説明

生物由来の生理活性物質の測定方法及び測定装置

【課題】エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応を利用して前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する際に、測定時間の大幅な短縮が可能な測定方法及び、それを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】光源からの入射光を試料に絞り込んで照射して、プロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのもの(コアギュリンモノマー)、ならびに、それらが会合してできた極めて微小の会合物(コアギュリン凝集物)と衝突させて散乱光を生成させ、受光素子で検出する。そして、検出した散乱光の初期の増加率から、エンドトキシンの濃度を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンやβ−D−グルカンなど、LALとの反応によってゲル化する特性を有する生物由来の生理活性物質を含有する試料中の該生理活性物質を検出しまたはその濃度を測定するための測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、最も代表的な発熱性物質である。このエンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入ると、発熱やショックなどの重篤な副作用を惹起するおそれがある。このため、上記の薬剤などは、エンドトキシンにより汚染されることが無いように管理することが義務付けられている。
【0003】
ところで、カブトガニの血球抽出物(以下、「LAL : Limulus amoebocyte lysate」ともいう。)の中には、エンドトキシンによって活性化されるセリンプロテアーゼが存在する。そして、LALとエンドトキシンとが反応する際には、エンドトキシンの量に応じて活性化されたセリンプロテアーゼによる酵素カスケードによって、LAL中に存在するコアギュロゲンがコアギュリンへと水解されて会合し、不溶性のゲルが生成される。このLALの特性を用いて、エンドトキシンを高感度に検出することが可能である。
【0004】
また、β−D−グルカンは真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。β−D−グルカンを測定することによりカンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどに有効である。
【0005】
β−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによって凝固(ゲル凝固)する特性を利用して、β−D−グルカンを高感度に検出することが可能である。
【0006】
このエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの、カブトガニの血球抽出成分によって検出可能な生物由来の生理活性物質(以下、所定生理活性物質ともいう)の検出または濃度測定を行う方法としては、所定生理活性物質の検出または濃度測定(以下、単純に「所定生理活性物質の測定」ともいう。)をすべき試料とLALとを混和した混和液を静置し、一定時間後に容器を転倒させて、試料の垂れ落ちの有無によりゲル化したかどうかを判定し、試料に一定濃度以上のエンドトキシンが含まれるか否かを調べる半定量的なゲル化法がある。また、LALと所定生理活性物質との反応によるゲルの生成に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する比濁法や、酵素カスケードにより水解されて発色する合成基質を用いる比色法などがある。
【0007】
上記の比濁法によって所定生理活性物質の測定を行う場合には、乾熱滅菌処理されたガラス製測定セルに測定試料とLALとの混和液を生成させる。そして、混和液のゲル化を外部から光学的に測定する。しかしながら、比濁法においては特に所定生理活性物質の濃度が低い試料においてLALがゲル化するまでに非常に多くの時間を要する場合がある。これに対し、所定生理活性物質の短時間測定が可能な方法が求められている。測定試料とLALとの混和液を例えば磁性攪拌子を用いて攪拌することにより、ゲル微粒子を生成せしめ、ゲル粒子により散乱されるレーザー光の強度、あるいは、混和液を透過する光の強度から、試料中の所定生理活性物質の存在を短時間で測定できるレーザー散乱粒子計測法、あるいは、攪拌比濁法が提案されている。
【0008】
上記の種々の方法によって、所定生理活性物質の検出時間または測定時間の短縮や測定感度の向上が図られているが、いずれの方法も長所、短所を併せ持っており、測定時間の短縮や高感度化、妨害物質の排除などの面で更なる改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−061314号公報
【特許文献2】特開平10−293129号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008/038329号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、生物由来の生理活性物質の検出または濃度測定において測定時間の短縮が可能な測定方法及び、それを用いた測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、プロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのもの(コアギュリンモノマー)及び、それらが会合してできた極めて微小の会合物(コアギュリン凝集物)を直接検出することが測定時間の短縮に結びつくと考えた。そして、光を所定生理活性物質の測定を行う試料とLALとの混和液に照射して混和液中の粒子と衝突させて散乱光を生成させ、受光素子で検出した散乱光の増加率より、所定生理活性物質の濃度を検出しまたは濃度を測定することを最大の特徴とする。
【0011】
すなわち本発明は、所定生理活性物質とLALとの混和液に光を照射して該混和液中の粒子と衝突させて散乱光を生成させた場合に、受光素子で検出した散乱光の増加率は所定生理活性物質の濃度に依存しているという、発明者の鋭意研究によって得られた新たな見識に基づくものである。
【0012】
