伝子「pGL3-control vector(プロメガ社製)」を導入し、1日培養した後、ハンクス平衡塩類溶液で洗浄し、1mMのルシフェリンを含むハンクス塩類溶液に置換して作製した標本を撮像した画像である。
【0031】
対物レンズ2および結像用の集光レンズ3として用いたレンズは、それぞれ「Oil、40倍、NA1.0」および「5倍、NA0.13」の仕様である市販の顕微鏡用対物レンズであり、結像光学系の倍率Mgに対応する総合倍率は8倍である。使用したCCDカメラ4は、0℃冷却の天体観測用クールドCCDカメラ(SBIG社製)であり、CCD素子は2/3インチ型、画素数765×510、画素サイズ9μm角である。
【0032】
図5−1は、標本の明視野像を撮像した画像、図5−2および図5−3は、標本の自己発光による像を撮像した画像であって、それぞれ1分間および5分間露光して撮像した画像である。図5−4は、図5−1および図5−3に示す2つの画像を重ね合わせて表示した画像である。
図5−2に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、0℃冷却の比較的高温の冷却CCDであっても、フォトンカウンティングすることなく、1分間という短い露光時間で、ルシフェラーゼ遺伝子が発する微弱光を撮像できる。また、図7−3に示すように、露光時間を5分間にすることで、より微弱な光を発するルシフェラーゼ遺伝子を撮像することができる。さらに、図5−1に示すように、標本の明視野像を撮像することが可能であり、図5−4に示すように、明視野像と自己発光による像とを重ね合わせることによって、発光するルシフェラーゼ遺伝子の標本内の位置を観測することができるとともに、発光するルシフェラーゼ遺伝子を含む細胞を特定することができる。なお、非特許文献1(David K. Welsh, Seung-Hee Yoo, Andrew C. Liu, Joseph S. Takahashi, and Steve A. Kay: "Bioluminescence Imaging of Individual Fibroblasts Reveals Persistent, Independently Phased Circadian Rhythms of Clock Gene Expression," Current Biology, Vol. 14 (2004) 2289-2295.)では、この文献中のFigure 2. に示されるように、標本がモザイク状に撮像され、発光する細胞を特定することは非常に困難であった。
【0033】
さらに、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によって行った実験結果の別の一例として、単一細胞での経時的なレポーターアッセイの例を説明する。
【0034】
このレポーターアッセイでは、まず、テトラサイクリン・リプレッサー(TetR)を恒常的に発現させるベクター「pcDNA6/TR(インビトロジェン社製)」と、テトラサイクリン・オペレータ(TetO2)をもつ発現ベクター「pcDNA4/TO(インビトロジェン社製)」にルシフェラーゼ遺伝子をつなげたプラスミドとをHeLa細胞に共発現させて標本を作製する。この状態では、図6−1に示すように、TetRホモダイマーがTetO2領域に結合しているため、ルシフェラーゼ遺伝子の転写は抑制される。つぎに、図6−2に示すように、培養液中にテトラサイクリンを添加してTetRホモダイマーに結合させ、TetRホモダイマーの立体構造を変化させることによって、TetO2からTetRホモダイマーを分離させ、ルシフェラーゼ遺伝子の転写を誘導する。なお、培養液は10mMのHEPESを含むD−MEM培地であり、1mMのルシフェリンを含む。
【0035】
対物レンズ2および結像用の集光レンズ3として用いたレンズは、それぞれ「Oil、20倍、NA0.8」および「5倍、NA0.13」の仕様である市販の顕微鏡用対物レンズであり、倍率Mgに対応する総合倍率は4倍である。使用したCCDカメラ4は、5℃冷却の顕微鏡用デジタルカメラ「DP30BW(オリンパス社製)」であり、CCD素子は、2/3インチ型、画素数1360×1024、画素サイズ6μm角である。
【0036】
図7−1は、テトラサイクリンを添加する前の標本の明視野像を撮像した画像である。図7−2は、テトラサイクリンを添加してから9時間後の標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像である。図7−3は、図7−1および図7−2に示す2つの画像を重ね合わせた画像であって、一部を拡大表示した画像である。なお、これらの観察は、室温(25℃)で行われている。標本がインキュベーター内に載置される場合、あるいは、撮像ユニットまたは撮像装置の一部もしくは全部もインキュベーター内に収納される場合では、37℃の環境で観察が可能である。
【0037】
図7−2に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、5℃冷却の冷却CCDによって、フォトンカウンティングすることなく、1分間という短い露光時間で、ルシフェラーゼ遺伝子が発する微弱光を撮像できる。
【0038】
また、図7−3に示すように、明視野像と自己発光による像とを重ね合わせることによって、発光するルシフェラーゼ遺伝子の位置を鮮明な画像で観測することができるとともに、このルシフェラーゼ遺伝子を含む細胞を容易に特定することができる。
【0039】
図8は、図7−3に示した領域ROI−1,ROI−2について、ルシフェラーゼ遺伝子の発光強度の経時変化を測定した結果を示す図である。図8は、テトラサイクリンを添加した2時間後から発光が捉えられ,6〜7時間後でプラトーに達したことを示している。このように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置によれば、発光するルシフェラーゼ遺伝子の位置を特定して時系列に追跡し、発光現象の経時変化を測定することができる。
【0040】
ところで、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置では、対物レンズ2と結像用の集光レンズ3とからなる結像光学系を無限遠補正系とすることにより、対物レンズ2と結像用レンズ3との間に各種光学素子を配置して、サンプル1を様々な方法で観察することができる。
【0041】
図9は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、落射蛍光装置を備えた場合の一部構成を示す模式図である。この落射蛍光装置は、図9に示すように、蛍光ユニットとしての蛍光キューブ24、蛍光用投光管25および励起光源26を備える。蛍光キューブ24は、標本1を励起するための励起光を選択的に透過させる励起光透過フィルターとしての励起フィルター21と、励起光によって励起された標本1から発せられる蛍光を選択的に透過させる蛍光透過フィルターとしての吸収フィルター22と、励起光を反射し蛍光を透過させるダイクロイックミラー23とを一体に備える。蛍光用投光管25は、集光レンズ25a、明るさ絞り作りレンズ25b、投光レンズ25c、明るさ絞りASおよび視野絞りFSを同軸に備える。
【0042】
励起光源26は、励起光を発する光源であり、水銀ランプ、キセノンランプ、レーザー等によって実現される。蛍光照射手段としての励起光源26および蛍光用投光管25は、ダイクロイックミラー23によって励起光を反射させ標本1に照射する。励起フィルター21は、励起光源26から発せられた光の中から励起光を抽出するバンドパスフィルターであり、吸収フィルター22は、所定のカットオフ波長を有するロングウェーブパスフィルターである。蛍光キューブ24は、対物レンズ60と結像レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置される。なお、蛍光キューブ24とともに、励起光および蛍光の少なくとも一方に対する光学特性が異なる複数の交換用蛍光キューブを一体に保持し、保持した蛍光キューブのうち1つの蛍光キューブを選択的に対物レンズ6と結像レンズ7との間に配置する蛍光キューブ切替装置を備えるようにしてもよい。
【0043】
図9に示すように、落射蛍光装置を付加することによって、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置では、標本1の蛍光像を撮像することができる。また、この微弱光標本撮像ユニットによれば、微弱な蛍光を観測することができるため、落射蛍光レーザースキャニングコンフォーカル顕微鏡を利用する場合のように強力な励起光を標本に照射する必要がなく、標本の損傷を軽減させることができる。さらに、強力な励起光源用レーザー、ガルバノミラー等のスキャニング装置、コンフォーカル光学系、フォトマルチプライヤー、画像作成用処理装置などが不要となる。
【0044】
また、図9に示した微弱光標本撮像装置は、DNAチップリーダーとして利用することができる。DNAチップとは、ガラスやポリスチレンなどの樹脂基板上に、多種類のDNA断片や合成オリゴヌクレオチドを約0.3mmの径で約0.6mm間隔に数百個塗りつけたものであり、遺伝子の発現や特定遺伝子の存在などを調べるために用いるものである。通常、このDNAチップから発せられる蛍光は、微弱なものである。本発明の微弱光撮像装置を用いれば、従来の遺伝学的ないし免疫学的物質を固相化した微小なバイオチップへの固相化量を大幅に減らしてもリアルタイムな検出が可能となる可能性がある点で優れている。
【0045】
一般的なDNAチップリーダーは、レーザー照射のコンフォーカル光学系と高速移動スキャニングステージとの組み合わせであり、この装置での測光は、スポット励起光照射点の発光量の和であるため、スキャニング幅が変わると、その都度測定光量も変化することになり、絶対光量を測定することができない。図9に示した微弱光標本撮像装置を利用すると、たとえば、0.5mm径の視野を有する対物レンズに対して、0.6mmステップでDNAチップを保持するステージを移動させ、停止する毎に測光することによって絶対光量を測定することができる。
【0046】
図10は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、分光測光用のフィルターユニットを備えた場合の一部構成を示す模式図である。図10に示すように、分光測光用のフィルターユニット31は、穴部31a,31bにそれぞれ波長抽出フィルター32,33を有し、対物レンズ6と結像レンズ7との間に配置される。フィルターユニット31は、光軸OA2に略直交した面内でスライド式に移動可能に配置され、波長抽出フィルター32,33および空穴31cの1つを選択的に光軸OA2上に配設する。なお、フィルターユニット31は、ターレット式に移動可能としてもよく、さらに多くの波長抽出フィルターを保持するようにしてもよい。
【0047】
フィルターユニット31を利用して、たとえば、2色の光を発する多色ルシフェラーゼを標本1として分光測光を行う場合、波長抽出フィルター32は、650nm以上の長波長の光を透過させるロングウェーブパスフィルターとし、波長抽出フィルター33は、550nm以下の短波長の光を透過させるショートウェーブパスフィルターとするとよい。ここで、多色ルシフェラーゼの発光特性は、図11に示す分光特性曲線35G,35Rで表され、波長抽出フィルター32,33の透過率特性は、それぞれ図11に示す透過率曲線32LP,33SPで表される。
【0048】
この場合、図10のフィルターユニット31によって波長抽出フィルター32を光軸OA2上に配設することによって、多色ルシフェラーゼから発せられる赤色光を測光することができ、波長抽出フィルター33を光軸OA2上に配設することによって、多色ルシフェラーゼから発せられる緑色光を測光することができる。また、空穴31cを光軸OA2上に配設して、標本1の明視野像を観察することができる。なお、波長抽出フィルター32を配設した場合、分光特性曲線35G,35Rがクロスオーバーした波長域の一部が測光されるが、この光量は微量のため無視できる。
【0049】
また、図12に示すように、標本1から発せられる微弱光を検出するためのカメラC1と、標本1の明視野像を撮像するためのカメラC2とをスライダー等によって切り替えられるようにして、標本1の明視野像をカラー撮像できるようにしてもよい。カメラC2は、たとえば、CCD34a〜34cを有する3板式のカラーCCDカメラであり、各CCD34a〜34cは、CCD3よりも画素が小さく高精細なCCDとするとよい。また、カメラC2は、高精細なモノクロCCDを備えるモノクロCCDカメラとしてもよい。
【0050】
図12は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、カメラC1とともに分光測光用のカメラC3を備えた場合の一部構成を示す模式図である。図12に示すように、この微弱光標本撮像装置は、対物レンズ6と結像レンズ7との間に波長抽出フィルター32,33およびダイクロイックミラー35を一体に有した分光キューブ36を備えるとともに、標本1から発しダイクロイックミラー35で反射した微弱光を開口数NAiでテレセントリックに結像する結像用レンズ37と、カメラC1と同様の特性を有するカメラC3とを備える。ここで、ダイクロイックミラー35は、図11に示した特性曲線35G,35Rの交点に対応する約600nmの波長を透過および反射の反転波長とし、この反転波長以上の波長を透過するとともに反転波長より短い波長を反射する。
【0051】
図12に示す微弱光標本撮像装置では、たとえば、図11の特性曲線35G,35Rに示した発光特性を有する多色ルシフェラーゼを標本1として観察すると、カメラC1によって多色ルシフェラーゼから発せられる赤色光を測光することができるとともに、カメラC3によって多色ルシフェラーゼから発せられる緑色光を同時に測光することができる。なお、カメラC1,C3および結像レンズ7,37の特性の個体差に起因する撮像倍率等の差は、あらかじめキャリブレーションして取り除くことが望ましい。
【0052】
なお、分光キューブ36は、対物レンズ60と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置するとよい。また、分光キューブ36とともに、分光特性等の光学特性が異なる複数の交換用分光キューブを一体に保持し、このうち1つの分光キューブを選択的に対物レンズ60と結像用レンズ70との間に配置する分光キューブ切替装置を備えるようにしてもよい。さらに、分光キューブ切替装置は、ダイクロイックミラーおよび波長抽出フィルターを個別に交換できるようにしてもよい。
【0053】
図13は、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置に、カメラC1とともに明視野像観察用のカメラC4を備えた場合の一部構成を示す模式図である。図13に示すように、この微弱光標本撮像装置は、ミラー38、結像用レンズ37、カメラC4および吸収フィルター22を備える。吸収フィルター22は、スライダー等の切替装置39によって、ミラー38と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置される。ミラー38は、図示しない挿脱手段によって、対物レンズ60と結像用レンズ70との間の光軸OA2上に挿脱可能に配置され、光軸OA2上に配置された場合、標本1からの光を結像レンズ37に向けて反射する。なお、標本1は、ミラー38が光軸OA2上に配置された場合、照明ファイバー15によって明視野照明される。
【0054】
カメラC4は、たとえば、CCD3よりも画素が小さく高精細なCCDを有したモノクロCCDカメラであり、ミラー38が光軸OA2上に配置された場合、標本1の明視野像を撮像する。一方、ミラー38が光軸OA2上に配置されない場合には、カメラC1が標本1の自己発光による像を撮像する。このとき、吸収フィルター22および切替装置39を図10に示したフィルターユニット31に替えて、標本1からの微弱光を分光測光するようにしてもよい。なお、カメラC4は、3板式のカラーCCDとしてもよい。
【0055】
一般に、CCDカメラ4として用いる高感度のクールドCCDカメラは、筐体が大きく、たとえば図10に示すようなカメラの交換は困難であるが、図13に示す微弱光標本撮像装置では、ミラー38を光軸OA2上に挿脱することによって、使用するカメラを容易に切り替えることが可能であり、標本1の明視野像および自己発光による像の撮像を容易に切り替えることができる。
【0056】
このように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置では、対物レンズ2(または60)と結像用レンズ3(または70)とからなる結像光学系を無限遠補正系としているため、対物レンズ2(または60)と結像用レンズ3(または70)との間に各種光学素子を配置して、この微弱光標本撮像装置を多機能化することができる。
【0057】
一方、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置は、たとえば図14に示すように、外部からの光を遮断するチャンバー等の遮光装置内に配置することによって、外部の光の影響を受けることなく精度よく安定して微弱光を検出することができ、標本1の自己発光による像を鮮明に撮像することができる。ここで、図14に示す遮光装置は、ベース41、囲い42および蓋43によって暗室を形成し、この暗室内でベース41上に微弱光標本撮像装置を備えている。この遮光装置では、ノブ45を持ち上げることによってヒンジ部44を中心に蓋43を開扉し、標本1を交換することができる。
【0058】
また、図14に示すように、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置を遮光装置内に配設した場合、キーボード、マウス等の入力装置47を有したコンピュータ等の制御装置46によって、この微弱光標本撮像装置を遮光装置の外部から遠隔操作および自動制御できるようにするとよく、特に、標本1に対する焦点合わせおよび位置合わせ動作、カメラC1等の撮像動作、照明ファイバー15による照明光の調光などを自動制御できるようにするとよい。
【0059】
ここで、標本1に対する位置合わせとは、対物レンズ60および結像用レンズ70からなる結像光学系、カメラC1および標本1を保持する試料台13の少なくとも1つを光軸OA2に略直交する方向に移動させて、対物レンズ60の視野内に標本1を配設する処理である。なお、このような位置合わせ処理を利用して、結像用レンズ70が形成したエアリーディスクのうち着目するエアリーディスク毎に、エアリーディスクの中心とCCDの画素の中心とが合致するように処理してもよい。この場合、たとえば、エアリーディスクと画素とを相対的に2次元的に操作して、この画素に対応する出力が最大となる位置を検出するようにすればよい。
【0060】
また、制御装置46は、図14に示すように、表示装置48を備え、標本1の明視野像と自己発光による像とに対応する画像を重ね合わせて表示できるようにするとよい。さらに、制御装置46は、これらの画像を保存するメモリー等の記憶部を備えるとよい。
【0061】
一方、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像装置は、試料台13に替えて、たとえば図15に示すように、シャーレ51、区画52および透明板53からなる収容手段としての密閉容器を備え、シャーレ51上に標本1を保持するようにしてもよい。ここで、この密閉容器は、図示しない空調装置によって生成される定温低湿のCO2を容器内に給気する給気パイプ54と、容器内のCO2を排気する排気パイプ55とを備え、容器内の温度、湿度、気圧およびCO2濃度の少なくとも1つを調整できるようにしている。なお、CO2を給排気する替わりに、この密閉容器の内部にヒートシート等を設けて電気的に容器内の温度調整等を行うようにしてもよい。
【0062】
ここで、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置に適用して好適な各部構成を系統的に図16に示す。図16に示すように、対物レンズ60には、「Oil,40倍,NA1.4,f5mm」の仕様である対物レンズ601を中心に、「20倍,NA0.8,f10mm」の仕様である対物レンズ602と、標本1の全体を観察できる「5倍,NA0.15,f40mm」の仕様である対物レンズ603を用いるとよい。これらの対物レンズ601〜603には、一般に市販されている瞳位置が互いにほぼ等しい顕微鏡用対物レンズを使用することができる。また、観察視野を大きくとれる「Oil,20倍,NA1.4,f10mm」の仕様である対物レンズ60を使用してもよい。ただし、この場合、対物レンズ60の射出瞳径が28mmに拡大し、対物レンズ60とともに結像用レンズ70やこれらのレンズ間に配置する光学素子の径が拡大し、一般の顕微鏡で使用される光学ユニット、光学素子等は使用できなくなる。なお、対物レンズ6に開口径が可変の可変開口絞りを備え、結像用レンズ70の開口数NAiを微調整できるようにするとよい。
