説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】 本発明は、大局的に観察される正反射光の色付きを低減することを目的とする。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明に係る画像処理装置は、記録媒体上の同一領域を複数回記録走査することにより画像を形成するための色材データを生成する画像処理装置であって、画像内の注目画素に対応する画像データを有色色材の色材量に対応する色材データに変換する変換手段と、前記注目画素における前記記録走査各々について第一の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成し、前記注目画素の周辺画素における前記記録走査各々について第二の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成する生成手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データに対する有色色材および無色色材の色材データを求める処理に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクとしては、染料を色材とする染料インクや、顔料を色材とする顔料インクが用いられている。
【0003】
記録媒体上に顔料インクを用いて画像を形成すると、形成された画像に反射した光である正反射光が色付くという現象が生じる。例えば、スポットライトなどの光源下に該記録装置で形成された画像を置くと、スポットライト自身は白色の光を放っているにも関わらず、その光が記録媒体上で反射した光である正反射光には色が付く。
【0004】
正反射光は、特に、カラー画像においては、シアンインクが多く使われている領域においてマゼンタ色に色付き、モノクロ画像においては、全体的に黄色く色付く傾向がある。また、画像の領域によってはインク量の変化に応じて正反射光が虹色に変化する傾向がある。この正反射光の色付きは、正反射光が拡散光の色とは異なっているため、画質を低下させてしまう。
【0005】
ここで、正反射光色付きの評価方法(特許文献1)について図1を用いて説明する。光源102によって所定の角度から測定試料101を照射し、測定試料101からの正反射光を受光器103によって検出する。受光器103では、CIE XYZ表色系における三刺激値XxYxZxが検出される。検出されたXxYxZxと、ブロンズの発生しない試料(例えば、屈折率の波長分散が小さい黒色研磨硝子板)の三刺激値XsYsZsとの差分から、CIE L*a*b*表色系におけるa*b*を算出する。このa*b*で表される彩度C*が正反射光の色付きの度合を示す。C*が小さいほど正反射光の色付きが少なく、正反射光の色付きが無い試料の場合には、C*の値が0になる(すなわち、a*b*平面上で原点に位置する)。
【0006】
上述のように正反射光が色付く原因として、ブロンズと薄膜干渉が知られている。
【0007】
ブロンズは、形成された画像の界面における反射に波長依存性があるために生じる現象である。ブロンズは、インクによって固有の色になることが知られており、例えば、シアンインクによって形成された画像領域において正反射光がマゼンタ色に色付く。ブロンズは、空気層とインク層の界面における反射の波長依存性が大きく寄与している。そのため、画像形成後にイエローインクを再吐出することにより、波長依存性の比較的大きなシアンインクなどによって形成された画像領域を、波長依存性の比較的小さなイエローインクで覆うことでブロンズを低減する方法が知られている(特許文献2)。また、L*a*b*空間の色相角180°〜360°(シアンからマゼンタ色相の領域)においてはイエローの吐出量を比較的少なくすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−177797号公報
【特許文献2】特開2004−181688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の方法において、シアン、マゼンタインクが多く使用されているL*a*b*空間のシアン→ブルー→マゼンタの領域についてイエローインクで画像を覆ってオーバーコートする場合、色域が減少してしまう。特に、ブルーに対してイエローは補色の関係にあるため、色域の減少が顕著となる。一方で、イエローインクの吐出量を少なくすると、色域の減少は抑えられるものの、ブロンズが目立ってしまう。
【0010】
そこで、画像をオーバーコートする記録剤として色材の入ってないインクである無色色材を用いる方法が考えられる。無色色材はブロンズを表す刺激値が非常に小さい。加えて、透明な無色色材は発色に影響を与えないので、色域を減少させること無く、より効果的に正反射光の色付きを低減することが期待される。
【0011】
