説明

画像処理装置、画像形成装置、原本判定方法、画像形成方法

【課題】コスト増を抑制して、原稿の原本性を確認可能な画像処理装置を提供することができる。
【解決手段】原稿を読み取り画像データを生成する画像処理装置100であって、前記画像データから情報記録マーク30を抽出して情報記録マークに符号化されている、前記画像データの原本である原稿の画像データ情報を復号化する復号化手段31と、前記画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出する中間調領域抽出手段34と、前記画像データ情報に基づき、前記中間調領域の読み取り画像データと、原本の前記中間調領域の原本画像データの一致度を算出する一致度算出手段32,35と、前記一致度に基づき、前記画像データの原稿が原本か否かを判定する原本判定手段33と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原稿の原本性を評価する画像処理装置、画像形成装置、原本判定方法及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーコピー機の高性能化が進行しており、各種証明証や権利書、有価証券、チケットなど、本来、複製されるべきでない文書が、複製であることが分からないぐらい精密に複製されるようになっている。このような複製は、法上の偽造に当たる場合もあり、複写機はこれを回避する手段を備えるべきある。
【0003】
文書の偽造を回避する方法として、原本に通常のコピー機では読み取り・印刷できない透明トナーで不可視パターンを印刷しておき、紫外線照射によってこのパターンを読取ることで原本であることを確認する方法が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、特別な材料を使わない方法では、予め原本を読み取り、印刷時に再現不能な画像特徴を抽出して別途記録しておき、これを利用して複写対象の原稿が原本であるか否かを判定する方法が考案されている(例えば、特許文献2参照。)。印刷時に再現不能な画像特徴は、例えば、トナーの飛び散りの状態や浸透ムラの状態であり、これはスキャナが読み取っても画像形成装置が印刷時に再現できないので、複写対象の原稿が原本でなければ、これらの画像特徴が一致することはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された、印刷時に特殊な材料を用いる方法は、特殊な材料や紫外線を当てるといった特殊な読取り装置が必要なため、コストが高くなるという問題がある。
【0006】
また特許文献2に開示された方法は、印刷時に特別な材料は不要であるが、原本の読み取り時及び複写対象の原稿の読み取り時にかなり精細な画像特徴を読取る必要があるため、通常のコピー機などより高精度の読み取り装置が必要でコストが高くなるという問題がある。また、ちょっとした画像の汚れ、擦れなどで原本の微細な特徴が変化するおそれがあるため、原本を読み取った際に原本でないと判定されるおそれもある。また、特許文献2に開示された方法は、原本をスキャナで読み取らないと画像特徴が得られないので、原本の印刷の度にスキャナで読み取る必要があるなど、原本の印刷時の操作性が低下する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、コスト増を抑制して、原稿の原本性を確認可能な画像処理装置、画像形成装置、原本判定方法、画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、原稿を読み取り画像データを生成する画像処理装置であって、前記画像データから情報記録マークを抽出して情報記録マークに符号化されている、前記画像データの原本である原稿の画像データ情報を復号化する復号化手段と、前記画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出する中間調領域抽出手段と、前記画像データ情報に基づき、前記中間調領域の読み取り画像データと、原本の前記中間調領域の原本画像データの一致度を算出する一致度算出手段と、前記一致度に基づき、前記画像データの原稿が原本か否かを判定する原本判定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
コスト増を抑制して、原稿の原本性を確認可能な画像処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】原本の判定方法を説明する図の一例である。
【図2】原稿の複写時の処理による本実施形態の原理的な説明図の一例である。
【図3】ディザマトリクスの一例を示す図である。
【図4】中間調処理の違いを示す実際の画像データの一例である。
【図5】画像形成装置のハードウェア構成図の一例である。
【図6】画像形成装置の原本印刷時の機能ブロック図の一例である。
【図7】画像形成装置が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である。
【図8】画像形成装置がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順を示すフローチャート図の一例である。
【図9】画像形成装置の原本印刷時の機能ブロック図の一例である(実施例2)。
【図10】画像形成装置が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である(実施例2)。
【図11】画像形成装置がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順を示すフローチャート図の一例である(実施例2)。
【図12】ガボール・フィルタを説明する図の一例である。
【図13】画像形成装置の原本印刷時の機能ブロック図の一例である(実施例3)。
【図14】画像形成装置が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である(実施例2)。
【図15】画像形成装置がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順を示すフローチャート図の一例である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の原本の判定方法を説明する図の一例である。図1(a)は原本である印刷物(以下、単に原本という)を、図1(b)は原本の複写物(以下、複写印刷物という)を示す。なお、本実施形態の原本とは、電子ファイルから直接記録媒体に印刷された原稿をいう。また、原本と複写印刷物を区別しない場合、単に原稿ということにする。
【0013】
本実施形態の画像形成装置は、原本を印刷する際、原本の電子ファイルには含まれないバーコードや2次元コード(以下、単にバーコードという)30を印刷する。バーコード30には、原本の絵柄部に関する情報が含まれている。
【0014】
多値の画像データをドットの集合で表現する画像形成装置は、絵柄部など中間調領域をディザマトリクスを使って量子化することで中間調を表現する。この時、ディザマトリクスのスクリーン角度の影響により、絵柄部の画像データは図示するように、ライン状のドットパターンが形成される。図では原本のドットパターンは右下がり45度になっている。
【0015】
