説明

生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルおよびその噴霧剤の調製方法

本発明は、(1)生体適合性高分子チオール化誘導体を含む溶液(成分A)と、生体適合性チオール基反応性架橋剤(成分B)とを相互に混合して、特定の架橋条件を有する反応性混合物を形成するステップと、(2)反応性混合物を反応させてハイドロゲルを形成するステップとを含む、複数の活性化合物成分を特定の条件下で混合および化学架橋反応させ、高速化学架橋によりハイドロゲルを形成する、生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法を開示する。本発明はさらに、新規の高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製方法およびその医学分野での応用を開示する。本発明は、生体適合性が良好である、副産物を発生せず、安定性が良好であり、使用上便利であり、原料の用量が少なく、様々な医学的用途に適合する等の多くの長所を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイドロゲルの調製方法に関し、特に、生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法に関する。本発明はさらに、生体適合性高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲル、特に細胞間質基質から調製されたハイドロゲルは、生物医薬分野において非常に広く応用されている。合成材料から調製されたハイドロゲルと比べて、細胞間質基質から調製されたハイドロゲルは、生物体内の自然環境をシミュレーションでき、含水量が高く、透過性が良好であり、生体適合性がより良好であり、酵素分解性が調節可能である等、多くの長所を有する(非特許文献1及び2)。さらに重要な点は、細胞間質基質は生体誘導作用を有し、組織特異的な修復を誘導・誘発することが可能なことである。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムは天然細胞間質基質高分子であり、細胞の接着や移動の管理、細胞の分裂および分化を調節する等の生物学的機能を有する。高分子ヒアルロン酸ナトリウムは、ニワトリ胎生の肢幹骨髄幹細胞の軟骨細胞への分化を誘発することが可能である(非特許文献3)。そのため、細胞間質基質から調製されたハイドロゲルは生物医薬(特に組織工学)分野においてますます重視されている。
【0003】
多くの生物医薬の応用において、ハイドロゲルには、使用時には液体であるが、指定部位に到達した後は、速やかにゲルを形成して、流動性を失うことが求められる。このような高速ゲル化ハイドロゲルには、複雑な形状の全ての立体的な傷口にも適合でき、傷口に良好に接着でき、内視鏡方式で使用できるため開腹式手術を回避できる、等の極めて大きな利点が認められる。現在までに、研究者はハイドロゲルの高速ゲル化を実現するための各種の方式を考察してきた。例えば、水溶性ポリエチレングリコールの不飽和誘導体を光誘発により架橋してゲルを調製すること、特定の組成のポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの3ブロック共重合体(Pluronic poloxamer)溶液が温度変化に誘発されてゲル化する性質を有すること(非特許文献4)、シアノアクリル酸塩が重合架橋によりゲルを形成し、組織接着に用いられること、およびゼラチンのグルタルアルデヒド架橋材料等である。一般に、上記のハイドロゲルには、生体適合性が低く、生分解性が低い等、各種の欠陥が存在する。通常、高速ゲル化には、高活性の架橋剤が必要であるが、これらの化合物は強い毒性、副作用を有する。
【0004】
チオール基は、生物体内に自然に存在する、良好な生体適合性を有する官能基である。チオール基は良好な反応活性を有し、同一の条件下では、通常、その反応活性はアミノ基より数桁高い。従って、高速ゲル化を実現するために必要な高速化学架橋を提供する場合には、相対的に不活性なアミノ基の架橋には高活性の架橋剤(アルデヒド類等)が必要となる。しかしながら、この種の架橋剤は大きな毒性を有し、組織の炎症等の副作用を招きうる。それに対し、チオール基の架橋は、活性の低い生体適合性架橋剤を選択することが可能なため、調製されるハイドロゲルはより良好な生体適合性を有する。Wallaceらは、多分岐(四分岐または十二分岐)ポリエチレングリコールチオール基誘導体(分子量10,000)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)に溶解し、多分岐(四分岐または十二分岐)ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体(分子量10,000)を0.0005mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解し、上記二種類の溶液を混合することによりハイドロゲルを調製した。その生体適合性は、対応するポリエチレングリコールアミノ基誘導体を用いて調製したハイドロゲルより大きく向上した(特許文献1)。
【0005】
Wallaceらにより開示された方法は高速ゲル化ハイドロゲルを調製する比較的良好な方法ではあるが、依然として多くの欠陥が存在する(特許文献1)。第一に、多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体と多分岐ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体の化学架橋反応では、ある程度の毒性、副作用を有するN‐ヒドロキシルスクシンイミド副生成物が生成する。第二に、Wallaceらが用いた多分岐ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体の溶液と多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体の溶液はともに不安定で、両者とも用時調製する必要があり、かつ、前者の溶液は一時間以内に使い終える必要があり、後者は空気に触れると活性を失いやすいため、使用上不便である。第三に、多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体と多分岐ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体はともに高価であり、これら二種類の化合物の濃度がそれぞれ10% w/v以上(通常は20% w/v)に達したときにはじめて高速ゲル化を実現できるため、高コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,624,245号明細書(Wallace et al)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Silva et al,Curr Top Dev Biol,64, 181,2004
【非特許文献2】Drury et al,Biomaterials,24, 4337,2003
【非特許文献3】Kujawa et al.Develop Biol,114,519, 1986
【非特許文献4】Leach et al,Am J ObstetGynecol 162,1317,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする技術的課題の第一は、新規の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題の第二は、新規の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの噴霧剤の調製方法を提供することである。
【0010】
本発明において用いる一部の技術用語について、以下のように定義する。
【0011】
生体適合性高分子チオール化誘導体とは、生体適合性高分子をチオール基により変性させて得られる産物である。上記生体適合性高分子チオール化誘導体は、少なくとも三つのチオール基を含み、分子量は1,000〜10,000,000である。
【0012】
生体適合性高分子とは、多糖類(コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デルマタン、デルマタン硫酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キトサン等)、それらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)および変性体(カルボキシメチル化変性、疎水化変性等);タンパク質(アルカリ性ゼラチンタンパク質、酸性ゼラチンタンパク質、アルカリ性遺伝子組換えゼラチンタンパク質、酸性遺伝子組換えゼラチンタンパク質等)およびそれらの変性体(アミノ基のカルボキシル化変性、疎水化変性等);合成高分子(ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸等)、それらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)および変性体(カルボキシメチル化変性、疎水化変性等)である。上記コンドロイチン硫酸には、A型、B型、C型等の各種形式が含まれる。上記生体適合性高分子は、ポリエチレングリコールおよびその誘導体や、システイン含有オリゴペプチド等を含まない(Lutolf et al,Biomacromolecules,4,713,2003)。
【0013】
チオール化変性とは、遊離チオール基を導入する化学反応過程であり、通常は以下の反応ステップを含む:生体適合性高分子の側鎖カルボキシル基を、カルボジイミドの活性下で、ジスルフィド結合を含むジアミンまたはジヒドラジドと反応させて中間産物を生成し、その後ジスルフィド結合をチオール基に還元して、生体適合性高分子チオール化誘導体を得るステップ;または、上記の生体適合性高分子を含む側鎖アミノ基を化学反応により直接チオール基に変性するステップ。
【0014】
化学架橋反応とは、チオール基とチオール基反応性官能基との間での、求核付加反応および求核置換反応である。
【0015】
ハイドロゲルとは、大量の水を含有する、三次元架橋網状構造を有する物質であり、液体と固体の間の状態で、流動性はない。ゲル化とは、流動性を有する液体状態から流動性を失ったハイドロゲルになるまでの過程であり、ゲル化時間とは、流動性を有する液体状態から流動性を失ったハイドロゲルになるまでの時間である。
【0016】
アルキレン基とは、-(CH)-(nは1〜15の整数)である。好ましくは、nは1〜8の整数である。
【0017】
置換アルキレン基とは、少なくとも1つの水素原子が、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、フェニル基、エステル基等の基に置換されたアルキレン基である。
【0018】
アリール基とは、芳香族のフェニル基、ナフチル基等である。好ましくはフェニル基である。
【0019】
ポリエーテル基とは、‐[(CHR)O]‐であり、Rはアルキル基、nは1〜10の整数、mは1〜500の整数である。好ましくは、Rは水素原子であり、nはそれぞれ2、3、4である。
【0020】
アルキル基とは、1〜15個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、等である。好ましくは、1〜10個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、特に好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基である。
【0021】
アルコキシ基とは、1〜6個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等である。好ましくは、1〜4個の炭素原子を有する、直鎖または分岐鎖のアルコキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基およびエトキシ基である。
【0022】
エステル基とは、‐C(O)ORであり、Rは上記の低級アルキル基である。好ましくは、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、ブチルエステル基である。
【0023】
カルボキシル基とは、カルボキシル基(‐COOH)と、カルボキシル基がアルカリで中和されたカルボン酸塩(‐COO)であり、Aにはナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、アンモニアイオン等が含まれる。好ましくは、カルボキシル基、カルボン酸ナトリウム塩またはカルボン酸カリウム塩である。
【0024】
一つのアシルアミド結合を含む連結基とは、−R’−NH−C(=O)−R’’−または−R’−C(=O)−NH−R’’−であり、式中、R’およびはR’’、上記のアルキレン基、置換アルキレン基、アリール基またはポリエーテル基である。ポリアミド基とは、ジアシドおよびジアミンから生成される基である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法のプロセスは、以下のステップを含む:
(1)成分Aと成分Bとを相互に混合して、特定の架橋条件を有する反応性混合物を調製するステップ。ここで、成分Aは生体適合性高分子チオール化誘導体を含む溶液であり、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤である。生体適合性高分子チオール化誘導体は、生体適合性高分子がチオール化により変性されることにより調製される。成分Aの濃度は8% w/v未満であり、成分AのpH値は8.5未満であり、成分BのpH値は成分AのpH値より大きい。成分A中のチオール基と成分B中のチオール基反応性官能基とは化学架橋反応を生じる。上記反応性混合物中の生体適合性高分子チオール化誘導体と生体適合性チオール基反応性架橋剤の濃度の和は6% w/v未満である。上記特定の架橋条件とは、反応性混合物溶液のpH値が7.0より大きいことである。
(2)反応性混合物を反応させてハイドロゲルを形成するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】FibriJetシリーズの複数成分混合反応気体補助式噴霧装置の部分的な構成を示す模式図。1はシリンジプランジャクリップ、2はシリンジ、3はシリンジホルダ、4は4ウェイアプリケータ、5は圧縮気体吸気管である。