【0063】
結像用レンズ70には、図16に示すように、「NA0.3,f25mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率5倍、実視野0.75mm、視野数3.75)」の仕様である結像レンズ701、「NA0.2,f35mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率7倍、実視野0.75mm、視野数5.25)」の仕様である結像レンズ702、「NA0.1,f70mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率14倍、実視野0.75mm、視野数10.3)」の仕様である結像用レンズ703、「NA0.15,f50mm(40倍対物レンズ使用時の総合倍率10倍)」の仕様である結像用レンズ704等を用いるとよい。また、明視野観察用に「NA0.03,f100mm(5倍対物レンズ使用時の総合倍率2.5倍、実視野6mm、視野数15)」の仕様である結像レンズ705を使用するとよい。なお、CCD3に2/3インチ型CCDを用いて画像を撮像すると、結像レンズ7が視野数10.3では画像の4隅にわずかなケラレが発生し、視野数が10.3より小さいと画像が丸くなり、視野数が10.3より大きいとケラレのない画像が撮像できる。また、「Oil,20倍,NA1.4,f10mm」の仕様である対物レンズ6を使用した場合、結像レンズ7として「NA0.2,f70mm」の仕様のレンズを使用すると、「総合倍率7倍、実視野1.5mm、視野数15」となる。
【0064】
対物レンズ60と結像用レンズ70との間に配置する中間鏡筒には、図9に示した蛍光キューブ24等を備える落射蛍光装置、図10に示したフィルターユニット31、図12に示した分光キューブ36等を備える分光ユニット、および図13に示したミラー38等を備えるミラー切換明視野撮像ユニットをそれぞれ用いるとよい。
【0065】
標本1の像を撮像するカメラには、微弱光である標本1の自己発光による像を撮像するカメラとして、高感度のクールドモノクロCCDカメラであるカメラC1,C3を用い、標本1の明視野像を撮像するカメラとして、3板式のカラーCCDカメラであるカメラC2または高精細なモノクロCCDカメラであるカメラC4を用いるとよい。なお、カメラC1,C3の画素の大きさは、6〜9μm角程度として、結像レンズ7によって形成されるエアリーディスクの大きさに合わせて選択するとよい。
【0066】
標本1を照明する照明手段には、白色光源等から照明光を導光する照明ファイバー15の他に、図16に示すように、白色LEDと単レンズとを組み合わせてクリティカル照明を実現する照明装置や、コンデンサーレンズを用いたケーラー照明装置である顕微鏡用UCDなどを用いてもよい。また、微分干渉観察や位相差観察を行う照明装置を備えてもよい。ただし、この場合、専用のリングストップ、プリズム、対物レンズ等を備える必要がある。
【0067】
なお、この第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットおよび微弱光標本撮像装置は、ここまで倒立型として説明してきたが、正立型としてもよい。正立型にする場合の利点は、試料容器への接地を良好にするためのメンブレンを用いた組織切片の観察において、メンブレンが邪魔にならない上方からの観察を行い易くする点に有る。組織切片においては、好適には1層に近い薄さにスライスされた細胞層を有する生体組織を用いて、長期間培養しながら発光画像を長期間かつ連続的に撮像できることは極めて重要な技術といえる。このような組織切片の例として、小脳、視交叉上核のような中枢系組織や膵臓、臓器腫瘍といった各種器官系組織が挙げられる。線虫のような光透過性を有する小動物ないし昆虫類であれば、スライスせずに観察することも可能となる。本発明は、広視野を有する光学系をも提供するので、かかる運動能力を維持した生体試料を無毒な発光画像によって長期間観察できる利点は大きい。
【0068】
また、上述した実施の形態1および第2の実施形態にかかる微弱光標本撮像ユニットでは、撮像手段としてCCDを用いるようにしたが、これに限定されず、CMOS等の撮像素子であって、0℃程度の冷却CCDと同等の撮像感度を有する撮像素子であってもよい。
【実施例1】
【0069】
本実施例1では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を検討した。
【0070】
本実施例1における撮像対象(上述した実施の形態におけるサンプル1)は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子“pGL3 control vector”(プロメガ社(会社名))をトランスフェクションしたHeLa細胞である。なお、当該HeLa細胞の発光画像観察にあたり、HeLa細胞を、トランスフェクション後1日培養してハンクス平衡塩類溶液で洗浄した後、1mMのルシフェリンを含むハンクス平衡塩類溶液に置換した。本実施例1で用いた対物レンズ(上述した実施の形態における対物レンズ2)の開口数(NA)および投影倍率(β)の条件は図17に示す通りである。図17は、実施例1で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。図17に示すように、対物レンズのNAは0.074から0.4の値であり、対物レンズのβは0.27から1.5の値である。本実施例1で用いたCCDカメラ(上述した実施の形態におけるCCDカメラ4)は0℃の冷却CCDカメラであり、当該CCDカメラの画素数は765×510、画素サイズは9μm×9μm、チップの面積は6.89×4.59(mm2)、量子効率は550nmで55%の仕様である。なお、本実施例1において、HeLa細胞の撮像は、用いる装置(例えば図1参照)全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0071】
本実施例1では、図17に示すように、検討した全ての(NA/β)の2乗の条件で発光画像観察が可能であることが示された。これにより、(NA/β)の2乗が0.071以上の対物レンズを用いれば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【実施例2】
【0072】
本実施例2では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を、異なる露出時間で検討した。
【0073】
本実施例2における撮像対象は上述した実施例1と同じである。また、本実施例2で用いた対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件は、図18に示す通りである。図18は、実施例2で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。なお、本実施例2で用いた対物レンズは、上述した実施例1における図17に記載の“0.4X”、“0.83X”および“1.5X”に対応するものである。また、本実施例2で用いたCCDカメラは上述した実施例1と同じである。そして、露出時間は、図18に示すように、1分間または5分間である。なお、上述した実施例1と同様、本実施例2においても、HeLa細胞の発光画像撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0074】
本実施例2では、図19に示すように、“0.4X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像A、“0.83X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像B、“1.5X”の対物レンズを用いて5分間の露出時間で撮った画像Cおよび“1.5X”の対物レンズを用いて1分間の露出時間で撮った画像Dの全ての画像において、発光画像観察が可能である。これにより、(NA/β)の2乗が0.071以上の対物レンズを用いる場合、露出時間が1分間でも、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【実施例3】
【0075】
本実施例3では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を、投影倍率(β)を固定して検討した。
【0076】
本実施例3における撮像対象は上述した実施例1または実施例2と同じである。また、本実施例3で用いた物レンズの開口数(NA)の条件は、図20に示す通りである。図20は、実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。図20に示すように、開口数(NA)の値は0.248から0.055である。なお、図20に示す対物レンズ(A〜F)の投影倍率(β)の値は、すべて0.83である。よって、対物レンズの(NA/β)の2乗の値は、0.089から0.004まで変動する。また、本実施例3で用いたCCDカメラは上述した実施例1または実施例2と同じである。そして、露出時間は1分間である。なお、上述した実施例1および実施例2と同様、本実施例3においても、HeLa細胞の撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。
【0077】
本実施例3では、図21に示すように、NAが0.248の対物レンズ(図20の対物レンズA)で撮った画像A、NAが0.207の対物レンズ(図20の対物レンズB)で撮った画像BおよびNAが0.164の対物レンズ(図20の対物レンズC)で撮った画像Cについては、容易にHeLa細胞の発光を確認することができた。一方、NAが0.121の対物レンズ(図20の対物レンズD)で撮った画像D、NAが0.083の対物レンズ(図20の対物レンズE)で撮った画像EおよびNAが0.055の対物レンズ(図20の対物レンズF)で撮った画像Fについては、発光の確認が困難であった。図21から分かるように、投影倍率(β)の値が0.83の対物レンズを用い、露出時間が1分間である場合、(NA/β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。
【0078】
ここで、実施例3で用いる対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す画像Aの丸で囲んだ領域の平均発光強度との関係を示す図22から、HeLa細胞の発光画像観察ができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件を検討した。図22は、実施例3で用いる対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す画像Aの丸で囲んだ領域の平均発光強度との関係を示した図である。ここで、図22において、相対発光強度とは、測定した発光強度の最大値を1として他の測定した発光強度を規格化したものである。測定した発光強度の数値範囲(約0.6から1.0の相対発光強度の数値範囲)における半値を、HeLa細胞の発光を観察することができるような対物レンズの(NA/β)の2乗の条件(下限値)とすると、本実施例3において当該半値を与える(NA/β)の2乗の値は0.05であった。これにより、投影倍率(β)の値が0.83の対物レンズを用い、露出時間が1分間である場合、(NA/β)の2乗の値が0.01以上、好ましくは0.039以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察することが可能であることが示された。
【0079】
産業上の利用可能性について
以上のように、本発明にかかる発光試料撮像方法、発光細胞撮像方法および対物レンズは、例えば、ルシフェラーゼなどの発光遺伝子をレポーター遺伝子とし、遺伝子発現を制御するプロモーターやエンハンサーの解析や、転写因子などのエフェクター遺伝子や様々な薬剤の効果などを調べるレポーターアッセイにおいて、好適に用いることができる。
【0080】
次に、本発明の主旨に基づいて適用可能な範囲を述べる。
画像分析用の細胞および試料の例
本発明のシステムおよび方法は、基板の種類に応じて各種多様なかたちで提供される各種の任意の細胞を画像化するよう容易に適合させることができる。例えば、細胞は、細菌、原生動物、菌類の原核細胞、または真核細胞とすることができ、かつ、鳥類、爬虫類、両生類、植物、または哺乳類(例えば、霊長類(例えば、ヒト)、齧歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ、有蹄類(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ等)など)に由来する細胞とすることもできる。細胞は、一次細胞、正常および癌化した株化細胞、遺伝子改変細胞、ならびに培養細胞とすることができる。これらの細胞には、自発的に誘導された各種の株化細胞、または個々の株化細胞から所望の生育特性または応答特性について選択された各種の株化細胞が含まれ、腫瘍の種類としては類似しているものの異なった患者または部位から誘導した複数の株化細胞が含まれている。細胞の培養は、通常、保湿した92〜95%の空気/5〜8%のCO2の雰囲気を含むインキュベーター中例えば37℃において、滅菌環境にて行う。細胞の培養は、成分未特定のウシ胎児血清のような生物学的流体を含有する栄養混合物中で行うことも、成分がすべて既知の無血清培地中で行うこともできる。
【0081】
特に関心対象のものは、神経細胞および神経前駆細胞の画像化である。画像化を行う細胞は、遺伝的に改変した細胞(例えば、組換え細胞)とすることもできる。特に関心対象のものは、生細胞の画像化であるが、本発明は、態様によっては、細胞膜浸透化または固定細胞の画像化も意図する。細胞は、通常細胞の維持および/または生育を目的とした培養液を含む試料中で画像化される。
【0082】
本発明の多くの態様、特に、同一の細胞視野、および/または細胞視野中の同じ個別の細胞に戻る工程を含む態様において、細胞は基板表面に十分固定化され、例えば、基板または(例えば、細胞に対して付着性の物質でコーティングすることによって)処理した基板に付着させ、基板の操作を行っても細胞が基板に対して相対的に移動することのないようにしておく。例えば、細胞は、基板、例えば、(例えばウェル中の)組織培養用プラスチックに直接付着させ、細胞の位置が基板に対して相対的に固定されて基板に対する細胞の位置が移動することなく基板の操作を行えるようにしておく。こうすると、同一の細胞視野に正確に戻ることも、細胞視野中の同じ個別の細胞に正確に戻ることも可能となる。
【0083】
本発明は一般に単一細胞レベルの画像化を意図しており、特に生きた細胞の画像化を意図する。細胞は基板表面に孤立した単一細胞として分散していてもよく、(例えば、単層の場合のように)他の細胞と接触していてもよく、または(例えば、組織切片の場合のように)薄層を形成していてもよい。画像化を行う細胞は、均質な細胞集団であっても、異質な細胞集団(例えば、混合細胞培養物)であってもよい。このように、本発明は、単一細胞の画像化、および細胞集団の画像化を可能とするものであり、この細胞集団は、場合によっては複数の異なった細胞を含んでいてもよい。
【0084】
細胞の画像化は、検出可能なマーカー、例えば蛍光ラベルを利用して行っても、それらを利用せずに行ってもよい。こうした検出可能なマーカーや検出可能なマーカーを細胞と共に利用する方法は当技術分野で周知である。検出可能なマーカーとしては、フルオロフォア(または蛍光)(本明細書では、例としてあげるものであって、これらに限定されるものではない)、化学発光体、また他の適当な検出可能標識、例えば、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)およびBRET(生物発光共鳴エネルギー転移)検出系で使用する標識が挙げられる。
【0085】
本発明のシステムおよび方法は、細胞集団および個々の細胞の画像化、特に、細胞の生存度(例えば、細胞の生存率や細胞の健康)、細胞の生理学的性質(シナプスの生理学的性質)、シグナル伝達、オルガネラの位置および機能、タンパク質の位置および機能(相互作用およびターンオーバーを含む)、酵素活性、レセプターの発現および位置、細胞表面の変化、細胞構造、分化、細胞分裂などを観察するための経時的な画像化を可能とする。例えば、一つの態様において、本発明のシステムおよび方法を、タンパク質の発現(例えば、ハンティントン舞踏病におけるハンティンギン(huntingin)の役割)および、タンパク質のレベル変化もしくは凝集が細胞死を引き起こしているのか、またはそれらは細胞死の症状(例えば、細胞による、細胞死を防止するための試みであって、細胞死自体の原因で
はない)なのかを判断する際に使用する。特に関心対象のものは、培養中における神経細胞の神経変性についての研究である。
【0086】
本発明のシステムおよび方法は、単一細胞または細胞の集団をリアルタイムで所望の時間例えば、比較的に短い時間をおいて画像化することを可能とする。例えば、24ウェルの基板で、各ウェルが、CCDによって撮影する互いに接する光学視野を13個含む場合、このウェルは、約10分で画像化することができる。別の事例においては、細胞の画像化に要する時間は、カバーする全面積、CCDの解像度、および焦点合わせのルーチンとして何を選ぶかに応じて決まる。いすれの場合でも、本発明でのデータ取得は、秒単位(例えば、本実施例では平均で1視野あたりわずか約1〜3秒)ですみ、焦点を合わせおよび次の位置までの移動にかかる時間を考慮すると、実際の画像化に要する時間はより少なくなる。焦点合わせの工程を完了するのに最大約10〜15秒を要するのに対し、視野の像を取り込むのに要する時間は、約50ms〜1秒であり、視野間の移動に要する時間は無視することができる。したがって、さらに別の視野の画像化を行っても、消費時間の観点からは、焦点を合わせ直さない限りは実質的に問題になることはない。
【0087】
細胞の画像化、例えば隣接したウェルに位置する細胞の画像化を迅速に行うことができ、さらに、比較的短い時間をおいて(同じ個別の細胞を含む同一の細胞視野に戻ることによって)再度画像化を行うことができるので、従来の方法では各画像の取得に要する時間の長さなどの事由ゆえに到底行いえなかったような観察を行うことが可能となった。本発明では、細胞現象、例えば、細胞の機能、細胞の生存、集団中の個々の細胞の運命を、上述したように比較的短い時間をおいて追跡することもできる。こうしたことは、特定の時点で撮影された画像しか得られず、進行する現象(例えば、変性)について得られる情報の量に制限があり、ひたすら時間が必要とされた従来の免疫細胞化学研究とは対照的である(例えば、神経変性についての研究で300,000個の細胞を分析するには通常約6週間を要していたが、本発明を用いるとこの同じ分析を半分にもはるかに満たない時間で完了させることができる)。本発明の諸側面を用いると、免疫細胞化学的な分析や顕微鏡を用いた分析を手動で行う場合に通常丸6日かかるような作業を、顕微鏡およびコンピュータの処理時間で1時間で終えることができる。
【0088】
また、本発明のシステムおよび方法では、基板をシステムから取り出し、その後再度システムに載置して、同じ細胞集団、および細胞集団中の個々の細胞を正確に特定できるので、単一細胞および選択された細胞集団の長期(例えば、数時間〜数日から数週間またはそれ以上といった期間)にわたる分析も可能となっている。
【0089】
本発明のシステムおよび方法では、複数の生物学的変数(例えば、細胞機能のパラメータまたは変数)を、ほぼ、またはまったく同時に、(定性的または定量的に)測定することもできる。例えば、細胞を、位相差および蛍光の両方を用いて画像化することにより、細胞の形態や分子の諸現象の変化についての情報を得ることができる。別の態様において、細胞は、複数の検出可能なマーカー(例えば複数の蛍光マーカー)を使用して画像化することができる。
【0090】
本発明のシステムおよび方法は、同じ細胞または細胞集団の画像を順次得ることにより従来のシステムに付随していたユーザーごとの偏りや変異を防止する。また、本発明は光や激しい操作に対して感受性を有する細胞を画像化する際に使用することができ、具体的には画像を得るに際の光源への暴露が比較的少なくてすみ、細胞を載置した基板を比較的細かく動かすだけでよい。
【0091】
キット
