説明

生産管理方法及び生産管理システム

【課題】電子デバイスの製造に関し、設備停止に対して在庫分布の偏りを発生させ難く、納期遵守率の高い生産ラインを構築する。
【解決手段】生産ラインへのロットの投入日時からロットの進行計画における現在の工程nの処理開始計画日時までの時間T(n)、及び実績の工程n処理開始日時までの時間Tr(n)から、進行計画と実績進行の乖離率α=Tr(n)/T(n)を各ロット毎に計算して、各ロットの乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算する。もしくは納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分である納期リードタイムLT、製造プロセスの全工程の累積加工時間t(x)から、補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを各ロット毎に計算して、各ロットの乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造工程管理に適用される生産管理方法及び生産管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置などの電子デバイスを製造する生産ラインでは、同じ設備や工程を用いて製造工程フローの異なる複数の品種の製品が混在した状態で製造されている。また、その製造工程フローの工程数は数〜数百までさまざまであり、その工程数や製品の市場要求度に応じて各製品毎に異なる計画リードタイムが設定されている。このように複雑化した生産ラインではロットの納期管理が非常に困難となる。
【0003】
その問題の解決手段の1つとして、製品処理の進行計画と進行実績との差異を計算して計画に対する遅れ時間の大きなロットから優先して処理を実施することで遅れを取り戻し完成予定日を納期期日に近付けるという納期管理手法がある。
【0004】
しかしながら、前記方法は、製造工程数や計画リードタイムの異なる製造工程フローが混在する生産ラインでは、製造工程数の多少や計画リードタイムの長短に関わらず進行計画からの遅れ時間の絶対値に基づいて処理優先順位を決定するため、比較的に計画との差異が生じ易い工程数の大きな製品のロットを優先的に処理を実施して、工程数の小さな製品のロットを後回しになり、全ての製品の完成予定日を納期期日に近付けることができないという課題がある。
【0005】
前記課題を解決するために、特許文献1では、現時点から完成予定日までの残り期日に対する進行計画と進行実績との差異の比率をロット毎に算出して、それに基づいてロットの処理優先順番を決定する手法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−237938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製造ラインの製造完了したロットのうち納期期日を満たしたロットの割合を納期遵守率という。この納期遵守率を向上させる施策としては、リードタイムの短縮と、リードタイムばらつきの削減との2つの施策があり、全ての納期管理手法,システムは、このいずれか、あるいは両方を改善することで納期遵守率を向上させるために機能している。この考え方の概念を図6に示す。
【0007】
目標生産数量を満たす十分な生産能力を有する生産ラインにおいて、リードタイムが長期化する最大の要因は設備故障などの計画外停止である。ある設備で計画外停止が発生すると、その設備へのロットの流入量と設備からの払い出し量のバランスが崩れるために、滞留ロットが発生する。この滞留ロットの数が多ければ多いほど、リードタイムは長期化する。
【0008】
同様にリードタイムばらつきが発生する要因も、計画外の設備停止に起因する滞留ロットであり、設備停止により停滞したロットと停滞しなかったロットの間でリードタイムばらつきが発生する。リードタイムばらつきは、滞留したロットが当該設備から無くなるまでの所要時間H[hr]が長いほど大きくなる。滞留ロットは設備停止から復旧した瞬間から設備能力に応じた速度で減少してゆく。
【0009】
滞留したロットが当該設備から無くなるまでの所要時間H[hr]は、設備のスループットTh[ロット/hr]、当該設備へのロットの流入速度m[ロット/hr]、設備の停止期間TDOWN[hr]より、H=(m×TDOWN)/(Th−m)の式により表される。ここで分母となるTh−mはこの設備の余剰能力を示す。余剰能力が小さければ小さいほど所要時間Hは長期化する。
【0010】
半導体製造装置の価格は他業種の製造装置よりも非常に高価であり、そのため設備の余剰能力はコスト削減の目的で、できる限り持たないことが一般的である。
【0011】
以上のことから所要時間Hを短縮させるためには、1)設備へのロットの流入速度mを減少させる、2)設備停止時間TDOWNを短縮する、3)設備スループットThを向上させる、の施策が有効であることがわかる。
【0012】
しかしながら、前記1)は生産ラインへの要求生産量により決定されるため変更することはできない、前記2),3)は設備の仕様、処理能力、運用などに起因する値であるため生産ライン管理手法の改善では、変更させることができない。そのため生産ライン管理の改善によりリードタイムばらつきを抑制する手段としては、設備へのロットの流入速度mのばらつきを抑制することが最も効果的である。
【0013】
