説明

生物活性組成物をミトコンドリアへ標的化導入することにより、有機組織に作用する方法、該方法を行うための医薬組成物、及びそのために用いられる化合物

本発明は、生物学および医学に関し、特に、ミトコンドリアへ生物活性物質を標的化導入するための医薬組成物を調製するのに医学において有用とすることができ、かかる導入はプロトン電気化学ポテンシャルにより行われる。また、本発明は、ミトコンドリアへ生物活性物質を標的化導入することにより、有機組織に作用する方法に関する。該方法は、ミトコンドリアの通常の作用ではない病気又は疾患、特に、フリーラジカル及び活性酸素種の増大した産生に伴う病気の処置に有用とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学および医学に関し、特に、ミトコンドリアへ生物活性物質を標的化導入するための医薬組成物を調製するのに医学において有用であり、かかる導入は、プロトン電気化学ポテンシャルにより行われる。また、本発明は、有機組織に作用する方法に関し、該方法は、必要とされる生物活性物質をミトコンドリアへ導入することを有する。
【発明の背景】
【0002】
ミトコンドリアは、多くの重大な細胞内プロセス、例えば、細胞におけるエネルギー代謝(ミトコンドリアの主な機能は、細胞にエネルギーを提供することであるから)、ある物質(例えば、脂肪酸)の代謝などにおいて重要な役割を果たす。ミトコンドリアはまた、フリーラジカル(FR)および活性酸素種(ROS)(生きている細胞における多くのプロセスに影響を及ぼし得る非常に反応性の高い部分)の形成および利用に直接関与する。最後に、最近、ミトコンドリアはプログラム化された細胞死のプロセスにおいて重要な役割を果たすことが証明された。
【0003】
多くの疾患は、ミトコンドリアの機能障害に関連することが知られている。このカテゴリーには、FRおよびROSの増大した形成、組織または器官内の細胞の単独または集団死、プログラム化された細胞死メカニズム(アポトーシス)における異常、脂肪酸代謝における異常などに関連する全ての障害が含まれる。
【0004】
ミトコンドリアに対して作用することにより、細胞および全有機組織の生命活動の最も多様な態様に影響を及ぼすことが可能であるという仮説が立てられる。
本発明の構成内において、これらの小器官における様々な生物活性物質を標的化導入し且つ蓄積することによって、生きている細胞におけるミトコンドリアに対して作用するための新規技術が提案されている。
【0005】
この方法は、明らかな利点を提供する。物質を標的化導入することにより、その適用の有効性が増大し、全体的な投与量が減少し(細胞の標的区画内部に物質が繰り返し蓄積するために物質の有効濃度が達成されるため)、副作用の可能性および強度を減少させることができる。
【0006】
ミトコンドリア自体の構造機構は、ターゲティングについてのまたとない機会を提供し、機能するミトコンドリアは、そのマトリックスから細胞質中へプロトンを活発に排出する。このプロセスは、ミトコンドリアの内膜上に水素イオンの非常に高い電気化学ポテンシャル(プロトンポテンシャル)を形成する。
【0007】
生体エネルギー研究の結果、プロトンポテンシャルに依存した方法で、ミトコンドリア膜を貫通しミトコンドリア内部に活発に蓄積することができる多くの化合物が見いだされている。これらの物質は、「スクラチェフ(Skulachev)イオン」(Green D.E., "The electromechanochemical model for energy coupling in mitochondria", 1974, Biochem. Biophys. Acta., 346: 27-780)と命名された。かかるイオンは通常、顕著な生物活性を示さない。本発明の主な考えは、スクラチェフイオン以外に、たとえば、ミトコンドリア中へ送達されるべき別の望ましい物質(本発明においては、エフェクタ(effector)部分、またはエフェクタと称する)を含む新規化合物を形成するためにスクラチェフイオンを使用することにある。
【0008】
非常に限定された数のミトコンドリア標的化生物活性物質しか現在のところ知られていない。いくつかの関連する物質が、US6,331,532およびEP 1 047 701(ミトキノール(MitoQ)、ミトビタミンE(MitoVitE))およびEP 1 534 720(トリフェニルホスホニウムと結合したスーパーオキシド・ジスムダーゼおよびグルタチオン・ペルオキシダーゼ模倣物)に記載されている。これらの化合物のいくつかおよびその活性は、以下に記載される論文において検討されている。
【0009】
スーパーオキシド・ジスムダーゼおよびグルタチオン・ペルオキシダーゼ模倣物を含む化合物は、EP 1 534 720において、酸化的ストレスなどが原因の疾患を処置するために適した、ミトコンドリア標的化抗酸化物質として権利請求されている。この発明を例示する実験例において、EP 1 534 720のデータは、これらの模倣物のミトコンドリアへの浸透能ならびに溶液中および単離されたミトコンドリアとの相互作用におけるその抗酸化作用について、提示されている。これらの化合物の細胞または有機組織全体に対する作用についてのデータは提示されていない。しかし、同時に、タンパク質のスルフヒドリル基に関して望ましい模倣物の高い反応性についてのデータがある。かかる反応性は、Filipovska A., Kelso G.F., Brown S.E., Beer S.M., Smith R.A., Murphy M.P., J Biol. Chem. 2005, 280(25): 24113-26により示されるように、スーパーオキシド・ジスムダーゼまたはグルタチオン・ペルオキシダーゼ(エブセレン)の模倣物を含有するミトコンドリア標的化抗酸化物質の有効性を急速に減少させ、適用の可能性を著しく限定するはずである。この研究は、ミトコンドリア−ターゲティング部分と共有結合したエブセレン(全化合物はミトエブセレンと称する)が従来のエブセレンと同じ抗酸化効果を有することを証明した。換言すると、ミトエブセレンタイプの化合物のターゲティングは、これがその抗酸化作用を向上させるとしても、この利点は、ミトエブセレンの望ましくない副作用により減少する。
【0010】
別のミトコンドリア標的化抗酸化物質はMitoVitE、すなわちターゲティング部分としてトリフェニルホスホニウム、および抗酸化物質としてビタミンEを含む化合物である。この発明の明細書において、EP 1 047 701のデータは、ラット脳ホモジネートにおけるこの化合物の抗酸化活性、及びMitoVitEの、培養物中の単離ミトコンドリアおよび生きている細胞への浸透能について、提示している。最高10μMまでの濃度において、MitoVitEは、培養物における細胞の生存能力に影響を及ぼさず、その間、MitoVitEのさらなる増加は、細胞の生存性の減少につながることも示されている。しかしながら、MitoVitEの個々の細胞、組織、器官または有機組織全体に対する抗酸化活性は証明されなかった。MitovitEの培養物中の細胞に対する効果は、刊行物Jauslin M.L., Meier T., Smith R.A., Murphy M.P., FASEB J. 2003 17(13): 1972-4において記載されている。この論文から、MitoVitEがプログラム化された細胞死を防止する能力は、アンカプラーFCCP(3-フルオロメチル−カルボニルシアニドフェニルヒドラゾン)にもかかわらず、すなわち、目的とされるMitovitEのミトコンドリアにおける蓄積が可能でない状況下で、消滅しないということになる。これらのデータは、MitoVitEのミトコンドリアターゲティングが起こる場合でさえも、かかるターゲティングがこの化合物の生物学的作用において決定的役割を果たさないことを示す。
【0011】
ミトコンドリア標的化抗酸化物質MitoQおよびその変異体(MitoQ5、MitoQ3)は、C−10リンカー(適宜、C5、C3)によりトリフェニルホスホニウムと結合したユビキノン(還元された形態におけるユビキノール)を有する。この発明US6,331,532号の明細書において、MitoQは、酸化的ストレスと関連する疾患の処置または予防を目的とする組成物における活性化合物として権利請求されている。この発明の明細書において提示される実験において、溶液におけるMitoQの抗酸化特性、この化合物の単離ミトコンドリアへの浸透能、単離ミトコンドリアの呼吸効率に対する影響が示されている。しかしながら、生きている細胞、組織、有機組織全体の器官、毒性の存在または不在に対するMitoQの効果についてのデータはこの文書においては提示されていない。
【0012】
MitoQ活性に対するさらなるデータは、同じ発明者らのWO2005/019233号(この中で、発明者らは、単離ミトコンドリアに対する脂質過酸化反応を防止するためのMitoQの能力を示している)において見出すことができ、さらにAdlam V.J., Harrison J.C., Porteous C.M., James A.M., Smith R.A., Murphy M.P., Sammut I.A., 2005, FASEB J. 19: 1088-95による刊行物においても見出すことができる。この論文において、著者らは、MitoQを給餌されたラットの実験と、それに続くラゲンドルフ(Lagendorff)システム(ラゲンドルフ(Lagendorff)潅流心臓調製物)を用いたラットの心臓機能の研究において有機組織に対するMitoQの作用の現在のところ公知である唯一の例を提示した。報告されたデータは、MitoQを虚血性心筋障害の予防または処置のために使用できるという概念を間接的に裏付ける。しかしながら、この研究のいくつかの不正確で異論のある点のために、かかる記載事項を納得できるように証明することができない。このように、著者らにより使用されるモデル(30分の正常温度の虚血と、それに続く潅流)は、心筋の虚血性障害を研究するためにしばしば使用されるモデルである。しかしながら、この方法の主な欠点は、潅流中の単離された心臓の電気的不安定性である。ある数の心臓は、周期的または不変細動のためにその機能を全く回復することができず、周期的不整脈はこのような一連のほとんどすべての実験において起こることが知られている。記載された論文において、細動も不整脈も指摘されていない。したがって、著者により得られる平均値が実験の全群または不整脈があまりはっきりしないこれらの実験のみを特性化するかどうかははっきりしないままである。その上、上記理由を考慮して、各実験群における動物の数(6)は所与のモデルについて明らかに十分でないことは明らかである。
【0013】
上記論文の著者により得られたデータは正しくないという仮定は、必然的に心筋細胞の死が続いて起こる潅流条件下でのコントロールおよび実験シリーズの両方における収縮機能の有意な増加のかなり奇妙な観察により部分的に立証される。収縮機能の計算が、「スイッチオフされた」不安定なものを排除した活動的な心臓のみを用いて行われるならば、この結果を得ることができ、一方、潅流の速度は全ての心臓を用いて計算された。このような方法は明らかに不正確である。MitoQ処置群における任意の潅流期間についての平均データはコントロール調製物で処置された群においてよりも高いが、これらの群を互いに比較し、従ってこれらの差の有意性は明らかでない。
【0014】
従って、MitoQが唯一の心臓保護化合物であるという著者らによりなされた主な結論は、十分な説得力はないようである。このような見解は、ミトコンドリアの超微細構造の調査の結果が無いこと、乳酸デヒドロゲナーゼ、シトクロムC、カスパーゼ3、コンプレックス1の生成およびコントロール物質で処置された群におけるミトコンドリア中のアコニターゼの作用により裏付けられる。
【0015】
全体として、上記開示の詳細な分析により、得られた結果の選択および分析の段階で非常に弱い点が明らかになる。上記論文の著者らは、用いたモデルの対処に関する経験が豊富でない可能性がある。したがって、MitoQの心臓保護作用が立証されていないままであると断言することができる。
【0016】
MitoQの細胞培養物に対する作用に関する非常に有望な結果にもかかわらず、この化合物の実際の適用の可能性を疑ういくつかの観察および計算があることに注目すべきである。例えば、MitoQが培地中約1μMの濃度でその抗酸化および抗アポトーシス効果をもたらすことが、細胞培養物に関する実験において示された。現在のところ、これらの条件下で、ミトコンドリア中のMitoQ濃度は1mMに達し得ることが証明されたと考えられる。一方、Smith R.A., Porteous C.M., Gane A.M., Murphy M.P., Proc Natl Acad Sci USA, 2003, 100(9): 5407-12により、MitoQが実験動物に給餌される場合、MitoQの最も酸化的ストレス感受性の高い組織(脳および心筋)における蓄積は、合計で、生体重1グラムあたり100ピコモルの最大濃度になることが示された。計算により、ミトコンドリアで最大飽和された組織(心筋)中のこのようなMitoQ濃度に関して、ミトコンドリア内部のMitoQ濃度は100ナノモルを超えないことが示される。これは、細胞培養実験において有効であることが証明された濃度よりも1000倍以上低い。実験動物に投与される用量を少なくとも10倍増加させることは、調製物の毒性のためにできない。
【0017】
従って、当分野の現状は、1種類のみのミトコンドリア標的化化合物、ミトコンドリア標的化抗酸化物質として権利主張される物質を開示する。データには他のミトコンドリア標的化生物活性化化合物は記載されていない。ミトコンドリア標的化抗酸化物質として権利主張される、すでに開示された物質は、その生物活性が非常に不十分に記載され、権利主張される目的についてのその実用化の見込みは不明確であるので、課された問題を解決しないことに注目すべきである。加えて、開示された化合物の大部分について、その効率の悪さはすでに証明されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、水素イオンおよびスクラチェフイオンの電気化学ポテンシャルのエネルギーの使用による、生きた細胞のミトコンドリア中の生物活性物質の濃度の原則に基づく。このような方法は、意外にも、用いられる生物活性物質の用量の数倍の減少、つまり最も重要な細胞内プロセスにおける重要な要素である、目的とされるミトコンドリアに対する有効な作用を達成することを可能にする。このように、望ましくない副作用の可能性および強度の何倍もの減少の機会が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、本発明の一つの態様は、水素イオンの電気化学ポテンシャルのエネルギーを犠牲にして、生物活性物質をミトコンドリアへ標的化導入することにより、有機組織に対して作用する方法を提供することにある。
【0020】
本発明の他の態様は、細胞のミトコンドリアへ生物活性物質を標的化導入するための組成物を提供することにあり、該組成物は、化合物全体をミトコンドリア中へ導入するためのターゲティング部分、リンカー基、およびエフェクタ(必要とされる生物活性を有する物質)からなる化合物を含有する。全体として、かかる化合物は、下記一般式で表すことができる。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、Aは、以下のa)〜e)を有するエフェクタ基(effector group)である。
a)抗酸化物質(II)および/またはその還元体。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、mは1〜3の整数であり、各Yは、低級アルキル、低級アルコキシからなる同じか又は異なる置換基を表すか、または隣接する2つのYは連結して下記構造および/またはその還元体を形成する。
【0025】
【化3】

