説明

生分解性ポリエステルの解重合方法

【課題】生分解性ポリエステル回収物に含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルポリマーを、回収歩留まりを低下させず、且つ安全に反応生成物中に含まない方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、生分解性ポリエステルを解重合する方法であって、少なくとも一部が溶融状態にある生分解性ポリエステルに水を導入しつつ150〜300℃の反応温度にて解重合を行い、解重合生成物を気相部から水蒸気と共に取り出すことによって、生分解性ポリエステル回収物に含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルポリマー反応生成物中に含まず回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル、特にポリ乳酸の解重合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、従来、環境への負荷が少ない生分解性プラスチックの代表としてよく知られてきた。近年、循環型社会構築気運が高まり、プラスチック原料が化石資源からバイオマスへ転換する動きがあり、デンプンなど植物が原料となるポリ乳酸が大きな注目を集めている。このポリ乳酸は、その物性として透明性に優れ、成形加工の多様性があり、安全性も高いため、農林水産用資材、土木・建築資材、食品包装・容器、日用品用途などでの各方面での使用が期待されている。
【0003】
しかしながら、上記のような使用の増大に伴って大量に発生する、使用済みポリ乳酸、およびポリ乳酸製造段階で発生する品質不適格品(以下、これら生分解性ポリマー回収物或いはポリ乳酸回収物と略称することがある。)については、ポリ乳酸部分は生分解性を有するものの分解までに長時間を要し、生分解されるまでの期間の回収物の取り扱いについて今後大きな社会問題となることが予想される。上記の問題に対して、ポリ乳酸回収物を元の原料に変換・回収し、この原料を再度重合反応によってポリ乳酸を製造し再利用する、いわゆるケミカルリサイクルが有効な解決手段の一つである。この方法は、基本的にロスの無い化合物の資源再使用が可能な方法であり、資源の再利用が可能となる。
【0004】
例えばまず、原料に戻してリサイクルする方法として、100℃以上、1気圧以上に加熱加圧して加水分解させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。また、またポリ乳酸に水を加えて、高温条件下短時間で乳酸として回収する加水分解方法も提案されている(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸に限らず、一般に一旦市場に流通したプラスチック製品を回収した場合には、プラスチック製品を主に構成しているプラスチック以外の種類の異素材が混入した状態が多い。これらの異素材は上記のようなケミカルリサイクルを行う際の障害となる。例えば、一方、異素材の除去ができないと、反応系以後のリサイクル工程内に異素材が混入し拡散することになる。その結果、異素材は固形或いは高温状態で一部溶融することにより、リサイクル工程内の機器への付着、配管への閉塞、或いは回転部への噛み込みなどのトラブルが発生する。ゆえに上記のようなケミカルリサイクル方法によってポリ乳酸回収物を処理する場合、ポリ乳酸回収物に含まれる異素材を、可能な限りリサイクル工程の前段階で取り除くことが重要となる。また、回収対象となるポリ乳酸は、形状や物性が様々であるため反応性が一律でない。このため、反応時間が十分確保できないと反応生成物中に未反応ポリマー等が混入し、反応生成物の品質の安定確保が難しくなる。従来、この異素材や未反応ポリマーの除去方法についての記載がなく、対応が提示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−178977号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−300927号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術が有していた問題点を解決し、生分解性ポリエステル回収物に含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルポリマーを反応生成物に含まない方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術に鑑み、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、生分解性ポリエステルを解重合する方法であって、少なくとも一部が溶融状態にある生分解性ポリエステルに水を導入しつつ解重合を行い、解重合生成物を気相部から水蒸気と共に取り出すことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の解重合方法によれば、生分解性ポリエステル回収物からケミカルリサイクル方法によって生分解性ポリエステルの有効成分を回収する場合、生分解性ポリエステル回収物に含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルを反応生成物に含まないことが可能である。