説明

生分解性多価アルコールエステル

【課題】星状ポリマーすなわち中心コアに結合する3以上の高分子アームを有する一種の分枝ポリマーの生物医学的な利用を提供する。
【解決手段】アシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、遊離のヒドロキシルをその末端に含有する前駆物質多価アルコールエステルを反応せしめ、2−カルボキシエチニル基を得る。得られた産物は、薬物配送のためのヒドロゲルの形成に使用でき、反応せしめて、アミノキシラジカルまたは薬物分子残基または他の生物活性物質を、血管ステントなどからの配送のために付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本発明は、2001年8月2日出願の米国特許仮出願60/309,180(そのすべてを出典明示により本明細書の一部とする)の利益を享受する。
【0002】
技術分野
本発明は、アシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じる生分解性多価アルコールエステルに関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
最近、星状ポリマーすなわち中心コアに結合する3以上の高分子アームを有する一種の分枝ポリマーに関心が増加している。この種のポリマーは今まで生物医学的な利用がなされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、星状ポリマーすなわち中心コアに結合する3以上の高分子アームを有する一種の分枝ポリマーの生物医学的な利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
生物医学的な利用にとりわけ有用な生分解性星状ポリマーを、多価アルコールをエステル化して、脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じるアシル部分を得ることに基づき、製造できることを見出した。
【0006】
第1態様と呼ぶ本発明のひとつの態様は、生分解性多価アルコールエステルに関する。このエステルのアシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、遊離ヒドロキシルをその末端に含有する。このエステルの重量平均分子量は1,000〜80,000、例えば2,000〜50,000である。これらの化合物は、いくつかまたは各アシル部分が官能化され、不飽和基を取り込む二重結合官能化生分解性多価アルコールエステルの前駆物質である。このものは本発明の他の態様である。不飽和基を取り込むための官能化は、遊離のヒドロキシルをマレイン酸無水物と反応せしめるなどして進行でき、2−カルボキシエテニル基である不飽和末端部分を得る。
【0007】
第2態様と呼ぶ本発明の他の態様は、多糖のエステルの光架橋により形成される生分解性ポリエステル−多糖ヒドロゲルに関する。多糖のエステルは多糖と官能基との反応により形成する。例えば、多糖の不飽和エステルは、多糖と不飽和基提供化合物、第1態様の2−カルボキシエテニル末端の多価アルコールエステルとの反応により形成する。これらのヒドロゲルは、例えば薬物配送(送達)システムとして有用である。
重量平均分子量を、ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定する。
【0008】
用語「光架橋」は、放射エネルギーを用いてビニル結合を分解し架橋を形成せしめることを意味する。
用語「生分解性」は、人体および生物体(例えば、バクテリア)の正常な官能化および/または水環境において、トリプシンやリパーゼなどの酵素またはリソソームにより分解され得ることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
エステルのアシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、遊離ヒドロキシルをその末端に含有する生分解性多価アルコールエステルであって、その平均分子量が1,000〜80,000、例えば2,000〜50,000である、第1態様の化合物について説明する。
【0010】
この多価アルコールエステルの多価アルコール部分は、脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルの酸基の、例えば、3ないし6ヒドロキシル基をもつ多価アルコールに対する反応により得る。脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルには、例えば、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(ε−カプロラクトン)(本発明で好ましい)、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(δ−バレロラクトン−コ−ε−カプロラクトン)、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−ε−カプロラクトン)、エステル化反応時インシトゥに形成され得るポリ(1,4−ジオキサン−2−オン−コ−ε−カプロラクトン)がある。多価アルコールには、例えば、グリセロール、グリセロール誘導体、ペンタエリトリトール、糖類、例えばグルコースおよびグルコノ−δ−ラクトン;1,3−プロパンジオール−2−エチル−2−(ヒドロキシメチル);ブタンジオール類、D−+−アラビトール、ペルセイトール、リビトール、キシリトール、D−トレイトール、デュルシトール、L−フシトール、ソルビトール、エリトリトール、デキストランなどの多糖、ポリビニルアルコールがある。
【0011】
第1態様の多価アルコールエステル中に得られる高分子アームの最大数は、多価アルコール上のヒドロキシル基の数に相当する。
【0012】
次に、アシル部分が、エステル化反応時インシトゥに形成されるポリ(ε−カプロラクトン)から生じる場合を説明する。多価アルコールエステルを多価アルコールの存在におけるε−カプロラクトンの開環重合化により得る。ε−カプロラクトンと多価アルコールのヒドロキシルとのモル比は、1:1〜150:1である。すなわち、例えば、多価アルコールとしてグリセロールの場合、モル比はグリセロールに対しε−カプロラクトンが3倍となり、ペンタエリトリトールの場合、モル比はペンタエリトリトールに対しε−カプロラクトンが4倍となる。
【0013】
エステル化反応は、開環触媒、例えば、第一錫オクテートをε−カプロラクトンに対して0.01重量%〜1重量%用いて行うのが好ましい。第一錫オクテートの代わりに使用し得る開環触媒には、例えば、アルミニウム・トリイソプロポキシド、[(n−CO)AlO]Zn、ジブチル錫ジメトキシド、Zn L−ラクテート、アルミニウムチオレート、トリエチルアルミニウムがある。
【0014】
エステル化反応は、例えば、20〜150℃で10分〜72時間、減圧で封入された乾燥不活性ガス(例えば、アルゴンや窒素)を含有する重合管中で行う。乾燥不活性ガスの封入は触媒の加水分解および酸化を防ぐためである。
【0015】
グリセロールの存在でのε−カプロラクトンの開環重合から得られる3−アーム多価アルコールの構造を下記する:
【化1】