【0026】
式中、R1およびR2は同じか又は異なる置換基であり、それぞれは独立して、低級アルキルまたは低級アルコキシである。
b)酸化促進物質(pro-oxidant);
c)アポトーシス誘導物質;
d)ミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質;
e)光増感剤。
本発明のこの態様において、
抗酸化物質は、FRおよびROSと反応することができ、その危険な性質を中和する化合物である。そのラジカル形態における前記抗酸化物質は、ミトコンドリアの呼吸鎖と反応することができ、かくして、その後のFRまたはROSとの反応のためにその抗酸化特性を回復することができることが好ましい。構造(II)に対応する好ましい抗酸化物質は、2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノール(プラストキノールの残基、つまり、プロトプラストのチラコイドから得られる最も強力な抗酸化物質の残基、すなわち、活発な性質のFR−およびROS−飽和部位のうちの1つの残基)。
【0027】
酸化促進物質は、細胞中に侵入した際に、フリーラジカルおよび/または活性酸素種を形成することができるか及び/又はその形成を刺激することができる化合物、パラコート、メナジオン、有機ヒドロペルオキシドである。
【0028】
アポトーシス誘導物質は、ミトコンドリア中に送達されると、何らかの形で活性化する、即ちプログラム化された細胞死(アポトーシス)を促す化合物である。化合物(I)の構成における好ましいアポトーシス誘導物質は、フェニルアルセンオキシド(phenyl arsene oxide)であり、現在のところ、ミトコンドリアの孔形成の最も有効な誘導物質と見なされる。
【0029】
ミトコンドリア局在のタンパク質の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質は、ミトコンドリアにおいて局在する1つ又は複数の抗アポトーシスタンパク質(膜抗アポトーシスタンパク質を含む)と相互作用でき、その活性を抑制できる化合物である。ミトコンドリア局在抗アポトーシスタンパク質の好ましい阻害物質はABT737である。これらの化合物は、アポトーシス誘導を促進する化学療法剤と組み合わせた場合に特に有用であると考えられる。
【0030】
光増感剤は、一重項酸素または他の活性酸素種またはフリーラジカルを照明下で産生することができる化合物である。好ましい光増感剤は、金属置換基およびその錯体を任意に含むフタロシアニン、ポルフィリンおよびその誘導体、特にBDP−MaまたはBDP−Ma;もしくはフォスキャン(foscan)(mTHPC)である。
【0031】
Lは、a)1以上の置換基で任意に置換されていてもよく、1以上の二重結合または三重結合を任意に含んでもよい直鎖状または分岐状炭化水素鎖;
b)天然イソプレン鎖、
を有するリンカー基である。
nは1〜20の整数である。
Bは、a)スクラチェフイオンSk、
Sk
(式中、Skは脂溶性カチオンであり、Zは薬理学上許容可能なアニオンである)。
b)1−20アミノ酸を含有する荷電疎水性ペプチド、
を有するターゲティング基(targeting group)である。
【0032】
ただし、構造(I)の化合物において、Aはユビキノン(例えば、2−メチル−4,5−ジメトキシ−3,6−ジオキソ−1,4−シクロヘキサジエニル)でも、トコフェロールでもない化合物またはスーパーオキシド・ジスムダーゼまたはエブセレンの模倣物でもない。ここで、Lは二価デシルまたは二価ペンチルまたは二価プロピルラジカルであり、Bはトリフェニルホスホニウムである)。
ならびにその溶媒和物、異性体、プロドラッグおよび医薬上許容可能な担体。
【0033】
本発明のさらなる態様は、ミトコンドリア標的化抗酸化物質を活用して、別個の細胞、組織、部位、器官または有機組織全体におけるフリーラジカルまたは活性酸素種の量を減少させることにより、治癒、予防または軽減できる疾患の処置において有用な、治療剤または予防剤−構造(I)に対応する化合物−を提供することである。本発明のこの態様に関連して、
−ヒトまたは動物の寿命を延ばすための、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−疾患が有機組織の老化および酸化的ストレスの増大により引き起こされる場合に有効な治療薬または予防薬の使用、
−特に、酸化的ストレスおよび/または視覚を与えるプロセスに関与する網膜細胞の大量死により引き起こされる眼科疾患を治療するため、白内障を治療するため、網膜黄斑変性を治療するための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−組織および器官における大量のプログラム化された細胞死により引き起こされる疾患および/または損傷組織においてプログラム化された細胞死を開始するシグナルの伝播に関連する疾患の処置または予防のための、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−プログラム化された細胞死、アポトーシスまたは壊死が重要な役割を果たす場合に、心臓血管疾患を処置および/または予防するため;心臓麻痺、発作を処置および/または予防するため;再酸素化の悪影響を予防するため;の、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−正常組織を損傷から保護するための外科手術の際の構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−移植の際の移植された物質の拒絶反応の予防のため;ならびに移植物質の保存のため;の、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−熱傷の痕跡を克服するため、外科縫合を含む創傷の治癒を刺激するための、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の美容術における使用、
−構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質の抗炎症剤としての使用、
が提案される。
【0034】
本発明のさらに別の態様は、腫瘍性疾患を治療または予防するための構造(I)に対応する治療薬または予防薬を提供することである。本発明のこの態様に関連して次のものが提案される。
−転移の形成、血管形成に対抗するため;ならびに目的とされる癌細胞におけるプログラム化された細胞死の開始のため;の、ミトコンドリア標的化抗ガン剤の使用、
−構造(I)に対応するミトコンドリア標的化酸化促進物質の、ミトコンドリア標的化抗ガン製剤、好ましくはミトコンドリア標的化パラコート、ミトコンドリア標的化メナジオン、またはミトコンドリア標的化抗酸化物質であって、ミトコンドリア呼吸鎖により回復(還元)できず、したがって、酸化促進特性を示すもの(例えば、化合物DMMQ)としての使用、
−構造(I)に対応するミトコンドリア標的化アポトーシスの誘導物質の、ミトコンドリア標的化抗ガン製剤としての使用。ミトコンドリアはプログラム化された細胞死のひきがねになる可能性を多数提供するので、このような方法は従来のアポトーシス誘導物質の使用よりも好ましい。このような開始の好ましい方法の一つは、ミトコンドリア膜タンパク質のスルフヒドリル基の、ミトコンドリア標的化アポトーシス誘導物質のエフェクタ基を介した化学結合である。このような化合物の好ましいエフェクタ基はフェニルアルセンオキシドである。
−ミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質のミトコンドリア標的化阻害物質の、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗ガン製剤としての使用。好ましいタンパク質であって、その活性がかかる製剤により阻害されるべきものは、bcl−2および同類のタンパク質である。最も好ましい阻害物質の一つはABT737である。
【0035】
ミトコンドリア標的化抗ガン製剤として、ミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質のミトコンドリア標的化阻害物質およびガン細胞のプログラム化された死を誘導する従来の製剤を含有する組成物を使用することも本発明の一つの態様である。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、ミトコンドリア標的化抗ガン製剤としての、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗酸化物質およびガン細胞のプログラム化された死を誘導する従来の製剤を含有する組成物の使用である。本発明のこの態様において、ガン細胞において、脂溶性カチオンをポンプ排出できる酵素(複数の薬剤耐性の原因である酵素)の活性が大きく増加することが観察されるので、脂溶性カチオンと結合する抗酸化物質の適用が好ましい。したがって、ミトコンドリア標的化抗酸化物質は、正常細胞において主に蓄積され、その結果、抗ガン治療中のその主な生存は、該治療の望ましくない副作用の強度を減少させる。
−癌の化学療法または放射線療法の有効性を増大させるための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−ミトコンドリア標的化光増感剤の、ミトコンドリア標的化抗ガン製剤としての使用、
−アポトーシスのミトコンドリア誘導を許容する、癌の光線力学療法におけるミトコンドリア標的化光増感剤の使用。この方法は、(a)壊死(多くの望ましくない結果と関連する)ではなく、プログラム化された細胞死を活用して、癌細胞の除去を可能にし、(b)用いられる光増感剤の量を本質的に減少させ、これにより望ましくない副作用の発生の可能性および強度が低下するので、従来の光線力学療法よりも本質的に優れた利点を数多く提供する。
−ミトコンドリア標的化抗酸化物質SkQ1の好ましい抗ガン剤としての使用。
【0037】
本発明のさらに別の態様は、代謝に関連する疾患、糖尿病を処置するための構造(III)の残基をターゲティング基(targeting group)として含む、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用である。
【0038】
フリーラジカルを活用して、組織、血液または細胞および細胞要素を含む他の物質を消毒する方法を提供することも本発明の一つの態様である。本方法の構成内で、所望の細胞および細胞要素は、ミトコンドリア標的化抗酸化物質により酸化的ストレスから保護される一方、全ての病原体はフリーラジカルにより破壊される。
【0039】
本発明のさらに別の態様は、研究または技術目的のために、細胞培養におけるヒトまたは動物細胞の生存能力を向上させるためのバイオテクノロジーにおけるミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用である。本発明のこの態様は、多くの場合において、細胞培地中の酸素濃度が本質的に組織中の酸素濃度を超え、これにより細胞中の酸化的ストレスの可能性が急増し、このことは次にアポトーシスまたは壊死の可能性がより高くなることにつながり、かかる細胞の生存能力を低下させるという事実に基づく。細胞をミトコンドリア標的化抗酸化物質で処置することにより、酸化的ストレスの激しさが急激に減少する。細胞をミトコンドリア標的化抗酸化物質で処置することはまた、細胞のバイオマスを著しく増大させ、かくしてその産生力を上昇させる。本発明のこの態様に関連して、次のものがある。
−医薬品、タンパク質、抗体を産生するための培養において、ヒト、動物、植物または真菌細胞の産生力を増大させるためのミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−医薬品、タンパク質、抗体を産生するために使用される場合、植物全体の産生力を増大させるための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−医薬品、タンパク質、抗体を産生するために使用される場合、細胞培養において、酵母またはサッカロミセス(Saccharomyces)、ピヒア(Pichia)、ハンセヌラ(Hansenula)、エンドミケス(Endomyces)、ヤロウィア(Yarrowia)属の他の真菌の細胞の産生力を増大させるための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−医薬品、タンパク質、抗体を産生するため、ならびに遺伝子組み換え植物を産生するために使用される場合、細胞培養における植物プロトプラストの生存能力を増大させるための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−再生植物、カルス細胞の生存能力を増大させるための、トランスジェニック植物を産生するための、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の使用、
−病原菌、原生動物、真菌、細菌を対処するための、ミトコンドリア標的化酸化促進物質の使用。
【0040】
本発明の次の態様は、ターゲティング部分として脂溶性カチオンを使用して、ミトコンドリア標的化抗酸化物質を合成する方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次の実験例は、本発明を行う可能性、特に、構造(I)に対応する本発明の化合物の作用を例示するために提示される。これらの実施例は、特許請求の範囲の有効性をサポートするためのものであり、本発明の用途または使用の範囲を制限するものと理解すべきではない。
【実施例1】
【0042】
構造(I)の化合物−ローダミンG 2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン−5−デシルエステル−の合成
化合物SkQR1を合成した。この化合物は、構造(I)に対応し、プラストキノンはプロトプラスト、即ち、活性化された性質のほとんどのFR−およびROS−飽和部位のうちの1つのチラコイド中に存在する天然の抗酸化物質であるので、ターゲティング基としてローダミンGおよび抗酸化エフェクタ基としてプラストキノン残基を有する。
【0043】
【化4】