【図2】図1の4ウェイアプリケータの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の生体適合性ハイドロゲルの調製方法の基本的な化学原理は、特定条件下でのチオール基と生体適合性チオール基反応性官能基との間の高速化学架橋反応である。本発明においては、通常、生体適合性高分子チオール化誘導体溶液(成分A)および生体適合性チオール基反応性架橋剤(成分B)という二つの活性成分を使用する。少なくとも三つのチオール基を有する生体適合性高分子チオール化誘導体を含む成分Aと、少なくとも二つのチオール基反応性官能基を有する生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む成分Bとを特定条件下で相互に混合して化学架橋させることにより、本発明を実現することが可能である。本発明は生体適合性が良好であり、副生成物を発生せず、安定性が良好であり、使用が便利であり、低コストである、等の多くの長所を有する。
【0028】
本発明において、成分Aとは、生体適合性高分子チオール化誘導体の溶液である。上記溶液は水を主要な溶剤とし、溶液浸透圧を調節し溶液pH値を安定させる等の機能を有する若干の塩成分(塩化ナトリウム、pH緩衝塩成分等)を含んでいてもよい。また、その他の若干の極性及び水溶性の成分(エタノール等)を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において用いられる生体適合性高分子チオール化誘導体は、生体適合性高分子側鎖カルボキシル基やアミノ基等の官能基を直接チオール化変性する等の、生体適合性高分子のチオール化変性により調製することができる。その他、生体適合性高分子の側鎖アミノ基、ヒドロキシル基等の官能基は、まずカルボキシル化変性により新たな生体適合性高分子を得た後に、カルボキシル基のチオール化変性を行ってもよい。一般に、生体適合性高分子のチオール化変性には、常用される以下の数種の方法が含まれる。
【0030】
方法1は、側鎖カルボキシル基のアミノ基(ヒドラジド)/カルボジイミドカップリング化学法である。好ましい形態としては、カルボキシル基がカルボジイミドの活性下で中間産物を形成し、ジスルフィド結合を含むジアミンまたはジヒドラジドが求核置換により中間産物を生成し、最後にジスルフィド結合をチオール基に還元すれば、生体適合性高分子チオール化誘導体が得られる(Shu et al, Biomacromolecules,3,1304,2002;Aeschlimann et al,US 7,196,180 B1)。また、ジスルフィド結合を含むジアミンまたはジヒドラジドに代えて、チオール基保護1級アミノ基を用いてもよく、得られる中間産物からチオール基の保護基を除去すれば、生体適合性高分子チオール化誘導体が得られる(Gianolio et al,Bioconjugate Chemistry,16,1512,2005)。上記のカルボジイミドは、通常は1-エチル-3-(3-ジメチルアミンプロピル)カルボジイミド塩酸塩をいう。用いられるジスルフィド結合を含むアミンまたはヒドラジドの例の構造を以下に示す。
【0031】
【化1】

【0032】
ここで、(1)はシスタミン、(2)はシスチンエステル、(3)はジチオジアニリン、(4)はジチオジエチルジヒドラジド、(5)はジチオジプロピルジヒドラジド、(6)はジチオジブチルジヒドラジド、(7)はジチオジプロピオン酸ジアシルグリシンジヒドラジド、(8)はジチオジプロピオン酸ジアシルアラニンジヒドラジド、(9)はジチオジプロピオン酸ジアシル(ヒドロキシ)アミノ酢酸ジヒドラジド、(10)はジチオジプロピオン酸ジアシルアミノプロピオン酸ジヒドラジド、(11)はジチオジプロピオン酸ジアシルアミノブチル酸ジヒドラジド、(12)はジチオジブチル酸ジアシルグリシンジヒドラジド、(13)はジチオジブチル酸ジアシルアミノプロピオン酸ジヒドラジド、(14)はジマロン酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、(15)はジコハク酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、(16)はジ(メチル)コハク酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、(17)はジグルタミン酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、(18)はジヘキシル酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、(19)はジヘプチル酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、である。
【0033】
このような方式により調製した高分子チオール化変性誘導体は、通常、以下の一般式(I)または一般式(II)に示す構造を有する(Shu et al, Biomacromolecules,3,1304,2002;Prestwich et al,WO 2004/03716;宋ら,中国特許出願第200610119414.1号明細書)。
【0034】
【化2】

式中、RおよびRは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリール基、ポリエーテル基、アシルアミノ基、ポリアミド基等を含む。
【0035】
方法2は、側鎖カルボキシル基を、ジスルフィド結合を含むカルボジイミド(2,2’−ジチオ‐ジ(N‐エチル(N’‐エチルカルボジイミド))等)と直接反応させて調製する方法である。調製された生体適合性高分子チオール化変性誘導体は、以下の一般式(III)に示す構造を有する(Bulpitt et al,US 6884788)。
【0036】
【化3】

式中、Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基等である。
【0037】
方法3は側鎖アミノ基の変性であり、一般に直接変性と間接変性の二種類の方式に分けられる。直接変性方式とは、側鎖アミノ基を直接修飾して、チオール基を導入することである。例えば、ジコハク酸ジアシルシスタミノジカルボニルジイミダゾール活性エステルによる、コラーゲンアミノ基のチオール化変性である(Yamauchi et al,Biomaterials,22,855,2001;Nicolas et al,Biomaterials,18,807,1997)。直接変性方式により調製された高分子チオール化誘導体は、通常、以下の一般式(IV)に示す構造または一般式(IV)に類似した構造を有する。
【0038】
【化4】

式中、Rは、アルキレン基、置換アルキレン基、アリール基、ポリエーテル基、アシルアミノ基、ポリアミド基等である。
【0039】
方法3におけるアミノ基の間接チオール化変性の方式は、一般に二つのステップに分けられる。第一ステップは、アミノ基のカルボキシル化であり、第二ステップはカルボキシル基のチオール化変性である。ここで、第二ステップのカルボキシル基のチオール化変性は、前述した方法1および方法2と同様である。調製された生体適合性高分子チオール化誘導体は、通常、以下の一般式(V)または一般式(VI)に示す構造を有する。
【0040】
【化5】

式中、RおよびRの定義は前述の通りであり、Rはアルキレン基、置換アルキレン基等の基である。
【0041】
側鎖カルボキシル基とアミノ基とを同時に有する生体適合性高分子については、そのチオール化誘導体はカルボキシル基チオール化変性構造(一般式(I)または(II)等)とアミノ基の直接または間接チオール化変性構造(一般式(III)、(IV)、(V)または(VI)等)とを同時に有する(宋ら,中国特許出願第200710036276.5号明細書)。
【0042】
方法4は側鎖ヒドロキシル基の変性である。通常の方法は、ヒドロキシル基を強アルカリ条件下でカルボキシル化し、その後カルボキシル基を前述の方法1および方法2によりチオール化する。例えば、セルロース、ヒアルロン酸、キチンおよびキトサン等の高分子側鎖ヒドロキシル基はいずれもカルボキシメチル化することができ、その後アミノ基(ヒドラジド)/カルボジイミド化学反応を用いてチオール化変性を行う。調製された生体適合性高分子チオール化誘導体は、通常、以下の一般式(VII)または(VIII)に示す構造を有する。
【0043】
【化6】

式中、RおよびRの定義は前述の通りであり、R6はアルキレン基、置換アルキレン基等の基である。
【0044】
カルボキシル基とヒドロキシル基とを同時に有する生体適合性高分子については、そのチオール化誘導体はカルボキシル基のチオール化変性構造(一般式(I)または(II)等)とヒドロキシル基のチオール化変性構造(一般式(VII)または(VIII)等)とを同時に有しうる。
【0045】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Pは生体適合性高分子の残基であり、そのうち少なくとも二つの生体適合性高分子化合物の側鎖カルボキシル基、アミノ基またはヒドロキシル基が、直接または間接的にチオール基に変性される。Pの分子量は通常1,000〜10,000,000である。生体適合性高分子の定義は前述の通りである。
【0046】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アルキレン基−(CH−、アシルアミノ基−(CH−C(=O)−NH−(CH−、および−(CH−NH−C(=O)−(CH−であり、式中、m、iおよびjはいずれも1〜15の整数である。mが1〜3の整数、iが1〜5の整数、jが2および3のときが、Rの特に好ましい構造である。
【0047】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アリール基、アルキレン基−(CH−および置換アルキレン基−CH−(C(=O)−R)−CH−であり、式中、mは1〜15の整数であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基である。Rの特に好ましい構造は、炭素数2のアルキレン基、Rがメチル基およびエチル基の上記置換アルキレン基である。
【0048】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アリール基およびアルキレン基−(CH−であり、式中、mは1〜15の整数である。Rの特に好ましい構造は、炭素数2のアルキレン基である。
【0049】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アルキレン基−(CH−、アシルアミノ基−(CH−C(=O)−NH−(CH−および(CH−NH−C(=O)−(CH−であり、式中、m、iおよびjはいずれも1〜15の整数である。mが1〜3の整数、iが1〜5の整数、jが2および3のときが、Rの特に好ましい構造である。
【0050】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アルキレン基−(CH−であり、式中、mは1〜15の整数である。mが1〜8の整数のときが、Rの特に好ましい構造である。
【0051】
上記の一般式(I)〜(VIII)において、Rの好ましい構造は、アルキレン基であり、mは1〜15の整数である。mが1〜5の整数のときが、Rの特に好ましい構造である。
【0052】
本発明に用いられる生体適合性高分子チオール化誘導体の特に好ましい一部の化学構造を以下に示す。
【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
このうち、構造式(1)、(2)および(3)は、一般式(I)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(4)は、一般式(II)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(5)は、一般式(III)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(6)は、一般式(IV)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(7)、(8)および(9)は、一般式(V)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(10)は、一般式(VI)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(11)、(12)および(13)は、一般式(VII)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。構造式(14)は、一般式(VIII)の特に好ましい生体適合性高分子チオール化誘導体に属する。
【0056】
カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基を同時に有する生体適合性高分子により調製される生体適合性チオール化誘導体の特に好ましい構造は、上記構造式(1)〜(14)のうちの一種類以上の構造を有しうる。例えば、ヒアルロン酸はカルボキシル基とヒドロキシル基を同時に有し、ヒドロキシル基をカルボキシメチル化してカルボキシル基を導入し、その後アミノ基(ヒドラジド)/カルボジイミド化学反応を用いてチオール化変性を行うことができる。調製されるヒアルロン酸チオール化誘導体は、同時に構造式(1)、(2)または(3)の構造と、構造式(11)、(12)または(13)の構造とを有する(Prestwich et al,PCT Int. Appl. WO 2005/056608)。ゼラチンはカルボキシル基とアミノ基を同時に有し、アミノ基を無水酸と反応させてカルボキシル基を導入し、その後ヒドラジド/カルボジイミド化学反応を用いてチオール化変性を行うことができる。調製されるゼラチンチオール化誘導体は、同時に構造式(1)、(2)または(3)の構造と、構造式(7)、(8)または(9)の構造とを有する(宋ら,中国特許出願第200710036276.5号明細書)。
【0057】