ところが、無色色材を用いて画像をオーバーコートしてみると、無色色材層の上層と下層で反射する光の光路差によって薄膜干渉が起きるため、無色色材のインク量(無色色材量)に応じて正反射光の色付きは変化してしまう。図2に、シアンインクベタ地の上に無色色材量を変えてオーバーコートしたときの正反射光の色付きを特許文献1の方法でa*b*平面上にプロットする。図2のグラフ上の数字は無色色材量を示す。図2から、シアンベタ地の正反射光の色付きはブロンズの影響でマゼンタの色相にあり、無色色材量が増えるにつれ、色付きが時計回りに回転する様子がわかる。すなわち、無色色材で有色色材をオーバーコートしても正反射光の色付きは必ずしも低減せず、無色色材量に応じて変化する。
【0012】
さらに実験により、色付きの変化は下地となる有色色材の種類によっても異なることがわかった。例えば、シアンインクベタ地の上にクリアインクを所定の量オーバーコートした際に生じる色付きと、マゼンタインクベタ地の上に同量のクリアインクをオーバーコートした際に生じる色付きは異なる。つまり、所定の無色色材量で一律にオーバーコートしても正反射光の色付きは十分に低減しない。
【0013】
そこで、本発明は、大局的に観察される正反射光の色付きを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る画像処理装置は、記録媒体上の同一領域を複数回記録走査することにより画像を形成するための色材データを生成する画像処理装置であって、画像内の注目画素に対応する画像データを有色色材の色材量に対応する色材データに変換する変換手段と、前記注目画素における前記記録走査各々について第一の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成し、前記注目画素の周辺画素における前記記録走査各々について第二の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成する生成手段とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、大局的に観察される正反射光の色付きを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】正反射色付きの評価方法を説明するための図である。
【図2】シアンベタ地の上に無色色材量を変えて正反射光色付きを評価した例を説明するための図である。
【図3】本実施形態の原理を説明するための模式図である。
【図4】本実施形態の画像処理装置の構成を示す図である。
【図5】本実施形態のコンピュータシステムの構成を示す図である。
【図6】本実施形態の画像処理装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【図7】本実施形態におけるマスク処理の一例を示す図である。
【図8】本実施形態におけるマスク処理の一例を示す図である。
【図9】本実施形態における各記録走査におけるインク量を模式的に示す図である。
【図10】本実施形態における有色インク層中の無色インク層の位置制御とマスクパターンとの関係の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。また、同一な構成については、同じ符号を付して説明する。
【0018】
なお、本実施形態においては、本発明をインクジェットプリンタに適用した例を示すため、無色色材としてクリアインクの例を示すが、これらの例に限られず、電子写真方式のプリンタにクリアトナーを適用してもよい。
【0019】
本実施形態では、記録材であるインクについて、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、クリア(無色、またはほぼ無色)、レッド、グリーン、ブルーなど片仮名表記で表す。また、色もしくはそのデータ、または色相をC、M、Y、K、CL、R、G、Bなど英字で表すものとする。すなわち、Cはシアン色もしくはその色材データ、または色相を表す。同様に、Mはマゼンタ、Yはイエロー、Kはブラック、Rはレッド、Gはグリーン、Bはブルーを、それぞれ表すものとする。CLは無色(透明)またはその色材データを表す。
【0020】
また、正反射光に色が付くとは、記録媒体上に形成された画像に照明光を写り込ませた際の反射する光が、照明光とは異なった色を示すことを指し、正反射光の色付きを単に「色付き」と表したり「色」と表したりする。CIE−L*a*b*表色系におけるa*b*値などのように、色付きを表す値を色付き情報と表す。
【0021】
また、「エリア」は、ドットのオン・オフが定義される最少単位である。これに関連して、下記カラーマッチング、色分解、γ補正にいう「画像データ」は処理対象である画素データの集合を表しており、各画素データは、例えば8ビットの多値階調値を示す。
【0022】
また、ハーフトーニングにいう「画素データ」は、処理対象である画素データそのものを表す。ハーフトーニングにより、複数ビット(例えば8ビット)の階調値を内容とする画素データは、例えば4ビットの階調値を内容とする画素データ(インデックスデータ)に変換される。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、クリアインクの打ち込み量を変えることが出来る最小の構成単位を画素と呼ぶ。
【0023】