【0044】
次の試薬および溶媒を研究では用いた。2,3−ジメチルヒドロキノン、11−ブロモウンデカン酸、ローダミンG、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、臭素酸カリウム、硝酸銀、過硫酸アンモニウム、炭酸セシウム(Fluka、Aldrich、SigmaまたはMerckから購入);カラムクロマトグラフィは、シリカゲル「Silicagel 60」(0.063〜0.2MM)(Merck)上で行った。ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、ベンゼン、アセトニトリルおよび他の溶媒は国内で製造された。
【0045】
TLCを「Kieselgel 60 F254」プレート(Merck)上で行った。UV領域において吸収する基を含む化合物を、ブルームバーグ(Brumberg)ケミスコープ(Chemiscope)を活用して検出した。キノン環を含む化合物はアンモニア蒸気中で検出された。ローダミン含有化合物を視覚的に検出した。
UV吸収スペクトルを<Cary 50 Bio>分光計(Varian)で記録した。
HPLC分析および精製を、Adjilent 1100装置で、10mM HPO中アセトニトリル勾配において行った。
【0046】
MALDI−TOFおよびESI質量スペクトルを、337nmレーザを備えたUltraflexまたはAutoflex質量分析計(Bruker Daltonics、Germany)で実施した。
赤外スペクトルをSpecord 40上のフィルム上で記録した。
H−および13C−NMRスペクトルを、Bruker Avance-400分光計を用いて、303Kで記録した。
SkQR1の合成をスキーム1において示す。
【0047】
【化5】

【0048】
2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)の合成
2,3−ジメチルヒドロキノン0.83g(6mmol)を、臭素酸カリウム0.34g(2mmol)のHO(6ml)および5N硫酸(0.3ml)の溶液に添加した。混合物を60℃に加熱し、撹拌した。その後、反応温度を次に80℃にした。反応が完了したら、混合物を室温に冷却し、エーテルで抽出した。合わせた有機層をHOで逆洗し、無水CaClで乾燥し、濾過し、濾液を真空中で蒸発させて、粗生成物0.74g(90%)を得た。標記化合物をエーテル(20ml)に溶解し、シリカゲル層に通した(30×30mm)。シリカゲルをエーテルで数回洗浄し、エーテルを真空除去して、2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(HPLC純度99.37%)0.67gを得た。
TLC: Rf 0.46 (クロロホルム); HPLC: τ = 17.6 min (0-90% B for 26.4 min; A: 10 mM H3PO4; B: アセトニトリル); M.p. 6O℃; UV (メタノール): λmax209 nm, 256 nm, 344 nm。
【0049】
2,3−ジメチル−5−(10’−ブロモデシル)−1,4−ベンゾキノン(3)の合成
2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)136mg(1mmol)を、アセトニトリルおよびHOの混合物(10ml、(1:1))に溶解した。得られた溶液に、11−ブロモウンデカン酸292mg(1.1mmol)および硝酸銀(170mg、1mmol)を添加した。反応混合物を60〜70℃に加熱し、過硫酸アンモニウム(228mg、1mmol)のHO(10ml)溶液を滴下した。加熱をさらに1時間継続し、次に反応混合物を冷却し、エーテルで抽出した。合わせたエーテル層を5%重炭酸ナトリウム溶液で逆洗し、MgSOで乾燥し、濾過し、溶媒を真空除去した。残留物をシリカゲル上フラッシュクロマトグラフィにより精製した。標記化合物(3)を暗赤色油状物(70%収率)として得た。
TLC: Rf 0.62 (クロロホルム); HPLC: τ = 23 min (79 -90% B for 26.4 min; A: 10 mM H3PO4; B: アセトニトリル); UV (メタノール): λmax 207 nm, 258 nm, 344 nm; MALDI-TOF MS: calc. for C18H27O2Br: 355.3; found m/z 356.1 (MH+; 100%); IR: 2928, 2336, 1600, 1496, 1304 cm−1
【0050】
ローダミンGセシウム塩(4)の合成
2M炭酸セシウム水溶液1mlを、ローダミンG(200mg、0.48mmol)のメタノール(6ml)溶液に添加した。生成物を濾過し、エーテルで洗浄し、真空中、60℃で乾燥した。標記化合物(4)210mg(80%)を暗紫色結晶性固体として得た。
M.p.>250℃(分解)
【0051】
10-(2',3'-ジメチル-1',4'-ベンゾキノン-5'-デカノイル)ローダミンGの合成
化合物(4)(190mg)をDMFA(5ml)中に懸濁させ、化合物(3)(200mg、0.56mmol)をこれに添加した。反応混合物を50℃に加熱し、48時間撹拌し、次に真空濃縮した。残留物をクロロホルム−メタノール系(4:1)、シリカゲルでカラムクロマトグラフィにより精製した。標記化合物を含むフラクションを蒸発乾固した。乾燥残留物に、5N HCl(150μl)のジオキサン溶液を添加し、次に再度蒸発させ、ベンゼン下で結晶化させて、標記化合物160mg(65%)を得た。
TLC: Rf 0.68 (クロロホルム−メタノール, 4:1); Rf 0.80 (クロロホルム−メタノール−水, 65:25:4);
HPLC: τ = 23.9 min (0 -90 % B for 26.4 min; A: 1OmM H3PO4; B: アセトニトリル);
M.p. 178-180℃ (分解);
UV (メタノール): λmax 250, 350, 535 mm, ε535 = 80000;
質量分析: calc. for C44H53ClN2O5: C, 72.86; H, 7.36; Cl, 4.89; N, 3.86; found: C, 72.53; H, 7.21; Cl, 4.22; N, 3.61;
ES MS: calc. for C44H51N2O5 688,89; found m/z 689,4 (MH+; 100%);
IR. (film): 3200, 2928, 2336, 1700, 1685, 1600, 1496, 1304 cm−1;
【0052】
【化6】