これに対し、複写印刷物の同じ絵柄部のドットパターンは左下がり45度になっている。このように同じ画像形成装置でも、中間調領域にはディザマトリクスの影響が現れ、原本と複写印刷物とで同一にはならないことが多い。したがって、肉眼では同じように見える原本と複写印刷物であっても、中間調領域を画素レベルで比較すれば、原本と複写印刷物にはディザマトリクスの影響による明確な違いが検出される。
【0016】
この現象を利用すれば、画像形成装置はスキャナで読み取った原稿が原本か複写印刷物かを判定できる。すなわち、画像形成装置は、原稿を読み取り絵柄部の画像データを抽出するとともに、バーコード30に含まれる原本の絵柄部に関する情報を復号化する。画像形成装置は、原本の絵柄部に関する情報に基づき、絵柄部の画像データを検証することで、読み取った原稿が原本か複写印刷物かを判定できる。
【0017】
なお、バーコード30に含まれる絵柄部に関する情報とは、例えば、絵柄部の画像データの画素値(実施例1)やスクリーン特徴情報(実施例2)である。
【0018】
図2は、原稿の複写時の処理による本実施形態の原理的な説明図の一例である。図1で説明した原本と複写印刷物におけるディザマトリクスの影響についてより詳細に説明する。
【0019】
スキャナ11は、原稿を載置するためのコンタクトガラスと、露光ランプと、ミラー系、撮像素子(フルカラーCCD)及び駆動系(ステッピングモータ)等を有する。原稿を読み取る際、露光ランプとミラー系が移動することによって、原稿の画像面の全体が光学的に走査される。原稿の画像面の像はミラー系によって撮像素子に導かれ光電変換され、カラー又は白黒の画像データが生成される。
【0020】
プロッタ12は、電子写真方式又はインクジェット方式の画像形成エンジンであり、文字部用画像処理又は絵柄部用画像処理が施された画像データを、トナー画像又はインクの液滴画像として記録媒体に形成する。電子写真方式のプロッタ12は、感光体の周囲に配置された帯電部、現像部、クリーニング部等を有し、感光体の外周面に色画像データに応じて形成された静電潜像に、トナーを付着させ顕像化する。この後、トナー画像は記録媒体に転写され定着装置で記録媒体に定着される。また、インクジェット方式のプロッタ12は、記録媒体の主走査方向の全域に記録ヘッドを配置して、記録ヘッドから画像データに応じて記録液(インク)の液滴を吐出して画像を形成する(ライン型)。または、記録ヘッドが主走査方向に往復走査しながら、液滴を吐出して画像を形成するタイプもある。
【0021】
画質向上の観点から、複写機では、原稿から読み取った画像をエッジ領域と、非エッジ領域とに区分して、それぞれに適切な画像処理を施している。一般に、エッジ領域は、文字や線画が描かれた領域であり(以下、文字部という)、非エッジ領域は写真や絵が描かれた領域である(以下、絵柄部という)。
【0022】
これにより、画像形成装置の画像処理部22は、絵柄部と文字部にそれぞれ最適な画像処理を施すことが可能になる。
【0023】
画像処理部22による文字部と絵柄部の領域判定方法は公知であるが、例えば、画像処理部22は、画像データから縦横のエッジ検出の処理を施し、所定値以上のエッジ強度のエッジを検出する。所定値以上のエッジ強度が検出される領域が文字部であり、それ以外の領域が絵柄部である。
【0024】
また、文字部は画素の密度が高い領域と、画素の密度が低い(ほとんど画素がない)領域とが混在し、かつ、エッジ部分で2つの領域が連続している。これを利用して、文字部を抽出して、文字部以外を絵柄部としてもよい。
【0025】
このようにして分離した文字部に対し、画像処理部22は、文字画像用の画像処理を施し、絵柄部に対し絵柄部用画像処理を施す。画像処理部22は、文字や線などの元来2値画像の文字部に対し、エッジ強調フィルタをかけたり、所定の閾値による二値化処理を行い、エッジ強調処理を行う。このように、文字部には中間調処理は施されない。
【0026】
これに対し、絵柄部(網点などで表現された中間調部分)は、原稿の印刷時に施された中間調処理のスクリーン線と、これから画像形成装置が施す中間調処理のスクリーン線の周期が干渉してモアレを発生しないよう、画像処理部22は絵柄部に平滑化処理を行なってから出力用の中間調処理を行うことが一般的である。
【0027】
平滑化処理は公知であるが、例えば、画像処理部22は所定の平滑化フィルタを絵柄部に施す。例えば、画像処理部22は着目画素に平滑化フィルタの係数を乗じて各値の総和を係数の数で除した値を、着目画素の画素値に設定する。なお、この処理はR・G・Bの各色毎に行われる。
【0028】
中間調処理は、画像データが1ピクセルあたり8〜12ビットといった多値データを持つのに対し、記録媒体に画像を形成する際は、1ピクセルあたりで表現が可能な階調数(トナーではCMYKの4色が多い)が少ないため、ドットの数(又はドットの大小)で擬似的な階調表現を可能とする技術である。
【0029】
中間調処理としてはディザ法がよく用いられるが、ディザ法に用いられるディザマトリクスには大きく、ドット集中型(ドットスクリーン)、万線型(ラインスクリーン)等がある。これらはディザマトリクスの閾値の配置に特徴がある。
【0030】
ドット集中型(ドットスクリーン)のディザマトリクスは、垂直方向と水平方向のある数の閾値毎に周期的に小さな閾値を配置することで、ドット単位に画素が分布することを誘導するマトリクスである。閾値の配置を調整することで、周期性に角度をもたらすこともでき、このような角度をスクリーン角度という。ドット集中型のディザマトリクスにより、ドット状のパターンによる擬似的な中間調が表現される。
【0031】
また、万線型(ラインスクリーン)は、所望の角度の方向に連続して小さい閾値を配置すすることで、ライン状に画素が分布することを誘導するマトリクスである。ラインスクリーンのこの角度もスクリーン角度と呼ばれる。
【0032】
いずれのディザマトリクスも、画像の精細度とプロッタ12の出力解像度からスクリーン線数が決まっており、スクリーン角度とスクリーン線数がディザマトリクスを特徴付ける指標となる。
【0033】
図3(a)(b)は原本を印刷する際の万線型のディザマトリクスの一例を示す図である。中間調処理において、画像処理部22は着目している画素の画素値と対応するディザマトリクスの閾値を比較して、画素値が閾値を以上であればその色のドットを配置すると判定し、画素値が閾値未満であればその色のドットを配置しないと判定する。ディザマトリクスを画像データの全面にあてはめることで図3(a)の下図のようなドットパターンが得られる。また、閾値の配置が異なる図3(b)では、図3(a)と角度が異なるドットパターンが得られる。
【0034】
なお、この例では1又は0の2値データであるが、ディザマトリクスを複数枚用意することで、各色毎に、4値データ(3枚のディザマトリクス)、8値データ(7枚のディザマトリクス)、又は、16値データ(15枚のディザマトリクス)の画像データが得られる。
【0035】
このように、画像処理部22は、原稿の画像データの中間調部分(絵柄部)の印刷時の中間調表現を一旦、平滑化処理によってつぶした後、所定のディザマトリクスを用い中間調表現で再構成する。
【0036】
従って、画素レベルで見ると、中間調処理が施された領域(絵柄部)は、原稿をコピーしたにも関わらず、画像データは再現されない。すなわち、印刷された絵柄部は、肉眼と同定度の解像度では同じように見えるように再構成された画像データを有するに過ぎない。
【0037】