はじめに、本実施形態の原理について説明する。画素毎に異なる色付きを発生させることにより、観測する色付きを低減させることができる。例えば、ある任意の画素に所定量の無色色材をオーバーコートした際に発生する色付きが赤であったとする。そして、隣の画素に無色色材を別の所定量オーバーコートした際に発生する色付きが緑であり、同様にその隣の画素の色付きが青であったとする。この様な場合、図3に示す模式図のように、光の三原則(加法混色)により、正反射光の色は白になる。すなわち、局所的な正反射光の色付き(例えば、赤・緑・青などの組み合わせ)を大局的に見ると白になるため、観察者には正反射光に色付きが無いように見える。
【0024】
ここで、正反射光の色付きを大局的と局所的で表現したのは、正反射光の色付きが観測のスケールによるからである。人間の目の解像度より細かい色付きの変化は平均化されたものとしては感知される。すなわち、大局的な正反射光の色付きとは、人が正反射光の色付きを解像できる範囲で平均化された色付きである。また、局所的な正反射光の色付きとは、人が正反射光の色付きを解像できない範囲である、例えば数10μmオーダーサイズで平均化された色付きである。
【実施例1】
【0025】
本発明者は、有色インクが記録媒体上で層状に重なった場合、有色インクによって形成される層(以下、インク層)中の無色インク層の位置によって色付きが変化することを実験的に突き止めた。例えば、シアンインクベタ地のシアンインク層における上層に無色インク層を載せた(重ねた)場合、中層に無色インク層を挟んだ場合、及び、下層に無色インク層を敷いた場合によって生じる色付きは異なる。すなわち、記録媒体上の所定領域において局所的に記録される色材層の順序によって大局的な色付きが異なる。
【0026】
そこで、色材が記録される順序によって画像内の所定領域、例えば画素毎に異なる色付きを発生させることで観測される色付きを低減させることができる。例えば、ある任意の画素に無色色材を所定の量だけ載せた際にその画素で発生する色付きが赤であったとする。そして、隣の画素に無色色材を所定の量だけ有色色材の中層に挟んだ際に発生する色付きが緑であったとする。さらに隣の画素に無色色材を所定の量だけ有色色材の下層に敷いた場合の色付きを青であったとする。この様な場合、一般的に知られる光の三原則(加法混色)により注目画素およびその周辺画素の正反射色は大局的に白になる。すなわち、局所的な正反射光の色付き(赤・緑・青)を大局的に見ると白になるため、観察者には正反射光色付きが無いように見える。
【0027】
本実施形態の画像処理装置の構成を図4に示す。図4において、401はプリンタ、402はプリンタコントローラとクライアントコンピュータを兼ね備えたコンピュータシステム、403はネットワークケーブル、SCSIケーブルなどに代表されるコネクタケーブルである。
【0028】
<コンピュータシステム>
図5は、図4のコンピュータシステム402の構成を表すブロック図である。同図において、インターフェース(I/F)501は、ユーザーが各種マニュアル指示を入力するためのマウス及びキーボード511とコンピュータシステム402とをつなぐ。CPU502は、コンピュータシステム402内部の各ブロックの動作を制御し、ROM503またはRAM504に記憶されたプログラムを実行する。ROM503は、後述するフローチャートによって表される画像処理等に必要なプログラムを予め記憶しておく。RAM504は、CPU502にて各種処理を行うためのプログラムや処理対象の画像データ、CPU502による各種処理結果などをワークメモリとして一時的に格納する。ディスプレイ制御部505は、処理対象の画像や操作者へのメッセージを表示するディスプレイ512の制御を行う。インターフェース(I/F)506は、コンピュータシステム402とカラープリンタ401をつなぐ。CDドライブ507は、外部記憶媒体の一つであるCD(CD−R/CD−RW/DVD/DVD−R/DVD−RW)に、記憶されたデータを読み込み或いは書き出す。FDドライブ508は、外部記憶媒体の一つであるFDからの読み込み或いは書き出しを行う。なお、CD,FD,DVD等に画像処理用のプログラム、或いはプリンタ情報等が記憶されている場合には、これらのプログラムをHD509上にインストールし、必要に応じてRAM504に転送する。ハードディスク(HD)509は、外部記憶媒体の一つとして、RAM504等に転送されるプログラムや画像データを格納したり、各種処理後の画像データを保存したりする。インターフェース(I/F)510は、コンピュータシステム402の各所に保持する様々なデータを外部機器へ伝送し、また、外部機器からの様々なデータを受信したりするモデムやネットワークカード等の外部入力513とコンピュータシステム402をつなぐ。
【0029】
図6は、図4に示される画像処理装置の各機能ブロックを示すブロック図である。プリンタ401は、顔料インクによって印刷を行うものであり、インクを吐出する記録ヘッドが用いられる。図4及び図6に示すように、画像処理装置は、顔料インクを用いるプリンタ401とホスト装置又は画像処理装置としてのコンピュータシステム402を有して構成される。
【0030】
<ホスト>
