説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】画像の重ね合わせによるノイズ低減処理の効果をより高める。
【解決手段】画像処理装置100は、ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償する動き補償部116と、動きが補償されたターゲット画像と参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成する画像重ね合わせ部117と、重ね合わせ画像を空間フィルタリングする空間フィルタリング部118とを備える。空間フィルタリング部118は、εフィルタを用いて重ね合わせ画像を空間フィルタリングしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置および画像処理方法に関し、特に、画像に含まれるノイズを低減する画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像の撮影において、連続して撮影された複数の画像(フレーム)を重ね合わせて、ノイズが低減された画像を得る技術が知られている。例えば、処理対象となる画像(ターゲット画像)に、ターゲット画像の前または後に連続して撮影され、動き検出および動き補償によって位置合わせされた複数の画像(参照画像)を重ね合わせた場合、略同一の画像が時間方向で積分されることになるため、各画像にランダムに含まれるノイズが相殺され、結果としてノイズが低減される。以下、このような方法によるノイズ低減(NR:Noise Reduction)を、フレームNRという。
【0003】
このようなフレームNRの利点として、空間周波数に関係なくノイズを低減できるということがある。例えば、空間フィルタを用いたNRでは、高周波成分からなるノイズと被写体のエッジとを区別することが難しいのに対し、フレームNRでは、被写体のエッジを残しつつ、高周波成分からなるノイズを低減することが可能である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−81596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、画像に含まれるノイズは、必ずしもすべてがランダムノイズではない。ノイズの中には、例えば、センサ特性やレンズ特性の偏りのために、各画像に固定したパターンとして含まれるノイズもある。このような固定パターンノイズは、各画像を時間方向に積分しても相殺されず、それゆえフレームNRによって低減することが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、画像の重ね合わせによるノイズ低減処理の効果をより高めることが可能な、新規かつ改良された画像処理装置および画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償する動き補償部と、動きが補償された上記ターゲット画像と上記参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成する画像重ね合わせ部と、上記重ね合わせ画像を空間フィルタリングする空間フィルタリング部とを備える画像処理装置が提供される。
【0008】
上記空間フィルタリング部は、εフィルタを用いて上記重ね合わせ画像を空間フィルタリングしてもよい。
【0009】
上記空間フィルタリング部は、上記重ね合わせ画像を縮小して空間フィルタリングしてもよい。
【0010】
上記重ね合わせ画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号であり、上記空間フィルタリング部は、上記色差成分を空間フィルタリングしてもよい。
【0011】
上記ターゲット画像および上記参照画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号であってもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償することと、動きが補償された上記ターゲット画像と上記参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成することと、上記重ね合わせ画像を空間フィルタリングすることとを含む画像処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、画像の重ね合わせによるノイズ低減処理の効果をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理の概念図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における動きベクトル検出処理についての説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置における動き補償部の機能構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置において動き補償部に含まれるターゲットブロックバッファ部の機能構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置において動き補償部に含まれる参照ブロックバッファ部の機能構成を示すブロック図である
【図7】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置における画像重ね合わせ部の機能構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る撮像装置における色差NR部の機能構成を示すブロック図である。
【図9】タップ数が大きいεフィルタによる空間フィルタリングがフレームNRの後に行われる場合とそうでない場合とを比較する模式図である。
【図10】動き補償部から提供される参照画像のデータを用いない色差NR部の機能構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理および色差NR処理を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る撮像装置における色差NR部の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.第1の実施形態
1−1.撮像装置の全体構成
1−2.フレームNR処理について
1−3.フレームNR処理および色差NR処理の詳細
2.第2の実施形態
3.まとめ
【0017】
<1.第1の実施形態>
<1−1.撮像装置の全体構成>
まず、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置の構成について説明する。本発明の第1の実施形態において、画像処理装置は撮像装置であり、加算部は画像重ね合わせ部であり、空間フィルタリング部は色差NR部である。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100の機能構成を示すブロック図である。撮像装置100は、静止画または動画を撮像してデジタル方式の画像データとして記録媒体に記録する機能を有する、例えばデジタルカメラなどの任意の電子機器でありうる。