ところで、画像形成装置の中間調表現は、ディザ法とそれ以外の方法、又は、ディザ法でも上記のマトリックスに違いがあるため、画像形成装置の中間調処理は機種毎に異なっているのが普通である。一台の同じ画像形成装置(コピー機能とプリンタ機能を有する複合機の場合)でさえ、プリンタとして印刷する場合(原本印刷時)と、原稿をコピーする場合(複写物印刷時)とで、中間調表現は異なっているのが普通である。
【0038】
図4は、中間調処理の違いを示す実際の画像データの一例である。図4(a)は原本を図4(b)は複写印刷物をそれぞれ示す。元の画像データは四角形の絵であり、黒細線枠内がライム色で塗りつぶされている。具体的にはライム色のパッチを印刷したものである。なお、図4(a)(b)はいずれも600dpiでカラー(R・G・B)スキャンした画像である。
【0039】
画像形成装置は、原本を印刷する際は、黒枠線にはエッジ強調処理を行い、枠線の内側には中間調処理を施す。この原本をスキャナ11で読み取って、複写印刷物を印刷する際は、黒枠線にはエッジ強調処理を行い、枠線の内側には平滑化処理を施した後、中間調処理を施す。
【0040】
図では白黒のため分かりにくいが、原本は、右下がり30度のスクリーン角度のディザマトリクスにより中間調処理されたことが分かる。スクリーン角度はC・M・Y・K毎に異なるが、色調からこのスクリーン角度のディザマトリクスはシアンのものである。
【0041】
これに対し、原本を印刷した画像形成装置が原本をスキャナ11で読み取りプロッタ12で印刷した複写印刷物では、左下がり30度のスクリーン角度になっている(こちらもディザマトリクスはシアンのものである)。複写印刷物には平滑化処理が施されるが、平滑化処理で十分に元のスクリーンの成分(高周波成分)が平滑化しきれていないため、原本ほどスクリーン角度が明確でない。しかし、図では分かりにくいが明らかに左下がり30度のドットパターンが確認できる。
【0042】
これに対し、枠の黒細線部分は、文字部として判定されたため、画素レベルで見ても原本と複写印刷物にほとんど差が見られない。
【0043】
このように、原本と複写印刷物とで、中間調処理が異なることを利用すれば、画像形成装置が読み取った原稿が、原本かそうでないかを判定できることになる。
【実施例1】
【0044】
図5は、画像形成装置100のハードウェア構成図の一例を示す。画像形成装置100は、システムコントローラ20、スキャナ11,プロッタ12及び操作表示部13を有する。またシステムコントローラ20は、CPU14、ROM15、RAM16及びHDD17がバスを介して接続された構成を有する。CPU14は、印刷対象の文書又は画像データの管理、印刷条件の受け付け及び設定等、画像形成装置100の全体を制御する。ROM15には、画像形成装置100の起動のための処理パラメータなどが記憶され、RAM16はCPU14がプログラムを実行する際の作業メモリとなる。HDD17には画像形成装置100が実行するプログラム、フォントデータ、文書や画像データが記憶される。このプログラムには、コピーやスキャナ11などのアプリケーションの他、本実施形態の原本の判定方法を可能にするプログラム18含まれている。
【0045】
なお、システムコントローラ20にはこの他、画像データに対し各種信号処理や画像処理等を行うASIC、ブリッジを介して接続された各種の入出力インターフェース(NIC(Network Interface Card)、SDカード、USBメモリ、無線LAN等)を備えている。プログラム18は、不図示のNICを介してサーバから配布されたり、又は、SDカード等に記憶された状態で配布される。
【0046】
操作表示部13は、液晶などの表示手段と、表示手段と一体のタッチパネル及び周囲のハードキー等から成る操作受け付け手段と有し、ユーザとのユーザインタフェースを提供する。
【0047】
図6は、画像形成装置100の原本印刷時の機能ブロック図の一例を示す。本実施形態の画像形成装置100は、バーコード30を用紙などの記録媒体に印刷する。このため、まず、バーコード30の印刷について説明する。
【0048】
図6の画像形成装置100は、ラスタライズ処理部21、中間調領域データ符号化部23、及び、画像処理部22を有する。一般には、ユーザがPC(Personal Computer)200を操作して実行しているアプリケーションソフト(ワープロソフト、表計算ソフト等)が文書データを生成する。ユーザが印刷する操作を行うとプリンタドライバが文書データを、画像形成装置100が解釈可能なデータ(PDLデータ又は印刷データとよばれるが、以下、印刷データという)に変換する。PC200は印刷データを画像形成装置100に送信する。
【0049】
画像形成装置100のラスタライズ処理部21は、一般的な処理として印刷データをラスタライズ処理してビットマップデータに変換し、画像処理部22に送出する。
【0050】
まず、画像処理部22は、ラスタライズされた印刷データ(画像データ)に一般的な、画像処理(色変換処理(RGB→CMYK)、プリンタγ変換処理等)を施し、その後、それぞれにディザ処理を施す。
【0051】
すなわち、画像処理部22は、印刷データ又は印刷データから変換された画像データに対し、像域判定を行い、文字部や絵柄部に最適な画像処理を施す。すなわち、絵柄部には、C・M・Y・Kの色画像データ毎にスクリーン角度の異なる低線数のディザマトリクス(例えば、300dpi)を用いディザ処理を行い、文字部には文字用の高線数のディザマトリクス(例えば600dpi)を用いディザ処理を行う。
【0052】
こうすることで、絵柄部には所定のスクリーン角度で中間調処理を施すことができ、また、文字部のエッジを強調することができる。
【0053】
中間調領域データ符号化部23は、ディザ処理が施された絵柄部の画像データをバーコード30の符号化方法にしたがい符号化する。画像データは、画像処理部22によりすでにデジタル情報に変換されているので、中間調領域データ符号化部23は、画像データをそのまま符号化すればよい。符号化とは、2次元バーコードや一次元バーコードなどに画像データを変換することである。印刷データをバーコード30の規格に基づく予め定められ方法で白黒のドットパターンに変換すれば、バーコード30が得られる。以下、絵柄部の画像データからバーコード30を生成することを、「バーコード30に変換する」という。
【0054】
なお、画像データを記憶できればバーコード30でなくても例えばICチップのような半導体の記憶手段に記憶してもよい。
【0055】
画像処理部22は、印刷データの画像データとバーコード30の画像データを1つの画像データに重畳する。
【0056】
画像データとしては元から印刷データに含まれる絵柄部でもよいが、パッチデータのように矩形で予めC・M・Y・Kのいずれかの画素値により中間調領域が印刷される絵柄部とすることが好ましい。パッチデータとバーコード30を予め決まった位置に配置することで、パッチデータとバーコード30の検出も容易になる。
【0057】
また、元から印刷データに含まれる絵柄部の場合、画像データは色変換されているので絵柄部の画像データもC・M・Y・K毎の画像データがある。上記のように、ディザ処理は全ての色画像に施されるので、中間調領域データ符号化部23は、全ての色の絵柄部の画像データをバーコード30に変換することが好ましい。
【0058】
