説明

生分解性シート及び包装容器

【課題】ホット充填が可能な耐熱性を有し、耐衝撃性が良好であり、かつ深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができるような良好な成形性を有する生分解性シート及び包装容器を提供する。
【解決手段】コア層と、該コア層の両側にスキン層を有する生分解性シートであって、該スキン層はポリブチレンサクシネート系樹脂を主成分として成形され、該コア層はポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸とを含有して成形され、スキン層/コア層/スキン層の厚み比率が、10%〜40%/80%〜20%/10%〜40%であることを特徴とする生分解性シート及び該生分解性シートを深さと径の比が0.80以上の深絞り成形したことを特徴とする包装容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性シート及び包装容器に関し、詳しくは、深さと径の比が0.80以上の深絞り成形できる生分解性シート及び該深絞り成形された包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、石油を原料として生産されているプラスチックは安価、軽量、丈夫で腐らないこと等の長所を持つので大量生産・大量消費されてきたが、その廃棄物は環境汚染、燃却処理時の炭酸ガス発生等の環境破壊源となる等の問題点が多々指摘されている。また、原料の石油は有限化石資源であり、大量消費はその枯渇を早めることになり、地球環境保全と石油資源使用量軽減に役立つ持続可能なプラスチック材料として生分解性プラスチックへの期待が高まっている。これまでは技術的問題もさることながら、汎用プラスチックに比べて価格が高かったこと、用途が限られていたこと等から、市場の拡大は限定的であった。しかし、最近では、
(1)地中に埋めても最終的に水と炭酸ガスに分解されるため廃棄物発生を抑制できる、
(2)燃焼させても通常のプラスチック等よりも発生熱量が低く、光合成で吸収した炭酸ガスを放出する点でカーボンニュートラルである、
(3)バイオマス由来の原料を使用するものは石油資源節約に役立つ
等の利点に注目が集まりつつある。
【0003】
生分解性プラスチックは大きく、天然物系、微生物系、化学合成系(石油由来)、化学合成系(天然物由来)等に分けられるが、これまでの主流派ポリブチレンサクシネート系樹脂等の化学合成系(石油由来)であった。しかし、最近では「自然環境中で生分解」する点よりも「植物等バイオマス由来」である点が強調されており、トウモロコシをはじめ植物から製造されるポリ乳酸(PLA)等の化学合成系(天然物由来)の注目度が高まっている。また、ポリブチレンサクシネート系樹脂に関しても、原料であるコハク酸製造を石油資源からバイオマス資源へ転換する技術などが開発されている。
【0004】
ポリ乳酸はポリスチレンのように硬質で剛性、透明性に優れるが分解が遅く、耐熱・耐衝撃性に劣り、ポリブチレンサクシネート系樹脂はポリエチレン・ポリプロピレン並みに軟質で耐衝撃性があり分解が早いが剛性が無く、成型し難いという特徴がある。しかし、ポリブチレンサクシネート系樹脂は分解性が優れており、ポリ乳酸は透明性が優れており、これらの長所を生かした用途のすみわけもある程度進んでいる。また、ポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸とを混合して、耐衝撃性と耐熱性を向上させて幅広い用途での使用を可能とする報告もされている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
生分解機能が求められる用途は、自然環境中に放置されるもの、コンポスト化可能材料、環境負荷の低い材料分野等が考えられ、現状のプラスチック加工製品で代替できる分野としては、フィルム、シート、日用品・雑貨、容器、発泡製品等が挙げられる。現在、既存プラ廃棄物の過半が焼却・埋め立されていることを考えると、今後さらに既存プラからの代替が進む可能性が大きい。
【0006】
近年、多くの生分解性の包装材が提案されているが、粉末スープ、即席メン、みそ汁等のインスタント食品で使用されることの多い深さと径の比が0.80以上の深絞り容器の場合、深く成形しても容器として要求される性能を汎用樹脂と同等レベルに維持する必要があるが、深絞りできるような成形性を有し、かつ熱湯を注ぐホット充填が可能な耐熱性や耐衝撃性を兼ね備えている生分解性シートを得ることが課題となっていた。
【特許文献1】特開2001−39426号公報
【特許文献2】特開2003−334913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ホット充填が可能な耐熱性を有し、耐衝撃性が良好であり、かつ深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができるような良好な成形性を有する生分解性シート及び包装容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従って、コア層と、該コア層の両側にスキン層を有する生分解性シートであって、
