説明

生体試料物質の分析方法、分析装置、マイクロアレイ及びイムノアッセイ

【課題】微小な発現レベルの差異の検出や、蛋白質の濃度測定等に利用できる、定量性、再現性の高い解析方法並びに分析装置を提供すること。
【解決手段】同一範囲内に2つ以上の異なる標識体が存在し、その中のある特定の標識体の信号強度を用いてそれ以外の標識体の信号強度を規格化することを特徴とする生体試料物質の分析方法。また、分析装置、マイクロアレイ、イムノアッセイを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイなどを用いた遺伝子検出方法、蛋白質間相互作用検出方法に用いることのできる生体試料物質の分析方法及び分析装置、マイクロアレイ及びイムノアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイとは、スライドガラスやシリコン等の基板上にDNAや蛋白質を数百〜数万スポット並べて固定化したもので、従来の方法では数百〜数万回の実験を必要としていた作業を、一括して並列的に処理できる技術である。医薬品などのライフサイエンス分野では、疾病関連遺伝子の探索などのハイスループットが要求される分野で重要な技術となっている。また、マイクロチップはマイクロアレイに流路等を形成したものである。
【0003】
ヒトゲノム解析によりヒトには約3万個の遺伝子が存在し、それらの遺伝子から産生される蛋白質は10万個を超えると予想されている。この10万個の蛋白質のなかから目的の蛋白質を簡便に選択すること、すなわちスクリーニングすることができれば、創薬などの分野に飛躍的な発展をもたらすと期待されている。例えば複数の蛋白質を基板上に固定化した蛋白質チップが実用化されれば、低コストでかつ簡便なスクリーニング技術として有用性が高い。
【0004】
しかしながらマイクロアレイは、網羅性は高いが定量性や再現性が低いのが欠点である。その要因としては、マイクロアレイ表面でプローブが凝集してしまうことに起因するクロスハイブリダイゼーション、サンプルの標識化効率、サンプルのクロスコンタミネーション、レーザー安定性、スライドガラスの歪み、スライドガラス上に塗布したDNA/蛋白質固定化試薬であるリンカーのコーティングむら、アレイヤーのスポット精度、アレイヤーのスポット量の違いなどが考えられる。従ってこれらの問題点を抱えている場合には、同一の操作を行っても定量性や再現性の低いという結果を引き起こす。
【0005】
この課題を解決するために、補正したいスポットの周辺に、ある一定の信号強度を持ったポジティブコントロールを複数スポットし、それらの信号強度が一定であるという仮定のもとにスポットの信号強度を補正することも可能であるが、補正したい位置の情報を正確に反映しているわけではなく、仮に補正したいスポットに特異的な欠陥があった場合には正しく補正できなくなる。更に補正したいスポットとは別の位置にデータ補正用のポジティブコントロールをスポットすることは、余計な操作になるだけではなく、ポジティブコントロールをスポットする領域も必要なことからアレイ密度の低下に繋がる。
【0006】
これに代わる方法としては、同一スポットにおいて、プローブ核酸と標識核酸の両方に蛍光共鳴エネルギー移動を起こす蛍光色素を標識し、これらを反応させてハイブリッド体を形成させ、標的核酸がプローブ核酸とハイブリダイズした時の反応系の蛍光強度値を、ハイブリダイズしていないプローブ核酸の蛍光強度値、該標的核酸単体の蛍光強度値、蛍光共鳴エネルギー移動による標的核酸の蛍光強度値により補正する方法が報告されている〔特許文献1〕。しかしながらこの方法ではハイブリッド体形成前後での蛍光強度を測定する必要があるために、ハイブリッド体結成前後での洗浄操作などによるプローブの剥離が懸念されるほか、標識体が蛍光共鳴エネルギー移動を起こす組合せに限定されること、更に蛍光共鳴エネルギー移動の現象は1〜9塩基離れた距離での現象であるために、特定位置を標識することが難しい蛋白質を用いたマイクロアレイでは確実にハイブリッド体結成を行わせることが難しいと思われる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−16132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、定量性、再現性の高い解析方法並びに分析装置を提供することであり、これにより本発明の分析方法は微小な発現レベルの差異の検出や、蛋白質の濃度測定等に利用できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、同一スポットに、標的生体試料物質及び該標的生体試料物質を固定する結合剤を固定し、標的生体試料物質及び結合剤又は結合剤に、共鳴エネルギー移動が無く、光信号の波長帯が重ならない複数の標識体を標識し、標的生体試料物質の結合体形成後の光強度を測定することによって、正確に目的の標的生体試料物質の物質量等が測定可能となる生体試料物質の分析方法を提供する。また、本発明は、この分析方法を実施するのに適した分析装置ならびにマイクロアレイを提供するものである。