また、絵柄部が複数ある場合、バーコード30の容量の制限を受け、絵柄部の全体、又は、複数の絵柄部の全てをバーコード30に変換することが困難な場合があると考えられる。この場合、絵柄部の位置とサイズをバーコード30に含めた矩形領域とすることで、バーコード30の容量の制限を受けないようにすることができる。絵柄部の位置情報は、例えば、記録媒体の左上頂点を原点とする、絵柄部の外接矩形の左上頂点である。
【0059】
位置情報を不要とする方法として、最も左上の絵柄部をバーコード30に変換すると定めておくこと方法がある。また、サイズを予め決めておくこともできる。このサイズは、小さいよりも大きい方が、比較対象の画素数が多くなり、原稿が原本か否かの判定の信頼性が増す。
【0060】
なお、絵柄部の全体、又は、全ての絵柄部をバーコード30に変換できるよう、バーコード30を複数個、生成してもよい。
【0061】
また、画像処理部22は、バーコード30をPC200から送信された印刷データの画像データと重畳しないよう、記録媒体の右上、右下、左上、左上、又は、その他の余白部に配置する。画像処理部22は必要であれば、バーコード30にエッジを強調する処理を施して、印刷データから生成された画像データとバーコード30の画像データを1つの画像データに重畳してプロッタ12に出力する。
【0062】
プロッタ12は、画像データに基づき画像を記録媒体に形成するので、画像形成装置100は、PC200から送信された印刷データから生成された画像データとバーコード30を含め、記録媒体に印刷することができる。これが原本となる。
【0063】
図7は、画像形成装置100が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である。ユーザは、画像形成装置100のスキャナ11に原稿を設置して、操作表示部13からスキャン操作を入力する。スキャナ11は原稿(すでに画像データが印刷された記録媒体)を読み取り、カラー画像(R・G・B各8bit)の画像データを生成する。
【0064】
まず、絵柄部抽出処理部34は、像域判定を行い絵柄部を特定する。絵柄部が複数ある場合は、全てを抽出する。そして、そのうちの1つの絵柄部について以下の処理を行う。絵柄部抽出処理部34は絵柄部を特定し、その領域の画像データ(画素値)を抽出する。以下、スキャナ11が読み取った原稿の絵柄部の画像データを検査対象画像データという。
【0065】
ここでは画像データをカラーとしているので、絵柄部抽出処理部34はR・G・Bの各色毎に、画像データを抽出する。なお、バーコード30に変換された画像データは、色空間をCMYKとする画像データ及び絵柄部の位置情報である。
【0066】
バーコード読取り処理部31は、予め定められたバーコード30の色に基づき(ここではKとする)、読み取ったKの画像データからバーコード30を抽出する。バーコード30の抽出は、例えば、予め決まった位置にあるという前提を利用してもよいし、像域判定を利用してもよい。像域判定を利用する場合、所定値以上のエッジ強度が密集した矩形領域がバーコード30である。
【0067】
なお、バーコード30の復号化方法は公知である。バーコード読取り処理部31は、QRコード(登録商標)の場合、3つの切り出しシンボルを特定し、バーコード30の向きを特定することができ、2次元の白黒のパターンを規則に従い復号化する。復号化により得られた画像データを原本印刷時画像データという。
【0068】
画像一致度計算処理部32は、位置情報に基づき検査対象画像データの一部又は全部を抽出し、原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度を算出する。上記のように、原本印刷時画像データと検査対象画像データの色空間が異なるので、画像一致度計算処理部32は、まず、検査対象画像データをCMYKからRGBの色空間の画素値に変換する。変換公式は例えば以下のようになる。また、DLUT(Direct Look up Table)を用いて変換してもよい。
CMYK→RGB
R = 1 - min(1,C×(1 - K)+ K)
G = 1 - min(1,M×(1 - K)+ K)
B = 1 - min(1,Y×(1 - K)+ K)
なお、min(A,B)の意味はAとBの小さい方を取り出すという意味である。これにより、R・G・Bの各色毎に、検査対象画像データが得られる。なお、色空間の変換による誤差は、予め補正しておく。また、色空間をRGB→CMYKに変換してもよい。
【0069】
画像一致度計算処理部32は、R色の原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度、G色の原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度、B色の原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度、をそれぞれ算出する。
【0070】
一致度は、例えば、原本印刷時画像データと検査対象画像データの画素毎の画素値の差の絶対値和である。図3や図4に示したように、スクリーン角度が異なればスクリーンラインの交点以外では画素値が一致しないので、絶対値和が大きくなる。平均値や最頻度値では、原本印刷時画像データと検査対象画像データが同じ程度になるが、画素毎に比較することで、スクリーン角度の違いを検出できる。
【0071】
また、原本印刷時画像データと検査対象画像データの正規化相関(0〜1の値を取り1に近いほど相関性が高い)Rを一致度としてもよい。この場合は、値が大きい方が一致度が高い。"G1"は原本印刷時画像データの座標(ij)の画素値、"G2"は検査対象画像データの座標(ij)の画素値である。
【0072】
R=ΣΣG1(i,j)G2(i,j)/√{ΣΣG1(i,j)2×ΣΣG2(i,j)2
ここで、例示した原本印刷時画像データと検査対象画像データはライム色領域なので、検査対象画像データの画素値は黄色(Y)+シアン(C)の2色で構成されており、黄色とシアンの強度を考慮するとC・M・Y・Kのうちシアンにスクリーン角度の特徴が十分に現れていることになる。また、シアンと最も相関するのは、R・G・B画像のうちのG成分である。よって、画像一致度計算処理部32は、原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度を、G成分の画像データについてのみ算出してもよい。一色の色成分だけ一致度を算出することで、CPU14の処理負荷を低減できる。
【0073】
なお、ライム色であればG成分を見ればよいことはライム色の特性から自明だが、絵柄部の特徴的な色相が明らかでない場合は、R・G・Bの各色の原本印刷時画像データのうち、平均的な数値が最も大きい色成分を一致度の算出に用いればよい。したがって、画像一致度計算処理部32は一致度を算出するための色成分を容易に特定できる。
【0074】
原本性判定処理部33は、算出された一致度を所定のしきい値と比較して、スキャナ11が読み取った原稿が原本か否かを判定する。一致度を、画素単位の画像データの差の絶対値和とした場合、原本性判定処理部33は絶対値和が所定のしきい値より小さければ原本と判定する。一致度を正規化相関とした場合、原本性判定処理部33は正規化相関の値が所定のしきい値より大きければ原本と判定する。
【0075】
なお、所定のしきい値は、以下のように決めればよい。原本を繰り返しスキャンした場合でも、微妙なスキャン位置のずれや絵柄部の切り出し位置のずれによって、絶対値和の一致度はゼロにならず、正規化相関の一致度は1にならない。そのため所定のしきい値は、(a)原本の読み取り時に算出された一致度と、(b)複写印刷物の読み取り時に算出された一致度、を考慮して決定する。