該スキン層はポリブチレンサクシネート系樹脂を主成分として成形され、
該コア層はポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸とを含有して成形され、
スキン層/コア層/スキン層の厚み比率が、10%〜40%/80%〜20%/10%〜40%である
ことを特徴とする生分解性シートが提供される。
【0009】
また、本発明に従って、生分解性シートを、深さと径の比が0.80以上の深絞り成形したことを特徴とする包装容器が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明により、ホット充填が可能な耐熱性を有し、耐衝撃性が良好であり、かつ深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができるような良好な成形性を有する生分解性シート及び包装容器を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは生分解性シートを得るために、ポリ乳酸(PLA)のシートを成形したところ透明性に優れていたが、耐衝撃性が乏しい。そこで、軟質のポリブチレンサクシネート系樹脂をブレンド混合したところ耐衝撃性が向上し、ポリブチレンサクシネート系樹脂量が増えるに連れて、耐熱性も上がっていった。これは、ポリブチレンサクシネート系樹脂の熱変形温度が97℃とポリ乳酸の熱変形温度55〜66℃より高いためと思われる。
【0013】
しかしながら、融点がポリ乳酸(160℃)より低いポリブチレンサクシネート系樹脂(114℃)が多くなると成形時の加熱によりシートが自重で下に垂れ下がるドローダウン現象が起こり易くなり、十分にシートにポリブチレンサクシネート系樹脂量を増やせず耐熱性を向上させることができなかった。
【0014】
そこで、本発明者らはポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸の欠点を補う目的で多層化を試み、外層側に熱変形温度の高いポリブチレンサクシネート系樹脂を用いることで、成形温度も高めることができるので、内層にポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸を混合させても十分に軟化する温度で成形可能となり、内層が十分に延伸されるため深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができる生分解性シートを得られることを見出した。
【0015】
本発明の生分解性シートは、シートの中心層となるコア層と、該コア層の両側にスキン層を有する構造であり、更にスキン層を機能別に複数設けてもよい。層構造としてはスキン層/コア層/スキン層の三層構造であり、その厚み比率は10%〜40%/80%〜20%/10%〜40%の範囲であるときに成形性、耐熱性に優れており、特に30%/40%/30%であるときに耐ドローダウン性が高まり成形性が良好となる。スキン層の厚み比率が10%未満となるとポリブチレンサクシネート系樹脂の減少による耐衝撃性が低下する。スキン層の厚み比率が40%を超えるとポリブチレンサクシネート系樹脂の増加により成型が困難となる。
【0016】
スキン層はポリブチレンサクシネート系樹脂を主成分として成形される。ポリブチレンサクシネート系樹脂とは、グリコールとジカルボン酸の脱水重縮合反応から得られものであり、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート(PBSA)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート・カーボネート(PBSC)、ポリエチレンサクシネート・テレフタレート(PEST)等が挙げられる。シートの外層となるスキン層にポリブチレンサクシネート系樹脂を用いることで、シートが十分な耐衝撃性が得られ、ホット充填が可能な耐熱性を得ることができる。
【0017】
コア層はポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸とを混合含有しており、混合することにより前述したように耐熱性が向上し、かつポリブチレンサクシネート系樹脂の剛性不足を剛性の高いポリ乳酸が補い、ポリ乳酸の耐衝撃性不足を耐衝撃性が高いポリブチレンサクシネート系樹脂が補うことでシートとしての実用特性を向上させることができる。
【0018】
コア層のポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸の混合重量比率は10〜50:90〜50が好ましく、耐衝撃性の観点からは35〜45:65〜55がより好ましい。
【0019】
また、生分解性シート全体におけるポリ乳酸の含有量が10〜50重量%であることが耐衝撃性の観点から好ましい。
【0020】
また、本発明の生分解性シートは、酸素や水蒸気のバリア性に劣るポリ乳酸を含有するが、酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れているポリブチレンサクシネート系樹脂のスキン層を有することで、容器の内容物として乾燥食品を内容しても長期間保存することが可能である。