そして本発明は、比色法のような特殊な試薬を用いない比濁法を基礎としているものの、所定生理活性物質によるLALのゲル化反応の極めて初期に起こっている水溶性タンパク質のコアギュロゲンから、疎水性に変化したコアギュリンモノマー、ならびに、モノマーが数個凝集したオリゴマーを散乱光で検出することにより、比色法同様の微分法を判定に応用するものである。
【0013】
本発明はより詳しくは、試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とLALとの混和後において、前記試料とLALとの混和液中に光を入射するとともに該入射光の前記混和液による散乱光の強度を取得し、
前記散乱光の強度の増加率より前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定方法である。
【0014】
これによれば、エンドトキシンやβ−D−グルカンなどとLALとの混和後に混和液に光を入射した場合の、散乱光の強度の増加率を取得することでそれらの検出および濃度測定が可能となる。よって、比濁法を用いた場合のように、取得する物理量が予め定められた閾値を越えるのを待つ必要がなくなり、より早期に所定生理活性物質の検出または濃度の測定を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明においては、前記散乱光の強度の増加率が所定の急変化を起こす前における前記増加率より前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定するようにしてもよい。
【0016】
ここで、本発明では、所定生理活性物質によるLALのゲル化反応の極めて初期に起こっている、コアギュリンモノマー及び、モノマーが数個凝集したオリゴマーの生成を、散乱光によって検出している。この検出については、散乱粒子が非常に小さく入射光の波長以下のサイズであることから、この際の散乱光は主にレイリー散乱に基づくと考えられる。また、その後に粒子が成長してくると、散乱光は主にミー散乱に基づくものへと変化する。
【0017】
そうすると、初期の粒子系が小さい領域におけるレイリー散乱から粒子系の成長に伴ってミー散乱へと移行するにあたり、散乱光の増加率が急激に変化する点が現れる。
【0018】
これに対し、本発明においては、散乱光の強度の増加率が所定の急変化を起こす前における増加率、すなわち主にレイリー散乱に基づく散乱光の増加率を検出することとしたので、より正確に、所定生理活性物質によるLALのゲル化反応の極めて初期に起こっているコアギュリンモノマー及び、モノマーが数個凝集したオリゴマーからの散乱光の増加率を取得することが可能となる。その結果、より正確に所定生理活性物質の検出及び、濃度の測定を行うことが可能となる。
【0019】
また、本発明においては、前記混和液に入射する光の出力密度は50mW/mm2以上であることが望ましい。
【0020】
すなわち、本発明において検出するのは、前述のように極めて小径の粒子からの微弱な散乱光であるので、入射する光の出力密度はなるだけ高いことが望ましい。そして、出力密度は50mW/mm2以上であれば良好な検出が可能であることが新たに判ってきた。従って、本発明においては混和液に入射する光の出力密度は50mW/mm2以上であることが望ましい。この出力密度は、光源の出力で調整しても構わないし、入射光径をより小さく絞ることで調整しても構わない。
【0021】
また、本発明においては、前記混和液に入射する光の波長は300nm以上800nm以下であるようにしてもよい。すなわち、レイリー散乱の散乱光強度は入射光の波長に依存性を示しており波長が短いほど検出には有利なことが判っている。一方、極端に短い波長はLALの機能に悪影響を及ぼす虞があり、また、光学素子などの素材を短波長に対応させる必要が生じるなどの不都合もあり得る。このような状況のもと、上記のような範囲の波長を用いることで、良好な測定を実現することが可能である。
【0022】
また、本発明においては、前記散乱光の強度の増加率を取得する際には、所定期間に取得された散乱光の強度を複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値または、ヒストグラムの最頻値を前記期間における散乱光の強度としてもよい。
【0023】
上述のように、本発明では所定生理活性物質によるLALのゲル化反応の極めて初期に起こっている極めて小径の粒子からの散乱光の強度の増加率を測定する。一方、混和液中には試薬の溶け残り、試薬の製法上残存するマイクロメータレベルの微粒子、試料の攪拌に伴う微小な気泡などの夾雑物が存在する場合がある。これらの夾雑物からの散乱光は、数は少ないが非常に強力であるのでコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物などから散乱する微弱な信号がこれらの夾雑物からの散乱光に埋もれてしまい測定が不可能となる場合がある。
【0024】
これに対し本発明では、所定期間に取得された散乱光の強度を複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値または、ヒストグラムの最頻値を前記期間における散乱光の強度とするフィルタをかけることにした。夾雑物からの強力な散乱光が発生する頻度自体は
少ないため、所定期間中にサンプリングされた散乱光の強度のうち最小値または、ヒストグラムの最頻値を選ぶことで、前記夾雑物からの散乱光の影響を除去することができる。
【0025】
また、本発明においては、前記散乱光の強度を取得する際には、前記混和液を攪拌するようにしてもよい。
【0026】
混和液を攪拌せずに静置した場合は比濁法と同様に最終的には試料がゲル化するために散乱光の増加が認められるが、反応初期のコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物による散乱光の増加を検出することは困難な場合がある。混和液を攪拌することによって、反応の均一化、反応の促進、生成されたコアギュリンモノマーの速やかなオリゴマーへの動員などを効率よく行うことが可能となる。また、上述したような混和液中の試薬の溶け残り、試薬の製法上残存するマイクロメータレベルの微粒子、微小な気泡などが散乱領域に停滞することにより、散乱光強度の不用意な増加を招き測定精度を低下させることを抑制できる。
【0027】
また、本発明においては、前記混和液の攪拌速度は、300rpm以上3000rpm以下としてもよい。
【0028】
