説明

生体高分子配列分析のための電子移動解離

本発明は、電子移動解離の使用による質量分析計における新規のイオン断片化方法ならびに質量分析によるペプチドおよびタンパク質の配列分析方法に関する。ペプチドの場合、本発明により、ペプチド骨格に沿った断片化が促進され、RF場デバイスの使用によってサンプル(修飾アミノ酸残基が含まれる)のアミノ酸配列を予想することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、合衆国法典第35編119条(e)項に基づいて、2004年3月12日出願の米国特許出願番号60/552,876号および2004年5月20日出願の60/572,884号(その開示が、本明細書中で参考として援用される)の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
タンパク質およびペプチドの研究および特徴付けは、現代生物学のまさに重要な部分となっており、これ自体がプロテオミクスという名称を有する。質量分析は、ペプチドおよびタンパク質分析のために使用される最も重要な技術の1つとなっており、この分野で多数の異なる質量分析実験が行われている。本発明は、文献に以前に記載されている「ボトムアップ」または「トップダウン」技術のいずれかを使用したペプチドおよびタンパク質のアミノ酸配列を特徴づけるための質量分析の使用に関する。現在、これらの実験型のうちで最も広範に使用されているものは、「ボトムアップ」プロテオミクス実験である。しかし、本明細書中に記載の発明は、タンデム質量分析(MS/MS)を利用する任意のプロテオミクス質量分析実験と同様に、「トップダウン」型試験の実施を有意に進行させる。
【0003】
「ボトムアップ」型実験では、通常はいくつかの生体サンプル(細胞溶解物など)に由来し、それにより、数千種類ものタンパク質を桁違いの範囲の相対存在量で含む可能性のあるタンパク質の混合物を分析する。このようなタンパク質サンプルを、タンパク質分解酵素(典型的には、トリプシンまたはトリプシンとエンド−Lysとの組み合わせ)で消化して、トリプシンペプチドの複合混合物が得られる(典型的には、消化によって約30ペプチド/タンパク質が得られる)。消化工程後、一般に、サンプルを質量分析計に導入する前に、サンプルの清浄、分離、断片化、および/または化学的誘導化工程などの種々の工程が存在する。1つの実施形態では、プロセシングしたペプチドサンプルを、クロマトグラフィによって分離し、3つの異なる質量分析計型(FinniganLCQ DecaまたはLCQ XP(RF 3D四重極イオントラップ)、FinniganLTQ(放射状排出RF 2D四重極イオントラップ)、またはFinniganLTQ/FT装置(タンデムRF 2D四重極イオントラップ/フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計))の1つにおいてエレクトロスプレーイオン源に直接接続されたナノフローHPLC(5〜200nL/分)を用いて質量分析計に導入する。
【0004】
エレクトロスプレーイオン源は、HPLCカラムから溶離した中性サンプルペプチドを、質量分析計による分析のために気相でイオンに変換する。酸性水溶液では、トリプシンペプチドは、アミノ末端およびC末端アミノ酸の側鎖の両方(LysまたはArg)でプロトン化される。エレクトロスプレー化ペプチドが質量分析計に入るにつれて、水がポンピングにより除去され、正電荷のアミノ基が共に水素結合し、プロトンがペプチド骨格に沿ってアミド基に移動する。その結果、HPLCから溶離された各トリプシンペプチド種の凝集体が、ペプチド骨格に沿って異なる部位でプロトン化したイオン化ペプチド分子の集合体に変換される。
【0005】
1つの手順によれば、異なるペプチド種から生成されたイオンのMS/MSスペクトルは、以下の一連の工程で得られる(フラグメントイオンのマススペクトル)。
1.ペプチドイオンを導入し、RF四重極イオントラップ(2Dまたは3D)に捕獲する。
2.選択したペプチド前駆イオン種に関連する質量電荷比(m/z)の狭い範囲外の全イオンを、トラップから排除する。
3.単離された前駆ペプチドイオンを動力学的に励起し、衝突誘起分解(CAD)を受ける。
4.保持された生成物イオンを質量分析して、質量(m/z)スペクトルを得る。
【0006】
工程2の間に、プロトン化ペプチドイオンは、数百回または数千回約1〜5ミリトールの圧力で存在するヘリウム原子と衝突する。このプロセス中に、イオンの内部エネルギーは、分子の骨格中のプロトン化アミド結合を破壊するのに必要な活性化エネルギーを超えるまで、少しずつ増加することによって増加する(このプロセスは、しばしば衝突誘起脱離(CID)ともいわれる)。理想的には、結果は、1つのアミノ酸によって質量が異なるb型およびy型フラグメントの集合体である。図1は、種々のペプチド骨格切断型を説明する用語を示す。b型イオンは、アミノ末端および1つまたは複数のアミノ酸残基を含む。y型イオンは、カルボキシル末端および1つまたは複数のアミノ酸残基を含む。1つのアミノ酸が異なる同型のフラグメントのm/z値を引くことによって質量が得られ、それにより、2つのフラグメントの大きい方の余剰残基が同定される。このプロセスの継続により、ターゲティングされたペプチドの後方(yイオン)および前方(bイオン)のアミノ酸配列を読み取ることが可能である。熟練した分析者は、前駆ペプチドのアミノ酸配列の全部または一部を確認することができる。ペプチドのMS/MSスペクトルとタンパク質および核酸のデータベース由来のペプチドの理論上のMS/MSスペクトルを比較して、各MS/MSスペクトルについての起こり得る前駆ペプチド(およびその構造)のリストが得られるコンピュータプログラムも存在する。
【0007】
典型的なサンプルは非常に複雑であり、それにより、何十または何百もの異なるペプチドがLCカラムから同時に溶離され得る。より大きな比率の同時溶離されたペプチド前駆体のMS/MSスペクトルを記録するための時間を装置に与えるために、ピークパーキングと呼ばれる手順を使用してクロマトグラフィを拡大し、サンプルピーク幅を10秒から200秒にすることができる。ピークパーキングの使用は、以前に文献に記載されており、当業者に公知である。一般に、実験を自動化し、この実験は、その後のMS/MS分析のために前駆体m/zピークを選択する(得られたm/zスペクトルの自動化分析による)第1の全スキャンMS実験を含む配列マススペクトル実験の繰り返しを含む。装置の速度およびクロマトグラフィのピーク幅(各種の溶離の持続時間)に依存して、典型的には、3〜10MS/MSスペクトルのどこかに、最初のMSのみの実験から決定された前駆体m/z値が得られる。データに依存する前駆体m/z値の選択基準を、冗長なMS/MSスペクトル、公知のバックグラウンドのMS/MSスペクトル、および夾雑物のピークの記録を最小にするようにデザインする。1つのこのようなデータ依存性モードのLC MS/MS実験の持続時間は、30分から4時間まで様々となる可能性があり、何千ものペプチドイオンのMS/MSスペクトルが記録され得る。クロマトグラフィ運転の終了後、元の混合物中のタンパク質を、種々のタンパク質および核酸のデータベースに対するペプチド前駆体の記録されたMS/MSスペクトル組の処理によって同定する。データ分析のためのコンピュータプログラムは市販されており、SEQUEST(Thermo Electronから販売されている)およびMASCOT(Matix Science)コンピュータプログラムが含まれる。日常的に、上記テクノロジーを使用した1回に4時間のクロマトグラフィ運転において6000のトリプシンペプチド配列を得ることができる。複合混合物中に5〜10fmolレベルで存在するペプチド(カラムにロードした)の同定は容易である。
【0008】
これらのペプチドの複合混合物の分析のために、より多数の固有のMS/MSスペクトルを記録し、混合物をより完全に特徴づけ、元のタンパク質由来のペプチド部分(配列範囲)をより多くすることにより、より確実に同定される。したがって、1つのMS/MSスペクトルを得るための時間は重要である。約2秒未満でMS/MSスペクトルを得ることができない質量分析計またはMS/MSの実施方法は、「ボトムアップ」型プロテオミクス実験などのクロマトグラフィへの適用に不適切と見なされる。
【0009】
生成物イオンの生成のためのCADの使用には欠点があり、以下が含まれる。
a)翻訳後修飾された(すなわち、リン酸化およびグリコシル化など)ペプチドは、しばしば、ペプチド骨格の切断によるよりもむしろ修飾の喪失によって断片化する。約(20%〜30%)の比較的比率の低いこれらのペプチドイオン前駆体型のみから説明可能な/検索可能な生成物イオンスペクトルを得られる。
b)複数の塩基性アミノ酸残基(Lys、Arg、およびHis)を含み、それにより2つを超える電荷を有するペプチドも、ペプチド骨格に沿って無作為に断片化することができず、それにより、上記テクノロジーによって分析した場合、不完全な配列情報が得られる。
c)40個を超えるアミノ酸を含むペプチドもまた、ペプチド骨格に沿って無作為に断片化することができない。これらによっても不完全な配列情報が得られる。
【0010】
したがって、説明可能な/検索可能な生成物イオンスペクトルの適切なアレイを生成するための改良されたペプチドの断片化方法が必要である。気相でのプロトン化ペプチドおよびタンパク質の別の断片化ストラテジーは、1998年にMcLafferty等によって提案された(J.Am.Chem.Soc.1998,120,3265−3266)。この技術は、プロトン化ペプチドと熱電子とが相互作用しながらこれら両方がフーリエ変換質量分析計のICRセル内に格納される工程を含む。このプロセスを、電子捕獲解離(ECD)という。この解離プロセスについての最初に提案された機構は以下である。
【0011】
多価ペプチド上のプロトン化アミン基(RNH)と熱電子との反応は約6eVの発熱反応であり、中性超原子価窒素種(RNH)を形成する(図2A〜Cを参照のこと)。次いで、この化合物は、分子の振動様式を介したエネルギー非局在化と比較して短い時間規模で、RNHと水素ラジカル(H)に解離する。水素ラジカルは、ペプチド骨格に結合し、切断反応を誘発して、同系列のa型、c型、y型、およびz型のフラグメントイオンを生成する。c型およびz型イオンが一般により豊富である。1つのアミノ酸が異なる所与のイオン系列内のフラグメントのm/z値を再度引くことによって質量が得られ、それにより、2つのフラグメントの大きい方の余剰残基が同定される。このプロセスの継続により、ターゲティングされたペプチドの後方(yおよびzイオン)および前方(aおよびcイオン)のアミノ酸配列を読み取ることが可能である。この移動性水素ラジカル機構が最初に提案されたので、種々の認められた欠点を説明する別の機構(ECDが多ナトリウム化された(multiply sodiated)タンパク質イオンおよびペプチドイオン(HよりもむしろNaの付加によってイオン化された)を等しく断片化する能力などの提案された機構)を提案した。
【0012】
このアプローチの利点には、以下が含まれる。
1)翻訳後修飾された(リン酸化またはグリコシル化)ペプチドは、主に、ペプチド骨格結合で断片化し、質量分析によって容易に配列決定される。翻訳後修飾および他の側鎖部分を欠く断片化は、小さな副反応のみが認められるか、全く認められない。
2)多塩基性残基(それにより、気相内に2つを超える正電荷を有する)を含むペプチド、程度の差はあるが無作為なペプチド骨格に沿ったフラグメントでさえも容易に配列決定される。
3)ECDフラグメントは、分析されるペプチドのサイズに制限されない。McLaffertyのグループは、現在、ECDを使用してインタクトなタンパク質の配列を確認し、インタクトな分子上の翻訳後修飾を位置づけることができるという多数の証拠を示している。
【0013】
しかし、McLaffertyの技術は、多数の欠点があり、以下が含まれる。
1.ECD反応を起こすのに必要な熱運動エネルギー付近で陽イオンおよび電子を同時に閉じ込めることが非常に困難である。これは、つい最近まで、FT−ICR質量分析計の高磁場内に位置づけられたICRセル中のみで行われていた。これらのECD ICR装置は、典型的には、約4.7〜9Teslaの磁場を得るために超伝導磁石を使用し、それにより、毎回50〜150万ドルかかる。ほとんどのタンパク質配列分析は、現在、RF四重極イオントラップ、RF四重極線形トラップ、Q−TOF(四重極飛行時間型)、またはTOF−TOF装置で行われている。CAD中にイオンを含めるために従来から使用されている不均一なRF場デバイス(RFトラップおよびイオンガイド)が電子を閉じ込めないことが、FTICR以外の任意の質量分析計によるECDの実施を主に困難にしている。これは、電子の質量が非常に小さいことによる。これらのデバイスに注入された電子も、任意の効率でECD反応が起こるのに十分な時間間隔で熱エネルギー付近で保持することができない。したがって、いくつかのグループが最近RFイオントラップでのECDの実施を報告しているにもかかわらず、これらの実験の感度/フラグメントイオン収率は、ETDを使用して得られた結果よりも実質的に低い。
【0014】
2.フーリエ変換装置でのECDは、あまり有効でない。本発明者らが承知している最も進んだ装置由来の最良のデータは、全(統合された)生成物イオンシグナルが前駆体の約20%であることを示す(前駆体−生成物変換効率が20%)。比較のために、CADを使用する市販のイオントラップ装置は、日常的に、前駆体イオンに依存して、前駆体−生成物変換効率は50〜100%の範囲である。ペプチドイオンの前駆体−生成物変換効率は、一般に、この範囲の高い方である。RF多重極衝突セルを使用するQ−TOFなどの装置の前駆体−生成物変換効率はいくらかより低いが、一般に、これらは依然として30〜90%の範囲である。
【0015】
3.最も公開されているECDスペクトルは、数十の記録されたマススペクトルの平均(または和)である。典型的には、1つのFT/ICRスペクトルを得るために約1秒かかる。これは、典型的には、妥当なシグナル−ノイズ比を有するECD生成物−イオンスペクトルを記録するのに数十秒かかることを意味する。おそらく、検出可能なイオンシグナルを得るために少なくとも30個のイオンを要する。対照的に、電子増幅ベースの検出器を使用したRF四重極イオントラップおよびQ−TOF型装置は、1つのイオンを容易に検出する。
【0016】
4.ECDのさらなる欠点は、前駆体イオンが巨大なペプチドイオンまたはタンパク質イオンである場合、所与の前駆体の生成物イオンは、しばしば、非共有結合(水素結合)によって互いに結合したままになり、ECD実験条件下で解離できないことである。第2の解離工程は、これらの水素結合を破壊する必要があり、ECD生成物イオン(c型およびz型生成物イオン)が認められる。
【0017】
本発明は、RF場質量分析計またはRF場イオン封じ込めデバイスにおける正電荷ペプチドの新規の断片化方法および質量分析法によるペプチドおよびタンパク質の配列分析方法を提供する。本発明は、電子を正電荷サンプルイオンに移動させて正電荷サンプルイオンを断片化するための気相アニオンの使用を含む。
【発明の開示】
【0018】
種々の実施形態の要旨
本開示は、質量分析計におけるイオンの新規の断片化方法および質量分析計によるペプチドおよびタンパク質の配列分析方法に関する。1つの実施形態によれば、ポリペプチドを、電子移動解離事象によってペプチド骨格に沿って無作為に断片化し、ここで標的ポリペプチドがイオン化し、四重極線形イオントラップに注入する。次いで、イオン化ポリペプチドと反対の電荷を有する1価または多価の気相イオンを、四重極線形イオントラップに注入し、気相イオンおよびイオン化ポリペプチドを制御された条件下で混合してアニオンからカチオンへの電子移動を促進し、それにより、電子移動解離生成物イオンの生成を誘導する。
【0019】
1つの実施形態によれば、多価イオンの解離方法を提供する。この方法は、多価カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに導入する工程と、前記イオン封じ込めデバイスに気相電子移動試薬アニオンを導入する工程と、試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンから多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンへの電子移動を促進するために、導入された前記試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンおよび多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンを混合して解離生成物カチオンを得る工程とを含む。この実施形態では、イオンの混合は、電子移動が起こるように2つのイオン雲を重ね合わせる工程を含む。
【0020】
1つの実施形態によれば、多価ポリペプチドイオンからの電子の移動(引き抜き)を含むイオン−イオン反応を使用して、RF電場イオン封じ込めデバイス内でポリペプチド分析イオンの陰電子移動解離(NETD)を行う。ETDプロセスでは、多価ポリペプチド分析イオンは、カチオン(陽イオン)である。NETDプロセスでは、多価ポリペプチド分析イオンはアニオン(陰イオン)である。ETDと区別するために、用語「陰電子移動解離(NETD)」を使用する。ETDおよびNETDは、関与する分析イオンの反対の極性および分析物に対して反対の電子移動方向の両方によって示唆されるように、2つの個別の異なる解離促進イオン−イオン反応型を示す。
【0021】
1つの実施形態によれば、イオン化ポリペプチドは多価脱プロトン化ペプチドであり、ラジカル気相イオンは、任意の不活性ガスカチオン(例えば、He、Ne、Xe、Ar、N、O、CO)または任意の他のラジカルカチオン(多価プロトン化多環芳香族炭化水素など)からなる群から選択されるカチオンである。電子移動は、サンプル分子の断片化を引き起こすのに十分に発熱する。別の実施形態では、気相アニオンを使用して、正電荷のサンプルイオンに電子を移動する。このプロセスは、サンプル分子の断片化を引き起こすのに十分に発熱する。1つの実施形態によれば、ラジカル気相アニオンは1価または多価であり、これを2D多重極トラップの線形軸に沿って注入し、ポリペプチドイオン前駆体を、ラジカル気相アニオンと反対の方向から2D多重極トラップの線形軸に沿って注入する。
【0022】
ペプチドの場合、本発明は、ペプチド骨格に沿った断片化を促進し、サンプルのアミノ酸配列を推定することが可能になる。1つの実施形態によれば、ポリペプチドのアミノ酸配列の分析方法を提供する。この方法は、四重極線形イオントラップに多価ポリペプチドを注入する工程と、第1の定義したイオントラップ領域中に多価ポリペプチドを空間的に単離する工程と、1価または多価のラジカル気相アニオンを四重極線形イオントラップに注入する工程と、前記アニオンを第2の定義したイオントラップ領域に空間的に単離する工程と、前記気相アニオンと前記多価ポリペプチドとを混合してラジカルアニオンから多価ポリペプチドへの電子移動を促進し、それにより、電子移動解離生成物イオンの生成を誘導する工程と、電子移動解離イオンから残存するラジカル気相アニオンを分離することによって反応を停止させる工程と、棒電極中のスロットを介してイオン検出器に電子移動解離生成物を連続的に共鳴して排出してイオンの質量分析およびポリペプチドのアミノ酸配列の決定を行う工程とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
詳細な説明
定義