【0076】
すなわち、一致度を絶対値和とした場合、(a)<しきい値<(b)であり、一致度を正規化相関とした場合、(b)<しきい値<(a)である。
【0077】
原本性判定処理部33は判定結果を操作表示部13に表示する。例えば「この原稿は原本です。」または「この原稿は原本ではありません。」などと表示する。また、例えば、「コピー対象の原稿は原本です。コピーしますか」などと表示する。ユーザは、このメッセージを見て、コピーすべきか否かを判断できる。また、例えば原稿が原本の場合は、コピーを禁止してもよい。この場合、原本性判定処理部33は「コピー対象の原稿は原本です。コピーすることはできません」などと表示する。ユーザは、このメッセージを見てコピーできないことを把握できる。
【0078】
図8は、本実施形態の画像形成装置100がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順の示すフローチャート図の一例である。
【0079】
まず、スキャナ11が原稿(検査対象原稿)をスキャンする(S10)。
【0080】
次に、バーコード読取り処理部31が、画像データからバーコード30を抽出し、原本印刷時画像データを復号化する(S20)。
【0081】
次に、絵柄部領域抽出部34は、絵柄部を特定し、検査対象画像データを抽出する(S30)。
【0082】
次に、画像一致度計算処理部32は、原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度を算出する(S40)。
【0083】
原本性判定処理部33は、一致度としきい値を比較して、原本か否かを判定する(S50)。原本でない場合(S50のNo)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本ではありません。」と表示する(S60)。
【0084】
原本であった場合(S50のYes)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本です。」と表示する(S70)。
【0085】
図8の原本か否かの判定の後、ユーザが原稿を複写することもできるが、原稿が原本でも複写印刷物でも、画像形成装置100の複写動作は同じである。画像形成装置100は、スキャナ11が読み取った画像データから文字部(バーコード30が含まれる)と絵柄部を抽出し、文字部にはエッジ強調処理を施し、絵柄部には平滑化と中間調処理を施す。したがって、原稿が原本でも複写印刷物でも絵柄部には平滑化と中間調処理が施され、原本から複写印刷物が、複写印刷物から次の複写印刷物が生成される。この場合、原本の絵柄部の画像データはバーコード30に保存されたまま受け継がれる。
【0086】
すでに説明したように、絵柄部に施される中間調処理は、画像形成装置100によって、及び、同じ画像形成装置100でも異なるので、複写印刷物が原本と印刷される可能性はゼロでないとしてもほとんどないとしてよい。
【0087】
以上説明したように、本実施例の画像形成装置100は、原本の中間調領域の画像データをバーコード30に保存しておくことで、スキャナ11が読み取った検査対象画像データと比較することができ、原稿が原本か否かを判定できる。従来技術のように特殊なトナーを用いたり、高解像度のスキャナ11を用意する必要もない。
【実施例2】
【0088】
実施例1では、画像データそのものをバーコード30に変換したが、本実施例では中間調表現のスクリーン特徴(スクリーン角度、スクリーン線数)をバーコード30に記憶する画像形成装置100について説明する。
【0089】
図9は、本実施例における画像形成装置100の原本印刷時の機能ブロック図の一例である。図9において図7と同一部の説明は省略する。本実施例の画像形成装置100はスクリーン特徴符号化部24を有し、スクリーン特徴25を記憶している。スクリーン特徴符号化部24は、絵柄部の画像データそのものでなく、絵柄部を中間調表現する際のスクリーン特徴25をバーコード30に変換する。
【0090】
中間調処理が施された絵柄部の画像データの微視的な特徴はディザマトリクスにより特徴付けられる。また、ディザマトリクスに特徴的な周期構造は、スクリーン角度およびスクリーン線数(ピッチ)により特定される。原本の印刷時、画像処理部22はディザマトリクスを用いて中間調処理を施すが、本実施例ではこのディザマトリクスのスクリーン角度およびスクリーン線数が定数として画像形成装置100のROM15またはHDD17(以下、単にROM15という)に記憶されている。
【0091】
スクリーン特徴符号化部24は、PC200から受信した印刷データを記録媒体に印刷する時のみ(原本の印刷時のみ)、ROM15からスクリーン特徴(スクリーン角度及びスクリーン線数)25を読み出して、バーコード30に変換する。原本に複数の絵柄部が存在してもスクリーン特徴25は共通なので(CMYK同士ではスクリーン角度が異なる)、スクリーン特徴符号化部24は、色毎に1つのスクリーン特徴25を記憶すればよい。
【0092】
図10は、画像形成装置100が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である。図10において図7と同一部の説明は省略する。本実施例の画像形成装置100は、スクリーン特徴一致度計算処理部35を有する。
【0093】
バーコード読取り処理部31が復号化する対象は原本のスクリーン角度とスクリーン線数であるが、絵柄部抽出処理部34が抽出するのは、絵柄部の画像データそのもの(検査対象画像データ)である。このため、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、検査対象画像データを何らかの手法で数値化して、検査対象画像データと原本の絵柄部の画像データの一致度を算出する。なお、絵柄部が複数存在してもスクリーン特徴25は共通なので、いずれか1つ以上の検査対象画像データを抽出すればよい。
【0094】
本実施例では、2次元のガボール・フィルタを利用する。ガボール・フィルタについては後述するが、エッジの検出間隔とエッジの検出方向を指定して、選択的にエッジを検出することができる。したがって、ガボール・フィルタのパラメータのうち、θ(角度)、ω0 (正弦波の周波数) に、それぞれ抽出対象のスクリーン角度(必要であれば補正して)及びスクリーン線数を設定すればよい。なお、スクリーン線数を適切な定数としておけば、θ(角度)だけを指定しても、ある程度正確な一致度を算出できる。
【0095】
スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30を復号化して得られる原本の印刷時の中間調表現のスクリーン特徴(角度、ピッチ)25をガボール・フィルタのパラメータに設定し、スキャナ11が読み取った検査対象画像データに畳み込み積分処理を行う。これにより、検査対象画像データの、スクリーン角度及びスクリーン線数に応じたエッジ強度が得られるので、畳み込み積分処理の全画素分の絶対値和を算出する。絶対値和が大きいほど、ガボール・フィルタに設定されたエッジの検出方向とエッジの検出間隔が、検査対象画像データのスクリーン角度とスクリーン間隔と一致している傾向が高いことになる。
【0096】
厳密には、算出される一致度は、スクリーン特徴25と検査対象画像データのスクリーン特徴であるが、この一致度は検査対象画像データと原本印刷時画像データとの一致度とみなすこともできる。