【0019】
図1を参照すると、撮像装置100は、制御部101、操作部102、メモリ103、ストレージ104、撮像光学系111、タイミングジェネレータ112、撮像素子113、信号処理部114、RAW/YC変換部115、動き補償部116、画像重ね合わせ部117、色差NR部118、静止画コーデック119、動画コーデック120、NTSCエンコーダ121、およびディスプレイ122を含む。これらの各構成要素は、システムバス125を介して相互に接続される。
【0020】
制御部101は、撮像装置100の各部の動作を制御する。制御部101は、メモリ103に格納されたプログラムに基づいて動作することによって、制御のために必要な各種の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)でありうる。制御部101は、演算処理のための一時格納領域としてメモリ103を用いてもよい。なお、制御部101が動作するためのプログラムは、メモリ103に予め書き込まれたものであってもよく、ディスク状記録媒体またはメモリカードなどのリムーバブル記憶媒体に格納されて撮像装置100に提供されるものであってもよい。また、制御部101が動作するためのプログラムは、LAN(Local Area Network)、インターネット等のネットワークを介して撮像装置100にダウンロードされるものであってもよい。
【0021】
操作部102は、撮像装置100を操作するためのユーザインターフェースとして機能する、操作部102は、例えば、撮像装置100の外装に設けられたシャッターボタンなどの操作ボタン、タッチパネル、またはリモートコントローラなどでありうる。操作部102は、ユーザの操作に基づいて、撮像装置100の起動および停止、静止画もしくは動画の撮影開始および終了、または撮像装置100の各種機能の設定などの操作信号を制御部101に出力しうる。
【0022】
メモリ103には、撮像装置100の処理に関するデータが格納される。メモリ103は、例えば、フラッシュROM(Read Only Memory)またはDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの半導体メモリでありうる。メモリ103には、例えば、制御部101が用いるプログラム、および画像処理機能によって処理される画像信号が、一時的または継続的に格納されうる。メモリ103に格納される画像信号は、例えば、後述する基底面および縮小面のターゲット画像、参照画像、およびNR画像でありうる。
【0023】
ストレージ104には、撮像装置100によって撮影された画像が、画像データとして格納される。ストレージ104は、例えば、フラッシュROMなどの半導体メモリ、BD(Blu-ray Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、もしくはCD(Compact Disc)などの光ディスク、またはハードディスクなどでありうる。ストレージ104は、撮像装置100に内蔵される記憶装置であってもよく、メモリカードなどの撮像装置100に着脱可能なリムーバブルメディアであってもよい。
【0024】
撮像光学系111は、フォーカスレンズ、ズームレンズ等の各種レンズ、光学フィルタ、および絞りなどの光学部品からなる。被写体から入射された光学像(被写体像)は、撮像光学系111における各光学部品を介して、撮像素子113の露光面に結像される。
【0025】
タイミングジェネレータ112は、制御部101の指示に従って、垂直転送のための4相パルス、フィールドシフトパルス、水平転送のための2相パルス、シャッタパルスなどの各種パルスを生成して撮像素子113に供給する。
【0026】
撮像素子(イメージセンサ)112は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子で構成される。撮像素子113は、タイミングジェネレータ112からの動作パルスによって駆動され、撮像光学系111から導かれた被写体像を光電変換する。これによって、撮像画像を表す画像信号が、信号処理部114に出力される。ここで出力される画像信号は、タイミングジェネレータ112からの動作パルスに同期した信号であって、赤(R)、緑(G)、および青(B)の3原色から構成されるベイヤー配列のRAW信号(生の信号)である。
【0027】
信号処理部114以降の各部の画像処理機能は、例えばDSP(Digital Signal Processor)を用いて実現されうる。信号処理部114は、撮像素子113から入力された画像信号に、ノイズ除去、ホワイトバランス調整、色補正、エッジ強調、ガンマ補正、解像度変換などの画像信号処理を実行する。信号処理部114は、デジタル画像信号をメモリ103に一時的に格納してもよい。RAW/YC変換部115は、信号処理部114から入力されたRAW信号をYC信号に変換して、動き補償部116に出力する。ここで、YC信号は、輝度成分(Y)、および赤/青の色差成分(Cr/Cb)を含む画像信号である。
【0028】
動き補償部116は、ターゲット画像および参照画像の画像信号をメモリ103から読み込む。動き補償部116は、例えばブロックマッチングなどの処理によって、これらの画像の間の動きベクトルを検出し、ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償する。後述するように、動き補償部116は、動きベクトルの検出の過程で用いられる縮小面マッチング処理範囲の画像データを、色差NR部118に提供してもよい。
【0029】
画像重ね合わせ部117は、動き補償部116に動きが補償されたターゲット画像と参照画像とを重ね合わせて、重ね合わせ画像であるNR画像を生成する。画像重ね合わせ部117は、NR画像を色差NR部118に提供する。NR画像では、上述したフレームNRの効果によって、画像に含まれるノイズが低減されている。なお、動き補償部116および画像重ね合わせ部117の詳細については後述する。
【0030】
色差NR部118は、画像重ね合わせ部117から提供されたNR画像を空間フィルタリングする。色差NR部118は、εフィルタを用いて、NR画像を空間フィルタリングしてもよい。空間フィルタリングによって、NR画像に含まれる低空間周波数のノイズ成分が除去されうる。色差NR部118は、NR画像のYC信号に含まれる色差成分を空間フィルタリングしてもよい。色差NR部118は、動きベクトルの検出の過程で用いられる縮小面マッチング処理範囲の画像データを、動き補償部116から取得してもよい。色差NR部118から出力された画像信号は、メモリ103に一時的に格納されうる。なお、色差NR部118の詳細については後述する。
【0031】