以降、図6におけるホスト装置の構成を説明する。ホスト装置で動作するプログラムとしてアプリケーションや色変換(カラーマッチング)がある。アプリケーション601はプリンタ401で印刷する画像データを作成する処理を実行する。なお、この画像データもしくは作成の元となる画像データは、種々の媒体を介してコンピュータシステム402に取り込むことができる。例えば、ディジタルカメラで撮像したJPEG形式の画像データをフラッシュメモリなどの外部入力513からI/F510を介して取り込むことができる。また、例えばHD509に格納されている画像データやCDドライブ507のCD−ROMに格納された画像データも取り込むことができる。さらには、インターネットから外部入力513を介してウエブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ディスプレイ512に表示されてアプリケーション601を介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。そして、印刷の指示に応じてこの画像データがカラーマッチング602に渡される。
【0031】
(カラーマッチング処理)
カラーマッチング602は、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、プリンタによって再現される色域内に写像するための対応関係を規定した3次元LUTを保持する。この三次元LUTに補間演算を併用し、8ビットの画像データR、G、Bをプリンタの色域内の画像信号R、G、Bに変換するデータ変換を行う。また、カラーマッチング処理は、3次元LUTに限られず行列式を用いて行ってもよい。
【0032】
なお、上述したアプリケーション601およびカラーマッチング602の処理は、これらの機能を実現するプログラムに従ってCPU502により行われる。
【0033】
<プリンタ>
以降、プリンタ401について説明する。本実施例では、色分解部603以降の処理をプリンタ401内部で行う。また、プリンタ401における色分解部603、γ補正部604、ハーフトーニング部605、ドット配置パターン化部606、有色インク走査記録量制御部607、無色インク走査記録量制御部608、乱数発生部609およびヘッド駆動回路610は、専用のハードウエア回路を用いて、プリンタ401の制御部を構成する図示しないCPUの制御の下に動作する。なお、本実施形態は前述の構成に限られず、色分解部603から画像形成部610の前までの処理はプリンタ401で行ってもよく、コンピュータシステム402の例えばプリンタドライバで行ってもよい。
【0034】
(色分解処理)
色分解処理603は、上記色域のマッピングがなされた注目画素の画像信号R、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するインク量(色材量)の組み合わせに対応した、例えばCMYKなどの有色インクと無色インク(CL)の色分解データに変換する。本実施例では、この処理はカラーマッチング処理と同様、周知の手法を用い、3次元LUTに補間演算を併用して行う。なお、無色インクの色分解データも同3次元LUTに記載されているものとする。
【0035】
なお、無色インクの色分解データ(インク量)は、一定量でもよく、その場合はLUTではなく、他の記憶媒体に該所定の量を記憶しておけばよい。
【0036】
(γ補正処理)
γ補正部604は、色分解部603によって求められた色分解データの各色材信号のデータごとに周知の階調値変換を行う。具体的には本実施例で用いるプリンタ401の各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、上記色分解データがプリンタ401の階調特性に線形的に対応づけられるように変換する。なお、無色インクの色分解データについては、無色であるため階調値変換処理を行わなくともよい。
【0037】
(ハーフトーニング)
ハーフトーニング部605は、例えば8ビットの色分解データC,M,Y,K,CLそれぞれについて例えば4ビットのデータに変換する量子化を行う。本実施形態で行う量子化は、周知の誤差拡散法を用いて8ビットデータを4ビットデータに変換する。また、本実施形態においては有色インクをC,M,Y,Kの4色として説明を続けるが、これに限られない。つまり、C,M,Y,Kと淡いC(Lc)、淡いM(Lm)の6色構成でもよいし、R,G,B等のインクや淡いK等のインクを含んでもよい。量子化された4ビットデータは、ドット配置パターン化部606における配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
【0038】
(ドット配置パターン化処理)
ドット配置パターン化部606は、0〜8(4ビット)の多値レベルを、ドットの有無を決定する2値レベルまで低減する役割を果たす。すなわち、実際の印刷画像に対応する画素ごとに、印刷イメージデータである4ビットのインデックスデータ(階調値情報)に対応したドット配置パターンに従ってドット配置を行う。このように、4ビットデータで表現される各画素に対し、該画素の階調値に対応したドット配置パターンを割当てることで、画素内の複数のエリア各々にドットのオン・オフが定義され、そして1画素内のエリアごとに「1」または「0」の吐出データが配置される。
【0039】
(インク走査記録量制御)