本発明に用いられる成分Bは、生体適合性チオール基反応性架橋剤であり、少なくとも二つのチオール基反応性官能基を有する。通常、チオール基反応性官能基には、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、ハロプロピオネート、ハロプロピオンアミド、ジチオヒリジン、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル等が含まれる。このうち、マレイミド、ビニルスルホン、ヨードプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ジチオヒリジン等の官能基は高いチオール基反応活性を有する。上記の官能基とチオール基の反応は三種類に分けられる。(1)チオール基と活性不飽和二重結合の付加反応。この種の反応に属する官能基には、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート等が含まれる。(2)チオール基の置換反応。この種の反応に属する官能基には、ヨードプロピオネート、ブロモプロピオネート、クロロプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ブロモプロピオンアミド、クロロプロピオンアミド、ジチオヒリジン等が含まれる。(3)チオエステル化反応。この種の反応に属する官能基には、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル等の各種カルボン酸活性エステルが含まれる。チオール基と上記チオール基反応性官能基との反応式を以下に示す。
【0058】
【化9】

【0059】
上記チオール基反応性官能基のうち、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルは反応活性が強く、アミノ基およびチオール基の双方と反応可能で選択性を持たないため、相当の毒性、副作用を有する。また、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルは、チオール基との反応時にさらに副生成物としてN−ヒドロキシスクシンイミドを生成するため、毒性、副作用を生じうる。なお、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルとチオール基の反応により形成されるチオエステル結合は不安定で加水分解しやすく、医薬分野での応用には多くの制限がある。Wallenceらはポリエチレングリコールスクシンイミド活性エステル誘導体をポリエチレングリコールチオール基誘導体の架橋に用いているが(特許文献1)、上記の重大な欠陥が存在するため、本発明ではチオール基反応性官能基としてN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを用いない。ジチオピリジンとチオール基の反応でも副生成物が生じ、毒性、副作用を生じうるため、同様に本発明では用いない。
【0060】
本発明で用いるチオール基反応性官能基には、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド、ヨードプロピオネート、ブロモプロピオネート、クロロプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ブロモプロピオンアミド、クロロプロピオンアミド等が含まれる。ヨードプロピオネート、ブロモプロピオネート、クロロプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ブロモプロピオンアミド、クロロプロピオンアミド等の官能基も、チオール基との反応時に副生成物を生じるものの、これらの副生成物はハロゲノ酸であり、生理条件下で塩素イオン、臭素イオンまたはヨウ素イオンを形成するため、良好な生体適合性を有する。ここで、ハロプロピオネートは、対応するハロプロピオンアミドよりも良好なチオール基反応活性を有するが、安定性にやや欠ける。ヨードプロピオネート(またはヨードプロピオンアミド)は、対応するブロモ基よりも良好なチオール基反応活性を有するが、安定性にやや欠ける。クロロプロピオネート(またはクロロプロピオンアミド)のチオール基反応活性は最も低いものの、安定性は良好である。
【0061】
本発明の好ましいチオール基反応性官能基は、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド等である。これらの官能基は良好な生体適合性を有するばかりでなく、チオール基との反応時に副生成物を生じることもない。本発明の特に好ましいチオール基反応性官能基は、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド等であり、これらは良好な生体適合性を有するばかりでなく、安定性もN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステルより大幅に向上している。
【0062】
本発明に用いられる一つ以上のチオール基反応性官能基を含む成分Bは、通常、前述のチオール基反応性官能基を少なくとも二つ含むポリエチレングリコール(PEG)の誘導体であり、二分岐、三分岐、四分岐、八分岐またはさらに多分岐のポリエチレングリコール誘導体であって、以下のような典型的な化学構造を有する。
【0063】
【化10】

【0064】
式中、F、F、F、F、F、F、FおよびFは、前述のマレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド、ヨードプロピオネート、ブロモプロピオネート、クロロプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ブロモプロピオンアミド、クロロプロピオンアミド等のチオール基反応性官能基であり、これらは全て同じ、一部同じ、または全て異なる化学構造を有しうる。PEGとは、分子量が100〜1,000,000で、CHCHOの繰返し単位を有するセグメントである。F、F、F、F、F、F、FおよびFは、好ましくはマレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド等の官能基であり、特に好ましくは、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド等の官能基である。
【0065】
二分岐のポリエチレングリコールを例に、本発明に用いられる一般的な架橋剤には、ポリエチレングリコールジマレイミド、ポリエチレングリコールジビニルスルホン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジハロプロピオネート、ポリエチレングリコールジハロプロピオンアミド等が含まれる。化学構造式を以下に示す。
【0066】
【化11】

【0067】
上記本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法のプロセスにおける第一ステップは、特定の架橋条件を有する反応性混合物溶液の調製である。ここでの特定の架橋条件としては、成分Aおよび成分Bの性質を調節することにより、反応性混合物溶液のpH値を弱アルカリ性またはアルカリ性にすることが肝要である。反応性混合物溶液のpH値は、好ましくは8.0〜12.0であり、特に好ましくは8.5〜10.5である。
【0068】
前述の通り、本発明で選択される成分Aおよび成分Bはいずれも良好な生体適合性を有するとともに、チオール基とチオール基反応性官能基との間の化学架橋反応も良好な生体適合性を有する。このことは本発明の生体適合性が良好であるための確実な根拠となっている。さらに、高速ゲル化を実現するために、成分Aおよび成分Bの濃度、溶液のpH値、温度等のその他の重要なパラメータを最適化する必要がある。
【0069】
本発明で用いられる温度は、通常は0〜50℃である。化学架橋反応温度を高めると、ゲル化の速度を加速することができる。実際の使用過程では、好ましい温度は通常は10〜40℃の間である。本発明で最も常用される温度は室温であり、通常は25℃前後である。
【0070】
Wallaceらにより開示された高速ゲル化ゲルの調製方法において、高速ゲル化を実現するためには、使用される多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体溶液のpH値は強アルカリ性(通常、pH値は9.6)でなければならず、濃度は10% w/v以上でなければならない(特許文献1)。しかしながら、チオール基は、アルカリ性、特に強アルカリ性の条件下では不安定であり、ジスルフィド結合を形成して反応活性を失いやすい。そのため、多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体は用時調製されなければならず、空気に触れると活性を失いやすいため、使用上不便である。本発明では、使用の便宜上、成分A溶液は用時調製が不要であり、通常は、生体適合性高分子チオール化誘導体はまず成分A溶液として調製し、滅菌後に低温で凍結保存し、使用前に解凍すればよい。Wallaceら(特許文献1)により用いられる多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体(分子量10,000、最多で12個のチオール基/10,000分子量セグメント)とは異なり、本発明に用いられる生体適合性高分子チオール化誘導体は、通常、より高い分子量(通常は10,000〜1,000,000の間)とより多くのチオール基含有量(100個以上のチオール基/10,000分子量セグメント)とを有する(Shu et al,Biomacromolecules,3,1304,2002)。従って、本発明における成分Aは強アルカリ性の条件下では非常に不安定であり、Wallaceらにより開示された方法(特許文献1)によって高速ゲル化を実現することはできない。
【0071】
チオール化誘導体が強アルカリ性の条件下で不安定であるという欠陥を克服するために、本発明で用いられる成分Aの溶液のpH値は通常8.5以下、好ましくはpH値≦7.0であり、この場合に溶液は一定の安定性を有する。より好ましいpH値の範囲は2.5〜7.0であって、この場合に溶液は良好な安定性を有する。零下30℃では一年以上保存でき、室温では、溶液が空気に触れた場合には2時間以上保存でき、空気に触れなければ5時間以上保存できる。特に好ましいpH値の範囲は3.5〜6.0であって、この条件下ではチオール基は安定しており、また、酸による生体適合性高分子チオール基誘導体の加水分解作用を基本的に回避している。この特に好ましい条件下で、本発明に用いられる成分Aの安定性はWallaceら(特許文献1)により用いられた不活性化しやすい多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体溶液と比較して実質的に向上しており、零下30℃以下では二年以上保存でき、室温で溶液が空気に触れた場合でも24時間以上保存できる。
【0072】
本発明では、成分Aは上記の条件下で長期保存と使用前の良好な安定性が保証されている。成分Aと成分Bを混合する前に、上記成分A中にアルカリ性溶液またはアルカリ性物質を加えて成分AのpH値を高め(8.5より大きくする等)、即座に成分Bと混合してハイドロゲルを調製してもよい。
【0073】
本発明では、成分A中の生体適合性チオール基変性高分子の濃度は通常8.0% w/v以下であり、好ましい濃度は0.5〜5.0% w/v、特に好ましい濃度は0.8〜3.0% w/vである。Wallaceらにより開示された高速ゲル化ゲルの調製方法において、高速ゲル化を実現するためには、使用される多分岐ポリエチレングリコールチオール基誘導体溶液の濃度は10% w/v以上(通常は20% w/v)でなければならない(特許文献1)。成分Aの濃度が特に好ましい濃度である場合に、本発明における生体適合性チオール基変性高分子の用量を80〜90%減らすことができ、コストを大幅に削減している。
【0074】
本発明では、成分Aは水を溶剤とすることができるが、塩化ナトリウム、緩衝塩およびその他の成分を加えてもよい。通常は、低濃度の緩衝塩(例えば、弱酸性の0.0005mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液)を用いて溶液のpH値を安定させる。塩化ナトリウム等は溶液の浸透圧を調節することができる。
【0075】
本発明では、用いられる生体適合性チオール基反応性架橋剤は、固体状態の場合に低温で安定しており、通常、零下30℃以下で長期保存(二年以上)できる。また、これらは溶解しやすいため、成分Bは用時調製することが可能である。成分BのpH値は成分AのpH値より大きい。成分BのpH値は通常8.0より大きく、通常は≧8.5である。室温での安定時間は一般に2時間以上である。例えば、本発明に用いられるポリエチレングリコールジアクリレート溶液(pH9.6)を室温で4時間保存した場合、ゲル化時間には影響しない。また、同様の条件下で、本発明に用いられる、ポリエチレングリコールジメタクリレート溶液、ポリエチレングリコールジアクリルアミド溶液、ポリエチレングリコールジメタクリルアミド溶液、の順に安定性が向上し、いずれもポリエチレングリコールジアクリレート溶液よりも安定している。本発明では、成分BのpH値は、好ましくは8.0〜12.0であり、特に好ましくは8.5〜10.5である。
【0076】
本発明に用いられる成分Bは大きな利点を有する。Wallaceらにより開示された高速ゲル化ゲルの調製方法では、用いられる架橋剤(多分岐ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体)は、酸性およびアルカリ性のいずれの条件下でも不安定であり、0.0005mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液に溶解して弱酸性溶液(pH6.0)を得なければならない。しかしながら、この最適な条件でも、溶液の安定性は劣っており、用時調製しなければならず、また、一時間以内に使い終えなければならない。
【0077】
本発明では、成分B中の生体適合性チオール基反応性架橋剤の濃度は通常10% w/v以下であり、好ましい濃度は0.5〜8.0% w/v、特に好ましい濃度は0.8〜4.0% w/vである。それに対し、Wallaceらにより開示された方法では、高速ゲル化を実現するためには、使用される架橋剤(多分岐ポリエチレングリコールスクシンイミド活性誘導体)溶液の濃度は10% w/v以上(通常は20% w/v)でなければならない(特許文献1)。本発明では、成分Bの濃度が特に好ましい濃度である場合に、架橋剤の用量を60〜96%減らすことができ、コストを大幅に削減している。
【0078】
本発明では、成分Bは通常は溶剤としてアルカリ性の緩衝溶液を用いるが、塩化ナトリウムおよび他の成分を加えて溶液の浸透圧を調節してもよい。用いられる緩衝溶液は、通常、0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0〜10.0)(0.3mol/Lのリン酸二水素ナトリウム溶液に、0.3mol/Lの炭酸ナトリウム溶液を所定のpH値となるまで加える)等のように濃度が高い。成分B中の生体適合性架橋剤は、通常、溶液のpHを変えないため、緩衝溶液のpHが成分Bの溶液のpH値を決定している。
【0079】