本明細書中で使用される、用語「ハロゲン」には、臭素、塩素、フッ素、およびヨウ素が含まれる。
【0024】
本明細書中で使用される、用語「ハロアルキル」は、少なくとも1つのハロゲン置換基を有するアルキルラジカル(例えば、クロロメチル、フルオロメチル、またはトリフルオロメチルなど)をいう。
【0025】
本明細書中で使用される、用語「C〜Cアルキル(式中、nは整数である)」は、1つから規定数の炭素原子を有する分岐または直鎖アルキル基を示す。典型的には、C〜Cアルキル基には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、およびヘキシルなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書中で使用される、用語「アリール」は、1つまたは複数の芳香環を有する単環式または多環式炭素環系をいい、フェニル、ベンジル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニル、およびアントラセニルなどが含まれるが、これらに限定されない。任意選択的に置換されるアリールには、0〜4個の置換基を有するアリール化合物が含まれ、置換アリールには、1〜3つの置換基を有するアリール化合物が含まれ、ここで、置換基には、C1〜C4アリール、ハロ、またはアミノ置換基が含まれる。
【0027】
用語「多環芳香族炭化水素」は、2つまたはそれ以上の芳香環を含む多環式炭素環系をいい、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、9’アントラセンカルボニトリル、およびアントラキノンが含まれるが、これらに限定されない。置換多環芳香族炭化には、1つまたは3つの置換基を有する置換多環芳香族炭化水素化合物であって、置換基には、アリール、ヘテロアリル、ヒドロキシ、C〜Cアルキル、ハロ、−CN、またはアミノ置換基が含まれる、置換多環芳香族炭化水素化合物が含まれる。
【0028】
用語「複素環基」は、1つまたは複数のヘテロ原子を含む単環式または多環式炭素環系であって、ヘテロ原子が、酸素、硫黄、および窒素からなる群から選択される、単環式または多環式炭素環系をいう。
【0029】
本明細書中で使用される、用語「ヘテロアリール」は、1つまたは複数のヘテロ原子(O、N、およびSなど)を含む1つまたは複数の芳香環を有する単環式または多環式炭素環系をいい、フリル、チエニル、およびピリジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書中で使用される、用語「高分子」は、単量体単位またはその誘導体のポリマーをいい、天然に存在するポリマーだけでなく合成によって誘導されたポリマーが含まれる。高分子の例には、ポリペプチド、ポリサッカリド、および核酸が含まれる。
【0031】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」、および「タンパク質」は、ポリマーの長さと無関係のアミノ酸のポリマーをいい、それにより、交換可能に使用される。この用語はまた、本発明のポリペプチドの化学修飾または発現後修飾を特定も排除もしないが、これらのポリペプチドの化学修飾または発現後修飾には、特定の実施形態として含まれるか排除され得る。ポリペプチドの修飾には、グリコシル基、アセチル基、リン酸基、脂質基、およびユビキチン基などの共有結合が含まれ、用語「ポリペプチド」に明確に含まれる。さらに、これらの修飾を有するポリペプチドを、本発明に含むか排除すべき各種と特定することができる。ポリペプチド(ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシ末端が含まれる)のいずれにもポリペプチドの修飾が起こり得る。所与のポリペプチド中のいくつかの部位に同程度または種々の程度で同一の修飾型が存在し得ると認識される(例えば、PROTEINS−−STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York(1993);POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pgs.1−12(1983);Seifter等,Meth Enzymol 182:626−646(1990);Rattan等,Ann NY Acad Sci 663:48−62(1992)を参照のこと)。
【0032】
実施形態
本開示は、質量分析システムにおけるポリペプチドイオンを解離するためのイオン−イオン反応の使用に関する。より詳細には、本開示の1つの態様は、RF電場イオン封じ込めデバイス内での電子の多価ポリペプチド分析物イオンの移動を含み、それにより、ポリペプチドイオンの電子移動解離(ETD)が促進されるイオン−イオン反応の利用に関する。
【0033】
別の実施形態によれば、多価ポリペプチドイオンからの電子の移動(引き抜き)を含むイオン−イオン反応を使用して、RF電場イオン封じ込めデバイス内でポリペプチド分析イオンの陰電子移動解離(NETD)を行う。ETDプロセスでは、多価ポリペプチド分析イオンは、カチオン(陽イオン)である。NETDプロセスでは、多価ポリペプチド分析イオンはアニオン(陰イオン)である。ETDと区別するために、用語「陰電子移動解離(NETD)」を使用する。ETDおよびNETDは、関与する分析イオンの反対の極性および分析物に対して反対の電子移動方向の両方によって示唆されるように、2つの個別の異なる解離促進イオン−イオン反応型を示す。以下に説明して示すように、異なるプロセスにより、分析ポリペプチドイオンの骨格に沿って異なる化学結合が解離される。
【0034】
1つの実施形態によれば、多価ポリペプチドイオンを四重極線形イオントラップに導入し、第1の定義したイオントラップ領域中に閉じ込める。次いで、1価または多価のラジカル気相アニオンを、四重極線形イオントラップの線形軸に沿って四重極線形イオントラップに導入する。次いで、2つのイオンまたは最初に導入された種由来のイオンを線形イオントラップ内で混合して、アニオンからカチオンへの電子移動を促進し、それにより、陰電子移動解離(NETD)生成物アニオンの生成を誘導する。1つの実施形態によれば、ポリペプチドポリペプチドは、多価脱プロトン化されており、気相イオンはカチオンである。1つの実施形態では、カチオンは、ポリペプチドアニオンから電子を引き抜くポリペプチドアニオンから電子を引き抜く任意の不活性ガスカチオン(例えば、He、Ne、Xe、Ar、N、O、CO)または任意の他のラジカルカチオン(多価プロトン化多環芳香族炭化水素または置換多環芳香族炭化水素など)である。
【0035】
1つの実施形態によれば、多価カチオンの解離方法を提供する。カチオンを、広範な材料(核酸、ポリサッカリド、およびポリペプチドなどの高分子、ならびに他の化合物(医薬品および有機化合物の複合混合物が含まれる)が含まれる)から選択することができる。本方法は、多価カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに導入する工程と、前記イオン封じ込めデバイスに気相電子移動試薬アニオンを導入する工程と、試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンから多価カチオンへの電子移動を促進するために、導入された前記試薬アニオンを混合する工程とを含む。各カチオン/アニオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに直接注入し、混合して反応させるか、注入されたカチオンおよび/またはアニオンを、注入後且つ混合前にさらなる操作に供することができることが、本発明の範囲内で見なされる。
【0036】
1つの実施形態によれば、カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに注入した後、カチオンを1つまたは複数の以下の操作に供する。この最初のカチオン集団を、m/z単離、プロトン移動電荷減少(イオンパーキングが含まれる)、光解離、衝突活性化、およびイオン−分子反応に供して、最初に注入したカチオン集団の誘導多価カチオンを生成することができる。同様に、最初に注入したカチオンを、アニオンをカチオン(またはカチオン誘導体)と混合する前に種々の操作に供することができる。特に、アニオン集団を1つまたは複数の以下の操作に供して、最初に注入したアニオン集団の1価または多価の誘導体アニオンを生成することができる:m/z単離、光解離、衝突活性化、およびイオン−分子反応。
【0037】
したがって、1つの実施形態では、多価カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに注入し、気相電子移動試薬アニオンをイオン封じ込めデバイスに導入し、次いで、注入したアニオンおよびカチオンを任意選択的にさらに操作し、次いで、試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンを導入し、多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンへの電子移動を促進するために、多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンと混合して解離生成物カチオンを得る。
【0038】
1つの実施形態によれば、導入された多価カチオンはポリペプチドである。1つの実施形態によれば、導入された前記試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンおよび多価ポリペプチドまたはその誘導体多価ポリペプチドの運動エネルギーは1電子ボルト未満である。1つの実施形態によれば、混合および反応工程中に、バックグラウンドガス分子との衝突を使用してアニオンおよび多価カチオンの運動エネルギーを熱レベル付近に減少させる。
【0039】
1つの実施形態によれば、RF電場イオン封じ込めデバイスは、RFイオンガイドである。別の実施形態では、RF電場イオン封じ込めデバイスは、RFイオントラップである。本発明での使用に適切な1つのこのようなデバイスはRF線形多重極イオントラップであり、1つの実施形態では、RFイオントラップはRF三次元多重極イオントラップである。1つの実施形態では、アニオンを、RF線形多重極イオントラップの線形軸に沿って注入する。
【0040】
1つの実施形態によれば、正電荷の多価ポリペプチドの断片化方法を提供する。本方法は、正電荷の多価ポリペプチドをイオントラップに導入する工程と、気相アニオンをイオントラップに導入する工程と、ラジカルアニオンから正電荷の多価ポリペプチドへの電子移動を促進するために、気相アニオンと正電荷の多価ポリペプチドとを混合し、それにより、正電荷の多価ポリペプチドの断片化が誘導されて電子移動解離生成物イオンが生成される工程とを含む。本明細書中で使用される、用語「イオントラップへのイオンの導入」は、イオントラップに直接的に注入されるイオンだけでなく、これらがイオントラップに注入された後に最初に注入されたイオンから生成された誘導体イオンも含まれることが意図される。イオントラップを、当業者に高知の任意のイオン封じ込めデバイスから選択することができる。適切なデバイスには、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計、RF 3D多重極イオントラップ(QIT)、およびRF線形多重極イオントラップが含まれる。1つの実施形態では、デバイスを、アニオン/カチオンを個別に保存し、その後にこれらを合わせる能力に基づいて選択する。1つの実施形態では、イオントラップはRFイオントラップであり、より詳細には、1つの実施形態では、RFイオントラップはセグメント化線形RF多重極イオントラップである。
【0041】
多価ポリペプチドとアニオンとの混合中または混合後、電子移動解離生成物イオンを、さらなる活性化エネルギーに供することができる。より詳細には、電子移動解離生成物イオンを、実質的に従来の衝突活性化解離生成物を生成することなく、電子移動型解離経路を誘発するのに十分なエネルギーと共に供給する。1つの実施形態によれば、この手順により、20%未満のCAD生成物が生成され、さらなる実施形態では、約10%未満のCAD生成物が生成され、さらなる実施形態では、約5%未満のCAD生成物が生成され、さらなる実施形態では、約1%未満のCAD生成物が生成される。光活性化または衝突活性化の形態でエネルギーを供給することができる。1つの実施形態では、電子移動解離生成物イオンを、20%未満の生成物が従来の衝突活性化解離生成物である、低エネルギーオフ共鳴衝突活性化に供する。1つの実施形態によれば、多価ポリペプチドをアニオンと混合した後に、Finnigan LTQ CAD減少条件(q=0.15またはそれ未満、20%またはそれ未満の正規化活性化エネルギーで60m秒の持続時間)を使用して、電子移動解離生成物イオンをさらに活性化する。1つの実施形態では、活性化減少条件は、0.13またはそれ未満のq値および17%の正規化活性化エネルギーで60m秒を含む。
【0042】
1つの実施形態では、多価ポリペプチドをアニオンと混合して電子移動解離生成物イオンが形成された後、電子移動解離生成物イオンを線形イオントラップ内に保持しながら線形イオントラップ由来の残存イオンを排出する。次いで、残存する電子移動解離生成物イオンを、全イオン生成物(従来の衝突活性化解離生成物)の約20%もしくはそれ未満または約5%未満を生成するのに十分でない低エネルギーのオフ抵抗衝突活性化に供する。
【0043】
本発明の方法によって生成された電子移動解離生成物イオンを、質量(m/z)分析に供することができる。1つの実施形態によれば、ポリペプチドのアミノ酸配列の分析方法を提供する。本方法は、多価ポリペプチドカチオンをRFイオントラップに導入する工程と、気相アニオンをRFイオントラップに導入する工程と、アニオンから多価ポリペプチドカチオンへの電子移動を促進するために、気相アニオンと多価ポリペプチドカチオンとを混合し、それにより、電子移動解離生成物イオンの生成が誘導される工程と、電子移動生成物カチオンから残存する気相アニオンを物理的に分離することによって反応を停止させる工程と、トラップ中に残存するカチオンのm/z分析を行う工程とを含む。残存するカチオンには、電子移動解離生成物カチオンまたは電子移動解離生成物カチオンの誘導体カチオンが含まれ得る。本開示によれば、用語「混合」は、ETDが起こるように2つのイオン雲を重ね合わせるプロセスを含むことを意図する。
【0044】
電子移動解離生成物イオンの質量(m/z)分析および検出の前に、1つの実施形態では、第1のアニオンをイオントラップから放出させ、第2のアニオン型を線形イオントラップに導入し、ここで、第2のアニオン型がその後排他的にプロトンを実質的に排他的にカチオンに移動させ、第2のアニオン型がカチオンと混合して反応する。1つの実施形態によれば、第2のアニオン型は、カルボン酸、フェノール酸、およびアルコキシドを含有する化合物に由来する。1つの実施形態では、第2のアニオンは、安息香酸、PDCH、SF、およびPFTBAからなる群から選択される化合物のアニオンである。
【0045】
1つの実施形態によれば、正電荷の多価ポリペプチドを、四重極線形イオントラップに注入し、イオントラップの第1の定義した領域で単離する。次いで、1価または多価の気相アニオン四重極線形イオントラップに注入し、第2の定義したイオントラップ領域中で単離する。1つの実施形態によれば、アニオンはラジカル気相アニオンであり、ポリペプチドは多価プロトン化ポリペプチドである。次いで、ラジカルアニオンの多価プロトン化ポリペプチドへの電子移動を促進するために気相アニオンと多価ポリペプチドとを混合し、それにより、電子移動解離生成物イオンの生成を誘導する。
【0046】
電子移動解離(ETD)により、ペプチド骨格に沿ってポリペプチドが無作為に断片化され、質量分析法によってポリペプチドの配列が分析される。電子移動解離(ETD)は、2つの既存の方法(衝突誘起解離(CID)および電子捕獲解離(ECD))の強度を組み合わせる。ECDは、現在、質量分析器として超伝導磁石においてPenningトラップを使用する高価なフーリエ変換装置に制限される。対照的に、CIDのようなETDを、Q−TOF型装置と同様に、種々のRF四重極イオントラップ質量分析計および最後の質量分析計より前にイオン蓄積のためのRF多重極線形トラップを利用する(または利用するために適合させることができる)他のハイブリッド型装置に適合させることができる。ETDにより、ECDと同一のフラグメントイオン型が生成され、それにより、複数の塩基性アミノ酸および翻訳後修飾を含むペプチドの特徴付けに適切である。本明細書中に示すように、ETD技術により、クロマトグラフ時間尺度(約200〜500m秒/スペクトル)で得られる高品質のスペクトル(前駆体−生成物変換効率が約5〜20%)が得られる。
【0047】
1つの実施形態によれば、気相アニオンを使用して、質量分析計のRF多重極線形イオントラップ内で電子を正電荷サンプルに移動させる(図2は、装置の概観を示す)。このプロセスは、サンプル分子の断片化を引き起こすのに十分に発熱する。ペプチドの場合、本発明は、ペプチド骨格に沿った断片化を促進し、サンプルのアミノ酸配列の推定が可能となる。この方法を使用して、例えば、試薬ガスとしてメタンを使用して、化学的イオン(CI)源中にアニオンが生成される(図3および図4を参照のこと)。70eVの電子で圧力が1torrのメタンの電子衝撃により、CH+・、CH、および熱電子付近集団が得られる。
式1 CH+e70eV → CH・+ + e<70eV + eThermal
式2 CH+e70eV → CH+ H + e<70eV+eThermal
ETD反応のアニオンを生成するために、分子を化学イオン源に蒸発させ、熱電子集団と反応させる。これは、以前に記載されている周知のテクノロジーである(Hunt等,Anal.Chem.1976,48,2098およびHunt等,Anal.Chem.1978,50,1781−1784)。陽電子親和力(EA)(発熱反応して安定なまたは一過性に安定なラジカルアニオンを形成する)を有する任意の分子は、電子供与体として機能することができ、それにより、電子移動解離反応における試薬として使用される可能性がある。しかし、非ラジカル(偶数電子)アニオンも電子供与体として機能することができることに留意すべきである。
式3(六フッ化硫黄)SF+ eThermal → SF・−
式4(ペルフルオロベンゼン)C+ eThermal → C・−
式5(ペルフルオロベンゼン)C+ eThermal → C + F
式6(アントラセン)C1410 + eThermal → C1410・−(アントラセンラジカルアニオン)
【0048】
非ラジカルアントラセンイオンの式は以下である。
1410・− →C14 + H(単分子分解生成物)
1410・− + CH→C1411 + CH(イオン−分子反応生成物)
【0049】
本発明の1つの実施形態によれば、質量分析計における正電荷イオンの無作為な解離方法を提供する。1つの実施形態では、本方法は、RF場装置において電子を気相アニオンから正電荷イオンに移動させる工程を含む。1つの実施形態では、アニオンは1価のアニオンであり、別の実施形態では、RF場装置はセグメント化2D多重極トラップであり、1つの実施形態では、本装置はセグメント化2D四重極トラップである。1つの実施形態では、安定なまたは一過性に安定なアニオンをセグメント化2D多重極トラップの線形軸に沿って注入して、試薬アニオンからの電子の衝突活性化脱離を防止する。さらなる実施形態では、正電荷イオンを2D多重極トラップの線形軸に沿って、アニオンを注入したセグメント化2D多重極トランプの反対側の端に注入する。