この構造において、nは例えば1〜150である。
【0016】
ペンタエリトリトールの存在でのε−カプロラクトンの開環重合から得られる4−アーム多価アルコールエステルの構造を下記する:
【化2】


この構造において、nは例えば1〜150である。
【0017】
上記のように、アシル部分の末端に遊離ヒドロキシルを含有する多価アルコールエステルは、いくつかまたは各アシル部分が官能化され、不飽和基を取り込む二重結合官能化生分解性多価アルコールエステルの前駆物質である。好ましい事例において、官能化は前駆化合物の遊離ヒドロキシルと無水マロン酸との反応による。不飽和基を取り込むための反応剤には、マレイン酸無水物以外に、例えば、アクロイルクロリドCH=CHCOCl、メタアクロイルクロリドCH=CH(CH)COCl、アリルイソシアネートCH=CHCHNCOがある。マレイン酸無水物を用いた場合、得られる不飽和末端部分は2−カルボキシエテニル基である。
【0018】
前駆物の遊離ヒドロキシル含有多価アルコールエステルのアシル部分の末端における不遊離ヒドロキシルとマレイン酸無水物との反応において、ヒドロキシル官能基とマレイン酸無水物とのモル比は、例えば、1:1〜1:10であり、反応は、100〜180℃、1〜72時間で行い得る。マレイン酸無水物および前駆物エステルの加水分解を防ぐために、窒素などの不活性ガス下で行うのが好ましい。マレイン酸無水物との反応が、多価アルコール出発材料上の遊離ヒドロキシルの数に対応する2−カルボキシエテニル官能化最大数のアームをつくる。これを本明細書では2−カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルと呼ぶ。
【0019】
グリセロールよりの前駆物から得られる2−カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルの構造を下記する:
【化3】


この構造において、nは例えば1〜150である。
【0020】
ペンタエリトリトールよりの前駆物から得られる2−カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルの構造を下記する:
【化4】