成分Aと成分Bとを相互に混合すると、特定の架橋条件を有する反応性混合物が形成される。室温条件下では、基本的に反応性混合物溶液のpH値が化学架橋速度およびゲル化速度を決定しており、pH値が向上すると、化学架橋およびゲル化の過程が加速される。反応性混合物溶液のpH値は、通常は7.0以上であり、好ましくは8.0〜12.0、特に好ましくは8.5〜10.5である。
【0080】
反応性混合物のpH値は、成分Aと成分Bとの混合時に決定される。あるいは、酸又はアルカリ溶液を加えて調節してもよい。反応性混合物溶液のpH値は、初期の成分Aおよび成分Bの性質(溶剤の類型、緩衝溶液の濃度、pH値等)により決定される。成分Aの溶液および成分Bの溶液は、異なる濃度のpH値緩衝物質を含んでもよく、pH値緩衝物質を含まなくてもよい。またその他の極性及び親水性物質を添加してもよい。初期の成分Aの溶液および成分Bの溶液の性質を調節すれば、反応性混合物溶液のpHを調節して特定のpH値とすることができる。例えば、成分AがpH6.0の水溶液であり、成分BがpH9.6の0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液である場合に、成分Aと成分Bとの反応性混合物溶液はアルカリ性であり、pH値は通常、9.0〜9.6の間である。成分Bの溶剤のpH値を高くすれば、反応性混合物溶液のpH値を高くすることができ、逆であれば反応性混合物溶液のpH値は低くなる。
【0081】
本発明ではさらに、反応性混合物溶液中に、混合前の成分Aまたは成分Bに、または成分Aと成分Bとの混合時に、所定濃度の酸又はアルカリ溶液(0.2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液等)を加え、反応性混合溶液のpHを調節して特定の値とすることができ、これにより適切なゲル化速度とすることができる。しかしながら、通常の状況ではこのステップは不要であり、初期の成分Aの溶液および成分Bの溶液の性質を調節すれば本発明を実現することができる。
【0082】
本発明では、生体適合性高分子チオール化誘導体および生体適合性チオール基反応性架橋剤の使用量が少ない。反応性混合物中の両者の濃度の合計は一般に6% w/v未満であり、通常は0.8〜3.0% w/vである。
【0083】
適切な生体適合性チオール化変性高分子および生体適合性チオール基反応性架橋剤を選択し、成分Aの溶液および成分Bの溶液の性質を調節し、酸アルカリを選択的に加えて反応性混合物溶液のpH値をさらに調節すれば、数秒間から数分間(ひいては数十分間)という時間範囲内でゲル化時間を調節することができる。このため、様々な医学的用途に適している。例えば、本発明は、高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤に簡便に用いることができ、術後の癒着合併症の治療に用いることができ、一分間未満というゲル化時間を実現する。
【0084】
本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の他のプロセスは、以下の三つの工程を含む:
(1)成分Aと成分Bとを相互に混合して、特定の架橋条件を有する反応性混合物を形成するステップ。成分Aは生体適合性高分子チオール化誘導体を含む溶液であり、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤である。成分Bは固体または溶液である。生体適合性高分子チオール化誘導体は、生体適合性高分子がチオール化変性されて調製される。成分Aの濃度は8% w/v未満であり、成分AのpH値は8.5未満である。成分A中のチオール基と成分B中のチオール基反応性官能基とは化学架橋反応を生じる。上記特定の架橋条件とは、反応性混合物溶液のpH値が7.0以下であることである。
(2)反応性混合物溶液のpH値を特定のアルカリ性の範囲に調節するステップ。
(3)反応性混合物を反応させてハイドロゲルを形成するステップ。
【0085】
この方法の第一ステップは、良好な安定性を有する反応性混合物溶液を調製することであり、反応性混合物溶液のpH値を弱酸性に制御することが肝要である。この方法の前述の方法との相違は、生体適合性架橋剤(成分B)が、固体でも、弱アルカリ性、中性または弱酸性の液体でもよく、かつ、成分Aと成分Bとを相互に混合して形成される反応性混合物溶液のpH値が7.0以下であることである。より好ましいpH値の範囲は2.5〜6.0であり、このとき、反応性混合物溶液は良好な安定性を有し、室温で空気に接触した状態で1時間以上保存することができる。特に好ましいpH値の範囲は3.5〜5.0であり、このとき、反応性混合物溶液は良好な安定性を有し、室温で空気に接触した状態で4時間以上保存することができる。
【0086】
この方法の第二ステップは、良好な安定性を有する反応性混合物溶液中にアルカリまたはアルカリ性緩衝溶液(0.2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液/水酸化カリウム溶液、pH値9.0〜12.0のリン酸塩や炭酸塩の緩衝液等)を加えて溶液のpH値を弱アルカリ性またはアルカリ性に調節することであり、好ましいpH値は8.0〜12.0、特に好ましい溶液のpH値は8.5〜10.5である。
【0087】
この方法の第三ステップは、上記の条件の下で反応性混合物の成分Aと成分Bとを反応させてハイドロゲルを速やかに形成することである。この方法で用いられる生体適合性高分子チオール化誘導体および生体適合性チオール基反応性架橋剤は前述の方法と同様であり、この方法のその他の条件は前述の方法と同様である。
【0088】
本発明では、適切な生体適合性チオール化変性高分子および生体適合性チオール基反応性架橋剤を選択し、成分Aおよび成分Bの性質を調節し、反応性混合物溶液のpH値を特定の値に調節すれば、数秒間から数分間(ひいては数十分間)という時間範囲内でゲル化時間を調節することができる。このため、様々な医学的用途に適している。例えば、本発明は、高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤に簡便に用いることができ、術後の癒着合併症の治療に用いることができ、一分間未満というゲル化時間を実現する。
【0089】
本発明に用いられる成分A中の生体適合性チオール化変性高分子は、通常、高い分子量とチオール基含有量を有し、分子量は、通常、10,000〜1,000,000の間であり、チオール基含有量は100個以上のチオール基/10,000分子量セグメントである。つまり、分子量50,000の生体適合性チオール化変性高分子ごとに500個のチオール基を有する。開示されたポリエチレングリコールチオール化誘導体およびシステインを含むオリゴペプチド等(特許文献1;Gravett et al,US2004/0225077A1;Qiu et al,Biomaterials,24,11,2003;Hubbell et al,US2003/0220245A1;Lutolf et al,Biomacromolecules,4,713,2003)と比較して、本発明に用いられる生体適合性チオール化変性高分子のチオール基含有量は8倍以上に向上しており、分子量も大幅に向上している。従って、同じ条件の下では、本発明に用いられる生体適合性チオール化変性高分子の化学架橋によりゲルを形成する能力は大幅に向上しており、ゲルの性能(機械的強度、安定性、透過性等)も大幅に向上している。上記のポリエチレングリコールチオール化誘導体およびシステイン含有オリゴペプチド等についての報告では、高い濃度(通常は10% w/v以上)の場合にはじめて高速架橋ゲル化を実現でき、その溶液は弱アルカリ性であるか、または必ずアルカリ性でなければならず、安定性に劣り、用時調製が必要で、空気に触れてはならない。また、用いられる架橋剤の濃度も高く(通常は10% w/v以上)、調製されるハイドロゲル中の含水量は一般に90%以下で、通常は80%前後である。これとは逆に、本発明では、生体適合性チオール化変性高分子および生体適合性チオール基反応性架橋剤の用量は少量で高速ゲル化を実現でき、調製されるハイドロゲル中の含水量は一般に94%以上で、通常は97%以上であり、より良好な透過性および生体適合性を有する。また、本発明に用いられる成分A中の生体適合性チオール化変性高分子は、通常は細胞間質物質(ヒアルロン酸等)により調製され、創傷の治癒を促進することが可能な点、組織特異的な修復を誘導・誘発することが可能な点等、細胞間質物質に特有の生物学的機能を保っている。
【0090】
本発明に用いられる成分A中の生体適合性チオール化変性高分子は、強アルカリ性の条件下では非常に不安定であり、Wallaceらにより開示された方法(特許文献1)によって高速ゲル化を実現することはできない。例えば、ヒアルロン酸チオール化誘導体は、強アルカリ性の条件下では極めてジスルフィド結合を形成しやすく、活性を失う(Shu et al, Bio macromolecules,3,1304,2002)。一般に、本発明における成分AのpH値が8.5より大きい場合には、溶液は不安定で使用上不便であり、実用的な価値を失う。従って、本発明では、通常、成分Aを中性に近い条件または弱酸性の条件下で保存することにより、成分Aの長期保存の安定性および使用時の安定性を著しく高めている。しかしながら一方で、高速ゲル化の実現は反応性混合物が高いpH値(強アルカリ性)を有することにも依存している。従って、本発明の一つのプロセスでは、成分Bは通常強いアルカリ性を有し、成分BのpH値が成分AのpH値より大きいことが必須となる。このような成分Aと成分Bとの反応性混合物こそが、高いpH値(強アルカリ性)を有することができる。同時に、本発明で用いられる成分B中の生体適合性チオール基反応性架橋剤は、各種条件(強アルカリ性を含む)下で良好な安定性を有していなければならない。成分Aの溶液および成分Bの溶液の性質を調節し、および酸アルカリを選択的に加えて反応性混合物溶液のpH値をさらに調節すれば、本発明が実現される。
【0091】
本発明の他のプロセスでは、成分Aの溶液および成分Bの溶液の性質を調節して成分Aと成分Bとの反応性混合物を弱酸性条件におくことにより、成分Aおよび成分Bの長期保存の安定性および使用時の安定性を保証することができるとともに、反応性混合物の使用時の安定性を著しく高めることができ、その後アルカリを加えて反応性混合物溶液のpH値をさらに調節して強アルカリ性とすることにより、高速ゲル化を実現する。
【0092】
現在、すでに一部の報告により、ポリエチレングリコールジアクリレート(またはポリエチレングリコールジビニルスルホン)架橋による、ヒアルロン酸チオール化誘導体、コンドロイチン硫酸チオール化誘導体、およびゼラチンチオール化誘導体について開示されている。用いられる方法はいずれも、ポリエチレングリコールジアクリレート(またはポリエチレングリコールジビニルスルホン)とチオール化誘導体とをそれぞれ緩衝溶液に溶解し、二種類の溶液を中性付近の同程度のpH値(通常は7.4)になるようにそれぞれ調節して、その後二種類の溶液を混合してハイドロゲルを調製するというものである。しかしながら、このような方法では、高速ゲル化の実現は困難である。二種類の溶液のpH値を同時に高めれば(例えば、8.5以上)、ゲル化過程を加速することはできるものの、この場合チオール化誘導体溶液は不安定で、室温で、仮に空気に触れない条件下であっても、数時間(通常は約0.5〜4時間)後には活性を失う。長期保存が困難で大規模工業的生産が難しく、使用上も不便である。例えば、Liuら(Liu et al,Fertility & Sterility, 87,940, 2007)は、Carbylan-SX(ポリエチレングリコールジアクリレート架橋による変性ヒアルロン酸チオール化誘導体)ハイドロゲルの噴霧剤を術後の癒着の防止に用いることを報告した。用いられる方法は、ポリエチレングリコールジアクリレートと変性ヒアルロン酸チオール化誘導体をそれぞれ緩衝溶液に溶解し、二種類の溶液のpH値を7.4にそれぞれ調節し、ろ過滅菌した後に二種類の溶液を混合する。約5分間に混合溶液の粘度は徐々に高まり、噴霧装置を介して傷口組織の表面に噴霧されるというものである。しかしながら、この方法には、ゲル化時間が長くかつゲル化の過程が制御しにくい、噴霧のタイミングが把握しにくいといった多くの著しい欠陥が存在する。噴霧は、混合溶液の粘度は高いが流動性を失ってはいない、という短い時間範囲内に実現しなければならず、混合溶液の粘度が不十分であれば、噴霧後に溶液が傷口組織の表面から流失しやすく、混合溶液の粘度が大きすぎれば噴霧が難しく、ひいては噴霧不能となる。Connorsらも上記と同様のCarbylan-SXおよびその調製方法を術後の心膜癒着の防止に用いているが(Connors et al,J Surg Res, 140,237,2007)、同様に上記の欠陥が存在する。
【0093】
また、本発明はさらに、新規の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの噴霧剤の調製方法を提供する。これは、前述の本発明の高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法を高速ゲル化ハイドロゲルの噴霧剤に応用した方法である。
【0094】
当該方法においては、複数成分の混合反応に適用される複数種類の噴霧装置を用いることが可能である。常用される噴霧装置には、Spray Set for TISSEEL Fibrin Sealant (Baxter AG,米国)や、FibriJet (Micromedics, inc. 米国)等が含まれる。FibriJetシリーズには、通常噴霧化装置と気体補助式噴霧化装置が含まれる。FibriJetシリーズの通常噴霧化装置は、低粘度溶液に適し、ノズルが詰まりやすく、使用上不便である。FibriJetシリーズの気体補助式霧化装置の構成は図1に模式的に示す通りであり、シリンジ2A、2Bと、シリンジプランジャクリップ1と、シリンジホルダ3と、4ウェイアプリケータ4と、圧縮気体吸気管5とを含む。シリンジ2A、2Bのそれぞれは二つの成分を装入するために用いられ、4ウェイアプリケータ4を介してそれぞれ押し出された後に噴霧化、混合され(または、押し出され、混合された後に噴霧化され)、物体表面(例えば、創傷表面)に塗布された後、ゲルを形成する。4ウェイアプリケータ4と接続するノズルを加えて、噴霧化効果を向上させてもよい。
【0095】