生産ラインの生産数量が一定である場合、例えば1ヶ月などの長周期で見ると流入速度mの平均値は一定となる。しかしながら、それより短い例えば1日以下の周期で見ると、流入速度mの値は変動してばらつく。mが一定ではないと設備停止によるリードタイムばらつきが大きくなる。設備停止以外で、前記流入速度mを変動させる要因としては、ロットの処理優先の偏りがある。そのため納期遵守率の高い生産ラインの構築には、ロットの処理優先の偏りを最小限にしながらも製品ロットの完成を納期期日に合わせる生産管理手法が必要となる。
【0014】
特許文献1に記載の生産管理手法では、製造工程フローが進捗するにつれてリードタイムを納期日に収束させるため、製造工程フローの後半のロットほど処理を優先するロジックとなっており、設備へのロットの流入速度mの値がばらつく。そのために処理が遅れる製造工程フローの前半に在庫ロットが集中して、在庫分布に偏りが生じるという課題がある。これにより、納期期日までに完成できないロットが発生して、納期遵守率が低下する。また、特定設備にて多数のロットが滞留している間、他設備に行くロットが減少するため、他設備に稼働ロスが発生する。
【0015】
このように在庫分布に偏りがあると、計画外の設備停止に対して脆弱な生産ラインとなるため、納期遵守率の高い生産ラインを構築するためには、在庫分布が均一であることが必須となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明の特徴は、複数の生産工程を有する電子デバイスの製造プロセスを複数種類有する電子デバイスの生産ラインにおいて、生産ラインへのロットの投入日時からロットの進行計画における現在の工程nの処理開始計画日時までの時間T(n)、及び実績の工程n処理開始日時までの時間Tr(n)から進行計画と実績進行の乖離率α=Tr(n)/T(n)を各ロット毎に計算して、各ロットの乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算することを特徴とする生産管理方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明の特徴は、納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分である納期リードタイムLT、製造プロセスの全工程の累積加工時間t(x)から補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを計算して、各ロットの補正乖離率α’に基づいてロットの処理優先準を決定することを特徴とする請求項1記載の生産管理方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明の特徴は、全工程の累積加工時間t(x)及び納期リードタイムLTからXFAC=LT/t(x)となるロット進行係数XFACを算出して、XFACを各工程の加工時間に掛けあわせることで各工程の計画リードタイムを作成、この各工程の計画リードタイムを累積することで進行計画を作成することを特徴とする請求項1、2記載の生産管理方法である。
【0019】
請求項4に記載の発明の特徴は、複数の生産工程を有する電子デバイスの製造プロセスを複数種類有する電子デバイスの生産ラインにおいて、各ロット、各工程及び各設備の処理履歴をリアルタイムで収集する処理実績収集部、実績の処理履歴を保持する処理実績データベース部、実績の処理履歴に基づいて各工程の標準作業時間を決定する標準作業時間算出部、各ロット毎に納期期日を設定する納期設定部、処理実績データベース部の処理履歴、標準時間算出部により算出される各工程の標準時間及び納期設定部により各ロット毎に設定される納期期日に基づいて各ロット毎に進行計画を立案する進行計画立案部、処理実績データベースに蓄積されている各ロット毎の各工程の実績リードタイムを累積してロット毎にロット進行実績Tr(n)を作成する進行実績計算部、進行計画立案部及び進行実績計算部により算出された進行計画T(n)及び進行実績Tr(n)より各ロット毎に乖離率α=Tr(n)/T(n)を算出する乖離率算出部、乖離率算出部により算出された乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算する処理優先順位算出部、処理優先順位算出部の指示に従って生産ラインの全ロットに配膳の指示を実施するディスパッチング部、を有することを特徴とする生産管理システムである。
【0020】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項4記載の生産管理システムに加え、各ロット毎に納期期日を設定する納期設定部と、納期設定部により設定された納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分である納期リードタイムLTと、製造プロセスの全工程の累積加工時間t(x)から補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを算出する機能を持つ乖離率算出部を有することを特徴とする生産管理システムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電子デバイスの製造に関して、設備停止に対して頑健な生産ラインを構築することが可能であり、それにより製品を納期期日以内に完成させることができるため、納期遵守率の高い生産管理システムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態として生産管理システムにおける生産管理に関して、以下に図面を参照して説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は本発明の生産管理システムの第1の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、工程1から工程xまで含む生産ライン10から各設備毎の処理ロット,処理条件,在庫ロット,処理開始終了日時及び稼働状況などの生産ラインデータを常時収集する処理実績収集部1と、処理実績収集部1から得られた生産ラインデータを蓄積する実績処理データベース部2と、実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータに基づいて各工程毎に標準作業時間及び標準加工時間を算出する標準作業時間算出部3と、標準作業時間算出部3により算出された標準作業時間から、各工程の標準作業時間を各製品の製造工程フローに合わせて組み合わせた上で納期期日を考慮して進行計画T(x)をロット毎に立案する進行計画立案部4と、進行計画立案部4により各ロット毎に立案された進行計画T(n)と、処理実績データベース2に蓄積されている各ロット毎の各工程の実績リードタイムを累積してロット毎にロット進行実績Tr(n)を作成する進行実績算出部6と、進行実績算出部6により算出された進行実績Tr(n)と進行計画T(n)とから、乖離率α=Tr(n)/T(n)を各ロット毎に算出する乖離率算出部7と、乖離率算出部7により算出された乖離率αに基づいて各ロット毎に処理優先度を計算する処理優先順位算出部8と、処理優先順位算出部8により計算された処理優先順位に基づいて生産ラインに対してロットの配膳を指示するディスパッチング部9とを備えている。
【0025】
標準作業時間算出部3は、処理実績データベース部2から過去一定期間内に同一条件で処理が実施された同一工程のリードタイムデータからの平均リードタイムを全工程において算出する。進行計画立案部4は、標準作業時間算出部3の各工程の平均リードタイムを各製造工程フローに合わせて累積してロット進行計画T(x)を作成する。
【0026】
例えば、工程a,b,c,d,eの平均リードタイムをTa,Tb,Tc,Td,Teとして、a,b,c,d,eの順番で工程を処理する工程数x=5の製造工程フローAがある場合、ロットの計画リードタイムT(x)は工程数x=5であることから、T(5)= Ta+Tb+Tc+Td+Teとなり、工程数=xの場合の計画リードタイムはT(x)となる。また、生産開始から3工程まで処理を進めた時点での計画処理完了時刻T(n)は、n=3であることから生産開始時点を基準とすると、T(3)=Ta+Tb+Tcとなり、工程数=nまで進めた場合の計画処理完了時刻はT(n)となる。
【0027】
進行実績計算部6は、実績処理データベース2の当該ロットの当該工程の実績リードタイムを累積して、ロット毎にロット進行実績Tr(x)を作成する。工程nまで処理が完了しているロットの工程nの実績処理完了時刻はTr(n)で表される。
【0028】
乖離率算出部7は、進行計画立案部4からのロットの進行計画T(n)と進行実績計算部6からの進行実績Tr(n)に基づいて、乖離率α=Tr(n)/T(n)を各ロット毎に算出する。この乖離率αの算出は、リアルタイムの情報に基づいて周期的に実施され、特に電子デバイスの生産ラインにおいては、1〜60分程度の周期で実施されることが好適である。
【0029】
このように算出された乖離率αは、計画に対する実績の進捗度合いを示す。乖離率α>1のロットは進行計画に対して遅延しており、α=1のロットは計画どおりの進行をしており、α<1のロットは進行計画に対して先行している。
【0030】
処理優先順位計算部8は、実績処理データベース部2からの各工程、各設備毎の仕掛り在庫ロットのリアルタイム情報と、乖離率算出部7により各ロット毎に算出された乖離率αから、各工程,各設備毎に乖離率αの大きなロットから優先的に処理を実施できるように処理優先順位を決定する。
【0031】
次に、本実施の形態に係る生産管理手法をシミュレーションにより効果検証を実施した結果について説明する。
【0032】
シミュレーション条件として、2つの異なる製品を製造する生産工程フローC1,C2からなり、それぞれの工程数は200以上であり、且つ100以上の工程数の差異があり、それぞれの製品の生産数量比率は2:1であり、実績に則した設備停止設定を伴う100機種以上の生産設備が紐付いており、特に、そのうちのボトルネック設備,生産ライン中、最も余剰能力を有していない設備は、工程数=6であり、計画生産数量に対して余剰能力を5%以下しか有していない生産ラインモデルを想定する。
【0033】
このモデルにて360日間シミュレーションを実施して、開始から180日間のデータを初期状態として集計から削除して、後半180日間を観測期間とした。
【0034】
この条件にて、請求項1記載の生産管理方法、及び特許文献1記載の生産管理方法の2つの生産管理方法にてシミュレーションを実施した。
【0035】
図2に前記両生産管理手法により処理を完了した生産工程フローC1のロットの進捗実績Tr(n)の平均を図示する。図中にて横軸は進行工程フロー、縦軸はリードタイムを示し、Aは請求項1記載の生産管理方法により得られた平均進行実績TrA(n)であり、Bは特許文献1記載の生産管理方法により得られた平均進行実績TrB(n)であり、n1,n2,n3,n4,n5,n6はボトルネック設備に紐付く工程であり、LTは納期リードタイムLTを表す。