本発明では、本発明で使用するためのキットも提供する。こうしたキットは、上述の機能を実現、あるいは実施するための指示書とプログラムを含む、コンピュータによる読み取りが可能な媒体を少なくとも含むことが好ましい。指示書は、普通の顕微鏡または細胞スキャナーをプログラミングして上述のように機能させるためのソフトウェアのインストールまたはセットアップの指示を含むものとすることができる。指示書は、顕微鏡を所望の通りに作動させるための指示も含むものとすることができる。指示書は、両方のタイプの情報を含むものとすることが好ましい。
【0092】
ソフトウェアおよび指示書をキットとして提供することにはいくつかの意味がある。この組み合わせは、既存の顕微鏡をアップグレードする手段としてパッケージングし、販売することができる。完全なプログラムまたはその一部(好ましくは、少なくとも本発明の方法を定義するコードを単独またはすでに入手可能なコードと組み合わせて含むもの)を、アップグレード・パッチとして提供することができる。また、この組み合わせはソフトウェアが顕微鏡に予め搭載された新規な顕微鏡に付随するかたちで提供することもでき、この場合、指示書は参照用マニュアル(またはその一部)の役目を果たし、かつ予め搭載してあるユーティリティのバックアップ・コピーであるコンピュータによる読み取りが可能な媒体の役目も果たす。
【0093】
指示書は、通常適当な記録媒体に記録しておく。例えば、指示書は紙またはプラスチックなどのような基材に印刷することができる。この場合、指示書はキットの添付文書として提供することも、キットの容器またはその部品のラベルとして(すなわち、梱包材また内部梱包材に付随させて)提供することもできる。別の態様において、指示書は、プログラムが搭載されているのと同一の媒体も含め、CD-ROM、ディスケットなどのコンピュータによる読み取りが可能な適当な記憶媒体上の電子記憶データファイルとして提供する。
【0094】
さらに別の態様において、指示書自体はキットには含ませず、遠隔ソースからインターネットなどを通じて指示書を入手する手段をキットに同梱しておく。この態様の例としては、指示書を閲覧、および/または指示書をダウンロードすることのできるウェブ・アドレスを同梱したキットがある。逆に、例えばウェブ・アドレスを提供することによって、本発明のプログラムを遠隔ソースから入手する手段を提供することもできる。さらに、指示書とソフトウェアの両方を、インターネットやワールドワイドウェブのような遠隔ソースから入手またはダウンロードするかたちのキットとすることもできる。当然ながら、アクセス・セキュリティまたはIDプロトコールを使用して、アクセスを、本発明を使用する権利を有する者に限定することもできる。指示書の場合と同様に、指示書および/またはプログラムを入手する手段についても、通常、適当な記録媒体に記録しておく。
【0095】
本発明の画像化システムおよび方法の適用事例
本発明の画像化システムおよび方法は、多種多様な細胞を用いた各種の設定において有用である。本発明のシステムおよび方法では、組織培養中で細胞または細胞集団を任意の所望の期間、例えば、2時間、5時間、12時間、24時間、2日、4日、6日、7日、数週間、および/または関心対象の細胞の寿命に至るまでの期間にわたって追跡することも可能である。細胞をはじめとする生体試料の画像化は、上記に対応する一定の時間をおいて行うことも、他の態様で行うこともできる。以下はそうした画像化の例であるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下の画像化の例では、本発明の特定の利点や特徴を強調する。
【0096】
光毒性を防止または低減するための細胞の画像化
光毒性は、生きた試料の画像化を行う上で常に重要な制限要因となっており、光毒性は、入射光の強度、照射時間、波長と直接関連している。本発明のシステムおよび方法を使用して、利用可能な信号を検出するために必要な入射光の量を低減する。徐々に進行するプロセスを調べる場合、同一細胞試料を繰り返し照射せねばならないので、光毒性は特に問題になる。本発明では、光毒性をいくつかの方法によって有意に低減する。低強度の白色光を極めて短時間照射することによって顕微鏡の焦点を合わせ、その後、より強度の光を照射することによって高解像度の蛍光画像を取得することができる。自動化を行わない場合、焦点は、通常高強度の蛍光を連続照射することによって合わせることになる。顕微鏡の焦点を合わせ、その後画像を取得するのに要する時間を考慮すると、細胞は、光毒性を有する高強度の光に、自動化を行った場合と比べると一桁程度も長時間にわたって照射されうることになる。
【0097】
また、1度焦点を合わせた後、焦点を合わせなおすことなく複数の隣接した蛍光画像を取得する本発明の方法も光毒性を低減するうえで有利である。このアプローチは、細胞の視野の大半が画像の生成に必要な光のみを有意な光として受け取るので、蛍光画像を取得するうえで最適化された方法であるといえる。最後に、自動化によって高強度の光の照射時間が実質的に低減するので、光褪色も生じにくくなる。発せられる蛍光が明るいので、高解像度の画像を生成するのに必要な励起時間もさらに低減する。
【0098】
刺激による遺伝子発現の光学イメージング
本発明は例えば、下記のように実施することが出来る。
細胞の定数(例えば、該物質を細胞に接触させる刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域(好ましくは、c-fos遺伝子のプロモーター領域)に発現可能に連結されたレポーター遺伝子(好ましくは蛍もしくはウミシイタケなどに由来するルシフェラーゼ)を前記の遺伝子導入方法を用いて細胞に導入する。得られた前記の遺伝子導入された細胞の定数(例えば、1〜1x109個、好ましくは1x103〜1x106個)を所望の細胞培養が可能な器具(例えば、シャーレ、多数のウェルを有するマルチプレートなど)を用いて所望の栄養培地(例えば、D-MEM培地など)中で培養する。この定数の細胞からなる試料を、あらかじめ細胞にとって最適な温度(例えば、25〜37℃、好ましくは35〜37℃)に保温し、試料の乾燥を防ぐため水を注入して保湿した発光顕微鏡の培養装置部に設置し、該発光顕微鏡の試料観察部にある対物レンズを通してデジタルカメラで発光イメージを記録する。前記の試料に、細胞に接触させて刺激を行なうための物質(例えば、化合物)を所望の濃度(例えば、1pM〜1M、好ましくは100nM〜1mM)で加えて、所望の時間間隔(例えば5分間〜5時間、好ましくは10分間〜1時間)で発光イメージを記録する。記録した画像を市販の画像解析ソフトウェア(例えば、MetaMorph;ユニバーサルイメージング社製など)を用いて画像内の所望の領域における輝度値を取得する。さらに、発光イメージと同視野において明視野イメージも撮像して記録する構成を有する場合には、画像解析ソフトウェアが発光イメージと明視野イメージを重ね合わせる機能を有することにより、意外に速く動いた細胞等(組織全体、特定細胞群、個々の細胞、細胞の一部の領域など)のよる不鮮明な発光画像についても、明視野画像による鮮明な画像を利用して細胞等の認識を正確に行なえるため解析の信頼性も安定に維持できる利点がある。このように、本発明による撮像方法および装置を用いた画像解析を行なうための画像解析用ソフトウェアは、少なくとも発光画像において個々の細胞等(組織全体、特定細胞群、個々の細胞、細胞の一部の領域など)を形状や大きさ等のパラメータによる輪郭情報により識別するような認識機能と、認識した細胞等から発生する発光量を計測する計測機能とを有し、好ましくは、撮像装置を制御するコンピュータや操作者による入力手段(キーボード、マウス、テンキー、タッチパネル等)からの要求に応じて計測結果を出力する機能を有する。計測結果は、認識した細胞等の画像情報と対応付けて出力するのが、さらに好ましい。出力の形式は、発光量に応じた擬似画像、数値であり得、多数の細胞を解析する場合には、正規分布、ヒストグラム、折れ線グラフ、棒グラフ等のグラフィック表現でもよい。また、同じ細胞等に関する時系列の解析結果を出力する場合には、経過時間順に発光量を並べた点分布や、時間順に線で繋げた波形パターンでもよい。波形パターンは、特に時計遺伝子のような周期性を示す発光データに適している。必要に応じて、画像解析用のソフトウェアは、出力後のグラフや波形パターンを単独ないし、他の細胞等との相関を解析するように構成されてもよい。さらに、ディスプレイ上に出力した解析結果について興味有る部分を上記入力手段を通じて指定した時に対応する細胞等の画像をディスプレイ上に表示するリコール機能を具備するのが好ましい。このリコール機能は、指定された細胞等に関して撮像した全期間ないし特定期間における動画情報を上映する上映モードを有するのがさらに好ましい。
【0099】
生細胞の長時間にわたる画像化
生細胞は、大抵組織培養用プラスチック上で培養される。生細胞を調べる場合、特に、生細胞を徐々に進行するプロセスにおいて調べる場合には、生細胞(例えば神経細胞)の健康を、調べているプロセスをカバーするのに十分な期間にわたって維持する必要がある。理想的には、細胞がもともと生育していたのと同じ培養皿で一定時間をおいて細胞の画像化を行うと細胞の健康が保たれ、かく乱の程度も最小限ですむ。組織培養皿中の細胞を、滅菌条件下で倒立顕微鏡を使用して画像化することは可能であるが、倒立顕微鏡の場合、細胞が生育している基板(例えば、ガラスまたはプラスチック)を通して画像化を行うことになる。ガラスと比較すると、組織培養用プラスチックは波長によっては(例えば紫外線)透過性に劣り、光の散乱を生じ、画像分解能が低減してしまう。しかし、神経細胞をはじめとする多くの細胞は、ポリリジンおよびラミニンで基板をコーティングして細胞の付着および分化を促した場合でも、ガラスと比べて組織培養用プラスチックで生育させた場合の方が長期にわたって生存し、健康な外観を示す。したがって、本発明の目標は、透過させるのがプラスチックであるかガラスであるかを問わずに高品質の画像が得られるような光学系を備えたシステムを提供することにある。
【0100】
ガラスまたはプラスチックを通して画像を自動的に取得する場合、使用が可能な対物レンズについても重要な影響が及ぶ。すなわち、液浸レンズは通常非液浸(空気)対物レンズよりおおくの光を集光するが、液浸レンズは浸漬溶媒を必要とし、自動画像化の場合にはこの溶媒を供給することは現実的ではない。非液浸レンズを使用して各種の組成および厚さを有する基板を通して焦点を合わせる作業も問題が多い。これらの基板の屈折率は製品ごとに異なり、発せられた蛍光が対物レンズに集光されるまでの間通過する空気の屈折率とも異なっている。異なった屈折率の物質を通して画像化を行うと色収差および球面収差が生じ、この収差によってレンズの開口数が増大する。収差は、20倍で顕在化し、40倍で実質的となり、60倍でほぼ克服不能となる。最後に、試料によっては、培養脳切片のように組織培養皿の底面から比較的離れて存在するものもあり、焦点面を自動的に判断するアルゴリズムを用いてZ軸に沿った各種の平面から画像を取得する必要がある。このような場合、光学的なコンボリューション機能を本発明の発光撮像データに対して適用することが好ましい。光学的なコンボリューション機能を採用することにより、切片に限らず、生体組織や小型の生物(昆虫、動物、植物など)にも3次元的な画像を提供し得る。なお、焦点距離が極めて長い対物レンズを使用すると離れた対象物に焦点を合わせることが可能となり、自動焦点合わせの間に対物レンズと組織培養プレートとが衝突することを防止することができる。
【0101】
高処理スクリーニング・アッセイ法
本発明のシステムおよび方法は、高処理スクリーニング・アッセイ法を行ううえで特に有用である。こうしたアッセイ法の例としては、細胞の所望の応答(例えば、細胞死の調節、レセプターの内部移行、信号伝達経路の活性の調節(上昇または低下)、転写活性の調節、など)を惹起する物質の同定、およびこれまで知られていない、または調べられていない機能を有する核酸の分析(例えば、関心対象のコード配列を標的細胞に導入し、細胞中で発現させて行うような分析)があるが、これらに限定されるものではない。応答が観察される細胞を、本明細書では「標的細胞」と称するが、これは、細胞の種類について限定を行うための用語ではなく、むしろ物質によってその細胞が影響を受けることを示唆するための用語である。
【0102】
一般に、本発明のシステムおよび方法を用いると、生細胞中での物質の効果を、所望の時間間隔を置いて、しかも同じ細胞について分析することができる。ここで、細胞は均一な細胞集団または混合細胞集団とすることができる。本発明のアッセイ法は、物質によって改変された細胞が培養中で他の細胞に与える効果、例えば、核酸物質の標的細胞中での発現が、同一ウェル中の標的細胞や他の細胞に与える影響についても調べることができる
。例えば、本発明のアッセイ法は、物質によって改変された細胞が、その物質によって直接的には改変されていない細胞に及ぼす「傍観者(bystander)効果」を検出する際に使用することができ、ここで、後者の細胞は、物質によって改変された細胞と物理的に接触していても接触していなくてもよい。この文脈において、本発明のアッセイ法は例えばコードまたは物質によって誘導された分泌タンパク質または細胞表面タンパク質について調べる際に使用することができる。
【0103】
スクリーニング・アッセイ法における複数の変数の検出
本発明の画像化システムおよび方法は単一試料中の複数の変数についてのデータを得るのに使用することができるので、例えば1種以上の生物学的変数を検出することができ、かつ本発明のシステムを使用することによって得られた画像同士を比較することによって例えばある時間にわたって検出されたそうした生物学的変数の変化を検出することもできる。
【0104】
例として、本発明のシステムは、生物学的材料の経時的変化、例えば材料が特定の物質と接触することによって生じた変化(例えばある物質の濃度の上昇、別の物質の添加等によって生じた変化)、環境条件の変化(例えば、温度、浸透圧等の調節)によって生じた変化を分析する際に使用することができる。生物学的材料の変化は、例えば、核酸については、検出可能なプローブによる特定の核酸配列へのアクセス可能性、スーパーコイルまたは二重鎖の程度等とすることができる。タンパク質については、変化はタンパク質の折り畳みの程度、プローブの結合部位へのアクセス(例えば、検出可能な抗体または他のタンパク質結合物質)などとすることができる。
【0105】
例えば、細胞の集団または単一の細胞における細胞に関する変数(例えば、細胞についての1以上の変数、2以上の変数など)については、スクリーニング・アッセイ法を行って単一細胞の複数の細胞変数について調べることができ、これらの細胞変数は必要に応じて各種の時間をおいて調べることができる。一般に、細胞変数は検出が可能な、特に十分に正確な検出が可能な、好ましくは、本発明の高処理アッセイ法に適した方法で検出が可能な、生物学的活性、細胞成分、または細胞生成物とすることができる。細胞変数の例としては、細胞の健康(例えば、トリパンブルーまたは臭化エチジウムのような染料に対する細胞膜の透過性によって検出される生死の別、アポトーシスの誘導、など);細胞表面のレセプターの状態(例えば、レセプターの結合、活性化、再利用など);遺伝子転写レベル(例えば、レポーター遺伝子(例えば、GFP融合タンパク質)で検出されるレベル);細胞分化(例えば、細胞構造の形成(例えば、神経細胞での樹状突起の形成)、細胞分化抗原の存在の有無などによって検出される状態);トランスフェクションの状態(すなわち、標的細胞中での分析に使用する組換えポリヌクレオチドの存在の有無)などがある。本明細書で「細胞変数」に言及する際は何らかの限定を意図しているものではなく、説明上の都合と内容の明確さと期すためにのみ言及するものである。
【0106】
変数の大半は、定量的な読み取り結果を提供するが、準定量的または定性的な結果も場合によっては許容される。読み取り結果は単一の判定結果を含むものとすることも、平均、中央値、または分散などを含むものとすることもできる。各パラメータについてのある範囲のパラメータ読み取り値は、特徴的には同じアッセイ法の組み合わせを複数回行うことよって得られ、通常同じアッセイ法の組み合わせを少なくとも約2回行うことによって値を得る。値にはばらつきが生じることが予測され、各セットの試験変数についての値の範囲は標準的な統計学的方法を単一の値を得る際に使用される一般的な統計学的方法と共に使用することによって得られる。
【0107】
分析を行う細胞パラメータは一般に以下の規準、すなわちアッセイ法を組み合わせることによってシミュレートしている生理学的状態を調節するかどうか;利用が可能かつインビトロで当該パラメータを調節することが知られている因子によって、インビボでその当該パラメータが(例えば、対照として)調節されるのと類似したかたちで調節されるかどうか;検出が可能な程度に確実で、他の分析対象細胞変数との識別が可能であるような応答を伴うかどうか;および、場合によっては、特に薬剤のスクリーニング・アッセイ法においてパラメータの変化が細胞死に至るような毒性を示唆するものであるかどうか、によって選択する。なお、細胞パラメータは、必ずしもこれらの全ての規準を満たす必要はない。
【0108】
複数のパラメータを評価する場合には、検出の際に区別が可能なマーカーを使用して異なった変数を検出することができる。例えば、スクリーニング・アッセイ法がポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物の影響の評価を含む場合、1種のマーカーを使用して対象構築物でトランスフェクトされた細胞を同定し(例えば、関心対象のポリヌクレオチドを含む構築物中にコードされた検出可能なマーカーの利用、または関心対象の構築物と共に同時トランスフェクションされた構築物上に存在する検出可能なマーカーの利用による、関心対象の構築物におけるトランスフェクトされた細胞の同定)、第二のマーカーを使用して遺伝子産物の発現を検出し(例えば、そのポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物から生成された融合タンパク質の提供する検出可能なマーカー中の遺伝子産物の検出)、第三の検出可能なマーカーを使用して遺伝子産物の標的細胞に対する影響を評価することができる(例えば、細胞の生存度を評価する場合には、候補ポリヌクレオチドの遺伝子産物によって調節されていることが想定されているプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子の発現によって、または候補ポリヌクレオチドの遺伝子産物によって調節されている因子によって、など)。また、細胞の形態の変化(例えば、細胞の分化や細胞構造(例えば樹状突起)の形成)についての情報を位相差画像から得ることもでき、この場合、位相差画像を例えば細胞ごとに所定の選択した時間をおいて取得した蛍光画像と重ね合わせて比較することができる。
【0109】
スクリーニング・アッセイ法により標的細胞上のレセプターの活性を調節する物質を同定する別の例において、第一マーカーを使用して物質のレセプターに対する結合を検出し、その一方で第二マーカーを使用してレポーター遺伝子の転写による活性化を検出することができる。本発明で使用する場合には、「検出可能なマーカー」は所定の波長で励起すると検出可能なシグナルを発するような分子を包含する。態様によっては、分子が細胞の異なった区画に位置していると、異なった波長で励起および/または発光するというかたちで同じ分子が複数の異なったマーカーの役目を果たす場合もある(例えば、細胞表面に存在している場合には細胞内の酸性の区画に存在している場合とは異なる波長で発光する分子の場合)。
【0110】
選択したマーカーの存在の有無を定量的に調べる際には各種の方法を利用することができる。ほぼ全種類の生体分子、構造、細胞を標識しうる蛍光部分が容易に入手可能である。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質のみならず、特定のコンホメーション、切断生成物、リン酸化のような特定部位の修飾とも結合させることができる。個々のペプチドおよびタンパク質は、例えば、細胞中で緑色蛍光タンパク質のキメラとして発現させることによって、自己蛍光を発するように操作することができる(総説については、Jonesら(1999) Trends Biotechnol 17(12):477-81)を参照のこと)。
【0111】
蛍光技術は、現在では数多くの有用な染料が市販される段階まで成熟してきている。蛍光染料は数多くの供給元から入手することができ、例えば、Sigma Chemical Company(ミズーリ州、セントルイス)、およびMolecular Probes(「Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals」、第7版、Molecular Probes、Eugene OR)から購入できる。他にも、生物学的活性や環境の変化、例えば、pH、カルシウム濃度、電位、他のプローブとの近接性などについてレポートするよう設計された蛍光センサーがある。重要な方法としては、カルシウム流動法、ヌクレオチド組み込み法、定量的PAGE(プロテオミクス)などが挙げられる。
