生理活性多糖類およびその利用
【課題】 キノコに含まれる新たな多糖類を探索し、このものが有する生理活性を見出してこれを医薬品あるいは健康食品等として利用すること。
【解決手段】 構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類。
【解決手段】 構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規生理活性多糖類に関し、更に詳細には、ハツタケ(Lactariu hatsudake Tanaka またはアカハツ(Lactarius akahatsu Tanaka)から得られる新規生理活性多糖類およびこれを利用する医薬品あるいは健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
キノコに含まれる多糖類には様々な生理活性能を持つことが明らかにされており、抗腫瘍活性や、免疫賦活活性、生活習慣病の予防、改善、生体調節機能などが知られている(非特許文献1ないし5)。
【0003】
また、キノコから得られる糖には糖タンパクとして、あるいは何らかの形で糖にタンパク質が付随するものがあり、上記と同様に優れた生理活性能が報告されている(非特許文献6および7)。
【0004】
しかしながら、キノコに含まれる多糖類は、その起源となるキノコにより組成が異なるものであることが予想され、当然これらの生理活性も異なると考えられている。
【0005】
そこで、種々のキノコについて、これが含有する多糖類を見出し、その有する生理活性を明らかにすることが強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「キノコの生理活性と機能」、第689頁等、(2005)、 シーエムシー出版発行
【非特許文献2】「きのこ健康読本」、第96〜102頁、(2002)、 東洋医学舎発行
【非特許文献3】「キノコ博物館」、第11〜56頁、(2003)、 八坂書房出版発行
【非特許文献4】“CancerLetters”,p.1-10,(2006)
【非特許文献5】“Immunopharmacology”,Vol.35,p.255-263,(1997)
【非特許文献6】“GeneralPharmacology”,Vol.27,p.621-624(1996)
【非特許文献7】“Biomedicine& Pharmacotherapy”,Vol.58,p.226-230(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、キノコに含まれる新たな多糖類を探索し、このものが有する生理活性を見出してこれを医薬あるいは健康食品等として利用することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々のキノコについて、これに含まれる多糖類を分離し、その生理活性を調べていたところ、ハツタケおよびアカハツの熱水抽出物中等に含まれる多糖類は、新規な糖組成を有し、しかも白血病細胞障害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0010】
また本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0011】
また本発明は、ハツタケ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ水もしくはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする上記生理活性多糖類の製造方法を提供するものである。
【0012】
さらに本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0013】
また本発明は、アカハツ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ水もしくはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする上記生理活性多糖類の製造方法を提供するものである。
【0014】
さらに、上記6−ディオキシ−D−アルトロースを製造する製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長く食用に供されたハツタケまたはアカハツから、生理活性多糖類を得ることができ、このものは、医薬品あるいは健康補助食品として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明ハツタケ精製多糖類のIRスペクトルを示す図面である。
【図2】本発明ハツタケ精製多糖類の13C−NMRスペクトルを示す図面である。
【図3】本発明ハツタケ精製多糖類の1H−NMRスペクトルを示す図面である。
【図4】本発明ハツタケ精製多糖類のGC/MSスペクトルを示す図面である。
【図5】本発明ハツタケ精製多糖類濃度と、U937細胞の生存率の関係を示す図面である。
【図6】本発明ハツタケ精製多糖類濃度と、培養上澄中に含まれているNO量の関係を示す図面である。
【図7】6−ディオキシ−D−アルトロースの13C−NMRスペクトルを示す図面である。
【図8】6−ディオキシ−D−アルトロースの1H−NMRスペクトルを示す図面である。
【図9】本発明アカハツ精製多糖類のペーパークロマトグラフィーによるクロマトグラムを示す図面である。
【図10】本発明アカハツ精製多糖類濃度と、U937細胞の生存率の関係を示す図面である。
【図11】本発明アカハツ精製多糖類濃度と、培養上澄中に含まれているNO量の関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の生理活性多糖類は、ハツタケを原料として製造することができるものである。原料であるハツタケ(Lactariu hatsudake TanakaまたはLactarius lividatus Tanaka)は、日本、韓国、中国等に分布する担子菌の一種であり、日本では夏から秋にかけてアカマツ、クロマツなどの林内地上に群生または単生し、広く食用にされてきたキノコである。
【0018】
このハツタケから本発明の生理活性多糖類を得るには、ハツタケ(子実体や菌糸体)を、熱水、アルカリ溶液またはシュウ酸アンモニウム溶液により抽出し、この抽出物を精製すればよい。
【0019】
より具体的には、熱水を用いる場合は、採取したハツタケを必要により乾燥した後、細断ないしは破砕し、更に必要によりこれを脱脂した後、100ないし80℃程度の熱水により、3ないし5時間程度抽出操作を行えばよい。
【0020】
抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対する熱水の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0021】
また、アルカリ溶液を用いる場合は、上記と同様に調製したハツタケ原料を、4%ないし24%程度のアルカリ溶液中、室温で、10ないし15時間程度抽出すればよい。
【0022】
このアルカリ溶液の調製に使用されるアルカリ物質としては、NaOH、KOH等を挙げることができ、抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対するアルカリ溶液の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0023】
更に、シュウ酸アンモニウム溶液を用いる場合は、上記と同様に調製したハツタケ原料を、0.5%ないし1.0%程度のシュウ酸アンモニウム溶液中、70ないし80℃の温度で、3ないし5時間程度抽出すればよい。
【0024】
抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対するシュウ酸アンモニウム溶液の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0025】
このようにして得られたハツタケからの各抽出物は、そのまま生理活性多糖類として利用することもできるが、更にこれを公知の精製手段を用いて精製し、精製生理活性多糖類として用いることが好ましい。
【0026】
また、本発明の生理活性多糖類は、アカハツ(Lactarius akahatsu Tanaka、Lactarius hatsudake Tanaka var.akahatsu Kawam、Lactarius deliciosus (L.) S.F. Gray、または f. virescens Imai)を原料として製造することもできる。アカハツもハツタケと同様に日本では夏から秋にかけてアカマツ、クロマツなどの林内地上に群生または単生し、広く食用にされてきたキノコである。アカハツから本発明の生理活性多糖類を製造するための条件等は、上記ハツタケの場合と同様である。
【0027】
かくして得られる本発明の生理活性多糖類は、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等による分析から、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものである。
【0028】
ハツタケから得られる生理活性多糖類は、構成糖モル比としてグルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、好ましくは、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有するものであり、より好ましくはグルコースを1.8〜2.7、ガラクトースを0.8〜1.2、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.3で含有するものである。
【0029】
またアカハツから得られる生理活性多糖類は、構成糖モル比としてグルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、好ましくはグルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、より好ましくは、グルコースを1.0〜2.0、ガラクトースを0.8〜1.2、グルクロン酸を0.2〜0.8、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.5〜1.3、マンノースを0.06〜0.3で含有するものである。
【0030】
なお、上記生理活性多糖類のうち6−ディオキシ−D−アルトロースは、自然界では未だに発見されていない新規の糖である。
【0031】
以上説明した本発明の生理活性多糖類は、医薬品あるいは健康補助食品として利用可能である。
【0032】
本発明の生理活性多糖類を医薬品あるいは健康補助食品として利用する場合は、これを、種々の担体、賦形剤、矯味剤、香料等の薬学的に許容される任意成分と組み合わせ、粉剤、錠剤、カプセル剤、液剤、ドリンク剤等の形態とすればよい。
【0033】
この際の摂取量としては特に制約はないが、精製生理活性多糖類として、大人一人一日当たり50ないし100mg程度の量であり、これを1回または数回に分けて摂取すれば良い。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0035】
実 施 例 1
ハツタケ多糖の取得(1):