本実施形態では、有色インクと無色インクの走査記録量の制御をそれぞれ別処理として行う。別処理にすることにより、有色インクと無色インクの記録走査回数を異ならせることができ、記録走査回数を個別に選択できる。
【0040】
有色インク走査記録量制御部607は、上述のドット配置パターン化処理により得られた有色インクの1ビットの吐出データを図示しない記憶部に記憶したマスクパターンを用いてマスク処理する。すなわち、記録ヘッドによる所定幅の走査領域の記録を複数回の走査で完成するための各走査の吐出データを、それぞれの走査に対応したマスク処理によって生成する。マスク処理の詳細については後述する。
【0041】
無色インク走査記録量制御部608は、無色インク(CL)のマスクパターンを複数記憶しておき、乱数発生部609の出力に応じて領域毎のマスクパターンを切り替えることにより、有色インク層中の無色インク層の位置を変化させる。
【0042】
(乱数発生処理)
乱数発生部609は、CPU等により算出される自然乱数(例えばC言語では、RAND()関数の出力値)を最大値で割った0以上、1.0以下の範囲内にある一様乱数を算出する。次に、例えば5パターンのマスクパターンを記憶している場合、一様乱数に対し、パターン数5を乗じることによりマスクパターンを示すインデックス0〜4が以下のように算出される。
Mask Pattern Index = (int)(RAND()/RAND_MAX*5.0) ・・・(処理1)
if(Mask Pattern Index == 5) Mask Pattern Index =4 ・・・(処理2)
ここで、Mask Pattern Index:無色インクのマスクパターンインデックス、RAND():自然乱数、RAND_MAX:乱数の最大値とする。
【0043】
なお、ここで算出される乱数は、一様乱数に限られるものでは無く、マスクパターンインデックスの中心値(パターン数が5であれば、中心値は2)を中心とした正規乱数などを用いてもよい。
【0044】
また、一般的に知られるBayer型マスク、ホワイトノイズマスク、ブルーノイズマスク、グリーンノイズマスク等の特定の周波数変調を行ったマスク処理を用いて出力値を生成してもよい。
【0045】
(ヘッド駆動回路)
ヘッド駆動回路610は、適切なタイミングで送られてきた記録走査ごとの吐出データY、M、C、K、CLを用いて記録ヘッド611を駆動し、それぞれのインクを吐出する。
【0046】
なお、上記説明では、無色インク走査記録量制御部608が複数用意したマスクパターンを切り替える例について説明したが、有色インク走査記録量制御部607も乱数発生部609の出力に応じて、無色インク走査記録量制御部608と同様に複数用意したマスクパターンを切り替えるように構成してもよい。有色インクのマスクパターンを複数用意することで、有色インク層と無色インク層の存在位置のランダム性をより高めることができる。一方で、複数用意するマスクパターンを有色インクと無色インクとで同一とし、乱数発生部609が出力する乱数をそれぞれに異ならせることで、それぞれに対して異なるマスクパターンが選択されるようにしてもよい。
【0047】
(マスク処理)
以下、有色インク走査記録量制御部607及び無色インク走査記録量制御部608のマスク処理について説明する。なお、両処理は同様なマスク処理を有色インクと無色インクに対して行うため、以下マスク処理として説明を行う。
【0048】
図7は、インクを用いたマルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示したものである。説明を簡単にするため、記録ヘッド1301は25個のノズルを有するものとする。ノズルは、第1〜第5の5つのノズル群に分割され、各ノズル群には5つずつのノズルが含まれている。各走査1303〜1307は、マスクパターン1302により、各ノズルが記録を行うエリアを黒塗りで示している。
【0049】
各ノズル群が記録する記録パターンは互いに補完の関係にあり、これらを重ね合わせると5×5のエリアに対応した領域の記録が完成される構成となっている。各パターン1303〜1307は、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示したものであり、各記録パターンのインク量は等しい。つまり、各記録走査により記録されるインク量(記録比率)は同一である。各記録走査が終了するたびに、記録媒体は図の矢印の方向にノズル群の幅分ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は全5回の記録走査によって初めて画像が完成される構成となっている。
【0050】
以上のように、本実施例におけるインクの記録においては、記録媒体の同一領域が複数回の記録走査で複数のノズル群によるインクの吐出によって形成される。
【0051】
また、図8に示される記録パターンの例は、マスクパターン1302と異なったマスクパターンを用いた例である。記録ヘッド1401は、記録ヘッド1301と同様の構成を有する。マスクパターン1402は、各記録走査における記録パターンと記録比率が異なる。各パターン1403〜1407は、マスクパターン1402による記録走査を重ねて画像が完成されていく様子を示したものであり、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)が全5回の記録走査によって完成される。しかしながら、記録パターンと記録比率とがパターン1303〜1307とは異なり、全記録走査における始めと終わりの記録走査による記録比率が低く、途中の記録走査による記録比率が高い。