【0053】
1H-NMR (400 MHz; DMSO-d6; 構造式の原子の番号付けは上記の通り): 0.95-1.25 ppm (br. m, 14H, 2", 3", 4", 5", 6", 7", 8" - (CH2)?); 1.24 ppm (t, 6H, J= 6,8 Hz, 2"", 2"" -(CH3)2); 1.41 ppm (q, 2H, J = 7,5 Hz); 1.92 and 1.94 (each - s, 3H, 4'", 5"' - (CH3)2); 2.09 ppm (s, 6H, 2,7 -(CH3)2); 3.48 ppm (q, 4H, - 1"", 1"" -(CH2)2); 3.85 ppm (t, 2H, J = 6,3 Hz, 1" -CH2); 6.57 ppm (s, 1H, H3’); 6.80 and 6.91 (each - s, 3H, H1, H and H4, H8); 7.44 ppm (dd, IH; J1 = 7,8, J2= 1 Hz; H6’”); 7.74 ppm (t, 2H, J = 5,8 Hz; 3,6 -NH); 8.60 -8.70 ppm (m, 2H, H4”’ and H5’”); 8,22 (dd, IH, Ji= 8,2; J2 = 1,1 Hz, H3”’)。
13C-NMR (400 MHz; DMSO-d6): 11.59 and 11.98 ppm (4"', 5"' -(CH3)2); 13.45 ppm (2"" and 2'"" -(CH3)2); 17.29 ppm (2,7 -(CH3)2); 25.07, 27.29, 27.57, 28.25, 28.39, 28.51, 28.55, 28.56 and 28.65 (2", 3", 4", 5", 6", 7", 8", 9", 10" -(CH2)9); 37.86 (1"", 1'"" - (N-CH2)2); 64.96 (1" -CH2); 93.45 (C4 and C5); 112.78 (C1 and C8); 125.32 (C4'); 128.38 (C5’); 129.78 and 130.75 (C1’ and C2’); 130.20 and 130.22 (C5’, C8a and C9a); 131.77 (C2); 132.85 (C9’”); 132.88 (C3'); 139.79 and 140.36 (C4"' and C5"'); 148.40 (C1"'); 155.71 and 156.6 (C4a - C10a and C3"'- C6"'); 164.98 (COOR); 186.91 and 187.00 (C3"' and C6"')。
【0054】
同様の手順に従って、構造(I)に対応するもう一つ別の化合物−2,3−ジメチル−,4−ベンゾキノン−5−デシル−トリフェニルホスホニウムブロミド−を調製した。この化合物は、これにおいて用いられるターゲティング基がトリフェニルホスホニウムである点で、前述のSkQR1と異なる。エフェクタ基およびリンカー基は、前述の化合物と同じである。
ミトコンドリア標的化抗酸化物質SkQ1の合成をスキーム2において示す。
【0055】
【化7】

【0056】
合成は次の工程を含む。
1.2,3−ジメチルヒドロキノン(1)の臭素酸カリウムによる、対応する2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)への酸化。
2.硝酸銀および過硫酸ナトリウムの存在下、11−ブロモウンデカン酸(3)を、得られた2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)へ添加。
3.トリフェニルホスフィンとの酸素雰囲気中での反応による、目標化合物(5)の形成。
得られた化合物は、黄色がかった茶色の吸湿性の高い固体である。
NMR、HPLCおよびMS技術により目標化合物の構造を調べた結果から、得られた化合物の構造は、所定の式と同一であることが立証された。サンプルの純度は98.5%以上であった。
【0057】
生成物純度制御は、2つの方法、高圧HPLCおよび高分解能PMR(500MHz)により行われた。SkQ1生成物の純度を記録する2つの方法は、この化合物の顕著な界面活性剤特性と関連する必要があり、これは、クロマトグラフィプロセスを困難にする。
得られた調製物中のSkQ1濃度は、HPLCにより測定すると、98.55%である。NMRデータを以下に提示する。
【0058】
【化8】

【0059】
1H-NMR (CDCl3; δ, ppm; 構造式の原子の番号付けは上記の通り): 7.82-7.58 (m, 15H, aromatics); 6.38 (s, 1H, H-5); 3.6 (m, 2H, CH2P(Ph)3); 2.25 (m, 2H, CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2P(Ph)3); 1.90 (br s, 6H, CH3); 1.55, 1.32, 1.15 (3m, 6H, 3CH2)。
HQSC (DMSO; δ, ppm): 8.15 (br s, 1H, tautomeric OH), 7.88-7.20 (m, 15H, aromatics); 7.08 (br s, IH, tautomeric OH), 6.38 (s, 1H, H-5); 3.55 (m, 2H, CH2P(Ph)3); 2.4 (m, 2H, CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2P(Ph)3); 2.05, 1.90 (2s, each of 3H, CH3); 1.5 (m, 6H3 3CH2)。
13C-NMR (DMSO; δ, ppm): 147.83, 144.65 (C-1, C-4); 134.75-129.97 (Ph); 113.01 CH2P(Ph)3; 12.72, 11.89 (CH3)。
ESI-MS (m/z): [M]+ calc. 537.7, found 537.4。
【0060】
さらに、同様の手順に従うことにより、構造(I)に対応する化合物を合成した。10−(2−メチル−5−メトキシ−3,6−ジオキソ−1,4−シクロヘキサジエニル)−デシル−トリフェニルホスホニウムブロミド(DMMQ)。この化合物において、デメトキシユビキノンをエフェクタ基として使用する。この化合物は、フリーラジカル、活性酸素種および酸素と相互作用できるが、その構造から判断し、ミトコンドリアの機能の現在の知識から進んで、該化合物はミトコンドリアの呼吸鎖により還元されず、その結果、酸化促進物質、細胞毒性作用を示すと推測される。
【0061】
【化9】