【0010】
本発明は、マイクロアレイなどに固定された補正用物質の複数のスポットの信号をとり、その特徴を抽出して、分析用標識物質の信号を補正するものである。また、日時を変えて、スポッティング(マイクロアレイへの生体試料の固定)を行って、それらの補正用標識物質の特徴量を抽出して、分析用標識物質の光強度の補正をすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小な発現レベルの差異の検出や、蛋白質の濃度測定等に利用できる、定量性、再現性の高い解析方法並びに分析装置を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、標識体として蛍光標識体、酵素標識体及びRI(放射性同位元素)標識体などを用いることができるが、以下の説明においては、蛍光標識体を中心として説明する。
【0013】
本発明によれば、マイクロアレイの同じ位置に、蛍光共鳴エネルギー移動が無く、最大蛍光波長の重ならない2つ以上の標識体が存在し、その中のある特定の標識体の蛍光強度を用いてそれ以外の標識体の信号強度を補正する生体試料物質の分析方法並びに分析装置が提供される。またこの方法及び装置に適したマイクロアレイ、イムノアッセイを提供する。
【0014】
本発明の実施形態によれば、固定化剤を用いて、標的生体試料を支持体に固定したイムノアッセイの同一範囲内に、相互に共鳴エネルギー移動を起こさない2つ以上の異なる標識体を固定し、その中の特定の標識体の信号強度を用いて、それ以外の標識体の信号強度を規格化する生体試料物質の分析方法が提供される。規格化の方法として、メジアン、または平均値などの統計量を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の実施形態によれば、固定化剤を用いて、標的生体試料を支持体に固定したイムノアッセイの同一範囲内に、相互に蛍光共鳴エネルギー移動を起こさない2つ以上の異なる蛍光標識体を固定し、その中の特定の蛍光標識体の信号強度を用いて、それ以外の蛍光標識体の信号強度を規格化する生体試料物質の分析方法が提供される。蛍光標識体は複数個あって、第1の蛍光標識体は補正用蛍光標識体であり、第2の蛍光標識体は分析用蛍光標識体である。
【0016】
上記イムノアッセイは、(1)支持体上に固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該固定化剤に結合した第1の蛍光標識体と、上記生体試料に結合した第2の蛍光標識体とを有するもの、(2)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の蛍光標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第2の蛍光標識体とを有するもの、及び(3)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の蛍光標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第3の固定化剤と、該第3の固定化剤に結合した第2の蛍光標識体とを有するもののいずれかである。複数の蛍光標識体のそれぞれの蛍光波長の差が30nm以上離れていることが好ましい。また、固定化する支持体はスライドガラス、シリコン基板、マイクロタイターウエル、シリカ微粒子、金微粒子、ゲル、メンブレン又はPDMSを含むことが好ましい。さらに、蛍光標識物質を基板に固定する固定化物質が、核酸、PNA、抗体、アプタマー、抗原、蛋白質、低分子またはそれらの代替物質であることができる。上記イムノアッセイが固定される基体はマイクロチップであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、以下の3種の典型的なイムノアッセイが用いられる。
(1)マイクロアレイの基体1に結合した抗体などの第1の結合剤2と、該第1の結合剤に結合した生体試料物質4と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体3たとえば蛍光色素標識体と、該生体試料物質に結合した定量用標識体7たとえば蛍光標識体を備え、上記補正用標識体と定量用標識体は相互に共鳴エネルギー移動を起こさない物質である生体試料物質分析用イムノアッセイ(図1a)。