【0050】
1つの実施形態によれば、セグメント化2D多重極イオントラップの一方の末端から線形軸に沿ったエレクトロスプレーイオン化によって生成されたプロトン化ペプチドの注入および前部セグメントでのこれらの格納によってETD実験を行う(図5A〜5C)。次いで、陰イオンを、同一のセグメント化2D多重極トラップの線形軸に沿っているが、反対側の末端から注入する(図5D)。陰イオンを線形イオントラップの中央のセグメントに格納し(図5Dおよび5E)、陽イオンと混合させる(図5F)。定義された反応期間後、カチオン生成物を質量分析しながらアニオンを軸に沿って排出させる(図5Gおよび5H)。
【0051】
1つの実施形態によれば、ETDを、オンラインクロマトグラフィと組み合わせた連続的イオン/イオン反応の使用によるインタクトなタンパク質の直接配列分析に使用することができる。この実施形態では、線形イオントラップ分光計内で多価ポリペプチドを最初に単離し、1価または多価のアニオンと反応させる。1つの実施形態では、アニオンはラジカルアニオンであり、別の実施形態では、アニオンは1価のラジカルアニオンである。比較的短い反応後(約5〜約20m秒)、残存アニオンをイオントラップから放出させ、ポリペプチドイオン生成物をイオントラップに注入した第2のアニオンと反応させる。トラップに注入される第2のアニオンを、プロトンを移動させる能力に基づいて選択する。ポリペプチドイオン生成物へのプロトンの移動は、1プロトン化フラグメントイオンのみを含み、前駆体タンパク質のN末端配列およびC末端配列に特徴的な同族列の1価のc型およびz型フラグメントイオンが生成されるように生成物のスペクトルを簡素化するように作用する。1つの実施形態では、イオントラップに注入された第2のアニオンは安息香酸の偶数電子アニオンであり、反応を約75〜約150m秒行う。
【0052】
多価(プロトン化)ペプチド((M+nH)+n)が奇数電子アニオン(A・−)または偶数電子アニオン(A)のいずれかに遭遇する場合、種々の反応が起こり得る。ここで、数字nは、前駆体イオン上の最初の電荷数を定義する整数である(2またはそれを越えると推測される)。以下に概説するように、電子移動(式7および9)またはプロトン移動(式8および10)のいずれかを含む反応が出願人によって最初に認められた。電子移動反応(式7および9)により、ECD条件下で認められるペプチド骨格断片化を開始させる水素ラジカルが生成される。プロトン移動反応(式8および10)により、ペプチド上の電荷が減少するが、断片化を促進することはできない。プロトン移動反応において放出されたエネルギーは、新規に形成された共有結合を含む生成物中に保持され、それにより、プロトン化ペプチド中でなく、AHまたはAH中のいずれかに集中する。
式7 [M+nH]+n + A・− → [M+nH]・(n−1)+ + A → [M+(n−1)H](n−1)+ + H + A
式8 [M+nH]+n + A・− → [M+(n−1)H](n−1)+ + [AH]
式9 [M+nH]+n + A → [M+(nH)]・(n−1)+ + [A] → [M+(n−1)H](n−1)+ + H + A
式10 [M+nH]+n + A → [M+(n−1)H](n−1)+ + [AH]
【0053】
カチオンとアニオンが結合複合体を形成する会合反応も認められ、この反応はその後に解離して種々の生成物イオンを生成することができる。
【0054】
電子移動は、前駆体カチオンによる試薬アニオンからの電子の引き抜きを含む。これのほぼ直後に、得られたラジカルカチオンが解離する。多価ペプチドカチオンの解離により、主にc’型およびz型、あまり豊富ではないがa型およびy’型のフラグメント種が得られる。
電子移動
式11 [M+nH]n+ + [A]−・ → [M+nH]・(n−1)+ + A
水素放射
式12 [M+nH]・(n−1)+ → [M+(n−1)H](n−1)+ + H(水素放射)
再結合および解離
式13a [M+(n−1)H](n−1)+ + H → [Ci+(m+1) c’H](m)+ + [ZN−i+(n−1−m)H]・(n−1−m)+
または
式13b [M+(n−1)H](n−1)+ + H →[A+mH]・(m)+ a+ [YN−i+(n−m)H]+(n−1−m) y’
【0055】
生成物は、ペプチド上の残存プロトンの位置に依存してイオン化されていてもされていなくてもよい。ここで、標準的な表記法にしたがって、インデックスiは、アミノ末端を含む生成物についてのペプチド骨格切断の位置を定義する。数字Nおよびmは、それぞれ、ペプチドまたはフラグメント中のアミノ酸数およびc型またはa型フラグメントによって保持されるプロトン数を定義する整数である。ETDにおける生成物種の生成機構は、ECDを使用して認められた同一の断片化が得られる機構と同一であると考えられる。
【0056】
1つの実施形態によれば、質量分析計内の無作為なペプチド断片化方法は、以下の工程を含む。
【0057】
気相アニオンを、メタン、イソブタン、またはアルゴンなどのバッファーガスを使用して操作されるTownsend放電源または従来の陰イオン化学的イオン源への無機分子または有機分子の蒸発によって低電子親和力基質から生成する。これらの供給源により、気相有機分子または気相無機分子による捕獲に十分な熱電子が生成される。
【0058】
次いで、電子脱離によるアニオンの破壊を排除するか最小にする様式で、所望のアニオンをアニオン格納デバイスに注入する。1つの実施形態では、この工程は、デバイスの線形軸に沿ったセグメント化熱電子2D四重極線形イオントラップ(LTQ)へのアニオンの注入およびこのデバイスの2つのセグメント中のイオンの格納を含む。ヘリウム浴ガスとのエネルギー衝突を、このプロトコールによって最小にする。したがって、この手順により、広範な電子親和力を有する基質由来のアニオンをETDのために使用することが可能となる。
【0059】
多価ペプチドイオンを、エレクトロスプレーイオン化によって生成し、陰イオンとの反応のために格納デバイスに注入する。1つの実施形態では、この工程は、デバイスの線形軸に沿ったセグメント化2D四重極線形イオントラップへの多価陽イオンの注入およびこのデバイスのセグメント中のイオンの格納を含む。
【0060】
アニオンから多価陽イオンへの遺伝子移動を促進するために、2つのイオン集団をセグメント2で混合する。ラジカルの正電荷サンプルイオンへの電子移動は、サンプル分子の断片化を引き起こすのに十分に発熱する。ペプチドの場合、本発明は、ペプチド骨格に沿った断片化を促進し、サンプルのアミノ酸配列を推定することが可能になる。
【0061】
試薬アニオン
上記のように、陽電子親和力(EA)(発熱反応して安定なまたは一過性に安定なラジカルアニオンを形成する)を有する任意の分子は、電子供与体として機能することができ、それにより、電子移動解離反応における試薬として使用される可能性がある。さらに、本発明者らは、多価ペプチドと反応した場合に電子を移動してETDを行う偶数電子種を形成するいくつかの化合物も同定した。したがって、ラジカルアニオンの形成は、アニオンが電子移動能力を有するかどうかの決定のための唯一の基準ではない。本発明者らの最初の研究は、以下のいくつかの化合物由来のアニオンを使用した:FC−43(ペルフルオロトリブチルアミン、PFTBA)、サルファヘキサフルオライド(SF)、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン(PDCH)、ヘキサフルオロベンゼン(C)。この研究では、ETD型断片化が認められるが、プロトン移動反応が主に起こった。次いで、本発明者らは、選択したペプチドイオンとの反応のための特定のアニオン種を単離する能力を模倣した。その時、本発明者らは、上記の種ではなくバックグラウンドイオンが低レベルETD断片化を担うことを発見した。六フッ化硫黄およびPDCHの両方からのアニオンの単離により、これらのアニオンのみがプロトン移動反応を誘起し、検出可能なETDは認められないことが証明された。
【0062】
次いで、C1410・−に変換されるアントラセンなどの芳香族種を、試薬として調査した。アニオンへのプロトン移動を最小にするために、9,10−ジフェニルアントラセンも試薬として使用することができる。電子移動解離の促進のためのアニオンとして使用されるさらなる芳香族化合物には、芳香族炭化水素(多環式アリール)および置換芳香族炭化水素が含まれる。1つの実施形態によれば、一般式:

(式中、式中、nは1または0であり、
Xは、S、O、N、NH、CR、およびCHRからなる群から選択され、
Yは、S、O、N、NH、CR、およびCHRからなる群から選択され、
Wは、S、O、N、NH、CR、およびCHRからなる群から選択され、
Uは、S、O、N、NH、CR、およびCHRからなる群から選択され、
Zは、S、O、N、NH、CR、CHR、および−CHRCHR−からなる群から選択され、
TおよびVは、独立して、S、O、N、NH、CR、およびCHRからなる群から選択され、
ここで、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、H、C〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール、ハロ、CN、C〜Cアルキル、アミノ、およびヒドロキシルからなる群から選択されるか、RおよびRならびに/あるいはRとRの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成するか、RおよびRならびに/あるいはRとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成するか、RとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成する)を有する多環芳香族炭化水素。
【0063】
1つの実施形態によれば、nは1であり、XおよびYは、独立して、S、O、N、NH、CH、およびCHからなる群から選択され、WはCRであるか、CHRおよびUはCRおよびCHRであり、ここで、RおよびRは、独立して、H、C〜Cアリール、C〜Cヘテロアリールからなる群から選択されるか、RとRの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成し、RとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成する。別の実施形態では、TおよびVは、独立して、S、O、N、NH、CH、およびCHからなる群から選択され、Zは、S、O、N、NH、CH、およびCHからなる群から選択され、RおよびRは、独立して、H、C〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール、ハロ、CN、C〜Cアルキル、アミノ、およびヒドロキシルからなる群から選択される。別の実施形態では、TおよびVは、独立して、S、O、N、NH、CH、およびCHからなる群から選択され、RはHであり、ZはCHRであり、ここで、RとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成する。別の実施形態では、TおよびVは、独立して、S、O、N、NH、CH、およびCHからなる群から選択され、Zは−CHRCHR−であり、ここで、RとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成し、RとRとの原子が共に結合してC〜Cアリール、C〜Cヘテロアリール環を形成する。
【0064】
試験した全ての芳香族炭化水素は、多価ペプチドと反応した場合に電子移動解離を誘起する能力をいくらか有する。試験したアニオンには、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、9’アントラセンカルボニトリル、およびアントラキノンが含まれる。これらの全化合物由来のアニオンは、ある程度電子移動解離を誘起した。これらの全芳香族炭化水素は電子移動を促進するが、フルオランテンが特に十分に機能する。そのETD誘起能力について試験したいくつかの化合物の化学構造を以下に示す。


【0065】
したがって、芳香族炭化水素化合物は、その各アニオンに変換された場合、多価カチオンに電子を移動する化合物の1つの一般的クラスを示す。さらに、硫黄、酸素、または窒素(複素環)を含めるこれらの化合物の修飾により、その電子移動能力が変化すべきではなく、したがって、この群中に電子移動促進化合物が含まれるべきである。したがって、本発明の1つの実施形態では、多環式アリール化合物およびヘテロアリール化合物を、本発明のポリペプチドの電子移動解離促進のためのアニオンとして使用する。表1は、化合物、分子量、およびその対応するアニオンの認められたm/zを示す。
【0066】
[表1]

【0067】
装置類
1つの実施形態によれば、これらの実験を行うために使用した装置は、2−D−多重極イオントラップにおける改良されたペプチド断片化方法のために必要な工程を実施するように改変された市販のシステム(改変FinniganLTQ(Thermo Electron Corp.))である。他の代わりの装置の構成を、他の市販または特注の構成要素に組み込んで使用することができる。イオン通路の機構またはESI源の間のイオン経路成分からRF QLTへの印加電圧を変化させなかった。図2は、装置に合わせた修正の概要を示し、本発明での使用に適切な線形四重極イオントラップのより詳細な説明は、米国特許公開番号___で公開された米国特許出願番号___に記載されている。
【0068】
簡単に述べれば、FinniganLTQ 2−D−多重極イオントラップを、以下のように修正した。第5の差分ポンプ真空領域を、Finnigan MAT 4500イオン源に適合するように装置の後部真空フランジに取り付けた。この領域に2段階ターボ分子ポンプ(PfeifferモデルTMH230−160支援のAlcatel 2008A−回転翼機械ポンプ)の高真空段階でポンピングする。後八重極番号1および後八重極番号2と記した2つのRF八重極イオンガイドを使用して、Finnigan MAT 4500イオン源から放射されたイオンを移動させた。2つのRF八重極イオンガイドを分けるプレートレンズ(後八重極レンズ間)の口径を、付加した真空段階の間(真空領域番号5とRF線形四重極イオントラップ(QLT)を含むLTQの真空領域との間)の差分ポンピング伝導限度として機能する。後八重極番号1は、端と端とをくっつけて1つのユニットとして電気的に接続したFinnigan LCQ由来の長さ2インチの八重極電極集合体対(r=.108インチ)から構成される。後八重極番号2は、単純に、1つのLCQ八重極電極集合体である。RF QLT集合体を機械的に修正しなかった。しかし、前レンズの電極と後レンズの電極との電気的接続を、標準的エレクトロニクスによって得られるこれらのレンズについて、DCバイアス電圧にRF電圧を重ね合わせることができるように変化させた。
【0069】
イオン源レンズの電圧をFinnigan MAT4500 PPNICIコントロールモジュールによって供給し、フィラメントパワーおよび放出電流制御を、Finnigan MAT4600四重極エレクトロニクスモジュール(QEM)によって供給する。イオン源ヒータの出力および調節を、OmegaモデルCN9000A温度調節器および1.5A 24VAC変圧器に基づいた組み立てユニットによって行う。イオン源較正用ガス電磁弁を、別の組み立て式ユニットによって操作する。イオン源の標準的なプローブ真空ベローズ弁を、ボール弁(A and N Corporation)と交換した。プローブ連動装置ならびにトグル弁およびAlcatelモデル2012機械ポンプを備えた較正用ガス注入口を大まかに排気する。
【0070】
後八重極RFおよびDC電圧ならびにQLT末端レンズのためのRF電圧を、Finnigan LCQおよびTSQ7000装置の修正回路を使用する組み立て式(home build)電子モジュールから得る。両八重極を、これらが別のDCバイアス電圧を有するにもかかわらず、同一のRF電圧を使用して駆動する。同様に、QLTの末端レンズは、同一の二次RF電圧を受けるが、異なるDCバイアス電圧を有する。2つの周波数合成器(Wavetek/Rocklandモデル5100およびStanford Research Systemsモデル_DS340)は、それぞれ、八重極および末端レンズのRFエレクトロニクスのための基準周波数を提供する。後八重極および末端レンズのRF電圧の両方の振幅を、LTQエレクトロニクスにけるスペアDACs(デジタル/アナログ変換器)によって制御する。装置の埋め込み式コンピュータ制御システムを、質量分析実験(スキャン機能)の実行中にこれらの電圧を制御できるように再構成した。
【0071】
化学的負イオン化モードで操作する場合、イオン源レンズ(L1、L2、およびL3(L1はイオン体積に最も近いレンズであり、L3は最も遠い))は、それぞれ、+10V、+70V、および+23VのDCバイアス電圧を有する。アニオンからQLTへの伝達のために、隣接ロッド間のRF電圧を、典型的には、約2.2MHzの周波数で約300ボルトの片側振幅である。QLTへのアニオンの伝達を遮断する場合、後八重極RF振幅をゼロにする。
【0072】
標準的なナノフローESI源を装置に使用した。ほとんどの研究のために、標準的なペプチドの混合物を含む40%アセトニトリル水溶液および0.1%酢酸水溶液を、100nl/分で注入する。供給源を修飾することなく使用した。LC/MS実験のために、供給源を、本発明者らの研究所で使用している組み込みレーザー引き抜きエレクトロスプレーエミッタを備えた組み立て式パッケージングキャピラリーHPLCカラムに適切に配置し、電気的に接続するように修正した。
【0073】
ETD MS/MS実験を実施するために質量分析計の制御を支配するコンピュータプログラムを修正した。放射状排出RF四重極線形トラップの操作は、Schwartz等(J.Am.Soc.MassSpectrom.2002,13,659−669)に詳細に記載されている。製品がFinniganLTQの直接的な旧製品であるという点において装置を記載した。デバイスの基本的な操作工程を、図5A〜5Hに示し、以下に詳細に考察する。
【0074】
操作手順
多価ポリペプチドカチオンを、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によって生成した。1pmol/μLのペプチドを含む40%アセトニトリル水溶液(0.1%酢酸を含む)を、SilicaTip(商標)融解石英エミッタ(30μmチップ、New Objective,Woburn,MA,USA)に注入した。研究ペプチドには、副腎皮質刺激ホルモン断片1−24(ATCH hormone,Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)および研究所内合成リンペプチドが含まれる。メタンバッファーガス(MG Industries,Malvern,PA,USA)を使用した化学的陰イオン化を使用して、SF(MG Industries,Malvern,PA,USA)およびPDCH(Sigma− Aldrich,St.Louis,MO,USA)のアニオンを生成した。Finnigan LTQ線形イオントラップ質量分析計(ThemoElectron,San Jose,CA,USA)を、デバイスの後ろ側(ファクトリーナノスプレー源の反対側)に置いたFinnigan 4500化学的イオン源(Finnigan,Sunnyvale,CA,USA)を受け入れるように適合させた。スキャン事象の順序は、以下を含む:以下により詳細に記載するように、前駆体イオンの単離(線形四重極イオントラップ)、イオン/イオン反応ためのアニオンの導入、最後に、生成物イオンの質量分析。