FibriJetシリーズの気体補助式噴霧化装置の主要構成要件は、4ウェイアプリケータ(図2)である。二つの吸入口のそれぞれは二つのシリンジ2A、2Bに接続され、二つの成分を装入するために用いられる。一つの吸入口(圧縮気体吸気管5)は圧縮気体(空気または他の気体)に接続される。二つの成分のそれぞれは排出口に押し出され、圧縮気体の作用下で噴霧化、混合され、物体表面に塗布された後、ゲルを形成する。使用される気体の圧力が高いほど、噴霧化効果は良好であるが、気体圧力が高すぎると人体を傷つけるおそれがある。通常、使用される気体の圧力の範囲は1〜10気圧の間である。気体圧力が低く、1気圧に近い場合には、噴霧化が不十分となり、大きな液体粒子を形成して、混合が十分に均一にならない。気体圧力を1.7気圧前後に高めれば、ごく微小な液体に噴霧化することができ、混合が均一になる。本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の一のプロセスにおける成分Aおよび成分Bのそれぞれが二つのシリンジに装入されて、高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤が調製される。本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の他のプロセスによって噴霧を実現してもよい。この場合、成分Aと成分Bとを混合して形成された反応性混合物を一つのシリンジに装入し、アルカリまたはアルカリ性緩衝溶液を第二のシリンジに装入した後に、両者をそれぞれ排出口から押し出し、圧力気体の作用下で噴霧化、混合すれば、高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤を調製することができる。
【0096】
以下の実施例により、当業者は本発明をより全面的に理解することができるが、いかなる方式によっても本発明を限定するものではない。
【0097】
実施例1 チオール化変性ヒアルロン酸(HA−DTPH)の調製
Shuら(Shu et al, Biomacromolecules,3,1304,2002)により報告された方法を用いて調製した。
【0098】
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量約150万)20gを2Lの蒸留水中に溶解し、濃塩酸を加えて溶液のpH値を約0.5に調節した後、37℃、150回転/分の回転培養器で24時間切断させた。透析精製し凍結乾燥して、低分子ヒアルロン酸が得られた(重量平均分子量24.6万、数平均分子量12万)。
【0099】
上記の低分子ヒアルロン酸20gを2Lの蒸留水に溶解した。上記の溶液中にジチオジプロピルジヒドラジド(ShuらがBiomacromolecules,3,1304,2002において開示した方法により調製)23.8gを加え、攪拌して溶解した。そして、0.1mol/Lの塩酸を用いて溶液のpH値が4.75になるまで調節し、1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Aldrich,米国)19.2gを加え、マグネチックスターラーで攪拌した。上記の溶液中に適量の0.1mol/Lの塩酸を断続的に添加して、溶液のpH値を4.75に維持した。1.0mol/Lの水酸化ナトリウム溶液をpH7.0になるまで加えて反応を終了させた。その後、ジチオスレイトール(Diagnostic Chemical Limited,米国)100gおよび1.0mol/Lの水酸化ナトリウム溶液適量を加えて攪拌した。溶液のpH値を8.5に調整した。室温でマグネチックスターラーで攪拌し、24時間反応させた。その後、上記の溶液中に1mol/Lの塩酸をpHが約3.5になるまで加えた。上記の溶液を透析管(カットオフ分子量3500,Sigma,米国)に装入し、大量の0.0003mol/Lの塩酸と0.1mol/Lの塩化ナトリウム溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら5日間透析した。その後さらに、大量の0.0003mol/Lの塩酸溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら3日間透析した。最後に、透析管内の溶液を収集し、凍結乾燥して白色綿状固体(HA−DTPH)が得られた。
【0100】
上記のHA−DTPHを蒸留水中に溶解して1.0〜2.5% w/v溶液を得て、溶液のpH値を2.0〜7.0に調節し、ろ過して除菌した後、凍結保存(通常は零下20℃以下)した。あるいは、上記の調製過程において、透析精製後の溶液を再度透析カラムに通して適切な濃度(通常は1.0〜2.5% w/v)になるまで脱水濃縮し、溶液のpH値を2.0〜7.0に調節し、ろ過滅菌した後、凍結保存(通常は零下20℃以下)した。
【0101】
プロトン核磁気共鳴検査(H‐NMR)(溶剤はDO)によれば、HA−DTPHの側鎖チオール基の置換度は42/100二糖繰返し単位であった。分子量およびその分布(GPCにより測定)は、重量平均分子量が13.6万、数平均分子量が6.1万であった。
【0102】
実施例2 チオール基反応性生体適合性架橋剤の調製
ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリルアミドおよびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリルアミドを、対応するポリエチレングリコール(分子量3,400または10,000,Sigma-Aldrich,米国)およびポリエチレングリコールジアミン(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)により調製し、多分岐(四分岐または八分岐)のポリエチレングリコールアクリレートおよびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを、対応する多分岐ポリエチレングリコール(分子量10,000)から調製した。調製の一般的な過程は、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコールジアミンを、トリエチルアミンの作用下でアクリロイルクロリドまたはメタアクリロイルクロリドと反応させ、精製し、反応物を得る。詳細な過程についてはShu et al, Biomaterials,25,1339,2004を参照。
【0103】
対応するアクリロイルクロリドに代えてハロアシルハライド(ヨードプロピオニルクロリド、ブロモプロピオニルクロリド等)を用いれば、上記と同様の過程を用いて、ポリエチレングリコールジヨードプロピオネート、ポリエチレングリコールジブロモプロピオネート、ポリエチレングリコールジクロロプロピオネート、ポリエチレングリコールジヨードプロピオンアミド、ポリエチレングリコールジブロモプロピオンアミド、ポリエチレングリコールジクロロプロピオンアミド等のチオール基反応性架橋剤を調製することができる。
【0104】
実施例3 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して2.0% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.4であり、混合溶液は約17秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0105】
実施例4 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH6.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.15mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して1.5% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.3であり、混合溶液は約27秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0106】
実施例5 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH3.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのホウ酸/水酸化ナトリウム緩衝液に溶解して1.5% w/vの溶液(pH11.0)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は10.5より大きく、混合溶液が流動性を失ってゲルを形成するまでの時間は10秒未満であった。
【0107】
実施例6 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.0% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジビニルスルホン(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して1.0% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.4であり、混合溶液は約48秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0108】
実施例7 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.5% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジビニルスルホン(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのリン酸塩緩衝液に溶解して2.0% w/vの溶液(pH7.4)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約7.2であり、混合溶液は約5分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0109】
実施例8 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH6.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジブロモプロピオネート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.15mol/Lのリン酸塩緩衝液に溶解して2.0% w/vの溶液(pH7.4)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約7.2であり、混合溶液は約5分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0110】
実施例9 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH7.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジビニルスルホン(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.15mol/Lのリン酸塩緩衝液に溶解して2.0% w/vの溶液(pH8.2)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約8.0であり、混合溶液は約2分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0111】
実施例10 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.0005mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に溶解して8.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、ポリエチレングリコールジアクリレート溶液(1ml)を速やかにHA−DTPH溶液(4ml)に加えた。反応性混合物のpH値は約5.4であった。その後、0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)5mlを加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.3であり、混合溶液は約21秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0112】
実施例11 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH3.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.001mol/Lの塩酸溶液に溶解して8.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、ポリエチレングリコールジアクリレート溶液(1ml)を速やかにHA−DTPH溶液(4ml)に加えた。反応性混合物のpH値は約3.0であった。その後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、上記反応性混合物のpH値を7.2に調節した。混合溶液は約6分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0113】
実施例12 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH3.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.001mol/Lの塩酸溶液に溶解して8.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、ポリエチレングリコールジアクリレート溶液(1ml)を速やかにHA−DTPH溶液(4ml)に加えた。反応性混合物のpH値は約3.0であった。その後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、上記反応性混合物のpH値を8.0に調節した。混合溶液は約2分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0114】
実施例13 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.0% w/v,pH4.0)を室温で解凍した。実施例2で調製したポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量10,000)を0.0001mol/Lの塩酸溶液に溶解して8.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート溶液(1ml)を速やかにHA−DTPH溶液(4ml)に加えた。反応性混合物のpH値は約4.0であった。その後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、上記反応性混合物のpH値を約11.3に調節した。混合溶液は約39秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0115】