静止画コーデック119は、操作部102によって静止画撮影の指示が取得されている場合(静止画撮影時)に、NR処理後の画像信号をメモリ103から読み込み、例えばJPEG(Joint Photographic Experts Group)などの所定の圧縮符号化様式で圧縮して、画像データとしてストレージ104に格納する。また、静止画コーデック119は、操作部102によって静止画再生の指示が取得されている場合(静止画再生時)に、画像データをストレージ104から読み込み、JPEGなどの所定の圧縮符号化様式で伸張した画像信号をNTSCエンコーダ121に提供してもよい。
【0032】
動画コーデック120は、操作部102によって動画撮影の指示が取得されている場合(動画撮影時)に、NR処理後の画像信号をメモリ103から読み込み、例えばMPEG(Moving Picture Experts Group)などの所定の圧縮符号化様式で圧縮して、画像データとしてストレージ104に格納する。また、動画コーデック120は、操作部102によって動画再生の指示が取得されている場合(動画再生時)に、画像データをストレージ104から読み込み、MPEGなど所定の圧縮符号化様式で伸張した画像信号をNTSCエンコーダ121に提供してもよい。
【0033】
NTSC(National Television System Committee)エンコーダ121は、画像信号をNTSC方式の標準カラー映像信号に変換して、ディスプレイ122に提供する。静止画撮影時または動画撮影時において、NTSCエンコーダ121は、NR処理後の画像信号をメモリ103から読み込み、スルー画像または撮影された画像としてディスプレイ122に提供してもよい。また、静止画再生時または動画再生時において、NTSCエンコーダ121は、静止画コーデック119または動画コーデック120から画像信号を取得し、再生画像としてディスプレイ122に提供してもよい。
【0034】
ディスプレイ122は、NTSCエンコーダ121から取得した映像信号を表示する。ディスプレイ122は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)または有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどでありうる。また、NTSCエンコーダ121から出力される映像信号は、図示しないHDMI(High-Definition Multimedia Interface)などの通信部によって、撮像装置100から外部に出力されてもよい。
【0035】
<1−2.フレームNR処理について>
次に、本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理について説明する。本実施形態に係る撮像装置100において、フレームNR処理は、主に、動き補償部116および画像重ね合わせ部117によって実行される。
【0036】
上述のように、撮像装置100においては、撮像素子113によるセンサーコーディングによって生成されたRAW信号が、RAW/YC変換部115によってYC信号に変換される。フレームNRは、RAW信号に対して行われることが一般的である。しかし、RAW信号に対するフレームNRでは、撮像装置100の中で非常に大きなシステムリソースが使用される。そのため、本実施形態では、フレームNRをYC信号に対して行うことによって、フレームNRで使用されるシステムリソースを抑制する。
【0037】
図2は、本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理の概念図である。図2を参照すると、本実施形態におけるフレームNR処理では、連続して撮影された複数の画像P1〜P3が、位置合わせ(動き補償)後に重ね合わせられて、ノイズが低減された画像Pmixになる。なお、上述のように、連続して撮影された複数の画像を重ね合わせた場合にノイズが低減されるのは、略同一の画像が時間方向で積分され、各画像にランダムに含まれるノイズが相殺されるためである。
【0038】
図示された例において、重ね合わせられる複数の画像P1〜P3は、必ずしも3枚の画像でなくてもよく、2枚または4枚以上の画像であってもよい。例えば、本実施形態に係る撮像装置100が静止画を撮影する場合、高速で連続して撮影された複数枚の画像のうち、1枚目の画像がターゲット画像になり、このターゲット画像に2枚目以降の画像が参照画像として順次重ね合わせられうる。また、撮像装置100が動画を撮影する場合、順次撮影される連続したフレームの画像がそれぞれターゲット画像になり、これらのターゲット画像に、それぞれのターゲット画像の1つ前のフレームの画像が参照画像として重ね合わせられうる。つまり、あるフレームの画像は、ターゲット画像にもなりうるし、別のフレームの画像をターゲット画像とした場合の参照画像にもなりうる。
【0039】
このように、連続して撮影された画像を重ねあわせるフレームNRの処理では、重ね合わせられるターゲット画像と参照画像との間での位置合わせ(動き補償)が重要になる。これらの画像には、例えば撮影者の手ぶれなどによる画像の位置ずれが生じている場合がある。また、それぞれの画像において、被写体自体が動いたことによる位置ずれが生じている場合もある。そこで、本実施形態におけるフレームNRでは、ターゲット画像を分割して生成される複数個のターゲットブロックのそれぞれについて、ブロック単位の動きベクトルを検出する。さらに、各ブロックについて、ブロック単位の動きベクトルを反映した動き補償をしてから、ターゲット画像と参照画像とを重ね合わせる。
【0040】
ここで、ブロック単位の動きベクトルを検出する処理では、ターゲット画像の各ブロック(ターゲットブロック)について、参照画像の各ブロック(参照ブロック)の中から相関性が最も高いブロック(動き補償ブロック)が探索されるブロックマッチング法が用いられる。ブロック単位の動きベクトルは、ターゲットブロックと動き補償ブロックとの間の位置ずれとして求められる。ターゲットブロックと参照ブロックとの間の相関性の高さは、例えば、双方のブロック内の各画素の輝度値の差分絶対値総和(SAD:Sum of Absolute Difference)値によって評価されうる。
【0041】
図3は、本発明の第1の実施形態における動きベクトル検出処理についての説明図である。図3を参照すると、本実施形態における動きベクトル検出処理では、まず縮小面における動きベクトルが検出され、その結果に基づいて、基底面における動きベクトルが検出される。
【0042】
上述のようなブロック単位の動きベクトルを検出する処理では、最小のSAD値を示す参照ブロックが動き補償ブロックとして特定される。つまり、動き補償ブロックを特定するためには、参照ブロックの位置を順次移動させながら、最小のSAD値を示す参照ブロックを探索する必要がある。例えば、精度が1ピクセルである動きベクトルを検出しようとする場合、動き補償ブロックを1ピクセルの精度で特定する必要があり、従って、最小のSAD値を示す参照ブロックの探索においても、参照ブロックを1ピクセル単位で順次移動させる必要がある。
【0043】