【0052】
以上のようなマスクパターンを用いることにより、記録媒体上の同一領域が複数回の走査で複数のノズル群によって形成され、第1ノズル群から第5ノズル群で吐出されるインク量を制御することが可能である。
【0053】
図7及び図8のマスクパターンを用いて記録した場合の各記録走査におけるインク量を図9に模式的に示す。図9(a)は、各記録走査による記録比率が変化しないマスクパターン、つまり、図7に示すようなマスクパターンによるインク量1501を模式的に示す。図9(b)は、記録走査回数に応じて記録比率が変化するマスクパターン、つまり、図8に示すマスクパターン1402によるインク量1502を示す。
【0054】
記録媒体上における有色インク層中の無色インク層の位置制御とマスクパターンとの関係の例について図10に模式図を示す。図10は、縦軸に各記録走査において記録されるインク量、横軸を記録走査回数とし両者の関係をグラフに示す。またこの場合、インク量の描く形状が平坦な形状となるインク量1601の有色インク用のマスクパターンに対し、インク量の形状が異なる無色インク用のマスクパターンを組み合わせた場合に記録媒体上で形成されるインク層の例を示している。
【0055】
ここで、無色インク用のマスクパターンは、前述したグラフにおけるインク量の形状から単調増加状のインク量変化1602、放物線状のインク量変化1603、単調減少状のインク量変化1604の3種類を示す。3種類に対するインク層はそれぞれ各記録走査におけるインク比率が異なるため、インク層1605〜1607が示すように有色インクと無色インクの存在位置が層状に変化する。例えば、インク量1601と単調増加インク量1602とでは、走査回数の増加に応じて、始め有色インクの記録比率のほうが無色インクより相対的に高い。そのため、有色インクのほうが無色インクより先に多くのインク量が記録媒体上に吐出されることになり、記録媒体に近いほうに有色インクのインク層が位置することとなる。他方、走査回数の最後に近づくにつれ(走査回数が多くなるにつれ)、有色インクに比べて無色インクのインク量が多くなるため、インク層の表面に近いほうに無色インクのインク層が位置することになる。
【0056】
従って、図7及び図8に示したような複数のマスクパターンを予め保持し、有色インクと無色インクそれぞれのマスクパターンを切り替えて(組み合わせて)用いることにより、有色インク層中の無色インク層の位置を制御することが可能である。そして、このように各色材のインク層の位置が異なると、空気層とインク層の界面で起こる反射、及びインク層内部で起こる反射による正反射の色付き具合が変化する。
【0057】
そこで、無色インク走査記録量制御部608は、乱数発生部609により発生される乱数に基づき、無色インクのマスクパターンを画素ごとに変更することで、注目画素および周辺画素において様々な(ランダムな)光沢色付きを発生させる。以上により、前述のように様々な光沢色付きの集合は白に見えるため、大局的な光沢色付きが低減される。
【0058】
なお、インク層位置を変更させることができれば、色材と各色材に対するマスクパターンとの組み合わせは上記の例に限られない。例えば、有色インク走査記録量制御部607が有色インクの複数のマスクパターンを保持し、前述したように乱数に応じて変更してもよい。
【0059】
以上説明したように、本実施例によれば、有色インク層中に存在するクリアインク層の位置をランダムに変化させることで、正反射色付きを低減することが可能となる。
【実施例2】
【0060】
実施例1における有色インク走査記録量制御部607、及び無色インク走査記録量制御部608は、乱数発生部609の出力に応じて予め記憶された複数のマスクパターンを切り替えたが、これに限られるものではない。すなわち、乱数発生部の出力に応じてマスクパターンを生成してもよい。
【0061】
以下、本実施例における有色インク走査記録量制御部607と無色インク走査記録量制御部608によるマスク処理を、記録走査回数が8回の場合の例について説明する。なお、実施例1と異なる点を中心に簡潔に説明する。また、有色インク走査記録量制御部607と無色インク走査記録量制御部608は、同様なマスク処理を行う。
【0062】
まず、実施例1と同様に乱数発生部609において以下の処理3により一様乱数を発生させる。
Rand(n)=RAND()/RAND_MAX (n=1〜8)・・・(処理3)
ここで、Rand(n):一様乱数、RAND():自然乱数、RAND_MAX:乱数の最大値とする。
【0063】
つぎに、有色インク走査記録量制御部607と無色インク走査記録量制御部608は、処理3の出力である8つの乱数を取得する。そして、任意の画像領域における有色インクまたは無色インクの記録走査毎の記録比率を以下のように決定する。
【0064】
【数1】

【0065】