実施例14 生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH4.0)を室温で解凍した。その後、上記の溶液5ml中にポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)75mgを加え、手動で溶解して混合溶液を得た。マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)5mlを上記の混合溶液に速やかに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.3であり、溶液は37秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0116】
実施例15 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して1.5% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。上記二種類の溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、1.5気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0117】
実施例16 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH4.0)を室温で解凍した。その後、上記の溶液5ml中にポリエチレングリコールジアクリレート(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)75mgを加え、手動で溶解して混合溶液を得た。上記の混合溶液と0.3mol/Lの炭酸塩緩衝液(pH10.5)を5ml取ってそれぞれFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、約3気圧の空気の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0118】
実施例17 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。ポリエチレングリコールジビニルスルホン(分子量3400,Nektar Therapeutics,米国)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して1.5% w/vの溶液(pH10.0)を得て、ろ過滅菌した。上記二種類の溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、1.5気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0119】
実施例18 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(1.5% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。実施例1で調製したポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(分子量3,400)を0.3mol/Lのリン酸二水素ナトリウム/水酸化ナトリウム緩衝液に溶解して1.5% w/vの溶液(pH12.0)を得て、ろ過滅菌した。上記二種類の溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、5気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0120】
実施例19 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例1で調製したHA−DTPH溶液(2.5% w/v,pH5.0)を室温で解凍した。実施例2で調製したポリエチレングリコールジアクリルアミド(分子量3,400)を0.3mol/Lのリン酸二水素ナトリウム/水酸化ナトリウム緩衝液に溶解して2.5% w/vの溶液(pH12.0)を得て、ろ過滅菌した。上記二種類の溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、5気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0121】
実施例20 ジコハク酸ジアシルシスタミノジヒドラジド(略称DSCDH)の合成
シスタミノジヒドロクロリド塩(Aldrich,米国)100gを1500mlの蒸留水に溶解し、清澄で透明な溶液を得た。上記の溶液中に、溶液のpH値が10になるまで4mol/Lの水酸化ナトリウムを加えた。その後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、無水コハク酸(Aldrich,米国)133gを加えるとともに、4mol/Lの水酸化ナトリウムを断続的に添加して、溶液のpH値を7〜10に維持した。室温で2時間反応させた後、溶液中に6mol/Lの塩酸を加えた。白色沈殿産物をろ過して収集し、蒸留水2000mlを用いて2回洗浄した。その後、真空減圧乾燥し、白色固形物を得てジコハク酸ジアシルシスタミノジアシド(略称DSC)約150gを合成した。収率は90%を超えた。
【0122】
250mlの三口フラスコ中にDSC100gを加え、無水アルコール1200mlと濃塩酸100滴を加えた。窒素保護下で2時間還流した後、200ml未満になるまで減圧濃縮した。残余の溶液を2500mlの分液漏斗に移した後、酢酸エチル600mlを加えた。有機相を水500mlを用いて3回洗浄し、水相を除いて有機相を減圧蒸留して、白色蝋状の固形物であるジコハク酸ジアシルシスタミノジエチルエステル(略称DSCDE)約93gが得られた。収率は80%を超えた。
【0123】
150mlのビーカー中にDSCDE10gとアルコール80mlを加えた。室温で攪拌して溶解後、さらに抱水ヒドラジン(Aldrich,米国)10mlを加え、一晩反応させた。白色沈殿産物をろ過して収集し、その後40mlのアルコールを用いて4回エリューションした。室温通風炉内で有機溶剤を揮発させた後、真空減圧乾燥させて、白色固形物のDSCDH約8gを得た。調製率は75%を超えた。
【0124】
実施例21 チオール化変性ヒアルロン酸(HA−DSCDH)の調製
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62万〜115万,NovaMatrix FMC BIOPOLYMER,米国)10gを蒸留水2000ml中に溶解し、清澄で透明な溶液を得た。上記の溶液中に実施例20で調製したDSCDH9.5gを加え、攪拌して溶解した。そして、1mol/Lの塩酸を用いて溶液のpH値が4.75になるまで調節し、1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Aldrich,米国)2.88gを加え、マグネチックスターラーで攪拌した。上記の溶液に適量の0.1mol/Lの塩酸を断続的に添加して、溶液のpH値を4.75に維持した。溶液の粘度は増加し続け、10分間前後でゲルを形成した。ゲルの形成後、室温で静置して2時間反応させた。その後、ジチオスレイトール(Diagnostic Chemical Limited,米国)100gおよび1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液少量を加えて攪拌した。ゲルを徐々に溶解させるとともに、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を断続的に添加して溶液のpH値を8.5に維持した。ゲルが全て溶解した後、室温でマグネチックスターラーで攪拌して24時間反応させた。その後、上記の溶液中に6mol/Lの塩酸をpHが約3.0になるまで加えた。上記の溶液を透析管(カットオフ分子量3500,Sigma,米国)に装入し、20Lの0.001mol/Lの塩酸と0.3mol/Lの塩化ナトリウム溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら5日間透析した。その後さらに、20Lの0.001mol/Lの塩酸溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら3日間透析した。最後に、透析管内の溶液を透析カラムに通して所定の濃度(0.8〜1.5% w/v)になるまで脱水濃縮し、溶液のpH値を3.0〜8.5に調節し、ろ過滅菌した後、凍結保存(通常は零下20℃以下)した。
【0125】
ShuらがBiomacromolecules,3,1304,2002において報告した、改良Ellman法を用いてHA−DSCDHの活性チオール基含有量を測定したところ、39.1チオール基/100ヒアルロン酸二糖繰返し単位であり、プロトン核磁気共鳴検査の結果と基本的に適合した。
【0126】
実施例22 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(0.8% w/v,pH値は4.0)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lのリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して1.0% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.3であり、反応性混合溶液は約47秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0127】
実施例23 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(0.5% w/v,pH値は7.0)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lのリン酸二水素ナトリウム/水酸化ナトリウム緩衝溶液に溶解して0.8% w/vの溶液(pH12.0)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約12.0であり、反応性混合溶液は約17秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0128】
実施例24 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は3.5)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.15mol/Lのリン酸塩/炭酸塩緩衝溶液に溶解して1.2% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.2であり、反応性混合溶液は約29秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0129】
実施例25 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は7.0)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.30mol/Lの炭酸塩緩衝溶液に溶解して0.5% w/vの溶液(pH8.5)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約8.5であり、反応性混合溶液は約3分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0130】
実施例26 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は7.0)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.30mol/Lのリン酸塩緩衝溶液に溶解して1.2% w/vの溶液(pH8.0)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約8.0であり、反応性混合溶液は約4分後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0131】
実施例27 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は2.5)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lのリン酸塩/炭酸塩緩衝溶液に溶解して1.0% w/vの溶液(pH9.6)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合物のpH値は約9.2であり、反応性混合溶液は約32秒後に流動性を失ってゲルを形成した。
【0132】
実施例28 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は2.5)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)をpH2.5の塩酸溶液に溶解して1.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加えた。反応性混合物のpH値は約2.5であった。マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、反応性混合物のpH値を10.5に調節した。反応性混合溶液は速やかに流動性を失ってゲルを形成した(10秒未満)。
【0133】
実施例29 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.2% w/v,pH値は3.5)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)をpH3.5の塩酸溶液に溶解して1.0% w/vの溶液を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、HA−DSCDH溶液5mlを速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液5mlに加えた。反応性混合物のpH値は約3.5であった。マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、反応性混合物のpH値を12に調節した。反応性混合溶液は数秒以内に即座に流動性を失ってゲルを形成した。