原料ハツタケ(Lactarius lividatus)は、沖縄県国頭郡国頭村与那の琉球大学農学部付属亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールドで収穫した子実体を使用した。この収穫したハツタケ子実体1021.7gを通風乾燥させることにより、乾燥ハツタケ132.1g(12.9%)が得られた。この乾燥ハツタケをミキサーで粉砕した後、エタノールを加え、6時間攪拌して脱色を行い、上澄みを取り除いた後に、さらにアセトンを加えて6時間攪拌して、脱脂したものを実験に供した。
【0036】
この乾燥粉末10gに蒸留水300mlを加え、90℃の沸騰湯浴中で3時間攪拌後、吸引濾過を行った。濾液を10,000rpmで30分間遠心分離し、上澄みを濃縮、透析後、4倍容量のエタノールを加えて沈殿させた。沈殿を再度蒸留水に溶解させ、凍結乾燥を行って粗多糖を得た。
【0037】
得られた粗多糖を、蒸留水に溶解させ、60℃の湯浴中、3%酢酸亜鉛水溶液を加えてタンパク質を沈殿させた。10,000rpm、30分間の遠心分離により、上清のみを回収した。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Amberlite IR-120)に通した後、室温で24時間透析し、凍結乾燥を行なって精製多糖を得た。
【0038】
上記工程での、脱脂、脱色した乾燥ハツタケ子実体10gから熱水300mlにて抽出した粗多糖の収量は214.2mg(対乾燥子実体2.14%)で、これを精製した精製多糖の収量は100.3mg(対乾燥子実体1.03%)であった。
【0039】
実 施 例 2
ハツタケ多糖の化学組成分析:
実施例1で得た粗多糖および精製多糖について、下記方法で全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量を測定した。この結果も表1に示す。
【0040】
(1)全糖量
全糖量はフェノール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/ml濃度に調製して供試した。試料0.5mlを試験管にとり、5%フェノール溶液0.5mlを加え、これに濃硫酸2.5mlを速やかに液面に直接滴下するように加え、よく攪拌し、室温に10分間放置した。液温が室温(20〜30℃)まで下がったのを確認した後、490nmの波長で吸光度を測定することにより、全糖量を求めた。
【0041】
(2)ウロン酸含量
ウロン酸含量はカルバゾール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/mlに調製して供試した。あらかじめ氷冷しておいたホウ酸ナトリウム溶液2.5mlに、調製した試料0.5mlを静かに加え重層し、室温以上にならないように静かによく攪拌した。試験管の口にガラス玉を置き、沸騰湯浴中で10分間加熱し、水冷して室温に戻した。次にカルバゾールエタノール溶液0.1mlを加えてよく攪拌し、更に沸騰湯浴中で15分間加熱して発色させた。水冷して室温にまで戻した後、530nmの波長で吸光度を測定することにより、ウロン酸含量を求めた。
【0042】
(3)タンパク質含量
タンパク質含量は、DC−プロテインアッセイキット(BIO−RAD)を用い、Lowry法を改変した方法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ1mg/ml溶液に調製した。この溶液200μlに、ワーキング・リージェント(working regent)100μlを加えた後、リージェントB(Regent B)800μlを加えてよく攪拌し、室温で15分間静置して750nmの波長で吸光度を測定することにより、蛋白質含量を求めた。
【0043】
【表1】
【0044】
この結果から明らかなように、全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量はそれぞれ、粗多糖で61.7%、9.3%、21.3%、精製多糖では74.2%、12.5%および0.5%であった。
【0045】
実 施 例 3
ハツタケ多糖の構成糖分析:
ハツタケの精製多糖について、その構成糖を、下記の(1)高速液体クロマトグラフィー
、(2)ペーパークロマトグラフィーおよび(3)ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0046】
(1)高速液体クロマトグラフィー
試料50mgを蒸留水20mlに溶解させ、濃硫酸を加えて1.0N硫酸になるように調製して、沸騰湯浴中で100℃、2時間加熱して加水分解を行った。加水分解液は炭酸バリウム(BaCO3)で中和し、沈殿物を除去して高速液体クロマトグラフィー(日本ダイオネクス株式会社、DX−500)を用いて構成糖を同定し、その面積比より構成糖比を算出した。
【0047】
精製多糖の加水分分解物の高速液体クロマトグラムの結果から、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース=2.07:1.00:0.12と算出された(表2)。
【0048】
(2)ペーパークロマトグラフィー
上記(1)での加水分解物を、アドバンテック トーヨー(ADVANTEC TOYO)No50の濾紙を使用して、ペーパークロマトグラフィーを行った。展開溶媒にはブタノール:エタノール:水=4:1:5を使用した。発色剤はアニリン−フタル酸を使用し、上昇法で展開を行った。
【0049】
この結果、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースのRf値と一致するスポットが認められた。またフコース、ラムノースよりも高いRf値にメチル化糖である6−ディオキシ−D−アルトロースと思われるスポットが認められた。
【0050】
(3)ガスクロマトグラフィー
ハツタケ精製多糖5mgを試料として蒸留水2mlに溶解させ、これにトリフルオロ酢酸(TFA)を加え、多糖溶液の終濃度が2Mになるように試料溶液を調製した。この試料溶液を、乾熱器にて100℃で、2時間加熱して加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で濃縮乾固して加水分解物を得た。
【0051】
加水分解物を、1N−NaBH4溶液に溶解し、室温で1時間反応させ、酢酸を1滴加えて攪拌した後、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させアルジトールを得た。続いて酢酸エタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)2mlを加え、40℃で濃縮乾固させる作業を3回繰り返した。続いて100%メタノールを2ml加え、40℃で濃縮乾固させる作業を4回繰り返した。最後に、無水酢酸溶液(無水酢酸:ピリジン=1:1)0.5mlを加え、121℃で、20分反応させることによりアセチル化した。
【0052】
このアセチル化物5mgにトルエン1mlを加え、40℃で濃縮乾固し、クロロホルム溶液(クロロホルム:蒸留水=1:1)を2ml加えた。溶解した後、クロロホルム層のみを回収し、40℃で乾固させてアルジトールアセテートを得た。得られたアルジトールアセテート5mgをアセトン0.5mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(SHIMAZU、GC−17A)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0053】
精製多糖のガスクロマトグラムの結果から、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースおよび6−ディオキシ−D−アルトロースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース=1.80:1.00:0.07:0.3と算出された(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
実 施 例 4
ハツタケ精製多糖の分子量測定:
試料を高速液体クロマトグラム(RID−6A;SHIMADZU)に付し、分子量を測定した。標準曲線は、ショーデックス スタンダード(Shodex STANDARD)P−82(プルラン:P−400、P−100、P−20、P−5:昭和電工株式会社)を用いて作成した。また、分析条件は以下の通りである。
【0056】
分析カラム: TSKgelG4000PWXL
緩 衝 液: 0.05M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)+0.15M
食塩
流 速 : 0.3ml/min
【0057】
この結果、ハツタケ精製多糖の分子量は、約240,000と算出された。
【0058】
実 施 例 5
ハツタケ精製多糖の赤外吸収スペクトル測定:
ハツタケ精製多糖の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計バイオ−ラッド メリーン(Bio-Rad Merlin)を用い、KBr法で測定した。この結果を図1に示した。OHおよびCH基に由来する吸収が3400および2900cm−1に認められた。また、ウロン酸に由来する吸収が1620cm−1に認められた。
【0059】
実 施 例 6
ハツタケ精製多糖の旋光度測定:
ハツタケ精製多糖の旋光度は、試料を蒸留水に溶解させて0.2(w/v)%溶液を作成し、自動旋光度計DIP−180(日本分光)を用い、589nmで測定した。旋光度の測定は60℃から徐々に温度を低下させながら行った。この結果を表3に示すが、旋光度は60℃で−0.055°を有しており、温度の低下に伴って徐々に減少し、10℃では−0.035°を有していた。
【0060】
【表3】
【0061】
実 施 例 7
ハツタケ精製多糖のNMR分析:
ハツタケ精製多糖の13Cおよび1H−NMRスペクトルは、FT−NMRスペクトロメーター(JNM―α500、JEOL)を用いてそれぞれ125MHz、500MHzで測定した。ハツタケ精製多糖を試料として重水に溶解させ、1.0%溶液を作成し、60℃で測定した。内部標準としては、3−(トリメチルシリル)プロピオニック−2,2,3,3,−d4アシッド ソルト(TSP、0.00ppm)を用い、結果は化学シフト(ppm)で表示した。
【0062】
(1)13C−NMRスペクトル
精製多糖の13C−NMRスペクトルを図2に示した。20.322ppmのシグナルは、ディオキシ−アルトロースのメチル基に由来するものである。63.486〜79.905ppmは環状炭素によるものであるが、重複が激しいために詳しい解析は困難であった。100.808〜102.931ppmの範囲に確認されたシグナルはアノメリック炭素によるものと思われるが、重複が激しいため、どの構成糖に起因するものか判断ができる情報は得られなかった。また、187.992ppmのピークはウロン酸由来のシグナルであることが分かった。
【0063】
(2)1H−NMRスペクトル
精製多糖の1H−NMRスペクトルを図3に示した。メチル基のプロトンによるシグナルが1.328ppmで観測された。また、5.377ppm、5.115ppm、5.019ppmの3つのシグナルが観測された。これらはアノメリックプロトンのピークである。13C−NMRの結果に加えて、ここでも重複するシグナルが多いため、構造解析の手段として決定的な情報を得られず解析は困難であった。
【0064】
実 施 例 8
ハツタケ精製多糖のメチル化分析:
箱守法を改変した方法を用いて、精製多糖のメチル化を行った。すなわち、窒素ガス雰囲気下、ハツタケ精製多糖2mgに、ジメチルスルホキシド500μlを加え、3時間攪拌して溶解させた。次いで、窒素ガス充填バッグ内で、粉末水酸化ナトリウム25mgを加え、2時間攪拌した後、氷冷しながらヨウ化メチル250μlを加えて更に1時間攪拌して反応させた。さらに蒸留水500μlを加え、白濁した溶液が透明になるまで窒素ガスによるバブリングを行った。