ここで、上記の攪拌速度が小さすぎると試料全体の攪拌が行えない。一方、攪拌速度が大きすぎると、試料中に気泡が混入しやすくなったり、コアギュリンモノマーが凝集していく過程を阻害したりして測定に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、混和液の攪拌速度を上記範囲とすることで、マイクロメータレベルの微粒子や気泡の混入を良好に抑制できるとともに、コアギュリンモノマーの凝集過程を阻害することを回避できる。
【0029】
また、本発明においては、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0030】
そうすれば、最も代表的な発熱性物質であるエンドトキシンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、エンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入り、副作用が惹起されることを抑制できる。同様に、β−D−グルカンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、カンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングをより正確に行なうことが可能となる。
【0031】
また、本発明は、試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記試料とLALとの混和液を光の入射可能に保持し、前記生理活性物質とLALとの反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における散乱光を受光し電気信号に変換するする受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から取得される前記散乱光の強度の増加率より前記試料中の前記生理活性物質の濃度を導出する導出手段と、
を備えることを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置であってもよい。
【0032】
この測定装置によれば、エンドトキシンやβ−Dグルカンなどの所定生理活性物質の検出または濃度の測定をより短時間で行うことが可能となる。
【0033】
また、前記導出手段は、前記混和液保持手段における前記試料とLALとの混和後であって前記反応の開始後であって前記増加率が所定の急変化を起こす前における前記増加率
より前記試料中の前記生理活性物質の濃度を導出するようにしてもよい。そうすれば、より正確に、コアギュリンモノマー及び、モノマーが数個凝集したオリゴマーからの散乱光の増加率を取得でき、より正確に所定生理活性物質の検出及び、濃度の測定を行うことが可能となる。
【0034】
また、その場合には、前記光入射手段により入射される光の出力密度は50mW/mm2以上としてもよい。また、前記光入射手段により入射される光の波長は300nm以上800nm以下としてもよい。これによれば、より効率的で良好な測定を実現することが可能である。
【0035】
また、本発明においては、前記受光手段において変換された電気信号を、所定期間に複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値を出力する最小値フィルタまたは、ヒストグラムの最頻値を出力する最頻値フィルタをさらに備えるようにしてもよい。これによれば、混和液への種々の夾雑物からの散乱光の影響を除去することができ、より正確に所定生理活性物質の検出または濃度測定を行うことができる。
【0036】
また、前記混和液保持手段は、前記混和液を攪拌する攪拌手段を有するようにしてもよい。その場合には、前記攪拌手段による前記混和液の攪拌速度は、300rpm以上3000rpm以下であることが望ましい。これによれば、前記夾雑物が散乱領域に停滞することにより、散乱光強度の不用意な増加を招き測定精度を低下させることを抑制できるとともに、コアギュリンモノマーの凝集過程を阻害することを回避できる。
【0037】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであっても良い。
【0038】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明にあっては、エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応を利用して、前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する際に、測定時間の短縮が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
LALとエンドトキシンとが反応してゲルが生成される過程はよく調べられている。すなわち、図6に示すように、エンドトキシンがLAL中のセリンプロテアーゼであるC因子に結合すると、C因子は活性化して活性型C因子となる、活性型C因子はLAL中の別のセリンプロテアーゼであるB因子を水解して活性化させ活性化B因子とする。この活性化B因子は直ちにLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とし、さらに、この凝固酵素がLAL中のコアギュロゲンを水解してコアギュリンを生成する。そして、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成し、LAL全体がこれに巻き込まれてゲル化すると考えられている。
【0041】
また、同様にβ−D−グルカンがLAL中のG因子に結合すると、G因子は活性化して活性型G因子となる、活性型G因子はLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とする。その結果、エンドトキシンとLALとの反応と同様、コアギュリンが生成され、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成する。
【0042】
この一連の反応は哺乳動物に見られるクリスマス因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼを介したフィブリンゲルの生成過程に類似している。このような酵素カスケード反
応はごく少量の活性化因子であっても、その後のカスケードを連鎖して活性化していくために非常に強い増幅作用を有する。従って、LALを用いた所定生理活性物質の測定法によれば、サブピコグラム/mLオーダーのきわめて微量の所定生理活性物質を検出することが可能になっている。