ここで、Ink_amount_ratio(n):n回目の記録走査における記録比率である。
【0066】
つぎに、上記記録比率に応じて図示しない記録パターンを生成し、生成された記録パターンに従った吐出データY,M,C,K,CLをヘッド駆動回路610に出力する。
【0067】
なお、上記で算出される乱数は、一様乱数に限られることは無く、記録パターンのインデックスの中心値を中心とした正規乱数などを用いてもよい。さらには、一般的に知られるBayer型・ホワイトノイズマスク・ブルーノイズマスク・グリーンノイズマスク等の特定の周波数変調を行った出力値を生成してもよい。
【0068】
以上、実施例2により、実施例1のように、複数のマスクパターンを予め保持しておく必要が無いため、メモリ領域の削減などのさらなる効果を得ることが可能である。
【0069】
また、本発明は、上述した実施例の機能(例えば、上記の各部の処理を各工程に対応させたフローチャートにより示される処理)を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給することによっても実現できる。この場合、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が、コンピュータが読み取り可能に記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することにより、上述した実施例の機能を実現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上の同一領域を複数回記録走査することにより画像を形成するための色材データを生成する画像処理装置であって、
画像内の注目画素に対応する画像データを有色色材の色材量に対応する色材データに変換する変換手段と、
前記注目画素における前記記録走査各々について第一の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成し、前記注目画素の周辺画素における前記記録走査各々について第二の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成する生成手段と
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
乱数を発生させる乱数発生手段と、
前記記録走査各々における記録比率が異なる複数のマスクパターンを保持する保持手段とをさらに有し、
前記生成手段は、前記乱数に応じて前記複数のマスクパターンから少なくとも2つのマスクパターンを選択し、該選択したマスクパターンにより前記色材データを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記複数のマスクパターンは、前記記録走査の回数に応じて記録比率が単調増加するマスクパターンと単調減少するマスクパターンとを含むことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
乱数を発生させる乱数発生手段と、
前記生成手段は、前記乱数に応じて、前記記録走査各々における記録比率が異なる複数のマスクパターンを生成し、該生成したマスクパターンにより前記有色色材の色材量に対応する色材データを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記有色色材の色材量に対応する色材データの前記注目画素における前記記録走査各々の記録比率は同一であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第一の記録比率は前記記録走査各々において同一の記録比率であり、前記第二の記録比率は前記記録走査各々において異なる記録比率であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記色材データを用いて画像を形成する画像形成手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
記録媒体上の同一領域を複数回記録走査することにより画像を形成するための色材データを生成する画像処理方法であって、
画像内の注目画素に対応する画像データを有色色材の色材量に対応する色材データに変換する変換工程と、
前記注目画素における前記記録走査各々について第一の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成し、前記注目画素の周辺画素における前記記録走査各々について第二の記録比率により無色色材の色材量に対応する色材データを生成する生成工程と
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載された画像処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−124854(P2012−124854A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276178(P2010−276178)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】