【0112】
同一アッセイ法で複数の蛍光標識を使用し、細胞を個々に定性的または定量的に検出して、複数の細胞応答を同時に検出および/または測定することを可能とすることもできる。蛍光の独特の特性を利用すべく数多くの定量的技術が開発されており、そうした技術としては、例えば、直接蛍光測定法、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光偏光法または異方性法(FP)、時間分解蛍光法(TRF)、蛍光寿命測定法(FLM)、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光退色回復法(FPR)が挙げられる(「Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals」、第7版、Molecular Probes、Eugene OR)。特に関心対象のものは、生細胞に適用可能であり、かつ場合によっては所望の時間をおいて使用することのできる(例えば、何時間または何日かの間隔をおいて撮影された画像同士の比較が可能な)標識技術である。これらの蛍光を用いたアッセイ法を、本発明のために光励起が不要な発光を用いたアッセイ法に適用できるように適宜の工程ないし装置の変更(または改良)を行なうことができる。
【0113】
候補物質
この「候補物質」という場合の「物質」という用語は、生細胞と接触させて生細胞に対する影響を評価することのできる任意の対象分子のことを称する。本発明は、ハイスループットな性能を有しているため、異なったウェル(例えば、マルチウェル・プレートの異なったウェルで)で異なった物質濃度の複数の評価混合物を並行して処理して、観察された効果の濃度依存性を調べることができる。通常、こうした濃度の1つがネガティブ・コントロール、すなわちゼロ濃度または検出濃度未満の濃度となるようにする。
【0114】
本明細書で使用する場合、候補物質は数多くの化学的分類群、例えば核酸(例えば、DNA、RNA、アンチセンス・ポリヌクレオチドなど)、ポリペプチド(例えば、タンパク質、ペプチドなど)、有機分子(例えば、分子量が50ダルトンより大きく、約2,500ダルトン未満の小型の有機化合物)、リボザイムなどを包含するが、それらに限定されるものではない。候補物質は、タンパク質との構造的な相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含むことができ、通常少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの化学的官能基を含むことができる。候補物質は、上記の官能基1つ以上で置換された環状炭素構造もしくは複素環構造および/または芳香族もしくはポリ芳香族構造を有することも多い。上述したように、候補物質は、生体分子、例えばポリヌクレオチド、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似物質、またはそれらの組み合わせとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
候補物質は、合成化合物または天然化合物のライブラリーをはじめとする多種多様なソースから得ることができる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダムなおよび指向的な合成を行うために、ランダム化したオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現をはじめとして数多くの手段を用いることができる。あるいは、細菌、菌類、植物、動物の抽出物という天然化合物のライブラリーも入手可能であり、または容易に作製可能である。さらに、天然または合成のライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、生化学的手段で容易に改変することができ、コンビナトリアルライブラリーの生成に使用することができる。公知の薬理物質に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向的またはランダムな化学修飾を行って、構造類似物を生成することもできる。
【0116】
候補物質としてのポリヌクレオチド
候補物質がポリヌクレオチドである場合、分子は任意の長さのポリマーの形態とすることができ、リボヌクレオチドとすることも、デオキシヌクレオチドとすることもできる。このように、「ポリヌクレオチド」は、一本鎖、二本鎖、または複数本鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、または、プリン塩基およびピリミジン塩基、もしくは他の天然の化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然の、もしくは変性ヌ
クレオチド塩基を含むポリマーを包含するが、これらに限定されるものではない。ポリヌクレオチドが遺伝子産物をコードしている場合は、ポリヌクレオチドはイントロンおよびエクソン配列を含むものとすることもできる。
【0117】
ポリヌクレオチドの骨格は、(RNAまたはDNAで通常見られるような)糖およびリン酸基を含むものとすることも、修飾または置換糖またはリン酸基を含むものとすることもできる。また、ポリヌクレオチドの骨格は、合成サブユニット、例えば、ホスホアミダイトのポリマーを含むものとすることもでき、したがって、オリゴデオキシヌクレオシドホスホアミダイト、またはホスホアミダイト-ホスホジエステルオリゴマー混合物とすることもできる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞内での安定性と結合親和性を高めるために、未変性のホスホジエステル構造を化学的に修飾したポリヌクレオチドである。骨格の化学的性質の変化として有用なものとしては、ホスホロチオエート、非架橋酸素が双方とも硫黄で置換されたホスホロジチオエート、ホスホロアミダイト、アルキルホスホトリエステル、およびボラノホスフェートが挙げられる。アキラルなリン酸誘導体としては、3'-O'-5'-S-ホスホロチオエート、3'-S-5'-O-ホスホロチオエート、3'-CH2-5'-O-ホスホネート、3'-NH-5'-O-ホスホロアミデートが挙げられる。ペプチド核酸の場合は、リボースホスホジエステル骨格全体がペプチド結合で置換されている。糖による修飾を使用して安定性および親和性を高めることも行われている(例えば、モルホリノオリゴヌクレオチド類似物質)。天然のα-アノマーに対して塩基が反転しているデオキシリボースのβ-アノマーを使用することもできる。リボース糖の2'-OHが、2'-O-メチルまたは2'-O-アルキル糖となるように変化させて、親和性を犠牲にすることなく耐分解性を付与することもできる。
【0118】
ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似物質、ウラシル、他の糖、ならびに結合基、例えばフルオロビオースおよびチオエート、ヌクレオチドの分枝を含むものとすることもできる。塩基配列の間には非ヌクレオチド成分が介在していてもよい。ポリヌクレオチドは、重合後に例えば標識成分と結合させることによって修飾またはさらなる修飾を行って、分子を検出しやすくすることもできる。さらに別の修飾としては、キャップ、1個以上の天然に生じるヌクレオチドの類似物質による置換、およびポリヌクレオチドをタンパク質、金属イオン、標識成分、他のポリヌクレオチド、または基板(例えば、ビーズ)に結合させる手段の導入があるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
以下で詳述する一つの態様において、本発明のアッセイ法でポリヌクレオチドをスクリーニングし、このポリヌクレオチドによってコードされた遺伝子産物の影響を評価する。この態様において、ポリヌクレオチドを発現に適した構築物の一部として提供することができる。この態様において、ポリヌクレオチドを修飾することによって、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームにプロモーター要素を機能的に結合させ、標的細胞中での遺伝子産物の発現を促すことができる。
【0120】
候補物質としてのポリペプチド
態様によっては、候補物質は「ポリペプチド」または「タンパク質」である。これらの用語は互換的に使用するものであり、任意の長さの重合体形態アミノ酸のことを称する。例としては、遺伝的にコードされたアミノ酸および遺伝的にコードされていないアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾された(例えば、翻訳後修飾、例えばグリコシル化された)アミノ酸、または変性アミノ酸、重合体ポリペプチド、ならびに修飾ペプチド骨格を備えたポリペプチドが挙げられる。候補物質としてスクリーニングすることのできる「ポリペプチド」としては、エフュージョン(effusion)タンパク質で、異種アミノ酸配列を有するもの、異種および同種リーダー配列と融合させたもの、N末端メチオニン残基を有するかまたは有さないもの、免疫的に標識したタンパク質などがある。ポリペプチドの修飾は、例えば、基材(例えば、ビーズ)への付着を促すために行うこともできる。ポリペプチドが細胞内に取り込まれない場合には、ポリペプチドは例えばマイクロインジェクションによって標的細胞に導入することができる。しかし、こうした方法はマイクロインジェクション操作が高処理スクリーニング・アッセイ法への使用に適していないので望ましくない可能性もある。
【0121】
スクリーニング・アッセイ法に使用する細胞
本発明のスクリーニング・アッセイ法に使用するのに適した細胞としては、上述したものが挙げられる。態様によっては、標的遺伝子産物を発現する組換え細胞のアッセイ、およびアッセイ法を、例えば標的遺伝子産物への結合、標的遺伝子産物の発現の調節、または標的遺伝子産物の生物学的活性の調節によって標的遺伝子産物と相互作用を生じる候補物質の検出に適したものとすることが特に関心対象である。本明細書で使用する場合、「標的遺伝子産物」は、候補物質のスクリーニングの中心となるタンパク質をはじめとする各種の遺伝子産物のことを称するが、それらに限定されるものではない。例えば、標的遺伝子産物をレセプターとし、アッセイ法を、レセプターの活性を調節する物質の同定に適合させることができる。
【0122】
一般的なアッセイ方法
何を目的としてスクリーニング・アッセイ法を行うかに関わらず、アッセイ法の工程において、物質と細胞とを接触させることになり、この工程では、遺伝物質のような場合、物質を細胞内に導入し、細胞の1以上の変数について検出を行うことになる。物質に対応した細胞パラメータの読み取り値の変化を測定し、できれば標準化し、このパラメータを照合用の読み取り値と比較することによって評価する。照合用の読み取り結果、各種因子の存在下および不在下で得られた基礎読み取り値、他の物質(公知の経路の公知の阻害物質を含んでも含まなくてもよい)を用いることによって得られた読み取り値、などを用いることができる。分析対象物質としては、対象となる細胞の対象の細胞パラメータを直接または間接的に調節する能力を備えた任意の生物学的活性を有する分子を挙げることができる。
【0123】
物質は細胞に溶液のかたちで、または易溶性の形態で培養中の細胞の培養液に加えるのが好都合である。物質はフロースルーシステムに間歇的もしくは連続したストリームのかたちで加えることも、または添加時以外は静的な溶液に、化合物を一度にまたは少量ずつまとめて加えることもできる。フロースルーシステムの一例では2種の流体を使用し、一方は生理学的に中性の溶液、他方は同じ溶液で試験化合物を加えたものとする。第一の流体を細胞上に通過させ、その後第二の流体を通過させる。溶液を1種のみ使用する方法において、試験化合物を細胞の周囲の特定量の培養液にまとめて加える。培養液の成分の全体的濃度が、試験化合物の添加によって、またはフロースルー法における2種の溶液の間で有意に変動するようなことがあってはならない。
【0124】
態様によっては、物質の組成は全体の組成に有意な影響を及ぼしうるうな追加の成分、例えば防腐剤などを含有しない。この場合、物質の組成は試験対象物質および生理学的に許容される担体、例えば、水、細胞培養液などから本質的に構成される。他の態様において、スクリーニング・アッセイ法において別の物質を含有させることができ、こうした物質としては、例えば、物質の結合パートナーへの静的な結合を可能とするための物質、非特異的な相互作用またはバックグラウンドでの相互作用を低減するための物質が挙げられる。こうした物質については、当然ながら生細胞のスクリーニングと適合するものを選択する必要がある。
【0125】
上述したように、異なる物質濃度を用いた複数のアッセイ法を並行して実施して、各種の濃度に対応する示差的な応答を得ることができる。当技術分野で公知のように、物質の有効濃度を決定する際には、通常、1:10、または他の対数尺度を用いた希釈によって得られたある範囲の濃度を使用する。この濃度は、必要に応じて、二度目の一連の希釈を行うことによってさらに精緻化することができる。通常、これらの濃度の1つがネガティブ・コントロールの役目を果たし、このネガティブ・コントロールはゼロ濃度、または物質の検出レベル未満、または表現型の検出が可能な変化が得られない物質濃度以下の濃度とする。
【0126】
本発明のシステムおよび方法の各種の側面や特徴を利用したアッセイ法の例を以下に示すが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0127】
薬剤スクリーニング・アッセイ法
本発明の画像化システムおよび方法は、多岐にわたるアッセイ様式に適合させて、候補物質が標的細胞に対して及ぼす所望の生物学的効果(例えば、対象細胞パラメータの調節)に関してスクリーニングを行うことができ、この生物学的効果は、物質を薬剤として使用する際に意味を持つようなものとすることができる。例えば、各種の物質を、細胞分化、細胞死(例えば、アポトーシスの調節)、シグナル伝達(例えば、G結合タンパク質レセプターでのシグナル伝達、GTP結合、第二メッセンジャー系の検出など)、イオンチャネルの活性(例えば、流入を、例えばカルシウム・画像化を使用して評価することによって)、転写(例えばレポーター遺伝子アッセイ法を使用して、例えば標的遺伝子産物の発現に影響を及ぼす物質を同定する)などの調節について調べることができる。特に関心対象のものは、生細胞と共に使用することのできるアッセイ法である。
【0128】
一つの態様において、スクリーニング・アッセイ法は細胞中における候補物質の結合パートナーに対する結合を検出する結合アッセイ法、例えばレセプターに対してアゴニストまたはアンタゴニスト・リガンドとして作用する物質を同定するためのスクリーニングとすることができる。特定の態様において、アッセイ法は、例えば公知のレセプター・リガンド(例えば、公知のアゴニストまたはアンタゴニスト)の活性の阻害について候補物質を評価する、拮抗結合アッセイ法とすることもできる。この後者の態様において、公知のリガンドを検出可能となるよう標識し、例えば公知のリガンドの活性の低下または結合にともなって、その公知のリガンドの検出可能な標識も低減するようにしておくことができる。
【0129】
候補物質を標的細胞と共にインキュベートする際、培養は任意の適当な温度で行うことができ、通常は、4〜40℃で培養することができる。インキュベーション時間は活性が最適となるように選択するが、迅速でハイスループットなスクリーニングを進行させるうえで最適な時間を選ぶこともできる。インキュベーション時間は通常0.1〜1時間で十分であるが、態様によっては、細胞をこの培養時間〜もっと長い適当な時間をおいてから調べることが望ましい場合もある。
【0130】
機能的遺伝分析
一つの態様において、本発明の画像化システムおよび方法はハイスループットな機能的遺伝スクリーニング・アッセイ法を実現するために使用される。こうしたアッセイ法では、一般に(例えば、組換え遺伝子の安定した導入もしくは過渡的な導入、またはアンチセンス技術によって)遺伝的に改変した細胞を調べ、遺伝的改変を行った結果標的細胞において生物学的機能の獲得または喪失が生じたかどうかについて評価する。こうしたアッセイ法は、(例えば、遺伝子治療またはアンチセンス治療で)薬剤として有用である可能性のある物質の同定だけでなく、例えば機能の獲得または喪失を利用した対象遺伝子の同定、および機能が未知の遺伝子の分析にも有用である。
【0131】
遺伝子改変細胞を作製する方法は当技術分野で公知である。例えば、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」 John Wiley & Sons, New York, N.Y., 2000を参照されたい。機能遺伝分析は、態様によっては候補物質が例えば対象とする遺伝子産物(例えば、ペプチド、タンパク質、またはアンチセンスRNA)をコード、およびアンチセンス分子として作用等をする可能性のあるポリヌクレオチドであるような薬剤スクリーニング・アッセイ法の役割も果たすことができる。「遺伝物質」の具体例については後述する。この遺伝子改変は、相同組換えの結果標的遺伝子の発現が(例えば検出不能なレベルまで)低減するような欠失を生じるノックアウトとすることも、細胞に通常は存在しない遺伝配列を安定的に導入するノックインとすることもできる。
【0132】
本発明では、部位特異的な組換え、アンチセンス、またはドミナントネガティブな変異体の発現をはじめとする各種の方法を使用してノックアウト体を作製することができる。ノックアウト体は、遺伝子ターゲティングの場合には内在遺伝子の対立遺伝子の一方または両方の機能を部分的または完全に喪失している。標的遺伝子産物の発現は、分析対象の細胞中において検出不能またはわずかであることが好ましく、そのためには、コード配列への破断部分の導入、例えば、1つ以上の停止コドンの挿入、DNA断片の挿入等、コード配列の欠失、コード配列の停止コドンへの置換等を行えばよい。場合によっては、導入した配列は最終的にゲノムから除去され、未変性の配列には変化が残らないこともある。
【0133】
機能遺伝分析のための細胞の改変
一般に、機能遺伝分析では、核酸を導入することによって細胞を操作して(例えば組換えタンパク質の発現、およびアンチセンスを媒介させた発現の阻害などによって)遺伝子産物の機能の付加または喪失がどのような効果を及ぼすのかについてスクリーニングを行う。こうした物質を本発明では便宜上「遺伝物質」と称するが、この「遺伝物質」は特に限定されるものではない。遺伝物質を導入すると、通常細胞の全体的な核酸組成が変化する。DNAのような遺伝物質を用いることによって通常は配列の染色体への組み込みにより、細胞ゲノムの変化を実験的に生じさせることができる。外来の配列が組み込まれずに、エピソーム物質として保持される場合には、遺伝的変化は一過性の場合もある。アンチセンス・オリゴヌクレオチドのような遺伝物質は、mRNAの転写または翻訳を妨害することによって、細胞の遺伝子型を変化させることなくタンパク質の発現に影響を及ぼすことができる。一般に、遺伝物質の影響は、細胞における1種以上の遺伝子産物の発現を増大または減少させるというものである。
【0134】
ポリペプチドをコードする発現ベクターの導入は、その配列が欠失している細胞においてコード産物を発現、または産物を過剰に発現(例えば、内在的な遺伝子のみの場合よりも高いレベルに発現)させるために利用することができる。構成的または誘導性の各種のプロモーターを使用することができる。これらのコード配列は、全長cDNAまたはゲノム・クローン、それらに由来する断片、または天然の配列を他のコード配列の機能または構造ドメインと組み合わせたキメラを含むものとすることができる。あるいは、導入する遺伝物質は、アンチセンス配列をコードするもの、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、ドミナントネガティブな変異、天然配列のドミナントまたは構成的な活性な変異をコードするもの、改変調節配列などとすることができる。
【0135】
宿主細胞種由来の配列を有する遺伝物質に加えて、他の遺伝物質として関心対象のものとしては、例えば病原体から得た配列を有する遺伝物質、例えばウイルス、細菌、原虫の遺伝子のコード領域であり、特にヒトをはじめとする宿主の細胞の機能に遺伝子が影響を及ぼす部分を挙げることができる。対応する同種配列が存在する場合または存在しない場合に、他種由来を配列を導入してもよい。
【0136】