この構造において、nは例えば1〜150である。
【0021】
このエステルの生物的および材料的性質は、前駆物多価アルコールの分子量を変えるためにε−カプロラクトンの多価アルコールに対する比率を変えると、変り得る。
【0022】
本発明の官能化多価アルコールエステルの官能化ポリ(ε−カプロラクトン)アームは、このアームが酵素のない水およびヒドロラーゼでも加水分解されるので、生分解性である。トリプシンやリパーゼなどのヒドロラーゼは、生物に存在し、加水分解を触媒する。
【0023】
本発明の二重結合官能化多価アルコールエステルを光架橋できる。それには、溶解により溶液をつくり、2,2'−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどのホトイニシエーターを加え(例えば、エステルの重量に対しホトイニシエーターを1〜5%、例えば4%)、フィルムを形成せしめ、長波UVランプ、例えば365mn長波UVランプで5時間照射する。形成された三次元構造を用いて、薬物を捕捉し、遅速放出薬物配送システムを得る。
【0024】
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルは、生分解性ポリエステル−多糖ヒドロゲルをつくるのにも有用である。
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルと多糖の反応産物とを溶液中で光架橋して、生分解性ポリエステル−多糖ヒドロゲルを得る。光架橋のためのホトイニシエーターおよび照射手段は、光架橋についての上記のものと同じである。得られるヒドロゲルは生分解性である(生分解性ヒドロゲルは、水によりおよび/または天然に存する酵素により分解されるポリマーを架橋することで形成されるヒドロゲルである)。
【0025】
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールとの光架橋のための反応産物をつくるのに有用な多糖は、三次元ネットワークの形成を可能にするヒドロキシ官能基を有する。この多糖には、例えば、デキストラン、イヌリン、デンプン、セルロース、プラン、レバン、マンナン、キチン、キシラン、ペクチン、グルクロナン、ラミナリン、ガラクトマンナン、アミロース、アミロペクチン、フィトホトオルグルカンがある。好ましい多糖はデキストランである。
【0026】
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコール・ポリエステルを用いて生分解性ポリエステル−デキストラン反応産物ヒドロゲルを形成せしめる場合、平均分子量40,000〜80,000を持つデキストラン(デキストランはα−D−グルコピラノシル残基に結合し(1→6)、グルコース当り3個のヒドロキシル基をもつ)を2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルと光架橋する。デキストラン反応産物をつくる反応は非プロトン性溶媒、例えば、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド中で容易に実施できる。Lewis塩基、好ましくはトリエチルアミンが触媒する。好ましいデキストラン反応産物は、WO00/12619に記載のように調製されるデキストラン・マレイン酸モノエステルである。
【0027】
得られるヒドロゲルは、遅速放出薬物配送システムのために薬物などの生物活性物質を捕捉またはそれらと共有結合するのに有用である。薬物を捕捉するのに、WO00/60956(2000年10月19日公表)に薬物としてインドメタシンおよび別個のヒドロゲルについて記載されている方法を使用できる。本発明のヒドロゲルの有用性は、WO00/60956に記載されている有用性を含む。特に、ヒドロゲルを調整して、薬物調節放出、損傷被覆、皮膚代替、遺伝子療法でのウイルス運搬、血管(例えば、冠状)ステントを含む外科移植(例えば、人口膵臓)のための被膜、細胞接着または増殖を促進するための組織培養プレートの被膜を得る。
【0028】
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルをヒドロゲル形成に独立的に使用できる場合、2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルを不飽和モノマー、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸またはマレイン酸無水物と遊離ラジカル重合で重合して、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸またはポリマレイン酸のセグメントを連結し、各カルボキシルを複数のカルボキシルで置き換えできる。これは、アミノキシル含有ラジカルを含む部分または他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基の、カルボキシルのヒドロキシル部分に代わる付着のためである。反応は遊離ラジカル重合化条件下で行う。反応は、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのイニシエーターを用いて始め、ジオキサン中で60℃までの加熱5時間で実施し得る。
【0029】
アミノキシル含有ラジカルまたは他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基の、カルボキシルのヒドロキシル部分に代わる付着について説明する。
アミノキシル含有ラジカルを含める反応は、カルボキシルのヒドロキシルを、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシの4位に結合するイミノで、2,2,5,5−テトラメチルピペリジン−1−オキシの3位に結合するイミノで、または2,2,5,5−テトラメチルピペリジン−1−オキシ−3−カルボニルのカルボニルに結合するイミノで置き換えるのに適するスピン標識の反応により実施する。適当なスピン標識は米国特許5,516,881に記載されている。用語「アミノキシル」は、構造>N−O-の意味で使用する。用語「アミノキシル含有ラジカル」は、構造>N−O-を含有するラジカルの意味で使用する。産物は、腫瘍のアミノキシルラジカル処置、腫瘍の化学療法およびイオン化照射療法についての効力増加、損傷、病変または老化のヒト血管の再構築、自然形成の酸化窒素過剰の制御、中和、減少の手段として有用である。
【0030】
カルボキシル基のヒドロキシルに代わりに他の薬物分子残基または他の生物活性物質残基を含める反応は、カルボキシル基と反応性の基を有する他の薬物または他の生物活性物質を反応せしめて、他の薬物または他の生物活性物質を、エステル、アミド、オキシカルボニル結合またはイオン結合によるカルボキシレートを介して付着する。カルボキシル基と反応性の基を有する他の薬物または他の生物活性物質には、カルボニル、カルボキシレート、カルボン酸と結合するアミン基またはオキシを含有するか、修飾されてエストロン、エステラジオール、ドクソルビシンまたはカンプトテシンなどを含有する他の薬物または他の生物活性物質がある。
【0031】
不飽和モノマー、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸またはマレイン酸無水物で重合された2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルであって、アミノキシル含有ラジカルを含む部分または他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基で置き換えられたカルボキシルのヒドロキシル持つ場合の産物の使用は、血管ステント(例えば、冠状ステント)の被膜のための、薬物または他の生物活性物質放出ポリマー被膜システムを含む薬物または他の生物活性物質の制御/放出デバイスなどのデバイス、および組織エンジニアリングのためのスキャホルディングがある。、
【0032】
生分解性のポリエステル−多糖ヒドロゲルおよび不飽和モノマーで重合された2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルも、スピン標識または他の薬物もしくは生物活性物質と混合して、薬物配送マトリクスを得る。
【0033】
アミノキシル含有ラジカルまたは他の薬物もしくは他の生物活性物質の、直接的共有結合またはイオン結合による持続または遅延放出官能基を含む制御された放出官能基は、スペーサー分子を介する異なる分子の長さおよび構造を用いる種々のコンジュゲート法により得て、他の薬物または他の生物活性物質のスピン標識をポリマー骨格にコンジュゲートできる。あるいは、ポリマー薬物マトリクスを、スピン標識または他の薬物または他の生物活性物質とポリマー成分とを混合してつくることができる。あるいは、薬物とポリマー材料との層を構築できる。あるいは、種々のヒドロゲル/薬物混合物を用いてトップコートを適用して、制御された持続放出局所配送システムを得ることができる。これらを、例えば、ステント・プラトフォーム上またはミクロフェアー(ナノ粒子)上に適用し、全身的利用のためのミクロフェアーに基づく薬物配送システムを得ることができる。
【0034】