【0075】
1.衝突安定化されて捕獲されるQLTへのESI源によって生成されたカチオンの注入(図5A)
イオントラップへのカチオンの注入を、図5Aに示す。大気圧インターフェースのスキマー電極を地電位(0ボルト)に維持し、それにより、QLTに入るカチオンの運動エネルギーが本質的に0ボルトである。したがって、地電位でのBack Lens電極へのバイアス印加によって、バックグラウンドとの少数の散逸的衝突を受けた注入イオンがデバイスの前部への後戻りを反映するようにDC軸ポテンシャルが上昇する。注入イオンは、多数のさらなるヘリウム(約3mTorr)原子との運動量減耗衝突を受け、その軸方向の動きが有効に静められ、デバイスの中心部分の低バイアス電位によって十分に得られた軸方向のDC中に捕獲される。これらの衝突もイオンの放射状の動きを静め、その結果、RF四重極場の放射状の強力な集点効果の影響下で、イオンはデバイスの重心軸付近に広がる。さらなる運動励起に供されない限り、ヘリウムとの衝突により捕獲されたカチオンの運動エネルギーおよび内部エネルギーは約1〜2m秒内に熱レベル付近に減少する。完全に衝突から解放されたイオンは、重心軸の約1.0mm以内に閉じ込められたままである。
【0076】
一般に、適切なQLTの性能を妨害する空間電荷効果を回避するために、所望の前駆体m/z範囲内以外の質量電荷比のイオンの蓄積を防止することが望ましい。RF四重極捕獲電場へ補足的二重極広帯域AC電場を重ね合わせて前駆体m/z枠内のイオンから逸脱する四重極場(動きがデバイスの軸に矛盾する)において特徴的な動きの周波数を有するイオンを共鳴によって排出することによってこれを行う。前駆体イオンの注入および蓄積に適切なRF四重極場の強度は、前駆体を十分に蓄積させず、約3Th(ダルトン/単位電荷)のm/z単離バンドが得られる。したがって、「注入波形」単離は、前駆体m/z比の約±2〜10%の範囲外のm/z比を有するイオンの蓄積を、必然的に、大体、典型的に、唯一、妨害する。
【0077】
2.前駆体m/z単離(図5B)
カチオン注入の終了および「注入波形」電場の任意の印加の中止後から数m秒以内に、所望のm/z分解能および高効率で(前駆体イオンの喪失が最も低い)単離することができるようにRF四重極捕獲電場の強度を増加させることができる。所望の前駆体m/z枠の外側の全ての他の陽イオンがQLTから共鳴によって排出されるようにより高い分解能の「波形」電場を印可する。通常、90%を超える前駆体が保持される。m/z単離中、デバイスの中心部分内にカチオンを封じ込めるために、QLTの前部および後部のDCバイアス電位を、中心部分より約12ボルト高く維持する。
【0078】
3.QLTの前部への前駆体カチオンの再配置(図5C)
前駆体m/z単離の完了後、前部のDCバイアル電位を中心部より1ボルト低く減少させる。カチオンの軸封じ込めを維持するために、前部DCバイアスを中心部および前部の両方に維持する。数m秒後、中心部中の全前駆体イオンが最初に前部に拡散し、再度、ヘリウム原子との衝突が静められることによって保持さされる。
【0079】
4.デバイスの中心部で衝突安定化されて捕獲されるNICI源によって生成されたカチオンの注入(図5D)
一旦前駆体イオンが前部に移動すると、アニオンを注入および捕獲するために、中心部、後部、および後レンズのDCバイアス電位は、「地」電位以上に上昇する。NICI源を0ボルトにバイアスし、それにより、前部を負DCバイアス電圧に保持されて、前駆体カチオンの捕獲が維持され、デバイスの全面に陰イオンのための軸方向の電位壁が作製される。中心部分のDCバイアスは、後部よりも正になり、それにより、デバイスのこの部分にアニオンが蓄積する。この工程は、アニオンが定義付けによって負電荷であり、DCバイアス電位が異符号を有するので、アニオンがデバイスの後部から注入されることを除き、工程1におけるカチオンの注入および蓄積に対応する。
【0080】
アニオン注入中、所望の試薬アニオンに近いm/z比および以前に選択した前駆体カチオンに近いm/z比のいずれも有さないアニオンを共鳴によって排出するために、「注入波形」を印可することが技術的に可能である。しかし、本発明者らは、ECDを促進可能性が最も高いアニオン類は、これらが小さなエネルギー衝突に供された場合でさえも電子脱離を容易に受けるではないかと疑った。したがって、イオン注入に関連する運動励起を超える試薬アニオンの任意の過剰な運動励起により、本発明者らがまさに単離を望むアニオンを喪失し得る。したがって、注入中の試薬アニオンの単離は望ましくない可能性がある。アニオン注入の典型的な持続時間は、NICI源によって得られたアニオンの電流に依存して、1m秒〜1秒の間のいずれか(理想的には、わずか数m秒)である。
【0081】
5.試薬アニオンm/z単離またはm/z排除(図5E)
アニオン注入の終了から数m秒以内に、RF四重極捕獲電場の強度を、最良の達成可能なm/z分解および効率で前駆体を単離することができるように調整することができる。このような試薬アニオンのm/z単離を、図5Eに示す。上記のように、アニオン単離「波形」により、所望の試薬アニオンに近いm/z比および以前に選択した前駆体カチオンに近いm/z比のいずれも有さないアニオンを共鳴によって排出しなければならない。したがって、選択した前駆体のm/z枠に近いm/z比の望ましくないアニオンが排出される。この設定は理想的ではない。しかし、この設定は、この問題を回避するために駆動するQLTおよび/または電圧のデザインを実質的に変化させる必要がある。この実施により、カチオン−アニオン反応の開始前にトラップから最も望ましくないアニオンが確実に排除される。
【0082】
RFのみの四重極捕獲電場におけるイオンの動きの基本的性質は、任意の特定のRF四重極捕獲電場強度で、イオン捕獲のための対応するm/z比の閾値(電場の強度に比例する)が存在することである。このm/z比の閾値を超えるm/z比を有するイオンのみを捕獲することができる。この閾値未満のm/z比を有するイオンが容易に排出される。本発明者らは、しばしば、QLT電極に印加したRF電圧の大きさを簡単な操作を使用して、目的の試薬アニオンのm/z未満の望ましくない種を排除する。
【0083】
アニオンがECDを促進するかどうかの簡単な決定方法は、イオン−イオン反応工程前またはその後に単一周波数の「波形」を使用して、対象とするアニオン種に対応する比較的狭いm/z枠を共鳴によって排出することである。このようなアプローチにより、トラップ中に保持されたアニオンの運動活性化がより少なくなり、それにより電子脱離によるアニオン喪失の可能性が減少するはずである。
【0084】
6.カチオン−アニオン反応およびETD生成物イオンの生成のための前駆体カチオンと試薬アニオンとの混合(図5F)
一旦所望の捕獲された前駆体カチオンおよび試薬アニオン集団が確立されて衝突が静められると、二次電圧を、QLTの両末端レンズに印加する(本発明者らの命名法にしたがって、放射状封じ込めを行うためにQLT電極に印加したRF電圧は一次RF電圧である)。この二次RF電位の効果は、陽イオンおよび陰イオンの両方を拒絶することである。任意の所与のm/zのために、この斥力効果を、m/zと逆に変化する斥力ポテンシャルとしてモデリングすることができ、文献では、擬ポテンシャルまたは有効ポテンシャルと呼ばれる。QLTの同一領域中のアニオンおよびカチオンを同時に捕獲し、それにより、カチオン−アニオン反応を起こすために、トラップセグメントおよび末端レンズに印加したDCバイアス電圧は等しくなる(通常、0.000ボルト)。末端レンズに印加された二次RF電圧によって確立された擬ポテンシャルにより、カチオンおよびアニオンの両方に必要な軸方向の捕獲が得られる。これを、図5Fに示す。
【0085】
本明細書中に記載の全ての研究では、カチオン−アニオン反応の間に100Vの振幅(V)(0〜ピーク)および約600kHz周波数(f)(四重極場の周波数(f)の1/2)を有する二次RF電圧を印加する。これにより、100u未満から2000uを超えるm/z比を有する両方の極性のイオンが有効に同時に捕獲される。軸方向の擬ポテンシャルのみによって末端レンズ周辺で有意に作用し、それにより、アニオンおよびカチオンの両方がデバイスの3つ全ての部分にわたって拡散し、自由に反応する。現在、本発明者らのみがQLTの3つの部分に約±.30ボルトまたはそれ以内にDCバイアスを設定することができる。これらのバイアス電圧を制御するDACの1回の増加は、.063ボルトのバイアス電圧の変化に対応する。300℃でのイオンの平均熱運動エネルギーは約0.030eVであるので、バイアス電位のこれらの小さな相違により、捕獲されたアニオンおよびカチオンが軸方向にいくらか分離され得る。しかし、本発明者らは豊富なカチオン−アニオン反応生成物を認めているので、これは多くで起こらないようである。捕獲されたイオン集団は、おそらく、各セグメント中の空間電荷ポテンシャルを補うのに十分高い。イオン自体が分配されて均一な軸ポテンシャルが得られ、それにより、デバイス軸に沿ってイオンが自由に移動する。より低いm/zイオンが一般に重心軸のより近くに閉じ込められるので、イオンの軸方向の運動性はm/z依存性であり得ることが考えられる。これは、おそらく、前駆体m/zに対するETD生成物イオンの認められた依存性の原因であり得る。したがって、カチオン−アニオン反応期間中に3つのセグメントのDCバイアス電位が約±.001ボルト以内で適合する場合、好ましいであろう。このようなバイアスの相違は、実験温度では無視できるアニオン−カチオン分離が起こるはずである。捕獲されたイオンを常に強制的に軸方向に再分配し、それにより、混合し続けるように、バイアス相違の徴候を繰り返し変化させることによって、カチオン−アニオン分離を回避することが可能である。
【0086】
試薬アニオン集団が大きいほど、より迅速に前駆体イオンが生成物イオンに変換される。適切な大きさの試薬アニオン集団を使用する場合、典型的には、ほとんどの前駆体カチオンを反応させるのに30〜100m秒のイオン−イオン反応期間が適切である。本明細書中に示す結果について、典型的には、約3,000〜30,000個の前駆体イオンが単離された(これにより、前駆体種が3価であり、10,000〜100,000のAGC MS標的値に対応すると予想される)。イオン−イオン反応に利用可能な最初の試薬アニオン数は、おそらく、最初の前駆体イオン集団よりも少なくとも約3〜10倍であった。前に考察するように、ETDを促進する試薬アニオン型の最初の数は、おそらくNICIイオン源に導入された化合物に依存した大きさによって変化した。
【0087】
ETDおよびプロトンイオン生成物イオンは、潜在的に、試薬アニオンとのさらなる反応を受け得る。このような二次反応によって中和され、それにより、任意の1価カチオン生成物が喪失する。これにより、最初の前駆体ペプチドカチオンのN末端およびC末端のいずれも含まない第2世代の生成物イオンが生成される可能性が高い。このような「内部フラグメント」生成物イオンは、得られた生成物イオンのマススペクトルの解釈を複雑にするので、望ましくない。このような二次反応を阻止するための3D RF四重極イオントラップにおける電荷減少(プロトン移動)イオン−イオン実験方法が開発されている(米国特許出願公開番号US2002/0092980およびUS2002/0166958(その開示が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。これらの方法を、2DRF四重極イオントラップ中での試薬アニオンとETD生成物カチオンとの間の二次反応を阻止するように適合させることができると予想される。
【0088】
より長い反応時間、より長いイオン蓄積時間、およびおそらくより高い最小サンプルレベルが必要であるという点でおそらく望ましくないが、大きな前駆体カチオン−試薬アニオン比の使用により、二次生成物イオンの生成がより少なくなるであろう。前駆体カチオン集団が常に生成物カチオン集団よりもはるかに大きいので、アニオンは生成物イオンよりも前駆体イオンと反応する可能性がさらにより高い。前駆体イオン−試薬イオン比を前駆体の蓄積率に依存して自動的に調整することができ、それにより、前駆体イオンが豊富に存在する場合に二次生成物イオンの生成が減少すると考えられる。
【0089】
本発明者らのこの実験では、プロトン移動により、一般に、多数の一次および二次生成物イオンが生成される。例えば、4価前駆体イオン([M+4H]4+)により、プロトン移動反応の成功によって、3価の一次生成物イオン([M+3H]3+)ならびに2価([M+2H]2+)および1価([M+H])の二次生成物イオンが生成される。二次生成物イオンは、ETD生成物イオンと同一のm/z比を有し得るので、その所見を妨害し得る。カチオン−アニオン反応中の一次プロトン移動生成物イオンの継続的共鳴排出により、このような二次プロトン移動生成物イオンが阻止される。これはまた、一次および二次プロトン移動生成物からの二次ETD生成物イオンの生成および所見を防止する。本明細書中に示すデータの収集のために使用していないが、本発明者らは、この手順を首尾よく証明した。
【0090】
7.イオン−イオン反応の終結および生成物イオンの質量分析の準備(図5Gおよび5H)
カチオン−アニオン反応を終了させるために、中心部分のDCバイアス電圧を、末端部分および末端レンズのDCバイアスよりも低くする。2m秒以内に、全カチオンが中心部分に移動し、全アニオンがQLTの末端部分に移動する。次いで、末端レンズプレートに印加した軸方向の捕獲RF電圧(二次RF電圧)を止めて、アニオンを放出させる。これを、図5Gに示す。診断手順のために、これをしばしば使用して、未反応の試薬アニオンのm/zスペクトルを得る。上記のように低下させる代わりに中心部分の相対DCバイアスを完全に小さくすることによるカチオン−アニオン反応の終了によって、これを容易に行うことができる。これにより、中心部分にアニオンが保持され、軸に沿ってカチオンが抽出される。これを、図5Hに示す。
【0091】
生成物カチオンの質量分析の前に、共鳴排出によって、特定のm/z比を有するカチオンを排除することが望ましいかもしれない。有望な排出候補は、未反応の前駆体イオンおよびプロトン移動生成物イオン(電荷減少生成物イオン)であろう。現在実行可能な約10〜20%の前駆体−ETD生成物効率を考えると、適切なETD生成物イオン数を得るための妥当なストラテジーは、直接的にm/z分析をことができ、装置の仕様がm/z割り当ての正確さおよび分解能(スペクトル空間電荷制限[25])を満たす実質的に過剰量(約5〜10倍)の前駆体カチオンを単離することである。しかし、カチオン−アニオン反応工程後、保持されたETD生成物イオンの総数(より詳細には、保持されたえTD生成物イオンの総電荷)は、スペクトル空間電荷制限の範囲内である。
【0092】
保持された未反応の前駆体イオンおよび任意の保持されたプロトン移動生成物イオンに関連する過剰な電荷の排除により、良好なm/z精度、分解能でETD生成物イオンを質量分析することができる。保持されたETD生成物イオンの総電荷はスペクトル空間電荷制限付近であるので、装置の最も高い生成物スペクトルのダイナミックレンジを得ることができる。これにより、微量成分であるETD生成物イオン(すなわち、小ETDピーク)の所見が改良される。
【0093】
8.最終イオン集団の質量分析
従来の様式で、いずれかの選択された極性の最終イオン集団のm/zスペクトルを得る(Bier−Syka,Schwartz等)。イオンを、棒電極中のスロットを介して、連続的に共鳴によってm/zに応じてイオン検出器に排出する。
【0094】
上に列挙して考察した実験の8工程のうち、工程1、2、および8は、CADを使用した標準的なQLT MS/MS実験から本質的に荷電されていない。上記手順を、一般に、より大規模な一連の実験の一部として実施すると理解すべきである。カチオン注入時間を、通常、カチオン注入工程(1)でトラップ中の前駆体カチオンの蓄積率および実験で使用すべき総前駆体カチオン電荷の予め決定した目標量を評価する予備実験から決定する。RF四重極イオントラップ質量分析計中の保存されたイオン電荷(空間電荷)を制御するためのこのアプローチは、当該分野で自動利得制御(AGC)として公知である。適切なAGCスキームを使用して、カチオン−アニオン反応のために使用される試薬イオン集団を制御することができると予想される。本明細書中に示したデータでは、標準的なMS/MS LTQ AGCプレスキャンを使用して、前駆体単離工程後に前駆体カチオン電荷を制御した。選択した試薬アニオンのための自動化制御スキームは依然として実施されていない。
【0095】
上記手順の指示した順序付けは、カチオン前駆体のm/zが試薬アニオンよりも大きいと仮定している。試薬アニオンがm/z単離され、特定の前駆体m/z枠よりもはるかに大きなm/z比を有する場合、カチオンおよびアニオンの注入および単離の順序を逆にすることが望ましいかもしれない。試薬アニオンの至適な単離のための捕獲条件は、より低いm/zカチオンの捕獲と矛盾し得る。この場合、アニオンを最初に注入し、中心部分に集まるであろう。試薬アニオンをm/z単離し、その後、後部分に再配置するであろう。次いで、カチオンを注入し、中心部分に捕獲し、試薬アニオンを共鳴排出することなく前駆体カチオンがm/z単離されるであろう。残りの実験は、上記と同一であろう。
【0096】
上記考察は、RF QLT質量分析計におけるETDの実施に注目している。イオン−イオン型実験のためのRF多重極線形イオントラップにおける電荷徴候に依存しないイオン捕獲を利用する種々の質量分析計システムを、ETD MS/MS実験の実施に適応させる。1つの実施形態では、前駆体カチオンおよび試薬アニオン単離の実施およびETDプロセスのための電荷徴候に依存しない捕獲の実施に適切なRFトラップ装置は、6セグメントトラップであろう。このデバイスは、本質的に、途切れずに配置された3つのセグメントトラップ組(LTQデバイスなど)から構築されたQLTから構成されるであろう。このような「二重の」3セグメントトラップにより、前駆体カチオンおよび試薬アニオンの両方が独立したm/z単離を行うであろう。明らかに、この「二重」トラップの半分のうちの1つは、スキャニングm/z分析器として機能することもできる。前駆体カチオンおよびアニオンのm/z選択をRF四重極線形トラップへのこれらの注入前に行う場合、2または4セグメント(軸方向の捕獲のための二次RF電圧を末端プレートレンズに印加するか、末端部中の並置するロッドの間二重極電圧として印加するかどうかに依存する)は、非常に満足されるであろう。
【0097】
多価ペプチドカチオンとの反応のための単一アニオンの単離と組み合わせた本発明の手順の使用は、プロテオミクスへの質量分析の適用に非常に影響を与える。例えば、McLuckey等によって定義されたプロトン移動実験の全コレクション(例えば、荷電状態の減少、気相集中、イオンパーキングなど)は、現在、タイムスケール許可時間依存操作およびクロマトグラフィを使用した同一の質量分析計においてETDおよびCADとタンデムに利用可能である。このような実験の例には、プロトン移動反応を介した選択された荷電状態への多価カチオンの変換が含まれる(イオンパーキング)。シグナルが1つの荷電状態に集中した後、カチオンを電子移動を誘起するアニオンに供して、ETD生成物イオンを生成する。選択されたカチオンが多価の場合、プロトン移動アニオンの注入によって、さらなる荷電状態の減少工程を簡単に行うことができる。正味の結果は、種々の多価前駆体の事前の集中に由来する1価または2価のc生成物およびz生成物(線形イオントラップの分解能の範囲内)を含むマススペクトルである。明らかに、上記のように、最初のイオンパーキング工程を行うことなく、ETD生成物イオンの荷電状態の減少が容易に行われる。