【0065】
固層抽出カートリッジ(Sep−Pak plusC18 cartrides;ウォータ社製)をメタノール5mlで4回、アセトニトリル2mlで2回、蒸留水5mlで2回洗浄し、糖液を注入してメチル化糖をカートリッジ内に吸着させた。その後、蒸留水4mlを2回注入した後、アセトニトリル溶液(アセトニトリル:水=1:4)で非吸着画分を排除した後、100%アセトニトリル1mlを2回通してメチル化糖を溶出させ、窒素ガスで濃縮乾固してメチル化糖を得た。得られたメチル化糖を2M−トリフルオロ酢酸溶液(TFA)を用い、121℃で、1時間で加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させて加水分解物を得た。これにメタノール溶液(メタノール:水=1:1)220μl、NaBD4溶液200μlを加え、室温で1時間反応させ、酢酸50μlを加えてよく攪拌した。
【0066】
更に、酢酸メタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)200μlを加えて攪拌、窒素ガス雰囲気下で乾固する作業を2回、100%エタノール200μlを加えて窒素乾固する作業を4回繰り返した。続いて無水酢酸50μlを加え乾熱機で121℃、3時間反応させた後、蒸留水500μlを加え、炭酸ナトリウムで中和し、クロロホルム500μlを加え、攪拌、遠心分離し、下層のクロロホルム層のみを回収した。
【0067】
得られたクロロホルム層を窒素ガスで乾固させ、これを完全メチル化アルジトールアセテートとし、アセトン500μlに溶解させてGC/MS(SHIMADZU、QP2010、GC2010)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0068】
メチル化分析によるGC/MSスペクトルの結果を図4に示した。メチル化分析により得られたGC/MSのマススペクトルの解析から、2,3,4−トリ−O−メチル−D−グルクロン酸、2,3,4−トリ−O−メチル−D−6−ディオキシ−D−アルトロース、2,3,6−トリ−O−メチル−D−グルコース、2,4−ジ−O−メチル−D−ガラクトース、2,3−ジ−O−メチル−D−ガラクトースの5つの主要なマススペクトルが得られ、それぞれ1:1:3:1:1で構成される糖鎖構造を有することが分かった。
【0069】
実 施 例 9
アルカリ溶液を用いたハツタケ多糖の取得(2):
4%KOHに実施例1で得たハツタケ乾燥粉末10gを分散させ室温で12時間攪拌した溶液を濾過し、得られた濾過液を0.1M HClで中和し濃縮した後、透析し2倍量のエタノールで沈殿させて多糖を得た。このようにして得た多糖を常法により加水分解し構成多糖を分析した結果、その構成糖比は、D−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース:D−グルクロン酸=2.7:1.0:0.05:0.7:0.2であった。
【0070】
実 施 例 10
ハツタケ多糖の取得(3):
0.5%ショウ酸アンモニウムに実施例1で得たハツタケ乾燥粉末10gを分散させ80℃で3時間攪拌した溶液を濾過した後、得られた濾過液に2倍量のエタノールで沈殿させて多糖を得た。このようにして得た多糖を常法により加水分解し構成多糖を分析した結果、その構成糖比は、D−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース:D−グルクロン酸=2.3:1.0:0.08:0.8:0.3であった。
【0071】
実 施 例 11
細胞障害活性試験:
実施例2で得たハツタケ精製多糖の細胞障害活性を、ヒト骨髄性白血病細胞株(U−937;ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)を用いて調べた。
【0072】
まず、上記細胞を、10%非動化済み牛胎児血清(fetal bovine serum;FBS)、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したRPMI1640培地(またはRPMI1640−MEM混合培地)にそれぞれ分散させ、37℃、5%CO2−空気気相下で培養した。継代は5日毎に細胞がコンフルエントになる前に行った。
【0073】
細胞障害活性は、セル・カウンティングキット−8を用いた細胞数測定法で行った。すなわち、96ウェルマイクロプレートに、1.0×105細胞/mlになるように上記白血病細胞を播き、24時間の前培養を行った。その後、所定の濃度になるように精製多糖を添加し、72時間後にCCK−8溶液を各ウェルに10μl添加し、更に4時間、37℃、5%CO2−空気気相下でインキュベートを行った。その後、マイクロプレートリーダー(Model650;Bio-RadLaboratories)で吸光度(測定波長450nm、参照波長620nm)を測定した。細胞障害活性性は対照群の吸密度に対する、サンプル添加による吸密度を比較することで評価した。この結果を図5に示す。
【0074】
この結果、ハツタケ精製多糖は、U937細胞に対し、1mg/ml濃度において約70%の細胞障害活性を示した。またその細胞障害活性は、U937細胞に対し、濃度依存的であった。
【0075】
実 施 例 12
免疫賦活活性試験:
実施例2で得たハツタケ精製多糖の免疫賦活活性を、マウス腹腔マクロファージ細胞株(RAW264.7細胞)を用い、酸化窒素(NO)産生を指標として評価した。
【0076】
まず、マウス腹腔マクロファージ細胞株を、10%牛胎児血清、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含むDEME培地に分散し、37℃、5%CO2−空気の条件で培養した。継代は5日毎に行った。
【0077】
上記のようにして培養したマウス腹腔マクロファージ細胞株を、5.0×105cell/mlとなるように調製し、48ウエルプレート中で培養した。24時間培養後、ハツタケ精製多糖を所定量加え、更に24時間培養した。
【0078】
培養後、培養上澄を回収し、その中に含まれているNO量をグリエス(Griess)法で測定した。この結果を図6に示す。ハツタケ精製多糖濃度の増大と共にNO生産量が増大し、マクロファージ活性が促進されたこと、すなわち免疫賦活活性が向上したことが示された。
【0079】
実 施 例 13
6−ディオキシ−D−アルトロースの製造
ハツタケ菌糸体または子実体を酸に分散させ抽出液を濾過後アルカリで中和を行い、透析あるいは電気透析処理したもの(液体)、あるいは連続遠心機で不溶物を除去した溶液をアルコールまたはスプレードライしたエキス(粉体)を塩酸、硫酸、またはシュウ酸等の酸溶液に溶解後、加熱により加水分解を行い、アルカリで中和後充填剤としてシリカゲル、活性炭または両者を混合したカラムクロマトグラフィー等で6−ディオキシ−D−アルトロースを分離、濃縮およびアルコール等で結晶化させる。6−ディオキシ−D−アルトロースの比旋光度[α]は、+14.2〜+17.5°であった。
【0080】
実 施 例 14
アカハツ多糖の取得:
原料アカハツ(Lactarius akahatsu)は沖縄県国頭郡国頭村与那の琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド教育研究センター与那フィールドで収穫した子実体を使用した。収穫した子実体900gを40℃で24時間通風乾燥させることにより、乾燥アカハツ95gが得られた。乾燥アカハツを粉砕器で粉砕後、エタノールで脱色し、次いでアセトンで脱脂を行ったものを使用した。
【0081】
粉末10gに蒸留水300mlを加え、100℃で3時間攪拌後吸引濾過を行った。濾液を遠心分離後、上清を濃縮、エタノールで沈澱させ、粗多糖を得た。
【0082】
得られた粗多糖を蒸留水に溶解させ、60℃に加熱して3%酢酸鉛初溶液を滴下してタンパク質を沈澱させた。遠心分離により上清みを回収した。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Amberlite IR-120)を通した後、水酸化ナトリウムで中和後透析を行い(室温、24時間)、濃縮後、凍結乾燥して精製多糖を得た。10gの子実体から230.3mgの粗多糖を得、103.5mgの精製多糖を得た。
【0083】
実 施 例 15
アカハツ多糖の化学組成分析:
実施例14で得た粗多糖および精製多糖について、下記方法で全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量を測定した。この結果を表4に示す。
【0084】
(1)全糖量
全糖量はフェノール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/ml濃度に調製して供試した。試料0.5mlを試験管にとり、5%フェノール溶液0.5mlを加え、これに濃硫酸2.5mlを速やかに液面に直接滴下するように加え、よく攪拌し、室温に10分間放置した。液温が室温(20〜30℃)まで下がったのを確認した後、490nmの波長で吸光度を測定することにより、全糖量を求めた。
【0085】
(2)ウロン酸含量
ウロン酸含量はカルバゾール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/mlに調製して供試した。あらかじめ氷冷しておいたホウ酸ナトリウム溶液2.5mlに、調製した試料0.5mlを静かに加え重層し、室温以上にならないように静かによく攪拌した。試験管の口にガラス玉を置き、沸騰湯浴中で10分間加熱し、水冷して室温に戻した。次にカルバゾールエタノール溶液0.1mlを加えてよく攪拌し、更に沸騰湯浴中で15分間加熱して発色させた。水冷して室温にまで戻した後、530nmの波長で吸光度を測定することにより、ウロン酸含量を求めた。
【0086】
(3)タンパク質含量
タンパク質含量は、DC−プロテインアッセイキット(BIO−RAD)を用い、Lowry法を改変した方法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ1mg/ml溶液に調製した。この溶液200μlに、ワーキング・リージェント(working regent)100μlを加えた後、リージェントB(Regent B)800μlを加えてよく攪拌し、室温で15分間静置して750nmの波長で吸光度を測定することにより、蛋白質含量を求めた。
【0087】
【表4】
【0088】
実 施 例 16
アカハツ多糖の構成糖分析
アカハツの精製多糖について、その構成糖を、下記の(1)高速液体クロマトグラフィー
、(2)ペーパークロマトグラフィーおよび(3)ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0089】
(1)高速液体クロマトグラフィー
試料50mgを蒸留水20mlに溶解させ、濃硫酸を加えて1.0N硫酸になるように調製して、沸騰湯浴中で100℃、2時間加熱して加水分解を行った。加水分解液は炭酸バリウム(BaCO3)で中和し、沈殿物を除去して高速液体クロマトグラフィー(日本ダイオネクス株式会社、DX−500)を用いて構成糖を同定し、その面積比より構成糖比を算出した。
【0090】
精製多糖の加水分分解物の高速液体クロマトグラムの結果から、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース=1.3:2.0:0.2と算出された。