その結果、反応生成物の品質の確保することやケミカルリサイクル工程内での異素材によるトラブルを防止することができる。また生分解性ポリエステルを構成するモノマーが有する特性を劣化させることなく回収することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の解重合方法においては、生分解性ポリエステルは回収物であってもなくても良いが、一般に水洗浄及び粗粉砕などの前処理を施し、解重合反応に適した形状にしてから投入することが好ましい。生分解性ポリエステルとは主成分が生分解性ポリエステルであるが、種々の異素材を含んでもよい。異素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、若しくはポリ塩化ビニル等のポリオレフィン類、芳香族ポリエステル類、ポリアミド類、紙、土砂、埃、金属類、残存触媒、木材、染料、顔料又は滑剤などが挙げられる。またこれらの中でも生分解性ポリエステルが回収物全体の60重量%以上含むものが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。なお本発明において生分解性ポリエステルとしてはポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリテトラエチレンアジペート、ポリエチレンスクシネート、ポリテトラエチレンスクシネートが挙げられるが、これらの中でもポリ乳酸が好ましく用いられる。更にポリ乳酸としても特に限定されることはなく、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ラセミとなっているポリ乳酸、又はポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の共晶であるステレオコンプレックスのいずれであってもよい。さらに光学純度についても特に限定はない。ただし、本発明を実施するに前に、簡易的な機械的または物理的手段によって可能な限り生分解性ポリエステルから異素材を取り除くことが好ましい。例えば目視で異素材と判別できるものを取り除く方法とか、磁石を用いて磁石に吸い付けられる金属類を取り除くなどの方法である。
【0011】
本発明は、少なくとも一部が溶融状態にある前記生分解性ポリエステルに水を導入することで、生分解性ポリエステルを解重合させることができ、そして生分解性ポリエステルがポリ乳酸であった場合には、その生成物である乳酸、ラクチド、乳酸オリゴマーのうち少なくとも1成分を含む混合物を水蒸気と共に気相部から取り出すことをより好ましい特徴としている。ラクチドとは乳酸が二分子からなる環状エステルであり、乳酸オリゴマーとは乳酸が3分子以上の数分子がエステル結合されたオリゴマーを指す。解重合成分としてこれらのうちの少なくとも1成分を含む混合物である。好ましくは乳酸又はラクチドのうち少なくとも1成分を含むことである。
【0012】
また少なくとも一部が溶融状態にある生分解性ポリエステルに水を導入することで、単に固体状態の生分解性ポリエステルに水を投入するときに比べて、解重合反応速度を上げることができ、また解重合率も向上させることができる。このときに導入する水は、溶融状態にある生分解性ポリエステルの温度を低下させないように、あらかじめ加熱した熱水或いは水蒸気状態が好ましく、溶融状態にある生分解性ポリエステル中に導入することが解重合反応をより効率良く進行させるためには好ましい。生分解性ポリエステルの水による解重合反応は、反応温度150〜300℃である必要がある。また解重合反応時の圧力は0.0MPa(常圧)〜1MPa(ゲージ圧)、水の量は生分解性ポリエステルに対して1〜10重量倍量の範囲とすることが好ましい。これらの条件がこの範囲にある際には、生分解性ポリエステルの解重合反応が十分に行われる。ここで、反応温度は、生分解性ポリエステルを溶融させるために必要な温度であり、反応温度が低すぎると生分解性ポリエステルが十分に溶融できず、また、解重合反応の進行が不十分となる。一方、反応温度が高過ぎると、解重合反応は進行しやすいが、生分解性ポリエステルの熱分解、乳酸の光学異性体間での転移の進行及び経済的な観点から好ましくない。圧力は、高過ぎると水との同伴留出が阻害されるため、圧力範囲としては、常圧条件近傍から1MPa(ゲージ圧)が好ましい。水の量は少な過ぎると解重合反応が十分に進行せず、多過ぎると、経済的な観点からは好ましくない。このため、水の量は生分解性ポリマーに対して1〜10重量倍量が好ましい。
【0013】
なお、生分解性ポリマーの水による解重合反応は、反応槽内の攪拌、外部ポンプによる反応槽内液の循環等の操作を併用することによって、解重合反応時間を短縮できる等の効果を得ることができる。反応形式は、連続反応方式或いはバッチ反応方式のいずれでもよい。
【0014】