このような参照ブロックの探索を、ターゲット画像および参照画像に対してそのまま実行する場合、SAD値を算出する回数が多くなり、処理負荷が増大する。そこで、本実施形態では、図示されている例のように、ターゲット画像および参照画像をそれぞれ縮小した画像(縮小面)を作成し、縮小面において動きベクトルを検出した結果に基づいて、縮小されていないターゲット画像および参照画像(基底面)において動きベクトルを検出する。
【0044】
具体的には、まず、ターゲット画像および参照画像の水平方向および垂直方向がそれぞれ1/n(n=2,3,・・・)に縮小されて、縮小面ターゲット画像および縮小面参照画像が作成される。これによって、基底面ターゲットブロック201と、基底面ターゲットブロック201の参照画像への射影イメージに基づいて設定されるサーチ範囲202およびマッチング処理範囲203とは、それぞれ1/nに縮小されて、縮小面ターゲットブロック301、縮小面サーチ範囲302、および縮小面マッチング処理範囲303になる。
【0045】
次に、縮小面参照画像において、縮小面マッチング処理範囲303内に設定される複数個の縮小面参照ブロック304と、縮小面ターゲットブロック301との間のSAD値を算出することによって、縮小面参照ブロック304の中で縮小面ターゲットブロック301との相関性が最も高いブロックが、縮小面動き補償ブロックとして特定される。さらに、縮小面ターゲットブロック301と縮小面動き補償ブロックとの間の位置ずれが、縮小面動きベクトル305として取得される。
【0046】
次に、基底面参照画像において、縮小面動きベクトル305をn倍した基底面仮動きベクトル205が定義される。さらに、基底面ターゲットブロック201の基底面参照画像への射影イメージから基底面仮動きベクトル205の分だけ移動した位置の近傍に、基底面サーチ範囲206および基底面マッチング処理範囲207が設定される。続いて、基底面マッチング処理範囲207内に設定される複数の基底面参照ブロック208と、基底面ターゲットブロック201との間のSAD値を算出することによって、基底面参照ブロック208の中で基底面ターゲットブロック201との相関性が最も高いブロックが、基底面動き補償ブロックとして特定される。さらに、基底面ターゲットブロック201と基底面動き補償ブロックとの間の位置ずれが、基底面動きベクトルとして取得される。
【0047】
ここで、縮小面参照画像が基底面参照画像に比べて1/nに縮小されているため、縮小面動きベクトル305の精度は、基底面で同様の探索によって求められる動きベクトルの精度のn倍の低い精度になる。例えば、参照ブロックを1ピクセル単位で順次移動させて動き補償ブロックを探索して動きベクトルを得ようとする場合、基底面の探索で得られる動きベクトルの精度は1ピクセルになるが、縮小面の探索で得られる動きベクトルの精度はnピクセルになる。
【0048】
それゆえ、本実施形態では、縮小面の探索によって得られた縮小面動きベクトル305に基づいて、基底面参照画像において基底面サーチ範囲206および基底面マッチング処理範囲207が設定され、所望の精度での動き補償ブロック208および動きベクトルの探索が実行される。縮小面動きベクトル305によって、n倍の低い精度ではあるものの、動き補償ブロック208が存在しうる範囲は特定されている。そのため、基底面の探索の範囲は、元のサーチ範囲202よりもずっと小さい基底面サーチ範囲206でよい。例えば、図示された例において、基底面の探索によって1ピクセル単位の動きベクトルを得ようとする場合、基底面サーチ範囲206は、水平方向および垂直方向がいずれもnピクセルの範囲でありうる。
【0049】
本実施形態における動きベクトル検出処理では、元のサーチ範囲202の全体における動き補償ブロックの探索が、縮小面サーチ範囲302における探索に置き換えられる。これによって、参照ブロックのSAD値を算出する回数が、ターゲット画像および参照画像に対してそのまま実行する場合に比べて例えば1/nに削減される。また、本実施形態における動きベクトル検出処理では、基底面サーチ範囲206における追加の探索が実行されるが、基底面サーチ範囲206は、元のサーチ範囲202よりもずっと小さい範囲であるため、この追加の探索において参照ブロックのSAD値を算出する回数は多くない。従って、本実施形態における動きベクトル検出処理では、ターゲット画像および参照画像に対してそのまま実行する場合に比べて処理負荷が軽減される。
【0050】
以上説明したように、本実施形態におけるフレームNR処理では、連続して撮影された複数の画像を動き補償後に重ね合わせることによって、画像のノイズが低減される。動き補償のための動きベクトルの検出では、基底面を縮小した縮小面を用いた探索によって、より少ない負荷で処理が実行される。
【0051】
(空間フィルタリングによるNRの利点)
しかしながら、上述のように、画像に含まれるノイズは、必ずしもすべてがランダムノイズではなく、各画像に固定したパターンとして含まれるノイズもある。このような固定パターンノイズは、例えばセンサ特性やレンズ特性の偏りのために生じるものであり、低空間周波数のノイズ成分である。このような固定パターンノイズは、連続して撮影された画像を時間方向に積分しても相殺されないため、フレームNRによって低減することが難しい。
【0052】
人間の視覚特性として、輝度の低空間周波数ノイズ成分には敏感ではないが、色差の低空間周波数ノイズ成分には敏感であるという特性がある。それゆえ、固定パターンノイズがフレームNRによって低減されずに残った場合、輝度のノイズは目立たないものの、色差のノイズが目立って観察される。そこで、例えばローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、またはεフィルタのような空間フィルタリングによって、固定パターンノイズを除去することが考えられる。
【0053】
しかし、空間フィルタリングは、多かれ少なかれ解像度の低下を伴う。人間の視覚特性として、輝度の解像度に対しては敏感であるが、色差の解像度には敏感ではないという特性がある。それゆえ、RAW信号を空間フィルタリングなどによって輝度および色差ともに解像度が低下した場合、空間フィルタリング後の画像では、特に輝度の解像度が低下したことによって、解像度の低下が目立って観察される。
【0054】
そこで、本実施形態では、輝度成分と色差成分とが分離して含まれるYC信号を空間フィルタリングすることによって、輝度成分については空間フィルタリングをせず、色差成分について空間フィルタリングする。この場合、色差の解像度は低下するものの、輝度の解像度は低下しない。上述のように、人間の視覚特性として、輝度の解像度に対しては敏感であるが、色差の解像度には敏感ではないという特性があるため、本実施形態による空間フィルタリング後の画像では、解像度の低下が目立って観察されない。
【0055】
以上で説明した、本実施形態における空間フィルタリングの構成に関連する人間の視覚特性を、表1にまとめて示す。
【0056】
【表1】

【0057】
本実施形態のように、フレームNRと空間フィルタリングとを組み合わせて画像のノイズを低減する場合、フレームNRでは空間周波数帯域全体のランダムノイズを低減し、空間フィルタリングでは低空間周波数の固定パターンノイズを低減する。この場合、空間フィルタリングを行うタイミングとしては、フレームNRの前、フレームNRの後、またはフレームNRと同時、が考えられる。