【0091】
(2)ペーパークロマトグラフィー
上記(1)での加水分解物を、アドバンテック トーヨー(ADVANTEC TOYO)No50の濾紙を使用して、ペーパークロマトグラフィーを行った。展開溶媒にはブタノール:エタノール:水=4:1:5を使用した。発色剤はアニリン−フタル酸を使用し、上昇法で展開を行った。結果を図9に示す。
【0092】
図9から、6―ディオキシ−D−アルトロース、D−グルコース、D―ガラクトースを同定した。
【0093】
(3)ガスクロマトグラフィー
アカハツ精製多糖5mgを試料として蒸留水2mlに溶解させ、これにトリフルオロ酢酸(TFA)を加え、多糖溶液の終濃度が2Mになるように試料溶液を調製した。この試料溶液を、乾熱器にて100℃で、2時間加熱して加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で濃縮乾固して加水分解物を得た。
【0094】
加水分解物を、1N−NaBH4溶液に溶解し、室温で1時間反応させ、酢酸を1滴加えて攪拌した後、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させアルジトールを得た。続いて酢酸エタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)2mlを加え、40℃で濃縮乾固させる作業を3回繰り返した。続いて100%メタノールを2ml加え、40℃で濃縮乾固させる作業を4回繰り返した。最後に、無水酢酸溶液(無水酢酸:ピリジン=1:1)0.5mlを加え、121℃で、20分反応させることによりアセチル化した。
【0095】
このアセチル化物5mgにトルエン1mlを加え、40℃で濃縮乾固し、クロロホルム溶液(クロロホルム:蒸留水=1:1)を2ml加えた。溶解した後、クロロホルム層のみを回収し、40℃で乾固させてアルジトールアセテートを得た。得られたアルジトールアセテート5mgをアセトン0.5mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(SHIMAZU、GC−17A)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0096】
精製多糖のガスクロマトグラムの結果から、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースおよび6−ディオキシ−D−アルトロースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース=1.6:1.0:0.08:1.0と算出された。
【0097】
実 施 例 17
アカハツ精製多糖のメチル化分析:
箱守法を改変した方法を用いて、精製多糖のメチル化を行った。すなわち、窒素ガス雰囲気下、アカハツ精製多糖2mgに、ジメチルスルホキシド500μlを加え、3時間攪拌して溶解させた。次いで、窒素ガス充填バッグ内で、粉末水酸化ナトリウム25mgを加え、2時間攪拌した後、氷冷しながらヨウ化メチル250μlを加えて更に1時間攪拌して反応させた。さらに蒸留水500μlを加え、白濁した溶液が透明になるまで窒素ガスによるバブリングを行った。
【0098】
固層抽出カートリッジ(Sep−Pak plusC18 cartrides;ウォータ社製)をメタノール5mlで4回、アセトニトリル2mlで2回、蒸留水5mlで2回洗浄し、糖液を注入してメチル化糖をカートリッジ内に吸着させた。その後、蒸留水4mlを2回注入した後、アセトニトリル溶液(アセトニトリル:水=1:4)で非吸着画分を排除した後、100%アセトニトリル1mlを2回通してメチル化糖を溶出させ、窒素ガスで濃縮乾固してメチル化糖を得た。得られたメチル化糖を2M−トリフルオロ酢酸溶液(TFA)を用い、121℃で、1時間で加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させて加水分解物を得た。これにメタノール溶液(メタノール:水=1:1)220μl、NaBD4溶液200μlを加え、室温で1時間反応させ、酢酸50μlを加えてよく攪拌した。
【0099】
更に、酢酸メタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)200μlを加えて攪拌、窒素ガス雰囲気下で乾固する作業を2回、100%エタノール200μlを加えて窒素乾固する作業を4回繰り返した。続いて無水酢酸50μlを加え乾熱機で121℃、3時間反応させた後、蒸留水500μlを加え、炭酸ナトリウムで中和し、クロロホルム500μlを加え、攪拌、遠心分離し、下層のクロロホルム層のみを回収した。
【0100】
得られたクロロホルム層を窒素ガスで乾固させ、これを完全メチル化アルジトールアセテートとし、アセトン500μlに溶解させてGC/MS(SHIMADZU、QP2010、GC2010)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0101】
メチル化分析により得られたGC/MSのマススペクトルの解析から、1,5−O−アセチル−2,3,4−トリ−O−メチル−D−グルクロン酸、1,5−O−アセチル−6―ディオキシ−2,3,4−トリ−O−メチル−D−アルトロース、1,4,5−O−アセチル−2,3,6−ト−O−メチル−D−グルコース、1,3,5,6−アセチル−2,4−ジ−Oメチル−D−ガラクトース及び1,4,5,6−Oアセチル−2,3−ジ−O−メチル−D−ガラクトースの5つの主要なマススペクトルが得られ、それぞれのモル比は1:1:3:1:1であった。
【0102】
実 施 例 18
細胞障害活性試験:
実施例14で得たアカハツ精製多糖の細胞障害活性を、ヒト骨髄性白血病細胞株(U−937;ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)を用いて調べた。
【0103】
まず、上記細胞を、10%非動化済み牛胎児血清(fetal bovine serum;FBS)、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したRPMI1640培地(またはRPMI1640−MEM混合培地)にそれぞれ分散させ、37℃、5%CO2−空気気相下で培養した。継代は5日毎に細胞がコンフルエントになる前に行った。
【0104】
細胞障害活性は、セル・カウンティングキット−8を用いた細胞数測定法で行った。すなわち、96ウェルマイクロプレートに、1.0×105細胞/mlになるように上記白血病細胞を播き、24時間の前培養を行った。その後、所定の濃度になるように精製多糖を添加し、72時間後にCCK−8溶液を各ウェルに10μl添加し、更に4時間、37℃、5%CO2−空気気相下でインキュベートを行った。その後、マイクロプレートリーダー(Model650;Bio-RadLaboratories)で吸光度(測定波長450nm、参照波長620nm)を測定した。細胞障害活性性は対照群の吸密度に対する、サンプル添加による吸密度を比較することで評価した。この結果を図10に示す。
【0105】
この結果、ハツタケ精製多糖は、U937細胞に対し、1mg/ml濃度において約70%の細胞障害活性を示した。またその細胞障害活性は、U937細胞に対し、濃度依存的であった。
【0106】
実 施 例 19
免疫賦活活性試験:
実施例14で得たアカハツ精製多糖の免疫賦活活性を、マウス腹腔マクロファージ細胞株(RAW264.7細胞)を用い、酸化窒素(NO)産生を指標として評価した。
【0107】
まず、マウス腹腔マクロファージ細胞株を、10%牛胎児血清、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含むDEME培地に分散し、37℃、5%CO2−空気の条件で培養した。継代は5日毎に行った。
【0108】
上記のようにして培養したマウス腹腔マクロファージ細胞株を、5.0×105cell/mlとなるように調製し、48ウエルプレート中で培養した。24時間培養後、ハツタケ精製多糖を所定量加え、更に24時間培養した。
【0109】
培養後、培養上澄を回収し、その中に含まれているNO量をグリエス(Griess)法で測定した。この結果を図11に示す。アカハツ精製多糖濃度の増大と共にNO生産量が増大し、マクロファージ活性が促進されたこと、すなわち免疫賦活活性が向上したことが示された。
【0110】
実 施 例 20
アカハツからの6−ディオキシ−D−アルトロースの製造
アカハツ菌糸体または子実体を酸に分散させ抽出液を濾過後アルカリで中和を行い、透析あるいは電気透析処理したもの(液体)、あるいは連続遠心機で不溶物を除去した溶液をアルコールまたはスプレードライしたエキス(粉体)を塩酸、硫酸、またはシュウ酸等の酸溶液に溶解後、加熱により加水分解を行い、アルカリで中和後充填剤としてシリカゲル、活性炭または両者を混合したカラムクロマトグラフィー等で6−ディオキシ−D−アルトロースを分離、濃縮およびアルコール等で結晶化させる。6−ディオキシ−D−アルトロースの比旋光度[α]は、+14.2〜+17.5°であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明では、タンパク質を含んだ粗多糖およびタンパク質を取り除いた精製多糖について細胞障害活性の検討を行ったが、精製多糖に白血病細胞(U937細胞)に対する細胞障害活性が認められた。
【0112】
従って、本発明のハツタケまたはアカハツからの多糖類は、その生理活性を医薬品あるいは健康補助食品として利用することが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は新規生理活性多糖類に関し、更に詳細には、ハツタケ(Lactariu hatsudake Tanaka またはアカハツ(Lactarius akahatsu Tanaka)から得られる新規生理活性多糖類およびこれを利用する医薬品あるいは健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
キノコに含まれる多糖類には様々な生理活性能を持つことが明らかにされており、抗腫瘍活性や、免疫賦活活性、生活習慣病の予防、改善、生体調節機能などが知られている(非特許文献1ないし5)。
【0003】
また、キノコから得られる糖には糖タンパクとして、あるいは何らかの形で糖にタンパク質が付随するものがあり、上記と同様に優れた生理活性能が報告されている(非特許文献6および7)。
【0004】
しかしながら、キノコに含まれる多糖類は、その起源となるキノコにより組成が異なるものであることが予想され、当然これらの生理活性も異なると考えられている。
【0005】
そこで、種々のキノコについて、これが含有する多糖類を見出し、その有する生理活性を明らかにすることが強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「キノコの生理活性と機能」、第689頁等、(2005)、 シーエムシー出版発行
【非特許文献2】「きのこ健康読本」、第96〜102頁、(2002)、 東洋医学舎発行
【非特許文献3】「キノコ博物館」、第11〜56頁、(2003)、 八坂書房出版発行
【非特許文献4】“CancerLetters”,p.1-10,(2006)
【非特許文献5】“Immunopharmacology”,Vol.35,p.255-263,(1997)
【非特許文献6】“GeneralPharmacology”,Vol.27,p.621-624(1996)