【0134】
実施例30 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例21で調製したHA−DSCDH溶液(1.0% w/v,pH値は8.0)を室温で解凍した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lの炭酸塩緩衝液に溶解して1.0% w/vの溶液(pH10.5)を得て、ろ過滅菌した。HA−DSCDH溶液および四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、4気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0135】
実施例31 チオール化変性コンドロイチン硫酸(CS−DSCDH)の合成および特性解析
コンドロイチン硫酸(c型,サメ軟骨由来,Sigma, 米国)1gを蒸留水100ml中に溶解し、清澄で透明な溶液を得た。上記の溶液中に実施例20で調製したDSCDH0.704gを加え、攪拌して溶解した。そして、0.1mol/Lの塩酸を用いて溶液のpH値が4.75になるまで調節し、1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Aldrich,米国)0.192gを加え、マグネチックスターラーで攪拌した。上記の溶液中に適量の0.1mol/Lの塩酸を断続的に添加して、溶液のpH値を4.75に保ち、室温でマグネチックスターラーで攪拌して2時間反応させた。その後、ジチオスレイトール(Diagnostic Chemical Limited,米国)10gおよび0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液少量を加えて攪拌した。ゲルを徐々に溶解させるとともに、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を断続的に添加して溶液のpH値を8.5に維持した。ゲルが全て溶解した後、室温でマグネチックスターラーで攪拌して24時間反応させた。その後、上記の溶液中に6mol/Lの塩酸をpHが約3.0になるまで加えた。上記の溶液を透析管(カットオフ分子量3500,Sigma,米国)に装入し、10Lの0.001mol/Lの塩酸と0.3mol/Lの塩化ナトリウム溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら5日間透析した。その後さらに、10Lの0.001mol/Lの塩酸溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら3日間透析した。最後に、透析管内の溶液を透析カラムに通して所定の濃度(3.0〜6.0% w/v)になるまで脱水濃縮し、溶液のpH値を3.0〜8.5に調節し、ろ過滅菌した後、凍結保存(通常は零下20℃以下)した。
【0136】
コンドロイチン硫酸のアセチル基の特性であるメチル吸収ピークを内標準とし、吸収ピークの面積から算出した、合成されたCS−DGDTPDHの側鎖置換度は47%であった。
【0137】
GPCを用いて分子量およびその分布を測定したところ、重量平均分子量は3.8万、数平均分子量は1.7万、分子量分布は2.23であった。
【0138】
ShuらがBiomacromolecules,3,1304,2002において報告した、改良Ellman法を用いてCS−DSCDHの活性チオール基含有量を測定したところ、44.2チオール基/100コンドロイチン硫酸二糖繰返し単位であった。
【0139】
実施例32 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例31で調製したCS−DSCDH溶液(6.0% w/v,pH5.0)の室温の溶液を準備した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lの炭酸塩緩衝液に溶解して6.0% w/vの溶液(pH10.5)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合溶液は10秒以内に流動性を失ってゲルを形成した。
【0140】
実施例33 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例31で調製したCS−DSCDH溶液(3.0% w/v,pH7.0)の室温の溶液を準備した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.005mol/Lのリン酸塩緩衝液に溶解して3.0% w/vの溶液(pH7.0)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加えた。反応性混合物のpH値は7.0であった。マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を適量加え、反応性混合物のpH値を10.5に調節した。反応性混合溶液は即座に流動性を失ってゲルを形成した(10秒未満)。
【0141】
実施例34 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例31で調製したCS−DSCDH溶液(3.0% w/v,pH4.0)の室温の溶液を準備した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lのホウ酸/水酸化ナトリウム緩衝液に溶解して3.0% w/vの溶液(pH11.0)を得て、ろ過滅菌した。マグネチックスターラーで攪拌しながら、CS−DSCDH溶液のpH値をアルカリを用いて8.5に調節した後、速やかに四分岐ポリエチレングリコールアクリレート溶液(5ml)に加えた。反応性混合物のpH値は約11.0であり、反応性混合溶液は即座に流動性を失ってゲルを形成した。
【0142】
実施例35 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製
実施例31で調製したCS−DSCDH溶液(4.0% w/v,pH8.0)の室温の溶液を準備した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lの炭酸塩緩衝液に溶解して4.0% w/vの溶液(pH10.5)を得て、ろ過滅菌した。上記二種類の溶液をそれぞれ5ml取ってFibriJet気体補助式噴霧装置(型番:SA−6110,Micromedics, inc. 米国)に装入し、その後、2気圧の窒素の作用下で噴霧化し、垂直に立てたガラス板に塗布した。ガラス板に塗布された混合溶液はほとんど流れることなく、均一なゲル薄膜をガラス板表面に速やかに形成した。
【0143】
実施例36 チオール化変性ゼラチンの調製
(1)ゼラチンのスクシニルカルボキシル化変性
ゼラチン(B型,ブタ皮由来,Sigma, 米国)1gを蒸留水100ml中(約30℃)に溶解し、清澄で透明な溶液を得た。1.0mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて、溶液のpH値を約9.5に調節し、その後、マグネチックスターラーで攪拌しながら無水コハク酸(分析級)を0.05g加え、適量の1.0mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を断続的に添加して、溶液のpH値を弱アルカリ性(通常は8.0〜9.5)に保持した。約30℃で攪拌して1時間反応させた。その後、上記の溶液を透析管(カットオフ分子量3500,Fisher,米国)に装入し、蒸留水を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら透析した。透析は、液体クロマトグラフィー(GPC)(純水を移動相とし、紫外線波長210nmにおける吸収に基づく検出)により、溶出液のスペクトルに小分子不純物のピークが示されなくなるまで行った。最後に、透析管内の溶液を収集し、凍結乾燥して白色綿状固体(スクシニルカルボキシル化ゼラチン)約0.7gが得られた。
【0144】
(2)スクシニルカルボキシル化ゼラチンのチオール化変性
上記のスクシニルカルボキシル化ゼラチン0.5gを取り、蒸留水50ml中に溶解した(約30℃)。上記の溶液中にジチオジプロピオン酸ヒドラジド(ShuらがBiomacromolecules,3,1304,2002において開示した方法により調製)1.2gを加え、攪拌して溶解した。そして、0.1mol/Lの塩酸を用いて溶液のpH値が4.75になるまで調節し、1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Aldrich,米国)0.75gを加え、マグネチックスターラーで攪拌した。上記の溶液に適量の0.1mol/Lの塩酸を断続的に添加して、溶液のpH値を4.75に維持した。マグネチックスターラーで攪拌して2時間反応させた後、ジチオスレイトール(Diagnostic Chemical Limited,米国)5gおよび0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加えて攪拌し、溶液のpH値を8.5に調節した。その後、室温でマグネチックスターラーで攪拌して24時間反応させた後、上記の溶液中に6mol/Lの塩酸をpH値が約3.0になるまで加えた。上記の溶液を透析管(カットオフ分子量3500,Sigma,米国)に装入し、10Lの0.001mol/Lの塩酸と0.3mol/Lの塩化ナトリウム溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら5日間透析した。その後、10Lの0.001mol/Lの塩酸溶液を用いて、8時間ごとに透析液を交換しながら3日間透析した。透析は、GPC(純水を移動相とし、紫外線波長210nmにおける吸収に基づく検出)により、溶出液のスペクトルに小分子不純物のピークが示されなくなるまで行った。最後に、透析管内の溶液を収集し、凍結乾燥して白色綿状固体約0.33gが得られた。上記の生成物を蒸留水中に溶解して3.0〜5.0% w/v溶液を得て、溶液のpH値を2.0〜7.0に調節し、ろ過滅菌した後、凍結保存(通常は零下20℃以下)した。
【0145】
2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)試薬を用いてスクシニルカルボキシル化ゼラチンの側鎖アミノ基を測定したところ、約45%のアミノ基がスクシニルカルボキシル化変性されていた。
【0146】
ShuらがBiomacromolecules,3,1304,2002において報告した、改良Ellman法を用いてスクシニルカルボキシル化およびチオール化ゼラチン多重変性誘導体の活性チオール基含有量を測定したところ、0.87mmolチオール基/gであった。
【0147】
実施例37 高速ゲル化ハイドロゲルの調製
実施例36で調製したチオール化変性ゼラチン溶液(5.0% w/v,pH値7.0)を準備した。実施例2で調製した四分岐ポリエチレングリコールアクリレート(平均3.6個のアクリレート官能基/四分岐ポリエチレングリコール分子,分子量10,000)を0.3mol/Lのホウ酸/水酸化ナトリウム緩衝液に溶解して4.0% w/vの溶液(pH11.0)を得た。マグネチックスターラーで攪拌しながら、上記の一方の溶液(5ml)を速やかに他方の溶液(5ml)に加え、3秒間攪拌し続けた後に停止した。反応性混合溶液は12秒以内に流動性を失ってゲルを形成した。
【0148】
実施例38 高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の術後癒着防止への応用
Dunnらにより報告されたラット盲腸モデル(Dunn et al,Fertility & Sterility,75,411,2001)を用いた。その過程の概要は以下の通りである。12匹のラットの盲腸の側面および腹側面を、無菌ガーゼを用いて表面が出血するまでかき取り、対応する腹壁1×2cmの面積を、表面が出血するまでメスでかき取った。実施例15で調製した高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤を6匹のラットの傷口および腹腔全体に塗布し、最後にラットの体表の傷口を縫合した。二週間後にラットを絶命させ、解剖して癒着の状況を観察した。各ラットのハイドロゲル使用量は約1.5mlであり、残余の未治療ラット6匹を対照グループとした。二週間後にラットを解剖した結果、対照グループのラットはすべて緊密な癒着を形成していたのに対し、治療グループではいかなる癒着も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の有益な効果としては、生体適合性が良好であり、副生成物または有毒副作用のある副生成物を生成せず、使用される各成分の安定性が良好であり、用量が少なく、低コストであり、使用上便利で高速ゲル化を実現しやすく、高速ゲル化噴霧剤の調製を実現しやすく、様々な医学的用途に適合する、等の多くの長所がある。Wallaceらによって開示された方法(特許文献1)と比較して、本発明には副生成物または有毒副作用のある副生成物を生成せず、生体適合性がより良好であり、架橋化学結合がより安定しており、使用される活性成分の安定性がより良好であり、活性成分の使用量がより少なく、より低コストである、等の多くの長所がある。
【0150】
本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の有益な効果には、さらに、工業的大量生産が容易であるということが含まれる。前述の通り、本発明に用いられる成分A中の生体適合性チオール化変性高分子は、強アルカリ性の条件下では非常に不安定である。従って、本発明に用いられる生体適合性チオール化変性高分子の溶液は、強アルカリ性の場合には活性を失いやすく、工業的大量生産には適さない。本発明においては、生体適合性チオール化変性高分子を含む成分AのpH値は8.5未満であり、通常は弱酸性であって、安定性が良好であり、工業的大量生産時の滅菌、充填、包装、保存等の多くの工程を簡便に完了できる。また、本発明に用いられる成分Aは、生体適合性チオール化変性高分子調製の精製工程後に、凍結乾燥の必要がなく、直接次の工程に進むか、濃縮または希釈して所定の濃度にした後に次の工程に進む。このように、凍結乾燥という時間や労力を要する煩瑣な工程を回避している。
【0151】