遺伝子配列、例えばヒト、他の哺乳動物、ヒトの病原体の配列のソースとして、数多くの公的リソースを利用することができる。ヒトゲノムの相当部分は配列が決定されており、公的データベース、例えばGenbankを通じてアクセスすることができる。リソースとしては、単一(uni)遺伝子のセットおよびゲノム配列も利用することができる。例えば、Dunhamら(1999) Nature: 402 489-495、またはDeloukasら(1998) Science 282: 744-746を参照されたい。多くのヒトの遺伝子配列に対応するcDNAクローンが、イメージ・コンソーシアム(IMAGE consortium)で利用可能である。国際的なイメージ・コンソーシアム・ラボラトリーズ(IMAGE Consortium laboratories)は、世界規模での利用に備えてcDNAクローンを開発し、アレイとしている。こうしたクローンは、例えばミズーリ州セントルイスのゲノム・システムズ社(Genome Systems Inc.)から市販されている。DNA配列情報に基づいてPCRを行うことによって配列をクローニングする方法も、当技術分野では公知である。
【0137】
一つの態様において、遺伝物質は相補的配列の発現を低減させるように作用するアンチセンス配列とする。アンチセンス核酸は、RNAと特異的に結合してRNA-DNAまたはRNA-RNAハイブリッドを形成し、DNAの複製、逆転写、またはメッセンジャーRNAによる翻訳を阻害するよう設計する。アンチセンス分子は、例えば、翻訳の際の利用可能なmRNAの量の低減、RNAse Hの活性化、または立体障害をはじめとする各種の機構によって遺伝子の発現を阻害する。選択した核酸配列に基づくアンチセンス核酸は対応する遺伝子の発現を妨害することができる。アンチセンス核酸は、アンチセンス鎖を転写鎖として含むアンチセンス構築物からの転写によって細胞中で生成させることができる。
【0138】
アンチセンス物質は、アンチセンス・オリゴヌクレオチド(ODN)、特に未変性核酸由来の化学修飾を有する合成ODN、またはRNAのようなアンチセンス分子を発現する核酸構築物とすることができる。アンチセンス分子は1種を投与することも、組み合わせて投与することもでき、組み合わせて投与する場合には、投与アンチセンス分子は複数の異なった配列を含むものとすることができる。
【0139】
一般に、内在的センス鎖mRNA配列の特定の1つまたは複数の特定の領域をアンチセンス配列による相補的対合用に選択する。オリゴヌクレオチド用に特定の配列を選択する際には経験的な手法を使用することができ、この場合、いくつかの候補配列を標的遺伝子の発現の阻害に関して調べる。配列を組み合わせて使用することもでき、その場合には、mRNA配列のいくつかの領域をアンチセンスによる相補的対合用に選択する。
【0140】
ドミナントネガティブな変異を細胞の機能の喪失が生じているかどうかについてスクリーニングして、例えばタンパク質機能の分析を容易にすることもできる。これらはいくつかの異なった機構、例えば基質結合ドメインの変異、触媒ドメインの変異、タンパク質結合ドメインの変異(例えば、マルチマーの形成、エフェクター、またはタンパク質結合ドメインの活性化)、細胞局在化ドメインの変異などによって作用する可能性がある。ドミナントネガティブな変異の作製のために、一般的な戦略を使用することができる(例えば、Herskowitz (1987) Nature 329:219、および上掲の参照文献を参照のこと)。
【0141】
当業者に周知の方法を使用してコード配列と適当な転写および翻訳制御シグナルとを含む発現ベクターを構築し、細胞に導入された外来遺伝子の発現を増大させることができる。こうした方法としては、例えば、インビトロでの組換えDNA技術、合成技術、およびインビボの遺伝子組換えを挙げることができる。また、遺伝子産物の配列をコードしうるRNAを、例えば合成システムで化学的に合成することもできる。例えば、OligonucleotideSynthesis」, 1984, Gait, M. J.編, IRL Press, Oxfordに記載された技術を参照されたい。
【0142】
遺伝子コード配列を発現させる際、各種の宿主-発現ベクター系を利用することができる。発現構築物は、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えばメタロチオネイン・プロモーター、伸長因子プロモーター、アクチン・プロモーターなど)、哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えばアデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40後期プロモーター、サイトメガロウイルスなど)を含むことができる。哺乳動物の宿主細胞において、数多くのウイルス・ベースの発現系、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスなどをベースとした発現系を使用することができる。
【0143】
遺伝子全体、すなわちこの遺伝子の開始コドンおよび隣接した配列を含む遺伝子全体を適当な発現ベクターに挿入する場合、標的細胞で発現させるためにさらに翻訳制御シグナルが必要になることはない。しかし、遺伝子コード配列の一部のみを挿入する場合には、おそらくはATG開始コドンを含む外来の翻訳制御シグナルを用いる必要がある可能性がある。さらに、開始コドンは所望のコード配列のリーディングフレームと一致させて、挿入物全体が確実に翻訳されるようにする必要がある。これらの外来の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の双方を含め、各種の起源のものとすることができる。発現効率は、適当な転写エンハンサー因子、転写ターミネータなどを含ませることによって上昇させることができる(Bittnerら, 1987, Methods in Enzymol. 153:516-544を参照のこと)。
【0144】
トランスフェクションを高い効率(例えば、細胞の約80〜100%)で行いうる技術を使用すれば、選択性のマーカーを使用してトランスフェクトした細胞を同定する必要性を回避できる。こうした技術としては、アデノウイルスによる感染(例えば、Wrighton、1996, J. Exp. Med. 183: 1013; Soares, J. Immunol., 1998、161: 4572; Spiecker, 2000, J. Immunol 164: 3316; およびWeber, 1999, Blood 93: 3685を参照のこと)、およびレンチウイルスによる感染(例えば、国際特許出願第000600号または第9851810号)が挙げられる。他の重要なベクターとしてはレンチウイルス・ベクターが挙げられる。例として、Barry ら (2000) Hum Gene Ther 11(2):323-32;およびWangら (2000) Gene Ther 7(3):196-200を参照されたい。
【0145】
態様によっては、例えばトランスフェクト細胞の非トランスフェクト細胞に対する影響について調べようとする場合や、または複数のトランスフェクト細胞から検出される信号のために単一細胞の正確な画像化が困難である場合のように、トランスフェクション効率が低いことが望ましい場合もある。低トランスフェクション効率は、トランスフェクトした細胞の約25%、20%、10%、または5%未満、場合によっては約1%未満であってもよい。本発明の画像化システムおよび方法を使用すると、迅速な同定および、同じ細胞の再同定を行うことができるので、遺伝物質の標的細胞に対する影響を評価するにあたってトランスフェクション効率は重要ではない。
【0146】
以下の変形例は、当業者に対して本発明の利用のしかたについて完全に開示および記載するために挙げたものであって、本発明者が発明であるとみなす範囲がこれらの実施例によって限定を意図するものではなく、かつこれらの実施例は、以下の実験が行った実験の全てであるか、または以下の実験のみが行われたことを示すものでもない。使用した数字(例えば、長さ、量、温度など)についてはなるべく正確を期したが、いくつかの実験誤差や偏りが包含されている可能性を排除するものではない。特記しないかぎり、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0147】
変形例1:対物レンズの開口数に関する変形例
開口数の低い対物レンズを併用するという変形例について述べる。開口数を下げると視野の深さが増し、Z軸方向の位置がより広い範囲に分布する対象物が画像内で焦点が合ったままとどまった。例えば、低倍率、低開口数の対物レンズ(例えば、4倍で、開口数が0.13の対物レンズ)の場合、24ウェル・プレートのウェルの中央で1回で焦点を合わせれば、さらに焦点を合わせ直さなくても、顕微鏡の隣接視野をはっきりと画像化する事ができる。この設定は、低倍率の各視野に数多くの細胞が含まれるため、ハイスループットな細胞の計数を行う場合に都合が良い。また、この設定では、焦点を合わせ直すことで時間を費やすことなく同一ウェル中の他の視野の像を取得することも可能となる利点が有る。
【0148】
開口数が中程度から高めの対物レンズについては別の解決法を開発した。開口数を増やすと(例えば、10倍で開口数が0.30の対物レンズ、20倍で開口数が0.45の対物レンズ、40倍で開口数が0.60の対物レンズ)、視野の深さは、狭め、すなわち浅めとなり、ウェルの周縁部よりはウェルの中央に位置する細胞、例えば、神経細胞のz方向のわずかな位置の差が解像されるようになり、(焦点が、もともとウェルの中央に設定されていたと仮定すると)ウェルの中央に位置する神経細胞のみに、はっきり焦点が合うようになる。
【0149】
ウェル中の細胞のz方向の位置は、プレート・ホルダー中のマルチウェル・プレートの全体的な傾きによって、主に決定されることも見いだした。この傾きは、プレートをホルダーに載置する各回ごとに、わずかに、予測不能なかたちで変化するものの、プレートがホルダー中にとどまる画像化の各セッション1回についてみれば、プレートの位置はほぼ一定であった。そこで、自動焦点合わせを使用してホルダー中でのプレートの傾斜を経験則に基づいて測定し、次にこの測定値を使用して、ウェルの、すなわちウェル中のx-y方向の正確な位置に応じて、焦点の位置(z方向)を自動的に詳細に調整するプログラムを開発した。このプログラムを用いると、単一ウェル中、または4つの異なるウェルの中央に位置する、x-y方向の異なる4つの位置について、焦点面のz方向の詳細な位置を測定することができる。4つの異なる焦点位置についての正確なx、y、zの値を使用すると、xまたはy方向の変化に伴って生じる焦点面(z方向)の変化を計算することが可能となる。これらの値を自動焦点合わせプログラムに組み込み、各ウェルの中央の位置について焦点面を経験則に基づいて決定して、プログラムが自動的に、同一ウェル中の他のすべての視野についても、焦点位置を自動的に計算できるようにした。この方法によって、開口数の高いレンズを自動取得プログラムと共に使用できるようになり、ウェル全体について正確に焦点を合わせ、顕微鏡の各視野に焦点を合わせ直す場合に要する時間に比べればはるかに短時間で画像を取得できるようになった。
【0150】
各種波長についての焦点合わせ
異なった波長の蛍光を使用して顕微鏡の同一視野の像を集めるべく試行している工程において、レンズは異なる波長の光を異なる量で屈折させるので、放出された蛍光の波長が異なると、その光によって形成される像の位置が厳密には同じ位置とならないのである。この差は小さいので開口数の低い対物レンズ(例えば、4倍で、開口数が0.13の対物レンズ)の場合には検出されることはなかった。しかし、開口数が増えるとこうした違いも解像されるようになる。したがって、蛍光を用いる方法または装置においては、励起発光フィルターを交換した場合には対物レンズを配置し直して、同じ顕微鏡の視野の焦点をはっきり合わせる必要があった。しかし、本発明の場合、異なる波長の発光を検出するために、対応する異なる波長の励起光を照射する必要が無いので、波長ごとに焦点を調節する必要は実質的に無くなった。
【0151】
透過光を用いた自動焦点合わせによって決定された焦点面を、発光画像の位置を決定する際の基準としても用いることもできる。すなわち、透過光により得た焦点面をから相対的に固定された距離に位置させるようにすればよい。このとき、各種の発光成分について、基準焦点面に対する焦点面の位置を経験則に基づいて決定し、その後、コンピュータが発光検出用の光学フィルターを交換すると共に、適当な補償を自動的に導入するようなプログラムを実行することができる。
【0152】
変形例2:正確でハイスループットな画像の取得
取得プログラムを、プレートホルダーからプレートをはずさずに同じプレートに関して2回実施した場合には、得られる2枚の画像は、顕微鏡の視野がほとんど同一のものであった。しかし、画像化工程間にプレートを一度はずして載置し直した場合、画像の顕微鏡視野の内容は、部分的に重複しているのみであった。前者の場合には同一の顕微鏡視野が得られるのに対し、後者の場合には得られないことからは、ステージの動きが極めて精密であるのに対し、ホルダー内でのプレートの位置は変化しやすいことが示唆された。プレートホルダー内でプレートの位置を固定する試みは、実用的とはいいがたく、基本的に効果がなかった。
【0153】
この問題はむしろ、画像取得プログラムの動作をプレート自体の内部照合ポイントと関連づける単純なプログラムを開発することによって解決した。例えば、マルチウェル・プレートには、製造業者によっては、プレートの下側の各ウェルに隣接して文字や数字の記号がスタンピングされているものがある。こうしたスタンプの一つを本発明者らのプログラムの基準マークとして使用した。このプログラムでは、ステージをこの基準マークの位置が画像化されるように移動し、自動焦点合わせを行い、その後このマークの照合画像を取得する。取得プログラムの他のすべての点をこの照合マークと関連づける。プレートが次の画像化工程に備えてプレートホルダーに戻った際にプレートを配置し直し、基準マークの位置を前回の取得工程に合わせて戻し、その後取得プログラムを実施する。
【0154】
変形例3:個々の神経細胞の生存状態のモニタリング
顕微鏡の同じ視野に一定間隔をおいて定期的に正確に戻り、かつ個々の神経細胞の生存状態をモニターすることが可能となった結果、データ分析の自由度が増している。例えば、低倍率の対物レンズ使用して(この分析では、視野、すなわち画像内の細胞数が多いので、本明細書では「集団ベースの」分析と称する)、または高倍率を使用して(この分析では、視野、すなわち画像内の細胞数が少ないので、本明細書では「単一細胞ベースの」分析と称する)得たデータの分析結果に、十分に確立された手法であるカプラン-マイヤー分析を適用して、Aktの生存促進作用を定量化することができる。
【0155】
集団ベースの分析に使用する低倍率(4×)では、視野あたり、約50〜500個の神経細胞(例えば、1視野あたり、約100〜約400個、約150〜350個、または約300個の神経細胞)が観察された。単一細胞ベースの分析は神経細胞内の変化(例えば、封入体の形成、樹状突起の形状の変化など)についての空間解像が可能な倍率である高めの倍率(20×)で実施し、この倍率では視野あたり約10〜100個の神経細胞(1視野あたり約15〜約75個、約20〜50個、または約30個の神経細胞)を観察することができた。単一細胞ベースの分析はこの実施例では長期的に追跡した(すなわち、所定の選択した期間にわたって所定の選択した回数だけ画像を取得)3つのランダムな画像の全神経細胞を分析することによって実施した。カプラン-マイヤー分析(この分析は基本的に個々の対象についての長期分析である)を適用することは正当であり、これは各回とも顕微鏡の同じ視野に戻り、戻るまでの時間に消失した個々の神経細胞の数を「推測」しているからである。
【0156】
自動化分析を、まず特定の視野を選択し、各測定間隔をおいて視野内の神経細胞の数をモニターするために使用した。これらの神経細胞は有糸分裂後であったので、特定の時点での視野内の神経細胞の数をその視野内の以前の神経細胞の数から差し引いて、介在期間のある時点で死滅した神経細胞の数を推定した。生存分析という目的上および便宜上、非観察期間中に死んだ神経細胞については、トランスフェクションを行ってから最初に画像から消滅するまでの時間を細胞死が生じた時間とした。
【0157】
本発明を特定の態様に言及しつつ記載したが、当業者であれば、本発明の真の精神と範
囲から逸脱することなく各種の変更を加え、かつ等価物を置換することができることを理
解するはずである。当業者であれば、本発明の真の精神と範囲から逸脱することなく各種
の変更を加え、かつ等価物を置換することができることを理解するはずである。また、多
くの改変を加えることによって、特定の状況、材料、物質の組成、方法、その方法の工程
を、本発明の目的、精神、範囲に適合させることができる。こうした改変は、いずれも本
明細書に添付した特許請求の範囲の範囲に含まれる。本発明の範囲は以下の特許請求の範
囲の文字どおりの範囲または公正な範囲によってのみ限定される。
【0158】
さらに、発明者は、同一シャーレ内で培養された複数の細胞において、遺伝子発現の変動パターンが異なることも発見した。さらに、発明者が追究した光学的条件によれば、撮像装置の対物レンズを開口数(NA)/投影倍率(β)の2乗で表される光学的条件が0.071以上である場合に、1〜5分以内で画像化でき、画像解析も可能な細胞画像を提供できること突き止めた。これらの発光画像を蓄積型の撮像装置により顕微鏡観察する発光解析システムを発光顕微鏡と呼ぶこととする。発光顕微鏡は、好ましくは遮光のための開閉蓋(ないし開閉窓)を具備する遮光手段を有し、この遮光手段の開閉によって必要な生体試料をセットまたは交換するようになっている。目的に応じて、生体試料を収容する容器に対して化学的ないし物理学的刺激を行なう操作を手動ないし自動で行なうようにしてもよい。最良の一形態では、発光顕微鏡は公知または独自の培養装置を搭載いる。培養装置は、長期間のシステム内での解析を可能にするように、温度、湿度、pH、外気成分、培地成分、培養液成分を最適に維持する機能を備えている。
【0159】
発光試料の元となる生物学的材料は、例えば、真核動物、シアノバクテリア由来の細胞または組織が挙げられる。医学用途において、哺乳類、とくひヒトにおける検査すべき部位からバイオプシーにより切除した細胞を含む試料がとくに例示される。再生医療においては、少なくとも一部が人工的に改良ないし合成された生体試料であって、生物学的活性を良好に維持するかどうかを検査する目的に利用できる。他の一面において、本発明のアッセイ対象は、動物由来の細胞または生体組織に限らず、植物や昆虫由来の細胞または生体組織であったもよい。菌、ウイルスにおいては、従来のルミノメータでは実行されなかった容器内の部分ごとの解析が対象となり得る。ルミノメータではウエルまたはシャーレ等の容器内に無数の試料(例えば1ウェル当り100万個以上)を重積することで強大な発光量を迅速に得るようにしている。本発明では、肉眼では全く見えない個々の発光試料の画像を生成するので、個々の細胞が識別できる程度の密度で容器内に収容しても、個別の細胞ないし生体組織を解析できる。このような個別の解析は、発光している細胞だけを統計的に合計したり平均化する解析方法を含んでいる。これにより、細胞1個当りの正確な相互作用に関する評価が行なえる。また、多数の混在する発光試料において、同様の発光量ないし発光パターンを有する細胞群ないし組織領域を識別することが可能となる。
【0160】
第1の実施形態に関する用語の補足説明および変形例
サンプル1を収容する試料容器としては、シャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、フローセルが挙げられる。ここで、容器底面は、光透過性の材料(ガラス、プラスチックなど)であるのは勿論のこと、2次元的データが得られやすいように、幅広(ないし扁平)な底面を有する容器であるのがさらに好ましい。複数の収容部分を一体化したウェルやキュベットにおいては、各収容部分の仕切り部分が遮光性の材料ないし染料で全面的に成形するのが好ましい。また、シャーレ等の上部開口を有する容器については、蒸発防止用のフタを覆い被せるのが好ましく、さらにフタの内面が反射防止用の被膜ないし染色を施すのがS/N比を向上させる上で好ましい。このような硬質のフタの代わりに、容器内の試料の上面にミネラルオイルのような液状のフタを配置するようにしてもよい。試料容器を載置するための試料ステージを、必要に応じて一般の顕微鏡装置のように、別の撮像用の視野に変更するために、X軸方向およびY軸方向に移動させるようにしてもよい。
【0161】