【0043】
所定生理活性物質を定量することが可能な測定法としては前述のように比濁法、ならびに、レーザー光散乱粒子計測法が挙げられる。図1に示すように、これらの測定法はこのLALの酵素カスケード反応によって生成されるコアギュリンの会合物を前者は試料の濁りとして、後者は系内に生成されるゲルの微粒子として検出することで、高感度な測定を可能にしている。
【0044】
特にレーザー光散乱粒子計測法では、系内に生成されたゲルの微粒子を直接測定するため、比濁法よりも高感度であり、且つ、一般的にLALと検体からなる試料を強制的に攪拌するので、比濁法と比較して短時間でゲルの生成を検出できる。
【0045】
また、エンドトキシンの別の測定法として比色法がある。これは図6に示すように、LALの酵素カスケード反応を利用しつつも、コアギュリンゲルによる試料の濁りを測定するのではなく、凝固酵素により水解を受け発色する合成基質を利用して、合成基質を含んだLALと検体とを反応させ、その吸光度変化を測定する方法である。この比色法においては、系内に生成されていく発色物質の濃度を測定するので、試料におけるゲルの生成を測定する比濁法やレーザー光散乱粒子計測法と比較すると、短時間で低濃度の所定生理活性物質を測定することができる。
【0046】
比濁法は、比色法と異なり特別な試薬が不要である点と、測定可能な所定生理活性物質の濃度範囲が広い点などにおいて、現場での使い勝手のよさがあるという評価がある。しかしながら一方で、比濁法は、低濃度の所定生理活性物質を測定する場合には非常に長い時間を要する問題があった。これは、比濁法がプロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのものの生成量を見ているのではなく、それがさらに会合して形成されたゲルによって光の透過率が減少していく過程を見ているためである。
【0047】
すなわち、コアギュリンの濃度がある程度以上の濃度に達しないとゲル化は生じないため、比濁法において所定生理活性物質が検出されるにはゲルが生じるまで待つ必要がある。そのため、所定生理活性物質濃度が高い場合には速やかに必要充分濃度のコアギュリンが生成してゲル化が始まるため測定時間は短くなるが、所定生理活性物質濃度が低いとゲル化に必要なコアギュリン濃度に達するのに時間がかかり測定時間が長くなってしまう。
【0048】
また、レーザー光散乱粒子計測法は試料を攪拌する点とレーザーによりゲル化ではなく粒子を検出する点が比濁法からの改良点であり、比濁法に比べると測定時間を大幅に短縮することができる。しかし、観察しているゲル粒子が比較的大きいので(数マイクロメートル以上)、測定時間の短縮の度合いは比色法には及ばなかった。比濁法とレーザー光散乱粒子計測法とでは、見ている物理量は異なるものの、ある一定の閾値を越えた時点を反応の開始点として捉えるという点では共通である(以下、この方法を便宜的に閾値法と呼ぶ)。
【0049】
一方、上述の比色法はプロテアーゼカスケードの最終産物に相当する合成基質の染色代謝物の発色を検出するので、所定の時間内の発色の進行度合い(増加率=微分)を検出すればよく、ゲル化が生じるまで待つ必要がないため測定時間を短縮化することができる(以下、この方法を微分法と呼ぶ)。しかし、特殊な試薬が必要であること、測定可能な濃度範囲が狭いことなどの問題点があった。
【0050】
本発明においては、上述の種々の方法における不都合を解決すべく以下の方法を完成させた。すなわち、光源からの光を所定生理活性物質とLALとの混和液に絞り込んで照射して、プロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのもの(コアギュリンモノマー)、ならびに、それらが会合してできた極めて微小の会合物(コアギュリン凝集物)と衝突させて散乱光を生成させる。そして、受光素子で検出した散乱光の増加率を算出することで、当該増加率と高い相関を有する所定生理活性物質の濃度を測定する。
【0051】
このように、本発明では、LALのゲル化自体を検出する比濁法を基礎としているので、特殊な試薬を用いることなく、通常のLAL試薬を用いて低濃度の所定生理活性物質を短時間で検出することが可能である。また、濃度測定のプロセスにおいては、所定の時間内の散乱光の強度の増加率を検出すればよい微分法を採用しているので、比色法と同様に、ゲル化が生じるまで待つ必要がないため測定時間を短縮化することができる。
【0052】
<入射光の絞込み>
本発明の光源にはレーザーあるいは高輝度のLEDが用いられ、それをレンズによって絞込んで混和液に照射する。これにより、照射した部分に入射光の光エネルギーを集中させることができるので、コアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物といった極めて微小な粒子からも充分な強度の散乱光を発生させて検出することが可能である。
【0053】
これに対し、レーザーポインタのような幅のある平行光を試料に入射した場合は、光エネルギーを試料の一点に集中して照射できないのでコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物といった極めて微小な粒子から充分な強度の散乱光を取得することができない。そのような方法は、光源をレーザーに置換したのみであり、従来の比濁法の一種という領域を出ない。
【0054】
<試料の攪拌>
また、本発明において試料は測定容器中に内蔵している攪拌子により攪拌しており、この試料の攪拌によって、反応の均一化、反応の促進、生成されたコアギュリンモノマーの速やかなオリゴマーへの動員などが効率よく行なわれる。試料を攪拌せずに静置したばあいは比濁法と同様に最終的には試料がゲル化するために散乱光の増加が認められるが、反応初期のコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物による散乱光の増加を精度よく検出することは困難な場合がある。
【0055】
<ノイズの除去(フィルタリング)>
さらに、試料中には試薬の溶け残り、試薬の製法上残存するマイクロメータレベルの微粒子、試料の攪拌に伴う微小な気泡などが存在する。コアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物などから散乱する微弱な信号は、数は少ないが非常に強力な散乱光を発生させるこれらの夾雑物の散乱光に埋もれてしまうため、そのままでは測定することができない。
【0056】