【0036】
図2によれば、特許文献1記載の生産管理方法は、完成に近いロットほど優先的に処理を実施することから工程数=6を持つボトルネック設備において、最も完成から遠い工程n1に滞留が集中していることが分かる。一方、請求項1記載の生産管理方法では6つの工程に均等に滞留が分散していることから、請求項1記載の生産管理方法の方が在庫分布の均一性に優れていることがわかる。特許文献1記載の生産管理方法により得られた平均実績リードタイムTrB(x)は、請求項1記載の生産管理方法により得られた平均実績リードタイムTrA(x)よりも6.0%短い。このことは、特許文献1の生産管理方法が完成に近いロットほど優先的に処理を実施することにより、全生産ラインの総在庫量が請求項1記載の生産管理方法に比べ少なくなることによる。
【0037】
図3に前記両生産管理手法により処理を完了した生産工程フローC1のロットの実績リードタイムTr(x)の分布を示す。図中にて横軸はリードタイムTr(x)、縦軸は製品完成の発生頻度を示し、Aは請求項1記載の生産管理方法により得られた平均実績リードタイムTrA(x)であり、Bは特許文献1記載の生産管理方法により得られた平均進行実績TrB(x)である。
【0038】
図3によれば、特許文献1記載の生産管理方法により得られた実績リードタイム分布は、請求項1記載の生産管理方法により得られた実績リードタイム分布よりも広い分布を有することが分かる。このことは、特許文献1記載の生産管理方法が在庫分布の偏りを生じやすく、そのために計画外の設備停止に対してリードタイムがばらつき易い生産ラインであることによる。それぞれの生産管理方法における納期遵守率は、請求項1記載の生産管理方法では99%以上なのに対し、特許文献1記載の生産管理方法では平均実績リードタイムがTrB(x)<TrA(x)であるにも係らず96.8%であることから、請求項1記載の生産管理方法の方が納期遵守率の向上に適していることが分かる。
【0039】
以上のことから、両生産管理手法にはそれぞれ特徴があることが分かる。特許文献1の生産管理方法は、設備の理論上、計画外停止のない環境ではリードタイム短縮、ばらつきの抑制の両方の効果により納期遵守率を改善することができる。一方、請求項1記載の生産管理方法では、設備の計画外停止の多発する環境でリードタイムばらつきを抑制する効果により納期遵守率を改善する。そのため対象の生産ラインが安定している場合には特許文献1の生産管理方法が有利となるが、不安定な生産ラインでは請求項1記載の生産管理方法が有利となる。
【0040】
製品である電子デバイスは、近年ますます技術的に高度となり、設備に要求するプロセススペックも厳しくなっていくことから、従来なら設備異常として見做さない、例えば設備の処理室0.1℃程度の極めて微少なプロセス条件の揺らぎでも、現在では設備異常と判断して設備を計画外停止させているため、計画外停止が従来よりも高い頻度で発生する。従来の要求するプロセススペックが緩く、そのために安定した生産ラインでは特許文献1記載の生産管理方法が有効であったため、請求項1記載の生産管理方法は不要であった。しかしながら、前記のような理由により近年の生産ラインは不安定化しており、従来では通用した特許文献1の生産管理方法よりも、請求項1記載の生産管理方法の方が優れている。
【0041】
(第2の実施形態)
図4は本発明の生産管理システムの第2の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。前記第1の実施形態に対して、納期設定部5を備えている点が異なる。
【0042】
納期設定部5は、各ロット毎に計画投入日時と市場の製品要求度に応じて納期期日を設定する。この納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分を納期リードタイムLTとして、標準作業時間から算出される計画リードタイムT(x)と区別する。
【0043】
進行計画立案部4は、前記納期リードタイムLT,計画リードタイムT(x)、及び生産工程フローの全工程の累積加工時間t(x)に基づいて補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを各ロット毎に算出する。処理優先順位算出部8は、実績処理データベース部2からの各工程,各設備毎の仕掛り在庫ロットのリアルタイム情報と、乖離率算出部7により各ロット毎に算出された乖離率α’から、各工程,各設備毎に乖離率α’の大きなロットから優先的に処理を実施できるように処理優先順位を決定する。
【0044】
通常、納期期日は納期リードタイムLTがLT=T(x)となるように設定するか、または一定の安全係数S≧1を掛けてLT=S・T(x)となるように設定する。市場の製品要求度の高い製品のロットに関しては、同一生産工程フローを持つロットであっても、他のロットよりもより早い納期期日を要求されるため、補正乖離率α’が大きくなり、その結果優先的に処理が実施される。
【0045】
(第3の実施形態)
図5は本発明の生産管理システムの第2の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。前記第2の実施形態に対して、ロット進行係数設定部11を備えている点が異なる。
【0046】