【非特許文献7】“Biomedicine& Pharmacotherapy”,Vol.58,p.226-230(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、キノコに含まれる新たな多糖類を探索し、このものが有する生理活性を見出してこれを医薬あるいは健康食品等として利用することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々のキノコについて、これに含まれる多糖類を分離し、その生理活性を調べていたところ、ハツタケおよびアカハツの熱水抽出物中等に含まれる多糖類は、新規な糖組成を有し、しかも白血病細胞障害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0010】
また本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0011】
また本発明は、ハツタケ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ水もしくはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする上記生理活性多糖類の製造方法を提供するものである。
【0012】
さらに本発明は、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類である。
【0013】
また本発明は、アカハツ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ水もしくはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする上記生理活性多糖類の製造方法を提供するものである。
【0014】
さらに、上記6−ディオキシ−D−アルトロースを製造する製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長く食用に供されたハツタケまたはアカハツから、生理活性多糖類を得ることができ、このものは、医薬品あるいは健康補助食品として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明ハツタケ精製多糖類のIRスペクトルを示す図面である。
【図2】本発明ハツタケ精製多糖類の13C−NMRスペクトルを示す図面である。
【図3】本発明ハツタケ精製多糖類の1H−NMRスペクトルを示す図面である。
【図4】本発明ハツタケ精製多糖類のGC/MSスペクトルを示す図面である。
【図5】本発明ハツタケ精製多糖類濃度と、U937細胞の生存率の関係を示す図面である。
【図6】本発明ハツタケ精製多糖類濃度と、培養上澄中に含まれているNO量の関係を示す図面である。
【図7】6−ディオキシ−D−アルトロースの13C−NMRスペクトルを示す図面である。
【図8】6−ディオキシ−D−アルトロースの1H−NMRスペクトルを示す図面である。
【図9】本発明アカハツ精製多糖類のペーパークロマトグラフィーによるクロマトグラムを示す図面である。
【図10】本発明アカハツ精製多糖類濃度と、U937細胞の生存率の関係を示す図面である。
【図11】本発明アカハツ精製多糖類濃度と、培養上澄中に含まれているNO量の関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の生理活性多糖類は、ハツタケを原料として製造することができるものである。原料であるハツタケ(Lactariu hatsudake TanakaまたはLactarius lividatus Tanaka)は、日本、韓国、中国等に分布する担子菌の一種であり、日本では夏から秋にかけてアカマツ、クロマツなどの林内地上に群生または単生し、広く食用にされてきたキノコである。
【0018】
このハツタケから本発明の生理活性多糖類を得るには、ハツタケ(子実体や菌糸体)を、熱水、アルカリ溶液またはシュウ酸アンモニウム溶液により抽出し、この抽出物を精製すればよい。
【0019】
より具体的には、熱水を用いる場合は、採取したハツタケを必要により乾燥した後、細断ないしは破砕し、更に必要によりこれを脱脂した後、100ないし80℃程度の熱水により、3ないし5時間程度抽出操作を行えばよい。
【0020】
抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対する熱水の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0021】
また、アルカリ溶液を用いる場合は、上記と同様に調製したハツタケ原料を、4%ないし24%程度のアルカリ溶液中、室温で、10ないし15時間程度抽出すればよい。
【0022】
このアルカリ溶液の調製に使用されるアルカリ物質としては、NaOH、KOH等を挙げることができ、抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対するアルカリ溶液の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0023】
更に、シュウ酸アンモニウム溶液を用いる場合は、上記と同様に調製したハツタケ原料を、0.5%ないし1.0%程度のシュウ酸アンモニウム溶液中、70ないし80℃の温度で、3ないし5時間程度抽出すればよい。
【0024】
抽出の際の、原料ハツタケ(乾燥)に対するシュウ酸アンモニウム溶液の量は、ハツタケ1に対し、30ないし60重量部程度であり、好ましくは、40ないし50重量部である。
【0025】
このようにして得られたハツタケからの各抽出物は、そのまま生理活性多糖類として利用することもできるが、更にこれを公知の精製手段を用いて精製し、精製生理活性多糖類として用いることが好ましい。
【0026】
また、本発明の生理活性多糖類は、アカハツ(Lactarius akahatsu Tanaka、Lactarius hatsudake Tanaka var.akahatsu Kawam、Lactarius deliciosus (L.) S.F. Gray、または f. virescens Imai)を原料として製造することもできる。アカハツもハツタケと同様に日本では夏から秋にかけてアカマツ、クロマツなどの林内地上に群生または単生し、広く食用にされてきたキノコである。アカハツから本発明の生理活性多糖類を製造するための条件等は、上記ハツタケの場合と同様である。
【0027】
かくして得られる本発明の生理活性多糖類は、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等による分析から、構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものである。
【0028】
ハツタケから得られる生理活性多糖類は、構成糖モル比としてグルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、好ましくは、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有するものであり、より好ましくはグルコースを1.8〜2.7、ガラクトースを0.8〜1.2、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.3で含有するものである。
【0029】
またアカハツから得られる生理活性多糖類は、構成糖モル比としてグルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、好ましくはグルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有するものであり、より好ましくは、グルコースを1.0〜2.0、ガラクトースを0.8〜1.2、グルクロン酸を0.2〜0.8、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.5〜1.3、マンノースを0.06〜0.3で含有するものである。
【0030】
なお、上記生理活性多糖類のうち6−ディオキシ−D−アルトロースは、自然界では未だに発見されていない新規の糖である。
【0031】
以上説明した本発明の生理活性多糖類は、医薬品あるいは健康補助食品として利用可能である。
【0032】
本発明の生理活性多糖類を医薬品あるいは健康補助食品として利用する場合は、これを、種々の担体、賦形剤、矯味剤、香料等の薬学的に許容される任意成分と組み合わせ、粉剤、錠剤、カプセル剤、液剤、ドリンク剤等の形態とすればよい。
【0033】
この際の摂取量としては特に制約はないが、精製生理活性多糖類として、大人一人一日当たり50ないし100mg程度の量であり、これを1回または数回に分けて摂取すれば良い。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0035】
実 施 例 1
ハツタケ多糖の取得(1):
原料ハツタケ(Lactarius lividatus)は、沖縄県国頭郡国頭村与那の琉球大学農学部付属亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールドで収穫した子実体を使用した。この収穫したハツタケ子実体1021.7gを通風乾燥させることにより、乾燥ハツタケ132.1g(12.9%)が得られた。この乾燥ハツタケをミキサーで粉砕した後、エタノールを加え、6時間攪拌して脱色を行い、上澄みを取り除いた後に、さらにアセトンを加えて6時間攪拌して、脱脂したものを実験に供した。
【0036】
この乾燥粉末10gに蒸留水300mlを加え、90℃の沸騰湯浴中で3時間攪拌後、吸引濾過を行った。濾液を10,000rpmで30分間遠心分離し、上澄みを濃縮、透析後、4倍容量のエタノールを加えて沈殿させた。沈殿を再度蒸留水に溶解させ、凍結乾燥を行って粗多糖を得た。
【0037】
得られた粗多糖を、蒸留水に溶解させ、60℃の湯浴中、3%酢酸亜鉛水溶液を加えてタンパク質を沈殿させた。10,000rpm、30分間の遠心分離により、上清のみを回収した。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Amberlite IR-120)に通した後、室温で24時間透析し、凍結乾燥を行なって精製多糖を得た。
【0038】
上記工程での、脱脂、脱色した乾燥ハツタケ子実体10gから熱水300mlにて抽出した粗多糖の収量は214.2mg(対乾燥子実体2.14%)で、これを精製した精製多糖の収量は100.3mg(対乾燥子実体1.03%)であった。
【0039】
実 施 例 2
ハツタケ多糖の化学組成分析:
実施例1で得た粗多糖および精製多糖について、下記方法で全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量を測定した。この結果も表1に示す。
【0040】
(1)全糖量
全糖量はフェノール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/ml濃度に調製して供試した。試料0.5mlを試験管にとり、5%フェノール溶液0.5mlを加え、これに濃硫酸2.5mlを速やかに液面に直接滴下するように加え、よく攪拌し、室温に10分間放置した。液温が室温(20〜30℃)まで下がったのを確認した後、490nmの波長で吸光度を測定することにより、全糖量を求めた。
【0041】
(2)ウロン酸含量