【0098】
いくつかの場合、特にタンパク質または巨大なペプチドを使用して、以下の順序で質量分析計を操作することができる:(1)気相集中(イオンパーキング)、(2)インタクトな前駆体のETD、(3)多数の多価フラグメントイオンを生成するためのインタクトな前駆体のCID、その後の(4)ETDへの連続的曝露。得られたETDスペクトル(工程4から形成されたもの)は、前駆体bおよびyイオン由来の配列情報を示すであろう。このようなストラテジーは、受け入れられつつある「トップダウン」タンパク質配列決定法(工程2)の強度をより従来の「ボトムアップ」アプローチ(工程3および4)の強度と組み合わせるであろう。一定範囲に、工程3(CIDは一定の切断(例えば、ProのN末端およびHisのC末端)を好むことが公知である)は、従来の「ボトムアップ」プロテオミクスで使用された酵素消化に類似しているが、少し異なっている。すなわち、各b生成物、y生成物由来のMS3スペクトル(MS/MSスペクトル)の獲得により、タンパク質の分子量およびETD生成物スペクトルが公知の配列情報が得られる。
【0099】
[実施例1]
実施例1:ポリペプチドの電子移動解離のためのアニオンの使用
1つの実施形態によれば、FC−43(ペルフルオロトリブチルアミン、PFTBA)、サルファヘキサフルオライド(SF)、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン(PDCH)ヘキサフルオロベンゼン(C)、およびアントラセンをNICI(陰イオン化学的イオン化)源に導入して、実験用アニオンを生成した。全ての場合、供給源で作製されたアニオンを、標準的なペプチド前駆体イオンと反応させた場合に、少なくともいくつかのETD生成物を生成した。FC−43(電子衝撃イオン源を備えた質量分析計のために使用した標準的なm/zの較正物)を供給源に導入した場合、非常に低い前駆体−ETD生成物変換効率でいくつかのcイオンおよびzイオンが生成された。その後の実験では、上記分子を個別にイオン源に導入し、全てにより本発明者らの標準的な前駆体イオン(3価のリンペプチド(LPISASHpSpSKTR)3+(配列番号1))が広範なc型およびz型に断片化された。前駆体−ETD生成物変換効率は、SFおよびPDCHについては約0.1〜1%の範囲であり、(C)については約0.5〜5%の範囲であり、アントラセンおよび9,10ジフェニルアントラセンについては約5〜20%の範囲であった。
【0100】
アントラセン由来のアニオンを使用して認められた前駆体−ETD生成物変換効率ほど高い前駆体−ETD生成物変換効率が得られる他のアニオン供給源は、CIイオン源中の「残存」または「バックグラウンド」ガスであった。この実験の前に、イオン−イオン反応が開始された場合に存在する漸増数の前駆体イオンは、ETD生成物数(絶対数)を増加させなかった。イオン−イオン反応期間を通して、存在する前駆体カチオンよりもさらに多くのアニオンがイオントラップ中に存在すると考えられるので、これは興味深い。さらに、これをイオン−イオン反応後に検証し、アニオン集団は枯渇していなかった。これらの条件下では、ETD生成物の生成数は、最初の前駆体カチオン数にほぼ比例するはずである(一次速度理論を適用すべきである)。実際、プロトン移動生成物は、最初の前駆体イオン数にほぼ比例して生成されるようであった。ETD生成物がアニオン混合物の微量成分との反応によって生成された場合、アニオンの微量成分はイオン−イオン反応期間に枯渇し、所見を説明することができる。
【0101】
1つの可能性は、仮定した微量成分アニオンがETD生成物イオンの生成を担うイオン源中の残存バックグラウンドガス(汚染)に由来することであった。この実験では、残存量のFC−43、SF、PDCH、およびCならびにCIイオン源における電子捕獲によってイオンが生成される種々の未知のバックグラウンド化合物が存在し、これらを試薬アニオンとして使用した。「バックグラウンド」化合物由来の豊富な試薬アニオン集団を使用した場合、ETD生成物イオンの生成数は最初の試薬イオン数に比例するようになった。実験の前駆体−ETD生成物効率も実質的に改良した。
【0102】
イオントラップ由来の選択された狭いm/z範囲のイオンを共鳴によって排出することができるように手順を修正し、それにより、イオン−イオン反応期間中に存在するものから特定の試薬イオン種が含まれるか排除され得る。ETD生成物を生成するためのイオン源「バックグラウンド」化合物由来の顕著な試薬アニオンの設備を、この様式で探索した。イオン−イオン反応期間中のm/z181(モノアイソトピックm/z)を有する試薬アニオン種の排除により、実質的に減少しなかったプロトン移動生成物の生成と比較して3〜5という因数によってETD生成物の生成が減少した。この種は、NICIイオン源中でのC・−およびメタン(CH)との間のイオン分子反応によって形成されたCCHであると考えられる。さらに、アントラセン由来の試薬アニオン(C1410・−およびCHのイオン分子反応に由来する)もETDを促進する。これらの試薬アニオンを生成するためにアントラセンをNICI源に導入する場合、最初の前駆体カチオン数と比例してETD生成物イオンが生成される。イオン−イオン反応期間中に印加したRF電荷の変化を伴うプロトン−ETD生成物比の変化も認められた。
【0103】
[実施例2]
実施例2:電子移動解離質量分析装置の修正および操作によるポリペプチド配列分析
修正ナノフローエレクトロスプレーイオン源(ESI)を備えた市販のQLT(Finnigan LTQ質量分析計(Thermo Electron,Waltham,MA))を使用して全実験を行った(図2〜4を参照のこと)。LTQを、装置の後方に配置したFinnigan 4500CI源(Thermo Electron)に適合するように修正した。アニオンビームを、八重極イオンガイドに印加したRF電圧のオン/オフ制御によってゲーティングし、CI源からQLTにアニオンを輸送する。図5A〜5Hは、3セグメントデバイスのいずれかの末端に配置したESI源およびCI源を備えた線形イオントラップの略図を示す。イオン/イオン反応の生成物を生成および分析するために、装置制御ソフトウェア(ITCLコード)を、5A〜5Hに図示したスキャン事象を標準的なQLT MSnスキャン機能に組み込むように修正した。
【0104】
サンプルの導入
多価(プロトン化)ペプチドを、ESIによって生成した。1pmol/μlのペプチドを含む40%アセトニトリル水溶液(0.1%酢酸を含む)を、SilicaTip(商標)融解石英エミッタ(30μmチップ、New Objective,Woburn,MA,USA)に注入した。サンプルは、アンギオテンシンI(DRVYIHPFHL;配列番号2、Sigma−Aldrich)および研究所内合成リンペプチド:LPISASHpSpSKTR(配列番号1)、APVAPRPAApTPNLSK(配列番号3)、およびDRpSPIRGpSPR(配列番号4)を含んでいた。メタンバッファーガス(MG Industries,Malvern,PA)と共に負CIを使用して、メタン(Aldrich)の陰イオンを生成した。アントラセンを、融解石英制限カラムに接続したガスクロマトグラフオーブンおよび加熱トランスファラインアセンブリ(Thermo Electron)からなる間に合わせの加熱バッチ注入口を介してCI源に導入した。(図4を参照のこと)
【0105】
クロマトグラフィ
Agilent(Palo Alto,CA)1100シリーズのバイナリHPLCシステムを、nHPLC−マイクロ−ESI−MS(nHPLC−μESI−MS/MS)によるオンラインペプチド分離および分析のためのQLT質量分析計に接続した。
【0106】
合成ペプチド分析
10の合成ペプチド(1〜100fmol)の混合物を、分析カラムにポリテトラフルオロエチレンの管類(長さ0.06in×直径0.012in(1in=2.54cm)、Zeus Industrial Products,Orangeburg,SC)と端が接続されたポリイミドコーティングした融解石英マイクロキャピラリー「プレカラム」(長さ360μm×直径75μm、Polymi−cro Technologies,Phoenix)にロードした。このカラム(長さ360μm×直径50μm)を、5cmの5μm C18逆相充填剤(YMC、Kyoto)で作製されており、組み込みレーザー引き抜きエレクトロスプレーエミッタチップを具備していた(Martin等,(2000)Anal chem.72:4266−4274)。ペプチドを以下の勾配を用いて60nl/分の流速で溶離した:0〜100%のBを17分、100〜0%のBを18分(A、100mM酢酸水溶液(Sigma−Aldrich);B、100mM酢酸の70:30アセトニトリル溶液(Mallinckrodt/水))。データ依存性設定下でスペクトルを記録した。全スキャンマススペクトル(300〜600m/z)および全スキャンマススペクトル中の最も豊富なイオンに関して記録した3つのETD MS/MSスペクトルの獲得によって装置をサイクル運転させた(1秒/サイクル)。
【0107】
複合混合物の分析
300μgアリコートの精製核タンパク質を、トリプシン(Promega、1:20、酵素/基質)を含む100mMのNHHCO(pH8.5)にて37℃で一晩消化した。溶液を酢酸で酸性化し、乾燥させた。ペプチドを、メチルエステルに変換させた(Ficarro等,(2002)Nat.Biotechnol.20,301−305)。凍結乾燥によって試薬を除去し、サンプルを、MeOH、MeCN、および0.011%酢酸を含む混合物に再構成した。6cmのPOROS 20 MC金属キレートアフィニティクロマトグラフィ充填剤(Per−Septive Biosystems,Framingham,MA)を充填したFe3+活性化固定金属アフィニティクロマトグラフィカラム(長さ360μm×直径100μm)への半分のサンプルのローディングによってリンペプチドを富化した。15μlの250mMアスコルビン酸(Sigma)の使用によってC18マイクロキャピラリープレカラム(上記)にてリンペプチドを溶離した。プレカラムと端を接続し(上記)、リンペプチドを以下の勾配で溶離した:0〜60%のBを60分、60〜100%のBを70分。全スキャンMS中の5つの最も豊富なイオンをMS/MSのために選択したこと以外は、上記のようにスペクトルを記録した(ETD、サイクル時間は1.5秒)。
【0108】
結果
図6は、2リン酸化合成ペプチドLPISASHpSpSKTR(配列番号1)由来の(M+3H)+3イオンについて記録した単回スキャンETDマススペクトルを示す。このスペクトルの総獲得時間は300m秒であった。考察すべき陽イオンは、1pmol/μlレベルでサンプルを含む注入溶液のESIによってQLTの前部に生成された。得られた全スキャンスペクトルは、(M+3H)+3イオンと(M+2H)+2イオンとの混合物をそれぞれm/z482および722で含んでいた。電子移動反応のための試薬アニオンは、QLTの後部に接続したCI源中に生成された。1 torr(1torr=133Pa)の圧力での70eV電子とのメタンガスの衝撃により、正電荷の試薬イオン(CHおよびC)および熱電子または熱電子付近の集団が生成された。アントラセン(C1410)がCI源に蒸発された場合、生成された主なアニオンは、それぞれ式C14およびC1411を有する偶数電子種(m/z177および179)である。
【0109】
14およびC1411がLPISASHpSpSKTR由来の(M+3H)+3イオンと反応する場合(約50m秒間)、これらは塩基および1電子還元薬の両方として機能する。プロトン引き抜きにより、それぞれm/z722および1443で集中したイオンクラスターで認められた(M+2H)+2および(M+H)+生成物が生成される。(M+3H)+2および(M+3H)+に対応する組成物を有するイオン集団もこれらのクラスター中に存在する。これらのイオンクラスターの単離および衝突活性化により、奇数電子イオン成分由来のc型およびz型のフラグメントイオンの混合物ならびに偶数電子イオン成分由来のb型およびy型のフラグメントイオンの混合物が得られる(データ示さず)。等張分配から、本発明者らは、30〜50%の電荷移動生成物イオンは依然として解離した前駆体イオンと非共有結合すると評価する。これらは、CADによって容易に解離される。
【0110】
c型およびz型のフラグメントイオンは、電子移動によっても直接生成される。図6では、このサンプル由来の推定されるc型およびz型の生成物イオンのm/z値を、ペプチド配列の上下に示す。認められた値に下線を引き、これは、全生成物イオン電流の31%である。c型およびz型のイオン系列の4つのメンバーのみが失われることに留意のこと。これらのうちの2つは、豊富な(M+2H)+2種に対応するイオンクラスターと重複するm/z値で起こる。他の2つのc型およびz型のフラグメントイオンは、その形成がProの環系におけるN−CH結合の切断を含むので、生成されない。この結合が破壊された場合、新規のフラグメントは、環中の他の原子と結合したままである。したがって、ProのN末端およびC末端をそれぞれ含むc型およびz型の生成物イオンの形成は、ECDスペクトルまたはETDスペクトルのいずれかで認められない。
【0111】
クロマトグラフタイムスケールでのETDスペクトル作成の実現可能性を証明するために、本発明者らは、nHPLC−μESI−MS/MSによって1〜100fmolレベルで10種の合成ペプチドを含む混合物を分析した。それぞれDRVYIHPFHL(配列番号2;100fmol)、APVAPR−PAApTPNLSK(配列番号3;10fmol)、およびDRpSPIRGpSPR(配列番号4;1fmol)についてm/z433、524、および434で(M+3H)+3イオンに対応するシグナルを含むイオンクロマトグラムを図7Aに示す。ピーク幅は、10〜14秒の範囲である。データ依存モードで操作する装置を使用して、各サンプルについて複数の単回スキャンETDスペクトル(この場合、500〜600m秒/スペクトル)を記録した。2つのペプチドDRVYIHPFHL(配列番号2)およびDRpSPIR−GpSPR(配列番号4)についての単回スキャンETDスペクトルを、それぞれ図7Bおよび7Cに示す。アンギオテンシン(DRVYIHPFHL、配列番号2)について、18種の可能なc型およびz型の生成物イオンのうちの14種がEDTスペクトル中に存在する(図7B)。いずれかに存在しないものは、これらがPro環系の切断によって形成されるので、非常に低いm/z値で起こるか、認められない。1fmolの2リン酸化ペプチド(DRpSPIRGpSPR、配列番号4)で記録された単回スキャンETDスペクトルを、図7Cに示す。このサンプルレベルでさえも、スペクトルは、18種の可能なc型およびz型のフラグメントイオンのうちの12種を含む。6種の喪失のうちの4種は、2つのPro残基の5員環系の切断に関与する。上記の両ペプチドは、認められたフラグメントイオンから容易に配列決定される。
【0112】
2リン酸化ペプチド(ERpSLpSRER、配列番号5)の(M+3H)+3イオン(m/z412)から作成した従来のCADおよびETD MS/MSスペクトルを図8に示す。両スペクトルを、ヒト核タンパク質の典型的な消化において生成されたリンペプチドのnHPLC分析中に得た。全ペプチドを、メチルエステルに変換し、MSによる分析前に固定金属アフィニティクロマトグラフィに供した。低エネルギーCADスペクトルで認められた断片化(図8A)は、Ser残基の側鎖由来の1つまたは2つのリン酸分子の喪失に対応するイオンが占める。水またはメタンのさらなる喪失によって形成された豊富なイオンも認められる。ペプチド骨格の切断に由来するフラグメントイオンは、0.5%未満の相対イオン存在量で存在しないか存在する。したがって、配列分析は不可能である。
【0113】
ETDスペクトルの情報量(図8B)は、低エネルギーCADスペクトルで認められたものと劇的に異なる。リン酸の喪失によって生成されるイオンは存在せず、ペプチド骨格に沿って断片化が支配的に起こる。14種の可能なc型およびz型の生成物イオンのうち、13種がスペクトル中に見出される。これらは、配列ERpSLpSRER(配列番号5)を定義するのに十分過ぎるほどである。
【0114】
考察
図6、7、8に示す断片化の質および範囲、ならびに検出されたサンプルレベル(図7C)は、今まで何百ものペプチドに関して記録されたスペクトルで認められたもの(PTMを使用したスペクトルが含まれる)に特有である。これらのスペクトルを手作業で解釈するか(de novo)、これらを使用し、SEQUESTなどのアルゴリズムを使用してデータベースを検索し、ペプチド配列を生成することができる(Eng等,(1994)J.Am.Soc.Mass Spectrom.5,976−989)。典型的には、非リン酸化トリプシンペプチドのCADタンデムマススペクトルにより、2.0〜4.0の相互相関スコアが得られる。ETDを使用して、PTM2を使用するか使用しないトリプシンペプチドのタンデムマススペクトルにより、3.0〜6.5の範囲の相互相関スコアが得られる。一旦SEQUESTをETD断片化に典型的な特徴を考慮するように適応させると、これらのスコアがさらに増加する可能性が高い。
【0115】
本調査の副産物は、補謝状放出QLT質量分析計に基づいたイオン/イオン装置の開発である。従来のQLTデバイスは、軸方法にイオンを封じ込める可能性を使用する。したがって、一極性のイオンのみをトラップの任意の所与の領域またはセグメント内に封じ込めることができ、イオン/イオン実験のために市販のQLTの使用が不可能である。本明細書中に記載の修正QLTでは、RF閉じ込め磁場によってカチオンおよびアニオンが完全に同時捕獲される。QLTの末端レンズへのRF電場の重ね合わせによって課された二次RF場により、必要な電荷徴候に依存しない軸方向の捕獲が得られた。
【0116】
QLT装置は、イオン/イオン実験の実施のためのQIT装置を超えるいくつかの固有の利点を有し、これらには、より高いイオン能力(30倍)およびより高いイオン注入効率(10〜30倍)が含まれる(39)。図5A〜5Hに示すように、QLTセグメントおよび末端レンズに印加されたdcバイアス電位の操作により、アニオンの注射および単離中に前駆体カチオンおよび試薬アニオンが軸方向に分離される。イオン/イオン反応の開始および終了を、これらのdcバイアス電位の調整によって制御する。2つの異なるイオン源の使用によってデバイスのいずれかの末端から異なるイオン型を注入することができるので、装置の物理的幾何学も有利である。さらに、アニオンをRF四重極場のヌル軸に沿って注入するので、アニオンは最小の運動励起を受ける。この様式で注入されたアニオンは、ヘリウムバッファーガスとの衝突の安定化の間に電子脱離を受ける可能性が低い。最良のアニオン電子供与体は未熟な電子脱離にも影響を受けやすいと予想されるので、アニオンの「柔らかい」注入は、本研究のためのQLTの選択における重要な検討材料であった。
【0117】
本研究のために修正した市販のQLT装置を、イオン/イオン反応を含む実験のために操作しなかった。本目的のためにデザインしたさらなる線形トラップ装置は、複数のRF、ac、およびdc場の重ね合わせのためのさらなるセグメントおよびコントロールを確実に含む。これらの機構により、前駆体および試薬イオンクラスターの完全に独立した単離を含むさらより広範なイオン/イオン操作を実施可能である。さらに、本発明者らは、ETD生成物が、電荷を中和するかさらなるフラグメントが形成されるその後のイオン/イオン反応を受けるのを防止する技術の実施を想定する。