本発明では、例えば、所定期間に取得された散乱光の強度を複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値、或いは、ヒストグラムの最頻値を前記期間における散乱光の強度とするフィルタを使用することによって夾雑物の影響を排し、目的物質の微弱な散乱光を得ることとする。
【0057】
<本発明と閾値法との組合せ>
本発明は上記のように、取得された測定対象から発生する微弱な散乱光の時間変化の割合が作用させたエンドトキシンの濃度が高いほど大きく、濃度が低いほど小さいことに着目したものである。そのため、エンドトキシン濃度の低い試料であっても、凝集微粒子の出現やゲル化を待つまでもなく、短時間でその濃度を定量することが可能である。これは
本発明は比色法と同様微分法を利用することによる効果と言える。
【0058】
しかしながら、所定生理活性物質の濃度が圧倒的に高濃度である場合は、コアギュロゲンモノマー、ならびに、コアギュロゲンオリゴマーなどの目的物質からの微弱な散乱光の増加率を充分に観測し終えるよりも早く、それらがさらに会合したマイクロメートルレベルのコアギュロゲンポリマーが形成されてしまう場合がある。そのような場合には測定対象から発生する微弱な散乱光の増加率を算出することができない。従って、そのような場合には散乱光の強度があるレベルを超えた時間を持って濃度を算出する閾値法を適用しても良い。このように場合分けして微分法と閾値法の利点を組み合わせることにより同時に広範囲の濃度の測定が可能となる。
【0059】
以下に、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。しかし、本発明は、以下に示す形態に限定されるものではない。
【0060】
図1には、本実施の形態における所定生理活性物質の測定系1の概略構成を示す。測定系1に使用される光源2にはレーザーや超高輝度LEDなどが用いられる。光源2から照射された光は、入射光学系3で絞られ、試料セル4に入射する。この試料セル4には所定生理活性物質の測定をすべき試料とLAL試薬の混和液が保持されている。試料セル4に入射した光は、混和液中の粒子(コアギュロゲンモノマー、ならびに、コアギュロゲンオリゴマーなどの測定対象)で散乱される。
【0061】
試料セル4の、入射光軸の側方には出射光学系5が配置されている。また、出射光学系5の光軸の延長上には、試料セル4内の混和液中の粒子で散乱され出射光学系5で絞られた散乱光を受光し電気信号に変換する受光素子6が配置されている。受光素子6には、受光素子6で光電変換された電気信号を増幅する増幅回路7、増幅回路7によって増幅された電気信号からノイズを除去するためのフィルタ8、ノイズが除去された後の電気信号から散乱光の増加率を演算し、さらに、所定生理活性物質の濃度を導出する演算装置9及び、結果を表示する表示器10が電気的に接続されている。
【0062】
測定系1においては測定対象が小さいため、測定対象からの散乱光はレイリー散乱によると考えられる。その場合、散乱光強度ksは以下のように表される。
【0063】
【数1】

【0064】
ここでnは粒子数、dは粒子径、mは反射係数、λは入射光の波長である。従って、光源2における波長が短いほど測定には有利である。しかしながら、LALは高濃度の蛋白質を含んでいるため、極端に短い波長はLALの機能に悪影響を及ぼすばかりか、光学的にそれらの短波長を透過させる特別な素材などを必要とするため実用的ではない。
【0065】
従って、入射光の波長を特に限定する必要はないが、250nmから1200nmの範囲が望ましい。さらには、300nmから800nmの範囲が望ましい。入射光の波長が300nm以上800nm以下の範囲であれば、充分に効率よく散乱光を得ることが可能で、LALの機能にも全く影響がなく、一般的な素材の光学部品を用いることができる。また、これらの光源を試料に絞り込む際は、混和液中の微小な粒子(コアギュロゲンモノマー、ならびに、コアギュロゲンオリゴマーなどの測定対象)からの散乱光が充分な強度を有する必要がある。従って、試料セル4に入射する光のビーム幅は3mm以下が好まし
く、1mm以下がさらに好ましい。入射光の波長が250nmから1200nmの範囲である一般的な光源であれば、入射光の出力密度としては50mW/mm2以上あれば充分な強度の散乱光が得られる。
【0066】
次に、散乱光を受光する受光素子6としてはノイズが低く、且つ、微弱な散乱光を検出できる必要がある。従って、受光素子6としてはホトダイオード、ホトトランジスタ及び、これらを多数組み込んだアレイ、ならびに、ホトマルチプライアなどが挙げられる。
【0067】
また、上記の他に、CCD(電荷結合素子)やC−MOS(相補型金属酸化膜半導体素子)によるラインセンサ、エリアセンサなどを使用してもよい。これらの受光素子6で取得された散乱光の強度はマイクロメータレベルの微粒子から得られる散乱光の強度に比べて極めて微弱であるため、通常、抵抗器やオペアンプなどによる増幅回路7を少なくとも1段以上組み込んで増幅する必要がある。
【0068】
次に、試料や試薬に夾雑する微粒子の影響を除去するためのフィルタ8としては、1)近接する時間(所定期間中)の何点かの散乱光強度をサンプリングして比較し、そのうちの最小値を出力する最小値フィルタまたは、ヒストグラムの最頻値を出力する最頻値フィルタ、2)夾雑物の散乱光は対象物質の散乱光の発生に比べてまれに発生するため、これを電子回路的に除去する周波数フィルタ、3)経時的な電位変化を取得して夾雑物をディジタルに除去するディジタルフィルタなどが挙げられる。これらのフィルタのうち少なくとも1つ以上を使用することによって夾雑物の影響を排除し、目的物質の微弱な散乱光を得ることができる。
【0069】
また、これらフィルタ8を通過した後の測定対象からの微弱な散乱光は前項の増幅装置6により、測定開始時点において既に大きな値を持っている場合がある。そのため、それをベースラインとして除去し、さらにそれを適宜増幅するなどして解析に使用してもよい。
【0070】
次に、測定対象から得られた微弱な散乱光の強度から演算装置9において所定生理活性物質の濃度を算出する手段としては、既知濃度の所定生理活性物質の希釈系列を作成し、各試料について1)横軸に時間、縦軸に散乱光強度をプロットしたときのその傾きとして得られる、散乱光強度の増加率(微分法)、2)各時刻の散乱光強度から初期の散乱光強度を差し引き、その差分が予め決められた閾値を越えた時刻(閾値法)を求め、所定生理活性物質の濃度とこれらの値の関係式(検量線)を算出し、所定生理活性物質の濃度が未知の試料で得られた値を微分法で得られた検量線と閾値法で得られた検量線のいずれか、あるいは、両方を用に当てはめることにより所定生理活性物質の濃度を測定することができる。