このようにして解重合が十分に進行した後は、解重合生成物を水蒸気とともに気相部から取り出す。気相部から取り出すとは、例えば解重合反応が竪型反応器で行われたときには解重合反応終了後の液面より上方の部分から取り出すこと等、解重合反応が終了した際の反応器中の反応生成物がある液面から離れた気相部分から取り出すことを指している。取り出し方には特に限定はないが、揮発成分を凝縮させるためにコンデンサーが装着され冷却できるようになっていることが好ましい。さらに解重合反応終了後は水蒸気とともに取り出すことにより、水蒸気分の分圧により取り出す解重合生成物の蒸気圧を低下させることができ、より低い温度で解重合生成物を気相部から取り出すことができる。このような操作を行うことで、投入された生分解性ポリエステルに含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルを解重合反応生成物とは分離することができる。一方、前記生分解性ポリエステル回収物に含まれる加水分解反応を受けない異素材や加水分解反応が十分に進行していないポリ乳酸をはじめとするポリマーについては、反応器内に残存するため、反応生成物とは分離することが可能となる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。尚実施例および比較例において「部」と称しているものは重量部を表す。
(1)乳酸の分析方法
反応後のL体及びD体乳酸の分析については、液体クロマトグラフ(日立製作所製 L−7000シリーズ、分離カラム:ダイセル化学製CHIRALPAK MA(+))により実施した。カラム温度は、35℃一定とし、移動相には、2mmol/L硫酸銅水溶液を0.5mL/minの流速にて流した。検出は、紫外光吸収により行い、波長は254nmに設定した。
(2)ポリ乳酸の解重合率(%)
(投入したポリ乳酸の量 − 反応後に残存したポリ乳酸の量)
/ 投入したポリ乳酸の量 × 100
【0016】
〔実施例1〕
ポリ乳酸(L体ほぼ100%)100部を攪拌器付き解重合反応槽に投入し、100rpm攪拌下、220℃まで加温しポリ乳酸を溶融状態とした。この溶融物にディップした吹込みノズルより220℃にスーパーヒートした水蒸気を1時間あたり100部の割合で抜き込みながら220℃、圧力0.0MPa(ゲージ圧)(すなわち常圧)の条件下、4時間反応させた。解重合を行いながら、解重合生成物を留分として解重合反応槽の上部の気相部から水蒸気と共に反応槽外部に抜き出した。反応終了後、釜残16部、水を含む留分484部を40℃まで冷却後、液体クロマトグラフにて組成を分析した。その結果、解重合したポリ乳酸の割合(解重合率)は、84%であり、そのうち乳酸に転化した割合は、投入したポリ乳酸に対して28%(光学純度:L体98%e.e.)であった。
【0017】
〔実施例2〕
ポリ乳酸(L体ほぼ100%)100部とポリエチレン10部を投入した以外は実施例1と同様の操作を行った。反応終了後、釜残26部、水を含む留分484部を40℃まで冷却後、液体クロマトグラフにて組成を分析した。その結果、解重合したポリ乳酸の割合(解重合率)は、84%であり、そのうち乳酸に転化した割合は、投入したポリ乳酸に対して28%(光学純度:L体98%e.e.)であり、水を含む留分中にはポリエチレンは検出されなかった。
【0018】
〔実施例3〕
反応圧力を0.4MPa(ゲージ圧)と設定した以外は実施例1と同様の操作を行った。反応終了後、釜残64部、水を含む留分436部を40℃まで冷却後、液体クロマトグラフにて組成を分析した。その結果、解重合したポリ乳酸の割合(解重合率)は、30%であり、そのうち乳酸に転化した割合は、投入したポリ乳酸に対して6%(光学純度:L体97%e.e.)であった。
【0019】
〔比較例1〕
反応温度を140℃と設定した以外は実施例1と同様の操作を行った。投入したポリ乳酸はほとんど溶融せず、反応終了後、釜残99部が回収され、その結果、解重合したポリ乳酸の割合は、1%であった。
【0020】
〔比較例2〕
反応温度を310℃と設定した以外は実施例1と同様の操作を行った。反応終了後、釜残15部、水を含む留分485部を40℃まで冷却後、液体クロマトグラフにて組成を分析した。その結果、解重合したポリ乳酸の割合(解重合率)は、85%であり、そのうち乳酸に転化した割合は、投入したポリ乳酸に対して27%(光学純度:L体11%e.e.)であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明により、生分解性ポリエステル回収物からケミカルリサイクル方法によって生分解性ポリエステルの有効成分を回収する場合、生分解性ポリエステル回収物に含まれる異素材や未反応の生分解性ポリエステルポリマーを反応生成物に含まないことが可能である。その結果、反応生成物の品質の確保することやケミカルリサイクル工程内での異素材によるトラブルを防止でき、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステルを解重合する方法であって、少なくとも一部が溶融状態にある生分解性ポリエステルに水を導入しつつ150〜300℃の反応温度にて解重合を行い、解重合生成物を水蒸気と共に気相部から取り出すことを特徴とする生分解性ポリエステルの解重合方法。
【請求項2】
生分解性ポリエステルがポリ乳酸であり、解重合生成物が乳酸、ラクチド、乳酸オリゴマーのうちの少なくとも1成分を含む混合物である請求項1記載の解重合方法。
【請求項3】
解重合を行う反応圧力として、常圧から1MPaの範囲で実施する請求項1又は2記載の解重合方法。

【公開番号】特開2007−2160(P2007−2160A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186223(P2005−186223)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】