対物レンズ2は、サンプル1の下方に倒立形式で配置してもよい。対物レンズ2は、生きた発光試料を培養条件のような恒温環境で安定に機能するように適宜の加熱手段(ペルチェ素子、温風ヒーターなど)により加熱してもよい。対物レンズ2は、さらに、光軸方向であるZ軸方向に駆動(図では上下方向)するようにしてもよい。機構9が備えられており、対物レンズ15をZ軸(光軸方向)に沿って自動的に駆動する。対物レンズのZ軸駆動機構としては、ラックピニオン機構やフリクションローラー機構が例として挙げられる。
【0162】
また、対物レンズ2は、所望の倍率に応じて適宜、油浸式にすることができる。また、どの倍率を選択するかは、評価(ないし解析)すべき試料のサイズに応じて任意に設定する。具体的には、細胞や組織を観察できる程度の低倍率(例えば5倍から20倍)や細胞内または細胞外の微小物質を観察できる程度の高倍率(例えば40倍〜100倍)であり得る。
【0163】
モニタ5は、発光試料の画像情報を動画で表示する構成を具備することにより、1以上の所望の細胞に関する活性の変化をリアルタイムな映像でもって観察するような解析方法を提供するのがこ好ましい。これにより、細胞単位または組織単位での発光の様子を臨場感有る映像でもって、時系列で観察することが可能となる。
【0164】
本発明において、時系列で観察するための方法および装置は、必要とする装置構成を制御したり連携するためのソフトウェアまたは該ソフトウェアを特徴づけるコンピュータプログラムの形態で提供されてもよい。また、本発明の方法または装置を装置と同一ないし別個に配置されたデータベースと電気的に接続することにより、画像容量ないし解析情報量に制限されることなく、高速で且つ信頼性と質の高い解析結果を提供することが可能になる。
【0165】
本発明においては、化学的励起試薬としての基質溶液による発光(冷光)を用いることにより、検出工程において励起光照射のための構成を不要にする。さらに顕微鏡を用いた観察において、肉眼で見えないような微弱光を発する発光試料に対して、高開口数の対物レンズを用いることにより、液体窒素を用いた極低温(例えば−30〜−60℃)の冷却を必要とするような大型且つ高コストな超冷却CCDを採用することなく、高速に画像化できるようにした。具体的には、高開口数(高NA)で且つ対象物を観察視野内に含むような投影倍率を有する対物レンズと、弱低温(例えば−5℃かそれ以上の高温)で、たかだか室温(ないし装置内温度)付近で、連続的に機能し得る撮像素子(CCD、CMOSなど)と、対象物を画像生成に適した位置に保持する保持手段と、これら対物レンズ、撮像素子、保持手段をハウジングして画像生成時の遮光を保障するための遮光手段とを主要な構成として具備する。CCDが小型で且つ弱低温で制御できる場合、トータルシステムとしてコンパクトであり、同じハウジング内に全ての構成要素を収容しても、机上で見下ろせるような高さに設計することも可能である。従って、本発明を具現化した装置は、非常に小型で低コストの商品となる。小型化することにより、装置内空間も小体積となるので装置内の生物学的環境(温度、湿度、エアー成分)の条件を培養や微量反応に適したレベルに調節し易くなり、さらなる低コストと高い信頼性を有するという利点もある。また、装置全体の高さを低くすることにより、発光試料の出し入れや収容済みの試料に対する薬剤の分注のような刺激処理を、装置の上部から適宜の開閉窓ないし開閉カバーを介して簡単に行なえる。
【0166】
他方、本発明は、光走査を行なわずに多数のピクセル(好ましくは多画素数)で画像生成する方法および装置を提供する。生成された画像の画像解析において、細胞を解析するような画像解析ソフトウエアも本発明の一部として、単独、ないし発光顕微鏡とのトータルシステムとして産業利用可能な製品を提供できる。
【0167】
以下のハイスループット撮像装置に関する説明もまた、本発明として単独ないし、以上の説明に記載された発明との組合せとして含まれる。但し、下記に示す内容が共有出来る他の方法または装置については、以下の説明の範囲において、本発明の要旨に限定されず、分割可能な発明の記載を含んでいる。
【0168】
ハイスループット撮像装置の技術分野について
本発明は1以上の生物学的試料に設定された多数の撮像領域をタイムラプスにより撮像する撮像装置に関し、特にハイスループットな撮像を可能するためのハイスループット撮像装置に関する。また、本発明は、このような撮像装置の機能を行わせるプログラムを含んでいるソフトウェアに関する。本発明は、生命体由来の細胞などの生物学的試料の生物学的活性を多数効率良く検査するような研究ないし臨床用途に適している。
【0169】
ハイスループット撮像装置の背景技術について
生物は高度な複雑性を持つため、構造や機能を理解するのは容易なことではない。そのため、近年生命現象を再現できる最小単位である細胞、つまり培養細胞を用いた単純な実験系が用いられている。培養細胞を用いることで、ホルモンの応答などの解析が生体内の他要因による影響を受けることのない実験が可能となる。つまり遺伝子の導入や阻害により遺伝子の機能解析を行うことが可能となる。
【0170】
細胞を培養するためには、生体内を真似た環境を用いる必要がある。そのため温度は体温の37℃とし、また細胞間液を真似た培地が用いられる。培地にはアミノ酸などの栄養源の他に、PH調整のための炭酸バッファーが含まれる。炭酸バッファーは5%という高い分圧の炭酸ガスを含む空気の存在下で平衡状態になり、デッシュなどの開放系の培養に利用される。また培地から水分の蒸発を防ぐため、95〜100%の高湿度の環境が要求される。
【0171】
細胞の培養には上記環境条件を備えた炭酸ガスインキュベータが用いられる。さらに、細胞の状態観察には位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡、GFPなどの発現観察には蛍光顕微鏡が用いられる。また、顕微鏡画像の撮影および表示にはCCDカメラとコントローラ(パソコン)が用いられ、これらを組合せた培養顕微鏡が提案されている(特許文献;特開2003−29164)。
【0172】
ハイスループット撮像装置に係る解決すべき課題について
培養している細胞を長時間または長期的に顕微鏡で観察する場合、タイムラプス観察方式で行われ時系列的に画像を取得している。タイムラプスとは一定間隔の時間で試料の撮影、画像の保存を行い、長時間かけて変化する細胞の状態を確認しやすくするために用いられる。例えば、始めに細胞1個を所要撮影時間(カメラの露出時間)で1回撮影し、その後1時間毎に1回ずつ撮影し続け24時間撮影すれば25枚の画像を取得できる。これらを撮影したあと連続的に再生すれば1時間ごとの細胞の変化を容易に確認することができる。撮影間隔を例えば30分、15分と短くすれば動きの速い細胞の観察も行える。
【0173】
また、細胞を複数箇所観察したい場合は、顕微鏡に付随する電動ステージを用い目的の場所に顕微鏡または試料を移動し観察を行っている。観察位置への移動はタイムラプスと同期して行っている。このような複数の観察位置を順次観察するタイムラプスを多点タイムラプスという。なお、上述した本発明の発光撮像方法および発光撮像装置によれば、独自に究明された明るい開口数の対物レンズを採用することによって、従来よりも顕著に短時間(例えば30分の1以下の所要時間)で発光画像を生成できるので、5〜20分単位、好適条件では5分未満、最短で約1分単位の微弱光画像による時系列評価が実現する。このことは、従来、肉眼で観察できるような輝度の蛍光画像に対して、肉眼で見えないような発光画像を代替ないし連携させることと可能とし、高速な反応ないし生体分子の動態の解析にも利用できるという画期的技術を提供するものである。発光画像を得るには、励起光を必要としないので、概日リズムのような光感受性試験は勿論のこと、生物材料への過度な刺激ないしダメージを無くして正確かつ長期安定な解析を実現する。再生医療においては、発光画像による解析により、何ら生物学的ダメージを受けていない生体材料を用いた治療、診断、創薬等の医学利用が可能であるという可能性を有する。
【0174】
しかしながら、タイムラプスによる撮像を多数の細胞について行おうとすると、最初に撮像した細胞と最後に撮像した細胞とで少なからず有意な時間差が生じる場合がある。有意な時間差は、細胞同士の比較を行う場合にしばしば致命的である。また、任意に指定した複数の細胞について時間差が生じないように撮像する有効な方法は知られていない。従来は、複数の細胞について順次に撮像を行うように撮像間隔を手作業で変更し、誤動作したら停止して再トライするような対応しか知られていない。とくに、昨今のセルベースアッセイのように、多数の細胞を自動的に解析するシステムにおいては、タイムラプスによる画像を用いるとスループットが激減する可能性がある。
【0175】
以上のような実情に鑑みて本発明の方法および装置を、タイムラプスの撮影作業を効率的に行うように改良した応用例を以下に説明する。なお、以下に説明するハイスループット撮像装置およびそのためのソフトウェアは、本発明の主旨に基づき、さらなる特許性を有する優れた発明である。ここにおいて、以下に示す発明は、多数の撮像対象からのタイムラプスデータを同時期に得ることが可能なハイスループット撮像装置およびそのためのソフトウェアを提供することを目的とすることができる。
【0176】
課題を解決するためのハイスループット撮像装置の手段について
上記目的を達成するために本発明のハイスループット撮像装置は、複数の撮像領域に存在している生物学的試料を撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記撮像領域の数に基づいてインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴としている。インターバル撮影の条件の一例として、生物学的試料の活性速度ないし反応速度に応じて、タイムラプス条件としての撮像時間を変更することも含まれる。本発明の発光撮像方法および装置によれば、1分〜20分の露光時間ないしそれ以上の時間から適当な露光時間を選択することができる。反応(ないし活性)速度が速い試料については画像解析可能なレベルの発光画像が得られる範囲で最小の露光時間を設定することができる。逆に、反応(ないし活性)速度が遅い試料については画像容量が余分にならない程度に長い露光時間を設定することができる。好ましくは、同一ないし異なる撮像視野において、複数段階の露光時間(例えば、1分、5分、10分、20分、30分の群から2以上の任意の組合せの段階)または連続的時間範囲(例えば、1〜30分の露光時間において、1〜3分単位の分割目盛または無段階で選ばれる任意の露光時間)を設定することによって、試料ごと、ないし試料中の領域(ないし部位)ごとの画像解析を実行できる。さらに、反応(ないし活性)の速度が異なる発光画像において、画像再生手段における再生速度を制御することによって擬似的に類似の速度による動画映像を提供でき、診断などの評価を簡単且つ効率良いものとし、試料ごとに非特異的なばらつきがあった場合にも正確に解析できるので最終的な評価結果を早く出せるという利点もある。また、試料ごとに画像解析可能なレベルの発光画像が得られる範囲で最小の露光時間を設定することができ、解析時間の短縮にも役立ち、スループットを高める。露光時間の選択は、自動でも手動でもよい。
【0177】
また、本発明のハイスループット撮像装置は、複数の撮像領域に存在している生物学的試料を異なる画像関連情報を抽出する画像情報抽出手段により撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記画像情報抽出手段の種類に基づいてインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴としている。このような構成においても、制御手段により設定された撮像条件によって撮像の作業が効率的に実行されるので、多数の撮像領域を短時間で撮像することが可能となる。
【0178】
本発明において「生物学的試料」はあらゆる生命体を対象とすることができ、関心がある生物学的活性を維持可能な状態で適当な保持手段としての容器または生命体に保持することによって、撮像手段に対し撮像すべき撮像領域を提供することができる。ここで、容器は、所望の撮像手段により撮像が可能な状態で試料を保持するあらゆる収容体を含み、具体的にはウェル、シャーレ、スライドチャンバー、キュベットが挙げられる。また、生命体としては、植物、哺乳類、魚類、昆虫類、細菌、ウイルスが挙げられる。生命体が生命を維持している状態で、必要に応じて生命体の一部を撮像可能な状態に処置し、適宜の撮像手段により生命体の撮像領域にアクセスできる場合には、生物学的試料が生命体に保持されていることになる。生物学的試料としては、生命体に由来するあらゆる部分を含むが、好ましくは生物学的な細胞であり、さらに好ましくは発生学的な分裂または増殖が可能な有核細胞である。細胞が異なる機能に分離した複数の器官を構築している生命体については、関心ある生物学的活性を示している任意の器官であってよい。生物学的活性としては、生理学的、遺伝学的、免疫学的、生化学的、血液学的活性のうち1以上の活性であり得る。「複数の撮像領域」は、同一の保持手段に保持された1個以上の生物学的試料、または別々の保持手段にぞれぞれ保持された1種類以上の被撮像部位を意味する。
【0179】
ハイスループット撮像装置の効果について
以上のように本発明のハイスループット撮像装置は、制御手段により設定された撮像条件によって撮像の作業が効率的に実行されるので、多数の撮像領域を短時間で撮像することが可能となる。また、多数のタイムラプスデータを試料の数が非常に多い場合でも同時期に得ることができるので、生物学的活性に関する研究や臨床において大きく寄与する。
【0180】
本発明の第一の実施例として、図23を参照して説明する。図23は本発明の装置の全体構成を示す概念図である。培養顕微鏡本体101は細胞を培養するインキュベータ室と細胞を観察する顕微鏡部分が一体となっている。培養顕微鏡本体101には内部にコントローラ102が内蔵されており、後述する各ユニットの制御を行っている。コントローラ102は培養顕微鏡のスペースをコンパクトにするため培養顕微鏡本体101内部に配置したが、コントローラの発熱による影響がある場合は本体の外部に配置してもよい。さらに、培養顕微鏡本体101は警告ブザー103と警告表示装置104を備えている。警告ブザー103は実験中に何か問題が発生した場合などに警告音を鳴らすことができる。また、警告表示装置104は警告ブザー103と同様に何か問題が発生した場合の警告表示や、作業指示などの表示が可能である。特に、警告表示装置104は操作パネルとしての機能を持つタッチパネル104aにしてあり、作業者が警告表示装置104に表示される指示にしたがい、タッチパネルに触れ操作を選択することができる。
【0181】
コントローラ102にはフォーカスハンドル・ジョイスティック105が接続されており、フォーカスハンドルにて後述する顕微鏡部分のZ軸方向、即ち、試料にピントを合わせる方向とジョイスティックにてRステージ、θステージを移動させることができる。θステージは軸を中心に回転方向に移動、Rステージは前記θステージの中心軸と垂直な1つの軸の方向に移動可能な電動ステージである。これらは装置サイズをコンパクトにするため使用したが、一般的なXYステージでもよい。とくに、Rステージモータ30とθステージモータ31は、後述する本発明の装置のインターバル撮像条件設定手段により設定された条件に基づいて、コントローラ102を通じて駆動制御される。
【0182】
培養顕微鏡本体101はインキュベータ室内に温度制御用のヒータ112を有し、ヒータ112をコントロールする温度コントローラ106が装備されている。
【0183】
コントローラ102および温度コントローラ106はコンピュータ109(図23ではパソコン)に、例えばRS−232Cなどのインターフェイスで接続されており、コンピュータ109から制御が可能になっている。また、インターフェイスとして必要な各手段(メモリ、演算回路、表示部、入力部等)も含んでいる。
【0184】
培養顕微鏡本体101のインキュベータ室内には外部に温度(37℃)、湿度(95〜100%)、炭酸ガス(二酸化炭素;5%)(各数値は一般的な値であり調整可能である)濃度を制御した混合エアーを蓄積してあるタンク107があり、電磁弁108の開閉により混合エアーを供給できる。本発明ではタンク107に混合エアーを入れているが、タンク107を炭酸ガスのみとし、湿度を維持するための不図示の水槽をインキュベータ室内に設置してもよい。またタンク107を37℃に維持しないで炭酸ガスをインキュベータ室に供給することも可能である。この電磁弁108はコンピュータ109により制御するようにしても良い。
【0185】
コンピュータ109はLAN、インターネット等のネットワーク110につながれており、さらに、ネットワーク110は遠隔地コンピュータ111に接続されており、ネットワーク110を介して遠隔地コンピュータ111(図23ではパソコン)からコンピュータ109を制御することができ、ついては培養顕微鏡本体1を遠隔地コンピュータ111からタイムラプス・インターバル撮像を監視したり、撮像データを大量に蓄積して検索可能なデータベースとして機能することが可能である。遠隔地コンピュータ111はユーザの利害関係者であってよいが、複雑多岐に亘るタイムラプス撮像の利用を順調に継続するために、システム運用を行う外部の専門業者との業務契約でまかなうのが好ましい。また、遠隔地コンピュータ111として、装置の現場(検査室、実験室等)以外の場所であれば、退室時、帰宅時、主張時、休暇時の任意の時刻において、主に監視を行う目的の携帯型の画像受信機であってもよい。携帯型の遠隔地コンピュータ111によれば、所望の画像を呼び出したり、警告時にブザー、ランプ、異常マーク等で異常を把握したりという即座の対応が可能となる。いずれにしても、装置本体と通信手段で接続する遠隔地コンピュータ111においては、適切な認証手段(例えば、暗証番号、担当者ID、電子鍵、バイオメトリックス(指紋、虹彩、静脈等))によるアクセス制限を行うのが好ましい。また、適切な認証が行われたアクセス者であれば、遠隔コンピュータ111を通じて、インターバル撮像条件を変更するようにリモート・コントロール出来るようにすることのがさらに好ましい。このように、遠隔地コンピュータ111は、装置の現場に行かなくとも、監視や一部の操作を可能にすることも出来るので、使用者の負担(例えば工数、経費、移動時間)を大幅に軽減する優れた利用システムを提供する。
【0186】
図24は本発明の培養顕微鏡本体1の内部構成図である。インキュベータ室20はフタ22により外部から密閉され、その内部の培養環境の温度と湿度と炭酸ガス(CO2)濃度を一定に維持したり、また積極的に制御したりする。混合エアーはエアー配管24を介してタンク7から供給されている。不要なエアーは不図示の配管から廃棄される。フタ22はヒンジ23を軸に把手21により開閉可能である。フタ22が開いている場合、フタ開閉センサー28が作動し、コントローラ2に対しフタ22の開閉を知らせることができる。
【0187】
ヒータ12はインキュベータ室20内部に設置され、不図示の温度センサーにより定められた温度、例えば37℃以下になったことを検出した場合、自動的に動作し温度を維持することができる。図24にはヒータ12を1個しか記載していないが、フタ22やベース55全体に取り付けインキュベータ室内の温度ムラが小さくするようにしてもよい。
【0188】
円形トレイ26は複数の試料設置穴52を有し、これらに複数の試料容器25が設置できる。試料容器25は円形トレイ26に対し上方向に取出すことが可能である。反対に試料容器25を円形トレイ26に設置すると試料容器25の底面が円形トレイ26の試料設置穴52のリング状突起51に接触し下に落ちないようになっている。さらに、試料容器25は円形トレイ26に対し位置決め可能で設置できるようになっている。試料容器25の底面は透明のガラスまたは樹脂でできており、対物レンズ33から観察可能である。
【0189】
また、試料容器フタ57は培地交換で試料をインキュベータ室20から外に出し、試料が冷えた状態でインキュベータ室20に入れたときに試料容器25についているフタが結露する可能性がある。結露した場合は試料容器フタ57と交換できるように予備として保管するスペースを設けてある。試料容器フタ57は培地交換中もインキュベータ室20内にあるため冷えることはない。さらに、試料容器25は例えばガラスのような透明で観察可能な底面部材93と上面部材91に例えば金属のように熱容量の大きい部材90、92からできており、底面部材93と部材92は接着により固定され、上面部材91は部材90と接着されている。部材92と部材90は着脱可能になっている。このような構造にすることで、上面部材91と底面部材93の結露を防止している。
【0190】
円形トレイ26は回転ベース34から脱着可能で、円形トレイ26を外した場合、円形トレイ脱着センサー27が作動し、コントローラ2へ円形トレイ26が外れていることを知らせることができる。円形トレイ脱着センサー27は図24では押しボタン式を記載しているが、円形トレイ26の脱着を検知できるセンサーならどのようなものでもよい。