【0118】
QLTにおけるCAD、ETD、およびプロトン移動(電荷減少)を実施するためのタイムスケールが短いので(数十m秒)、複数のイオン反応工程を、各MS/MSまたはMSn実験に組み込むことができる。「ボトムアップ」プロテオミクス型実験(タンパク質混合物の酵素消化によって生成されたペプチドのデータ依存HPLC MS/MS分析)の文脈では、本発明者らは、ETDは平均の長さが20〜25残基のペプチドを生成するLys−CまたはAsn−Nなどのタンパク質分解酵素の使用を促進すると予想している。ESIを使用して、このようなペプチドを、3個〜6個の電荷を有し、それによりETDの理想的な候補であえる前駆体イオンに変換する。ETD後、本発明者らは、質量分析前にc型およびz型のフラグメントイオンが主に+1の荷電状態であることを確実にするためのイオン/イオン、プロトン引き抜き反応(電荷減少)の使用を予想する。
【0119】
予備段階の結果に基づいて、本発明者らは、MS3実験を使用したプロトコールは小タンパク質または巨大ペプチドからの配列情報の入手に理想的でありうると考える。典型的なMS3実験は、以下の工程を含み得る:(i)ESIによってイオン化されたタンパク質で認められる荷電状態の最初の不均一な混合物を単一の荷電状態(前駆体イオンm/z)に変換するための気相集中(「イオンパーキング」を使用したプロトン移動による電荷の減少)、(ii)制限された巨大生成物イオン組を作製するための前駆体イオンのm/z単離およびCAD(Asp残基のC末端切断によって生成されたb型イオンまたはPro残基のN末端の切断によって形成されたy型イオン)、(iii)単一のCAD生成物イオンのm/z単離およびETD、および(iv)第2世代の生成物イオンのm/z分析。得られたETD MS3スペクトルにより、単一のb型またはy型の中間体生成イオン(MS2生成物イオン)由来の配列情報が得られるであろう。一連のこのようなMS3実験により、全ての主な中間体タンパク質イオンについての配列情報が得られるであろう。
【0120】
上記のプロトコールでは、第1の解離工程(CAD)は、従来のボトムアッププロテオミクス分析における酵素消化工程と類似する。MS3スペクトルは、トリプシンペプチドから得たMS2スペクトルに対応する。しかし、提案されたMS3プロトコールでは、b型またはy型の生成物イオンの各MS3スペクトルにより、分子量が公知のタンパク質の一部についての配列情報が得られる。
【0121】
[実施例3]
実施例3:電子移動解離質量分析を使用したホスホプロテオーム分析
リン酸化は、細胞内シグナル伝達ネットワークの基礎をなすが、タンパク質リン酸化は低レベルで起こり、リン酸化ペプチドは従来の衝突活性化解離(CAD)MS/MSを使用して配列決定することが困難であるので、タンパク質リン酸化の大規模分析は依然として困難である。以下を使用するプロトコールを本明細書中に記載する:(1)巨大な(約15〜30残基)多価ペプチドの混合物を生成するためのLys−C、(2)リンペプチド富化のための固定化金属アフィニティクロマトグラフィ(IMAC)、(3)(リン酸塩を喪失することのない)リンペプチド断片化のための電子移動解離、および(4)データベース検索を容易にするための新規のソフトウェアアルゴリズム(OMSSA)。全酵母溶解物の分析および2つの異なる細胞系におけるリンタンパク質の差分発現の表示(リンプロファイリング)についてのこのアプローチの有用性を証明する。
【0122】
方法
出芽酵母由来のタンパク質をLys−Cまたはトリプシンで消化し、得られたペプチドを塩酸メタノールでメチルエステルに変換した。差分表示実験のために、2サンプル由来のペプチドを、それぞれd−およびd−メチルエステルに変換し、分析前に混合した。次に、IMACによってリンペプチドを富化し、(イオン/イオン反応のためのさらなるイオン源を受け入れるように適合させた)改変FinniganLTQにおけるnRP−HPLC−μESI−MS/MSによって分析した。装置をデータ依存モードで操作して、ETDスペクトルまたは連続的CAD/ETDスペクトルのいずれかを得た。リンペプチドカチオンの前部から線形イオントラップへの注入およびその後の後CI源から注入したフルオランテンアニオンとの短時間の反応(約65m秒)によってETDスペクトルを得た。
【0123】
結果
ETDによってペプチド骨格の断片化が促進されて、c/zイオン対が形成され、翻訳後修飾がインタクトなままである。ETDスペクトルを使用したデータベース検索を、特にリンペプチドについて、新規の確率ベースのプログラム(オープン質量分析検索アルゴリズム(OMSSA))の使用によって本発明者らの研究所で至適化する。
【0124】
今日まで、酵母ホールセル溶解物に対してIMAC富化ストラテジーを使用して、1回の90分の実験およびその後の1時間のデータベース検索によって高い信頼性で約1,000個のリンペプチドを同定した。この予備データは、衝突活性化解離後に約1000個のリンペプチドが認められた酵母に関する初期研究から得た結果(CAD MSの際の特徴的なリン酸塩のニュートラルロス)と十分に一致するが、SEQUESTによって216個のペプチドしか同定することができず、そして/または手作業による解釈によって確証することができない。
【0125】
[実施例4]
連続的イオン/イオン反応
上記のように、一定のアニオンは、主にETD試薬またはPTR試薬のいずれかとして作用する。いずれかのカテゴリー由来のアニオンへのカチオンの曝露により、これらの別々の反応を、個別且つ首尾よく行うことができる。例えば、多価ペプチド前駆体イオン(例えば、z>4)を、ETD誘起アニオンを使用して解離し、その後これらの試薬を除去し、第2のPTR誘起アニオン型を導入することができる。生成物種の荷電状態が制御された様式で減少するようにこの第2の反応の持続時間を調整することができる。すなわち、ETDによって+10前駆体ペプチドを解離して、+1〜−9の範囲の電荷を有するフラグメントを得ることができる。勿論、このような多価生成物の同位体ピークのm/z分解能は問題があり得るので、ETD生成物が主に+1荷電状態に変換されるように第2のPTR反応の持続時間を調整することができる。正味の効果は、種々の荷電状態で最初に精製されたETDフラグメントをより低い荷電状態に変換し、それにより、スペクトルの解釈を簡潔にすることである。
【0126】
明確に、ETDおよびPTRの他の配列または連続は、単独または他のイオン操作方法(例えば、活性化またはm/z選択)と協力して有用である。いくつかの場合、ETDまたは他のイオン操作技術の前のカチオン前駆体の電荷を検証させることが有利であり得る。
【0127】
方法
FinniganLTQ線形イオントラップ質量分析計を、ファクトリーナノスプレー源ペプチドイオン生成に対抗するデバイスの背面に配置した化学イオン化源を受け入れるように適合させた。化学的陰イオン化(メタンバッファー)を使用して、フルオランテン、安息香酸、および六フッ化硫黄のアニオンを生成した。フルオランテンおよび安息香酸を、ガスクロマトグラフオーブンおよび加熱トランスファラインからなるバッチ注入口を介して導入した。六フッ化硫黄を、リーク弁を介して直接供給源(ガスである)に導入した。電荷徴候に無関係の捕獲のために、LTQエレクトロニクスを、第2のRF捕獲電圧をQLTの末端レンズに重ね合わせるように修正した。
【0128】
結果
修正線形イオントラップ質量分析計を使用して、本発明者らは、イオン/イオン反応を使用した多価ペプチドの直接的調査を証明する。ここに、+7ACTHペプチド(SYSMEHFRWGKPVGKKRRPVRVYP7+;配列番号72)(m/z 420)を最初に単離し、フルオランテンのアニオンと約75m秒反応させた。この反応後に得られたスペクトルを、図9に示す(上のパネル)。ペプチドはほとんど全ての骨格結合で解離するが、多くのフラグメントは、ここで使用した質量分析計の分解能を超えた電荷を有する(挿入図を参照のこと、点で印をつけたm/z)。この問題を回避するために、本発明者らは、連続的イオン/イオン反応を実施した。この実験では、ETD反応および過剰なフルオランテンアニオンの排除後、得られた多価生成物イオンを偶数の六フッ化硫黄アニオンと反応させる(約200m秒)。この第2の反応(プロトン移動、PTR)は、1プロトン化フラグメントイオンのみを含み、種々のc型およびz型生成物イオンシグナルを1つの荷電状態に集中させるために生成物スペクトルを簡素化する働きをする。正味の結果は、前駆体ペプチドのN末端配列およびC末端配列に特有の同族列の1価のc型およびz型のフラグメントイオンの生成である(線形トラップのm/z範囲の限度は2000である)。上の挿入図中に示す多価フラグメントの排除に留意のこと。
【0129】
図10Aおよび10Bでは、本発明者らは、この場合のみPTRアニオンとして六フッ化硫黄よりもむしろ安息香酸を使用した同一の実験を行った。本発明者らは最初のETD反応の持続時間も減少させたことに留意のこと。さらに、ETD実験後に生成された多価フラグメントイオンは、第2のPTR反応後に電荷が減少し、主に+1荷電状態に集中する。反応時間が延長される場合、多価フラグメントは、より低い荷電状態に優先的に集中する(150m秒の安息香酸との反応の場合、主に1価の生成物)(図10B)。明らかに、ETD反応後により高い分子量のc型およびz型のフラグメントイオンが生成され、不運なことに、プロトン移動反応の簡素化によってそのm/z値が本発明者らの質量範囲の限度を超えて増加する。装置のm/z分解能の上限と適合するほとんどの2価および1価のフラグメントイオンが得られるPTR反応時間の選択によって範囲を拡大することができる。質量分析器のm/z分解能と釣り合った生成物の荷電状態が得られるようにPTR反応持続時間を調整することができる。あるいは、このイオン/イオンデバイスの他の質量分析器とのハイブリッドも、この質量範囲の限度を拡大する(例えば、TOF、ICR−MS、orbitrapなど)。
【0130】
[実施例5]
実施例5:LTQ−ETD装置の改変、条件、および操作
修正ナノフローエレクトロスプレーイオン化(ESI)源を具備したFinniganLTQ質量分析計(Thermo Electron,San Jose,CA)を使用して全実験を行った(図2を参照のこと)。装置の背面に配置したFinnigan4500CI源(Thermo Electron)に適応するようにLTQを改変した。八重極イオンガイドに印加したRF電圧のオン/オフ制御によってアニオンビームをゲーティングし、CI源からQLTにアニオンを輸送する。イオン/イオン反応の生成物を生成および分析するために、所望のスキャン事象を組み込むように装置制御ソフトウェア(ITCL)を改変する。
【0131】
合成リンペプチドの調製
リンペプチド標準を、衝突活性化の際に特徴的なリン酸喪失の存在に基づいて以下の種々の現行の研究計画から選択した:RLPIFNRIpSVSE(配列番号6)、pSRpSFDYNYR(配列番号7)、RpSpSGLpSRHR(配列番号8)、RSMpSLLGYR(配列番号9)、GpSPHYFSPFRPY(配列番号10)、DRpSPIRGpSPR(配列番号11)、LPISASHpSpSKTR(配列番号1)、RRpSPpSPYYSR(配列番号12)、SRVpSVpSPGR(配列番号13)、APVApSPRPAApTPNLSK(配列番号14)(「p」をリン酸化部位の前に置く)。標準的なFmoc固相化学(AMS 422マルチペプチド合成機、Gilson,Middleton,WI)を使用して合成を行った。
【0132】
ヒト核タンパク質の精製および消化
HEK細胞をT−150フラスコ(150cm)中でコンフルエントまで成長させ、一晩血清を枯渇させた。トリプシン/EDTAを使用して細胞をばらばらにし、無血清培地で1回洗浄し、10mLの2つのアリコートに分けた(2×10細胞/mL)。第1のアリコートを、10μMのホルスコリンを含むDMSOと共に37℃で5分間インキュベートした。コントロール細胞を、10μLのDMSO(最終濃度は0.1%)のみを使用すること以外は同様に処理した。再懸濁細胞をペレット化し、以下を含む低張緩衝液中での震盪によって溶解した:10mM HEPES(pH7.9)、10mM KC1、1.5mM MgCl、2mM EDTA、2mM EGTA、2mM NaVO、2.1mg/mL NaF、1nM オカダ酸、0.5mM PMSF、0.5mM AEBSF、2μg/mLロイペプチン、2μg/mLペプシンA、2μg/mLアプロチニン、20μg/mLベンズアミジン。核ペレットを、低速遠心分離によって単離し、TRIzol(登録商標)試薬(Invitrogen/Gibco,Carlsbad,CA)に再懸濁した。RNAおよびDNA画分を破棄した。タンパク質ペレットを、塩酸グアニジン/エタノールで洗浄し、1%SDS中での超音波処理によって再懸濁した。懸濁液を、3500MW Slide−A−Lyzer(登録商標)カセット(Pierce,Rockford,IL)中で2Lの1%SDSに対して透析する。BCAアッセイ(19、20)によって決定したところ、タンパク質濃度は約6mg/mLであった。コントロール由来の約300μgの総タンパク質に対応するアリコートを、10mM NHHCOで0.1%SDSに希釈し、100℃で10分間加熱した。タンパク質を、トリプシン(1:20)にて37℃で一晩消化した。ペプチドを、酢酸でpH3.5に酸性化した。ホルスコリン処理細胞由来の細胞を分析しなかった。
【0133】
ヒト核リンペプチドの分析−ETD
反応を2回行うことによってヒト核ペプチドをメチルエステルに変換した。さらに、ペプチドを、同量のアセトニトリル、メタノール、および0.01%酢酸水溶液中で再構成し、250mMアスコルビン酸(Sigma,St.Louis,MO)を使用した2時間の逆相分離によってIMAC溶離を行った(上記)。フルオランテンを、融解石英制限カラムに接続したガスクロマトグラフオーブン(120℃に設定)および加熱トランスファラインアセンブリ(Thermo Electron,San Jose,CA)からなる間に合わせの加熱バッチ注入口を介してCI源に導入した。メタンバッファーガス(MG Industries,Malvern,PA)を使用して、フルオランテン(Aldrich,St.Louis,MO)の陰イオンを生成した。CADおよびETD断片化法の直接比較のためのITCLによって得た方法を使用したデータ依存設定下でスペクトルを記録した。装置を全MSスキャンを行うように指示し、その後に5番目までの最も豊富なm/z値のCADおよびETDを変化させた。自動利得制御標的を、CADについては20,000、ETDについては50,000に設定した。アニオンを、25m秒間注入し、ペプチドと55m秒間反応させ、その後、生成物イオンを排出した。
【0134】
自動化ペプチド同定
CADのために、SEQUEST(9)(v.27,rev.9(c)1993)およびTurboSEQUEST(v.27,rev.11(c)1999−2002)を、これらの一連の実験を通して使用した。ETDデータのために、cイオンおよびzイオンをスコアリングするためにアルゴリズムを修正した(TurboSEQUEST v.27 rev.11,(c)1999−2003"Sequest27_a_mod")。示した配列を、対応するスペクトルの手作業の解釈によって確証した。
【0135】
結果
ヒト核リンペプチド分析−ETD
CADタンデムMSによるヒト核抽出物由来のリンペプチドを同定する本発明者らの最初の試みにより、数百種のリン酸化ペプチドが検出されたが、不適切なペプチド骨格の断片化により約10種のリンペプチド配列のみが解釈された。ヒト核抽出物由来の最も豊富なリンペプチドは、そのCADスペクトルがリン酸、水、およびメタノールのニュートラルロスによって特徴づけられる2リン酸化ペプチド(m/z412.6)であった(図11A)。別の分析では、本発明者らは、この同一サンプルの分析のためにETDタンデムMSを使用した。この同一ペプチドから得られたETDスペクトルは、これらのニュートラルロスを含まないが、むしろ、完全なc型およびz型のイオン系列が明らかとなり、それにより、ヒト核スプライシング因子(アルギニン/セリンリッチ3タンパク質)由来のeRpSLpSReRとしてリンペプチドを同定することができる(図11B)。小文字の「e」は、グルタミン酸のメチルエステル変換を示し、「p」はリン酸化セリン残基を示す。
【0136】
2つの方法(CADおよびETD)を直接比較するために、本発明者らは、リンペプチドの溶離時に結果的にCADおよびETDが変化する第3の実験を行った。これにより、ピーク強度の相違および別のサンプルの間の実験のばらつきを制御するためにCADスペクトル直後にETDスペクトルを得ることができた。m/z412.6で類似のCAD断片化パターンが再度認められた(データ示さず)。さらに、図12Aは、強いニュートラルロス(不十分な骨格断片化によってこのペプチドの配列分析が妨害された)を有する4価ペプチドのこの実験から記録したCADスペクトルを示す。対応するETDスペクトル(その後のスキャン)の解釈により、これが4リン酸化ペプチドであることが明らかとなった(図12B)。z3おおびc9の例外を有する各生成物イオンが存在した。プロリン環系によりアミド窒素とα炭素との間の切断が全く認められなかったので、これらのイオンは検出されなかった。
【0137】
100のリンペプチドにわたるETDによるヒト核リンペプチドの再分析後、表2は、ETDタンデムMSおよびその後のSEQUEST(コンピュータスコアリングアルゴリズム)を使用した分析を使用して同定したこれらのリンペプチド配列の一部のリスト(50の新規の配列にわたる)である。手作業で確証したペプチドにチェックマークを入れる。
【0138】
[表2]
表2:ETDによって検出されたヒト核リンペプチド
分析:Linden_ConJBTDCAD042604



【0139】
表2続き

【0140】
[実施例6]
実施例6:電子移動解離を促進するための芳香族炭化水素アニオンの使用
電子移動解離を促進するアニオンを調査した。多数のこれらのアニオンは、芳香族炭化水素と呼ばれる化合物クラスに属する。本発明者らの結果は、実質的に全ての試験した芳香族炭化水素が多価ペプチドと反応した場合に電子移動解離を誘起する能力を有することを証明する。試験したアニオンには、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、およびアントラキノンが含まれる。これらの全芳香族炭化水素が電子移動を促進するが、フルオランテンおよび2,2’ジキノリンが特に十分に機能する。
【0141】
図13は、フルオランテンのラジカルアニオン由来のm/z202とm/z482(3プロトン化リンペプチド、LPISASHpSpSKTR、配列番号1)との50m秒の反応に由来する単回スキャンETD−MS/MSスペクトルを示す。ここにのみ電子移動生成物が認められる。認められた生成物のうち、2/3が直接電子移動解離の生成物にk対応する。生成物の約1/3が、解離しない電子移動の結果である。しかし、これらの生成物を衝突活性化してc型およびz型の生成物イオンを生成することができる(低エネルギー活性化の項を参照のこと)。これは、最初の電子移動事象によってペプチド骨格の解離が誘起されることを示すが、前駆体ペプチドイオンは他の非共有結合性相互作用によってインタクトなままであり得る。他方では、低エネルギー活性化は、ETD様断片化経路を実際に誘発することができる。任意の事象では、フルオランテンのラジカルアニオンは、高効率で電子移動を誘起する。