【0097】
なお、実施例1と同様に、絵柄部のR・G・Bの全ての色成分で一致度を算出する必要はない。スクリーン特徴一致度計算処理部35はライム色であればG成分について一致度を算出する。また、絵柄部の特徴的な色相が明らかでない場合は、R・G・Bの各色の検査対象画像データのうち、平均的な数値が最も大きい色成分を一致度の算出に用いればよい。
【0098】
しきい値の決め方は実施例1と同様である。すなわち、所定のしきい値は、(a)原本の読み取り時に算出された一致度と、(b)複写印刷物の読み取り時に算出された一致度、を考慮して決定する。本実施例では一致度が高いほど一致している可能性が高いので、(b)<しきい値<(a)である。
【0099】
図11は、本実施形態の画像形成装置100がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順の示すフローチャート図の一例である。図11において図8と異なるのは、ステップS42の処理である。
【0100】
すなわち、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、スクリーン特徴25をガボール・フィルタに設定し、スクリーン特徴25と検査対象画像データのスクリーン特徴との一致度を算出する(S42)。
【0101】
原本性判定処理部33は、一致度としきい値を比較して、原本か否かを判定する(S50)。原本でない場合(S50のNo)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本ではありません。」と表示する(S60)。
【0102】
原本であった場合(S50のYes)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本です。」と表示する(S70)。
【0103】
以上説明したように、本実施例の画像形成装置100は、原本の中間調領域の画像データのスクリーン特徴25をバーコード30に保存しておくことで、検査対象画像データが原本の中間調領域の画像データと同じかどうかを判定でき、原稿が原本か否かを判定できる。従来技術のように特殊なトナーを用いたり、高解像度のスキャナ11を用意する必要もない。
【0104】
<ガボール・フィルタについて>
ガボール・フィルタについて簡単に説明する。ガボール・フィルタについては例えば「http://fussy.web.fc2.com/algo/algo12-2.htm」に詳しいので一部を要約する。
【0105】
ガボール・フィルタは、「正弦波」と「ガウス関数」の積として定義される。
g(t) = K・w(t)・exp(iφ)・s(t)
但し w(t) = exp( -t2 / 2σ2 ), s(t) = exp( iω0t )
ガボール・フィルタを二次元に拡張する。
g(x,y) = K wr(x,y) s(x,y)
wr(x,y) は一次元ガボール・フィルタにおけるガウス関数にあたり、s(x,y) は正弦波に該当する。
【0106】
wr(x,y) は次の式のように表される。
wr(x,y) = exp( -( x'2 + ( γy' )2 ) / 2σ2 )
但し、( x', y' ) は以下の式で定義され、原点 ( 0, 0 ) を中心に ( x, y ) を時計回りにθだけ回転した結果である。
x' = xcosθ + ysinθ
y' = -xsinθ + ycosθ
wr(x,y) は ( x, y ) = ( 0, 0 ) において最大となり、その周辺に向かうに従って単調に減少する。また、x' 軸や y' 軸に平行で、xy 平面に垂直な平面で切った時の切り口は、図12(A)に示すように、ガウス関数による釣鐘状の曲線になる。
s(x,y) は次の式のように表される。
s(x,y) = exp( i( ω0x' + φ ) )
= exp( i(ω0 ( xcosθ + ysinθ ) + φ ) )
実部および虚部のみを抽出した式は次のようになる。
Re(s(x,y)) = cos(ω0x' + φ )
Im(s(x,y)) = sin(ω0x' + φ )
x' は θだけ時計回りに傾いた軸を表しているため、図12(b)に示すように、s(x,y) はその軸に沿って波が進んだ形を取る。
【0107】
以上から、ガボール・フィルタは次式で表すことができる。
g(x,y) = K exp( -( x'2 + ( γy' )2 ) / 2σ2 ) exp( i(ω0 ( xcosθ + ysinθ ) + φ ) )…(1)
図12(a)(b)の2つの波を重ね合わせると、図12(c)のような形になる。図12(c)は左からω0 = 3π、ω0 = 2π、ω0 = πの場合の2次元のガボール・フィルタを視覚的に示したものとなる。
【0108】
画像データとガボール・フィルタを重ねると、画像の各画素に対して、ガボール・フィルタの山や谷に重なる部分の値だけが増幅される。画像データが平坦でガボール・フィルタに対応する範囲に変化がなければ、山と谷のそれぞれで増幅された値どうしが打ち消しあって、全体の和はゼロに近くなる。これに対し、山や谷の部分のみに値が集中することで全体の絶対値和は大きくなる。
【0109】
画像のエッジ部分が波と重なると、エッジ部に山や谷の部分の値が集中して強調するので、ガボール・フィルタはエッジ抽出に有効であることになる。
【0110】
また、正弦波の周波数ω0 を大きくすれば、波の周期が細かくなるので、ガウス関数によって周辺が減衰する間にピークが何回も発生する。逆に小さくすれば、波のピークはほとんど発生しない(ω0 = 0 ならば正弦波が定数(直流成分)になり、ガウス関数そのものになる)。
【0111】
したがって、変化の激しい(高周波成分の高い)画像は周波数の高いガボール・フィルタによって増幅でき、逆に変化の緩やかな(低周波成分の大きな)画像は周波数の低いガボール・フィルタで増幅できる。
【0112】
θは、図12(c)のようにx軸とのなす角として表すことができるので、ガボール・フィルタは、θ = 0度では縦方向(y軸に並行)のエッジ、θ = 90度 では横方向(x軸に並行)のエッジを強調することができる。バーコード30に変換されるスクリーン角度はある基準方向を基準とした値なので、適宜、スクリーン角度をガボール・フィルタの角度θに変換する。例えば、スクリーン角度が右下がり45度の場合、θ=45度でよいが、スクリーン角度が右上がり45度の場合、θ=45+90度とする。
【0113】
また、スクリーン角度を9時方向を基準に時計回りに正とすれば、右下がり45度=45度、右上がり45度=135度、となる。よって、この場合、θ=スクリーン角度とすることで、スクリーンに垂直なガボール・フィルタを生成できる。
【0114】
なお、ユーザが原稿をセットした時の原稿の向きは、ユーザが正しい向きにおく方法、バーコード30の位置(2次元バーコードの場合は向きが分かる)又はバーコード30とパッチデータの配置から原稿の向きを検出する方法がある。原稿の向きが決まると、スクリーン角度の基準方向も決まる。
【0115】
また、ガボール・フィルタのω0は角周波数なので、ω0=2πf=2π/T(fは周波数、Tは周期)と表すことができる。周期Tの間に1波長進むと考えると周期Tは3次元空間の波長λで置き換えることができる。
ω0=2π/λ