本発明の多価アルコールエステルを血管ステント、例えば冠状ステント上での薬物/他の生物活性物質放出被覆をつくるために使用する場合について、説明する。上記のように、このひとつの事例は、本発明の多価アルコールエステルを用いて薬物または他の生物活性物質を捕捉するかまたはそれと共有結合しているヒドロゲルをつくることである。上記のように、他の事例は、2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルをアクリル酸またはメタアクリル酸またはマレイン酸無水物と遊離ラジカル重合において反応せしめ、アミノキシル含有ラジカルまたは他の薬物または他の生物活性物質の付着を行うことである。
【0035】
ステント上の薬物/生物活性放出被覆のための本発明の多価アルコールエステルからの産物に関連して使用される医療物質は、小さい化合物、例えば平均的分子量が200〜1,000であって、例えば、インドメタシン、ヒポエストキシド、パクリタクセルなどのタクサン誘導体、シロリムス、デキサメタゾン、トラゾロピリミジン、トラニラスト、サリドマイドおよびその同族体、シムバスチンなどの同族体、および大きい化合物、例えば平均的分子量が1,000〜100,000であって、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、モルホリンを基にする骨格をもつアンチセンスオリゴヌクレオチド、これはNeu−GENES(登録商標)の名で市販されており、限定的な水溶性を有す)、遺伝子産物(例えば、GENERX(登録商標)という名の脈管形成用Ad5−FGF4遺伝子、Circulation 3/19/02 に記載)、抗体および抗体断片(例えば、ABCIXIMAB(登録商標)という名の抗血小板用のc7E3Fab、Baron, J., et al., Cardiovascular Res 48, 464-472, 2000 に記載)がある。
【0036】
ヒドロゲルをステント上に被覆する場合、この実施は、ヒドロゲル形成剤と薬物の溶液をステント上に被覆して、ステント上にヒドロゲルを形成せしめるか、または薬物と結合した dry-to-the-touch ヒドロゲルを形成せしめ、これをステントに付着する。
【0037】
2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールをアクリル酸またはメタアクリル酸と遊離ラジカル重合で反応せしめ、ついで薬物の付着または薬物とのマトリクス化を行う場合、産物のステントへの付着は溶液などからの浸被覆により実施できる。
【0038】
薬物はステントなどのデバイス上に医療上有効な量で使用する。医療物質の医療上有効な量は、医療物質がステントなどのデバイス上に目的を達成する量で存在する量である。例えば、抗炎症剤では抗炎症作用を発揮する量、抗コレステロール剤ではコレステロールの減少またはHDLの増加を起こす量、抗血小板剤では血小板形成を阻害する量、再閉塞に投与される物質ではそれを軽減または防止する量、脈管形成促進剤ではステントの拒絶を防ぎ免疫抑制を発揮する量および脈管形成を起こす量である。
【0039】
上記の両事例の場合、付着は血管ステント上に直接的にまたはポリマー被覆血管ステントにまたはステント上のトップコートとして他の生分解性ポリマー被覆(例えば、共有結合的に集められたマトリクス薬物をもつポリエステル−アミド)でなし得る。
【0040】
用語「薬物」は、疾患の診断、治療処置、緩和、治療または予防における使用のための物質を意味する。典型的に、薬物は平均分子量が200〜1,000である。用語「他の薬物」における「他の」は、アミノオキシル構造を含有する基を含まない薬物を意味する。
【0041】
用語「他の生物活性物質」には、サイトカイン、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド、遺伝子、炭水化物、ホルモンがあるが、アミノオキシル含有ラジカルおよび「他の薬物分子」を含む化合物を除く。
【0042】
他の薬物分子残基および他の生物活性物質残基における用語「残基」は、関連の反応での付着において分離される部分を差し引かれた薬物分子または他の生物活性物質を意味する。
【0043】
次に、アシル部分がポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)から生じる多価アルコール化エステルについて説明する。例えば、これは、平均分子量が約750〜150,000であり、エステル化反応中にインシトゥで形成される。この場合の調製は、多価アルコールとのエステル化反応中にインシトゥで形成されるポリ(ε−カプロラクトン)ホモポリマーからアシル部分が生じる場合について上記した調製におけるε−カプロラクトンに代えて、ラクチドとε−カプロラクトンモノマーを使用することで実施できる。
【0044】
次に、アシル部分がポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)から生じる多価アルコール化エステルについて説明する。例えば、これは、平均分子量が約750〜150,000であり、エステル化反応中にインシトゥで形成される。この場合の調製は、多価アルコールとのエステル化反応中にインシトゥで形成されるポリ(ε−カプロラクトン)ホモポリマーからアシル部分が生じる場合について上記した調製におけるε−カプロラクトンに代えて、グリコリドとε−カプロラクトンモノマーを使用することで実施できる。
【0045】
上記の2パラグラフに記載のものと類似の調製が、アシル部分がポリ(δ−バレロラクトン−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−ε−カプロラクトン)およびポリ(1,4−ジオキサン−2−オン−コ−ε−カプロラクトン)から生じる多価アルコールエステルの場合に適当である。
【0046】
アシル部分がポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(δ−バレロラクトン−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(1,4−ジオキサン−2−オン−コ−ε−カプロラクトン)から生じる多価アルコールエステルの場合、遊離ヒドロキシルを、米国特許出願10/101,408(2002年3月20日出願)に記載の条件下でのマレイン酸無水物との反応により、2−カルボキシエテニルに転換できる。2−カルボキシエテニル基を米国特許出願10/101,408に記載のようにポリ(メト)アクリル酸セグメントに転換できる。
【0047】
アシル部分がポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(δ−バレロラクトン−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(β−ヒドロキシブチレート−コ−ε−カプロラクトン)またはポリ(1,4−ジオキサン−2−オン−コ−ε−カプロラクトン)などのポリエステルから生じる多価アルコールエステル、例えば、カルボキシエテニル(マレイン酸官能化)デキストランの場合の有用性は、アシル部分がε−カプロラクトンの重合化から生じる場合と同じである。
【0048】
アシル部分がデキストランなどの多糖を含む上記の他の多価アルコールから得られる場合の有用性は、アシル部分がグリセロールおよびペンタエリトリトールから得られる場合と同じである。
【0049】
本発明を下記の実施例でもって説明する。
【実施例1】
【0050】
エステルのアシル部分がポリ(ε−カプロラクトン)からであり、官能化されたヒドロキシルであるグリセロールエステルを、グリセロール存在下でのε−カプロラクトンの開環重合化により、下記のように調製した。
【0051】
グリセロール(0.02モル)、ε−カプロラクトン(0.10モル)および第一錫オクテート(ε−カプロラクトンに対し0.1重量%)をシラン処理の重合管に加えた(ε−カプロラクトン(CL)とグリセロールのヒドロキシル(OH)との供給モル比が5:1)。頭部に数回アルゴンを充填し、重合管を減圧で密封した。密封管を130℃の油浴に入れ、48時間保持して、グリセロールの存在でε−カプロラクトンの開環重合を起こし、エステルのアシル部分がポリ(ε−カプロラクトン)からであり、官能化されたヒドロキシルであるグリセロールエステルを得た。PGCL−OHと呼ぶ。密封管を油浴から外し、室温に冷やし、粗製産物をクロロホルムに溶かして、重合管から取り出す。得られた溶液を過剰の石油エーテルに注ぎ、産物を沈澱さす。沈澱を蒸留水で4回洗い、Pで減圧室温で一定の重量になるまで乾燥する。産物をPGCL−OH−1と呼ぶ。
【0052】
ε−カプロラクトンとグリセロールのヒドロキシルとの供給モル比を10:1、20:1、40:1と変えること以外は、上記と同様に実施した。産物を夫々PGCL−OH−2、PGCL−OH−3、PGCL−OH−4と呼ぶ。
【0053】
収量、数平均分子量M、重量平均分子量M、ピーク分子量M(サンプルについてGPC曲線のピークでの重量平均分子量)およびポリ分散M/Mを表1に示す。M、M、Mは、ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定した。
【0054】
表1
【表1】