【0191】
回転ベース34はθ回転軸35に取り付けられており、θステージモーター31の回転により円形トレイ26を図示した図26の矢印方向に1トレイずつ間欠的に回転停止させることができる。この円形トレイ26の回転と停止からなる回転周期は、後述する本発明の装置のインターバル撮像条件設定手段により設定された条件に基づいて、コントローラ2を通じて駆動制御される。回転周期の変形例として、円形トレイ26に配置した同一円周上の全ての試料容器25の個数より1トレイ分だけ多いか又は少ない回転距離で停止するような回転停止の周期を行うことによって、見かけ上は1試料容器ずつ間欠的に進むような停止でありながら、間欠的移動するごとに殆ど全ての試料容器25を毎回1周させることも可能となり、この各周回移動において、個々の試料容器25に関する培養状態の良否などの監視を行うことも可能となる。
【0192】
Rステージモーター30によりリードネジ38が回転し、ナット53に取り付けられている直線移動ベース36が左右に移動する。直線移動ベース36には直線ガイド54があり直線方向のみ移動可能になっている。θ回転軸35は直線移動ベース36に対し回転可能に取り付けられており、直線移動ベース36が左右に移動すると回転ベース34も左右に移動させることができる。これにより、試料をRθ極座標系で移動できるステージを実現できる。
【0193】
ベース55はインキュベータ室20とモータ室58とを分けており、インキュベータ室20高湿のエアーがモータ室58に進入しないように各部が密閉されている。まず回転ベース34とベース55の間には平面状のシート50を挟んであり滑動可能になっている。
【0194】
蛇腹56は対物レンズ33がインキュベータ室20内に露出している部分を囲むように取り付けてあり、対物レンズ先端部分とベースに端面を接着等で固定し密閉されている。これによりベース55と対物レンズ33の隙間からモータ室58に高湿のエアーが入らないようにしている。
【0195】
対物レンズ33はZステージモーター32がリードネジ39を回すことにより上下させることができる。対物レンズ33が上下することで試料にピントを合わせることができる。対物レンズ33が上下しても蛇腹56はゴムなどのやわらかい樹脂でできているため伸び縮みすることができ、密閉は維持される。
【0196】
顕微鏡室59は温度変化による光学系部材の膨張がない程度に温度を維持するようになっている。温度維持には不図示のヒータ等が用いられる。
【0197】
顕微鏡室にはコントローラ2が設置されており、各ユニットへの配線がされ接続されている。LED照明41は蛍光観察用の照明で蛍光キューブ42を介して通過窓40、対物レンズ33を経由して試料を照明する。試料からの光は対物レンズ33、通過窓40、蛍光キューブ42を介して、倍率変更レンズ43を通過しミラー44で光路を90度曲げてCCDカメラ45に入射される。ミラー44はCCDカメラ45の設置スペースを確保するために付けたもので、CCDカメラ45の設置スペースがあれば光路を折り曲げる必要は無い。
【0198】
LED照明41の代わりに不図示の水銀ランプ等、光ファイバーを用いて光源として用いることも可能である。水銀ランプの場合、LED照明41のように高速で点灯消灯ができないため、シャッターを取り付けて光の入射をオン/オフする必要がある。これらもコントローラ2から制御可能である。なお、倍率変更レンズ43を介さずにCCDカメラ45に入射する場合もある。つまり、倍率変更レンズ43は対物レンズ33からCCDカメラ45に延びる光路上に適宜挿脱されてよい。
【0199】
蛍光キューブ42は軸48を中心に回転可能になっており、波長の異なる蛍光キューブに切換えることができる。回転はキューブターレットモータ47の駆動により電動で行える。これらもコントローラ2から制御可能である。
【0200】
倍率変更レンズ43は軸49を中心に回転可能になっており、倍率の異なるレンズに切換えることができる。回転はレンズターレットモータ46の駆動により電動で行える。これらもコントローラ2から制御可能である。この倍率変更レンズ43は、ズーム機能を内臓した1個のズームレンズであってもよい。また、必要に応じ、所望の倍率等の仕様のレンズに交換するだけの構成でもよい。
【0201】
図25は図23、図24に記載したユニットで電気的方法などにより制御可能なユニットをブロック図に示したものである。図23と図24で説明した各ユニットについての説明は省略するが、各ユニットはコントローラ102に接続されコンピュータ(パソコン)109のユーザインターフェイスから観察者が制御可能になっている。CCDカメラ45は冷却CCDを用いた高感度タイプが用いられ直接コンピュータ109に接続されている。ヒータ112は温度コントローラ106を介してコンピュータ109に接続されているが温度コントローラ106の機能がコントローラ102にあればコントローラ102を介してヒータ112を制御してもよい。
【0202】
図25の特徴的な構成としては、装置本体101内部の機能を外部より制御する外部制御系60において、セッティングされた各試料容器25に関する撮像条件を設定するインターバル撮像条件設定手段70がコンピュータ109を介してコントローラ102に接続している点である。また、コントローラ102が撮像手段としてのCCDカメラ45の撮像動作についても駆動制御するべく接続している点も特徴の一つである。これにより、コンピュータ109に付随する入力手段や表示手段のような各種インターフェイスを含む外部制御系60と、インターバル撮像条件設定手段70と、内部制御系としてのコントローラ102と、撮像手段としてのCCDカメラ45と、各試料容器25を保持する円形トレイ26のための各種モータ30、31とを連携可能にしている。
【0203】
ここで、インターバル撮像条件設定手段70による設定内容について説明する。このインターバル撮像条件設定手段70は、次に示すようにあらゆる場面での想定に対応した装置を提供する。
装置1:複数の撮像領域に存在している生物学的試料を撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記撮像領域の数に基づいて前記撮像領域ごとのインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置2:装置1に記載の装置において、前記インターバル撮影の条件は、複数の撮像領域を複数回切り換えて撮像する設定を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置3:装置2に記載の装置において、前記画像取得手段から送出される画像信号を撮像領域ごとに積算して画像を生成することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置4:装置1に記載の装置において、前記インターバル撮影の条件は、撮像に必要な時間以外に別種の処理を行うための余剰時間を含んでいることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置5:装置4に記載の装置において、前記撮像領域を前記画像取得手段による撮像可能な光環境に維持するために外部との遮光を行う遮光手段と、前記遮光手段による光環境を一時的に解除して前記画像取得手段による撮像以外の処理を行うための処理手段とを備えたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0204】
装置6:装置1から5のいずれかに記載の装置において、前記複数の撮像領域に対して前記画像取得手段を相対的に移動する移動手段を備えることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置7:装置6に記載の装置において、複数の生物学的試料を円形トレイの円周に沿って順次配置するとともに、この円形トレイを前記制御手段の撮像条件に応じて回転および停止可能としたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置8:装置7に記載の装置において、前記円形トレイの回転周期を複数の撮像領域を通過してから停止する構成としたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置9:装置8に記載の装置において、前記円形トレイの回転周期が、1回転±1個の撮像領域分の長距離回転モードを有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置10:装置9に記載の装置において、前記長距離回転モードの長距離回転中に前記円形トレイ上の全ての撮像領域に関する別種の参考情報を取得する参考情報取得手段を備えたことを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置11:装置1〜4のいずれかに記載の装置において、前記画像取得手段は撮像時の撮像倍率を変更可能な撮像倍率変更手段を有し、前記撮像倍率変更手段による撮像倍率に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置12:装置1〜4のいずれかに記載の装置において、前記画像取得手段は撮像領域から得られる光信号を受光する受光素子を備え、受光素子の受光能力に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0205】
装置13:複数の撮像領域に存在している生物学的試料を異なる画像関連情報を抽出する画像情報抽出手段により撮像して試料画像を取得するための画像取得手段と、前記画像取得手段を制御し、前記撮像領域ごとにタイムラプス・インターバル撮影を行うための制御手段とを備え、前記制御手段は、前記試料画像の取得に必要な撮像時間と前記画像情報抽出手段の種類に基づいて前記撮像領域ごとのインターバル撮影の条件を設定するためのインターバル撮像条件設定手段を有していることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置14:装置13に記載の装置において、前記画像情報抽出手段が、同一の撮像領域に対して同時または連続的に異なる画像関連情報を抽出することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置15:装置14に記載の装置において、前記画像情報抽出手段が抽出した異なる画像関連情報を撮像領域上の試料に対応付けて合成する画像合成手段を有することを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置16:装置13〜16のいずれかに記載の装置において、前記画像情報抽出手段が、透過光、蛍光、生物発光、化学発光、ラマン分光、赤外線の2組以上の組合せであることを特徴とするハイスループット撮像装置。
装置17:装置1〜16のいずれかに記載の装置において、前記生物学的試料中の細胞を継続して培養するための培養手段を備え、前記制御手段が復すの撮像領域に存在する細胞に関する各培養期間中の撮像時期に応じてインターバル撮像条件を設定することを特徴とするハイスループット撮像装置。
【0206】
図26は円形トレイの上面図である。円形トレイ26には試料容器25を入れる試料設置穴52がθ回転軸35の軸を中心とした円周上に均等の間隔に振り分けられている。各試料設置穴52にセットされた試料容器25に関する試料情報は、コンピュータ109に内臓のメモリに記憶され、タイムラプスのインターバル撮像条件の設定時に呼び出され、撮像条件を決定して、コントローラ102による撮像が実行される。決定した撮像条件に関する情報は、コントローラ102を介してコンピュータ9に通知され、試料情報と対応付けてコンピュータ9のメモリに記憶されるとともに、適宜、ユーザインターフェイスに表示することが可能である。
【0207】
コンピュータ9のユーザインターフェイスには、円形トレイ26の試料容器25の個別IDが付与されており、このIDを通じて撮像装置および円形トレイの動作が対応するようにプログラミングされている。ユーザインターフェイスの入力手段(オプティカルマウス、キーボード、タッチパネル、電子ペン等)は、ユーザが前記IDごとに選択した情報に基づいた撮像条件を設定するようにコンピュータ9を促がす。ここにおいて、図27のフローチャートに示すように、観察準備状態となって、GUI表示される(S1)とともに、ステージ原点出しが実行される(S2)。ここで、ユーザが観察したい試料容器を入力可能となり入力待ち(S3)になった後、好ましくはStage/RθとStage/Zにある各方向矢印ボタンを押し試料容器内の細胞画像をライブイメージウィンドとして表示させながら、タイムラプス撮像を希望する細胞を探して、入力手段により表示画面上で位置を選択する。即ち、この例においては、最初に、上述したような明視野画像および/または発光画像を表示した上で所望の細胞、細胞群、組織領域、ひいては細胞中の特定部位を指定するようになっている。好ましくは、任意の撮像時期において、タイムラプス撮像の途中でも、現在の撮像結果ないし解析結果を表示できるようにするのが好ましい。このためには、タイムラプス撮像の継続中に得られた発光画像を逐次解析するようにして、迅速な結果出しを行うような制御を実行するのがさらに好ましい。
【0208】
次に、選択した観察位置に関する観察条件の待ち状態となり(S4)、ユーザが所望の観察条件を入力する(S5)する。入力においては、例えば要求に沿った観察条件(例えば、使用する試薬の種類や実験条件に応じて微弱発光の波長や、検出感度、明視野観察における明るさ等)を上記と同様に入力する。また、図のように蛍光測定を併用する例においては、例えばLED-G(緑色)、LED-B(青色)のどちらを使うか選択したり、LED照明41の明るさを決定する。また、Cubeにて選択した波長に対応する蛍光キューブを選択したり、Lensにて番号のボタンに対応する倍率変更レンズを決定する。さらに、Camera ControlにてCCDカメラの露出時間やAEを実行するかどうかなどカメラの撮影条件を決定、Image File Nameにて撮影後の画像を保存するファイル名の決定、Time-lapseにてタイムラプスのインターバル時間、実験期間の設定をなど観察条件として必要なパラメータを全て設定する。ここでタイムラプスのインターバル時間とは、多点タイムラプス(1点のみの場合も含む)を行う場合の1回目の多点を撮影するための電動ステージ移動時間、撮影時間及び制御時間と、前記多点の2回目を撮影開始する直前までの待機時間を合計したものである。
【0209】
次に、入力された撮影条件を記憶(S6)すると、例えばタイムラプスのインターバル時間に対して、ステージの移動時間やカメラの露出時間の合計時間が長い場合、正しくタイムラプス・インターバル撮像を行うことができないため、コンピュータがタイムラプスのインターバル時間の再設定や撮像時間の再設定を行って、所望の数の撮像領域を漏れなく撮像できるようにすることができる。例えば、自動調整ボタンをクリックすることで、ステージの移動時間、カメラの露出時間の合計時間よりも多少長くした時間を自動的に算出しタイムラプスのインターバル時間として設定することができる。または、待機時間をゼロに近づけることで、連続性のあるタイムラプス撮像に切り換えるようにしてもよい。こうして、特定の観察位置における設定が終了すると(S7)、観察準備が終了して、撮像が開始できる状態となる。なお、入力した条件の記憶を中止して入力をやり直したい場合や別の観察位置についての設定を行いたい場合は、S3に戻って、入力を繰返すこととなる。
以上のように、この例に示した多点タイムラプスによれば、所望の観察対象のそれぞれに対して、ハイスループットで且つ適切な撮像条件で漏れなく自動観察できる。
【0210】
以上、上記の例では、蛍光顕微鏡をも兼用した例で説明したが、本発明は発光画像を専用に撮像してもよく、その場合には、励起光を照射する必要が無いので、照射光学系を除去することができる。蛍光標識した細胞等の観察を発光標識した細胞等の画像と同時に又は別々に観察するようにしてもよい。発光標識の例としては、顕微鏡下でも肉眼では見えないような微弱光を発する生物発光(または化学発光)が挙げられる。
【0211】
生物発光(または化学発光)の例として、特定の関心ある遺伝子領域のプロモーターの下流に連結したレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を含むDNAが導入された細胞または組織が挙げられる。ルシフェラーゼをレポーターとして発現させた細胞または組織を用いることにより、所望の発現部位におけるルシフェラーゼ活性を検出することによって、転写の経時的変化を実時間で検出することが可能である。
【0212】
好ましい態様は、導入した発光遺伝子が末梢組織中でリズムを有するように発現される脊椎動物由来の細胞または組織である。末梢組織には、肝臓、肺、および骨格筋が含まれるが、これらに限定されることはない。これらの末梢組織は、7〜12時間の位相差でもって概日リズムを刻んでいることが報告されている。概日リズムの遅延パターンを示したことは、多器官から構成される複雑な哺乳動物の生物リズムの正常な協調性を反映したものと考えられる。
【0213】
これによれば、本発明により解析した情報が、概日リズムと関係のある時差ぼけまたは睡眠障害の機序を解明するため、ならびに概日リズム障害の治療に有用な化合物のスクリーニングおよび試験を目的として用いる哺乳動物モデルを開発するために有用であるといえる。
【0214】
また、レポーター遺伝子を発現する本発明のDNAを含む形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物を用ると、種々の試験またはスクリーニングを行うことができる。さまざまな任意の条件下でこれらの組織または細胞におけるレポーター遺伝子の発現を検出することにより、レポーター遺伝子の発現を調節する刺激もしくは化合物の効果を評価すること、またはこれらをスクリーニングすることが可能である。刺激には温度、光、運動、および他のショックが含まれる。使用する化合物に制限はない。本発明は特に、本発明の形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物に導入された時計遺伝子(例えばPeriod 1)のプロモーターによって誘導される発現を改変する化合物を、その形質転換体またはトランスジェニック哺乳動物を用いて試験またはスクリーニングする方法に適用可能である。
【0215】
本発明の試験またはスクリーニングの方法としては、以下の方法が挙げられる。
方法(1):本発明の形質転換体における導入遺伝子の発現を改変する活性を有する化合物を試験またはスクリーニングする方法であって、(a)前記形質転換体を前記化合物で処理する段階;および(b)処理した形質転換体における前記導入遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
方法(2):本発明の哺乳動物における導入遺伝子の発現を改変する活性を有する化合物を試験またはスクリーニングする方法であって、(a)前記哺乳動物を前記化合物で処理する段階;および(b)処理した哺乳動物における前記導入遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
【0216】
本発明の方法は、Period 1遺伝子の発現を調節する化合物をスクリーニングするために有用である。本方法はまた、概日リズム障害に対する医薬品をスクリーニングするためにも有用である。従って、上記の方法(1)、(2)に加えて、以下に挙げるスクリーニング法も本発明によって可能となる。
方法(3): 概日リズム睡眠障害の治療に有用な医薬品の試験またはスクリーニングの方法であって、(a)本発明の形質転換体またはトランスジェニック非ヒト哺乳動物をその医薬品で処置する段階;および (b)処置した形質転換体または哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現を測定する段階、を含む方法。
【0217】
本発明の試験またはスクリーニングの方法に使用する化合物に特に制限はない。その例には、無機化合物、有機化合物、ペプチド、蛋白質、天然または合成性の低分子化合物、天然または合成性の高分子化合物、組織または細胞の抽出物、微生物の培養上清、植物または海洋生物に由来する天然成分などが含まれるが、これらに限定されることはない。遺伝子ライブラリーまたはcDNA発現ライブラリーなどの発現産物を使用してもよい。化合物による処置の方法に特に制限はない。インビトロでの処置は、例えば化合物を培養液に添加して細胞を化合物と接触させたり、微量注入またはトランスフェクション試薬を用いて化合物を細胞内に導入することなどにより実施しうる。インビボでの治療の方法には、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、または腹腔内注射;経口投与、経腸投与、筋肉内投与、または鼻腔内投与;眼への投与;注射もしくはカテーテルを介した脳内投与、脳室内投与、または末梢器官内投与などの、当業者に公知の方法が含まれる。化合物は適宜組成物として投与する。例えば、それを水、生理食塩水、緩衝液、塩、安定剤、保存剤、懸濁剤などと混合することができる。