(2)マイクロアレイの基体1に結合した第1の結合剤2と、該第1の結合剤抗体に結合した生体試料物質3と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体3と、該生体試料物質に結合した第2の結合剤5と、該第2の結合剤に結合した定量用標識体7を備え、上記補正用標識体と定量用標識体は相互に共鳴エネルギー移動を起こさない物質である生体試料物質分析用イムノアッセイ(図1b)。
(3)マイクロアレイの基体1に結合した第1の結合剤2と、該第1の結合剤に結合した生体試料物質4と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体3と、該生体試料物質に結合した第2の結合剤5と、該第2の結合剤に結合した第3の結合剤6と、該第3の結合剤に結合した定量用標識体7を備えた生体試料物質分析用イムノアッセイ(図1c)。
【0018】
本発明において用いられるイムノアッセイは、以下に述べるマイクロアレイとして用いるのが最も合理的である。また、必要に応じて、流路やフローセルなどを付加してマイクロチップとするのが好ましい。
(1)支持体上に固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の標識体とを有するもの、(2)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するもの、及び(3)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第3の固定化剤と、該第3の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するいずれかであって、上記第1の標識体と第2の標識体は共鳴エネルギー移動を起こさない関係にある、イムノアッセイを保持したマイクロアレイ。
【0019】
本発明は更に、上記のマイクロアレイと、該マイクロアレイの複数の標識体のそれぞれを励起こする電磁波を照射する装置と、照射によって生じた光信号を検出する検出器と、上記第1の標識体の信号によって上記第2の光信号を規格化・補正する演算装置とを有する生体試料物質分析装置を提供するものである。RI標識体を用いる場合は、上記電磁波を照射する装置は不要である。
【0020】
本発明において用いられる標識物質としては、表1に掲げた物質がある。これらの中から、蛍光波長で30nm以上の差がある物質を2つ以上選択し、それぞれ分析用蛍光標識物質及び該分析用蛍光標識の蛍光強度を補正する標識物質として使用する。
【0021】
【表1】

【0022】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0023】
〔実施例1〕
本発明の第1の実施形態によるマイクロアレイ測定法について、インターロイキン8の抗原抗体反応を基に説明する。図1(c)は本実施例において用いたサンドイッチイムノアッセイの模式図を示す。1は蛋白質などを固定化する支持体であり、支持体1として用いるプロテインマイクロアレイ用スライドガラス(Proteochip、登録商標)は日立ハイテクノロジーズ社より購入可能である。
【0024】
支持体1としてはスライドガラスの他に、シリコン基板、マイクロタイターウエル、シリカ微粒子、金微粒子、ゲル、メンブレン、PDMSなどを使用することができる。
【0025】
また支持体1の表面には様々な化学物質を用いてアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基を導入できるほか、ゲル、ポリマー、メンブレンなどに固定化することもできる。粒子状又は粉末状支持体の場合は、その支持体を、生体試料を含む溶液に添加して、生体試料物質を支持体と反応させて生体試料物質を固定する。
【0026】
マイクロアレイの作製装置としては、アレイヤーまたはスポッターと称するものが市販されており、これはスライドガラスなどの基板上に溶液を針先に付着させてスポッティングしたり、インクジェットノズルに吸引して微量に吹き付けを行ってスポッティングしたりすることにより、多数のスポットをマトリックス状に配置した後、溶液を乾燥させてアレイ化を行うものである。通常スポットの間隔は100〜1,000μmであり、隣接するスポットの間隔は100〜1,000μmである。従ってスライドガラスを用いた1枚のマイクロアレイには、数千から数万スポットを固定化することができる。
【0027】