【0055】
表1のエステルの2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルへの転換を下記のよう実施した。
上記で製造のPGCL−OH−1(0.01モル)およびPGCL−OH−1のヒドロキシルに対する5等量のマレイン酸無水物を三首フラスコにN気下で入れ、130℃で24時間保持した。ついで、反応混合物を室温に冷やし、クロロホルムに溶解した。得られたクロロホルム溶液を過剰の石油エーテルに注ぎ、産物を沈澱せしめた。沈澱を蒸留水500ml中で4時間攪拌し過剰のマレイン酸無水物を除去した。ろ過後、沈澱を蒸留水で4回洗い、Pで減圧室温で一定の重量になるまで乾燥した。産物をPGCL−Ma−1と呼ぶ。
【0056】
PGCL−OH−1を等モル量のPGCL−OH−2、PGCL−OH−3、PGCL−OH−4に変えること以外は、上記と同様に実施した。産物を夫々PGCL−Ma−2、PGCL−Ma−3、PGCL−Na−4と呼ぶ。
【0057】
産物PGCL−Ma−1,PGCL−Ma−2、PGCL−Ma−3、PGCL−Na−4についての数平均分子量Mおよびポリ分散M/M(ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定)を下記の表2に示す。
【0058】
表2
【表2】

【0059】
下記のように実施して、表2の産物を転換し、架橋フィルムをつくった。
PGCL−Ma−1(1g)をジオキサン(5%wt/vol)に溶解した。ホトイニシエーター、2,2'−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(PGCL−Ma−1の4重量%)を溶液に加え、数分間激しく攪拌しながら溶解した。溶液をガラスプレート上に注ぎ、365nm長波UVランプ(Model UVL-18, 8 watt handheld, UVP, Upland, CA, USA) で5時間刺激した。得られた架橋フィルムを減圧室温で乾燥した。産物は乳白色フィルムであり、NPGCL−Ma−1と呼ぶ。
【0060】
PGCL−Ma−1の代わりに等モル量のPGCL−Ma−2、PGCL−Ma−3、PGCL−Ma−4を用いる以外は上記と同様に実施した。産物は乳白色フィルムであり、それぞれNPGCL−Ma−2、NPGCL−Ma−3、NPGCL−Ma−4と呼ぶ。
【0061】
PGCL−Ma−1、PGCL−Ma−2、PGCL−Ma−3およびPGCL−Ma−4は、エチルアセテート、ジオキサン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、メチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジクロロメタンおよびアセトンに溶解するが、架橋産物のNPGCL−Ma−1、NPGCL−Ma−2、NPGCL−Ma−3およびNPGCL−Ma−4は、溶解しない。
【0062】
融点、熔融熱、結晶度についてPGCL−Ma−1、PGCL−Ma−2、PGCL−Ma−3、PGCL−Ma−4とNPGCL−Ma−1、NPGCL−Ma−2、NPGCL−Ma−3、NPGCL−Ma−4との比較を表3に示す。融点は、示差走査熱量計(DSC、Perkin-Elmer DSC-7)を用いて窒素気中で加熱速度10℃/分、−50℃〜120℃で測定した。各PGCL−Maサンプルは2融点ピークに分かれる1つの吸熱ピークを有し、一方、各対応のNPGCL−Ma産物は分かれるような吸熱ピークを有さなかった。熔融△Hの熱は融解吸熱の正常範囲を積分することで決定した。各事例における結晶度は、サンプルの△Hを100%結晶の△Hで除し、100を掛けたものに等しい。
【0063】
表3
【表3】