ロット進行係数設定部11は、ロット毎に生産工程フローの全工程の累積加工時間t(x)及び納期リードタイムLTからXFAC=LT/t(x)となるロット進行係数XFACを算出する。生産計画立案部4は、各工程の加工時間に、前記ロット進行係数XFAC、及び一定の係数S’≧0を掛けて各工程の工程リードタイムを算出し、この工程リードタイムを生産工程フローに合わせて累積することで進行計画を作成する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、生産管理方法及び生産管理システムは、電子デバイスの製造工程管理に実施して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の生産管理システムの第1の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図
【図2】本実施の形態の生産管理方法によるシミュレーションにより得られた平均進行実績を示す図
【図3】本実施の形態の生産管理方法によるシミュレーションにより得られたリードタイムばらつきを示す分布図
【図4】本発明の生産管理システムの第2の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図
【図5】本発明の生産管理システムの第3の実施の形態におけるハードウェアの構成を示すブロック図
【図6】本発明の解決する課題を説明するための図
【符号の説明】
【0049】
1 処理実績収集部
2 実績処理データベース部
3 標準作業時間算出部
4 進行計画立案部
5 納期設定部
6 進行実績算出部
7 乖離率算出部
8 処理優先順位算出部
9 ディスパッチング部
10 生産ライン
11 ロット進行係数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の生産工程を有する電子デバイスの製造プロセスを複数種類有する電子デバイスの生産ラインにおける生産管理方法であって、
生産ラインへのロットの投入日時からロットの進行計画における現在の工程nの処理開始計画日時までの時間T(n)、及び実績の工程n処理開始日時までの時間Tr(n)から進行計画と実績進行の乖離率α=Tr(n)/T(n)を各ロット毎に計算して、各ロットの乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算することを特徴とする生産管理方法。
【請求項2】
納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分である納期リードタイムLT、製造プロセスの全工程の累積加工時間t(x)から補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを計算して、各ロットの補正乖離率α’に基づいて前記ロットの処理優先順を決定することを特徴とする請求項1記載の生産管理方法。
【請求項3】
全工程の累積加工時間t(x)及び納期リードタイムLTからXFAC=LT/t(x)となるロット進行係数XFACを算出して、前記XFACを各工程の加工時間に掛けあわせることにより各工程の計画リードタイムを作成し、この各工程の計画リードタイムを累積することによって進行計画を作成することを特徴とする請求項1または2記載の生産管理方法。
【請求項4】
複数の生産工程を有する電子デバイスの製造プロセスを複数種類有する電子デバイスの生産ラインにおける生産管理システムであって、
各ロット,各工程及び各設備の処理履歴をリアルタイムで収集する処理実績収集部と、実績の処理履歴を保持する処理実績データベース部と、実績の処理履歴に基づいて各工程の標準作業時間を決定する標準作業時間算出部と、各ロット毎に納期期日を設定する納期設定部と、前記処理実績データベース部の処理履歴と前記標準作業時間算出部により算出される各工程の標準時間及び納期設定部により各ロット毎に設定される納期期日に基づいて各ロット毎に進行計画を立案する進行計画立案部と、前記処理実績データベース部に蓄積されている各ロット毎の各工程の実績リードタイムを累積してロット毎にロット進行実績Tr(n)を作成する進行実績計算部と、前記進行計画立案部及び前記進行実績計算部により算出された進行計画T(n)及び進行実績Tr(n)より各ロット毎に乖離率α=Tr(n)/T(n)を算出する乖離率算出部と、前記乖離率算出部により算出された乖離率αに基づいてロットの処理優先順位を計算する処理優先順位算出部と、前記処理優先順位算出部の指示に従って生産ラインの全ロットに配膳の指示を実施するディスパッチング部とを有することを特徴とする生産管理システム。
【請求項5】
各ロット毎に納期期日を設定する納期設定部と、前記納期設定部により設定された納期期日と生産ラインへのロットの計画投入日時との差分である納期リードタイムLTと、製造プロセスの全工程の累積加工時間t(x)から補正乖離率α’=Tr(n)/T(n)×t(x)/LTを算出する機能を持つ乖離率算出部とを有することを特徴とする請求項4記載の生産管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−287479(P2008−287479A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131555(P2007−131555)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】