【0058】
本実施形態では、動き補償部116および画像重ね合わせ部117によるフレームNRの後に、色差NR部118によって空間フィルタリングを行う。これは、固定パターンノイズは、連続して撮影された画像がフレームNRにおいて時間方向に積分されることによってむしろ顕在化する場合があり、顕在化した固定パターンノイズは空間フィルタリングによって除去することが比較的容易であるためである。また、例えばεフィルタのような、閾値を設定して用いられるフィルタを空間フィルタリングに用いる場合、予めフレームNRによって高空間周波数のランダムノイズが除去されていれば、空間フィルタリングにおける閾値の設定が容易になるためである。
【0059】
<1−3.フレームNR処理および色差NR処理の詳細>
次に、本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理および色差NR処理の詳細について、動き補償部116、画像重ね合わせ部117、および色差NR部118の機能の詳細とともに説明する。
【0060】
(動き補償部の詳細)
図4は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100における動き補償部116の機能構成を示すブロック図である。図4を参照すると、動き補償部116は、ターゲットブロックバッファ部161、参照ブロックバッファ部162、マッチング処理部163、動きベクトル算出部164、およびコントロール部165を含む。これらの各部を含む動き補償部116は、例えばDSPを用いて実現されうる。
【0061】
ここで、図5を参照して、ターゲットブロックバッファ部161について説明する。図5は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100において動き補償部116に含まれるターゲットブロックバッファ部161の機能構成を示すブロック図である。図5を参照すると、ターゲットブロックバッファ部161は、基底面バッファ部1611、縮小面バッファ部1612、および縮小化処理部1613を含む。
【0062】
ターゲットブロックバッファ部161は、メモリ103、またはRAW/YC変換部115から提供される基底面ターゲットブロック201または縮小面ターゲットブロック301の画素データを取得する。これらの画素データの取得元は、セレクタ1614によって切り替えられうる。例えば、ターゲットブロックバッファ部161は、静止画撮影時にはメモリ103から画素データを取得し、動画撮影時にはRAW/YC変換部115から画素データを取得してもよい。なお、ここで取得される縮小面ターゲットブロック301の画素データは、後述する画像重ね合わせ部117に含まれる縮小面生成部174、または、RAW/YC変換部115によって生成され、メモリ103に格納されたものでありうる。
【0063】
ターゲットブロックバッファ部161は、基底面バッファ部1611において、基底面ターゲットブロック201の画素データを蓄積する。また、ターゲットブロックバッファ部161は、縮小面バッファ部1612において、縮小面ターゲットブロック301の画素データを蓄積する。例えば、動画撮影時に、RAW/YC変換部115から取得される画素データに縮小面ターゲットブロック301の画素データが含まれないような場合、ターゲットブロックバッファ部161は、縮小化処理部1613を用いて、基底面ターゲットブロック201の画素データから縮小面ターゲットブロック301の画素データを生成する。縮小化処理部1613を用いるか否かは、セレクタ1615によって切り替えられうる。
【0064】
ターゲットブロックバッファ部161は、画像重ね合わせ部117、およびマッチング処理部163に、基底面ターゲットブロック201または縮小面ターゲットブロック301の画素データを提供する。画像重ね合わせ部117には、基底面バッファ部1611に蓄積された基底面ターゲットブロック201の画素データが提供される。マッチング処理部163には、縮小面でのブロックマッチング処理時は縮小面バッファ部1612に蓄積された縮小面ターゲットブロック301の画素データが、基底面でのブロックマッチング処理時には基底面バッファ部1611に蓄積された基底面ターゲットブロック201の画素データが、それぞれ提供される。マッチング処理部163に提供される画素データは、セレクタ1616によって切り替えられうる。
【0065】
続いて、図6を参照して、参照ブロックバッファ部162について説明する。図6は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100において動き補償部116に含まれる参照ブロックバッファ部162の機能構成を示すブロック図である。図6を参照すると、参照ブロックバッファ部162は、基底面バッファ部1621、および縮小面バッファ部1622を含む。
【0066】
参照ブロックバッファ部162は、メモリ103から、縮小面マッチング処理範囲303および基底面マッチング処理範囲207の画素データを取得する。取得された縮小面マッチング処理範囲303および基底面マッチング処理範囲207の画素データは、それぞれ基底面バッファ部1621および縮小面バッファ部1622に蓄積される。
【0067】
また、参照ブロックバッファ部162は、画像重ね合わせ部117、およびマッチング処理部163に、基底面または縮小面の参照ブロックの画素データを提供する。画像重ね合わせ部117には、基底面バッファ部1621に蓄積された基底面マッチング処理範囲207の画素データのうち、動き補償ブロックとして特定された範囲の画素データが提供される。マッチング処理部163には、縮小面でのブロックマッチング処理時は、縮小面バッファ部1622に蓄積された縮小面マッチング処理範囲303の画素データのうち、ブロックマッチング処理で用いられる縮小面参照ブロックの画素データが提供される。また、基底面でのブロックマッチング処理時は、基底面バッファ部1621に蓄積された基底面マッチング処理範囲207の画素データのうち、ブロックマッチング処理で用いられる基底面参照ブロックの画素データが提供される。なお、マッチング処理部163に提供される画素データは、セレクタ1623によって切り替えられる。
【0068】
さらに、参照ブロックバッファ部162は、色差NR部118に、縮小面バッファ部1622に蓄積された縮小面マッチング処理範囲303の画素データを提供してもよい。後述するように、ここで提供される縮小面マッチング処理範囲303の画素データは、色差NR部118において、空間フィルタリング処理のウインドウとして利用されうる。
【0069】
再び図4を参照する。マッチング処理部163は、ターゲットブロックと参照ブロックとの間の相関の強さを検出するブロックマッチングの処理を実行する。ターゲットブロックと参照ブロックとの間の相関の強さは、例えば、各画素の輝度信号のSAD値を用いて評価されうる。ターゲットブロックと参照ブロックとの間の相関の強さは、各画素の色差信号などの他の情報を用いて評価されてもよい。また、演算量の削減のために、演算の対象とする画素が間引かれてもよい。