【0021】
本発明の生分解性シートの製造方法は、特に制限されず、各層を形成する樹脂を共押出し法または押出しラミネート法により積層成形する等、従来公知の方法で製造することができる。
【0022】
本発明の包装容器は、上記生分解性シートを成形してなる、上部に開口部を有する容器本体を備えてなる。具体的には、容器本体と、その飲食品収容・取り出し用の開口部を開閉するための蓋体とからなる。
【0023】
容器本体は、例えば図1及び図2に示すように、上記生分解性シートを真空圧空成形により、好ましくは同時打ち抜き圧空成形機を用いて、倒立円錐台状に成形したものであって、胴部の上端部にフランジ部を、下端部に底部をそれぞれ有している。
【0024】
本発明の包装容器は、粉末スープ、即席メン、みそ汁等のインスタント食品で使用されることが多い深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができるような良好な絞り成形性を備える。
【実施例】
【0025】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0026】
(実施例及び比較例)
ポリブチレンサクシネート系樹脂としてポリブチレンサクシネート(商品名:ビオノーレ#1001、昭和高分子製)、ポリ乳酸(商品名:H−400、三井化学製)を用い、スキン層はポリブチレンサクシネートのみ、コア層はポリブチレンサクシネート:ポリ乳酸=40:60の重量比率でブレンド混合したものを表1に示される層構成となるように共押出し法によりシートを形成した。
【0027】
このシートを同時打ち抜き圧空成形機を用いて、深さ33mm、径63mmの絞り比0.52の浅絞り形状、深さ50mm、径63mmの絞り比0.80の深絞り形状、深さ85mm、径63mmの絞り比1.34の深絞り形状の容器本体をそれぞれ形成し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
<成形性>
成形容器の側壁部の厚みをマイクロメーターにて測定し、容器の最小厚み部分を測定し、下記のように評価した。
【0029】
○:容器側壁部の厚みの最小厚みが0.20mm以上
△:容器側壁部の厚みの最小厚みが0.10mm以上0.20mm未満
×:容器側壁部の厚みの最小厚みが0.10mm未満
<耐熱性>
100℃のお湯を注ぎ、5分間放置後、容器の容量を測定し、試験前と試験後の満注容量の差から変化量を算出し、1%未満は○、1%以上2%未満は△、2%以上は×と評価した。
【0030】
<耐衝撃性>
容器上部より10mm下まで水を充填し、4℃、24時間放置後、1mの高さから2回落下させ、容器の割れの有無を目視し、割れ無しを○、割れ有りを×と評価した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によって、生分解性シートは耐衝撃性に優れ、深さと径の比が0.80以上の深絞り成形ができるような良好な成形性を有し、出来た容器はホット充填可能なレベルの耐熱性を有し、粉末スープ、即席メン、みそ汁等のインスタント食品やトイレタリー用品等の分野向け容器に広く用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の絞り比0.80の深絞り成形による包装容器の形状を示す図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明の別の深絞り成形による包装容器の形状を示す図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、該コア層の両側にスキン層を有する生分解性シートであって、
該スキン層はポリブチレンサクシネート系樹脂を主成分として成形し、
該コア層はポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸とを含有して成形され、
スキン層/コア層/スキン層の厚み比率が、10%〜40%/80%〜20%/10%〜40%である
ことを特徴とする生分解性シート。
【請求項2】
前記コア層のポリブチレンサクシネート系樹脂とポリ乳酸の混合重量比率が10〜50:90〜50である請求項1に記載の生分解性シート。
【請求項3】
前記生分解性シート全体におけるポリ乳酸の含有量が10〜50重量%である請求項1又は2に記載の生分解性シート。
【請求項4】
深さと径の比が0.80以上の深絞り成形に使用される請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性シートを、深さと径の比が0.80以上の深絞り成形したことを特徴とする包装容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−55694(P2008−55694A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233679(P2006−233679)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】