本発明の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製方法は、前述の本発明の高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法の長所を有するとともに、簡便で、使用しやすく、術後の癒着合併症の治療のような様々な医学的用途に適用される、という長所がある。また、気体補助式霧化噴霧剤の調製方法は、さらに、噴霧化条件下の混合を用いており、ノズルが詰まることなく複数回使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)成分Aと成分Bとを相互に混合して、特定の架橋条件を有する反応性混合物を調製するステップと、
(2)前記反応性混合物を反応させてハイドロゲルを形成するステップと、を含み、
成分Aは生体適合性高分子チオール化誘導体を含む溶液であり、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤であり、成分Bは固体または溶液であり、
前記生体適合性高分子チオール化誘導体は、生体適合性高分子をチオール化変性することにより調製され、
成分Aの濃度は8% w/v未満、成分AのpH値は8.5未満であり、
成分A中のチオール基と成分B中のチオール基反応性官能基は化学架橋反応を生じ、
前記反応性混合物中の生体適合性高分子チオール化誘導体と生体適合性チオール基反応性架橋剤の濃度の和は6% w/v未満であり、
前記特定の架橋条件とは、前記反応性混合物溶液のpH値が7.0より大きいことか、またはpH値が7.0以下であることであり、
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きい場合には、成分BのpH値は成分AのpH値より大きい、生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項2】
前記生体適合性高分子チオール化誘導体は、少なくとも三つのチオール基を含み、分子量は1,000〜10,000,000である、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項3】
前記生体適合性高分子には、多糖類、またはそれらの塩もしくは変性体;タンパク質、またはそれらの変性体;または、合成高分子、またはそれらの塩もしくは変性体が含まれる、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項4】
前記多糖類、またはそれらの塩もしくは変性体には、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デルマタン、デルマタン硫酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キトサン、または、それらのナトリウム塩、カリウム塩、カルボキシメチル変性体もしくは疎水化変性体が含まれ、
前記タンパク質またはそれらの変性体には、アルカリ性ゼラチンタンパク質、酸性ゼラチンタンパク質、アルカリ性遺伝子組換えゼラチンタンパク質、酸性遺伝子組換えゼラチンタンパク質、または、それらのアミノ基のカルボキシル変性体もしくは疎水化変性体が含まれ、
前記合成高分子、またはそれらの塩もしくは変性体には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸、または、それらのナトリウム塩、カリウム塩、カルボキシメチル変性体もしくは疎水化変体が含まれる、請求項3に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項5】
前記チオール化変性は、生体適合性高分子の側鎖カルボキシル基を、カルボジイミドの活性下で、ジスルフィド結合を含むジアミンまたはジヒドラジドと反応させて中間産物を生成するステップと、
前記ジスルフィド結合をチオール基に還元して、生体適合性高分子チオール化誘導体を得るステップとを含む化学反応工程を含む、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項6】
前記生体適合性高分子には、ヒアルロン酸、カルボキシメチルヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、アルカリ性および酸性ゼラチンタンパク質、アルカリ性および酸性遺伝子組換えゼラチンタンパク質、ポリアスパラギン酸、または、ポリグルタミン酸が含まれ、
前記カルボジイミドは1‐エチル‐3‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩であり、
前記ジスルフィド結合を含むジアミンまたはジヒドラジドには、シスタミン、システィンジメチルエステル、システィンジエチルエステル、ジチオジフェニルアミン、ジチオジプロピルジヒドラジド、ジチオジブチルジヒドラジド、ジチオジプロピオン酸ジアシルアラニンジヒドラジド、ジチオジプロピオン酸ジアシル(ヒドロキシ)アミノ酢酸ジヒドラジド、ジチオジプロピオン酸ジアシルアミノプロピオン酸ジヒドラジド、ジチオジプロピオン酸ジアシルアミノブチル酸ジヒドラジド、ジチオジブチル酸ジアシルグリシンジヒドラジド、ジチオジブチル酸ジアシルアミノプロピオン酸ジヒドラジド、ジマロン酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、ジコハク酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、ジ(メチル)コハク酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、ジグルタミン酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、ジヘキシル酸ジアシルシスタミノジヒドラジド、または、ジヘプチル酸ジアシルシスタミノジヒドラジドが含まれる、請求項5に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項7】
前記チオール化変性は、前記生体適合性高分子の側鎖アミノ基を化学反応により直接チオール基に変性するステップ含む、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項8】
前記成分Aの濃度は0.5〜5.0% w/vであり、pH値は2.5〜7.0である、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項9】
前記成分Aの濃度は0.8〜3.0% w/vであり、pH値は3.5〜6.0である、請求項8に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項10】
前記生体適合性チオール基反応性架橋剤は、少なくとも二つの同じまたは異なるチオール基反応性官能基を含む、二分岐、三分岐またはさらに多分岐のポリエチレングリコール誘導体であり、
前記ポリエチレングリコール誘導体の分子量は100〜1,000,000であり、
前記チオール基反応性官能基は、マレイミド、ビニルスルホン、α,β不飽和アクリレート、α,β不飽和メタクリレート、α,β不飽和アクリルアミド、α,β不飽和メタクリルアミド、ヨードプロピオネート、ブロモプロピオネート、クロロプロピオネート、ヨードプロピオンアミド、ブロモプロピオンアミド、クロロプロピオンアミドである、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項11】
前記成分Aおよび成分Bは、異なる濃度のpH値緩衝物質または他の極性及び親水性の物質を含む、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項12】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きい場合には、成分Bの濃度は0.5〜8.0% w/vであり、pH値は8.0〜12.0である、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項13】
前記成分Bの濃度は0.8〜4.0% w/vであり、pH値は8.5〜10.5である、請求項12に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項14】
前記化学架橋反応は、チオール基とチオール基反応性官能基との間での、求核付加反応および求核置換反応である、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項15】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きい場合には、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む溶液である、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項16】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きく、成分AのpH値が7.0より大きくかつ8.5未満の場合には、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む溶液であって、pH値が8.5以上である、請求項15に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項17】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きく、成分AのpH値が7.0以下である場合には、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む溶液であって、成分BのpH値は成分AのpH値より大きい、請求項15に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項18】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きく、成分AのpH値が7.0以下である場合には、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む溶液であって、成分BのpH値は8.5以上である、請求項17に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項19】
前記反応性混合物のpH値は8.0〜12.0であり、成分Bは生体適合性チオール基反応性架橋剤を含む溶液であって、pH値は8.5〜12.0である、請求項15に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項20】
前記反応性混合物のpH値は8.5〜10.5である、請求項19に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項21】
前記反応性混合物のpH値が7.0より大きい場合には、前記反応性混合物のpH値は、前記成分Aおよび成分Bの混合時に決定されるか、あるいは、酸又はアルカリ溶液を、混合前に成分Aおよび成分B中に加えるか、混合後又は混合中の反応性混合物中に加えることにより調節することにより決定される、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項22】
前記反応性混合物により形成されるハイドロゲルは、1分間以内にハイドロゲルを形成する、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項23】
前記反応性混合物のpH値が7.0以下の場合には、成分Bは生体適合性架橋剤の溶液または固体であり、
この場合、ステップ(1)とステップ(2)との間に、前記反応性混合物中にアルカリまたはアルカリ性緩衝溶液を加えて溶液のpH値を特定のアルカリ性の範囲に調節するステップをさらに含む、請求項1に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項24】
前記反応性混合物溶液のpH値は2.5〜6.0の間である、請求項23に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項25】
前記反応性混合物溶液のpH値は3.5〜5.0の間である、請求項24に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項26】
前記特定のアルカリ性の範囲はpH値が8.0〜12.0の間である、請求項23に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項27】
前記特定のアルカリ性の範囲はpH値が8.5〜10.5の間である、請求項26に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項28】
前記アルカリまたはアルカリ性緩衝溶液には、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、リン酸ナトリウム溶液、または、それらのアルカリ性緩衝溶液が含まれる、請求項23に記載の生体適合性高速ゲル化ハイドロゲルの調製方法。
【請求項29】
請求項15に記載の成分Aおよび成分Bを、複数成分混合反応噴霧装置のシリンジAおよびシリンジBにそれぞれ装入し、その後4ウェイアプリケータにより押し出し、1〜10気圧の空気またはその他の気体の作用下で噴霧化、混合し、物体表面に塗布した後にゲルを形成するステップ、あるいは、
請求項23に記載の成分Aおよび成分Bを混合して形成された安定した反応性混合物を、複数成分混合反応噴霧装置の一つのシリンジに装入し、アルカリまたはアルカリ性緩衝溶液を第二のシリンジに装入し、その後4ウェイアプリケータにより両者を押し出し、1〜10気圧の空気またはその他の気体の作用下で噴霧化、混合し、物体表面に塗布した後にゲルを形成するステップを含む、生体適合性高速ゲル化ハイドロゲル噴霧剤の調製方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−532396(P2010−532396A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513618(P2010−513618)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001120
【国際公開番号】WO2009/006780
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(509164005)常州百瑞吉生物医▲薬▼有限公司 (3)
【氏名又は名称原語表記】BIOREGEN BIOMEDICAL (CHANGZHOU) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 165 East East Rd., Changzhou, Jiangsu 213025 CHINA
【Fターム(参考)】