バーコード30に変換されるスクリーン線数がdpi単位で例えば300dpiとすると、スクリーン間隔は、25.4mm/300=約0.085mmである。したがって、この値を波長λとすることができる。
【0116】
以上のような計算から、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30から復号化したスクリーン角度をガボール・フィルタの角度θに、バーコード30から復号化したスクリーン線数から求めたスクリーン間隔を、式(1)に設定する。これにより、スクリーン特徴25と検査対象画像データのスクリーン特徴の一致度を算出できる。
【実施例3】
【0117】
実施例1,2では原本印刷時と複写印刷物の印刷時とで絵柄部の中間調処理が異なるという前提としたが、本実施例では原本印刷時と複写印刷物の印刷時とで絵柄部の中間調処理が同じになっても原本か否かを判定できる画像形成装置100について説明する。
【0118】
図13は、画像形成装置100の原本印刷時の機能ブロック図の一例である。ちょうど実施例1と実施例の2の原本印刷時の機能ブロック図を合わせたものになっているが、本実施例の画像処理部22は、絵柄部の画像データを分割・回転及び合成する機能を備える。
【0119】
実施例1,2と同様に、画像処理部22は、絵柄部に所定のディザマトリクスで中間調処理を施す。原本印刷時のシアン色のスクリーン角度は右下がり45度であるとする。画像処理部22は、このディザマトリクスで絵柄部の全体を処理した後、2×2の正方形のブロックに分割する。したがって4つの正方形のブロックが得られる。ここで、元の絵柄部が正方形とは限らないので、画像処理部22は、絵柄部から好ましくは比較的大きな正方形領域を抽出する。
【0120】
そして、画像処理部22は、4つのブロックのうち1つを残し、残りの3つを時計回りに90度ずつ回転させる。例えば、右上のブロックを90度、右下のブロックを180度、左下のブロックを270度、それぞれ回転させる。よって、外観上は左上と右下とスクリーン角度は同じになる。回転には例えばアフィン変換を用いる。
【0121】
しかし、左上・右下と右上・左下のスクリーン角度は90度異なっている。こうすることによって、画像形成装置100が、複写印刷物の印刷時、絵柄部の中間調処理に、シアン色のスクリーン角度として右下がり45度のディザマトリクスを用いても、右上・左下のスクリーン角度は原本印刷時とは異なるスクリーン角度(右上がり45度)とすることができる。したがって、原本印刷時と複写印刷物の印刷時とで絵柄部の中間調処理に同じスクリーン角度のディザマトリクスを用いても、スキャナ11が読み取った原稿が原本か否かを一致度により確実に判定できる。
【0122】
なお、図13のようなブロックの回転は一例であって、絵柄部は2つ以上に分割し、一部のみを回転させればよい。例えば、回転させた3つのいずれかを固定して、左上のブロックを含む残りの3つを回転させてもよい。また、回転角度も90度ずつである必要はなく、例えば、{60度、120度、180度}、{30度、60度、90度}、{15度、30度、60度}としてもよい。
【0123】
また、本実施例の中間調領域データ符号化部23は、分割・合成後の絵柄部の画像データそのものに、スクリーン特徴符号化部24はスクリーン特徴25をバーコード30に。それぞれ変換する。なお、スクリーン特徴25をバーコード30に変換する場合、画像処理部22が中間調処理を施すのに用いた右下がり45度のディザマトリクスのスクリーン特徴25だけ変換しておけばよいが、4つのブロック毎にスクリーン特徴25を変換してもよい。
【0124】
こうすると、実施例1のように画像データから一致度を求めることも、ガボール・フィルタにより一致度を求めることもできる。また、両方の判定方法を用いることで原本判定を厳密化することもできる。
【0125】
図14は、画像形成装置100が複写印刷物を読み取る際の機能ブロック図の一例である。図14において図10,7と同一部の説明は省略する。
【0126】
本実施例の画像形成装置100は、画像一致度計算処理部32とスクリーン特徴一致度計算処理部35を有するが、いずれか一方のみでもよい。
【0127】
画像一致度計算処理部32は、実施例1と同様に、R・G・B各色の原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度を算出するが、シアン色に近いG色のみついて一致度を算出しても十分である。
図14では、複写印刷物のスクリーン角度が右下がり45度であるので、画像処理部22が原本印刷時に中間調処理を施すのに用いたスクリーン角度と同じになっている。しかし、本実施例では、原本の絵柄部がブロック毎に回転されているので、算出される一致度を低い値にすることができる。
【0128】
なお、原本の絵柄部が4つに分けられその半分が同じ向きのスクリーン角度になるので、複写印刷物のスクリーン角度と、原本印刷時のスクリーン角度が異なっても、半分の面積で画像が一致する可能性がある。このため、半分の面積で画像が一致しても、原本性判定処理部33が原本であるか否かを判定できるようにしきい値を定める。例えば、(a)原本の読み取り時に算出される一致度、(b)絵柄部の半分でスクリーン角度が一致する複写印刷物をスキャンした際の一致度、を考慮して決定する。
【0129】
すなわち、一致度を絶対値和とした場合、(a)<しきい値<(b)であり、一致度を正規化相関とした場合、(b)<しきい値<(a)である。
【0130】
また、本実施例のスクリーン特徴一致度計算処理部35は、2次元のガボール・フィルタを用いて一致度を判定するが、2×2のブロックごとに、ガボール・フィルタのパラメータのθを変更する。なお、λは全ブロックに共通でよい。
【0131】
スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30から復号化したスクリーン角度をガボール・フィルタの角度θに設定し、そのガボール・フィルタを左上のブロックに適用する。また、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30から復号化したスクリーン角度に90度を加えガボール・フィルタの角度θに設定し、そのガボール・フィルタを右上のブロックに適用する。また、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30から復号化したスクリーン角度に180度を加えガボール・フィルタの角度θに設定し、そのガボール・フィルタを右下のブロックに適用する。また、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、バーコード30から復号化したスクリーン角度に270度を加えガボール・フィルタの角度θに設定し、そのガボール・フィルタを左下のブロックに適用する。
【0132】
そして、全ブロックの畳み込み積分処理の全画素分の絶対値和を求める。しきい値の決め方は上記のとおりであり、(b)<しきい値<(a)である。
【0133】
図15は、本実施形態の画像形成装置100がスキャンした原稿が原本か否かを判定する手順の示すフローチャート図の一例である。図15において図8と異なるのは、ステップS44の処理である。
【0134】
すなわち、画像一致度計算処理部32は、原本印刷時画像データと検査対象画像データの一致度を算出し、スクリーン特徴一致度計算処理部35は、スクリーン特徴25を4つのブロック毎にガボール・フィルタに設定し、スクリーン特徴25と検査対象画像データのスクリーン特徴との一致度を算出する(S44)。