インターロイキン8との抗原抗体反応(サンドイッチイムノアッセイ)を評価する際に、支持体1に固定化される一次抗体2として抗インターロイキン8モノクローナル抗体(Fitzgerald社製)、抗原4としてRecombinant Humanインターロイキン8(Serotec社製)、二次抗体5として抗インターロイキン8ポリクローナル抗体(Fitzgerald社製)、三次抗体6としてCy5 Goat Anti−Rabbit IgG(H+L) Conjugate(Zymed Laboratories社製)を使用した。7の定量用標識体(Cy5)は三次抗体6に蛍光標識したものである。2としては一次抗体のかわりに、核酸、PNA、抗体、アプタマー、抗原、蛋白質、低分子またはそれらの代替物質を用いることができる。
【0028】
データ補正用蛍光標識体3(Cy3)は一次抗体2に蛍光標識したものであり、FluoroLink−Ab Cy3 Labelling Kit(Amersharm Pharmacia Biotech社製)を使用した。本標識キットの使用により、約2時間で蛍光標識が完了する。Cy3は励起波長552nm、蛍光波長565nmであり、Cy5は励起波長650nm、蛍光波長667nmである。3と7の蛍光標識体は蛍光共鳴エネルギー移動が無く、かつ最大蛍光波長が30nm以上離れていることが望ましい。また3と7の標識には蛍光標識のほか、酵素標識、RI(放射性同位元素)標識が可能である。
【0029】
1次抗体2は、Cy3標識した抗インターロイキン8モノクローナル抗体とCy3標識していない抗インターロイキン8モノクローナル抗体を1:100の割合で混合し、その終濃度が100μg/mlとなるように30%グリセロールを含むPBS(リン酸干渉溶液)(pH7.4)で希釈し、1.5μlづつスポットした。Cy3標識した抗インターロイキン8モノクローナル抗体とCy3標識していない抗インターロイキン8モノクローナル抗体の混合割合は、図3の蛍光スキャナー11のダイナミックレンジに収まる範囲内で調整する。
【0030】
本実施例の場合、混合する割合は1:10,000〜1:1の範囲が適当であった。また必ずしもCy3標識した抗インターロイキン8モノクローナル抗体を用いる必要は無く、蛍光標識プロテインAのように単なる蛍光物質を混ぜたものをスポットしても良い。これはデータ補正用蛍光標識体3の役割が、単に定量用蛍光標識体7の蛍光強度を補正するためだけの物だからである。従って異なる条件で3と7を検出しても良い。
【0031】
スポットしたチップは、37℃の恒温槽内で一晩インキュベートして固定化したのちに、それ以降のステップでの非特異的吸着を抑えるために3%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS(pH7.4)で溶液を緩やかに攪拌させて1時間ブロッキングを行った。
【0032】
その後、チップを洗浄液(a)〔0.5%Tween20(界面活性剤、Sigma社製)を含むPBS(pH7.8)〕で5分間の洗浄を3回繰り返した。更に抗原を希釈液(b)〔1%BSA及び30%グリセロールを含むPBS(pH7.4)〕で適当な濃度に希釈し、1.5μlづつスポットした。スポットしたチップは、37℃の恒温槽内で1時間インキュベートした。
【0033】
その後、チップを洗浄液(a)で5分間の洗浄を3回繰り返した。更に二次抗体を希釈液(b)で1:100に希釈し、1.5μlづつスポットした。スポットしたチップは、37℃の恒温槽内で30分インキュベートした。その後、チップを洗浄液(a)で5分間の洗浄を3回繰り返した。更に三次抗体を希釈液(b)で1:200に希釈し、1.5μlづつスポットした。スポットしたスライドは、37℃の恒温槽内で30分インキュベートした。その後、チップを洗浄液(a)で5分間の洗浄を3回繰り返した。最後にチップを窒素ガスの吹き付けにより乾燥させた。
【0034】
スライドガラス基板にスポットされた3と7の標識体の蛍光強度は、20μmの解像度で蛍光スキャナー(ScanArray Express、パッカードバイオサイエンス社製)を用いてレーザー強度80%、光電子増倍管強度80%の条件でCy3,Cy5共に検出した。但し、3のCy3の蛍光強度は7のCy5の蛍光強度を補正するためだけの物であるため、発現解析で用いられるような蛍光を同条件で比較する方法とは異なり、Cy3とCy5でそれぞれレーザーパワーや光電子増倍管強度などの検出条件が異なっていても良い。
【0035】
3と7の検出では、Cy3は543nmで励起して、565nmの光を測定し、Cy5は633nmで励起して、667nmの光を測定した。各信号強度とバックグランドは蛍光スキャナー付属のソフトウエアであるQuantArray(パッカードバイオサイエンス社)の内蔵アルゴリズムを用いて数値化した。本実施例ではメジアン値を信号強度として採用したが、平均値などの他の統計量を採用してもよい。数値化後、Cy5の信号強度のみで信号強度補正を行わない場合と、Cy3の信号強度を用いてCy5の信号強度を補正した場合の信号強度のCV値(標準偏差/平均値×100)を比較することで、本発明のマイクロアレイの効果を評価した。