【0071】
また、効率よくコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物などを生成するために試料を攪拌することが望ましいので、本実施の形態においては、試料セル4には、外部から電磁力を及ぼすことで回転し、試料としての混和液を攪拌するマグネチックスターラーバー(攪拌子)11が備えられており、試料セル4の外部の測定系1には、マグネチックスターラー12が備えられている。これらにより、攪拌の有無及び攪拌速度の調整が可能となっている。
【0072】
ここで、攪拌速度が小さすぎると試料全体の攪拌が行えない。一方、速度が大きすぎると、試料中に気泡が混入し易くなったり、コアギュリンモノマーが凝集していく過程を阻害したりして測定に悪影響をもたらす場合がある。そのため、攪拌速度は100rpmから5,000rpmが好ましく、さらに、300rpm以上3,000rpm以下の範囲が好ましい。2,000rpm以上では凝集の抑制が観察される場合があり、また、50
0rmp以下では、試料の攪拌が充分でなく試料下方のみコアギュリンの凝集が観察される場合がある。また、この攪拌により測定対象としているコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物よりも大きい微粒子(これらは、気泡あるいは、試薬中にもともと含まれている夾雑物などである)などが光源のビーム上に留まらないようにする効果があるため、データのばらつきや見かけの散乱光の増加の影響を受け難くすることができる。
【0073】
<製造例1>
ガラス製の容器(外径φ7mm、長さ50mm。以下、キュベットと略)にステンレス製の攪拌子(φ1mm、長さ5mm)を入れ、キュベット開口部にアルミホイルをして、それを何本かまとめてアルミ箔でさらに覆い、250℃、3時間加熱処理し、ガラス容器を滅菌処理した(乾熱滅菌)。これにより、容器に付着するエンドトキシンは熱分解を受け不活性化される。
【0074】
<実施例1>
半導体レーザー(出力10mW、波長655nm)に適宜レンズを組み合わせて、レーザー光を絞り込んで照射できる照明光学系(試料への入射口の直径は0.2mm)を作成した。この場合の入射光の出力密度は、約80mW/mm2である。0.01EU/mLのエンドトキシンを含有する試料をLAL(リムルスES−II シングルテストワコー:和光純薬製)と混合し、続いて製造例1にて製造したキュベット内部に入れた。これを図1に示したようなマグネチックスターラー12により試料中のステンレス製攪拌子11を回転せしめ、混和液を攪拌可能なホルダ部にセットした。この例ではキュベットが試料セル4として用いられている。
【0075】
試料の攪拌は1,000rpmにて行った。なお、このホルダ部はLALのゲル化反応を進めるために37℃に保温してある。上記の光源2からの入射光をLAL試薬とエンドトキシンが入っている試料に照射し、光源の光軸と90度の方向に設置した受光素子6により試料中に生成されるコアギュリンモノマー、ならびに、微小なコアギュリン凝集物から発生する側方散乱光を受光した。側方散乱の受光素子6としてはホトダイオードを用いた。
【0076】
受光した散乱光成分にはコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物から発生する微弱な散乱光のほかに、試料中の微粒子(試薬の溶け残り、試薬にもともと入っている微粒子、微小な気泡など)から発生する強力な散乱光を含んでいる。そのため、フィルタ8としての最小値フィルタを利用してこれらの夾雑物の散乱光を除去して、散乱光の時系列変化を取った。最小値フィルタは受光素子6で受光した光電位を増幅回路7で適宜増幅した後にアナログディジタル変換(10ビット)し、これを20ミリ秒ごとに25回行い、得られた25データのうち、最小の値を得るという方式を利用した。ここで20ミリ秒は本実施例における所定期間に相当する。
【0077】
<実施例2>
半導体レーザー(出力10mW、波長655nm)に適宜レンズを組み合わせ、レーザー光をレーザーポインタ状に平行光にして照射できる光学系(試料への入射口の直径は3.0mm)を作成した。実施例1とはこの光源光学系の条件のみが異なり、他の条件は同一で処理を行い、散乱光の時系列変化を取った。なお、この場合の入射光の出力密度は、約0.35mW/mm2である。
【0078】
実施例1及び実施例2の結果を図2に示した。図2において横軸は時間(分)、縦軸はホトダイオードの出力から得られた散乱光強度である。実施例1では、図中の楕円で囲んだAの部分ように、反応の初期から散乱光が増加していく相が存在し、その後、屈曲点を経
てより傾きの大きいBの相へと続いていく。それに対して、実施例2では、Aの相はほとんど観察されず、遅れて発生するBの相が主となって観察される。実施例1、2ともに、作用させているエンドトキシンの濃度など、光源2以外の測定条件は同一であるため、実施例2では、微小な粒子から充分な散乱光を取得することができないために試料中に進行している変化を検出することができないと考えられる。なお実施例1の曲線における屈曲点は本実施例において所定の急変化を起こす点に相当する。
【0079】
このように、検出対象であるコアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集体の散乱光を取得するには、高出力のレーザーのような光源2を充分に試料に絞り込んで照射し、充分な出力密度を確保する必要がある。
【0080】
<実施例3>
実施例1と同条件で、ただし、試料の攪拌を行わずに散乱光の時系列変化を取った。その結果、攪拌を行わない場合であっても、コアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物が時間とともに増加していく様子を得ることができた。しかしながら、取得されるデータはばらつきが大きく、また、光源2のビーム上に目的の微小粒子よりも大きな粒子が存在した場合、同じ位置に長い時間留まってしまうため、データに対し最小値フィルタ処理などを行ったとしても見かけの散乱光が非常に高く出てしまう場合があった。そのような場合は、微弱な散乱光が増加していく現象を正しく評価することができなかった。これに対し試料を攪拌した場合には、これらの大型粒子は速やかにビーム上に留まることなく、速やかに外れるために正しい評価が可能となった。
【0081】
<実施例4>