ウロン酸含量はカルバゾール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/mlに調製して供試した。あらかじめ氷冷しておいたホウ酸ナトリウム溶液2.5mlに、調製した試料0.5mlを静かに加え重層し、室温以上にならないように静かによく攪拌した。試験管の口にガラス玉を置き、沸騰湯浴中で10分間加熱し、水冷して室温に戻した。次にカルバゾールエタノール溶液0.1mlを加えてよく攪拌し、更に沸騰湯浴中で15分間加熱して発色させた。水冷して室温にまで戻した後、530nmの波長で吸光度を測定することにより、ウロン酸含量を求めた。
【0042】
(3)タンパク質含量
タンパク質含量は、DC−プロテインアッセイキット(BIO−RAD)を用い、Lowry法を改変した方法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ1mg/ml溶液に調製した。この溶液200μlに、ワーキング・リージェント(working regent)100μlを加えた後、リージェントB(Regent B)800μlを加えてよく攪拌し、室温で15分間静置して750nmの波長で吸光度を測定することにより、蛋白質含量を求めた。
【0043】
【表1】
【0044】
この結果から明らかなように、全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量はそれぞれ、粗多糖で61.7%、9.3%、21.3%、精製多糖では74.2%、12.5%および0.5%であった。
【0045】
実 施 例 3
ハツタケ多糖の構成糖分析:
ハツタケの精製多糖について、その構成糖を、下記の(1)高速液体クロマトグラフィー
、(2)ペーパークロマトグラフィーおよび(3)ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0046】
(1)高速液体クロマトグラフィー
試料50mgを蒸留水20mlに溶解させ、濃硫酸を加えて1.0N硫酸になるように調製して、沸騰湯浴中で100℃、2時間加熱して加水分解を行った。加水分解液は炭酸バリウム(BaCO3)で中和し、沈殿物を除去して高速液体クロマトグラフィー(日本ダイオネクス株式会社、DX−500)を用いて構成糖を同定し、その面積比より構成糖比を算出した。
【0047】
精製多糖の加水分分解物の高速液体クロマトグラムの結果から、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース=2.07:1.00:0.12と算出された(表2)。
【0048】
(2)ペーパークロマトグラフィー
上記(1)での加水分解物を、アドバンテック トーヨー(ADVANTEC TOYO)No50の濾紙を使用して、ペーパークロマトグラフィーを行った。展開溶媒にはブタノール:エタノール:水=4:1:5を使用した。発色剤はアニリン−フタル酸を使用し、上昇法で展開を行った。
【0049】
この結果、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースのRf値と一致するスポットが認められた。またフコース、ラムノースよりも高いRf値にメチル化糖である6−ディオキシ−D−アルトロースと思われるスポットが認められた。
【0050】
(3)ガスクロマトグラフィー
ハツタケ精製多糖5mgを試料として蒸留水2mlに溶解させ、これにトリフルオロ酢酸(TFA)を加え、多糖溶液の終濃度が2Mになるように試料溶液を調製した。この試料溶液を、乾熱器にて100℃で、2時間加熱して加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で濃縮乾固して加水分解物を得た。
【0051】
加水分解物を、1N−NaBH4溶液に溶解し、室温で1時間反応させ、酢酸を1滴加えて攪拌した後、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させアルジトールを得た。続いて酢酸エタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)2mlを加え、40℃で濃縮乾固させる作業を3回繰り返した。続いて100%メタノールを2ml加え、40℃で濃縮乾固させる作業を4回繰り返した。最後に、無水酢酸溶液(無水酢酸:ピリジン=1:1)0.5mlを加え、121℃で、20分反応させることによりアセチル化した。
【0052】
このアセチル化物5mgにトルエン1mlを加え、40℃で濃縮乾固し、クロロホルム溶液(クロロホルム:蒸留水=1:1)を2ml加えた。溶解した後、クロロホルム層のみを回収し、40℃で乾固させてアルジトールアセテートを得た。得られたアルジトールアセテート5mgをアセトン0.5mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(SHIMAZU、GC−17A)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0053】
精製多糖のガスクロマトグラムの結果から、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースおよび6−ディオキシ−D−アルトロースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース=1.80:1.00:0.07:0.3と算出された(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
実 施 例 4
ハツタケ精製多糖の分子量測定:
試料を高速液体クロマトグラム(RID−6A;SHIMADZU)に付し、分子量を測定した。標準曲線は、ショーデックス スタンダード(Shodex STANDARD)P−82(プルラン:P−400、P−100、P−20、P−5:昭和電工株式会社)を用いて作成した。また、分析条件は以下の通りである。
【0056】
分析カラム: TSKgelG4000PWXL
緩 衝 液: 0.05M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)+0.15M
食塩
流 速 : 0.3ml/min
【0057】
この結果、ハツタケ精製多糖の分子量は、約240,000と算出された。
【0058】
実 施 例 5
ハツタケ精製多糖の赤外吸収スペクトル測定:
ハツタケ精製多糖の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計バイオ−ラッド メリーン(Bio-Rad Merlin)を用い、KBr法で測定した。この結果を図1に示した。OHおよびCH基に由来する吸収が3400および2900cm−1に認められた。また、ウロン酸に由来する吸収が1620cm−1に認められた。
【0059】
実 施 例 6
ハツタケ精製多糖の旋光度測定:
ハツタケ精製多糖の旋光度は、試料を蒸留水に溶解させて0.2(w/v)%溶液を作成し、自動旋光度計DIP−180(日本分光)を用い、589nmで測定した。旋光度の測定は60℃から徐々に温度を低下させながら行った。この結果を表3に示すが、旋光度は60℃で−0.055°を有しており、温度の低下に伴って徐々に減少し、10℃では−0.035°を有していた。
【0060】
【表3】
【0061】
実 施 例 7
ハツタケ精製多糖のNMR分析:
ハツタケ精製多糖の13Cおよび1H−NMRスペクトルは、FT−NMRスペクトロメーター(JNM―α500、JEOL)を用いてそれぞれ125MHz、500MHzで測定した。ハツタケ精製多糖を試料として重水に溶解させ、1.0%溶液を作成し、60℃で測定した。内部標準としては、3−(トリメチルシリル)プロピオニック−2,2,3,3,−d4アシッド ソルト(TSP、0.00ppm)を用い、結果は化学シフト(ppm)で表示した。
【0062】
(1)13C−NMRスペクトル
精製多糖の13C−NMRスペクトルを図2に示した。20.322ppmのシグナルは、ディオキシ−アルトロースのメチル基に由来するものである。63.486〜79.905ppmは環状炭素によるものであるが、重複が激しいために詳しい解析は困難であった。100.808〜102.931ppmの範囲に確認されたシグナルはアノメリック炭素によるものと思われるが、重複が激しいため、どの構成糖に起因するものか判断ができる情報は得られなかった。また、187.992ppmのピークはウロン酸由来のシグナルであることが分かった。
【0063】
(2)1H−NMRスペクトル
精製多糖の1H−NMRスペクトルを図3に示した。メチル基のプロトンによるシグナルが1.328ppmで観測された。また、5.377ppm、5.115ppm、5.019ppmの3つのシグナルが観測された。これらはアノメリックプロトンのピークである。13C−NMRの結果に加えて、ここでも重複するシグナルが多いため、構造解析の手段として決定的な情報を得られず解析は困難であった。
【0064】
実 施 例 8
ハツタケ精製多糖のメチル化分析:
箱守法を改変した方法を用いて、精製多糖のメチル化を行った。すなわち、窒素ガス雰囲気下、ハツタケ精製多糖2mgに、ジメチルスルホキシド500μlを加え、3時間攪拌して溶解させた。次いで、窒素ガス充填バッグ内で、粉末水酸化ナトリウム25mgを加え、2時間攪拌した後、氷冷しながらヨウ化メチル250μlを加えて更に1時間攪拌して反応させた。さらに蒸留水500μlを加え、白濁した溶液が透明になるまで窒素ガスによるバブリングを行った。
【0065】
固層抽出カートリッジ(Sep−Pak plusC18 cartrides;ウォータ社製)をメタノール5mlで4回、アセトニトリル2mlで2回、蒸留水5mlで2回洗浄し、糖液を注入してメチル化糖をカートリッジ内に吸着させた。その後、蒸留水4mlを2回注入した後、アセトニトリル溶液(アセトニトリル:水=1:4)で非吸着画分を排除した後、100%アセトニトリル1mlを2回通してメチル化糖を溶出させ、窒素ガスで濃縮乾固してメチル化糖を得た。得られたメチル化糖を2M−トリフルオロ酢酸溶液(TFA)を用い、121℃で、1時間で加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させて加水分解物を得た。これにメタノール溶液(メタノール:水=1:1)220μl、NaBD4溶液200μlを加え、室温で1時間反応させ、酢酸50μlを加えてよく攪拌した。
【0066】
更に、酢酸メタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)200μlを加えて攪拌、窒素ガス雰囲気下で乾固する作業を2回、100%エタノール200μlを加えて窒素乾固する作業を4回繰り返した。続いて無水酢酸50μlを加え乾熱機で121℃、3時間反応させた後、蒸留水500μlを加え、炭酸ナトリウムで中和し、クロロホルム500μlを加え、攪拌、遠心分離し、下層のクロロホルム層のみを回収した。
【0067】
得られたクロロホルム層を窒素ガスで乾固させ、これを完全メチル化アルジトールアセテートとし、アセトン500μlに溶解させてGC/MS(SHIMADZU、QP2010、GC2010)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0068】
メチル化分析によるGC/MSスペクトルの結果を図4に示した。メチル化分析により得られたGC/MSのマススペクトルの解析から、2,3,4−トリ−O−メチル−D−グルクロン酸、2,3,4−トリ−O−メチル−D−6−ディオキシ−D−アルトロース、2,3,6−トリ−O−メチル−D−グルコース、2,4−ジ−O−メチル−D−ガラクトース、2,3−ジ−O−メチル−D−ガラクトースの5つの主要なマススペクトルが得られ、それぞれ1:1:3:1:1で構成される糖鎖構造を有することが分かった。