【0036】
表2は抗原4の濃度を変化させ、それぞれの抗原濃度に対して4スポットづつ行った時の平均値、標準偏差、CV値を示しており、(1)は定量用標識体7の蛍光強度データ(従来法)、(2)はデータ補正用蛍光標識体3の蛍光強度データ、(3)は(2)のデータを用いて(1)のデータを補正したものである。(1)ではCy5データのCV値は抗原濃度0〜0.1ng/mlにおいて10%以上となっているが、本発明である(2)のCy3データを用いた補正を適用することにより、結果として(3)の補正後のCy5データのCV値は全て5%以下となった。これは表2(1),(2),(3)におけるレーン4の信号強度が適切に補正されたためである。
【0037】
【表2】

【0038】
CV値が向上した理由としては、スライドガラスの歪みやスライドガラス上に塗布したリンカーのコーティングむら、スライドガラス洗浄中のプローブ剥離などの影響が補正されたためと考えられ、スライドガラスの干渉縞などを観察することにより原因を突き止めることが可能である。Cy3データによるCy5データの規格化は、下記の式に基づいて行った。
【0039】
補正後のCy5信号強度〔各スポット〕=補正前のCy5信号強度〔各スポット〕×(Cy3信号強度の平均値〔20スポット〕/Cy3信号強度〔各スポット〕)
但し抗原濃度ごとに蛍光標識体の消光度合いが異なるなど条件が異なると考えられる場合には同一抗原濃度ごとに平均値を求めて補正することもできる。
【0040】
本発明の実施例によれば、一次抗体を標識したマイクロアレイチップの供給や、それを用いた受託解析が可能である。図2は実施例1の分析フローチャートを、図3は本発明による生体試料物質の分析装置の概略図である。図3において、スライドガラスステージ10にスライドガラス8を搭載し、このスライドガラス8面にイムノアッセイを固定したマイクロアレイスポット9を形成する。イムノアッセイには複数の標識体が固定され、それぞれの標識体に適切な励起波長のレーザー光を照射し、標識体からの蛍光信号をCCD検出器で検出する。標識体の蛍光波長には30nm以上の差があるような物質を選ぶ。一方の標識体の信号は他の標識体(定量分析用又は検出用)の信号の補正用に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】サンドイッチイムノアッセイの模式図。
【図2】実施例1の分析フローチャート。
【図3】本発明による生体試料物質の分析装置の概略図。
【符号の説明】
【0042】
1…支持体、2…一次抗体、3…データ補正用蛍光標識体、4…抗原、5…二次抗体、6…三次抗体、7…定量用蛍光標識体、8…スライドガラス、9…マイクロアレイスポット、10…スライドガラスステージ、11…蛍光スキャナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化剤を用いて、標的生体試料物質を支持体に固定したイムノアッセイの同一範囲内に、相互に共鳴エネルギー移動を起こさない2つ以上の異なる標識体を固定し、該標識体を励起して光信号を発生させ、その中の特定の標識体の信号強度を用いて、それ以外の標識体の信号強度を規格化することを特徴とする生体試料物質の分析方法。
【請求項2】
標識体が蛍光標識体、酵素標識体及びRI標識体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項3】
固定化剤に標的生体試料物質及び補正用標識体を固定化し、更に1つ以上の固定化剤を用いて分析用固定化剤を同一スポットに固定したイムノアッセイを用いることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項4】
第1の標識体が補正用標識体であり、第2の標識体が分析用標識体であることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項5】