【0218】
レポーター遺伝子の発現は、哺乳動物または細胞が生きたまま測定することもでき、細胞を可溶化した後に測定することもできる。例えば、生組織におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現を測定するために、実施例に示すように光電子増倍管により、または本明細書に参照として組み入れられるヤマザキ(Yamazaki, S.)ら(Science、2000、288、682〜685)に記載された他の類似の検出器により、生物発光を連続的に測定することが可能である。可溶化した組織または細胞におけるルシフェラーゼ活性は、例えば、ルシフェラーゼレポーター二重アッセイ系(Dual-Luciferase Reporter Assay System)(Promega)などを使用して測定することができる。レポーター遺伝子の発現は、時間的または空間的に測定することができる。発現リズムの位相、振幅、および/または周期を検出することによって発現を分析することもできる。本発明の方法により、化合物の即時的または長期的な効果(位相変化を含む)の評価が可能となる。化合物の投与によってこれらの発現が改変されれば、その化合物はPeriod 1遺伝子の発現を調節する薬剤候補となる。このような化合物は、睡眠障害を含むさまざまな概日リズム障害に対する医薬品として適用されることが期待される。例えば、レポーター遺伝子の発現の振動をリセットまたは開始する薬剤は、ペースメーカの位相を後退または前進させると期待される。したがって、これらの薬剤は脱同調した発現パターンを正常な同調に導くために使用することができる。本発明によってスクリーニングされる医薬品は、薬剤の治療効果を評価するために、概日リズム障害モデルとなるように誘導した本発明のトランスジェニック哺乳動物に投与される。
【0219】
トランスジェニック哺乳動物における遺伝子の発現を検出する場合、測定する器官に特に制限はなく、これには視床下部の視交叉上核(SCN)を含む中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)、ならびに肝臓、肺、および骨格筋を非制限的に含む他の末梢組織が含まれる。本発明で開示する系は、SCNおよび末梢組織におけるPeriod 1発現の位相関係および同調機構を評価するために有用である。ここで、本発明による発光顕微鏡により得られる微弱光画像を、さらに異なる所望の経過時間ごとの微弱光画像を連続的ないし断続的に取得するようにする場合には、1以上の同一の細胞に関する時間ごとの光強度を網羅的に解析した解析データに基づいて、例えば時間遺伝子の活性パターンや薬剤等による細胞内物質の応答パターンを網羅的に評価することができるようになる。また、前記認識した細胞のうち所定の光強度ないし光分布を示さない細胞については網羅的評価を行わないことにより、解析すべきでない細胞を除外して正確な評価を実施できるようになる。また、前記画像解析した全ての細胞の光強度を合計値または平均値を算出することにより、個々の細胞の評価の他に解析した細胞全体の評価も実施できるようになる。また、前記画像解析した2以上の細胞の光強度および/または光強度パターンに応じて同一または異なる細胞グループに分類することにより、解析したパターンごとに活性を評価できるようになる。場合によっては、パターンが異なる細胞ごとに活性度ないし活性変化の詳細を調べることができるようになる。本発明によれば、時計遺伝子の発現パターンの周期の波形形状(振幅長、周期幅など)や波形強度(発現量、活性速度など)といった変動パラメータに関して、多様な組合せでもって解析を行うことができる。時計遺伝子の波形解析の結果は、診断、治療、生育(ないし生物学的発生)等の研究用途や産業上(医学、農産など)用途に重要な情報をもたらすので、本発明の果たす役割は大きい。
【0220】
また、本発明の装置は、多数の細胞を含む生物学的試料を画像取得可能な状態に保持する保持手段と、前記生物学的試料から発する微弱な光学的データを蓄積して画像解析可能な画像情報を取得する微弱光画像取得手段と、前記微弱光画像を形態的に解析して個々の細胞を認識するとともに認識した細胞に関する微弱光の光強度を網羅的に評価するための画像解析手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記保持手段が、複数のウェルを一体化したプレートをアドレス化可能に保持する構成を有することにより、複数のウェル間の評価を同一視野内または所定の順番で行うようになるので、異なる試料または異なる薬剤等による活性評価の結果を比較したり相関させることができるようになる。こ場合、前記保持手段が複数の独立した容器をアドレス化可能に保持する構成としてもよく、画像取得手段の視野に限定されず、多数の容器についての評価を行えるようになる。また、画像取得した時刻に応じた評価を行うように制御する制御手段を有することにより、経過時間ごとの同一細胞に関する解析、特定の活性を示した異なる時間同士の細胞(同一または異なる細胞)の比較解析といった多様な時間解析ができるようになる。また、前記画像解析した結果を画像情報と関連付けて表示する表示手段をさらに有することにより、解析結果の中から画像として見たい結果に対応する画像を表示できるよになる。また、前記表示手段が所望の画像情報を動画表示する構成を有することにより、1以上の所望の細胞に関する活性の変化をリアルタイムな映像でもって観察することができるようになる。動画表示としては、同一細胞に関する時間ごとの微弱光画像を画像処理により重ね合わせて臨場感を向上させるようにするとさらに好ましい。また、同一細胞に関する時系列の複数画像を駒送りで並列(ないし一部ずらしただけでもよい)表示するようにして、時間ごとの画像を全貌できるようにしてもよい。
【0221】
本発明の系は、Period 1の発現を調節すると推定される多くの因子を同定するために使用され得る。概日リズムと関係のある新規なインビボ因子および遺伝子が本発明の系を用いて同定されれば、これらの因子および遺伝子の発現のインビボでの振動を評価することができる。それにより、SCNおよび末梢組織の振動位相を制御する因子を単離することが可能である。これらは概日リズムに関与する新規な遺伝子および蛋白質であると考えられ、これらを標的として用いることにより、新規薬剤のスクリーニングが可能になると考えられる。このようなスクリーニングはインビボおよびインビトロのどちらでも行える。
【0222】
具体的には、本発明のトランスジェニック哺乳動物を用いるインビボでのスクリーニング方法は以下の段階を含む方法(4)により達成される。
方法(4):(a)概日リズムが既に決定されているトランスジェニック哺乳動物に化合物を投与する段階;(b)トランスジェニック哺乳動物におけるレポーター遺伝子の発現レベルを定期的に検出し、発現リズムを検証する段階; (c)化合物の投与後のレポーター遺伝子の発現リズムを投与前のものと比較する段階;および(d)発現リズムの位相、周期、または振幅を改変する化合物を選択する段階。
【0223】
レポーター遺伝子の発現リズムは、生きた動物の体内でのレポーター遺伝子の発現リズムを検出する方法;切り出した組織を培養することによって発現の変動を連続的に観察する方法;または動物組織の抽出物を定期的に調製して、各時点での発現レベルを検出する方法によって検出可能である。例えば、適した方法(例えば、静脈内注射、腹腔内投与、脳室内投与など)により、適切なタイミングでトランスジェニック動物にルシフェリンを投与する。続いてこの動物を麻酔し、CCDカメラによってルシフェラーゼ発光を計測することにより、レポーター遺伝子の発現部位および発現レベルを決定する。個々の動物の発現リズムを確認するために、この測定を数時間毎に数回ずつ行う(Sweeney TJら、「生きた動物における腫瘍細胞クリアランスの可視化(Visualizing the kinetics of tumor-cell clearance in living animals)」、PNAS、1999、96、12044〜12049;およびContag PRら、「生きた哺乳動物における生物発光標識(Bioluminescent indicators in living mammals)」、Nature Medicine、1998、4、245〜247を参照のこと)。
【0224】
前記の通り、インビトロでも本発明を用いて新規薬剤のスクリーニングを行うことができる。このようなインビトロスクリーニング法は以下の段階を含む方法(5)により達成できる。
方法(5): (a)本発明の形質転換体、または本発明のトランスジェニック哺乳動物に由来する組織もしくは細胞を培養する段階; (b)形質転換体または組織もしくは細胞を適切な期間にわたって化合物で処理し、さらに培養を続ける段階; (c)レポーター遺伝子の発現レベルを定期的に検出する段階;および(d)(b)の処理後にレポーター遺伝子の発現リズム(位相、周期、および振幅)を改変する化合物を選択する段階。
【0225】
本明細書において、本発明の撮像すべき組織または細胞は、初代培養物または樹立細胞系の細胞であってもよい。本明細書で用いる組織、細胞などに制限はないが、脊椎動物におけるSCN、視床下辺縁細胞、末梢神経などが好ましい。化合物による処理は、例えば、化合物を添加しておいた溶媒中に組織、細胞などを一定期間、浸漬することによって行ってもよい。レポーター遺伝子の発現リズムの変化を測定する場合には、発現リズムがあらかじめ決定された同一の組織もしくは細胞、または化合物による処理を受けていない対照組織または細胞を用いた比較を行ってもよい。
【0226】
上記のインビボおよびインビトロのスクリーニング方法において、光刺激などの刺激処理を、化合物の投与または処理とともに行ってもよい。
【0227】
本発明の試験またはスクリーニングの方法により同定された化合物は、所望の概日リズム疾患または障害に対する医薬品として用いることができる。これらの薬剤は、適宜薬学的に許容される担体、溶質、および溶媒と組み合わせることによって医薬組成物として製剤化することができる。本薬剤は、時差症候群、交代制勤務による睡眠障害、睡眠相後退症候群、および不規則性睡眠覚醒障害などの疾患または障害に対して適用することができる。
【0228】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を医薬品として用いる場合には、それを患者に直接的に投与することもでき、またはそれを公知の医薬品製剤法によって医薬組成物の形態に製剤化することもできる。例えば、それを薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤などと適宜組み合わせた後に投与することができる。本発明の医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、吸入液などの形態でありうる。化合物の含有量は適宜決
定してよい。これらは例えば、通常は動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、または経口投与によって患者に投与することができ、このような方法は当業者に公知である。投与量は患者の体重、年齢、投与方法、および症状により変動するが、当業者であれば投与量を適宜選択することができる。一般に、投与量は薬剤の有効血中濃度および代謝時間により異なるが、1日当たりの維持用量は約0.001mg/kg〜1g/kg、好ましくは、0.01mg/kg〜100mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgであると考えられる。投与は1日当たり1回から複数回であってもよい。化合物がDNAによってコードされうる場合には、遺伝子治療を行うためにDNAを遺伝子治療用ベクターに組み入れることが可能である。
【0229】
また、本発明によれば、次のような撮像装置のためのソフトウェアの発明も包含する。
ソフトウェア1:上述した装置1〜17のいずれかに記載の装置において、設定したインターバル撮像条件によるインターバル撮像が実行されるように、前記制御手段および前記画像取得手段を機能させるためのプログラムを有することを特徴とするハイスループット撮像装置のためのソフトウェア。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明にかかる発光試料撮像方法を実施するための装置の構成の一例を示す図である。
【図2】(NA/β)の2乗の値を表記した対物レンズ2の一例を示す図である。
【図3】対物レンズを簡略に示した図である。
【図4】現在市販されている一般的な顕微鏡の対物レンズによる像の明るさ(NA/β)の2乗の一例を示す図である。
【図5−1】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の明視野像を撮像した画像を示す図である。
【図5−2】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図5−3】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を5分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図5−4】図5−1および図5−3に示した画像を重ね合わせて表示した画像を示す図である。
【図6−1】図1に示した微弱光撮像装置による実験の標本の作成方法を説明する図である。
【図6−2】図1に示した微弱光撮像装置による実験の標本の作成方法を説明する図である。
【図7−1】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の明視野像を撮像した画像を示す図である。
【図7−2】図1に示した微弱光撮像装置によって標本の自己発光による像を1分間露光して撮像した画像を示す図である。
【図7−3】図7−1および図7−2に示した画像を重ね合わせて拡大表示した画像を示す図である。
【図8】図7−3に示した画像のうち所定の2つの領域に対応する標本からの発光強度の経時変化を測定した結果を示す図である。
【図9】図1に示した微弱光撮像装置に落射蛍光装置を付加した場合の一部構成を示す図である。
【図10】図1に示した微弱光撮像装置にフィルターユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図11】多色ルシフェラーゼ遺伝子の発光特性および図10に示した波長抽出フィルターの透過率特性を示す図である。
【図12】図1に示した微弱光撮像装置に分光ユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図13】図1に示した微弱光撮像装置にミラー切換明視野撮像ユニットを付加した場合の一部構成を示す図である。
【図14】図1に示した微弱光標本撮像装置を遮光装置内に配置して外部から自動制御を行う場合の構成を示す図である。
【図15】図1に示したサンプル1を内部に保持し環境条件が可変な収容器の構成を示す図である。
【図16】図1に示した微弱光撮像装置(ないし微弱光撮像ユニット)に適用可能な各部構成を系統的に示す図である。
【図17】実施例1で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。
【図18】実施例2で用いる対物レンズの開口数(NA)および投影倍率(β)の条件を示した図である。
【図19】実施例2において撮像したHeLa細胞の発光画像を示す図である。
【図20】実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。
【図21】実施例3において撮像したHeLa細胞の発光画像を示す図である。
【図22】実施例3で用いた対物レンズの(NA/β)の2乗の値と図21に示す発光画像の発光強度との関係を示した図である。
【図23】本発明の応用例としてのハイスループットな撮像装置に関する全体構成を示す概念図である。
【図24】本発明に適用可能な培養装置と顕微鏡装置を一体化した本発明の撮像装置の内部構成図である。
【図25】ハイスループットな撮像装置における電気的に制御可能なユニットをブロック図に示したものである。
【図26】ハイスループットな撮像装置において試料容器を保持する移動可能な円形トレイの上面図(平面図)を示す図である。
【図27】ハイスループットな撮像装置における操作ステップを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0231】
1:サンプル
2:対物レンズ
3:集光レンズ
4:CCDカメラ
5:モニタ
101:培養顕微鏡本体
102:コントローラ
103:警告ブザー
104:警告表示装置
104a:タッチパネル
105:フォーカスハンドル・ジョイスティック
106:温度コントローラ
107:タンク
108:電磁弁
109:コンピュータ
110:ネットワーク
111:遠隔地コンピュータ
112:ヒータ
20:インキュベータ室
21:トッテ
22:フタ
23:ヒンジ
24:エアー配管
25:試料容器
26:円形トレイ
27:円形トレイ脱着センサー
28:フタ開閉センサー
29:ゴム
30:Rステージモーター
31:θステージモーター
32:Zステージモーター
33:対物レンズ
34:回転ベース
35:θ回転軸
36:直線移動ベース
38:リードネジ
39:リードネジ
40:通過窓
41:LED照明
42:蛍光キューブ
43:倍率変更レンズ
44:ミラー
45:CCDカメラ
46:レンズターレットモータ
47:キューブターレットモータ
48:軸
49:軸
50:シート
51:リング状突起
52:試料取り付け穴
53:ナット
54:直線ガイド
55:ベース
56:蛇腹
57:試料容器フタ
58:モータ室
59:顕微鏡室
60;外部制御系
70;インターバル撮像条件設定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えたことを特徴とする生体試料検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、撮像手段が、インターバル条件設定手段をさらに具備し、生体試料に関する複数の画像を異なる時間において複数取得することを特徴とする生体試料検出装置。
【請求項3】
上記装置を用いる検出方法。
【請求項4】
請求項3において、微弱光を発生する細胞を少なくとも含んでいる検出方法。
【請求項1】
高開口数(NA)の対物レンズと、生体試料を生存および遮光環境に維持する試料保持部と、前記対物レンズと連携して生体試料における所望の現象ないし活性に応じた時間で撮像データを取得する撮像手段とを備えたことを特徴とする生体試料検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、撮像手段が、インターバル条件設定手段をさらに具備し、生体試料に関する複数の画像を異なる時間において複数取得することを特徴とする生体試料検出装置。
【請求項3】
上記装置を用いる検出方法。
【請求項4】
請求項3において、微弱光を発生する細胞を少なくとも含んでいる検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6−1】
【図6−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図5−1】
【図5−2】
【図5−3】
【図5−4】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図19】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6−1】
【図6−2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図5−1】
【図5−2】
【図5−3】
【図5−4】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図19】
【図21】
【公開番号】特開2007−108154(P2007−108154A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351319(P2005−351319)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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