【0069】
実 施 例 9
アルカリ溶液を用いたハツタケ多糖の取得(2):
4%KOHに実施例1で得たハツタケ乾燥粉末10gを分散させ室温で12時間攪拌した溶液を濾過し、得られた濾過液を0.1M HClで中和し濃縮した後、透析し2倍量のエタノールで沈殿させて多糖を得た。このようにして得た多糖を常法により加水分解し構成多糖を分析した結果、その構成糖比は、D−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース:D−グルクロン酸=2.7:1.0:0.05:0.7:0.2であった。
【0070】
実 施 例 10
ハツタケ多糖の取得(3):
0.5%ショウ酸アンモニウムに実施例1で得たハツタケ乾燥粉末10gを分散させ80℃で3時間攪拌した溶液を濾過した後、得られた濾過液に2倍量のエタノールで沈殿させて多糖を得た。このようにして得た多糖を常法により加水分解し構成多糖を分析した結果、その構成糖比は、D−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース:D−グルクロン酸=2.3:1.0:0.08:0.8:0.3であった。
【0071】
実 施 例 11
細胞障害活性試験:
実施例2で得たハツタケ精製多糖の細胞障害活性を、ヒト骨髄性白血病細胞株(U−937;ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)を用いて調べた。
【0072】
まず、上記細胞を、10%非動化済み牛胎児血清(fetal bovine serum;FBS)、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したRPMI1640培地(またはRPMI1640−MEM混合培地)にそれぞれ分散させ、37℃、5%CO2−空気気相下で培養した。継代は5日毎に細胞がコンフルエントになる前に行った。
【0073】
細胞障害活性は、セル・カウンティングキット−8を用いた細胞数測定法で行った。すなわち、96ウェルマイクロプレートに、1.0×105細胞/mlになるように上記白血病細胞を播き、24時間の前培養を行った。その後、所定の濃度になるように精製多糖を添加し、72時間後にCCK−8溶液を各ウェルに10μl添加し、更に4時間、37℃、5%CO2−空気気相下でインキュベートを行った。その後、マイクロプレートリーダー(Model650;Bio-RadLaboratories)で吸光度(測定波長450nm、参照波長620nm)を測定した。細胞障害活性性は対照群の吸密度に対する、サンプル添加による吸密度を比較することで評価した。この結果を図5に示す。
【0074】
この結果、ハツタケ精製多糖は、U937細胞に対し、1mg/ml濃度において約70%の細胞障害活性を示した。またその細胞障害活性は、U937細胞に対し、濃度依存的であった。
【0075】
実 施 例 12
免疫賦活活性試験:
実施例2で得たハツタケ精製多糖の免疫賦活活性を、マウス腹腔マクロファージ細胞株(RAW264.7細胞)を用い、酸化窒素(NO)産生を指標として評価した。
【0076】
まず、マウス腹腔マクロファージ細胞株を、10%牛胎児血清、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含むDEME培地に分散し、37℃、5%CO2−空気の条件で培養した。継代は5日毎に行った。
【0077】
上記のようにして培養したマウス腹腔マクロファージ細胞株を、5.0×105cell/mlとなるように調製し、48ウエルプレート中で培養した。24時間培養後、ハツタケ精製多糖を所定量加え、更に24時間培養した。
【0078】
培養後、培養上澄を回収し、その中に含まれているNO量をグリエス(Griess)法で測定した。この結果を図6に示す。ハツタケ精製多糖濃度の増大と共にNO生産量が増大し、マクロファージ活性が促進されたこと、すなわち免疫賦活活性が向上したことが示された。
【0079】
実 施 例 13
6−ディオキシ−D−アルトロースの製造
ハツタケ菌糸体または子実体を酸に分散させ抽出液を濾過後アルカリで中和を行い、透析あるいは電気透析処理したもの(液体)、あるいは連続遠心機で不溶物を除去した溶液をアルコールまたはスプレードライしたエキス(粉体)を塩酸、硫酸、またはシュウ酸等の酸溶液に溶解後、加熱により加水分解を行い、アルカリで中和後充填剤としてシリカゲル、活性炭または両者を混合したカラムクロマトグラフィー等で6−ディオキシ−D−アルトロースを分離、濃縮およびアルコール等で結晶化させる。6−ディオキシ−D−アルトロースの比旋光度[α]は、+14.2〜+17.5°であった。
【0080】
実 施 例 14
アカハツ多糖の取得:
原料アカハツ(Lactarius akahatsu)は沖縄県国頭郡国頭村与那の琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド教育研究センター与那フィールドで収穫した子実体を使用した。収穫した子実体900gを40℃で24時間通風乾燥させることにより、乾燥アカハツ95gが得られた。乾燥アカハツを粉砕器で粉砕後、エタノールで脱色し、次いでアセトンで脱脂を行ったものを使用した。
【0081】
粉末10gに蒸留水300mlを加え、100℃で3時間攪拌後吸引濾過を行った。濾液を遠心分離後、上清を濃縮、エタノールで沈澱させ、粗多糖を得た。
【0082】
得られた粗多糖を蒸留水に溶解させ、60℃に加熱して3%酢酸鉛初溶液を滴下してタンパク質を沈澱させた。遠心分離により上清みを回収した。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Amberlite IR-120)を通した後、水酸化ナトリウムで中和後透析を行い(室温、24時間)、濃縮後、凍結乾燥して精製多糖を得た。10gの子実体から230.3mgの粗多糖を得、103.5mgの精製多糖を得た。
【0083】
実 施 例 15
アカハツ多糖の化学組成分析:
実施例14で得た粗多糖および精製多糖について、下記方法で全糖量、ウロン酸含量およびタンパク質含量を測定した。この結果を表4に示す。
【0084】
(1)全糖量
全糖量はフェノール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/ml濃度に調製して供試した。試料0.5mlを試験管にとり、5%フェノール溶液0.5mlを加え、これに濃硫酸2.5mlを速やかに液面に直接滴下するように加え、よく攪拌し、室温に10分間放置した。液温が室温(20〜30℃)まで下がったのを確認した後、490nmの波長で吸光度を測定することにより、全糖量を求めた。
【0085】
(2)ウロン酸含量
ウロン酸含量はカルバゾール硫酸法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ、1mg/mlに調製して供試した。あらかじめ氷冷しておいたホウ酸ナトリウム溶液2.5mlに、調製した試料0.5mlを静かに加え重層し、室温以上にならないように静かによく攪拌した。試験管の口にガラス玉を置き、沸騰湯浴中で10分間加熱し、水冷して室温に戻した。次にカルバゾールエタノール溶液0.1mlを加えてよく攪拌し、更に沸騰湯浴中で15分間加熱して発色させた。水冷して室温にまで戻した後、530nmの波長で吸光度を測定することにより、ウロン酸含量を求めた。
【0086】
(3)タンパク質含量
タンパク質含量は、DC−プロテインアッセイキット(BIO−RAD)を用い、Lowry法を改変した方法により定量した。すなわち、試料を蒸留水に溶解させ1mg/ml溶液に調製した。この溶液200μlに、ワーキング・リージェント(working regent)100μlを加えた後、リージェントB(Regent B)800μlを加えてよく攪拌し、室温で15分間静置して750nmの波長で吸光度を測定することにより、蛋白質含量を求めた。
【0087】
【表4】
【0088】
実 施 例 16
アカハツ多糖の構成糖分析
アカハツの精製多糖について、その構成糖を、下記の(1)高速液体クロマトグラフィー
、(2)ペーパークロマトグラフィーおよび(3)ガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0089】
(1)高速液体クロマトグラフィー
試料50mgを蒸留水20mlに溶解させ、濃硫酸を加えて1.0N硫酸になるように調製して、沸騰湯浴中で100℃、2時間加熱して加水分解を行った。加水分解液は炭酸バリウム(BaCO3)で中和し、沈殿物を除去して高速液体クロマトグラフィー(日本ダイオネクス株式会社、DX−500)を用いて構成糖を同定し、その面積比より構成糖比を算出した。
【0090】
精製多糖の加水分分解物の高速液体クロマトグラムの結果から、D−ガラクトース、D−グルコース、D−マンノースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース=1.3:2.0:0.2と算出された。
【0091】
(2)ペーパークロマトグラフィー
上記(1)での加水分解物を、アドバンテック トーヨー(ADVANTEC TOYO)No50の濾紙を使用して、ペーパークロマトグラフィーを行った。展開溶媒にはブタノール:エタノール:水=4:1:5を使用した。発色剤はアニリン−フタル酸を使用し、上昇法で展開を行った。結果を図9に示す。
【0092】
図9から、6―ディオキシ−D−アルトロース、D−グルコース、D―ガラクトースを同定した。
【0093】
(3)ガスクロマトグラフィー
アカハツ精製多糖5mgを試料として蒸留水2mlに溶解させ、これにトリフルオロ酢酸(TFA)を加え、多糖溶液の終濃度が2Mになるように試料溶液を調製した。この試料溶液を、乾熱器にて100℃で、2時間加熱して加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で濃縮乾固して加水分解物を得た。
【0094】
加水分解物を、1N−NaBH4溶液に溶解し、室温で1時間反応させ、酢酸を1滴加えて攪拌した後、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させアルジトールを得た。続いて酢酸エタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)2mlを加え、40℃で濃縮乾固させる作業を3回繰り返した。続いて100%メタノールを2ml加え、40℃で濃縮乾固させる作業を4回繰り返した。最後に、無水酢酸溶液(無水酢酸:ピリジン=1:1)0.5mlを加え、121℃で、20分反応させることによりアセチル化した。
【0095】
このアセチル化物5mgにトルエン1mlを加え、40℃で濃縮乾固し、クロロホルム溶液(クロロホルム:蒸留水=1:1)を2ml加えた。溶解した後、クロロホルム層のみを回収し、40℃で乾固させてアルジトールアセテートを得た。得られたアルジトールアセテート5mgをアセトン0.5mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(SHIMAZU、GC−17A)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0096】