【実施例2】
【0062】
「構造(I)に対応する化合物の平面脂質膜を超えた移動」
構造(I)に対応する試験化合物(化合物SkQ1を使用した)は、平面リン脂質二分子膜を貫通して浸透し、濃度勾配に沿って移動し、ネルンスト(Nernst)式に従って膜全体にわたって分布することが証明された。したがって、SkQ1は透過カチオンである。
【0063】
実験手順は、異なるイオンが平面脂質二分子膜を貫通して浸透する能力を調査することを目的とする実験において以前に数回使用され、Starkov A.A., Bloch D.A., Chernyak B.V., Dedukhova V.I., Mansurova S.A., Symonyan R.A., Vygodina T.V., Skulachev V.P., 1997, Biochem. Biophys. Acta, 1318, 159-172により詳細に記載されている。この方法は、水系溶液で満たされ、二分子膜により隔てられた2つのチャンバを用いること、及び1つのチャンバから別のチャンバへ、かかる膜を横切って透過できる荷電化合物の移動の電気測定記録を含む。
【0064】
我々の実験において、膜は、デカン中に溶解させたホスファチジルコリンおよびジフィトネイルの混合物から調製され、両チャンバは、10−7M SkQ1を含む、50mM TrisHCl、pH 7.4で満たされていた。
【0065】
SkQ1を10−7Mから10−5Mの濃度で滴定した。4・10−6Mから4・10−5Mの範囲内で、SkQlの分布は、理想的な膜透過カチオンについてのネルンスト式に従うことが証明された。低い濃度では、ネルンスト式は満たされない(結果を図1に示す)。
【0066】
結果として、化合物SkQ1(2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン−5−デシル−トリフェニルホスホニウム)は、カチオン形態において生体膜を横切って透過できる脂溶性物質である。
【実施例3】
【0067】
「構造(I)に対応する化合物の抗酸化特性」
構造(I)に対応する試験化合物−ミトコンドリア抗酸化物質SkQ1−は最も強力な抗酸化物質であって、刊行物において以前に記載され、米国特許第6,331,532号において「ミトコンドリア標的化」として権利主張されている抗酸化物質(化合物MitoQ)よりも活性において勝っていることが証明された。
【0068】
SkQ1およびMitoQの還元(キノール)体の好気性条件下での長時間にわたる安定性を、240から310nmの範囲のこれらの化合物の絶対吸収スペクトルを、複光束Pye Unicam SP1100分光光度計(England)を用いて分析することにより調べた。20mM MOPS−KOHを含有する測定培地(pH=7.6)中、キノン誘導体をテトラヒドロホウ酸ナトリウムで還元した。コントロールキュベットはSkQ1またはMitoQを含有せず、還元剤を両キュベットに添加し、水素の発生が止まった直後に測定を行った。キノンの還元の程度を、ピーク面積のサイズから、これを267nmでの絶対吸収値(最大吸収)に対して比較検討することにより評価した。図2において提示されたデータからわかるように、SkQ1の還元(キノール)体は、MitoQよりも空気による酸化に対して耐性である。
【0069】
還元体の抗酸化活性を比較するために、本発明者らはキサンチンオキシダーゼ/ハイポキサンチン系において生成するスーパーオキシド−アニオンラジカルによりキノールの酸化率を測定した。図3aに示される、得られたデータは、SkQ1の酸化率がMitoQの約2倍であることを示す。このことは、SkQlが抗酸化物質としてより活性が高く、その還元(活性)体は、MitoQよりも空気の酸素による自然酸化に対して耐性であり、スーパーオキシドラジカルについてより高い親和力を有することを示唆する。図3bは、空気の酸素による酸化より低い、還元キノール体のスーパーオキシドラジカルによる酸化率を示す。SkQ1がスーパーオキシドラジカルと、MitoQよりも良好に相互作用することは簡単にわかる。
【0070】
上記実験は、SkQ1がその類似体よりも強力な抗酸化特性を有することを納得できる例示である。溶液において、SkQ1はROSと有効に相互作用し、これらを中和することができる。この抗酸化物質の本質的な利点は、通常の酸素に対するその低い反応性、したがって、その低い酸化促進特性(prooxidant properties)である。
【実施例4】
【0071】
「構造(I)に対応する化合物のミトコンドリアとの相互作用の調査」
本発明の構成内で提案されるミトコンドリア標的化抗酸化物質の重要な利点は、ミトコンドリアの呼吸鎖により還元されるその能力である。この特性は、これらの化合物が従来の抗酸化物質とは根本的に違う点;即ち、本発明の化合物のラジカル体の安全な中和の可能性と、従って本発明の化合物のラジカル形態の安全な中和の可能性ならびにFRおよびROSの中和のためのその反復使用;である。
【0072】
試験化合物(SkQ1およびその類似体MitoQ)がミトコンドリアの呼吸鎖により還元され得るかどうかを調べるために、試験化合物の酸化体と還元体間の比の変化率を、呼吸物質の存在下、ラット肝臓ミトコンドリアの単離に使用される培地中で測定した。測定は、ミトコンドリア(タンパク質濃度0.2mg/ml)の存在下で行った。
【0073】
得られたデータ(図4、5)から、両試験化合物が、活性化ミトコンドリアにより、同じ速度で、容易に還元され、その結果、自然酸化(空気酸素による)の速度よりもずっと高速で酸化されることがわかる。
【0074】
この実験例は、SkQ1がミトコンドリア呼吸を10μMまでの濃度で抑制しないが、ミトコンドリアの「共役」呼吸、即ち、その通常の機能を刺激することを示唆する。SkQ1がインキュベーション条件下、生体媒質中で実験の期間(数十分)に対応する時間、安定であることも証明された。この実験は、生成したROS(キサンタンオキシダーゼ反応におけるスーパーオキシドラジカル)の仲介でミトコンドリアにより還元されたキノールの酸化を誘発するインビトロ実験におけるSkQ1が、ROSについての親和力および長期間にわたる安定性に関して、MitoQよりも明らかな利点を示すことを裏付ける。
【実施例5】
【0075】
「培養における細胞の異なるミトコンドリア抗酸化物質の毒性の比較」
この実験例において、先行技術において開示されているミトコンドリア抗酸化物質MitoQの毒性レベルを本発明の構成内で提案される化合物SkQ1の毒性と比較する。
【0076】
実験の過程において、SkQ1およびMitoQを等濃度で細胞培養物に添加し、生きている細胞のパーセンテージを2時間のインキュベーション後に計算した。図6に示す、得られた結果は、SkQ1が実質的に低い毒性を有することを明確に示す。したがって、SkQのLD50(50%細胞が死亡する濃度)は20μMである一方、MitoQについては、LD50は3倍以上少なく、約7μMである。これらの結果は、SkQおよびMitoQの過酸化水素(50、100および200μMの濃度)の存在下での細胞に対する毒性効果を検討する別の実験によっても確認された。従来の場合と同様に、MitoQはより毒性の高い化合物であることが証明された。100μM過酸化水素のバックグラウンドに対するMitoQのLD50は4μMである一方、SkQは20μMであった。即ち、純粋な調製物のLD50と違わなかった。従って強力な酸化的ストレスのバックグラウンドに対して、SkQの毒性はMitoQの毒性よりも5倍以上低い。
【0077】
よって、本発明により提供される構造(I)に対応するミトコンドリア抗酸化物質は、最先端の技術において開示され、ミトコンドリア抗酸化物質として権利主張されている物質よりも本質的に低い毒性を有することが断言できる。この違いは、MitoQと比較して、SkQ1のより高い抗酸化性およびあまりはっきりしない酸化促進性が示される実施例3において得られた結果を考慮して容易に説明できる。
【実施例6】
【0078】
「異なる種類のヒト細胞に対する、構造(I)に対応する化合物の保護効果」
この実施例において、本発明者らは、抗酸化機能を有する、構造(I)に対応する化合物(ミトコンドリア標的化抗酸化物質)が、Hにより引き起こされる酸化的ストレスから培養物中の細胞を保護することを立証した。
【0079】
ヒトの皮膚および肺から得られる通常の2媒体線維芽細胞、ヒトの子宮癌細胞(HeLa細胞)およびヒトリンパ腫細胞(U937株)をこの実験において使用した。細胞を標準培地(DMEMまたはRPMI)中、10%胎児血清の存在下、37℃で5%COの雰囲気中で培養した。30〜50%コンフルーエンスまで増殖させた培養物に関して実験を行った。Hを1回添加し、細胞を添加後18−24時間、分析した。細胞をHoechst 33342(1μg/ml、15分)で染色した後、クロマチン凝縮および核の細分化により、アポトーシス死をモニターした。300〜500個の細胞を各調製物から考慮に入れ、データを3〜5の独立した実験について平均した。核をヨウ化プロピジウムで染色することにより(2μg/ml、5分)、壊死を測定した。
【0080】
予備実験において、異なる種々の細胞種において検出可能な壊死がなく多量のアポトーシス(60〜80%)を引き起こすHの濃度は50〜200μMと測定された。全ての場合におけるアポトーシスは、ミトコンドリア膜ポテンシャルの減少、シトクロムcのミトコンドリアから細胞質中への放出およびカスパーゼ(caspases)の活性化を伴うことが確認された。
【0081】
抗酸化物質SkQ1を用いた実験において、本発明者らは、保護的抗アポトーシス効果の最適条件を決定した。細胞を20nM SkQ1とともに6日間インキュベーションすることにより、細胞のHに対する耐性がはっきりと増加することがわかった。Hを用いたインキュベーションの培地において抗酸化物質が存在する必要は無く、この存在自体は保護効果を向上させなかった。特に、ヒト肺線維芽細胞を用いた実験において、100μM Hは細胞集団の60+/−5%アポトーシスを引き起こす一方、20nM SkQ1を用いたプレインキュベーション後に、各数値は7+/−3%であった。ほとんど完全な保護が、200μMの濃度のHでも観察された(コントロールにおいて80+/−5%アポトーシス、20nM SkQ1を用いたプレインキュベーション後に12+/−5%アポトーシス)。SkQ1の保護効果は、Hの濃度が500μMまで増加した場合に保持されたが、一方、かかる条件下で壊死による細胞の全体的な死が見られた。同様の結果が他の種類の細胞に関して得られた。
【0082】
したがって、非常に低い濃度でのSkQ1タイプの抗酸化物質は、種々の種類の細胞を酸化的ストレスにより引き起こされるアポトーシスから効果的に保護する。よって、かかる化合物およびこれに基づく組成物は、異なる組織、器官、有機組織そのものにおけるプログラム化された細胞死の予防に有効であるはずである。SkQのこの見出された性質を、酸化的ストレスの減少および/またはプログラム化された細胞死のブロックが有効な治療法である疾患の処置および予防に用いることができる。
【実施例7】
【0083】
「構造(I)に対応する化合物によるアポトーシスシグナル伝播の予防」
細胞間のアポトーシスシグナルの長距離伝送は、SkQ1タイプの抗酸化物質によりブロックされる。
【0084】
これらの実験において、HeLa系細胞を使用した。スライドガラス上で成長させた細胞を、種々のアポトーシス誘導物質(腫瘍壊死因子(TNF)、スタウロスポリン、H)で3時間処理した。次に、細胞(誘発物質)を有するスライドガラスを洗浄して、これらの試薬を除去し、ペトリ皿中に入れて、スライドガラス(受容体)を任意のアポトーシス誘導物質の不在下で成長させた細胞と接触させた。その後、16〜18時間一緒に成長させ、前述のHoechst 33342で細胞を染色した後、両スライドガラス上のアポトーシスを分析した。
【0085】
予備実験により、誘発物質スライド上のアポトーシスが80〜90%である場合、受容体スライド上の細胞の30〜50%もアポトーシス形態を示すことが示された。コントロール実験により、このモデルにおいて、初期アポトーシス誘導物質の受容体細胞への伝送はなかったことが示された。アポトーシスシグナルの伝送は、細胞の直接接触を必要とせず、インキュベーション培地の体積が増加すると弱くなった。合同インキュベーションのためにカタラーゼ(2500E/ml)を培地中に添加すると、受容体細胞のアポトーシスが防止され、同時に、誘発細胞のアポトーシス(TNFまたはスタウロスポリンにより引き起こされる)には著しい影響を及ぼさなかった。よって、アポトーシスシグナルの主なメディエータはHであった。
【0086】