【0070】
動きベクトル算出部164は、マッチング処理部163におけるブロックマッチングの処理結果に基づいて、動きベクトルを取得する。動きベクトル算出部164は、例えば、マッチング処理部163によって算出されたSAD値の最小値を検出および保持し、さらに、SAD値が最小である参照ブロックの近傍の複数の参照ブロックのSAD値を保持して、二次曲線近似補間処理によって、サブピクセル精度の高精度の動きベクトルを検出してもよい。
【0071】
コントロール部165は、動き補償部116の各部を制御する。コントロール部165は、例えば、ターゲットブロックバッファ部161に含まれるセレクタ1614〜1616、および参照ブロックバッファ部162に含まれるセレクタ1623を制御する。また、コントロール部165は、ターゲットブロックバッファ部161および参照ブロックバッファ部162によって提供される画素データに応じて、縮小面または基底面でのブロックマッチング処理を実行するようにマッチング処理部163を制御してもよい。さらに、コントロール部165は、動きベクトル算出部164によって算出された動きベクトルを取得し、この動きベクトルに基づいて、動き補償ブロックを画像重ね合わせ部117に提供するように参照ブロックバッファ部162を制御してもよい。
【0072】
(画像重ね合わせ部の詳細)
図7は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100における画像重ね合わせ部117の機能構成を示すブロック図である。図7を参照すると、画像重ね合わせ部117は、加算率計算部171、加算部172、基底面出力バッファ部173、縮小面生成部174、および縮小面出力バッファ部175を含む。これらの各部を含む画像重ね合わせ部117は、例えばDSPを用いて実現されうる。
【0073】
加算率計算部171は、動き補償部116から、基底面ターゲットブロックおよび動き補償ブロックの画素データを取得し、これらのブロックの加算率を算出する。基底面ターゲットブロック201と動き補償ブロック208とは、例えば、単純加算方式または平均加算方式などの加算方式によって加算されうる。加算率計算部171は、これらの加算方式に応じて加算率を算出しうる。加算率計算部171は、算出した加算率と、基底面ターゲットブロック201および動き補償ブロック208の画素データとを、加算部172に提供する。
【0074】
加算部172は、加算率計算部171から、基底面ターゲットブロックおよび動き補償ブロックの画素データと、これらのブロックの加算率とを取得する。加算部172は、基底面ターゲットブロックの画素データと動き補償ブロックの画素データとを、取得した加算率で加算し、フレームNRの効果によってノイズが低減された基底面NRブロックを生成する。加算部172は、基底面NRブロックの画素データを、基底面出力バッファ部173および縮小面生成部174に提供する。
【0075】
基底面出力バッファ部173は、加算部172から提供された基底面NRブロックの画素データを蓄積し、基底面NR画像として色差NR部118に提供する。
【0076】
縮小面生成部174は、加算部172から提供された基底面NRブロックの画素データを縮小して、縮小面NRブロックの画素データを生成する。縮小面生成部174は、縮小面NRブロックの画素データを、縮小面出力バッファ部175に提供する。
【0077】
縮小面出力バッファ部175は、縮小面生成部174から提供された縮小面NRブロックの画素データを蓄積し、縮小面NR画像としてメモリ103に格納する。ここでメモリ103に格納された縮小面NR画像は、例えば、静止画撮影時に、フレームNR後のターゲット画像にさらに参照画像を重ね合わせる場合、縮小面ターゲット画像として用いられうる。また、ここでメモリ103に格納された縮小面NR画像は、動画撮影時に、次のフレームをターゲット画像としてフレームNRを実行する場合、縮小面参照画像として用いられうる。
【0078】
(色差NR部の詳細)
図8は、本発明の第1の実施形態に係る撮像装置100における色差NR部118aの機能構成を示すブロック図である。図8を参照すると、色差NR部118aは、遅延バッファ181、εフィルタ182、および色差信号処理部183を含む。これらの各部を含む色差NR部118aは、例えばDSPを用いて実現されうる。
【0079】
色差NR部118aは、画像重ね合わせ部117から、フレームNR後の基底面NR画像の画素データを取得する。この基底面NR画像の画素データは、輝度成分(Y)と色差成分(C)とを含むYC信号である。基底面NR画像の画素データは、一方では遅延バッファ181に入力され、他方では1/nに縮小される。1/nに縮小されたNR画像の画素データから、所定のサイズの縮小面ターゲット画が生成され、εフィルタ182に入力される。
【0080】
また、色差NR部118aは、動き補償部116から、縮小面マッチング処理範囲の画素データを取得する。この縮小面マッチング処理範囲の画素データも、輝度成分(Y)と色差成分(C)とを含むYC信号である。縮小面マッチング処理範囲の画素データは、縮小面ウインドウとしてεフィルタ182に入力される。
【0081】
εフィルタ182では、入力されたYC信号に含まれる色差成分(C)について、空間フィルタリング処理が実行される。ここで、εフィルタは、注目画素とその周辺画素との画素値の差分が所定の閾値以下である場合に、注目画素と周辺画素との画素値の加算平均で注目画素の画素値を置き換える空間フィルタである。なお、かかるεフィルタについては、例えば特開2005−311455号公報において詳述されている。
【0082】
また、εフィルタ182に代えて、例えばローパスフィルタまたはバンドパスフィルタのような空間フィルタを用いることも可能である。しかし、本実施形態では、空間フィルタリングの対象となる基底面NR画像において、既にフレームNRによってランダムノイズが低減されているため、閾値を用いて孤立点を除去するεフィルタを用いることが有効である。
【0083】
また、εフィルタ182は、上述のように、フレームNRによって低減することが難しい、低空間周波数の固定パターンノイズを除去するために用いられる。従って、εフィルタ182は、タップ数が大きいεフィルタであることが望ましい。タップ数が大きいεフィルタは、低空間周波数のノイズの除去において有効である反面、閾値の設定が高すぎる場合には、画像のテクスチャ成分をも除去してしまうという弊害を生じる。本実施形態では、空間フィルタリングの対象となる基底面NR画像において、既にフレームNRによってランダムノイズが低減されている。それゆえ、εフィルタ182では、閾値を比較的低く設定することが可能である。つまり、本実施形態では、εフィルタ182としてタップ数が大きいεフィルタを用いても、画像のテクスチャ成分が除去されるなどの弊害が生じるおそれは少ない。
【0084】