上記の表3において、Tは上記のように測定した融点であり、△Hは上記のように測定した熔融熱であり、Χは結晶度である。表3に示すように、融点、熔融熱、結晶度は、架橋後に低下した。
【実施例2】
【0064】
エステルのアシル部分がポリ(ε−カプロラクトン)からであり、官能化されたヒドロキシルであるペンタエリトリトールエステルを、ペンタエリトリトール存在下でのε−カプロラクトンの開環重合化により、下記のように調製した。
【0065】
ペンタエリトリトール(0.02モル)、ε−カプロラクトン(0.1モル)および第一錫オクテート(ε−カプロラクトンに対し0.1重量%)をシラン処理の重合管に加えた(ε−カプロラクトン(CL)とペンタエリトリトールのヒドロキシル(OH)との供給モル比が5:1)。頭部に数回アルゴンを充填し、重合管を減圧で密封した。密封管を130℃の油浴に入れ、48時間保持して、ペンタエリトリトールの存在でのε−カプロラクトンの開環重合を起こし、エステルのアシル部分がポリ(ε−カプロラクトン)からであり、官能化されたヒドロキシルであるペンタエリトリトールエステルを得た。PPCL−OHと呼ぶ。密封管を油浴から外し、室温に冷やし、粗製産物をクロロホルムに溶かして、重合管から取り出す。得られた溶液を過剰の石油エーテルに徐々に注ぎ、産物を沈澱さす。沈澱をろ過で得て、ついで乾燥した。粉末沈澱を蒸留水で4回洗い、Pで減圧室温で一定の重量になるまで乾燥した。産物をPPCL−OH−1と呼ぶ。
【0066】
ε−カプロラクトンとペンタエリトリトールのヒドロキシルとの供給モル比を10:1、20:1、40:1と変えること以外は、上記と同様に実施した。産物を夫々PPCL−OH−2、PPCL−OH−3、PPCL−OH−4と呼ぶ。
【0067】
収量、数平均分子量M、重量平均分子量M、ピーク分子量M(サンプルについてGPC曲線のピークでの重量平均分子量)およびポリ分散M/Mを下記の表4に示す。M、M、Mは、ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定した。
【0068】
表4
【表4】

【0069】
PPCL−OHにおける供給モル比とペンタエリトリトールの残基ヒドロキシルの関係を下記の表5に示す。
【0070】
表5
【表5】

【0071】
表4のエステルの2‐カルボキシエテニル官能化多価アルコールエステルへの転換を下記のように実施した。
上記で製造のPPCL−OH−1(0.01モル)およびPPCL−OH−1のヒドロキシルに対する5等量のマレイン酸無水物を三首フラスコにN気下で入れ、熔融物を24時間持続的に攪拌した。24時間後、反応混合物を室温に冷やし、クロロホルムに溶解した。クロロホルム溶液を6倍量の石油エーテルに注ぎ、産物を沈澱せしめた。沈澱を蒸留水500ml中で4時間攪拌し、過剰のマレイン酸無水物を除去した。ろ過後、蒸留水で4回洗い、Pで減圧室温で一定の重量になるまで乾燥した。産物をPPCL−Ma−1と呼ぶ。
【0072】
PPCL−OH−1を等モル量のPPCL−OH−2、PPCL−OH−3、PPCL−OH−4に代えること以外は、上記と同様に実施した。産物を夫々PPCL−Ma−2、PPCL−Ma−3、PPCL−Na−4と呼ぶ。
【0073】
産物PPCL−Ma−1,PPCL−Ma−2、PPCL−Ma−3、PPCL−Na−4についての数平均分子量Mおよびポリ分散M/M(両者を、ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定)を下記の表6に示す。
【0074】
表6
【表6】