実施例1で使用した光源2及び入射光学系3を用い、実施例1とは散乱光のフィルタ処理の方式が平均値フィルタを使用しているほかは同一の条件で処理を行い、散乱光の時系列変化を取った。平均値フィルタには、受光素子6で受光した光電位を増幅回路7で適宜増幅した後にアナログディジタル変換(10ビット)し、これを20ミリ秒ごとに25回行い、得られた25データの平均値を出力するという方法を用いた。
【0082】
その結果、得られたデータは目的の微粒子よりも大きな粒子の散乱光の影響を大きく受けてしまい、微弱な散乱光が増加していく現象を正しく評価することができなかった。コアギュリンモノマー及び、微小なコアギュリン凝集物などの目的の微粒子よりも大きな粒子としては、混和液中に混入してしまった微小な気泡や試薬の溶け残り、さらには、試薬の製造工程で除去されない細胞断片などが挙げられる。これらの粒子の出現は混和液ごとに異なってしまうため、平均値法を用いる限り適切に除去することができないと考えられる。
【0083】
次に、一般的なフィルタ性能を試すため、測定対象物の模擬的な試料、すなはち、中性脂肪(0.0002%イントラリピッド)とポリスチレンラテックス粒子(φ1μm、重量百分率0.0025%)の混合物を用い、以下のフィルタ8の性能を調べた。フィルタ8はそれぞれ、受光素子6で受光した光電位を増幅回路7で適宜増幅した後にアナログディジタル変換(10ビット)し、これを20ミリ秒ごとに25回行い、得られた25データから、1)値の大きい順に並べ替えして13番目の値を出力する中央値フィルタ、2)平均値を出力する平均値フィルタ、3)最小値を出力する最小値フィルタ、4)最大値を出力する最大値フィルタである。6秒ごとにこれらのフィルタを通して値を出力し、5分間の計50データから、それぞれのフィルタ処理により得られる数値の平均値(数値は増幅回路7で増幅した後の電圧値)、ならびに、標準偏差を求めたところ、表1のような結果になった。
【0084】

【表1】

【0085】
この結果はあくまでも模擬試料の結果であるが、最小値フィルタが目的物質の微小な散乱光を求めるには最も適していることが以下の理由から明らかである。1)平均値が他のフィルタに比べて低いが、これは、強度が小さい目的物質の散乱光を主として出力しているためである。2)標準偏差が他のフィルタよりも小さいが、これは、夾雑する大き目の微粒子の散乱光の影響を受けにくいことを示している。一方、最大値フィルタは目的物質の散乱光ではなく、夾雑する微粒子の信号を主に出力しているため平均値が大きく、標準偏差も大きい。また、平均値フィルタは目的物質の微弱散乱光と夾雑する微粒子の散乱光の両方の平均値を出力してしまうため、最小値フィルタと最大値フィルタの中間的な値を示す。また、中央値フィルタも平均値フィルタと同等の結果であり、性能的に優れているとは言えない。
【0086】
なお、データのサンプリング数が少ない場合には、上述の最小値フィルタを用いることが有効と考えられるが、連続してサンプリングする場合はデータ数が多いため、ヒストグラムを作成することができる。そのような場合には、ヒストグラムの最も頻度が大きい(ピークの存在箇所)値を出力する最頻値フィルタを用いることによっても、夾雑する大き目の微粒子の散乱光の影響を排除することが可能である。
【0087】
また、最小値フィルタの変形例として、サンプリングしたデータのうち小さい方の特定の順番の値やその平均値を出力することも考えられる。例えば、25個のデータを取得してソーティングを行い下位6のデータのうち、最下位は使用せず、残り5データの平均値を出力するフィルタなども有効に働く。
【0088】
<実施例5>
実施例1に示した方法で、エンドトキシン濃度を種々に変化させた希釈系列を作成し、エンドトキシン濃度とコアギュリンモノマー、ならびに、微小なコアギュリン凝集物による散乱光の初期の増加率の関係を調べた。その結果、エンドトキシン濃度が低いほど増加率が小さく、濃度が高いほど増加率が大きいことが分かった。エンドトキシン濃度と初期散乱光の増加率の関係を両対数でプロットすると図3のように直線関係が得られた。横軸はエンドトキシン濃度(EU/mL)、縦軸は初期微小散乱光増加率(初期の散乱光の増加曲線の傾き)を示している。
【0089】
<実施例6>
実施例1に示した方法で、散乱光の受光素子6をホトダイオードから、CCDエリアセンサに置き換えた装置を作り、実施例5と同様にエンドトキシン濃度と散乱光の初期増加率の関係を調べた。図4(b)にはその結果を示す。図4(b)において横軸はエンドトキシン濃度(EU/mL)、縦軸は初期微小散乱光増加率(初期の散乱光の増加曲線の傾き)を示している。
図4(a)においては同時に、散乱光の強度の時間変化についても掲載した。図4(a)において横軸は時間(分)、縦軸はCCDエリアセンサの出力より得られた散乱光強度である。CCDエリアセンサを用いても、図2中のAの相と同様に初期散乱光が直線的に増加した後、屈曲点を経てさらに大きな増加率の相(図2中の楕円Bの相)で変化していく様子が分かる。
【0090】
<実施例7>
実施例1に示した方法と同等の方法で、エンドトキシンの代わりにβ-D-グルカンを用いて検討を行った。LAL試薬としてはβ−グルカン テストワコー(和光純薬製)を用いた。β-D-グルカン濃度を種々にした希釈系列を作成し、β-D-グルカン濃度とコアギュリンモノマー、ならびに、微小なコアギュリン凝集物による散乱光の初期の増加率の関係を調べた。その結果、β-D-グルカン濃度が低いほど増加率が小さく、濃度が高いほど増加率が大きいことが分かった。β-D-グルカン濃度と初期散乱光の増加率の関係を両対数でプロットすると図5のように直線関係が得られた。図5において横軸はβ-D-グルカン濃度(pg/mL)、縦軸は初期微小散乱光増加率(初期の散乱光の増加曲線の傾き)を示している。
【0091】
ここで、図1に示したような所定生理活性物質の測定系1を一体とした測定装置を構成してもよい。そのようにした場合、所定生理活性物質の試料とLALの混和液を試料セル4に導入し、測定開始指示をするだけで、上記したような測定を自動的に行うことも可能となる。また、演算装置9においては、図3、図4、図5で得られた検量線と、混和液からの散乱光から得られる増加率とから、所定生理活性物質の濃度を演算し、表示器10によって結果を自動的に表示するようにしてもよい。
【0092】
その場合、試料セル4は混和液保持手段に、光源2及び入射光学系3は光入射手段に、出射光学系5及び受光素子6は受光手段に、演算装置9は導出手段に相当する。また、攪拌子11とマグネチックスターラー12は攪拌装置に相当する。
【0093】