上記イムノアッセイは、(1)支持体上に固定化剤を介して固定された標的生体試料物質と、該固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料物質に結合した第2の標識体とを有するもの、(2)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料物質と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するもの、及び(3)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料物質と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料物質に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第3の固定化剤と、該第3の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するもののいずれかであることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項6】
複数の蛍光標識体のそれぞれの蛍光波長の差が30nm以上離れていることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項7】
固定化する支持体がスライドガラス、シリコン基板、マイクロタイターウエル、シリカ微粒子、金微粒子、ゲル、メンブレン又はPDMS(ポリジメチルシロキサン)を含むことを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項8】
標識物質を基板に固定する固定化物質が、核酸、PNA、抗体、アプタマー(結合性機能核酸で、特定の標的分子に結合するDNAやRNA分子)、抗原、蛋白質、低分子またはそれらの代替物質であることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項9】
規格化のためにメジアン、または平均値などの統計量を用いることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項10】
上記イムノアッセイが固定される基体がマイクロチップであることを特徴とする請求項1記載の生体試料物質の分析方法。
【請求項11】
マイクロアレイに結合した第1の結合剤と、該第1の結合剤に結合した生体試料物質と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体と、該生体試料物質に結合した定量用標識体を備え、上記補正用標識体と定量用標識体は相互に共鳴エネルギー移動を起こさない物質である生体試料物質分析用イムノアッセイ。
【請求項12】
マイクロアレイに結合した第1の結合剤と、該第1の結合剤に結合した生体試料物質と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体と、該生体試料物質に結合した第2の結合剤と、該第2の結合剤に結合した定量用標識体を備え、上記補正用標識体と定量用標識体は相互に共鳴エネルギー移動を起こさない物質である生体試料物質分析用イムノアッセイ。
【請求項13】
マイクロアレイに結合した第1の結合剤と、該第1の結合剤に結合した生体試料物質と、該第1の結合剤に結合した補正用標識体と、該生体試料物質に結合した第2の結合剤と、該第2の結合剤に結合した第3の結合剤と、該第3の結合剤に結合した定量用標識体を備え、上記補正用標識体と定量用標識体は相互に共鳴エネルギー移動を起こさない物質である生体試料物質分析用イムノアッセイ。
【請求項14】
(1)支持体上に固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の標識体とを有するもの、(2)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するもの、及び(3)支持体上に第1の固定化剤を介して固定された標的生体試料と、該第1の固定化剤に結合した第1の標識体と、上記生体試料に結合した第2の固定化剤と、該第2の固定化剤に結合した第3の固定化剤と、該第3の固定化剤に結合した第2の標識体とを有するもののいずれかであって、上記第1の標識体と第2の標識体は共鳴エネルギー移動を起こさない関係にあるイムノアッセイを基体に保持したマイクロアレイ。
【請求項15】
請求項14に記載のマイクロアレイと、該マイクロアレイの複数の標識体のそれぞれを励起こする電磁波を照射する装置と、照射によって生じた光信号を検出する検出器と、上記第1の標識体の信号によって上記第2の光信号を規格化・補正する演算装置とを有する生体試料物質分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−105803(P2006−105803A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293420(P2004−293420)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】