本実施形態のように、タップ数が大きいεフィルタによる空間フィルタリングを、フレームNRの後に行うことの利点について、図9を参照してさらに説明する。図9は、タップ数が大きい(高Tapの)εフィルタによる空間フィルタリングが、フレームNRの後に行われる場合とそうでない場合とを比較する模式図である。図9を参照すると、入力データの画像信号にフレームNRが加えられると、ノイズが低減されるため、フレームNRが加えられない場合に比べてεフィルタの閾値を小さく設定できることが示されている。
【0085】
εフィルタ182において色差成分が空間フィルタリングされた画像信号は、n倍に拡大されて、色差信号処理部183に入力される。画像のサイズを1/nに縮小した状態でεフィルタ182によって空間フィルタリングし、その後n倍に拡大して元のサイズに戻すことによって、ウインドウサイズが限られているεフィルタ182を用いて、より広い範囲の低空間周波数ノイズを除去することが可能になる。
【0086】
一方、遅延バッファ181に入力された基底面NR画像の画素データは、εフィルタ182による空間フィルタリングの処理の分だけ遅延されて色差信号処理部183に入力される。色差信号処理部183では、εフィルタにおいて空間フィルタリングされた色差成分(CCNR)が、基底面NR画像のYC信号のうちの色差成分(CFNR)に混合される。例えば、混合後の基底面NR画像の色差成分(C)は、係数aを用いて
C=a×CCNR+(1−a)×CFNR
と表されうる。a=1の場合、基底面NR画像の色差成分(CFNR)は、εフィルタによって空間フィルタリングされた色差成分(CCNR)によって置き換えられる。色差信号処理部183から出力された基底面NR画像の画素データは、メモリ103に格納される。
【0087】
(参照画像のデータを用いる利点)
本実施形態における色差NR部118aでは、εフィルタ182において用いられる縮小面ウインドウとして、動き補償部116から提供された縮小面マッチング処理範囲の画素データが用いられる。上述のように、この縮小面マッチング処理範囲の画素データは、動き補償部116におけるブロックマッチング処理のために、メモリ103に格納された縮小面参照画像から取得される。ここで、上述のように、フレームNRにおける参照画像は、ターゲット画像の前または後に連続して撮影された画像である。つまり、本実施形態における色差NR部118aでは、εフィルタ182において用いられる縮小面ウインドウとして、縮小面ターゲット画とは異なるフレームの画像が用いられる。
【0088】
かかる構成は、本実施形態におけるεフィルタ182が、1/nに縮小された画像を対象として空間フィルタリングを実行するために可能になる。これは、εフィルタ182において用いられる縮小面ターゲット画と縮小面ウインドウとの間にフレームが異なることによる微小な変化があったとしても、その変化はさらに1/nに縮小されるため、空間フィルタリングへの影響が無視しうる程度に小さくなるためである。
【0089】
このように、色差NR部118aにおいて、動き補償部116から提供される参照画像のデータを用いる利点について、図10を参照してさらに説明する。図10は、動き補償部116から提供される参照画像のデータを用いない色差NR部118bの機能構成を示すブロック図である。
【0090】
色差NR部118bの構成は、色差NR部118aと略同一であるが、εフィルタ182に入力される縮小面ウインドウが、基底面NR画像の画素データを1/nに縮小することによって生成される点が異なる。色差NR部118bでは、縮小面ターゲット画を生成する縮小処理に加えて、縮小面ターゲット画よりもずっと大きなサイズの縮小面ウインドウを生成する縮小処理が行われる。画像の縮小処理では、生成する画像のサイズが大きくなるほど、大量のデータを保持しなくてはならず、多くのシステムリソースが使用される。従って、色差NR部118bにおいて使用されるシステムリソースは、色差NR部118aにおいて使用されるシステムリソースよりもずっと多くなる。
【0091】
色差NR部118bの構成によっても、フレームNRによって低減されなかった固定パターンノイズを除去することは可能である。しかし、色差NR部118aの構成のように、εフィルタのウインドウとして動き補償部116から提供される参照画像のデータを用いることによって、システムリソースの使用を抑制しつつ、εフィルタのウインドウサイズを大きくして、広い範囲の低空間周波数ノイズを効果的に除去することが可能になる。
【0092】
なお、動き補償のために用いられた参照画像のデータを、空間フィルタリングの検索ウインドウとして用いる構成は、参照画像がフレームNRに用いられるか否かに関わらず適用されうる。つまり、本実施形態における動き補償部116および画像重ね合わせ部117のような構成要素が含まれない場合でも、上記の構成を適用することが可能である。また、空間フィルタリングの種類も、εフィルタには限られず、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタなど、検索ウインドウが用いられるあらゆる種類の空間フィルタリングが行われる場合において、上記の構成は適用されうる。
【0093】
(フレームNR処理および色差NR処理についてのまとめ)
図11を参照して、本実施形態におけるフレームNR処理および色差NR処理についてまとめる。図11は、本発明の第1の実施形態におけるフレームNR処理および色差NR処理を示すフローチャートである。
【0094】
まず、動き補償部116において、縮小面、基底面の2階層を用いた探索によって、ブロック単位の動きベクトルが検出される(ステップS101)。次に、検出された動きベクトルに基づいて、動き補償ブロックが取得される(ステップS103)。さらに、画像重ね合わせ部117において、ターゲットブロックと動き補償ブロックとの加算率が計算され(ステップS105)、加算率に基づいてターゲットブロックと動き補償ブロックとが重ね合わせられる(ステップS107)。ここまでの処理で、ターゲット画像と参照画像とを動き補償して重ね合わせるフレームNRの処理が実行され、ノイズが低減されたNR画像が得られる。
【0095】
続いて、色差NR部118において、NR画像の画像信号のうち、色差成分(C)がεフィルタによって空間フィルタリングされる(ステップS109)。さらに、NR画像の画像信号のうち、輝度成分(Y)を変更せずに、色差成分(C)がステップS109における空間フィルタリング後の色差成分(C)と混合される(ステップS111)。以上の処理によって、フレームNRによっては低減することが難しい低空間周波数の固定パターンノイズが除去され、結果として、フレームNRの効果を補完したより高いNR効果が得られる。
【0096】
<2.第2の実施形態>
続いて、図12を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、この第2の実施形態は、上述した第1の実施形態と比べて、色差NR部118の構成において相違するが、その他の構成については略同一であるため、詳細説明を省略する。