誘発細胞を20nM SkQ1とともに6日間インキュベーションすることにより、TNF(10〜50ng/ml、1μMエメチンを添加)またはスタウロスポリン(2μM)により引き起こされるアポトーシスは防止されなかった。両スライドガラスを接触させ、次に一緒にインキュベーションした後、誘発スライド上のTNFにより引き起こされるアポトーシスは、コントロールにおいて95+/−5%、SkQ1とのインキュベーション後に90+/−5%であった。受容体スライド上のアポトーシスは、コントロールにおいて37+/−4%、SkQ1との誘発物質のプレインキュベーション後に17+/−3%であった。TNFを含まないコントロール実験におけるアポトーシスは、エメチンの毒性効果のために、両スライド上で12+/−3%であることを考慮すべきである。したがって、SkQ1の保護効果はほぼ100%であった。受容細胞をSkQ1とともにプレインキュベーションすることにより、同様の結果が得られた。この場合、アポトーシスはl6+/−4%に低下した。同様の保護効果がスタウロスポリンでのアポトーシスの誘導に際しても観察された。
【0087】
測定により、誘発細胞(TNFで前処理)および受容細胞の合同インキュベーションの結果、スライドを接触させてすでに2〜3時間後の培地中のH濃度が(未処理細胞をインキュベートしたコントロールと比較して)著しく増加したことが示された。24時間後に測定されたH濃度は140+/−20nMである一方、誘発細胞がSkQ1とともにプレインキュベートされたならば、わずかに40+/−10nMであった。受容細胞をSkQ1とともにプレインキュベーションすることにより、H濃度の減少には至らなかった。
【0088】
したがって、非常に低濃度のSkQ1タイプの抗酸化物質は、異なる性質を有するアポトーシス誘導物質で処置された細胞によるアポトーシスシグナルの生成をブロックする。同じ抗酸化物質は、誘発細胞からの培地を通って伝送されるシグナルにより引き起こされるアポトーシスから受容細胞を効果的に保護する。
【0089】
アポトーシスシグナルの伝送は、損傷を受けた組織部分がアポトーシス細胞の広がった部分により取り囲まれている疾患(梗塞、発作、外傷後病変)の発病機序の根底にある。
【実施例8】
【0090】
「構造(I)に対応する化合物の、細胞の光力学的損傷に対する保護効果」
SkQ1タイプの抗酸化物質は、光増感剤の光活性化において生成する一重項酸素の毒性効果を阻害し、ミトコンドリアの光力学的処置により引き起こされる壊死性の細胞死を防止する。
【0091】
一重項酸素の損傷効果からの保護を、グラミシジンおよびフタロシアニン光増感剤を含むモデル脂質膜において分析した。グラミシジンチャネルを通るイオン流の測定は、短閃光による光増感剤の活性化の結果、チャネルの急速な不活性化が起こることを示した。この効果は、アジ化ナトリウムにより完全にブロックされ、一重項酸素がグラミシジンの不活性化における主な要因であることを示す。
【0092】
HeLa細胞の培養物を用いて、光力学作用からの保護を検討した。細胞を、ミトコンドリア中に選択的に蓄積する光増感剤クロロメチル−X−ロサミン(0.5μM、15分)とともにインキュベートした。細胞を、Axiovert 200M顕微鏡(Zeiss、独)の対物レンズを通して緑色光(580nMの光増感剤の吸収最大値)で1〜2分照射し、5時間後に分析した。壊死がヨウ化プロピジウム(2μg/ml、5分)で染色した核から検出された。
【0093】
SkQ1は、1μMの濃度で、フタロシアニン光増感剤を含むモデル脂質膜におけるグラミシジンの光依存性不活性化を完全に予防することが見出された。
100%壊死性細胞死が、細胞の光力学処置後に観察された。一方、細胞が20nM SkQ1とともに6日間プレインキュベートされたならば、光力学的処置後の壊死は、25+/−5%であった。1μM SkQ1を、照射の1時間前に添加された場合、壊死性細胞死は15+/−5%であった。SkQ1濃度の増加は、さらなる保護を提供しないが、0.5μMに減少させると、効果を顕著に低くすることとなった。
【0094】
得られた結果から、非常に低い濃度のSkQ1タイプの酸化剤は、光増感剤の照射に際して生成する一重項酸素の損傷効果を予防するという結論を引き出すことができる。このような抗酸化物質は、光増感剤がミトコンドリア内に局在するならば、細胞を光力学的処置により引き起こされる壊死から効果的に保護する。
【実施例9】
【0095】
「構造(I)に対応する化合物の、加齢に伴う白内障および黄斑変性に対する保護効果」
先進国における平均的なヒトの寿命の増加することにより、世界の人口の高齢化をもたらし、加齢に伴う疾患の罹患率の増加を伴う。この疾患のうち、WHO/OMSの最近の報告によると、黄斑変性および白内障は癌および骨粗鬆症に次いで第三位を占めるという。白内障および黄斑変性は高齢者の失明の主な要因であり、これらの疾患の危険因子の判定および信頼できる予防的処置の発達は、経済的に非常に重要である。白内障および黄斑変性の発達の対する食餌療法の効果は、文献において活発に議論されてきた。加齢に伴う眼疾患の疫学的研究により、抗酸化物質を長期間受容した患者における、加齢に伴う黄斑変性の相対的危険性の顕著な減少が明らかになった。しかしながら、抗酸化物質を活用した白内障および黄斑変性の発達を遅らせる試みは、決して必ずしもうまくいくとは限らない。
【0096】
抗酸化特性を有する、宣伝されている医薬品および生物活性な栄養物の数は増大しているが、その有効性の客観的評価は、一般に行われていない。そして当然、予防的治療の結果の正しい評価は、これらの疾患の発病の検出の遅れおよび個々の特性により実質的に妨害される。このような状況において、動物モデルを再分類するのが通例であり、本発明により示されるように、視覚器の老化の普遍的モデルとしての働きをすることができる老化促進OXYSラット種により、製剤の有効性を評価するためのめったにない機会を得ることができる。OXYS種のラットは、ガラクトースの白内障効果を受けやすいWistar系ラットの選択および同型交配により得た。OXYSラットの酸化的ストレスに対する減少した耐性において発現される遺伝的に調整された代謝障害は、老化促進症候群と見なすことができるその有機組織における変化につながる。OXYSラットの水晶体における病原性変化は、2月齢で起こり、6月齢で、白内障が100%のOXYSラット(Wistarラットの5%に対して)において検出され、12月齢で、白内障は両目を冒す。検眼鏡、生体顕微鏡および形態学的データによると、OXYSラットにおける白内障はヒト老人性白内障に対応し、進行性黄斑変性の背景に対して発達する。疾患の最初の兆候は6週齢で現れ、4〜6月齢までに、病状は顕著な段階に達する。特性の発現により、OXYSラットにおける眼に基づく病変のパターンは、黄斑変性、例えば、中心退縮脈絡網膜変性を有するヒト患者において観察される網膜の変化に対応する。
【0097】
本発明のこの部分の目標は、SkQ製剤の、OXYSラットにおける白内障および黄斑変性の発生に対する効果を調査することである。
【0098】
研究は、合計120匹のオスOXYSおよびWistarラットを用いて行われた。動物をそれぞれ5匹の群で自然照明条件下に置いた。ただし、標準的粒状食餌および水を自由に与えた。1.5月齢で、1%トロピカミド点眼液で予備瞳孔拡張後、「ベッタ」("Betta")直接検眼鏡(独)を用いた検眼鏡検査にラットを付した。OXYSラットの視覚器における顕著な変化の発達に重要である1.5〜3ヶ月の期間、動物にSkQ1(体重1kgあたり50ナノモル)、またはKBr(体重1kgあたり50ナノモル)またはビタミンE(酢酸α−トコフェロール(ウラルビオファーム"Uralbiofarm")、20mg/kg)のいずれかを投与した。後者は、参考基準として本発明者らにより以前から使用されている。動物は、通常の食餌前に乾燥パンの小片上の化合物を摂取し、無処理群は、同様の乾燥パンの小片のみを摂取した。抗酸化物質を用いたコースが完了したら、動物を再検査した。製剤摂取の結果の評価において主観性を排除するために、動物が飼育されていたケージからすべての識別書を事前に取り除いた。
【0099】
水晶体の状態を臨床診療において採用される採点システムにしたがって、0〜3のポイントで評価した。0−水晶体は透明である、1−斑点状の弱い混濁、2−複数点の混濁、および3−水晶体皮質または水晶体核の強い混濁。黄斑領域における斑点状変化の存在および程度を一般に採用される分類に従って評価した。0−変化無し、1−「ドルーゼ」と呼ばれる小さな黄色沈着物が水晶体の後極において出現する病状の第一期、2−第二期、0.5から1のサイズのディスク直径を有する境界鮮明な顕著な黄色斑点の発達(着色された網膜剥離の滲出性剥離作用)、および3−黄斑領域中への広範な出血を伴う第三期。
【0100】
結果
検眼鏡検査は、1.5および3月齢のWistarラットにおける水晶体および網膜の黄斑領域における変化を明らかにしなかった。OXYSラットにおいては、逆に、初期の白内障(得点1)が事例の20%において観察され、第一期の黄斑変性が1.5月齢の事例の110%において観察された。
OXYSラットの無処理群におけるコントロールにおいて3月齢で、水晶体の病理変化が調査された眼の90%において観察され、例えば、眼の35%が白内障の第二期であった。黄斑変性は動物のコントロール群の眼の85%において観察され、その16%はこの病状の第二期に相当した(図8)。
【0101】
KBrを摂取したOXYSラットの群において、水晶体変化は、93%の眼において観察され、眼の合計数の57%が第二期の白内障を有していた。網膜の黄斑領域における変化は、この群からの動物の眼の87%において観察され、これらの変化の13%は疾患の第二期に相当した。
SkQ1を摂取した動物において、いくつかの水晶体変化を事例の46%において記録し、これらは全て白内障の第一期に相当した。この群のOXYSラットにおける網膜の黄斑領域における変化が事例の38%において明らかになり、黄斑変性の第一期に相当した。
【0102】
ビタミンEを摂取したラットにおいて、3月齢で、水晶体変化が事例の58%において記録され、変化の12%は白内障の第二期に相当した。網膜の黄斑領域における変化は、この群からのOXYSラットの54%で明らかになり、8%は黄斑変性の第二期に相当する。これらの実験の結果を図7〜12にグラフにより示す。
よって、本実施例は、老化に伴う眼疾患の予防におけるSkQ1適用の有効性、よって酸化的ストレスに関連する疾患を対処するための、構造(I)に対応するミトコンドリア抗酸化物質の有効性を納得できるように例示する。
【実施例10】
【0103】
「心筋に対するミトコンドリア抗酸化物質SkQ1の保護作用」
活性酸素種(ROS)がその濃度に応じて、心筋に対して調節または毒性効果を有することは公知である。SkQ1製剤を試験する場合、ROS作用を調節するその能力が見出された。SkQ1製剤を静脈内または食品とともに(50μg/kg)投与されたラットの単離された心臓に関して実験を行った。製剤の静脈内投与後2時間、または食品とともに投与した2週間後に、心臓を摘出した。心臓の逆行性潅流は、クレブス(Krebs)溶液を一定割合で用いて従来の手順に従った。記録された潅流圧(PP)は冠状血管の緊張を特徴づけた。自然な心拍数および左心室における等容性圧も測定した。150μM H、標準的ROS生成剤の40分投与に際して、これらのパラメータにおける変化を記録した。
【0104】
SkQ1静脈内投与を1回行った一連の実験において、潅流速度の2倍の増加に続いて、両群において、適切に等しい潅流圧上昇(120〜125mmHg)が起こった。H を導入することにより、通常の2相効果が得られた。すなわち、初期PP減少に続いて増加した。コントロール群において、最小PP量は95+5mmHgであり、一方、SkQ1を受容した動物群においては、77+2mmHg(p<0.02)であった。H導入前の初期レベルと比較した最大PP減少は、平均でそれぞれ−28+3mmHgおよび−43+5mmHgであった(p<0.05)。SkQ1摂取が延長された一連の実験において、コントロール群における最大PP減少は平均で−21+5mmHgであり、一方、SkQ1を受容した動物の群においては、−38+5mmHg(p<0.03)であった。群間の顕著な違いは、H導入の最後で、それぞれ、−5+6mmHgおよび−29+6mmHgのままであった(p<0.03)。従って、1回または長期のSkQ1投与はどちらも、Hの初期血管拡張効果を促進した。加えて、SkQ1の長期投与に際して、Hの冠状血管に対する毒性効果は減少した。
【0105】
よって、SkQ1製剤は、調節を促進し、単離された心臓の冠状血管に対するROSの毒性効果を減少させると結論づけることが可能である。SkQ1のこの効果は、心臓血管疾患を対処するために使用できる。