なお、本発明に係る上記実施例に関して、1)比濁法において用いられる一般的なリムルス試薬をそのまま用いることができる。2)測定系(測定装置)の構成を単純にすることができ、多チャンネル化(8〜16ch)も比較的容易である。4)特殊な試薬を用いる比色法と同程度の時間で測定完了が可能。などのメリットを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施例における所定生理活性物質の測定系の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1及び実施例2において取得された混和液からの散乱光強度の時間的変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例5における、エンドトキシン濃度と初期散乱光の強度の増加率との関係を両対数でプロットしたグラフである。
【図4】本発明の実施例6における、散乱光の強度の時間変化及び、エンドトキシン濃度と初期散乱光の強度の増加率との関係についてのグラフである。
【図5】本発明の実施例7における、β−D−グルカン濃度と初期散乱光の強度の増加率との関係を両対数でプロットしたグラフである。
【図6】エンドトキシンまたはβ―D−グルカンにより、LALがゲル化する過程及び、その検出方法について説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0095】
1・・・測定系
2・・・光源
3・・・入射光学系
4・・・試料セル
5・・・出射光学系
6・・・受光素子
7・・・増幅回路
8・・・ノイズ除去フィルタ
9・・・演算装置
10・・・表示器
11・・・攪拌子
12・・・マグネチックスターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とLALとの混和後において、前記試料とLALとの混和液中に光を入射するとともに該入射光の前記混和液による散乱光の強度を取得し、
前記散乱光の強度の増加率より前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項2】
前記散乱光の強度の増加率が所定の急変化を起こす前における前記増加率より前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項3】
前記混和液に入射する光の出力密度は50mW/mm2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項4】
前記混和液に入射する光の波長は300nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項5】
前記散乱光の強度の増加率を取得する際には、所定期間に取得された散乱光の強度を複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値または、ヒストグラムの最頻値を前記期間における散乱光の強度とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項6】
前記散乱光の強度を取得する際には、前記混和液を攪拌することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項7】
前記混和液の攪拌速度は、300rpm以上3000rpm以下であることを特徴とする請求項6に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項8】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項9】
試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記試料とLALとの混和液を光の入射可能に保持し、前記生理活性物質とLALとの反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における散乱光を受光し電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から取得される前記散乱光の強度の増加率より前記試料中の前記生理活性物質の濃度を導出する導出手段と、
を備えることを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項10】
前記導出手段は、前記混和液保持手段における前記試料とLALとの混和後であって前記反応の開始後であって前記増加率が所定の急変化を起こす前における前記増加率より前記試料中の前記生理活性物質の濃度を導出することを特徴とする請求項9に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項11】
前記光入射手段により前記混和液に入射される光の出力密度は50mW/mm2以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項12】
前記光入射手段により前記混和液に入射される光の波長は300nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項13】
前記受光手段において変換された電気信号を、所定期間に複数個サンプリングして比較し、そのうちの最小値を出力する最小値フィルタまたは、ヒストグラムの最頻値を出力する最頻値フィルタをさらに備えることを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項14】
前記混和液保持手段は、前記混和液を攪拌する攪拌手段を有することを特徴とする請求項9から13のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項15】
前記攪拌手段による前記混和液の攪拌速度は、300rpm以上3000rpm以下であることを特徴とする請求項14に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項16】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−32436(P2010−32436A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196809(P2008−196809)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】