【0097】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る撮像装置100における色差NR部118cの機能構成を示すブロック図である。図12を参照すると、色差NR部118cは、遅延バッファ181、εフィルタ182、および色差信号処理部183を含む。これらの各部を含む色差NR部118cは、例えばDSPを用いて実現されうる。
【0098】
本実施形態の色差NR部118cは、縮小面ウインドウに加えて、縮小面ターゲット画も、動き補償部116によって提供される縮小面マッチング処理範囲の画素データから取得されるという点において、第1の実施形態における色差NR部118aとは異なる。色差NR部118cにおいて、画像重ね合わせ部117によって提供されるフレームNR後の基底面NR画像の画素データは、遅延バッファ181に入力されるが、εフィルタで用いるターゲット画および検索ウインドウの生成には用いられない。
【0099】
このような色差NR部118cの構成によれば、εフィルタ182において用いられるターゲット画と検索ウインドウとが同じフレームの画像になる。そのため、ターゲット画像と参照画像の間で画像が大きく変化している場合などに、εフィルタ182での空間フィルタリングが受ける影響を軽減することが可能である。
【0100】
<3.まとめ>
本発明の実施形態において、画像処理装置は、ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償する動き補償部と、動きが補償されたターゲット画像と参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成する画像重ね合わせ部と、重ね合わせ画像を空間フィルタリングする空間フィルタリング部とを含む。かかる構成によれば、画像を重ね合わせるフレームNRの処理によって低減することが難しいノイズを、空間フィルタリングによって除去ずることができ、画像の重ね合わせによるノイズ低減処理の効果をより高めることができる。
【0101】
空間フィルタリング部は、εフィルタを用いて重ね合わせ画像を空間フィルタリングしてもよい。かかる構成によれば、εフィルタによる閾値を用いた孤立点除去の作用によって、フレームNRの処理で低減されなかったノイズを効果的に除去することができる。また、フレームNRの後にεフィルタを用いることで、εフィルタの閾値を低く設定することができ、εフィルタの閾値の設定が容易になる。
【0102】
空間フィルタリング部は、重ね合わせ画像を縮小して空間フィルタリングしてもよい。かかる構成によれば、ウインドウサイズが限られているεフィルタを用いて、より広い範囲の低空間周波数ノイズを除去することができ、εフィルタの空間フィルタリング効果を高めることができる。
【0103】
重ね合わせ画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号であり、空間フィルタリング部は、色差成分を空間フィルタリングしてもよい。かかる構成によれば、輝度成分の解像度が空間フィルタリングによって低下することを防ぎ、空間フィルタリングによる解像度の低下が知覚されにくくすることができる。
【0104】
ターゲット画像および参照画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号であってもよい。かかる構成によれば、画像の重ね合わせのために使用されるシステムリソースの増大を抑制することができる。
【0105】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0106】
例えば、上記実施形態では、画像処理装置として撮像装置を例示したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、画像処理装置は、保存されている画像データを加工するために用いられる独立した装置であってもよく、また、画像データを加工するアプリケーションとしてPC(Personal Computer)などの情報処理装置に組み込まれていてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、画像処理装置の動き補償部、画像重ね合わせ部および色差NR部の機能がDSPを用いて実現される場合を例示したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、これらの各部の機能は、専用のハードウェアによって実現されてもよく、またCPUを用いてソフトウェアとして実現されてもよい。
【符号の説明】
【0108】
100 撮像装置
103 メモリ
116 動き補償部
117 画像重ね合わせ部
118 色差NR部
182 εフィルタ
201 基底面ターゲットブロック
208 基底面参照ブロック
301 縮小面ターゲットブロック
302 縮小面サーチ範囲
303 縮小面マッチング処理範囲
304 縮小面参照ブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償する動き補償部と、
動きが補償された前記ターゲット画像と前記参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成する画像重ね合わせ部と、
前記重ね合わせ画像を空間フィルタリングする空間フィルタリング部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記空間フィルタリング部は、εフィルタを用いて前記重ね合わせ画像を空間フィルタリングする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記空間フィルタリング部は、前記重ね合わせ画像を縮小して空間フィルタリングする、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記重ね合わせ画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号であり、
前記空間フィルタリング部は、前記色差成分を空間フィルタリングする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記ターゲット画像および前記参照画像の画像信号は、輝度成分と色差成分とを含む画像信号である、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
ターゲット画像と参照画像との間の動きを補償することと、
動きが補償された前記ターゲット画像と前記参照画像とを重ね合わせることによって重ね合わせ画像を生成することと、
前記重ね合わせ画像を空間フィルタリングすることと、
を含む画像処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−142827(P2012−142827A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−348(P2011−348)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】