【0135】
原本性判定処理部33は、一致度としきい値を比較して、原本か否かを判定する(S50)。原本性判定処理部33は、例えば、画像データの一致度とスクリーン特徴の一致度の両方が一致すると見なせる場合に原本であると判定する。
【0136】
原本でない場合(S50のNo)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本ではありません。」と表示する(S60)。
【0137】
原本であった場合(S50のYes)、原本性判定処理部33は、「コピー対象の原稿は原本です。」と表示する(S70)。
【0138】
以上説明したように、本実施例の画像形成装置100は、実施例1,2の効果に加え、原本印刷時と複写印刷物の印刷時とで絵柄部の中間調処理が同じになっても、スキャナ11が読み取った原稿が原本か否かを判定できる。
【符号の説明】
【0139】
11 スキャナ
12 プロッタ
13 操作表示部
18 プログラム
20 システムコントローラ
21 ラスタライズ処理部
22 画像処理部
23 中間調領域データ符号化部
24 スクリーン特徴符号化部
25 スクリーン特徴
31 バーコード読取り処理部
32 画像一致度計算処理部
33 原本性判定処理部
34 絵柄部抽出処理部
35 スクリーン特徴一致度計算処理部
100 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0140】
【特許文献1】特開2003−118276号公報
【特許文献2】特開2004−153405号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿を読み取り画像データを生成する画像処理装置であって、
前記画像データから情報記録マークを抽出して情報記録マークに符号化されている、前記画像データの原本である原稿の画像データ情報を復号化する復号化手段と、
前記画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出する中間調領域抽出手段と、
前記画像データ情報に基づき、前記中間調領域の読み取り画像データと、原本の前記中間調領域の原本画像データの一致度を算出する一致度算出手段と、
前記一致度に基づき、前記画像データの原稿が原本か否かを判定する原本判定手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記画像データ情報は前記中間調領域の画素単位の画素値であり、
前記一致度算出手段は、前記読み取り画像データの画素単位の画素値と、前記画像データ情報に含まれる原本画像データの画素単位の画素値とを、比較することで一致度を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像データ情報は、前記中間調領域に中間調処理が施された際のディザマトリクスのスクリーン特徴情報であり、
前記一致度算出部は、所定の方向のエッジを選択的に検出可能なフィルタを用い、該フィルタのパラメータに前記スクリーン特徴情報のスクリーン角度を設定して、前記読み取り画像データにフィルタ処理を施し前記一致度を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記一致度算出部は、所定距離毎のエッジを検出可能な前記フィルタに、前記スクリーン特徴情報のスクリーン線数から求めたスクリーン間隔を設定して、前記読み取り画像データにフィルタ処理を施し前記一致度を算出する、
ことを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記フィルタはガボール・フィルタである、ことを特徴とする請求項3又は4記載の画像処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の前記原稿を印刷する画像形成装置であって、
端末から受信した前記原本の印刷データの絵柄部に中間調処理を施し、原本の第1の画像データを生成する画像データ生成手段と、
前記第1の画像データの中間調領域の前記画像データ情報を符号化して、前記情報記録マークの第2の画像データを生成する情報記録マーク生成手段と、
前記第1の画像データと前記2の画像データを一枚の記録媒体に印刷する印刷手段と、
を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
前記画像データ生成手段は、
前記第1の画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出し、前記中間調領域の画像データを2つ以上のブロックに分割して少なくとも1つのブロックを回転させ、
前記印刷手段は、前記中間調領域の一部が回転された前記第1の画像データを前記第2の画像データと共に一枚の記録媒体に印刷する
ことを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記画像データ生成手段は、前記中間調領域の画像データを4つのブロックに分割して3つのブロックを90度単位のそれぞれ異なる角度に回転させる、
ことを特徴とする請求項7記載の画像形成装置。
【請求項9】
画像処理装置が読み取った原稿の原本性を判定する原本判定方法であって、
復号化手段が、前記原稿の画像データから情報記録マークを抽出して情報記録マークに符号化されている、前記画像データの原本である原稿の画像データ情報を復号化するステップと、
中間調領域抽出手段が、前記画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出するステップと、
一致度算出手段が、前記画像データ情報に基づき、前記中間調領域の読み取り画像データと、原本の前記中間調領域の原本画像データの一致度を算出するステップと、
原本判定手段が、前記一致度に基づき、前記画像データの原稿が原本か否かを判定するステップと、
を有することを特徴とする原本判定方法。
【請求項10】
請求項9記載の前記原稿を印刷する画像形成装置の画像形成方法であって、
画像データ生成手段が、端末から受信した前記原本の印刷データの絵柄部に中間調処理を施し、原本の第1の画像データを生成するステップと、
情報記録マーク生成手段が、前記第1の画像データの中間調領域の前記画像データ情報を符号化して、前記情報記録マークの第2の画像データを生成すると、
印刷手段が、前記第1の画像データと前記2の画像データを一枚の記録媒体に印刷するステップと、
を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項11】
前記画像データ生成手段は、
前記第1の画像データから中間調処理が施された中間調領域を抽出し、前記中間調領域の画像データを2つ以上のブロックに分割して少なくとも1つのブロックを回転させ、
前記印刷手段は、前記中間調領域の一部が回転された前記第1の画像データを前記第2の画像データと共に一枚の記録媒体に印刷する、
ことを特徴とする請求項10記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44250(P2012−44250A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180936(P2010−180936)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】