【0142】
電子移動解離−反応q(qは減少パラメーターであり、特に、イオントラップ中のイオンの動きに影響を与える)のプロットを準備した。このプロットから、電子移動に由来する生成物について約1300カウント(任意の単位)が得られる(q値は約.33)。反応なしでは、強度は約3000カウントである。本発明者が電子伝達効率を100%と評価する場合、約2000カウントが得られるであろう(検出器により、+3と比較した場合、+2イオンでは約2/3の応答が得られる)。このプロットから、本発明者らは、電子移動効率は60%と評価する。電子移動を介した直接解離は、この値の2/3を占める(すなわち、約40%)。
【0143】
ここで試験した全ての芳香族炭化水素は、種々の効率で電子移動を誘起した。これらの結果に基づいて、本発明者らは、ここで試験していない他の芳香族炭化水素も同様に挙動することを提案する。したがって、芳香族炭化水素は、一般に、多価カチオンと反応した場合に、好ましい電子移動誘導化合物クラスを示す。さらに、硫黄、酸素、または窒素(複素環)を含めるこれらの化合物の修飾により、その電子移動能力が変化すべきではなく、したがって、この群中に電子移動促進化合物が含まれるべきである。表は、化合物、分子量、およびその対応するアニオンの認められたm/zを示す。他の試験化合物には、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、9’アントラセンカルボニトリル、およびアントラキノンが含まれる。これらの全化合物由来のアニオンは、ある程度電子移動解離を誘起した。
【0144】
[実施例7]
実施例7:ETD質量分析法を使用して同定した不安定な翻訳後修飾
リン酸化に加えて、多数の他のタンパク質の翻訳後修飾はCAD不安定性を示し、それにより、CADタンデムMSによって配列決定することは困難である。ここでは、本発明者らは、3つの最も一般的且つ問題の多い修飾(リン酸化、グリコシル化、およびスルホン化)のETDタンデムMSの例を提供する。
【0145】
トリプシンで消化した全酵母溶解物由来のリン酸化ペプチドを、IMACによって富化し、実施例5に記載のように、CADおよびETD解離法を使用して連続的に分析した。典型的なリン酸化ペプチドおよび両方法下でのその断片化挙動の例は、m/z407で認められた3プロトン化ペプチドである。このリン酸化ペプチド(RKpSILHTIR(配列番号68))は、CADタンデムマススペクトルを示し、ペプチド骨格の断片化がほとんど起こらないHPOのニュートラルロスに対応するイオンが認められる(図14A)。CADスペクトル中に全イオン電流の5%未満で存在する低レベルのbイオンおよびyイオンは、このペプチド配列を定義するのに不十分である。同一ペプチドのETDスペクトルは、完全なc型およびz型のイオン系列を生成するための有意なペプチド骨格切断を示し、配列がRKpSILHTIRと定義される(図14B、pSはホスホセリンを示す)。
【0146】
グリコシル化ペプチド(O−GlcNAc)、KKFELLPgTPPLSPSRR(配列番号69)、4プロトン化分子(m/z518)を、CADおよびETDの両方によっても解離した。CADスペクトルは、2つのイオン(O−GlcNAcオキソニウムイオンに対応するm/z204でのイオンおよびm/z623で203(GlcNAc)のニュートラルロスを有する対応する(M+3H)3+前駆体イオン)によって特徴づけられる(図15A)。残りのCADスペクトルは、ほんのわずかなb型、y型、およびa型のイオンから構成される。しかし、ETDスペクトルは、ペプチドのほとんど完全なc型およびz型のイオン系列を示す(図15B)。認められなかったc型およびz型のイオンのみが、プロリン環系を含む、禁じられた切断である。
【0147】
スルホン化修飾は、ここでETDおよびCADタンデムMSの両方による第3のCAD不安定性PTM型である。ここで、スルホン化ペプチド(GRLGsSRAGR(配列番号70))を、CADおよびETD質量分析法を使用して断片化した。CADを使用して、m/z337での3プロトン化イオンのスペクトルは、(M+3H)3+前駆体イオンからのSOの喪失に対応するm/z311での1つの主要なイオンを有していた。図16Aで認められるように、他のフラグメントイオンは検出できない。このペプチドのETDタンデムMSにより、前駆体イオンからの観察可能なSOの喪失がない完全なc型およびz型イオン系列が生成される(図16B)。
【0148】
リン酸化ペプチドおよびスルホン化ペプチドの両方が、親質量(POおよびSO)に+80Daが付加されている。正確に測定しなければ、これら2つのPTMの質量の相違が0.0843Daであるので、質量のみによってリン酸化ペプチドからスルホン化ペプチドを同定することは困難であり得る。しかし、CADおよびETDの連続使用により、両配列を容易に決定し(ETD)、リン酸化ペプチド対スルホン化ペプチドとしてペプチドを同定することができる(CAD)。CADを使用して、リン酸化ペプチドの前駆体の質量からの−98Daの喪失としてリン酸の喪失が検出される一方で、SOは前駆体イオンの質量からの−80Daの喪失を示す。これにより、リン酸化ペプチドまたはスルホン化ペプチドとしてペプチドが同定される。次いで、ETDスペクトルは、典型的には、ペプチド配列を特徴づけることができる。
【0149】
[実施例8]
実施例8:ペプチドアニオンの電子移動解離
本開示の1つの態様は、広範なペプチド骨格断片化、電子移動解離(ETD)を誘起するための多価ペプチドカチオンと1価の多核芳香族アニオンとの電子移動反応に関する。しかし、1つの実施形態によれば、修正四重極線形イオントラップ(QLT)質量分析計を使用して、多脱プロトン化ペプチドとカチオンとの反応も試験した。3脱プロトン化リンペプチド(LPISASHpSpSKTR(配列番号1))とキセノンのラジカルカチオンとの200m秒の反応により、電荷減少を伴って広範な断片化が起こる(図17)。解離生成物のうち、a型およびx型のフラグメントイオンが最も一般的である。電荷減少前駆体ならびにa型およびx型のフラグメントから二酸化炭素、リン酸、およびこれらの複数の組み合わせの喪失が認められる。
【0150】
Xeによる電子の引き抜きにより、フリーラジカル化学によって駆動される解離が可能な電荷減少ペプチドを含むラジカルが得られる。証明する目的のために、本発明者らは、次に、3脱プロトン化された3残基の酸性ペプチド(EEA)とXaカチオンとの反応を行う。イオン/イオン反応により、第2の残基のカルボキシル基にラジカル部位を含む電荷減少ペプチドが形成される。骨格アミンのNからの水素ラジカルの引き抜きによって隣接C−C結合の切断が促進されてa型およびx型の生成物イオンが生成される。
【0151】
a型およびx型生成物に加えて、本発明者らはまた、x型フラグメント系列中に含まれる単位よりも44単位少ない質量電荷比を有する一連のイオンに留意する(図17)。本発明者らは、Xeに対して少なくとも2個の電子が喪失した多脱プロトン化ペプチドからx−44イオンが生じることを示唆する。1電子の除去はc末端で起こる可能性が高く、ここで、フリーラジカル駆動化学によりCOのニュートラルロスが誘発され、その一方でその他がペプチド骨格切断を誘導して、以前にそのカルボキシル末端が喪失したx型フラグメントを生成する(Xn−44、これらのプロセスはいずれかの順序で起こり得ることに留意のこと)。例えば、3脱プロトン化EEAペプチドのX2−生成物イオンがその後のXe+との反応によって電子を喪失する場合、COのニュートラルロスが誘発されてX−・−CO生成物を生成することができる。2脱プロトン化リンペプチドとXeカチオンとの反応後に生成されたタンデムマススペクトルの調査により(ここでは、認められた生成物は、1電子移動事象のみに起因し得る)、x−CO型生成物イオンの生成の顕著な減少が認められた(2つのx−CO生成物は、その各x型フラグメントに対して約5%の存在量で認められた)。
【0152】
本発明者らの結果は、2脱プロトン化セルレインペプチドについてZubarey and coworkersによるEDDを介して達成された結果とある程度適合する。例えば、結果により、前駆体および多数のフラグメントからのCOのニュートラルロスも留意した。しかし、その実験によってa型、c型、およびz型のフラグメントイオンが生成される一方で、本発明者らのイオン/イオン反応により、c型およびz型フラグメント(制限された他のペプチド組に由来する)をほとんどまたは全く含まないa型およびx型のフラグメントが主に生成した。高エネルギーの電子は、ここで使用されるXeカチオンよりも電子の引き抜きで選択性が低い可能性があると考えられる。除去された電子の最初の位置の任意の相違により、EDDは、陰電子移動解離(NETD)を使用して達成した反応経路とは異なる反応経路にアクセスすることができる。両電子脱離アプローチのさらなる特徴付けには、方法の間のこれらおよび他の可能性のある相違を明らかにする必要がある。
【0153】
電子引き抜きのためのXeカチオンの使用により、プロトン移動の副反応が阻止される。ペプチドアニオンへのプロトン移動は非常に発熱することに留意のこと。ペプチドアニオンのプロトン移動反応を研究するために、本発明者らは、別のカチオンプロトン化フルオランテンを導入した。プロトン移動反応により、主に、ペプチドの電荷が減少し(式1)、少量の断片化しか起こらなかった。
(1)C1611+[M−2H]2− → C1610+[M−H]1−

COロス(約5%の相対存在量、データ占めさず)。電荷減少ペプチドアニオンの同位体分布試験より、狭い範囲で以前として起こる電位移動が明らかとなり、移動はおそらくフルオランテンまたは低レベルのバックグラウンドカチオンのいずれかから起こった。いずれかの場合、ニュートラルロス生成物イオンは電荷減少プロトン移動生成物よりも45単位少なく、本発明者らはCOの喪失は、電子移動の副反応によって誘発されると結論づけた。
【0154】
Wu and McLuckeyは、前の経路後に最も一般的な断片化を伴うオリゴヌクレオチドアニオンについての電子移動反応およびプロトン移動反応の両方を記載している(ペプチドアニオンについての本発明者らの所見と一致した結果)。計算により、著者は、反応の発熱性(ラジカル部位の導入ではない)が、イオン/イオン反応後のヌクレオチドアニオンの断片化のための主な原動力であると結論づけた。別の実験では、Zubarev等は、ペプチドアニオンをHカチオンと反応させたところCOの喪失や骨格の切断が認められず、著者は、ラジカル部位が存在する場合、ポリペプチドアニオンのみが容易に得られると示唆することが促された。少なくともペプチドについて、本発明者らは、ペプチドアニオンからの電子の除去によりフリーラジカル化学によって駆動されたTEA断片化が誘起されるというZubarevの主張と一致する結果を見出している。簡単に述べれば、多価ペプチドへのフリーラジカル部位の導入により、本来は高価な新規の断片化経路にアクセスすることが可能である(例えば、活性化エネルギーが低くなる)。イオン/イオン化学(すなわち、電子移動反応)により、基数電子多価ペプチドの迅速且つ有効な生成手段が示される。これらの反応を、気相化学の研究およびペプチド配列分析に使用することができる。
【0155】
[実施例9]
実施例9:低エネルギーのオフ抵抗共鳴活性化を使用した電子移動解離の誘発
電子移動事象後、以下の2つの結果となる可能性がある:(1)電子授受ペプチド/タンパク質が直接的に切断されて、2つの新規の種(c型およびz型生成物対またははるかに可能性が低いがa型およびy型の生成物対)が形成され得ること、または(2)ペプチド/タンパク質イオンが、さらなる電子をさらなるデエNCIを保持することができるが、断片化されないこと。この例を、図18Aで見出すことができ、2プロトン化ペプチド(RPKPQFFGLM(配列番号71)(m/z674))がフルオランテンのラジカルアニオンと100m秒反応した。反応後、いくつかのc型イオンが見出され、これらのc型フラグメントは、上記の第1のプロセスを示す(直接的なc/zフラグメントの精製)。図18Aでは、認められた電子移動生成物の実質的な部分は、電荷が減少したインタクトな前駆体ラジカル種((M+2H)+・)である。
【0156】
解離しない直接的断片化と電荷減少との間のこの相対的分配はペプチドごとに異なる。一般に、本発明者らは、以下の傾向を認めた:(1)所与の荷電状態の前駆体イオンについて、z(高m/z比)は非解離ラジカル生成物の収率が増加する傾向があり、(2)所与の前駆体m/zについて、より低い前駆体の電荷(z)もまた非解離生成物イオンの生成の増加に相関する傾向があり、より高い荷電状態は非解離生成物の収率の低さに相関する。例えば、+2および+3の荷電状態を有するm/zの前駆体イオンは、インタクトな電荷減少ラジカル生成物を主に生成する可能性が最も高いと思われる。同一のm/zを有するが荷電状態が+10またはそれ以上高い前駆体は主にc型、z型、a型、およびy型の生成物イオンを生成するのに対して、インタクトな電荷減少ラジカル種は全生成物イオン収率の小さい部分である。m/z非または電荷と無関係に、今日まで研究されている全アニオンを有する電子移動事象後にいくつかの電荷が減少しているが解離していない種の生成がほとんど常に認められることに留意のこと。
【0157】
電子移動反応後のインタクトなラジカル電荷減少ペプチドイオン生成物の衝突活性化(CAD)が三次元イオントラップデバイス中で起こり得ることが最近報告された。この研究では、電荷減少(M+2H)+・ニューロテンシンペプチドのCADにより、c/z型生成物(電子移動解離に特徴的なフラグメント)およびb/y型生成物(衝突活性化に特徴的なフラグメント)の両方が生成された。電荷減少した電子移動生成物の従来の衝突活性化後に、類似の結果が出願人によって認められた。例えば、図18Aは、ペプチドRPKPQFFGLM(配列番号71)の(M+2H)+・に対応する生成物イオンの実質的収率を示す。典型的なFinniganLTQ CAD条件下(q=0.25、正規化活性化エネルギーは35%、30m秒の持続時間)でのこの電荷減少したインタクトなラジカル種(m/z1348)の単離およびその後衝突活性化により、ETD(c型およびz型のフラグメント)および衝突活性化の両方に特徴的な生成物が生成される(m/z1330(NH3の喪失))。対応する非ラジカルのインタクトな1価のペプチド((M+H)+、m/z1347)の衝突活性化により、m/z1330で同一の生成物イオンが支配的に生成される(図18C)。McLuckey and co−workersの所見と一致するこの結果は、電荷減少した電子移動生成物の衝突活性化により、ETDおよびCADの両方に特徴的なフラグメントイオンが生成されることを証明する。分析の見地から、2つの異なるプロセスから生成物が生成できることは、いくつかの理由のために望ましくない。第1に、各フラグメントについてc、z、b、またはyを考慮する必要があるので、生成物イオンのスペクトルの解釈がより困難になる。第2に、衝突活性化プロセス(上記)に関連する全ての制限が以前として起こる(不安定なPTMs、HO、NHなどのニュートラルロス)。
【0158】
この問題を回避するために、衝突活性化度(解離)を、これらの電荷減少種を活性化および解離するためのオフ共鳴励起スキームの使用によって有意に減少させた。適切に弱い衝突活性化条件下でこのプロセスは依然として衝突活性化を含む一方で、活性化は電子移動型解離経路の誘発に十分であるが、従来の衝突活性化解離生成物の生成を促進するのに十分ではないエネルギーを供給する。弱い衝突活性化条件を、ETD反応中のいつでもまたはETD反応終了後に適用することができる。1つの実施形態によれば、正電荷の多価ポリペプチドとのアニオンの混合工程後に、電子移動型解離経路の誘発に十分であるが、従来の衝突活性化解離生成物の生成を促進するのに十分ではないエネルギーを反応にさらに供給する。より詳細には、ポリペプチドイオン生成物を、低エネルギーオフ共鳴活性化に供する。1つの実施形態によれば、線形イオントラップ内にペプチドイオン生成物を保持しながらETD反応を終了させて残りのアニオンをイオントラップから放出させ、ポリペプチドイオン生成物を低エネルギーオフ共鳴活性化に供する。
【0159】
図18Dは、上記ペプチドRPKPQFFGLM(配列番号71)からの低エネルギーオフ共鳴活性化(MS/ETD/MS/CAD/MS)を示す。ここで、本発明者らは、より低いqおよびより低い共鳴振幅(q=0.13、活性化エネルギーは17%、60m秒の持続時間)でインタクトなラジカル生成物を活性化し、この波形を標的m/zのオフ共鳴にわずかに適用する。活性化工程中の二重極共鳴によってm/z範囲も変化してスイープされるインタクトなラジカル生成物の5uの大きさの単離枠の選択によってオフ共鳴活性を行った。より大きな枠によってm/z単離工程後のトラップ中にm/zが保持されたイオンの数または型は変化しなかったが、CADを促進するために使用した共鳴励起RFスイープの開始時にイオン共鳴周波数と補助場の周波数との間の偏差が増加する。Mathieuパラメーターqは、RF捕獲場中のイオン特異的周波数にほぼ比例し、達成することができるが場に残存する達成可能な最大運動エネルギーは、イオン周波数の2乗(したがって、q)に比例して変化する。図18Bに示したより高いエネルギー活性化と異なり、この活性化は、全ての電荷減少したインタクトなラジカルイオン集団をc型またはz型フラグメント(電子移動型解離経路のみに由来し得るフラグメント)に変換する。従来の衝突活性化解離経路に関連する生成物は認められない。さらに、対応する非ラジカルを含む1価のペプチド((M+H)+)の(これらの条件下での)活性化により、いかなる型の断片化も誘起されない(図18E)。本発明者らは、この低エネルギー活性化後に生成されたいくつかのc型フラグメント(c6およびc7)が、直接ET解離後に生成された同一のc型イオンと比較して1単位低いm/zにシフトすることも留意する。本発明者らは、今までのところ、この矛盾を説明できない。この低エネルギーオフ共鳴活性化を、電子移動解離経路に限定される断片化を明らかに誘発することができる緩やかな加熱プロセスと見なすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】質量分析法によるペプチド分析によって得られた種々のペプチド骨格切断型および切断生成物の関連する命名法の略図である。a型、b型、c型のフラグメントイオンは前駆体ペプチドイオンのアミノ末端を含む一方で、x型、y型、z型のフラグメントイオンは前駆体ペプチドイオンのc末端を含む。低エネルギーCADプロセスは主にアミド結合を切断してb/y型対を形成し、ECDおよびETDはアミド結合を切断して打一分がc/z型フラグメントイオンを形成する。
【図2】本明細書中に記載のETD実験のための装置のセットアップおよびFinniganLTQに付加した成分を示す略図である。斜体で列挙した項目は付加した成分であり、前レンズおよび後レンズ上の星印は、二次RF電圧を印加する場所を示す。NICI(陰イオン化学イオン化)イオン源(右側に示す)は、2つの八重極および八重極間レンズの付加によって線形イオントラップと接続している。これらの付加した機構は、アニオン(または所望ならばカチオン)を生成して線形イオントラップに輸送するのに役立つ。
【図3】Finnigan MAT 4500 NICI源の略図である。
【図4】どのようにしてアントラセンが固体プローブバイアルを使用して導入されるかを示すFinnigan MAT 4500 NICI源の略図である。