【0075】
ペンタエリトリトールの残基ヒドロキシルおよびポリ(ε−カプロラクトン)の末端ヒドロキシのヒドロキシル官能基の定量的転換が低分子量で、例えば、サンプルPPCL−Ma−1で生じた。
【0076】
PPCL−Ma−1の架橋を下記のように実施した。二重結合官能化産物PPCL−Ma−1(1g)をジオキサン(5%wt/vol)を溶解した。ホトイニシエーター、2,2'−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(PPCL−Ma−1の4重量%)を溶液に加え、イニシエーターの溶解を容易にするために数分間激しく攪拌した。得られた溶液をガラスプレート上に注ぎ、365mm長波UVランプ(Model UVL-18, 8 watt handheld, UVP, Upland, CA, USA) で5時間刺激した。得られた架橋フィルムを減圧室温で乾燥した。産物は乳白色フィルムであり、NPPCL−Ma−1と呼ぶ。
【0077】
PPCL−Ma−1の代わりに等モル量のPPCL−Ma−2、PPCL−Ma−3、PPCL−Ma−4を用いる以外は上記と同様に実施した。産物は乳白色フィルムであり、それぞれNPPCL−Ma−2、NPPCL−Ma−3、NPPCL−Ma−4と呼ぶ。
【0078】
PPCL−Ma−1、PPCL−Ma−2、PPCL−Ma−3およびPPCL−Ma−4は、エチルアセテート、ジオキサン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、メチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジクロロメタンおよびアセトンに溶解するが、NPPCL−Ma−1、NPPCL−Ma−2、NPPCL−Ma−3およびNPPCL−Ma−4は、溶解しない。
【0079】
融点、熔融熱、結晶度についてPPCL−Ma−1、PPCL−Ma−2、PPCL−Ma−3、PPCL−Ma−4とNPPCL−Ma−1、NPPCL−Ma−2、NPPCL−Ma−3、NPPCL−Ma−4との比較を下記の表7に示す。融点は、示差走査熱量計(TA Instruments, DSC 2920)を用いて窒素気中で加熱速度10℃/分、−50℃〜120℃で測定した。各PPCL−Maサンプルは2融点ピークに分かれる1つの吸熱ピークを有し、一方、対応のNPPCL−Ma産物は分かれない吸熱ピークを有した。各事例における熔融△Hの熱は融解吸熱の正常範囲を積分することで決定した。各事例における結晶度は、サンプルの△Hを100%結晶の△Hで除し、100を掛けたものに等しい。
【0080】
表7