【実施例11】
【0106】
「構造(I)に対応する化合物の、正常および腫瘍細胞の形態および移動度に対する効果」
SkQ1タイプの抗酸化物質は、培養物中の細胞の形態学的変化を引き起こし、この変化は、その移動度の減少および基体と細胞の接着の強化を伴う。
【0107】
ヒト皮膚および肺の正常線維芽細胞およびHeLa細胞を低細胞密度(20〜30%コンフルーエンス)で培養した。その面積、分散および伸長を測定することにより、細胞の形態計測を行った。ファロイジン−ローダミン(アクチンフィラメント)、チューブリン(微小管)に対する抗体およびビンキュリン(基体と接触する)で固定細胞調製物を染色することにより細胞骨格構造を検討した。マイクロビデオカメラを用いて細胞の移動度を検討した。
【0108】
20nM SkQ1とともに6日間プレインキュベートされた線維芽細胞は形態が急変した。細胞の平均面積は2.9倍高く、拡散指数は2.4倍低下し、伸長指数は2.34から0.69に減少した。アクチンフィラメントの含量は、3.7倍増加し、従って、その単位面積あたりの密度はコントロールの136%になった。アクチンフィラメントを大きな束(ストレス・フィブリル)にした。基体との接触数は大きく増加した。線維芽細胞の移動度は急落した。全ての観察された変化は線維芽細胞増殖速度を減少させなかった。HeLa細胞に関して行われた同様の測定は、その平均面積が2.6倍増加し(分散および伸長パラメータにおいては変化無し)、アクチンフィラメントの含量は増加するので、平均密度は変わらないままであることを示した。
【0109】
したがって、SkQ1タイプの抗酸化物質での処置に応答した細胞の形態変化およびその移動度の減少は、細胞の増殖および転移の可能性の減少を暗示する。
【実施例12】
【0110】
「構造(I)に対応する化合物の腫瘍細胞に対する細胞傷害効果」
構造(I)に対応し、酸化促進物質およびタンパク質修飾機能を有する化合物は、ミトコンドリア中に非選択的孔の開口、ミトコンドリアの膨潤、シトクロムcの膜間腔から細胞質中への放出、およびアポトーシスを誘発する。抗アポトーシスタンパク質のミトコンドリア標的化阻害物質は、当分野において公知のこれらの化合物および化学療法薬により引き起こされるアポトーシスを促進することができる。
【0111】
隣接するジチオール(フェニルアルセンオキシド、PAO)と架橋する酸化促進物質および化合物は、無細胞系および細胞中の双方において、非選択的孔の開口およびミトコンドリアの膨潤を誘発することがわかった。特に、胸腺リンパ球に関する実験において、PAOを用いたミトコンドリア孔の誘発は、Ca2+イオンをミトコンドリアから細胞質へ放出することにつながった。電子顕微鏡を用いることにより、膨潤したマトリックスを有するミトコンドリアがこれらの細胞において観察された。PAOは高い非特異性毒性を有し、これは、シトクロムc放出のメカニズムおよび関連するアポトーシスの調査においてPAOの使用を許容しない。いくつかの細胞モデルにおいて、孔開口を誘発する化学物質も、シトクロムcの細胞質への放出およびアポトーシスを促進することがわかった。PAOおよび類似化合物をミトコンドリアへ標的化導入することにより、その非特異性毒性を減少させ、標的細胞におけるアポトーシスの誘導を許容すると仮定することができる。正電荷を有する化合物(ホスホニウムおよびローダミン誘導体)は、正常細胞のミトコンドリアにおけるよりも、はるかに有効に、速く成長する腫瘍細胞のミトコンドリアにおいて蓄積し、保持されることが以前に示された。上記情報は、有効かつ選択的な抗癌製剤が、構造(I)に対応する化合物に基づいて産生されるであろうことを予想する根拠となる。
【実施例13】
【0112】
「構造(I)に対応する化合物の腹水癌の場合における抗癌効果」
構造(I)の化合物が腫瘍性疾患の処置において有用であり得るかどうかを調べるために、本発明者らは、エールリヒ(Ehrlich)腹水癌が人工的に誘発されたマウスに対するSkQ1の効果を試験した(急性腫瘍性疾患の発達の標準的モデル)。
NMRI系マウスにSkQ1を様々な濃度、10、1または0.1μMの濃度で、飲料水と共に投与した。その結果(エールリヒ腹水癌が事前に誘発されたマウスの生存率)を図13に示す。この実験のネガティブコントロールは水である一方、ポジティブコントロールは周知の抗ガン剤シスプラチンであった。
得られた結果は、構造(I)に対応するミトコンドリア標的化抗ガン製剤の抗腫瘍効果を示す。
【実施例14】
【0113】
「選択的ミトコンドリア標的化化合物の光力学作用」
構造(I)に対応し、光増感機能を果たす化合物は、シトクロムcの膜間腔から細胞質中への放出およびアポトーシスを誘発できる。
【0114】
正電荷を有する光増感剤(ローダミン類、クロロメチル−X−ロサミン)のプロトタイプは、ミトコンドリア中に蓄積し、中程度の照射に付された、種々の腫瘍細胞においてアポトーシスを引き起こす。類似の非ミトコンドリア標的化分子は、照射下(光線力学療法において潜在的な炎症性合併症をもたらし得る)で主に壊死性細胞死を引き起こす。今日まで研究されたプロトタイプ光増感剤は、その低い量子効率およびスペクトル緑色領域の最大吸収のために、実際に使用されない。臨床診療において使用されるプロトポルフィンおよびフタロシアニン誘導体ベースの光増感剤は、高い量子効率、スペクトルの赤色領域における最大の吸収(これは綿密な組織の治療有効性を改善する)を有するが、これらは主にリソソームにおいて蓄積し、壊死を誘発する。構造(I)に対応する化合物の処方中のかかる分子のミトコンドリアターゲティングは、スペクトルの赤色領域における低強度照射により腫瘍細胞のアポトーシスを誘発させる。
【0115】
正電荷を有する化合物(ローダミンおよびホスホニウム誘導体)は、急速に成長する腫瘍のミトコンドリアにおいて、正常組織の細胞におけるよりも大幅に蓄積し、保持されることがわかった。構造(I)に対応する化合物ベースの光増感剤は、腫瘍において選択的に蓄積し、これにより光線力学療法において使用される場合にその有効性が増大するであろうことが推測される。
【実施例15】
【0116】
「酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の細胞に関して実証された、真菌細胞に対するミトコンドリア抗酸化物質SkQ1の保護効果」
本発明者らは、構造(I)に対応するミトコンドリア抗酸化物質SkQ1が10mM過酸化水素により引き起こされるヤロウィア・リポリティカの細胞死を部分的に予防することを示した。
【0117】
図14からわかるように、シクロヘキシミドD、トコフェロールおよびSkQ1の効果は非常に類似している。シクロヘキシミドの効果は本発明者らにより以前に例証された。この効果は、アポトーシスの細胞におけるタンパク質合成の正常な機能の必要性により説明される。α−トコフェロールの濃度を25μMに等しくした。その理由は、この特定の濃度がサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞についてフェロモンおよびアミオダロンにより誘発されるプログラム化された細胞死に対して最大の保護効果を提供するためである(Pozniakovsky A.I., Knorre D.A., Markova O.V., Hyman A.A., Skulachev V.P., Severin F.F., 2005、J. Cell. Biol. 168(2): 257-69)。この濃度は、SkQ1の10倍低い濃度と同程度に有効であることが証明された。これらの結果は、ミトコンドリア標的化抗酸化物質が真菌細胞に対して有用であり、SkQ1タイプの化合物を酵母、他の真菌および微生物の工業的培養物の保護に使用できることを示す。
【実施例16】
【0118】
「高等植物の発育におけるミトコンドリア抗酸化物質SkQ1の効果」
挿し木を人工寒天化MS培地上で、1μM SkQ1(3植物)を添加して、またコントロールとしてSkQ1を添加しない(3植物)で成長させた。挿し木を50ml透明試験管中に入れ、人工気象室中、3週間、27℃で、定期的に照射しながら(明所で14時間、暗所で10時間)成長させた。次に、植物を暗ストレスに付した。即ち、完全な暗所中で7日間成長させた。
【0119】
結果として、コントロール植物は無色になった一方、SkQ1の存在下で成長させた植物はその緑色を保持していた。次に、植物を通常の照明条件に戻し、さらに20日間成長させた。かかる処置後、SkQ1の存在下で成長させた植物はコントロール植物よりも3倍大きくなった。
【0120】
この実験例は、ミトコンドリア標的化抗酸化物質の植物全体に対して好ましい効果を例示する。結局、このような化合物は、人工培地(遺伝子組み換え植物の産生において必要な段階)上で植物を生長させるため、植物細胞培養物の生存能力を増大させるため、および農業において作物の生存能力を増加させるために使用できる。
【0121】
当業者は、上記実施例および明細書に基づいて明らかな追加または変更をなすことができ、これにより、本発明の目的に関して有用な、請求の範囲に記載されているすべての化合物および組成物を得ることが可能になる。すべてのこのような追加および修正は、記載される本発明の請求の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】人工膜を通るSkQ1の透過を示す図である。
【図2】キノール誘導体MitoQおよびSkQ1の自然酸化を示す図である。
【図3】スーパーオキシドラジカルを系中に導入するための「MitoQ」および「SkQ1」キノール誘導体の酸化速度の増加を示す図である。aは空気の酸素およびスーパーオキシドラジカルの両方により還元された形態の酸化速度であり、bはスーパーオキシドラジカルのみにより還元された形態の酸化速度である。
【図4】サクシネート(5mM)により活性化された、2μMロテノンの存在下でのラット肝臓ミトコンドリア(0.2mg/mlタンパク質)の呼吸鎖による「MitoQ」および「SkQ1」の還元を示す図である。
【図5】2μMロテノンの存在下、スクシネート(5mM)により活性化されたラット肝臓ミトコンドリアの呼吸鎖によるキノール「MitoQ」および「SkQ1」の酸化を説明する図である。キノール誘導体の還元が完了した後、呼吸鎖を25mMマロネートでブロックし、「MitoQ」および「SkQ1」の再酸化速度を測定した。
【図6】「MitoQ」および「SkQ1」のHela細胞に対する細胞傷害効果を示す図である。生きている細胞のパーセンテージはMTT−ホルマザンのO.D.(492nm)に比例する。
【図7】SkQおよびいくつかの他の製剤の、OXYSラットにおける網膜変性の発達に対する影響を示す図である。網膜の黄斑部において変性変化を有する目のパーセンテージをY軸に沿ってプロットする。
【図8】第二期の斑状変化を有する目のパーセンテージを示す図である。SkQ1の投与は、黄斑変性の罹患率を減少させるだけでなく、斑状変化の程度も実質的に減少させた。第二期の黄斑変性を有する目のパーセンテージをY軸に沿ってプロットする。
【図9】投与前およびKBr、SkQ1またはビタミンEの45日コース後の、OXYSラットにおける網膜の黄斑部における変性変化を示す図である。
【図10】OXYSラットにおける白内障罹患率に対する、SkQ1およびいくつかの他の製剤の影響を説明する図である。水晶体の変化を有する目のパーセンテージをY軸に沿ってプロットする。
【図11】第二期の水晶体変化を有する目のパーセンテージを示す図である。SkQ1の投与は、罹患率を減少させるだけでなく、白内障の程度も実質的に軽減した。疾患の第二期に対応する変化を有する目のパーセンテージをY軸に沿ってプロットする。
【図12】投与前およびKBr、SkQ1およびビタミンEの45日コース後のOXYSラットにおける水晶体の状態を示す図である。
【図13】エールリヒ腹水癌が移植されたマウスの生存率に対する3つの異なる濃度のSkQ1の影響を示す図である。
【図14】タンパク質、合成阻害物質、シクロヘキシミドD(ChD)および抗酸化物質の、5mM過酸化水素で処理されたヤロウィア・リポリティカの細胞に対する影響を示す図である。生存率は、固体培地の成長したコロニー数を用いて評価した。細胞を3時間のインキュベーション後に固体培地上に移した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞ミトコンドリアへ生物活性物質を標的化導入するための、治療上有効量の構造式(I)の化合物、その溶媒和物、異性体、プロドラッグ、および医薬上許容可能な担体を含む医薬組成物:
【化1】