精製多糖のガスクロマトグラムの結果から、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノースおよび6−ディオキシ−D−アルトロースが検出され、その構成糖比はD−グルコース:D−ガラクトース:D−マンノース:6−ディオキシ−D−アルトロース=1.6:1.0:0.08:1.0と算出された。
【0097】
実 施 例 17
アカハツ精製多糖のメチル化分析:
箱守法を改変した方法を用いて、精製多糖のメチル化を行った。すなわち、窒素ガス雰囲気下、アカハツ精製多糖2mgに、ジメチルスルホキシド500μlを加え、3時間攪拌して溶解させた。次いで、窒素ガス充填バッグ内で、粉末水酸化ナトリウム25mgを加え、2時間攪拌した後、氷冷しながらヨウ化メチル250μlを加えて更に1時間攪拌して反応させた。さらに蒸留水500μlを加え、白濁した溶液が透明になるまで窒素ガスによるバブリングを行った。
【0098】
固層抽出カートリッジ(Sep−Pak plusC18 cartrides;ウォータ社製)をメタノール5mlで4回、アセトニトリル2mlで2回、蒸留水5mlで2回洗浄し、糖液を注入してメチル化糖をカートリッジ内に吸着させた。その後、蒸留水4mlを2回注入した後、アセトニトリル溶液(アセトニトリル:水=1:4)で非吸着画分を排除した後、100%アセトニトリル1mlを2回通してメチル化糖を溶出させ、窒素ガスで濃縮乾固してメチル化糖を得た。得られたメチル化糖を2M−トリフルオロ酢酸溶液(TFA)を用い、121℃で、1時間で加水分解し、窒素ガス雰囲気下、40℃で乾固させて加水分解物を得た。これにメタノール溶液(メタノール:水=1:1)220μl、NaBD4溶液200μlを加え、室温で1時間反応させ、酢酸50μlを加えてよく攪拌した。
【0099】
更に、酢酸メタノール溶液(酢酸:メタノール=1:9)200μlを加えて攪拌、窒素ガス雰囲気下で乾固する作業を2回、100%エタノール200μlを加えて窒素乾固する作業を4回繰り返した。続いて無水酢酸50μlを加え乾熱機で121℃、3時間反応させた後、蒸留水500μlを加え、炭酸ナトリウムで中和し、クロロホルム500μlを加え、攪拌、遠心分離し、下層のクロロホルム層のみを回収した。
【0100】
得られたクロロホルム層を窒素ガスで乾固させ、これを完全メチル化アルジトールアセテートとし、アセトン500μlに溶解させてGC/MS(SHIMADZU、QP2010、GC2010)に供試した。カラムはsp2330を使用し、170℃(2分間保持)より4℃/minで昇温、235℃(15分間保持)の条件で解析を行った。
【0101】
メチル化分析により得られたGC/MSのマススペクトルの解析から、1,5−O−アセチル−2,3,4−トリ−O−メチル−D−グルクロン酸、1,5−O−アセチル−6―ディオキシ−2,3,4−トリ−O−メチル−D−アルトロース、1,4,5−O−アセチル−2,3,6−ト−O−メチル−D−グルコース、1,3,5,6−アセチル−2,4−ジ−Oメチル−D−ガラクトース及び1,4,5,6−Oアセチル−2,3−ジ−O−メチル−D−ガラクトースの5つの主要なマススペクトルが得られ、それぞれのモル比は1:1:3:1:1であった。
【0102】
実 施 例 18
細胞障害活性試験:
実施例14で得たアカハツ精製多糖の細胞障害活性を、ヒト骨髄性白血病細胞株(U−937;ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手)を用いて調べた。
【0103】
まず、上記細胞を、10%非動化済み牛胎児血清(fetal bovine serum;FBS)、ペニシリン100IU/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加したRPMI1640培地(またはRPMI1640−MEM混合培地)にそれぞれ分散させ、37℃、5%CO2−空気気相下で培養した。継代は5日毎に細胞がコンフルエントになる前に行った。
【0104】
細胞障害活性は、セル・カウンティングキット−8を用いた細胞数測定法で行った。すなわち、96ウェルマイクロプレートに、1.0×105細胞/mlになるように上記白血病細胞を播き、24時間の前培養を行った。その後、所定の濃度になるように精製多糖を添加し、72時間後にCCK−8溶液を各ウェルに10μl添加し、更に4時間、37℃、5%CO2−空気気相下でインキュベートを行った。その後、マイクロプレートリーダー(Model650;Bio-RadLaboratories)で吸光度(測定波長450nm、参照波長620nm)を測定した。細胞障害活性性は対照群の吸密度に対する、サンプル添加による吸密度を比較することで評価した。この結果を図10に示す。
【0105】
この結果、ハツタケ精製多糖は、U937細胞に対し、1mg/ml濃度において約70%の細胞障害活性を示した。またその細胞障害活性は、U937細胞に対し、濃度依存的であった。
【0106】
実 施 例 19
免疫賦活活性試験:
実施例14で得たアカハツ精製多糖の免疫賦活活性を、マウス腹腔マクロファージ細胞株(RAW264.7細胞)を用い、酸化窒素(NO)産生を指標として評価した。
【0107】
まず、マウス腹腔マクロファージ細胞株を、10%牛胎児血清、100UI/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを含むDEME培地に分散し、37℃、5%CO2−空気の条件で培養した。継代は5日毎に行った。
【0108】
上記のようにして培養したマウス腹腔マクロファージ細胞株を、5.0×105cell/mlとなるように調製し、48ウエルプレート中で培養した。24時間培養後、ハツタケ精製多糖を所定量加え、更に24時間培養した。
【0109】
培養後、培養上澄を回収し、その中に含まれているNO量をグリエス(Griess)法で測定した。この結果を図11に示す。アカハツ精製多糖濃度の増大と共にNO生産量が増大し、マクロファージ活性が促進されたこと、すなわち免疫賦活活性が向上したことが示された。
【0110】
実 施 例 20
アカハツからの6−ディオキシ−D−アルトロースの製造
アカハツ菌糸体または子実体を酸に分散させ抽出液を濾過後アルカリで中和を行い、透析あるいは電気透析処理したもの(液体)、あるいは連続遠心機で不溶物を除去した溶液をアルコールまたはスプレードライしたエキス(粉体)を塩酸、硫酸、またはシュウ酸等の酸溶液に溶解後、加熱により加水分解を行い、アルカリで中和後充填剤としてシリカゲル、活性炭または両者を混合したカラムクロマトグラフィー等で6−ディオキシ−D−アルトロースを分離、濃縮およびアルコール等で結晶化させる。6−ディオキシ−D−アルトロースの比旋光度[α]は、+14.2〜+17.5°であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明では、タンパク質を含んだ粗多糖およびタンパク質を取り除いた精製多糖について細胞障害活性の検討を行ったが、精製多糖に白血病細胞(U937細胞)に対する細胞障害活性が認められた。
【0112】
従って、本発明のハツタケまたはアカハツからの多糖類は、その生理活性を医薬品あるいは健康補助食品として利用することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類。
【請求項2】
構成糖のモル比として、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有することを特徴とする請求項1記載の新規生理活性多糖類。
【請求項3】
請求項第2項記載の新規生理活性多糖類を含有する医薬品。
【請求項4】
請求項第2項記載の新規生理活性多糖類を含有する健康食品。
【請求項5】
ハツタケ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ溶液、またはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする請求項第2項記載の新規生理活性多糖類の製造方法。
【請求項6】
ハツタケまたはアカハツ粉体を熱水、ショウ酸、ショウ酸アンモニウム、炭酸カルシウム、アルカリで抽出し、塩酸、硫酸またはショウ酸を加えて加水分解を行いアルカリで中和後、分離、濃縮およびアルコールで結晶化させることを特徴とする6−ディオキシ−D−アルトロースの製造方法。
【請求項7】
構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする請求項1記載の新規生理活性多糖類。
【請求項8】
請求項第7項記載の新規生理活性多糖類を含有する医薬品。
【請求項9】
請求項第7項記載の新規生理活性多糖類を含有する健康食品。
【請求項10】
アカハツ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ溶液、またはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする請求項第7項記載の新規生理活性多糖類の製造方法。
【請求項1】
構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする新規生理活性多糖類。
【請求項2】
構成糖のモル比として、グルコースを1.5〜3.0、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.3〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.0、マンノースを0.1〜0.5で含有することを特徴とする請求項1記載の新規生理活性多糖類。
【請求項3】
請求項第2項記載の新規生理活性多糖類を含有する医薬品。
【請求項4】
請求項第2項記載の新規生理活性多糖類を含有する健康食品。
【請求項5】
ハツタケ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ溶液、またはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする請求項第2項記載の新規生理活性多糖類の製造方法。
【請求項6】
ハツタケまたはアカハツ粉体を熱水、ショウ酸、ショウ酸アンモニウム、炭酸カルシウム、アルカリで抽出し、塩酸、硫酸またはショウ酸を加えて加水分解を行いアルカリで中和後、分離、濃縮およびアルコールで結晶化させることを特徴とする6−ディオキシ−D−アルトロースの製造方法。
【請求項7】
構成糖のモル比として、グルコースを0.5〜2.5、ガラクトースを0.7〜1.5、グルクロン酸を0.1〜1.0、6−ディオキシ−D−アルトロースを0.2〜1.5、マンノースを0.05〜0.5で含有することを特徴とする請求項1記載の新規生理活性多糖類。
【請求項8】
請求項第7項記載の新規生理活性多糖類を含有する医薬品。
【請求項9】
請求項第7項記載の新規生理活性多糖類を含有する健康食品。
【請求項10】
アカハツ子実体および/または菌糸体を熱水、アルカリ溶液、またはシュウ酸アンモニウム溶液で抽出することを特徴とする請求項第7項記載の新規生理活性多糖類の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−18607(P2010−18607A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139080(P2009−139080)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
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