【表7】

上記の表7において、Tは上記のように測定した融点であり、△Hは上記のように測定した熔融熱であり、Χcは結晶度である。各PPCL−Maサンプルについて融点は、架橋後に低下した。各PPCL−Maサンプルの熔融熱は、架橋後に低下した。各PPCL−Maサンプルの結晶度は、架橋後に低下した。
【実施例3】
【0081】
PGCL−Ma−3をジメチルホルムアミドに溶解し、濃度5%w/vとした。ついで、ホトイニシエーターとして2,2'−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(PGCL−Ma−3の4重量%)を加えた。架橋前に直接的に、2.5%インドメタシン(PGCL−Ma−3の重量に基づくw/w)を加えた。得られた組成物をガラスプレート上に注ぎ、365nm長波UVランプで5時間刺激した。インドメタシンを捕捉する得られた架橋フィルムを減圧室温で乾燥した。
他の事例において、PGCL−Ma−3を等モル量のPPCL−Ma−3に代える以外は、同じ操作である。
【実施例4】
【0082】
PGCL−Ma−3およびデキストラン−マレイン酸モノエステル(重量比1:1)をジメチルホルムアミドに溶解し、濃度5%w/vとした。ついで、実施例3と同じホトイニシエーター(該得られた反応産物の4重量%)を加えた。光架橋前に直接的に、2.5%インドメタシン(該得られた反応産物の重量に基づく)を加えた。得られた組成物をガラスプレート上に注ぎ、365nm長波UVランプで5時間刺激した。インドメタシンを捕捉する得られたヒドロゲルを減圧室温で乾燥した。
【0083】
ガラスプレートを血管ステントに変えると、捕捉されたインドメタシンを有するヒドロゲルがステント上に形成する。血管形成術がなされた後に配置された被覆ステントは、通常のステントに比して炎症が減少している。
他の事例において、PGCL−Ma−3を等モル量のPPCL−Ma−3に代える以外は、同じ操作である。
【実施例5】
【0084】
PGCL−Ma−3(1.98g)、アクリル酸(3.0g)およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、アクリル酸の1.1重量%)をジオキサン20mlに室温で溶解する。得られた溶液を60℃に5時間加熱する。溶媒の大部分を120℃の蒸留により除去した後、反応混合物を冷水中に沈澱せしめ、アクリル酸ホモポリマー副産物から分離する。PGCLAと呼ぶ沈澱物をろ過し、冷水で3回洗い、Pで減圧室温で乾燥した。
【0085】
PGCLA(1.14g)をジオキサン20mlに50℃で溶かし、N,N−カルボニルジイミダドール0.285gを加える。15分後に4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ(TEMPAMINE)0.314gのジオキサン溶液5mlを反応混合物に50℃で徐々に加える。反応混合物を数時間50℃で激しく攪拌する。得られた溶液を石油エーテルに滴下して、PGCLAのカルボキシル基のヒドロキシ部分が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシの4位に結合しているイミノで置換された産物を沈澱せしめる。このものをTAM−PGCLAと呼ぶ。
【0086】
TAM−PGCLAのジオキサンなどの適当な溶媒中の溶液(ジオキサン20ml中TAM−PGCLA1g)に血管ステントを浸し、溶媒を留去して、TAM−PGCLA浸被覆の血管ステントを得る。血管形成術がなされた後に配置されたTAM−PGCLA被覆ステントは、通常のステントに比して炎症が減少している。
他の事例において、上記の調製のPGCL−Ma−3を等モル量のPPCL−Ma−3に代える。
【0087】
変形
上記の多くの変形は当業者に明らかである。従って、本発明は請求項により定義つけられる。
【0088】
本発明は、以下を提供する。
第1項:生分解性多価アルコールエステルであって、そのエステルのアシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、その末端に遊離のヒドロキシルを含有し、そしてその平均分子量が1,000〜80,000であるエステル。
第2項:エステルのアシル部分がε-カプロラクトンモノマーの重合またはε-カプロラクトンモノマーとラクチドモノマーもしくはグリコリドモノマーとの混合から生じる、第1項の生分解性多価アルコールエステル。
第3項:エステルのアシル部分がε-カプロラクトンモノマーの重合から生じる、第1項の生分解性多価アルコールエステル。
第4項:いくつかまたはすべてのアシル部分が官能化されて、不飽和基を取り込む、第1項の生分解性多価アルコールエステル。
第5項:官能化がいくつかまたはすべての遊離ヒドロキシルとの反応によりなされ、2−カルボキシエテニル基である不飽和末端部分を提供する、第4項の生分解性多価アルコールエステル。
第6項:不飽和末端部分が不飽和カルボキシル基含有の化合物またはポリマーと反応して、複数のカルボキシル基をもつ最終セグメントを提供する、第5項の生分解性多価アルコールエステル。
第7項:いくつかまたはすべてのカルボキシル基が改変されて、アミノキシル含有ラジカルを含有する部分または他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基を含む部分を、カルボキシル基のヒドロキシル部分の代わりに提供し、ポリマー薬物配送および/または放出システムを提供する、第6項の生分解性多価アルコールエステル。
第8項:多価アルコールエステルのアルコール部分が、3〜6個のヒドロキシル基を含有する多価アルコールから生じる、第1項の生分解性多価アルコールエステル。
第9項:多価アルコールエステルのアルコール部分が、グリセロールから生じる、第8項の生分解性多価アルコールエステル。
第10項:多価アルコールエステルのアルコール部分が、ペンタエリトリトールから生じる、第8項の生分解性多価アルコールエステル。
第11項:生分解性ポリエステル−多糖ヒドロゲルであって、多糖のヒドロキシと第5項のエステルの2−カルボキシエテニル基との反応により形成された不飽和反応産物の光架橋により形成されるヒドロゲル。
第12項:多糖がデキストランである、第11項の生分解性ポリエステル−多糖ヒドロゲル。
第13項:配送すべき薬物または他の生物活性物質を捕捉しているか、またはそれと共有結合している第12項の生分解性ヒドロゲルを含む薬物配送システム。
第14項:第13項の薬物配送システムを含む被覆を含有する血管ステント。
第15項:第7項の薬物配送および/または放出システムを含む被覆を含有する血管ステント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性多価アルコールエステルのアシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、アシル部分の末端に遊離のヒドロキシルを含有する生分解性多価アルコールエステルから得られ、該生分解性多価アルコールエステルの末端の遊離のヒドロキシルのいくつかまたはすべてが、2−カルボキシエテニル基に変換されており、平均分子量が1,000〜80,000である、末端に2−カルボキシエテニル基を有する生分解性多価アルコールエステル。
【請求項2】
2−カルボキシエテニル基を有する請求項1の生分解性多価アルコールエステルと、不飽和カルボキシル基含有の化合物とが反応して得られる、複数のカルボキシル基をもつ末端セグメントを有する、多価アルコールエステル。
【請求項3】
請求項2の多価アルコールエステルの、いくつかまたはすべてのカルボキシル基と、アミノキシル含有ラジカルを含有する部分または他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基を含む部分とが反応して得られる、請求項2の多価アルコールエステルのカルボキシル基のヒドロキシル部分の代わりにアミノキシル含有ラジカルを含有する部分または他の薬物分子残基もしくは他の生物活性物質残基を含む部分を有する、ポリマー薬物配送および/または放出用多価アルコールエステル。
【請求項4】
エステルのアシル部分がε-カプロラクトンモノマーまたはε-カプロラクトンモノマーとラクチドモノマーもしくはグリコリドモノマーとの混合物の重合から生じる、請求項1の生分解性多価アルコールエステル。
【請求項5】
エステルのアシル部分がε-カプロラクトンモノマーの重合から生じる、請求項1の生分解性多価アルコールエステル。
【請求項6】
多価アルコールエステルのアルコール部分が、グリセロールから生じる、生分解性多価アルコールエステルであって、そのエステルのアシル部分が脂肪族ホモポリマーまたはコポリマー・ポリエステルから生じ、アシル部分の末端に遊離のヒドロキシルを含有し、そしてその平均分子量が1,000〜80,000である生分解性多価アルコールエステル。
【請求項7】
請求項3のポリマー薬物配送および/または放出用多価アルコールエステルを含む被覆を含有する血管ステント。

【公開番号】特開2009−167418(P2009−167418A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64455(P2009−64455)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【分割の表示】特願2003−516444(P2003−516444)の分割
【原出願日】平成14年7月15日(2002.7.15)
【出願人】(592035453)コーネル・リサーチ・ファンデーション・インコーポレイテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL RESEARCH FOUNDATION, INCORPORATED
【Fターム(参考)】