(式中、Aは、以下のa)〜d)を有するエフェクタ基(effector group)であって、
a)抗酸化物質(II)および/またはその還元体
【化2】


(式中、mは1から3の整数であり、各Yは、低級アルキルまたは低級アルコキシを含む同じか又は異なる置換基を表すか、または隣接する2つのYは相互結合して下記構造および/またはその還元体を形成する
【化3】


(式中、R1およびR2は同じか又は異なり、独立して、低級アルキルまたは低級アルコキシを表す));
b)酸化促進物質(pro-oxidant);
c)アポトーシス誘導物質またはミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質;
d)光増感剤;
であり;
Lは、
a)1以上の置換基で任意に置換され、1以上の二重結合または三重結合を任意に含有する直鎖状または分岐鎖状炭化水素鎖、
b)天然イソプレン鎖、
を含むリンカー基であり;
nは1から20の整数であり;
Bは、
a)スクラチェフ(Skulachev)イオンSk、
Sk
(式中、Skは脂溶性カチオンであり、Zは医薬上許容可能なアニオンである);
b)1〜20のアミノ酸を含む荷電疎水性ペプチド、
を含むターゲティング基(targeting group)である;
ただし、構造(I)の化合物において、Aがユビキノン(すなわち、2−メチル−4,5−ジメトキシ−3,6−ジオキソ−1,4−シクロヘキサジエニル)もしくはトコフェロールまたはスーパーオキシド・ジスムターゼまたはエブセレンの模倣物である場合は除外され、その場合、Lは二価デシルまたは二価ペンチルまたは二価プロピルラジカルであり、Bはトリフェニルホスホニウムである)。
【請求項2】
抗酸化物質が、2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノール(プラストキノン)またはその還元体(プラストキノール)である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アポトーシス誘導物質がフェニルアルセンオキシドである請求項1記載の組成物。
【請求項4】
ミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質がABT737である請求項1記載の組成物。
【請求項5】
酸化促進物質がパラコート、メナジオンまたは有機ヒドロペルオキシドである請求項1記載の組成物。
【請求項6】
光増感剤が、金属置換基およびその錯体を任意に含むフタロシアニン、ポルフィリンおよびその誘導体、特に、BDP−MaまたはBDP−Ma;もしくはフォスキャン(foscan)(mTHPC)である請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記Sk(脂溶性カチオン)が、トリフェニルホスホニウム、トリフェニルアンモニウム、トリブチルアンモニウムである請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記SkがローダミンGである請求項1記載の組成物。
【請求項9】
細胞中のフリーラジカルおよび活性酸素種の量を減少させるための、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項10】
前記細胞が、人体または他の哺乳動物の有機組織内であり;遺伝子組み換え植物を含む、その任意の発育段階での植物の細胞であり;培養物中の細胞または植物細胞またはプロトプラストであり;真菌細胞および/または真菌細胞の培養物における細胞であり;製剤、薬理学上許容可能なタンパク質、ペプチド、抗体の産生を行う細胞の生存能力および/または生産力を増加させるための使用を含む、請求項9記載の組成物の使用。
【請求項11】
前記細胞が、正常細胞、または癌細胞、またはヒトをはじめとする哺乳動物の幹細胞、正常細胞、ガン細胞、幹細胞の培養物を包含する細胞の培養物におけるものである場合の組成物の使用であって、製剤、薬理学上許容可能なタンパク質、ペプチド、抗体の産生を行う細胞の生存能力および/または生産力を増加させるための使用を含む、請求項9記載の組成物の使用。
【請求項12】
前記有機組織のフリーラジカルおよび活性酸素種の濃度の低下から恩恵を受けるヒトまたは動物患者を処置するための、請求項9〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
癌の化学療法、放射線療法または光線力学療法の際;フリーラジカル、活性酸素種またはこれらを生成する物質を活用した、血液または正常細胞要素を含む他の物質の殺菌の際;損傷から正常細胞を保護するための、請求項9〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
化粧用、外科縫合の治癒用、外科手術中の正常組織の損傷の予防用、組織の熱傷の治癒用または予防用、炎症に対して、移植物質の保存用、移植された組織および器官の拒絶の対処用の、請求項9〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項15】
腫瘍疾患の対処用、転移および血管形成を抑制および予防用、癌細胞の排除用、癌の化学療法または光線力学療法においての使用のため、他の化学療法および光線力学療法製剤と組み合わせての使用のため、癌放射線療法と組み合わせての使用のための、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項16】
必要なときにはいつでも、アポトーシスを誘導するか又は誘導を刺激するため、癌細胞内の、もしくは癌または他の腫瘍細胞、ならびに他の細胞の、アポトーシス誘導物質に対する感受性を増大させる、請求項15記載の使用。
【請求項17】
有機組織の寿命を延ばすため;老化を防止するための組成物の使用であって、ホルモン療法との組み合わせ、特にジヒドロエピアンドロステロン、メラトニンとの組み合わせでの使用を含む、骨端ホルモン、甲状腺ホルモンとの組み合わせにおける使用を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項18】
一般式(I)の化合物、その溶媒和物、異性体、プロドラッグおよび医薬上許容可能な担体:
【化4】


(式中、Aは、下記a)〜d)を含むエフェクタ基(effector group)であり
a)抗酸化物質および/またはその還元体
【化5】


(式中、mは1から3の整数であり、各Yは、低級アルキルまたは低級アルコキシを含む同じか又は異なる置換基を表すか、または隣接する2つのYは相互結合して下記構造および/またはその還元体を形成する
【化6】


(式中、R1およびR2は同じか又は異なり、独立して、低級アルキルまたは低級アルコキシを表す))、
b)酸化促進物質(pro-oxidant)、
c)アポトーシス誘導物質またはミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質、
d)光増感剤、
であり;
Lは、
a)1以上の置換基で任意に置換され、1以上の二重結合または三重結合を任意に含有する直鎖状または分岐鎖状炭化水素鎖、
b)天然イソプレン鎖、
を含むリンカー基であり;
nは1から20の整数であり;
Bは、
a)スクラチェフ(Skulachev)イオンSk、
Sk
(式中、Skは脂溶性カチオンであり、
Zは医薬上許容可能なアニオンである)。
b)1−20のアミノ酸を含有する荷電疎水性ペプチド、
である。
ただし、Aがユビキノン(すなわち、2−メチル−4,5−ジメトキシ−3,6−ジオキソ−1,4−シクロヘキサジエニル)もしくはトコフェロールまたはスーパーオキシド・ジスムターゼまたはエブセレンの模倣物である化合物は除外し、その場合、Lは二価デシルまたは二価ペンチルまたは二価プロピルラジカルであり、Bはトリフェニルホスホニウムである)。
【請求項19】
アポトーシス誘導物質がフェニルアルセンオキシドであり、ミトコンドリア局在の抗アポトーシスタンパク質の阻害物質がABT737である請求項18記載の化合物。
【請求項20】
光増感剤が、金属置換基およびその錯体を任意に含むフタロシアニン、ポルフィリンおよびその誘導体、特に、BDP−MaまたはBDP−Ma;もしくはフォスキャン(foscan)(mTHPC)である請求項18記載の化合物。
【請求項21】
前記Sk(脂溶性カチオン)がローダミンG、トリフェニルホスホニウムまたはトリフェニルアンモニウムである請求項18記載の化合物。
【請求項22】
Aが一般式(II)(式中、Yはメチルであり、mは3であり、L、n、Bは請求項1において定義されたとおりである)のプラストキノン残基である、請求項18記載の化合物、ならびにその溶媒和物、異性体、プロドラッグおよび医薬混合物。
【化7】

【請求項23】
Lが二価デシルラジカルである請求項18記載の化合物。
【請求項24】
Lが二価ペンチルラジカルである請求項18記載の化合物。
【請求項25】
SkがローダミンG部分である請求項18記載の化合物。
【請求項26】
a)ヒドロキノン(I.1)を好適な酸化物質で酸化して、ベンゾキノン(I.2)を得る工程;
【化8】

b)誘導体(I.3)を形成する工程;及び
【化9】


c)B−M残基を化合物(I.3)とカップリングして、目標生成物IAを得る工程;
【化10】


(式中、Y、L、B、Ra1、m、nは前記定義のとおりであり、VはBr、Cl、IまたはOHであり、Mは脱離基である)
を有する請求項18記載の化合物の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−511626(P2009−511626A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536535(P2008−536535)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/RU2006/000394
【国際公開番号】WO2007/046729
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(508115174)リミテッド ライアビリティ カンパニー ”ミトテクノロジー” (1)
【Fターム(参考)】