【図5A】正および負の注入、同時+/−格納、およびイオン/イオン反応を達成するための線形イオントラップ操作の略図である。最初に、通常の操作などでカチオンをデバイスの全面から注入し、線形トラップの中心部分に蓄積される。
【図5B】次に、選択された前駆体イオン種を選択し、選択されたm/z枠の外側の全ての他の陽イオンの放射状排出によって単離する。
【図5C】その後、選択された前駆体型のイオンを前部のDCオフセットの調整によって線形イオントラップの前部に移動する。
【図5D】線形イオントラップの中心部分および後部の両方のDCオフセットの上昇による後部供給源からのアニオンの注入手順を示す。この方法では、陽イオンを前部に含む一方で、陰イオンを後部を介して注入し、中心に蓄積させる。
【図5E】アニオンおよびカチオンを混合して反応させる前のアニオンのm/z選択(m/z単離)を示す。
【図5F】最後に、150Vp、600kHz RFをレンズに印加して得られる偽ポテンシャルを軸方向への閉じ込めの強制により、組み合わせた捕獲領域でカチオンおよびアニオンが混合されて反応する。中心部分のDCオフセットの低下および偽ポテンシャルの除去によってアニオンを軸方向に放出させながら残存する前駆体カチオンおよび生成物カチオンを軸方向へ封じ込めることにより、反応時間を決定した。
【図5G】次いで、主なRFの傾斜および検出器へのイオンのm/z連続的放射状排出(偏った共鳴励起)によってこれらのカチオンのm/zを分析する。
【図5H】あるいは、残存する試薬アニオンを保持し、DCオフセットを単純に逆にすることによってm/zを分析することができる。
【図6】m/z482での3価リンペプチド(LPISASHpSpSKTR)(配列番号1)のアントラセンアニオンとの50m秒の反応に起因する単回スキャンETD MS/MSスペクトル由来のデータを示す図である。c型およびz型のフラグメントイオンの推定m/z値を、配列の上下にそれぞれ示す。認められた値に下線を引いている。z5およびc7の両方がプロトン引き抜き生成物を含むイオンクラスター(m/z722で(M+2H)+2イオン)と重複するm/z値を有することに留意のこと。c型およびz型の全ての他の可能なイオンがスペクトル中に出現する。全実験時間は、300m秒であった。
【図7】nHPLC−μESIとETD−MS/MSの組み合わせの使用によるペプチド混合物のデータ依存性分析を示す図である。図7Aは、総イオンクロマトグラム(ピークは約10秒幅)を示す。図7Bは、100fmolの3プロトン化ペプチドDRVYIHPFHL(配列番号2)について記録された単回スキャン(500〜600m秒)のETDスペクトル由来のデータを示す。図7Cは、1fmolの3プロトン化ペプチドDRpSPIRGpSPRについて記録された単回スキャン(500〜600m秒)のETDスペクトル由来のデータを示す。
【図8】ヒト核タンパク質のトリプシン消化で生成されたリンペプチドのデータ依存分析(nHPLC−μESIーMS/MS)の間に記録された単回スキャンした(500〜600m秒)CADおよびETDのマススペクトルの比較を示す図である。全ペプチドがメチルエステルに変換され、MS分析前に固定金属親和性クロマトグラフィに供した。図8Aは、リン酸およびメタノール部分または水部分のいずれかの喪失に対応するフラグメントイオンが多数を占めるCADスペクトルを示す。図8Bは、14種の可能なc型およびz型生成物イオンのうちの13種を含むETDスペクトルを示す。スペクトルはリン酸の喪失に対応するフラグメントイオンを欠くことに留意のこと。
【図9】約75m秒間のフルオランテンのアニオンとの反応(図9、上のパネル)ならびにフルオランテンとの反応後に得られた多価生成物イオンと六フッ化硫黄の偶数アニオンとの200msの反応(図9、下のパネル)を行った同一の+7ACTHペプチド(SYSMEHFRWGKPVGKKRRPVRVYP7+;配列番号72)(m/z 420)のMS/MSスペクトルの比較を示す。
【図10】20m秒間のフルオランテンのアニオンとの反応(図10A)ならびにフルオランテンとの反応後に得られた多価生成物イオンと安息香酸の偶数アニオンとの150msの反応(図10B)を行った同一の+7ACTHペプチド(SYSMEHFRWGKPVGKKRRPVRVYP7+;配列番号72)(m/z 420)のMS/MSスペクトルの比較を示す。
【図11】標準的なCAD手順を使用して得られたm/z412.6での同一のヒト核リンペプチドのMS/MSスペクトル(図11A)とETDを使用して得られた同一のリンペプチドのMS/MSスペクトル(図11B)との比較を示す図である。標準的なCADプロトコール由来のスペクトル(図11A)により、リンペプチドを同定するために構造的に十分に有益な断片化情報が得られる。ETDを使用した高コントラストのMS/MS(図11B)により、前駆体の全構造を同定することができるほぼ完全なc型およびz型のイオン系列が得られる。−OCH3はC末端のメチルエステルの変換を示し、eはグルタミン酸メチルエステルを示し、NLは正規化同一性を意味することに留意のこと。
【図12】CADおよびETDによって生成された四リン酸化ヒト核ペプチドの断片化パターンの比較を示す図である。図12Aは、リン酸の強いニュートラルロスを含む4価ヒト核リンペプチドのCAD MS/MSスペクトルである。図12Bは、ほぼ完全なc型およびz型のフラグメントイオン系列を有する同一リンペプチドの対応するETDスペクトルである。CADおよびETDスペクトルは、1回の分析(スキャン2681および2682)の間に連続して得られた。−OCH3はC末端のメチルエステルの変換を示すことに留意のこと。
【図13】フルオランテンのラジカルアニオン由来のm/z202とm/z482(3プロトン化リンペプチド、LPISASHpSpSKTR、配列番号1)との50m秒の反応に由来するETD−MS/MSスペクトルを示す図である。
【図14A】CADおよびETD解離によるリン酸化ペプチド(RKpSILHTIR(配列番号68))の分析に由来するスペクトルを示す図である。CADスペクトル中のシグナルの大部分は、ペプチド骨格が少ししか断片化しないリン酸の喪失に対応する。
【図14B】CADおよびETD解離によるリン酸化ペプチド(RKpSILHTIR(配列番号68))の分析に由来するスペクトルを示す図である。同一ペプチドのETDスペクトルにより、完全なcイオンおよびzイオン系列が生成されるペプチド骨格の切断が明らかとなる。
【図15】CADおよびETD解離による4プロトン化ペプチドイオン(KKFELLPgTPPLSPSRR(配列番号69))の分析に由来するスペクトルを示す図である。O−GlcNAc修飾ペプチド由来のCADスペクトルは、m/z204でO−GlcNAcに対応するイオンおよびm/z623で203を中性に欠く対応する(M+3H)+3前駆体イオンを示す(図15A)。残りのCADスペクトルは、いくつかのb型、y型、およびa型のイオンから構成される。KKFELLPgTPPLSPSRR(配列番号69)のETDスペクトルでは、このペプチドについてのほとんど完全なcイオンおよびzイオン系列が認められる(図15B)。
【図16】CADおよびETD解離による3プロトン化ペプチド(GRLGsSRAGR(配列番号70))の分析に由来するスペクトルを示す図である。CADを使用して、m/z337での3プロトン化イオンは、(M+3H)+3前駆体イオンからの(SO)の喪失に対応するm/z311で1つの主要なイオンを有していた。図16Aで認められるように、スペクトル中の残りのイオンは検出不可能である。GRLGsSRAGR(配列番号70)がETDによって断片化された場合、親イオン由来のSOの喪失が認められない完全なcイオンおよびzイオン系列が認められた(図16B)。
【図17】3脱プロトン化リンペプチド(LPISASHpSpSKTR(配列番号1))とXeのラジカルカチオオンとの200m秒の反応に由来するタンデムマススペクトルを示す図である(10回の単一スキャンマススペクトルの平均)。
【図18】CADおよびETD解離による2プロトン化ペプチド(RPKPQFFGLM(配列番号71))の分析に由来するタンデムマススペクトルを示す図である。図18Aは、フルオランテンのラジカルアニオンの100m秒の反応に由来するスペクトルを示す。図18Bは、フルオランテンのラジカルアニオンの100m秒の反応およびその後のq25(35%の正規化活性化エネルギー)で行ったCADに由来するスペクトルを示す。図18Cは、q25(35%の正規化活性化エネルギー)で行ったCAD由来のスペクトルを示す。図18Dは、フルオランテンのラジカルアニオンの100m秒の反応およびその後のq13(17%の正規化活性化エネルギー)に由来するスペクトルを示す。図18Eは、q13(17%の正規化活性化エネルギー)に由来するスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カチオンの解離方法であって、
多価カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに導入する工程と、
前記イオン封じ込めデバイスに気相電子移動試薬アニオンを導入する工程と、
解離生成物カチオンを得るために、試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンから多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンへの電子移動を促進するために、導入された前記試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンおよび多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンを混合する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記多価カチオンがポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RF電場イオン封じ込めデバイスがRFイオンガイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記RF電場イオン封じ込めデバイスがRFイオントラップである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記RFイオントラップがRF線形多重極イオントラップである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記RFイオントラップがRF三次元多重極イオントラップである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記混合工程中、導入された前記試薬アニオンまたはその誘導体試薬イオンおよび多価カチオンまたはその誘導体多価カチオンの運動エネルギーが1電子ボルト未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アニオンおよび多価カチオンの運動エネルギーを前記混合工程のための熱レベル付近に減少させるために、バックグラウンドガス分子との衝突を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アニオンをRF線形多重極イオントラップの線形軸に沿って注入する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記気相アニオンが、多環芳香族炭化水素または置換多環芳香族炭化水素から生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記気相アニオンが、アントラセン、9,10ジフェニルアントラセン、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、9’アントラセンカルボニトリル、およびアントラキノンからなる群から選択される低電子親和力基質から生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記解離生成物カチオンの質量(m/z)を分析し、前記解離生成物カチオンに由来するイオンを検出する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記イオントラップが、セグメント化された線形RF多重極イオントラップである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記気相アニオンが、多環芳香族炭化水素化合物または置換多環芳香族炭化水素化合物から生成されたラジカル気相アニオンである、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記多価ポリペプチドおよび気相アニオンが、前記混合工程までイオントラップ内で空間的に分離されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記多価ポリペプチドカチオンおよび気相アニオンが、前記混合工程までイオントラップ内で空間的に分離されている、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
電子移動型解離経路を介した前記非解離電荷減少電子伝達生成物カチオンの解離を促進するために、十分なエネルギーを非解離電荷減少電子移動生成物カチオンに供給して、従来の衝突活性化解離生成物の20%未満を得る、さらなる活性化工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
電子移動型解離経路を介した前記非解離電荷減少電子伝達生成物カチオンの解離を促進するために、十分なエネルギーを非解離電荷減少電子移動生成物カチオンに供給して、従来の衝突活性化解離生成物の5%未満を得る、さらなる活性化工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記さらなる活性化工程が、アニオンと正電荷の多価ポリペプチドイオンとを混合する工程後に行なわれる、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記活性化エネルギーを、光活性化形態または衝突活性化形態で供給する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
線形イオントラップ内の電子移動生成物カチオンを保持しながらRFイオントラップ由来の残存アニオンを放出する工程と、
従来の衝突活性化解離生成物の20%未満が生成される衝突活性化を起こすために、電子移動生成物イオンを低エネルギーのオフ共鳴運動励起に供する工程と、
をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項22】
第2型のアニオンを線形イオントラップに導入する工程と、
前記第2型のアニオンをカチオンと混合して反応させる工程と、
をさらに含み、
前記第2型のアニオンがプロトンを実質的に排他的にカチオンに移動させる、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のアニオン型が、カルボン酸、フェノール酸、およびアルコキシドを含有する化合物からなる群から選択される化合物に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のアニオン型が、安息香酸、PDCH、SF、およびPFTBAからなる群から選択される化合物のアニオンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記電子移動解離生成物イオン、または前記電子移動解離生成物イオンの誘導体イオンの質量(m/z)を分析し検出する工程をさらに含む、請求項1、請求項2、請求項4、請求項22、または請求項23に記載の方法。
【請求項26】
ポリペプチドのアミノ酸配列を分析する方法であって、
多価ポリペプチドポリペプチドカチオンをRFイオントラップに導入する工程と、
気相アニオンをRFイオントラップに導入する工程と、
アニオンから多価ポリペプチドカチオンへの電子移動を促進するために前記気相アニオンと多価ポリペプチドカチオンとを混合し、それにより、電子移動解離生成物イオンの生成を誘導する工程と、
前記電子移動生成物カチオンから残存する気相アニオンを物理的に分離することによって反応を停止させる工程と、
前記トラップ中に残存するカチオンのm/z分析を行う工程と、
を含む方法。
【請求項27】
前記電子移動解離生成物カチオンが、前記RFイオントラップからイオン検出器にm/zに応じて連続的に排出される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記イオントラップが線形RF多価イオントラップである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記気相アニオンを前記線形イオントラップの線形軸に沿って注入する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ラジカル気相アニオンが、アントラセン、9,10ジフェニルアントラセン、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、ピレン、フルオランテン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、アクリジン、2,2’ジピリジル、2,2’ジキノリン、9−アントラセンカルボニトリル、ジベンゾチオフェン、1,10’−フェナントロリン、9’アントラセンカルボニトリル、およびアントラキノンからなる群から選択される低電子親和力基質から生成される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
電子移動解離によってポリペプチドを解離する方法であって、
多価ポリペプチドアニオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに導入する工程と、
気相カチオンをRF電場イオン封じ込めデバイスに導入する工程と、
アニオンからカチオンへの電子移動を促進するためにラジカル気相イオンとイオン化ポリペプチドとを混合し、それにより、陰電子移動解離生成物イオンの生成を誘導する工程と、
を含む方法。
【請求項32】
前記カチオンが、不活性ガスカチオンからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記陰電子移動解離生成物イオンまたは前記陰電子移動解離生成物イオン由来のイオンの質量(m/z)を分析し、検出する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A)】
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【図10B)】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2007−529014(P2007−529014A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−503047(P2007−503047)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/008148
【国際公開番号】WO2005/090978
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506062584)ユニバーシティ オブ ヴァージニア パテント ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】